(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179419
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、高周波デバイス、誘電体基板、およびマイクロストリップアンテナ
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20231212BHJP
C08L 61/04 20060101ALI20231212BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20231212BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231212BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C08G59/40
C08L61/04
C08L63/00 C
C08K3/013
H05K1/03 610H
H05K1/03 610S
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023135283
(22)【出願日】2023-08-23
(62)【分割の表示】P 2023509187の分割
【原出願日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2021051748
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021172197
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021197667
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021197669
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021197679
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021197720
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021197731
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】木村 俊次
(72)【発明者】
【氏名】田中 剛志
(57)【要約】 (修正有)
【課題】部材の成形時におけるボイド抑制や充填性、および、部材における形状保持性、靱性、高誘電率および低誘電正接に優れた熱硬化性樹脂組成物、およびそれを用いた高周波デバイスを提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、および(C)高誘電率フィラーを含む、熱硬化性樹脂組成物であって、高誘電率フィラー(C)が、当該熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量%中、50質量%以上のチタン酸カルシウム粒子、または60質量%以上のチタン酸ストロンチウム粒子を含み、エポキシ樹脂(A)が、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂および/またはビフェニル型エポキシ樹脂を含み、硬化剤(B)が、活性エステル化合物(B1)および/またはフェノール系硬化剤(B2)を含む熱硬化性樹脂組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、および
(C)高誘電率フィラーを含む、熱硬化性樹脂組成物であって、
前記高誘電率フィラー(C)が、当該熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量%中、50質量%以上のチタン酸カルシウム粒子、または60質量%以上のチタン酸ストロンチウム粒子を含み、
前記エポキシ樹脂(A)が、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂および/またはビフェニル型エポキシ樹脂を含み、
前記硬化剤(B)が、活性エステル化合物(B1)および/またはフェノール系硬化剤(B2)を含み、
前記活性エステル化合物(B1)が、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル化合物、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル化合物から選択される少なくとも1種を含み、
前記フェノール系硬化剤(B2)が、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂および/またはフェノールノボラック樹脂を含み、
下記の手順1に従って測定される、260℃における曲げ弾性率が、50N/mm2以上190N/mm2以下であり、
下記の手順2に従って測定される、矩形圧が、0.2MPa以上8.8MPa以下である、
熱硬化性樹脂組成物。
(手順1)
当該熱硬化性樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で金型に注入成形し、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの成形品を得る。
得られた成形品を175℃、4時間の条件で後硬化させ、試験片を作製する。
試験片の260℃における曲げ弾性率(N/mm2)を、JIS K 6911に準拠して測定する。
(手順2)
低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入速度177mm3/秒の条件にて、幅13mm、厚さ1mm、長さ175mmの矩形状の流路に当該熱硬化性樹脂組成物を注入した。このとき、流路の上流先端から25mmの位置に埋設した圧力センサーにて圧力の経時変化を測定し、当該熱硬化性樹脂組成物の流動時における最低圧力(MPa)を測定し、これを矩形圧する。
【請求項2】
前記硬化剤(B)が、前記活性エステル化合物(B1)および前記フェノール系硬化剤(B2)を含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
レーザー回折散乱法で測定される前記高誘電率フィラー(C)の体積頻度粒度分布において、累積値が10%となる粒子径をD10、累積値が50%となる粒子径をD50、および累積値が90%となる粒子径をD90としたとき、
D10,D50およびD90が、0.25≦(D90-D10)/D50≦55を満たすように構成される、請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記高誘電率フィラー(C)以外の無機充填材を含み、前記無機充填材が、シリカおよび/またはアルミナを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
上記の手順1で得られた試験片を用いてJIS K 6911に準拠して測定される、25℃における曲げ弾性率が、9000N/mm2以上28000N/mm2以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
上記の手順1で得られた試験片を用いてJIS K 6911に準拠して測定される、25℃における曲げ強度が、40N/mm2以上200N/mm2以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
上記の手順1で得られた試験片を用いてJIS K 6911に準拠して測定される、260℃における曲げ強度が、0.1N/mm2以上10N/mm2以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物における吸水率が、0.01%以上0.8%以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物における熱伝導率が、1.0W/mK以上5.0W/mK以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
以下の手順で測定される、銅に対するダイシェア強度が、5N/mm2以上50N/mm2以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
(手順)
低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力10MPa、硬化時間180秒の条件で、当該熱硬化性樹脂組成物を成形して、銅製リードフレーム上に10mm2の試験片を1水準当たり4個成形する。
続いて、自動ダイシェア測定装置を用いて、室温にて試験片と銅製リードフレームとのダイシェア強度を測定する。4個の試験片のダイシェア強度を採用する。
【請求項11】
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物におけるガラス転移温度が、90℃以上200℃以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物における、ガラス転移温度以下の範囲の線膨張係数CTE1が5ppm以上30ppm以下、およびガラス転移温度超え320℃以下の範囲の線膨張係数CTE2が10ppm以上100ppm以下である、請求項1~11のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
マイクロストリップアンテナ、誘電体導波路、および多層アンテナからなる群から選ばれる高周波デバイスの一部を形成するために用いられる、請求項1~12のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物を備える、高周波デバイス。
【請求項15】
(A)エポキシ樹脂と、
(B)硬化剤と、
(C)高誘電率充填剤と、
を含む、熱硬化性樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、およびナフトールアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記硬化剤(B)が、活性エステル系硬化剤(B1)および/またはフェノール系硬化剤(B2)を含み、
前記高誘電率充填剤(C)が、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、およびジルコン酸カルシウムから選択される少なくとも1種を含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項16】
前記高誘電率充填剤(C)が、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、およびチタン酸マグネシウムから選択される少なくとも1種である、請求項15に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項17】
前記熱硬化性樹脂組成物100質量%中に、前記高誘電率充填剤(C)を40質量%以上の量で含む、請求項15または16に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項18】
前記活性エステル系硬化剤(B1)は、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル系硬化剤、ナフタレン構造を含む活性エステル系硬化剤、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル系硬化剤、およびフェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル系硬化剤から選択される少なくとも1種を含む、請求項15~17のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項19】
前記活性エステル系硬化剤(B1)は、下記一般式(1)で表される構造を備える、請求項15~18のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
(一般式(1)中、Aは、脂肪族環状炭化水素基を介して連結された置換または非置換のアリーレン基であり、Ar’は、置換または非置換のアリール基であり、
Bは、下記一般式(B)で表される構造であり、
【化2】
(一般式(B)中、Arは、置換または非置換のアリーレン基であり、Yは、単結合、置換または非置換の炭素原子数1~6の直鎖のアルキレン基、または置換または非置換の炭素原子数3~6の環式のアルキレン基、置換または非置換の2価の芳香族炭化水素基、エーテル結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基、スルフィド基、あるいはスルホン基である。nは0または1である。)
kは、繰り返し単位の平均値であり、0.25~3.5の範囲である。)
【請求項20】
マイクロストリップアンテナを形成する材料として用いられる、請求項15~19のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項21】
誘電体導波路を形成する材料として用いられる、請求項15~19のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項22】
電磁波吸収体を形成する材料として用いられる、請求項15~19のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項23】
請求項1~13および請求項15~22のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる誘電体基板。
【請求項24】
請求項23に記載の誘電体基板と,
前記誘電体基板の一方の面に設けられた放射導体板と、
前記誘電体基板の他方の面に設けられた地導体板と、
を備える、マイクロストリップアンテナ。
【請求項25】
誘電体基板と,
前記誘電体基板の一方の面に設けられた放射導体板と、
前記誘電体基板の他方の面に設けられた地導体板と、
前記放射導体板に対向配置された高誘電体と、
を備える、マイクロストリップアンテナであって、
前記高誘電体が、請求項23に記載の誘電体基板により構成されている、マイクロストリップアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、高周波デバイス、誘電体基板、およびマイクロストリップアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信が高速化され、さらに使用される通信機器に対して高性能化および小型化が求められている。さらに、近年、無線通信の容量が急激に増大してきており、それに伴う伝送信号の使用周波数の広帯域化、高周波化が急速に進行している。そのため、通信機器の使用周波数帯は、従来使用されてきたマイクロ波帯だけでは対応できず、ミリ波帯にまで拡大されつつある。そのような背景から通信機器に搭載されるアンテナヘの高性能化が強く求められている。
【0003】
通信機器は、通信機器内部に組み込まれたアンテナ材料(誘電体基板)の誘電率が高くなると、より一層の小型化が図れる。また、誘電体基板の誘電正接が小さくなると、低損失になり、高周波化に有利となる。従って、誘電率が高く、誘電正接が小さい誘電体基板を使用できれば、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機器の小型化が図ることができる。
【0004】
特許文献1には、エポキシ樹脂と、チタン酸ストロンチウムなどの高誘電率無機充填材と、を含む高誘電率樹脂組成物が記載されている(請求項1、表2等)。
【0005】
特許文献2には、フッ素樹脂とガラスクロスとを含む複合材料である誘電体基板と、フッ素樹脂に接する面の二次元粗度Raが0.2μm未満であるアンテナとの積層体である回路用基板を有するアンテナが開示されている。当該文献には、1GHzにて測定された回路用基板の誘電率および誘電正接が記載されている。
【0006】
特許文献3には、シロキサン変性ポリアミドイミド樹脂と高誘電率充填剤とエポキシ樹脂とを含み、25℃、1MHzにおける硬化物の比誘電率が15以上である樹脂組成物が開示されている。当該文献の実施例には、この高誘電率充填剤としてチタン酸バリウムを用いた例が記載されている。
【0007】
特許文献4には、エポキシ樹脂、誘電体粉末、ノニオン性界面活性剤、及び活性エステル系硬化剤を含有する樹脂組成物が開示されている。当該文献には、この樹脂組成物を、高周波領域で使用される電子部品の高誘電率絶縁材料や、指紋センサー用の高誘電率絶縁材料として用いることができると記載されている。当該文献の実施例には、この誘電体粉末としてチタン酸バリウムを用いた例が記載されている。
【0008】
特許文献5には、エポキシ樹脂と、硬化剤と、チタン酸カルシウム粒子及びチタン酸ストロンチウム粒子を所定の量で含む無機充填材と、を含み、前記無機充填材が、シリカ粒子及びアルミナ粒子からなる群より選択される少なくとも一種をさらに含有し、高周波デバイスにおける電子部品の封止に用いられる成形用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-106106号公報
【特許文献2】特開2018-41998号公報
【特許文献3】特開2004-315653号公報
【特許文献4】特開2020-105523号公報
【特許文献5】特許第6870778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1~4に記載の従来の技術においては以下の点に改善の余地があった。
上記の特許文献1に記載の樹脂組成物において、部材の成形時におけるボイド抑制や充填性、部材の形状保持性や靱性の点で改善の余地があることが判明した。これを第一の課題とする。
また、特許文献2~5に記載の誘電体基板は、高誘電率および低誘電正接に課題があり、特に高周波帯域において当該課題は顕著であった。これを第二の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、熱硬化性樹脂組成物において、高誘電率フィラーとしてチタン酸カルシウム粒子またはチタン酸ストロンチウム粒子を高充填化した上で、所定のエポキシ樹脂と所定の硬化剤との組み合わせを採用して、260℃における曲げ弾性率と矩形圧を適切な範囲内とすることにより、上記第一の課題を解決できることを見出し、第一の本発明を完成させた。
すなわち、第一の発明は、以下に示すことができる。
【0012】
第一の発明によれば、
(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、および
(C)高誘電率フィラーを含む、熱硬化性樹脂組成物であって、
前記高誘電率フィラー(C)が、当該熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量%中、50質量%以上のチタン酸カルシウム粒子、または60質量%以上のチタン酸ストロンチウム粒子を含み、
前記エポキシ樹脂(A)が、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂および/またはビフェニル型エポキシ樹脂を含み、
前記硬化剤(B)が、活性エステル化合物(B1)および/またはフェノール系硬化剤(B2)を含み、
前記活性エステル化合物(B1)が、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル化合物、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル化合物から選択される少なくとも1種を含み、
前記フェノール系硬化剤(B2)が、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂および/またはフェノールノボラック樹脂を含み、
下記の手順1に従って測定される、260℃における曲げ弾性率が、50N/mm2以上190N/mm2以下であり、
下記の手順2に従って測定される矩形圧が、0.2MPa以上8.8MPa以下である、
熱硬化性樹脂組成物が提供される。
(手順1)
当該熱硬化性樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で金型に注入成形し、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの成形品を得る。
得られた成形品を175℃、4時間の条件で後硬化させ、試験片を作製する。
試験片の260℃における曲げ弾性率(N/mm2)を、JIS K 6911に準拠して測定する。
(手順2)
低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入速度177mm3/秒の条件にて、幅13mm、厚さ1mm、長さ175mmの矩形状の流路に当該熱硬化性樹脂組成物を注入した。このとき、流路の上流先端から25mmの位置に埋設した圧力センサーにて圧力の経時変化を測定し、当該熱硬化性樹脂組成物の流動時における最低圧力(MPa)を測定し、これを矩形圧する。
【0013】
また、第一の本発明によれば、
上記の熱硬化性樹脂組成物の硬化物を備える、高周波デバイスが提供される。
【0014】
また、本発明者らは、エポキシ樹脂と、硬化剤と、高誘電率充填剤と、を含む熱硬化性樹脂組成物において、特定のエポキシ樹脂および硬化剤として活性エステル系硬化剤を組み合わせて含むことにより、上記第二の課題を解決できることを見出し、第二の発明を完成させた。
すなわち、第二の発明は、以下に示すことができる。
【0015】
第二の発明によれば、
(A)エポキシ樹脂と、
(B)硬化剤と、
(C)高誘電率充填剤と、
を含む、熱硬化性樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、およびナフトールアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記硬化剤(B)が、活性エステル系硬化剤(B1)および/またはフェノール系硬化剤(B2)を含み、
前記高誘電率充填剤(C)が、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、およびジルコン酸カルシウムから選択される少なくとも1種を含む、熱硬化性樹脂組成物が提供される。
【0016】
第二の発明によれば、
前記熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる誘電体基板が提供される。
【0017】
第一または第二の発明によれば、
前記誘電体基板と,
前記誘電体基板の一方の面に設けられた放射導体板と、
前記誘電体基板の他方の面に設けられた地導体板と、
を備える、マイクロストリップアンテナが提供される。
【0018】
第一または第二の発明によれば、
誘電体基板と,
前記誘電体基板の一方の面に設けられた放射導体板と、
前記誘電体基板の他方の面に設けられた地導体板と、
前記放射導体板に対向配置された高誘電体と、
を備える、マイクロストリップアンテナであって、
前記高誘電体が、前記誘電体基板により構成されている、マイクロストリップアンテナが提供される。
【発明の効果】
【0019】
第一の発明によれば、部材の成形時におけるボイド抑制や充填性、および、部材における形状保持性、靱性、高誘電率および低誘電正接に優れた熱硬化性樹脂組成物、およびそれを用いた高周波デバイスを提供できる。
また、第二の発明によれば、高誘電率および低誘電正接に優れた誘電体基板が得られる熱硬化性樹脂組成物および当該樹脂組成物からなる誘電体基板、および当該誘電体基板を備えるマイクロストリップアンテナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態のマイクロストリップアンテナを示す上面斜視図である。
【
図2】本実施形態のマイクロストリップアンテナの別の態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、第一の発明(出願時請求項1~14,23~25)を第1の実施の形態に基づいて、図面を参照しながら説明し、第二の発明(出願時請求項15~22,23~25)を第2の実施の形態に基づいて、図面を参照しながら説明する。
尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、例えば「1~10」は特に断りがなければ「1以上」から「10以下」を表す。
【0022】
<第一の発明>
第1の実施形態の熱硬化性樹脂組成物の概要を説明する。
【0023】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、および高誘電率フィラー(C)を含み、高誘電率フィラー(C)が、当該熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量%中、50質量%以上のチタン酸カルシウム粒子、または60質量%以上のチタン酸ストロンチウム粒子を含み、
エポキシ樹脂(A)が、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂および/またはビフェニル型エポキシ樹脂を含み、硬化剤(B)が、活性エステル化合物(B1)および/またはフェノール系硬化剤(B2)を含み、活性エステル化合物が、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル化合物、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル化合物から選択される少なくとも1種を含み、フェノール系硬化剤が、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂および/またはフェノールノボラック樹脂を含むものである。
このような熱硬化性樹脂組成物は、下記の手順1に従って測定される、260℃における曲げ弾性率が、50N/mm2以上190N/mm2以下であり、下記の手順2に従って測定される、矩形圧が、0.2MPa以上8.8MPa以下となるように構成される。
【0024】
現在の高誘電率かつ低誘電正接という要求に対して、特定の高誘電率フィラーの含有量を増大させることが必要となってきている。
しかしながら、高誘電率フィラーの種類やその含有量によっては、熱硬化性樹脂組成物における成形性が低下する恐れがある。このような成形不良に対応すべく、本発明者が熱硬化性樹脂組成物における流動特性について検討を行った。
本発明者の知見によれば、矩形圧という指標は、高誘電率フィラーが高充填された熱硬化性樹脂組成物における流動特性を安定的に評価することができる。このため、高下式粘度を上記上限以下とすることにより、成形性に優れた熱硬化性樹脂組成物を実現できる。
【0025】
その上、現在、高周波化、パワー半導体の高出力化、デバイスの低背化などの設計事情により、動作環境の温度は益々増大する傾向にある。このような動作環境の高温化に対応すべく、発明者は、熱硬化性樹脂組成物の硬化物における熱的特性について検討を行った。
本発明者の知見によれば、260℃における曲げ弾性率という指標は、熱硬化性樹脂組成物の硬化物について、熱時における変形しにくさを安定的に評価することができる。
このため、260℃曲げ弾性率を上記下限値以上とすることにより、部材において、熱劣化による誘電特性の低下が抑制されることも期待できる。
【0026】
本実施形態では、たとえば熱硬化性樹脂組成物中に含まれる各成分の種類や配合量、熱硬化性樹脂組成物の調製方法等を適切に選択することにより、上記の矩形圧、260℃曲げ弾性率、25℃曲げ弾性率、260℃曲げ強度、25℃曲げ強度、吸水率、熱伝導率、ダイシェア強度、ガラス転移温度、および線膨張係数を制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、高誘電率フィラーとして50質量%以上のチタン酸カルシウム粒子または60質量%以上のチタン酸ストロンチウム粒子を使用すること、エポキシ樹脂として、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂および/またはビフェニル型エポキシ樹脂を使用すること、活性エステル化合物として、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル化合物、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル化合物から選択される少なくとも1種、および/または、フェノール系硬化剤として、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂および/またはフェノールノボラック樹脂を使用すること、無機充填材の含有量を適切に調整すること等が、上記の矩形圧、260℃曲げ弾性率、25℃曲げ弾性率、260℃曲げ強度、25℃曲げ強度、吸水率、熱伝導率、ダイシェア強度、ガラス転移温度、および線膨張係数を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0027】
260℃における曲げ弾性率の下限は、50N/mm2以上、好ましくは60N/mm2以上、より好ましくは70N/mm2以上である。これにより、部材の形状保持性を向上できる。
260℃における曲げ弾性率の上限は、190N/mm2以下、好ましくは180N/mm2以下、より好ましくは150N/mm2以下である。これにより、部材の靱性を向上できる。
【0028】
矩形圧の下限は、0.2MPa以上、好ましくは0.25MPa以上、より好ましくは0.3MPa以上である。これにより、部材の成形時におけるボイド発生を抑制できる。
矩形圧の上限は、8.8MPa以下、好ましくは8.7MPa以下、より好ましくは8.6MPa以下である。これにより、部材の成形時における充填性を向上できる。
【0029】
25℃における曲げ弾性率の下限は、例えば、9000N/mm2以上、好ましくは10000N/mm2以上、より好ましくは12000N/mm2以上である。これにより、室温時における部材の形状保持性を向上できる。
25℃における曲げ弾性率の上限は、例えば、28000N/mm2以下、好ましくは27000N/mm2以下、より好ましくは26000N/mm2以下である。これにより、室温時における部材の靱性を向上できる。
【0030】
25℃における曲げ強度の下限は、例えば、40N/mm2以上、好ましくは45N/mm2以上、より好ましくは50N/mm2以上である。これにより、室温時における部材の形状保持性を向上できる。
25℃における曲げ強度の上限は、例えば、200N/mm2以下、好ましくは180N/mm2以下、より好ましくは150N/mm2以下である。これにより、室温時における部材の靱性を向上できる。
【0031】
260℃における曲げ強度の下限は、例えば、0.1N/mm2以上、好ましくは0.5N/mm2以上、より好ましくは1N/mm2以上である。これにより、高温環境下における部材の形状保持性を向上できる。
260℃における曲げ強度の上限は、例えば、10N/mm2以下、好ましくは7N/mm2以下、より好ましくは5N/mm2以下である。これにより、高温環境下における部材の靱性を向上できる。
【0032】
吸水率の下限は、とくに限定されないが、0.01%以上、0.05%以上としてもよい。
吸水率の上限は、例えば、0.8%以下、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6%以下である。これにより、部材の低吸水性を実現できる。
【0033】
熱伝導率の下限は、例えば、1.0W/mK以上、好ましくは1.5W/mK以上、より好ましくは2.0W/mK以上である。これにより、部材の伝熱特性を向上できる。
熱伝導率の上限は、とくに限定されないが、5.0W/mK以下、好ましくは4.0W/mK以下としてもよい。
【0034】
銅に対するダイシェア強度の下限は、例えば、5N/mm2以上、好ましくは6N/mm2以上、より好ましくは7N/mm2以上である。これにより、金属部材との密着性を向上できる。
銅に対するダイシェア強度の上限は、とくに限定されないが、50N/mm2以下、40N/mm2以下、30N/mm2以下としてもよい。
【0035】
ガラス転移温度の下限は、例えば、90℃以上、好ましくは95℃以上、より好ましくは100℃以上である。これにより、部材の耐熱性を向上できる。
ガラス転移温度の上限は、とくに限定されないが、200℃以下、190℃以下でもよい。
【0036】
当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物における、ガラス転移温度以下の範囲の線膨張係数をCTE1とし、ガラス転移温度超え320℃以下の範囲の線膨張係数をCTE2とする。
【0037】
CTE1の下限は、とくに限定されないが、5ppm/℃以上、6ppm/℃以上としてもよい。
CTE1の上限は、例えば、30ppm/℃以下、好ましくは28ppm/℃以下、より好ましくは25ppm以下である。これにより、Tg以下における部材の寸法変化を抑制できる。
【0038】
CTE2の下限は、とくに限定されないが、10ppm/℃以上、好ましくは30ppm/℃以上としてもよい。
CTE2の上限は、例えば、100ppm/℃以下、好ましくは90ppm/℃以下、より好ましくは80ppm/℃以下である。これにより、熱時における部材の寸法変化を抑制できる。
【0039】
(曲げ弾性率および曲げ強度の測定手順1)
熱硬化性樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で金型に注入成形し、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの成形品を得る。
得られた成形品を175℃、4時間の条件で後硬化させ、試験片を作製する。
JIS K 6911に準拠して、ヘッドスピード5mm/minで、室温(25℃)および260℃のそれぞれにおいて、試験片の曲げ弾性率(N/mm2)および曲げ強度(N/mm2)を、測定する。
【0040】
(矩形圧の測定手順2)
低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入速度177mm3/秒の条件にて、幅13mm、厚さ1mm、長さ175mmの矩形状の流路に熱硬化性樹脂組成物を注入した。このとき、流路の上流先端から25mmの位置に埋設した圧力センサーにて圧力の経時変化を測定し、熱硬化性樹脂組成物の流動時における最低圧力(MPa)を測定し、これを矩形圧する。
【0041】
(銅に対するダイシェア強度の測定手順)
低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力10MPa、硬化時間180秒の条件で、当該熱硬化性樹脂組成物を成形して、銅製リードフレーム上に10mm2の試験片を1水準当たり4個成形する。
続いて、自動ダイシェア測定装置を用いて、室温にて試験片と銅製リードフレームとのダイシェア強度を測定する。4個の試験片のダイシェア強度を採用する。
【0042】
以下、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の各成分について詳述する。
【0043】
。
[熱硬化性樹脂]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂(A)を含む。
【0044】
エポキシ樹脂(A)は、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は限定されない。
【0045】
エポキシ樹脂(A)は、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂および/またはビフェニル型エポキシ樹脂(ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂を除く)を少なくとも含む。
【0046】
エポキシ樹脂(A)は、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂およびビフェニル型エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂を含んでもよい。
上記ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂として、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0047】
他のエポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等に例示されるトリスフェノール型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ビフェニレン骨格を含むエポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂以外の他の熱硬化性樹脂を含んでもよい。
他の熱硬化性樹脂として、シアネート樹脂、およびマレイミド樹脂から選択される一種または二種以上を含んでもよい。
【0049】
エポキシ樹脂(A)の含有量は、熱硬化性樹脂組成物100質量%中、例えば、5質量%以上、好ましくは7質量%以上である。また、エポキシ樹脂(A)の含有量は、熱硬化性樹脂組成物100質量%中、例えば、20質量%以下、好ましくは15質量%以下である。
【0050】
[高誘電率フィラー(C)]
熱硬化性樹脂組成物は、高誘電率フィラー(高誘電率充填剤)(C)を含む。
高誘電率フィラー(C)は、チタン酸カルシウム粒子および/またはチタン酸ストロンチウム粒子を含む。これにより、高周波帯域における誘電正接を一層低減できる。
【0051】
熱硬化性樹脂組成物は、チタン酸カルシウム粒子およびチタン酸ストロンチウム粒子以外の他の高誘電率フィラーを含んでもよい。
他の高誘電率フィラーとしては、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、またはジルコン酸カルシウム等を挙げられる。これらから選択される1種または2種以上を用いることができる。
【0052】
レーザー回折散乱法で測定される高誘電率フィラー(C)の体積頻度粒度分布において、累積値が10%となる粒子径をD10、累積値が50%となる粒子径をD50、および累積値が90%となる粒子径をD90とする。
【0053】
D10,D50およびD90が、例えば、0.25≦(D90-D10)/D50≦55、好ましくは0.5≦(D90-D10)/D50≦50、より好ましくは1.0≦(D90-D10)/D50≦40を満たすように構成される。
【0054】
D50は、例えば、好ましくは0.1μm以上50μm以下、より好ましくは0.3μm以上20μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上10μm以下である。
【0055】
高誘電率フィラー(C)の形状は、粒状、不定形、フレーク状などであり、これらの形状の高誘電率フィラー(C)を任意の比率で用いることができる。
【0056】
チタン酸カルシウム粒子の含有量の下限は、熱硬化性樹脂組成物100質量%中、50質量%以上、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。これにより、高周波帯域における誘電正接を一層低減できる。
チタン酸ストロンチウム粒子の下限は、熱硬化性樹脂組成物100質量%中、60質量%以上、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。これにより、高周波帯域における誘電正接を一層低減できる。
チタン酸カルシウム粒子および/またはチタン酸ストロンチウム粒子の上限は、熱硬化性樹脂組成物100質量%中、例えば、90質量%以下、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。これにより、成形品の製造安定性を向上できる。
【0057】
熱硬化性樹脂組成物は、硬化剤(B)を含む。
硬化剤は、活性エステル化合物(B1)および/またはフェノール系硬化剤(B2)を含む。好ましくは、硬化剤は、活性エステル化合物(B1)およびフェノール系硬化剤(B2)を含む。
【0058】
[活性エステル化合物(B1)]
活性エステル化合物(活性エステル硬化剤)(B1)は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の硬化剤として機能する。
活性エステル化合物(B1)は、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル化合物、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル化合物、フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル化合物からなる群から選ばれる一または二以上を含む。
この中でも、ナフタレン構造を含む活性エステル化合物、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル化合物がより好ましい。「ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造」とは、フェニレン-ジシクロペンチレン-フェニレンからなる2価の構造単位を表す。
【0059】
本実施形態において、活性エステル化合物(B1)は、例えば、以下の一般式(1)で表される構造を有する樹脂を用いることができる。
【0060】
【0061】
上記一般式(1)中、
Aは、脂肪族環状炭化水素基を介して連結された置換または非置換のアリーレン基であり、
Ar'は、置換または非置換のアリール基であり、
Bは、下記一般式(B)で表される構造であり、
kは、繰り返し単位の平均値であり、0.25~3.5の範囲である。
【0062】
【0063】
上記一般式(B)中、
Arは、置換または非置換のアリーレン基である。置換されたアリーレン基の置換基は炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基等が挙げられる。
Yは、単結合、置換または非置換の炭素原子数1~6の直鎖のアルキレン基、または置換または非置換の炭素原子数3~6の環式のアルキレン基、置換または非置換の2価の芳香族炭化水素基、エーテル結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基、スルフィド基、あるいはスルホン基である。前記基の置換基としては、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基等が挙げられる。
Yとして好ましくは、単結合、メチレン基、-CH(CH3)2-、エーテル結合、置換されていてもよいシクロアルキレン基、置換されていてもよい9,9-フルオレニレン基等が挙げられる。
nは0~4の整数であり、好ましくは0または1である。
Bは、具体的には、下記一般式(B1)または下記一般式(B2)で表される構造である。
【0064】
【0065】
上記一般式(B1)および上記一般式(B2)中、ArおよびYは、一般式(B)と同義である。
【0066】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、特定の活性エステル化合物を含むことにより、得られる硬化物は優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接に優れる。
【0067】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に用いられる活性エステル化合物(B1)は、式(B)で表される活性エステル基を有する。エポキシ樹脂(A)と活性エステル化合物(B1)との硬化反応において、活性エステル化合物(B1)の活性エステル基はエポキシ樹脂(A)のエポキシ基と反応して2級の水酸基を生じる。この2級の水酸基は、活性エステル化合物(B1)のエステル残基により封鎖される。そのため、硬化物の誘電正接が低減される。
【0068】
一実施形態において、上記式(B)で表される構造は、以下の式(B-1)~式(B-6)から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0069】
【0070】
式(B-1)~(B-6)において、
R1はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、
【0071】
R2はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基の何れかであり、Xは炭素原子数2~6の直鎖のアルキレン基、エーテル結合、カルボニル基、カルボニルオキシ基、スルフィド基、スルホン基のいずれかであり、
nは0~4の整数であり、pは1~4の整数である。
【0072】
上記式(B-1)~(B-6)で表される構造は、いずれも配向性が高い構造であることから、これを含む活性エステル化合物(B1)を用いた場合、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、高周波帯域における低誘電正接を有する。
中でも、低誘電正接の観点から、式(B-2)、式(B-3)または式(B-5)で表される構造を有する活性エステル化合物が好ましく、さらに式(B-2)のnが0である構造、式(B-3)のXがエーテル結合である構造、または式(B-5)において二つのカルボニルオキシ基が4,4'-位にある構造を有する活性エステル化合物がより好ましい。また各式中のR1はすべて水素原子であることが好ましい。
【0073】
式(1)における「Ar'」はアリール基であり、例えば、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、3,5-キシリル基、o-ビフェニル基、m-ビフェニル基、p-ビフェニル基、2-ベンジルフェニル基、4-ベンジルフェニル基、4-(α-クミル)フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等であり得る。中でも、特に誘電正接の低い硬化物が得られることから、1-ナフチル基または2-ナフチル基であることが好ましい。
【0074】
本実施形態において、式(1)で表される活性エステル化合物(B1)における[A]は、脂肪族環状炭化水素基を介して連結された置換または非置換のアリーレン基であり、このようなアリーレン基としては、例えば、1分子中に二重結合を2個含有する不飽和脂肪族環状炭化水素化合物と、フェノール性化合物とを重付加反応させて得られる構造が挙げられる。
【0075】
前記1分子中に二重結合を2個含有する不飽和脂肪族環状炭化水素化合物は、例えば、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエンの多量体、テトラヒドロインデン、4-ビニルシクロヘキセン、5-ビニル-2-ノルボルネン、リモネン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらの中でも、耐熱性に優れる硬化物が得られることからジシクロペンタジエンが好ましい。尚、ジシクロペンタジエンは石油留分中に含まれることから、工業用ジシクロペンタジエンにはシクロペンタジエンの多量体や、他の脂肪族或いは芳香族性ジエン化合物等が不純物として含有されることがあるが、耐熱性、硬化性、成形性等の性能を考慮すると、ジシクロペンタジエンの純度90質量%以上の製品を用いることが望ましい。
【0076】
一方、前記フェノール性化合物は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビニルフェノール、イソプロペニルフェノール、アリルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、クロルフェノール、ブロムフェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、1,4-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等が挙げられ、それぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらの中でも、硬化性が高く硬化物における誘電特性に優れる活性エステル化合物となることからフェノールが好ましい。
【0077】
好ましい実施形態において、式(1)で表される活性エステル化合物における[A]は、式(A)で表される構造を有する。式(1)における[A]が以下の構造である活性エステル化合物を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、高周波帯域における低誘電正接を実現できる。
【0078】
【0079】
式(A)において、
R3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、
lは0または1であり、mは1以上の整数である。
【0080】
式(1)で表される活性エステル硬化剤のうち、より好ましいものとして、下記式(1-1)、式(1-2)および式(1-3)で表される樹脂が挙げられ、特に好ましいものとして、下記式(1-3)で表される樹脂が挙げられる。
【0081】
【0082】
式(1-1)中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、または、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基或いはナフチル基であり、lは0または1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。
【0083】
【0084】
式(1-2)中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、または、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基或いはナフチル基であり、lは0または1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。
【0085】
【0086】
式(1-3)中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、アラルキル基の何れかであり、Zはフェニル基、ナフチル基、または、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基或いはナフチル基であり、lは0または1であり、kは繰り返し単位の平均であり、0.25~3.5である。
【0087】
上記一般式(A)で表される活性エステル化合物(B1)は、脂肪族環状炭化水素基を介してフェノール性水酸基を有するアリール基が複数結節された構造を有するフェノール性化合物(a)と、芳香核含有ジカルボン酸またはそのハライド(b)と、芳香族モノヒドロキシ化合物(c)とを反応させる、公知の方法により製造することができる。
【0088】
上記フェノール性化合物(a)と、芳香核含有ジカルボン酸またはそのハライド(b)と、芳香族モノヒドロキシ化合物(c)との反応割合は、所望の分子設計に応じて適宜調整することができるが、中でも、より硬化性の高い活性エステル化合物(B1)が得られることから、芳香核含有ジカルボン酸またはそのハライド(b)が有するカルボキシル基または酸ハライド基の合計1モルに対し、前記フェノール性化合物(a)が有するフェノール性水酸基が0.25~0.90モルの範囲となり、かつ、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(c)が有するヒドロキシル基が0.10~0.75モルの範囲となる割合で各原料を用いることが好ましく、前記フェノール性化合物(a)が有するフェノール性水酸基が0.50~0.75モルの範囲となり、かつ、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(c)が有するヒドロキシル基が0.25~0.50モルの範囲となる割合で各原料を用いることがより好ましい。
【0089】
また、活性エステル化合物(B1)の官能基当量は、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基およびフェノール性水酸基の合計を樹脂の官能基数とした場合、硬化性に優れ、誘電正接の低い硬化物が得られることから、200g/eq以上230g/eq以下の範囲であることが好ましく、210g/eq以上220g/eq以下の範囲であることがより好ましい。
【0090】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物において、活性エステル化合物(B1)とエポキシ樹脂(A)との含有量は、硬化性に優れ、誘電正接の低い硬化物が得られることから、活性エステル化合物(B1)中の活性基の合計1当量に対して、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基が0.8~1.2当量となる割合であることが好ましい。ここで、活性エステル化合物(B1)中の活性基とは、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基及びフェノール性水酸基を指す。
【0091】
活性エステル化合物(B1)は、熱硬化性樹脂組成物100質量%中、好ましくは0.5質量%以上15質量%以下、より好ましくは2質量%以上12質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上9質量%以下の量で用いられる。
特定の活性エステル化合物(B1)を上記範囲で含むことにより、得られる硬化物はより優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接にさらに優れる。
【0092】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、活性エステル化合物(B1)と、上述の高誘電率フィラー(C)とを組み合わせて用いることにより、高誘電率および低誘電正接により優れ、高周波帯においてもこれらの効果に優れる。
上記効果の観点から、活性エステル化合物(B1)は、上述の高誘電率フィラー(C)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは2質量部以上20質量部以下、さらに好ましくは3質量部以上15質量部以下となるように含むことができる。
【0093】
[フェノール系硬化剤(B2)]
フェノール系硬化剤(B2)は、エポキシ樹脂(A)などの熱硬化性樹脂の硬化剤として機能する。
フェノール系硬化剤(B2)は、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂および/またはフェノールノボラック樹脂を含む。
【0094】
熱硬化性樹脂組成物は、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂およびフェノールノボラック樹脂以外の他の硬化剤を含んでもよい。
ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂としては、例えば、ビフェニレン骨格を含むフェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を含むナフトールアラルキル樹脂等が挙げられる。
【0095】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、活性エステル化合物(B1)以外の他の硬化剤を含むことができる。
他の硬化剤としては、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂およびフェノールノボラック樹脂以外のフェノール樹脂系硬化剤、アミン化合物系硬化剤、アミド化合物系硬化剤、酸無水物系硬化剤などが用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、フェノール樹脂系硬化剤を用いてもよい。
【0096】
フェノール樹脂系硬化剤は、例えば、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、ビフェニレン骨格を含むフェノール樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミンやベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。
【0097】
アミン化合物系硬化剤は、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ-ル、BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体等のアミン化合物が挙げられる。
アミド化合物系硬化剤は、例えば、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂が挙げられる。
酸無水物系硬化剤は、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸が挙げられる。
【0098】
フェノール系硬化剤(B2)を用いる場合、フェノール系硬化剤(B2)の配合量は、熱硬化性樹脂100質量%に対して、好ましくは0.5質量%以上15質量%以下、より好ましくは1質量%以上10質量%以下の量である。上記範囲の量で硬化剤を使用することにより、優れた硬化性を有する熱硬化性樹脂組成物が得られる。
【0099】
[硬化触媒]
熱硬化性樹脂組成物は、硬化触媒を含んでもよい。
硬化触媒は、硬化促進剤などと呼ばれる場合もある。硬化触媒は、熱硬化性樹脂の硬化反応を早めるものである限り特に限定されず、公知の硬化触媒を用いることができる。
【0100】
具体的には、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類(イミダゾール系硬化促進剤);1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン等が例示されるアミジンや3級アミン、アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物などを挙げることができ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0101】
これらの中でも、硬化性を向上させ、曲げ強度などの機械強度に優れた磁性材料を得る観点からはリン原子含有化合物を含むことが好ましく、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましく、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が特に好ましい。
【0102】
一般式(1)で表される化合物(C)と潜伏性を有する硬化触媒とを組み合わせて用いることにより、成形性により優れるとともに、曲げ強度などの機械強度により優れた磁性材料を得ることができる。
【0103】
有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
【0104】
硬化触媒を用いる場合、その含有量は、熱硬化性樹脂組成物100質量%中、好ましくは0.05~3質量%、より好ましくは0.08~2質量%である。このような数値範囲とすることにより、他の性能を過度に悪くすることなく、十分に硬化促進効果が得られる。
【0105】
[無機充填材]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、さらに、吸湿性低減、線膨張係数低減、熱伝導性向上および強度向上のために、高誘電率フィラー(C)以外に無機充填材を含むことができる。
【0106】
無機充填材としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体、またはこれらを球形化したビーズ、ガラス繊維などが挙げられる。これらの無機充填材は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の無機充填材の中で、線膨張係数低減の観点からはシリカが、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましく、充填材形状は成形時の流動性および金型摩耗性の点から球形が好ましい。
【0107】
高誘電率フィラー(C)以外の無機充填材の含有量は、成形性、熱膨張性の低減、および強度向上の観点から、熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量%中、好ましくは3質量%以上60質量%以下、より好ましくは5質量%以上50質量%以下の範囲とすることができる。上記範囲であれば、熱膨張性低減および成形性に優れる。
シリカの含有量は、熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量%中、例えば、25質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下でもよい。
アルミニウム系基材の含有量は、熱硬化性樹脂組成物の固形分100質量%中、例えば、40質量%以下、好ましくは38質量%以下、より好ましくは35質量%以下でもよい。
【0108】
[その他の成分]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上記成分に加え、必要に応じて、シランカップリング剤、離型剤、密着助剤、着色剤、分散剤、低応力化剤等の種々の成分を含むことができる。
【0109】
[熱硬化性樹脂組成物]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述の各成分を均一に混合することにより製造できる。製造方法としては、所定の含有量の原材料をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、ニーダ、押出機等によって溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。得られた熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、成形条件に合うような寸法および質量でタブレット化してもよい。
【0110】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物は、高周波帯において高誘電率および低誘電正接に優れることから、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機器等の高周波デバイスにおける小型化を図ることができる。
【0111】
このような熱硬化性樹脂組成物は、マイクロストリップアンテナ、誘電体導波路、および多層アンテナからなる群から選ばれる高周波デバイスの一部を形成するために用いることができる。
【0112】
本実施形態の高周波デバイスは、熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物を備える。
以下、高周波デバイスの一例を説明する。
【0113】
<マイクロストリップアンテナ>
図1に示すように、マイクロストリップアンテナ10は、上述の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる誘電体基板12と、誘電体基板12の一方の面に設けられた放射導体板(放射素子)14と、誘電体基板12の他方の面に設けられた地導体板16と、を備える。
【0114】
放射導体板の形状は矩形または円形が挙げられる。本実施形態においては、矩形の放射導体板14を用いた例によって説明する。
【0115】
放射導体板14は、金属材料、金属材料の合金、金属ペーストの硬化物、および導電性高分子のいずれかを含む。金属材料は、銅、銀、パラジウム、金、白金、アルミニウム、クロム、ニッケル、カドミウム鉛、セレン、マンガン、錫、バナジウム、リチウム、コバルト、およびチタン等を含む。合金は、複数の金属材料を含む。金属ペースト剤は、金属材料の粉末を有機溶剤、およびバインダとともに混練したものを含む。バインダは、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂を含む。導電性ポリマーは、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリピロール系ポリマー等を含む。
【0116】
本実施形態のマイクロストリップアンテナ10は、
図1に示すように、長さL、幅Wの放射導体板14を有しており、Lが1/2波長の整数倍に一致する周波数で共振する。本実施形態のように、高誘電率である誘電体基板12を用いる場合、誘電体基板12の厚さhと放射導体板14の幅Wは波長に対して十分小さくなるように設計される。
【0117】
地導体板16は、銅や銀、金などの導電性の高い金属で構成される薄い板である。その厚さは、アンテナ装置の中心動作周波数に対して十分薄く、中心動作周波数の50分の1波長から1000分の1波長程度であればよい。
【0118】
マイクロストリップアンテナの給電方法としては,背面同軸給電および共平面給電のような直接給電方式や、スロット結合給電および近接結合給電のような電磁結合給電方式が挙げられる。
【0119】
背面同軸給電は、地導体板16と誘電体基板12を貫く同軸線路やコネクタを用いてアンテナ背面から放射導体板14に給電することができる。
共平面給電は、放射導体板14と同一面上に配置されたマイクロストリップ線路(不図示)で放射導体板14に給電することができる。
【0120】
スロット結合給電においては,地導体板16を挟み込む形でさらに別の誘電体基板(不図示)を設け、放射導体板14とマイクロストリップ線路とを別々の誘電体基板に形成する。地導体板16に空けられたスロットを介して,放射導体板14とマイクロストリップ線路とを電磁結合させることによって放射導体板14が励振される。
【0121】
近接結合給電においては、誘電体基板12が積層構造を有し、放射導体板14が形成された誘電体基板と,マイクロストリップ線路のストリップ導体および地導体板16が配置された誘電体基板とが積層されている.マイクロストリップ線路のストリップ導体を放射導体板14の下部に延長し、放射導体板14とマイクロストリップ線路を電磁結合させることにより、放射導体板14が励振される。
【0122】
図2(a)(b)に、他のマイクロストリップアンテナの態様を示す。なお、
図1と同一の構成には同一の番号を付して適宜説明を省略する。
図2(a)に示すように、マイクロストリップアンテナ20は、誘電体基板22と、誘電体基板22の一方の面に設けられた放射導体板14と、誘電体基板22の他方の面に設けられた地導体板16と、放射導体板14に対向配置された高誘電体基板(高誘電体)24と、を備える。誘電体基板22および放射導体板14と、高誘電体基板24とは、スペーサー26を介して所定距離離間するように構成することができる。
誘電体基板22としては、テフロン基板等の低誘電率の基板から構成される。
高誘電体基板24は、上述の樹脂組成物を硬化してなる誘電体基板により構成されている。
誘電体基板22と高誘電体基板24との空隙部は空間であってもよく、誘電体材料が充填されていてもよい。
また、
図2(b)のマイクロストリップアンテナ20'に示されるように、放射導体板14の上面に高誘電体基板24を当接させた構造とすることもできる。
【0123】
<誘電体導波路>
本実施形態において、誘電体導波路は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる誘電体と、当該誘電体の表面を覆う導体膜と、を備える。誘電体導波路は、電磁波を誘電体(誘電体媒質)中に閉じこめて伝送させるものである。
前記導体膜は、銅等の金属や、酸化物高温超伝導体等から構成することができる。
【0124】
<多層アンテナ>
本実施形態において、多層アンテナは、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる誘電体シートを備える。
具体的には、多層アンテナは、コンデンサ、インダクタなどの多数の素子からなる回路を、誘電体シートに印刷して積層するモジュール化したものである。
【0125】
<第二の発明>
第2の実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)と、硬化剤(B)と、高誘電率充填剤(C)と、を含む。
以下、各成分について説明する
【0126】
[エポキシ樹脂(A)]
エポキシ樹脂(A)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂実施例等を挙げることができ、これらから選択される少なくとも1種を含む。
本実施形態において、エポキシ樹脂(A)は、本発明の効果の観点から、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が好ましく、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂がより好ましい。
エポキシ樹脂(A)は、その他のエポキシ樹脂として、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等を組み合わせて含むことができる。
【0127】
エポキシ樹脂(A)は、本発明の効果の観点から、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、5質量%以上20質量%以下、好ましくは10質量%以上15質量%以下含むことができる。
【0128】
[硬化剤(B)]
本実施形態において、硬化剤(B)は、活性エステル系硬化剤(B1)および/またはフェノール系硬化剤(B2)を含む。
(活性エステル系硬化剤(B1))
活性エステル系硬化剤(活性エステル化合物)(B1)としては、1分子中に1個以上の活性エステル基を有する化合物を用いることができる。中でも、活性エステル系硬化剤(B1)としては、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N-ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等の、反応活性の高いエステル基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましい。
本実施形態においては、前述の特定のエポキシ樹脂(A)と、硬化剤(B)として活性エステル系硬化剤(B1)とを組み合わせて含むことにより、高誘電率および低誘電正接に優れた誘電体基板を得ることができる。
【0129】
活性エステル系硬化剤(B1)の好ましい具体例としては、第一の発明の実施形態で説明した活性エステル化合物と同様のものを用いることができる。
【0130】
本発明で用いられる活性エステル系硬化剤(B1)は、脂肪族環状炭化水素基を介してフェノール性水酸基を有するアリール基が複数結節された構造を有するフェノール性化合物(a)と、芳香核含有ジカルボン酸またはそのハライド(b)と、芳香族モノヒドロキシ化合物(c)とを反応させる、公知の方法により製造することができる。
【0131】
上記フェノール性化合物(a)と、芳香核含有ジカルボン酸またはそのハライド(b)と、芳香族モノヒドロキシ化合物(c)との反応割合は、所望の分子設計に応じて適宜調整することができるが、中でも、より硬化性の高い活性エステル系硬化剤(B1)が得られることから、芳香核含有ジカルボン酸またはそのハライド(b)が有するカルボキシル基または酸ハライド基の合計1モルに対し、前記フェノール性化合物(a)が有するフェノール性水酸基が0.25~0.90モルの範囲となり、かつ、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(c)が有するヒドロキシル基が0.10~0.75モルの範囲となる割合で各原料を用いることが好ましく、前記フェノール性化合物(a)が有するフェノール性水酸基が0.50~0.75モルの範囲となり、かつ、前記芳香族モノヒドロキシ化合物(c)が有するヒドロキシル基が0.25~0.50モルの範囲となる割合で各原料を用いることがより好ましい。
【0132】
また、活性エステル系硬化剤(B1)の官能基当量は、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基およびフェノール性水酸基の合計を樹脂の官能基数とした場合、硬化性に優れ、誘電正接の低い硬化物が得られることから、200g/eq以上230g/eq以下の範囲であることが好ましく、210g/eq以上220g/eq以下の範囲であることがより好ましい。
【0133】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物において、活性エステル系硬化剤(B1)とエポキシ樹脂(A)との配合量は、硬化性に優れ、誘電正接の低い硬化物が得られることから、活性エステル系硬化剤(B1)中の活性基の合計1当量に対して、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基が0.8~1.2当量となる割合であることが好ましい。ここで、活性エステル系硬化剤(B1)中の活性基とは、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基及びフェノール性水酸基を指す。
【0134】
本実施形態の組成物において、活性エステル系硬化剤(B1)は、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.2質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上7質量%以下の量で用いられる。
特定の活性エステル系硬化剤(B1)を上記範囲で含むことにより、得られる硬化物はより優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接にさらに優れる。
【0135】
本実施形態の樹脂組成物は、活性エステル系硬化剤(B1)と、後述の高誘電率充填剤(C)とを組み合わせて用いることにより、高誘電率および低誘電正接により優れ、高周波帯においてもこれらの効果に優れる。
上記効果の観点から、活性エステル系硬化剤(B1)は、後述の高誘電率充填剤(C)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは2質量部以上20質量部以下、さらに好ましくは3質量部以上15質量部以下となるように含むことができる。
【0136】
なお、本出願人は、特開2020-90615号公報に記載のように、本発明とは異なる半導体封止用途において、エポキシ樹脂と、所定の活性エステル系硬化剤と、を含む樹脂組成物を開発している。本発明は、同公報記載の技術に対して、高誘電率充填剤を含有する点で相違している。また、高誘電率充填剤を含有するため、活性エステル系硬化剤とエポキシ樹脂の組み合わせによる作用効果も、高誘電率を有する点、さらに高周波帯において高誘電率および低誘電正接に優れる点で相違している。
【0137】
(フェノール系硬化剤(B2))
フェノール系硬化剤(B2)としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミンやベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。
【0138】
フェノール系硬化剤(B2)の配合量は、エポキシ樹脂(A)に対して、好ましくは、20質量%以上70質量%以下の量である。上記範囲の量で硬化剤を使用することにより、優れた硬化性を有する樹脂組成物が得られる。
【0139】
硬化剤(B)が活性エステル系硬化剤(B1)およびフェノール系硬化剤(B2)を含む場合、活性エステル系硬化剤aに対するフェノール系硬化剤bの含有量の比(b(質量部)/a(質量部))は、好ましくは0.5以上8以下、より好ましくは1以上5以下、さらに好ましくは1.5以上3以下とすることができる。
活性エステル系硬化剤(B1)およびフェノール系硬化剤(B2)を上記の比で含むことにより、得られる硬化物はより優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接にさらに優れる。
【0140】
本実施形態の組成物において、活性エステル系硬化剤(B1)および/またはフェノール系硬化剤(B2)を含む硬化剤(B)は、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.2質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上7質量%以下の量で用いられる。
硬化剤(B)を上記範囲で含むことにより、得られる硬化物はより優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接にさらに優れる。
【0141】
[高誘電率充填剤(C)]
本実施形態において、高誘電率充填剤(高誘電率フィラー)(C)としては、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、ジルコン酸カルシウム等を挙げることができ、これらから選択される少なくとも1種を含むことができる。
本発明の効果の観点から、高誘電率充填剤(C)としては、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、およびチタン酸マグネシウムから選択される少なくとも1種であることが好ましく、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウムがさらに好ましい。
【0142】
高誘電率充填剤(C)の形状は、粒状、不定形、フレーク状などであり、これらの形状の高誘電率充填剤(C)を任意の比率で用いることができる。高誘電率充填剤(C)の平均粒子径は、本発明の効果の観点や流動性・充填性の観点から、好ましくは0.1μm以上50μm以下、より好ましくは0.3μm以上20μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上10μm以下である。
【0143】
高誘電率充填剤(C)の配合量は、熱硬化性樹脂組成物100質量%中に、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上の範囲である。上限値は80質量%以程度である。
高誘電率充填剤(C)の添加量が上記範囲であると、得られる硬化物の高誘電率および低誘電正接により優れるとともに、成形品の製造にも優れる。
【0144】
[硬化触媒]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、さらに硬化触媒を含むことができる。
硬化触媒は、硬化促進剤などと呼ばれる場合もある。硬化触媒は、熱硬化性樹脂の硬化反応を早めるものである限り特に限定されず、公知の硬化触媒を用いることができる。
【0145】
具体的には、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類(イミダゾール系硬化促進剤);1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン等が例示されるアミジンや3級アミン、アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物などを挙げることができ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0146】
これらの中でも、硬化性を向上させ、曲げ強度などの機械強度に優れた磁性材料を得る観点からはリン原子含有化合物を含むことが好ましく、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましく、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が特に好ましい。
【0147】
一般式(1)で表される活性エステル系硬化剤と潜伏性を有する硬化触媒とを組み合わせて用いることにより、成形性により優れるとともに、曲げ強度などの機械強度により優れた磁性材料を得ることができる。
【0148】
有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
テトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば下記一般式(6)で表される化合物等が挙げられる。
【0149】
【0150】
一般式(6)において、
Pはリン原子を表す。
R4、R5、R6およびR7は、それぞれ独立に、芳香族基またはアルキル基を表す。
Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸のアニオンを表す。
【0151】
AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸を表す。
x、yは1~3、zは0~3であり、かつx=yである。
【0152】
一般式(6)で表される化合物は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで水を加えると、一般式(6)で表される化合物を沈殿させることができる。一般式(6)で表される化合物において、リン原子に結合するR4、R5、R6およびR7がフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール類であり、かつAは該フェノール類のアニオンであるのが好ましい。上記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどの単環式フェノール類、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、アントラキノールなどの縮合多環式フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビスフェノール類、フェニルフェノール、ビフェノールなどの多環式フェノール類などが例示される。
【0153】
ホスホベタイン化合物としては、例えば、下記一般式(7)で表される化合物等が挙げられる。
【0154】
【0155】
一般式(7)において、
Pはリン原子を表す。
R8は炭素数1~3のアルキル基、R9はヒドロキシル基を表す。
fは0~5であり、gは0~3である。
【0156】
一般式(7)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られる。
まず、第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。
【0157】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば、下記一般式(8)で表される化合物等が挙げられる。
【0158】
【0159】
一般式(8)において、
Pはリン原子を表す。
R10、R11およびR12は、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0160】
R13、R14およびR15は水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R14とR15が結合して環状構造となっていてもよい。
【0161】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の芳香環に無置換またはアルキル基、アルコキシル基等の置換基が存在するものが好ましく、アルキル基、アルコキシル基等の置換基としては1~6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0162】
また、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられ、中でもp-ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
【0163】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては、有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより付加物を得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
【0164】
一般式(8)で表される化合物において、リン原子に結合するR10、R11およびR12がフェニル基であり、かつR13、R14およびR15が水素原子である化合物、すなわち1,4-ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物が封止用樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
【0165】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(9)で表される化合物等が挙げられる。
【0166】
【0167】
一般式(9)において、
Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表す。
【0168】
R16、R17、R18およびR19は、それぞれ、芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
R20は、基Y2およびY3と結合する有機基である。
R21は、基Y4およびY5と結合する有機基である。
【0169】
Y2およびY3は、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y2およびY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。
【0170】
Y4およびY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y4およびY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。
R20、およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y2、Y3、Y4およびY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。
Z1は芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。
【0171】
一般式(9)において、R16、R17、R18およびR19としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-オクチル基およびシクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等のアルキル基、アルコキシ基、水酸基などの置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基がより好ましい。
【0172】
一般式(9)において、R20は、Y2およびY3と結合する有機基である。同様に、R21は、基Y4およびY5と結合する有機基である。Y2およびY3はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y2およびY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にY4およびY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y4およびY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基R20およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y2、Y3、Y4、およびY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。このような一般式(9)中の-Y2-R20-Y3-、およびY4-R21-Y5-で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものであり、プロトン供与体としては、分子内にカルボキシル基、または水酸基を少なくとも2個有する有機酸が好ましく、さらには芳香環を構成する隣接する炭素にカルボキシル基または水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物が好ましく、芳香環を構成する隣接する炭素に水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物がより好ましく、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,2'-ビフェノール、1,1'-ビ-2-ナフトール、サリチル酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2-ヒドロキシベンジルアルコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,2-プロパンジオールおよびグリセリン等が挙げられるが、これらの中でも、カテコール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
【0173】
一般式(9)中のZ1は、芳香環または複素環を有する有機基または脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基およびオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基およびビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基等のグリシジルオキシ基、メルカプト基、アミノ基を有するアルキル基およびビニル基等の反応性置換基等が挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基およびビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物の製造方法は、例えば以下である。
【0174】
メタノールを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物、2,3-ジヒドロキシナフタレン等のプロトン供与体を加えて溶かし、次に室温攪拌下ナトリウムメトキシド-メタノール溶液を滴下する。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。
【0175】
硬化触媒を用いる場合、その含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.02~0.8質量%である。このような数値範囲とすることにより、他の性能を過度に悪くすることなく、十分に硬化促進効果が得られる。
【0176】
[無機充填剤]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、さらに、吸湿性低減、線膨張係数低減、熱伝導性向上および強度向上のために、高誘電率充填剤(C)以外に無機充填剤を含むことができる。
【0177】
無機充填剤としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体、またはこれらを球形化したビーズ、ガラス繊維などが挙げられる。これらの無機充填材は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の無機充填材の中で、線膨張係数低減の観点からは溶融シリカが、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましく、充填材形状は成形時の流動性および金型摩耗性の点から球形が好ましい。
【0178】
高誘電率充填剤(C)以外の無機充填材の配合量は、成形性、熱膨張性の低減、および強度向上の観点から、熱硬化性樹脂組成物全体に対して、好ましくは15質量%以上、60質量%以下、より好ましくは20質量%以上、50質量%以下の範囲とすることができる。上記範囲であれば、熱膨張性低減および成形性に優れる。
【0179】
[その他の成分]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上記成分に加え、必要に応じて、シランカップリング剤、離型剤、着色剤、分散剤、低応力化剤等の種々の成分を含むことができる。
【0180】
[熱硬化性樹脂組成物]
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、下記エポキシ樹脂(A)と、下記硬化剤(B)と、下記高誘電率充填剤(C)と、を組み合わせて含むことができる。
(エポキシ樹脂(A))
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、およびナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
好ましくは、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
さらに好ましくは、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0181】
(硬化剤(B))
活性エステル系硬化剤(B1)および/またはフェノール系硬化剤(B2)を含む。
好ましくは活性エステル系硬化剤(B1)を含む。
(活性エステル系硬化剤(B1))
ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル系硬化剤、ナフタレン構造を含む活性エステル系硬化剤、フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル系硬化剤、およびフェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル系硬化剤から選択される少なくとも1種を含む。
好ましくは、ナフタレン構造を含む活性エステル系硬化剤、およびジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル系硬化剤から選択される少なくとも1種を含む。
さらに好ましくは、前記一般式(1)で表される構造を備える活性エステル系硬化剤である。
【0182】
(高誘電率充填剤(C))
チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸マグネシウム、ジルコン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、およびジルコン酸カルシウムから選択される少なくとも1種を含む。
好ましくは、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、およびチタン酸マグネシウムから選択される少なくとも1種を含む。
さらに好ましくは、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウムから選択される少なくとも1種を含む。
なお、上述のエポキシ樹脂(A)と、活性エステル系硬化剤および/またはフェノール系硬化剤を含む硬化剤(B)と、高誘電率充填剤(C)とは、各々の例示を任意に組み合わせることができる。
【0183】
さらに、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、
エポキシ樹脂(A)を、当該組成物100質量%中に、好ましくは5質量%以上20質量%以下、より好ましくは10質量%以上15質量%以下の量で含むことができ、
硬化剤(B)を、当該組成物100質量%中に、好ましくは0.2質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上7質量%以下の量で含むことができ、
高誘電率充填剤(C)を、当該組成物100質量%中に、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上含むことができ。上限値は80質量%である。
【0184】
本実施形態においては、上述のエポキシ樹脂(A)と、活性エステル系硬化剤を含む硬化剤(B)と、高誘電率充填剤(C)と、を組み合わせて含むことにより、高誘電率および低誘電正接により優れた誘電体基板が得られる熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0185】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述の各成分を均一に混合することにより製造できる。製造方法としては、所定の配合量の原材料をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、ニーダ、押出機等によって溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。得られた熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、成形条件に合うような寸法および質量でタブレット化してもよい。
【0186】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、スパイラルフローの流動長が50cm以上、好ましくは55cm以上、さらに好ましくは60cm以上である。したがって、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、成形性に優れる。
【0187】
スパイラルフロー試験は、たとえば低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で樹脂成形材料を注入し、流動長を測定することにより行うことができる。
【0188】
また、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、下記条件で測定された矩形圧が0.1MPa以上、好ましくは0.15MPa以上、さらに好ましくは0.20MPa以上である。
矩形圧は、溶融粘度のパラメータであり、数値が小さい方が、溶融粘度が低い。本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、矩形圧が上記範囲であることにより、成形時における金型充填性に優れる。
【0189】
(条件)
低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入速度177mm3/秒の条件にて、幅13mm、厚さ1mm、長さ175mmの矩形状の流路に熱硬化性樹脂組成物を注入し、流路の上流先端から25mmの位置に埋設した圧力センサーにて圧力の経時変化を測定し、前記熱硬化性樹脂組成物の流動時における最低圧力を算出して、この最低圧力を矩形圧とする。
【0190】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、200℃で90分加熱して硬化させた硬化物において、以下の誘電率および誘電正接(tanδ)を有する。
空洞共振器法による25GHzでの誘電率が10以上、好ましくは12以上、より好ましくは13以上、特に好ましくは14以上とすることができる。
空洞共振器法による25GHzでの誘電正接(tanδ)が0.04以下、好ましくは0.03以下、より好ましくは0.02以下、特に好ましくは0.015以下とすることができる。
【0191】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物から得られる硬化物は、高周波帯において高誘電率および低誘電正接に優れることから、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機器等の小型化を図ることができ、マイクロストリップアンテナを形成する材料、誘電体導波路を形成する材料、さらに電磁波吸収体を形成する材料等として好適に用いることができる。
【0192】
<マイクロストリップアンテナ>
本実施形態のマイクロストリップアンテナは、第一の発明の実施形態と同様に
図1、
図2(a)(b)に示す構造を備えるため、説明を省略する。
【0193】
<誘電体導波路>
本実施形態において、誘電体導波路は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる誘電体と、当該誘電体の表面を覆う導体膜と、を備える。誘電体導波路は、電磁波を誘電体(誘電体媒質)中に閉じこめて伝送させるものである。
前記導体膜は、銅等の金属や、酸化物高温超伝導体等から構成することができる。
【0194】
<電磁波吸収体>
本実施形態において、電磁波吸収体は、支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層が積層した構造を備える。当該電磁波吸収体は、高い電波吸収性能を備えるλ/4型電波吸収体として用いることができる。
支持体としては樹脂基材等が挙げられる。支持体により、抵抗皮膜を保護することができ、電波吸収体としての耐久性を高めることができる。
抵抗皮膜としては、酸化インジウムスズ、モリブデン含有抵抗皮膜等が挙げられる。
誘電体層は本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を硬化してなる。その厚みは、10μm以上2000μm以下程度である。
反射層は電波の反射層として機能し得るものであり、例えば金属膜が挙げられる。
【0195】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例0196】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
第1の発明(出願時請求項1~14、23~25)および第1の実施形態に係る実施例を、実施例Aに示す。
第2の発明(出願時請求項15~22、23~25)および第2の実施形態に係る実施例を、実施例Bに示す。
【0197】
<実施例A>
(実施例A1~A19、比較例A1~A4)
<熱硬化性樹脂組成物の調製>
以下の原料を表1に示す含有量で、常温でミキサーを用いて混合した後、70~100℃でロール混錬した。次いで、得られた混錬物を冷却した後、これを粉砕して粉粒状の熱硬化性樹脂組成物を得た。ついで、高圧で打錠成形することにより、タブレット状の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0198】
以下、表1中の原料の情報を示す。
【0199】
(無機充填材)
・無機充填材1:溶融球状シリカ(平均粒子径:31μm)
・無機充填材2:溶融球状シリカ(平均粒子径:0.6μm)
・無機充填材3:アルミナ(平均粒子径:0.6μm)
・無機充填材4:アルミナ(平均粒子径:30μm)
【0200】
(高誘電率フィラー)
・高誘電率フィラー1:チタン酸カルシウム(平均粒子径:2.0μm)
・高誘電率フィラー2:チタン酸カルシウム(平均粒子径:2.7μm)
・高誘電率フィラー3:チタン酸カルシウム(平均粒子径:1.2μm)
・高誘電率フィラー4:チタン酸ストロンチウム(平均粒子径:1.6μm)
・高誘電率フィラー5:チタン酸マグネシウム(平均粒子径:0.8μm)
無機充填材および高誘電率フィラーの粒子径分布は、レーザー回折散乱法を用いて測定した。
なお、レーザー回折散乱法で測定される高誘電率フィラー1の体積頻度粒度分布において、累積値が10%となる粒子径をD10、累積値が50%となる粒子径をD50、および累積値が90%となる粒子径をD90としたとき、D10が0.7μm、D50が2.0μm、D90が7.5μm、(D90-D10)/D50が3.4であった。
【0201】
(熱硬化性樹脂)
・エポキシ樹脂1:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC3000L、日本化薬社製)
・エポキシ樹脂2:ビフェニル型エポキシ樹脂(YY-4000K、三菱ケミカル社製)
・エポキシ樹脂3:2-(4,4-ジメチルペンタン-2-イル)-5,7,7-トリメチルオクタン酸2,3-エポキシプロピル(日産化学社製、FOLDI E101)
・エポキシ樹脂4:ビスフェノールフルオレンエポキシ樹脂(TBIS-GG、田岡化学工業社製)
・エポキシ樹脂5:ビスフェノールフルオレンエポキシ樹脂(TBIS-RXG、田岡化学工業社製)
・エポキシ樹脂6:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(HP-7200L、DIC社製)
・エポキシ樹脂7:分岐アルキル鎖状エポキシ樹脂(YL9057、三菱ケミカル)
・エポキシ樹脂8:フルオレン型エポキシ樹脂(オグソールPG-100、大阪ガスケミカル社製)
・エポキシ樹脂9:ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂(ESN-475V、新日鉄住金化学社製)
【0202】
(活性エステル化合物)
・活性エステル化合物1:下記調製方法で調製した活性エステル化合物
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、ビフェニル-4,4'-ジカルボン酸ジクロライド279.1g(酸クロリド基のモル数:2.0モル)とトルエン1338gとを仕込み、系内を減圧窒素置換して溶解させた。次いで、α-ナフトール96.5g(0.67モル)、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂を219.5g(フェノール性水酸基のモル数:1.33モル)を仕込み、系内を減圧窒素置換して溶解させた。その後、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液400gを3時間かけて滴下した。次いでこの条件下で1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、静置分液し、水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているトルエン相に水を投入して約15分間撹拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、デカンタ脱水で水分を除去し不揮発分65%のトルエン溶液状態にある活性エステル樹脂を得た。得られた活性エステル樹脂の構造を確認したところ、上述の式(1-1)においてR1及びR3が水素原子、Zがナフチル基、lが0の構造を有していた。さらに、繰り返し単位の平均値kは、反応等量比から算出したところ0.5~1.0の範囲であった。
【0203】
・活性エステル化合物2:下記調製方法で調製した活性エステル化合物
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、1,3-ベンゼンジカルボン酸ジクロリド203.0g(酸クロリド基のモル数:2.0モル)とトルエン1338gとを仕込み、系内を減圧窒素置換して溶解させた。次いで、α-ナフトール96.5g(0.67モル)、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂を219.5g(フェノール性水酸基のモル数:1.33モル)を仕込み、系内を減圧窒素置換して溶解させた。その後、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液400gを3時間かけて滴下した。次いでこの条件下で1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、静置分液し、水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているトルエン相に水を投入して約15分間撹拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、デカンタ脱水で水分を除去し不揮発分65%のトルエン溶液状態にある活性エステル樹脂を得た。得られた活性エステル樹脂の構造を確認したところ、上述の式(1-3)においてR
1及びR
3が水素原子、Zがナフチル基、lが0の構造を有していた。活性エステル樹脂の繰り返し単位の平均値kは、反応等量比から算出したところ0.5~1.0の範囲であった。得られた活性エステル樹脂は具体的に以下の化学式で表される構造を有していた。下記式中、繰り返し単位の平均値kは0.5~1.0であった。
【化13】
【0204】
(硬化剤)
・フェノール系硬化剤1:分岐アルキル鎖状フェノールノボラック樹脂(ST-007-02、明和化成社製)
【0205】
(硬化触媒)
・硬化触媒1:テトラフェニルフォスフォニウム-4,4'-スルフォニルジフェノラート
【0206】
(シランカップリング剤)
・シランカップリング剤1:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(CF4083、東レ・ダウコーニング社製)
・シランカップリング剤2:3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(サイラエース、JNC社製)
【0207】
(添加剤)
・着色剤1:黒色酸化チタン(赤穂化成社製)
・離型剤1:グリセリントリモンタン酸エステル(リコルブWE-4、クラリアントジャパン社製)
・低応力化剤1:カルボキシル基末端ブタジエンアクリルゴム(CTBN1008SP、宇部興産社製)
【0208】
(空洞共振器法による誘電率および誘電正接の評価)
得られた熱硬化性樹脂組成物を、Si基板に塗布し、120℃で4分間プリベークを行い、塗布膜厚12μmの樹脂膜を形成した。
これを、窒素雰囲気下、オーブンを用いて200℃で90分加熱し、フッ酸処理(2質量%フッ酸水溶液に浸漬)した。フッ酸から基板を取り出した後に、硬化膜をSi基板から剥離して、これを試験片とした。
測定装置は、ネットワークアナライザHP8510C、シンセサイズドスイーパHP83651AおよびテストセットHP8517B(全てアジレント・テクノロジー社製)を用いた。これら装置と、円筒空洞共振器(内径φ42mm、高さ30mm)とを、セットアップした。
上記共振器内に試験片を挿入した状態と、未挿入状態とで、共振周波数、3dB帯域幅、透過電力比などを、周波数18GHzで測定した。そして、これら測定結果をソフトウェアで解析的に計算することで、誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の誘電特性を求めた。なお、測定モードはTE011モードとした。
【0209】
(ガラス転移温度、線膨張係数)
得られた熱硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)、線膨張係数(CTE1、CTE2)を、以下のように測定した。まず、低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒で、熱硬化性樹脂組成物を注入成形し、10mm×4mm×4mmの試験片を得た。次いで、得られた試験片を175℃、4時間で後硬化した後、熱機械分析装置(セイコー電子工業(株)製、TMA100)を用いて、測定温度範囲0℃~320℃、昇温速度5℃/分の条件下で測定を行った。この測定結果から、ガラス転移温度(Tg)、ガラス転移温度以下における線膨張係数(CTE1)、ガラス転移温度超過における線膨張係数(CTE2)を算出した。
【0210】
(曲げ強度、曲げ弾性率)
得られた熱硬化性樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で金型に注入成形した。これにより、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間の条件で後硬化させた。これにより、機械的強度の評価用の試験片を作製した。そして、試験片の室温(25℃)または260℃における曲げ強度(N/mm2)および曲げ弾性率(N/mm2)を、JIS K 6911に準拠して、ヘッドスピード5mm/minで、測定した。
【0211】
(矩形圧)
低圧トランスファー成形機(NEC(株)製、40tマニュアルプレス)を用いて、金型温度175℃、注入速度177mm3/秒の条件にて、幅13mm、厚さ1mm、長さ175mmの矩形状の流路に熱硬化性樹脂組成物を注入した。このとき、流路の上流先端から25mmの位置に埋設した圧力センサーにて圧力の経時変化を測定し、熱硬化性樹脂組成物の流動時における最低圧力(MPa)を測定し、これを矩形圧とした。矩形圧は、溶融粘度のパラメータであり、数値が小さい方が、溶融粘度が低いことを示す。
【0212】
(吸水率)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力7.4MPa、硬化時間120秒の条件で、熱硬化性樹脂組成物を注入成形して直径50mm、厚さ3mmの試験片を作製し、175℃で4時間後硬化した。その後、得られた試験片を85℃、相対湿度85%の環境下で168時間加湿処理し、加湿処理前後の重量変化を測定し吸湿率を求めた。単位は%(質量%)。
【0213】
(熱伝導率)
50φ×50mmの成形品について、プローブ型熱伝導率測定機(昭和電工(株)・製)を用いて常温で測定した。単位はW/m℃。
【0214】
(銅に対するダイシェア強度)
低圧トランスファー成形機(山城精機社製、「AV-600-50-TF」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力10MPa、硬化時間180秒の条件で、銅製リードフレーム上に10mm2の試験片を1水準当たり4個成形した。続いて、自動ダイシェア測定装置(ノードソン・アドバンスド・テクノロジー社製、DAGE4000型)を用いて、室温にて試験片と銅製リードフレームとのダイシェア強度を測定した。4個の試験片のダイシェア強度の平均値を表に示す。
【0215】
【0216】
【0217】
【0218】
(形状保持性)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒で、熱硬化性樹脂組成物を注入成形し、10mm×4mm×4mmの試験片を得た。次いで、得られた試験片を175℃、4時間で後硬化した後、熱機械分析装置(セイコー電子工業(株)製、TMA100)を用いて、測定温度範囲0℃~320℃、昇温速度5℃/分の条件下で、試験片の寸法変化率を測定した。
試験片の寸法変化率が0.6%以下のものを形状保持性が良好(○)、0.6%超えのものを不良(×)と評価した。
【0219】
(靱性)
熱硬化性樹脂組成物について、ASTM D5045-91で規格されているKIc法に準拠して測定を行った。硬化性樹脂組成物を長さ50mm、幅B=5mm、厚みW=10mmの大きさで長さ方向中央部に厚み方向の深さ3.5mmのノッチを施し、175℃×4時間で硬化した。更に硬化物のノッチ先端部分に厚み方向の深さ0.1mmの傷を剃刀で施した。合計クラック長a=3.6mmである。その後、オリエンテック社製STB-1225S型テンシロンを用いて、測定温度25℃、速度10mm/分、支点間距離S=40mmで3点曲げ試験をおこない、下記式に基づき破壊靭性値(K1c(MPa・m1/2))を算出した。
KIC=((PQ×S)/(B×W3/2))×f(a/W)
f(a/W)=(3(a/W)1/2[1.99-(a/W)(1-a/W){2.15-3.9(a/W)+2.7(a/W)2])/(2{881+2(a/W)}{1-(a/W)}3/2)
破壊靭性値が1.8MPa・m1/2以上のものを靱性が良好(○)、1.8MPa・m1/2未満のものを不良(×)と評価した。
【0220】
(ボイド抑制)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒で、熱硬化性樹脂組成物を注入成形し、10mm×4mm×4mmの試験片を得た。得られた試験片(成形品)の断面について、SEM観察によりボイドの有無を確認した。
5箇所のSEM画像にボイドが確認されたかった場合を○、5箇所中1箇所以上で確認された場合を×と評価した。
【0221】
(充填性)
金型温度:175℃、注入速度:10.5mm/s、注入圧力:3.5MPa、硬化時間:120秒、タブレットサイズ:40mmΦ-40g(成型圧力8MPa)の条件にて、金型に形成された幅5mm、スリットギャップ(G)25μmの矩形状の流路に、熱硬化性樹脂を注入し、流路の上流先端からの充填長さを測定した。
充填長さが8mm以上の場合を充填性が良好(○)、8mm未満の場合を不良と評価した。
【0222】
実施例A1~A19の熱硬化性樹脂組成物は、比較例A1~A4と比べて、成形された部材の高周波帯域における高誘電率および低誘電正接に優れており、比較例3と比べて、部材の形状保持性に優れており、比較例A1、A2、A4と比べて、部材の靱性に優れており、比較例A3と比べて、部材の成形時におけるボイド発生が抑制されており、比較例A4と比べて、部材の成形時における充填性に優れる結果を示した。
このような各実施例の熱硬化性樹脂組成物は、マイクロストリップアンテナ、誘電体導波路、および多層アンテナ等の高周波デバイスの一部を形成するために好適に用いることが可能である。
【0223】
<実施例B>
(実施例B1~B17、参考例B1)
以下の原料を表3に示す配合量で、常温でミキサーを用いて混合した後、70~100℃でロール混錬した。次いで、得られた混錬物を冷却した後、これを粉砕して粉粒状の樹脂組成物を得た。ついで、高圧で打錠成形することにより、タブレット状の樹脂組成物を得た。
【0224】
(無機充填剤)
・無機充填剤1:溶融球状シリカ(デンカ株式会社製)
【0225】
(高誘電率充填剤)
・高誘電率充填剤1:チタン酸カルシウム(平均粒子径2.0μm)
・高誘電率充填剤2:チタン酸マグネシウム、(平均粒径0.8μm、表面処理あり、チタン工業社製)
・高誘電率充填剤3:チタン酸ストロンチウム(平均粒子径1.6μm)
【0226】
(着色剤)
・着色剤1:黒色酸化チタン(赤穂化成社製)
【0227】
(カップリング剤)
・カップリング剤1:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(CF4083、東レ・ダウコーニング社製)
・カップリング剤2:3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(サイラエース、JNC社製)
【0228】
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(NC3000L、日本化薬社製)
・エポキシ樹脂2:ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂(ESN-475V、新日鉄住金化学社製)
・エポキシ樹脂3:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(YL6810、三菱化学社製)
・エポキシ樹脂4:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(jER806H、三菱ケミカル社製)
・エポキシ樹脂5:フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(ミレックスE-XLC-4L(エポキシ等量238g/eq, 軟化点62℃)、三井化学社製)
・エポキシ樹脂6:ナフタレン型エポキシ樹脂(EPICLON HP-4770、DIC社製)
・エポキシ樹脂7:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(EPICLON HP-7200L、DIC社製)
・エポキシ樹脂8:グリシジルアミン型エポキシ樹脂(jER603、三菱ケミカル社製)
【0229】
(硬化剤)
・硬化剤1:下記調製方法で調製した活性エステル系硬化剤
(活性エステル系硬化剤の調製方法)
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸ジクロライド279.1g(酸クロリド基のモル数:2.0モル)とトルエン1338gとを仕込み、系内を減圧窒素置換して溶解させた。次いで、α-ナフトール96.5g(0.67モル)、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂を219.5g(フェノール性水酸基のモル数:1.33モル)を仕込み、系内を減圧窒素置換して溶解させた。その後、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液400gを3時間かけて滴下した。次いでこの条件下で1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、静置分液し、水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているトルエン相に水を投入して約15分間撹拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、デカンタ脱水で水分を除去し不揮発分65%のトルエン溶液状態にある活性エステル樹脂を得た。得られた活性エステル樹脂の構造を確認したところ、上述の式(1-1)においてR1及びR3が水素原子、Zがナフチル基、lが0の構造を有していた。さらに、繰り返し単位の平均値kは、反応等量比から算出したところ0.5~1.0の範囲であった。
【0230】
・硬化剤2:下記調製方法で調製した活性エステル系硬化剤
(活性エステル系硬化剤の調製方法)
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、1,3-ベンゼンジカルボン酸ジクロリド203.0g(酸クロリド基のモル数:2.0モル)とトルエン1338gとを仕込み、系内を減圧窒素置換して溶解させた。次いで、α-ナフトール96.5g(0.67モル)、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂を219.5g(フェノール性水酸基のモル数:1.33モル)を仕込み、系内を減圧窒素置換して溶解させた。その後、窒素ガスパージを施しながら、系内を60℃以下に制御して、20%水酸化ナトリウム水溶液400gを3時間かけて滴下した。次いでこの条件下で1.0時間撹拌を続けた。反応終了後、静置分液し、水層を取り除いた。更に反応物が溶解しているトルエン相に水を投入して約15分間撹拌混合し、静置分液して水層を取り除いた。水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。その後、デカンタ脱水で水分を除去し不揮発分65%のトルエン溶液状態にある活性エステル樹脂を得た。得られた活性エステル樹脂の構造を確認したところ、上述の式(1-3)においてR
1及びR
3が水素原子、Zがナフチル基、lが0の構造を有していた。活性エステル樹脂の繰り返し単位の平均値kは、反応等量比から算出したところ0.5~1.0の範囲であった。得られた活性エステル樹脂は具体的に以下の化学式で表される構造を有していた。下記式中、繰り返し単位の平均値kは0.5~1.0であった。
【化14】
【0231】
[硬化触媒]
・硬化触媒1:テトラフェニルフォスフォニウム-4,4’-スルフォニルジフェノラート
【0232】
(添加剤)
・シリコーン1:ジメチルシロキサン-ジグリシジンエーテル共重合体(M69B、住友ベークライト社製)
【0233】
(低応力剤)
・低応力剤1:カルボキシル基末端ブタジエンアクリルゴム(CTBN1008SP、宇部興産社製)
【0234】
(空洞共振器法による誘電率および誘電正接の評価)
まず、樹脂組成物を用いて、試験片を得た。
具体的には、実施例および比較例で調製した樹脂組成物を、Si基板に塗布し、120℃で4分間プリベークを行い、塗布膜厚12μmの樹脂膜を形成した。
これを、窒素雰囲気下、オーブンを用いて200℃で90分加熱し、フッ酸処理(2質量%フッ酸水溶液に浸漬)した。フッ酸から基板を取り出した後に、硬化膜をSi基板から剥離して、これを試験片とした。
測定装置は、ネットワークアナライザHP8510C、シンセサイズドスイーパHP83651AおよびテストセットHP8517B(全てアジレント・テクノロジー社製)を用いた。これら装置と、円筒空洞共振器(内径φ42mm、高さ30mm)とを、セットアップした。
上記共振器内に試験片を挿入した状態と、未挿入状態とで、共振周波数、3dB帯域幅、透過電力比などを、周波数25GHzで測定した。そして、これら測定結果をソフトウェアで解析的に計算することで、誘電率(Dk)および誘電正接(Df)の誘電特性を求めた。なお、測定モードはTE011モードとした。
【0235】
(スパイラルフローの測定)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で、実施例および比較例で得られた樹脂組成物を注入し、流動長を測定した。
【0236】
(ゲルタイム(GT))
175℃に加熱した熱板上で実施例および比較例の樹脂組成物をそれぞれ溶融後、へらで練りながら硬化するまでの時間(単位:秒)を測定した。
【0237】
(成形収縮率)
各実施例および比較例について、得られた樹脂組成物について、成形(ASM:as Mold)を行った後の成形収縮率(ASM後)を測定し、当該成形後、本硬化させて誘電体基板を作製することを想定した加熱条件(PMC:Post Mold Cure)で成形収縮率(PMC後)を評価した。
まず、低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で作製した試験片に対して、JIS K 6911に準じて成形収縮率(ASM後)を得た。
さらに、得られた試験片を175℃で4時間加熱処理し、JIS K 6911に準じて成形収縮率(PMC後)を測定した。
【0238】
(ガラス転移温度、線膨張係数)
各実施例および比較例について、得られた樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)、線膨張係数(CTE1、CTE2)を、以下のように測定した。まず、低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒で封止用樹脂組成物を注入成形し、10mm×4mm×4mmの試験片を得た。次いで、得られた試験片を175℃、4時間で後硬化した後、熱機械分析装置(セイコー電子工業(株)製、TMA100)を用いて、測定温度範囲0℃~320℃、昇温速度5℃/分の条件下で測定を行った。この測定結果から、ガラス転移温度(Tg)、ガラス転移温度以下における線膨張係数(CTE1)、ガラス転移温度超過における線膨張係数(CTE2)を算出した。
【0239】
(機械強度の評価(曲げ強度/曲げ弾性率))
実施例および比較例の樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度130℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒の条件で金型に注入成形した。これにより、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間の条件で後硬化させた。これにより、機械的強度の評価用の試験片を作製した。そして、試験片の室温(25℃)または260℃における曲げ強度(N/mm2)および曲げ弾性率(N/mm2)を、JIS K 6911に準拠してヘッドスピード5mm/minで、測定した。
【0240】
(矩形圧の測定)
実施例および比較例の樹脂組成物の矩形圧を次のように測定した。まず、低圧トランスファー成形機(NEC(株)製、40tマニュアルプレス)を用いて、金型温度175℃、注入速度177mm3/秒の条件にて、幅13mm、厚さ1mm、長さ175mmの矩形状の流路に樹脂組成物を注入した。このとき、流路の上流先端から25mmの位置に埋設した圧力センサーにて圧力の経時変化を測定し、樹脂組成物の流動時における最低圧力(MPa)を測定し、これを矩形圧とした。矩形圧は、溶融粘度のパラメータであり、数値が小さい方が、溶融粘度が低いことを示す。
【0241】
【0242】
【0243】
表3の結果から、本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、高誘電率および低誘電正接に優れた誘電体基板、言い換えればこれらの特性のバランスに優れた誘電体基板が得られることが明らかとなった。