(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179109
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】加工条件決定支援装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/12 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
B23Q15/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092189
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹森 清志
(72)【発明者】
【氏名】玉木 良英
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 章
(72)【発明者】
【氏名】山田 良彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 優大
【テーマコード(参考)】
3C001
【Fターム(参考)】
3C001KA07
3C001KB04
3C001TA06
3C001TB08
(57)【要約】
【課題】切削加工時のびびり振動を抑制する。
【解決手段】加工条件決定支援装置は、工作機械に装着される工具の諸元の情報を含む工具情報と、工作機械に装着された工具により切削加工を施される工作物の材質の情報を含む工作物情報との入力を受け付ける入力受付部と、工作機械の振動特性の情報を含む工作機械情報を記憶している記憶部と、切削加工の切削抵抗の変化に起因する自励びびり振動が生じない加工条件の範囲から、工作機械情報を用いて特定される強制びびり振動が生じる加工条件の範囲を除外した範囲内、かつ、工具情報と工作物情報との組み合わせごとに予め定められている工具の適正回転速度の範囲内で推奨加工条件を決定して、推奨加工条件を表す情報を出力部に出力する推奨加工条件決定部と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削加工の加工条件の決定を支援する加工条件決定支援装置であって、
工作機械に装着される工具の諸元の情報を含む工具情報と、前記工作機械に装着された前記工具により切削加工を施される工作物の材質の情報を含む工作物情報との入力を受け付ける入力受付部と、
前記工作機械の振動特性の情報を含む工作機械情報を記憶している記憶部と、
前記切削加工の切削抵抗の変化に起因する自励びびり振動が生じない加工条件の範囲から、前記工作機械情報を用いて特定される強制びびり振動が生じる加工条件の範囲を除外した範囲内、かつ、前記工具情報と前記工作物情報との組み合わせごとに予め定められている前記工具の適正回転速度の範囲内で推奨加工条件を決定して、前記推奨加工条件を表す情報を出力部に出力する推奨加工条件決定部と、
を備える、加工条件決定支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加工条件決定支援装置であって、
前記推奨加工条件決定部は、前記工具の回転速度と前記自励びびり振動が生じない切込み深さとの関係を表す安定限界線図に前記推奨加工条件が付加された付加安定限界線図を生成して、前記推奨加工条件を表す情報として、前記付加安定限界線図を前記出力部に出力する、加工条件決定支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載の加工条件決定支援装置であって、
前記推奨加工条件決定部は、複数の前記推奨加工条件と前記複数の前記推奨加工条件の推奨順位とを決定して、前記推奨加工条件を表す情報として、前記推奨加工条件と前記推奨順位を含む情報を前記出力部に出力する、加工条件決定支援装置。
【請求項4】
請求項1に記載の加工条件決定支援装置であって、
前記工作機械情報には、前記工作機械の固有振動数の情報が含まれており、
前記強制びびり振動が生じる加工条件の範囲には、前記固有振動数に対応する前記工具の回転速度が含まれる、加工条件決定支援装置。
【請求項5】
請求項1に記載の加工条件決定支援装置であって、
前記工作機械情報には、前記工作機械の固有振動数の情報が含まれており、
前記強制びびり振動が生じる加工条件の範囲には、前記工具の切れ刃通過周波数に対応する前記工具の回転速度が含まれる、加工条件決定支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工条件決定支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作機械による切削加工時にセンサを用いて工作機械の振動を計測して、切削加工時の工作機械の共振周波数を特定し、特定した共振周波数を用いて安定限界線図を作成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、安定限界線図には、工具または工作物に自励びびり振動を生じさせずに加工可能な加工条件の範囲が表されている。しかしながら、安定限界線図を用いて加工条件を決定しても、所望の加工精度が得られない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、切削加工の加工条件の決定を支援する加工条件決定支援装置が提供される。この加工条件決定支援装置は、工作機械に装着される工具の諸元の情報を含む工具情報と、前記工作機械に装着された前記工具により切削加工を施される工作物の材質の情報を含む工作物情報との入力を受け付ける入力受付部と、前記工作機械の振動特性の情報を含む工作機械情報を記憶している記憶部と、前記切削加工の切削抵抗の変化に起因する自励びびり振動が生じない加工条件の範囲から、前記工作機械情報を用いて特定される強制びびり振動が生じる加工条件の範囲を除外した範囲内、かつ、前記工具情報と前記工作物情報との組み合わせごとに予め定められている前記工具の適正回転速度の範囲内で推奨加工条件を決定して、前記推奨加工条件を表す情報を出力部に出力する推奨加工条件決定部と、を備える。
この形態の加工条件決定支援装置によれば、推奨加工条件決定部は、自励びびり振動の発生だけではなく、強制びびり振動の発生をも抑制可能な推奨加工条件を出力する。そのため、推奨加工条件に従って加工条件を決定することで、所望の加工精度が得られなくなることを抑制できる。
(2)上記形態の加工条件決定支援装置において、前記推奨加工条件決定部は、前記工具の回転速度と前記自励びびり振動が生じない切込み深さとの関係を表す安定限界線図に前記推奨加工条件が付加された付加安定限界線図を生成して、前記推奨加工条件を表す情報として、前記付加安定限界線図を前記出力部に出力してもよい。
この形態の加工条件決定支援装置によれば、安定限界線図に推奨加工条件が付加された付加安定限界線図を参照して、加工条件を決定できる。
(3)上記形態の加工条件決定支援装置において、前記推奨加工条件決定部は、複数の前記推奨加工条件と前記複数の前記推奨加工条件の推奨順位とを決定して、前記推奨加工条件を表す情報として、前記推奨加工条件と前記推奨順位を含む情報を前記出力部に出力してもよい。
この形態の加工条件決定支援装置によれば、複数の推奨加工条件の中から、加工条件を選択することができる。さらに、推奨順位を参考にして、加工条件を決定できる。
(4)上記形態の加工条件決定支援装置において、前記工作機械情報には、前記工作機械の固有振動数の情報が含まれており、前記強制びびり振動が生じる加工条件の範囲には、前記固有振動数に対応する前記工具の回転速度が含まれてもよい。
この形態の加工条件決定支援装置によれば、工具の回転周波数と工作機械の固有振動数とが重なって強制びびり振動が発生することを抑制できる。
(5)上記形態の加工条件決定支援装置において、前記工作機械情報には、前記工作機械の固有振動数の情報が含まれており、前記強制びびり振動が生じる加工条件の範囲には、前記工具の切れ刃通過周波数に対応する前記工具の回転速度が含まれてもよい。
この形態の加工条件決定支援装置によれば、切れ刃通過周波数と工作機械の固有振動数とが重なって強制びびり振動が発生することを抑制できる。
本開示は、加工条件決定支援装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、工作機械や、加工条件決定支援方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】推奨加工条件決定処理の内容を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における工作機械11の概略構成を示す斜視図である。本実施形態では、工作機械11は、立型マシニングセンタとして構成されており、ベッド20と、サドル30と、テーブル40と、コラム50と、主軸装置60と、制御装置100とを備えている。
【0009】
ベッド20は、工作機械11の下端部に配置されている。ベッド20の前方部分の上方には、下から順に、サドル30と、テーブル40とが配置されている。サドル30は、ベッド20によって支持されており、図示されていないサーボモータとボールネジとによって、テーブル40とともに工作機械11の前後軸(Y軸)に沿って移動する。テーブル40は、サドル30によって支持されており、図示されていないサーボモータとボールネジとによって、工作機械11の左右軸(X軸)に沿って移動する。テーブル40には、工作物WKが固定される。工作物WKは、例えば、図示されていない固定治具を介して、テーブル40に固定される。
【0010】
ベッド20の後方部分の上面には、コラム50が固定されている。コラム50の前方、かつ、テーブル40の上方には、主軸装置60が配置されている。主軸装置60は、主軸ハウジング62と、主軸65と、主軸モータ67とを備えている。主軸ハウジング62は、コラム50によって支持されており、図示されていないサーボモータとボールネジとによって、工作機械11の上下軸(Z軸)に沿って移動する。主軸65は、主軸ハウジング62によって支持されている。主軸65には、工具TLが装着される。主軸モータ67は、工作機械11の上下軸(Z軸)に平行な回転軸を中心にして主軸65を回転させる。主軸モータ67には、例えば、サーボモータを用いることができる。
【0011】
工具TLは、刃具BDと、ツールホルダHDとを備えている。刃具BDは、工作物WKを削り取る刃を有している。刃具BDは、ツールホルダHDを介して、主軸65に固定される。本実施形態では、刃具BDは、エンドミルである。ツールホルダHDには、例えば、BTシャンク、BBTシャンク、HSKシャンク、CAPTOシャンク等を用いることができる。なお、他の実施形態では、刃具BDとツールホルダHDとが一体化されていてもよい。
【0012】
制御装置100は、CPU101と、メモリ102と、入出力インターフェース103と、内部バス104とを備えたコンピュータとして構成されている。制御装置100には、入力装置105と、表示装置106とが接続されている。入力装置105は、例えば、複数の操作ボタンで構成されている。表示装置106は、例えば、液晶ディスプレイで構成されている。入力装置105と表示装置106とは、タッチパネルとして一体化されてもよい。なお、メモリ102のことを記憶部と呼び、表示装置106のことを出力部と呼ぶことがある。
【0013】
CPU101は、メモリ102に格納されているコンピュータプログラムを実行することによって、NC制御部110、後述する加工条件決定支援部120の入力受付部121、および、推奨加工条件決定部125として機能する。NC制御部110は、NCプログラムに従って主軸モータ67等の工作機械11の各モータを制御することにより、回転している工具TLを工作物WKに接触させて、工作物WKに対する切削加工を実行する。NCプログラムを生成するためには、工具回転速度と、送り速度と、切込み深さとを決定することが求められる。工具回転速度とは、工具TLの回転速度、換言すれば、主軸65の回転速度のことを意味する。送り速度とは、工具TLまたは工作物WKの移動速度のことを意味する。本実施形態では、工作物WKが固定されているテーブル40が移動するので、送り速度は、工作物WKの移動速度、換言すれば、テーブル40の移動速度である。切込み深さとは、工作物WKに対する工具TLの切込み深さのことを意味する。
【0014】
加工条件決定支援部120は、工具情報と工作物情報と工作機械情報とを用いて推奨加工条件を決定して、推奨加工条件を出力することにより、作業員による加工条件の決定を支援する。工具情報には、刃具BDの諸元に関する情報と、ツールホルダHDの諸元に関する情報とが含まれている。工作物情報には、工作物WKの材質に関する情報が含まれている。工作機械情報には、工作機械11の振動特性に関する情報が含まれている。
【0015】
図2は、制御装置100の機能構成を示す説明図である。
図2では、NC制御部110の図示を省略している。制御装置100は、入力受付部121と、推奨加工条件決定部125と、メモリ102とを備えている。以下の説明では、制御装置100のうち、入力受付部121と推奨加工条件決定部125とメモリ102とを含む部分のことを、加工条件決定支援部120と呼ぶ。なお、加工条件決定支援部120のことを、加工条件決定支援装置120と呼ぶことがある。
【0016】
入力受付部121は、工具情報の入力と工作物情報の入力とを受け付ける。工具情報には、刃具BDの諸元の情報と、ツールホルダHDの諸元の情報とが含まれている。刃具BDの諸元の情報には、例えば、刃具BDの種類、刃具BDの刃数、刃具BDの外径等の寸法、刃具BDの切削速度の適正範囲、および、刃具BDの材質の情報が含まれている。刃具BDの種類とは、エンドミルや、正面フライスや、ドリル等のことである。ツールホルダHDの諸元の情報には、例えば、ツールホルダHDの種類、ツールホルダHDの外径等の寸法、および、ツールホルダHDの材質の情報が含まれている。ツールホルダHDの種類とは、BTシャンクや、BBTシャンクや、HSKシャンクや、CAPTOシャンク等のことである。工作物情報には、工作物WKの材質の情報が含まれている。工具情報と工作物情報とは、入力装置105を介して入力受付部121に入力された後、推奨加工条件決定部125に送信される。
【0017】
推奨加工条件決定部125は、入力受付部121から受信した工具情報と工作物情報とに加えて、メモリ102に記憶されている工作機械情報を用いて、切削加工の推奨加工条件を決定して、推奨加工条件を表す情報を表示装置106に表示させる。工作機械情報には、工作機械11の振動特性の情報が含まれている。本実施形態では、工作機械情報には、工作機械11の振動特性の情報として、主軸ハウジング62の固有振動数の情報が含まれている。推奨加工条件は、以下で説明する推奨加工条件決定処理によって決定される。
【0018】
図3は、加工条件決定支援部120によって実行される推奨加工条件決定処理の内容を示すフローチャートである。
図4は、安定限界線
図SD1の一例を示す説明図である。
図5は、付加安定限界線
図SD2の一例を示す説明図である。安定限界線
図SD1および付加安定限界線
図SD2において、横軸は、工具回転速度を表しており、縦軸は、軸方向の切込み深さを表している。
【0019】
図3に示す推奨加工条件決定処理は、例えば、入力装置105に設けられた開始ボタンが押下された場合に、加工条件決定支援部120によって開始される。まず、ステップS110にて、加工条件決定支援部120の入力受付部121は、入力装置105からの工具情報の入力と工作物情報との入力とを受け付ける。
【0020】
次に、ステップS120にて、加工条件決定支援部120の推奨加工条件決定部125は、工具情報と工作物情報とを用いて、加工点における自励びびり振動が生じない加工条件の範囲を特定する。自励びびり振動は、例えば、再生効果による切削抵抗の変化に起因して生じる。本実施形態では、推奨加工条件決定部125は、加工点における自励びびり振動が生じない加工条件の範囲を特定して、
図4に示す安定限界線
図SD1を生成する。安定限界線
図SD1には、工具回転速度と自励びびり振動が生じない軸方向切込み深さの限界値との関係が表されている。以下の説明では、軸方向切込み深さの限界値を表す線のことを安定限界線LLと呼ぶ。安定限界線LLよりも下側の安定範囲R1で加工した場合には、自励びびり振動が抑制され、安定限界線LLよりも上側の不安定範囲R2で加工した場合には、自励びびり振動が生じる。推奨加工条件決定部125は、安定限界線
図SD1を生成するために、まず、工具情報と工作物情報とを用いて工具TLと工作物WKとをモデル化し、当該モデルを用いた振動解析によって工具TLの振動周波数とコンプライアンスとの関係を導出し、コンプライアンスが最大となる周波数を特定する。次に、推奨加工条件決定部125は、特定された周波数でのコンプライアンスのピーク形状に適合する伝達関数G(s)=1/(M×s
2+C×s+K)をカーブフィッティング処理によって導出して、工具TLまたは工作物WKの質量M、減衰係数C、および、ばね定数K等のモーダルパラメータを特定する。そして、推奨加工条件決定部125は、特定されたモーダルパラメータを用いて、例えば、2010年3月4日、日本機械学会No.10-24講習会-生産加工基礎講座-実習で学ぼう「切削加工、びびり振動の基礎知識」、講習会テキスト、pp.1-12に示されているびびり安定限界線図の求め方と同様の方法で、安定限界線
図SD1を生成する。
【0021】
ステップS130にて、推奨加工条件決定部125は、メモリ102から工作機械情報を読み込んで、加工点における強制びびり振動が生じる加工条件の範囲を特定する。強制びびり振動は、例えば、工具TLから工作物WKに断続的に加えられる切削力の周波数と主軸ハウジング62の固有振動数とが一致することで生じる。本実施形態では、工作機械情報には、主軸ハウジング62の固有振動数の情報が含まれており、推奨加工条件決定部125は、工具TLの回転周波数が主軸ハウジング62の固有振動数の±10%の範囲内になる工具回転速度を強制振動が発生する範囲として特定する。さらに、推奨加工条件決定部125は、工具TLの回転周波数を刃具BDの刃数で除した周波数が主軸ハウジング62の固有振動数の±10%の範囲内になる工具回転速度を強制びびり振動が発生する範囲として特定する。主軸ハウジング62の固有振動数は、工作機械11の静止時に主軸ハウジング62を加振するハンマリング試験の結果を用いて算出できる。
【0022】
ステップS140にて、推奨加工条件決定部125は、工具情報と工作物情報とを用いて、工具TLの適正回転速度の範囲を決定する。工具情報には、工具TLの種類の情報と、刃具BDの外径の情報と、刃具BDの切削速度の適正範囲の情報とが含まれている。切削速度とは、刃具BDの周速度、換言すれば、刃具BDの刃が工作物WKを削り取る速さのことを意味する。切削速度の適正範囲は、刃具BDの製造者によって、刃具BDの種類と刃具BDの材質と工作物WKの材質との組み合わせごとに予め定められている。切削速度の適正範囲は、例えば、刃具BDの製造者によって作成されるカタログに記載されている。推奨加工条件決定部125は、下式(1)を用いて、切削速度から工具回転速度を算出できる。
N=1000×V/(π×D) ・・・(1)
ここで、Nは工具回転速度、πは円周率、Dは刃具BDの外径、Vは切削速度である。なお、工作機械11の性能によっては、適正回転速度で工具TLを回転させることができない場合がある。この場合、推奨加工条件決定部125は、適正回転速度の範囲から工作機械11の最高回転速度以上の範囲を除外してもよい。
【0023】
ステップS150にて、推奨加工条件決定部125は、推奨加工条件を決定する。本実施形態では、推奨加工条件決定部125は、工具回転速度の推奨回転速度を決定する。推奨加工条件決定部125は、ステップS120で特定した自励びびり振動が生じない安定範囲R1から、ステップS130で特定した強制びびり振動が生じる範囲を除外した範囲内、かつ、ステップS140で特定した適正回転速度の範囲内で、推奨回転速度を決定する。具体的には、推奨加工条件決定部125は、上記範囲内の安定限界線LLのピーク位置での回転速度を推奨回転速度に決定する。本実施形態では、安定限界線LLが上記範囲内に複数のピークを有する場合には、推奨加工条件決定部125は、各ピーク位置での回転速度を推奨回転速度に決定し、回転速度の速い順に推奨回転速度の推奨順位を決定する。
【0024】
ステップS150にて、推奨加工条件決定部125は、推奨回転速度に加えて、送り速度の推奨速度を決定してもよい。推奨加工条件決定部125は、下式(2)を用いて、送り速度を算出できる。
F=f×Z×N ・・・(2)
ここで、Fは送り速度、fは1刃あたりの送り量、Zは刃具BDの刃数、Nは工具回転速度である。1刃あたりの送り量は、刃具BDの製造者によって、刃具BDの種類と刃具BDの材質と工作物WKの材質との組み合わせごとに予め定められている。1刃あたりの送り量は、例えば、刃具BDの製造者によって作成されるカタログに記載されている。
【0025】
ステップS150にて、推奨加工条件決定部125は、推奨回転速度に加えて、軸方向切込み深さの推奨深さを決定してもよい。推奨加工条件決定部125は、安定限界線
図SD1を用いて、軸方向切込み深さの推奨深さを決定できる。
【0026】
ステップS160にて、推奨加工条件決定部125は、推奨加工条件を表す情報を出力する。本実施形態では、推奨加工条件決定部125は、安定限界線
図SD1に推奨加工条件を表す情報が付加された付加安定限界線
図SD2を生成して、付加安定限界線
図SD2を表示装置106に表示させる。その後、加工条件決定支援部120は、この処理を終了する。なお、ステップS120、ステップS130、および、ステップS140は、この順番で実行されなくてもよい。例えば、ステップS120の実行に先立って、ステップS130が実行されてもよい。あるいは、ステップS120、ステップS130、および、ステップS140が同時並列的に実行されてもよい。
【0027】
図5には、刃具BDが7枚刃のエンドミルであり、かつ、主軸ハウジング62の固有振動数が42Hzである場合の付加安定限界線
図SD2の一例が表されている。付加安定限界線
図SD2には、強制びびり振動が生じる工具回転速度の範囲R3,R4が破線で表されている。範囲R3は、主軸ハウジング62の固有振動数の±10%以内の範囲であり、範囲R4は、主軸ハウジング62の固有振動数を刃具BDの刃数で除した周波数の±10%以内の範囲である。付加安定限界線
図SD2には、推奨回転速度を示す目印SBが表されている。本実施形態では、付加安定限界線
図SD2には、複数の推奨回転速度を表す目印SBが表されており、各目印SBには、各推奨回転速度の推奨順位が表されている。工具回転速度が速いほど送り速度が速くなって加工時間が短くなるので、工具回転速度が速いほど推奨順位が高くされている。各推奨回転速度は、強制びびり振動が生じる範囲R3,R4に含まれていない。
【0028】
以上で説明した本実施形態の工作機械11では、加工条件決定支援部120の推奨加工条件決定部125は、工具情報と工作物情報とが入力されると、自励びびり振動が生じない加工条件の範囲から、強制びびり振動が生じる加工条件の範囲を除外した範囲内、かつ、適正回転速度の範囲内で推奨加工条件を決定し、推奨加工条件を表す情報を表示装置106に表示させる。そのため、作業員は、推奨加工条件を表す情報を用いて、切削加工の加工条件を決定できる。特に、本実施形態では、推奨加工条件決定部125は、工具情報と工作物情報とが入力されると、安定限界線
図SD1に推奨加工条件を表す情報が付加された付加安定限界線
図SD2を生成して、付加安定限界線
図SD2を表示装置106に表示させる。そのため、作業員は、付加安定限界線
図SD2を用いて、加工条件を決定できる。
【0029】
また、本実施形態では、推奨加工条件決定部125は、複数の推奨加工条件と、各推奨加工条件の推奨順位とが表された付加安定限界線
図SD2を生成して、表示装置106に表示させる。そのため、作業員は、複数の推奨加工条件の中から加工条件を選択できる。さらに、推奨順位が表示されるので、熟練度の低い作業員であっても、容易に加工条件を決定できる。
【0030】
また、本実施形態では、推奨加工条件決定部125は、工具回転速度を周波数に換算したときに主軸ハウジング62の固有振動数と同じ値になる工具回転速度の±10%以内の範囲を、推奨加工条件から除外する。そのため、工具回転周波数と主軸ハウジング62の固有振動数とが重なって主軸ハウジング62が共振し、加工点において強制びびり振動が発生することを抑制できる。
【0031】
また、本実施形態では、推奨加工条件決定部125は、主軸ハウジング62の固有振動数を工具TLの刃数で除した周波数を回転速度に換算した工具回転速度の±10%以内の範囲を推奨加工条件から除外する。そのため、切れ刃通過周波数の整数倍成分と主軸ハウジング62の固有振動数とが重なって主軸ハウジング62が共振し、加工点において強制びびり振動が発生することを抑制できる。
【0032】
B.他の実施形態:
(B1)上述した実施形態において、推奨加工条件決定部125は、推奨加工条件の情報が表された付加安定限界線
図SD2を生成して表示装置106に表示させる。これに対して、推奨加工条件決定部125は、付加安定限界線
図SD2を生成せずに、推奨加工条件を表す情報を、例えば、テキスト形式で表示装置106に表示させてもよい。推奨加工条件決定部125は、推奨加工条件を表す情報を表示装置106に表示させるのではなく、スピーカーを用いて音声形式で出力してもよい。
【0033】
(B2)上述した実施形態において、推奨加工条件決定部125は、推奨加工条件決定部125は、強制振動が生じる範囲の軸方向切込み深さの限界値をゼロにすることにより、強制振動が生じる範囲を推奨加工条件から除外してもよい。
【0034】
(B3)上述した実施形態において、推奨加工条件決定部125は、工具回転速度を周波数に換算したときに主軸ハウジング62の固有振動数と同じ値になる工具回転速度の±10%以内の範囲と、推奨加工条件決定部125は、主軸ハウジング62の固有振動数を工具TLの刃数で除した周波数を回転速度に換算した工具回転速度の±10%以内の範囲との両方を、推奨加工条件から除外している。これに対して、推奨加工条件決定部125は、上述した範囲のいずれか一方を、推奨加工条件から除外しなくてもよい。
【0035】
(B4)上述した実施形態において、推奨加工条件決定部125は、主軸ハウジング62の固有振動数を用いて、強制びびり振動が生じる範囲を特定している。これに対して、推奨加工条件決定部125は、例えば、テーブル40に工作物WKを固定する固定治具の固有振動数を用いて、強制びびり振動が生じる範囲を特定してもよい。
【0036】
(B5)上述した実施形態では、加工条件決定支援部120は、工作機械11の制御装置100に設けられている。これに対して、加工条件決定支援部120は、制御装置100と別体のコンピュータ上に設けられてもよい。この場合、加工条件決定支援部120が設けられたコンピュータのことを加工条件決定支援装置と呼ぶことがある。
【0037】
(B6)上述した実施形態では、工作機械11は、立型のマシニングセンタである。これに対して、工作機械11は、立型のマシニングセンタでなくてもよい。工作機械11は、例えば、横型のマシニングセンタや、NCフライス盤でもよい。
【0038】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
11…工作機械、20…ベッド、30…サドル、40…テーブル、50…コラム、60…主軸装置、62…主軸ハウジング、65…主軸、67…主軸モータ、100…制御装置、101…CPU、102…メモリ、103…入出力インターフェース、104…内部バス、105…入力装置、106…表示装置、110…NC制御部、120…加工条件決定支援部、121…入力受付部、125…推奨条件決定部、BD…刃具、HD…ツールホルダ、SD1…安定限界線図、SD2…付加安定限界線図、TL…工具、WK…工作物