(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179400
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】抗メソテリン抗体、抗CD3抗体又は抗EGFR抗体を含む融合タンパク質、それを含む二重特異性又は三重特異性抗体、及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20231212BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20231212BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20231212BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20231212BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20231212BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231212BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231212BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231212BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/18
C07K16/46
A61K47/68
A61K47/65
A61K39/395 N
A61P35/00
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023122273
(22)【出願日】2023-07-27
(62)【分割の表示】P 2021551780の分割
【原出願日】2019-12-16
(31)【優先権主張番号】62/826,442
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】506379781
【氏名又は名称】グリーン・クロス・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】GREEN CROSS CORP.
(71)【出願人】
【識別番号】504385351
【氏名又は名称】モガム・インスティテュート・フォー・バイオメディカル・リサーチ
【氏名又は名称原語表記】MOGAM INSTITUTE FOR BIOMEDICAL RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100200540
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 祐子
(72)【発明者】
【氏名】リム, ヤンミ
(72)【発明者】
【氏名】リー, シナイ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン, ジョンファ
(72)【発明者】
【氏名】パク, ヨン‐ヤ
(72)【発明者】
【氏名】ユン, エリン
(72)【発明者】
【氏名】リー, スア
(72)【発明者】
【氏名】リム, オクジェ
(72)【発明者】
【氏名】リム, ソジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ムンキョン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗メソテリン抗体、抗CD3抗体又は抗EGFR抗体の断片を含む融合タンパク質、メソテリン及びCD3に特異的な二重特異性抗体、メソテリン、CD3及びEGFRに特異的な三重特異性抗体、及びその使用を提供する。
【解決手段】本発明に記載の特定の配列を有する二重特異性又は三重特異性抗体は、高収率且つ高純度で調製することができ、優れた殺腫瘍効果及び増殖抑制効果を有するため、癌治療に有効に利用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式1:
[構造式1]
N’-A-B-L1-C-D-L2-E-F-L3-G-H-L4-I-C’
(式中、N’は、融合タンパク質のN末端であり、
C’は、融合タンパク質のC末端であり、
Aは、メソテリンと特異的に結合する抗体の軽鎖可変ドメインであり、前記ドメインは配列番号25の軽鎖CDR1、配列番号26の軽鎖CDR2、及び配列番号27の軽鎖CDR3を含み、
Bは、前記抗体の軽鎖定常ドメインであり、
Cは、メソテリンと特異的に結合する前記抗体の重鎖可変ドメインであり、前記ドメインは配列番号28の重鎖CDR1、配列番号29の重鎖CDR2、及び配列番号30の重鎖CDR3を含み、
Dは、前記抗体の重鎖定常ドメイン中のCH1ドメインであり、
Eは、CD3と特異的に結合する抗体の軽鎖可変ドメインであり、前記ドメインは配列番号31の軽鎖CDR1、配列番号32の軽鎖CDR2、及び配列番号33の軽鎖CDR3を含み、
Fは、前記抗体の軽鎖定常ドメインであり、
Gは、CD3と特異的に結合する前記抗体の重鎖可変ドメインであり、前記ドメインは配列番号34の重鎖CDR1、配列番号35の重鎖CDR2、及び配列番号36の重鎖CDR3を含み、
Hは、前記抗体の重鎖定常ドメイン中のCH1ドメインであり、
Iは、Fc領域又はそのバリアントであり、
L1、L2、L3、及びL4のそれぞれは、ペプチドリンカーである)
を有する第1の融合タンパク質。
【請求項2】
L1、L2、L3、及びL4のそれぞれが、1~50アミノ酸からなるペプチドリンカーである、請求項1に記載の第1の融合タンパク質。
【請求項3】
L1及びL3のそれぞれが、配列番号43のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーである、請求項1に記載の第1の融合タンパク質。
【請求項4】
L2が配列番号44のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーである、請求項1に記載の第1の融合タンパク質。
【請求項5】
L4が配列番号45のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーである、請求項1に記載の第1の融合タンパク質。
【請求項6】
配列番号1のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の第1の融合タンパク質。
【請求項7】
構造式2:
[構造式2]
N’-A-B-L1-C-D-L5-J-C’
(式中、N’は、融合タンパク質のN末端であり、
C’は、融合タンパク質のC末端であり、
Aは、メソテリンと特異的に結合する抗体の軽鎖可変ドメインであり、前記ドメインは配列番号25の軽鎖CDR1、配列番号26の軽鎖CDR2、及び配列番号27の軽鎖CDR3を含み、
Bは、前記抗体の軽鎖定常ドメインであり、
Cは、メソテリンと特異的に結合する前記抗体の重鎖可変ドメインであり、前記ドメインは配列番号28の重鎖CDR1、配列番号29の重鎖CDR2、及び配列番号30の重鎖CDR3を含み、
Dは、前記抗体の重鎖定常ドメイン中のCH1ドメインであり、
Jは、Fc領域又はその断片であり、
L1及びL5のそれぞれは、ペプチドリンカーである)
を有する第2の融合タンパク質。
【請求項8】
L1及びL5のそれぞれが、1~50アミノ酸からなるペプチドリンカーである、請求項7に記載の第2の融合タンパク質。
【請求項9】
L1が配列番号43のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーである、請求項7に記載の第2の融合タンパク質。
【請求項10】
L5が配列番号45のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーである、請求項7に記載の第2の融合タンパク質。
【請求項11】
配列番号3のアミノ酸配列からなる、請求項7に記載の第2の融合タンパク質。
【請求項12】
構造式3:
[構造式3]
N’-K-M-L6-N-O-L7-P-C’
(式中、N’は、融合タンパク質のN末端であり、
C’は、融合タンパク質のC末端であり、
Kは、EGFRと特異的に結合する抗体の軽鎖可変ドメインであり、前記ドメインは配列番号37の軽鎖CDR1、配列番号38の軽鎖CDR2、及び配列番号39の軽鎖CDR3を含み、
Mは、前記抗体の軽鎖定常ドメインであり、
Nは、EGFRと特異的に結合する前記抗体の重鎖可変ドメインであり、前記ドメインは配列番号40の重鎖CDR1、配列番号41の重鎖CDR2、及び配列番号42の重鎖CDR3を含み、
Oは、前記抗体の重鎖定常ドメイン中のCH1ドメインであり、
Pは、Fc領域又はその断片であり、
L6及びL7のそれぞれは、ペプチドリンカーである)
を有する第3の融合タンパク質。
【請求項13】
L6及びL7のそれぞれが、1~50アミノ酸からなるペプチドリンカーである、請求項12に記載の第3の融合タンパク質。
【請求項14】
L6が配列番号43のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーである、請求項12に記載の第3の融合タンパク質。
【請求項15】
L7が配列番号45のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーである、請求項12に記載の第3の融合タンパク質。
【請求項16】
配列番号5のアミノ酸配列からなる、請求項12に記載の第3の融合タンパク質。
【請求項17】
請求項1に記載の第1の融合タンパク質、及び
請求項7に記載の第2の融合タンパク質、
を含む二重特異性抗体。
【請求項18】
ノブ修飾が前記第1の融合タンパク質のIに含まれ、ホール修飾が前記第2の融合タンパク質のJに含まれる;又は、ホール修飾が前記第1の融合タンパク質のIに含まれ、ノブ修飾が前記第2の融合タンパク質のJに含まれる、請求項17に記載の二重特異性抗体。
【請求項19】
請求項1に記載の第1の融合タンパク質、及び
請求項12に記載の第3の融合タンパク質、
を含む三重特異性抗体。
【請求項20】
ノブ修飾が前記第1の融合タンパク質のIに含まれ、ホール修飾が前記第3の融合タンパク質のPに含まれる;又は、ホール修飾が前記第1の融合タンパク質のIに含まれ、ノブ修飾が前記第3の融合タンパク質のPに含まれる、請求項19に記載の三重特異性抗体。
【請求項21】
癌を治療するための医薬組成物であって、有効成分として、
請求項1に記載の第1の融合タンパク質、
請求項7に記載の第2の融合タンパク質、
請求項12に記載の第3の融合タンパク質、
請求項17に記載の二重特異性抗体、又は
請求項19に記載の三重特異性抗体、
を含む医薬組成物。
【請求項22】
癌の治療を必要とする個体における癌を治療するための医薬品の製造のための以下のタンパク質又は抗体の使用であって、
請求項1に記載の第1の融合タンパク質、
請求項7に記載の第2の融合タンパク質、
請求項12に記載の第3の融合タンパク質、
請求項17に記載の二重特異性抗体、又は
請求項19に記載の三重特異性抗体、
の使用。
【請求項23】
個体における癌を治療する方法であって、
治療有効量の請求項21に記載の医薬組成物を、個体に投与するステップ
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗メソテリン抗体、抗CD3抗体又は抗EGFR抗体を含む融合タンパク質、並びにメソテリン及びCD3に特異的な二重特異性抗体、メソテリン、CD3及びEGFRに特異的な三重特異性抗体、並びにその使用に関する。
【0002】
[背景技術]
抗癌剤治療において、第1の癌免疫療法としてのモノクローナル抗体は、固形癌だけでなく血液癌にも優れた効果を示しているが、まだ限界がある。このことについて、抗体のFc領域を操作して、抗体の抗体依存性細胞傷害(ADCC)効果を高める技術や、1つの抗体で複数の標的にアクセスできるように、二重特異性又は三重特異性抗体を開発する技術が導入されている。
【0003】
二重特異性抗体は、2つの異なる抗体と同時に結合することができる抗体であり、T細胞などの免疫細胞が、癌細胞などの特定の標的細胞にのみ毒性を持ち、他の正常な細胞には毒性を持たないように操作することができる。このような二重特異性抗体は、副作用を最小限に抑えつつ、最大限の癌治療効果を発揮することができる。したがって、いくつかの二重特異性抗体の方式が開発され、T細胞を介した免疫療法への適合性が報告されている。
【0004】
しかし、二重特異性抗体を製造する過程で共発現させると、異なる特異性を持つ抗体の重鎖と軽鎖が誤対合し、機能しない副産物が多数発生するという問題がある。
【0005】
したがって、この問題を解決するために、臨床的に十分な量と純度で、所望の多特異性抗体コンストラクトを製造する技術の開発が求められている。
【0006】
[発明の開示]
[技術的課題]
既存の二重特異性抗体の問題点を解決するために鋭意研究を行った結果、本発明者らは、抗体の重鎖と軽鎖がリンカーを介して連結され、単鎖として含まれている融合タンパク質、及びそれを含む二重特異性又は三重特異性抗体を開発した。並びに本発明者らは、これらの融合タンパク質及び抗体が、誤対合の問題を解決し、腫瘍細胞に対する高い殺傷効果を有することを見出して、本発明を完成させた。
【0007】
その結果、本発明の目的は、抗メソテリン抗体、抗CD3抗体、又は抗EGFR抗体を含む融合タンパク質、及びそれを含む二重特異性又は三重特異性抗体、及びそれを用いた癌の治療方法を提供することである。
【0008】
[課題を解決するための手段]
上述の課題を解決するために、本発明の一態様では、メソテリンと特異的に結合する抗体とCD3に特異的に結合する抗体を含む、単鎖の形態の第1の融合タンパク質が提供される。
【0009】
本発明の別の態様では、メソテリンと特異的に結合する抗体を含む、単鎖の形態の第2の融合タンパク質が提供される。
【0010】
さらに本発明の別の態様では、EGFRと特異的に結合する抗体を含む、単鎖の形態の第3の融合タンパク質が提供される。
【0011】
本発明のなおさらなる別の態様では、第1の融合タンパク質と第2の融合タンパク質を含む、二重特異性抗体が提供される。
【0012】
本発明のなおさらなる別の態様では、第1の融合タンパク質と第3の融合タンパク質を含む、三重特異性抗体が提供される。
【0013】
本発明のなおさらなる別の態様では、融合タンパク質、二重特異性抗体、又は三重特異性抗体を有効成分として含む、癌を治療するための医薬組成物が提供される。
【0014】
本発明のなおさらなる別の態様では、融合タンパク質、二重特異性抗体、又は三重特異性抗体の使用が提供される。
【0015】
本発明のなおさらなる別の態様では、治療有効量の癌を治療するための医薬組成物を個体に投与するステップを含む、癌の治療方法が提供される。
【0016】
[発明の効果]
本発明の融合タンパク質及びそれを含む二重特異性抗体又は三重特異性抗体は、高収率且つ高純度で製造することができ、優れた殺腫瘍効果及び増殖抑制効果を有するため、癌治療に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、抗MSLN/抗CD3二重特異性抗体(本明細書において以下、HMI323/HMI323-A15と呼ばれる)の例示的な模式図である。
【
図2】
図2は、抗EGFR/抗MSLN/抗CD3三重特異性抗体(本明細書において以下、セツキシマブ/HMI323-A15と呼ばれる)の例示的な模式図である。
【
図3】
図3は、HMI323/HMI323-A15についてサイズ排除クロマトグラフィーを行って得られた結果を示す図である。
【
図4】
図4は、HMI323/HMI323-A15についてSDS-PAGEを行って得られた結果を示す図である。
【
図5】
図5は、セツキシマブ/HMI323-A15についてサイズ排除クロマトグラフィーを行って得られた結果を示す図である。
【
図6】
図6は、セツキシマブ/HMI323-A15についてSDS-PAGEを行って得られた結果を示す図である。
【
図7】
図7は、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15のH226癌細胞株に対する結合能を、蛍光励起セルソーター(FACS)を用いて測定して得られた結果を示す図である。
【
図8】
図8は、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15のAsPC-1癌細胞株に対する結合能を、FACSを用いて測定して得られた結果を示す図である。
【
図9】
図9は、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15のJurkat細胞株に対する結合能を、FACSを用いて測定して得られた結果を示す図である。
【
図10】
図10は、PBMCとH226癌細胞株の混合物(PBMC:標的細胞=10:1の比率)を、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15で処理し、次いで24時間後の細胞死を観察して得られた結果を示す図である。
【
図11】
図11は、PBMCとAsPC-1癌細胞株の混合物(PBMC:標的細胞=10:1の比率)を、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15で処理し、次いで24時間後の細胞死を観察して得られた結果を示す図である。
【
図12】
図12は、PBMCとH226癌細胞株の混合物(PBMC:標的細胞=10:1の比率)を、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15で処理し、次いで48時間後の細胞死を観察して得られた結果を示す図である。
【
図13】
図13は、PBMCとAsPC-1癌細胞株の混合物(PBMC:標的細胞=10:1の比率)を、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15で処理し、次いで48時間後の細胞死を観察して得られた結果を示す図である。
【
図14】
図14は、PBMCとH226癌細胞株の混合物(PBMC:標的細胞=20:1の比率)を、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15で処理し、次いで48時間後の細胞死を観察して得られた結果を示す図である。
【
図15】
図15は、PBMCとAsPC-1癌細胞株の混合物(PBMC:標的細胞=20:1の比率)を、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15で処理し、次いで48時間後の細胞死を観察して得られた結果を示す図である。
【
図16】
図16は、T細胞とH226癌細胞株の混合物(T細胞:標的細胞=5:1の比率)を、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15で処理し、次いで24時間後の細胞死を観察して得られた結果を示す図である。
【
図17】
図17は、T細胞とH226癌細胞株の混合物(T細胞:標的細胞=5:1の比率)を、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15で処理し、次いで48時間後の細胞死を観察して得られた結果を示す図である。
【
図18】
図18は、T細胞とH226癌細胞株の混合物(T細胞:標的細胞=10:1の比率)を、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15で処理し、次いで24時間後の細胞死を観察して得られた結果を示す図である。
【
図19】
図19は、T細胞とH226癌細胞株の混合物(T細胞:標的細胞=10:1の比率)を、HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15で処理し、次いで48時間後の細胞死を観察して得られた結果を示す図である。
【
図20】
図20は、H226異種移植片を有するNOGマウスモデルにおいて、HMI323/HMI323-A15及びセツキシマブ/HMI323-A15の抗癌作用を確認して得られた結果を示す図である。
【
図21】
図21は、H226異種移植片を有するNOGマウスモデルにおいて、HMI323/HMI323-A15及びセツキシマブ/HMI323-A15の抗癌作用を確認するため、腫瘍抑制効果(%)という観点からHMI323/HMI323-A15及びセツキシマブ/HMI323-A15を対照と比較した結果を示す図である。
【
図22】
図22は、H226異種移植片を有するNOGマウスモデルにおいて、HMI323/HMI323-A15及びセツキシマブ/HMI323-A15の抗癌作用を確認するため、腫瘍組織への免疫T細胞の浸潤を観察した結果を示す図である。
【
図23】
図23は、AsPC-1異種移植片を有するNOGマウスモデルにおいて、HMI323/HMI323-A15及びセツキシマブ/HMI323-A15の抗癌作用を確認するため、腫瘍サイズ(mm
3)を観察した結果を示す図である。
【
図24】
図24は、AsPC-1異種移植片を有するNOGマウスモデルにおいて、HMI323/HMI323-A15及びセツキシマブ/HMI323-A15の抗癌作用を確認するため、腫瘍抑制効果(%)という観点からHMI323/HMI323-A15及びセツキシマブ/HMI323-A15を対照と比較した結果を示す図である。
【
図25】
図25は、AsPC-1異種移植片を有するNOGマウスモデルにおいて、HMI323/HMI323-A15及びセツキシマブ/HMI323-A15の抗癌作用を確認するため、腫瘍組織への免疫T細胞の浸潤を観察した結果を示す図である。
【
図26】
図26は、マウス血清中のセツキシマブ/HMI323-A15の薬物動態(PK)を解析して得られた結果を示す図である。
【
図27】
図27は、マウス血清中のHMI323/HMI323-A15の薬物動態(PK)を解析して得られた結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一態様では、構造式1
[構造式1]
N’-A-B-L1-C-D-L2-E-F-L3-G-H-L4-I-C’
(式中、N’は融合タンパク質のN末端であり、
C’は融合タンパク質のC末端であり、
Aは、メソテリンと特異的に結合する抗体の軽鎖可変ドメインであり、ドメインは配列番号25の軽鎖CDR1、配列番号26の軽鎖CDR2、及び配列番号27の軽鎖CDR3を含み、
Bは、抗体の軽鎖定常ドメインであり、
Cは、メソテリンと特異的に結合する抗体の重鎖可変ドメインであり、ドメインは配列番号28の重鎖CDR1、配列番号29の重鎖CDR2、及び配列番号30の重鎖CDR3を含み、
Dは、抗体の重鎖定常ドメイン中のCH1ドメインであり、
Eは、CD3と特異的に結合する抗体の軽鎖可変ドメインであり、ドメインは配列番号31の軽鎖CDR1、配列番号32の軽鎖CDR2、及び配列番号33の軽鎖CDR3を含み、
Fは、抗体の軽鎖定常ドメインであり、
GはCD3と特異的に結合する抗体の重鎖可変ドメインであり、ドメインは配列番号34の重鎖CDR1、配列番号35の重鎖CDR2、及び配列番号36の重鎖CDR3を含み、
Hは、抗体の重鎖定常ドメイン中のCH1ドメインであり、
Iは、Fc領域又はそのバリアントであり、
L1、L2、L3、及びL4のそれぞれは、ペプチドリンカーである)
を有する第1の融合タンパク質が提供される。
【0019】
本発明では、L1、L2、L3、及びL4のそれぞれは、1~50アミノ酸からなるペプチドリンカーであってもよい。
【0020】
本発明では、L1及びL3は配列番号43のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーであってもよい。
【0021】
本発明では、L2は配列番号44のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーであってもよい。
【0022】
本発明では、L4は配列番号45のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーであってもよい。
【0023】
本発明では、L4は抗体のヒンジ領域であってもよい。
【0024】
本発明では、Aは、メソテリンと特異的に結合する抗体の軽鎖可変ドメインであってもよく、ドメインは、配列番号7のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号7のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。
【0025】
本発明では、Bは、IgG、IgA、IgM、IgD、又はIgE抗体(好ましくはメソテリンと特異的に結合する抗体)の軽鎖定常ドメインであってもよく、ドメインは、配列番号46のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号46のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。
【0026】
本発明では、Cは、メソテリンと特異的に結合する抗体の重鎖可変ドメインであってもよく、ドメインは、配列番号9のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号9のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。
【0027】
本発明では、Dは、IgG、IgA、IgM、IgD、又はIgE抗体(好ましくはメソテリンと特異的に結合する抗体)の重鎖定常ドメイン中のCH1ドメインであってもよく、ドメインは、配列番号47のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号47のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。
【0028】
本発明では、Eは、CD3と特異的に結合する抗体の軽鎖可変ドメインであってもよく、ドメインは、配列番号13のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号13のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。
【0029】
本発明では、Fは、IgG、IgA、IgM、IgD、又はIgE抗体(好ましくはCD3と特異的に結合する抗体)の軽鎖定常ドメインであってもよく、ドメインは、配列番号46のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号46のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。
【0030】
本発明では、Gは、CD3と特異的に結合する抗体の重鎖可変ドメインであってもよく、ドメインは、配列番号15のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号15のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。
【0031】
本発明では、Hは、IgG、IgA、IgM、IgD、又はIgE抗体(好ましくはCD3と特異的に結合する抗体)の重鎖定常ドメイン中のCH1ドメインであってもよく、ドメインは、配列番号47のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号47のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。
【0032】
本発明では、Iは、IgG、IgA、IgM、IgD、又はIgE抗体のFc領域又はそのバリアントであってもよく、領域又はバリアントは、配列番号48のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号48のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。さらに、Iは、抗体の重鎖定常ドメイン中のCH3ドメインの一部のアミノ酸における置換によって得られてもよい。すなわち、配列番号48のアミノ酸配列が置換を受けて(Y119C、K130E、及びK179W)、抗体の重鎖定常ドメイン中のCH3ドメインにノブ構造が形成されてもよく、配列番号48のアミノ酸配列が置換を受けて(Q117R、S124C、D169V、及びF175T)、そこにホール構造が形成されてもよい。
【0033】
本発明では、第1の融合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列からなってもよく、又は、配列番号1のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなってもよい。
【0034】
本発明の一態様では、構造式2
[構造式2]
N’-A-B-L1-C-D-L5-J-C’
(式中、N’は融合タンパク質のN末端であり、
C’は融合タンパク質のC末端であり、
Aは、メソテリンと特異的に結合する抗体の軽鎖可変ドメインであり、ドメインは配列番号25の軽鎖CDR1、配列番号26の軽鎖CDR2、及び配列番号27の軽鎖CDR3を含み、
Bは、抗体の軽鎖定常ドメインであり、
Cは、メソテリンと特異的に結合する抗体の重鎖可変ドメインであり、ドメインは配列番号28の重鎖CDR1、配列番号29の重鎖CDR2、及び配列番号30の重鎖CDR3を含み、
Dは、抗体の重鎖定常ドメイン中のCH1ドメインであり、
Jは、Fc領域又はその断片であり、
L1及びL5のそれぞれは、ペプチドリンカーである)
を有する第2の融合タンパク質が提供される。
【0035】
本発明では、L1及びL5のそれぞれは、1~50アミノ酸からなるペプチドリンカーであってもよい。
【0036】
本発明では、L1は配列番号43のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーであってもよい。
【0037】
本発明では、L5は配列番号45のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーであってもよい。
【0038】
本発明では、L5は抗体のヒンジ領域であってもよい。
【0039】
本発明では、第2の融合タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列からなってもよく、又は、配列番号3のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなってもよい。
【0040】
Jは、IgG、IgA、IgM、IgD、又はIgE抗体のFc領域又はそのバリアントであってもよく、領域又はバリアントは、配列番号48のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号48のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。さらに、Jは、抗体の重鎖定常ドメイン中のCH3ドメインの一部のアミノ酸における置換によって得られてもよい。すなわち、配列番号48のアミノ酸配列が置換を受けて(Y119C、K130E、及びK179W)、抗体の重鎖定常ドメイン中のCH3ドメインにノブ構造が形成されてもよく、配列番号48のアミノ酸配列が置換を受けて(Q117R、S124C、D169V、及びF175T)、そこにホール構造が形成されてもよい。
【0041】
本発明の一態様では、構造式3
[構造式3]
N’-K-M-L6-N-O-L7-P-C’
(式中、N’は融合タンパク質のN末端であり、
C’は融合タンパク質のC末端であり、
Kは、EGFRと特異的に結合する抗体の軽鎖可変ドメインであり、ドメインは配列番号37の軽鎖CDR1、配列番号38の軽鎖CDR2、及び配列番号39の軽鎖CDR3を含み、
Mは、抗体の軽鎖定常ドメインであり、
Nは、EGFRと特異的に結合する抗体の重鎖可変ドメインであり、ドメインは配列番号40の重鎖CDR1、配列番号41の重鎖CDR2、及び配列番号42の重鎖CDR3を含み、
Oは、抗体の重鎖定常ドメイン中のCH1であり、
Pは、Fc領域又はその断片であり、
L6及びL7のそれぞれは、ペプチドリンカーである)
を有する第3の融合タンパク質が提供される。
【0042】
本発明では、L6及びL7のそれぞれは、1~50アミノ酸からなるペプチドリンカーであってもよい。
【0043】
本発明では、L6は配列番号43のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーであってもよい。
【0044】
本発明では、L7は配列番号45のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーであってもよい。
【0045】
本発明では、L7は抗体のヒンジ領域であってもよい。
【0046】
本発明では、第3の融合タンパク質は配列番号5のアミノ酸配列からなってもよい。
【0047】
本発明では、Kは、EGFRと特異的に結合する抗体の軽鎖可変ドメインであってもよく、ドメインは、配列番号17のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号17のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。
【0048】
本発明では、Mは、IgG、IgA、IgM、IgD、又はIgE抗体(好ましくはEGFRと特異的に結合する抗体)の軽鎖定常ドメインであってもよく、ドメインは、配列番号46のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号46のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。
【0049】
本発明では、Nは、EGFRと特異的に結合する抗体の重鎖可変ドメインであってもよく、ドメインは、配列番号19のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号19のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。
【0050】
本発明では、Oは、IgG、IgA、IgM、IgD、又はIgE抗体(好ましくはEGFRと特異的に結合する抗体)の重鎖定常ドメイン中のCH1ドメインであってもよく、ドメインは、配列番号47のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号47のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。
【0051】
Jは、IgG、IgA、IgM、IgD、又はIgE抗体のFc領域又はそのバリアントであってもよく、領域又はバリアントは、配列番号48のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号48のアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなる。さらに、Iは、IgG、IgA、IgM、IgD、又はIgE抗体の重鎖定常ドメイン中のCH3ドメインの一部のアミノ酸における置換によって得られてもよい。すなわち、配列番号48のアミノ酸配列が置換を受けて(Y119C、K130E、及びK179W)、抗体の重鎖定常ドメイン中のCH3ドメインにノブ構造が形成されてもよく、配列番号48のアミノ酸配列が置換を受けて(Q117R、S124C、D169V、及びF175T)、そこにホール構造が形成されてもよい。
【0052】
本発明では、第3の融合タンパク質は、配列番号5のアミノ酸配列からなってもよく、又は、配列番号5のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列からなってもよい。
【0053】
本明細書では、用語「メソテリン(MSLN)」とは、動物、好ましくはヒト及びサルに存在する野生型MSLN、及びそのバリアント、アイソタイプ、パラログを含むことを意味する。さらに、「ヒトMSLN」とは、ヒト由来のMSLNを指す。メソテリンは、正常な中皮細胞上に存在する40kDaの細胞表面糖タンパク質であり、中皮腫、卵巣腺癌、膵臓腺癌など、いくつかのヒトの腫瘍で過剰発現している。メソテリンは、インターロイキン3の存在下で巨核球コロニー形成活性を発揮することが示されている。メソテリンは腫瘍分化抗原であり、中皮などの正常な成人組織には低レベルで存在するが、中皮腫、卵巣癌、膵臓癌、子宮頸部、頭頸部、外陰部、肺、食道の扁平上皮癌、肺腺癌、子宮内膜癌、二相性滑膜肉腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、及び胃腺癌など多種多様なヒト腫瘍では異常に過剰発現している。
【0054】
本明細書では、用語「CD3」とは、動物、好ましくはヒト及びサルに存在する野生型CD3、及びそのバリアント、アイソタイプ、パラログを含むことを意味する。また、「ヒトCD3」とは、ヒト由来のCD3を指す。T細胞の表面に存在する抗原分子であるCD3は、T細胞抗原受容体と結合することにより、シグナル伝達系として機能し、それによりT細胞を活性化する。
【0055】
本明細書では、用語「EGFR」は、上皮増殖因子受容体である膜タンパク質を指し、ErbB-1又はHER1とも呼ばれる。さらに、「ヒトEGFR」とは、ヒト由来のEGFRを指す。
【0056】
本明細書では、用語「抗体」は、特定の抗原と免疫学的に反応する免疫グロブリン(Ig)分子、すなわち、抗原を特異的に認識する受容体として作用するタンパク質分子を指す。抗体は、全抗体と抗体断片を包含する概念として用いられる。
【0057】
本明細書では、用語「重鎖」は、完全長の重鎖とその断片の両方を含むことを意味し、完全長の重鎖は、抗原に対する特異性を付与するのに十分な可変ドメイン(VH)と3つの定常ドメイン(CH1、CH2、CH3)を含む。
【0058】
本明細書では、用語「軽鎖」は、完全長の軽鎖とその断片の両方を含むことを意味し、完全長の軽鎖は、抗原に対する特異性を付与するのに十分な可変ドメイン(VL)と定常ドメイン(CL)を含む。
【0059】
本明細書では、用語「CDR」は、抗体の重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)の一部である相補性決定領域を指す。
【0060】
本明細書では、用語「Fc」は、免疫グロブリンのC末端領域を指し、この領域は、重鎖定常ドメインのうちCH2とCH3のみからなる機能的構造単位の1つである。Fcは抗原と結合する能力を持たない。しかし、Fcは補体結合活性などを示し、一定のアミノ酸配列を持つ。
【0061】
本明細書では、用語「ヒンジ領域」は、重鎖のCH1とCH2との間に存在するペプチドを指す。ヒンジ領域は、1つ又は複製のシステイン残基が存在する柔軟性の高い構造を持ち、2つの重鎖がジスルフィド結合(複数可)によって互いに連結されている。
【0062】
本発明では、ヒンジ領域は、1~3個のシステイン残基、例えば、1、2、又は3個のシステイン残基を含んでいてもよい。
【0063】
さらに、本発明では、上記の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが提供される。
【0064】
本発明では、第1の融合タンパク質をコードするDNAは、配列番号2のヌクレオチド配列からなってもよく、又は、配列番号2のヌクレオチド配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%の相同性を有するヌクレオチド配列からなってもよい。
【0065】
本発明では、第2の融合タンパク質をコードするDNAは、配列番号4のヌクレオチド配列からなってもよく、又は、配列番号4のヌクレオチド配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%の相同性を有するヌクレオチド配列からなってもよい。
【0066】
本発明では、第3の融合タンパク質をコードするDNAは、配列番号6のヌクレオチド配列からなってもよく、又は、配列番号6のヌクレオチド配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%の相同性を有するヌクレオチド配列からなってもよい。
【0067】
さらに、本発明では、上記の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、発現ベクターが提供される。
【0068】
さらに、本発明では、発現ベクターの導入によりトランスフェクトされた宿主細胞が提供される。
【0069】
さらに、本発明では、宿主細胞を培養するステップを含む、融合タンパク質の製造方法が提供される。
【0070】
本発明の別の態様では、第1の融合タンパク質と第2の融合タンパク質を含む、二重特異性抗体が提供される。
【0071】
本明細書では、用語「二重特異性抗体」は、2つの異なる抗原を認識するように操作された単一の抗体を指す。
【0072】
本発明の二重特異性抗体は、抗MSLN抗体と抗CD3抗体を同時に含んでいるため、MSLNを発現している癌細胞やT細胞と特異的に結合することができ、免疫細胞の活性化を誘導することでMSLNを発現している癌細胞は増殖抑制される又は死滅する。
【0073】
本発明では、第1の融合タンパク質の第2の融合タンパク質への結合により単一の抗体、すなわち二重特異性抗体を提供するために、各融合タンパク質は、重鎖定常ドメインの一部のアミノ酸残基で置換を受けてもよい。すなわち、第1の融合タンパク質と第2の融合タンパク質のFc領域は、ジスルフィド結合又はノブイントゥホール構造(ノブイントゥホール構造が好ましい)を介して互いに連結され、二重特異性抗体を形成してもよい。
【0074】
本明細書では、用語「ノブイントゥホール構造」は、2つの異なるIg重鎖のそれぞれのCH3ドメインに変異を誘発して、一方のIg重鎖CH3ドメインにノブ構造を、他方のIg重鎖CH3ドメインにホール構造を誘発し、2つのドメインがヘテロ二量体を形成することによって得られる構造を指す。
【0075】
一般的には、ノブ構造を形成するアミノ酸残基では、大きな側鎖を有する疎水性アミノ酸残基が小さな側鎖を有する疎水性アミノ酸残基で置換され、ホール構造を形成するアミノ酸残基では、小さな側鎖を有する疎水性アミノ酸残基が大きな側鎖を有する疎水性アミノ酸残基で置換されている。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。このように、それぞれの抗体がノブ構造とホール構造を形成するように誘導されている場合には、ホモダイマーよりもヘテロダイマーの方が容易に形成されることがある。
【0076】
本発明では、二重特異性抗体は、第1の融合タンパク質のIにおけるノブ修飾と、第2の融合タンパク質のJにおけるホール修飾とを含んでいてもよい。或いは、二重特異性抗体は、第1の融合タンパク質のIにおけるホール修飾と、第2の融合タンパク質のJにおけるノブ修飾とを含んでいてもよい。
【0077】
本発明では、二重特異性抗体は、2+1 IgGの形態であってもよく、抗MSLN断片又は抗CD3 Fab断片を構成する重鎖と軽鎖を、それぞれの断片が単鎖として発現するように互いにリンカーで連結すること、及び単鎖である抗MSLN断片と抗CD3Fab断片を互いにペプチドリンカーで連結することによって得られる2つの単鎖からなっていてもよい。
【0078】
本発明の別の態様では、第1の融合タンパク質と第3の融合タンパク質を含む、三重特異性抗体が提供される。
【0079】
本明細書では、用語「三重特異性抗体」は、3つの異なる抗原を認識するように操作された単一の抗体を指す。
【0080】
本発明の三重特異性抗体は、抗EGFR抗体、抗MSLN抗体、及び抗CD3抗体を同時に含んでいるため、EGFR又はMSLNを発現している癌細胞やT細胞と特異的に結合することができ、免疫細胞の活性化を誘導することでEGFR又はMSLNを発現している癌細胞は増殖抑制される又は死滅する。
【0081】
本発明では、第1の融合タンパク質の第3の融合タンパク質への結合により単一の抗体、すなわち三重特異性抗体を提供するために、各融合タンパク質は、重鎖定常ドメインの一部のアミノ酸残基で置換を受けてもよい。すなわち、第1の融合タンパク質と第3の融合タンパク質のFc領域は、ジスルフィド結合又はノブイントゥホール構造(ノブイントゥホール構造が好ましい)を介して互いに連結され、三重特異性抗体を形成してもよい。
【0082】
本発明では、三重特異性抗体は、第1の融合タンパク質のIにおけるノブ修飾と、第3の融合タンパク質のPにおけるホール修飾とを含んでいてもよい。或いは、三重特異性抗体は、第1の融合タンパク質のIにおけるホール修飾と、第3の融合タンパク質のPにおけるノブ修飾とを含んでいてもよい。
【0083】
本発明では、三重特異性抗体は、2+1 IgGの形態であってもよく、抗EGFR Fab断片を構成する重鎖と軽鎖を、断片が単鎖として発現するように互いにリンカーで連結すること、抗MSLN又は抗CD3 Fab断片を構成する重鎖と軽鎖を、それぞれの断片が単鎖として発現するように互いにリンカーで連結すること、及び単鎖である抗MSLN断片と抗CD3 Fab断片を互いにペプチドリンカーで連結することによって得られる2つの単鎖からなっていてもよい。
【0084】
本発明のさらに別の態様では、活性成分として第1の融合タンパク質、第2の融合タンパク質、第3の融合タンパク質、二重特異性抗体、又は三重特異性抗体を含む、癌を治療するための医薬組成物、及び治療有効量の医薬組成物を個体に投与するステップを含む、個体における癌治療の方法が提供される。
【0085】
医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでいてもよい。薬学的に許容される担体としては、結合剤、流動促進剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定剤、懸濁化剤、色素、香料などが挙げられ、経口投与の場合には、これらを使用してもよく、緩衝剤、保存剤、鎮痛剤、可溶化剤、等張化剤、安定剤などを注射用混合物に使用してもよく、基剤、賦形剤、滑沢剤、保存剤などを局所投与用に使用してもよい。
【0086】
医薬組成物の調製は、上述のように薬学的に許容される担体と混合されることにより、様々な方法で調製することができる。例えば、経口投与のために、医薬組成物は、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハなどの形態で製剤化することができる。注射用に、医薬組成物は、単位用量のアンプルや多用量の形態で製剤化することができる。
【0087】
医薬組成物は、癌細胞若しくはその転移を治療するため、又は癌の増殖を抑制するために、薬学的有効量を投与することができる。有効量は、癌の種類、患者の年齢、体重、症状の性質と重症度、現在の治療法の種類、治療回数、剤形、投与経路などの様々な要因によって異なることがあり、対応する分野の専門家が容易に決定することができる。
【0088】
医薬組成物は、上述の薬理学的又は生理学的成分と一緒に又は順次に投与されてもよく、さらに従来の治療薬と組み合わせて投与されてもよく、その場合、医薬組成物は従来の治療薬と順次又は同時に投与されてもよい。このような投与は、単回又は複数回の投与であってもよい。上記の要素をすべて考慮すると、最小量であり、副作用なしに最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、そのような量は当業者が容易に決定することができる。
【0089】
本発明では、癌は、限定されることなく、当技術分野で知られている任意の癌を含むことができる。
【0090】
本発明のなおさらなる別の態様では、第1の融合タンパク質、第2の融合タンパク質、第3の融合タンパク質、二重特異性抗体、又は三重特異性抗体の、癌の治療を必要とする個体の癌を治療するための医薬品の製造のための使用が提供される。
【0091】
[発明の形態]
以下、本発明の理解を助けるために、好ましい実施例を提供する。しかし、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするために与えられたものに過ぎず、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0092】
実施例1 抗MSLN/抗CD3二重特異性抗体及び抗EGFR/抗MSLN/抗CD3三重特異性抗体の製造
実施例1.1 MSLN、CD3、又はEGFR特異的抗体の製造
MSLNに特異的な抗体を選択するために、マウスに組換えヒトMSLNを免疫した後、そこからB細胞を抽出し、様々な抗体遺伝子をクローニングした。ファージディスプレイを用いて、これらの遺伝子を用いて抗体ライブラリーを作製し、組換えヒトMSLNと結合する抗体をクローニングした。最後に、抗体のヒト化を行い、配列番号1のアミノ酸配列からなるHMI323クローンが得られ、このアミノ酸配列は配列番号4のヌクレオチド配列からなる遺伝子によってコードされている。
【0093】
ヒト及びサルのCD3に特異的な抗体を選択するために、マウスSP34抗体をヒト化し、CD3に様々な親和性で結合する抗体を選択した。これらのうち、配列番号21のアミノ酸配列からなるクローンA07、配列番号11のアミノ酸配列からなるクローンA15、及び配列番号23のアミノ酸配列からなるクローンE15が得られ、これらのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号22、12、及び24のヌクレオチド配列からなる遺伝子によってコードされている。
【0094】
EGFR特異的抗体には、大腸癌の治療薬であるセツキシマブを使用した。配列番号5のアミノ酸配列からなる抗体が得られ、このアミノ酸配列は配列番号6のヌクレオチド配列からなる遺伝子によってコードされている。
【0095】
実施例1.2 抗体発現用ベクターのトランスフェクション
実施例1.2.1 抗体発現用ベクターの構築
図1に示すように、抗MSLN抗体(HMI323)と、抗MSLN Fab(HMI323)に抗CD3 Fab(A15)を連結して得られた抗体との共発現を行い、ノブイントゥホール構造を有する二重特異性抗体(HMI323/HMI323-A15)が発現するように、以下のようにベクターを構築した。
【0096】
In-fusionHD(Takara、Mountain View、CA、USA)を用いて、抗MSLN(HMI323)抗体配列のDNA(配列番号4)、又は抗MSLN Fab(HMI323)に抗CD3 Fab(A15)を連結して得られた抗体配列のDNA(配列番号2)を各pCIベクター(Promega、Madison、WI、USA)に挿入した後、大腸菌(E.coli)コンピテントセルを用いて、42℃で45秒間の熱ショック形質転換を行った。形質転換体を、カルベニシリンを含むLBプレートに蒔き、37℃のインキュベーターで14時間培養した。培養後、プレート上で培養した形質転換体コロニーを2mlのカルベニシリン含有LB培地に接種し、37℃の振盪インキュベーター内で16時間培養した。次いで、培養した形質転換体からプラスミドを抽出し、そのシークエンシングは、抗体発現のための遺伝子がベクターにクローニングされていたこと示した。
【0097】
図2に示すように、抗EGFR抗体(セツキシマブ)と、抗MSLN Fab(HMI323)に抗CD3 Fab(A15)を連結して得られた抗体との共発現を行い、ノブイントゥホール構造を有する三重特異性抗体(セツキシマブ/HMI323-A15)が発現するように、以下のようにベクターを構築した。
【0098】
In-fusionHD(Takara、Mountain View、CA、USA)を用いて、抗EGFR(セツキシマブ)抗体配列のDNA(配列番号6)、又は抗MSLN Fab(HMI323)に抗CD3 Fab(A15)を連結して得られた抗体配列のDNA(配列番号2)を各pCIベクター(Promega、Madison、WI、USA)に挿入した後、大腸菌コンピテントセルを用いて、42℃で45秒間の熱ショック形質転換を行った。形質転換体を、カルベニシリンを含むLBプレートに蒔き、37℃のインキュベーターで14時間培養した。培養後、プレート上で培養した形質転換体コロニーを2mlのカルベニシリン含有LB培地に接種し、37℃の振盪インキュベーター内で16時間培養した。次いで、培養した形質転換体からプラスミドを抽出し、そのシークエンシングは、抗体発現のための遺伝子がベクターにクローニングされていたことを示した。
【0099】
実施例1.2.2 抗体発現用ベクターの宿主細胞へのトランスフェクション
24時間前に、Expi293F(商標)細胞(Thermo Fisher Scientific)を2.0×106細胞/mlの密度で、Expi293(商標)発現培地(Thermo Fisher Scientific)を用いて125±10rpm、37℃、8%CO2の振盪インキュベーターで継代培養した。トランスフェクション時に、細胞数と細胞生存率を測定し、95%以上の細胞生存率を示すかどうかを確認した。500mLの培養フラスコに5×108個の細胞を分注し、次いでExpi293(商標)発現培地を加えて最終容量を170mL(200mLを基準)に調整した。
【0100】
Opti-MEM I(商標)培地(Thermo Fisher Scientific)を用いて、200μgの抗体発現ベクターを合計1,500μlになるように混合し、室温で5分間培養した。Opti-MEM I(商標)培地を用いて、トランスフェクション試薬(ExpiFectamine(商標) 293 Reagent、Thermo Fisher Scientific)540μlを合計1,500μlになるように混合し、室温で5分間培養した。ベクターとトランスフェクション試薬をそれぞれ含むOpti-MEM I(商標)培地を穏やかに混合し、室温で20分間反応させた。次いで、得られたものをExpi293F(商標)細胞を含むフラスコに入れた。
【0101】
培養は、37℃、8%CO2の振盪インキュベーター内で125±10rpmで16~20時間行った。次いで、そこに1mlのトランスフェクションエンハンサーI(ExpiFectamine(商標) 293 Enhancer I、Thermo Fisher Scientific)、及び10mlのトランスフェクションエンハンサーII(ExpiFectamine(商標) 293 Enhancer II、Thermo Fisher Scientific)を添加し、5日間培養を行って候補抗体を得た。
【0102】
実施例2 抗MSLN/抗CD3二重特異性抗体及び抗EGFR/抗MSLN/抗CD3三重特異性抗体の精製
実施例2.1 アフィニティークロマトグラフィーを使用した精製
プロテインAと抗体の特異的な相互作用を利用した抗体のみを分離する実験として、培養液を4000rpmで30分間遠心分離し、0.22μmのボトルトップフィルターで濾過し、細胞片を除去した上清を調製した。次いで、Mabselect PrismA樹脂(GE Healthcare)を5ml充填したカラムを、AKTA PrimePlus(GE Healthcare)に接続して使用した。その後、結合緩衝液(Pierce)による洗浄を行い、次いで上清を5ml/分の速度で装填した。調製した上清をすべて装填した後、同じ速度で結合緩衝液(Pierce)による洗浄を行い、非特異的結合を除去した。
【0103】
洗浄後、IgG溶出緩衝液(Pierce)を流しながら、UV280nmの値が上昇した部分を5mlの結合緩衝液(Pierce)が入った試験管に5mlずつ分取し、溶出液を直ちに中和した。中和した溶出液を、Zebaスピン脱塩カラム(Thermo Fisher Scientific)を用いてPBSとの緩衝液交換を行った。
実施例2.2 サイズ排除クロマトグラフィーを使用した精製(SEC)
分離した抗体のうち、200kDaの標的抗体のみをサイズによる分離精製法で分離する実験として、Superdex 200 SECカラム(GE Healthcare)を、AKTA pure 150L装置(GE Healthcare)に接続して使用した。PBSとの緩衝液交換を行った抗体サンプルをサンプルループに充填し、AKTA pure 150L装置(GE Healthcare)に接続した。次いで、1ml/分の流速条件で工程を行い、ピークパターンに応じて溶出サンプルを1mlずつ分取した。分取した溶出液をSDS-PAGE(NuPAGE(登録商標)、Novex 4~12% Bis-Tris Gel、Invitrogen)に供し、次いでクーマシーブルーで染色して確認した。200kDaの高純度標的抗体のみをプールした。
【0104】
そうすることで、表1に示す結果が得られた。
【0105】
【0106】
実施例3 MSLN、CD3、及びEGFRに対する抗体の親和性の測定
Octetシステムを用いて、二重特異性抗体(HMI323/HMI323-A15)と三重特異性抗体(セツキシマブ/HMI323-A15)の、それぞれヒトMSLN、ヒトCD3、及びヒトEGFRに対する親和性を測定した。
【0107】
具体的には、組換えヒトMSLN、CD3、及びEGFRを1×キネティック緩衝液で20μg/mlに調製し、96ウェルプレートに200μl/ウェルでプレーティングした。プレーティングしたMSLN、CD3、及びEGFRを、アミノプロピルシラン(APS)センサー(カタログ番号18-5045、Fortebio)に固定化した。二重特異性抗体(HMI323/HMI323-A15)と三重特異性抗体(セツキシマブ/HMI323-A15)を、10×キネティック緩衝液で100、50、25、12.5、6.25nMに調製し、200μl/ウェルの濃度でプレーティングした。各抗体とセンサーに固定化した組換えヒトMSLN(表2)、ヒトCD3(表3)、ヒトEGFR(表4)のそれぞれとの相互作用を解析し、抗原-抗体親和性を算出した。結果をそれぞれ表2~4に示す。
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
表2~4に示す測定結果から、二重特異性抗体(HMI323/HMI323-A15)及び三重特異性抗体(セツキシマブ/HMI323-A15)は、ヒトMSLN、ヒトCD3、及びヒトEGFRに対して優れた親和性を示すことがわかった。
【0112】
実施例4 MSLN、EGFR、及びCD3を発現する細胞に対する抗体の親和性の解析
フローサイトメトリーを用いて、二重特異性抗体(HMI323/HMI323-A15)又は三重特異性抗体(セツキシマブ/HMI323-A15)が特定の細胞株に対して親和性を示すかどうかを確認した。
【0113】
具体的には、100μlのFACS緩衝液(2%FBS/シース緩衝液)を入れた試験管を用意し、これに3種類の細胞株、すなわちMSLNとEGFRを過剰発現しているH226癌細胞株(ATCC(登録商標)、CRL-5826(商標))、MSLNとEGFRを過剰発現しているAsPC-1癌細胞株(ATCC(登録商標)、CRL-1682(商標))、CD3を発現しているJurkat E6-1 T細胞株(ATCC(登録商標)、TIB-152(商標))をそれぞれ0.5×106細胞の濃度で添加し、次いで各試験管を1μgの一次抗体(HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15)で処理した。次いで、1時間半光を遮断し、4℃でインキュベーションを行った。その後、200μlのFACS緩衝液をそこに加えた。4℃、2,000rpmで3分間遠心分離を行い、次いで、上清を除去した。
【0114】
次に、100μlのFACS緩衝液中、各試験管を、一次抗体と特異的に結合可能な0.2μgの蛍光標識二次抗体(PE標識抗ヒトIgG)で処理した。次いで、30分間光を遮断し、4℃でインキュベーションを行った。その後、200μlのFACS緩衝液をそこに加え、4℃、2,000rpmで3分間遠心分離を行い、次いで、上清を除去してサンプルを得た。
【0115】
細胞が懸濁するように、200μlのBD Cytofix(商標)をサンプルに添加し、BD LSR Fortessa(商標)で解析を行った。特定の細胞に対する結合親和性のEC50値を下記の表5に示す。
【0116】
【0117】
図7~9に示す解析の結果から、二重特異性抗体(HMI323/HMI323-A15)及び三重特異性抗体(セツキシマブ/HMI323-A15)の両方が、3種類の細胞株に結合することがわかった。無関係な対照として用いた陰性対照抗体は、3種類の細胞株のいずれにも結合しなかった。
【0118】
実施例5 PBMCの存在下での腫瘍細胞株に対する抗体の殺細胞効果の評価
実施例5.1 標的細胞株の構築
2種類のMSLN+腫瘍細胞(H226、AsPC-1)にIncuCyte(登録商標) NucLight Red Lentivirus Reagent(EF-1αプロモーター、ピューロマイシン選択)を形質導入し、ピューロマイシンで処理することで、NucLight Redを形質導入した腫瘍細胞株である標的細胞株を最終的に構築した。
【0119】
実施例5.2 標的細胞株の調製
1×トリプシン-EDTA溶液で細胞を回収し、4℃、1,200rpmで5分間遠心分離を行った。その後、上清を除去し、cRPMI(RPMI、A10491-01+10%FBS+55μM β-ME)で再懸濁した。次いで、細胞数を定量化した。それぞれの細胞株の懸濁液を調製し、96ウェルプレートに10,000細胞/ウェルで添加し、プレートを37℃のCO2インキュベーターで1日インキュベートし、標的細胞株を調製した。
【0120】
実施例5.3 末梢血単核細胞の調製
凍結保存した末梢血単核細胞(PBMC)を37℃のウォーターバスで急速に解凍し、次いで50mlの円錐試験管に移した。そこに解凍用培地(RPMI、11875-093+10%FBS+55μM β-ME)を滴下し、振盪しながら混合した。次いで、4℃、1,200rpmで10分間遠心分離を行って上清を除去し、cRPMIで再懸濁した。次いで、細胞数を定量化した。
【0121】
実施例5.4 末梢血単核細胞と抗体のプレーティング
標的細胞をウェルにプレーティングした。24時間後、二重特異性抗体(HMI323/HMI323-A15)と三重特異性抗体(セツキシマブ/HMI323-A15)のそれぞれをcRPMIで希釈し、次いで20nMから始めて1/5に希釈した(0.26pM~20nMの濃度範囲で)。次いで、PBMC:標的細胞=20:1又は10:1の割合でPBMCを調製し、cRPMIに懸濁した後、ウェルに添加した。
【0122】
実施例5.5 IncuCyteS3を使用したリアルタイムでの細胞測定と解析
明視野及び赤色蛍光は、37℃のCO2インキュベーター内で2日間インキュベーションを行いながら、IncuCyteS3を使用して24時間後及び48時間後に10倍で測定した。MSLN発現腫瘍細胞に対する抗体によるPBMCを介した殺細胞のIC50値は下記の表6に示す通りであり、MSLN発現腫瘍細胞に対する抗体によるPBMCを介した殺細胞の最大効果(%)は下記の表7の通りである。
【0123】
【0124】
【0125】
図10~15に示す評価の結果から、2種類のMSLN及びEGFRを発現する癌細胞株(H226、AsPC-1)に対する二重特異性抗体(HMI323/HMI323-A15)及び三重特異性抗体(セツキシマブ/HMI323-A15)の殺細胞効果は、PBMC:標的細胞=20:1又は10:1の条件で、用量依存的に示されることが確認された。さらに、無関係な抗体とCD3抗体を連結した二重特異性抗体(無関係/CD3)は、細胞死を誘導しなかった。
【0126】
実施例6 T細胞の存在下でのMSLN+腫瘍細胞株に対する抗体の殺細胞効果の評価
実施例6.1 標的細胞株の構築
2種類のMSLN+腫瘍細胞(H226、AsPC-1)にIncuCyte(登録商標)NucLight Red Lentivirus Reagent(EF-1αプロモーター、ピューロマイシン選択)を形質導入し、ピューロマイシンで処理することで、NucLight Redを形質導入した腫瘍細胞株である標的細胞株を最終的に構築した。
【0127】
実施例6.2 標的細胞株の調製
1×トリプシン-EDTA溶液で細胞を回収し、4℃、1,200rpmで5分間遠心分離を行った。その後、上清を除去し、cRPMI(RPMI、A10491-01+10%FBS+55μM β-ME)で再懸濁した。次いで、細胞数を定量化した。それぞれの細胞株の懸濁液を調製し、96ウェルプレートに10,000細胞/ウェルで添加し、プレートを37℃のCO2インキュベーターで1日インキュベートし、標的細胞株を調製した。
【0128】
実施例6.3 増殖したT細胞の調製
凍結保存した末梢血単核細胞(PBMC)を37℃のウォーターバスで急速に解凍し、次いで50mlの円錐試験管に移した。そこに解凍用培地(RPMI、11875-093+10%FBS+55μM β-ME)を滴下し、振盪しながら混合した。次いで、4℃、1,200rpmで10分間遠心分離を行って上清を除去し、MACS培地(PBS+0.5%FBS+2mM EDTA)に懸濁した。そこに細胞数に応じてCD3マイクロビーズを加え、4℃で15分間染色を行った。LSカラムを使用してCD3 T細胞のみを単離した。単離したCD3 T細胞をX-VIVOに懸濁した。次いで、そこにαCD3/28 Dynabeads(登録商標)、IL-2(200U/ml、Proleukin(登録商標))、及びヒト血漿(5%)を加え、37℃のインキュベーターでインキュベーションを行った。インキュベーション開始から4日後と7日後に細胞数を計測し、細胞濃度が1×106細胞/mlになるようにX-VIVO、IL-2、及びヒト血漿を追加添加した。
【0129】
実施例6.4 T細胞と抗体のプレーティング
標的細胞をウェルにプレーティングした。24時間後、二重特異性抗体(HMI323/HMI323-A15)と三重特異性抗体(セツキシマブ/HMI323-A15)のそれぞれをcRPMIで希釈し、次いで20nMから始めて1/5に希釈した(0.26pM~20nMの濃度範囲で)。次いで、T細胞:標的細胞=10:1又は5:1の割合で増殖したT細胞を最終的に調製し、cRPMIに懸濁した後、ウェルに添加した。
【0130】
実施例6.5 IncuCyteS3を使用したリアルタイムでの細胞測定と解析
明視野及び赤色蛍光は、37℃のCO2インキュベーター内で2日間インキュベーションを行いながら、IncuCyteS3(Essenbio)を使用して24時間後及び48時間後に10倍で測定した。MSLN発現腫瘍細胞に対する抗体によるT細胞を介した殺細胞のIC50値は下記の表8に示す通りであり、MSLN発現腫瘍細胞に対する抗体によるT細胞を介した殺細胞の最大効果(%)は下記の表9の通りである。
【0131】
【0132】
【0133】
図16~19に示す評価の結果から、2種類のMSLN及びEGFRを発現する癌細胞株(H226、AsPC-1)に対する二重特異性抗体(HMI323/HMI323-A15)及び三重特異性抗体(セツキシマブ/HMI323-A15)の殺細胞効果は、T細胞:標的細胞=10:1又は5:1の条件で、用量依存的に示されることが確認された。さらに、無関係な抗体とCD3抗体を連結した二重特異性抗体(無関係/CD3)は、細胞死を誘導しなかった。
【0134】
実施例7 マウスにおける抗体の腫瘍増殖抑制効果の解析
T細胞誘導抗体として開発中の二重特異性抗体(HMI323/HMI323-A15)と三重特異性抗体(セツキシマブ/HMI323-A15)の腫瘍増殖抑制効果を確認するために、これらの抗体を腫瘍移植モデルマウスに投与した。
【0135】
実施例7.1 細胞株異種移植モデルの確立
動物飼育室に搬入されたマウスに、実験開始前に約1週間の馴化期間を設けた。H226腫瘍細胞株(1×107/200μL PBS)又はAsPC-1腫瘍細胞株(5×106/200μL PBS)を、マウスの腋窩に皮下注射した。腫瘍細胞注射後5日目に、精製及び活性化したヒトT細胞を、T細胞:腫瘍細胞=2:1の割合で腹腔内に注射した。腫瘍細胞注射後7日目に、マウスを4群(各群5匹)に分けて、統計解析を行った。その結果、各群間で腫瘍サイズに有意差がないことが確認された。
【0136】
実施例7.2 抗体の投与
T細胞注射後2日目から、PBS又は抗体(HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15)を3mg/kgの濃度で週2回(合計4回)腹腔内投与した。
【0137】
実施例7.3 腫瘍サイズの測定
群分けした日から終点まで、週に2回、腫瘍サイズ(腫瘍体積(mm3)=短軸×長軸×高さ×0.5)を測定した。短軸、長軸、高さの長さは、同じ試験者が定規を用いて測定した。
【0138】
実施例7.4 腫瘍増殖率(RTV%)、相対腫瘍増殖率(T/C%)、及び腫瘍増殖抑制率(抑制効果)の算出
腫瘍増殖率(相対腫瘍体積(RTV)%)は、V1/V0法を用いて算出した。V1は実験効果を測定する時点での体積、V0は実験開始時点での体積を意味する。各群の相対腫瘍増殖率(T/C%)は、各群の平均腫瘍増殖率をPBS群の平均腫瘍増殖率(測定を行った時点で得られた平均腫瘍増殖率)で除し、得られた値に100を乗じた値であり、腫瘍増殖抑制率(抑制効果)は100から相対腫瘍増殖率を減じた値として算出した。統計解析には、実験の種類に応じて一元配置ANOVA又は二元配置ANOVAを用い、p値が0.05未満の場合を統計的に有意であると判断した。
【0139】
実施例7.5 免疫組織化学
腫瘍が増殖したマウスを抗体(HMI323/HMI323-A15又はセツキシマブ/HMI323-A15)で処理してから1週間後、腫瘍サンプルを取り出し、ホルマリンで固定した。その後、サンプルにパラフィンを浸潤させて包埋し、次いでミクロトームでパラフィン切片を得た。パラフィン切片を脱パラフィン化、水和、及び洗浄し、次いでヒトCD3(抗CD3、Abcam)又はヒトCD8(抗CD8、Abcam)で染色した。組織切片をマイヤーのヘマトキシリン(Dako)で対比染色し、オリンパスBX51顕微鏡で観察した。
【0140】
実施例7.6 実験の終了及び結果
マウスは頸椎脱臼又はCO
2により安楽死させた。その結果、メソテリン過剰発現肺腺癌細胞株H226を異種移植したモデルマウスに対して、セツキシマブ/HMI323-A15又はHMI323/HMI323-A15抗体を3mg/kgの濃度で合計4回腹腔内投与した場合、いずれの抗体投与群もPBS投与群と比較して優れた腫瘍増殖抑制効果を示した(
図20及び21)。
【0141】
腫瘍組織内への免疫T細胞の浸潤(暗色に染色)は、抗体(セツキシマブ/HMI323-A15又はHMI323/HMI323-A15)投与群の方がPBS群よりも高かったことが、免疫組織化学的染色により示された(
図22)。以下の表10に示すように、メソテリン、EGFR、CD3と結合する抗体であるセツキシマブ/HMI323-A15では腫瘍異種移植後20日目から、メソテリン及びCD3と結合する抗体であるHMI323/HMI323-A15では腫瘍異種移植後25日目から、100%の腫瘍増殖抑制効果が見られた。
【0142】
【表10】
さらに、H226に比べてメソテリンの発現レベルが比較的低い膵臓癌細胞株であるAsPC-1を異種移植したマウスモデルに対して、セツキシマブ/HMI323-A15又はHMI323/HMI323-A15抗体を3mg/kgの濃度で合計4回腹腔内投与した場合、いずれの抗体投与群もPBS投与群と比較して優れた腫瘍増殖抑制効果を同様に示した(
図23及び24)。
【0143】
また、腫瘍組織内への免疫T細胞の浸潤(暗色に染色)は、抗体(セツキシマブ/HMI323-A15又はHMI323/HMI323-A15)投与群の方がPBS群よりも高かったことが、免疫組織化学的染色により示された(
図25)。以下の表11に示すように、メソテリン、EGFR、CD3と結合する抗体であるセツキシマブ/HMI323-A15では腫瘍異種移植後20日目から、メソテリン及びCD3と結合する抗体であるHMI323/HMI323-A15では腫瘍異種移植後28日目から、100%の腫瘍増殖抑制効果が見られた。
【0144】
【0145】
実施例8 マウスにおける抗体のPK解析
T細胞誘導抗体として開発中のセツキシマブ/HMI323-A15又はHMI323/HMI323-A15の薬物動態(PK)データを得るために、マウス血清中の抗体のPKパラメータを解析した。
【0146】
実施例8.1 試験液(マウス血清)の入手
セツキシマブ/HMI323-A15又はHMI323/HMI323-A15抗体を3mg/kgの濃度でマウスの尾静脈に注射した。抗体注射後、5分、1時間、4時間、8時間、24時間、48時間、72時間、120時間、168時間、240時間、336時間、504時間、及び672時間後に後眼窩神経叢からの採血を行った。各群の3匹以上の動物から100μLの血液を採取した。血液を室温で約20~30分かけて凝固させた後、10,000rpmで10分間遠心分離し、血清を分離した。
【0147】
実施例8.2 ELISAアッセイ
抗ヒトFab(50ng/100μL/ウェル)をプレートに添加し、4℃で一晩反応させた。次いで、残留した溶液を完全に除去した。そこに1%BSA/PBS溶液を200μL/ウェルで添加し、室温で1時間反応させた。次いで、残留した溶液を完全に除去した。1%血清/1%BSA/PBS溶液を用いて標準溶液(標準抗体)を1μg/mLに調整し、次いでそれを用いて1/2に希釈することによって調製した。試験液を1%BSA/PBS溶液で100倍に希釈して調製した。
【0148】
調製した標準溶液と試験液を濃度ごとに100μLずつ2つのウェルに分注し、室温で1時間反応させた。反応後、PBST(0.05%Tween20)溶液を1ウェルあたり300μL分注し、合計3回の洗浄を行った。抗ヒトFc-HRPを1%BSA/PBST溶液で5000倍に希釈し、次いでそれを100μLずつ各ウェルに分注した。室温で1時間反応させた。反応後、PBST(0.05%Tween20)溶液を1ウェルあたり300μL分注し、合計3回の洗浄を行った。実験前にTMBペルオキシダーゼ基質溶液を室温に戻し、それを100μLずつ各ウェルに分注した。室温で30分間反応させた。TMB停止溶液を各ウェルに100μLずつ分注し、より良く混合するために穏やかに撹拌し、次いで450nmの波長で吸光度を測定した。
【0149】
メソテリン、EGFR、CD3と結合する抗体であるセツキシマブ/HMI323-A15、又はメソテリン及びCD3と結合する抗体であるHMI323/HMI323-A15を3mg/kgの用量でヌードマウスの尾静脈に注射した。次いで、注射から5分、1時間、4時間、8時間、24時間、48時間、72時間、96時間、168時間、240時間、336時間、504時間、及び672時間後に採血を行い、マウス血清中の抗体濃度をELISA法により定量化した。結果を
図26及び27に示す。
【0150】
ELISAの結果をもとに、PKパラメータを解析した。その結果、セツキシマブ/HMI323-A15抗体の半減期は約207.94時間、HMI323/HMI323-A15抗体の半減期は約202.58時間であることが確認された(表12、及び13)。これらの半減期は、IgG型の一般的な二重特異性抗体の半減期の範囲内である。さらに、曲線下面積(AUC)を外挿した値は20%以下であり、したがって、算出されたPKパラメータの信頼性は確保されていた。
【0151】
セツキシマブ/HMI323-A15のPKパラメータの結果は下記の表12の通りであり、HMI323/HMI323-A15のPKパラメータの結果は表13の通りである。
【0152】
【0153】
【配列表】
【外国語明細書】