(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179132
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ドアインパクトビーム
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
B60J5/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092234
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 千尋
(72)【発明者】
【氏名】岡嶋 隼騎
(72)【発明者】
【氏名】曽我 俊介
(72)【発明者】
【氏名】安藤 吉昌
(57)【要約】
【課題】バリア側面衝突及びポール側面衝突の何れに対してもドアの変形から乗員を的確に保護することができるドアインパクトビームを提供する。
【解決手段】ドアインパクトビーム12は、板金本体35と、板金本体35の長手方向の一部に重ねて配置された補強用板金36を備えた板金複合体を用いてプレス成型され、車両のドア5を構成するアウタパネル11と、インナパネル10との内部空間において車両の前後方向に延在するドアインパクトビーム12であって、アウタパネル11に対向して車両の前後方向に延在する天板部12aと、天板部12aに形成され、インナパネル10に向けたU字形状をなす凹ビード12bと、天板部12aの幅方向の両端部からインナパネル10側に向けて突出する壁部12eと、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板金本体と前記板金本体の長手方向の一部に重ねて配置された補強用板金とを備えた板金複合体を用いてプレス成型され、車両のドアを構成するアウタパネルとインナパネルとの内部空間において前記車両の前後方向に延在するドアインパクトビームであって、
前記アウタパネルに対向して前記車両の前後方向に延在する天板部と、
前記天板部に形成され、前記インナパネルに向けたU字形状をなす凹ビードと、
前記天板部の幅方向の両端部から前記インナパネル側に向けて突出する壁部と、を備えたことを特徴とするドアインパクトビーム。
【請求項2】
前記凹ビードは、曲面によって形成されることを特徴とする請求項1に記載のドアインパクトビーム。
【請求項3】
前記インパクトビームの前記補強用板金は、座席側面に対応する位置に設置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のドアインパクトビーム。
【請求項4】
前記凹ビードは、開口部から底面部までの深さが車両前後方向の略中央部において最も深く、長手方向の両端部に向かって次第に浅くなる形状を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のドアインパクトビーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突等によるドアの変形を抑制するための補強部材として設けられるドアインパクトビームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両のドアは、アウタパネルとインナパネルとを備えて構成されている。これらアウタパネルとインナパネルによって形成される空間の内部には、車両の前後方向に延在する鋼材等からなるドアインパクトビームが配設されている。このドアインパクトビームは、車両の側面衝突時の衝突荷重を吸収する。これにより、ドアインパクトビームは、ドアの変形による車室内への侵入を低減する。なお、このドアインパクトビームは、パイプ形状或いは、略ハット型形状にプレス成形されたものを使用することが一般的である。
【0003】
このような車両の側面衝突に対するドアの変形を低減するためのドアインパクトビームとして、従来、様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1(特開2008-254660号公報)には、開断面形状をなす2つのビードと2つのビードの間に形成された平坦部とによって所謂波板形状に形成されたビーム部材(ドアインパクトビーム)が開示されている。このようなドアインパクトビームは、複数のビードによって座屈強度を増大することができる。これにより、特許文献1のドアインパクトビームは、バリア側面衝突(他車両のバンパ部等との側面衝突)に対しては、衝突荷重を広い面積で分散して吸収することができる。このため、特許文献1のドアインパクトビームは、ドアの変形を低減するための補強部材として有効に機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術のようにドアインパクトビームを波板形状に形成したとしても、例えば、ポール側面衝突(電柱等のポール状の物体との側面衝突)のように局所的に大きな衝突荷重が入力された際には、十分な座屈強度を発揮することが困難となる虞がある。このような場合、ドアインパクトビームが局所的に座屈されてしまい、ドアの変形を十分に低減できなくなる虞がある。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、バリア側面衝突及びポール側面衝突の何れに対してもドアの変形から乗員を的確に保護できるドアインパクトビームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によるドアインパクトビームは、板金本体と前記板金本体の長手方向の一部に重ねて配置された補強用板金とを備えた板金複合体を用いてプレス成型され、車両のドアを構成するアウタパネルとインナパネルとの内部空間において前記車両の前後方向に延在するインパクトビームであって、前記アウタパネルに対向して前記車両の前後方向に延在する天板部と、前記天板部に形成され、前記インナパネルに向けたU字形状をなす凹ビードと、前記天板部の幅方向の両端部から前記インナパネル側に向けて突出する壁部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のドアインパクトビームによれば、バリア側面衝突及びポール側面衝突の何れに対してもドアの変形から乗員を的確に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】アウタパネルを取り外して示すサイドドアの側面図
【
図3】
図2のIII-III線に沿うサイドドアの要部断面図
【
図4】ドアインパクトビームを車幅方向外側から見た側面図
【
図5】ドアインパクトビームの補強用板金を車幅方向外側から見た側面図
【
図9】バリア側面衝突状態及び乗員の配置を示す上方から見た平面図
【
図10】ポール側面衝突状態及び乗員の配置を示す上方から見た平面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の実施形態に係り、
図1は車両の左側面図、
図2はアウタパネルを取り外して示すサイドドアの側面図、
図3は
図2のIII-III線に沿うサイドドアの要部断面図、
図4はドアインパクトビームを車幅方向外側から見た側面図、
図5はドアインパクトビームの補強用板金を車幅方向外側から見た側面図、
図6は
図4のV-V断面図、
図7は
図4のVI-VI断面図、
図8は
図4のVII-VII断面図、
図9はバリア側面衝突状態及び乗員の配置を示す上方から見た平面図、
図10はポール側面衝突状態及び乗員の配置を示す上方から見た平面図である。
【0011】
なお、以下の説明に用いる図においては、各構成要素を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、構成要素毎に縮尺を異ならせてあるものである。したがって、本発明は、これらの図に記載された構成要素の数量、構成要素の形状、構成要素の大きさの比率、および各構成要素の相対的な位置関係のみに限定されるものではない。
【0012】
本実施形態におけるドアインパクトビームを適用した車両用サイドドアの構成の一例として、フロントサイドドア5(以下、単に「ドア5」と称す)の構成について説明する。
【0013】
図1に示すように、車両1の車体2は、前席の側部に、ドア開口部3を有する。このドア開口部3には、当該ドア開口部3を開閉するためのドア5が設けられている。
【0014】
ドア5は、例えば、車体2の車幅方向に揺動可能なスイングドアである。このためドア5の前部は、上下一対のヒンジ6を介して、ドア開口部3の前部に支持されている。
【0015】
このような車両用のドア5は、
図2、
図3に示すように、インナパネル10と、アウタパネル11と、ドアインパクトビーム12と、を有して構成されている。
【0016】
インナパネル10は、鋼板等からなる板金部材をプレス加工することによって形成されている。このインナパネル10は、ドア5の車幅方向内側に配置される。
【0017】
このインナパネル10は、側壁部15と、段差部17と、外向フランジ19と、を有する。
【0018】
側壁部15は、ドア5の車幅方向内側に突出するように形成されている。この側壁部15は、座席の側面に対向する位置に形成されている。
【0019】
段差部17は、側壁部15よりも外周側であって、且つ、側壁部15よりも車幅方向外側に形成されている。また、この段差部17は、側壁部15に対し、略平行に形成されている。そして、段差部17は、側壁部15の外周端部から車幅方向外側に延在する第1の中継壁部16によって段状に接続されている。
【0020】
外向フランジ19は、段差部17よりも外周側であって、且つ、段差部17よりも車幅方向外側に形成されている。この外向フランジ19は、段差部17に対し、略平行に形成されている。この外向フランジ19は、段差部17の外周端部から車幅方向外側に延在する第2の中継壁部18によって段状に接続されている。そして、外向フランジ19は、インナパネル10の前縁部、後縁部、及び、下縁部を形成する。
【0021】
アウタパネル11は、鋼板等からなる板金部材をプレス加工することによって形成されている。このアウタパネル11は、ドア5の車幅方向外側に配置されている。このアウタパネル11の前縁部、後縁部、及び、下縁部は、インナパネル10の外向フランジ19に対し、ヘミング加工等によって接合されている。
【0022】
そして、このようなインナパネル10とアウタパネル11との接合により、ドア5には内部空間が形成されている。
【0023】
なお、インナパネル10とアウタパネル11の上縁部は、それぞれ対向してドア5の内側に折り曲げられている。そして、ドア5の上面には、ウインドガラスが出入りするための開口部を備えている(図示せず)。
【0024】
また、アウタパネル11の外面側の後部寄りには、ドアハンドル30が取り付けられている。このドアハンドル30は、ドア5の内部において、ロッドを介してラチェット機構に接続されている(何れも図示せず)。
【0025】
ドアインパクトビーム12は、
図1、
図2、
図3に示すように、ドア5の内部空間において、車体2の前後方向に沿って配設されている。このドアインパクトビーム12は、車両1の側面衝突に対し、衝突荷重を吸収するために設けられている。すなわち、ドアインパクトビーム12は、衝突によるドア5の変形を抑制して、ドア5が車室内に侵入することを低減するためのものである。
【0026】
本実施形態によるドアインパクトビーム12は、
図2、
図3、
図4、
図5に示すように、板金本体35と、この板金本体35の長手方向の中途部に重ねて配置されている補強用板金36と、を有する板金複合体を、プレス成型することによって形成されている。
【0027】
具体的に説明すると、板金本体35と補強用板金36とは、例えば、インナパネル10よりも板厚の厚い高抗張力鋼板によって構成されている。
【0028】
また、板金本体35と補強用板金36とは、スポット溶接等によって互いに接合されている。
【0029】
さらに、板金本体35と補強用板金36とは、ホットプレス成型によって一体的に成型されている。
【0030】
この成型により、ドアインパクトビーム12の基本形状は、車体2の前後方向に沿う長手方向の前端部12cを除く領域において、断面略ハット形状に形成されている(
図4~
図8参照)。なお、ドアインパクトビーム12の前端部12cは、略平板形状に形成されている。
【0031】
すなわち、ドアインパクトビーム12は、天板部12aと、一対の壁部12eと、フランジ12fと、を有して構成されている。
【0032】
天板部12aは、アウタパネル11に近接して略正対するように突出されている。また、この天板部12aは、ドアインパクトビーム12の長手方向に延在されている。
【0033】
各壁部12eは、天板部12aの短手方向の両端部(上縁部及び下縁部)からインナパネル10側に延在されている。また、各壁部12eは、ドアインパクトビーム12の長手方向に延在されている。
【0034】
ここで、天板部12aに対する各壁部12eのなす角度θ1は、鈍角となるように設定されている。すなわち、一対の壁部12eは、アウタパネル11側からインナパネル10側にかけて互いに離間するように、天板部12aに対して傾斜されている。
【0035】
これらの壁部12eは、天板部12aから屈曲部を介してインナパネル10側延在されることにより、天板部12aを補剛する。但し、天板部12aに対する各壁部12eのなす角度θ1(傾斜角度)が鈍角に設定されているため、天板部12aに衝突荷重が入力された際に、各側壁部12eには、天板部12aと各壁部12eとの各屈曲部を伸展(展開)させる方向の分力が作用する。これにより、天板部12aに所定以上の衝突荷重が入力された際に、各壁部12eは、屈曲部を伸展する方向に変形させることが可能となっている。
【0036】
各フランジ12fは、各壁部12eのインナパネル10側の端部から、天板部12aに略平行な方向(車両の上下方向)に延出されている。また、各フランジ12fは、ドアインパクトビーム12の長手方向に延在されている。
【0037】
このような基本形状を有するドアインパクトビーム12の天板部12aには、当該天板部12aを補剛するための凹ビード12bが形成されている。
【0038】
凹ビード12bは、天板部12aの短手方向(車両上下方向)の略中央部に形成されている。
図2,4に示すように、凹ビード12bは、ドアインパクトビーム12の長手方向に沿って延在されている。この凹ビード12bが延在する範囲は、少なくとも、板金本体35に補強用板金36が重ねて配置された領域を含んでいる。
【0039】
また、この凹ビード12bは、インナパネル10側に向かって突出するU字形状を有している。すなわち、この凹ビード12bを形成する傾斜壁部12gは、内側に湾曲しながらインナパネル側に向かって突出されている。換言すれば、凹ビード12bを形成する傾斜壁部12gは、中途に屈曲形状を有しない湾曲形状となるように形成されている。
【0040】
ここで、天板部12aに対する傾斜壁部12gの最小傾斜角度(天板部12aと凹ビード12bの接線とのなす角度θ2の最小値)は、鈍角となるように設定されている(
図6,7参照)。このような傾斜壁部12gの傾斜により、天板部12aに衝突荷重が入力された際に、凹ビード12bには、傾斜壁部12gを伸展(展開)させる方向の分力が作用する。これにより、天板部12aに所定以上の衝突加重が入力された際に、傾斜壁部12gは、伸展する方向に変形することが可能となっている。
【0041】
また、この凹ビード12bの天板部12aから突出端12h(底部)までの深さは、例えば、凹ビード12bの長手方向の略中央部において最も深くなり(
図6参照)、凹ビード12bの長手方向の両端部に向かって次第に浅くなるように設定されている(
図7参照)。このように凹ビード12bの深さを変化させることにより、ドアインパクトビーム12の長手方向の各位置における剛性がチューニングされている。なお、この凹ビード12bの最大深さは、天板部12aからフランジ12fまでの長さよりも小さく設定されている。
【0042】
このように構成されたドアインパクトビーム12は、インナパネル10に対し、ドアインパクトビーム12の後端部12dが前端部12cよりも低くなるように傾斜して車両前後方向に橋架されている。
【0043】
具体的に説明すると、ドアインパクトビーム12の前端部12cは、インナパネル10の前部に形成された段差部17に対して、車幅方向外側から重ねて当接されている。そして、この前端部12cは、段差部17に面接触した状態にてスポット溶接40等がなされることにより、インナパネル10に接合されている。
【0044】
一方、ドアインパクトビーム12の後端部12dは、インナパネル10の後部に形成された段差部17に対して、ブラケット13を介して車幅方向外側から重ねて接合されている。
【0045】
ブラケット13は、板金本体35の後端部12cと当接する板金接合部13aと、インナパネル10と当接する接合部13bと、を有している。板金接合部13aは、後端部12dの断面略ハット形状と略同様の形状に形成されている。この板金接合部13aは、後端部12dに面接触した状態にてスポット溶接41等がなされることにより、板金本体35の後端部12dに接合されている。
【0046】
接合部13bは、略平板状に形成されている。この接合部13bは、外周側壁部18に面接触した状態にてスポット溶接42等がなされることにより、インナパネル10に接合されている。これらの構成によって、ドアインパクトビーム12の前後の端部はドア5に強固に固定されている。
【0047】
このように、インナパネル10に対して前後の端部が接続されたドアインパクトビーム12において、補強用板金36は、座席に対応する位置に配置されている。
【0048】
なお、ドアインパクトビーム12の天板部12aは、マスチックシーラ45を介して、アウタパネル11に当接されている(
図3参照)。
【0049】
このような実施形態によれば、ドアインパクトビーム12は、板金本体35と、板金本体35の長手方向の一部に重ねて配置された補強用板金36を備えた板金複合体を用いてプレス成型され、車両のドア5を構成するアウタパネル11と、インナパネル10との内部空間において車両の前後方向に延在するドアインパクトビーム12であって、アウタパネル11に対向して車両の前後方向に延在する天板部12aと、天板部12aに形成され、インナパネル10に向けたU字形状をなす凹ビード12bと、天板部12aの幅方向の両端部からインナパネル10側に向けて突出する壁部12eと、を有する。これらの構成により、ドアインパクトビーム12は、バリア側面衝突及びポール側面衝突の何れに対してもドア5の変形から乗員を的確に保護することができる。
【0050】
すなわち、ドアインパクトビーム12は、板金本体35の長手方向の一部を補強する補強用板金36を備えた板金複合体を素材として用いて成型されている。また、ドアインパクトビーム12の天板部12aは、当該天板部12aの幅方向の両端部に形成された壁部12eによって補剛されている。さらに、この天板部12aには、天板部12aを補剛するためのU字形状をなす凹ビード12bが長手方向に延在して形成されている。
【0051】
これらの構成により、ドアインパクトビーム12は、車両1の側面の所定範囲に他車両のバンパ等からの衝突荷重がある程度分散して入力されるバリア側面衝突に対して、十分なビーム抗力を発生させることができる。従って、ドアインパクトビーム12は、座屈することなくドア5の車室側(座席側)への変形を抑制することができる。そして、このようなドア5の車室側への変形抑制により、的確な乗員保護を実現することができる。
【0052】
また、バリア側面衝突によって、ビーム抗力を上回る衝突荷重がドアインパクトビーム12に入力された場合、板金本体35に補強用板金36が重なる長手方向端部の境界(
図4参照)を起点としてドアインパクトビーム12を座屈させることができる(
図9参照)。従って、この座屈位置を適切に設定すれば、仮にドアインパクトビーム12が座屈する場合にも、当該ドアインパクトビーム12を、乗員の腰部等から離れた位置で座屈させることができる。そして、このように適切な位置でドアインパクトビーム12を座屈させることにより、仮にドア5が車室側に変形した場合にも、的確な乗員保護を実現することができる。
【0053】
具体的には、補強用板金36は、板金本体35に対し、乗員が着座する座席に対応する位置に配置されている。これにより、乗員が着座する領域において、ドアインパクトビーム12のビーム抗力をより向上することができる。そして、ドアインパクトビーム12の補強用板金36が重なる領域においては、バリア側面所突等においても座屈することなく、ドア5の変形から乗員を的確に保護することができる。
【0054】
ここで、凹ビード12bの深さは、車両前後方向の略中央部において最も深く、長手方向の両端部に向かって次第に浅くなっている。このような構成により、長尺なドアインパクトビーム12に作用するモーメント等を考慮した上で、ドアインパクトビーム12のビーム抗力を最適化することができる。
【0055】
また、この座屈の起点位置は、乗員の座席に対応する領域の外に設定している。つまり、座屈による折曲点は、乗員側に向かわない位置に制御することが可能である。これにより、補強用板金36は、ドア5の変形を許容せざるを得ない場合にも、ドア5の変形が乗員に及ぼす影響を低減することができる。
【0056】
一方、ドアインパクトビーム12は、車両1の側面に電柱等からの衝突荷重が局所的に集中して入力されるポール側面衝突に対して、衝突荷重を吸収しながら変形することができる。
【0057】
つまり、凹ビード12bは、断面略U字形状に形成されており、凹ビード12bの内部には屈曲部が存在しない。従って、所定以上の衝突荷重が入力された際に、天板部12aから受ける衝突荷重によって、凹ビード12bは、傾斜壁部12gの湾曲を残すことなく伸展(展開)する方向に変形することができる。すなわち、ポール側面衝突等の局所的な衝突時において、凹ビード12bは、ドアインパクトビーム12の短手方向(上下方向)に伸展することによって、ビーム抗力を低減させる。
【0058】
同様に、天板部12aと各壁部12eとの屈曲部も、ドアインパクトビーム12の短手方向(上下方向)に伸展することによって、各壁部12eによるビーム抗力を低減させる。
【0059】
これらにより、ドアインパクトビーム12は、局所的に座屈することなく対象物に巻き込むように衝突荷重を吸収しながら変形することができる(
図10参照)。このようなドアインパクトビーム5の変形による衝突荷重の吸収は、ドアインパクトビーム12を座屈させた場合に比べ、ドアインパクトビーム12の車室側への変形量を抑制することができる。従って、ドアインパクトビーム12は、車室側へのドア5の変形を抑制することができる。そして、このようなドア5の車室側への変形抑制により、ドア5の変形に対する的確な乗員保護を実現することができる。
【0060】
なお、本実施形態において、補強用板金36は板金本体35に対し、車幅方向外側から重ねて配設した例について説明したが、車幅方向内側から重ねてもよい。
【0061】
また、本実施形態において、車両1のドアインパクトビーム12をフロントサイドドア5に適用した例について説明したが、車両のドアであれば、他の位置に設けられたドアにおいても適用することができる。
【0062】
以上の実施の形態に記載した発明は、それらの形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得るものである。
【0063】
また、上述の実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、述べられている課題が解決でき、述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得るものである。
【符号の説明】
【0064】
1 … 車両
2 … 車体
3 … ドア開口部
5 … フロントサイドドア
6 … ヒンジ
10 … インナパネル
11 … アウタパネル
12 … ドアインパクトビーム
12a … 天板部
12b … 凹ビード
12c … 前端部
12d … 後端部
12e … 壁部
12f … フランジ
12g … 傾斜壁部
12h … 突出端
13 … ブラケット
13a … 板金接合部
13b … 接合部
15 … 側壁部
16 … 第1の中継壁部
17 … 段差部
18 … 第2の中継壁部
19 … 外向フランジ
30 … ドアハンドル
35 … 板金本体
36 … 補強用板金
40 … スポット溶接
41 … スポット溶接
42 … スポット溶接
45 … マスチックシーラ
50 … 乗員
60 … バリア
70 … ポール