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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179265
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04858 20160101AFI20231212BHJP
   H01M 8/04701 20160101ALI20231212BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20231212BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20231212BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M8/04701
H01M8/04302
H01M8/04537
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092486
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】西村 幸史
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB02
5H127AB04
5H127AB29
5H127BA02
5H127BA57
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127DA02
5H127DB69
5H127DB99
5H127DC45
5H127DC74
5H127DC89
5H127DC90
(57)【要約】
【課題】燃料電池システムの暖機運転に要する時間を短縮する。
【解決手段】燃料電池システムは、燃料電池スタック、水素ポンプ、エアコンプレッサ、および制御部を備える。水素ポンプおよびエアコンプレッサは、それぞれ、燃料電池スタックにより生成される電力を利用して燃料電池スタックに水素および酸素を供給する。制御部は、燃料電池スタックが指定された電力量を発電するように水素ポンプおよびエアコンプレッサを制御する。燃料電池スタックに接続する負荷の消費電力が燃料電池スタックを暖めるための暖機運転において要求される目標発電量より低下したときに、制御部は、水素ポンプを駆動するモータまたはエアコンプレッサを駆動するモータの少なくとも一方の電流位相を制御することで、燃料電池スタックの発電量を目標発電量に維持しながら、水素ポンプおよびエアコンプレッサの合計消費電力を増加させる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックにより生成される電力を利用して前記燃料電池スタックに水素を供給する水素ポンプと、
前記燃料電池スタックにより生成される電力を利用して前記燃料電池スタックに酸素を含む空気を供給するエアコンプレッサと、
前記燃料電池スタックが指定された電力量を発電するように前記水素ポンプおよび前記エアコンプレッサを制御する制御部と、を備え、
前記燃料電池スタックに接続する負荷の消費電力が、前記燃料電池スタックを暖めるための暖機運転において要求される目標発電量より低下したときに、前記制御部は、前記水素ポンプを駆動する第1のモータまたは前記エアコンプレッサを駆動する第2のモータの少なくとも一方の電流位相を制御することで、前記燃料電池スタックの発電量を前記目標発電量に維持しながら、前記水素ポンプおよび前記エアコンプレッサの合計消費電力を増加させる
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料電池スタックに接続する負荷はキャパシタを含み、
前記キャパシタの電圧が所定の閾値電圧を超えたときに、前記制御部は、前記第1のモータまたは前記第2のモータの少なくとも一方の電流位相を制御することで、前記水素ポンプおよび前記エアコンプレッサの合計消費電力を増加させる
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記キャパシタの電圧が前記閾値電圧以下であるときは、前記制御部は、前記第1のモータを第1の電流位相で駆動すると共に、前記第2のモータを第2の電流位相で駆動し、
前記キャパシタの電圧が前記閾値電圧より高いときは、前記制御部は、前記第1のモータの効率が前記第1の電流位相で駆動したときより低くなる第3の電流位相で前記第1のモータを駆動すると共に、前記第2のモータの効率が前記第2の電流位相で駆動したときより低くなる第4の電流位相で前記第2のモータを駆動する
ことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムの暖機運転に係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において燃料電池が普及してきている。例えば、車両の走行用モータを駆動するための電源として燃料電池が使用される。或いは、家庭用の発電装置として燃料電池が使用されることもある。燃料電池は、燃料として水素を供給することで、酸素との電気化学反応により電気エネルギーを生成する。
【0003】
燃料電池システムにおいて暖機運転が行われることがある。例えば、低温環境で燃料電池システム起動する際には、燃料電池の周辺の氷を溶かすために暖機運転が行われる。また、燃料電池は、70℃前後で動作するときに発電効率が高くなるので、負荷に電力を供給する前に暖機運転が行われることがある。
【0004】
暖機運転時には、燃料電池が発電を行うことにより燃料電池自体が発熱し、温度が上昇する。このとき、燃料電池により生成される電力は、主要な負荷(例えば、車両の走行用モータ)には供給されず、補助的な負荷(例えば、電力を蓄電するキャパシタ)により消費される。そして、燃料電池の温度が目標温度まで上昇した後、燃料電池から主要な負荷に電力が供給される。なお、補助的な負荷を「補機」と呼ぶことがある。
【0005】
なお、暖機運転または暖機発電を行う燃料電池システムは、例えば、特許文献1~2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5103740号
【特許文献2】特許第5776406号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、暖機運転時には、燃料電池により生成される電力は補機により消費される。このため、燃料電池の温度が目標温度に達するまでの時間が長くなることがある。例えば、暖機運転時に生成される電力によりキャパシタが満充電状態になると、以降は、他の小さな負荷で電力を消費しなければならないので、燃料電池の発電量を低下させる必要がある。そうすると、発熱量が少なくなり、温度の上昇速度が遅くなるので、目標温度に達するまでの時間が長くなってしまう。
【0008】
本発明の1つの側面に係る目的は、燃料電池システムの暖機運転に要する時間を短縮することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様に係わる燃料電池システムは、燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックにより生成される電力を利用して前記燃料電池スタックに水素を供給する水素ポンプと、前記燃料電池スタックにより生成される電力を利用して前記燃料電池スタックに酸素を含む空気を供給するエアコンプレッサと、前記燃料電池スタックが指定された電力量を発電するように前記水素ポンプおよび前記エアコンプレッサを制御する制御部と、を備える。前記燃料電池スタックに接続する負荷の消費電力が、前記燃料電池スタックを暖めるための暖機運転において要求される目標発電量より低下したときに、前記制御部は、前記水素ポンプを駆動する第1のモータまたは前記エアコンプレッサを駆動する第2のモータの少なくとも一方の電流位相を制御することで、前記燃料電池スタックの発電量を前記目標発電量に維持しながら、前記水素ポンプおよび前記エアコンプレッサの合計消費電力を増加させる。
【0010】
上記構成によれば、暖機運転時に燃料電池スタックに接続する負荷の消費電力が減少したときには、水素ポンプを駆動するモータまたはエアコンプレッサを駆動するモータの少なくとも一方の電流位相を制御することで、水素ポンプおよびエアコンプレッサの合計消費電力を増加させるので、燃料電池スタックの発電量を維持できる。よって、燃料電池スタックの発熱量が維持され、温度の上昇速度が低下しないので、暖機運転時間を短縮できる。
【0011】
燃料電池スタックに接続する負荷がキャパシタを含む構成であってもよい。この場合、キャパシタの電圧が所定の閾値電圧を超えると、以降、キャパシタは電力を消費できなくなる。よって、制御部は、キャパシタの電圧が所定の閾値電圧を超えたときに、第1のモータまたは第2のモータの少なくとも一方の電流位相を制御することで、水素ポンプおよびエアコンプレッサの合計消費電力を増加させる。
【0012】
更に、制御部は、キャパシタの電圧が閾値電圧以下であるときは、第1のモータを第1の電流位相で駆動すると共に、第2のモータを第2の電流位相で駆動し、キャパシタの電圧が閾値電圧より高いときは、第1のモータの効率が第1の電流位相で駆動したときより低くなる第3の電流位相で第1のモータを駆動すると共に、第2のモータの効率が第2の電流位相で駆動したときより低くなる第4の電流位相で第2のモータを駆動してもよい。この場合、モータの効率を低下させることで、モータの消費電力が増加する。
【発明の効果】
【0013】
上述の態様によれば、燃料電池システムの暖機運転に要する時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係わる燃料電池システムの一例を示す図である。
図2】本発明の実施形態における暖機運転の一例を示す図である。
図3】モータのIT特性および電流位相の関係を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係わる暖機運転の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係わる燃料電池システムの一例を示す。本発明の実施形態に係わる燃料電池システム100は、水素ポンプ1、エアコンプレッサ2、燃料電池スタック3、DC/DCコンバータ4、インバータ5、インバータ6、キャパシタ7、および制御部10を備える。ただし、燃料電池システム100は、図1に示していない他の回路または機能を備えてもよい。そして、燃料電池システム100は、主負荷200に電力を供給することができる。なお、燃料電池システム100が車両に搭載されるケースでは、主負荷200は、例えば、走行用モータ等である。燃料電池システム100がフォークリフト等の産業車両に搭載されるケースでは、主負荷200は、荷役用モータ等であってもよい。
【0016】
水素ポンプ1は、制御部10により指定される量の水素を燃料電池スタック3に供給する。ここで、水素ポンプ1は、燃料電池スタック3に水素を供給する機構の駆動源であるモータ1aを備える。そして、制御部10による制御に応じた電流がモータ1aに与えられ、水素ポンプ1は燃料電池スタック3に水素を供給する。
【0017】
エアコンプレッサ2は、制御部10により指定される量の酸素を燃料電池スタック3に供給する。ここで、エアコンプレッサ2は、燃料電池スタック3に酸素を供給する機構の駆動源であるモータ2aを備える。そして、制御部10による制御に応じた電流がモータ2aに与えられ、エアコンプレッサ2は燃料電池スタック3に酸素を供給する。なお、エアコンプレッサ2は、実際には、酸素を含む空気を燃料電池スタック3に供給する。
【0018】
燃料電池スタック3は、複数の燃料電池セルを直列に接続することで構成され、水素ポンプ1から供給される水素とエアコンプレッサ2から供給される酸素とを反応させることで電力を生成する。各燃料電池セルは、たとえば、水素イオン交換膜、触媒電極、およびセパレータ等で構成される。なお、燃料電池スタック3が生成する電力の量は、供給される水素および酸素の量に依存する。また、燃料電池スタック3の発電効率は温度に依存する。
【0019】
温度センサTは、燃料電池スタック3の温度を検知する。そして、温度センサTの出力信号は、制御部10に送られる。すなわち、制御部10は、温度センサTを利用して燃料電池スタック3の温度を測定できる。
【0020】
DC/DCコンバータ4は、燃料電池スタック3の出力電圧を指定された直流電圧に変換する。インバータ5は、DC/DCコンバータ4を介して供給される電力を利用して、水素ポンプ1が備えるモータ1aを駆動する交流電流を生成する。同様に、インバータ6は、DC/DCコンバータ4を介して供給される電力を利用して、エアコンプレッサ2が備えるモータ2aを駆動する交流電流を生成する。モータ1aおよびモータ2aは、それぞれ、例えば、ブラシレス3相DCモータである。この場合、インバータ5およびインバータ6はそれぞれ3相交流を出力する。
【0021】
なお、図1に示す実施例では、インバータ5およびインバータ6は、それぞれ水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2の外部に設けられているが、本発明の実施形態はこの構成に限定されるものではない。例えば、インバータ5およびインバータ6は、それぞれ水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2の中に実装されてもよい。
【0022】
キャパシタ7は、燃料電池スタック3により生成される電力を蓄電することができる。よって、キャパシタ7は、燃料電池システム100内の回路または機器、及び/又は、燃料電池システム100に接続する回路または機器に電力を供給することができる。なお、キャパシタ7は、燃料電池スタック3により生成される電力を消費する補機のうちの1つである。補機は、この明細書では、燃料電池スタック3により生成される電力を消費する負荷のうち、主要な負荷以外の負荷を意味する。よって、水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2も、それぞれ補機に該当する。さらに、燃料電池システム100は、図1に示していない他の補機を備えてもよい。
【0023】
電圧センサVは、キャパシタ7の両端電圧を検知する。そして、電圧センサVの出力信号は、制御部10に送られる。すなわち、制御部10は、電圧センサVを利用してキャパシタ7の電圧を測定できる。キャパシタ7の電圧は、キャパシタ7の充電状態を表す。
【0024】
制御部10は、例えば、プロセッサおよびメモリを含むマイコンシステムにより実現され、燃料電池システム100の動作を制御する。例えば、制御部10は、主負荷200からの要求に応じて燃料電池スタック3の発電量を決定する。そして、制御部10は、決定した発電量に基づいて、水素ポンプ1から燃料電池スタック3に供給する水素の量およびエアコンプレッサ2から燃料電池スタック3に供給する酸素の量を決定する。ここで、水素ポンプ1から燃料電池スタック3に供給する水素の量は、モータ1aの回転数およびトルクに依存する。よって、制御部10は、燃料電池スタック3に供給すべき水素の量に対応する回転数およびトルクでモータ1aが動作するように、インバータ5の出力電流を制御する。また、エアコンプレッサ2から燃料電池スタック3に供給する酸素の量は、モータ2aの回転数およびトルクに依存する。よって、制御部10は、燃料電池スタック3に供給すべき酸素の量に対応する回転数およびトルクでモータ2aが動作するように、インバータ6の出力電流を制御する。
【0025】
加えて、制御部10は、暖機運転を制御する。例えば、制御部10は、燃料電池システム100が動作を開始するときに、温度センサTを利用して燃料電池スタック3の温度を測定する。そして、燃料電池スタック3の温度が目標温度より低いときには、制御部10は暖機運転を開始する。なお、目標温度は、特に限定されるものではないが、例えば、70℃程度である。
【0026】
暖機運転時には、制御部10は、燃料電池スタック3に予め決められた所定の電力を発電させる。このとき、制御部10は、燃料電池スタック3により生成される電力が主負荷200に供給されないように、リレーRLを遮断状態に制御してもよい。この場合、燃料電池スタック3により生成される電力は、補機(主に、水素ポンプ1、エアコンプレッサ2、およびキャパシタ7)により消費される。なお、以下の記載では、暖機運転時に制御部10が燃料電池スタック3に発電させる電力量を「目標発電量」と呼ぶことがある。
【0027】
燃料電池システム100が暖機運転を開始すると、制御部10は、燃料電池スタック3の発電量が目標発電量に近づくようにインバータ5およびインバータ6を制御する。これにより、モータ1aおよびモータ2aには、それぞれ、目標発電量に対応する電流が流れる。この結果、燃料電池スタック3が目標発電量に従って発電を行い、燃料電池スタック3自体が発熱して温度が上昇してゆく。なお、暖機運転の時間を短くするためには、すなわち、燃料電池スタック3の温度を早く目標温度に近づけるためには、目標発電量が大きいことが好ましい。よって、目標発電量は、例えば、水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2の消費電力およびキャパシタ7の最大充電電流を考慮して、可能な限り大きくなるように設定してもよい。
【0028】
暖機運転時には、燃料電池スタック3により生成される電力は、上述したように、水素ポンプ1、エアコンプレッサ2、およびキャパシタ7などにより消費される。すなわち、水素ポンプ1は、燃料電池スタック3により生成される電力を利用して燃料電池スタック3に水素を供給し、エアコンプレッサ2は、燃料電池スタック3により生成される電力を利用して燃料電池スタック3に酸素を供給する。また、キャパシタ7は、燃料電池スタック3により生成される電力で充電される。このとき、制御部10は、電圧センサVを利用してキャパシタ7の充電状態をモニタする。また、制御部10は、温度センサTを利用して燃料電池スタック3の温度をモニタする。
【0029】
キャパシタ7が満充電状態に達するまでの期間は、燃料電池スタック3により生成される電力の一部はキャパシタ7に蓄電される。すなわち、キャパシタ7により消費される。そして、キャパシタ7が満充電状態に達する前に燃料電池スタック3の温度が目標温度まで上昇すると、制御部10は暖機運転を終了し、主負荷200に電力を供給する通常運転モードに移行する。
【0030】
これに対して、キャパシタ7が満充電状態に達した時点で燃料電池スタック3の温度が目標温度まで上昇していないときは、制御部10は暖機運転を継続する。ただし、キャパシタ7が満充電状態に達した後は、キャパシタ7において実質的に電力が消費されなくなる。すなわち、燃料電池システム100全体として消費電力が少なくなる。そして、この実施例では、燃料電池システム100の消費電力が、暖機運転時の燃料電池スタック3の発電量である目標発電量より少なくなるものとする。
【0031】
暖機運転時の燃料電池スタック3の発電量は、燃料電池システム100内での消費電力と一致している必要がある。ここで、キャパシタ7が満充電状態に達したことで燃料電池システム100の消費電力が低下したときには、燃料電池スタック3の発電量を低下させれば発電量と消費電力とを一致させることができる。ところが、この場合、燃料電池スタック3の発熱量が少なくなり、暖機運転の時間が長くなってしまう。
【0032】
そこで、本発明の実施形態においては、暖機運転時に燃料電池システム100の消費電力(すなわち、燃料電池スタック3に接続する負荷の消費電力)が燃料電池スタック3の目標発電量より少なくなると、水素ポンプ1および/またはエアコンプレッサ2の消費電力(すなわち、水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2の合計消費電力)を増加させることで、燃料電池システム100の消費電力を燃料電池スタック3の目標発電量に一致させる。具体的には、水素ポンプ1から燃料電池スタック3への水素の供給を維持しながらモータ1aの消費電力を増加させる制御、及び/又は、エアコンプレッサ2から燃料電池スタック3への酸素の供給を維持しながらモータ2aの消費電力を増加させる制御が行われる。
【0033】
図2は、本発明の実施形態における暖機運転の一例を示す。この例では、説明を簡潔にするために、暖機運転時に燃料電池スタック3により生成される電力は、水素ポンプ1、エアコンプレッサ2、およびキャパシタ7により消費されるものとする。
【0034】
時刻T1において暖機運転が開始されると、制御部10は、燃料電池スタック3が目標発電量の発電を行うように水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2を制御する。ここで、水素ポンプ1の消費電力W11、エアコンプレッサ2の消費電力W21、およびキャパシタ7の消費電力W3の和が燃料電池スタック3の目標発電量と実質的に一致するものとする。
【0035】
燃料電池スタック3が発電を行うことで、燃料電池スタック3の温度が上昇してゆく。また、キャパシタ7の電圧が上昇してゆく。そして、燃料電池スタック3の温度が目標温度に達する前に、時刻T2において、キャパシタ7の電圧が満充電に対応する閾値電圧まで上昇するものとする。この場合、キャパシタ7は、時刻T2以降は実質的に電力を消費できなくなる。よって、制御部10は、燃料電池スタック3の発電量を維持しながら水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2の消費電力を増加させる。具体的には、水素ポンプ1の消費電力をW11からW12に増加させ、エアコンプレッサ2の消費電力をW21からW22に増加させる。
【0036】
制御部10は、好ましくは、消費電力W12および消費電力W22に和が燃料電池スタック3の目標発電量と一致するように消費電力W12および消費電力W22を設定する。この場合、燃料電池スタック3の発電量を低下させることなく、燃料電池スタック3が発電する電力がすべて水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2により消費される。よって、キャパシタ7が満充電状態になった後も、燃料電池スタック3の発電量を低下させる必要がないので、燃料電池スタック3の温度が目標温度に達するまでの時間を短縮できる。すなわち、暖機運転の時間を短縮できる。
【0037】
この後、燃料電池スタック3の温度が目標温度に達すると、燃料電池システム100は暖機運転を終了し、主負荷200に電力を供給する通常運転モードに移行する。通常運転モードにおいては、主負荷200が要求する電力に応じて燃料電池スタック3の発電量が制御される。
【0038】
水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2の消費電力を増加させる制御は、モータ1aおよびモータ2aの駆動電流の位相を制御することで実現される。ここで、モータ1a、2aは、例えば、ブラシレスDCモータである。ブラシレスDCモータにおいては、回転子に永久磁石が埋め込まれており、また、固定子に巻線が実装されている。そして、各巻線に交流を印加することでモータが回転する。このとき、高効率駆動または最大トルクを実現するためには、回転子の位置に対して適切なタイミングでモータ電流を流すことが要求される。換言すると、回転子の位置に対して適切なタイミングでモータ電流を流すとモータの駆動効率が高くなり、モータ電流のタイミングがずれるとモータの駆動効率が低くなる。なお、以下の記載では、交流電流のタイミングを「位相」と呼ぶことがある。
【0039】
図3は、モータのIT特性および電流位相の関係を示す。なお、横軸はモータ電流を表し、縦軸はモータのトルクを表す。トルクは、水素ポンプ1またはエアコンプレッサ2においては、燃料電池スタック3に供給する気体(水素または酸素)の量を制御するパラメータの1つである。なお、IT特性においては、電流に対するトルクの傾きが急峻であるほど、モータの効率が高いことを表す。
【0040】
この例では、回転子の位置に対するモータ電流の位相βが小さいときに高い効率でトルクが発生する。そして、回転子の位置に対するモータ電流の位相βが大きくなるにつれて効率が低下してゆく。なお、モータのIT特性および電流位相の関係は、既知であるものとする。
【0041】
制御部10は、図3に示すIT特性を利用して暖機運転時のモータ電流の位相を制御する。例えば、キャパシタ7が満充電状態になる前(図2では、時刻T1~T2)は、モータ1a、2aが高い効率で駆動されることが好ましい。ここで、暖機運転時に目標発電量を実現するためには、各モータが所定の回転数で回転し、且つ、トルクTqで動作することが要求されるものとする。この場合、高い効率でモータを駆動するために、制御部10は、回転子の位置に対してモータ電流の位相が「10度」となるように対応するインバータを制御する。この場合、モータ電流Ixが流れる。
【0042】
なお、モータ1a、2aの特性は互いに同じではない。また、制御部10から要求される回転数およびトルクも、モータ1a、2aに対して互いに同じではない。したがって、図3に示す電流Ix、Iy、トルクTq、および各電流位相βに対するIT特性は、基本的に、モータ1a、2aに対して互いに異なる。換言すると、各モータ1a、2aに対して図3に示すようなIT特性および電流位相の関係が用意される。
【0043】
キャパシタ7が満充電状態になった後(図2では、時刻T2以降)は、制御部10は、燃料電池スタック3の発電量を維持しながらモータ1a、2aの消費電力を増加させる。ここで、燃料電池スタック3の発電量は、水素および酸素の供給量に応じて決まる。そして、水素および酸素の供給量は、モータ1a、モータ2aのモータの回転数およびトルクTqに応じて決まる。よって、燃料電池スタック3の発電量を維持しながらモータ1a、2aの消費電力を増加させるときは、モータ1a、2aの回転数およびトルクTqを維持しながら、モータ電流を増加させる。
【0044】
例えば、燃料電池スタック3の発電量を維持するために必要なモータ電流が図3に示す電流Iyであるものとする。図2に示すケースでは、モータ1aを流れる電流がIyであるときに、水素ポンプ1の消費電力がW12になり、モータ2aを流れる電流がIyであるときに、エアコンプレッサ2の消費電力がW22になるものとする。この場合、制御部10は、回転子の位置に対してモータ電流の位相が「40度」となるように対応するインバータを制御する。
【0045】
そうすると、キャパシタ7が満充電状態になった後であっても、燃料電池スタック3の発電量を低下させることなく、燃料電池スタック3が発電する電力は水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2により消費される。よって、燃料電池スタック3の温度上昇速度が遅くなることはなく、暖機運転時間を短縮できる。
【0046】
なお、インバータ5、6は、特に限定されるものではないが、例えば、パルス幅変調方式(PWM)で交流電流を生成する。また、各モータ1a、2aには回転子の位置を検知する位置センサが設けられており、制御部10は、各モータ1a、2aの回転子の位置を検出することができる。この場合、制御部10は、パルスの周期を制御することでモータの回転数を設定できる。また、制御部10は、パルス幅を制御することでモータ電流を設定できる。さらに、制御部10は、回転子の位置に対してパルスのタイミングを制御することで電流位相を設定できる。
【0047】
図4は、本発明の実施形態に係わる暖機運転の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、例えば、燃料電池スタック3の発電開始時に実行される。
【0048】
S1において、制御部10は、電流位相β1で水素ポンプ1のモータ1aを駆動し、電流位相β2でエアコンプレッサ2を駆動することで、燃料電池スタック3に発電を行わせる。このとき、制御部10は、燃料電池スタック3が所定の目標発電量の電力を発電するように水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2を制御する。これにより、燃料電池スタック3自体が発熱し、燃料電池スタック3の温度が上昇してゆく。β1、β2は、それぞれモータ1a、2aが高い効率でトルクを生成する電流位相を表す。
【0049】
S2において、制御部10は、燃料電池スタック3の温度が予め設定されている目標温度に達したか否かを判定する。燃料電池スタック3の温度が目標温度に達していないときは、S3において制御部10は、キャパシタ7が満充電状態か否かを判定する。なお、キャパシタ7の充電状態は、電圧センサVにより検出可能である。キャパシタ7が満充電状態でなければ、制御部10の処理はS1に戻る。すなわち、燃料電池スタック3の温度が目標温度に達するか、或いは、キャパシタ7が満充電状態になるまでは、S1による発電制御が継続する。
【0050】
S1~S3のループ処理において燃料電池スタック3の温度が目標温度に達すると、制御部10の処理はS6に進む。この場合、燃料電池システム100の動作モードが暖機運転から通常運転に移行する。他方、S1~S3のループ処理において、燃料電池スタック3の温度が目標温度に達する前にキャパシタ7が満充電状態になると、制御部10の処理はS4に進む。
【0051】
S4において、制御部10は、電流位相β3で水素ポンプ1のモータ1aを駆動し、電流位相β4でエアコンプレッサ2を駆動することで、燃料電池スタック3に発電を行わせる。S4による発電量は、S1による発電量と同じであることが好ましい。β3は、モータ1aの効率が電流位相β1で駆動したときより低くなる所定の電流位相を表し、β4は、モータ2aの効率が電流位相β2で駆動したときより低くなる所定の電流位相を表す。なお、β1~β4は、各モータの特性に応じて予め決められていることが好ましい。
【0052】
S5において、制御部10は、燃料電池スタック3の温度が予め設定されている目標温度に達したか否かを判定する。燃料電池スタック3の温度が目標温度に達していないときは、制御部10の処理はS4に戻る。すなわち、燃料電池スタック3の温度が目標温度に達するまでは、S4による発電制御が継続する。そして、燃料電池スタック3の温度が目標温度に達すると、S6において、燃料電池システム100の動作モードが暖機運転から通常運転に移行する。
【0053】
<バリエーション>
上述の実施例では、燃料電池スタック3の温度が目標温度に達する前にキャパシタ7が満充電状態になるとモータ1aおよびモータ2aの電流位相が変更されるが、本発明はこの方式に限定されるものではない。すなわち、燃料電池スタック3の温度が目標温度に達する前にキャパシタ7が満充電状態になったときには、制御部10は、モータ1aまたはモータ2aのいずれか一方の電流位相を変更するだけでもよい。
【0054】
また、上述の実施例では、キャパシタ7が満充電状態となった後の燃料電池スタック3の発電量は、キャパシタ7が満充電状態となる前の燃料電池スタック3の発電量と同じであるが、本発明はこの方式に限定されるものではない。即ち、キャパシタ7が満充電状態となった後の燃料電池スタック3の発電量は、キャパシタ7が満充電状態となる前の燃料電池スタック3の発電量より少なくてもよい。例えば、図2に示すケースにおいては、時刻T2以降の水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2の消費電力の和(W12+W22)は、時刻T2以前の水素ポンプ1、エアコンプレッサ2、およびキャパシタ7の消費電力の和(W11+W21+W3)より少なくてもよい。ただし、この場合であっても、キャパシタ7が満充電状態となったときには、制御部10は、モータ1aの効率を低下させて水素ポンプ1の消費電力を大きくする制御、または、モータ2aの効率を低下させてエアコンプレッサ2の消費電力を大きくする制御の少なくとも一方を実行する。
【0055】
さらに、上述の実施例では、キャパシタ7が満充電になったときに水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2の消費電力を増加させるが、本発明はこの方式に限定されるものではない。すなわち、制御部10は、暖機運転において燃料電池スタック3に接続する負荷の消費電力が低下したときに、水素ポンプ1およびエアコンプレッサ2の消費電力を増加させればよい。
【符号の説明】
【0056】
1 水素ポンプ
1a モータ
2 エアコンプレッサ
2a モータ
3 燃料電池スタック
5、6 インバータ
7 キャパシタ
10 制御部
100 燃料電池システム
200 主負荷

図1
図2
図3
図4