(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179286
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20231212BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20231212BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L29/78 652J
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 658K
H01L29/78 658G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092530
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】308035117
【氏名又は名称】株式会社イオンテクノセンター
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三井田 高
(72)【発明者】
【氏名】名倉 宙志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
(57)【要約】
【課題】トレンチゲート構造を有する電界効果トランジスタであって、より信頼性の高い電界効果トランジスタを提供する。
【解決手段】酸化ガリウム系半導体からなるn型の第1の半導体層10と、第1の半導体層10上に設けられた、Siからなる第2の半導体層11と、第1及び第2のトレンチ12a、12b内にそれぞれ埋め込まれた第1及び第2のp型半導体部13a、13bと、一方の側面と底面の一部とが第1のp型半導体部13aにより形成されるように設けられた第3のトレンチ14中に、ゲート絶縁膜15に覆われて埋め込まれたゲート電極16と、第2の半導体層11のトレンチ間領域の表層において、少なくとも第3のトレンチ14側の一部に設けられたn型領域111と、前記トレンチ間領域の第1の半導体層10とn型領域111の間の領域に設けられたp型領域112と、を備えた、電界効果トランジスタ1を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム系半導体からなるn型の第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に設けられた、Siからなる第2の半導体層と、
前記第2の半導体層の上面から前記第1の半導体層まで達する第1及び第2のトレンチ中にそれぞれ埋め込まれた第1及び第2のp型半導体部と、
一方の側面と底面の一部とが前記第1のp型半導体部により形成されるように設けられた、前記第2の半導体層の上面から前記第1の半導体層まで達する第3のトレンチ中に、ゲート絶縁膜に覆われて埋め込まれたゲート電極と、
前記第2の半導体層の前記第2のトレンチと前記第3のトレンチの間のトレンチ間領域の表層において、少なくとも前記第3のトレンチ側の一部に設けられたn型領域と、
前記トレンチ間領域の前記第1の半導体層と前記n型領域の間の領域に、前記第1の半導体層と前記n型領域を隔離するように設けられたp型領域と、
前記n型領域に接続されたソース電極と、
前記第1の半導体層に接続されたドレイン電極と、
を備えた、電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記トレンチ間領域の前記第1の半導体層と前記p型領域の間の領域に、第2のn型領域が設けられた、
請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記トレンチ間領域の表層の、前記n型領域と前記第2のトレンチとの間の領域に、第2のp型領域が設けられた、
請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記p型半導体部がp型の酸化物半導体からなる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記p型の酸化物半導体がp型のNiO、CuO、又はCu2Oである、
請求項4に記載の電界効果トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレンチゲート構造を有する電界効果トランジスタであって、β-Ga2O3とSiを半導体層として用いたものが知られている(特許文献1を参照)。特許文献1に記載の電界効果トランジスタにおいては、電界が集中するトレンチの底部が絶縁破壊電界強度の高いβ-Ga2O3の層に設けられているため、半導体層の絶縁破壊を抑えることができる。
【0003】
また、従来、トレンチゲート構造を有する電界効果トランジスタであって、SiCからなる半導体層にゲート酸化膜領域に重なるp型領域が設けられたものが知られている(非特許文献1を参照)。非特許文献1に記載の電界効果トランジスタにおいては、ゲート酸化膜領域に重なるp型領域によりトレンチの底部への電界の集中を緩和することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D. Peters et, al., “CoolSiC Trench MOSFET Combining SiC Performance with Silicon Ruggedness”, Issue 3 Power electronics Europe 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に信頼性に優れる電界効果トランジスタを得るためには、特許文献1に記載の電界効果トランジスタに非特許文献1に記載のゲート酸化膜領域に重なるp型領域を適用して、トレンチの底部への電界の集中を緩和することが理想的である。この場合、トレンチの底部周辺の半導体層の絶縁破壊のみならずゲート絶縁膜の絶縁破壊まで抑制し、電界効果トランジスタの信頼性のさらなる向上が期待できる。
【0007】
しかしながら、良好な導電性を有するp型のβ-Ga2O3は存在しないため、非特許文献1に記載の電界効果トランジスタにおけるSiC中のp型領域のように、特許文献1に記載の電界効果トランジスタにおけるβ-Ga2O3の一部をp型化してp型領域を形成することはできない。このため、特許文献1に記載の電界効果トランジスタに非特許文献1に記載のゲート酸化膜領域に重なるp型領域を適用することはできない。
【0008】
本発明の目的は、トレンチゲート構造を有する電界効果トランジスタであって、より信頼性の高い電界効果トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[5]の電界効果トランジスタを提供する。
【0010】
[1]酸化ガリウム系半導体からなるn型の第1の半導体層と、前記第1の半導体層上に設けられた、Siからなる第2の半導体層と、前記第2の半導体層の上面から前記第1の半導体層まで達する第1及び第2のトレンチ中にそれぞれ埋め込まれた第1及び第2のp型半導体部と、一方の側面と底面の一部とが前記第1のp型半導体部により形成されるように設けられた、前記第2の半導体層の上面から前記第1の半導体層まで達する第3のトレンチ中に、ゲート絶縁膜に覆われて埋め込まれたゲート電極と、前記第2の半導体層の前記第2のトレンチと前記第3のトレンチの間のトレンチ間領域の表層において、少なくとも前記第3のトレンチ側の一部に設けられたn型領域と、前記トレンチ間領域の前記第1の半導体層と前記n型領域の間の領域に、前記第1の半導体層と前記n型領域を隔離するように設けられたp型領域と、前記n型領域に接続されたソース電極と、前記第1の半導体層に接続されたドレイン電極と、を備えた、電界効果トランジスタ。
[2]前記トレンチ間領域の前記第1の半導体層と前記p型領域の間の領域に、第2のn型領域が設けられた、上記[1]に記載の電界効果トランジスタ。
[3]前記トレンチ間領域の表層の、前記n型領域と前記第2のトレンチとの間の領域に、第2のp型領域が設けられた、上記[1]に記載の電界効果トランジスタ。
[4]前記p型半導体部がp型の酸化物半導体からなる、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
[5]前記p型の酸化物半導体がp型のNiO、CuO、又はCu2Oである、上記[4]に記載の電界効果トランジスタ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トレンチゲート構造を有する電界効果トランジスタであって、より信頼性の高い電界効果トランジスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る電界効果トランジスタの垂直断面図である。
【
図2】
図2(a)~(c)は、電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す垂直断面図である。
【
図3】
図3(a)~(c)は、電界効果トランジスタの製造工程の一例を示す垂直断面図である。
【
図4】
図4(a)、(b)、(c)は、それぞれ電界効果トランジスタのオフ耐圧特性、ゲート特性、オン特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(電界効果トランジスタの構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る電界効果トランジスタ1の垂直断面図である。電界効果トランジスタ1は、トレンチゲート構造を有する縦型の電界効果トランジスタである。
【0014】
電界効果トランジスタ1は、酸化ガリウム系半導体からなるn型の第1の半導体層10と、第1の半導体層10上に設けられた、Siからなる第2の半導体層11と、第2の半導体層11の上面から第1の半導体層10まで達する第1のトレンチ12a及び第2のトレンチ12b中にそれぞれ埋め込まれた第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bと、一方の側面と底面の一部とが第1のp型半導体部13aにより形成されるように設けられた、第2の半導体層11の上面から第1の半導体層10まで達する第3のトレンチ14中に、ゲート絶縁膜15に覆われて埋め込まれたゲート電極16と、第2の半導体層11の第2のトレンチ12bと第3のトレンチ14の間の領域(以下、トレンチ間領域と呼ぶ)の表層において、少なくとも第3のトレンチ14側の一部に設けられたn型領域111と、上記トレンチ間領域の第1の半導体層10とn型領域111の間の領域に、第1の半導体層10とn型領域111を隔離するように設けられたp型領域112と、n型領域111に接続されたソース電極17と、第1の半導体層10に接続されたドレイン電極18とを備える。なお、
図1に示される左側のゲート電極16は、電界効果トランジスタ1の左側に隣接する電界効果トランジスタに用いられるものである。
【0015】
電界効果トランジスタ1は、ノーマリーオフ型でもノーマリーオン型でもよいが、パワーデバイスとして用いられる場合には、安全性の観点から、通常、ノーマリーオフ型に製造される。ゲート回路の断線等によりゲートが制御不能になった時にソース電極17とドレイン電極18が導通することを防ぐためである。
【0016】
ノーマリーオフ型の電界効果トランジスタ1においては、ゲート電極16とソース電極17との間にゲート閾値電圧以上の電圧を印加することにより、トレンチ間領域におけるp型領域112のゲート絶縁膜15側の領域に縦方向のチャネルが形成され、ソース電極17とドレイン電極18との間に電流を流すことができる。
【0017】
第1の半導体層10は、β型の結晶構造を有する酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる。ここで、酸化ガリウム系半導体とは、Ga2O3、又は、Al、Inなどの元素が添加されたGa2O3をいう。例えば、酸化ガリウム系半導体は、(GaxAlyIn(1-x-y))2O3(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)で表される組成を有する。Ga2O3にAlを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。また、n型である第1の半導体層10は、Si、Snなどのドナー不純物を含む。
【0018】
また、第1の半導体層10は、典型的には、
図1に示されるように、ドレイン電極18をオーミック接続するためのドナー濃度の高い層101と、その上の層102を含む。例えば、層101は1×10
18cm
-3以上、1×10
21cm
-3以下のドナー濃度を有し、層102は1×10
15cm
-3以上、1×10
17cm
-3以下のドナー濃度を有する。また、例えば、層101の厚さは30μm以上、600μm以下であり、層102の厚さは5μm以上、50μm以下である。
【0019】
第1の半導体層10の層101は、典型的には、酸化ガリウム系半導体の基板からなる。この場合の基板は、例えば、FZ(Floating Zone)法やEFG(Edge Defined Film Fed Growth)法などの融液成長法により育成した酸化ガリウム系単結晶のバルク結晶をスライスし、表面を研磨することにより形成される。また、第1の半導体層10の層102は、典型的には、層101の上面を下地面として成膜されたエピタキシャル膜である。
【0020】
第2の半導体層11は、Siの単結晶からなる層である。第2の半導体層11中に形成されるn型領域111やp型領域112は、例えば、第2の半導体層11中にドナー不純物やアクセプター不純物を注入することにより形成される。
【0021】
第2の半導体層11中に形成されるn型領域111は、電界効果トランジスタ1のソースである。n型領域111は、ヒ素などのドナー不純物を含み、ソース電極17をオーミック接続するために、例えば、1×1018cm-3以上、1×1021cm-3以下の高いドナー濃度を有する。
【0022】
第2の半導体層11中に形成されるp型領域112は、ホウ素などのアクセプター不純物を含み、例えば、1×1018cm-3以上、1×1021cm-3以下のアクセプター濃度を有する。
【0023】
第2の半導体層11は、薄すぎるとn型領域111やp型領域112の形成が難しくなり、厚すぎると第1のトレンチ12a、第2のトレンチ12b、及び第3のトレンチ14を深く形成しなければならなくなる。このため、第2の半導体層11の厚さD1は、例えば、0.6μm以上、1.2μm以下であることが好ましい。
【0024】
第2の半導体層11の形成方法は特に限定されず、例えば、第1の半導体層10の上面を下地面としてSi単結晶をエピタキシャル成長させてもよいが、結晶品質の高い第2の半導体層11を形成するためには、表面活性化接合法などの基板貼り合わせ技術によりSi基板を第1の半導体層10に貼り合わせ、スマートカット法などの薄膜化技術により薄くしたSi基板を第2の半導体層11とすることが好ましい。
【0025】
なお、トレンチゲート構造を有する電界効果トランジスタにおいては、その動作上、n型の半導体層とp型の半導体層がpn接合を形成することが必要であるが、電界効果トランジスタ1のように半導体層が酸化ガリウム系半導体からなる層とSiからなる層により構成される場合、異種材料であるそれらの間にpn接合を形成することは難しい。例えば、n型の半導体層とp型の半導体層の界面にSiGaやGaメタルなどの層が形成されたり、Siが酸化ガリウム系半導体中でドナーとして働くため、p型の半導体層からのSiの拡散によりn型の半導体層の界面近傍にドナー濃度が非常に高い層が形成されたりすることにより、pn接合が得られない場合がある。
【0026】
そのため、
図1に示されるように、第2の半導体層11のトレンチ間領域のn型の第1の半導体層10とp型領域112の間の領域に、第2のn型領域113が設けられていることが好ましい。この場合、pn接合は酸化ガリウム系半導体からなる第1の半導体層10とSiからなるp型領域112の間ではなく、ともにSiからなる第2のn型領域113とp型領域112の間に形成されるため、単にオーミック接触する界面が形成されればよく、その界面の平坦性や急峻性などを要求されない。すなわち、容易にpn接合を形成することができる。第2のn型領域113は、リンなどのドナー不純物を含み、例えば、1×10
15cm
-3以上、1×10
17cm
-3以下のドナー濃度を有する。
【0027】
また、
図1に示されるように、第2の半導体層11のトレンチ間領域の表層の、n型領域111と第2のトレンチ12bとの間の領域に、第2のp型領域114が設けられていることが好ましい。これにより、第2のp型領域114を用いてトレンチ間領域のp型領域112の電界効果トランジスタ1のバルクをソース電位と共にグラウンド電位に固定できる。第2のp型領域114は、ホウ素などのアクセプター不純物を含む。第2のp型領域114のアクセプター濃度は、p型領域112のアクセプター濃度よりも高く、例えば、1×10
18cm
-3以上、1×10
21cm
-3以下である。
【0028】
第1のトレンチ12aと第2のトレンチ12bは、第2の半導体層11の上面(第1の半導体層10の反対側の面)から第1の半導体層10まで達する。すなわち、第1のトレンチ12aと第2のトレンチ12b及びこれらに埋め込まれる第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bの底が、第1の半導体層10の上面(第2の半導体層11側の面)よりも下側に位置する。
【0029】
第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bは、p型の半導体からなり、第1の半導体層10を構成する酸化ガリウム系半導体と反応し難いNiO、CuO、Cu2Oなどのp型の酸化物半導体からなることが好ましい。この第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bの材料としてNiOを用いる場合、NiOの有する3.7eVという大きなバンドギャップにより、高い耐圧が得られる。CuOやCu2Oを用いた場合、耐圧はNiOより低くなるものの、NiOと比較して材料コストを低減することができる。なお、これらの材料はアモルファス、多結晶、単結晶のいずれであってもよく、また、それらのうちの2つ以上の複合体であってもよい。
【0030】
第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bを設けることにより、電界効果トランジスタ1のゲート電極16とソース電極17との間に逆バイアスを印加するとき(オフ時)に、第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bの底に電界が集中する。第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bの底は、絶縁破壊電界強度の高い酸化ガリウム系半導体からなる第1の半導体層10中に位置するため、電界集中による半導体層の絶縁破壊が抑えられ、電界効果トランジスタ1の耐圧が大きくなる。そして、第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bを設けて第1の半導体層10中に電界を集中させることにより、チャネルが形成される第2の半導体層11の材料に酸化ガリウム系半導体よりも絶縁破壊電界強度が低い一方で電子の移動度が大きいSiを用いることができ、それによってチャネル抵抗を低減し、素子のオン抵抗を低減することができる。また、Ga2O3とSiはSiCと比較して安価であり、また、Ga2O3はSiCを超える低損失性能を有している。
【0031】
さらに、第3のトレンチ14の一方の側面と底面の一部は第1のp型半導体部13aにより形成されており、第3のトレンチ14中のゲート絶縁膜15に覆われたゲート電極16の底面の一部、例えば
図1に示される断面の半分程度、が第1のp型半導体部13aに覆われている。このため、第1のp型半導体部13aの底に電界を集中させて、第3のトレンチ14の底部の電界を低減することができる。これにより、第3のトレンチ14の底部周辺の第1の半導体層10及びゲート絶縁膜15の絶縁破壊を抑制し、電界効果トランジスタ1の信頼性を向上させることができる。なお、寄生JFETと呼ばれる現象による抵抗増加が懸念されるため、ゲート絶縁膜15に覆われたゲート電極16の底面の全部が第1のp型半導体部13aに覆われることは好ましくない。
【0032】
n型の層102を狭窄させる事により、電界の空間変調効果を起こすため、第1のp型半導体部13aと第2のp型半導体部13bの間隔、すなわちトレンチ間領域の幅D10は、1.2μm以上、2.0μm以下であることが好ましい。
【0033】
また、上記空間変調効果によるゲート電極端への電界を遮蔽するため、第1のトレンチ12aの第1の半導体層10と第2の半導体層11の界面からの深さD7は、1.6μm以上、3.0μm以下であることが好ましい。
【0034】
また、n型の層102の更なる空間変調効果による電界緩和を達成するため、第2のトレンチ12bと第3のトレンチ14との水平方向の距離D14は、0.8μm以上、1.2μm以下であることが好ましい。
【0035】
ゲート電極16は、例えば、高濃度のドナーが添加された多結晶Siや、タングステン、タングステンとSiの化合物であるタングステンシリサイドなどからなる。ゲート電極16は、その側面及び底面がゲート絶縁膜15に覆われ、その上面が絶縁膜19に覆われている。
【0036】
ゲート絶縁膜15はゲート電極16を第1の半導体層10及び第2の半導体層11から絶縁し、絶縁膜19はゲート電極16をソース電極17から絶縁する。ゲート絶縁膜15と絶縁膜19は、例えばHfO2やAl2O3、SiO2からなる。ゲート絶縁膜15の厚さは、例えば30nm以上、100nm以下である。絶縁膜19の厚さは、例えば30nm以上、100nm以下である。
【0037】
ソース電極17は、例えば、アルミニウムなどの金属からなり、第2の半導体層11のn型領域111にオーミック接続されている。また、ドレイン電極18は、例えば、チタンやアルミニウムなどの金属からなり、第1の半導体層10にオーミック接続されている。
【0038】
第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bの水平方向のパターン(すなわち第1のトレンチ12a及び第2のトレンチ12bの水平方向のパターン)、ゲート絶縁膜15及びゲート電極16の水平方向のパターン(すなわち第3のトレンチ14の水平方向のパターン)、並びにn型領域111及び第2のp型領域114の水平方向のパターンは、特に限定されない。例えば、第1のトレンチ12aと第2のトレンチ12bは、
図1の垂直断面に表れない部分でつながっていてもよい。
【0039】
(電界効果トランジスタの製造)
図2(a)~(c)、
図3(a)~(c)は、電界効果トランジスタ1の製造工程の一例を示す垂直断面図である。以下、
図2(a)~(c)、
図3(a)~(c)に示される製造工程について説明する。
【0040】
まず、
図2(a)に示されるように、酸化ガリウム系半導体からなる基板であるn型の第1の半導体層10と、リンなどのドナー不純物を含むn型のSi基板20を準備し、これらを表面活性化接合法により貼り合わせる。
【0041】
ここで、Si基板20には、第1の半導体層10との接合面から所定の深さの位置に、水素イオンのイオン注入により面状のイオン注入領域21が形成されている。後述するように、イオン注入領域21を分割面としてSi基板20を分割し、Si基板20から分離される膜が第2の半導体層11となるため、Si基板20の接合面からのイオン注入領域21の深さは、目的とする第2の半導体層11の厚さに応じて決定される。
【0042】
イオン注入領域21の形成のためにイオン注入される水素イオンのドーズ量は、例えば、2×1016~8×1016/cm2である。また、イオン注入の注入エネルギーは、イオン注入領域21の接合面からの深さによって決定され、例えば、接合面から950nm程度の深さにイオン注入領域21を形成する場合には、およそ110keVのエネルギーで水素イオンをイオン注入する。
【0043】
表面活性化接合法では、例えば、5×10-6Pa程度の圧力下の超高真空中チャンバー内において、CMP(chemical mechanical polishing)などの平坦化処理により平坦化された第1の半導体層10とSi基板20の接合面の最表面を1.5keVのエネルギーで加速したAr原子ビームを照射することにより除去して、露出したそれらの新生面同士を接触させて接合する。
【0044】
次に、
図2(b)に示されるように、貼り合わされた第1の半導体層10とSi基板20に熱処理を施し、イオン注入領域21において水素脆化を生じさせてSi基板20を分割し(スマートカット)、第1の半導体層10上に第2の半導体層11を残す。
【0045】
スマートカットにおける熱処理は、例えば、N2又はAr雰囲気下で1~10分間行われる。なお、熱処理は、減圧下の真空チャンバー内で行われてもよいし、真空チャンバー以外の他の炉内で行われてもよい。スマートカットの後には、再度の熱処理を施すことにより、イオン注入やスマートカットにおいて生じた第2の半導体層11のダメージを回復する。その後、第2の半導体層11の表面にCMPなどの平坦化処理を施してもよい。
【0046】
次に、
図2(c)に示されるように、第2の半導体層11にホウ素などのアクセプター不純物をイオン注入することによりp型領域112と第2のp型領域114を形成し、第2の半導体層11にヒ素などのドナー不純物をイオン注入することによりn型領域111を形成する。そして、n型の第2の半導体層11の不純物を注入しない領域を第2のn型領域113とする。
【0047】
次に、
図3(a)に示されるように、第1の半導体層10と第2の半導体層11の積層体に第1のトレンチ12a及び第2のトレンチ12bを形成し、第1のトレンチ12a、第2のトレンチ12b中にそれぞれ第1のp型半導体部13a、第2のp型半導体部13bを形成する。
【0048】
第1のトレンチ12a及び第2のトレンチ12bは、例えば、フォトリソグラフィとドライエッチングにより形成される。第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bは、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)、真空蒸着、スパッタリングなどにより材料を第1のトレンチ12a及び第2のトレンチ12b中に堆積させて形成する。
【0049】
次に、
図3(b)に示されるように、第1の半導体層10と第2の半導体層11の積層体に第3のトレンチ14を形成する。第3のトレンチ14は、一部が幅方向に第1のトレンチ12aと重なるように形成される。第3のトレンチ14は、例えば、フォトリソグラフィとドライエッチングにより形成される。
【0050】
次に、
図3(c)に示されるように、第3のトレンチ14中にゲート絶縁膜15及びゲート電極16を形成する。ゲート絶縁膜15及びゲート電極16は、例えば、CVD、真空蒸着、スパッタリングなどにより材料を第3のトレンチ14中に堆積させて形成する。
【0051】
その後、絶縁膜19、ソース電極17、及びドレイン電極18を形成して、電界効果トランジスタ1を得る。絶縁膜19は、例えば、CVD、真空蒸着、スパッタリングなどにより材料をゲート電極16上に堆積させて形成する。ソース電極17及びドレイン電極18は、例えば、スパッタリングなどにより第2の半導体層11の上面、第1の半導体層10の下面にそれぞれ材料を堆積させて形成する。
【0052】
(電界効果トランジスタの特性)
以下に、電界効果トランジスタ1のゲート電極16に逆バイアスを印加したとき(オフ時)の電界分布、オフ耐圧特性、ゲート特性、及びオン特性のシミュレーション結果について述べる。
【0053】
次の表1に、本シミュレーションに用いた電界効果トランジスタ1の各部の寸法D1~D18(
図1を参照)を示す。
【0054】
【0055】
また、第1の半導体層10の材料をGa2O3、第1のp型半導体部13a及び第2のp型半導体部13bの材料をNiO、ゲート電極16の材料を多結晶Si、ゲート絶縁膜15の材料をSiO2とした。
【0056】
また、ゲート絶縁膜15の厚さは50nm、第1の半導体層10の厚さは5μm、第1の半導体層10と第2の半導体層11の界面捕獲準位密度は2×10
12cm
-2/eV、
図1の断面に表れている第1のトレンチ12a、第2のトレンチ12b、及び第3のトレンチ14の底部の両端のコーナーの曲率半径は0.3μm、絶縁膜19の比誘電率は3.9とした。
【0057】
次の表2に、本シミュレーションに用いた電界効果トランジスタ1の各部のドナー濃度又はアクセプター濃度を示す。
【0058】
【0059】
上記の電界効果トランジスタ1のドレイン電極18に1400Vの電圧を印加したとき(ソース電極17は接地されている)の、点P1、P2、P3(
図1を参照)における電界の強さは、それぞれおよそ6MV/cm、4MV/cm、0.3MV/cmであった。ここで、点P1は、第1のトレンチ12aの底部周辺の第1の半導体層10中の点であり、点P2は、第3のトレンチ14の底部周辺のゲート絶縁膜15中の点であり、点P3は、p型領域112と第2のn型領域113の界面上の点である。
【0060】
点P1における電界は、電界効果トランジスタ1の内部で最も強く、また、点P2、P3における電界の強さは上述のように低く抑えられていた。このことから、電界効果トランジスタ1のゲート電極16に逆バイアスを印加すると、第1のp型半導体部13aの底部に電界が集中して、第3のトレンチ14の底部周辺や第1の半導体層10と第2の半導体層11の界面周辺の電界が緩和されていることが確認された。このため、通常電界の集中しやすい第3のトレンチ14の底部周辺の第1の半導体層10及びゲート絶縁膜15の絶縁破壊を抑制することができる。
【0061】
図4(a)は、電界効果トランジスタ1のオフ耐圧特性を示すグラフである。
図4(a)のグラフは、ゲート電極16に印加するゲート電圧を-5Vに固定して、ドレイン電極18に印加するドレイン電圧を変化させたときのドレイン電流の変化を示している。
図4(a)は、ドレイン電圧がおよそ1400Vを超えるとアバランシェブレークダウンが生じることを示している。
【0062】
図4(b)は、電界効果トランジスタ1のゲート特性を示すグラフである。
図4(b)のグラフは、ドレイン電極18に印加するドレイン電圧を1Vに固定して、ゲート電極16に印加するゲート電圧を変化させたときのドレイン電流の変化を示している。
図4(b)は、ゲート閾値電圧がおよそ2Vであることを示している。
【0063】
図4(c)は、電界効果トランジスタ1のオン特性を示すグラフである。
図4(c)のグラフは、ゲート電極16に印加するゲート電圧を15Vに固定して、ドレイン電極18に印加するドレイン電圧を変化させたときのドレイン電流の変化を示している。
図4(c)によれば、例えば、ゲート電圧が15V、ドレイン電圧が1Vであるときのオン抵抗がおよそ3.2mΩcm
2である。
【0064】
(実施の形態の効果)
上記本発明の実施の形態によれば、ゲート電極16が埋め込まれる第3のトレンチ14の底部を絶縁破壊電界強度の高い酸化ガリウム系半導体からなるn型の第1の半導体層10中に設置し、また、第1のp型半導体部13aにより第3のトレンチ14の底部周辺の電界を緩和することにより、第3のトレンチ14の底部周辺の第1の半導体層10やゲート絶縁膜15の絶縁破壊を抑制し、電界効果トランジスタ1の信頼性を高めることができる。
【0065】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0066】
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0067】
1…電界効果トランジスタ、 10…第1の半導体層、 11…第2の半導体層、 111…n型領域、 112…p型領域、 113…第2のn型領域、 114…第2のp型領域、 12a…第1のトレンチ、 12b…第2のトレンチ、 13a…第1のp型半導体部、 13b…第2のp型半導体部、 14…第3のトレンチ、 15…ゲート絶縁膜、 16…ゲート電極、 17…ソース電極、 18…ドレイン電極