(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179161
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】積層造形溶接方法および積層造形溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20231212BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20231212BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20231212BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20231212BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231212BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20231212BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20231212BHJP
【FI】
B23K9/095 510A
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B23K9/12 305
B23K9/095 505B
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092290
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 雅之
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081AA02
4E081BA08
4E081BB04
4E081BB15
4E081CA08
4E081CA10
(57)【要約】
【課題】定電圧特性を有する電源を用いる積層造形のためのアーク溶接において、ハンピングビードの発生を抑制する積層造形溶接方法を提供する。
【解決手段】
定電圧特性を有する電源装置10によって消耗電極ワイヤ2に溶接電流Iwを印加する積層造形溶接方法である。積層造形溶接方法は、消耗電極ワイヤと母材との間の溶接電圧Vwを取得するステップS100と、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えたか否かを判定するステップS101と、溶接電圧の上昇量が前記所定の上昇基準を越えない場合、定電圧制御により溶接電圧を制御するステップS103と、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えた場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、かつ、溶接電流の値を増加させるステップと含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定電圧特性を有する電源装置によって消耗電極ワイヤに溶接電流を印加する積層造形溶接方法であって、
前記消耗電極ワイヤと母材との間の溶接電圧を取得するステップと、
前記溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えたか否かを判定するステップと、
前記溶接電圧の上昇量が前記所定の上昇基準を越えない場合、定電圧制御により前記溶接電圧を制御するステップと、
前記溶接電圧の上昇量が前記所定の上昇基準を越えた場合、定電圧制御により前記溶接電圧を制御し、かつ、前記溶接電流の値を増加させるステップと含む、積層造形溶接方法。
【請求項2】
前記溶接電流の値を増加させるステップは、前記消耗電極ワイヤの送給速度を上昇させる処理を含む、請求項1に記載の積層造形溶接方法。
【請求項3】
前記溶接電流の値を増加させるステップは、前記電源装置の目標電圧を上昇させる処理を含む、請求項1に記載の積層造形溶接方法。
【請求項4】
前記溶接電圧の上昇量が前記所定の上昇基準を越えた後に、前記溶接電圧の減少量が所定の減少基準を越えたか否かを判定するステップと、
前記溶接電圧の減少量が前記所定の減少基準を越えない場合、定電圧制御により前記溶接電圧を制御するステップと、
前記溶接電圧の減少量が前記所定の減少基準を越えた場合、定電圧制御により前記溶接電圧を制御し、かつ、前記目標電圧を減少させるステップとをさらに含む、請求項3に記載の積層造形溶接方法。
【請求項5】
消耗電極ワイヤに溶接電流を印加するアーク溶接を行う積層造形溶接装置であって、
溶接トーチと、
定電圧特性を有する電源装置と、
前記溶接トーチに前記消耗電極ワイヤを送給する送給装置とを備え、
前記電源装置は、
前記消耗電極ワイヤと母材との間の溶接電圧を検出する溶接電圧検出回路と、
前記溶接電圧の値および前記溶接電流の値を制御する制御装置とを含み、
前記制御装置は、
前記溶接電圧検出回路によって検出された前記溶接電圧を取得し、
前記溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えない場合、定電圧制御により前記溶接電圧を制御し、
前記溶接電圧の上昇量が前記所定の上昇基準を越えた場合、定電圧制御により前記溶接電圧を制御し、かつ、前記溶接電流の値を増加させる、積層造形溶接装置。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記溶接電圧の上昇量が前記所定の上昇基準を超えた場合、前記消耗電極ワイヤの送給速度を上昇させる、請求項5に記載の積層造形溶接装置。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記溶接電圧の上昇量が前記所定の上昇基準を超えた場合、前記電源装置の目標電圧を上昇させる、請求項5に記載の積層造形溶接装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記溶接電圧の上昇量が前記所定の上昇基準を超えた後に、検出された前記溶接電圧を取得し、
前記溶接電圧の減少量が所定の減少基準を越えない場合、定電圧制御により前記溶接電圧を制御し、
前記溶接電圧の減少量が前記所定の減少基準を越えた場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、かつ、前記目標電圧を減少させる、請求項7に記載の積層造形溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形溶接方法および積層造形溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アーク溶接によって3次元の積層造形物を製造する技術が知られている。このようなアーク溶接では、溶着ビードを重ねて溶接することによって積層造形物が製造される。特許文献1(特開2022-020394号公報)には、溶着ビードを積層する下地部分の形状を非接触により計測して、計測結果に基づいてアーク溶接を行うロボットアームを制御する製造システムが開示されている。
【0003】
アークの形状が不安定な状態でアーク溶接が行われると、アーク溶接によって製造される積層造形物の表面形状も不安定となり、積層精度は低下し得る。そのため、このようなアーク溶接では、アークの形状を安定させるためにアーク長を一定に保つ定電圧特性を有する電源が用いられ得る。定電圧特性によるアーク溶接では、印加される溶接電圧の値が一定となるように制御されることによって、ワイヤの供給速度と溶融速度とが平衡状態となったときのアーク長が一意に定まる。このような定電圧特性は、アーク長の自己制御作用として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、定電圧特性の電源を有する積層造形溶接装置において、積層造形物の表面にハンピングビードという種類の不整ビードが形成されてしまうことがある。ハンピングビードが生じる場合、積層造形物の表面には、不連続なこぶ状の隆起が形成されてしまう。ハンピングビードは、下地部分への入熱不足に起因して発生する。
【0006】
下地部分が低熱状態であること、またはワイヤ送給速度が遅くなることなどの外因によって、アーク長は意図せずに増大し得る。アーク長が増大すれば、定電圧特性の電源においては溶接電流の値が小さくなる。溶接電流の値の減少によって下地部分における入熱不足の状態が継続すると、積層造形物の表面に、不連続なこぶ形状のハンピングビードが発生してしまう。
【0007】
本開示は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、定電圧特性を有する電源を用いる積層造形のためのアーク溶接において、ハンピングビードの発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある局面に係る積層造形溶接方法は、定電圧特性を有する電源装置によって消耗電極ワイヤに溶接電流を印加する積層造形溶接方法に関する。溶接方法は、消耗電極ワイヤと母材との間の溶接電圧を取得するステップと、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えたか否かを判定するステップと、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えない場合、定電圧制御により溶接電圧を制御するステップと、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えた場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、かつ、溶接電流の値を増加するステップと含む。
【0009】
好ましくは、溶接電流の値を増加するステップは、消耗電極ワイヤの送給速度を上昇させる処理を含む。
【0010】
好ましくは、溶接電流の値を増加するステップは、電源装置の目標電圧を上昇させる処理を含む。
【0011】
好ましくは、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えた後に、溶接電圧の減少量が所定の減少基準を越えたか否かを判定するステップと、溶接電圧の減少量が所定の減少基準を越えない場合、定電圧制御により溶接電圧を制御するステップと、溶接電圧の減少量が所定の減少基準を越えた場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、かつ、目標電圧を減少させるステップとをさらに含む。
【0012】
本開示の他の局面に係る積層造形溶接装置は、消耗電極ワイヤに溶接電流を印加するアーク溶接を行う積層造形溶接装置に関する。積層造形溶接装置は、溶接トーチと、定電圧特性を有する電源装置と、溶接トーチに消耗電極ワイヤを送給する送給装置とを備える。電源装置は、消耗電極ワイヤと母材との間の溶接電圧を検出する溶接電圧検出回路と、溶接電圧の値および溶接電流の値を制御する制御装置とを含む。制御装置は、溶接電圧検出回路によって検出された溶接電圧を取得し、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えない場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えた場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、かつ、溶接電流の値を増加する。
【0013】
好ましくは、制御装置は、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を超えた場合、消耗電極ワイヤの送給速度を上昇させる。
【0014】
好ましくは、制御装置は、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を超えた場合、電源装置の目標電圧を上昇させる。
【0015】
好ましくは、制御装置は、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を超えた後に、検出された溶接電圧を取得し、溶接電圧の減少量が所定の減少基準を越えない場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、溶接電圧の減少量が所定の減少基準を越えた場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、かつ、目標電圧を減少させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、定電圧特性を有する電源を用いる積層造形のためのアーク溶接において、ハンピングビードの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態1に係る積層造形溶接装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】ハンピングビードの発生要因の一例を説明するための第1図である。
【
図3】ハンピングビードの発生要因の一例を説明するための第2図である。
【
図4】実施の形態1の定電圧特性における制御を説明するための図である。
【
図5】実施の形態1における溶接電流、溶接電圧、およびワイヤ送給速度のタイミングチャートを示す図である。
【
図6】実施の形態1における制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】実施の形態2の定電圧特性における制御を説明するための図である。
【
図8】実施の形態2における溶接電流、溶接電圧、およびワイヤ送給速度のタイミングチャートを示す図である。
【
図9】実施の形態2における制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図10】実施の形態2における後処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、複数の実施の形態について説明するが、各実施の形態で説明された構成を適宜組み合わせることは出願当初から予定されている。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1に係る積層造形溶接装置1の構成を示すブロック図である。
図1に示す積層造形溶接装置1は、消耗電極ワイヤ2を用いるガスシールドアーク溶接を行う積層造形溶接装置である。実施の形態1に係る積層造形溶接装置1では、短絡移行溶接等が行われる。実施の形態1の積層造形溶接方法では、アーク溶接に用いられる溶材として消耗電極ワイヤ2が用いられる。
【0020】
積層造形溶接装置1は、電源装置10と、ワイヤ送給装置3と、溶接トーチ4とを備える。電源装置10は、所定の設定電圧を保持するように制御する定電圧特性を有する電源である。電源装置10は、溶接電流Iwを消耗電極ワイヤ2に印加する。また、電源装置10は、消耗電極ワイヤ2の供給速度を調整する。ワイヤ送給装置3は、溶材として用いられる消耗電極ワイヤ2を溶接トーチ4に送給する。
【0021】
電源装置10は、溶接電源11と、電流検出回路12と、制御装置14と、溶接電圧設定部15と、電圧検出回路16と、モータドライバ17と、ワイヤ送給速度制御装置18と、溶接電流設定部19とを含む。
【0022】
溶接電源11は、溶接電流Iwを消耗電極ワイヤ2に供給する。溶接電源11は、系統電源から供給された電力をアーク溶接に用いることが可能な電力に変換する装置を含む。溶接トーチ4は、消耗電極ワイヤ2に電圧を与えるためのコンタクトチップを含む。溶接トーチ4には、図示しないシールドガス供給部によってシールドガスが供給される。シールドガスは、たとえば、アルゴン、CO2などおよびこれらを含む混合ガスが用いられる。
【0023】
実施の形態1における積層造形溶接装置1では、溶接ビードを積層して積層造形物を形成する。
図1に示される例では、既に第1層Pe1と第2層Pe2とが形成されている。第2層Pe2は、第1層Pe1の上方に形成されている。
図1には、第2層Pe2の上方にさらに第3層Pe3が形成される過程が示されている。
【0024】
ワイヤ送給装置3は、ローラ31とモータ32とを含む。ワイヤ送給速度制御装置18は、目標電流Isetに基づいてワイヤ送給速度WFの初期値を決定する。モータドライバ17は、ワイヤ送給速度制御装置18によって制御され、ワイヤ送給装置3のモータ32を動作させる。モータドライバ17は、たとえばインバータ回路である。
【0025】
消耗電極ワイヤ2に溶接電圧Vwが印加された状態でワイヤ送給装置3により消耗電極ワイヤ2の送給が開始されることで消耗電極ワイヤ2の先端が母材に接触する。その後、消耗電極ワイヤ2の先端が溶融し消耗電極ワイヤ2と母材とが離れたときに、アーク20は発生する。以下では、アーク20の長さをアーク長Lと称する。
【0026】
溶接電圧設定部15は、ユーザから受け付けた電圧値の初期値を目標電圧Vsetとして設定する。制御装置14は、溶接電圧設定部15によって設定された目標電圧Vsetを受信する。溶接電流設定部は、ユーザから受け付けた電流値の初期値を目標電流Isetとして設定する。ワイヤ送給速度制御装置18は、溶接電流設定部19によって設定された目標電流Isetを受信する。
【0027】
上述したように、実施の形態1における電源装置10は、定電圧特性を有する。制御装置14は、印加される溶接電圧Vwを一定に制御することにより、ワイヤの送給速度WFと溶融速度とが平衡状態となったときのアーク長Lが一定になるように制御する。すなわち、制御装置14は、コンタクトチップと母材との間の溶接電圧Vwが目標電圧Vsetとなるように制御されて、アーク長Lは一定に保持される。
【0028】
以下では、定電圧特性によりアーク長Lが一定に保持されることについて、アーク長Lが増大したときとアーク長Lが減少したときとに分けて説明する。溶接電圧Vwが印加されることによってアーク20が形成された後、アーク長Lは外乱によってわずかに変化し得る。
【0029】
これらの外乱によってアーク長Lがわずかに増大した場合、溶接電圧Vwが増加する。制御装置14は、アーク長Lを減少させて溶接電圧Vwが一定になるように制御する。その結果、アーク長の自己制御作用によって溶接電流Iwの値は低下し、ワイヤ溶融速度が遅くなることで、溶接トーチ4から突き出す消耗電極ワイヤ2の長さが増長する。すなわち、外乱により増大していたアーク長Lは、減少して元の長さに戻る。
【0030】
これに対して、外乱によってアーク長Lがわずかに減少した場合、溶接電圧Vwが減少する。制御装置14はアーク長Lを増加させて溶接電圧Vwが一定になるように制御する。その結果、アーク長の自己制御作用によって溶接電流Iwの値は増加し、ワイヤ溶融速度が速くなることで、溶接トーチ4から突き出す消耗電極ワイヤ2の長さが減少する。すなわち、外乱により減少していたアーク長Lは、増長して元の長さに戻る。
【0031】
定電圧特性を有する電源装置10では、アーク長Lが増加および減少した場合に、ワイヤ送給速度WFと消耗電極ワイヤ2の溶融速度との関係からアーク長Lは元の長さに戻ろうとする。すなわち、溶接電圧Vwの値に応じてワイヤ送給速度WFと消耗電極ワイヤ2の溶融速度とが平衡状態にとなるアーク長Lは、溶接電圧Vwの値とワイヤ送給速度WFとから一意に定まる。
【0032】
このように、制御装置14は溶接電圧Vwを一定に制御することによってアーク長Lを一定の長さに保持できる。以下では、このような定電圧特性によってアーク長Lの長さを一定に保つために溶接電圧Vwを一定とする制御を「定電圧制御」と称する。
【0033】
定電圧特性を有する電源装置10では、上述したように、外乱などによりアーク長Lが増大した場合、溶接電流Iwの値が減少するため、消耗電極ワイヤ2への入熱量は減少してしまう。入熱量が減少した状態が続けば、第2層Pe2への入熱不足が助長され、積層造形物の表面には、不連続なこぶ形状のハンピングビードが発生し得る。特に積層造形物の製造においては、通常の溶接よりも成形品の表面品質が重要視されるため、表面に不連続なこぶ形状が形成されるハンピングビードが発生してしまうことは望ましくない。
【0034】
図2は、ハンピングビードの発生要因の一例を説明するための第1図である。
図2には、溶接トーチ4と第3層Pe3,第2層Pe2の断面が示されている。溶接トーチ4は、X軸の正方向を溶接方向として溶接を行う。消耗電極ワイヤ2と母材である第2層Pe2との間の距離は、アーク長L1として示されている。
図2に示される状態では、母材である第2層Pe2に対して入熱不足は発生しておらず、設定された条件で適切な溶接が行われている。
【0035】
図3は、ハンピングビードの発生要因の一例を説明するための第2図である。ワイヤ送給速度WFにばらつきが生じたり、第2層Pe2において低温箇所にアーク20が到達したりすることなどの外因によって第2層Pe2への入熱不足は発生する。第2層Pe2への入熱不足が発生すると、当該入熱不足の領域よりも自由電子の活性が高い溶融池の抵抗が相対的に低くなるため、アーク20は、溶接方向と反対側の溶融池の方向に引っ張られてしまう。その結果、
図3に示されるように、アーク20の長さは、アーク長L1からアーク長L2となる。
図3におけるアーク20は第2層Pe2の表面に対して垂直に形成されず、傾いて形成される。そのため、アーク長L2は、アーク長L1よりも長くなる。
【0036】
このように、外乱によってアーク20が溶接方向に対して後方に引っ張られることによって、アーク長Lは増大する。上述したように、定電圧特性を有する電源ではアーク長Lの増大に伴い、印加される溶接電流は減少してしまう。その結果、母材は入熱不足の状態となり、ハンピングビードが発生し得る。以下では、
図4を用いて、ハンピングビードの発生を抑制する実施の形態1の積層造形溶接方法について説明する。
【0037】
図4は、実施の形態1の定電圧特性における制御を説明するための図である。縦軸は、電圧検出回路16によって検出される溶接電圧Vwを示し、横軸は電流検出回路12によって検出される溶接電流Iwを示す。
【0038】
上述したように、印加される溶接電圧Vwが定まればアーク長Lは自己制御作用によって一意の長さに定まる。
図4には、溶接電圧設定部15によって設定される目標電圧Vsetを実現するための線Ln1が示されている。線Ln1は、目標電圧Vsetの値に応じて定められる特性線である。制御装置14は、ユーザによって設定される目標電圧Vsetの値ごとに特性線を変化させる。
【0039】
電源装置10は定電圧特性を有するため、
図4に示されるようにアーク長が増大すると溶接電圧Vwはわずかに増加し、溶接電流Iwが低下する。また、アーク長が減少すると溶接電圧Vwがわずかに減少し、溶接電流Iwが増加する。
【0040】
定電圧制御を行う制御装置14では、上述したようにアーク長Lが外乱によってわずかに変化しても溶接電流Iwの値が増減することによって、溶接電圧Vwの値は、線Ln1上における目標電圧Vsetに保たれる。
【0041】
図4には、アーク長L1のときのアーク特性として線Ln2が示されており、アーク長L2のときのアーク特性として線Ln3が示されている。アーク特性は、溶接電圧Vwと溶接電流Iwとの関係性を示す。すなわち、アーク長L1のとき、溶接電圧Vwと溶接電流Iwとは線Ln2に示される関係で変化し、アーク長L2のとき、溶接電圧Vwと溶接電流Iwとは線Ln3に示される関係で変化する。
【0042】
印加される溶接電圧Vwが定まればアーク長Lは自己制御作用によって一意の長さに定まることから、制御装置14は、検出された溶接電圧Vwの値からアーク長Lを推定できる。たとえば、
図2において制御装置14は、電圧検出回路16によって検出された溶接電圧Vwの値からアーク20の長さがアーク長L1であることを推定できる。実施の形態1では、アーク20の長さがアーク長L1であるとき、定電圧制御を行う制御装置14は、溶接電圧Vwを目標電圧Vsetに保持しようとする。溶接電流Iwは、自己制御作用により、線Ln1と線Ln2との交点Xp1に対応する溶接電流IwBとなる。
【0043】
図2,3にて説明したように、アーク20が傾くことによりアーク20の長さがアーク長L1からアーク長L2へと増大した場合、アーク特性は、線Ln2から線Ln3へと変化し、かつ、定電圧制御を行う制御装置14は、溶接電圧Vwの値を線Ln1上に保持する。そのため、溶接電流Iwの値は、交点Xp2に対応する溶接電流IwAとなる。換言すれば、溶接電流Iwの値は、溶接電流IwBから溶接電流IwAまで減少する。一方で、溶接電圧Vwの値は、目標電圧Vsetから溶接電圧VwHまで増加する。
【0044】
図3に示されるようなアーク20の傾きによるアーク長Lの増大により、溶接電流Iwが溶接電流IwBから溶接電流IwAへ減少して入熱不足の状態が継続すれば、ハンピングビードの発生につながり得る。そこで、実施の形態1における積層造形溶接方法では、
図3にて説明したように外乱によってアーク長が増大してしまった場合、ワイヤ送給速度WFを上昇させる。これにより、実施の形態1における積層造形溶接方法では、減少した溶接電流Iwの値を瞬間的に元に戻す。具体的には、制御装置14は、溶接電流Iwの値を溶接電流IwAから溶接電流IwBまで増加させる。
【0045】
実施の形態1における制御装置14は、溶接電圧Vwの値が急増したことを検出して、アーク20が傾きアーク長Lが増大したか否かを判断する。より具体的には、制御装置14は、溶接電圧Vwの値が所定の上昇基準を越えたか否かに基づいて、溶接電圧Vwの値が急増したかを判断する。所定の上昇基準については、後述にて説明する。
【0046】
制御装置14は、溶接電圧Vwの値が急増したと判断する場合、溶接電流設定部19から出力される目標電流Isetを増加させる。目標電流Isetが増加すると、ワイヤ送給速度制御装置18はワイヤ送給速度WFを上昇させる。ワイヤ送給装置3からの消耗電極ワイヤ2の送給速度がワイヤ溶融速度よりも速くなれば、アーク長Lは短くなる。すなわち、実施の形態1における積層造形溶接方法では、定電圧制御によって溶接電流を一定に保つことができ、入熱不足の状態を維持することなく、ハンピングビードの発生を抑制できる。
【0047】
制御装置14は、ワイヤ送給速度を一定の傾きを持って上昇させる。これにより、
図3に示されるような外乱によりアーク長L1からアーク長L2まで増加したアーク20の長さは、アーク長L1に戻る。これにより、実施の形態1の積層造形溶接方法では、定電圧特性を有する電源を用いる積層造形のためのアーク溶接において、入熱不足の状態が維持されることなくハンピングビードの発生を抑制できる。なお、制御装置14は、消耗電極ワイヤ2の送給速度を上昇させたことによって、溶接電圧Vwの値が急増する前の目標電圧Vsetまで減少したと判断するとき、消耗電極ワイヤ2の送給速度の上昇を停止してもよい。
【0048】
図5は、実施の形態1における溶接電流、溶接電圧、およびワイヤ送給速度のタイミングチャートを示す図である。実施の形態1における積層造形溶接方法では、短絡移行溶接が行われるため、一定周期ごとに短絡する。
図5に示されるように、積層造形溶接装置1は、タイミングT1~T2までを周期P1、タイミングT2~T3までを周期P2、タイミングT3~T4までを周期P3、タイミングT4~T5までを周期P4として、各周期内において短絡とアーク20の形成を繰り返す。なお、短絡周期Pは、たとえば、10ms程度である。
【0049】
短絡移行溶接において、アーク20が形成された後、アーク長Lは次第に短くなり、消耗電極ワイヤ2が母材に接触する。これによって、アーク長Lは短くなり、消耗電極ワイヤ2が母材に接触する。消耗電極ワイヤ2が母材と接触したときから、短絡期間は開始する。各周期の短絡期間において、短絡によって母材と消耗電極ワイヤ2との間に電気抵抗値が急激に小さくなるため、溶接電流Iwは上昇し、溶接電圧Vwは数ボルトにまで低下する。
【0050】
以下では、溶接電圧Vwの値が急増したか否かを判断するための所定の上昇基準について説明する。制御装置14は、溶接電圧Vwの値を取得するごとに溶接電圧Vwの移動平均値を取得する。すなわち、制御装置14は、電圧検出回路16によって連続的に検出される溶接電圧Vwの値を取得したタイミングから所定の期間分だけ遡った溶接電圧Vwの値の移動平均値を算出する。所定の期間とは、たとえば、100msである。100msあたりの移動平均値の上昇量が、たとえば、3.0V以上増加している場合、制御装置14は、所定の上昇基準が満たされていると判断する。なお、移動平均値の上昇量の閾値は、3.0Vに限られず、たとえば、制御装置14は、移動平均値の上昇量が5.0V以上増加している場合に、所定の上昇基準が満たされていると判断してもよい。
【0051】
図5に示されているように、周期P2における溶接電圧Vwは、周期P1における溶接電圧Vwよりも、外乱が発生したことによって大きくなっている。
図5のタイミングTsでは、制御装置14は、タイミングTsから100ms前の期間の移動平均値の上昇量が3.0V以上増大したことを検出する。このように移動平均値の監視によって、制御装置14は、アーク20が入熱不足により後方に引っ張られてアーク長Lが増加したと判断できる。
【0052】
制御装置14は、溶接電圧Vwの上昇量が所定の基準を越えたことに応答して、タイミングTsにおいてワイヤ送給速度WFを上昇させる。これにより、アーク長Lは短くなる。
【0053】
図5の例では、ワイヤ送給速度WFは、速度SpBから速度SpAまで上昇する。これにより、溶接電流Iwは瞬間的に減少する前の溶接電流Iwに値まで増加する。
図5に示されるように各周期の溶接電流Iwの値を示す波形は、同様の形状となる。このように、実施の形態1における積層造形溶接方法では、ワイヤ送給速度WFを上昇させることによって、
図5に示されている溶接電流Iwの波形の形状を変化させず一定に保つことができ、入熱不足の状態を維持することなく、ハンピングビードの発生を抑制できる。
【0054】
<処理手順>
図6は、実施の形態1における制御装置14の処理手順を示すフローチャートである。実施の形態1において制御装置14は、
図6に示されるフローチャートを所定の間隔にて実行する。制御装置14は、電圧検出回路16によって検出された溶接電圧Vwを取得する(ステップS100)。制御装置14は、溶接電圧Vwの上昇量が所定の上昇基準を越えたか否かを判断する(ステップS101)。実施の形態1における所定の上昇基準は、
図5にて説明したように短絡移行溶接において移動平均値の上昇量が予め定められた上昇量以上増加したか否かを判断する基準である。なお、制御装置14は、移動平均値を使用せずに、たとえば、制御装置14は、溶接電圧Vwの傾きが予め定められた傾きを超えた場合に所定の上昇基準を満たしたと判断してもよい。
【0055】
制御装置14は、検出した溶接電圧Vwの上昇量が所定の上昇基準を越えていない場合(ステップS101でNO)、定電圧制御により溶接電圧Vwを制御し(ステップS103)、処理を終了する。すなわち、制御装置14は、ワイヤ送給速度を上昇させずに溶接電圧Vwを目標電圧Vsetに保持する。
【0056】
制御装置14は、溶接電圧Vwの上昇量が所定の上昇基準を越えた場合(ステップS101でYES)、定電圧制御により溶接電圧Vwを一定に制御し、かつ、溶接電流Iwを増加させる(ステップS102)。ステップS102において、実施の形態1における制御装置14は、溶接電流Iwを増加させるためにワイヤ送給速度WFを上昇させる。これにより、実施の形態1では、入熱不足の状態が継続してハンピングビードが発生してしまうことを抑制できる。
【0057】
[実施の形態2]
実施の形態1においては、ワイヤ送給速度WFを上昇させることによって溶接電流Iwを増加させる例について説明した。しかしながら、溶接電圧Vwが急増したときに溶接電流Iwを増加させる方法は、ワイヤ送給速度WFを上昇させることだけに限られない。実施の形態2では、目標電圧Vsetを増加させることによって溶接電流Iwを増加させる例について説明する。なお、実施の形態2において、実施の形態1と重複する構成の説明については繰り返さない。
【0058】
図7は、実施の形態2の定電圧特性における制御を説明するための図である。
図7には、
図4に示されている線Ln1~Ln3に加えて、目標電圧Vset2を実現するための線Ln4が示されている。
図8の例では、制御装置14は、外乱によりアーク長L1からアーク長L2に増加したとき、ワイヤ送給速度WFを上昇させずに、目標電圧Vsetを目標電圧Vset2に変化させる。すなわち、制御装置14は、溶接電圧Vwの値の急増を検出したときに、電源装置10の目標電圧を上昇させる。これにより、目標電圧を実現するための特性線が線Ln1から線Ln4へと変化する。
【0059】
アーク長L2のときに目標電圧が目標電圧Vsetから目標電圧Vset2へと変更することによって、溶接電流Iwの値は、アーク長L2のときのアーク特性を示す線Ln3と線Ln4の交点Xp3に対応する溶接電流IwBまで上昇する。すなわち、溶接電流Iwの値は、目標電圧の変更により保持される。これにより、実施の形態2の積層造形溶接方法においても、定電圧特性を有する電源を用いる積層造形のためのアーク溶接において、入熱不足を助長させることなくハンピングビードの発生を抑制できる。
【0060】
図8は、実施の形態2における溶接電流、溶接電圧、およびワイヤ送給速度のタイミングチャートを示す図である。
図8では、
図5のタイミングチャートと異なり、電圧検出回路16によって検出される溶接電圧Vwの値が実線LnEとして示されており、目標電圧Vsetまたは目標電圧Vset2が破線LnSとして示されている。周期P1,P3,P6においては、実線LnEと破線LnSとが重なり合っている。すなわち、溶接電圧Vwは、設定された目標電圧通りに制御されている。
【0061】
図2,3にて説明したようにアーク20が傾くことによるアーク長Lの増加によって、周期P2では、検出される溶接電圧Vwは、急増して目標電圧Vsetから溶接電圧VwHまで増大してしまう。実施の形態2では、上述した手法にて溶接電圧Vwが急増したことを検出した制御装置14は、目標電圧Vsetを実現するための線Ln1を、目標電圧Vset2を実現するための線Ln4へと変更する。
【0062】
これにより、周期P3では、検出される溶接電圧Vwが目標電圧Vset2まで上昇し、実線LnEと破線LnSとが重なり合う。その後、外乱などによってアーク長が変化するまでは、制御装置14は、目標電圧Vset2を保持しアーク長Lを一定とすることができる。このように、実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、定電圧特性を有する電源を用いる積層造形のためのアーク溶接において、目標電圧Vsetを上昇させて溶接電流Iwを増加させることにより、入熱不足の状態を継続させずにハンピングビードの発生を抑制できる。
【0063】
なお、
図5の例では、周期P2において溶接電圧Vwが急増し、周期P3において目標電圧を目標電圧Vsetから目標電圧Vset2に上昇させる例について説明しているが、制御装置14は、周期P2において溶接電圧Vwが急増したタイミングにて目標電圧Vsetを目標電圧Vset2へと上昇させてもよい。すなわち、周期P2内において、溶接電圧Vwの急増の検出と目標電圧の上昇の両方が行われてもよい。
【0064】
図9は、実施の形態2における制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
図9には、
図6とステップS102以外は同一のフローチャートが示されている。
図6では、溶接電流Iwの値を増加させるため、ワイヤ送給速度WFを上昇させたことに対して、
図9では溶接電流Iwの値を増加させるため、目標電圧を上昇させる。
【0065】
すなわち、実施の形態2における制御装置14は、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を超えたと判断する場合(ステップS101でYES)、目標電圧を上昇させる(ステップS102A)。これにより、実施の形態2では、溶接電流Iwを増加させることができ、入熱不足の状態が継続することを抑制して、ハンピングビードの発生を抑制できる。
【0066】
図10は、実施の形態2における後処理を示すフローチャートである。
図8の周期P3~周期P5にて説明したように、制御装置14は、目標電圧を上昇させた後、溶接電圧Vwの急減を検出することによって目標電圧を減少させる。
図9のステップS102Aにて目標電圧を上昇させた後、制御装置14は、
図10に示されるフローチャートを所定の間隔にて実行する。
【0067】
制御装置14は、溶接電圧Vwを取得する(ステップS200)。制御装置14は、溶接電圧Vwの減少量が所定の減少基準を超えたか否かを判断する(ステップS201)。
【0068】
溶接電圧Vwの減少量が所定の減少基準を超えない場合(ステップS201でNO)、制御装置14は、定電圧制御により溶接電圧Vwを制御し(ステップS203)、処理を終了する。溶接電圧Vwの減少量が所定の減少基準を超える場合(ステップS201でYES)、制御装置14は、定電圧制御により溶接電圧Vwを制御し、かつ、目標電圧を減少させる(ステップS202)。これにより、実施の形態2における積層造形溶接方法では、ステップS102Aによって目標電圧の値が上昇し続けることを抑制することができる。
【0069】
[実験例]
以下、本開示を適用した実験例を説明する。アルミ合金による積層造形において、溶接速度80cm/min、溶接電流70Aに対応する溶接電圧、ワイヤ送給速度5.0m/minの条件で溶接を行う実験において、入熱不足によりハンピングが生じて、積層造形物に凹凸が生じた。制御装置14は、溶接電圧の移動平均値の増加が3.0V/100msを超えた場合、ハンピングを検知し、ワイヤ送給速度を6.0m/minに変更した。その結果、溶接電流Iwの低下を抑制できハンピングの発生を抑制し、滑らかな表面の積層造形物が生成された。
【0070】
また、アルミ合金による積層造形において、溶接速度100cm/min、目標電圧13.0Vの条件で溶接を行っていたところ、入熱不足によりハンピングが生じて、積層造形物に凹凸が生じた。溶接電圧の移動平均値の増加が3.0V/100msを超えた場合、目標の電圧を15.0Vに変更した。その結果、溶接電流Iwの低下を抑制できハンピングの発生を抑制し、滑らかな表面の積層造形物が生成された。
(まとめ)
(第1項) 本開示は、定電圧特性を有する電源装置10によって消耗電極ワイヤ2に溶接電流を印加する積層造形溶接方法に関する。積層造形溶接方法は、消耗電極ワイヤ2と母材との間の溶接電圧を取得するステップS100と、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えたか否かを判定するステップS101と、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えない場合、定電圧制御により溶接電圧を制御するステップS103と、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えた場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、かつ、溶接電流の値を増加させるステップS102と含む。
【0071】
(第2項) 第1項において、溶接電流の値を増加させるステップは、消耗電極ワイヤの送給速度を上昇させる処理を含む。
【0072】
(第3項) 第1項において、溶接電流の値を増加させるステップは、電源装置の目標電圧を上昇させる処理を含む。
【0073】
(第4項) 第3項において、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えた後に、溶接電圧の減少量が所定の減少基準を越えたか否かを判定するステップS200と、溶接電圧の減少量が所定の減少基準を越えない場合、定電圧制御により溶接電圧を制御するステップS203と、溶接電圧の減少量が所定の減少基準を越えた場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、かつ、目標電圧を減少させるステップS202とをさらに含む。
【0074】
(第5項) 本開示の他の局面に係る積層造形溶接装置1は、消耗電極ワイヤ2に溶接電流を印加するアーク溶接を行う積層造形溶接装置1に関する。積層造形溶接装置1は、溶接トーチ4と、定電圧特性を有する電源装置10と、溶接トーチ4に消耗電極ワイヤ2を送給するワイヤ送給装置3とを備える。電源装置10は、消耗電極ワイヤ2と母材との間の溶接電圧を検出する電圧検出回路16と、溶接電圧の値および溶接電流の値を制御する制御装置14とを含む。制御装置14は、電圧検出回路16によって検出された溶接電圧を取得し、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えない場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を越えた場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、かつ、溶接電流の値を増加させる。
【0075】
(第6項) 第5項において、制御装置14は、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を超えた場合、消耗電極ワイヤ2の送給速度を上昇させる。
【0076】
(第7項) 第5項において、制御装置14は、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を超えた場合、電源装置10の目標電圧を上昇させる。
【0077】
(第8項) 第7項において、制御装置14は、溶接電圧の上昇量が所定の上昇基準を超えた後に、検出された溶接電圧を取得し、溶接電圧の減少量が所定の減少基準を越えない場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、溶接電圧の減少量が所定の減少基準を越えた場合、定電圧制御により溶接電圧を制御し、かつ、目標電圧を減少させる。
【0078】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
1 積層造形溶接装置、2 消耗電極ワイヤ、3 ワイヤ供給装置、4 溶接トーチ、10 電源装置、11 溶接電源、12 電流検出回路、14 制御装置、15 溶接電圧設定部、16 電圧検出回路、17 モータドライバ、18 ワイヤ供給速度制御装置、19 溶接電流設定部、20 アーク、31 ローラ、32 モータ、Iw,IwA,IwB 溶接電流、L,L1,L2 アーク長、Ln1~Ln4 線、LnE 実線、LnS 破線、P 短絡周期、P1~P6 周期、Pe1~Pe3 第1層~第3層、SpA,SpB 速度、T1~T5,Ts タイミング、Iset 目標電流、Vset,Vset2 目標電圧、Vw,VwH 溶接電圧、WF 給速度、Xp1~Xp3 交点。