(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179367
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】発光性組成物、有機発光素子、表示装置、撮像装置、電子機器、照明装置、移動体、及び有機発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 50/12 20230101AFI20231212BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20231212BHJP
H10K 85/30 20230101ALI20231212BHJP
H10K 71/13 20230101ALI20231212BHJP
H10K 59/12 20230101ALI20231212BHJP
H10K 59/65 20230101ALI20231212BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20231212BHJP
H10K 101/10 20230101ALN20231212BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20231212BHJP
【FI】
H10K50/12
H10K85/10
H10K85/30
H10K71/13
H10K59/12
H10K59/65
C09K11/06 660
C09K11/06 690
H10K101:10
H10K101:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078904
(22)【出願日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2022092220
(32)【優先日】2022-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】谷 泰
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107BB08
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD60
3K107DD64
3K107DD67
3K107DD68
3K107DD69
3K107DD70
3K107EE03
3K107EE61
3K107EE65
3K107EE68
3K107FF14
3K107FF20
3K107GG08
(57)【要約】
【課題】 ドーパント発光の発光量子収率を向上するとともに、ホストの発光を低減することができる発光性組成物などの提供。
【解決手段】 特定の有機金属錯体、特定のフルオレンオリゴマー、及び高分子ホスト材料を含有する発光性組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属錯体、フルオレンオリゴマー、及び高分子ホスト材料を含有する発光性組成物であって、
前記有機金属錯体が、下記一般式(1)で表される化合物、及び、下記一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、
前記フルオレンオリゴマーが、下記一般式(6)で表されるユニットを含むとともに、前記ユニットの繰り返し数が、6以上14以下の化合物であることを特徴とする発光性組成物。
【化1】
(一般式(1)及び(2)中、R
1乃至R
18はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、又はシアノ基を表す。環Aは、アリール環、又はヘテロアリール環を表す。L
1-L
2は、下記一般式(3)乃至(5)のいずれかで表される二座配位子である。)
【化2】
(一般式(3)乃至(5)中、R
19乃至R
33はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。)
【化3】
(一般式(6)中、R
101及びR
102はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はヘテロアリールオキシ基を表し、複数の前記一般式(6)で表されるユニットは、R
103乃至R
106のいずれか1つとR
107乃至R
110のいずれか1つとで互いに結合する。隣接する一般式(6)の分子ユニットに結合していないR
103乃至R
110はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、又はアミノ基を表す。)
【請求項2】
前記環Aの前記アリール環が、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、フェナントレン環、9,9-スピロビフルオレン環、又はクリセン環である請求項1に記載の発光性組成物。
【請求項3】
前記フルオレンオリゴマーが、下記化合物(101)乃至(118)の少なくとも1種である請求項1に記載の発光性組成物。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項4】
前記高分子ホスト材料が、ホール輸送性を有する請求項1に記載の発光性組成物。
【請求項5】
前記高分子ホスト材料が、下記一般式(7)で表される化合物である請求項1に記載の発光性組成物。
【化8】
(一般式(7)中、R
201乃至R
208はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、又はヘテロアリールオキシ基を表す。nは、50以上10,000以下である。)
【請求項6】
前記発光性組成物中の前記フルオレンオリゴマーの含有量(ppm)が、前記フルオレンオリゴマーの含有量(ppm)及び前記高分子ホスト材料の含有量(ppm)の合計に対する質量比率で、0.10倍以上0.95倍以下である請求項1に記載の発光性組成物。
【請求項7】
前記発光性組成物中の前記有機金属錯体の含有量(ppm)が、前記フルオレンオリゴマーの含有量(ppm)、及び前記高分子ホスト材料の含有量(ppm)の合計に対する質量比率で、0.001倍以上0.20倍以下である請求項1に記載の発光性組成物。
【請求項8】
前記発光性組成物が、液体である請求項1に記載の発光性組成物。
【請求項9】
第1電極、第2電極、並びに前記第1電極及び前記第2電極の間に配置される発光層である有機化合物層を有する有機発光素子であって、
前記有機化合物層が、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の発光性組成物により形成されてなることを特徴とする有機発光素子。
【請求項10】
前記発光層がさらに、第1有機化合物を含み、
前記第1有機化合物の最低励起三重項エネルギーが、前記有機金属錯体の最低励起三重項エネルギー以上であり、かつ、前記フルオレンオリゴマーの最低励起三重項エネルギー以下である請求項9に記載の有機発光素子。
【請求項11】
前記有機化合物層がさらに、前記第1電極及び前記発光層の間に前記第1電極と接する第1電荷輸送層、並びに、前記第2電極及び前記発光層の間に前記第2電極と接する第2電荷輸送層を有する請求項10に記載の有機発光素子。
【請求項12】
前記第1電荷輸送層の最低励起三重項エネルギーが、前記高分子ホスト材料及び前記フルオレンオリゴマーのいずれの最低励起三重項エネルギーよりも大きく、かつ、前記第2電荷輸送層の最低励起三重項エネルギーが、前記高分子ホスト材料及び前記フルオレンオリゴマーのいずれの最低励起三重項エネルギーよりも大きい請求項11に記載の有機発光素子。
【請求項13】
複数の画素と、前記複数の画素に接続されたトランジスタと、を有する表示装置であって、
前記複数の画素の少なくとも1つが、請求項9に記載の有機発光素子であることを特徴とする表示装置。
【請求項14】
複数のレンズを有する光学部と、前記光学部を通過した光を受光する撮像素子と、前記撮像素子が撮像した画像を表示する表示部と、を有する撮像素子であって、
前記表示部が、請求項9に記載の有機発光素子を含むことを特徴とする撮像装置。
【請求項15】
表示部と、前記表示部が設けられた筐体と、前記筐体に設けられ、外部と通信する通信部と、を有する電子機器であって、
前記表示部が、請求項9に記載の有機発光素子を含むことを特徴とする電子機器。
【請求項16】
光源と、前記光源が発する光を透過する部材と、を有する照明装置であって、
前記光源が、請求項9に記載の有機発光素子を含むことを特徴とする照明装置。
【請求項17】
灯具と、前記灯具が設けられた機体と、を有する移動体であって、
前記灯具が、請求項9に記載の有機発光素子を含むことを特徴とする移動体。
【請求項18】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の発光性組成物を基材に付与する工程を含む有機発光素子の製造方法。
【請求項19】
請求項8に記載の発光性組成物を塗布法又は印刷法によって基材に付与する工程を含む有機発光素子の製造方法。
【請求項20】
前記塗布法が、スピンコート法、キャスト法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、又はスプレーコート法である請求項19に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項21】
前記印刷法が、スクリーン法、フレキソ法、オフセット法、又はインクジェット法である請求項19に記載の有機発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光性組成物、有機発光素子、表示装置、撮像装置、電子機器、照明装置、移動体、及び有機発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(Organic Light Emitting Device、有機LED)は、第1電極及び第2電極の一対の電極と、これらの一対の電極間に配置される有機化合物層と、を有する電子素子である。電子及び正孔を一対の電極から有機化合物層へとそれぞれ注入することで、有機化合物層中の発光性を持つ有機化合物を基底状態から励起状態へと活性化し、励起状態から基底状態に戻る際に余剰となるエネルギーが光として放出される。有機発光素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子、又は有機EL素子とも呼ばれる。
【0003】
発光性有機化合物は、その発光原理から、蛍光発光材料及びリン光発光材料に大別される。有機発光素子内での電気的な励起子生成においては、量子力学的な原理により、25%は一重項エネルギー、75%は三重項エネルギーとなる。そのため、一重項励起状態から光る蛍光発光材料よりも、三重項励起状態から光るリン光発光材料のほうが、より高い発光効率を示すことが知られている。例えば、赤色のリン光発光材料として、下記の構造を有する有機金属錯体のIr(piq)3〔トリス[1-フェニルイソキノリン-C2,N]イリジウム(III)〕が知られている。
【0004】
【0005】
従来、有機発光素子は、有機化合物層や無機化合物層、電極などの各種の機能層を形成するための材料を、高真空下で基板に加熱蒸着する、いわゆる蒸着法により製造されてきた。しかし、蒸着法では、大面積基板への均一な蒸着が困難であり、また、材料利用率、製造コストなどに課題がある。
【0006】
蒸着法における上記の課題を解決しうる有機発光素子の製造方法として、近年、印刷法が検討されるようになっている。印刷法では、各種の材料を含有する液体状の組成物を基板に付与して有機発光素子を製造する。液体状の組成物を基板に付与して、均一に製膜する必要があることから、製膜性や膜安定性に優れる高分子材料やオリゴマーをホスト材料として用いることが検討されている。
【0007】
非特許文献1及び2には、高分子材料及びIr錯体を含有する組成物を用いて印刷方式で素子を製造することが記載されている。また、特許文献1には、フルオレンオリゴマー及びIr錯体を含有する組成物が記載されている。特許文献2には、ホスト材料として、オリゴマー及び高分子材料を併用した組成物が記載されている。
【0008】
有機発光素子の高効率化、長寿命の観点から、電子と正孔の再結合により生ずる励起子のエネルギーが発光材料に速やかに移動することが重要である。発光材料としてのリン光材料は三重項エネルギーを効率よく利用することができる。但し、この場合、一重項エネルギーを利用するには、ホストからドーパントへの一重項エネルギー移動と一重項から三重項への項間交差を経る必要がある。一重項エネルギー移動及び項間交差が速やかに行われないと、無輻射失活やホスト自体の発光などとして一重項エネルギーが失われる。印刷法に用いられる高分子材料やオリゴマーの多くは発光性を有する。そのため、エネルギー失活経路としてのホストの発光が起きると、ドーパント発光の低下のみならず、ホストからの所望の色相とは異なる色相の発光が混色することで、色純度低下も引き起こされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2017/038613号
【特許文献2】特開2009-071222号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Thin Solid Films,2006,499,359-363
【非特許文献2】J.Mater.Chem.,2012,22,4660-4668
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、特許文献1及び2に記載された組成物の各種特性を調査した。その結果、ホストの発光が起きて、ドーパント発光の発光量子収率が不十分であることがわかった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、ドーパント発光の発光量子収率を向上するとともに、ホストの発光を低減することができる発光性組成物を提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記発光性組成物により形成されてなる発光層を有する有機発光素子、表示装置、撮像装置、電子機器、照明装置、及び移動体を提供することにある。さらに、本発明の別の目的は、前記発光性組成物を用いた有機発光素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかる発光性組成物は、有機金属錯体、フルオレンオリゴマー、及び高分子ホスト材料を含有する発光性組成物であって、前記有機金属錯体が、下記一般式(1)で表される化合物、及び、下記一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、前記フルオレンオリゴマーが、下記一般式(6)で表されるユニットを含むとともに、前記一般式(6)で表されるユニットの繰り返し数が、6以上14以下であることを特徴とする。
【0014】
【0015】
(一般式(1)及び(2)中、R1乃至R18はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、又はシアノ基を表す。環Aは、アリール環、又はヘテロアリール環を表す。L1-L2は、下記一般式(3)乃至(5)のいずれかで表される二座配位子である。)
【0016】
【0017】
(一般式(3)乃至(5)中、R19乃至R33はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。)
【0018】
【0019】
(一般式(6)中、R101及びR102はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はヘテロアリールオキシ基を表し、複数の前記一般式(6)で表されるユニットは、R103乃至R106のいずれか1つとR107乃至R110のいずれか1つとで互いに結合する。隣接する一般式(6)の分子ユニットに結合していないR103乃至R110はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、又はアミノ基を表す。)
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ドーパント発光の発光量子収率を向上するとともに、ホストの発光を低減することができる発光性組成物を提供することができる。また、本発明の別の態様によれば、前記発光性組成物により形成されてなる発光層を有する有機発光素子、表示装置、撮像装置、電子機器、照明装置、及び移動体を提供することができる。さらに、本発明の別の態様によれば、前記発光性組成物を用いた有機発光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a)本発明の一実施形態にかかる表示装置の画素の一例を表す概略断面図である。(b)本発明の一実施形態にかかる有機発光素子を用いた表示装置の一例の概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる有機発光素子を用いた表示装置の一例の模式図である。
【
図3】(a)本発明の一実施形態にかかる撮像装置の一例を表す模式図である。(b)本発明の一実施形態にかかる携帯機器の一例を表す模式図である。
【
図4】(a)本発明の一実施形態にかかる表示装置の一例を表す模式図である。(b)折り曲げ可能な表示装置の一例を表す模式図である。
【
図5】(a)本発明の一実施形態にかかる照明装置の一例を示す模式図である。(b)本発明の一実施形態にかかる移動体の一例である自動車を示す模式図である。
【
図6】(a)本発明の一実施形態にかかるウェアラブルデバイスの一例を示す模式図である。(b)本発明の一実施形態にかかるウェアラブルデバイスの一例で、撮像装置を有する形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱しない限り、その形態及び詳細を様々に変更しうることは当業者に容易に理解される。すなわち、本発明は、以下の説明により限定して解釈されることはない。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。本発明の発光性組成物は、組成物そのものが発光するものであってもよく、また、組成物により形成される部材が発光するものであってもよく、これらを包含する意味で「発光性組成物」と記載する。
【0023】
本発明者らは、発光性組成物に含有させる材料によって、ドーパント発光の発光量子収率を向上するとともに、ホストの発光を低減することについて検討を行った。その結果、特定の有機金属錯体、特定のフルオレンオリゴマー、及び高分子ホスト材料を含有する発光性組成物によって、上記の効果が得られることを見出した。有機金属錯体は、後述する一般式(1)で表される化合物、及び、一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。また、フルオレンオリゴマーは、一般式(6)で表されるユニットを含むとともに、前記ユニットの繰り返し数が6以上14以下の化合物である。本発明の発光性組成物によって、ドーパント発光の発光量子収率を向上しながら、ホストの発光を抑制できるメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。
【0024】
有機金属錯体である一般式(1)で表される化合物、及び、一般式(2)で表される化合物は、配位子としてベンゾイソキノリン類化合物を有するイリジウム錯体であり、赤ドーパントである。この赤ドーパントに対応する高分子ホスト材料としては、例えば、有機LEDのホスト材料として汎用のポリカルバゾール系、ポリフルオレン系の高分子化合物が挙げられる。
【0025】
但し、ポリビニルカルバゾール系化合物と、上記有機金属錯体(赤ドーパント)とでは、S1エネルギーの差が大きい。S1エネルギーとは、励起一重項状態(S1)におけるエネルギーを表す。このため、ホストからドーパントへのエネルギー移動が起こりにくく、ドーパント発光の発光量子収率が低下することがある。また、ポリフルオレン系化合物と、上記有機金属錯体(赤ドーパント)とのS1エネルギーの差は、ポリビニルカルバゾール系化合物の場合よりも小さい。このため、ホストからドーパントへのエネルギー移動が起こりやすい。その一方で、ポリフルオレン系化合物は剛直な分子構造を有するため、凝集しやすい。このため、トラップサイトが生じて、ポリフルオレン系化合物(ホスト)自体が青く発光することで、赤ドーパントの赤色発光の色純度が低下する。
【0026】
本発明では、一般式(6)で表されるユニットを含む化合物(フルオレンオリゴマー)を用いる。これにより、ドーパント発光の発光量子収率を向上させるとともに、ホストの発光を抑制するという効果を得ることができる。これは、一般式(6)で表されるユニットを含む化合物(フルオレンオリゴマー)が、S1エネルギーのより大きい高分子ホスト材料から有機金属錯体(ドーパント)へのエネルギー移動を補助するためであると考えられる。
【0027】
但し、一般式(6)で表されるユニットを含む化合物は、それ自体もまた上述のポリフルオレン系化合物と同様に剛直である。本発明で用いるフルオレンオリゴマーは、一般式(6)で表されるユニットの繰り返し数が6以上14以下であり、分子が適度にコンパクトなサイズであるため、高分子ホスト材料の凝集が抑制され、トラップサイトが生じにくくなると考えられる。本明細書において、フルオレンオリゴマーにおける一般式(6)で表されるユニットの繰り返し数は、ピロールの2,3-位と4,5-位にベンゼン環が1つずつ縮合した構造であるカルバゾール骨格の個数と言い換えることができる。但し、複数のカルバゾール骨格が1つのベンゼン環を共有する場合は、その縮合カルバゾール骨格をまとめて繰り返し単位の1つとして数える。例えば、後述する化合物116の繰り返し数は、7である。前記繰り返し数が6未満であると、トラップサイトは生じにくいが、高分子ホスト材料からドーパントへのエネルギー移動の補助をすることができない。その結果、ドーパント発光の発光量子収率を向上できず、ホストの発光も抑制できない。一方、前記繰り返し数が14超であると、ポリフルオレン系化合物と同様に分子のサイズが大きく、剛直となりやすいため、高分子ホスト材料の凝集を抑制できず、トラップサイトが生ずる。その結果、ドーパント発光の発光量子収率を向上できず、ホストの発光も抑制することができない。
【0028】
<発光性組成物>
本発明の発光性組成物は、特定の有機金属錯体、フルオレンオリゴマー、及び高分子ホスト材料を含有する。以下、本発明の発光性組成物を構成する成分や物性などについて詳細に説明する。
【0029】
(有機金属錯体)
発光性組成物は、有機金属錯体を含有する。有機金属錯体は、一般式(1)で表される化合物、及び一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0030】
【0031】
(一般式(1)及び(2)中、R1乃至R18はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、又はシアノ基を表す。環Aは、アリール環、又はヘテロアリール環を表す。L1-L2は、下記一般式(3)乃至(5)のうち少なくとも1つで表される二座配位子である。)
【0032】
【0033】
(一般式(3)乃至(5)中、R19乃至R33はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。)
【0034】
一般式(1)~(5)における矢印は、原子が金属原子と配位結合していることを意味する。
【0035】
一般式(1)及び(2)中、R1乃至R18はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、又はシアノ基を表す。
【0036】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。なかでも、熱的安定性の観点から、フッ素原子が好ましい。
【0037】
アルキル基としては、炭素数1乃至30、好ましくは炭素数1乃至20の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、及びオクチル基などが挙げられる。アルキル基は、ハロゲン原子(上記で例示したものなど)、シアノ基、又はニトロ基で置換されていてもよい。また、アルキル基の1つ又は隣接しない2つ以上のメチレン基は、-O-、-S-、-C(=O)-、-C(=O)O-、-O(C=O)-、-CH=CH-、又は-C≡C-によって中断又は置換されていてもよい。
【0038】
シクロアルキル基としては、炭素数3乃至30、好ましくは炭素数3乃至20のシクロアルキル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、具体的には、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、及び2-アダマンチル基などが挙げられる。シクロアルキル基は、ハロゲン原子、シアノ基、又はニトロ基で置換されていてもよい。
【0039】
アルコキシ基としては、炭素数1乃至20のアルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、及び2-エチル-オクチルオキシ基などが挙げられる。アルコキシ基は、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、又は炭素数6乃至30のアリール基で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、一般式(1)及び(2)中のR1乃至R18のハロゲン原子として説明したものと同様のものが挙げられる。
【0040】
アリール基としては、炭素数6乃至30のアリール基が挙げられ、単環であっても、縮合環であってもよい。アリール基としては、具体的には、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基、カルバゾリル基、ジベンゾフリル基、及びジベンゾチエニル基などが挙げられる。アリール基は、さらに、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、又はアルコキシ基で置換されていてもよい。ハロゲン原子、アルキル基、及びアルコキシ基としては、一般式(1)及び(2)中のR1乃至R18の各基として説明したものと同様のものが挙げられる。
【0041】
ヘテロアリール基としては、環を構成する原子数が3乃至15のヘテロアリール基が挙げられ、単環であっても、縮合環であってもよい。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、及びゲルマニウム原子などが挙げられ、これらの複数の原子が含まれていてもよい。ヘテロアリール基としては、具体的には、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、及びフェナントロリル基などが挙げられる。ヘテロアリール基は、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、又はアルコキシ基で置換されていてもよい。ハロゲン原子、アルキル基、及びアルコキシ基としては、一般式(1)及び(2)中のR1乃至R18の各基として説明したものと同様のものが挙げられる。
【0042】
アリールオキシ基としては、アリール部分の炭素数が6乃至30のアリールオキシ基が挙げられる。アリールオキシ基としては、具体的には、フェノキシ基、ナフトキシ基などが挙げられる。アリールオキシ基は、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、又はアルコキシ基で置換されていてもよい。ハロゲン原子、アルキル基、及びアルコキシ基としては、一般式(1)及び(2)中のR1乃至R18の各基として説明したものと同様のものが挙げられる。
【0043】
ヘテロアリールオキシ基としては、ヘテロアリール部分の環を構成する原子数が3乃至15のヘテロアリールオキシ基が挙げられ、単環であっても、縮合環であってもよい。ヘテロ原子としては、一般式(1)及び(2)中のR1乃至R18のヘテロアリール基のヘテロ原子と同様のものが挙げられる。ヘテロアリールオキシ基としては、具体的には、ピリジルオキシ基、ピリミジルオキシ基、ピラジルオキシ基、トリアジルオキシ基、ベンゾフリルオキシ基、ジベンゾフリルオキシ基、ベンゾチエニルオキシ基、ジベンゾチエニルオキシ基、ピリルオキシ基、インドリルオキシ基、及びN-メチルカルバゾリルオキシ基などが挙げられる。
【0044】
シリル基は、アルキル基、アリール基、又はアルコキシ基がケイ素原子に置換した基である。シリル基としては、トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基、及びトリアリールシリル基などが挙げられる。なかでも、炭素数1乃至8のアルキル基、又は炭素数6乃至10のアリール基が置換したシリル基が好ましい。具体的には、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、及びtert-ブチルジフェニルシリル基などが挙げられる。
【0045】
アシル基としては、炭素数1乃至20のアシル基が挙げられる。アシル基としては、具体的には、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基などが挙げられる。
【0046】
アルコキシカルボニル基としては、炭素数2乃至20のアルコキシカルボニル基が挙げられる。アルキルカルボニル基としては、具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0047】
一般式(1)及び(2)中、環Aは、アリール環、又はヘテロアリール環を表す。環Aは、上記で挙げたような各基、すなわち、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、又はシアノ基で置換されていてもよい。環Aのアリール環は、炭素数6乃至30のアリール環が挙げられ、単環であっても、縮合環であってもよい。なかでも、一般式(1)及び(2)中の環Aのアリール環は、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、フェナントレン環、9,9-スピロビフルオレン環、又はクリセン環であることが好ましい。環Aのヘテロアリール環としては、一般式(1)及び(2)中のR1乃至R18のヘテロアリール基として説明したものと同様のものが挙げられる。具体的には、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、オキサゾリン環、オキサジアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、カルバゾール環、アクリジン環、及びフェナントロリン環などが挙げられる。
【0048】
一般式(1)及び(2)中、L1-L2は一般式(3)乃至(5)のうち少なくとも1つで表される二座配位子である。一般式(3)乃至(5)中、R19乃至R33はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。R19乃至R33のハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、及びヘテロアリール基としては、R1乃至R18の各基として説明したものと同様のものが挙げられる。
【0049】
有機金属錯体(一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物)の具体例を示す。勿論、本発明においては、一般式(1)及び一般式(2)の定義に包含されるものであれば、以下の具体例に限定されない。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
発光性組成物中の有機金属錯体の含有量(ppm)は、発光性組成物全質量を基準として、1ppm以上3,000ppm以下であることが好ましい。また、発光性組成物中の有機金属錯体の含有量(ppm)は、フルオレンオリゴマーの含有量(ppm)、及び高分子ホスト材料の含有量(ppm)の合計に対する質量比率で、0.001倍以上0.20倍以下であることが好ましい。前記質量比率を上記の範囲とすることで、ホストからのエネルギー移動が効率よく生じ、かつ、有機金属錯体の凝集を抑えられる。その結果、ドーパント発光の発光量子収率をさらに高めることができるとともに、ドーパントに対するホストの発光量子収率をさらに有効に抑制することができる。
【0055】
(フルオレンオリゴマー)
発光性組成物は、下記一般式(6)で表されるユニットを含むとともに、前記ユニットの繰り返し数が6以上14以下の化合物であるフルオレンオリゴマーを含有する。本明細書におけるフルオレンオリゴマーとは、重量平均分子量が1,000乃至10,000であるものを指す。このフルオレンオリゴマーは、通常、分子量分布を持たない。このようなフルオレンオリゴマーは、カラムクロマトグラフィーやゲル浸透クロマトグラフィーなどの精製方法により、高純度化が可能である。本発明で用いるフルオレンオリゴマーは、一般式(6)で表されるフルオレンユニットを含み、化学的・熱的・電気化学的に安定である。フルオレンオリゴマーは、ドーパント発光の発光量子収率を向上させることができるため、これ自体もホスト材料としての機能を持つ。
【0056】
【0057】
(一般式(6)中、R101及びR102はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はヘテロアリールオキシ基を表し、複数の前記一般式(6)で表されるユニットは、R103乃至R106のいずれか1つとR107乃至R110のいずれか1つとで互いに結合する。隣接する一般式(6)の分子ユニットに結合していないR103乃至R110はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、又はアミノ基を表す。)
【0058】
一般式(6)中、R101及びR102はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はヘテロアリールオキシ基を表し、複数の前記一般式(6)で表されるユニットは、R103乃至R106のいずれか1つとR107乃至R110のいずれか1つとで互いに結合する。ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、及びヘテロアリールオキシ基としては、上記有機金属錯体における各基として説明したものと同様のものが挙げられる。
【0059】
隣接する一般式(6)の分子ユニットに結合していないR103乃至R110はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、又はアミノ基を表す。ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、及びヘテロアリールオキシ基としては、上記有機金属錯体における各基として説明したものと同様のものが挙げられる。アミノ基は、置換アミノ基であっても、無置換アミノ基であってもよい。置換アミノ基の置換基としては、炭素数が1乃至8のアルキル基、炭素数6乃至10のアリール基などが挙げられる。置換アミノ基としては、具体的には、ジアルキルアミノ基、アルキルアリールアミノ基、及びジアリールアミノ基などが挙げられる。より具体的には、ジメチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、エチルフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、モルフォリノ基などが挙げられる。
【0060】
フルオレンオリゴマーの具体例を以下に示す。勿論、本発明においては、一般式(1)及び一般式(2)の定義に包含されるものであれば、以下の具体例に限定されない。フルオレンオリゴマーとしては、下記化合物(101)乃至(118)の少なくとも1種であることが好ましい。これらは、一般式(6)で表されるユニットのみで構成されるフルオレンオリゴマーである。これらの化合物を用いることで、ドーパント発光の発光量子収率をさらに向上することができるとともに、ドーパントに対するホストの発光量子収率をさらに有効に抑制することができる。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
発光性組成物中のフルオレンオリゴマーの含有量(ppm)は、発光性組成物全質量を基準として、100ppm以上10,000ppm以下であることが好ましい。発光性組成物中のフルオレンオリゴマーの含有量(ppm)は、フルオレンオリゴマーの含有量(ppm)及び高分子ホスト材料の含有量(ppm)の合計に対する質量比率で、0.10倍以上0.95倍以下であることが好ましい。前記質量比率を上記の範囲とすることで、高分子ホスト材料の凝集を効率よく抑制することができるとともに、エネルギー移動を効率よく仲介できるため、ドーパントに対するホストの発光量子収率をさらに有効に抑制することができる。
【0066】
(高分子ホスト材料)
発光性組成物は、高分子ホスト材料を含有する。高分子ホスト材料としては、ホストとしての機能を持つ材料が好ましく、具体的には、公知の材料を用いることができる。本明細書における高分子ホスト材料とは、重量平均分子量が20,000以上であるものを指す。高分子ホスト材料の重量平均分子量は、3,000,000以下であることが好ましく、2,000,000以下であることがさらに好ましい。本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の値である。
【0067】
高分子ホスト材料は、共役型であっても、非共役型でもよい。共役型の高分子材料としては、例えば、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、フルオレン-カルバゾール共重合体、フルオレン-ジフェニルアミン共重合体、フルオレン-チオフェン共重合体、フルオレン-ビニレン共重合体、及びこれらの誘導体などが挙げられる。非共役型の高分子材料としては、例えば、ポリスチレン、ポリビニルカルバゾール、及びこれらの誘導体などが挙げられる。高分子ホスト材料は、単独又は複数を併用して用いることができる。
【0068】
高分子ホスト材料は、電荷輸送性を有するものが好ましく、ホール輸送性を有する高分子ホスト材料であることがさらに好ましい。なかでも、高分子ホスト材料としては、下記一般式(7)で表される化合物が好ましい。この化合物は、ポリビニルカルバゾール誘導体であり、ドーパント発光の発光量子収率及びドーパントに対するホストの発光量子収率の観点だけではなく、熱安定性の観点からも好ましい。
【0069】
【0070】
(一般式(7)中、R201乃至R208はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、又はヘテロアリールオキシ基を表す。nは、50以上10,000以下である。)
【0071】
一般式(7)中、R201乃至R208はそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、又はヘテロアリールオキシ基を表す。ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、及びヘテロアリールオキシ基としては、上記有機金属錯体における各基として説明したものと同様のものが挙げられる。
【0072】
発光性組成物中の高分子ホスト材料の含有量(ppm)は、発光性組成物全質量を基準として、100ppm以上10,000ppm以下であることが好ましい。
【0073】
(添加剤)
発光性組成物には、上記の各種材料以外にも、必要に応じて、電荷輸送材料、樹脂、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの種々の添加剤を含有させることができる。なかでも、樹脂や、電荷輸送材料(例えば、電子輸送性材料)を含有させることが好ましい。樹脂は、バインダとしての樹脂であることが好ましい。具体的には、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、及び尿素樹脂などが挙げられる。樹脂は、単独重合体でも、共重合体でもよく、また、1種又は2種以上の樹脂を用いることができる。電子輸送性材料としては、公知の材料を用いることができる。例えば、1,3-ビス[2-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾ-5-イル]ベンゼンなどが挙げられる。電子輸送性材料としては、市販のもの(例えば、商品名「OXD-7」、Lumnescence Technology製)などを用いることもできる。発光性組成物中の電子輸送性材料の含有量(ppm)は、発光性組成物全質量を基準として、10ppm以上5,000ppm以下であることが好ましい。
【0074】
(液媒体)
発光性組成物は、液体であってもよい。液体の発光性組成物とするためには、液媒体を含有させる。液媒体は、有機金属錯体、フルオレンオリゴマー、及び高分子ホスト材料を溶解又は分散させることができるものであれば特に限定されない。なかでも、1気圧下で70℃以上300℃以下の沸点を有する有機溶剤を用いることが好ましい。有機溶剤は、水溶性であっても、水混和性であってもよい。液体の発光性組成物中の液媒体としての有機溶剤の含有量(質量%)は、発光性組成物全質量を基準として、90.0質量%以上99.5質量%以下であることが好ましい。
【0075】
有機溶剤としては、具体的には、トルエン、o-キシレン、p-キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、アニソール、フェニルシクロヘキサンなどの芳香族炭化水素化合物類;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化アルキル類;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;、ジメトキシエタン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチルなどのエステル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド化合物類;N-メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノンなどの環状アミド化合物(ラクタム)類;などが挙げられる。なかでも、ケトン類が好ましい。有機溶剤は、発光性組成物における各種材料の相溶性、液体の粘度や表面張力などの各種の特性を調整するなどのために用いることができる。有機溶剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0076】
<有機発光素子>
有機発光素子は、基板に絶縁層、第1電極、有機化合物層、及び第2電極をこの順序で積層した構成を有するものが挙げられる。第2電極の上(基板とは逆の方向)には、保護層、及びカラーフィルタなどを設けてもよい。カラーフィルタを設ける場合は、保護層及びカラーフィルタの間に、平坦化層を設けてもよい。第1電極及び第2電極は、一方が陽極で、他方が陰極である。
【0077】
(基板)
基板としては、石英、ガラス、シリコン、樹脂、及び金属などで形成されたものを用いることができる。また、基板の上に、トランジスタなどのスイッチング素子、配線などを設け、その上に絶縁層を備えてもよい。絶縁層としては、陽極と配線の導通を確保するために、コンタクトホールを形成可能で、かつ、接続すべきでない配線との絶縁性があれば、いずれの材料で形成されたものも用いることができる。絶縁層としては、具体的には、ポリイミドなどの樹脂、酸化シリコン、窒化シリコンなどのシリコン化合物で形成されたものなどが挙げられる。
【0078】
(電極)
有機発光素子には、一対の電極を設ける。一対の電極は、陽極と陰極である。有機発光素子が発光する方向に電圧を印加する場合に、電位が高い電極が陽極となり、他方が陰極となる。また、発光層にホールを供給する電極が陽極であり、電子を供給する電極が陰極であるということもできる。
【0079】
陽極の構成材料としては、仕事関数が大きいものが好ましい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、及びタングステンなどの金属;酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛などの金属酸化物;これらの混合物や合金;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性ポリマーなどが挙げられる。電極の構成材料は1種又は2種以上を用いてもよい。また、陽極は1層又は2層以上で構成されていてもよい。
【0080】
反射電極として用いる場合の陽極の構成材料としては、例えば、クロム、アルミニウム、銀、チタン、タングステン、モリブデンなどの金属;これらの合金や積層体などを用いることができる。また、透明電極として用いる場合の陽極の構成材料としては、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛などの酸化物を用いることができる。陽極の形成には、フォトリソグラフィ技術を用いることができる。
【0081】
一方、陰極の構成材料としては、仕事関数の小さいものが好ましい。例えば、リチウムなどのアルカリ金属;カルシウムなどのアルカリ土類金属;アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロムなどの、その他の金属;これらの酸化物、混合物、合金が挙げられる。合金としては、例えば、マグネシウム-銀、アルミニウム-リチウム、アルミニウム-マグネシウム、銀-銅、亜鉛-銀などが挙げられる。酸化インジウムスズ(ITO)などの金属酸化物であってもよい。電極の構成材料は1種又は2種以上を用いてもよい。また、陰極は1層又は2層以上で構成されていてもよい。なかでも、銀を用いることが好ましく、銀の凝集を抑制するため、銀合金とすることがさらに好ましい。銀の凝集が抑制できれば合金の比率は問わない。例えば、1:1程度であってもよい。
【0082】
陰極は、酸化インジウムスズ(ITO)などの酸化物導電層を使用してトップエミッション素子としてもよいし、アルミニウム(Al)などの反射電極を使用してボトムエミッション素子としてもよい。陰極の形成にも、フォトリソグラフィ技術を用いることができる。なかでも、陰極の形成方法としては、スパッタリング法(直流又は交流)が好ましい。スパッタリング法により形成した膜は被覆率に優れ、抵抗を下げやすいためである。
【0083】
(保護層)
保護層は、陰極の上に設けることができる。例えば、陰極上に、吸湿剤層を設けたガラスを接着することで、有機化合物層に対する水などの浸入を抑制し、表示不良の発生を抑制することができる。また、陰極上に窒化ケイ素などのパッシベーション膜を設け、有機化合物層への水などの浸入を抑制してもよい。保護層は、化学気相成長法(CVD法)などで形成することができる。また、化学気相成長法による成膜の後に、原子堆積法(ALD法)により、二層で構成される保護層を設けてもよい。例えば、陰極を形成した後に真空を保ったまま別のチャンバーに搬送し、CVD法で窒化ケイ素膜を保護層として形成することができる。保護層の厚さは1μm以上10μm以下とすることが好ましい。
【0084】
(カラーフィルタ)
カラーフィルタは、保護層の上に設けることができる。例えば、有機発光素子のサイズに対応したカラーフィルタを別の基板に設け、有機発光素子を設けた基板と貼り合わせてもよいし、フォトリソグラフィ技術を用いて、カラーフィルタをパターニングしてもよい。カラーフィルタは、高分子材料などで構成することができる。
【0085】
(平坦化層)
平坦化層は、カラーフィルタ及び保護層の間に設けることができる。平坦化層の構成材料としては、有機化合物などが挙げられ、なかでも、高分子の有機化合物などが好ましい。平坦化層は、カラーフィルタを挟む両側に設けられてもよく、この場合、各平坦化層の構成材料は同じものでも、異なるものでもよい。平坦化層の構成材料としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、及び尿素樹脂などの樹脂が挙げられる。ここで、ABS樹脂は、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの3種類のモノマーから構成される樹脂である。
【0086】
(対向基板)
対向基板は、平坦化層の上に設けることができる。対向基板は、基板に対向して設けられるため、対向基板と呼ばれる。対向基板の構成材料は、基板の構成材料として挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0087】
(有機化合物層)
有機発光素子を構成する有機化合物層は、一対の電極である第1電極及び第2電極、並びに、第1電極及び第2電極の間に配置される発光層である有機化合物層を少なくとも有する。有機化合物層は、発光層を有していれば、単層又は複数の層を有する積層体であってもよい。
【0088】
有機化合物層が複数の層を有する積層体である場合、有機化合物層の少なくとも1つの層が発光層である。有機化合物層は発光層の他に、ホール注入層、ホール輸送層、電子ブロッキング層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、電子注入層などを有してもよい。また、発光層は、単層又は複数の層を有する積層体であってもよい。ホール輸送層、及び電子輸送層は、電荷輸送層とも呼ばれる。
【0089】
有機発光素子の有機化合物層のうち少なくとも1層は、上記で説明した有機金属錯体を含む。具体的には、有機金属錯体は、ホール注入層、ホール輸送層、電子ブロッキング層、発光層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、電子注入層などの少なくとも1つの層に含まれていることが好ましい。なかでも、発光層に含まれることが好ましい。
【0090】
第1電極、発光層、及びこれらの間に配置される輸送層は、これらが一体となって電荷を輸送する機能を持つため、これらの各層をまとめて第1電荷輸送層として取り扱うこともできる。同様に、第2電極、発光層、及びこれらの間に配置される輸送層は、これらが一体となって電荷を輸送する機能を持つため、これらの各層をまとめて、第2電荷輸送層として取り扱うこともできる。したがって、発光層の一方の面は第1電荷輸送層と接するとともに、他方の面は第2電荷輸送層と接する。
【0091】
有機金属錯体が発光層に含まれる場合、発光層は、有機金属錯体で形成されていればよく、他の成分を含まなくてもよい。すなわち、発光層は、有機金属錯体のみによって形成される層であってもよい。また、発光層は、有機金属錯体に加えて、第1有機化合物を含んでもよい。このとき、第1有機化合物の最低励起三重項エネルギーは、有機金属錯体の最低励起三重項エネルギー以上であり、かつ、フルオレンオリゴマーの最低励起三重項エネルギー以下であることが好ましい。また、発光層は、有機金属錯体、第1有機金属化合物、及び前記第1有機化合物とは異なる第2有機化合物を含んでもよい。第2有機化合物の最低励起三重項エネルギーは、有機金属錯体の最低励起三重項エネルギー以上であり、かつ、第1有機化合物の最低励起三重項エネルギー以下であることが好ましい。発光層が第1有機化合物及び第2有機化合物を含む場合、第1有機化合物は、発光層のホストであってもよく、また、第2有機化合物は、アシスト材料であってもよい。有機金属錯体は、ゲスト又はドーパントであってもよい。
【0092】
ホストとは、発光層の構成材料のなかで、質量基準の含有量が最も大きい成分である。また、ゲスト又はドーパントとは、発光層の構成材料のなかで、質量基準の含有量がホストよりも小さい成分であって、主たる発光を担う成分である。また、アシスト材料とは、発光層の構成材料のなかで、質量基準の含有量がホストよりも小さい成分であって、ゲストの発光を補助する成分である。アシスト材料は、第2のホストとも呼ばれる。
【0093】
有機金属錯体を発光層のゲストとして用いる場合、ゲストの含有量(質量%)は、発光層全質量を基準として、0.01質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。発光層全質量とは、発光層を構成する成分の合計の含有量を指す。
【0094】
また、第1電荷輸送層の最低励起三重項エネルギーは、高分子ホスト材料及びフルオレンオリゴマーのいずれの最低励起三重項エネルギーよりも大きいことが好ましい。これに加えて、第2電荷輸送層の最低励起三重項エネルギーは、高分子ホスト材料及びフルオレンオリゴマーのいずれの最低励起三重項エネルギーよりも大きいことが好ましい。電荷輸送層の最低励起三重項エネルギーは、層の構成材料の最低励起三重項エネルギーで見積もることができる。電荷輸送層が複数の材料で構成される場合には、質量基準の含有量が最も大きい化合物の最低励起三重項エネルギーとして考えてもよい。
【0095】
有機発光素子を構成する各層の厚さは、それぞれ独立に、1nm以上10,000nm以下(10μm以下)であることが好ましい。なかでも、優れた発光特性を得るという観点から、10nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0096】
<有機発光素子の製造方法>
有機化合物層(ホール注入層、ホール輸送層、電子阻止層、発光層、ホール阻止層、電子輸送層、電子注入層など)を有する有機発光素子の製造方法を説明する。有機発光素子は、発光性組成物を基材に付与して有機化合物層を形成する工程を含む製造方法により製造される。
【0097】
有機化合物層を形成する方法としては、例えば、ドライプロセスやウェットプロセスが挙げられる。ドライプロセスとしては、例えば、真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、及びプラズマ法などが挙げられる。ウェットプロセスは、液体の発光性組成物を公知の方法によって基材に付与する方法である。液体の発光性組成物を基材に付与する方法としては、例えば、スピンコート法、キャスト法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、及びスプレーコート法などの塗布法;スクリーン法、フレキソ法、オフセット法、インクジェット法などの印刷法;といった公知の方法が挙げられる。なかでも、真空蒸着法、イオン化蒸着法、スプレーコート法、及びインクジェット法を用いることが好ましい。上記の方法は、大面積の有機発光素子を製造することができる観点で好適である。特に、インクジェット法を用いることが好ましい。
【0098】
ウェットプロセスにより有機化合物層を形成した後に、液媒体を乾燥させることが好ましい。乾燥条件は、有機化合物層などの構成材料に応じて適宜設定することができる。空気又は不活性ガス(窒素、アルゴンなど)雰囲気下で乾燥することが好ましい。乾燥のための加熱温度は、100℃以上250℃以下であることが好ましく、110℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。乾燥のための加熱時間は、5分以上60分以下であることが好ましい。また、乾燥のための加熱の際の圧力としては、常圧下(1気圧)であっても、減圧下(100Pa~0.1MPa)であってもよい。乾燥工程における各種条件(温度、圧力及び時間)は、有機化合物層などから液媒体を除去することができるように設定すればよい。
【0099】
液体の発光性組成物を用いてウェットプロセスによって有機化合物層を形成する場合、組成を適切に決定することが好ましい。発光性組成物中の液媒体としての有機溶剤の含有量(質量%)は、有機化合物層を構成する固体成分の含有量(質量%)の合計に対する質量比率で、10.0倍以上100.0倍以下であることが好ましい。有機化合物層を構成する固体成分としては、有機金属錯体、フルオレンオリゴマー、及び高分子ホスト材料などが挙げられる。
【0100】
液体の発光性組成物をインクジェット法で基材に付与して有機化合物層を形成する場合、その物性を適切に制御することが好ましい。25℃における液体の発光性組成物の表面張力は、15mN/m以上75mN/mであることが好ましく、25mN/m以上45mN/mであることがさらに好ましい。液体の発光性組成物の表面張力は、発光性組成物中の有機溶剤の種類や含有量を適宜決定することで、調整できる。また、25℃における液体の発光性組成物の粘度は、0.1mPa・s以上20.0mPa・s以下であることが好ましく、0.5mPa・s以上10.0mPa・s以下であることがより好ましい。粘度を上記の範囲にすることで、インクジェット方式で吐出する際の液体吐出ヘッドにおける目詰まりや吐出不良を抑制することができる。
【0101】
<画素回路>
有機発光装置は、有機発光素子に接続された画素回路を有してもよい。画素回路は、複数の有機発光素子をそれぞれ独立に発光制御する、アクティブマトリクス型であることが好ましい。アクティブマトリクス型の回路としては、電圧プログラミング型であっても、電流プログラミング型であってもよい。駆動回路は、画素ごとに画素回路を有する。画素回路は、有機発光素子の発光輝度を制御するトランジスタ、発光タイミングを制御するトランジスタ、発光輝度を制御するトランジスタのゲート電圧を保持する容量、及び有機発光素子を介さずにグランドに接続するためのトランジスタをさらに有してもよい。
【0102】
有機発光装置は、表示領域と、表示領域の周囲に配された周辺領域と、を有する。表示領域は、画素回路を有し、周辺領域には表示制御回路を有する。画素回路を構成するトランジスタの移動度は、表示制御回路を構成するトランジスタの移動度よりも小さくてよい。画素回路を構成するトランジスタの電流電圧特性の傾きは、表示制御回路を構成するトランジスタの電流電圧特性の傾きより小さくてもよい。電流電圧特性の傾きは、いわゆるVg-Ig特性により測定できる。画素回路を構成するトランジスタは、有機発光素子に接続されているトランジスタである。
【0103】
<画素>
有機発光装置は、複数の画素を有する。複数の画素はそれぞれ、他と異なる色を発光する副画素を有する。副画素はそれぞれ独立に、レッド(R)、グリーン(G)、及びブルー(B)の発光色を有する。画素は、画素開口とも呼ばれる領域において発光する。画素開口は、15μm以下であることが好ましく、5μm以上であることが好ましい。画素開口は、例えば、11.0μm、9.5μm、7.4μm、6.4μmなどとすることができる。副画素間の距離は、10μm以下であることが好ましい。副画素間の距離は、例えば、8.0μm、7.4μm、6.4μmなどとすることができる。
【0104】
画素の平面配置は公知の形態とすることができる。具体的には、ストライプ配置、デルタ配置、ペンタイル配置、及びベイヤー配置などが挙げられる。副画素の平面形状は、公知の形状とすることができる。具体的には、長方形、ひし形などの四角形や六角形などが挙げられる。ここで、副画素の平面形状は、正確な形状でなくとも、長方形に近い形をしていれば、長方形であると判断する。副画素の平面形状と、画素配列と、を組み合わせて用いることができる。
【0105】
<有機発光素子の用途>
有機発光素子は、表示装置や照明装置の構成部材として用いることができる。他にも、電子写真方式の画像記録装置の露光光源、液晶表示装置のバックライト、白色光源にカラーフィルタを有する発光装置などの用途がある。
【0106】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカードなどからの画像情報を入力する画像入力部、及び入力された情報を処理する情報処理部を有する。CCDとは、電荷結合素子のことである。表示装置は、入力された画像を表示部に表示する画像情報処理装置でもよい。また、撮像装置やインクジェット記録装置の表示部は、タッチパネル機能を有していてもよい。タッチパネル機能の駆動方式としては、具体的には、赤外線方式、静電容量方式、抵抗膜方式、及び電磁誘導方式などが挙げられる。また、表示装置は、いわゆる複合型の記録装置の表示部に用いられてもよい。
【0107】
次に、図面を参照しながら表示装置について説明する。
図1(a)は、表示装置を構成する画素の一例の断面模式図である。画素は、副画素10を有している。副画素10はその発光により、10R、10G、10Bに分けられている。発光色は、発光層から発光される波長で区別され決定されても、副画素10から出射する光がカラーフィルタなどにより選択的透過又は色変換が行われ決定されてもよい。副画素10は、それぞれ、層間絶縁層1の上に第1電極である反射電極2、反射電極2の端を覆う絶縁層3、第1電極と絶縁層とを覆う有機化合物層4、透明電極5、保護層6、及びカラーフィルタ7を有する。
【0108】
層間絶縁層1は、図示する方向において、その下層又は内部にトランジスタや容量素子を配置されていてもよい。トランジスタ及び第1電極は、不図示のコンタクトホールなどを介して、電気的に接続されていてもよい。絶縁層3は、バンク、画素分離膜とも呼ばれる。絶縁層3は、第1電極の端を覆っており、第1電極を囲って配置されている。絶縁層3の配置されていない部分が、有機化合物層4と接し、発光領域となる。有機化合物層4は、正孔注入層41、正孔輸送層42、第1発光層43、第2発光層44、及び電子輸送層45を有する。第2電極は、透明電極、反射電極、及び半透過電極のいずれであってもよい。保護層6は、有機化合物層に水などの液体成分が浸透することを低減する。保護層は、1層として図示したが、複数の層で構成されていてもよい。複数の層で構成される場合、無機化合物層や有機化合物層があってもよい。カラーフィルタ7は、その色により7R、7G、7Bに分けられる。カラーフィルタは、不図示の平坦化膜上に形成されていてもよい。また、カラーフィルタ上に不図示の樹脂保護層を有してもよい。また、カラーフィルタは、保護層6上に形成されていてもよいし、ガラス基板などの対向基板に設けられた後に、貼り合わせられていてもよい。
【0109】
図1(b)は、有機発光素子26、及び有機発光素子26に接続されるトランジスタを備える表示装置の例を示す断面模式図である。トランジスタは、能動素子の一例である。トランジスタは、薄膜トランジスタ(TFT)であってもよい。
図1(b)の表示装置100は、ガラス、シリコンなどで形成される基板11、及び基板11の上部に絶縁層12が設けられている。絶縁層12の上部には、TFTなどの能動素子18が配置されており、能動素子のゲート電極13、ゲート絶縁膜14、及び半導体層15が配置されている。TFT18は、半導体層15、ドレイン電極16、及びソース電極17で構成される。TFT18の上部には、絶縁膜19が設けられている。絶縁膜に設けられたコンタクトホール20を介して、有機発光素子を構成する陽極21、及びソース電極17が接続されている。なお、有機発光素子に含まれる電極(陽極、陰極)とTFTに含まれる電極(ソース電極、ドレイン電極)との電気接続の方式は、
図1(b)に示される態様に限られるものではない。つまり、陽極又は陰極と、TFTソース電極又はドレイン電極と、が電気接続されていればよい。
【0110】
図1(b)の表示装置100では有機化合物層を1つの層のように図示をしているが、有機化合物層22は、複数層であってもよい。陰極23の上には有機発光素子の劣化を低減するための第1保護層24や第2保護層25が設けられている。
図1(b)の表示装置100ではスイッチング素子としてトランジスタを使用しているが、これに代えて他のスイッチング素子として用いてもよい。
【0111】
また、
図1(b)の表示装置100に使用されるトランジスタは、単結晶シリコンウエハを用いたトランジスタに限らず、基板の絶縁性表面上に活性層を有する薄膜トランジスタであってもよい。活性層として、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、微結晶シリコンなどの非単結晶シリコンや、インジウム亜鉛酸化物、インジウムガリウム亜鉛酸化物などの非単結晶酸化物半導体などが挙げられる。
【0112】
図1(b)の表示装置100に含まれるトランジスタは、シリコン基板などの基板内に形成されていてもよい。基板内に形成されるとは、シリコン基板などの基板を加工してトランジスタを作製することを意味する。つまり、基板内にトランジスタを有することは、基板、及びトランジスタが一体に形成されていると見ることもできる。
【0113】
有機発光素子は、スイッチング素子の一例であるTFTにより発光輝度が制御され、有機発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示する。なお、スイッチング素子は、TFTに限らず、低温ポリシリコンで形成されるトランジスタやシリコン基板などの基板に形成されたアクティブマトリクスドライバであってもよい。基板の上部又は内部とは、その基板内ということもできる。基板内にトランジスタを設けるか、TFTを用いるかは、表示部の大きさによって選択され、例えば0.5インチ程度の大きさであれば、シリコン基板上に有機発光素子を設けることが好ましい。
【0114】
図2は、表示装置の一例を表す模式図である。表示装置1000は、上部カバー1001と、下部カバー1009と、の間に、タッチパネル1003、表示パネル1005、フレーム1006、回路基板1007、及びバッテリー1008を有する。タッチパネル1003、及び表示パネル1005は、フレキシブルプリント回路(FPC)1002、1004が接続されている。回路基板1007には、トランジスタがプリントされている。表示装置が携帯機器である場合、バッテリー1008を設ける。また、バッテリー1008は、別の位置に設けてもよい。
【0115】
表示装置は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)を有するカラーフィルタを有してもよい。カラーフィルタは、赤色、緑色、青色がデルタ配列で配置されても、ストライプ配列に配置されてもよいし、モザイク配列で配置されてもよい。
【0116】
表示装置は、携帯端末の表示部に用いることができる。その際には、表示機能と操作機能との双方を有してもよい。携帯端末としては、スマートフォンなどの携帯電話、タブレット、ヘッドマウントディスプレイなどが挙げられる。
【0117】
表示装置は、複数のレンズを有する光学部と、当該光学部を通過した光を受光する撮像素子とを有する撮像装置の表示部に用いることができる。撮像装置は、撮像素子が取得した情報を表示する表示部を有してもよい。また、表示部は、撮像装置の外部に露出した表示部であっても、ファインダ内に配置された表示部であってもよい。撮像装置は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラであってもよい。撮像装置は、光電変換装置と呼ぶこともできる。
【0118】
図3(a)は、撮像装置の一例を表す模式図である。撮像装置1100は、ビューファインダ1101、背面ディスプレイ1102、操作部1103、及び筐体1104を有する。ビューファインダ1101は、表示装置を用いることができる。その場合、表示装置は、撮像する画像のみならず、環境情報、撮像指示などを表示してもよい。環境情報としては、外光の強度、外光の向き、被写体の動く速度、及び被写体が遮蔽物に遮蔽される可能性などが挙げられる。
【0119】
撮像に好適なタイミングはわずかな時間であるため、迅速に情報を表示できることが好ましい。有機発光素子は応答速度が速いため、本発明の有機発光素子を用いた表示装置を好適に適用することができる。撮像装置1100は、不図示の光学部を有する。光学部は複数のレンズを有し、筐体1104内に収容されている撮像素子に結像する。複数のレンズは、その相対位置を調整することで、焦点を調整することができる。この操作を自動で行うこともできる。
【0120】
図3(b)は、電子機器の一例を表す模式図である。電子機器1200は、表示部1201、操作部1202、及び筐体1203を有する。筐体1203は、回路、回路を有するプリント基板、バッテリー、及び通信部などを有する。操作部1202は、ボタンであっても、タッチパネル方式の反応部であってもよい。操作部1202は、指紋を認識してロックの解除などを行う、生体認識部であってもよい。通信部を有する電子機器は、通信機器と言うこともできる。電子機器1200は、レンズと、撮像素子と、を備えることで、カメラ機能をさらに有してもよい。この場合、カメラ機能により撮像された画像が表示部1201に映される。電子機器1200としては、スマートフォン、ノートパソコンなどが挙げられる。
【0121】
図4は、表示装置の一例を表す模式図である。
図4(a)は、テレビやパソコンなどのモニタとしての表示装置である。表示装置1300は、額縁1301、表示部1302、及び表示部1302を支える土台を有する。表示部1302は、発光装置を用いる。土台1303は、
図4(a)の形態に限られることはなく、額縁1301の下辺が土台を兼ねてもよい。また、額縁1301、及び表示部1302は、曲がっていてもよい。その曲率半径は、5,000mm以上6,000mm以下であることが好ましい。
【0122】
図4(b)は表示装置の他の例を表す模式図である。
図4(b)の表示装置1310は、折り曲げ可能に構成されており、いわゆるフォルダブルな表示装置である。表示装置1310は、第1表示部1311、第2表示部1312、筐体1313、及び屈曲点1314を有する。第1表示部1311、及び第2表示部1312は、発光装置を用いることができる。第1表示部1311、及び第2表示部1312は、つなぎ目のない1枚の表示装置であってもよい。第1表示部1311、及び第2表示部1312は、屈曲点で分けることができる。第1表示部1311、及び第2表示部1312は、それぞれ異なる画像を表示してもよいし、一つの画像を表示してもよい。
【0123】
図5(a)は、照明装置の一例を表す模式図である。照明装置1400は、筐体1401、光源1402、回路基板1403、光学フィルム1404、及び光拡散部1405を有する。光源は、有機発光素子を用いることができる。光学フィルタは、光源の演色性を向上させるフィルタであってもよい。光拡散部は、ライトアップなど、光源の光を効果的に拡散し、広い範囲に光を届けることができる。光学フィルタ、光拡散部は、照明の光出射側に設けられてもよい。必要に応じて、最外部にカバーを設けてもよい。
【0124】
照明装置は、例えば、室内を照明する装置であり、光源と、光源が発する光を透過する部材とを有する。照明装置は、白色、昼白色だけでなく、青から赤のいずれの色を発光するものであってもよい。ここで、「白色」とは色温度が4,200K程度、「昼白色」とは色温度が5,000K程度である。照明装置は、それらを調光する調光回路を有してもよい。照明装置は、有機発光素子とそれに接続される電源回路を有してもよい。電源回路は、交流電圧を直流電圧に変換する回路である。照明装置は、光源が発する光を透過する部材として、光拡散部やカラーフィルタを有してもよい。また、照明装置は、放熱部を有していてもよい。放熱部は装置内の熱を装置外へ放出するものであり、比熱の高い金属や液体シリコンなどが挙げられる。
【0125】
図5(b)は、移動体の一例である自動車の模式図である。当該自動車は灯具の一例であるテールランプを有する。自動車1500は、テールランプ1501を有し、ブレーキ操作などを行った際にテールランプを点灯する形態であってもよい。
【0126】
テールランプ1501は、有機発光素子を有してもよい。テールランプは、有機発光素子を保護する保護部材を有してもよい。保護部材は、ある程度高い強度を有し、透明であれば、いずれも好適に用いることができる。なかでも、ポリカーボネートで構成されることが好ましい。ポリカーボネートにフランジカルボン酸誘導体やアクリロニトリル誘導体などを混ぜてもよい。
【0127】
自動車1500は、車体1503、それに取り付けられている窓1502を有してもよい。自動車の前後を確認するためのものでなければ、窓は透明なディスプレイであってもよい。当該透明なディスプレイは、有機発光素子を有してもよい。この場合、有機発光素子を有する電極などの構成材料は透明な部材で構成される。
【0128】
移動体は、船舶、航空機、ドローンなどであってもよい。移動体は、機体と当該機体に設けられた灯具を有してもよい。灯具は、機体の位置を知らせるための発光をしてもよい。灯具は、有機発光素子を有する。
【0129】
図6を参照して、表示装置の適用例について説明する。表示装置は、例えばスマートグラス、ヘッドマウントディスプレイ、及びスマートコンタクトのようなウェアラブルデバイスとして装着可能なシステムに適用できる。このような適用例に使用される撮像表示装置は、可視光を光電変換可能な撮像装置と、可視光を発光可能な表示装置と、を有する。
【0130】
図6(a)を参照して、眼鏡1600(スマートグラス)を説明する。眼鏡1600のレンズ1601の表面側に、CMOSセンサやSPADセンサのような撮像装置1602が設けられている。ここで、CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)センサとは、相補型金属酸化膜半導体を用いた固体撮像素子である。そして、SPAD(Single Photon Avalanche Diode)センサは、光子1個が画素に入射すると、あたかも雪崩のような増倍によって1個の大きな電気パルス信号を出力する電子素子を持つセンサである。また、レンズ1601の裏面側には、表示装置が設けられている。眼鏡1600は、制御装置1603をさらに備える。制御装置1603は、撮像装置1602と表示装置に電力を供給する電源として機能する。また、制御装置1603は、撮像装置1602と表示装置の動作を制御する。レンズ1601には、撮像装置1602に光を集光するための光学系が形成されている。
【0131】
図6(b)を参照して、眼鏡1610(スマートグラス)を説明する。眼鏡1610は、制御装置1612を有しており、制御装置1612に、撮像装置1602に相当する撮像装置と、表示装置が搭載される。レンズ1611には、制御装置1612内の撮像装置、及び表示装置からの発光を投影するための光学系が形成されており、レンズ1611には画像が投影される。制御装置1612は、撮像装置や表示装置に電力を供給する電源として機能するとともに、撮像装置や表示装置の動作を制御する。制御装置は、装着者の視線を検知する視線検知部を有してもよい。視線の検知は赤外線を用いてよい。赤外発光部は、表示画像を注視しているユーザーの眼球に対して、赤外光を発する。発せられた赤外光の眼球からの反射光を、受光素子を有する撮像部が検出することで眼球の撮像画像が得られる。平面視における赤外発光部から表示部への光を低減する低減手段を有することで、画像品位の低下を低減する。
【0132】
眼鏡1610は、赤外光の撮像により得られた眼球の撮像画像から表示画像に対するユーザーの視線を検出する。眼球の撮像画像を用いた視線検出には、任意の公知の手法が適用できる。一例として、角膜での照射光の反射によるプルキニエ像に基づく視線検出方法を用いることができる。具体的には、瞳孔角膜反射法に基づく視線検出処理が行われる。瞳孔角膜反射法を用いて、眼球の撮像画像に含まれる瞳孔の像とプルキニエ像とに基づいて、眼球の向き(回転角度)を表す視線ベクトルが算出されることにより、ユーザーの視線が検出される。
【0133】
表示装置は、受光素子を有する撮像装置を有し、撮像装置からのユーザーの視線情報に基づいて表示装置の表示画像を制御してもよい。具体的には、表示装置は、視線情報に基づいて、ユーザーが注視する第1視界領域と、第1視界領域以外の第2視界領域と、が決定される。第1視界領域、及び第2視界領域は、表示装置の制御装置が決定してもよいし、外部の制御装置が決定したものを受信してもよい。表示装置の表示領域において、第1視界領域の表示解像度を第2視界領域の表示解像度よりも高く制御してもよい。つまり、第2視界領域の解像度を第1視界領域よりも低くしてもよい。
【0134】
また、表示領域は、第1表示領域、及び第1表示領域とは異なる第2表示領域を有し、視線情報に基づいて、第1表示領域、及び第2表示領域から優先度が高い領域を決定される。第1視界領域、及び第2視界領域は、表示装置の制御装置が決定してもよいし、外部の制御装置が決定したものを受信してもよい。優先度の高い領域の解像度を、優先度が高い領域以外の領域の解像度よりも高く制御してもよい。つまり優先度が相対的に低い領域の解像度を低くしてもよい。
【0135】
第1視界領域や優先度が高い領域の決定には、AI(人工知能)を用いてもよい。AIは、眼球の画像と当該画像の眼球が実際に視ていた方向とを教師データとして、眼球の画像から視線の角度、視線の先の目的物までの距離を推定するよう構成されたモデルであってよい。AIプログラムは、表示装置、撮像装置、又は外部装置が有してもよい。外部装置が有する場合は、通信を介して、表示装置に伝えられる。視認検知に基づいて表示制御する場合、外部を撮像する撮像装置をさらに有するスマートグラスに好ましく適用できる。スマートグラスは、撮像した外部情報をリアルタイムで表示することができる。
【0136】
以上説明した通り、本発明の有機発光素子を用いた装置を用いることにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。また、高効率で高輝度な光出力による屋外での良好な視認性と省電力表示の両立が可能になる。
【実施例0137】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。また、1ppmは、特に断らない限り0.0001質量%と換算できる。
【0138】
<発光性組成物の調製>
表1~表4に記載の種類及び使用量(部)の有機金属錯体、フルオレンオリゴマー、高分子ホスト材料、添加剤、及び有機溶剤であるシクロペンタノン9,900部を混合し、25℃で24時間撹拌した。その後、ポアサイズ0.2μmフィルタでろ過することで各発光性組成物(液体の発光性組成物)を調製した。表1~表4中のフルオレンオリゴマーの構成(ユニットの繰り返し数、官能基)を表5に記載した。表5中、フルオレンオリゴマーが置換基の異なる複数種のユニットを含む化合物である場合、当該化合物を特徴づける官能基を記載した。
【0139】
表1~表4に記載の化合物は以下の通りである。
有機金属錯体35、41、48:有機金属錯体として例示した化合物
有機金属錯体100:下記構造式で表される化合物
【0140】
【0141】
フルオレンオリゴマー101、105、108、109、115、116:フルオレンオリゴマーとして上記で例示した化合物
フルオレンオリゴマー119~125:それぞれ下記構造式で表される化合物
【0142】
【0143】
高分子ホスト材料201、202、203:それぞれ下記構造式で表される化合物(高分子ホスト材料201、及び203は、ホール輸送性を有する化合物である)
高分子ホスト材料201の重量平均分子量:約1,100,000
高分子ホスト材料202の重量平均分子量:20,000超2,000,000以下
高分子ホスト材料203の重量平均分子量:20,000~200,000
【0144】
【0145】
添加剤301:下記構造式で表される電子輸送性材料(商品名「OXD-7」、Lumnescence Technology製)
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
<有機発光素子の作製>
以下の手順により、基板上に陽極、ホール注入層、発光層、電子輸送層、陰極を順次製膜することで、各有機発光素子を作製した。透明導電性支持基板(ITO基板)としては、ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚100nmで製膜したものを用いた。ITO基板を純水、次いでイソプロパノールで洗浄し、UV-オゾン処理を行った後、スピンコート法にてホール注入層を製膜した。製膜条件は以下の通りである。
・塗布液:ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸水溶液(PEDOT;PSS水溶液、Aldrich製、導電率1×10-5S/cm、化合物の含有量2.8%)
・スピンコート条件:3,000rpm、60秒間
・アニール条件:200℃、1時間
・膜厚:40nm
【0153】
次に、スピンコート法にて発光層を製膜した。製膜条件は以下の通りである。
・塗布液:表1~表4に記載の発光性組成物
・スピンコート条件:3,000rpm、60秒間
・アニール条件:110℃、10分間
・膜厚:30nm
【0154】
最後に、抵抗加熱による真空蒸着法によって、電子輸送層、及び電極層を製膜した。この際、対向する電極の面積は3mm2になるようにした。製膜条件は以下の通りである。
・真空度:1×10-5Pa
・電子輸送層:TPBi(50nm)
・金属電極層:LiF(0.5nm)、Al(90nm)
【0155】
その後、水分の吸着によって劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気下で有機発光素子に保護用ガラス板をかぶせ、アクリル樹脂系接着材でガラス板を封止した。
【0156】
<評価>
上記で作製した有機発光素子について、以下の項目の評価を行った。本発明においては、以下の各項目の評価基準で、「A」及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。評価結果を表6に示す。
【0157】
(発光量子収率の測定)
得られた有機発光素子について、ホストの発光量子収率(以下PLQY(H)とも記載する)、及びドーパントの発光量子収率(以下PLQY(D)とも記載する)を測定した。測定条件は、励起光346nm、ホスト発光領域400-550nm、ドーパント発光領域550-800nmとして、絶対発光量子収率測定装置(商品名「C11347-01」、浜松ホトニクス製)にて測定した。
【0158】
(ドーパント発光の発光量子収率)
上記の測定によって得られたPLQY(D)の値から、以下に示す評価基準にしたがってドーパントの発光量子収率を評価した。
A:PLQY(D)の値が、72%以上であった。
B:PLQY(D)の値が、70%以上72%未満であった。
C:PLQY(D)の値が、70%未満であった。
【0159】
(ドーパントに対するホストの発光量子収率)
上記の測定によって得られたPLQY(H)及びPLQY(D)の値から、PLQY(H)/PLQY(D)を算出し、以下に示す評価基準にしたがってホストのドーパントに対する発光量子収率の割合を評価した。PLQY(H)/PLQY(D)の値が大きいほど、ホストの発光によってドーパントの発光の色味に影響を及ぼすことを意味する。
A:PLQY(H)/PLQY(D)の値が、6.5%以下であった。
B:PLQY(H)/PLQY(D)の値が、6.5%を超えて11.0%以下であった。
C:PLQY(H)/PLQY(D)の値が、11.0%を超えていた。
【0160】
【0161】
実施例12の発光性組成物の評価は、実施例13の発光性組成物と同じBランクであったが、実施例13の発光性組成物の方が、ドーパント発光の発光量子収率及びドーパントに対するホストの発光量子収率の観点で優れていた。また、実施例22の発光性組成物の評価は、実施例9~13、18、23、24の発光性組成物と同じBランクであったが、これらのなかでも実施例22の発光性組成物は、ドーパント発光の発光量子収率及びドーパントに対するホストの発光量子収率の観点で劣っていた。
【0162】
参考例1として、スパッタ法の代わりにインクジェット法で行う以外は、実施例1と同様に基板上に陽極、ホール注入層、発光層、電子輸送層、陰極を順次製膜することで、有機発光素子を作製した。得られた有機発光素子の評価は、どちらも「A」であった。