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特開2023-179173起歪体およびこれを備えた作業ロボット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179173
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】起歪体およびこれを備えた作業ロボット
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20231212BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G01L3/10 311
G01L5/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092313
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】早川 慶
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AA10
(57)【要約】
【課題】起歪体の交換作業を容易化する。
【解決手段】起歪体1は、モータ51により回転駆動される回転体のトルクを受けて弾性変形し、かつその変形量がトルクの検出に利用されるものである。起歪体1は、外周面22と、外周面22の内側に形成され、かつモータ51に接続されるケーブル54が挿通される中空部S1を画成する内周面21と、内周面21から外周面22へと至る径方向に延びるスリット(25,26)とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより回転駆動される回転体のトルクを受けて弾性変形し、かつその変形量がトルクの検出に利用される起歪体であって、
外周面と、
前記外周面の内側に形成され、かつ前記モータに接続されるケーブルが挿通される中空部を画成する内周面と、
前記内周面から前記外周面へと至る径方向に延びるスリットとを備えた、起歪体。
【請求項2】
請求項1に記載の起歪体において、
前記外周面を有するリング状の外輪部と、
前記内周面を有するリング状の内輪部と、
前記外輪部と前記内輪部とを径方向に連結し、かつ周方向に互いに隙間を空けつつ並ぶ複数のスポーク部とを備え、
前記スリットは、前記内輪部を径方向に貫通する第1スリットと、前記外輪部を径方向に貫通する第2スリットとを含む、起歪体。
【請求項3】
請求項2に記載の起歪体において、
前記第1スリットの対向縁部どうしを連結するように前記内輪部に着脱自在に取り付けられた内側補強部材を備えた、起歪体。
【請求項4】
請求項3に記載の起歪体において、
前記内側補強部材は、前記内輪部の軸方向の一方側において前記第1スリットを跨ぐように周方向に延びかつその両端部が前記内輪部に固定される板状の本体部と、当該本体部から前記軸方向の他方側に突出して前記第1スリットの内部に嵌入される突出部とを含む、起歪体。
【請求項5】
請求項2に記載の起歪体において、
前記第2スリットの対向縁部どうしを連結するように前記外輪部に着脱自在に取り付けられた外側補強部材を備えた、起歪体。
【請求項6】
請求項5に記載の起歪体において、
前記外側補強部材は、前記外輪部の軸方向の一方側において前記第2スリットを跨ぐように周方向に延びかつその両端部が前記外輪部に固定される板状の本体部と、当該本体部から前記軸方向の他方側に突出して前記第2スリットの内部に嵌入される突出部とを含む、起歪体。
【請求項7】
請求項2に記載の起歪体において、
複数の前記スポーク部どうしの隙間を軸方向の一方側から覆う着脱自在なカバーを備えた、起歪体。
【請求項8】
請求項2に記載の起歪体において、
前記内輪部、前記外輪部、及び前記スポーク部に対応する同一の平面形状を有しかつ厚み方向に互いに積層、固定された複数の起歪プレートを含む、起歪体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の起歪体と、
前記モータにより回転駆動される前記回転体としてのロボットアームと、
前記起歪体の変形量に基づき前記ロボットアームに作用するトルクを検出するトルクセンサとを備えた、作業ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクの検出に利用される起歪体およびこれを備えた作業ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
前記起歪体を用いたトルクセンサとして、下記特許文献1のものが知られている。具体的に、この特許文献1のトルクセンサは、リング状の金属板からなる起歪体の歪み(弾性変形)を電気信号に変換するセンサであり、起歪体に取り付けられた歪ゲージと、当該歪ゲージと電気的に接続されたブリッジ回路とを備える。トルクの入力を受けて起歪体(金属板)が弾性変形すると、その変形に応じて歪ゲージ内に抵抗変化が生じ、その抵抗変化に応じた電気信号がブリッジ回路で生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6851893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した起歪体を例えば作業ロボットの関節部に適用した場合、当該起歪体の内側の中空部に、作業ロボットを作動させるための電力線や信号線等を含むケーブルが挿通されることがある。しかしながら、このようなレイアウトでは、作業ロボットに過大な外力が加わる等の事情により起歪体が損傷したときに、当該損傷した起歪体を交換する作業が煩雑になるという問題がある。
【0005】
すなわち、中空部にケーブルが挿通された起歪体を交換するには、当該起歪体を固定先から取り外す作業に加えて、ケーブルの一端を接続先から抜く作業を行う必要がある。ケーブルの一端の接続を解除しないと、起歪体がケーブルに引っ掛かってその交換ができないからである。
【0006】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、交換が容易な起歪体およびこれを備えた作業ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためのものとして、本発明の一局面に係る起歪体は、モータにより回転駆動される回転体のトルクを受けて弾性変形し、かつその変形量がトルクの検出に利用される起歪体であって、外周面と、前記外周面の内側に形成され、かつ前記モータに接続されるケーブルが挿通される中空部を画成する内周面と、前記内周面から前記外周面へと至る径方向に延びるスリットとを備えたものである。
【0008】
本発明によれば、起歪体を径方向に貫通するスリットが形成されるので、起歪体をその固定先から分離する際に、当該起歪体の中空部に挿通されたケーブルを、前記スリットを通じて起歪体の外部に抜き出すことができる。また、新たな起歪体を固定先に取り付ける際にも、前記スリットを通じてケーブルを中空部に挿入することができる。すなわち、本発明によれば、ケーブルの端部の接続を解除しなくても起歪体を交換できるので、当該交換にかかる工数を削減でき、起歪体の交換作業を容易化することができる。
【0009】
好ましくは、前記起歪体は、前記外周面を有するリング状の外輪部と、前記内周面を有するリング状の内輪部と、前記外輪部と前記内輪部とを径方向に連結し、かつ周方向に互いに隙間を空けつつ並ぶ複数のスポーク部とを備え、前記スリットは、前記内輪部を径方向に貫通する第1スリットと、前記外輪部を径方向に貫通する第2スリットとを含む。
【0010】
このように、内輪部と外輪部とが複数のスポーク部で連結された構造の起歪体を用いた場合には、入力されるトルクに応じて起歪体を適切に弾性変形させることができ、当該弾性変形に基づき精度よくトルクを検出することができる。また、内輪部および外輪部にそれぞれスリットが形成されるので、起歪体の交換時に当該各スリット(第1および第2スリット)を通じてケーブルを挿脱することができる。
【0011】
好ましくは、前記起歪体は、前記第1スリットの対向縁部どうしを連結するように前記内輪部に着脱自在に取り付けられた内側補強部材を備える。
【0012】
この態様では、第1スリットに起因した起歪体の強度低下を内側補強部材により補うことができ、起歪体の強度(剛性)を適切に確保することができる。また、内側補強部材が着脱自在とされるので、起歪体の交換時に内側補強部材を取り外して第1スリットを解放することにより、交換作業を容易化する上述した効果も享受することができる。
【0013】
好ましくは、前記内側補強部材は、前記内輪部の軸方向の一方側において前記第1スリットを跨ぐように周方向に延びかつその両端部が前記内輪部に固定される板状の本体部と、当該本体部から前記軸方向の他方側に突出して前記第1スリットの内部に嵌入される突出部とを含む。
【0014】
この態様では、内側補強部材の本体部によって第1スリットの対向縁部どうしが連結されるだけでなく、本体部から突出する突出部が第1スリットの内部に嵌入されるので、内側補強部材による補強効果をより高めることができる。
【0015】
好ましくは、前記起歪体は、前記第2スリットの対向縁部どうしを連結するように前記外輪部に着脱自在に取り付けられた外側補強部材を備える。
【0016】
この態様では、第2スリットに起因した起歪体の強度低下を外側補強部材により補うことができ、起歪体の強度(剛性)を適切に確保することができる。また、外側補強部材が着脱自在とされるので、起歪体の交換時に外側補強部材を取り外して第2スリットを解放することにより、交換作業を容易化する上述した効果も享受することができる。
【0017】
好ましくは、前記外側補強部材は、前記外輪部の軸方向の一方側において前記第2スリットを跨ぐように周方向に延びかつその両端部が前記外輪部に固定される板状の本体部と、当該本体部から前記軸方向の他方側に突出して前記第2スリットの内部に嵌入される突出部とを含む。
【0018】
この態様では、外側補強部材の本体部によって第2スリットの対向縁部どうしが連結されるだけでなく、本体部から突出する突出部が第2スリットの内部に嵌入されるので、外側補強部材による補強効果をより高めることができる。
【0019】
好ましくは、前記起歪体は、複数の前記スポーク部どうしの隙間を軸方向の一方側から覆う着脱自在なカバーを備える。
【0020】
この態様では、スポーク部どうしの隙間から起歪体の内部に異物が侵入するのを防止することができ、起歪体の内部にある部品を異物から保護することができる。
【0021】
好ましくは、前記起歪体は、前記内輪部、前記外輪部、及び前記スポーク部に対応する同一の平面形状を有しかつ厚み方向に互いに積層、固定された複数の起歪プレートを含む。
【0022】
この態様では、検出すべきトルク帯域に応じて起歪プレートの積層枚数を適宜増減させることにより、トルク帯域に適した剛性(強度)を有するように起歪体の厚みを調整することができる。
【0023】
本発明の他の局面に係る作業ロボットは、上述した起歪体と、前記モータにより回転駆動される前記回転体としてのロボットアームと、前記起歪体の変形量に基づき前記ロボットアームに作用するトルクを検出するトルクセンサとを備える。
【0024】
本発明によれば、ロボットアームのトルクを起歪体を用いて適切に検出できるとともに、当該起歪体を交換する作業を容易化することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、交換が容易な起歪体およびこれを備えた作業ロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1実施形態に係る作業ロボットの外観を示す斜視図である。
図2】前記作業ロボットの第2関節の内部構造を示す断面図である。
図3】前記第2関節の側面図である。
図4】前記第2関節の斜視図である。
図5】前記第2関節に適用される起歪体の平面図である。
図6】前記起歪体の斜視図である。
図7】前記起歪体を取り外す状況を示す斜視図である。
図8】前記第1実施形態の変形例に係る起歪体の平面図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る起歪体を示す平面図である。
図10】前記起歪体の斜視図である。
図11】前記起歪体に適用される補強部材の形状を示す斜視図である。
図12】本発明の第3実施形態に係る起歪体を示す平面図である。
図13】前記起歪体の斜視図である。
図14】前記起歪体に適用されるカバーの形状を示す斜視図である。
図15】本発明の第4実施形態に係る起歪体を示す平面図である。
図16】前記起歪体の斜視図である。
図17】前記起歪体の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の起歪体およびこれを備えた作業ロボットの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。作業ロボットとして、実施形態では複数の関節を含む多関節ロボットを例示するが、作業ロボットはトルク検出用の起歪体を内蔵した少なくとも1つの関節を含んでいればよく、その限りにおいて種々の作業ロボットを実施し得る。
【0028】
(1)第1実施形態
[作業ロボットの全体構成]
図1は、本発明の第1実施形態に係る作業ロボット100の外観を示す斜視図である。本図に示される作業ロボット100は、7つの関節J1~J7を含む垂直多関節7軸ロボットである。すなわち、作業ロボット100は、床面や作業台等の上に固定されたベース110と、ベース110に第1関節J1を介して連結された第1アーム要素111と、第1アーム要素111に第2関節J2を介して連結された第2アーム要素112と、第2アーム要素112に第3関節J3を介して連結された第3アーム要素113と、第3アーム要素113に第4関節J4を介して連結された第4アーム要素114と、第4アーム要素114に第5関節J5を介して連結された第5アーム要素115と、第5アーム要素115に第6関節J6を介して連結された第6アーム要素116と、第6アーム要素116に第7関節J7を介して連結されたヘッド部117とを備える。各関節J1~J7には、トルク検出用の後述する起歪体1(図4)が内蔵されている。
【0029】
第1関節J1は、第1アーム要素111をベース110に対し鉛直方向に延びる第1軸AX1回りに回転させる回転関節である。第2関節J2は、第2アーム要素112を第1アーム要素111に対し水平方向に延びる第2軸AX2回りに揺動(回転)させる揺動関節である。第3関節J3は、第3アーム要素113を第2アーム要素112に対し、第2アーム要素112の中心軸と一致する第3軸AX3回りに回転させる回転関節である。第4関節J4は、第4アーム要素114を第3アーム要素113に対し水平方向に延びる第4軸AX4回りに揺動(回転)させる揺動関節である。第5関節J5は、第5アーム要素115を第4アーム要素114に対し、第4アーム要素114の中心軸と一致する第5軸AX5回りに回転させる回転関節である。第6関節J6は、第6アーム要素116を第5アーム要素115に対し水平方向に延びる第6軸AX6回りに揺動(回転)させる揺動関節である。第7関節J7は、ヘッド部117を第6アーム要素116に対し、第6アーム要素116の中心軸と一致する第7軸AX7回りに回転させる回転関節である。
【0030】
アーム要素を水平軸回りに揺動させる3つの関節、つまり第2、第4、第6関節J2,J4,J6には、それぞれカバー123が取り付けられている。具体的に、第2関節J2の一端部を構成する第2アーム要素112の基部には、第1カバー123Aが取り付けられている。第2関節J2の他端部を構成する第1アーム要素111の上部には、第2カバー123Bが取り付けられている。第4関節J4の一端部を構成する第4アーム要素114の基部には、第3カバー123Cが取り付けられている。第6関節J6の一端部を構成する第6アーム要素116の基部には、第4カバー123Dが取り付けられている。各カバー123(123A~123D)は、対応する関節のハウジングに対し軸方向に着脱自在に取り付けられている。例えば、第1カバー123Aは、第2アーム要素112の基部に対し第2軸AX2と平行な方向(水平方向)に着脱自在に取り付けられている。
【0031】
[関節の詳細構造]
図2図4は、第2関節J2の内部構造を示す断面図、側面図、および斜視図である。本図に示すように、第2関節J2は、起歪体1と、トルクセンサ41と、モータ51と、減速機52と、ブレーキ53とを備える。なお、このような構造を有するのは第2関節J2以外の関節(J1,J3~J7)でも同様である。このため、第2関節J2以外の関節についてはその詳細な説明を省略する。
【0032】
モータ51は、第1アーム要素111に対し第2アーム要素112を回転させる電動式のモータである。モータ51は、ハウジング61と、ハウジング61に対し回転可能なモータ軸62(図2)とを含む。モータ軸62は、電力の供給を受けて回転する出力軸であり、減速機52およびブレーキ53と同軸に連結されている。ハウジング61は、詳細の図示を省略するが、フランジ部61aを介して第1アーム要素111に固定されている。
【0033】
減速機52は、モータ軸62の回転を減速しつつ起歪体1に伝達するギヤ機構である。減速機52は、図2に示すように、ハウジング71と、ハウジング71の内部に配置された入力要素72および出力要素73とを含む。入力要素72は、モータ軸62の先端部に固定され、出力要素73は、起歪体1の中央部(後述する内輪部11)に固定されている。入力要素72の回転は、所定の減速比で減速された上で出力要素73に伝達される。
【0034】
減速機52のハウジング71におけるモータ51とは反対側の端部には、ベアリング55が取り付けられている。ベアリング55は、ハウジング71と起歪体1の外周部(後述する外輪部12)との間に介在し、起歪体1をハウジング71に対し相対回転可能に支持している。
【0035】
ブレーキ53は、モータ51に対し減速機52とは反対側に配置されている。ブレーキ53は、モータ51の非通電時に第2アーム要素112が自重等により勝手に回転するのを抑止する機能(保持ブレーキ機能)を有している。
【0036】
起歪体1は、減速機52の出力要素73に結合された中空円板状の部材である。起歪体1は、例えば金属材料から構成され、入力されるトルクに応じて周方向に弾性変形することが可能である。
【0037】
主に図4に示すように、起歪体1は、リング状の内輪部11と、内輪部11の外側に位置するリング状の外輪部12と、内輪部11と外輪部12とを連結するように放射状に延びる複数のスポーク部13とを含む。内輪部11は、減速機52の出力要素73(図2)に固定され、外輪部12は、第2アーム要素112(図2)に固定されている。言い換えると、起歪体1は、モータ軸62の回転を第2アーム要素112に伝達し得るように減速機52と第2アーム要素112とを連結している。このような起歪体1は、モータ51の駆動時、モータ軸62から第2アーム要素112に作用するトルクに応じて弾性変形する。また、第2アーム要素112に外力が加わった場合にも、当該外力に基づくトルクに応じて起歪体1が弾性変形する。すなわち、起歪体1は、第2アーム要素112のトルクを受けて弾性変形し得るように減速機52(モータ51)と第2アーム要素112とを連結している。起歪体1のさらなる詳細については後述する。
【0038】
トルクセンサ41は、起歪体1のスポーク部13に貼り付けられた複数の(ここでは2つの)歪ゲージ42(図4)と、歪ゲージ42と電気的に接続された回路基板43(図2)とを含む。各歪ゲージ42は、図略の薄膜抵抗体を内部に有している。回路基板43は、当該抵抗体と電気的に接続されており、トルクの検出信号を出力する。すなわち、起歪体1にトルクが入力されると、当該起歪体1の弾性変形によって前記抵抗体の抵抗値が変化し、この抵抗値の変化に基づく出力電圧が回路基板43において生成される。この回路基板43の出力電圧は、起歪体1に入力されるトルク、換言すれば第2アーム要素112のトルクを表す検出信号である。このように、トルクセンサ41は、起歪体1の弾性変形を利用して第2アーム要素112のトルクを検出するセンサである。この場合において、トルクの検出対象である第2アーム要素112は、本発明における「回転体」もしくは「ロボットアーム」に相当する。
【0039】
[起歪体の詳細構造]
図5および図6は、上述した起歪体1の平面図および斜視図である。既に述べたとおり、起歪体1は、内輪部11、外輪部12、および複数のスポーク部13を含む。内輪部11および外輪部12は、モータ軸62(図2)と一致する軸心を中心に同心円状に配置されている。複数のスポーク部13は、起歪体1(内輪部11)の中心から外側へと向かって放射状に延び、内輪部11と外輪部12とを互いに連結している。すなわち、同心円状に配置された内輪部11と外輪部12とが放射状のスポーク部13を介して互いに連結されることにより、自動車等のホイールに似た形状の一体構造の起歪体1が形成されている。
【0040】
内輪部11は、起歪体1の中心を含む領域に、平面視円形の中空部S1を有する。言い換えると、内輪部11は、中空部S1を画成する内周面21を有するリング状の部材である。内輪部11には、当該内輪部11を減速機52の出力要素73(図2)に締結するための複数の締結孔h1が形成されている。
【0041】
図4に示すように、起歪体1を作業ロボット100の関節(ここでは第2関節J2)に取り付けた状態において、中空部S1には、ケーブル54が挿通される。ケーブル54は、モータ51に接続されるリード線を含む各種配線を束ねたケーブルである。例えば、ケーブル54は、モータ51に電力を供給する電力線と、モータ51の回転情報を伝達する信号線とを含み得る。ケーブル54は、さらに、トルクセンサ41による検出情報を伝達する信号線を含んでいてもよい。
【0042】
外輪部12は、内輪部11よりも一回り大きいリング状の部材であり、起歪体1の最外周を規定する外周面22を有している。外輪部12には、当該外輪部12を第2アーム要素112およびベアリング55(図2)に締結するための複数の締結孔h2が形成されている。すなわち、外輪部12は、締結孔h2の一部に螺合される図略の締結部材を介して第2アーム要素112のフランジ112a(図2)に結合されるとともに、締結孔h2の他の一部に挿入される締結部材23(図7)を介してベアリング55に結合される。
【0043】
複数のスポーク部13は、周方向に等間隔に並ぶように配置されている。本実施形態において、スポーク部13の数は6つである。すなわち、スポーク部13は、略60度ずつ離れた周方向の6箇所において内輪部11と外輪部12とを径方向に連結している。隣接するスポーク部13どうしの間には、概ね部分扇状を呈する空隙S2が形成される。言い換えると、起歪体1は、内輪部11と外輪部12とスポーク部13とにより画成された複数の(6つの)部分扇状の空隙S2を有している。
【0044】
起歪体1はさらに、内輪部11から径方向外側に突出する3つの突出部15を有している。突出部15は、略120度ずつ離れた周方向の3箇所に設けられる。すなわち、突出部15は、互いに隣接しない3つの空隙S2に対応する位置に設けられる。突出部15は、スポーク部13と異なり、内輪部11と外輪部12とを連結しない。具体的に、突出部15は、内輪部11から空隙S2の途中まで延びるように形成され、外輪部12までは達しない。各突出部15には、図4に示すストッパ軸17が径方向に圧入されている。ストッパ軸17の径方向外側の端部は、外輪部12の内周にある孔に隙間を空けつつ挿入されている。このようなストッパ軸17は、トルクの入力時に外輪部12が内輪部11に対し周方向に変位するのを許容しつつ、スポーク部13が折損した場合には外輪部12を内輪部11に対し拘束する役割を果たす。これにより、モータ駆動されるアーム要素(ここでは第2アーム要素112)がモータ51と完全に分離することが防止される。
【0045】
内輪部11および外輪部12には、径方向に延びるスリット25,26が形成されている。すなわち、内輪部11における周方向の1箇所に、当該内輪部11を径方向に貫通する第1スリット25が形成されるとともに、外輪部12における周方向の1箇所に、当該外輪部12を径方向に貫通する第2スリット26が形成されている。本実施形態において、第1スリット25および第2スリット26は、起歪体1の中心から外側に延びる同一直線上に位置するように配置されている。
【0046】
第1スリット25は、内輪部11の周方向に一定の幅を有するスリットである。第1スリット25は、内輪部11の内側の中空部S1と、内輪部11と外輪部12との間の空隙S2とを互いに連通するように、内輪部11を径方向に貫通している。第1スリット25は、突出部15が存在する3つの空隙S2を避けて、残り3つの空隙S2(つまり突出部15が存在しない空隙S2)のいずれかと連通する位置に形成されている。
【0047】
第2スリット26は、第1スリット25と同一の幅を有するスリットである。第2スリット26は、内輪部11と外輪部12との間の空隙S2と、外輪部12の外側とを互いに連通するように、外輪部12を径方向に貫通している。第2スリット26は、第1スリット25が連通する空隙S2と同一の空隙S2と連通している。
【0048】
第1スリット25および第2スリット26の幅は、中空部S1内のケーブル54(図4)を通過させ得る範囲でできるだけ小さい値に設定される。言い換えると、第1スリット25および第2スリット26の幅は、内輪部11の内径(中空部S1の直径)よりも小さくかつケーブル54の外径よりも大きい値に設定される。
【0049】
上述した第1スリット25および第2スリット26の組合せは、内輪部11の内側の中空部S1と外輪部12の外側とを互いに連通させる。すなわち、中空部S1が第1スリット25を介して空隙S2と連通するとともに、当該空隙S2が第2スリット26を介して外輪部12の外側と連通することにより、中空部S1と外輪部12の外側とが互いに連通される。言い換えると、起歪体1は、中空部S1と外輪部12の外側とを連通するように内輪部11の内周面21から外輪部12の外周面22まで延びるスリット(第1および第2スリット25,26)を有している。
【0050】
[作用効果]
以上説明したとおり、第1実施形態では、内輪部11および外輪部12を含む中空円板状の起歪体1が作業ロボット100の関節内に設けられるとともに、当該起歪体1の内輪部11および外輪部12に、径方向に貫通する第1スリット25および第2スリット26が形成される。このような構成によれば、トルク検出用の起歪体1を容易に交換できるという利点がある。
【0051】
起歪体1は、モータ51により回転駆動されるアーム要素(ここでは第2アーム要素112)のトルクを受けて弾性変形する部材である。このため、例えば作業ロボット100が障害物に衝突する等によりアーム要素に過大な外力が加わった場合に、起歪体1が大きなトルクを受けて損傷する可能性がある。例えば、弾性域を超える変形(つまり塑性変形)が起歪体1に生じたり、スポーク部13の破断に代表される起歪体1の破損が生じる可能性がある。このような起歪体1の塑性変形または破損が生じた場合、つまりトルクセンシングの再現性が損なわれるような起歪体1の損傷が生じた場合には、起歪体1を交換する作業が必要になる。この点、起歪体1にスリット(第1および第2スリット25,26)が設けられた第1実施形態によれば、起歪体1の交換作業を容易化することができる。
【0052】
起歪体1の交換容易性を示すために、起歪体1を交換する作業の一例、つまり作業ロボット100の第2関節J2に適用された第1実施形態の起歪体1を交換する場合の作業手順について説明する。起歪体1を交換するには、まず、第2アーム要素112から第1カバー123A(図1)を取り外す。そして、この取り外しにより解放された第2アーム要素112の開口を通じて、第2アーム要素112のフランジ112a(図2)と起歪体1の外輪部12とを結合している締結部材を取り外す。これにより、第1アーム要素111と第2アーム要素112とが分離される。次に、図7に示すように、起歪体1の外輪部12とベアリング55とを結合している締結部材23を取り外す。これにより、起歪体1がベアリング55から分離される。ベアリング55から分離した起歪体1は、軸方向と直交する横方向にスライドさせるだけで、第2関節J2から完全に取り外すことが可能である。すなわち、内輪部11の中空部S1にあるケーブル54が第1スリット25、空隙S2、および第2スリット26を順に通るように、起歪体1を横方向にスライドさせる。これにより、ケーブル54が中空部S1から外輪部12の外側へと抜き出され、起歪体1が第2関節J2から完全に取り外される。このことは、起歪体1の取り外し準備のためにケーブル54の接続を解除する必要がなくなることを意味する。
【0053】
例えば、仮に第1および第2スリット25,26が存在しなければ、ケーブル54を中空部S1から抜くために、ケーブル54の一端部の接続を解除して、当該一端部を自由に動かせる状態にする必要がある。これに対し、第1実施形態では、第1および第2スリット25,26を通じてケーブル54を起歪体1から分離させることができるため、上述したケーブル54の端部の接続解除を経なくても、起歪体1を第2関節J2から取り外すことが可能になる。
【0054】
以上のようにして起歪体1を取り外した後は、当該取り外しと逆の手順で新たな起歪体1を取り付ける。すなわち、ケーブル54が新たな起歪体1における第2スリット26、空隙S2、および第1スリット25を順に通過するように、起歪体1をケーブル54の側方から中心に向かって横方向に移動させる。そして、ケーブル54が内輪部11の中空部S1に挿入された状態で、外輪部12に締結部材23を取り付けることにより、当該締結部材23を介して外輪部12とベアリング55とを結合する。これにより、新たな起歪体1が第2関節J2に取り付けられる。言い換えると、新たな起歪体1の取り付けは、ケーブル54の接続解除を経ることなく行うことが可能である。
【0055】
このように、第1実施形態では、ケーブル54の接続を維持したまま(ケーブル54の端部の接続を解除することなく)起歪体1を交換できるので、当該交換にかかる工数を削減でき、起歪体1の交換作業を容易化することができる。
【0056】
[変形例]
前記第1実施形態では、内輪部11に形成される第1スリット25と外輪部12に形成される第2スリット26とを同一直線上に配置したが、例えば内輪部11の締結孔h1および外輪部12の締結孔h2をそれぞれ避けて各スリット25,26を形成しようとした場合には、必ずしもスリット25,26を同一直線上に配置できないと考えられる。すなわち、第1スリット25および第2スリット26は、少なくとも共通の空隙S2に連通するように配置されていればよく、その限りにおいて各スリット25,26の周方向位置は適宜変更することが可能である。例えば、図8に示す起歪体1Aのように、中心に対する角度が異なる2つの直線上に第1スリット25および第2スリット26を配置してもよい。
【0057】
前記第1実施形態では、起歪体1の変形量に基づきトルクを検出するトルクセンサ41として、起歪体1に貼り付けられた歪ゲージ42を含むセンサを使用したが、本発明において使用し得るトルクセンサの構成はこれに限られない。例えば、光学的または磁気的に回転角度を検出可能なエンコーダを用いて、内輪部11および外輪部12の回転角度差を特定し、特定した回転角度差に基づいてトルクを検出することも可能である。
【0058】
(2)第2実施形態
図9および図10は、本発明の第2実施形態に係る起歪体1Cを示す平面図および斜視図である。本図に示すように、起歪体1Cは、前記第1実施形態の起歪体1と同様に、内輪部11、外輪部12、および複数のスポーク部13を備える。内輪部11には第1スリット25が形成され、外輪部12には第2スリット26が形成されている。前記第1実施形態とは異なる点として、第2実施形態の起歪体1Cは、第1補強部材201および第2補強部材202をさらに備える。第1補強部材201は、第1スリット25の対向縁部25a,25b(図9)どうしを連結するように内輪部11に取り付けられる補強部材であり、第2補強部材202は、第2スリット26の対向縁部26a,26b(図9)どうしを連結するように外輪部12に取り付けられる補強部材である。なお、第1補強部材201は本発明における「内側補強部材」に相当し、第2補強部材202は本発明における「外側補強部材」に相当する。
【0059】
図11は、第1および第2補強部材201,202の形状を示す斜視図である。両補強部材201,202の寸法および寸法比は異なるが、基本的な形状が同一であることから、共通の図11を用いて両者の形状を表す。本図に示すように、第1補強部材201は、板状の本体部211と、当該本体部211から突出する突出部212とを含む。同様に、第2補強部材202は、板状の本体部221と、当該本体部221から突出する突出部222とを含む。
【0060】
第1補強部材201は、その本体部211の両端部が第1スリット25の対向縁部25a,25b、つまり第1スリット25を挟んで相対向する内輪部11の2箇所にそれぞれ締結されることにより、内輪部11に固定される。すなわち、本体部211は、内輪部11の軸方向の一方側(図9の紙面表側)において第1スリット25を跨ぐように周方向に延びる形状を有する。本体部211の両端部には、一対の締結部材213を挿通するための孔h3(図11)が形成されている。一対の締結部材213は、本体部211の各孔h3に挿通されつつ第1スリット25の対向縁部25a,25bにそれぞれ螺着される。これにより、本体部211が第1スリット25を覆うように内輪部11に固定され、当該本体部211によって第1スリット25の対向縁部25a,25bどうしが連結される。また、本体部211が内輪部11に固定された状態で、突出部212は、軸方向の他方側(図9の紙面裏側)に突出して第1スリット25の内部に嵌入される。言い換えると、第1補強部材201は、その突出部212によって第1スリット25を埋めるような態様で内輪部11に固定される。
【0061】
第2補強部材202は、その本体部221の両端部が第2スリット26の対向縁部26a,26b、つまり第2スリット26を挟んで相対向する外輪部12の2箇所にそれぞれ締結されることにより、外輪部12に固定される。すなわち、本体部221は、外輪部12の軸方向の一方側(図9の紙面表側)において第2スリット26を跨ぐように周方向に延びる形状を有する。本体部221の両端部には、一対の締結部材223を挿通するための孔h4(図11)が形成されている。一対の締結部材223は、本体部221の各孔h4に挿通されつつ第2スリット26の対向縁部26a,26bにそれぞれ螺着される。これにより、本体部221が第2スリット26を覆うように外輪部12に固定され、当該本体部221によって第2スリット26の対向縁部26a,26bどうしが連結される。また、本体部221が外輪部12に固定された状態で、突出部222は、軸方向の他方側(図9の紙面裏側)に突出して第2スリット26の内部に嵌入される。言い換えると、第2補強部材202は、その突出部222によって第2スリット26を埋めるような態様で外輪部12に固定される。
【0062】
以上説明したように、第2実施形態では、内輪部11における第1スリット25の対向縁部25a,25bどうしが第1補強部材201によって連結されるとともに、外輪部12における第2スリット26の対向縁部26a,26bどうしが第2補強部材202によって連結されるので、これら両補強部材201,202の補強効果により、スリット25,26に起因した起歪体1Cの強度低下を補うことができ、起歪体1Cの強度(剛性)を適切に確保することができる。また、補強部材201,202は、締結部材213,223を介して内輪部11および外輪部12に着脱自在に取り付けられるので、起歪体1Cの交換時には、締結部材213,223の締結を解除して補強部材201,202を取り外す(つまりスリット25,26を解放する)ことにより、当該スリット25,26を通じたケーブル54(図4)の挿脱が可能になる。言い換えると、第2実施形態では、起歪体1Cの強度低下を防止しながら、当該起歪体1Cの交換作業を容易化することができる。
【0063】
また、第2実施形態では、第1補強部材201の本体部211によって第1スリット25の対向縁部25a,25bどうしが連結されるだけでなく、本体部211から突出する突出部212が第1スリット25の内部に嵌入されるので、第1補強部材201による補強効果をより高めることができる。同様に、第2補強部材202の本体部221によって第2スリット26の対向縁部26a,26bどうしが連結されるだけでなく、本体部221から突出する突出部222が第2スリット26の内部に嵌入されるので、第2補強部材202による補強効果をより高めることができる。
【0064】
(3)第3実施形態
図12および図13は、本発明の第3実施形態に係る起歪体1Dを示す平面図および斜視図である。起歪体1Dは、前記第1実施形態の起歪体1と同様に、内輪部11、外輪部12、および複数のスポーク部13を備える。内輪部11には第1スリット25が形成され、外輪部12には第2スリット26が形成されている。前記第1実施形態とは異なる点として、第3実施形態の起歪体1Dは、複数のスポーク部13どうしの隙間である空隙S2を覆うカバー300をさらに備える。
【0065】
図14は、カバー300を単体で示す斜視図である。図12図14に示すように、カバー300は、本体カバー部301と、本体カバー部301の内側に形成された内側固定部302と、本体カバー部301の外側に形成された外側固定部303とを含む。
【0066】
内側固定部302は、内輪部11に固定される小径リング状の部分である。内側固定部302は、内輪部11を軸方向の一方側(図12の紙面表側)から覆うように配置され、かつ当該内輪部11に複数の締結部材305を介して着脱自在に取り付けられている。
【0067】
外側固定部303は、外輪部12に固定される大径リング状の部分である。外側固定部303は、外輪部12を軸方向の一方側から覆うように配置され、かつ当該外輪部12に複数の締結部材306を介して着脱自在に取り付けられている。
【0068】
本体カバー部301は、内側固定部302と外側固定部303とを互いに連結するリング状の部分である。また、本体カバー部301は、軸方向の一方側にわずかに膨出した皿状(リング皿状)に形成されている。すなわち、本体カバー部301は、内側固定部302の外縁から軸方向の一方側に突出する内壁301aと、外側固定部303の内縁から軸方向の一方側に突出する外壁301bと、内壁301aと外壁301bとを径方向に連結する遮蔽壁301cとを有する。
【0069】
内側固定部302が内輪部11に固定されかつ外側固定部303が外輪部12に固定された状態で、本体カバー部301は、複数の(ここでは6つの)空隙S2をいずれも軸方向の一方側から覆うように配置される。第3実施形態では、このように空隙S2が本体カバー部301によって覆われるので、当該空隙S2を通じて起歪体1Dの内部に異物が侵入するのを防止することができ、起歪体1Dの内部に配置される部品を異物から保護することができる。
【0070】
すなわち、起歪体1Dが減速機52(図2)に取り付けられた使用状態において、起歪体1Dの内部には、例えば回路基板43のような部品が配置され得る。第3実施形態では、軸方向の一方側つまり減速機52の反対側から空隙S2を覆うカバー300が用意されるので、当該空隙S2から起歪体1Dの内部に異物が侵入するのを防止でき、起歪体1Dの内部にある前記回路基板43のような部品を異物から保護することができる。
【0071】
また、カバー300は、締結部材305,306を介して内輪部11および外輪部12に着脱自在に取り付けられるので、起歪体1Dの交換時には、締結部材305,306の締結を解除してカバー300を取り外す(つまりスリット25,26を解放する)ことにより、当該スリット25,26を通じたケーブル54(図4)の挿脱が可能になる。言い換えると、第3実施形態では、起歪体1Dの内部への異物侵入を防止しながら、当該起歪体1Dの交換作業を容易化することができる。
【0072】
ここで、外側固定部303における第2スリット26に対応する位置に、軸方向の他方側(図12の紙面裏側)に突出する突出部を設け、当該突出部を第2スリット26の内部に嵌入させるようにしてもよい。同様に、内側固定部302における第1スリット25に対応する位置に、軸方向の他方側に突出する突出部を設け、当該突出部を第1スリット25の内部に嵌入させるようにしてもよい。このようにすれば、上述した第2実施形態と同様、スリット25,26に起因した起歪体1Dの強度低下を防止することができる。
【0073】
(4)第4実施形態
図15および図16は、本発明の第4実施形態に係る起歪体1Eを示す平面図および斜視図である。起歪体1Eは、前記第1実施形態の起歪体1と同様に、内輪部11、外輪部12、および複数のスポーク部13を備える。内輪部11には第1スリット25が形成され、外輪部12には第2スリット26が形成されている。前記第1実施形態とは異なる点として、第4実施形態の起歪体1Eは、厚み方向に積層されるベース部材401と複数の起歪プレート402とを含む多層構造とされている。
【0074】
図17は、起歪体1Eの分解斜視図である。本図に示すように、ベース部材401は、起歪体1Eの厚み方向の一部範囲を構成する部材であり、起歪体1Eと同一の平面形状を有する。つまり、ベース部材401は、図15に示す内輪部11、外輪部12、およびスポーク部13と平面視(軸方向視)で完全に重なる形状を有する。複数の起歪プレート402は、それぞれ、内輪部11の全部、スポーク部13の全部、および外輪部12の内側の一部と平面視で重なる形状を有する。また、各起歪プレート402の厚みは、ベース部材401の厚みよりも小さい。言い換えると、各起歪プレート402は、ベース部材401と比べて外径および厚みが小さくされた板状の部材であり、互いに同一の平面形状を有する。図17に示すように、各起歪プレート402には、第1スリット25に対応するスリット250と、第2スリット26に対応するスリット260とが形成されている。複数の起歪プレート402は、厚み方向に互いに積層された状態で、複数の締結部材405を介してベース部材401に固定される。これにより、内輪部11、外輪部12、および複数のスポーク部13を備えた多層構造の起歪体1Eが構築される。
【0075】
このように、第4実施形態の起歪体1Eは、厚み方向に積層、固定された複数の起歪プレート402を含むので、検出すべきトルク帯域に応じて起歪プレート402の積層枚数を適宜増減させることにより、トルク帯域に適した剛性(強度)を有するように起歪体1の厚みを調整することができる。すなわち、検出対象のトルクを起歪体1Eを用いて検出する場合において、その検出精度を十分に確保するには、検出対象に作用し得るトルク帯域に対し適切な感度をもつように起歪体1Eの剛性を設定する必要がある。例えば、作業ロボットのアーム要素に作用するトルクは、作業ロボットのサイズや仕様によって大きく異なり得るので、当該アーム要素(検出対象)のトルクを精度よく検出するには、そのトルク帯域に適した剛性の起歪体1Eを用意し、当該起歪体1Eの弾性変形量を適切な範囲に収める必要がある。ここで、起歪体の剛性を変更する方法として、例えば起歪体のスポーク部13の幅や本数を変えることも考えられる。しかしながら、このような方法では、トルク帯域ごとに起歪体を完全に作り変える必要がある。これに対し、第4実施形態では、起歪プレート402の積層枚数の変更によって起歪体1Eの厚みを調整できるので、トルク帯域に適した剛性をもった起歪体1Eを容易に実現することができる。
【0076】
なお、第4実施形態では、積層された複数の起歪プレート402を締結部材405を用いて互いに固定したが、起歪プレート402を固定する方法はこれに限られず、例えば溶接または接着により起歪プレート402を互いに固定してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1,1A~1E 起歪体
11 内輪部
12 外輪部
13 スポーク部
21 内周面
22 外周面
25 第1スリット
26 第2スリット
S1 中空部
S2 空隙(隙間)
41 トルクセンサ
81 内周面
82 外周面
85 スリット
S11 中空部
112 第2アーム要素(回転体;ロボットアーム)
201 第1補強部材(内側補強部材)
202 第2補強部材(外側補強部材)
211,221 本体部
212,222 突出部
300 カバー
402 起歪プレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17