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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179251
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】電子キーシステム、ロック制御装置
(51)【国際特許分類】
   E05B 49/00 20060101AFI20231212BHJP
   B60R 25/24 20130101ALI20231212BHJP
   G01S 13/87 20060101ALI20231212BHJP
   G01S 13/78 20060101ALI20231212BHJP
   E05B 81/76 20140101ALI20231212BHJP
【FI】
E05B49/00 K
B60R25/24
G01S13/87
G01S13/78
E05B81/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092459
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】中島 和洋
(72)【発明者】
【氏名】篠田 卓士
(72)【発明者】
【氏名】神林 良佑
(72)【発明者】
【氏名】角谷 祐次
【テーマコード(参考)】
2E250
5J070
【Fターム(参考)】
2E250AA21
2E250FF23
2E250FF36
2E250HH01
2E250JJ03
2E250LL01
2E250RR11
5J070AB15
5J070AC02
5J070AC20
5J070AE09
5J070AE20
5J070AF03
5J070AK14
5J070AK40
5J070BB03
5J070BC40
5J070BD03
(57)【要約】
【課題】実現コストを抑制可能な電子キーシステム、ロック制御装置を提供する。
【解決手段】スマートECUは、ドアハンドルに内蔵されたUWB通信機であるハンドル内蔵機と接続されている。ハンドル内蔵機としてのUWB通信機は、携帯デバイスとインパルス信号を送受信することで、互いの距離を示す測距値を生成し、受信強度とともにスマートECUに報告する。スマートECUは、当該ハンドル内蔵機での測距値が所定値以下で安定している状態において、受信強度が所定値以下まで低下したことに基づいて、ユーザがドアハンドルを握ったものと見なし、ドアを開錠する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
事前に登録されている携帯デバイスと無線通信を実施することでドアのロック機構を制御する電子キーシステムであって、
ドアハンドル(11)の内部又は前記ドアハンドルから一定距離以内に配置された、前記携帯デバイスと無線通信するためのアンテナ(51)と、
前記アンテナを用いた前記携帯デバイスとの通信結果に基づいて、前記アンテナから前記携帯デバイスまでの電波の飛行時間(ToF:Time of Flight)を示すパラメータであるToF関連値を取得するToF関連値取得部(F22)と、
前記アンテナでの前記携帯デバイスからの信号の受信強度を取得する強度取得部(F21)と、
前記ToF関連値が所定値以下である状態における、前記受信強度の変動パターンに基づいて前記ロック機構の状態を制御する制御部(F4)と、を備える電子キーシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の電子キーシステムであって、
前記制御部は、前記ToF関連値が所定値以下である状態において、所定のタイミングで観測された前記受信強度である基準強度に対して、前記受信強度が所定値以上低下したことに基づいて、前記ドアを開錠又は施錠する電子キーシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子キーシステムであって、
前記制御部は、前記ToF関連値が所定値以下である状態における前記受信強度の変動パターンに応じて異なる制御を実行する電子キーシステム。
【請求項4】
複数のドアを備える車両において使用される、請求項3に記載の電子キーシステムであって、
前記受信強度の変動パターンが第1パターンに該当する場合には、前記車両が備える複数の前記ドアのうちの一部を開錠する一方、
前記受信強度の変動パターンが第2パターンに該当する場合には、前記車両が備える全ての前記ドアを開錠する電子キーシステム。
【請求項5】
車両において使用される、請求項3に記載の電子キーシステムであって、
前記受信強度の変動パターンが第1パターンに該当する場合には、前記ドアを開錠するものの、走行用電源はオフの状態を維持する一方、
前記受信強度の変動パターンが第2パターンに該当する場合には、前記ドアを開錠し、かつ、前記走行用電源をオフからオンに切り替える電子キーシステム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の電子キーシステムであって、
前記アンテナから特定パターンの無線信号を探査波として送信させてから、前記アンテナが当該特定パターンの信号を受信するまでの時間に基づいて、反射物との距離を取得するレーダ処理部(F23)を備え、
前記制御部は、
前記レーダ処理部が取得する距離の時系列データに基づいて、ユーザが前記アンテナに手を近づけたことを検出することと、
前記ToF関連値が所定値以下である状態において、前記受信強度が所定値以上低下し、かつ、前記アンテナに手を近づけたことを検出できていることを条件として、前記ドアを開錠又は施錠することと、を実施する電子キーシステム。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の電子キーシステムであって、
2つ以上の前記アンテナを備え、
複数の前記アンテナは、前記ドアハンドルの長手方向に並んで配置されており、
前記強度取得部は、複数の前記アンテナのそれぞれでの前記受信強度を取得し、
前記制御部は、
複数の前記アンテナのそれぞれでの前記受信強度の変動パターンから、前記ドアハンドルに対するユーザのスワイプ操作を検出することと、
前記制御部は、前記ToF関連値が所定値以下である状態において、前記スワイプ操作を検出したことに基づいて、前記ドアの開閉を制御することと、を実施するように構成されている電子キーシステム。
【請求項8】
ドアハンドル(11)の内部又は前記ドアハンドルから一定距離以内に配置されたアンテナ(51)と接続されて使用されるロック制御装置であって、
事前に登録されている携帯デバイスと前記アンテナを用いて通信した結果に基づいて、前記アンテナから前記携帯デバイスまでの電波の飛行時間(ToF:Time of Flight)を示すパラメータであるToF関連値を取得するToF関連値取得部(F22)と、
前記アンテナでの前記携帯デバイスからの信号の受信強度を取得する強度取得部(F21)と、
前記ToF関連値が所定値以下である状態における、前記受信強度の変動パターンに基づいて、前記ドアハンドルが設けられているドアのロック機構の状態を制御する制御部(F4)と、を備えるロック制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、事前に紐付けられている携帯デバイスとの通信結果に基づいて、ユーザが携帯デバイスを操作せずともドアのロック機構を開錠可能な電子キーシステム、ロック制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、事前に登録されている携帯デバイスが施開錠エリアに存在することが確認できていること、及び、車両のドアに設けられたタッチセンサがユーザにタッチされたことを条件として、ドアを開錠するシステムが開示されている。ここでの施開錠エリアとは、車載システムが、携帯デバイスとの通信結果にもとづいてドアの施錠/開錠するためのエリアであって、車室外のうち、ドアから所定距離(例えば1m)以内となる領域である。
【0003】
この種の技術において、携帯デバイスが施開錠エリア内に存在するか否かの判定(以降、位置判定)には、LF(Low Frequency)帯の電波を用いられることが多い。LF帯の電波が用いられる理由は、無線信号の到達範囲をドア近傍に限定しやすいためである。一方、近年は、UWB(Ultra Wide Band)通信を用いて位置判定を行う構成も提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5477218号公報
【特許文献2】特開2020-122727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1等に開示されている従来の電子キーシステムでは、ユーザの開錠操作の検知には、位置判定に使用される通信機とは別の装置が用いられる。例えば位置判定にはLF信号を送信する通信機などが使用される一方、開錠等のためのユーザ操作の検知には、タッチセンサやプッシュボタン、赤外線センサなどが使用される。このように従来構成では、位置判定用のハードウェアに加えて、タッチセンサやドアボタンといった、ユーザがドアを施錠又は開錠するための操作を検出するアクションセンサを設ける必要があるため、システム全体としてのコストが増大しうる。
【0006】
本開示は、上記の検討又は着眼点に基づいて成されたものであり、その目的の1つは、実現コストを抑制可能な電子キーシステム、ロック制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための電子キーシステムは、事前に登録されている携帯デバイスと無線通信を実施することでドアのロック機構を制御する電子キーシステムであって、ドアハンドル(11)の内部又はドアハンドルから一定距離以内に配置された、携帯デバイスと無線通信するためのアンテナ(51)と、アンテナを用いた携帯デバイスとの通信結果に基づいて、アンテナから携帯デバイスまでの電波の飛行時間(ToF:Time of Flight)を示すパラメータであるToF関連値を取得するToF関連値取得部(F22)と、アンテナでの携帯デバイスからの信号の受信強度を取得する強度取得部(F21)と、ToF関連値が所定値以下である状態における、受信強度の変動パターンに基づいてロック機構の状態を制御する制御部(F4)と、を備える。
【0008】
上記の構成は、制御部が所定のアンテナから所定値以内に携帯デバイスが存在している状況における受信強度の低下を、ドアの開錠/施錠にかかるユーザ操作に対応するものと見なして、ロック機構の状態を制御(例えば開錠)するものである。当該構成によれば、携帯デバイスの位置を判定するためのアンテナを用いてユーザ操作も検出可能となるため、タッチセンサ等のアクションセンサの設置を省略可能となる。それに伴い、実現コストを低減可能となる。
【0009】
また目的を達成するためのロック制御装置は、ドアハンドル(11)の内部又はドアハンドルから一定距離以内に配置されたアンテナ(51)と接続されて使用されるロック制御装置であって、事前に登録されている携帯デバイスとアンテナを用いて通信した結果に基づいて、アンテナから携帯デバイスまでの電波の飛行時間(ToF:Time of Flight)を示すパラメータであるToF関連値を取得するToF関連値取得部(F22)と、アンテナでの携帯デバイスからの信号の受信強度を取得する強度取得部(F21)と、ToF関連値が所定値以下である状態における、受信強度の変動パターンに基づいて、ドアハンドルが設けられているドアのロック機構の状態を制御する制御部(F4)と、を備える。
【0010】
上記ロック制御装置は、上述した電子キーシステムにおけるToF関連値取得部、強度取得部、及び制御部を備える装置であって、これらの構成を備えることにより、上記電子キーシステムと同様に作用し、同様の効果を奏する。
【0011】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。また、本開示は、アクションセンサを任意の要素とするものであって、アクションセンサの設置を禁止するものではない。本開示は、ドアまわりにアクションセンサが設けられた車両や建物などに対しても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】車両用電子キーシステムの全体像を説明するための図である。
図2】UWB通信機の設置位置の一例を示す図である。
図3】UWB通信機が内蔵された外側ドアハンドルを示す図である。
図4】UWB通信機の構成を説明するためのブロック図である。
図5】ラウンドトリップ時間について説明するための図である。
図6】探索処理を説明するためのフローチャートである。
図7】スマートECUの機能ブロック図である。
図8】開錠関連処理を説明するためのフローチャートである。
図9】受信強度の下落点に付いて説明するための図である。
図10】スワイプ操作が実行された場合のアンテナごとの受信強度の推移を概念的に示す図である。
図11】受信強度の変動パターンに応じた制御内容の一例を示す図である。
図12】受信強度の変動パターンごとの制御内容の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について図を用いて説明する。以下の説明における前後、左右、上下の各方向は、基準方向に関する注釈がない場合には(つまり基本的には)、車両Hvを基準として規定される。以下の説明は、車両Hvが使用される地域の法規及び慣習に適合するように適宜変更して実施可能である。
【0014】
<前置き>
図1は、車両用電子キーシステムの概略的な構成の一例を示す図である。図1に示すように車両用電子キーシステムは、車載システム1と、携帯デバイス2とを含む。車載システム1は、車両Hvに搭載されているシステムである。携帯デバイス2は、車両Hvのユーザによって携帯されるデバイスであって、デバイスIDなどのデバイス情報が車両Hvに登録されているデバイスである。
【0015】
車載システム1には、複数の携帯デバイス2が登録されうる。以下の例示では、車載システム1に複数の携帯デバイス2が登録されているものとする。もちろん、車載システム1に紐付けられている携帯デバイス2は1つだけであってもよい。なお、デバイスIDは車載システム1が、携帯デバイス2を識別するための番号である。デバイスIDは、デバイスアドレスや、UUID(Universally Unique Identifier)などを採用可能である。デバイスIDは、車載システム1が割り当てたコード(いわゆるキーID)であっても良い。
【0016】
車載システム1と携帯デバイス2は、所定の周波数帯の電波を用いて双方向に無線通信を実施するための構成を有している。ここでは一例として車載システム1と携帯デバイス2は、UWB-IR(Ultra Wide Band - Impulse Radio)方式の無線通信であるUWB通信を実施可能に構成されている。すなわち、車載システム1と携帯デバイス2は、UWB通信で使用されるインパルス状の電波(以降、インパルス信号)を送受信可能に構成されている。UWB通信で用いられるインパルス信号とは、パルス幅が極短時間(例えば2ns)であって、かつ、500MHz以上の帯域幅(つまり超広帯域幅)を有する信号である。
【0017】
なお、UWB通信では、IEEE802.15.4zで開示されているように複数のチャネルが利用されうる。例えば車載システム1は、UWB通信の第5チャネルを用いて携帯デバイス2と通信する。もちろん、車載システム1は、第3チャネルや第9チャネルを用いて携帯デバイス2と通信可能に構成されていても良い。第3チャネルとは、4243MHzから4742Mhzまでの周波数帯(中心周波数は4492MHz)を意味する。第5チャネルとは、6489.6MHz(約6.5GHz)±250MHz帯の電波、つまり6240MHzから6739MHzまでの周波数を指す。第9チャネルとは、7738MHzから8237Mhzまでの周波数帯(中心周波数は7987.2MHz)を意味する。なお、IEEE(登録商標)は、Institute of Electrical and Electronics Engineersの略であって、米国電気電子学会を意味する。
【0018】
また、UWB-IR通信の変調方式としては、オンオフ変調(OOK:On Off Keying)方式やパルス位置変調(PPM:Pulse Position Modulation)方式、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)など、多様なものを採用可能である。なお、オンオフ変調方式はインパルス信号の存在/欠如によって情報(例えば0と1)を表現する方式である。パルス位置変調方式はパルスの発生位置で変調を行う方式である。パルス幅変調方式はパルス幅によって情報を表現する方式である。ここでは一例として車載システム1と携帯デバイス2とのUWB通信はOOK方式によって実施される。UWB通信によるデータ送信は、複数のインパルス信号を用いて実現される。以降ではUWB通信でやり取りされるデータ信号をUWB信号と称する。UWB信号は、複数のインパルスを含むため、パルス系列信号と呼ぶこともできる。
【0019】
ここでは一例として車両Hvは、前部座席と後部座席とを備えており、右側に運転席が設けられている車両とする。後部座席用のドアであるリアドアは左右両方とも、電動で開閉する、いわゆるパワースライドドアとして構成されている。また、前部座席用のドアであるフロントドアはここでは一例として手動で開閉されるように構成されている。もちろん、他の態様としてフロントドアも電動で開閉するように構成されていても良い。さらに、種々のドアは、電動で開閉する上方展開型のドアとして構成されていても良い。ここでの上方展開型のドアとは、地面に対して略垂直に展開する方式で開くドアを指し、ガルウィングドアや、シザーズドア、ラプタードア、バタフライドア、キャノピードアなどが含まれる。本開示では右側のリアドアを右リアドア、左側のリアドアを左リアドア、右側のフロントドアを右フロントドア、左側のフロントドアを左フロントドアとも記載する。
【0020】
<携帯デバイス2について>
携帯デバイス2は、UWB通信機能を備えた、携帯可能かつ汎用的な情報処理端末である。携帯デバイス2としては、例えば、スマートフォンや、ウェアラブルデバイス等など、多様な通信端末を採用することができる。ウェアラブルデバイスは、ユーザの身体に装着されて使用されるデバイスであって、リストバンド型、腕時計型、指輪型、メガネ型、イヤホン型など、多様な形状のものを採用可能である。
【0021】
携帯デバイス2は、UWB通信部とデバイス制御部を備える。UWB通信部は、UWB通信を実施するための通信モジュールである。デバイス制御部は、例えばプロセッサ、メモリ、ストレージ等を備えた、コンピュータとして構成されている。ストレージには、デバイスIDが保存されている。デバイスIDは、携帯デバイス2毎に異なる。デバイス制御部は、車載システム1との通信に係る処理を実施する。なお携帯デバイス2のストレージには、車載システム1との無線認証処理で使用される鍵コードが保存されていても良い。鍵コードは暗号キーなどとも呼ばれうる。
【0022】
本実施形態の携帯デバイス2は、車載システム1から送信されてきたUWB信号を受信した場合には、受信信号に応じた応答信号を返送する。例えば、携帯デバイス2は、探索信号としてのUWB信号を受信すると、応答信号として、自分自身のデバイスIDを含むUWB信号を車載システム1に返送する。探索信号は、車載システム1が携帯デバイス2を探索するための信号であって、携帯デバイス2に対して応答信号の返送を要求する信号の一種である。携帯デバイス2及び車載システム1が送信するUWB信号には送信元或いは宛先を示すコードが含まれうる。
【0023】
尚、携帯デバイス2は、車両Hvの電子キーとしての専用デバイスであるスマートキーであってもよい。スマートキーは、車両Hvの購入時に、車両Hvとともにオーナに譲渡されるデバイスである。スマートキーは車両Hvの付属物の1つと解することができる。スマートキーは、扁平な直方体型や、扁平な楕円体型(いわゆるフォブタイプ)、カード型など、多様な形状を採用可能である。スマートキーは、車両用携帯機、キーフォブ、キーカード、アクセスキーなどと呼ばれうる。
【0024】
<車載システム1の構成について>
車載システム1は、図1に示すように、スマートECU4、複数のUWB通信機5、複数のドアロックモータ6、複数の開閉モータ7、ウェルカムランプ8、及び電源ECU9を備える。部材名称中のECUは、Electronic Control Unitの略であって、電子制御装置を意味する。
【0025】
スマートECU4は、種々の装置と専用の信号線で接続されている。なお、一部の装置はスマートECU4と、車両内ネットワークNwを介して相互通信可能に接続されていてもよい。車両内ネットワークNwは、車両Hv内に構築されている通信ネットワークである。車両内ネットワークNwの規格としては、多様な規格を採用可能である。本開示に示す装置同士の接続形態は一例であって、具体的な装置同士の接続態様は適宜変更可能である。
【0026】
スマートECU4は、UWB通信機5のそれぞれでの携帯デバイス2からの信号の受信状況に基づいて、車両Hvに対するデバイス位置を判定し、その判定結果に応じた車両制御を実施するECUである。デバイス位置とは携帯デバイス2の位置を指す。スマートECU4は、携帯デバイス2から送信されてくるUWB信号を受信することにより、携帯デバイス2が車外の所定範囲内に存在することを検出し、デバイス位置の判定や認証にかかるシーケンスを実行する。スマートECU4がロック制御装置に相当する。スマートECU4が備える機能の詳細については別途後述する。
【0027】
当該スマートECU4は、コンピュータを用いて実現されている。すなわち、スマートECU4は、プロセッサ41、メモリ42、ストレージ43、I/O44、及びこれらの構成を接続するバスラインなどを備えている。プロセッサ41はCPU(Central Processing Unit)などの演算コアである。メモリ42は、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリである。プロセッサ41は、メモリ42へのアクセスにより、後述する各機能部の機能を実現するための種々の処理を実行する。
【0028】
ストレージ43は、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む構成である。ストレージ43には、プロセッサ41によって実行される制御プログラムが格納されている。制御プログラムは、携帯デバイス2の位置を判定するプログラムである位置判定プログラムを含む。プロセッサ41が位置判定プログラムを実行することは、当該制御プログラムに対応する位置判定方法が実行されることに相当する。I/O44は、他装置と通信するための回路モジュールである。
【0029】
ストレージ43には、携帯デバイス2毎のデバイスIDが鍵コードと対応付けられて保存されている。スマートECU4は受信信号に含まれるデバイスIDをもとに、通信相手が携帯デバイス2か未登録のデバイスかを識別可能である。また、ストレージ43には、車両Hvにおける各UWB通信機5の搭載位置を示す通信機設定データが格納されている。各UWB通信機5の搭載位置は、例えば、車両Hvの任意の位置を中心とし、車両Hvの幅方向及び前後方向の両方に平行な2次元座標系である車両座標系上の点として表現されうる。車両座標系を形成するX軸は車幅方向に平行に設定し、Y軸は車両の前後方向に平行に設定可能である。座標系の中心としては、例えば、車体の中心、スマートECU4の取り付け位置など任意の箇所を採用可能である。
【0030】
UWB通信機5は、UWB通信を実施するための通信モジュールである。本実施形態の車載システム1は、図2に示すようにUWB通信機5として、UWB通信機5a~5d、6p~6qを備える。各UWB通信機5の構成や性能は実質的に同一に構成されている。UWB通信機5a~5dは、車両Hvの外面部に配置されたUWB通信機5である。例えばUWB通信機5aは、図3に示すように、右フロントドアの外側ドアハンドル11に内蔵されている。UWB通信機5bは、左フロントドアの外側ドアハンドル11に内蔵されている。UWB通信機5cは、リアバンパの中央部に配置されており、UWB通信機5dはフロントバンパの中央部に配置されている。
【0031】
UWB通信機5a、5b、5cはそれぞれ一例として、後述する近傍エリアEAとしての右側エリアER、左側エリアEL、後方エリアEBの中心に配置されている。本開示では、UWB通信機5a、5b、5cといった、外側ドアハンドル11に内蔵されているUWB通信機5をハンドル内蔵機とも称する。ハンドル内蔵機は、デバイス位置の判定と、ユーザ操作の検出に兼用されるUWB通信機5である兼用機に相当する。
【0032】
UWB通信機5pは、例えば車室内の前席を通信エリアとしてカバーするためのUWB通信機5であって、例えばフロントガラスの上端部、インストゥルメントパネル、又はセンターコンソールに配置されている。UWB通信機5qは、車室内の後席又はトランク内を通信エリアとしてカバーするためのUWB通信機5であって、例えばリアガラスの上端部や、トランク内に配置されている。
【0033】
なお、図2図3等に示すX軸、Y軸、Z軸は車両Hvに対するUWB通信機5の搭載位置及び搭載姿勢を説明するための要素である。X軸は車幅方向に平行であって、車両右方向を正方向とする軸である。Y軸は、車両の前後方向に平行であって、車両前側を正方向とする軸である。Z軸は、車両Hvの高さ方向似平行な軸である。
【0034】
各UWB通信機5の動作は、スマートECU4によって制御される。各UWB通信機5は、駆動中、携帯デバイス2からの信号の受信状況を示すデータをスマートECU4に送信する。受信状況を示すデータには、受信の有無、受信強度、測距値などが含まれうる。UWB通信機5は、携帯デバイス2の位置判定に利用される通信機であって、アンカーあるいは基準局などとも称される。UWB通信機5の詳細は別途後述する。
【0035】
ドアロックモータ6は、ドアのロック機構の状態(施錠、開錠)を切り替えるためのモータである。ロック機構はラッチ機構とも呼ばれうる。ドアロックモータ6はドアごとに設けられている。ドアロックモータ6は、スマートECU4から入力される制御信号に基づき駆動し、ロック機構を開錠状態から施錠状態に切り替えたり、施錠状態から開錠状態に切り替えたりする。なお、ドアロックモータ6とスマートECU4との間には、ボディECUなど、他のECUが介在していても良い。
【0036】
開閉モータ7は、ドアを開けたり閉じたりするためのモータである。車載システム1は開閉モータ7として、右リアドア用の開閉モータ7aと、左リアドア用の開閉モータ7bと、トランクドア用の開閉モータ7cと、を備える。トランクドアは、車両の背面部に設けられたドアであって、バックドアやバックゲート、リアゲートなどとも呼ばれうる。各開閉モータ7は、スマートECU4から、ドアを開けるように指示する制御信号であるオープン指示信号が入力されていることに基づいて駆動し、制御対象とするドアを閉状態から開状態へと遷移させる。また、開閉モータ7は、スマートECU4からドアを閉じるように指示する制御信号であるクローズ指示信号が入力されていることに基づいて駆動し、制御対象とするドアを開状態から閉状態へと遷移させる。なお、ここでの開状態には、全開だけでなく、半開きなど、完全に閉じきっていない状態も含まれる。自動制御によってどこまで開けるかは、ユーザが設定可能に構成されていても良い。
【0037】
ウェルカムランプ8は、ドア付近の路面を照らす照明装置である。例えばウェルカムランプ8は、サイドシルやサイドミラーなどに配置されている。ウェルカムランプ8の点灯状態は、スマートECU4からの指示に基づき切り替えられる。なお、ウェルカムランプ8は、ドア付近の路面に画像を投影するプロジェクタであっても良い。
【0038】
電源ECU9は、車両Hvに搭載された走行用電源のオンオフ状態を制御するECUである。例えば電源ECU9は、例えばスマートECU4からの要求信号に基づき、走行用電源をオフからオンに切り替える。尚、エンジン車両においてはイグニッション電源が走行用電源に相当する。また電気自動車においてはシステムメインリレーが走行用電源に相当する。
【0039】
なお、スマートECU4には、上述したセンサ/スイッチ/ECU以外にも、多様なデバイスが直接的に又は間接的に接続される。例えばスマートECU4には、カーテシスイッチや、シフトポジションセンサなどの出力信号が入力されうる。カーテシスイッチは、ドアの開閉状態を示す信号を出力するスイッチである。シフトポジションセンサは現在のシフトポジションを示す信号を出力するセンサである。
【0040】
<UWB通信機の構成について>
ここでは各UWB通信機5の構成について説明する。複数のUWB通信機5のそれぞれは、図4に示すように、アンテナ51、送信部52、受信部53、及びコントローラ54を備える。アンテナ51は、UWB信号を送受信するためのアンテナである。本実施形態のUWB通信機5はアンテナ51として、第1アンテナ51Aと第2アンテナ51Bを備える。第1アンテナ51Aは送信用のアンテナ51であって、送信部52と電気的に接続されている。第2アンテナ51Bは受信用のアンテナ51であって、受信部53と電気的に接続されている。なお、第1アンテナ51Aは送受信兼用のアンテナとして構成されていても良い。その場合、第1アンテナ51Aは、図4の破線で示すように受信部53とも接続されうる。
【0041】
送信部52は、スマートECU4から入力されたベースバンド信号に対応するUWB信号を生成し、このUWB信号を第1アンテナ51Aから電波として放射させる構成である。UWB信号は、インパルス信号の集合/系列である。送信部52は変調回路521など、ベースバンド信号を電気的に処理する回路を含む。送信部52は、送信データに対応する電気的なインパルス信号を第1アンテナ51Aへ出力する。
【0042】
受信部53は、第2アンテナ51Bを介して携帯デバイス2から送信されてくるUWB信号を受信し、電気的に処理する回路モジュールである。受信部53は、復調回路531及び受信強度検出回路532などを含む。受信強度検出回路532は、逐次、受信強度を示す信号をコントローラ54に出力する。
【0043】
コントローラ54は、UWB通信機5の動作を制御する構成である。コントローラ54はたとえばIC(Integrated Circuit)を用いて実現されている。コントローラ54は、受信データをスマートECU4に出力したり、スマートECU4から入力された送信データを送信部52に出力したりする。
【0044】
また、コントローラ54は、RTT計測部541と、報告部542とを含む。RTT計測部541は、送信部52がファストパルス信号を送信してから、受信部53がファストパルスを受信するまでの経過時間であるラウンドトリップ時間(RTT:Round Trip Time)を計測するタイマである。ファストパルスは、送信/受信データを構成する複数のインパルス信号のうち、先頭に位置するインパルス信号である。インパルス信号の送信タイミングは、送信部52から通知されても良いし、コントローラ54が送信部52から第1アンテナ51Aに向かう信号線の電圧レベルを監視することで特定してもよい。RTT計測部541は、送信部52によるデータ送信後において、初めて受信強度が所定の検出閾値を超過したタイミングを、ファストパルスの受信タイミングとして採用する。他の態様としてRTT計測部541は、送信データの末尾パルスが送信されてから受信データの末尾パルスを受信するまでの時間をラウンドトリップ時間として計測してもよい。ラウンドトリップ時間の計測方法としては多様な方法が採用可能である。
【0045】
なお、図5に示すように、ラウンドトリップ時間は、往復分の飛行時間(Tf×2)に、探索信号の長さ(Trq)と、携帯デバイス2での応答処理時間(Tn)を加えた時間に相当する。図中のTfは、片道分の飛行時間を示している。図中のTrqは、探索信号の長さを示しており、Trsは応答信号の長さを示している。応答処理時間とは、受信信号に対応する応答信号の生成及び出力に要する時間である。片道分の飛行時間は、UWB通信機5から携帯デバイス2までの距離に対応する。当該RTT計測部541は、図示しないクロック発振器から入力されるクロック信号を計数することによって、送信部52がインパルス信号を送信してからの経過時間を測定する。
【0046】
報告部542は、RTT計測部541によって計測されたラウンドトリップ時間に基づいて、測距値を生成する。測距値は、携帯デバイス2までの距離を示すパラメータである。例えば報告部542は、計測されたラウンドトリップ時間から、予め設計されている応答処理時間の想定値と、探索信号の長さを減算することにより、往復飛行時間を算出する。そして、往復飛行時間を2で割った値に、電波の飛行時間を乗算した値を測距値として採用する。
【0047】
もちろん、ラウンドトリップ時間から測距値に変換する演算式は、上記例に限らない。ラウンドトリップ時間から測距値への変換処理には、上述した以外の補正処理、例えば受信部53での反応遅延時間などを補正するための処理が含まれていても良い。また、本実施形態では、測距値は距離の次元で表現されるが、他の態様においては、測距値は時間の次元のパラメータであってもよい。例えば測距値は、片道分又は往復分の飛行時間(ToF:Time of Flight)であってもよい。測距値は、ToF関連値と呼ぶこともできる。またラウンドトリップ時間そのものが測距値として使用されても良い。
【0048】
報告部542は、測距値を応答信号の受信強度と対応付けてスマートECU4に報告する構成である。ラウンドトリップ時間とともに報告する受信強度は、ファストパルスのピーク値であってもよいし、応答信号を構成する複数のインパルスごとのピーク値の平均値或いは中央値であってもよい。
【0049】
以上の構成を含むコントローラ54は、スマートECU4からの指示に基づき、探索処理を実施する。探索処理は、図6に示すように、探索信号を送信する工程(S11)と、応答信号の受信を待機する工程(S12)と、受信結果を報告する工程(S13)と、を含む。応答信号を受信できた場合の報告データには、上記の測距値と受信強度とが含まれる。また、応答信号を受信できた場合の報告データには、応答を返してきた携帯デバイス2のデバイスIDが含まれていてもよい。探索信号を送信してから所定の応答待機時間経過しても応答信号を受信できなかった場合、報告部542は、携帯デバイス2を発見できなかったことを示すコードを報告データとしてスマートECU4に返送する。上記の報告データは探索結果データと言い換えることができる。
【0050】
なお、送信部52及び受信部53に相当する回路の一部又は全部は、コントローラ54としてのICに内蔵されていても良い。1つのUWB通信機5が備えるアンテナ51は1つだけであってもよいし、3つ以上であってもよい。UWB通信機5ごとにアンテナ51の数は異なっていても良い。
【0051】
<スマートECU4の機能について>
スマートECU4は、ストレージ43に保存されているプログラムを実行することにより、図7に示す種々の機能ブロックに対応する機能を提供する。すなわち、スマートECU4は機能部として、車両情報取得部F1、通信機制御部F2、位置判定部F3、及び制御部F4を備える。また、スマートECU4は、探索結果保持部M1を備える。
【0052】
探索結果保持部M1は、UWB通信機5ごとの所定時間分の探索結果データを保持するための記憶媒体である。当該探索結果保持部M1は、ストレージ43が備える記憶領域の一部を用いて実現されている。尚、探索結果保持部M1は、ストレージ43とは物理的に独立した不揮発性の記憶媒体を用いて実現されていても良い。探索結果保持部M1はプロセッサ41によるデータの書き込み、読出、削除等が実施可能に構成されている。
【0053】
車両情報取得部F1は、車両Hvに搭載されたセンサやECU、スイッチなどから、車両Hvの状態、及び、車両Hvに対するユーザの操作を示す種々の車両情報を取得する。車両情報には、例えば走行用電源の状態(オン/オフ)や、各ドアの開閉状態、各ドアの施錠/開錠状態、シフトポジション等が含まれる。
【0054】
通信機制御部F2は、UWB通信機5の動作状態を制御する構成である。通信機制御部F2は、位置判定部F3からの要求に基づいて、要求されたUWB通信機5を節電状態から通常状態に移行させたり、通常状態から節電状態に切り替えたりする。ここでの通常状態とは、携帯デバイス2と通信可能な状態である。また節電状態とは、通常状態に比べて消費電力を低減可能な状態であって、実態的には少なくとも一部又は全部の機能が停止している状態を指す。節電状態は、電源がオフに設定されている状態であってもよい。例えば通信機制御部F2は、各UWB通信機5に関しては、走行用電源がオフの間も探索処理実行のために間欠的に節電状態から通常状態に復帰させる。通信機制御部F2は、走行用電源がオンである間は、各UWB通信機5を通常状態で動作させ続けても良い。
【0055】
このような通信機制御部F2は、各UWB通信機5から、携帯デバイス2との通信状況を示すデータや受信データを取得してメモリ42に保存する処理を実施する。通信状況を示すデータには、探索結果データが含まれる。メモリ42に保存したデータは、位置判定部F3や制御部F4によって適宜参照される。通信機制御部F2は、サブ機能部として、強度取得部F21及び測距値取得部F22を備える。強度取得部F21は、各UWB通信機5から受信強度を取得して探索結果保持部M1に保存する構成であり、測距値取得部F22は、各UWB通信機5から測距値を取得して探索結果保持部M1に保存する構成である。測距値取得部F22がToF関連値取得部に相当する。
【0056】
位置判定部F3は、通信機制御部F2及び各UWB通信機5と協働して、携帯デバイス2の位置を判定するモジュールである。位置判定部F3は、デバイス位置として、車両座標系における携帯デバイス2の位置座標であるデバイス位置座標を算出する機能と、携帯デバイス2が存在するエリア(区分)であるデバイス滞在エリアを判定する機能とを備える。位置判定部F3は、車両Hvが駐車されている間、各UWB通信機5に順番に探索処理を実施させる。1つのUWB通信機5における探索処理の実行間隔を規定する探索周期は、100ミリ秒や200ミリ秒、500ミリ秒などである。
【0057】
なお、駐車状態における探索処理とは、ユーザ接近の検知、及び/又は、開錠制御の実行のための探索処理と言い換えることができる。位置判定部F3は、探索処理を実行させるUWB通信機5の組み合わせを、車両の状態に応じて変更してもよい。車両Hvが駐車されている間、UWB通信機5qには定期的な探索処理を実施させなくとも良い。駐車中において探索処理を定期的に実行させるUWB通信機5の数を絞ることにより、駐車中の消費電力を抑制可能となる。
【0058】
位置判定部F3は、複数のUWB通信機5での測距値と各UWB通信機5の車両Hvにおける搭載位置を組み合わせることにより、車両Hvに対する対象デバイスの位置座標を算出する。当該演算処理は、GNSSや位置推定の技術分野における3点測位あるいは多点測位と同様の手法により実施される。本開示では、3点測位のように、複数のアンカーでの測距値を用いてデバイス位置座標を求める処理を座標算出処理とも称する。デバイス位置座標は車両座標系などで表現されうる。
【0059】
なお、3点測位は、概念的には、3つの測距円の交点座標を算出することに相当する。測距円とは、UWB通信機5の設置位置を中心とし、観測されている測距値を半径とする円である。車両HvにおけるUWB通信機5の設置位置は既知であるため、3つ以上のUWB通信機5から携帯デバイス2までの距離を取得できれば、連立方程式を解くことにより携帯デバイス2の位置座標(デバイス位置座標)が特定可能である。なお、個々の測距値には誤差が含まれるため、3つ以上の測距円が1点で交わらないこともある。デバイス位置座標を算出する処理である座標算出処理は、概念的は、複数の測距円の交点が密集する局所領域において、複数の測距円からの距離の合計値が最小となる地点を算出する処理に相当する。
【0060】
また、位置判定部F3は、複数のUWB通信機5での探索結果に基づき、携帯デバイス2が近傍エリアEAに存在するのかを判定する。近傍エリアEAとは、当該エリア内に携帯デバイス2が存在することに基づいて、車載システム1がドアの施錠や開錠といった所定の車両制御を実行するためのエリアである。例えば、右前ドア、左前ドア、及びトランクドアのそれぞれに設けられた外側ドアハンドル11から所定の作動距離以内となる範囲が近傍エリアEAに設定されている。近傍エリアEAは、パッシブエントリエリア或いは施開錠エリアと呼ぶこともできる。作動距離は0.75mや1m、1.5mなどに設定されうる。本実施形態では車両右側の近傍エリアEAを右側エリアER、左側の近傍エリアEAを左側エリアEL、後方の近傍エリアEAを後方エリアEBとも称する。
【0061】
本実施形態ではUWB通信機5aが右前ドアの外側ドアハンドル11に設けられているため、位置判定部F3は、UWB通信機5aでの測距値が作動距離以下であることに基づいてデバイス滞在エリアは右側エリアERと判定する。また、位置判定部F3は、UWB通信機5bでの測距値が作動距離以下であることに基づいてデバイス滞在エリアは左側エリアELと判定し、UWB通信機5cでの測距値が作動距離以下であることに基づいてデバイス滞在エリアは後方エリアEBと判定する。
【0062】
なお、車両Hvのモデルによっては、UWB通信機5が近傍エリアEAの中心からはずれた位置に配置されていることも想定される。そのような場合、位置判定部F3は、座標算出処理で得られているデバイス位置座標を用いて、滞在エリアが近傍エリアEAに該当するか否かを判定しても良い。
【0063】
制御部F4は、車両Hvに対するユーザ操作に反応して、位置判定部F3が特定しているデバイス位置に応じた制御/処理を他のECUと連携して実行する。制御部F4の詳細は別途後述する。なお、制御部F4は、サブ機能部として、兼用機としてのハンドル内蔵機での受信強度を用いて、ドアの開閉にかかるユーザの操作を検出するアクション検出部F41を備える。ドアの開閉にかかるユーザの操作とは、後述するグリップ操作やスワイプ操作などである。
【0064】
<開錠関連処理>
次に図8に示すフローチャートを用いて、スマートECU4が実施する開錠関連処理について説明する。当該開錠関連処理は、ドアを開錠する制御を実施するための処理に相当する。開錠関連処理は、車両Hvが駐車されている間、定期的に実行される。開錠関連処理は、図8に示すように一例としてステップS21~S27を含む。各ステップは、プロセッサ41によって図8に示す矢印に従って実行されうる。
【0065】
ステップS21は、各UWB通信機5に順番に探索処理を実行させるステップである。ステップS22は各UWB通信機5から探索結果データを取得するステップである。ステップS23は、ステップS21~S22の結果に基づき、携帯デバイス2を発見できたか否かを判定するステップである。ステップS23は、少なくとも1つのUWB通信機5にて携帯デバイス2からの応答信号を受信できたか否かを判定するステップに相当する。スマートECU4は、少なくともいずれかのUWB通信機5にて、携帯デバイス2からの応答信号を受信できている場合(S23 YES)、ステップS24を実行する。一方、いずれのUWB通信機5でも携帯デバイス2からの応答信号を受信できなかった場合には(S23 NO)、本フローを終了する。
【0066】
なお、ステップS23は、複数のハンドル内蔵機のいずれかで携帯デバイス2からの応答を受信できたか否かを判定するステップであってもよい。その場合、スマートECU4は、いずれのハンドル内蔵機でも携帯デバイス2からの応答信号を受信できていない場合に本フローを終了する。
【0067】
ステップS24は、ハンドル内蔵機の中に測距値が所定の近接判定値以下となっているUWB通信機5があるか否かを判定するステップである。複数のハンドル内蔵機の中に、測距値が近接判定値以下となっているUWB通信機5がある場合には、当該UWB通信機5を最寄り通信機として以降の処理を実行する。ハンドル内蔵機の中に測距値が近接判定値以下となっているUWB通信機5が存在しない場合には本フローを終了させる。ここでの近接判定値は、例えば0.6や0.8mなどである。近接判定値は、作動距離と同じ値に設定されていてもよい。最寄り通信機は、携帯デバイス2から最も近い位置にあるUWB通信機5、換言すれば、ユーザの目の前にあるドアに設けられたUWB通信機5に相当する。
【0068】
ステップS25は、探索結果保持部M1に保存されている、最寄り通信機で観測された受信強度の時系列データを解析するステップである。例えばステップS25は、最寄り通信機で観測された受信強度の時系列データを参照し、現在時刻から所定時間前に観測された受信強度である基準強度(Prf)に対し、現在の受信強度(Pn)が所定値以上低下しているか否かを判定する。ここでの遡及時間としての所定時間は0.5秒や1.0秒、1.5秒などに設定されうる。
【0069】
本開示では、基準強度に対して受信強度が所定値以上低下することを受信強度の下落と称するとともに、受信強度の下落を検出した時刻を下落点(Tdp)とも称する。図9は、受信強度の下落に関する各種パラメータの関係を概念的に示す図であって図中のTnは現在時刻を、Pnは最新の受信強度の観測値を、δPは基準強度に対する現在の受信強度の変動量をそれぞれ示している。
【0070】
下落点とみなすための受信強度の変動量にかかる閾値である下落判定値は、15dBや10dBなどに設定されている。制御部F4は、受信強度の下落を検出した場合、下落点以降において、下落後の受信強度が維持されている時間である低下状態継続時間(Tcn)を計測する。下落後の受信強度が維持されている状態とは、下落点での受信強度に応じて定まる低下状態上限値よりも低い範囲で受信強度が推移している状態である。低下状態上限値は、例えば、下落点での受信強度に、所定の余裕度としての3dB又は5dBを加えた値に設定されうる。
【0071】
スマートECU4が受信強度の変動パターンの解析に使用する個々の受信強度の値自体は、生の観測値ではなく、直近N回分の観測値の平均値であってもよい。スマートECU4は、受信強度の移動平均値が所定値以上の傾き(速度)で低下することを受信強度の下落として検出しても良い。当該構成によれば、ノイズやマルチパスによる受信強度の瞬時的な変動成分によって、下落点を誤特定する恐れを低減可能となる。上記の「N」は自然数であって、3や5などに設定されうる。
【0072】
ステップS26は、ステップS25での解析結果に基づき、受信強度の変動パターンが所定の開錠パターンに合致しているか否かを判定するステップである。当該ステップS26は、受信強度の変動パターンが、所定の開錠条件を充足しているか否かを判定するステップに相当する。開錠パターン/開錠条件は、例えば、下落点が存在し、かつ、低下状態継続時間が所定値以上であることに設定されている。
【0073】
ステップS27は、変動パターンの解析結果に基づき、制御部F4が開錠制御を実施するステップである。制御部F4は、以上の結果として受信強度の変動パターンが開錠条件を充足している場合に(S26 YES)、ユーザがグリップ操作を実施したとみなし、ドアを開錠する(S27)。なお、強度変動パターンが開錠条件していない場合には、ユーザがまだグリップ操作を行っていないとみなし本フローを終了する。本開示におけるグリップ操作とは外側ドアハンドル11を握る行為を指す。また、グリップ操作には、外側ドアハンドル11に手をかける行為を含めることができる。グリップ操作は、ドアを開錠又は施錠するためのユーザ操作、つまり開錠操作や施錠操作の一例に相当する。
【0074】
(補足)
本開示の開発者らは、ハンドル内蔵機から0.3mの場所に携帯デバイス2を配置した状況における、人体による受信強度の影響度合いを検証したところ、次の知見を得た。すなわち、外側ドアハンドル11を人が握っている場合には、外側ドアハンドル11を人が握っていない場合に比べて、ハンドル内蔵機で観測される受信強度は25dB近く低下するといった知見を得た。
【0075】
これは、1GHz以上の高周波は人体によって減衰されやすく、また、その傾向は周波数が高くなるほど顕著となるためである。なお、試験に使用したチャネルは第9チャネルであるが、第5チャネルなど、他のチャネルにおいても同様の傾向が得られうる。また、外側ドアハンドル11をしっかりとは握らずに、外側ドアハンドル11に手をかけただけの場合であっても、受信強度には有意な低下が観測された。
【0076】
上記の開錠パターンの設定は、上記の試験結果に基づくものであって、前述の通り、下落判定値は15dBや10dBなどに設定可能である。また、低下状態継続時間に対する閾値である継続時間閾値は、例えば、0.6秒や1.0秒などに設定されうる。なお、下落判定値や継続時間閾値は、グリップ操作に限らず、かざし操作で反応する値に調整されていても良い。かざし操作とは、外側ドアハンドル11に手や肘といった体を近接/接触させる行為、換言すれば、UWB通信機5を人体で覆う行為を指す。
【0077】
なお、継続時間閾値を長くすればするほど誤作動は抑制可能となるが、グリップ操作に対するシステムの応答が遅くなり、ユーザの利便性が低下しうる。継続時間閾値は、グリップ操作に対する応答性と誤作動抑制を両立すべく、適宜設計されうる。
【0078】
このように本開示は、UWB通信機5が内蔵された外側ドアハンドル11を握ったり、手や肘、腰など覆ったりした場合には、ハンドル内蔵機での受信強度が有意なレベルで低下しうるといった事象に着眼して創出されたものである。上記スマートECU4は、ハンドル内蔵機での測距値が一定値以下であることを条件として、受信強度の変動パターンからユーザの開錠操作を検出する構成に相当する。また、上記構成は、ハンドル内蔵機での測距値が所定値以下である状況において、当該ハンドル内蔵機で観測されている受信強度が所定値以上低下したことを、ユーザが開錠のために外側ドアハンドル11を握ったと判定する構成に相当する。
【0079】
<効果>
以上のスマートECU4は、外側ドアハンドル11に内蔵されているUWB通信機5での測距値が所定値以下である状況において、当該UWB通信機5で観測されている受信強度が所定値以上低下したことに基づいてドアを開錠する。当該構成によれば、ユーザの開錠操作を検出するためのハードウェアとして、外側ドアハンドル11にタッチセンサやボタンを外側ドアハンドル11に設ける必要がない。よって、システムの導入コストを低減可能となる。
【0080】
また、上記実施形態のスマートECU4は、単に受信強度が低下しただけでなく、測距値が所定値以下であることを条件として開錠を実施する。スマートECU4は、受信強度が下落したが測距値も所定値以上となった場合には開錠しない。受信強度の低下は、UWB通信機5から携帯デバイス2が遠ざかった場合にも生じうる。当該構成によれば、携帯デバイス2の離脱に伴う受信強度の低下によってドアが開錠される恐れを低減できる。具体的には、ユーザが外側ドアハンドル11を横切るシーン、すなわち外側ドアハンドル11に携帯デバイス2が接近した後に遠ざかっていくシーンにおいてドアを開錠する恐れを低減できる。
【0081】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の補足や変形例などは、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。なお、以上で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略することがある。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については上記説明を適用することができる。
【0082】
<変形例(1)>
スマートECU4は、測距値が所定値以下のハンドル内蔵機が存在することを検知した場合、当該ハンドル内蔵機に関しては、探索処理の実行間隔を、既定値よりも短い所定の集中観測値に変更しても良い。例えば既定値が200ミリ秒である場合には、集中観測値は50ミリ秒や100ミリ秒などに設定されうる。探索処理の実行間隔を短くすることは測距値や受信強度のサンプリング間隔を短くすることに対応する。当該構成によれば、ドア前に存在するユーザの挙動を密にサンプリング可能となり、ユーザがグリップ操作を行ったか否かの判断材料を増やすことができる。またその結果として、ユーザがグリップ操作を行ったか否かの判定精度を高めることができる。
【0083】
<変形例(2)>
スマートECU4は、単に最寄り通信機での測距値が所定値以下であるだけでなく、測距値が所定値以下で安定していることを条件として、ユーザが開錠操作を行ったと判定するように構成されていても良い。すなわち、スマートECU4は、最寄り通信機での測距値が所定値以下で安定している状態において、最寄り通信機での受信強度の下落が観測された場合に、グリップ操作が行われたと見なし、開錠制御を実施しても良い。具体的には、ステップS24は最寄り通信機での測距値が所定値以下で安定しているか否かを判定するステップであってもよい。測距値が所定値以下で安定している状態とは、一定時間(例えば0.6秒や1秒)以内における測距値の分散、あるいは変動幅が所定値未満である状態を指す。変動幅は、最大値と最小値の差に相当する。
【0084】
測距値が所定値未満で安定している状態は、最寄り通信機が設けられている外側ドアハンドル11の前にユーザが立ち止まっている状況に対応する。そのような状況下における受信強度の変動は、蓋然的に、ユーザのグリップ操作に由来するものである可能性が高い。すなわち、本変形例の構成によれば、誤作動により車両Hvを開錠してしまう恐れを低減可能である。
【0085】
また、スマートECU4は、受信強度が急落したか否かを、最初に測距値が所定値になった時点での受信強度、あるいは、測距値が所定値において安定している区間の初期の受信強度を基準として判断してもよい。すなわち、スマートECU4は、最初に測距値が所定値になった時点、あるいは、測距値が所定値で安定している期間の初期の受信強度を基準強度として採用するように構成されていても良い。当該構成によればより一層、誤作動の恐れを低減できる。
<変形例(3)>
スマートECU4は、ハンドル内蔵機での測距値が所定値以下であることの代わりに、デバイス位置座標が近傍エリアEA内であることを条件として、受信強度の変動パターンに基づくグリップ操作を検出してもよい。具体的には、ステップS24は、座標算出処理で算出されているデバイス位置座標が近傍エリアEA内に収まっているか否かを判定するステップであっても良い。またスマートECU4は、デバイス位置座標が近傍エリアEA内にあって、かつ、デバイス位置座標が安定している状態において、受信強度が所定値以上低下した場合にグリップ操作が行われたと判定するように構成されていても良い。デバイス位置座標が安定している状態とは、一定時間以内におけるデバイス位置座標の分散が所定値以下である状態を指す。
【0086】
<変形例(4)>
兼用機としてのUWB通信機5は複数のアンテナ51を備えていてもよい。また、兼用機が複数のアンテナ51を備える場合、複数のアンテナ51での受信強度の時系列データに基づいて、スワイプ操作を検出するように構成されていても良い。例えばスマートECU4は、1列に並んだ複数のアンテナ51において、順番に受信強度の下落が観測されたことに基づいてユーザのスワイプ操作を検出しても良い。ここでのスワイプ操作とは、外側ドアハンドル11に手を触れたまま、外側ドアハンドル11の長手方向に手をスライドさせる行為を指す。
【0087】
例えばスマートECU4は、図10に示すように第1アンテナ51A、第2アンテナ51Bの順番に、受信強度の一時的な低下が観測された場合に、スワイプ操作が行われたと判定する。スマートECU4は、最寄り通信機での測距値が所定値以下である状況において、ユーザのスワイプ操作を検出したことに基づき、開錠やトランクドアの自動オープンなどを実施してもよい。
【0088】
なお、図10の(A)は、スワイプ操作が行われた際の第1アンテナ51Aでの受信強度の推移を表しており、(B)は第2アンテナ51Bでの受信強度の推移を表している。また、Tdr1は第1アンテナ51Aでの受信強度の下落点を、Tdr2は第2アンテナ51Bでの受信強度の下落点をそれぞれ示している。Tdr1とTdr2がほぼ同時とみなす事ができる所定値(例えば500ミリ秒)未満である場合、スマートECU4は、スワイプ操作ではなくグリップ操作が行われたと判断しても良い。換言すれば、スマートECU4は、Tdr1とTdr2の差が所定値以上であることに基づいて、実行された操作がグリップ操作ではなくスワイプ操作と判定しても良い。グリップ操作やスワイプ操作に対応するアンテナ51ごとの受信強度の変動パターンは、ユーザによる試行結果をもとに学習/登録されても良い。
【0089】
<変形例(5)>
以上では、最寄り通信機での受信強度の下落をトリガにスマートECU4がドアを開錠する態様について述べたが、受信強度の低下をトリガにスマートECU4が実行する制御の内容はドアの開錠に限定されない。スマートECU4は、最寄り通信機での受信強度の下落をトリガにドアを施錠しても良い。スマートECU4は、最寄り通信機での受信強度の下落をトリガに、開錠や、リアドア/トランクドアのオープン、ウェルカムランプ8の点灯、走行用電源のオン、空調装置の起動など、多様な制御を実行しうる。またスマートECU4は、受信強度の低下をトリガに複数の制御を自動的に実行してもよい。
【0090】
また、スマートECU4は、最寄り通信機で観測される受信強度の変動パターンに応じて異なるアクションを実行するように構成されていても良い。受信強度の変動パターンが異なるということは、最寄り通信機が設けられた外側ドアハンドル11に対するユーザの操作内容が異なることに対応する。
【0091】
例えばスマートECU4は、図11の第1設定例に示すように、計測された低下継続時間が所定の第1閾値以上、第2閾値未満である場合には開錠する。一方、低下継続時間が所定の第2閾値以上である場合には開錠に加えて走行用電源をオンに設定してもよい。スマートECU4は、低下継続時間が第1閾値未満である場合にはウェルカムランプ8を点灯させても良い。図中のTcnは低下継続時間を、Th1は第1閾値を、Th2は第2閾値をそれぞれ示している。
【0092】
また、スマートECU4は、図11の第2設定例に示すように、低下継続時間が所定の第1閾値以上、第2閾値未満である場合には最寄り通信機に対応するドアのみを開錠する一方、低下継続時間が所定の第2閾値以上である場合には全ドアを開錠してもよい。低下継続時間が所定の第1閾値以上、第2閾値未満となる変動パターンが第1パターンの一例に相当する。また、低下継続時間が第2閾値以上となる変動パターンが第2パターンの一例に相当する。
【0093】
当該スマートECU4は、低下継続時間に対応するグリップ時間の長さに応じて、異なる制御を実行する構成に相当する。本開示の構成によれば、ユーザは外側ドアハンドル11を握る時間に応じて異なる制御を実行させることが可能となるため、ユーザの利便性が向上しうる。
【0094】
また、スマートECU4は、低下継続時間に応じて複数の制御を順番に実行しても良い。例えば第1設定例が適用されているスマートECU4は、測距値が所定値未満となったタイミングでウェルカムランプ8を点灯させるとともに、低下継続時間が第1閾値以上となったタイミングで車両Hvを開錠する。その後、ユーザが外側ドアハンドル11を握り続けることにより、低下継続時間が第2閾値以上となったら、スマートECU4は走行用電源をオンに設定する。
【0095】
なお、低下継続時間が第2閾値以上となったことに基づいて実施する制御内容は、走行用電源のオンにかぎらず、空調装置の起動やドアオープンなどであってもよい。自動でオープンさせるドアはトランクドアであってもよいし、後席用のドアなどであってもよい。低下継続時間が所定値以上となったことに基づいて実行する制御内容は、所定の設定画面を介してユーザが設定可能に構成されていても良い。
【0096】
また、スマートECU4は、検出したユーザ操作がグリップ操作かスワイプ操作かで異なる制御を実施してもよい。グリップ操作を受け付けた場合には、ドアの開錠を行う一方、スワイプ操作を検出した場合にはスライドドアを自動的に開ける制御を実行してもよい。またスマートECU4は、グリップ操作を受け付けた場合には、ドアの開錠を行う一方、スワイプ操作を検出した場合にはドアの施錠を実施してもよい。グリップ操作が第1パターンの一例に、スワイプ操作が第2パターンの一例にそれぞれ相当しうる。
【0097】
さらに、スマートECU4はスワイプ方向に応じて、実施する制御内容を変更しても良い。例えばスマートECU4は、スワイプ方向が順方向である場合には、トランクドアを開ける一方、スワイプ方向が逆方向である場合には右又は左側のスライドドアを開けてもよい。ドアオープンは開閉モータ7にオープン指示信号を出力することで実現されうる。ここでの順方向とはスワイプ方向が第1アンテナ51Aから第2アンテナ51Bに向かう方向、又は、第2アンテナ51Bから第1アンテナ51Aに向かう方向とすることができる。逆方向とは順方向とは反対の方向を指す。第1パターンは順方向へのスワイプ操作であってもよい。また、第2パターンは、逆方向へのスワイプ操作であっても良い。
【0098】
<変形例(6)>
兼用機としてのUWB通信機5は、レーダ機能を備えていても良い。例えばUWB通信機5は、送信元などの情報を含むデータ信号とは別に、探査波としての単発のインパルス信号を送信し、当該探査波が物体で反射されて返ってくるまでの時間を計測することにより、UWB通信機5の周囲に存在する物体までの距離を算出する。また、仮にUWB通信機5が複数のアンテナ51を備える場合、報告部542は、距離だけでなく方向や移動速度なども算出してスマートECU4に報告してもよい。
【0099】
携帯デバイス2からの応答信号との区別のため、探査波は、例えば単発のインパルス信号、あるいは、携帯デバイス2が応答しないパターンである不応答パターンのパルス系列信号に設定されていることが好ましい。単発のインパルス信号又は不応答パターンのパルス信号系列が特定パターンの無線信号に相当する。なお、単発のインパルス信号を送信することは、その前後一定時間に他のインパルス信号を送信しないことに対応する。
【0100】
本開示では、探査波を送信してから反射波を受信するまでの時間に基づいて物体との距離を検出する処理をレーダ処理と称する。なお、探索処理は携帯デバイス2との距離を算出する処理であるのに対し、レーダ処理は、人体や他車両など、探査波を反射しうる物体までの距離を算出する処理である。レーダ処理と探索処理は検出対象が異なる点で大きく相違しうる。
【0101】
ハンドル内蔵機がレーダ機能を備える場合、スマートECU4は図12に示すように、最寄り通信機に定期的にレーダ処理を実施させるレーダ処理部F23を備えうる。レーダ処理部F23は、最寄り通信機に定期的にレーダ処理を実施させることにより、最寄り通信機の周辺に存在する反射物との距離の時系列データを取得する。
【0102】
制御部F4は、レーダ処理結果の時系列データを解析することにより、ユーザが最寄り通信機に手を近づける動きを検出してもよい。制御部F4は、測距値が所定値以下である状況において、レーダ機能により外側ドアハンドル11に手を近づける動きを検出していることを条件として、ドアの開錠などの車両制御を実行するように構成されていてもよい。例えば制御部F4は、測距値が所定値以下であり、レーダ機能によって外側ドアハンドル11に手を近づけるユーザの動きを検出しており、かつ、受信強度の下落が観測された場合にドアを開錠してもよい。
【0103】
様々なユースケースを検討すると、ユーザがグリップ操作を行った場合以外にも、ユーザがドアの前で携帯デバイス2をカバンやズボンのポケットに収納した場合や、ユーザがドア前で体の向きを変えた場合にも、受信強度の下落は発生しうる。つまり上述した実施形態では、ユーザがまだドアを開錠するつもりがない場合においても、スマートECU4が受信強度の下落に呼応してドアを開錠してしまうケースが起こりうる。
【0104】
そのような課題に対し、レーダ機能を用いて外側ハンドルに手を近づけるユーザの動きが検出されていることを条件として開錠を行う構成によれば、誤作動による開錠を抑制可能となる。
【0105】
<変形例(7)>
兼用機は、外側ドアハンドル11以外の部位に搭載されていても良い。兼用機は、外側ドアハンドル11など、ユーザがドアを開錠しようとする際に把持/タッチされる部材に設けられていればよい。兼用機は、外側ドアハンドル11付近のドアパネルに取り付けられていても良い。例えば兼用機は、ドアの外側パネルにおいて、外側ドアハンドル11と対向する部分(凹部)などに埋没されていても良い。また、兼用機は、サイドシルやドアモジュールのBピラーなどに取り付けられていても良い。兼用機は、ドア前に立っているユーザの手足が届く範囲、例えば、外側ドアハンドル11から1m以内あるいは0.7m以内にとなる部位に配置されていることが好ましい。兼用機の設置位置によっては、上述したグリップ操作は、兼用機の設置箇所に対して足や腰、肘をかざす行為に置き換えられうる。
【0106】
なお、上記のように車両ボディにおいて外側ドアハンドル11以外の箇所に兼用機が配置されている場合、兼用機が埋没されている箇所の表面には、手や足をかざすことを促す図柄(マーカー)が付与されていることが好ましい。当該構成によれば、ユーザは車両ボディのどこに、手や足、肘などを当てればドアを開錠可能であるのかを認識しやすくなる。
【0107】
なお、兼用機が外側ドアハンドル11に配置されている構成においては、当該外側ドアハンドル11に対向する車両ボディの金属パネルが反射板として機能し、グリップ操作に伴う受信強度の変動が顕著となりうる。故に、兼用機の設置としては、外側ドアハンドル11内が好適である。兼用機を外側ドアハンドル11以外の箇所に配置する場合には、車外側に強く電波を送信可能なように、兼用機の背面に金属板が設けられていることが好ましい。
【0108】
<変形例(8)>
実施形態で述べたUWB通信機5の配置態様は一例であって適宜変更可能である。例えば車載システム1は、後部座席用の外側ドアハンドル11にもUWB通信機5が内蔵されていても良い。フロントバンパの左右のコーナ部と、リアバンパの左右のコーナ部のそれぞれに配置されたUWB通信機5を備えていてもよい。車室内には、複数のUWB通信機5が設置されていることが好ましいが、1つであってもよい。
【0109】
<変形例(9)>
車載システム1と携帯デバイス2との通信規格としては、UWB-IR以外にも、Bluetooth(登録商標)や、Wi-Fi(登録商標)、EnOcean(登録商標)など、多様なものを採用可能である。また、以上では位置判定用の通信機(いわゆるアンカー)としてUWB通信機5を用いる構成を述べたが、アンカーは必ずしもUWB通信機5でなくとも良い。アンカーは、複数のBLE(Bluetooth Low Energy)通信機あるいはWi-Fi用の通信機などであっても良い。BLE通信機はBLE規格に準拠した無線通信を実施可能な通信モジュールである。
【0110】
なお、BLE通信による測距方法としては、RTTを用いる方法と2周波位相差を用いる方法とがある。2周波位相差は、BLE通信機と携帯デバイス2とが連続波(CW:Continuous Wave)信号を送受信することで特定されるパラメータであって、2つの周波数のそれぞれで観測された送受信位相差の差である。2周波位相差は、周波数の変化による送受信位相差の変位量に対応する。
【0111】
送受信位相差は、単純に位相角とも呼ばれうる。送受信位相差は、例えばBLE通信機と携帯デバイス2とがCW信号を互いに送受信し合うことで各々が送信信号と受信信号との位相差を検出し、両者で観測された位相差の平均値を求めることで特定可能である。なお、2周波位相差をΔφ、電波の伝搬速度をC(3×10^8m/sec)、2つの周波数の差をΔf、携帯デバイス2までの距離をLとすると、L=C・Δφ/(2πΔf)の関係を有する。ただし、1組の周波数における2周波位相差には、マルチパス等に由来する誤差が含まれうる。また、周波数毎にマルチパスの影響度合いは異なる。そのような事情から、プロセッサ41は、2組以上の2周波位相差、つまり、3以上の周波数での送受信位相差に基づいて測距値を算出することが好ましい。
【0112】
<本開示の適用対象について>
本開示は、オーナーカーや、シェアカーなど、多様な用途の車両に適用可能である。本開示は、会社組織が保有する社用車や、公的機関が保有する公用車に適用されても良い。車両Hvは複数のユーザによって利用されうる。また、本開示は、道路上を走行する多様な車両に適用可能である。すなわち、本開示は、四輪自動車のほか、二輪自動車、三輪自動車等、道路上を走行可能な多様な車両に搭載可能である。原動機付き自転車も二輪自動車に含めることができる。本開示は電動車やエンジン車など、多様な車両に適用可能である。電動車の概念には、電気自動車の他、ハイブリッド車や、燃料電池車も含まれる。また、本開示は車両だけでなく、建物や施設用の電子キーシステムにも適用可能である。
【0113】
<アクションセンサとの併用について>
本開示は車両Hvの開閉にかかるユーザ操作を検出するための専用のハードウェアであるアクションセンサが搭載された構成にも適用可能である。つまり、車両Hvへのアクションセンサの取り付けを禁止するものではなく、上記構成とアクションセンサは併用可能である。アクションセンサとは、外側ドアハンドル11に設けられたタッチセンサやプッシュボタン、ドア下に設けられた、ユーザの足の動きを検出するための赤外線センサなどを指す。例えばスマートECU4は、アクションセンサと兼用機での受信強度の変動パターンを併用して、ユーザのジェスチャーを検出して、検出されたジェスチャーに対応する車両制御を実行するように構成されていても良い。
【0114】
<付言>
本開示に示す種々のフローチャートは何れも一例であって、フローチャートを構成するステップの数や、処理の実行順は適宜変更可能である。また、本開示に記載の装置、システム、並びにそれらの手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路を用いて実現されてもよい。本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。プロセッサ41は、CPUの他、GPU(Graphics Processing Unit)、DFP(Data Flow Processor)などを用いて実現されていても良い。スマートECU4が備える機能の一部又は全部は、システムオンチップ(SoC:System-on-Chip)、IC、及びFPGA(Field-Programmable Gate Array)の何れかを用いて実現されていてもよい。ICの概念には、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)も含まれる。
【0115】
また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に記憶されていればよい。プログラムの記録媒体としては、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等を採用可能である。コンピュータをスマートECU4として機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体等の形態も本開示の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0116】
1 車載システム、2 携帯デバイス、4 スマートECU、5 UWB通信機、F2 通信機制御部、F21 強度取得部、F22 測距値取得部(ToF関連値取得部)、F23 レーダ処理部、F3 位置判定部、F4 制御部、F41 アクション検知部、M1 探索結果保持部
図1
図2
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図10
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