(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179129
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】複合梁
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20231212BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20231212BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
E04B1/58 508P
E04B1/30 K
E04B1/24 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092229
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑 素彦
(72)【発明者】
【氏名】竹中 啓之
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 淳
(72)【発明者】
【氏名】本多 仁
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 栞
(72)【発明者】
【氏名】太田 紘恵
(72)【発明者】
【氏名】仁科 智貴
(72)【発明者】
【氏名】大月 智弘
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 亮太
(72)【発明者】
【氏名】和泉 信之
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB01
2E125AB12
2E125AC04
2E125AC15
2E125AG32
2E125AG43
(57)【要約】
【課題】複合梁にリロケーションヒンジを形成する。
【解決手段】ウェブ部33は、長手方向に沿って延びる細長い板状である。フランジ部34a,34bは、長手方向に沿って延び、ウェブ部33の幅方向に結合され、ウェブ部33に対して略垂直な細長い板状である。境界部35は、ウェブ部33及びフランジ部34の長手方向の端部に結合され、長手方向に対して略垂直な板状である。リブ部37a,37bは、境界部35に対してウェブ33部及びフランジ部34a,34bとは反対側に結合され、ウェブ部33に対して略平行な板状である。フランジ部34a、34bは、境界部35に接合された端部から所定の範囲に、それ以外の部分よりも幅の広いハンチ部42を有する。境界部35は、鉄筋コンクリート部材の端面に接して配置される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱梁接合部側に設けられた鉄筋コンクリート部材と、
中央側に設けられた鉄骨部材と
を備え、
前記鉄骨部材は、
長手方向に沿って延びる細長い板状のウェブ部と、
長手方向に沿って延び、前記ウェブ部の幅方向に結合され、前記ウェブ部に対して略垂直な細長い板状の二つのフランジ部と、
前記ウェブ部及びフランジ部の長手方向の端部に結合され、前記長手方向に対して略垂直な板状の境界部と、
前記境界部に対して前記ウェブ部及びフランジ部とは反対側に結合され、前記ウェブ部に対して略平行な板状のリブ部と
を有し、
前記フランジ部は、
前記境界部に接合された端部から所定の範囲に、それ以外の部分よりも幅の広いハンチ部を有し、
前記境界部は、前記鉄筋コンクリート部材の端面に接して配置されている、
複合梁。
【請求項2】
前記鉄骨部材は、前記リブ部を2つ以上有し、
前記リブ部のうち少なくとも2つは、前記ウェブ部に対して略垂直な方向に離れて配置されている、
請求項1の複合梁。
【請求項3】
前記リブ部のうち少なくとも2つの間の間隔は、前記フランジ部の前記ハンチ部以外の部分の幅よりも大きい、
請求項2の複合梁。
【請求項4】
前記ハンチ部は、
前記境界部に接合された端部から所定の範囲において、幅が略一定である、
請求項1乃至3いずれかの複合梁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート部材と鉄骨部材とを備える複合梁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉄筋コンクリート建造物の柱と梁の接合部に生ずる降伏ヒンジ位置のヒンジリロケーション構造が開示されている。
特許文献2及び特許文献3には、複合梁を構成する梁中央側の鉄骨部材と梁端部側の鉄筋コンクリート部材との異種部材の接合構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-116777号公報
【特許文献2】特開2022-028308号公報
【特許文献3】特開2018-084052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のヒンジリロケーション構造を、特許文献2や特許文献3の複合梁に適用しようとすると、鉄筋コンクリート部材を鉄骨部材に固定するための複数の主筋のうち特定の主筋に応力が集中してしまう可能性がある。
この発明は、例えばこのような課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
複合梁は、柱梁接合部側に設けられた鉄筋コンクリート部材と、中央側に設けられた鉄骨部材とを備える。前記鉄骨部材は、長手方向に沿って延びる細長い板状のウェブ部と、長手方向に沿って延び、前記ウェブ部の幅方向に結合され、前記ウェブ部に対して略垂直な細長い板状の二つのフランジ部と、前記ウェブ部及びフランジ部の長手方向の端部に結合され、前記長手方向に対して略垂直な板状の境界部と、前記境界部に対して前記ウェブ部及びフランジ部とは反対側に結合され、前記ウェブ部に対して略平行な板状のリブ部とを有する。前記フランジ部は、前記境界部に接合された端部から所定の範囲に、それ以外の部分よりも幅の広いハンチ部を有する。前記境界部は、前記鉄筋コンクリート部材の端面に接して配置される。
前記鉄骨部材は、前記リブ部を2つ以上有してもよい。前記リブ部のうち少なくとも2つは、前記ウェブ部に対して略垂直な方向に離れて配置されてもよい。
前記リブ部のうち少なくとも2つの間の間隔は、前記フランジ部の前記ハンチ部以外の部分の幅よりも大きくてもよい。
前記ハンチ部は、前記境界部に接合された端部から所定の範囲において、幅が略一定であってもよい。
【発明の効果】
【0006】
前記複合梁によれば、ハンチ部よりも中央側の位置にリロケーションヒンジを形成することができる。また、応力を分散することができるので、特定の主筋に応力が集中するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】建物の一部の一例を示す-Y方向から見た断面図。
【
図2】建物の一部の一例を示す-Z方向から見た断面図。
【
図3】建物の一部の一例を示す+X方向から見た断面図。
【
図4】鉄骨部材の一部の一例を示す-Y方向から見た図。
【
図5】鉄骨部材の一部の一例を示す+Z方向から見た図。
【
図6】鉄骨部材の一例を示す+X方向から見た断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1~3を参照して、建物10について説明する。
建物10は、例えば、柱11と、スラブ12と、梁13~15とを有する。
柱11は、鉛直方向(±Z方向)に延びている。
梁13は、柱11の中間にある柱梁接合部から水平方向(+X方向)に延びている。
梁14は、柱11の前記柱梁接合部から水平方向(-Y方向)に延びている。
梁15は、柱11の前記柱梁接合部から水平方向(+Y方向)に延びている。
スラブ12は、梁13~15によって形成される平面の上に設けられている。
【0009】
梁13は、鉄筋コンクリート部材31と、鉄骨部材32とを有する複合梁である。
鉄筋コンクリート部材31は、梁13の端部に設けられ、柱11の前記柱梁接合部と一体に形成されている。鉄筋コンクリート部材31は、プレストレスを印加するなどして、十分な耐力を有するように構成される。
鉄骨部材32は、梁13の中央部分に設けられ、複数の定着手段38によって鉄筋コンクリート部材31に固定されている。
定着手段38は、例えば、鉄筋コンクリート部材31のなかに埋め込まれた主筋と、前記主筋の先端に螺合されたナットとを有する。
【0010】
図4~7を参照して、鉄骨部材32について、更に詳しく説明する。
鉄骨部材32は、例えば、概してH形鋼である。鉄骨部材32は、例えば、ウェブ部33と、2つのフランジ部34a,34bと、境界部35と、2つのリブ部37a,37bとを有する。
ウェブ部33は、±Y方向に対して略垂直な細長い板状であり、略±X方向に延びている。
フランジ部34a,34bは、±Z方向に対して略垂直な細長い板状であり、略±X方向に延びている。すなわち、フランジ部34a,34bは、ウェブ部33に対して略垂直である。フランジ部34aは、ウェブ部33の幅方向(+Z側)の端部に中央部分が結合されている。フランジ部34bは、ウェブ部33の幅方向(-Z側)の端部に中央部分が結合されている。すなわち、ウェブ部33と、フランジ部34a,34bとで、略H字状を形作っている。
【0011】
フランジ部34a,34bの形状は、略同一である。フランジ部34aは、定幅部41と、ハンチ部42とを有する。
定幅部41は、幅(±Y方向の長さ)が略一定である。
ハンチ部42(水平ハンチ)は、フランジ部34aの長手方向(-X側)の端部から所定の範囲に設けられ、定幅部41よりも幅(±Y方向の長さ)が大きい。
ハンチ部42は、定幅部43と、テーパー部44とを有する。
定幅部43は、フランジ部34aの長手方向(-X側)の端部から(ハンチ部42の範囲よりも狭い)所定の範囲に設けられ、幅(±Y方向の長さ)が略一定である。
テーパー部44は、ハンチ部42の残りの部分に設けられ、フランジ部34aの長手方向(-X方向)の端部から離れるほど、幅(±Y方向の長さ)が徐々に小さくなる。
【0012】
境界部35(境界プレート)は、±X方向に対して略垂直な略長方形板状である。境界部35は、ウェブ部33及びフランジ部34a,34bの長手方向(-X方向)の端部に溶接などにより結合されている。
境界部35は、複数の定着穴36を有する。
定着穴36は、境界部35を±X方向に貫通している。
【0013】
リブ部37a,37b(補剛リブ)は、±Y方向に対して略垂直な細長い板状であり、略±Z方向に延びている。すなわち、リブ部37a,37bは、ウェブ部33に対して略平行である。リブ部37a,37bは、境界部35の-X側の面から-X方向へ向けて突出している。すなわち、リブ部37a,37bは、境界部35に対して、ウェブ部33及びフランジ部34a,34bとは反対側に溶接などにより結合されている。
リブ部37a,37bは、±Y方向に離間して配置されている。リブ部37a,37bの間の間隔は、定幅部41の幅より大きく、ハンチ部42の最大幅(すなわち、定幅部43の幅)よりは小さい。
リブ部37a,37bの形状は、略同一である。リブ部37aは、略長方形板状であり、-X側の二つの角が略45度に面取りされている。面取りの大きさは、+Z側よりも-Z側のほうが大きい。
【0014】
以上のような鉄骨部材32を、鉄筋コンクリート部材31に固定して一体化し、梁13(複合梁)を構成する。
鉄筋コンクリート部材31の+X側の端面は、略±X方向に対して垂直な平面であり、リブ部37a,37bと係合する溝が設けられている。
例えば、境界部35の定着穴36に定着手段38の主筋の先端を挿通し、その先端に定着手段38のナットを螺合して締め付ける。これにより、境界部35が鉄筋コンクリート部材31の+X側の端面に接し、リブ部37a,37bが溝に係合した状態で、鉄骨部材32が鉄筋コンクリート部材31に固定される。
【0015】
このようにして形成された梁13に、地震などにより剪断力が印加されると、鉄筋コンクリート部材31が十分な耐力を有し、鉄骨部材32の端部がハンチ部42によって補強されているので、
図4に示したヒンジ範囲39に応力が集中し、リロケーションヒンジが形成される。
また、境界部35に生じる応力が、ハンチ部42によって±Y方向に分散されるとともに、リブ部37a,37bによって±Z方向に分散される。これにより、境界部35全体に応力が均等に分散されるので、複数の定着手段のうちの特定のものに応力が集中するのを防ぐことができる。
【0016】
なお、リブ部37a,37bの形状は、面取りのない長方形板状であってもよい。
また、リブ部は、2つに限らず、3つ以上あってもよい。例えば、リブ部37a,37bの中間の位置(すなわち、ウェブ部33と略同一平面上)に、第三のリブ部を設けてもよいし、リブ部37a,37bの間に、等間隔に第三及び第四のリブ部を設けてもよい。
【0017】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例である。本発明は、これに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される範囲から逸脱することなく様々に修正し、変更し、追加し、又は除去したものを含む。これは、以上の説明から当業者に容易に理解することができる。
【0018】
鉄筋コンクリート造において、柱梁接合部破壊を防止する有力な手法として梁のヒンジ位置を柱梁接合部から離れた部分に計画するヒンジリロケーションの設計法がある。これに対し、梁を鉄筋コンクリート造と鉄骨造との混合構造として、ヒンジリロケーション構造を実現する。
従来の手法では、RC梁の耐力よりリロケート部のRC梁の耐力を小さくすることにより行っている。この手法においてはロングスパン梁への対応が取れない課題がある。また、リロケートを行うことで、ヒンジ位置間のスパンが短くなるため、RCのせん断力に対する設計が厳しくなる傾向がある。
RC造の柱梁接合部の損傷制御を主な目的とし、大梁の柱際でなく内側にヒンジ位置をリロケートさせる数種のヒンジリロケーション技術が既にある。しかし、既往のヒンジリロケーション技術は、RC材料のみで構成されているため、ロングスパン梁への対応が難しい。また、ヒンジ間のせん断スパンが短くなるため、RC梁のせん断設計が厳しくなり、断面の拡大や高強度材料の使用などの対応が求められる。
これに対し、ヒンジリロケート部をS造とすることで上記の問題解決を図る。
具体的には境界プレートに端部RCの主筋を接合し、S梁の端部には境界プレートにヒンジが及ばない様にフランジに水平ハンチを設ける。またこの水平ハンチは、端部RCの特定の主筋に応力が集中しないための応力分散機構も兼ねている。RC・S接合部のRC梁側には、補剛リブを設ける。これにより、S梁がRC梁に対して偏心して接合する場合にも対応することができる。
ロングスパン梁に対してもヒンジリロケートの設計が可能となり、RC造の柱梁接合部への損傷が低減できる。この結果、取り付く柱サイズも小さくすることができる。S部にヒンジを形成することにより、梁中央部に対するせん断設計が容易となる。
【符号の説明】
【0019】
10 建物、11 柱、12 スラブ、13~15 梁、31 鉄筋コンクリート部材、32 鉄骨部材、33 ウェブ部、34a,34b フランジ部、35 境界部、36 定着穴、37a,37b リブ部、38 定着手段、39 ヒンジ範囲、41,43 定幅部、42 ハンチ部、44 テーパー部。