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  • 特開-温度推定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179142
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】温度推定装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
F02D45/00 358
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092252
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】谷 和樹
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384AA01
3G384BA31
3G384DA62
3G384EA07
3G384EA27
3G384FA01Z
3G384FA06Z
3G384FA45Z
3G384FA47Z
3G384FA56Z
3G384FA58Z
3G384FA79Z
(57)【要約】
【課題】触媒の端面上での温度分布を推定する。
【解決手段】演算装置は、排気通路に触媒が配置された内燃機関を対象とし、触媒における上流側の端面上に予め定められている複数の温度推定箇所の各温度を推定する。演算装置は、実行装置と、記憶装置と、を備えている。記憶装置は、複数の入力変数が入力されることにより、温度推定箇所の温度を示す出力変数を、温度推定箇所毎に出力する写像を規定する写像データを記憶している。写像は、予め機械学習により学習されたものである。写像は、入力変数として、温度推定箇所に衝突する排気ガスの流速を示す変数を含んでいる。実行装置は、温度推定箇所毎に入力変数を取得する取得処理を実行する。実行装置は、取得処理により取得した複数の入力変数を写像に入力することによって、温度推定箇所毎の出力変数の値を出力する算出処理を実行する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に触媒が配置された内燃機関を対象とし、前記触媒における上流側の端面上に予め定められている複数の温度推定箇所の各温度を推定する温度推定装置であって、
実行装置と、記憶装置と、を備え、
前記記憶装置は、複数の入力変数が入力されることにより、前記温度推定箇所の温度を示す出力変数を、前記温度推定箇所毎に出力する写像を規定する写像データを記憶しており、
前記写像は、予め機械学習により学習されたものであり、
前記写像は、前記入力変数として、前記温度推定箇所に衝突する排気ガスの流速を示す変数を含み、
前記実行装置は、
前記温度推定箇所毎に前記入力変数を取得する取得処理と、
前記取得処理により取得した複数の前記入力変数を前記写像に入力することによって、前記温度推定箇所毎の前記出力変数の値を出力する算出処理と、を実行する
温度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の車両は、内燃機関、及び制御装置を備えている。内燃機関は、気筒、排気通路、触媒、及び排気温度センサを備えている。排気通路は、気筒から内燃機関の外部へと排気を排出する。触媒は、排気通路の途中に位置している。排気温度センサは、排気通路のうち、触媒から視て上流側の部分に位置している。制御装置は、排気温度センサが検出した温度を、触媒の温度として把握する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-215078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような内燃機関において、触媒の上流側の端面での温度分布を把握したいことがある。しかし、特許文献1の制御装置は、排気温度センサが検出した温度を触媒全体の温度として把握するものであるため、触媒の端面上での温度分布を把握できない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための温度推定装置は、排気通路に触媒が配置された内燃機関を対象とし、前記触媒における上流側の端面上に予め定められている複数の温度推定箇所の各温度を推定する温度推定装置であって、実行装置と、記憶装置と、を備え、前記記憶装置は、複数の入力変数が入力されることにより、前記温度推定箇所の温度を示す出力変数を、前記温度推定箇所毎に出力する写像を規定する写像データを記憶しており、前記写像は、予め機械学習により学習されたものであり、前記写像は、前記入力変数として、前記温度推定箇所に衝突する排気ガスの流速を示す変数を含み、前記実行装置は、前記温度推定箇所毎に前記入力変数を取得する取得処理と、前記取得処理により取得した複数の前記入力変数を前記写像に入力することによって、前記温度推定箇所毎の前記出力変数の値を出力する算出処理と、を実行する。
【0006】
上記構成によれば、触媒の端面上の温度推定箇所に衝突する排気ガスの流速を示す変数が入力変数として写像に入力される。ここで、排気ガスの流速は、排気ガスから触媒の端面へと受け渡される熱の量と強く相関する。したがって、排気ガスの流速を示す変数を入力変数として採用することで、温度推定箇所毎の温度、すなわち、触媒の端面上での温度分布を正確に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】車両の概略構成図である。
図2】推定システムの概略構成図である。
図3】推定の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<車両の概略構成>
以下、一実施形態を図1図3にしたがって説明する。先ず、車両100の概略構成について説明する。
【0009】
図1に示すように、車両100は、内燃機関10、自動変速機30、差動機構40、及び複数の駆動輪50を備えている。
内燃機関10は、複数の気筒11、クランク軸12、吸気通路21、及びスロットルバルブ22を備えている。気筒11は、燃料と吸気との混合気を燃焼させるための空間である。内燃機関10は、4つの気筒11を備えている。吸気通路21は、気筒11に接続している。吸気通路21における下流端を含む一部分は、4つに分岐している。分岐した各通路は、各気筒11に接続している。吸気通路21は、内燃機関10の外部から各気筒11に吸気を導入する。スロットルバルブ22は、吸気通路21のうち、分岐している部分から視て上流側に位置している。スロットルバルブ22は、吸気通路21を流通する吸気の量を調整する。
【0010】
また、内燃機関10は、複数の燃料噴射弁23、複数の点火装置24、排気通路26、三元触媒27、及びフィルタ28を備えている。燃料噴射弁23は、吸気通路21の下流端近傍に位置している。内燃機関10は、4つの気筒11に対応して4つの燃料噴射弁23を備えている。燃料噴射弁23は、図示しない燃料タンクから供給される燃料を吸気通路21に噴射する。点火装置24は、気筒11に位置している。内燃機関10は、4つの気筒11に対応して4つの点火装置24を備えている。点火装置24は、燃料と吸気との混合気を火花放電により点火する。
【0011】
排気通路26は、気筒11に接続している。排気通路26における上流端を含む一部分は、4つに分岐している。分岐した各通路は、各気筒11に接続している。排気通路26は、各気筒11から内燃機関10の外部に排気を排出する。
【0012】
三元触媒27は、排気通路26のうち、分岐している部分から視て下流側に位置している。三元触媒27は、排気通路26を流通する排気を浄化する。本実施形態において、三元触媒27は、排気通路26に配置された触媒の一例である。フィルタ28は、排気通路26における三元触媒27から視て下流側に位置している。フィルタ28は、排気通路26を流通する排気に含まれる粒子状物質を捕集する。
【0013】
クランク軸12は、各気筒11内に位置するピストンにコネクティングロッドを介して連結している。なお、図1では、ピストン及びコネクティングロッドの図示を省略している。クランク軸12は、燃焼トルクを受けて回転する。また、クランク軸12は、自動変速機30及び差動機構40を介して、左右の駆動輪50に連結している。自動変速機30は、車両100の走行状態に応じて、複数の変速段のうちから1つの変速段を選択する。自動変速機30は、入力されるトルクを、選択した変速段に応じた変速比で変速して出力する。差動機構40は、左右の駆動輪50に、回転速度の差が生じることを許容する。
【0014】
図1に示すように、車両100は、クランク角センサ71、アクセル操作量センサ72、及び車速センサ73を備えている。クランク角センサ71は、クランク軸12の角度位置であるクランク角SCを検出する。アクセル操作量センサ72は、運転者が操作するアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量ACCを検出する。車速センサ73は、車両100の速度である車速SPを検出する。
【0015】
車両100は、制御装置90を備えている。制御装置90は、クランク角SCを示す信号をクランク角センサ71から取得する。制御装置90は、クランク角SCに基づいて、クランク軸12の回転速度である機関回転速度NEを算出する。制御装置90は、アクセル操作量ACCを示す信号をアクセル操作量センサ72から取得する。制御装置90は、車速SPを示す信号を車速センサ73から取得する。
【0016】
制御装置90は、予め記憶した各種のプログラムを実行することにより、内燃機関10、自動変速機30等を制御する。具体的には、制御装置90は、アクセル操作量ACC及び車速SPに基づいて、車両100が走行するために必要な出力の要求値である車両要求出力を算出する。制御装置90は、車両要求出力に基づいて、内燃機関10及び自動変速機30を制御する。制御装置90は、内燃機関10の制御にあたって、スロットルバルブ22の開度、燃料噴射弁23からの燃料噴射量、点火装置24の点火時期等を制御する。
【0017】
<推定システムの概略構成>
次に、車両100の内燃機関10を対象とした推定システム200について説明する。推定システム200は、内燃機関10の設計段階において、三元触媒27における上流側の端面上に予め定められている複数の温度推定箇所の各温度を推定するシステムである。例えば、推定システム200は、内燃機関10の設計者等が用いるものである。
【0018】
図2に示すように、推定システム200は、入力デバイス210、ディスプレイ220、及び演算装置290を備えている。入力デバイス210は、設計者等の指令を演算装置290に入力するためのデバイスである。入力デバイス210としては、例えば、キーボード、ポインティングデバイスなどである。ディスプレイ220は、演算装置290からの情報を、光学的に設計者等に伝達するためのデバイスである。
【0019】
演算装置290は、CPU291、周辺回路292、ROM293、記憶装置294、及びバス295を備えている。バス295は、CPU291、周辺回路292、ROM293、及び記憶装置294を通信可能に接続している。ROM293は、CPU291が各種の処理を実行するために各種のプログラムを予め記憶している。記憶装置294は、写像データ294Aを予め記憶している。写像データ294Aは、写像Mを規定している。写像データ294Aによって規定される写像Mは、入力変数が入力されることにより、三元触媒27における温度推定箇所の温度を示す出力変数を、温度推定箇所毎に出力する。写像Mは、予め機械学習により学習されたものである。なお、写像Mについての具体的な説明は後述する。周辺回路292は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、リセット回路等を含む。本実施形態において、CPU291及びROM293が実行装置である。また、演算装置290が温度推定装置である。演算装置290の一例は、いわゆるパーソナルコンピュータである。ROM293及び記憶装置294が予め記憶している温度推定プログラムを実行することにより、コンピュータである演算装置290が温度推定装置として機能する。
【0020】
<推定の手順>
次に、推定システム200により、三元触媒27における温度推定箇所の温度を推定するための手順について説明する。
【0021】
図3に示すように、ステップS11において、設計者等は、内燃機関10の運転状態をシミュレーションすることにより、排気通路26における排気ガスの流通に関する情報を取得する。具体例として、設計者等は、コンピュータである演算装置290を用いたシミュレーション、いわゆるCAEにより内燃機関10の運転状態をシミュレーションする。なお、CAEは、コンピュータエイディッドエンジニアリングと呼称されるものである。このシミュレーションにあたって、設計者等は、内燃機関10の形状等のデータを含む三次元CADデータを、入力デバイス210を用いて演算装置290に入力する。また、設計者等は、シミュレーションに用いる各種の値を、入力デバイス210を用いて演算装置290に入力する。ここで、入力する各種の値の具体例は、機関回転速度NEの目標値である機関回転速度NES、及び吸気通路21を単位時間当たりに流通する吸気の量の目標値である吸気流量FRS等である。そして、演算装置290は、入力された各種の値に基づいて、CAEにより内燃機関10の運転状態をシミュレーションすることで、シミュレーション上での排気通路26における排気ガスの流通に関する情報を演算する。その後、演算装置290の記憶装置294は、演算した排気通路26における排気ガスの流通に関する情報を記憶する。ここで、排気通路26における排気ガスの流通に関する情報とは、上記のシミュレーション上での、複数の流速FVS、及び排気温度TES等を含んでいる。流速FVSは、三元触媒27における温度推定箇所に衝突する排気ガスの流速である。温度推定箇所は、三元触媒27における上流側の端面上に予め複数定められている。したがって、流速FVSは、温度推定箇所毎に複数演算される。ここで、4つの気筒11が1度ずつ燃焼行程を迎える一連の過程、すなわちクランク軸12が2回転する期間を1燃焼サイクルと呼称する。内燃機関10では、上記のように機関回転速度NESを一定とした場合であっても、三元触媒27に衝突する実際の排気ガスの流速が1燃焼サイクルの周期で周期的に変化する傾向がある。これに対して、流速FVSは、1燃焼サイクルにおいて三元触媒27に衝突する排気ガスの流速の平均値である。また、排気温度TESは、排気通路26のうち三元触媒27から視て上流側の予め定められた部分を流通する排気ガスの温度である。予め定められた部分の一例は、排気通路26のうち、4つに分岐している部分から視て下流側であって三元触媒27から視て上流側の部分である。排気温度TESは、流速FVSと同様に、1燃焼サイクルにおいて予め定められた部分を流通する排気ガスの温度の平均値である。
【0022】
なお、本実施形態において、演算装置290は、ディスプレイ220上において流速FVSを視覚的に表現する。具体的には、演算装置290は、排気通路26の形状、及びシミュレーション上での排気通路26の排気ガスの流れを示す画像データを作成する。この画像データ上では、排気ガスの流れが複数の線で示される。また、画像データ上では、排気ガスの流速FVSに応じた色が付与される。そして、演算装置290は、作成した画像データに基づいた信号をディスプレイ220に出力する。その結果、ディスプレイ220は、作成した画像データを表示する。その後、設計者等は、入力デバイス210を操作することにより、処理をステップS12に進める。
【0023】
ステップS12において、演算装置290は、ステップS11で演算した情報のうち、温度推定箇所毎の流速FVSを取得する。本実施形態において、演算装置290は、ステップS11で作成した画像データを参照することで複数の流速FVSを取得する。その後、演算装置290は、処理をステップS13に進める。
【0024】
ステップS13において、演算装置290は、ステップS11で演算した情報のうち、排気温度TESを取得する。その後、演算装置290は、処理をステップS14に進める。
【0025】
ステップS14において、演算装置290は、ステップS11におけるシミュレーションにあたって入力された各種の値を取得する。具体的には、演算装置290は、機関回転速度NES及び吸気流量FRSを取得する。また、演算装置290は、内燃機関10の形状等のデータを含む三次元CADデータに基づいて、排気通路26の形状の種類を示す形状種別TYSを取得する。例えば、形状種別TYSは、以下のように取得できる。演算装置290の記憶装置294は、排気通路26の形状として、複数の形状候補を予め記憶している。また、記憶装置294は、形状候補毎に関連付けられた異なる数値を、形状種別TYSとして予め記憶している。そして、ステップS14において、演算装置290は、三次元CADデータに基づいた排気通路26の形状について、記憶装置294が記憶している形状候補のうちのいずれに最も近いかを判定する。演算装置290は、最も近い形状候補に関連付けられた形状種別TYSを取得する。本実施形態において、ステップS12~ステップS14の処理が取得処理である。ステップS14の後、演算装置290は、処理をステップS21に進める。
【0026】
ステップS21において、演算装置290は、複数の流速FVS、排気温度TES、機関回転速度NES、吸気流量FRS、及び形状種別TYSを、写像Mへの入力変数として生成する。ここで、例えば、三元触媒27における上流側の端面上に予め定められている複数の温度推定箇所の数が「100」であったとする。この場合、複数の流速FVSの数は、「100」である。したがって、演算装置290は、入力変数x(1)~入力変数x(100)に、100個の流速FVSを1つずつ順に代入する。また、演算装置290は、入力変数x(101)に、排気温度TESを代入する。演算装置290は、入力変数x(102)に、機関回転速度NESを代入する。演算装置290は、入力変数x(103)に、吸気流量FRSを代入する。演算装置290は、入力変数x(104)に、形状種別TYSを代入する。なお、以下では、ステップS21で生成した入力変数の合計を「Z」として記載する。本実施形態において、入力変数x(1)~入力変数x(100)は、三元触媒27における上流側の端面上に予め定められている複数の温度推定箇所に衝突する排気ガスの流速を示す変数である。ステップS21の後、演算装置290は、処理をステップS22に進める。
【0027】
ステップS22において、演算装置290は、写像Mに、ステップS21の処理において生成された入力変数x(1)~入力変数x(Z)及びバイアスパラメータとしての入力変数x(0)を入力することによって、出力変数y(i)の値を算出する。
【0028】
写像データ294Aによって規定される写像Mの一例は、関数近似器であり、中間層が1層の全結合順伝搬型のニューラルネットワークである。具体的には、写像Mでは、入力変数x(1)~入力変数x(Z)及びバイアスパラメータとしての入力変数x(0)が、係数wFjk(j=1~m、k=0~Z)によって規定される線形写像にて変換された「m」個の値のそれぞれが活性化関数fに代入される。その結果、中間層のノードの値が定まる。また、係数wSij(i=1~P)によって規定される線形写像によって中間層のノードの値が変換された値のそれぞれが活性化関数gに代入されることによって、出力変数y(1)~出力変数y(P)が定まる。なお、ステップS22での出力変数の合計を「P」として記載している。ここで、出力変数の合計である「P」は、三元触媒27における上流側の端面上に予め定められている複数の温度推定箇所の数と同じである。本実施形態において、活性化関数fの一例は、ReLU関数である。また、活性化関数gの一例は、シグモイド関数である。
【0029】
写像データ294Aによって規定される写像Mは、例えば以下のように生成されたものである。先ず、排気通路26の形状等が異なる様々な内燃機関10の三次元CADデータを用意する。そして、各内燃機関10について、ステップS11の要領で内燃機関10の運転状態をシミュレーションする。このとき、様々な条件で内燃機関10を動作させつつ、ステップS12~ステップS14の要領で各種の値を取得する。一方、上記の各内燃機関10について、実験により、三元触媒27における上流側の端面上に予め定められている複数の温度推定箇所の温度を実際に測定する。この実験では、上記のシミュレーションと同じ条件で内燃機関10を動作させることで、各条件に対応した三元触媒27における複数の温度推定箇所の温度を取得する。なお、実際に温度を測定するセンサの一例は、いわゆる放射温度計である。そして、シミュレーションで取得した各種の値、及び実験で取得した三元触媒27における複数の温度推定箇所の温度に基づいて、機械学習により写像Mの学習をする。
【0030】
本実施形態において、ステップS21及びステップS22の処理は、三元触媒27における上流側の端面上に予め定められている複数の温度推定箇所毎に出力変数の値を出力する算出処理である。ステップS22の後、演算装置290は、処理をステップS23に進める。
【0031】
ステップS23において、演算装置290は、写像Mの出力変数に基づいて、シミュレーション上での三元触媒27に対して当該三元触媒27における複数の温度推定箇所の温度に応じた色を付与した画像データを作成する。そして、演算装置290は、作成した画像データに基づいた信号をディスプレイ220に出力する。その結果、ディスプレイ220は、作成した画像データを表示する。ステップS23の後、演算装置290は、今回の一連の処理を終了する。
【0032】
<本実施形態の作用>
内燃機関10では、排気通路26を流通する排気ガスが三元触媒27における上流側の端面に衝突する。そのため、衝突する排気ガスから三元触媒27に受け渡される熱に応じて、当該三元触媒27における上流側の端面上の温度が変化する。このとき、三元触媒27における上流側の端面に衝突する排気ガスの流速FVSが高いほど、排気ガスから三元触媒27に受け渡される熱が大きくなる傾向がある。
【0033】
<本実施形態の効果>
(1)本実施形態では、三元触媒27における上流側の端面上に複数の温度推定箇所が予め定められている。そして、各温度推定箇所に衝突する排気ガスの流速FVSを示す変数が入力変数として写像Mに入力される。上述したように、排気ガスの流速FVSは、排気ガスから三元触媒27の上流端へと受け渡される熱の量と強く相関する。したがって、排気ガスの流速FVSを入力変数として採用することで、三元触媒27における温度推定箇所毎の温度、すなわち、三元触媒27における上流側の端面上での温度分布を正確に推定できる。
【0034】
(2)三元触媒27における上流側の端面上での温度分布を推定するにあたって、上記実施形態のような手法の他に、次のような手法が考えられる。例えば、三元触媒27における上流側の端面への単位時間当たりの熱収支を推定しつつ、この単位時間当たりの熱収支を積算することで、三元触媒27における複数の温度推定箇所の温度を推定する手法である。この場合、単位時間当たりの熱収支の推定値と実際の値との間に僅かなずれがあるだけでも、このずれが積算されていく。これに起因して、最終的な温度推定箇所の温度の推定精度が大きく低下する可能性がある。この点、本実施形態では、上記の比較例に比べて、ずれが積算されることに起因して三元触媒27における温度推定箇所の温度の推定精度が低下することは抑制される。しかも、写像データ294Aによって規定される写像Mは、実際に測定された三元触媒27における温度推定箇所の温度に関するデータに基づいて生成されたものである。そのため、三元触媒27における温度推定箇所の温度の推定精度を担保しやすい。
【0035】
(3)内燃機関10では、例えば、排気ガスの流速FVSが同じであっても、排気温度TESが高いほど、排気ガスから三元触媒27に受け渡される熱が大きくなる傾向がある。この点、本実施形態において、写像Mは、入力変数として、排気温度TESを示す変数を含んでいる。その結果、排気ガスから三元触媒27の上流端へと受け渡される熱の量をより正確に反映しやすい。
【0036】
(4)内燃機関10では、機関回転速度NES、吸気流量FRS、及び形状種別TYSによって、例えば排気通路26の排気ガスの流れ方が変化する可能性がある。その結果、機関回転速度NES、吸気流量FRS、及び形状種別TYSによって、三元触媒27における温度推定箇所の温度の推定精度が低下することがある。
【0037】
この点、本実施形態において、写像Mは、入力変数として、機関回転速度NES、吸気流量FRS、及び形状種別TYSを示す変数を含んでいる。これにより、三元触媒27における温度推定箇所の温度の推定精度が低下することを抑制できる。
【0038】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0039】
・上記実施形態において、入力変数の取得の仕方は変更してもよい。
例えば、ステップS12において、演算装置290は、ステップS11で作成した画像データを参照せずに、ステップS11で演算した流速FVSを直接取得してもよい。
【0040】
・上記実施形態において、写像Mへの入力変数は変更してもよい。
例えば、入力変数として用いる流速FVSの数は、三元触媒27における上流側の端面上に予め定められている複数の温度推定箇所の数に合わせて変更してもよい。なお、入力変数として用いる流速FVSの数を変更する場合、その流速FVSの数に合わせて出力変数の数を変更すればよい。
【0041】
・例えば、入力変数としての排気温度TES、機関回転速度NES、吸気流量FRS、及び形状種別TYSの1つ以上を省略してもよい。具体例としては、形状種別TYSと三元触媒27における温度推定箇所の温度との相関が弱いのであれば、形状種別TYSを省略してもよい。同様に、排気温度TES、機関回転速度NES、及び吸気流量FRSの1つ以上を省略してもよい。
【0042】
・上記実施形態において、写像Mは変更してもよい。
例えば、写像Mの活性化関数は例示であり、写像Mの活性化関数は変更できる。
・例えば、写像Mとしては、中間層の数が1層のニューラルネットワークを例示したが、中間層の数が2層以上であってもよい。
【0043】
・例えば、写像Mのニューラルネットワークとして、全結合順伝搬型のニューラルネットワークを例示したが、これに限らない。具体例として、ニューラルネットワークは、回帰結合型ニューラルネットワークであってもよい。また、例えば、写像Mとしての関数近似器は、ニューラルネットワークに限らない。具体例として、写像Mは、中間層を備えない回帰式であってもよい。
【0044】
・上記実施形態において、実行装置は変更してもよい。
例えば、実行装置としては、CPU291及びROM293を備えてソフトウェア処理を実行するものに限らない。具体例としては、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部をハードウェア処理する、例えばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、実行装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
10…内燃機関
11…気筒
12…クランク軸
21…吸気通路
22…スロットルバルブ
23…燃料噴射弁
24…点火装置
26…排気通路
27…三元触媒
28…フィルタ
30…自動変速機
40…差動機構
50…駆動輪
90…制御装置
100…車両
200…推定システム
210…入力デバイス
220…ディスプレイ
290…演算装置
291…CPU
292…周辺回路
293…ROM
294…記憶装置
294A…写像データ
295…バス
図1
図2
図3