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特開2023-179114電動車用ドライブシステム及びこれを備えた電動車
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179114
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】電動車用ドライブシステム及びこれを備えた電動車
(51)【国際特許分類】
   B60L 7/24 20060101AFI20231212BHJP
   H02P 25/18 20060101ALI20231212BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20231212BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20231212BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20231212BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B60L7/24 D
H02P25/18
H02P27/06
H02P5/46 H
B60L9/18 J
B60T8/17 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092202
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】藤井 克彦
(72)【発明者】
【氏名】杉本 愼治
(72)【発明者】
【氏名】原 豪希
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 昂歳
【テーマコード(参考)】
3D246
5H125
5H505
5H572
【Fターム(参考)】
3D246DA01
3D246EA05
3D246GB39
3D246HA28A
3D246HA35C
3D246HA38A
3D246JA12
3D246LA12Z
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BB00
5H125CB02
5H125CB07
5H125EE08
5H125EE44
5H125FF01
5H505AA16
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE23
5H505EE35
5H505EE48
5H505EE55
5H505FF04
5H505FF07
5H505HA06
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ25
5H505LL01
5H505LL22
5H572AA02
5H572CC04
5H572DD05
5H572EE03
5H572FF03
5H572FF07
5H572HA05
5H572HA10
5H572HB07
5H572HC07
5H572JJ25
5H572LL01
5H572LL22
(57)【要約】
【課題】
本発明は、回転電機の回生中の巻線切替期間においても要求ブレーキトルクを満たすように制御する。
【解決手段】
回転電機1に電力を供給するインバータ3と、回転電機1の回転速度が回転速度閾値に達した場合に、回転電機1の結線状態を切り替える機械式巻線切替装置8と、回転電機1とインバータ3と機械式巻線切替装置8を制御するコントローラ4と、を備える。コントローラ4はインバータ制御装置9と、機械式巻線切替装置8を制御する巻線切替制御装置10と、機械式ブレーキ16を制御する機械式ブレーキ制御装置11とを備える。インバータ制御装置9は、回転電機1の結線状態切替え時に、インバータ3をオフするよう制御する。機械式ブレーキ制御装置11は、回転電機1が回生状態時に、インバータ3のオフによって消失する回転電機1の回生ブレーキトルクを機械式ブレーキ16に補償させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
力行時には車輪に回転トルクを付与し、回生時にはブレーキトルクを付与する回転電機と、前記回転電機に電力を供給するインバータと、前記回転電機の回転速度が予め定めた回転速度閾値に達した場合に、前記回転電機の結線状態を切り替える機械式巻線切替装置と、前記回転電機と前記インバータと前記機械式巻線切替装置を制御する制御装置と、を備える電動車用ドライブシステムにおいて、
前記制御装置は、前記インバータを制御するインバータ制御装置と、前記機械式巻線切替装置を制御する巻線切替制御装置と、前記車輪を制動する機械式ブレーキを制御する機械式ブレーキ制御装置とを備え、
前記インバータ制御装置は、前記回転電機の結線状態を切り替える際に、前記インバータのスイッチング素子を全てオフするよう制御し、
前記機械式ブレーキ制御装置は、前記回転電機が回生状態である場合に、前記インバータのスイッチング素子を全てオフしたことによって消失する前記回転電機の回生ブレーキトルクを前記機械式ブレーキに補償させるように制御することを特徴とする電動車用ドライブシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車用ドライブシステムにおいて、
前記機械式ブレーキ制御装置は、前記回転電機の回生ブレーキトルクの消失分を前記機械式ブレーキに補償させて要求ブレーキトルクと一致するように前記機械式ブレーキを制御することを特徴とする電動車用ドライブシステム。
【請求項3】
請求項1に記載の電動車用ドライブシステムにおいて、
前記巻線切替制御装置は、前記インバータ制御装置から巻線切替指令を受信した後、前記機械式巻線切替装置に巻線切替信号を出力することを特徴とする電動車用ドライブシステム。
【請求項4】
請求項3に記載の電動車用ドライブシステムにおいて、
前記インバータ制御装置は、前記インバータのスイッチング素子を全てオフしたタイミングを起点とし、予め定めた所定期間が経過した後、前記巻線切替制御装置に巻線切替指令を出力することを特徴とする電動車用ドライブシステム。
【請求項5】
請求項4に記載の電動車用ドライブシステムにおいて、
前記予め設定した所定期間は、力行時よりも回生時の方を短く設定することを特徴とする電動車用ドライブシステム。
【請求項6】
請求項2に記載の電動車用ドライブシステムにおいて、
前記インバータ制御装置は、前記回転電機の回転速度に基づいて、回生ブレーキトルクと機械式ブレーキトルクの配分を行うブレーキトルク配分装置を備え、
前記ブレーキトルク配分装置は、前記回転電機の回転速度が前記回転速度閾値に近づくにつれて合計ブレーキトルクに対する機械式ブレーキトルクの割合を、回生ブレーキトルクの割合よりも多くなるように制御することを特徴とする電動車用ドライブシステム。
【請求項7】
請求項6に記載の電動車用ドライブシステムにおいて、
前記ブレーキトルク配分装置は、前記回転電機の回転速度が前記回転速度閾値に達した際には、前記機械式ブレーキのみが動作するように制御することを特徴とする電動車用ドライブシステム。
【請求項8】
請求項1に記載の電動車用ドライブシステムにおいて、
前記機械式巻線切替装置は、固定子電極と、前記固定子電極との接触面積を変化させる可動子電極とを備え、
前記巻線切替制御装置は、前記インバータのスイッチング素子を全てオフしたタイミングを起点として、前記固定子電極と前記可動子電極の接触面積が小さくなるように制御することを特徴とする電動車用ドライブシステム。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項において、
前記回転電機と前記インバータと前記機械式巻線切替装置は複数備え、
前記制御装置は、前記複数の回転電機の各々の巻線切替期間を異ならせてしめるよう前記機械式巻線切替装置を制御することを特徴とする電動車用ドライブシステム。
【請求項10】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の電動車用ドライブシステムを搭載した電動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線切替装置を備えた電動車用ドライブシステム及び電動車に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの巻線を切り替える技術として、例えば特許文献1に記載の技術がある。特許文献1では、空気調和機の圧縮機に用いるモータの巻線を切り替えるにあたり、モータを空転させる制御を行う第1制御部と、モータが空転している間に巻線切替スイッチを制御する第2制御部と、を備えている。モータが空転している状態では、インバータを停止させ、モータへの通電を行わないようにしている。すなわち、特許文献1では、インバータを停止させ、モータへの通電を行わない状態で巻線切替スイッチを制御して、モータの巻線を切り替えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-145802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、モータに通電した状態で結線状態を切り替えると、スイッチの接点箇所にアーク放電が生じ、スイッチの接点箇所が溶着するなど不具合が生じる。これを防ぐために、インバータのスイッチング素子を全てオフしたインバータ停止期間を設け、その間に結線状態の切り替えを行う必要がある。インバータ停止期間はモータへの通電が行われずトルクが0となる。これはモータが回生している時も同様であり、回生によるブレーキトルクが0となる。
【0005】
特許文献1に記載の技術を電動車へ適用することを想定すると、モータ回生中の巻線切替期間においては要求ブレーキトルクを出力できなくなり、制動力を得られないといった課題が生じる。一方で、モータ回生中、すなわち回生ブレーキトルクによる減速中に巻線切替を行わないと、モータの回転速度が低速回転域にありながら、低速回転域に好適な結線状態でモータを駆動できないという課題が生じる。特許文献1は空調用圧縮機に適用することを想定しているものであり、電動車への適用にあたっての課題については考慮されていない。
【0006】
本発明は、回転電機の回生中の巻線切替期間においても要求ブレーキトルクを出力し、低速回転域においても好適な結線状態で回転電機を駆動することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために本発明は、力行時には車輪に回転トルクを付与し、回生時にはブレーキトルクを付与する回転電機と、前記回転電機に電力を供給するインバータと、前記回転電機の回転速度が予め定めた回転速度閾値に達した場合に、前記回転電機の結線状態を切り替える機械式巻線切替装置と、前記回転電機と前記インバータと前記機械式巻線切替装置を制御する制御装置と、を備える電動車用ドライブシステムにおいて、前記制御装置は、前記インバータを制御するインバータ制御装置と、前記機械式巻線切替装置を制御する巻線切替制御装置と、前記車輪を制動する機械式ブレーキを制御する機械式ブレーキ制御装置とを備え、前記インバータ制御装置は、前記回転電機の結線状態を切り替える際に、前記インバータのスイッチング素子を全てオフするよう制御し、前記機械式ブレーキ制御装置は、前記回転電機が回生状態である場合に、前記インバータのスイッチング素子を全てオフしたことによって消失する前記回転電機の回生ブレーキトルクを前記機械式ブレーキに補償させるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転電機の回生中の巻線切替期間においても要求ブレーキトルクを出力でき、かつ、低速回転域においても好適な結線状態で回転電機を駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1に係る電動車用ドライブシステムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施例1に係る回転電機の巻線構成を示す図である。
図3A】本発明の実施例1に係る回転電機の各相の巻線を直列接続した状態を示す図である。
図3B】本発明の実施例1に係る回転電機の各相の巻線を並列接続した状態を示す図である。
図4A】回転速度と回生ブレーキトルクの関係を示す図である。
図4B】回転速度と結線状態の関係を示す図である。
図5】本発明の実施例1に係る巻線切替シーケンスを示すフローチャートである。
図6】本発明の実施例1に係る回転速度、機械式ブレーキトルク、回生ブレーキトルクの関係を示す図である。
図7】本発明の実施例2に係る巻線切替シーケンスを示すフローチャートである。
図8A】インバータ3のスイッチング素子が動作している場合における電流の流れの一例を示す図である。
図8B】インバータ3のスイッチング素子をオフした直後における過渡電流の流れの一例を示す図である。
図9】本発明の実施例2に係るインバータのスイッチング素子をオフした直後における過渡電流の減衰の様子を示す模式図である。
図10】本発明の実施例3に係る巻線切替シーケンスを示すフローチャートである。
図11】本発明の実施例3に係るインバータのスイッチング素子をオフした直後における過渡電流の減衰の様子を示す模式図である。
図12】本発明の実施例4に係る電動車用ドライブシステムの構成を示すブロック図である。
図13】比較例と実施例4のブレーキトルク配分を示す図である。
図14】本発明の実施例5に係る巻線切替シーケンスを示すフローチャートである。
図15】本発明の実施例5に係る機械式巻線切替装置の固定子電極と可動子電極の挙動を示す図である。
図16A】本発明の実施例5に係る力行時においてインバータのスイッチング素子をオフした直後における過渡電流の減衰の様子を示す模式図である。
図16B】本発明の実施例5に係る回生時においてインバータのスイッチング素子をオフした直後における過渡電流の減衰の様子を示す模式図である。
図17】本発明の実施例6に係る電動車用ドライブシステムの構成を示すブロック図である。
図18】本発明の実施例7に係る電動車用ドライブシステムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施例1について説明する。なお、同一の要素については、全ての図において、原則として同一の符号を付している。また、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。なお、以下に説明する構成はあくまで実施例に過ぎず、本発明に係る実施様態が、以下の具体的様態に限定されることを意図する趣旨ではない。
【実施例0011】
図1乃至図6を用いて、本発明の実施例1について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施例1に係る電動車用ドライブシステムの構成を示すブロック図である。
【0013】
図1において、本発明の電動車用ドライブシステムは、回転電機1、相電流検出回路2、インバータ3、コントローラ4(制御装置)、機械式巻線切替装置8、モータシャフト12、差動装置13、ドライブシャフト14、車輪15、機械式ブレーキ16、回転速度検出器17から構成される。
【0014】
回転電機1は、例えば、複数の巻線を有する永久磁石同期電動機で構成され、各巻線の結線状態を切り替えられるように一部の巻線の始端と終端が引き出され、機械式巻線切替装置8に格納される。本実施例の回転電機1は、力行時には車輪に回転トルクを付与し、回生時にはブレーキトルクを付与する。
【0015】
相電流検出回路2は、ホールCT(Current Transformer)等から構成され、U相、V相、W相の三相交流電流のうち何れかの二相を検出している。三相交流電流が平衡状態であると仮定して他の1相を演算により求める構成としているが、三相全てを検出する構成としても良い。
【0016】
インバータ3は、バッテリ等の直流電圧電源5、ゲート・ドライバ6およびスイッチング素子Sup~SwnとダイオードD~Dを備える主回路部7から構成される。なお、本実施例の効果はスイッチング素子の種類によって限定されるものではない。
【0017】
コントローラ4は、インバータ3を制御するインバータ制御装置9と、機械式巻線切替装置8を制御する巻線切替制御装置10と、車輪を制動する機械式ブレーキを制御する機械式ブレーキ制御装置11から構成される。コントローラ4は、図示しない車両信号(例えば、アクセル信号やブレーキ信号等)に基づいて、運転者が望むよう電動車を駆動するため、インバータ3と機械式巻線切替装置8と機械式ブレーキ16を制御する。
【0018】
インバータ制御装置9は、相電流検出回路2より得られる回転電機1のU相線1U、V相線1V、W相線1Wに流れる電流i、i、iと、回転速度検出器17より得られる回転電機1の回転速度を用いて、回転電機1の回転を所定状態とするための印加電圧指令パルスを生成し、ゲート・ドライバ6に出力する。
【0019】
また、インバータ制御装置9は、回転速度検出器17より得られる回転電機1の回転速度を用いて、予め定めた回転速度閾値に達したか否かを判定する。回転速度閾値に達したと判定した場合、インバータ制御装置9はインバータ3のスイッチング素子を全てオフするようインバータオフ指令をゲート・ドライバ6に出力し、巻線切替指令を巻線切替制御装置10に出力する。また、インバータ制御装置9は、回転電機1が回生状態であるか否かを判定する。インバータ制御装置9が、回転電機1の回転速度が予め定めた回転速度閾値に達したと判定し、かつ、回転電機1が回生状態であると判定した場合には、機械式ブレーキ制御装置11にブレーキトルク抜け補償指令を出力する。
【0020】
巻線切替制御装置10は、インバータ制御装置9より出力された巻線切替指令を受信した場合には、巻線切替信号を生成し、これを機械式巻線切替装置8に出力する。
【0021】
機械式巻線切替装置8は、回転電機1の結線状態を切り替え可能な回路構成を有しており、巻線切替制御装置10からの信号に基づいて、回転電機1の結線状態を切り替える。
【0022】
機械式ブレーキ制御装置11は、図示しないブレーキペダルの踏込力に応じて、機械式ブレーキ16を制御する。機械式ブレーキ16は、摩擦力によってブレーキトルクを発生させる。機械式ブレーキ16には、ディスクブレーキやドラムブレーキ等の種類があるが、本実施例の効果は機械式ブレーキの種類によって限定されるものではない。
【0023】
次に、図2および図3を用いて機械式巻線切替装置8の構成を説明する。図2は、本発明の実施例1に係る回転電機の巻線構成を示す図である。図3Aは、本発明の実施例1に係る回転電機の各相の巻線を直列接続した状態を示す図である。図3Bは、本発明の実施例1に係る回転電機の各相の巻線を並列接続した状態を示す図である。なお、ここでは結線状態を直列接続と並列接続とで切り替える構成を示しているが、あくまで一例であり、結線状態をY結線とΔ結線とで切り替える構成でもよいし、巻線の巻数を切り替える構成でもよい。
【0024】
図2に示すように、回転電機1のU相、V相、W相の各相に対して、それぞれ2つの巻線1A、1Bが備えられている。また、機械的な部品から成るスイッチSW1U、SW1V、SW1WおよびスイッチSW2U、SW2V、SW2Wが設けられており、これらスイッチのオン、オフを機械式巻線切替装置8が行う。
【0025】
回転電機1においては、スイッチSW1U、SW1V、SW1Wをそれぞれオンし、かつ、スイッチSW2U、SW2V、SW2Wをそれぞれオフすることにより、U相、V相、W相の各相における2つの巻線1A、1Bを、それぞれ図3Aのように直列接続することができる。また、回転電機1においては、スイッチSW1U、SW1V、SW1Wをそれぞれオフし、かつ、スイッチSW2U、SW2V、SW2Wをそれぞれオンすることにより、U相、V相、W相の各相の2つの巻線1A、1Bを、それぞれ図3Bのように並列接続することができる。このようにして、回転電機1の結線状態を直列接続から並列接続へ、あるいは、並列接続から直列接続へと切り替えることが可能となる。
【0026】
次に、回転速度と回生ブレーキトルクの関係、および回転速度と結線状態の関係について説明する。図4Aは、回転速度と回生ブレーキトルクの関係を示す図である。図4Bは、回転速度と結線状態の関係を示す図である。
【0027】
図4Aにおいて、時刻t~時刻tでは、インバータを動作させ回生ブレーキトルクを発生させ、要求ブレーキトルクを出力する。そして、車両は要求ブレーキトルクを得て減速する。巻線切替期間となる時刻t~時刻tではインバータが停止している。これによって回生ブレーキトルクが消失するため、要求ブレーキトルクを出力できず、車両としては減速しにくくなる。減速しにくいことは衝突事故につながるため、安全上のリスクが高まるという問題が生じる。また、この問題を解決するために回生中の巻線切替を禁止する場合、要求ブレーキトルクを出力することは可能となるが、別の問題が生じる。
【0028】
この問題について、図4Bを用いて説明する。まず始めに、動作点はOPPにあるとする。この時、回転電機1の回転速度は高速回転域にあるため、回転電機1は高速回転域に好適な結線状態にある。次に、回転電機1が動作OP1のように減速し、回転速度閾値を下回るとする。この時、前述の課題を解決するために巻線切替を禁止している。次に、動作OP2のように、回転速度が0となる前に運転者がアクセルペダルを踏むなどして動作点が力行領域のOPP’に移るとする。この時、動作OP1で巻線切替を禁止したために、回転速度は低速回転域にあるにも関わらず、回転電機1は高速回転域に好適な結線状態にある。これにより、巻線切替装置適用の本来の目的、例えば、低速回転域で高トルクを得て良好な加速レートを得ることが達成できなくなる。
【0029】
以上のように、図4A図4Bに示す構成では、回生中の巻線切替期間における要求ブレーキトルクの出力と低速域において好適な結線状態で駆動することを両立できない、という課題がある。
【0030】
この課題を解決するための手段について、図5及び図6を用いて説明する。図5は、本発明の実施例1に係る巻線切替シーケンスを示すフローチャートである。
【0031】
図5において、巻線切替シーケンスが開始すると、インバータ制御装置9は、回転速度検出器17より得られる回転電機1の回転速度を用いて、回転速度閾値に達したか否かを判定する(ステップS1)。
【0032】
ステップS1にて回転速度閾値に達したと判定した場合(ステップS1のYES)、インバータ制御装置9は、インバータ3のスイッチング素子を全てオフするようインバータオフ指令を生成し、これをゲート・ドライバ6に出力する(ステップS2)。ステップS1にて回転速度閾値に達していないと判定した場合(ステップS1のNO)、インバータ制御装置9は、ステップS1の処理を繰り返す。
【0033】
次に、インバータ制御装置9は、回転電機1が回生状態であるか否かを判定する(ステップS3)。
【0034】
ステップS3にて回生状態であると判定した場合(ステップS3のYES)、インバータ制御装置9は、機械式ブレーキ制御装置11にブレーキトルク抜け補償指令を出力する。機械式ブレーキ制御装置11は、回転電機1の回生ブレーキトルクの消失分を機械式ブレーキ16に補償させて、要求ブレーキトルクと一致するように機械式ブレーキ16を制御する(ステップS4)。
【0035】
また、ステップS3にて回生状態でないと判定した場合(ステップS3のNO)、回生ブレーキトルクが発生していないため、ステップS4を経由せずステップS5に進む。
【0036】
次に、インバータ制御装置9は、巻線切替指令を巻線切替制御装置10に出力する。巻線切替制御装置10は巻線切替指令を受信した後、巻線切替信号を生成し、これを機械式巻線切替装置8に出力する(ステップS5)。これによって、機械式巻線切替装置8により回転電機1の結線状態の切り替えが実行される。
【0037】
次に、インバータ制御装置9は、インバータ3から回転電機1への電流供給再開の制御を実行し(ステップS6)、巻線切替シーケンスを終了する。
【0038】
以上のように、実施例1では、巻線切替シーケンスにおいてインバータ制御装置9が、回転電機1が回生状態であるか否かを判定し、回生状態であると判定した場合には、インバータ制御装置9は機械式ブレーキ制御装置11にブレーキトルク抜け補償指令を出力し、機械式ブレーキ制御装置11は回転電機1の回生ブレーキトルクの消失分を機械式ブレーキ16に補償させて、要求ブレーキトルクと一致するように機械式ブレーキ16を制御する。
【0039】
機械式ブレーキトルクと回生ブレーキトルクの配分の一例を説明する。図6は、本発明の実施例1に係る回転速度、機械式ブレーキトルク、回生ブレーキトルクの関係を示す図である。
【0040】
減速要求を受け、インバータ制御装置9と機械式ブレーキ制御装置11は、要求ブレーキトルクを満たすように、それぞれ回生ブレーキトルク、機械式ブレーキトルクを制御する。すなわち、インバータ制御装置9と機械式ブレーキ制御装置11は、回生ブレーキトルクと機械式ブレーキトルクの合計が要求ブレーキトルクとなるように制御する。
【0041】
時刻t~時刻tでは、インバータ制御装置9と機械式ブレーキ制御装置11は、機械式ブレーキトルクより回生ブレーキトルクが大きくなるようにブレーキトルクを配分し、要求ブレーキトルクを出力している。
【0042】
巻線切替期間となるt~tでは、インバータ制御装置9がインバータ3のスイッチング素子を全てオフさせるので、回生ブレーキトルクがゼロとなる。機械式ブレーキ制御装置11は回生ブレーキトルクの損失分を補償するように、機械式ブレーキトルクを増加させ、機械式ブレーキトルクのみで要求ブレーキトルクを満たすように制御する。
【0043】
巻線切替期間終了後となるt以降では、時刻t~時刻tと同様に、機械式ブレーキトルクと回生ブレーキトルクを配分する。
【0044】
このように制御することにより、実施例1では、回生中の巻線切替期間においても要求ブレーキトルクを出力可能となり、また、巻線切替により低速回転域において好適な結線状態で駆動することが可能となる。なお、図6において巻線切替期間以外、すなわち時刻t~時刻t、時刻t以降における、機械式ブレーキトルクと回生ブレーキトルクの配分は、あくまで一例であり、この配分が変化しても実施例1の効果には影響を及ぼさない。例えば、時刻t~時刻t、時刻t以降では機械式ブレーキトルクをゼロとし、回生ブレーキトルクのみで要求ブレーキトルクを満たすようにしても良い。
【0045】
実施例1によれば、回生中の巻線切替期間においても要求ブレーキトルクを出力でき、かつ、低速回転域においても好適な結線状態で駆動することができる。
【実施例0046】
図7乃至図9を用いて、本発明の実施例2について説明する。図7は、本発明の実施例2に係る巻線切替シーケンスを示すフローチャートである。
【0047】
図7を用いて、実施例1との相違点について説明する。実施例1と共通する構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0048】
図7に示すように、実施例2の巻線切替シーケンスでは、ステップS4とステップS5との間にステップS7を有している。
【0049】
ステップS7には、ステップS4の処理終了後、あるいはステップS3でNOと判定された場合に移る。
【0050】
ステップS7では、インバータ制御装置9が、インバータ3のスイッチング素子を全てオフしたタイミングを起点として、予め定めた所定期間Tが経過したか否かを判定する。一例として、所定期間Tは、回転電機1が通電時に流れ得る最大電流が流れている場合において回転電機1の巻線インダクタンスによる過渡電流が略ゼロとなるまでの期間として、解析的または実験的に予め算出しておけばよい。
【0051】
ステップS7にて、予め定めた所定期間Tが経過したと判定した場合(ステップS7のYES)、ステップS5に移り、結線状態を切り替える。一方、ステップS7にて、予め定めた所定期間Tが経過していないと判定した場合(ステップS7のNO)、ステップS7の動作を繰り返す。
【0052】
インバータを構成する回路では、インバータ3のスイッチング素子を全てオフした場合においても、その直後では過渡電流が流れている。
【0053】
図8Aは、インバータ3のスイッチング素子が動作している場合における電流の流れの一例を示す図である。図8Bは、インバータ3のスイッチング素子をオフした直後における過渡電流の流れの一例を示す図である。
【0054】
図8Aにおいて、電流がインバータ3からU相線1Uを通って回転電機1の巻線を流れ、V相線1Vを通りインバータ3に戻るような電流路が形成される。電流が流れている状態においてインバータ3のスイッチング素子を全てオフすると、回転電機1の巻線インダクタンスにより、図8Bのようにインバータ3からU相線1U、回転電機1の巻線、V相線1Vからインバータ3において過渡電流が流れる。したがって、このような過渡電流が流れている状態で巻線切替を実行すると、巻線切替装置の固定子電極と可動子電極の接点箇所にアーク放電が生じ、溶着するなど不具合が生じる可能性がある。なお、図8A及び図8Bでは説明の便宜上、回転電機1の結線状態を直列接続としているが、前述のような不具合が生じる可能性は、回転電機1の結線状態によらず存在する。また、図8A及び図8Bでは説明に不要な構成要素に関しては適宜図示を省略している。
【0055】
次に図9を用いて、実施例2の効果について説明する。図9は、本発明の実施例2に係るインバータのスイッチング素子をオフした直後における過渡電流の減衰の様子を示す模式図である。
【0056】
図9では、回転電機1のU相、V相、W相のいずれか1相に流れる相電流を、模式的に描写している。図9において時刻t~時刻tは回転電機1が通電している期間であり、時刻tでインバータ3のスイッチング素子が全てオフされる。また、回転電機1の巻線インダクタンスによる過渡電流は、図9における時刻t以降に流れる電流を意味する。なお、実施例2の効果は相電流の流れる向きに関係ないため、図9の縦軸は相電流の絶対値としている。
【0057】
実施例2では、図9に示すような過渡電流が略ゼロとなるまで、予め定めた所定期間Tが経過した後に結線状態を切り替えるようにしている。そして、所定期間Tは、最大電流が流れている場合の過渡電流が略ゼロとなるまでの期間であるため、時刻t~時刻tでどのような電流が流れていても、所定期間T経過後においては、過渡電流は必ず略ゼロとなる。
【0058】
実施例2によれば、過渡電流によるアーク放電を防止できるため、巻線切替装置を高寿命化できる。
【実施例0059】
図10及び図11を用いて、本発明の実施例3について説明する。図10は、本発明の実施例3に係る巻線切替シーケンスを示すフローチャートである。以下、実施例1及び2との相違点を中心に説明する。実施例1及び2と共通する構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0060】
図10に示すように、実施例3の巻線切替シーケンスはステップS8とステップS9を有する。ステップS8には、ステップS4の処理終了後に移る。ステップS9には、ステップS3でNOと判定された場合に移る。
【0061】
ステップS8では、インバータ制御装置9が、インバータ3のスイッチング素子を全てオフしたタイミングを起点として、予め定めた所定期間TA-Rが経過したか否かを判定する。一例として、所定期間TA-Rは、回転電機1が回生時における最大電流が流れている場合において、過渡電流が略ゼロとなるまでの期間として、解析的または実験的に予め算出しておけばよい。ステップS8にて、予め定めた所定期間TA-Rが経過したと判定した場合(YES)、ステップS5に移る。一方、ステップS8にて、予め定めた所定期間TA-Rが経過していないと判定した場合(NO)、ステップS8の処理を繰り返す。
【0062】
ステップS9では、インバータ制御装置9が、インバータ3のスイッチング素子を全てオフしたタイミングを起点として、予め定めた所定期間TA-Pが経過したか否かを判定する。一例として、所定期間TA-Pは、回転電機1が通電時に流れ得る最大電流が流れている場合において、過渡電流が略ゼロとなるまでの期間として、解析的または実験的に予め算出しておけばよい。ステップS9にて、予め定めた所定期間TA-Pが経過したと判定した場合(YES)、ステップS5に移る。一方、ステップS9にて、予め定めた所定期間TA-Pが経過していないと判定した場合(NO)、ステップS9の処理を繰り返す。
【0063】
図11は、本発明の実施例3に係るインバータのスイッチング素子をオフした直後における過渡電流の減衰の様子を示す模式図である。図11では、回転電機1のU相、V相、W相のいずれか1相に流れる相電流を、力行時と回生時に分けて模式的に描写している。
【0064】
図11において時刻t~時刻tは回転電機1が通電している期間であり、時刻tでインバータ3のスイッチング素子が全てオフされる。また、回転電機1の巻線インダクタンスによる過渡電流は、図11における時刻t以降に流れる電流を意味する。なお、実施例3での効果は、相電流の流れる向きに関係ないため、図11の縦軸は相電流の絶対値としている。
【0065】
回転電機1の回生ブレーキトルクの絶対値は、機械式ブレーキ16のブレーキトルクが存在する分、力行時の最大トルク未満となる。すなわち、回転電機1が回生している場合に流れる最大電流は、回転電機1に流れ得る最大電流未満となる。したがって、図11に示すように、回生時には過渡電流が略ゼロとなるまでの期間は短くなるため、回生時の所定期間TA-Rは力行時の所定期間TA-Pよりも短く設定できる。
【0066】
巻線切替期間は、予め定めた所定期間が経過するのを待機する期間と、巻線切替装置が結線状態を切り替える期間から成り、予め定めた所定期間を短くすることで巻線切替期間を短くできる。すなわち、機械式ブレーキ16が回転電機1の回生ブレーキトルクの消失分を補償する期間を短くできる。
【0067】
実施例3によれば、巻線切替装置を高寿命化しつつブレーキパッドの損耗を小さくすることができる。
【実施例0068】
図12及び図13を用いて、本発明の実施例4について説明する。図12は、本発明の実施例4に係る電動車用ドライブシステムの構成を示すブロック図である。図13は、比較例と実施例4のブレーキトルク配分を示す図である。以下、実施例1乃至3との相違点を中心に説明する。実施例1乃至3と共通する構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0069】
図12に示すように、インバータ制御装置9は、回転電機1の回転速度に基づいて、回生ブレーキトルクと機械式ブレーキトルクの配分を行うブレーキトルク配分装置18を有する。
【0070】
ブレーキトルク配分装置18は、回転速度検出器17より得られる回転電機1の回転速度を用いて、インバータ制御装置9と機械式ブレーキ制御装置11にブレーキトルク配分指令を出力する。具体的には、図13に示すように回転電機1の回生ブレーキトルクと機械式ブレーキ16の機械式ブレーキトルクの合計が要求ブレーキトルクに一致するよう制御し、かつ、回転電機1の回転速度が回転速度閾値に近づくにつれて合計ブレーキトルクに対する機械式ブレーキ16の出力するブレーキトルクの割合を、回転電機1の出力する回生ブレーキトルクの割合よりも多くなるように制御する。そして、ブレーキトルク配分装置18は、回転電機1の回転速度が回転速度閾値に達した際には、機械式ブレーキ16のみが動作するように制御する。
【0071】
次に図13を用いて、実施例4の効果について説明する。一般的に、機械式ブレーキの応答は回生ブレーキの応答と比べて遅いため、図13(a)の比較例に示すように、回生ブレーキの消失分を補償するまでにタイムラグが生じ、ブレーキトルクの変動が生じることで乗り心地が悪化する恐れがある。このブレーキトルクの変動を防止するには、応答の速い機械式ブレーキが必要となり高コスト化につながる。
【0072】
そこで、実施例4では、巻線切替が行われる前までに、予め機械式ブレーキのブレーキトルク量を増やし、要求ブレーキトルクに一致させる。これによって、図13(b)に示すようにブレーキトルクの変動を防止できる。
【0073】
実施例4によれば、低コストで応答の遅い機械式ブレーキを用いた場合であってもブレーキトルクの変動を抑制でき、機械式ブレーキを低コスト化できる。
【実施例0074】
図14及び図16を用いて、本発明の実施例5について説明する。図14は、本発明の実施例5に係る巻線切替シーケンスを示すフローチャートである。図15は、本発明の実施例5に係る機械式巻線切替装置の固定子電極と可動子電極の挙動を示す図である。以下、実施例1乃至4との相違点を中心に説明する。実施例1乃至4と共通する構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0075】
図14に示すように、実施例5の巻線切替シーケンスは、ステップS10と、ステップS11と、ステップS12を有する。
【0076】
ステップS10には、ステップS2の終了後に移る。ステップS11には、ステップS4の終了後に移る。ステップS12には、ステップS3でNOと判定された場合に移る。
【0077】
機械式巻線切替装置8の一例を図15に示す。機械式巻線切替装置8の可動子電極82はバネ特性を持つ金属片で構成され、固定子電極81は金属で構成される。可動子電極82の両端部(端部82a,82b)は、2つに分かれた可動子電極土台83a,83bのそれぞれに固定されており、可動子電極土台83a,83bの一方、或いは両方がスライドすることで可動子電極82が変形し、接触面積が変化する。巻線切替制御装置10は、インバータ3のスイッチング素子を全てオフしたタイミングを起点として、可動子電極82を動作させて機械式巻線切替装置8の固定子電極81と可動子電極82の接触面積が小さくなるように制御する(ステップS10)。
【0078】
ステップS11では、インバータ制御装置9が、インバータ3のスイッチング素子を全てオフしたタイミングを起点として、予め定めた所定期間TA-R’が経過したか否かを判定する。この所定期間TA-R’の設定方法は後述する。
【0079】
ステップS11にて、予め定めた所定期間TA-R’が経過したと判定した場合(YES)、ステップS5に移る。一方、ステップS11にて、予め定めた所定期間TA-R’が経過していないと判定した場合(NO)、ステップS11の処理を繰り返す。
【0080】
ステップS12では、インバータ制御装置9が、インバータ3のスイッチング素子を全てオフしたタイミングを起点として、予め定めた所定期間TA-P’が経過したか否かを判定する。この所定期間TA-P’の設定方法は後述する。ステップS12にて、予め定めた所定期間TA-P’が経過したと判定した場合(YES)、ステップS5に移る。一方、ステップS12にて、予め定めた所定期間TA-P’が経過していないと判定した場合(NO)、ステップS12の処理を繰り返す。
【0081】
一例として、所定期間TA-R’は、巻線切替装置の固定子電極81と可動子電極82の接触面積が小さくなった状態において、回転電機1が回生時における最大電流が流れている場合に、過渡電流が略ゼロとなるまでの期間として、解析的または実験的に予め算出しておけばよい。
【0082】
また、一例として、所定期間TA-P’は、巻線切替装置の固定子電極81と可動子電極82の接触面積が小さくなった状態において、回転電機1が通電時に流れ得る最大電流が流れている場合に、過渡電流が略ゼロとなるまでの期間として、解析的または実験的に予め算出しておけばよい。
【0083】
次に図16を用いて実施例5の効果について説明する。図16Aは、本発明の実施例5に係る力行時においてインバータのスイッチング素子をオフした直後における過渡電流の減衰の様子を示す模式図である。図16Bは、本発明の実施例5に係る回生時においてインバータのスイッチング素子をオフした直後における過渡電流の減衰の様子を示す模式図である。
【0084】
実施例5では、機械式巻線切替装置8の固定子電極81と可動子電極82の接触面積を小さくするようにしているので、回転電機1の抵抗が大きくなり、時定数が短くなる。したがって実施例5では、図16A及び図16Bに示すように力行時、回生時によらず、固定子電極81と可動子電極82の接触面積縮小なしの場合に比べて過渡電流が略ゼロとなるまでの期間が短くなるため、巻線切替期間を短くできる。
【0085】
実施例5によれば、回生時には過渡電流が略ゼロとなるまでの期間は短くなり、機械式ブレーキ16が回転電機1の回生ブレーキトルクの消失分を補償する期間を短くできるため、巻線切替装置を高寿命化しつつブレーキパッドの損耗を一層小さくできる。また、実施例5によれば、力行時には巻線切替によるトルクがゼロとなる期間を短くできるため、円滑な加速が可能となる。
【実施例0086】
図17を用いて、本発明の実施例6について説明する。
【0087】
図17は、本発明の実施例6に係る電動車用ドライブシステムの構成を示すブロック図である。以下、実施例1乃至5との相違点を中心に説明する。実施例1乃至5と共通する構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0088】
図17に示すように、電動車用ドライブシステムは、回転電機1と、相電流検出回路2と、インバータ3と、機械式巻線切替装置8と、モータシャフト12を少なくとも2台以上(複数)有する。また、コントローラ4は、少なくとも2台以上の回転電機1における各々の巻線切替期間を異ならしめるよう制御する。
【0089】
実施例6では、少なくとも2台以上ある回転電機1の内、1台が巻線切替を行っている間、別の回転電機1が回生ブレーキトルクを出力しているため、機械式ブレーキ16が補償すべき回転電機1の回生ブレーキトルクの消失分は小さくなる。
【0090】
実施例6によれば、請求項1乃至5の効果に加え、ブレーキパッドの損耗をより一層小さくすることができる。
【実施例0091】
図18を用いて、本発明の実施例7について説明する。図18は、本発明の実施例7に係る電動車用ドライブシステムの構成を示すブロック図である。実施例7は、実施例1乃至6のいずれかの電動車用ドライブシステムを、4輪の電動車に適用した場合の例である。
【0092】
電動車の前後左右には、4つ(複数)の車輪15が備えられ、車輪15のそれぞれに機械式ブレーキ16が備えられている。左右の車輪はドライブシャフト14を介して接続されている。前後の何れかのドライブシャフト14(例えば左右の後輪を接続するドライブシャフト)には差動装置13が備えられ、モータシャフト12、差動装置13を介して左右の車輪15(後輪)に回転電機1の駆動力が伝達される。
【0093】
回転電機1には、機械式巻線切替装置8が備えられ、インバータ3を介してバッテリ(図1参照)から電力が供給される。回転電機1とインバータとの間には相電流検出回路2が備えられている。インバータ3、回転電機1はコントローラ4によって制御される。
【0094】
巻線切替制御装置10による巻線切替、インバータ制御装置9による回生ブレーキトルクの制御、機械式ブレーキ制御装置11による機械ブレーキトルクの制御については、上述した実施例1乃至6の何れかを適用すると良い。
【0095】
実施例7の構成では、前後の車輪15のうち、後輪側について巻線切替、回生ブレーキトルクの制御、機械式ブレーキトルク制御を行うようにしたが、後輪側に代えて前輪側を制御するようにしても良く、また、前後の車輪を制御するようにしても良い。
【0096】
実施例7によれば、回生中の巻線切替期間においても要求ブレーキトルクを出力でき、かつ、低速回転域においても好適な結線状態で駆動する電動車を提供することができる。
【符号の説明】
【0097】
1…回転電機、2…相電流検出回路、3…インバータ、4…コントローラ(制御装置)、5…直流電圧電源、6…ゲート・ドライバ、7…主回路部、8…機械式巻線切替装置、9…インバータ制御装置、10…巻線切替制御装置、11…機械式ブレーキ制御装置、12…モータシャフト、13…差動装置、14…ドライブシャフト、15…車輪、16…機械式ブレーキ、17…回転速度検出器、18…ブレーキトルク配分装置、81…固定子電極、82…可動子電極、82a,82b…端部、83a…可動子電極土台、83b…可動子電極土台
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17
図18