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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179101
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ガラス板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 15/00 20060101AFI20231212BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20231212BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20231212BHJP
【FI】
C03C15/00 Z
C03C23/00 D
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092171
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】中島 一嘉
(72)【発明者】
【氏名】奥野 剛志
【テーマコード(参考)】
4G059
4J004
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB06
4G059AB07
4G059AB11
4G059AC01
4G059BB04
4G059BB14
4G059BB16
4J004AA07
4J004AA10
4J004AB01
4J004CA04
4J004CB03
4J004CC02
4J004EA06
4J004FA08
(57)【要約】
【課題】ガラス板が薄い場合でも、ガラス板を簡単かつ確実に加工する。
【解決手段】ガラス板の製造方法であって、ガラス板を加工する加工工程Sを備える。加工工程Sは、ガラス板の一方の主面に粘着フィルムを貼り付けて積層体を形成する貼付工程S1と、積層体の状態でガラス板の加工予定部にレーザ光を照射し、加工予定部に改質部を形成する改質工程S2と、積層体の状態でガラス板の改質部をエッチングするエッチング工程S3と、ガラス板から粘着フィルムを剥離する剥離工程S5とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板を加工する加工工程を備えるガラス板の製造方法において、
前記加工工程は、
前記ガラス板の一方の主面に粘着フィルムを貼り付けて積層体を形成する貼付工程と、
前記貼付工程後に、前記積層体の状態で前記ガラス板の加工予定部にレーザ光を照射し、前記加工予定部に改質部を形成する改質工程と、
前記改質工程後に、前記積層体の状態で前記ガラス板の前記改質部をエッチングするエッチング工程と、
前記エッチング工程後に、前記ガラス板から前記粘着フィルムを剥離する剥離工程とを備えることを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記貼付工程における前記ガラス板の厚さは、1μm以上100μm以下である請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光は、超短パルスレーザ光である請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記エッチング工程では、前記積層体をエッチング液に浸漬する請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記粘着フィルムは、ポリオレフィン系の基材と、前記基材の片面に形成されたアクリル系又はポリエチレン系の粘着層とを備える請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記粘着フィルムの厚さは、50μm以上200μm以下である請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項7】
前記エッチング工程の後、前記剥離工程の前に、前記粘着フィルムの粘着力を弱める粘着力弱化工程を備える請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項8】
前記粘着フィルムは、前記粘着力弱化工程前における粘着力が0.5N/20mm以上であり、前記粘着力弱化工程後における粘着力が0.05N/20mm以下である請求項7に記載のガラス板の製造方法。
【請求項9】
前記粘着フィルムは、前記ガラス板よりも大きい請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項10】
第一主面と、第二主面と、前記第一主面及び前記第二主面の間に介在する端面とを備えるガラス板において、
前記第一主面及び前記端面がエッチング面であり、
前記第二主面が火造り面であり、
前記第一主面と前記第二主面との間の厚さが1μm以上100μm以下であることを特徴とするガラス板。
【請求項11】
前記第二主面の表面粗さRaが、0.2nm以下である請求項10に記載のガラス板。
【請求項12】
センサ用カバーガラス又は中空光ファイバ用カバーガラスである請求項10又は11に記載のガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、タイリングディスプレイ(マイクロLED等)、ベゼルレスディスプレイ、ガラスインターポーザなどの基板として、配線(貫通電極等)用の微細な貫通孔を有するガラス板が利用されている。
【0003】
この種の貫通孔の加工工程は、例えば、ガラス板における貫通孔の加工予定部をレーザ光の照射により改質して改質部を形成する改質工程と、改質部をエッチングして貫通孔を形成するエッチング工程とを備える(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018―199605号公報
【特許文献2】特開2020―66551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような加工工程では、改質工程において形成された改質部は、改質されていない部分よりもエッチングレートが高いため、エッチング工程において選択的に除去される。したがって、貫通孔の加工予定部に改質部を形成すれば、エッチングにより加工予定部に貫通孔を形成できる。
【0006】
しかしながら、上述のような加工工程では、ガラス板が薄い場合、ガラス板のハンドリングが困難であったり、加工中にガラス板が反ったりする場合があり、加工が難しいという問題がある。そして、このような問題は、加工工程において、ガラス板に貫通孔を形成する場合に限定されるものではなく、例えば、ガラス板から所定形状のガラス板を切り出す場合などにも同様に生じ得る。
【0007】
本発明は、ガラス板が薄い場合でも、ガラス板を簡単かつ確実に加工することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、ガラス板を加工する加工工程を備えるガラス板の製造方法において、加工工程は、ガラス板の一方の主面に粘着フィルムを貼り付けて積層体を形成する貼付工程と、貼付工程後に、積層体の状態でガラス板の加工予定部にレーザ光を照射し、加工予定部に改質部を形成する改質工程と、改質工程後に、積層体の状態でガラス板の改質部をエッチングするエッチング工程と、エッチング工程後に、ガラス板から粘着フィルムを剥離する剥離工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
このようにすれば、粘着フィルムによってガラス板の剛性が向上する。そのため、改質工程やエッチング工程において、ガラス板のハンドリング性が向上すると共に、ガラス板の反りを抑制できる。したがって、ガラス板が薄い場合でも、ガラス板を簡単かつ確実に加工できる。
【0010】
(2) 上記(1)の構成において、貼付工程におけるガラス板の厚さは、1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0011】
このようにガラス板が薄い場合に、本発明の効果が顕著となる。
【0012】
(3) 上記(1)又は(2)の構成において、レーザ光は、超短パルスレーザ光であることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、レーザ光のエネルギーが十分に高く、ガラス板に改質部を形成しやすくなる。
【0014】
(4) 上記(1)~(3)のいずれかの構成において、エッチング工程では、積層体をエッチング液に浸漬することが好ましい。
【0015】
このようにすれば、ガラス板の改質部を効率よくエッチングできる。そして、積層体をエッチング液に浸漬する場合も、ガラス板の表裏両主面のうち、粘着フィルムが貼り付けられたガラス板の一方の主面はエッチングされず、非エッチング面(例えば、火造り面)となる。
【0016】
(5) 上記(1)~(4)のいずれかの構成において、粘着フィルムは、ポリオレフィン系の基材と、基材の片面に形成されたアクリル系又はポリエチレン系の粘着層とを備えることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、ガラス板と粘着フィルムとを含む積層体に対して適度な剛性を付与しやすい。そのため、改質工程やエッチング工程において、ガラス板のハンドリング性がより向上すると共に、ガラス板の反りをより確実に抑制できる。また、粘着フィルムの耐薬品性が良好となるため、エッチング工程で粘着フィルムが反応するのを抑制できる。さらに、粘着フィルムの剥離性が良好となるため、剥離工程でガラス板から粘着フィルムを容易に剥離できる。
【0018】
(6) 上記(1)~(5)のいずれかの構成において、粘着フィルムの厚さは、50μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、粘着フィルムを適度に曲げることができるため、剥離工程でガラス板から粘着フィルムを剥離しやすくなる。
【0020】
(7) 上記(1)~(6)のいずれかの構成において、エッチング工程の後、剥離工程の前に、粘着フィルムの粘着力を弱める粘着力弱化工程を備えることが好ましい。ここで、粘着力弱化工程としては、例えば、粘着フィルムが紫外線硬化樹脂を含む場合には紫外線を照射すること、粘着フィルムが熱硬化樹脂を含む場合には加熱することなどが挙げられる。
【0021】
このようにすれば、改質工程やエッチング工程では、粘着フィルムの粘着力を強い状態に維持できるため、ガラス板を粘着フィルムで確実に補強できる。一方、剥離工程では、粘着フィルムの粘着力を弱い状態にできるため、ガラス板から粘着フィルムを容易に剥離できる。
【0022】
(8) 上記(7)の構成において、粘着フィルムは、粘着力弱化工程前における粘着力が0.5N/20mm以上であり、粘着力弱化工程後における粘着力が0.05N/20mm未満であることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、改質工程やエッチング工程では、粘着フィルムの粘着力を剥離が生じない適度に強い状態にできる。一方、剥離工程では、粘着フィルムの粘着力を剥離が生じやすい適度に弱い状態にできる。
【0024】
(9) 上記(1)~(8)のいずれかの構成において、粘着フィルムは、ガラス板よりも大きいことが好ましい。
【0025】
このようにすれば、貼付工程で、ガラス板に粘着フィルムを貼り付けやすくなる。また、改質工程やエッチング工程では、ガラス板から食み出した粘着フィルムの食み出し部を支持できるため、ガラス板のハンドリング性がより良好になる。
【0026】
(10) 本発明は、第一主面と、第二主面と、第一主面及び第二主面の間に介在する端面とを備えるガラス板において、第一主面及び端面はエッチング面であり、第二主面は火造り面であり、第一主面と第二主面との間の厚さが1μm以上100μm以下であることを特徴とする。
【0027】
このようにすれば、第一主面、第二主面及び端面が、滑らかな面からなる良好な表面性状となる。また、第一主面、第二主面及び端面において、クラック等の欠陥が少ない状態となる。その結果、薄いガラス板であっても、高い強度を実現できる。特に、第二主面は火造り面であるため、欠陥を可及的に低減しつつ高い平滑性を実現できる。
【0028】
(11) 上記(10)の構成において、第二主面の表面粗さRaが、0.2nm以下であることが好ましい。
【0029】
このようにすれば、第二主面が、非常に平滑な面となる。
【0030】
(12) 上記(10)又は(11)の構成において、ガラス板は、センサ用カバーガラス又は中空光ファイバ用カバーガラスであってもよい。
【0031】
表面性状が良好であるため、光の散乱を抑制できる。したがって、センサ用カバーガラス又は中空光ファイバ用カバーガラスとして好適に利用できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ガラス板が薄い場合でも、ガラス板を簡単かつ確実に加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】ガラス板の製造方法に含まれる加工工程のフロー図である。
図2】貼付工程を示す平面図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4】改質工程を示す平面図である。
図5図4のB-B断面図である。
図6】エッチング工程を示す断面図である。
図7】エッチング工程を示す平面図である。
図8図7のC-C断面図である。
図9】粘着力弱化工程を示す断面図である。
図10】粘着力弱化工程の変形例を示す断面図である。
図11】剥離工程を示す断面図である。
図12】加工されたガラス板を示す平面図である。
図13図12のD-D断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0035】
図1に示すように、本実施形態に係るガラス板の製造方法は、矩形状のガラス板(加工前の元ガラス板)から円形状のガラス板を切り出す加工工程Sを備える。加工工程Sは、貼付工程S1と、改質工程S2と、エッチング工程S3と、粘着力弱化工程S4と、剥離工程S5とをこの順に備える。なお、本製造方法は、加工工程Sの前に、ガラス板(加工前の元ガラス板)を成形する成形工程をさらに備えていてもよい。また、本製造方法は、加工工程Sの後に、加工されたガラス板を洗浄する洗浄工程や、加工されたガラス板を検査する検査工程などをさらに備えていてもよい。
【0036】
(貼付工程)
図2及び図3に示すように、貼付工程S1では、積層体1が形成される。積層体1は、ガラス板2に粘着フィルム3を貼り付けることにより形成される。
【0037】
ガラス板2は、第一主面2aと、第二主面2bと、第一主面2a及び第二主面2bの間に介在する端面2cとを備える。ガラス板2は、例えば、オーバーフローダウンドロー法やスロットダウンドロー法などのダウンドロー法や、フロート法などの公知の成形方法を用いて成形される。本実施形態では、ガラス板2は、オーバーフローダウンドロー法により成形される。オーバーフローダウンドロー法によりガラス板2を成形すれば、第一主面2a及び第二主面2bが、火造り面となる。ここで、火造り面とは、ガラスが溶融した後に、ローラなどの他部材と接触することなく固化した未研磨面を意味する。火造り面であれば、破損の原因となる欠陥(例えばマイクロクラック)が極めて少ない平滑な面となる。火造り面の表面粗さRaは、例えば0.2nm以下である。ここで、表面粗さRaは、JIS B0601:2001に準拠した方法で測定した値を意味する。
【0038】
ガラス板2の厚さの上限値は、好ましくは10μm、より好ましくは50μmであり、下限値は、好ましくは1μm、より好ましくは10μmである。つまり、ガラス板2は、非常に薄いガラスフィルムであることが好ましい。なお、100μm超の厚さを有するガラス板2は、粘着フィルム3を貼り付けなくても加工が可能である。
【0039】
粘着フィルム3は、ガラス板2の第二主面2bのみに貼り付けられる。粘着フィルム3は、基材4と、基材4の片面(ガラス板2の第二主面2b側の面)に形成された粘着層5とを備える。積層体1の状態では、ガラス板2と基材4との間に、粘着層5が配置される。これにより、ガラス板2が、粘着層5を介して基材4に固定される。
【0040】
基材4としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)を使用できる。このような材質の基材4を使用すれば、基材4が、耐薬品性(後述するエッチング液12(例えばHF)に対する耐性)及び可撓性を有しやすくなる。なお、基材4の材質は、耐薬品性を有するものであれば、特に限定されない。
【0041】
粘着層5としては、例えば、アクリル系樹脂又はポリエチレン系樹脂を使用できる。このような材質の粘着層5を使用すれば、粘着層5が耐薬品性(後述するエッチング液12(例えばHF)に対する耐性)を有しやすくなる。なお、粘着層5の材質は、耐薬品性を有するものであれば、特に限定されない。
【0042】
粘着層5は、所定の処理により、粘着力が固定時(改質工程S2及びエッチング工程S3)と剥離時(剥離工程S5)で変化する機能性材質であることが好ましい。粘着力を変化させることができる機能性材質としては、例えば、紫外線の照射により硬化する紫外線硬化樹脂や、加熱により硬化する熱硬化樹脂などが挙げられる。なお、粘着フィルム3は、所定の処理を施すことなく、剥離可能な自己粘着フィルムであってもよい。この場合、固定時及び剥離時の粘着力は実質的に同じである。
【0043】
固定時の粘着力は、剥離時の粘着力よりも強いことが好ましい。固定時の粘着力は、0.1N/20mm以上であることが好ましく、0.3N/20mm以上であることがより好ましく、0.5N/20mm以上であることがさらに好ましい。剥離時の粘着力は、0.1N/20mm以下であることが好ましく、0.07N/20mm以下であることがより好ましく、0.05N/20mm以下であることがさらに好ましい。ここで、粘着力は、JIS Z 0237:2022に準拠した方法で測定した値を意味する。
【0044】
粘着フィルム3の厚さ(粘着フィルム3と粘着層5との合計厚さ)は、50μm以上200μm以下であることが好ましい。このようにすれば、粘着フィルム3が、適度な剛性及び可撓性を有しやすくなる。
【0045】
粘着フィルム3は、平面視(厚さ方向に沿って視た場合)でガラス板2よりも大きいことが好ましい。本実施形態では、粘着フィルム3が、ガラス板2の各端面2cから外側に食み出している。つまり、粘着フィルム3は、ガラス板2と重なった矩形状の重なり部3aと、矩形状のガラス板2から食み出した矩形枠状の食み出し部3bとを備える。このようにすれば、食み出し部3bを保持して、ガラス板2をハンドリングできるため、加工工程Sにおける作業性がより良好になる。また、重なり部3aによって、ガラス板2が補強されるため、加工工程S(特に改質工程S2)でガラス板2に反りが生じる事態も確実に抑制できる。したがって、ガラス板2が薄い場合でも、ガラス板2を簡単かつ確実に加工できる。
【0046】
(改質工程)
図4及び図5に示すように、改質工程S2は、ガラス板2と粘着フィルム3とを含む積層体1の状態で行われる。改質工程S2では、レーザ装置6から照射されるレーザ光Lにより、積層体1に含まれるガラス板2の加工予定部7に改質部8を形成する。改質部8は、エッチングされやすい性質を有し、改質されていない部分よりもエッチングレートが高い。本実施形態では、加工予定部7は、円形状のガラス板を切り出す(くり抜く)ために、円周状の線状領域とされる。したがって、レーザ光Lは、加工予定部7に沿って円周状に走査される。その結果、改質部8は、平面視では円周状の領域に沿って断続的又は連続的に形成される。また、改質部8は、側面視(厚さ方向と直交する方向に沿って視た場合)では厚さ方向に沿って断続的又は連続的に形成される。加工精度を向上させる観点からは、改質部8は、円周方向及び/又は厚さ方向において、連続的に形成されていることが好ましい。改質部8の形成態様(例えば改質部8の連続性又は断続性)は、レーザ光Lの焦点位置、スポット径[mm]、スポット間隔[mm]、パルス幅[s]、繰返し周波数[Hz]、パルスエネルギー[J]、ピーク出力[W]などにより調整できる。
【0047】
レーザ光Lは、加工予定部7に改質部8を形成できる限り、その種類及び照射条件は特に限定されない。本実施形態では、レーザ光Lは、パルス幅がピコ秒~フェムト秒の超短パルスレーザ光である。
【0048】
本実施形態では、改質工程S2において、積層体1を複数の吸引孔9aを有する吸着テーブル9で吸着した状態で、積層体1に含まれるガラス板2にレーザ光Lを照射する。詳細には、吸引孔9aに倣って積層体1(特にガラス板2)が変形するのを防止するために、積層体1と吸着テーブル9との間には、ガラス製の支持体10が配置される。支持体10は、平面視で粘着フィルム3よりも大きいことが好ましい。この状態で、ガラス板2は、粘着フィルム3に固定されている。粘着フィルム3は、支持体10の表面にアルコールを塗布することにより、支持体10の表面に密着されている。なお、支持体10は、吸着時の積層体1の変形が防止できるものであれば、ガラス板に限定されるものではなく、金属板などの任意の部材を使用できる。また、吸着時に積層体1に含まれるガラス板2の変形が生じなければ、支持体10は設けなくてもよい。
【0049】
(エッチング工程)
図6に示すように、エッチング工程S3は、ガラス板2と粘着フィルム3とを含む積層体1の状態で行われる。エッチング工程S3では、エッチング槽11に貯留されたエッチング液12に積層体1を浸漬し、ガラス板2の改質部8をエッチングする。この場合、改質部8が優先的にエッチングされるが、粘着フィルム3が貼り付けられていない第一主面2a及び端面2cも、改質部8よりも低いエッチングレートでエッチングされる。つまり、エッチングにより、改質部8が除去されると共に、第一主面2a及び端面2cの表層部も僅かに除去される。そのため、エッチング前後で、ガラス板2の厚さは数%~10%程度減少する。具体的には、例えば、エッチング前の厚さが50μmのガラス板2の場合、エッチング後の厚さが45μm程度となる。
【0050】
エッチング液12としては、HF系のエッチング液や、アルカリ系のエッチング液を用いることができる。HF系のエッチング液としては、例えば、HFからなる単酸、もしくは、HCl、HNO及びHSOの中から選択される少なくとも一種の酸とHFとの混酸などを用いることができる。アルカリ系のエッチング液としては、例えば、NaOH水溶液、KOH水溶液などを用いることができる。
【0051】
ガラス板2の改質部8のエッチングは、粘着フィルム3が貼り付けられていない第一主面2a側から進行する。そのため、改質部8のうち、第一主面2a側のエッチング除去量が、第二主面2b側のエッチング除去量よりも多くなる傾向にある。その結果、図7及び図8に示すように、エッチングにより改質部8を除去すると、改質部8に対応する位置で、内側の円形状のガラス板13の加工端面13cは、第一主面13a側が第二主面13b側よりも内側に位置する傾斜面となる。同様に、改質部8に対応する位置で、外側のガラス板14(内側の円形状のガラス板13を除く部分)の加工端面14cは、第一主面14a側が第二主面14b側よりも外側に位置する傾斜面となる。加工端面13c,14cの傾斜角度θは、例えば、75~89°となる。なお、傾斜角度θは、エッチング工程S3におけるエッチング方法を調整することにより、90°に近づけることもできる。
【0052】
(粘着力弱化工程)
粘着力弱化工程S4は、ガラス板2と粘着フィルム3とを含む積層体1の状態で行われる。粘着力弱化工程S4では、改質部8が除去されたガラス板2(内側のガラス板13及び外側のガラス板14)と粘着フィルム3との間の粘着力を弱める所定の処理を行う。
【0053】
紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂の場合、樹脂を硬化させることにより、粘着力が低下する。そのため、図9に示すように、粘着フィルム3の粘着層5が紫外線硬化樹脂の場合、粘着力弱化工程S4では、積層体1の状態で粘着層5に紫外線照射装置15から紫外線Uを照射し、粘着層5を硬化する。また、図10に示すように、粘着フィルム3の粘着層5が熱硬化樹脂の場合、粘着力弱化工程S4では、積層体1の状態で粘着層5をヒータ16で加熱し、粘着層5を硬化する。なお、粘着フィルム3が自己粘着フィルムである場合、粘着力弱化工程S4は設けなくてもよい。
【0054】
(剥離工程)
図11に示すように、剥離工程S5では、粘着力が弱められた粘着フィルム3を曲げ、ガラス板2から粘着フィルム3を剥離する。これにより、矩形状のガラス板2から円形状のガラス板13を採取できる。この際、粘着フィルム3の食み出し部3bを把持して剥離を行うと、ガラス板2の破損を抑制しつつ剥離作業を円滑に行うことができる。
【0055】
(ガラス板)
図12及び図13に示すように、以上のような加工工程Sを経て得られるガラス板(内側のガラス板)13は、平面視で円形状である。
【0056】
ガラス板13の第一主面13a及び端面13cは、エッチング工程S3に由来するエッチング面である。端面13cは、例えば、第一主面13a側が第二主面13b側よりも内側に位置する傾斜面である(図8の端面13cを参照)。
【0057】
ガラス板13の第二主面13bは、エッチング工程S3でエッチングされることなく、元の面性状を維持する。つまり、本実施形態では、第二主面13bは、オーバーフローダウンドロー法に由来する火造り面である。第二主面13bの表面粗さRaは、0.2nm以下である。
【0058】
ガラス板13の厚さは、1μm以上100μm以下である。
【0059】
ガラス板13は、例えば、センサ用カバーガラス又は中空光ファイバ用カバーガラスとして好適に利用できる。
【0060】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0061】
上記の実施形態では、加工工程において、矩形状の元ガラス板から円形状のガラス板を切り出す場合を例示したが、元ガラス板の形状及び/又は切り出されるガラス板の形状は、これに限定されない。例えば、切り出されるガラス板の形状は、楕円形状、矩形状、多角形状、十字形状などの任意の形状とすることができる。特に、切り出されるガラス板の輪郭形状が、曲線や、凹状の屈曲部を有する場合に、本発明の製造方法が有用となる。
【0062】
上記の実施形態では、加工工程において、矩形状のガラス板から円形状のガラス板を切り出す場合を例示したが、加工種別はこれに限定されない。例えば、加工工程において、ガラス板の貫通孔を形成してもよい。この場合、レーザ光により、貫通孔の加工予定部に改質部を形成する。貫通孔は、一枚のガラス板に複数設けてもよい。
【0063】
上記の実施形態では、エッチング工程において、ガラス板をエッチング液に浸漬してエッチングする場合を例示したが、これに限定されない。例えば、ガラス板の第一主面に対してエッチング液を塗布又は噴射してエッチングしてもよい。
【実施例0064】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0065】
粘着フィルムの種類による粘着フィルムの剛性、ガラス板の剥離性(剥がれ易さ)、耐薬品性、ハンドリング性、加工時の反りを評価した。その結果を表1に示す。なお、表中において、「○」が「△」よりも優れた結果を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1によれば、試料No.1、2、3、4のような粘着フィルムをガラス板に貼り付けて積層体とすることで、加工時のハンドリング性を向上すると共に、加工時の反りを抑制できる。
【0068】
表1によれば、試料No.1、3、4のように、基材はポリオレフィン系であり、かつ、粘着層はアクリル系又はポリエチレン系の粘着層であることが好ましいことが分かる。この場合、改質工程やエッチング工程において、ガラス板と粘着フィルムとを含む積層体に適度な剛性を付与しつつ、剥離工程において、粘着フィルムを曲げてガラス板から剥離しやすくなる。なお、試料No.2のように、基材がポリエステル系の場合、粘着フィルムの剛性が高くなりすぎ、剥離工程において、粘着フィルムを曲げてガラス板から剥離しにくくなる傾向がある。
【0069】
表1によれば、試料No.2、3、4のように、粘着フィルムの総厚さは50μm以上200μm以下であることが好ましいことが分かる。この場合、改質工程やエッチング工程において、ガラス板と粘着フィルムとを含む積層体に適度な剛性を付与しつつ、剥離工程において、粘着フィルムを曲げてガラス板から剥離しやすくなる。なお、試料No.1のように、粘着フィルムの総厚さが50μm未満の場合、粘着フィルムの剛性が低くなりすぎ、改質工程やエッチング工程において、ガラス板と粘着フィルムとを含む積層体に適度な剛性を付与しにくくなる傾向がある。
【0070】
表1によれば、試料No.4のように、粘着力を弱くする処理前の粘着フィルムの粘着力が0.5N/20mm以上であり、粘着力を弱くする処理後の粘着フィルムの粘着力が0.05N/20mm以下であることが好ましいことが分かる。つまり、粘着力を弱くする処理前の粘着力が0.5N/20mm以上であれば、改質工程やエッチング工程において、ガラス板を粘着フィルムに対して確実に固定できる。そのため、例えば、エッチング工程において、ガラス板と粘着フィルムとの間にエッチング液が侵入するのを確実に抑制できる。一方、粘着力を弱くする処理後の粘着フィルムの粘着力が0.5N/20mm以上であれば、剥離工程において、ガラス板から粘着フィルムを剥離しやすくなる。なお、試料No.1のように、粘着フィルムが自己粘着フィルムの場合、粘着力が非常に弱く、エッチング工程において、ガラス板と粘着フィルムとの間にエッチング液が侵入するおそれがある。
【符号の説明】
【0071】
1 積層体
2 ガラス板
2a 第一主面
2b 第二主面
2c 端面
3 粘着フィルム
3a 重なり部
3b 食み出し部
4 基材
5 粘着層
6 レーザ装置
7 加工予定部
8 改質部
9 吸着テーブル
9a 吸引孔
10 支持体
11 エッチング槽
12 エッチング液
13 内側のガラス板
13a 第一主面
13b 第二主面
13c 加工端面
14 外側のガラス板
14a 第一主面
14b 第二主面
14c 加工端面
15 紫外線照射装置
16 ヒータ
L レーザ光
U 紫外線
S 加工工程
S1 貼付工程
S2 改質工程
S3 エッチング工程
S4 粘着力弱化工程
S5 剥離工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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図13