(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179144
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0438 20160101AFI20231212BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20231212BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20231212BHJP
【FI】
H01M8/0438
H01M8/04 J
H01M8/04 Z
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092256
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤村 力
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博之
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127AC07
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA28
5H127BA33
5H127BA58
5H127BA59
5H127BA60
5H127BB02
5H127CC01
5H127DB03
(57)【要約】
【課題】水素供給流路におけるインジェクタよりも上流側の水素ガスの圧力を推定できる燃料電池システムを提供すること。
【解決手段】燃料電池システムの制御装置は、上流流路の水素ガスの圧力を推定する圧力推定処理S5を実行する。圧力推定処理S5は、インジェクタによる水素ガスの供給前後における圧力センサの検出値に基づいて算出される下流流路の水素ガスの圧力変化に下流流路の流路体積と循環系統の流路体積との和を乗算することによりインジェクタによる水素ガスの供給後における下流流路に流れた水素ガスの流量を算出する関係式と、インジェクタによる水素ガスの供給後において、上流流路の水素ガスの圧力及び下流流路の水素ガスの圧力に基づき上記流量を算出するオリフィスの実験式と、を用いて実行される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、
水素タンクの水素ガスを前記燃料電池に供給するための水素供給流路と、
前記水素供給流路に設けられており、前記水素ガスを前記燃料電池に供給するインジェクタと、
前記水素供給流路における前記インジェクタよりも上流側を上流流路とし、前記水素供給流路のうち前記インジェクタよりも下流側を下流流路とすると、前記燃料電池から排出された水素オフガスを前記下流流路に戻すための循環流路、前記循環流路に設けられるとともに前記水素オフガスを前記下流流路に送り出す水素ポンプ、及び前記循環流路に設けられるとともに前記水素オフガスから水分を回収する気液分離器を含む循環系統と、
前記下流流路の前記水素ガスの圧力を検出する圧力センサと、
前記インジェクタを制御する制御装置と、を備える燃料電池システムであって、
前記制御装置は、前記上流流路の前記水素ガスの圧力を推定する圧力推定処理を実行し、
前記圧力推定処理は、前記インジェクタによる前記水素ガスの供給前後における前記圧力センサの検出値に基づいて算出される前記下流流路の前記水素ガスの圧力変化に前記下流流路の流路体積と前記循環系統の流路体積との和を乗算することにより前記インジェクタによる前記水素ガスの供給後における前記下流流路に流れた前記水素ガスの流量を算出する関係式と、前記インジェクタによる前記水素ガスの供給後において、前記上流流路の前記水素ガスの圧力及び前記下流流路の前記水素ガスの圧力に基づき前記流量を算出するオリフィスの実験式と、を用いて実行されることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記圧力センサを第1圧力センサとすると、前記上流流路の前記水素ガスの圧力を検出する第2圧力センサを更に備え、
前記制御装置は、前記第2圧力センサの検出値が異常であると判断した場合に前記圧力推定処理を実行する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記水素ポンプを停止させた状態で前記圧力推定処理を実行する、請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記インジェクタによる前記水素ガスの供給前後における前記圧力センサの検出値を取得するときに前記水素ポンプが駆動している場合、前記水素ポンプによる前記下流流路の圧力上昇量を加味して前記圧力センサの検出値を補正するとともに、補正された前記圧力センサの検出値に基づいて前記圧力変化を算出する、請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池システムが記載されている。
上記の燃料電池システムは、燃料電池と、水素タンクと、水素供給流路と、インジェクタと、循環流路と、水素ポンプと、気液分離器と、一次圧力センサと、二次圧力センサと、制御装置と、を備えている。水素供給流路は、水素タンクの水素ガスを燃料電池に供給するための流路である。インジェクタは、水素供給流路に設けられている。インジェクタは、水素ガスを燃料電池に供給する。循環流路は、燃料電池から排出された水素オフガスを水素供給流路におけるインジェクタよりも下流側に戻すための流路である。水素ポンプは、循環流路に設けられている。水素ポンプは、水素オフガスを水路供給流路におけるインジェクタよりも下流側に送り出す。気液分離器は、循環流路に設けられている。気液分離器は、水素オフガスから水分を回収する。一次圧力センサは、水素供給流路におけるインジェクタよりも上流側の水素ガスの圧力を検出する。二次圧力センサは、水素供給流路におけるインジェクタよりも下流側の水素ガスの圧力を検出する。制御装置は、インジェクタを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池システムを構成するにあたり、多くのセンサが採用されている。センサの数が多いほど燃料電池システムのコストが高くなるため、センサの数を減らしたいとの要望がある。
【0005】
また、燃料電池システムにおいて、一次圧力センサが故障した場合、水素供給流路におけるインジェクタよりも上流側の水素ガスの圧力を適切に検出できない虞がある。
ところで、一次圧力センサを省略することにより燃料電池システムのコストを下げたり、一次圧力センサが故障したりすると、いずれにしても、水素供給流路におけるインジェクタよりも上流側の水素ガスの圧力を検出できなくなる。よって、水素供給流路におけるインジェクタよりも上流側の水素ガスの圧力を推定する手法が検討されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する燃料電池システムは、燃料電池と、水素タンクの水素ガスを前記燃料電池に供給するための水素供給流路と、前記水素供給流路に設けられており、前記水素ガスを前記燃料電池に供給するインジェクタと、前記水素供給流路における前記インジェクタよりも上流側を上流流路とし、前記水素供給流路のうち前記インジェクタよりも下流側を下流流路とすると、前記燃料電池から排出された水素オフガスを前記下流流路に戻すための循環流路、前記循環流路に設けられるとともに前記水素オフガスを前記下流流路に送り出す水素ポンプ、及び前記循環流路に設けられるとともに前記水素オフガスから水分を回収する気液分離器を含む循環系統と、前記下流流路の前記水素ガスの圧力を検出する圧力センサと、前記インジェクタを制御する制御装置と、を備える燃料電池システムであって、前記制御装置は、前記上流流路の前記水素ガスの圧力を推定する圧力推定処理を実行し、前記圧力推定処理は、前記インジェクタによる前記水素ガスの供給前後における前記圧力センサの検出値に基づいて算出される前記下流流路の前記水素ガスの圧力変化に前記下流流路の流路体積と前記循環系統の流路体積との和を乗算することにより前記インジェクタによる前記水素ガスの供給後における前記下流流路に流れた前記水素ガスの流量を算出する関係式と、前記インジェクタによる前記水素ガスの供給後において、前記上流流路の前記水素ガスの圧力及び前記下流流路の前記水素ガスの圧力に基づき前記流量を算出するオリフィスの実験式と、を用いて実行される。
【0007】
上記構成によれば、圧力推定処理では、関係式により算出された流量、及びインジェクタによる水素ガスの供給後における下流流路の水素ガスの圧力をオリフィスの実験式に代入する。すると、上流流路の水素ガスの圧力の理論値が算出される。圧力推定処理では、当該理論値を上流流路の水素ガスの圧力の推定値とする。したがって、水素供給流路におけるインジェクタよりも上流側の水素ガスの圧力を推定できる。
【0008】
上記の燃料電池システムにおいて、前記圧力センサを第1圧力センサとすると、前記上流流路の前記水素ガスの圧力を検出する第2圧力センサを更に備え、前記制御装置は、前記第2圧力センサの検出値が異常であると判断した場合に前記圧力推定処理を実行するとよい。
【0009】
上記構成によれば、制御装置が第2圧力センサの検出値が異常であると判断した場合、第2圧力センサにより上流流路の水素ガスの圧力を適切に検出できない。しかし、圧力推定処理により上流流路の水素ガスの圧力を推定できる。このため、第2圧力センサに異常が生じても上流流路の水素ガスの圧力を検出できる代替手段を確保できる。
【0010】
上記の燃料電池システムにおいて、前記制御装置は、前記水素ポンプを停止させた状態で前記圧力推定処理を実行するとよい。
上記構成によれば、水素ポンプが下流流路に水素ガスを吐出することによる下流流路の水素ガスの圧力上昇の影響を受けずに圧力推定処理が実行される。よって、より正確に上流流路の水素ガスの圧力を推定できる。
【0011】
上記の燃料電池システムにおいて、前記制御装置は、前記インジェクタによる前記水素ガスの供給前後における前記圧力センサの検出値を取得するときに前記水素ポンプが駆動している場合、前記水素ポンプによる前記下流流路の圧力上昇量を加味して前記圧力センサの検出値を補正するとともに、補正された前記圧力センサの検出値に基づいて前記圧力変化を算出するとよい。
【0012】
上記構成によれば、水素ポンプが下流流路に水素ガスを吐出することにより下流流路の水素ガスの圧力が上昇したとしても、制御装置が圧力センサの検出値を下流流路の圧力上昇量を加味して補正する。圧力推定処理では、補正された圧力センサの検出値を使用して上流流路の水素ガスの圧力が推定される。よって、水素ポンプが駆動していても、より正確に上流流路の水素ガスの圧力を推定できる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、水素供給流路におけるインジェクタよりも上流側の水素ガスの圧力を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】燃料電池システムにおける制御フローである。
【
図3】燃料電池システムの制御フローの変更例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、燃料電池システムを具体化した実施形態を
図1及び
図2にしたがって説明する。なお、本実施形態の燃料電池システムは、例えば燃料電池車両に搭載される。
<燃料電池システム>
図1に示すように、燃料電池システム10は、燃料電池20と、水素供給流路30と、インジェクタ40と、循環系統50と、圧力センサとしての第1圧力センサ60と、第2圧力センサ70と、制御装置80と、水素タンク90と、を備えている。
【0016】
燃料電池20は、複数の燃料電池セルを有している。燃料電池セルは、高分子膜型燃料電池セルである。燃料電池セルは、空気中の酸素と水素との化学反応によって発電を行う。なお、燃料電池20には、空気中の酸素を吸入するための図示しないカソード系と、燃料電池20の温度上昇を抑えるための図示しない冷却系とが接続される。
【0017】
<水素供給流路>
水素供給流路30は、燃料電池20と水素タンク90とを接続している。水素供給流路30は、水素タンク90の水素ガスを燃料電池20に供給するための流路である。インジェクタ40は、水素供給流路30に設けられている。インジェクタ40は、水素ガスを燃料電池20に供給する。水素供給流路30は、上流流路31と、下流流路32と、を有している。上流流路31は、インジェクタ40と水素タンク90とを接続している。上流流路31は、水素供給流路30におけるインジェクタ40よりも上流側の流路である。下流流路32は、インジェクタ40と燃料電池20とを接続している。下流流路32は、水素供給流路30におけるインジェクタ40よりも下流側の流路である。
【0018】
上流流路31には、主止弁101と、逆止弁102と、減圧弁103とが設けられている。主止弁101、逆止弁102、及び減圧弁103は、水素タンク90からインジェクタ40に向けてこの順に配置されている。主止弁101は、電磁開閉弁である。主止弁101は、制御装置80により制御される。主止弁101は、開状態と閉状態とに切り替えられる。主止弁101が開状態となると、水素ガスが主止弁101よりも下流に流れる。主止弁101が閉状態となると、水素ガスが主止弁101から下流に流れない。逆止弁102は、上流流路31の水素ガスが主止弁101に向けて逆流することを防止する。減圧弁103は、水素タンク90から供給された水素ガスの圧力を減圧する。
【0019】
<循環系統、第1圧力センサ、第2圧力センサ>
循環系統50は、循環流路51と、水素ポンプ52と、気液分離器53と、インバータ54と、を有している。循環系統50は、循環流路51、水素ポンプ52、及び気液分離器53を含む。循環流路51は、燃料電池20と下流流路32とを接続している。循環流路51は、燃料電池20から排出される水素オフガスを下流流路32に戻すための流路である。水素オフガスとは、燃料電池20の発電で使用されなかった水素ガスが主成分となるガスである。水素オフガスには、燃料電池20の発電により生成された水分が含まれている。
【0020】
水素ポンプ52は、循環流路51に設けられている。水素ポンプ52は、水素オフガスを下流流路32に送り出す動力源となる。水素ポンプ52は、電動モータ52aを有している。水素ポンプ52は、電動モータ52aにより駆動する。電動モータ52aは、インバータ54により駆動する。インバータ54は、制御装置80により制御される。よって、水素ポンプ52は、制御装置80により制御される。
【0021】
気液分離器53は、循環流路51に設けられている。気液分離器53は、循環流路51において燃料電池20と水素ポンプ52との間に配置されている。気液分離器53は、燃料電池20から排出される水素オフガスを取り込む。気液分離器53は、水素オフガスから水分を回収する。気液分離器53により水分を回収した後の水素オフガスは、水素ポンプ52により吸入された後、下流流路32に戻される。なお、気液分離器53には、排気排水弁104が接続されている。排気排水弁104は、開状態と閉状態とに切り替えられる。排気排水弁104が開状態となると、気液分離器53から水分が排出される。排気排水弁104が閉状態となると、気液分離器53に水分が貯留される。排気排水弁104は、開状態と閉状態とを繰り返す電磁開閉弁である。排気排水弁104は、制御装置80により制御される。
【0022】
第1圧力センサ60は、下流流路32に設けられている。第1圧力センサ60は、下流流路32における循環流路51の合流部とインジェクタ40との間に設けられている。第1圧力センサ60は、下流流路32の水素ガスの圧力を検出する。
【0023】
第2圧力センサ70は、上流流路31に設けられている。第2圧力センサ70は、上流流路31におけるインジェクタ40と減圧弁103との間に設けられている。第2圧力センサ70は、上流流路31の水素ガスの圧力を検出する。第2圧力センサ70は、上流流路31において減圧弁103により減圧された後の水素ガスの圧力を検出する。
【0024】
<制御装置>
制御装置80は、プロセッサ81と、記憶部82と、を備える。記憶部82は、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)を含む。記憶部82は、処理をプロセッサ81に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部82、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。制御装置80は、ASICやFPGA等のハードウェア回路によって構成されていてもよい。処理回路である制御装置80は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASICやFPGA等の1つ以上のハードウェア回路、或いは、それらの組み合わせを含み得る。
【0025】
制御装置80は、燃料電池システム10を制御する。制御装置80は、インジェクタ40を制御する。制御装置80は、インジェクタ40を制御することにより燃料電池20の発電量を制御する。制御装置80は、上流流路31の水素ガスの圧力Pcを推定する処理を実行する。より具体的には、制御装置80は、第2圧力センサ70が設けられている位置での水素ガスの圧力Pcを推定する処理を実行する。以下、制御装置80が上流流路31の水素ガスの圧力を推定するまでの制御フローについて説明する。
【0026】
図2に示すように、制御装置80は、最初にステップS1の処理を実行する。ステップS1の処理は、制御装置80が起動した直後に実行される処理である。ステップS1の処理は、センサチェック処理S11と、主止弁101の開弁処理S12とを有している。制御装置80は、開弁処理S12を実行する前にセンサチェック処理S11を実行する。センサチェック処理S11は、燃料電池システム10に搭載されるセンサに異常が発生しているか否かを確認する処理である。センサチェック処理S11において、制御装置80は、第2圧力センサ70の検出値に異常があるか否かを判定する。センサチェック処理S11において、制御装置80は、第2圧力センサ70の検出値が常に「0」である場合に第2圧力センサ70の検出値が異常であると判定する。また、センサチェック処理S11において、制御装置80は、第2圧力センサ70の検出値が減圧弁103よりも上流側の水素ガスの圧力を上回っている場合に第2圧力センサ70の検出値が異常であると判定する。制御装置80は、センサチェック処理S11での判定結果を記憶部82に記憶する。なお、センサチェック処理S11において、第2圧力センサ70の検出値に異常が発生しているか否かを判定する手法は、適宜変更してもよい。
【0027】
制御装置80は、センサチェック処理S11を実行すると、処理を開弁処理S12へと進める。開弁処理S12において、制御装置80は、主止弁101を閉状態から開状態に切り替える。制御装置80は、開弁処理S12を実行すると、ステップS2、ステップS3、ステップS4、及びステップS5の順に処理を実行する。ステップS2及びステップS4は、第1圧力センサ60の検出値を取得する処理である。ステップS3の処理は、インジェクタ40に水素ガスを1回供給させる処理である。ステップS5の処理は、上流流路31の水素ガスの圧力を推定する圧力推定処理である。以下、ステップS5の処理を圧力推定処理S5とする。
【0028】
ステップS3の処理は、例えば、燃料電池20の発電量を制御する発電制御において、制御装置80がインジェクタ40に水素ガスを供給させる毎に行われる処理である。また、ステップS3の処理は、例えば、燃料電池20を停止させるときに燃料電池20の内部の水素ガス濃度を高くすることを目的として、インジェクタ40に水素ガスを供給させる毎に行われる処理である。すなわち、ステップS3の処理は、燃料電池20の発電の有無にかかわらず、インジェクタ40に水素ガスを1回供給させる処理である。
【0029】
ステップS2の処理は、インジェクタ40による水素ガスの供給前における第1圧力センサ60の検出値である第1検出値P1を取得する処理である。制御装置80は、ステップS2の処理を実行すると同時に水素ポンプ52の駆動状態を検出する。水素ポンプ52の駆動状態とは、例えば電動モータ52aの回転数やインバータ54に印加される電圧値である。
【0030】
制御装置80は、電動モータ52aの回転数が「0」である、又はインバータ54に印加される電圧値が「0」である場合、水素ポンプ52が停止していると判定する。制御装置80は、水素ポンプ52が停止している場合、第1検出値P1を、インジェクタ40による水素ガスの供給前において下流流路32の水素ガスの圧力Paとして記憶部82に記憶する。
【0031】
制御装置80は、電動モータ52aの回転数やインバータ54に印加される電圧値が「0」より大きい場合、水素ポンプ52が駆動していると判定する。制御装置80の記憶部82には、水素ポンプ52の駆動状態と、水素ポンプ52の駆動による下流流路32の水素ガスの圧力上昇量との相関を示すマップが記憶されている。制御装置80は、上記マップを参照することにより水素ポンプ52の駆動状態による下流流路32の水素ガスの圧力上昇量を取得する。制御装置80は、水素ポンプ52が駆動している場合、第1検出値P1に上記圧力上昇量を加算した値を圧力Paとして記憶部82に記憶する。
【0032】
ステップS4の処理は、インジェクタ40による水素ガスの供給後における第1圧力センサ60の検出値である第2検出値P2を取得する処理である。制御装置80は、ステップS3の処理を実行した後、所定時間経過した後にステップS4の処理を実行する。所定時間とは、インジェクタ40により水素ガスを供給した後、下流流路32の水素ガスの圧力が安定するまでの時間である。制御装置80は、ステップS4の処理を実行すると同時に水素ポンプ52の駆動状態を検出する。
【0033】
制御装置80は、上記と同様に水素ポンプ52が停止している場合、第2検出値P2を、インジェクタ40による水素ガスの供給後において下流流路32の水素ガスの圧力Pbとして記憶部82に記憶する。制御装置80は、水素ポンプ52が駆動している場合、第2検出値P2に上記マップから算出された圧力上昇量を加算した値を圧力Pbとして記憶部82に記憶する。
【0034】
制御装置80は、インジェクタ40による水素ガスの供給前後における第1圧力センサ60の検出値を取得するときに水素ポンプ52が駆動している場合、水素ポンプ52による下流流路32の圧力上昇量を加味して第1圧力センサ60の検出値を補正する。具体的には、制御装置80は、水素ポンプ52が駆動している場合、第1検出値P1又は第2検出値P2に補正値としての圧力上昇量を加算することにより第1検出値P1又は第2検出値P2を補正する。なお、圧力上昇量を補正値として第1検出値P1又は第2検出値P2に加算しなくてもよい。例えば、圧力上昇量から第1検出値P1又は第2検出値P2をどの程度補正すればよいか判断できるのであれば、圧力上昇量に相関のある補正値を第1検出値P1又は第2検出値P2に乗算してもよい。
【0035】
<圧力推定処理>
制御装置80は、ステップS4の処理を実行すると、処理を圧力推定処理S5へと進める。圧力推定処理S5は、以下の(式1)及び(式2)により上流流路31の水素ガスの圧力Pcを推定する処理である。圧力推定処理S5は、以下の(式1)及び(式2)により第2圧力センサ70が設けられている位置での水素ガスの圧力Pcを推定する処理である。以下の(式1)及び(式2)は、記憶部82に記憶されている。
【0036】
【0037】
【数2】
(式1)は、ステップS4時に算出された圧力PbとステップS2時に算出された圧力Paとの差分ΔPに下流流路32の流路体積と循環系統50の流路体積との和Vを乗算することにより、インジェクタ40による水素ガスの供給後における下流流路32に流れた水素ガスの流量Qを算出する関係式である。
【0038】
循環系統50の流路体積は、循環流路51における水素オフガスが流れる流路の体積と、気液分離器53における水素オフガスが流れる流路の体積と、水素ポンプ52における水素オフガスが流れる流路の体積との和である。差分ΔPは、インジェクタ40による水素ガスの供給前後における第1圧力センサ60の検出値に基づいて算出される下流流路32の水素ガスの圧力変化である。圧力Pa,Pbは、水素ポンプ52が駆動している場合、補正された第1圧力センサ60の検出値である。よって、制御装置80は、水素ポンプ52が駆動している場合、補正された第1圧力センサ60の検出値に基づいて上記の圧力変化を算出する。
【0039】
(式2)は、流量係数Cと、インジェクタ40の流路断面積Aと、インジェクタ40による水素ガスの供給後において第2圧力センサ70が設けられている位置での水素ガスの圧力Pcと、圧力Pbと、水素ガスの密度ρとにより流量Qを算出するオリフィスの実験式である。流量係数C、流路断面積A、密度ρは、定数である。(式2)は、インジェクタ40による水素ガスの供給後において、上流流路31の水素ガスの圧力Pc及び下流流路32の水素ガスの圧力Pbに基づき流量Qを算出する式である。(式2)の圧力Pcは、(式1)を用いて算出できる。
【0040】
制御装置80は、(式1)により算出された流量Qと、ステップS4の処理にて記憶部82に記憶した圧力Pbを(式2)に代入する。制御装置80は、流量Q及び圧力Pbを(式2)に代入することにより圧力Pcを算出する。(式2)により算出された圧力Pcは、上流流路31における第2圧力センサ70が設けられている位置での水素ガスの圧力の理論値である。よって、(式1)と(式2)とにより上流流路31における水素ガスの圧力Pcが推定される。
【0041】
制御装置80は、センサチェック処理S11において第2圧力センサ70の検出値が異常ではないと判定された場合、及びセンサチェック処理S11において第2圧力センサ70の検出値が異常であると判定された場合の両者で圧力推定処理S5を実行する。制御装置80が第2圧力センサ70の検出値が異常であると判断した場合、圧力推定処理S5により推定された圧力Pcが第2圧力センサ70の検出値に代替される。
【0042】
[本実施形態の効果]
本実施形態の効果を説明する。
(1)圧力推定処理S5では、(式1)によりインジェクタ40による水素ガスの供給後における下流流路32に流れた水素ガスの流量Qを算出する。そして、(式1)により算出された流量Q、及びインジェクタ40による水素ガスの供給後における下流流路32の水素ガスの圧力Pbを(式2)に代入する。すると、インジェクタ40による水素ガスの供給後における上流流路31の水素ガスの圧力Pcの理論値が算出される。圧力推定処理S5では、当該理論値を上流流路31の水素ガスの圧力の推定値とする。したがって、水素供給流路30におけるインジェクタ40よりも上流側の水素ガスの圧力を推定できる。
【0043】
(2)制御装置80は、第2圧力センサ70の検出値が異常であると判断した場合に圧力推定処理S5を実行する。制御装置80が第2圧力センサ70の検出値が異常であると判断した場合、第2圧力センサ70により上流流路31の水素ガスの圧力Pcを適切に検出できない。しかし、圧力推定処理S5により上流流路31の水素ガスの圧力Pcを推定できる。このため、第2圧力センサ70に異常が生じても上流流路31の水素ガスの圧力を検出できる代替手段を確保できる。
【0044】
(3)水素ポンプ52が下流流路32に水素ガスを吐出することにより下流流路32の水素ガスの圧力が上昇したとしても、制御装置80が下流流路32の圧力上昇量を加味して第1圧力センサ60の検出値を補正する。圧力推定処理S5では、補正された第1圧力センサ60の検出値を使用して上流流路31の水素ガスの圧力Pcが推定される。よって、水素ポンプ52が駆動していても、より正確に上流流路31の水素ガスの圧力Pcを推定できる。
【0045】
(4)仮に、燃料電池システム10のコスト削減を目的として第2圧力センサ70を省略したとしても、圧力推定処理S5により上流流路31の水素ガスの圧力Pcを推定できる。よって、第2圧力センサ70を省略しても、上流流路31の水素ガスの圧力Pcを推定できるうえに、燃料電池システム10のコスト削減を実現できる。
【0046】
[変更例]
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0047】
○ 制御フローを以下のように変更してもよい。
図3に示すように、制御装置80は、ステップS1の処理の後であって、ステップS2の処理の前にステップS6の処理を追加してもよい。ステップS6の処理は、水素ポンプ52を停止する処理である。すなわち、ステップS2以降の処理において、水素ポンプ52が停止するため、水素ポンプ52の駆動による下流流路32の圧力上昇量を加味する必要がない。よって、圧力Paは、第1検出値P1であり、且つ圧力Pbは、第2検出値P2である。そして、制御装置80は、水素ポンプ52を停止させた状態で圧力推定処理S5を実行する。
【0048】
本変更例によれば、水素ポンプ52が下流流路32に水素ガスを吐出することによる下流流路32の水素ガスの圧力上昇の影響を受けずに圧力推定処理S5が実行される。よって、より正確に上流流路31の水素ガスの圧力Pcを推定できる。なお、ステップS6の処理は、燃料電池20の発電量を制御する発電制御において、燃料電池20の発電量の目標値が「0」となったときに実施される処理であってもよい。すなわち、制御装置80が発電制御を実行している中で水素ポンプ52が停止するタイミングでステップS6の処理を実行してもよい。
【0049】
○ 燃料電池システム10は、燃料電池車両に限らず、例えば定置型燃料電池に適用してもよい。この場合、例えば減圧弁103を省略してもよい。この場合、上流流路31の水素ガスの圧力が一定となる。この場合、圧力推定処理S5を実行することにより推定された上流流路31の水素ガスの圧力Pcは、例えば、上流流路31の水素ガスの圧力が一定となっていることを確認するために使用されてもよい。
【0050】
○ 逆止弁102及び主止弁101を省略してもよい。この場合、水素タンク90の水素ガスの圧力を、インジェクタ40により燃料電池20が要求する水素ガスの圧力まで降圧できることが前提である。
【符号の説明】
【0051】
10…燃料電池システム、20…燃料電池、30…水素供給流路、31…上流流路、32…下流流路、40…インジェクタ、50…循環系統、51…循環流路、52…水素ポンプ、53…気液分離器、60…圧力センサとしての第1圧力センサ、70…第2圧力センサ、80…制御装置、90…水素タンク、ΔP…インジェクタによる水素ガスの供給前後における第1圧力センサの検出値に基づいて算出される下流流路の水素ガスの圧力変化としての差分、V…下流流路の流路体積と循環系統の流路体積との和、Q…インジェクタによる水素ガスの供給後における下流流路に流れた水素ガスの流量、Pc…インジェクタの供給後における上流流路の水素ガスの圧力、Pb…インジェクタの供給後における下流流路の水素ガスの圧力、S5…圧力推定処理。