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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179089
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ラップフィルム
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20231212BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231212BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20231212BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231212BHJP
   C08J 5/16 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B32B27/00 H
B32B7/027
C08J5/18 CEV
C08J5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092151
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】広崎 真司
【テーマコード(参考)】
3E086
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB02
3E086AD13
3E086BA02
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB90
3E086CA01
4F071AA24X
4F071AA25
4F071AA42
4F071AA87
4F071AA89
4F071AC10
4F071AE04
4F071AF20Y
4F071AF53
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BB09
4F071BC01
4F071BC12
4F100AK15
4F100AK15A
4F100AK16
4F100AK16A
4F100AT00B
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA07
4F100JA04
4F100JA04A
4F100JA07
4F100JK03
4F100JK07
4F100JK07A
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】本発明は、製品輸送時に傷が発生しにくく、溶融残留による延伸時のフィルム破断を抑制可能なラップフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】DSCで測定した際に、最も高温側の融解ピーク温度(℃)と結晶融解熱量(J/g)との関係が、融解ピーク温度≦-1.7[結晶融解熱量]+218.0を満たす、ラップフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DSCで測定した際に、最も高温側の融解ピーク温度(℃)と結晶融解熱量(J/g)との関係が、融解ピーク温度≦-1.7[結晶融解熱量]+218.0を満たす、ラップフィルム。
【請求項2】
最も高温側の融解ピーク温度が150.0~180.0℃である、請求項1に記載のラップフィルム。
【請求項3】
結晶融解熱量が3.0~35.0J/gである、請求項1又は2に記載のラップフィルム。
【請求項4】
DSCで測定した際の結晶融解熱量算出時の、融解ピーク高さが、0.3~3.0mWである、請求項1又は2に記載のラップフィルム。
【請求項5】
MD方向の2%引張弾性率が300~800MPaである、請求項1又は2に記載のラップフィルム。
【請求項6】
厚みが5~15μmである、請求項1又は2に記載のラップフィルム。
【請求項7】
塩化ビニリデン由来の構成単位72~93質量%と、塩化ビニル由来の構成単位28~7質量%とを含有する共重合体を含む、請求項1又は2に記載のラップフィルム。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のラップフィルムが、巻芯に巻きとられた巻回体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラップフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラップフィルムは、フィルム同士や被着体への密着性、水蒸気や酸素等の気体に対するガスバリア性、化粧箱に入れて使用する際のカット性等の特性に優れているため、食品等のラップフィルムとして多くの一般家庭で使用されている。家庭用ラップフィルムは、主として冷蔵庫や冷凍庫での食品の保存や、電子レンジで容器に盛った食品を加熱する際にオーバーラップして使用されている。
【0003】
この家庭用ラップフィルムとして現在市販されているものの中で、最も使い勝手の良いという評価を受けているものは、塩化ビニリデン系樹脂を主体としたフィルムである。一方、その他にもエチレン系樹脂や、プロピレン系樹脂や、塩化ビニル系樹脂や、アミド系樹脂や、或いは4-メチルペンテン-1樹脂等を主成分としたフィルムなども市販されているが、いずれも塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムの密着性にはおよばず、ラップ適性の劣るものであり、塩化ビニリデン製のラップフィルムが広く普及している。
【0004】
近年、特性を改良した様々なラップフィルムが提案されている。例えば、特許文献1には、動摩擦係数を1.4以下、面剥離強度を7~20N/25cm、かつ、突き刺しヤング率を17kPa以上とすることにより、低摩擦性、密着性、剥離性及び所定のハリ・コシを併せて有するラップフィルムが提案されている。また、例えば、特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂を含み、流れ方向引き裂き時には流れ方向に引き裂かれ、巾方向引き裂き時には巾方向に引き裂かれ、かつ流れ方向と45°の方向に引き裂いた場合は、流れ方向又は巾方向のいずれかの方向に引き裂かれ、流れ方向と45°の方向に引き裂いた場合の引き裂き方向と、切断線とのなす鋭角を30~60°とし、流れ方向と45°の方向に引き裂いた場合の引裂強度を10g以下とすることにより、手で所定方向に容易に切ることができ、かつ耐熱油性に優れるポリオレフィン系樹脂ラップフィルムが提案されている。また、例えば、特許文献3には、ポリアミド樹脂層の両側に、ポリエチレン樹脂層の表面層を有する少なくとも3層構成以上の粘着性積層フィルムにおいて、該フィルムの全体の厚さが40μm以下で且つ上記ポリアミド樹脂層の厚さをフィルム全体の厚さの5~80%とすることにより、カット性、透明性、耐熱性に優れ、食品を包装して保存や電子レンジで加熱する際等に用いて好適なラップフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/125384
【特許文献2】国際公開第2015/093448
【特許文献3】特開2003-103724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ラップフィルムは、通常、樹脂を、溶融押し出しし、次いで延伸を行うことにより製造され、紙管に巻き取られ化粧箱(カートン)中で保管される。
【0007】
溶融押し出しの際、押出機内に樹脂が滞留すると、樹脂が十分に溶融せず、異物となることがある。次いで延伸する際に、溶融残留である異物が起点となって、フィルムが破断し、生産性が落ちることがある。
【0008】
また、ラップフィルムは、紙製の芯体に巻回されてフィルム巻回体を構成し、当該フィルム巻回体が、紙製の直方体状のラップフィルム収納箱に収納されている。しかし、輸送時等にフィルム巻回体が動いて、ラップフィルム収納箱の内壁に衝突し、フィルム巻回体に傷が発生することがある。この傷が起点となって、フィルムを引き出す際に、想定外の位置で裂けることが起こり、取り扱い性が悪くなることがある。
【0009】
特許文献1~3に記載のラップフィルムにおいては、製品輸送時の傷の発生や溶融残留による延伸時のフィルム破断について検討されておらず、改善の余地がある。
【0010】
そこで、本発明は、製品輸送時に傷が発生しにくく、溶融残留による延伸時のフィルム破断を抑制可能なラップフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、示差走査熱量計(以下「DSC」とも記す)で測定した際に、最も高温側の融解ピーク温度(℃)と結晶融解熱量(J/g)との関係が、融解ピーク温度≦-1.7[結晶融解熱量]+218.0を満たすラップフィルムとすることで、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、下記のとおりである。
[1]
DSCで測定した際に、最も高温側の融解ピーク温度(℃)と結晶融解熱量(J/g)との関係が、融解ピーク温度≦-1.7[結晶融解熱量]+218.0を満たす、ラップフィルム。
[2]
最も高温側の融解ピーク温度が150.0~180.0℃である、[1]に記載のラップフィルム。
[3]
結晶融解熱量が3.0~35.0J/gである、[1]又は[2]に記載のラップフィルム。
[4]
DSCで測定した際の結晶融解熱量算出時の、融解ピーク高さが、0.3~3.0mWである、[1]~[3]のいずれかに記載のラップフィルム。
[5]
MD方向の2%引張弾性率が300~800MPaである、[1]~[4]のいずれかに記載のラップフィルム。
[6]
厚みが5~15μmである、[1]~[5]のいずれかに記載のラップフィルム。
[7]
塩化ビニリデン由来の構成単位72~93質量%と、塩化ビニル由来の構成単位28~7質量%とを含有する共重合体を含む、[1]~[6]のいずれかに記載のラップフィルム。
[8]
[1]~[7]のいずれかに記載のラップフィルムが、巻芯に巻きとられた巻回体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製品輸送時に傷が発生しにくく、溶融残留による延伸時のフィルム破断を抑制可能なラップフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のラップフィルムのDSC曲線の一例を示すグラフである。
図2】本発明のラップフィルムの製造方法の一例の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0016】
なお、本実施形態において、「TD方向」とは、製膜ラインの樹脂の幅方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向に垂直な方向をいう。また、「MD方向」とは、製膜ラインの樹脂の流れ方向をいい、ラップフィルムとしたときに、巻回体からラップフィルムを引き出す方向をいう。
【0017】
〔ラップフィルム〕
本実施形態のラップフィルムは、DSCで測定した際に、最も高温側の融解ピーク温度(℃)と結晶融解熱量(J/g)との関係が、融解ピーク温度≦-1.7[結晶融解熱量]+218.0を満たすラップフィルムである。本実施形態のラップフィルムは、このような特徴を有することにより、製品輸送時に傷が発生しにくく、溶融残留による延伸時のフィルム破断を抑制できる。
【0018】
[ラップフィルムの構成成分]
本実施形態のラップフィルムは高分子を含む構成成分で形成されていることが好ましい。
【0019】
本実施形態において高分子とは、フィルム形成能のある高分子である。この高分子はフィルム全体の50質量%以上を占める高分子のことを意味する。
【0020】
本実施形態のラップフィルムを形成する高分子として、好適には塩化ビニリデン系樹脂、オレフィン系樹脂、エステル系樹脂、アミド系樹脂が用いられる。例えばオレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1及びこれらを主体とした共重合体等が挙げられる。エステル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ-1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシグリコール酸等が挙げられる。アミド系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン6T等が挙げられる。
【0021】
本実施形態のラップフィルムを形成する高分子として、更に好適には塩化ビニリデン系樹脂組成物を含む。塩化ビニリデン系樹脂組成物は、塩化ビニリデン単量体の単独重合体であってもよいし、塩化ビニリデン単量体とそれと共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。本明細書において、塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムとは、塩化ビニリデン系樹脂組成物を含むラップフィルムをいう。塩化ビニリデン系樹脂組成物は、1種の塩化ビニリデン系樹脂を含むものであってもよいし、2種以上の塩化ビニリデン系樹脂を含むものであってもよい。
【0022】
塩化ビニリデン単量体と共重合可能な単量体としては、特に限定されず、例えば、塩化ビニル、メチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル、メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル、アクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。これらの中でも、酸素・水バリア性と押出加工性とのバランスがとりやすく、フィルム密着性も優れている観点から、塩化ビニルが好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
塩化ビニリデン由来の構成単位の含有量は、塩化ビニリデン系樹脂の総量に対して、好ましくは72~93質量%であり、より好ましくは81~93質量%であり、さらに好ましくは85~93質量%である。
塩化ビニリデン由来の構成単位の含有量が72質量%以上であることにより、塩化ビニリデン系樹脂のガラス転移温度が低く、ラップフィルムが軟らかくなる傾向にある。これにより、例えば、冬場等の低温環境下での使用時においてもラップフィルムの裂けを低減できる。一方、塩化ビニリデン由来の構成単位の含有量が93質量%以下であることにより、結晶性の大幅な上昇を抑制し、フィルム延伸時の成形加工性の悪化が抑制される傾向にある。さらに、塩化ビニリデン由来の構成単位の含有量が72~93質量%である場合、塩化ビニリデン系樹脂が炭化しやすく、生産性の低下を引き起こしやすい。そのため、上記のように、上記化合物の含有量を調整する本実施形態が有用となる。
共重合体における各由来の構成単位の比率は、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0024】
塩化ビニリデン系樹脂組成物の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは7万~11万、より好ましくは8万~10万であることが好ましい。塩化ビニリデン系樹脂組成物の重量平均分子量を上記した下限値以上とすることでさらに良好なフィルム強度を得ることができ、上記した上限値以下とすることで加工性をさらに向上させることができる。ここで、重量平均分子量は、移動相としてテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
【0025】
塩化ビニリデン系樹脂組成物には、公知の可塑剤、安定剤等の添加剤を配合することができる。可塑剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。例えば、アセチルトリブチルサイトレート、アセチル化モノグリセライド、ジブチルセバケート等が挙げられる。安定剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ化植物油等が挙げられる。
【0026】
その他にも、本発明の効果を阻害しない範囲で、食品包装材料に用いられる公知の耐候性向上剤、防曇剤、抗菌剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン)等のポリマー等を添加してもよい。耐候性向上剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。例えば、2-(2’-ヒドロキシ-3’5’-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールといった紫外線吸収剤等が挙げられる。防曇剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。例えば、グリセリン脂肪酸エステルやジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルといった界面活性剤等が挙げられる。抗菌剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることもできる。例えば、グレープフルーツ種子抽出物や孟宗竹抽出物といった天然物系抗菌剤等が挙げられる。
【0027】
本実施形態のラップフィルムは1層の単独組成である必要は必ずしもなく、2層以上の多層構造から構成されていてもよい。
【0028】
本実施形態のラップフィルムは、液状成分を含んでいてもよい。
【0029】
液状成分は、高分子の種類によって好適に用いられる液状成分は各々異なる。そして少なくとも1種類は、フィルムに柔軟性を付与する観点から、例えば、脂肪族炭化水素系の高分子であれば、液状成分中にアルキル基若しくはメチレン連鎖部分を保有するものが好適に用いられるし、エステル系高分子、アミド系高分子ではカルボニル基やエーテル基、水酸基などの水素結合能のある官能基を含むものが好適に用いられる。
【0030】
例えば、アルキル基を持つものとしては、特に限定されないが、ミネラルオイル、流動パラフィン、飽和炭化水素化合物などが挙げられる。カルボニル基やエーテル基、水酸基などの水素結合能のある官能基を含むものとしては、特に限定されないが、例えば、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、これらの多価アルコール、及び上述のアルコール成分と脂肪族又は芳香族(多価)カルボン酸とのエステル、脂肪族ヒドロキシカルボン酸とアルコール及び/又は脂肪酸とのエステル、及びこれらエステルの変性物、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル及び又はそのエステル等が挙げられる。さらに具体的には、特に限定されないが、例えば、グリセリンやジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等のポリグリセリン類、及びこれらをアルコール成分の原料とし、酸成分として、脂肪酸、例えばラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等とのモノ、ジ、トリエステル、ポリエステル等、又はソルビタンと上記脂肪酸とのエステル、又はエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、及びこれらの縮合物と上記脂肪酸とのエステル、又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸としてクエン酸、リンゴ酸、酒石酸等と炭素数10以下の低級アルコールとのエステル、又は多価カルボン酸としてマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等と脂肪族アルコールとのエステル、又はこれらエステルの変性物として、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等が挙げられる。特に、食品包装用ラップとして使用する場合は、食品衛生法で規定されている食品添加物である液状成分が好適に用いられる。また、耐熱性の観点からは液状成分の沸点は200℃以上のものが好適に用いられる。
【0031】
本実施形態のラップフィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定により得られる最も高温側の融解ピーク温度(℃)と、結晶融解熱量(J/g)との関係が、融解ピーク温度≦-1.7[結晶融解熱量]+218.0を満たす。これにより、ラップフィルムの靭性が向上し、ラップフィルムの輸送時に傷がつきにくくなる。
【0032】
この理由については定かではないが、以下のように推察される。
すなわち、融解熱量が低下することは、ラップフィルムの非晶成分の比率が増加すると考えられる。非晶成分の比率が増加することは、すなわち、ラップフィルムを構成する高分子鎖同士が複雑に絡み合った状態になっていると考えられる。これにより、フィルムの靭性が向上して、製品輸送時に傷が発生しにくくなるものと考えられる。
【0033】
ラップフィルムが、融解ピーク温度≦-1.7[結晶融解熱量]+218.0を満たすための方法としては、特に限定されないが、たとえば、後述の実施例のように、樹脂を溶融押し出ししたのちに特定の温度範囲で急冷することで、結晶化の進行を制御する方法などが挙げられる。
【0034】
本実施形態のラップフィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定により得られる最も高温側の融解ピーク温度が、180.0℃以下であることが好ましく、180.0℃以下、150.0℃以上であることがより好ましく、172.0℃以下、150.0℃以上であることが更に好ましく、166.0℃以下、150.0℃以上であることが更により好ましく、165.0℃以下、150.0℃以上であることがより更に好ましく、160.0℃以下、150.0℃以上であることが特に好ましい。
これにより、樹脂を溶融押し出しした際に溶融残留物が発生しにくくなる傾向にある。
【0035】
本実施形態のラップフィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定により得られる結晶融解熱量が、35.0J/g以下であることが好ましく、35.0J/g以下、3.0J/g以上であることがより好ましく、15.0J/g以下、3.0J/g以上であることが更に好ましく、12.0J/g以下、3.0J/g以上であることがより更に好ましく、10.0J/g以下、3.0J/g以上であることが更により好ましく、8.0J/g以下、3.0J/g以上であることが特に好ましい。当該結晶融解熱量の下限は、4.0J/g以上であることがより好ましい。
これにより、製品輸送時の傷が発生しにくくなる傾向にある。
【0036】
本実施形態のラップフィルムは、示差走査熱量計(DSC)で測定した際の結晶融解熱量算出時の融解ピーク高さが、3.0mW以下であることが好ましく、3.0mW以下、0.3mW以上であることがより好ましく、1.2mW以下、0.3mW以上であることが更に好ましく、1.0mW以下、0.3mW以上であることが更により好ましく、0.8mW以下、0.3mW以上であることがより更に好ましく、0.6mW以下、0.3mW以上であることが特に好ましい。当該融解ピーク高さの下限は、0.4mW以上であることがより好ましい。
これにより、製品輸送時の傷が発生しにくくなる傾向にある。
【0037】
本実施形態において、ラップフィルムの示差走査熱量計(DSC)測定はたとえば次のようにして行われる。
[融解ピーク温度]
PerkinElmer社製DSC8500を用いて、ラップフィルムのDSC曲線を測定し、融解ピーク温度、及び、結晶融解熱量を算出する。解析はPYRIS Software version 13を用いて行う。
まずは融解ピーク温度の算出方法を説明する。ラップフィルムか8.0mg~10.0mgを採取し、測定用サンプルとする。サンプルパンは材質がアルミ製であり、密閉パンを用いて測定を行う。DSCの温度条件は、0℃から240℃まで10℃/minで昇温する条件とする。上記、1stスキャンの昇温プロファイル(DSC曲線)において、130℃と230℃との間に直線でベースラインを引いて融解ピーク温度を求める。但し、130℃と230℃の間に融解ピークが見られない場合には、90℃と130℃の間に直線ベースラインを引いて融解ピーク温度を求める。また、ラップフィルムに塩化ビニリデン由来の構成単位と、塩化ビニル由来の構成単位とを含有する共重合体(以下「PVDC」とも記す)が含まれる場合には、脱塩酸の影響を除くために、DSCの温度条件は0℃から190℃まで10℃/minで昇温する条件とする。上記昇温プロファイル(DSC曲線)において、120℃と185℃との間に直線でベースラインを引いて、小数点以下第一位までを有効として、小数点以下第二位を四捨五入して、融解ピーク温度を求める。
[結晶融解熱量]
上記融解ピーク温度をA℃としたときに、(A-20)℃における点と(A+10)℃における点とを繋いだ直線をベースラインとして求めた結晶融解熱量をラップフィルムの結晶融解熱量(J/g)とする。
より具体的には、例えば、図1に示す通り、DSC曲線と上記ベースラインとで囲まれる面積(単位:J)を算出し、得られた値を上記測定用サンプルの質量(g)で割って、小数点以下第一位までを有効として、小数点以下第二位を四捨五入して、ラップフィルムの結晶融解熱量(J/g)を算出する。
[融解ピーク高さ]
上記結晶融解熱量を算出する際に、小数点以下第一位までを有効として、小数点以下第二位を四捨五入して、ラップフィルムの融解ピーク高さ(mW)を算出する。
なお、DSC測定時に、複数のピークが検出される場合は、最も高温側で検出されるピークを、融解ピーク温度と定義する。
【0038】
本実施形態のラップフィルムのMD方向の2%引張弾性率は、好ましくは300MPa以上であり、より好ましくは800MPa以下、300MPa以上であり、更に好ましくは、700MPa以下、300MPa以上であり、更により好ましくは、600MPa以下、300MPa以上であり、より更に好ましくは、500MPa以下、300MPa以上であり、特に好ましくは、400MPa以下、300MPa以上である。
MD方向の引張弾性率が300MPa以上であることにより、切断刃でフィルムをカットするために力を加える際、フィルムのMD方向への延びを抑制でき、切断刃がフィルムに食い込みやすくでき、ラップフィルムのカット性が向上する傾向にある。一方、MD方向の引張弾性率が800MPa以下であることにより、フィルムが軟らかく、切断刃の形状に沿ってフィルムをきれいにカットでき、切断端面に多数の裂け目が発生するのを抑制できる傾向にある。その結果、巻回体からフィルムを引き出す際、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際、切断端面からフィルムが裂けるトラブルが発生するのを抑制できる傾向にある。
【0039】
本実施形態のラップフィルムのMD方向の2%引張弾性率は、塩化ビニリデン系樹脂の組成、添加剤組成、フィルムの延伸倍率、及び延伸速度等によって調整できる。特に限定されないが、例えば、MD方向の2%引張弾性率は、延伸倍率を高くしたり、添加剤量を低減することによって、向上する傾向にあり、延伸倍率を低くしたり、添加剤量を増加することによって、低下する傾向にある。なお、本実施形態において、ラップフィルムのMD方向の2%引張弾性率は、後述の実施例に記載の方法によって測定される。
【0040】
(ラップフィルムの厚み)
本実施形態のラップフィルムの厚みは、好ましくは6~18μmであり、より好ましくは9~12μmである。ラップフィルムの厚みが上記範囲内であることにより、フィルム切れのトラブルが抑制され、カット性がより向上し、密着性もより向上する。
【0041】
より具体的には、厚みが6μm以上であることにより、ラップフィルムのTD方向及びMD方向における引張強度がより向上し、使用時のフィルム切れがより抑制される傾向にある。また、厚みが6μm以上であることにより、引裂強度の著しい低下が少ない傾向にある。そのため、巻回体からラップフィルムを引き出す際、及び化粧箱の中に巻き戻ったフィルム端部を摘み出す際において、化粧箱付帯の切断刃でカットされた端部からラップフィルムが裂けるトラブルがより抑制される。
【0042】
一方、厚みが18μm以下であることにより、化粧箱付帯の切断刃でラップフィルムをカットするのに必要な力を低減することができ、カット性がより向上する傾向にある。また、厚みが18μm以下であることにより、ラップフィルムが容器形状にフィットしやすく、容器への密着性がより向上する傾向にある。
【0043】
[ラップフィルムの製造方法]
次に、本実施形態のラップフィルムの製造方法の一例について説明する。塩化ビニリデン系樹脂組成物を含むラップフィルムの製造方法は、種々の方法を採用することができるが、通常、インフレーション製膜法が採用されている。すなわち、本実施形態によれば、インフレーション成形によって得られるラップフィルムとすることができる。より好ましくは、本実施形態のラップフィルムは、上記した塩化ビニリデン系樹脂組成物を、少なくともMD方向に延伸してインフレーション成形することによって得られる塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムである。インフレーション製膜法では、例えば、塩化ビニリデン系樹脂組成物を円形ダイから管状に溶融押出した後、管状の樹脂の外側を冷水槽と呼ばれる貯槽に満たされた冷水等の冷媒に接触させる。その際、ダイ口とピンチロールとに挟まれた管状(筒状)の樹脂の内部に冷媒を注入し貯留した状態で、その内側をミネラルオイル等の冷媒と接触させることにより固化させてフィルムに成形する。本明細書において、このダイ口とピンチロールとに挟まれた筒状の樹脂の部分(押出物)を「ソック」という。このソックの内部に注入する冷媒(液体)を「ソック液」という。また、ソックは上記ピンチロール等で折り畳まれ、管状のダブルプライフィルムを形成するが、このダブルプライフィルムを「パリソン」と称する。
【0044】
以下、インフレーション製膜法についてより具体的に説明する。
【0045】
図2に、本実施形態のラップフィルムの製造方法の一例の概念図を示す。
まず、押出工程において、溶融したポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物が押出機(1)より、円形ダイ(2)のダイ口(3)から管状に押出され、ソック(管状のポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物)(4)が形成される。
【0046】
次に、冷却固化工程において、押出物であるソック(4)の外側を冷水槽(6)にて冷水に接触させ、ソック(4)の内部にはソック液(5)を常法により注入して貯留することにより、ソック(4)を内外から冷却して固化させる。この際、ソック(4)はその内側にソック液(5)が塗布された状態となる。固化されたソック(4)は、第1ピンチロール(7)にて折り畳まれ、ダブルプライシートであるパリソン(8)が成形される。ソック液の塗布量は第1ピンチロール(7)のピンチ圧により制御される。
【0047】
冷水槽内の水温としては特に限定されないが、25.0℃以下であることが好ましい。冷水槽内の水温がこの範囲であると、しわが発生せず、また、フィルムの結晶化の程度が適切となり、最も高温側の融解ピーク温度(℃)と結晶融解熱量(J/g)との関係、結晶融解熱量、及び、融解ピーク高さが上述した範囲に適度に制御できる。より好ましくは、15.0℃から25.0℃であり、更に好ましくは、15.0℃から19.0℃であり、更により好ましくは、15.0℃から18.0℃であり、より更に好ましくは、15.0℃から17.0℃であり、特に好ましくは、15.0℃から16.0℃である。
【0048】
冷水槽内の水温の標準偏差は0.2℃から1.3℃であることが好ましい。冷水槽内の水温の標準偏差が0.2℃以上であると、冷水槽内の水温のばらつきが適度となり、過度の結晶化を抑えることができ、融解ピーク温度を上述した範囲に適度に制御できる。また、冷水槽内の水温の標準偏差が1.3℃以下であると、冷水槽内の水温のばらつきを抑えることができ、融解ピーク温度を上述した範囲に適度に制御できる。冷水槽の温度の標準偏差は、冷水槽内の冷水温度を1分ごとに測定し、30分間の測定結果から算出する。
【0049】
ソック液には、水、ミネラルオイル、アルコール類、プロピレングリコールやグリセリン等の多価アルコール類、セルロース系やポリビニルアルコール系の水溶液等を用いることができる。これらは単体で使用しても、2種類以上を併用してもよい。また、ソック液には、本発明の効果を阻害しない範囲で、食品包装材料に用いられる上記した耐候性向上剤、防曇剤、抗菌剤等を添加してもよい。
【0050】
ソック液の塗布量は、特に限定されないが、パリソンの開口性、フィルムの密着性の観点から、好ましくは50~20000ppm、より好ましくは100~15000ppm、更に好ましくは150~10000ppmである。ここで、塗布量(ppm)とは、ソックの合計質量に対して、ソックに塗布されたソック液の質量を、質量ppmで示したものである。
【0051】
続いて、パリソン(8)の内側にエアーを注入することにより、再度パリソン(8)は開口されて管状となる。パリソン(8)は、温水(図示せず)により延伸に適した温度まで再加熱される。パリソン(8)の外側に付着した温水は、第2ピンチロール(9)にて搾り取られる。次いで、インフレーション工程において、適温まで加熱された管状のパリソン(8)にエアーを注入してインフレーション延伸によりバブル(10)を成形し、延伸フィルムが得られる。
【0052】
本実施形態のラップフィルムの製造方法において、未延伸シートを流れ方向と流れ方向に垂直な方向とに延伸する工程を含むことが好ましく、この場合、TD方向の延伸倍率は5.0倍以上、かつMD方向の延伸倍率は5.0倍以下が好ましく、成膜性の観点から、MD方向の延伸倍率の下限は特に限定されないが、例えば、3.0倍以上である。TD方向の延伸倍率の上限は特に限定されないが、例えば、8.5倍以下である。
【0053】
延伸倍率の制御方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、再加熱用の温水温度を変更することで延伸温度を制御する方法等が挙げられる。延伸倍率を下げるためには、延伸温度が低いほど、延伸倍率が低い状態でインフレーションバブルが安定するため好ましい。その際、延伸温度はインフレーションバブルの安定性の観点から、延伸室温よりも高いことが好ましい。延伸温度はより好ましくは34℃以下であり、更により好ましくは15℃~34℃である。また、延伸温度は、MD方向、及び、TD方向へ延伸が完了した点と、巻き取りが開始する点との、MD方向における距離の中間の点における温度を測定する。
【0054】
その後、延伸フィルムは、第3ピンチロール(11)で折り畳まれ、ダブルプライフィルム(12)となる。ダブルプライフィルム(12)は、巻取りロール(13)にて巻き取られる。さらに、このフィルムはスリットされて、1枚のフィルムになるように剥がされる(シングル剥ぎ)。最終的にこのフィルムは紙管等の巻芯に巻き取られ、紙管巻きのラップフィルム巻回体が得られる。
【0055】
上記した説明は、本実施形態のラップフィルムの製造方法の一例であり、上記した以外の各種装置構成や条件等によって行ってもよく、例えば、公知の他の方法を採用してもよい。
【0056】
[巻回体]
本実施形態のラップフィルムは、種々の形態で使用することができ、例えば、ロール状の塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムとすることができる。ロール状のラップフィルムとした場合、巻芯があってもよいし、巻芯がなくてもよい。
【0057】
本実施形態の巻回体は、上述のラップフィルムが、巻芯に巻きとられた巻回体であることが好ましい。
巻芯に巻きつける形態とする場合、例えば、円筒状の巻芯と、前記巻芯に巻きとられた本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムと、を備えるラップフィルム巻回体とすることができる。巻回体とは、ラップフィルムを巻芯等に巻取るなどして巻物の形状であるものをいう。
【0058】
巻芯の材質や大きさ等は特に限定されず、紙管等の公知の巻芯を用いることができる。さらに、ラップフィルムがロール状であれば巻芯あってもなくてもよい。本実施形態のラップフィルム巻回体は、ラップフィルムを切断する切断刃を有する化粧箱に格納して使用することができる。
【実施例0059】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0060】
[塩化ビニリデン由来の構成単位の比率及び塩化ビニル由来の構成単位の比率]
塩化ビニリデン由来の構成単位及び塩化ビニル由来の構成単位の比率は、高分解のプロトン核磁気共鳴測定装置を用いて測定した(積算回数:512回)。ラップフィルムの再沈濾過物を真空乾燥し、5質量%を重水素化テトラヒドロフランに溶解させた溶液を、測定雰囲気23±2℃、50±10%RHにてH-NMR測定した。
塩化ビニリデン由来の構成単位(-CH-CCl-)をA、塩化ビニル由来の構成単位(-CH-CHCl-)をBと表記し、スペクトル上に得られたシグナル1、2、及び3を以下の通り帰属した。
・シグナル1(約5.2~4.5ppm)をBのCHシグナル(塩化ビニル由来の構成単位のメチン(CH)基)に帰属した。
・シグナル2(約4.2~3.8ppm)をAAの片方のAのCHシグナル(塩化ビニリデン由来の構成単位のメチレン(CH)基)に帰属した。
・シグナル3(約3.5~2.8ppm)をAB及びBA両方のAのCHシグナル(塩化ビニリデン由来の構成単位のメチレン(CH)基)に帰属した。
【0061】
これらのシグナルのスペクトル面積値(NMRスペクトルにおけるシグナルの面積)から、構成単位のモル分率を求めた。なお、各モル分率を以下の通り表記した。
・Aのモル分率(モル%):P(A)
・Bのモル分率(モル%):P(B)
【0062】
上記の通り帰属したシグナル1、2、及び3の面積値(NMRスペクトルにおけるピークの面積)から、上記スペクトル上のシグナルの積分値を以下の通りに割り当てた。
・シグナル1(約5.2~4.5ppm)の積分値をBのH1個分
・シグナル2(約4.2~3.8ppm)の積分値をAのH2個分
・シグナル3(約3.5~2.8ppm)の積分値をAのH4個分
【0063】
下記の式が成り立つのを用いて、各モル分率を計算した。
・P(A) + P(B) = 100
【0064】
P(A)及びP(B)を次式により求めた。
・P(B):P(A) =シグナル1の積分値:(シグナル2の積分値+シグナル3の積分値/2)/2
・P(A)=100-P(B)
【0065】
塩化ビニリデン由来の構成単位(-CH-CCl-)であるAの分子量を97.0とし、塩化ビニル由来の構成単位(-CH-CHCl-)であるBの分子量を62.5として、下記の式が成り立つのを用いて、各質量分率を計算する。なお、各質量分率を以下の通り表記した。
・Aの質量分率(質量%):Q(A)
・Bの質量分率(質量%):Q(B)
・Q(A) =
(P(A) × 97.0) /
(P(A) × 97.0 + P(B) × 62.5 ) × 100
・Q(B) = 100 - Q(A)
【0066】
[フィルムの厚み]
精密ダイアルゲージ(株式会社テクロック製、TM-1201)を使用し、23±2℃、50±10%RHの雰囲気中で、ラップフィルムの厚みの測定を行った。
【0067】
[ラップフィルムのMD方向の2%引張弾性率]
ラップフィルムのMD方向の2%引張弾性率の測定はオートグラフAG-IS(島津製作所製)を使用し、23±2℃、50±10%RHの雰囲気中にて以下のとおり行った。ラップフィルムのMD方向に長さ150mm、幅10mmに切り出し、試験片とした。切り出す際には、短冊状に切り出し、試験片に傷が入らないようにするため、刃を1試験片毎に交換した。5mm/分の引張速度、チャック間距離100mm、フィルム幅10mmの条件でクロスヘッド間の引張呼び歪が2%となった時点での荷重を測定した。2%の歪で荷重を割り返す、即ち荷重を50倍にしてから、試験片の断面積で割り返し、ラップフィルムのMD方向の2%引張弾性率(単位:MPa)を算出した。測定の際には、試験機の引張方向に試験片のMD方向が一致するように、つかみ具に取り付けた。試験片は、滑りを防ぐために、かつ、試験中につかみ部分がずれないように、つかみ具で均等にしっかりと締めた。また、つかみ具間の圧力によって、試験片の割れ、及び、圧延が起きないようにした。また、5回測定した内、最も高い値と最も低い値とを除いた3回の結果の算術平均を算出し、有効数字を2桁として、3桁目を四捨五入した。
【0068】
[輸送時傷]
ラップフィルムの出荷後の流通、及び家庭での保管を想定し、製造直後のラップフィルム巻回体を28℃に設定した恒温槽にて1ヶ月間保管したものを使用した。その後、流通時の振動を再現するために、振動試験機(アイデックス株式会社製、品番「BF-50UT」)を用いて、容器(化粧箱)内に収容されたラップフィルム巻回体を振動させた。振動試験は下記のとおりに行った。
【0069】
まず、1つの直方体状の容器(化粧箱内寸;42mm×42mm×約233mm)内に巻回体を1本収容した巻回体収容体60個を、隙間ができないように段ボール箱(内寸28cm×46cm×24cm)に収容し、巻回体の長手方向が振動台に対し垂直になるように、振動台にベルトで固定した。23℃、相対湿度50%RHの雰囲気中で、振動試験機の『輸送包装モード』にて次の条件に設定し、振動試験を行った。(Lo周波数:5Hz、Hi周波数:30Hz、掃引時間30秒、掃引回数40回)
【0070】
その後、振動試験を行ったラップフィルム巻回体を用いて、23℃、相対湿度50%RHの雰囲気中で裂けトラブル評価を行った。評価者として、日常、食品包装用ラップフィルムを使用する100人を選出した。評価者は、収容体に収容された幅約23cmの巻回体からフィルムを50cm引き出した後、化粧箱に付帯するブリキ製のフィルム切断刃で切断する一連の作業を10回ずつ実施した。すなわち、100人が10回ずつで計1000回のうち、巻回体からフィルムを引き出す際に、裂けが発生し、円滑にフィルムが引き出せなかった回数から、フィルムの裂けトラブル発生率を導出した。
【0071】
フィルムの裂けトラブル発生率は、以下とおり評価した。すなわち、
裂けトラブル発生率が2%未満の場合は、裂けトラブルがほとんどなく、使い勝手に特に非常に優れるものとして「A」、
裂けトラブル発生率が2%以上4%未満の場合は、裂けトラブルがほとんどなく、使い勝手に非常に優れるものとして「B」、
裂けトラブル発生率が4%以上6%未満の場合は、裂けトラブルが少なく、使い勝手に優れるものとして「C」、
裂けトラブル発生率が6%以上8%未満の場合は、裂けトラブルが比較的少なく、使い勝手に優れるものとして「D」、
裂けトラブル発生率が8%以上10%未満の場合は、裂けトラブルが比較的少なく、比較的使い勝手に優れるものとして「E」、
裂けトラブル発生率が10%以上の場合は、裂けトラブルが多く、使い勝手が悪いものとして「×」とした。
【0072】
[溶融残留による延伸時のフィルム破断頻度]
インフレーション延伸(延伸温度25℃、MD方向4.7倍、TD方向5.5倍)によるフィルム製造工程において、1時間連続運転し、溶融残留物により延伸フィルムが破断した回数を評価した。破断回数が0回の場合は「A」、1回の場合は「B」、2回の場合は「C」、3回の場合は「D」、4回の場合は「E」、5回以上の場合は「×」とした。
【0073】
(DSC測定)
[融解ピーク温度]
PerkinElmer社製DSC8500を用いて、ラップフィルムのDSC曲線を測定し、融解ピーク温度、及び、結晶融解熱量を算出した。解析はPYRIS Software version 13を用いて行った。まずは融解ピーク温度の算出方法を説明する。
ラップフィルムから8.0mg~10.0mgを採取し、測定用サンプルとした。
サンプルパンは材質がアルミ製であり、密閉パンを用いて測定を行った。DSCの温度条件は、0℃から240℃まで10℃/minで昇温する条件とした。上記、1stスキャンの昇温プロファイル(DSC曲線)において、130℃と230℃との間に直線でベースラインを引いて融解ピーク温度を求めた。但し、130℃と230℃の間に融解ピークが見られない場合には、90℃と130℃の間に直線ベースラインを引いて融解ピーク温度を求めた。また、ラップフィルムに塩化ビニリデン由来の構成単位と、塩化ビニル由来の構成単位とを含有する共重合体(以下「PVDC」とも記す)が含まれる場合には、脱塩酸の影響を除くために、DSCの温度条件は0℃から190℃まで10℃/minで昇温する条件とした。上記昇温プロファイル(DSC曲線)において、120℃と185℃との間に直線でベースラインを引いて、小数点以下第一位までを有効として、小数点以下第二位を四捨五入して、融解ピーク温度を求めた。結果を表1~3及び5に示す。
[結晶融解熱量]
上記融解ピーク温度をA℃としたときに、(A-20)℃における点と(A+10)℃における点とを繋いだ直線をベースラインとして求めた結晶融解熱量をラップフィルムの結晶融解熱量(J/g)とした。より具体的には、例えば、図1に示す通り、DSC曲線と上記ベースラインとで囲まれる面積(単位:J)を算出し、得られた値を上記測定用サンプルの質量(g)で割って、小数点以下第一位までを有効として、小数点以下第二位を四捨五入して、ラップフィルムの結晶融解熱量(J/g)を算出した。
[融解ピーク高さ]
上記結晶融解熱量を算出する際に、小数点以下第一位までを有効として、小数点以下第二位を四捨五入して、ラップフィルムの融解ピーク高さ(mW)を算出した。結果を表1~3及び5に示す。
【0074】
[実施例1]
重量平均分子量120,000の塩化ビニリデン系樹脂(塩化ビニリデン由来の構成単位が85質量%、塩化ビニル由来の構成単位が15質量%)、ATBC(アセチルクエン酸トリブチル、田岡化学工業(株))、ESO(ニューサイザー510R、日本油脂(株))をそれぞれ93.4質量%、5.5質量%、1.1質量%の割合で混ぜたもの合計10kgをヘンシェルミキサーにて5分間混合させ、24時間以上熟成して塩化ビニリデン系樹脂組成物を得た。
上記の塩化ビニリデン系樹脂組成物を溶融押出機に供給して溶融し、押出機の先端に取り付けられた環状ダイでのスリット出口での溶融樹脂温度が170℃になるように押出機の加熱条件を調節しながら、環状に10kg/hrの押出速度で押出した。
これを冷水槽内の水温を15.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.9℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。なお、冷水槽内の水温の標準偏差は、冷水槽内の水温を1分ごとに測定し、30分間の測定結果から算出した。
過冷却した後、インフレーション延伸によって、延伸温度は25℃で、MD方向は4.7倍に延伸し、TD方向は5.5倍に延伸して筒状フィルム(厚み:10μm)とし、折幅270mmの2枚重ねのフィルムを巻取速度18m/minにて巻き取った。このフィルムを、80mmの幅にスリットし、1枚のフィルムに剥がしながら外径97mmの紙管に巻き直した。その後、30時間の間15℃で保管し、外径36mm、長さ23cmの紙管に20m巻き取ることで、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表1に示す。
【0075】
[実施例2]
冷水槽内の水温を16.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.7℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表1に示す。
【0076】
[実施例3]
冷水槽内の水温を16.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.6℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表1に示す。
【0077】
[実施例4]
冷水槽内の水温を15.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.5℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表1に示す。
【0078】
[実施例5]
冷水槽内の水温を16.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.4℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表1に示す。
【0079】
[実施例6]
冷水槽内の水温を16.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が1.0℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表1に示す。
【0080】
[実施例7]
冷水槽内の水温を17.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.9℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表2に示す。
【0081】
[実施例8]
冷水槽内の水温を17.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.7℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表2に示す。
【0082】
[実施例9]
冷水槽内の水温を17.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.6℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表2に示す。
【0083】
[実施例10]
冷水槽内の水温を17.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.5℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表2に示す。
【0084】
[実施例11]
冷水槽内の水温を17.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.2℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表2に示す。
【0085】
[実施例12]
冷水槽内の水温を18.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.9℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表2に示す。
【0086】
[実施例13]
冷水槽内の水温を18.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.5℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表3に示す。
【0087】
[実施例14]
冷水槽内の水温を17.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.4℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表3に示す。
【0088】
[実施例15]
冷水槽内の水温を18.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.7℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表3に示す。
【0089】
[実施例16]
冷水槽内の水温を19.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.7℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表3に示す。
【0090】
[実施例17]
冷水槽内の水温を19.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.5℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表3に示す。
【0091】
[実施例18]
冷水槽内の水温を25.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.4℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表3に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
[比較例1]
線状低密度ポリエチレン(LLDPE):70質量%、低密度ポリエチレン(LDPE):30質量%からなる樹脂組成物に、ジグリセリンオレートとグリセリンモノオレートとの1:1の混合物(添加剤1)又はジグリセリンラウレート(添加剤2)を2.0質量%添加したものを環状ダイより単層又は3層原反又は5層原反として押出した後、冷水槽にて冷却固化して、折り巾120mm、厚さ500μmのチューブ状原反を作製した。この時、冷水槽内の水温を40.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が1.9℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。
これを電子線照射装置に誘導し、500kVに加速した電子線を照射し、吸収線量として80kGyになるように架橋処理を行った。これを延伸機内に誘導して再加熱を行い、2対の差動ニップロール間に通して、エアー注入によりバブルを形成し、延伸温度は140℃で、MD方向は8.0倍に延伸し、TD方向は6.0倍に延伸して筒状フィルムとした。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表5に示す。
【0096】
[比較例2]
450mm幅3種5層共押出Tダイ成形機を用いて表4に示す樹脂を3台の押出機よりダイス温度260℃で同時に押出し、冷水槽温度35℃、引取速度20m/分の条件で製膜し、外層(ポリエチレン樹脂)/接着層(変性樹脂)/中間層(ナイロン-6)/接着層(変性樹脂)/内層(ポリエチレン樹脂)からなる3種5層フィルム(厚み30μm、層比3:1:2:1:3)を成形した。なお、内外層の樹脂組成物は、表4に示す成分を各々表4に示す比率でブレンダーにて混合した後、直径30mmの2軸押出機を用いて200℃の押出条件にてペレット化して調製した。ついで該フィルムをロール延伸機により、予熱温度90℃、熱固定温度110℃で縦方向に3.0倍延伸した。それ以外は、実施例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表5に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
[比較例3]
冷水槽内の水温を38.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が1.9℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、比較例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表5に示す。
【0099】
[比較例4]
冷水槽内の水温を36.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が2.0℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、比較例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表5に示す。
【0100】
[比較例5]
冷水槽内の水温を14.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が0.1℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、比較例2と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表5に示す。
【0101】
[比較例6]
冷水槽内の水温を14.0℃、冷水槽内の水温の標準偏差が1.9℃となるように冷水槽の冷却条件を調整しながら、過冷却した。それ以外は、比較例1と同様にして、ラップフィルムの巻回体を得た。評価結果を表5に示す。
【0102】
【表5】
【符号の説明】
【0103】
1 押出機
2 円形ダイ
3 ダイ口
4 管状の塩化ビニリデン系樹脂組成物(ソック)
5 ソック液
6 冷水槽
7 第1ピンチロール
8 パリソン
9 第2ピンチロール
10 バブル
11 第3ピンチロール
12 ダブルプライフィルム
13 巻取りロール
図1
図2