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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179250
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092458
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】秋田 武蔵
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505DD01
5H505DD03
5H505DD05
5H505DD08
5H505EE50
5H505EE55
5H505GG07
5H505HA07
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ16
5H505JJ25
5H505JJ29
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505LL44
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】共通のAD変換部を用いて、PWM制御タイミングに同期したタイミングでモータ電流値をAD変換し、所定の電気角毎のタイミングでモータ電流値をAD変換することを可能としたモータ制御装置を提供する。
【解決手段】AD変換部70は、PWM制御モードのためのAD変換処理を実行中に、角度同期制御モードのためのAD変換処理を実行するタイミングが到来すると、PWM制御モードのためのAD変換処理を中断して、角度同期制御モードのためのAD変換処理を実行する。PWM制御モードのためのAD変換処理を中断した場合、PWM制御部10は、PWM制御モードのためのAD変換処理により得られた変換モータ電流値と、PWM制御タイミングに対応する対応電気角との同時性を確保するように、変換モータ電流値と対応電気角との一方を補正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの制御モードとして、PWM制御モードと角度同期制御モードとを有するモータ制御装置であって、
モータの電気角を取得する電気角取得部(30)と、
モータに流れるモータ電流値をAD変換するAD変換部(70)と、を備え、
前記AD変換部は、前記PWM制御モードのため、PWM制御タイミングに同期して前記モータ電流値をAD変換するとともに、前記角度同期制御モードのため、所定の電気角毎に前記モータ電流値をAD変換するものであり、
前記AD変換部は、前記PWM制御モードのためのAD変換処理を実行中に、前記角度同期制御モードのためのAD変換処理を実行するタイミングが到来すると、前記PWM制御モードのためのAD変換処理を中断して、前記角度同期制御モードのためのAD変換処理を実行し、その完了後に前記PWM制御モードのためのAD変換処理を再開するものであり、
前記PWM制御モードのためのAD変換処理を中断した場合、AD変換処理により得られた変換モータ電流値と、前記PWM制御タイミングに対応する対応電気角との同時性を確保するように、前記変換モータ電流値と前記対応電気角との一方を補正する補正部(S320)をさらに備える、モータ制御装置。
【請求項2】
前記AD変換部は、前記角度同期制御モードのためのAD変換処理を実行中に、前記PWM制御モードのためのAD変換処理を実行するタイミングが到来すると、前記角度同期制御モードのためのAD変換処理が完了するまで、前記PWM制御モードのためのAD変換処理の開始を待機するものであり、
前記補正部は、前記PWM制御モードのためのAD変換処理を待機した場合、AD変換処理により得られた前記変換モータ電流値と、前記PWM制御タイミングに対応する対応電気角との同時性を確保するように、前記変換モータ電流値と前記対応電気角との一方を補正する請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記PWM制御タイミングと同期して実行されるAD変換処理によって、前回、前記変換モータ電流値が得られた時間と、今回、前記変換モータ電流値が得られた時間との時間差が、PWM制御周期に応じた期間に所定の閾値時間を加えた時間よりも大きい場合、前記補正部に、前記変換モータ電流値と前記対応電気角との一方を補正するよう指示する判定部(S310)をさらに備える、請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記補正部は、前回得られた前記変換モータ電流値、前回、前記変換モータ電流値が得られた時間、今回得られた前記変換モータ電流値、今回、前記変換モータ電流値が得られた時間、及び、前記モータに流れる電流の理論波形に基づいて、前記対応電気角と同時性を持つ変換モータ電流値を推定し、その推定した変換モータ電流値により、得られた前記変換モータ電流値を補正する、請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記PWM制御モードのためのAD変換処理に対して割り込み処理された前記角度同期制御モードのためのAD変換処理により得られた変換モータ電流値も使用して、前記対応電気角と同時性を持つ変換モータ電流値を推定する、請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記補正部は、前回、前記変換モータ電流値が得られた時間にPWM制御周期に応じた期間を加えた時間と、今回、前記変換モータ電流値が得られた時間との時間差分だけ、前記対応電気角を遅らせることにより、前記対応電気角を補正する、請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータの制御モードとして、PWM制御モードと角度同期制御モードとを有するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、PWM制御モードに相当する正弦波制御モードと、角度同期制御モードに相当する矩形波制御モードとを、モータ回転数とモータトルクとの少なくとも一方に応じて切り替えるモータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-285288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PWM制御モードに相当する正弦波制御モードと、角度同期制御モードに相当する矩形波制御モードとを円滑に切り替えるためには、それぞれの制御モードにて利用するモータ電流値を、それぞれの制御モードに適したタイミングでAD変換しておく必要がある。例えば、PWM制御モードのため、PWM制御タイミングに同期してモータ電流値をAD変換し、角度同期制御モードのため、所定の電気角毎にモータ電流値をAD変換することが考えられる。
【0005】
ここで、それぞれの制御モードにて利用するモータ電流値をAD変換するためのADコンバータを個別に設けたとすると、ADコンバータの数が増加することにより、コストの上昇を招いてしまう。
【0006】
本開示は、上述した点に鑑みてなされたものであり、共通のAD変換部を用いて、PWM制御タイミングに同期したタイミングでモータ電流値をAD変換し、所定の電気角毎のタイミングでモータ電流値をAD変換することを可能としたモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示によるモータ制御装置は、モータの制御モードとして、PWM制御モードと角度同期制御モードとを有するものであって、
モータの電気角を取得する電気角取得部(30)と、
モータに流れるモータ電流値をAD変換するAD変換部(70)と、を備え、
AD変換部は、PWM制御モードのため、PWM制御タイミングに同期してモータ電流値をAD変換するとともに、角度同期制御モードのため、所定の電気角毎にモータ電流値をAD変換するものであり、
AD変換部は、PWM制御モードのためのAD変換処理を実行中に、角度同期制御モードのためのAD変換処理を実行するタイミングが到来すると、PWM制御モードのためのAD変換処理を中断して、角度同期制御モードのためのAD変換処理を実行し、その完了後にPWM制御モードのためのAD変換処理を再開するものであり、
PWM制御モードのためのAD変換処理を中断した場合、AD変換処理により得られた変換モータ電流値と、PWM制御タイミングに同期したタイミングに対応する対応電気角との同時性を確保するように、変換モータ電流値と対応電気角との一方を補正する補正部(S320)をさらに備えるように構成される。
【0008】
共通のAD変換部を用いて、PWM制御タイミングに同期してモータ電流値をAD変換し、さらに、所定の電気角毎にモータ電流値をAD変換するように構成した場合、双方のAD変換のタイミングが重なり、双方のAD変換が競合することが起こり得る。
【0009】
この問題に対して、本開示によるモータ制御装置では、AD変換部が、PWM制御モードのためのAD変換処理を実行中に、角度同期制御モードのためのAD変換処理を実行するタイミングが到来すると、PWM制御モードのためのAD変換処理を中断して、角度同期制御モードのためのAD変換処理を実行するように構成される。
【0010】
すなわち、AD変換部は、角度同期制御モードのためのAD変換処理を、PWM制御モードのためのAD変換処理よりも優先して処理するように構成される。しかし、AD変換部が、角度同期制御モードのためのAD変換処理を、PWM制御モードのためのAD変換処理よりも優先して処理すると、PWM制御モードのためのAD変換処理の実施時期が遅れてしまう。その結果、PWM制御モードのためのAD変換処理により変換された変換モータ電流値と、PWM制御タイミングに対応する対応電気角との同時性が確保できなくなるとの別の問題が生じる。
【0011】
そのため、本開示によるモータ制御装置は、補正部を備える。補正部は、PWM制御モードのためのAD変換処理を中断した場合に、PWM制御モードのためのAD変換処理により得られた変換モータ電流値と、PWM制御タイミングに対応する対応電気角との同時性を確保するように、変換モータ電流値と対応電気角との一方を補正するように構成される。従って、PWM制御モードのためのAD変換処理が中断されたとしても、同時性が確保された対応電気角と変換モータ電流値を得ることができ、得られた対応電気角と変換モータ電流値を用いて、モータのPWM制御を支障なく行なうことが可能となる。
【0012】
上記括弧内の参照番号は、本開示の理解を容易にすべく、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、なんら本開示の範囲を制限することを意図したものではない。
【0013】
また、上述した本開示の特徴以外の、特許請求の範囲の各請求項に記載した技術的特徴に関しては、後述する実施形態の説明及び添付図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るモータ制御装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】PWM制御部が、三角波信号の山部及び谷部に同期するタイミングにて、モータ電流値のAD変換処理を指示し、角度同期制御部が、所定のレゾルバ角ごとに、モータ電流値のAD変換処理を指示する例を示すタイムチャートである。
図3】AD変換部が、ADトリガ信号(角度同期)を受信したときに、実行する処理を示すフローチャートである。
図4】AD変換部が、ADトリガ信号(PWM)を受信したときに、実行する処理を示すフローチャートである。
図5】PWM制御部が、対応電気角と変換モータ電流値との同時性を確保するために実行する補正処理を示すフローチャートである。
図6】PWM制御部が、PWM制御タイミングに対応する対応電気角との同時性を確保するように、変換モータ電流値を補正する一例を示すタイムチャートである。
図7】モータに流れる電流の理論波形の一例を示す図である。
図8】PWM制御部が、PWM制御タイミングに対応する対応電気角と変換モータ電流値との同時性を確保するように、対応電気角を補正する一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係るモータ制御装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るモータ制御装置100の全体構成を示すブロック図である。なお、本実施形態に係るモータ制御装置100によって制御されるモータは、例えば車両に搭載され、車両の走行駆動源として用いることができるものである。ただし、本実施形態のモータ制御装置によって制御されるモータの用途は、これに限られるものではない。
【0016】
本実施形態に係るモータ制御装置100が制御対象とするモータ(図示せず)として、例えばロータに永久磁石を有し、ステータに3相分のステータコイルを有する、3相ブラシレスモータを用いることができる。しかし、本実施形態に係るモータ制御装置100が制御対象とするモータは、3相ブラシレスモータのみに限られるものではなく、ブラシ付きモータや、あるいは誘導モータであっても良い。さらには、2相もしくは3相以上の多相モータであってもよい。
【0017】
本実施形態に係るモータ制御装置100は、CPU、ROM、RAM、及びこれらを接続するバスライン等を有する公知のマイコンを備える。例えば、マイコンにおけるCPUが、RAMの一時記憶機能を利用しつつ、ROMに記憶された制御プログラムに従って種々の処理を実行することで、モータ制御が実行される。図1には、制御プログラムによって実現される各種機能が機能ブロックとして示されている。ただし、図1に示される少なくとも1つの機能ブロックは、ハードウェア回路によって構成されても良い。
【0018】
本実施形態に係るモータ制御装置100には、モータの回転角を検出するレゾルバセンサなどの回転角センサの検出信号が入力される。レゾルバセンサは、良く知られているように、モータのロータとステータとにそれぞれ設けられたコイルを有する。そして、ロータ側のコイルに交流電圧を加えた状態でロータが回転すると、ステータ側のコイルとの距離が変化するので、ステータ側のコイルには、振幅が変化する交流電圧が発生する。この電圧変化を示すレゾルバ検出信号は、図1に示すように、角度算出部30に入力される。角度算出部30は、レゾルバ検出信号に基づいて、ロータの回転角度を示すレゾルバ角を算出する。算出されたレゾルバ角は、PWM制御部10、変換部40などに与えられる。PWM制御部10などは、このレゾルバ角から、モータの回転角や回転速度を検出することができる。
【0019】
回転角センサとして、3相の各々の相に与えられる擬似交流電流(擬似正弦波電流)であるU相、V相、W相電流の電流位相を検出する3個のホール素子を用いても良い。これらのホール素子は、それぞれ特定のステータコイルの電流変化を、磁束の変化として検出する。3相ブラシレスモータにおいては、3相の擬似交流電流であるU相電流、V相電流、W相電流の位相が120度づつずれている。従って、3個のホール素子の検出信号を組み合わせることにより、モータ(ロータ)が60度回転するごとに、その回転角を検出することができる。そして、モータが60度回転するために要した時間から、モータの単位時間当りの回転数(すなわち、回転速度)を算出することができる。また、回転角センサとして、上述したようなレゾルバセンサやホール素子を設けることなく、モータの各相の誘起電圧から、モータの回転角度及び回転速度を演算しても良い。
【0020】
その他にも、モータ制御装置100には、モータ制御のため、及び/又は、異常状態を検出するため、電源電圧センサ、インバータ入力電圧、温度センサ、U相電流センサ及びV相電流センサなどの各種のセンサからの検出信号が入力される。電源電圧センサは、モータ制御装置100に供給される電源電圧を検出する。インバータ入力電圧センサは、インバータ回路へ入力される電圧を検出する。温度センサは、インバータ回路における各スイッチング素子の温度を検出する。U相電流センサ及びV相電流センサは、モータのU相ステータコイル及びV相ステータコイルに流れる電流をそれぞれ検出する。
【0021】
本実施形態に係るモータ制御装置100は、モータの制御モードとして、PWM制御モードと角度同期制御モードとを有する。図1のPWM制御部10が、PWM制御モードにおいてモータをPWM制御する。また、図1の角度同期制御部20が、角度同期制御モードにおいてモータを角度同期制御する。
【0022】
例えば、PWM制御部10は、外部から与えられる要求トルクやモータの実際の回転速度に基づいて、各相に対応した電流指令値(U相指令値、V相指令値、W相指令値)を算出する。この電流指令値の算出は、例えばモータが所定の電気角だけ回転するごとに実行される。算出された電流指令値は、三角波信号と比較される。そして、PWM制御部10は、電流指令値と三角波信号との比較結果から、各相のステータコイルへ通電する擬似交流電流を発生させるためのPWM信号に対応するパルスタイミング信号を生成して出力する。すなわち、パルスタイミング信号は、PWM信号のパルス立ち上がりのタイミングとパルス立ち下がりのタイミングとを含むものである。従って、後述する出力部60は、PWM制御部10からのパルスタイミング信号に基づいてPWM信号を生成し、スイッチングパルスとしてインバータ回路(図示せず)のスイッチング素子に出力することができる。
【0023】
上述した電流指令値は正弦波形状を持つように算出され、その正弦波の周波数が、モータの回転速度が速くなるほど高くなる(周期が短くなる)ように定められる。一方、三角波信号は、例えばカウントアップとカウントダウンとを交互に繰り返すアップダウンカウンタを用いて生成される。三角波信号の一例が、PWM制御タイミングとして、図2に示されている。アップダウンカウンタは、ハード的なものでも、ソフト的なものであっても良い。この三角波信号の周波数や周期も、電流指令値の周波数や周期と同様の傾向を持って変化するように、同じタイミングで、例えば、カウントアップ及びカウントダウンする値が変更されたり、カウントアップ及びカウントダウンするクロック周波数が変更されたりする。すなわち、三角波信号の周波数及び周期は、モータの回転速度に応じて変化するように調整される。これにより、適切なPWM信号を生成することが可能になる。
【0024】
ここで、原則として、三角波信号中の1個の三角波に対して1個のPWM信号が生成される。このPWM信号により、インバータ回路のスイッチング素子がオン、オフされ、各相の電流が変化する。このため、PWM制御のためのセンサ検出信号は、三角波信号の変化に同期するタイミングで、サンプリングすると都合が良い。このようにすると、モータの回転速度が高くなるとサンプリング周期が短くなり、逆に回転速度が低くなるとサンプリング周期が長くなる。従って、検出対象となるパラメータ(回転速度)の変化の周期に追従するように、サンプリング周期を変更することができるためである。このような理由から、PWM制御部10は、三角波信号の変化に同期するタイミングで、モータ電流値のAD変換を行なうように指示するADトリガタイミング信号を出力する。
【0025】
図2は、PWM制御部10が、ADトリガタイミング信号により、三角波信号の山部及び谷部に同期するタイミングにて、モータ電流値(例えば、U相電流値及びV相電流値)をサンプリングして、AD変換処理を行なうように指示する例を示している。図2に示すように、三角波信号の山部及び谷部に同期するタイミングにてAD変換処理が指示されることに応じて、AD変換部70は、PWM制御のためのAD変換処理を実行する。図2において、PWM制御のためのAD変換処理は、変換処理Bと示されている。この変換処理Bの実行により、三角波信号の山部及び谷部に同期するタイミングでサンプリングされたモータ電流値が、変換処理Bに要する時間経過後に、AD変換された変換モータ電流値として出力される。従って、図2において、それぞれ白丸で示され、矢印で対応付けられている、三角波信号の山部又は谷部に同期したタイミングに対応する対応電気角と、変換処理Bに要する時間経過後に得られた変換モータ電流値とは、同時性が確保されていると言える。
【0026】
なお、2相の電流値から残り1相の電流値を算出することができるため、3相すべての電流値をAD変換処理する必要はない。このため、図1には、AD変換部70が、例えばU相電流とV相電流とをAD変換する例が示されている。しかしながら、AD変換部70は、3相の電流値をAD変換しても良い。変換された2相又は3相のモータ電流値は、AD変換部70からPWM制御部10へ送られ、PWM制御部10において、モータのPWM制御に利用される。
【0027】
ここで、特許文献1に記載されているように、高回転、高トルク領域でもモータを使用するため、本実施形態に係るモータ制御装置100は、角度同期制御部20を備えている。角度同期制御部20は、モータの回転速度や変調率に応じて、予め定められたパターン(例えば、矩形波パターン)でインバータ回路のスイッチン素子をオン、オフするための制御信号(パルス出力角度信号)を出力するように構成されている。例えば、矩形波パターンを用いる場合、周期はモータ回転速度によって決まる。そして、矩形波の位相が制御対象となり、この位相によってトルクが決まる。矩形波の位相は、モータの回転角(レゾルバ角)を基準として定められる。
【0028】
このように、角度同期制御モードにおいて、角度同期制御部20は、レゾルバ角を基準とする制御信号(パルス出力角度信号)を出力するので、モータ電流値のサンプリング及びAD変換処理も、モータが所定のレゾルバ角回転するごとに行われることが好ましい。従って、角度同期制御部20は、モータが所定のレゾルバ角回転するごとに、モータ電流値のAD変換を行なうように指示するADトリガ角度信号を出力するように構成されている。
【0029】
図2には、角度同期制御部20が、所定のレゾルバ角ごとに、モータ電流値をサンプリングして、AD変換処理を行なうように指示する例が示されている。図2において、角度同期制御部20がモータ電流値のサンプリング及びAD変換処理を指示するタイミングは黒丸にて示されている。AD変換部70は、角度同期制御部20からのAD変換処理の指示に応じて、モータ電流値をサンプリングし、AD変換処理を行なう。角度同期制御部20からのAD変換処理の指示に応じたAD変換処理は、図2において、変換処理Aと示されている。この変換処理Aの実行により、サンプリングされたモータ電流値が、変換処理Aに要する時間経過後に、AD変換された変換モータ電流値として出力される。従って、図2において、それぞれ黒丸で示され、矢印で対応付けられている、所定のレゾルバ角に対応する対応電気角と、変換処理Aに要する時間経過後に得られた変換モータ電流値とは、同時性が確保されていると言える。変換された2相又は3相のモータ電流値は、AD変換部70から角度同期制御部20へ送られ、角度同期制御部20において、モータの角度同期制御に利用される。
【0030】
変換部40は、角度同期制御部20から出力されたADトリガ角度信号及びパルス出力角度信号を入力する。変換部40は、角度算出部30によって算出されたレゾルバ角を用いて、入力したADトリガ角度信号及びパルス出力角度信号を、電気角を基準とするADトリガタイミング信号及びパルスタイミング信号に変換する。
【0031】
調停部50は、PWM制御部10から出力されたパルスタイミング信号と、変換部40によって変換されたパルスタイミング信号のいずれか一方を選択して、出力部60に出力する。例えば、調停部50は、PWM制御部10からモータの回転速度及び/又は要求トルクを受け取り、モータの回転速度が閾値速度以上及び/又は要求トルクが閾値トルク以上であるか否かにより、どちらのパルスタイミング信号を選択するかを決定する。モータの回転速度が閾値速度以上及び/又は要求トルクが閾値トルク以上である場合、調停部50は、変換部40によって変換されたパルスタイミング信号を選択する。そうでない場合、調停部50は、PWM制御部10から出力されたパルスタイミング信号を選択する。
【0032】
なお、調停部50は、PWM制御部10からのADトリガタイミング信号と、変換部40からのADトリガタイミング信号も入力する。しかし、調停部50は、2つのADトリガタイミング信号の調停は行わず、2つのADトリガタイミング信号をそのまま出力部60に出力する。これは、PWM制御モードと角度同期制御モードとが切り替えられたときに、切り替え後の制御モードによる制御を円滑に実行するため、AD変換部70により、PWM制御部10からのADトリガタイミング信号に応じたAD変換処理と、変換部40からのADトリガタイミング信号に応じたAD変換処理とがともに行なわれるようにするためである。
【0033】
出力部60は、調停部50によって選択されたパルスタイミング信号に従って、インバータ回路の各スイッチング素子に対してスイッチングパルス信号を出力する。インバータ回路は、モータのU相、V相、W相に対応するように、ブリッジ接続された1対のスイッチング素子を3組有している。スイッチングパルス信号は、それらのスイッチング素子のゲートに供給され、各スイッチング素子が、対応するスイッチングパルス信号に従ってそれぞれオン、オフされる。これにより、モータの各相のステータコイルには、電流指令値に応じた、もしくは予め定められたパターンに応じた擬似交流電流が通電される。
【0034】
また、出力部60は、調停部50から出力された、PWM制御部10からのADトリガタイミング信号に従い、該当するタイミングにて、AD変換部70にADトリガ信号(PWM)を出力する。同様に、出力部60は、調停部50から出力された、変換部40によって変換されたADトリガタイミング信号に従い、該当するタイミングにて、AD変換部70にADトリガ信号(角度同期)を出力する。
【0035】
AD変換部70は、上記の2種類のADトリガ信号(PWM)とADトリガ信号(角度同期)が、異なる時期に入力されれば、それぞれのADトリガ信号(PWM)とADトリガ信号(角度同期)に応じてAD変換処理(変換処理A、変換処理B)を実行する。しかし、2種類のADトリガ信号(PWM)とADトリガ信号(角度同期)が、同時期にAD変換部70に入力され、競合する場合、AD変換部70は、角度同期制御モードのためのAD変換処理を、PWM制御モードのためのAD変換処理よりも優先して処理する。角度同期制御モードのためのAD変換処理は、モータが相対的に高い回転速度のときに行われるためである。以下に、AD変換部70による、角度同期制御モードのためのAD変換処理を優先する処理に関して、図3及び図4のフローチャートを参照して説明する。
【0036】
まず、図3のフローチャートに示す処理について説明する。図3のフローチャートは、ADトリガ信号(角度同期)を受信したときに、AD変換部70によって実行される処理を示す。
【0037】
最初のステップS100では、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理を実行中か否かを判定する。実行中である場合、処理はステップS110に進み、実行中でない場合、処理はステップS120に進む。
【0038】
ステップS110では、実行中の、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理を中断する。そして、ステップS120において、ADトリガ信号(角度同期)に基づいて、AD変換処理を実行する。このようにして、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理とADトリガ信号(角度同期)に基づくAD変換処理とが競合する場合に、ADトリガ信号(角度同期)に基づくAD変換処理を優先して処理する。
【0039】
ステップS130では、ADトリガ信号(角度同期)に基づくAD変換処理による変換結果(変換モータ電流値)を角度同期制御部20に送信する。これにより、角度同期制御部20は、所定のレゾルバ角に対応する対応電気角と同時性が確保されている、変換モータ電流値を用いて、いずれのパターンを選択するかを決定するなど、角度同期制御を実行する。
【0040】
ステップS140では、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理を中断したか否かを判定する。中断した場合、処理はステップS150に進む。中断していない場合、図3のフローチャートに示す処理が終了する。
【0041】
ステップS150では、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理を再開する。すなわち、AD変換部70は、改めて、モータ電流値をサンプリングして、サンプリングしたモータ電流値をAD変換する。このため、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理を中断した場合には、図2に示されるように、三角波信号の山部又は谷部に同期したタイミングに対応する対応電気角と変換モータ電流値とは、同時性が確保されなくなる。また、AD変換処理により変換モータ電流値が算出されるタイミングは、中断がなかった場合に比較して、少なくとも変換処理Aに要する時間分、遅くなる。
【0042】
ステップS160では、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理による変換結果(変換モータ電流値)をPWM制御部10に送信する。PWM制御部10は、後述する補正処理によって対応電気角と変換モータ電流値の一方を補正することにより、対応電気角と変換モータ電流値との同時性を確保する。その上で、PWM制御部10は、同時性が確保された対応電気角と変換モータ電流値とを用いて、PWM制御を実行する。
【0043】
次に、図4のフローチャートに示す処理について説明する。図4のフローチャートは、ADトリガ信号(PWM)を受信したときに、AD変換部70によって実行される処理を示す。
【0044】
最初のステップS200では、ADトリガ信号(角度同期)に基づくAD変換処理を実行中か否かを判定する。実行中である場合、処理はステップS210に進み、実行中でない場合、処理はステップS230に進む。
【0045】
ステップS210では、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理の開始を待機する。そして、ステップS220において、ADトリガ信号(角度同期)に基づくAD変換処理が終了したか否かを判定する。終了した場合、処理はステップS230に進む。終了していない場合、ステップS210の処理に戻り、終了するまで、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理の開始を待機する。
【0046】
ステップS230では、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理を開始する。すなわち、AD変換部70は、モータ電流値をサンプリングして、サンプリングしたモータ電流値をAD変換する。このため、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理を待機した場合には、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理を中断した場合と同様に、三角波信号の山部又は谷部に同期したタイミングに対応する対応電気角と変換モータ電流値とは、同時性が確保されなくなる。また、AD変換処理により変換モータ電流値が算出されるタイミングは、待機しなかった場合に比較して遅くなる。
【0047】
ステップS240では、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理による変換結果(変換モータ電流値)をPWM制御部10に送信する。AD変換部70がADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理を待機しなかった場合、対応電気角と変換モータ電流値とは、同時性が確保されている。しかし、PWM制御部10は、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理を待機した場合、対応電気角と変換モータ電流値とは、同時性が確保されていない。そのため、待機時間が所定の閾値時間以上であると、後述する補正処理によって対応電気角と変換モータ電流値の一方を補正することにより、対応電気角と変換モータ電流値との同時性を確保する。その上で、PWM制御部10は、同時性が確保された対応電気角と変換モータ電流値とを用いて、PWM制御を実行する。
【0048】
次に、対応電気角と変換モータ電流値との同時性を確保するための補正処理について、図5のフローチャートを参照して説明する。補正処理は、PWM制御部10によって実行される。
【0049】
まず、ステップS300において、AD変換部70から出力された変換モータ電流値を受信する。ステップS310では、前回の変換モータ電流値の受信時間と、今回の変換モータ電流値の受信時間との時間差が、PWM制御周期(三角波信号の周期)の半周期と閾値時間との合計時間よりも大きいか否かを判定する。
【0050】
ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理が中断もしくは遅延されていなければ、変換モータ電流値は、図2に示すように、ほぼPWM制御周期の半周期毎に受信されるはずである。例えば、AD変換部70による変換処理Bが終了して、PWM制御部10が変換モータ電流値を受信する時間T1と、時間T2との時間差は、PWM制御周期の半周期にほぼ等しい。しかし、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理が中断もしくは遅延された場合、図2に示すように、変換モータ電流値は、PWM制御周期から推測される終了時間T’には受信されず、それよりも遅い時間T3で受信されることになる。このような変換モータ電流値の受信が、本来の受信時間よりも閾値時間以上遅れた場合、ステップS310の判定結果が「Yes」となる。すると、処理はステップS320に進む。ステップS310の判定結果が「No」である場合、処理はステップS330に進む。
【0051】
ステップS320では、PWM制御タイミングに対応する対応電気角との同時性を確保するように、変換モータ電流値を補正する。すなわち、図6に示すように、補正部としてのPWM制御部10は、前回得られた変換モータ電流値、前回、変換モータ電流値が得られた時間(例えば、図6の時間T2)、今回得られた変換モータ電流値、今回、変換モータ電流値が得られた時間(例えば、図6の時間T3)、及び、図7に示すような、モータに流れる電流の理論波形に基づいて、対応電気角と同時性を持つ変換モータ電流値を推定し、その推定した変換モータ電流値を変換モータ電流値の補正値とする。例えば、前回得られた変換モータ電流値、前回、変換モータ電流値が得られた時間、今回得られた変換モータ電流値、今回、変換モータ電流値が得られた時間を、図7に示すような、モータに流れる電流の理論波形に当てはめることにより、PWM制御周期から推測される終了時間(図6の時間T’)における変換モータ電流値を推定することができる。この際、PWM制御部10は、ADトリガ信号(PWM)に基づくAD変換処理に対して割り込み処理されたADトリガ信号(角度同期)に基づくAD変換処理により得られた変換モータ電流値、及びその変換モータ電流値が得られた時間も使用して、対応電気角と同時性を持つ変換モータ電流値を推定しても良い。
【0052】
ステップS330では、PWM制御部10は、同時性が確保された対応電気角と変換モータ電流値とを用いて、PWM制御のためのパルスタイミングを算出する。そして、ステップS340において、PWM制御部10は、PWM制御タイミングに同期したADトリガタイミング信号及び算出したパルスタイミング信号を出力する。
【0053】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は、上述した実施形態に限定されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0054】
例えば、上述した実施形態では、補正部としてのPWM制御部10が、PWM制御タイミングに対応する対応電気角との同時性を確保するように、変換モータ電流値を補正する例を説明した。しかしながら、PWM制御部10は、変換モータ電流値と、PWM制御タイミングに対応する対応電気角との同時性を確保するように、対応電気角を補正しても良い。
【0055】
対応電気角を補正する場合、図8に示すように、時間T3で受信した変換モータ値との同時性が確保される電気角を推定する。例えば、PWM制御部10は、前回、変換モータ電流値が得られた時間にPWM制御周期の半周期分の時間を加えた時間と、今回、変換モータ電流値が得られた時間との時間差分だけ、対応電気角を遅らせることにより、対応電気角の補正値を推定することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 :PWM制御部
20 :角度同期制御部
30 :角度算出部
40 :変換部
50 :調停部
60 :出力部
70 :AD変換部
100 :モータ制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8