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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179188
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】収音装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
H04R3/00 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092339
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 将平
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AB06
5D220BA06
(57)【要約】
【課題】特定の音域成分を明瞭に収音できる収音装置を提供する。
【解決手段】収音装置1は、音源Sからの距離が互いに異なる複数のマイクアレイであって、マイクアレイ間の間隔Gが音源Sから発せられる音の周波数に応じて調整可能な複数のマイクアレイ10,20と、音源Sに近い側のマイクアレイ10から出力される収音信号を間隔Gに応じて遅延させる信号遅延部30と、信号遅延部30から出力される収音信号と、音源Sから離れた側のマイクアレイ20から出力される収音信号とを合成する合成処理部40と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源からの距離が互いに異なる複数のマイクアレイであって、前記マイクアレイ間の間隔が前記音源から発せられる音の周波数に応じて調整可能な複数のマイクアレイと、
前記音源に近い側の前記マイクアレイから出力される収音信号を前記間隔に応じて遅延させる信号遅延部と、
前記信号遅延部から出力される収音信号と、前記音源から離れた側の前記マイクアレイから出力される収音信号とを合成する合成処理部と、を備える、収音装置。
【請求項2】
前記マイクアレイに含まれる複数のマイクは、平面視で円弧をなし、且つ、前記マイクアレイから見て前記円弧の中心と前記音源とが同じ側に位置するように並べて配置されている、請求項1に記載の収音装置。
【請求項3】
前記マイクアレイに含まれる複数のマイクから出力される前記収音信号に対して同期加算を実施する、請求項1に記載の収音装置。
【請求項4】
それぞれの前記マイクアレイから出力される前記収音信号と、それぞれの前記マイクアレイにおける前記音源からの前記距離とに基づいて前記音源の位置を推定する位置推定部を更に備える、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の収音装置。
【請求項5】
前記音源から離れた側の前記マイクアレイが配置された範囲は、前記音源に近い側の前記マイクアレイが配置された範囲に比べて広い、請求項4に記載の収音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の音域成分を明瞭に収音することが可能な収音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の収音装置として、複数のマイクで構成されたマイクアレイと、当該マイクアレイから出力される収音信号に基づいて音源位置を推定する位置推定部と、を備えた収音装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-193176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、狙いとする特定の音域成分を明瞭に収音したいという要望に対し、上記の収音装置では、音源位置を推定できるものの、狙いとする特定の音域成分を明瞭に収音できない。
【0005】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、特定の音域成分を明瞭に収音できる収音装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は、音源からの距離が互いに異なる複数のマイクアレイであって、マイクアレイ間の間隔が音源から発せられる音の周波数に応じて調整可能な複数のマイクアレイと、音源に近い側のマイクアレイから出力される収音信号を当該間隔に応じて遅延させる信号遅延部と、信号遅延部から出力される収音信号と、音源から離れた側のマイクアレイから出力される収音信号とを合成する合成処理部と、を備えることにより解決される。
【0007】
上記の構成によれば、合成処理部から出力される収音信号において、音源から発せられる音及び周囲の雑音のうち、特定の周波数及びその周辺の周波数帯域が増幅し、周囲の雑音を含むそれ以外の周波数帯域の音が低減するので、特定の音域成分を明瞭に収音できる。
【0008】
また、マイクアレイに含まれる複数のマイクは、平面視で円弧をなし、且つ、マイクアレイから見て円弧の中心と音源とが同じ側に位置するように並べて配置されてもよい。上記の構成によれば、収音装置は、円弧の内側の音を効率よく収音できる。
【0009】
また、上記の収音装置は、マイクアレイに含まれる複数のマイクから出力される収音信号に対して同期加算を実施してもよい。上記の構成によれば、周囲の雑音が低減するので、特定の音域成分を一層明瞭に収音できる。
【0010】
また、上記の収音装置は、それぞれのマイクアレイから出力される収音信号と、それぞれのマイクアレイにおける音源からの距離とに基づいて音源の位置を推定する位置推定部を更に備えてもよい。上記の構成によれば、位置推定部は、例えば面音源であったとしても音源位置を推定できる。
【0011】
また、上記の収音装置において、音源から離れた側のマイクアレイが配置された範囲は、音源に近い側のマイクアレイが配置された範囲に比べて広くてもよい。上記の構成によれば、位置推定部は、それぞれのマイクアレイの外側に位置するそれぞれのマイクを用いて音源位置を推定できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の収音装置によれば、特定の音域成分を明瞭に収音することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一つの実施形態に係る収音装置の構成を示す図である。
図2図1の収音装置を構成するマイクアレイの模式図である。
図3図2のマイクアレイを正面視(図2の矢印A方向)した模式図である。
図4図2のマイクアレイを平面視(図2の矢印B方向)した模式図である。
図5図2のマイクアレイのV-V線に沿って切断した端面を示す模式図である。
図6図1の収音装置における音源位置の推定方法を説明する図である。
図7図1の収音装置における特定の音域成分を収音するフローを示す図である。
図8図2のマイクアレイにおける間隔を調整する方法の変形例を示す図である。
図9図1の収音装置における音源位置の推定方法の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<<本発明の一つの実施形態に係る収音装置について>>
以下、本発明の一つの実施形態(以下、本実施形態)について、添付の図面を参照しながら説明する。
なお、図面では、説明を分かり易くするために幾分簡略化及び模式化して各部材を図示している。また、図中に示す各部材のサイズ(寸法)及び部材間の間隔等についても、実際のものとは異なっている。
【0015】
本実施形態の収音装置1は、周囲の雑音と音源から発せられる音とが混在する環境下において、音源から発せられる音のうち、特定の音域成分を収音する。音源は、例えば収音対象とする音を発する物又は人である。収音装置1は、例えば会議等で話者の音を収音(抽出)することができる。
【0016】
本実施形態では、音源S(図1参照)から発せられる音のうち、特定の音域成分として、500Hzの周波数を例に挙げて説明する。500Hzは、一般的には成人男性の声において特徴的な周波数となる。空気中の音速を340m/sとすると、500Hzと対応する波長は68cm程度となり、周期は2msec程度となる。
【0017】
本実施形態では、収音装置1の収音対象となる音源Sは面音源とする。面音源は面から音を放射する音源である。面音源から放射される平面波は、伝播距離による音の広がりが少なく音圧の低減も少ない。
【0018】
図1に示されるように、収音装置1は、マイクアレイ10と、マイクアレイ20と、信号遅延部30と、合成処理部40と、収録機器50と、位置推定部60と、を備えている。
【0019】
マイクアレイ10は、音声を収音信号(電気信号)に変換する。図2図5に示されるように、マイクアレイ10は、複数のマイク11と、支持フレーム(不図示)と、を含んで構成されている。本実施形態では、マイク11の本数分の収音信号で構成された信号が、「マイクアレイ10の収音信号」に相当する。図3に示されるように、マイクアレイ10は複数のマイク群10Aを含んでいる。マイク群10Aは、鉛直方向H(図3の縦方向)に沿ってピッチPで等間隔に並べられた複数のマイク11(図示のケースでは5つのマイク11)で構成されている。なお、Hは鉛直方向に限定されない。
【0020】
図4に示されるように、複数のマイク群10A(図示のケースでは5つのマイク群10A)は、鉛直方向Hにおける一方側からマイクアレイ10を平面視したときに、音源Sの近傍を中心とする仮想円の円周方向Cに沿って角度ピッチηで等間隔に並べられている。すなわち、マイクアレイ10に含まれる複数のマイク11は、平面視で円弧状をなし、且つ、マイクアレイ10から見て円弧の中心と音源Sとが同じ側に位置するように並べて配置されている。マイクアレイ10に含まれるマイク11は、音源S側からマイクアレイ10を正面視したとき、5行5列に配置されている(図3参照)。図示のケースでは、行方向は水平方向を示し、列方向は鉛直方向Hを示すこととする。不図示の支持フレームは、それぞれのマイク11を支持している。
【0021】
マイク11は、種類及び指向性の有無を問わない。マイク11としては、例えばガンマイク、ピンマイク、又はボーカルマイク等が用いられる。
【0022】
マイクアレイ20は、音声を収音信号(電気信号)に変換する。マイクアレイ20は、複数のマイク21と、支持フレーム(不図示)と、を含んで構成されている。本実施形態では、マイク21の本数分の収音信号で構成された信号が、「マイクアレイ20の収音信号」に相当する。図3に示されるように、マイクアレイ20は複数のマイク群20Aを含んでいる。マイク群20Aは、鉛直方向Hに沿ってピッチPで等間隔に並べられた複数のマイク21(図示のケースでは7つのマイク21)で構成されている。
【0023】
図4に示されるように、複数のマイク群20A(図示のケースでは7つのマイク群20A)は、マイクアレイ20を鉛直方向Hの一方側から平面視したときに、円周方向Cに沿って角度ピッチηで等間隔に並べられている。すなわち、マイクアレイ20に含まれる複数のマイク21は、平面視で円弧状をなし、且つ、マイクアレイ20から見て円弧の中心と音源Sとが同じ側に位置するように並べて配置されている。マイクアレイ20に含まれるマイク21は、音源S側からマイクアレイ20を正面視したとき、7行7列に配置されている(図3参照)。不図示の支持フレームは、それぞれのマイク21を支持している。
【0024】
マイク21としては、マイク11と同じ種類のマイクが利用されるので、マイク21に関する説明を省略することとする。
【0025】
マイクアレイ10及びマイクアレイ20は、音源Sからの距離が互いに異なる位置に配置されている。図4に示されるように、音源Sとマイクアレイ10との距離は、鉛直方向Hにおける一方側から平面視したときに距離Rとなっている。距離Rは、予め設定された距離である。より詳細には、距離Rは、音源Sからマイク11までの距離である。例えば収音装置1が会議室の天井に設置されている場合、距離Rは椅子に座っている話者の口から収音装置1のマイクアレイ10の受音点での距離(例えば1m程度)となる。距離Rの調整は、音源Sとマイクアレイ10の少なくとも一方の配置位置を調整することにより実施される。
【0026】
音源Sに近い側のマイクアレイ10と音源Sから離れた側のマイクアレイ20との間隔はGとなっている。間隔Gは、マイク11の受音点からマイク21の受音点での距離である。マイクアレイ10,20間の間隔Gが、音源Sから発せられる音の周波数に応じて調整可能となっている。本実施形態では、間隔Gは、例えば周波数500Hzの波長(波の1サイクルの幅)である68cmに設定される。ここで「周波数に応じて調整」とは、波長68cmを含むある程度幅を持った範囲に間隔Gが収まるように調整することを意味する。間隔Gの調整幅は、例えばオペレーターによる調整作業の誤差を考慮して決められる。間隔Gの調整は、例えば、上記のマイク11を支持する支持フレーム、及びマイク21を支持する支持フレームの少なくとも一方の配置位置を調整することにより実施される。
【0027】
音源Sから離れた側のマイクアレイ20が配置された範囲は、音源Sに近い側のマイクアレイ10が配置された範囲に比べて広くなっている。より詳細には、図3に示されるように、マイクアレイ20は、鉛直方向Hにおいて最も外側に位置するマイク11よりも更にピッチP分だけ外側にマイク21を有している。また、マイクアレイ20は、図4に示されるように、円周方向Cにおける最も外側に位置するマイク11よりも更に角度ピッチη分だけ外側にマイク21を有している。
【0028】
続いて、信号遅延部30、合成処理部40、収録機器50、及び位置推定部60について説明する。図1に示されるように、信号遅延部30、合成処理部40、及び位置推定部60は、制御装置70を構成する。制御装置70は、制御回路又は汎用的なコンピュータ等によって構成され、プロセッサを備える。このプロセッサには、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及び、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるための専用の回路構成を有する専用電気回路等が含まれ得る。また、例えば、SoC(System on Chip)等に代表されるように、制御装置70に搭載された機能すべてを1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサも利用可能である。また、上記のプロセッサを構成するハードウェアは、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(Circuitry)でもよい。
【0029】
信号遅延部30は、音源Sに近い側のマイクアレイ10から出力される収音信号を間隔Gに応じて遅延させる。より詳細には、信号遅延部30は、例えば、周波数500Hzの音を収音する場合には、マイクアレイ10から出力される収音信号を2msec分遅延させる。2msecは、上記で示したように、周波数500Hzの周期である。ここで、間隔Gに応じて遅延させる態様には、間隔Gの調整幅と対応して遅延量もある程度の調整幅を持つケースが含まれ得る。
【0030】
合成処理部40は、マイクアレイ10,20に含まれる複数のマイク11,21から出力される収音信号に対して同期加算を実施する。より詳細には、合成処理部40は、それぞれのマイク11から信号遅延部30を介して出力される全ての収音信号に対して同期加算を実施する。同様に、合成処理部40は、それぞれのマイク21から出力される全ての収音信号に対して同期加算を実施する。同期加算の実施後、合成処理部40は、信号遅延部30から出力される収音信号と、音源Sから離れた側のマイクアレイ20から出力される収音信号とを合成する。すなわち、合成処理部40は、遅延処理が実施され且つ同期加算が実施されたマイクアレイ10の収音信号と、同期加算が実施されたマイクアレイ20の収音信号とを合成する。
【0031】
収録機器50は、合成処理部40によって合成された収音信号を収録する。
【0032】
位置推定部60は、それぞれのマイクアレイ10,20から出力される収音信号と、それぞれのマイクアレイ10,20における音源Sからの距離R,R+Gとに基づいて音源Sの位置を推定する。音源Sの位置を推定する方法について、図6を参照しながら説明する。図6は、図5の領域VIを拡大した模式図である。マイク11Aは、鉛直方向Hにおける一端に位置するマイク11である。マイク21Aは、音源S側から正面視した際にマイク11Aと重なるマイク21である。マイク21Bは、鉛直方向Hにおける一端に位置するマイク21である。マイク21A及びマイク21Bは、鉛直方向Hにおいて隣り合う位置にある。
【0033】
音源Sは面音源であるため、音源Sから発せられる音について、マイク11Aの位置への到達時間と、マイク11Aから鉛直方向Hに沿って延長した仮想位置11Bへの到達時間とは、同じであると仮定される。その場合、仮想位置11Bからマイク21Bまでの距離Yは、Y=c×Δtとなる。ここで、cは音速を示す。Δtは、音源Sから発せられる音について、仮想位置11Bへの到達時間と、マイク21Bへの到達時間との差を示す。cosθ=G/Yよりθが算出できる。Gはマイクアレイ10,20の間隔を示す。tanθ=P/(R+G)よりRが算出できる。Pはマイク21A及びマイク21B間のピッチPを示す。Rは音源Sからマイクアレイ10までの距離を示す。そして、距離Rが算出されることで、音源Sの位置が推定される。
【0034】
次に、図7を参照しながら、上記の収音装置1を用いて、音源Sから発せられる音及び周囲の雑音のうち、特定の音域成分を収音するフローについて説明する。なお、以下の説明において、特定の音域成分は、周波数500Hzの音であることとする。なお、マイク11,21のそれぞれから出力される収音信号は、実際は、周波数の異なる複数の信号波が合成された合成波と対応する波形の信号であるが、図7では、説明の便宜上、特定の音域成分である500Hzの信号波のみを示している。図7に示されるグラフは、横軸が時間を示し、縦軸が振幅を示している。
【0035】
まず、マイク11,21が、それぞれ、音源Sから発せられる音及び周囲の雑音を収音信号に変換して出力する(S001)。マイク21から出力される収音信号は、マイク11から出力される収音信号に比べて時間D(図7に図示のケースでは2msec)遅延している。
【0036】
次に、信号遅延部30は、それぞれのマイク11から出力される収音信号を間隔Gに応じて遅延させる(S002)。図示のケースでは、特定の音域成分である500Hzの波長に応じて間隔Gは68cmに設定される。マイク11から出力される収音信号は、500Hzの周期である2msec分遅延させることとする。これにより、特定の音域成分である500Hz及びその周辺の周波数帯域においては、マイク11の収音信号とマイク21の収音信号との位相が重なり合う。一方で、周囲の雑音を含むそれ以外の周波数帯域においては、マイク11の収音信号とマイク21の収音信号とは位相がずれる。
【0037】
次に、合成処理部40は、信号遅延部30を介して出力されるそれぞれのマイク11の全ての収音信号に対して同期加算を実施する。同様に、合成処理部40は、それぞれのマイク21から出力される全ての収音信号に対して同期加算を実施する。これにより、周囲の雑音を含むそれ以外の周波数帯域において、マイクアレイ20の収音信号は合成処理前のそれぞれのマイク21の収音信号に比べて低減する。
【0038】
次に、合成処理部40は、遅延処理が実施され且つ同期加算が実施されたマイクアレイ10の収音信号と、同期加算が実施されたマイクアレイ20の収音信号とを合成する(S003)。これにより、特定の音域成分である500Hz及びその周辺の周波数帯域においては、マイクアレイ10の収音信号とマイクアレイ20の収音信号との位相が重なり合っているので、合成処理後の収音信号は合成処理前の収音信号に比べて増幅する。一方で、周囲の雑音を含むそれ以外の周波数帯域においては、マイクアレイ10の収音信号とマイクアレイ20の収音信号との位相がずれているので、合成処理後の収音信号は合成処理前の収音信号に比べて低減する。ここまでの一連のステップにより、音源Sの音のうち、特定の音域成分を明瞭に収音することができる。
【0039】
以上までに説明したように、収音装置1では、マイクアレイ間の間隔Gの調整と遅延処理の実行により、合成処理部40から出力される収音信号において、音源Sから発せられる音及び周囲の雑音のうち、特定の周波数及びその周辺の周波数帯域の音が増幅し、周囲の雑音を含むそれ以外の周波数帯域の音が低減する。これにより、収音装置1は、特定の音域成分を明瞭に収音できる。
【0040】
また、マイクアレイ10,20に含まれる複数のマイク11,21は、平面視で円弧をなし、且つ、マイクアレイ10,20から見て円弧の中心と音源Sとが同じ側に位置するように並べて配置されている。これにより、収音装置1は、円弧の内側の音を効率よく収音できる。収音装置1は、特に円弧の中心付近の音を効率よく収音できる。本実施形態では、円弧の中心が音源S近傍に位置しているので、収音装置1は、音源Sから発せられる特定の音域成分を一層効率よく収音できる。
【0041】
また、収音装置1は、マイクアレイ10,20に含まれる複数のマイク11,21から出力される収音信号に対して同期加算を実施する。これにより、周囲の雑音が低減するので、特定の音域成分を一層明瞭に収音できる。
【0042】
また、収音装置1は、それぞれのマイクアレイ10,20から出力される収音信号と、それぞれのマイクアレイ10,20の距離R,R+Gとに基づいて音源Sの位置を推定する位置推定部60を備えている。これにより、位置推定部60は、面音源である音源Sであったとして音源位置を推定できる。仮に、収音装置1がマイクアレイ10を備えておらず、例えばマイクアレイ20のみを備えてマイクアレイ10が無かった場合、面音源の位置推定が困難となる。図6を参照しながら説明する。点音源に対しては、マイクアレイ10が無かった場合であっても、音源Sからマイク21Aへの音の到達時間と、音源Sからマイク21Bへの音の到達時間との差から音源位置の推定が可能である。しかしながら、面音源の場合、距離による音の広がりが少なく音圧の低減も少ないため、両者の到達時間に差が発生しにくく、面音源の特定が困難となる。この点、収音装置1は、複数のマイクアレイ10、20を備えているので、上記の位置推定方法によって、面音源であっても音源位置を適切に推定できる。
【0043】
また、音源Sから離れた側のマイクアレイ20が配置された範囲は、音源Sに近い側のマイクアレイ10が配置された範囲に比べて広い。これにより、位置推定部60は、それぞれのマイクアレイ10,20の外側に位置するそれぞれのマイク11,21を用いて音源位置を推定できる。より詳細には、位置推定部60は、鉛直方向Hの端部に位置するマイク11A、マイク21A、及びマイク21Bを用いることにより、位置推定の際に必要な角度θを算出できる。位置推定に利用するマイク11,21をこれらのマイク11A,21A,21Bに限定することができるので、演算処理の負荷を最小限に抑えられ、迅速かつ正確に音源位置を推定できる。
【0044】
<<その他の実施形態について>>
以上までに、本発明の収音装置に関する一つの実施形態を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得る。また、本発明には、その等価物が含まれることは勿論である。
【0045】
上記の実施形態では、収音対象とする特定の音域の周波数が、男性の周期数帯域の500Hzを例示したが、例えば、女性の周波数帯域(例えば1000Hz)、あるいは、その他の周波数帯域であってもよい。また、上記の実施形態では、対象となる音源Sが、面音源であるとしたが、例えば、点音源あるいは線音源であってもよい。
【0046】
上記の実施形態では、収音装置1は2つのマイクアレイ10,20を備えることとしたが、例えば、3つ以上のマイクアレイを備えてもよい。また、上記の実施形態では、マイク11,21の配列はピッチP及び角度ピッチηで等間隔に並べて配置されているが、例えば、異なる間隔で並べて配置されていてもよい。
【0047】
上記の実施形態では、マイクアレイ10,20に含まれる複数のマイク11,21は、平面視で円弧をなすように並べて配置されているが、例えば平面視で平面状に配置されてもよく、又は球面状に配置されてもよい。球面状に配置される場合、マイクアレイ10,20を側面(図5において紙面を貫通する方向)から視ても、マイク11,21は円弧をなすように並べて配置されることとなる。
【0048】
上記の実施形態では、マイク11の配列は5行5列、マイク21の配列は7行7列としたが、これに限らず、マイク11,21の数を増減させてもよい。また、行方向と列方向とでマイク数が異なってもよい。
【0049】
上記の実施形態では、マイクアレイ20が配置された範囲は、マイクアレイ10が配置された範囲に比べて広くなっているが、これに限らず、それぞれのマイクアレイ10,20が配置される範囲が、同じ範囲で、重なっていてもよい。また、上記の実施形態では、鉛直方向H及び円周方向Cのいずれの方向においてもマイクアレイ20が配置された範囲が、マイクアレイ10が配置された範囲に比べて広くなっているが、いずれかの一方向が広くなっていてもよい。
【0050】
上記の実施形態では、マイクアレイ20は、鉛直方向Hにおいて最も外側に位置するマイク11よりも更にピッチP分だけ外側にマイク21を有しているとしたが、例えば、マイクアレイ20は、ピッチP分よりも遠く又は近くにマイク21を有してもよい。また、マイクアレイ20は、鉛直方向Hにおいて最も外側に位置するマイク11よりも外側に2以上のマイク21を配置させてもよい。
【0051】
上記の実施形態では、間隔Gは一律に同じ設定値としたが、これに限られない。上記の実施形態では、音源Sから発せられる特定の音域成分が高周波数(短波長)だった場合、間隔Gを狭い側に調整することにより、特定の音域成分を明瞭に収音できる。一方で、間隔Gを狭くしすぎると音源Sの位置推定の精度が低下するおそれがある。例えば、図8に示されるように、鉛直方向Hにおける中央側に位置するマイク11,21の間隔G1と、鉛直方向Hにおける外側に位置するマイク11,21の間隔G2とが、音源Sから発せられる音の周波数に応じて個別に調整可能であってもよい。すなわち、音源Sから発せられる音の周波数が高周波数(短波長)側に向かうにつれて、間隔G2よりも間隔G1の方が狭くなるように調整可能としてもよい。一方で、音源Sから発せられる音の周波数が低周波数(長波長)側に向かうにつれて、間隔G2よりも間隔G1の方が広くなるように調整可能としてもよい。このような構成を採用することにより、鉛直方向Hにおける中央側に位置するマイク11,21は、特定の音域の成分を明瞭に収音するのに最適な間隔G1に調整できる。一方で、鉛直方向Hにおける外側に位置するマイク11,21は、音源Sの位置を推定するのに最適な間隔G2に調整できる。
【0052】
上記の実施形態では、周波数500Hzの音を収音する場合、間隔Gは波長(波の1サイクルの幅)である68cmとして例示したが、これに限られない。例えば、間隔Gは波長の整数倍であってもよい。間隔Gを波長の2倍に設定する場合、信号遅延部30は間隔Gに応じて2倍の周期分を遅延させることとなる。上述したように、間隔Gを狭くしすぎると音源Sの位置推定の精度が低下するおそれがある。したがって、例えば、音源Sから発せられる特定の音域成分が高周波数側に向かうにつれて波長の整数倍に応じて間隔Gを広げ、音源Sから発せられる特定の音域成分が低周波数側に向かうにつれて波長の整数倍に応じて間隔Gを狭くしてもよい。
【0053】
上記の実施形態では、合成処理部40はマイクアレイ10,20から出力される収音信号に対して同期加算を実施することとしたが、制御装置70における合成処理部40以外の処理部が同期加算を実施してもよい。制御装置70は、例えばマイクアレイ10から出力された後、遅延処理前の収音信号に対して同期加算を実施してもよい。また、周囲の雑音が少ない場合には同期加算を実施しなくてもよい。
【0054】
上記の実施形態では、位置推定部60は一つの音源Sの位置を推定したが、2つの音源位置を推定してもよい。例えば、図9に示されるように、音源S1と音源S2とが、マイクアレイ10及びマイクアレイ20と対向する方向(図9のX方向)に沿って、並べて配置されている場合であってもよい。本実施形態で説明した音源位置の推定方法によれば、位置推定部60は、各音源S1,S2の位置を推定することができる。また、位置推定部60による位置推定が不要な場合は位置推定を実施しなくてもよく、その場合であっても、狙いとする特定の音域成分を明瞭に収音できる。
【符号の説明】
【0055】
S,S1,S2 音源
G 間隔
10,20 マイクアレイ
11,21 マイク
30 信号遅延部
40 合成処理部
60 位置推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9