(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179452
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】癌の転移抑制および治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/085 20060101AFI20231212BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20231212BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231212BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20231212BHJP
【FI】
A61K31/085
A61P35/04
A61P35/00
A23L33/10
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023144926
(22)【出願日】2023-09-07
(62)【分割の表示】P 2021095637の分割
【原出願日】2018-02-06
(31)【優先権主張番号】10-2017-0016587
(32)【優先日】2017-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0014306
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】519289305
【氏名又は名称】オンコクロス カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】キム,イ-ラン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】膵臓癌に対する抗癌活性と癌細胞の増殖および転移抑制効果を一緒に有する組成物を提供する。
【解決手段】クロルフェネシン(chlorphenesin)または薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含む、膵臓癌の予防または治療用薬学組成物、および/または抗癌サプリメントとする。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロルフェネシンまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、膵臓癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
前記クロルフェネシンは、下記化1で表される、請求項1に記載の組成物。
【化1】
【請求項3】
クロルフェネシンまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、膵臓癌の転移抑制のための薬学的組成物。
【請求項4】
クロルフェネシンまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、抗癌サプリメントであって、前記癌は、膵臓癌である抗癌サプリメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療および転移抑制用組成物に関するものであって、クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンの単独または併用処理による抗癌および転移抑制効果に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの体を構成する最小単位を細胞(cell)と呼ぶが、正常な細胞は、細胞内の調節機能によって分裂して成長したり、死滅したりして、細胞数のバランスを維持する。ある原因によって細胞が損傷を受けた場合には、治療を受けて正常な細胞としての役割をしたり、回復しなかった場合には、自滅する。しかし、様々な理由により、細胞の遺伝子に変化が起これば、異常に細胞が変化してしまい不完全に成長し、細胞周期が調節されずに細胞分裂をし続けるが、これを癌(cancer)と定義する。また、癌は、周囲の組織および臓器に侵入し、これらを破壊するだけでなく、他の臓器にまで広まって行く特徴がある。癌による死亡率は、韓国内における死亡原因第1位となっており、毎年その数が増加している。特定の癌の医学的治療には、目覚ましい進歩をなしてきたものの、全ての癌の全体の5年生存率は、過去20年間で約10%程度しか改善されていない。癌、または悪性腫瘍は、制御されない方式で速くに転移および成長するので、良いタイミングでこれを検出し、治療することが極度に困難である。
【0003】
大腸は、小腸の端から始まり、肛門まで続く長いチューブ状の消化器官であって、この部位で発生する癌を大腸癌という。大腸癌は、発生する部位別に大きく結腸癌と直腸癌とに区分される。大腸癌の患者は、一般的に排便習慣の変化、血便や粘液便、太さが細い便、体重の減少、腹部の不快感、疲労、食欲不振などの症状を見せる。大腸癌は、主に肝臓、肺へと転移し、大腸癌患者の約50%以上から癌転移(cancer metastasis)が発生する。従来の大腸癌の治療は、外科的な手術と化学療法が行われるが、代表的な標的療法として、「Cetuximab(Erbitux)注射剤」が使われている。Cetuximabとは、上皮成長因子受容体(Epidermal growth factor receptor、EGFR)を標的とするモノクローナル抗体であって、大腸癌細胞表面のEGFRに特異的に結合し、癌細胞の増殖を引き起こすシグナル伝達の過程で、特定の部分を抑制し、癌細胞の全般的な増殖を抑制する。
【0004】
膵臓癌は、最も致命的な形態の癌の一つである。米国では、毎年4万名以上が膵臓癌の診断を受け、これらの内、5%未満が診断後、5年以上生存する。このような低生存率は、主に、ほとんどの膵臓癌が進行した段階までに診断されないことに起因する。膵臓癌は、通常、初期段階では、症状がないが、後期の段階での症状は、非-特異的で多様なため、早期診断を困難にする。膵臓癌の治療の選択肢は、限られている。手術および放射線治療は、初期段階での膵臓癌に行われることがあるが、進行性または再発性膵臓癌にはあまり効果的ではない。ゲムシタビンの週1回の静脈内投与が有効であることが分かった。これは、1998年に米国FDAによって膵臓癌に承認された。膵臓癌の治療のために最も多く用いられる抗癌剤であるゲムシタビン(gemcitabine)は、シュウ酸(oxalate)や5-FU(5-fluorouracil)などの他の薬物と一緒に併用して使用されているが、膵臓癌の患者の有意な生存率の増加には、大きな影響を及ぼしていない。姑息的療法のための標準的な治療法は、単独療法またはEGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるエルロチニブとの併用療法で使われるゲムシタビンである。代替オプションとして、5フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカンおよびオキサリプラチンの併用(FOLFIRINOXプロトコルとしても知られている)、またはゲムシタビンとナブ-パクリタキセルの併用があり、後者は、MPACT研究でゲムシタビン単独療法に比べて優れた効果を示す(Von Hoff et al.,2013; S3-Leitlinie Exokrines Pankreaskarzinom、2013)。米国FDAは、また、過去に化学療法を受けなかった進行段階の膵臓癌患者に対して、ゲムシタビンと併用して使用するためのキナーゼ阻害剤エルロチニブを承認した。しかし、エルロチニブから誘導される生存期間中央値(median overall survival)の利益は、わずか4週間未満であった(Moore et al.,J. Clin. Oncol.,25(15):1960-6(2007))。
【0005】
胆管は、肝臓で作られる胆汁を十二指腸に送る管であって、肝臓の中から木の枝が一つの幹に向かって集まるように、徐々に合流し太くなり、肝臓から出る際に、左右の胆管がほとんど合流して一本となる。胆管は、肝臓の中を走る間、肝内胆管と肝臓の外に出てから十二指腸まで続く、肝外胆管に分けられる。 肝外胆管の内、胆汁を一時的に保存して濃縮する袋を胆嚢と呼び、これらの肝内外胆管と胆嚢をあわせて胆道と呼ぶ。胆管は、肝臓から排出される胆汁の通路であって、木の幹のように徐々に太くなり、十二指腸に開口している。 そして、胆汁を1次的に蓄える場所としては、胆嚢がある。胆管癌と胆嚢癌を総称して胆道癌とし、胆道、胆嚢内部を取り囲んでいる上皮細胞に発生する癌である。胆道癌は、診断当時70-80%が進行性癌であって、手術は30~40%のみが可能であり、5年生存率は、7%前後に過ぎない治療が難しい難治癌の一つである。現在まで、色んな癌に対する多くの抗癌剤が開発されているにもかかわらず、抗癌剤だけで完治が可能な癌は、少数の癌に過ぎない。その理由は、抗癌剤を使った癌の治療時、抗癌剤に癌細胞が反応しなかったり、初期には効果的に腫瘍が減少するが、治療途中または治療後に、抗癌剤に耐性が生じてしまうからである。したがって、効果的な抗癌の治療のためには、抗癌剤に対する癌細胞の耐性など、抗癌剤に対する抵抗性を克服しなければならない。胆道癌の場合にも、抗癌剤の耐性が早期に頻繁に発生し、抗癌剤の反応率が15%に過ぎず、術後の再発率が85%に達するにもかかわらず、手術前と後の補助抗癌剤療法のために用いることができる、効果的な抗癌薬剤が全くない状態である。
【0006】
悪性腫瘍は、ほとんどの場合、1つの臓器(肺、肝臓、腎臓、胃、大腸、直腸など)で発生した後、最初に発生した原発部位の臓器から他の組織に広まるが、このように原発部位から他の組織に広まることを転移(metastasis)という。転移は、悪性腫瘍の進行に伴う現象であって、悪性腫瘍細胞が増殖し、癌が進行するにつれて、転移に必要な新たな遺伝形質を獲得した後、血管とリンプ線に浸潤して血液やリンパ管に沿って循環している途中、他の組織に定着した後、増殖する。
【0007】
現在、癌の治療には手術療法、放射線治療や化学療法などが使用されている。この中で、化学療法は、抗癌剤を用いて癌を治療する方法をいう。今日では、約60種の様々な抗癌剤が使用されており、最近の癌の発症および癌細胞の特性に関する知識が多く知られるにつれて、新たな抗癌剤の開発に関する研究が活発に進められている。また、現在の治療法は、癌細胞の死滅または除去に焦点を当てており、癌患者の生存率と直接に結びつく、原因である癌細胞の増殖と転移を防止するための薬物の研究が不足しているのが現状である。したがって、癌治療と患者の生存率を高めるためには、抗癌活性と癌細胞の増殖および転移抑制効果を一緒に有する新概念の薬物の開発が切実に望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Moore et al.,J. Clin. Oncol.,25(15):1960-6(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の発明者は、クロルフェネシン、クロロキンまたはクロロピラジンが、抗癌効果、および癌細胞の増殖と転移抑制に効果があることを確認し、これらの組み合わせが相乗作用を奏することを確認し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、クロルフェネシン(chlorphenesin)、クロロキン(chloroquine)およびクロロピラジン(chloropyrazine)から選択される1つ以上、または薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含む、癌の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンからなる群から選択される1つ以上、または薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含む、癌増殖と転移抑制用薬学的組成物を提供する。
【0012】
また、クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンからなる群から選択される1つ以上、または薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含む、抗癌サプリメントを提供する。
【0013】
さらに、クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンからなる群から選択される1以上を含む癌の予防または改善用食品組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、癌細胞の増殖および転移を一緒に抑制することを目的とする抗癌組成物に関するものであって、クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンを、それぞれまたはいくつかの組み合わせで併用投与することにより、著しく効果的な増殖と転移を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】クロルフェネシン(OC-201)の大腸癌細胞株CT26、HCT116およびSW480の細胞生存率を示すグラフである。
【
図2】クロロキン(OC-202)の大腸癌細胞株CT26、HCT116およびSW480の細胞生存率を示すグラフである。
【
図3】クロロピラジン(OC-203)の大腸癌細胞株CT26、HCT116およびSW480の細胞生存率を示すグラフである。
【
図4】クロルフェネシンとクロロキンの併用処理による大腸癌細胞株CT26、HCT116およびSW480の細胞生存率を示すグラフである。
【
図5】クロルフェネシンとクロロピラジンの併用処理による大腸癌細胞株CT26、HCT116およびSW480の細胞生存率を示すグラフである。
【
図6】クロルフェネシン濃度によるSW480細胞の移動程度を確認する図である。
【
図7】クロルフェネシン濃度によるSW480細胞の移動程度を示すグラフである。
【
図8】クロルフェネシン濃度によるHCT116細胞の移動程度を確認する図である。
【
図9】クロルフェネシン濃度によるHCT116細胞の移動程度を示すグラフである。
【
図10】クロルフェネシン濃度によるCT26細胞の移動程度を確認する図である。
【
図11】クロルフェネシン濃度によるCT26細胞の移動程度を示すグラフである。
【
図12】クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンの単独または併用処理によるSW480細胞の移動程度を確認する図である。
【
図13】クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンの単独または併用処理によるSW480細胞の移動程度を示すグラフである。
【
図14】クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンの単独または併用処理によるHCT116細胞の移動程度を確認する図である。
【
図15】クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンの単独または併用処理によるHCT116細胞の移動程度を示すグラフである。
【
図16】クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンの単独または併用処理によるCT26細胞の移動程度を確認する図である。
【
図17】クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンの単独または併用処理によるCT26細胞の移動程度を示すグラフである。
【
図18】クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンの併用処理濃度によるSW480細胞の移動阻害への相乗作用(synergistic effect)を確認した図である。
【
図19】クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンの併用処理濃度によるHCT116細胞の移動阻害への相乗作用を確認した図である。
【
図20】クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンの併用処理濃度によるCT26細胞の移動阻害の相乗作用を確認した図である。
【
図21】クロルフェネシン単独処理によるHCT116細胞の移動抑制効果を創傷治癒アッセイ方法で確認した図である。
【
図22】クロルフェネシン単独処理によるHCT116細胞の移動抑制効果を創傷治癒アッセイで確認した図である。
【
図23】クロルフェネシン単独処理によるHCT116の創傷治癒アッセイ結果を示すグラフである。
【
図24】クロロキン(OC-202)とクロロピラジン(OC-203)をそれぞれ単独処理によるHCT116細胞の移動抑制効果を創傷治癒アッセイで確認した図である。
【
図25】クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理したHCT116細胞の移動抑制効果を創傷治癒アッセイで確認した図である。
【
図26】クロロキンまたはクロロピラジンの単独処理、またはクロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理したHCT116細胞の創傷治癒アッセイ結果を示すグラフである。
【
図27】クロルフェネシン処理濃度によるHCT116細胞のコロニー形成アッセイ結果を示す図である。
【
図28】クロルフェネシン、クロロキンまたはクロロピラジンの単独処理、またはクロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理した濃度によるHCT116細胞のコロニー形成アッセイ結果を示す図である。
【
図29】クロルフェネシン、クロロキンまたはクロロピラジンの単独処理、またはクロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理した濃度によるCT26細胞のコロニー形成アッセイ結果を示す図である。
【
図30】クロルフェネシン処理濃度による膵臓癌細胞株Aspc-1、MIAPaCA2とPanc-1の細胞生存率を示すグラフである。
【
図31】クロロキン処理濃度による膵臓癌細胞株Aspc-1、MIAPaCA2とPanc-1の細胞生存率を示すグラフである。
【
図32】クロロピラジン処理濃度による膵臓癌細胞株Aspc-1、MIAPaCA2とPanc-1の細胞生存率を示すグラフである。
【
図33】クロルフェネシン5μMにクロロキンを1μM~50μMで併用処理した膵臓癌細胞株Aspc-1、MIAPaCA2とPanc-1の細胞生存率を示すグラフである。
【
図34】クロロキン0.5μMにクロルフェネシンを1μM~50μMで併用処理した膵臓癌細胞株Aspc-1、MIAPaCA2とPanc-1の細胞生存率を示すグラフである。
【
図35】クロロキン1μMにクロルフェネシンを1μM~50μMで併用処理した膵臓癌細胞株Aspc-1、MIAPaCA2とPanc-1の細胞生存率を示すグラフである。
【
図36】クロロキン5μMにクロルフェネシンを1μM~50μMで併用処理した膵臓癌細胞株Aspc-1、MIAPaCA2とPanc-1の細胞生存率を示すグラフである。
【
図37】クロルフェネシン5μMにクロロピラジンを1μM~25μMで併用処理した膵臓癌細胞株Aspc-1、MIAPaCA2とPanc-1の細胞生存率を示すグラフである。
【
図38】クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンをそれぞれ単独処理したり、クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理した膵臓癌細胞株Panc-1の移動程度を示す図である。
【
図39】クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理した膵臓癌細胞株Panc-1で併用処理濃度による細胞の移動阻害への相乗作用を確認した図である。
【
図40】クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンをそれぞれ単独処理したり、クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理した膵臓癌細胞株Aspc-1の移動程度を示す図である。
【
図41】クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理した膵臓癌細胞株Aspc-1で併用処理濃度による細胞の移動阻害への相乗作用を確認した図である。
【
図42】クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンをそれぞれ単独処理したり、クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理した膵臓癌細胞株Panc-1の浸潤解析結果を示す図である。
【
図43】クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理した膵臓癌細胞株Panc-1で併用処理濃度による細胞の浸潤抑制への相乗作用を確認した図である。
【
図44】クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンをそれぞれ単独処理したり、クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理した膵臓癌細胞株 MIACaPa2の浸潤解析結果を示す図である。
【
図45】クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理した膵臓癌細胞株MIACaPa2で併用処理濃度による細胞の浸潤抑制への相乗作用を確認した図である。
【
図46】胆道癌細胞SNU1079とSNU308のクロルフェネシン濃度による細胞生存率を示すグラフである。
【
図47】胆道癌細胞SNU1079とSNU308のクロロキンの濃度による細胞生存率を示すグラフである。
【
図48】胆道癌細胞SNU1079とSNU308のクロロピラジンの濃度による細胞生存率を示すグラフである。
【
図49】クロルフェネシンとクロロキンの併用処理濃度による胆道癌細胞SNU1079とSNU308細胞生存率を示すグラフである。
【
図50】クロルフェネシンとクロロピラジンの併用処理濃度による胆道癌細胞SNU1079とSNU308細胞生存率を示すグラフである。
【
図51】クロルフェネシン濃度による胆道癌細胞SNU1079の移動阻害の程度を確認した図である。
【
図52】クロルフェネシン濃度による胆道癌細胞SNU1079の移動阻害の程度を確認したグラフである。
【
図53】クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンをそれぞれ単独処理したり、クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理した胆道癌細胞SNU1079の移動阻害の程度を確認した図である。
【
図54】クロルフェネシンとクロロキン、またはクロロピラジンを併用処理した胆道癌細胞株SNU1079で併用処理濃度による細胞の移動阻害への相乗作用を確認した図である。
【
図55】クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンをそれぞれ単独処理したり、クロルフェネシンとクロロキン、またはクロロピラジンを併用処理した胆道癌細胞SNU1079の浸潤抑制効果を示す図である。
【
図56】クロルフェネシンとクロロキン、またはクロロピラジンを併用処理した胆道癌細胞株SNU1079で併用処理濃度による細胞の浸潤抑制への相乗作用を確認した図である。
【
図57】ロルフェネシン細胞毒性の評価結果を示すグラフである。
【
図58】クロルフェネシン処理されるか、処理されていないCT26細胞およびHCR116細胞の染色画像である。
【
図59】クロルフェネシン処理されるか処理されていないCT26細胞の単層の染色画像である。
【
図60】癌転移動物モデルから収集した肺の画像および肺に発生したnoduleの数を示すグラフである。
【
図61】癌転移動物モデルの体重及び腫瘍の大きさの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付された図面を参照して、本発明の実施例において、本発明を詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明の例示として挙げるものであり、当業者に周知著名な技術または構成に対する具体的な説明が、本発明の要旨を不要に曖昧にし得ると判断された場合には、その詳細な説明を省略することができ、これにより本発明が限定されるものではない。本発明は、後述する特許請求の範囲の記載およびそれから解釈される均等範疇内で多様な変形および応用が可能である。
【0017】
また、本明細書にて用いられる用語(terminology)は、本発明の好適な実施例を適切に表現するために使用される用語であって、これらは、ユーザー、運用者の意図または本発明が属する分野の慣例などによって変わり得る。したがって、本用語の定義は、本明細書全般にわたった内容に基づいてなされるべきである。明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」としたとき、これは特に相反する記載がない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0018】
一側面において、本発明は、クロルフェネシン(chlorphenesin)、クロロキン(chloroquine)とクロロピラジン(chloropyrazine)から選択される1つ以上、または薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含む、癌の予防または治療用薬学組成物に関するものである。
【0019】
一実施例において、クロルフェネシンは、下記化1で、クロロキンは下記化2で、およびクロロピラジンは下記化3で、表されることができる。
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
一実施例において、クロルフェネシンは下記化4で表されるクロルフェネシンカルバミン酸エステル(chlorphenesin carbamate)であることができる。
【0024】
【0025】
本発明のクロルフェネシンカルバミン酸エステルは、主に筋肉弛緩剤として使用され、鎮静、不安緩和などの効果および抗真菌、抗菌効果があることが知られている。
【0026】
一実施例において、本発明の薬学組成物は、クロルフェネシンおよびクロロキン、クロルフェネシンおよびクロロピラジン、クロロキンおよびクロロピラジン、またはクロルフェネシン、クロロキンおよびクロルフェネシン、またはこれらの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含むことができ、クロルフェネシンとクロロキン、またはクロルフェネシンとクロロピラジンを含むことが相乗的な抗癌効果を奏するので、より好ましい。
【0027】
一実施例において、本発明の薬学組成物は、クロルフェネシンを5~500μM、クロロキンを0.5~25μM、またはクロロピラジンを1~100μMを含むことができ、クロルフェネシンとクロロキンを一緒に含む場合のクロルフェネシン5μM(固定濃度)およびクロロキン0.5~25μMを含むことができ、クロルフェネシンクロロピラジンを一緒に含む場合、クロルフェネシン5μM(固定濃度)およびクロロピラジン25~50μMを含むことができる。本発明の一実施例において、本発明のクロルフェネシン、クロロキンおよび/またはクロロピラジンは、細胞実験において前記濃度範囲で、深刻な細胞毒性なく癌細胞の移動および浸潤を抑制した。
【0028】
一実施例において、前記癌は、脳腫瘍、メラノーマ、骨髄腫、非小細胞性肺癌、口腔癌、肝臓癌、胃癌、結腸癌、乳癌、肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭付近癌、子宮内膜癌、膣癌、陰門癌、ホジキン病(Hodgkin’s disease)、食道癌、リンパ節癌、膀胱癌、胆道癌(胆嚢と胆管癌)、内分泌腺癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性または急性白血病、リンパ球リンパ腫、腎臓または尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系腫瘍、1次中枢神経系リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫および下垂体腺腫からなる群から選択されるいずれか一つ以上とすることができ、大腸癌、膵臓癌、または胆道癌であることがより好ましい。本発明の一実施例において、マウス由来の結腸癌(colon carcinoma)細胞株CT26、ヒト由来の大腸癌(colorectal carcinoma)細胞株HCT116、ヒト由来の結腸癌(colon carcinoma)細胞株SW480、ヒト由来の膵臓癌(pancreatic carcinoma)細胞株Panc-1、ヒト由来の膵臓癌細胞株Aspc-1、ヒト由来の膵臓癌細胞株MIAPaCA2、ヒト由来の胆嚢癌(Gallbladder carcinoma)細胞株SNU308およびヒト由来胆管癌(Intrahepatic cholangiocarcinoma)細胞株SNU1079のクロルフェネシン、クロロキンおよびクロルフェネシンそれぞれの抗癌効果とこれらの組み合わせによる併用処理による抗癌効果を確認した。
【0029】
本発明は、化学式1~3で表されるクロルフェネシン(chlorphenesin)、クロロキン(chloroquine)およびクロロピラジン(chloropyrazine)だけでなく、これらの薬学的に許容される塩、これにより製造可能な溶媒和物、水和物、ラセミ体または立体異性体の両方を含む。
【0030】
本発明の化学式1~3で表されるクロルフェネシン(chlorphenesin)、クロロキン(chloroquine)およびクロロピラジン(chloropyrazine)は、薬学的に許容可能な塩の形態で使用することができ、塩としては、薬学的に許容可能な遊離酸によって形成された酸付加塩が有用である。酸付加塩は、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜硝酸または亜リン酸などのような無機酸類と脂肪族モノおよびジカルボキシレート、フェニル-置換されたアルカノエート、ヒドロキシアルカノエートおよびアルカンジオエート、芳香族酸類、脂肪族および芳香族スルホン酸類のような無毒性有機酸から得る。このような薬学的に無毒な塩類としては、スルファート、ピロスルファート、バイスルファート、サルファイト、バイサルファイト、ニトラート、ホスファート、モノヒドロゲンホスファート、ジヒドロゲンホスファート、メタホスファート、ピロホスファートクロライド、ブロマイド、アイオダイド、フルオライド、アセタート、プロピオネート、デカノエート、カプリレート、アクリレート、ホルマート、イソブチレート、カプレート、ヘプタノエート、プロピオネート、オキサレート、マロネート、サクシネート、スベラート、セバケート、フマレート、マリエート、ブチン-1、4-ジオエート、ヘキサン-1、6-ジオエート、ベンゾエート、クロロベンゾエート、メチルベンゾエート、ジニトロベンゾエート、ヒドロキシベンゾエート、メトキシベンゾエート、フタレート、テレフタレート、ベンゼンスルホナート、トルエンスルホナート、クロロベンゼンスルホナート、キシレンスルホナート、フェニルアセテート、フェニルプロピオネート、フェニルブチレート、シトラート、ラクタート、β-ヒドロキシブチレート、グリコラート、マレート、タートレート、メタンスルホナート、プロパンスルホナート、ナフタリン-1-スルホナート、ナフタリン-2-スルホナートまたはマンデレートを含有する。
【0031】
本発明による酸付加塩は、通常の方法、例えば、化学式1~3で表されるクロルフェネシン(chlorphenesin)、クロロキン(chloroquine)およびクロロピラジン(chloropyrazine)を過量の酸水溶液中に溶解させ、この塩を水混和性有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、アセトンまたはアセトニトリルを使用して沈澱させて製造することができる。また、この混合物から溶媒や過量の酸を蒸発させて乾燥するか、または析出した塩を吸入ろ過して製造することもできる。
【0032】
また、塩基を使用して薬学的に許容可能な金属塩を作ることができる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩は、例えば、化合物を過量のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物の溶液中に溶解し、非溶解化合物塩をろ過し、余液を蒸発、乾燥させて得る。ここで、金属塩としては、ナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩を製造することが製薬上適切である。また、これに対応する銀塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩を適当な銀塩(例えば、硝酸銀)と反応させて得る。
【0033】
本発明の薬学的組成物は、有効成分としてクロルフェネシン、クロロキンおよびクロルフェネシンの外に公知された抗癌剤をさらに含むことができ、これらの疾患の治療のために公知された他の治療と併用することができる。他の治療には、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、骨髄移植、幹-細胞代替療法、他の生物学的治療、免疫治療などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本発明において、用語「予防」とは、本発明による薬学的組成物の投与により癌の発生、拡散、および再発を抑制または遅延させる全ての行為を意味し、「治療」とは、本発明のクロルフェネシン(chlorphenesin)、クロロキン(chloroquine)およびクロロピラジン(chloropyrazine)から選択される1つ以上、または薬学的に許容可能なその塩、またはこれを含む組成物の投与により癌細胞の死滅または癌の症状を好転させたり、有益に変更するすべての行為を意味する。本発明が属する技術分野にて通常の知識を有する者であれば、大韓医学協会などで提示された資料を参照して、本願の組成物が効果のある疾患の正確な基準を知り、改善、向上、および治療の程度を判断することができるものである。
【0035】
本発明において、有効成分と結合して使用された「治療学的に有効な量」という用語は、対象疾患を予防または治療するのに有効な量を意味し、本発明の組成物の治療的に有効な量は、いくつかの要素、例えば、投与方法、目的部位、患者の状態などによって変わり得る。したがって、人体に使用する際の投与量は、安全性および効率性を一緒に考慮して適正量を決定しなければならない。動物実験を通じて決定された有効量から、ヒトに使用する量を推定することも可能である。有効な量を決定する際に考慮されるべきこれらの事項は、例えば、Hardman and Limbird、eds.、 Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、10th ed。(2001)、Pergamon Press;と、EW Martin ed,、Remington’s Pharmaceutical Sciences、18th ed,(1990)、Mack Publishing Co.に記述されている。
【0036】
本発明の薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明にて用いられる用語、「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/リスク比で疾患を治療するのに十分であり、副作用を引き起こさない程度の量を意味し、有効容量水準は、患者の健康状態、癌の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感度、投与方法、投与時間、投与経路、および排出割合、治療期間、配合または同時に使用される薬物を含む要素およびその他の医学分野でよく知られた要素に基づいて決定することができる。本発明の組成物は、個々の治療薬として投与するか、他の治療薬と併用して投与することができ、従来の治療剤と順次または同時に投与することができ、単一または多重投与されることができる。前記した要素をすべて考慮して、副作用なく最小限の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは当業者により容易に決定することができる。
【0037】
本発明の薬学組成物は、生物学的製剤に通常使用される担体、希釈剤、賦形剤、または2つ以上の組み合わせを含むことができる。本発明で用いられる用語、「薬学的に許容可能な」とは、前記組成物に露出する細胞やヒトに毒性がない特性を示すことを意味する。前記担体は、組成物を生体内伝達に適したものであれば、特に制限されず、例えば、Merck Index、13th ed.、Merck&Co.Inc. に記載された化合物、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールおよびこれらの成分のうちの1成分以上を混合して利用することができ、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など、他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤および潤滑剤を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などのような、注射用製剤、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。さらに、当分野の適正な方法で、またはRemington’s Pharmaceutical Science(Mack Publishing Company、Easton PA、18th、1990)に開示されている方法を用いて、各疾患に応じて、または成分に応じて好ましく製剤化することができる。
【0038】
一実施例において、前記薬学組成物は、経口型製剤、外用剤、坐剤、滅菌注射溶液および噴霧剤を含む群から選択される1つ以上の製剤であることができ、経口型または注射用製剤がより好ましい。
【0039】
本発明にて用いられる用語、「投与」とは、任意の適切な方法で、個体または患者に所定の物質を提供することを意味し、目的とする方法によって非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に注射製剤に適用)したり、経口投与することができ、投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度などにより、その範囲が多様である。本発明の組成物の経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、通常使用される単純希釈剤である水、流動パラフィン以外に様々な賦形剤、所謂、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが一緒に含まれることができる。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤などが含まれる。本発明の薬学的組成物は、活性物質が標的細胞に移動することができる任意の装置によって投与することもできる。好ましい投与方式および製剤は、静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤などである。注射剤は、生理食塩液、リンゲル液などの水性溶剤、植物油、高級脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、アルコール類(例えば、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、グリセリンなど)などの非水性溶剤などを用いて製造することができ、変質防止のための安定化剤(例えば、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、BHA、トコフェロール、EDTAなど)、乳化剤、pH調節のための緩衝剤、微生物発育を阻止するための保存剤(例えば、硝酸フェニル水銀、チメロサル、塩化ベンザルコニウム、フェノール、クレソール、ベンジルアルコールなど)などの薬学的担体を含むことができる。
【0040】
本発明にて用いられる用語、「個体」とは、前記の癌が発症または発症し得るヒトを含むサル、牛、馬、羊、豚、鶏、七面鳥、ウズラ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、またはモルモットを含むすべての動物を意味し、本発明の薬学的組成物を個体に投与することにより、前記の疾患を効果的に予防または治療することができる。本発明の薬学的組成物は、従来の治療剤と並行して投与することができる。
【0041】
本発明の薬学組成物は、薬剤学的に許容可能な添加剤をさらに含むことができ、この時、薬剤学的に許容可能な添加剤としては、デンプン、ゼラチン化デンプン、微結晶セルロース、乳糖、ポビドン、コロイダル二酸化ケイ素、リン酸水素カルシウム、ラクトース、マンニトール、飴、アラビアゴム、アルファ化澱粉、トウモロコシ澱粉、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、オパドライ、でん粉グリコール酸ナトリウム、カルボナウバロウ、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、白糖、デキストロース、ソルビトールおよびタルクなどが使用されることができる。本発明による薬剤学的に許容可能な添加剤は、前記組成物に対して0.1重量部~90重量部含まれることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0042】
一側面において、本発明は、クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンから選択される1つ以上、または薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含む、癌増殖および転移抑制用薬学的組成物に関するものである。
【0043】
一実施例において、クロルフェネシンは下記化5で、クロロキンは下記化6で、およびクロロピラジンは下記化7で、表されることができる。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
一実施例において、クロルフェネシンは下記化8で表されるクロルフェネシンカルバミン酸エステル (chlorphenesin carbamate)であることができる。
【0048】
【0049】
一実施例において、本発明の薬学組成物は、クロルフェネシンとクロロキン、クロルフェネシンとクロロピラジン、クロロキンおよびクロロピラジン、またはクロルフェネシン、クロロキンおよびクロルフェネシン、またはこれらの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含むことができ、クロルフェネシンとクロロキン、またはクロルフェネシンとクロロピラジンを含むことが相乗的な転移および浸潤抑制の効果を奏するので、より好ましい。
【0050】
一実施例において、本発明の薬学組成物は、クロルフェネシンを5~500μM、クロロキンを0.5~25μM、またはクロロピラジンを1~100μMを含むことができ、クロルフェネシンとクロロキンを共に含む場合、クロルフェネシン5μM(固定濃度)およびクロロキン0.5~25μMを含むことができ、クロルフェネシンとクロロピラジンを共に含む場合、クロルフェネシン5μM(固定濃度)およびクロロピラジン25~50μMを含むことができる。本発明の一実施例において、前記の濃度範囲で深刻な細胞毒性なく癌細胞の移動および浸潤を抑制した。
【0051】
本発明のクロルフェネシンは、低濃度である0.1μM~10mMで癌細胞の死滅ではなく、癌細胞の増殖と転移のみを抑制することができる。例えば、本発明の組成物は、1μM~1mM範囲の低濃度のクロルフェネシンを含むことができる。クロルフェネシンが1μM未満の濃度である場合、癌の増殖および転移の抑制効果が1μMに比べて減少し、1Mm超過、特に10mM以上の濃度では、細胞毒性を示すことができる。
【0052】
一実施形態において、前記癌は、大腸癌、膵臓癌、または胆道癌とすることができる。本発明の一実施例においては、マウス由来の結腸癌(colon carcinoma)細胞株CT26、ヒト由来の大腸癌(colorectal carcinoma)細胞株HCT116、ヒト由来の結腸癌(colon carcinoma)細胞株SW480、ヒト由来の膵臓癌(pancreatic carcinoma)細胞株Panc-1、ヒト由来の膵臓癌細胞株Aspc-1、ヒト由来の膵臓癌細胞株MIAPaCA2、ヒト由来の胆嚢癌(Gallbladder carcinoma)細胞株SNU308およびヒト由来の胆管癌(Intrahepatic cholangiocarcinoma)細胞株SNU1079に対するクロルフェネシン、クロロキンおよびクロルフェネシンそれぞれの癌細胞転移および浸潤抑制効果と、これらの組み合わせによる併用処理による癌細胞の転移と浸潤抑制効果を確認した。
【0053】
一側面において、本発明は、クロルフェネシン(chlorphenesin)、クロロキン(chloroquine)およびクロロピラジン(chloropyrazine)から選択される1つ以上、または薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含む、抗癌サプリメントに関するものである。
【0054】
一実施例において、本発明のクロルフェネシンは、低濃度で癌細胞の死滅ではなく、癌細胞の増殖および転移のみを抑制することができるため、すでに細胞の毒性を有する抗癌剤と併用投与するとき、細胞の毒性を最小限に抑えることができる。例えば、本発明の組成物は、1μM~1mMの範囲の低濃度のクロルフェネシンを含むことができる。クロルフェネシン1μM未満の濃度の場合、癌の増殖および転移抑制効果がなく、1Mm超過、特に10mM以上の濃度では、細胞毒性を示すことができる。
【0055】
一実施例において、クロルフェネシンとクロロキン、またはクロルフェネシンとクロロピラジンを有効成分として含むことができる。本発明の一実施例においては、マウスからマウス由来の結腸癌(colon carcinoma)細胞株CT26で誘発した腫瘍の大きさおよび転移をクロルフェネシン抗癌剤を併用処理することにより、著しく抑制したことを確認した。
【0056】
本発明の薬学的組成物に含めることができる抗癌剤の例には、DNAアルキル化剤(DNA alkylating agents)として、メクロエグルタミン(mechloethamine)、クロラムブシル(chlorambucil)、フェニルアラニン(phenylalanine)、マスタード(mustard)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、イホスファミド(ifosfamide)、カルムスチン(carmustine:BCNU)、ロムスチン(lomustine:CCNU)、ストレプトゾトシン(streptozotocin)、ブスルファン(busulfan)、チオテパ(thiotepa)、シスプラチン(cisplatin)およびカルボプラチン(carboplatin);抗癌性抗生物質(anti-cancer antibiotics)として、ダクチノマイシン(dactinomycin:actinomycin D)、ドキソルビシン(doxorubicin:adriamycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、イダルビシン(idarubicin)、ミトキサントロン(mitoxantrone)、プリカマイシン(plicamycin)、マイトマイシンC(mitomycin C)およびブレオマイシン(bleomycin);および植物アルカロイド(plant alkaloids)として、ピンクリスチン(vincristine)、ビンブラスチン(vinblastine)、パクリタキセル(paclitaxel)、ドセタキセル(docetaxel)、エトポシド(etoposide)、テニポシド(teniposide)、トポテカン(topotecan)およびイリノテカン(irinotecan)などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
一側面において、本発明は、クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンから選択される1つ以上を含む癌の予防または改善用食品組成物に関するものである。
【0058】
本発明の組成物を食品組成物として使用する場合には、前記クロルフェネシン、クロロキンまたはクロルフェネシンをそのまま添加したり、他の食品または食品成分と共に使用することができ、通常の方法に応じて適宜に使用することができる。前記組成物は、有効成分に加えて、食品学的に許容可能な食品補助添加剤を含むことができ、有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康または治療的処置)に基づいて適宜決定することができる。
【0059】
本発明にて用いられる用語「栄養補助添加剤」とは、食品に補助的に添加することができる構成要素を意味し、各製剤の健康機能食品を製造するのに添加されるものであって、当業者が適宜選択して使用することができる。栄養補助剤の例としては、数々の栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成風味剤および天然風味剤などの風味剤、着色剤、および充填剤、ペクチン酸とその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などが含まれるが、前記の例により、本発明の食品補助添加剤の種類が制限されるものではない。
【0060】
本発明の食品組成物には、健康機能食品が含まれることができる。本発明にて用いられる用語「健康機能食品」とは、人体に有用な機能性を有する原料や成分を使用して錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液体および丸などの形態で製造および加工した食品をいう。ここで「機能性」とは、人体の構造および機能に対して栄養素を調整したり、生理学的作用などのような保健の用途に有用な効果を得ることを意味する。本発明の健康機能食品は、通常の技術分野で一般的に使用される方法によって製造可能であり、前記製造の際には、通常の技術分野で一般的に添加する原料および成分を添加して製造することができる。また、前記健康機能食品の製剤もまた健康機能食品として認められている製剤であれば、制限なく製造することができる。本発明の食品用組成物は、様々な形の製剤で製造することができ、一般的な薬品とは異なり、食品を原料とし、薬品の長期服用時に発生し得る副作用などがない利点があり、携帯性に優れ、本発明の健康機能食品は、抗癌剤の効果を増進させるためのサプリメントとして摂取が可能である。
【0061】
また、本発明の組成物が使用されることができる健康食品の種類には制限がない。なお、本発明のクロルフェネシン、クロロキンまたはクロルフェネシンを活性成分として含む組成物は、当業者の選択に応じて、健康機能食品に含有することができる適切なその他の補助成分と公知の添加剤とを混合して製造することができる。添加できる食品の例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、飴類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料およびビタミン配合剤などがあり、本発明による抽出物を主成分とし、製造した汁、茶、ゼリーおよびジュースなどに添加して製造することができる。
【0062】
一側面において、本発明は、クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンからなる群から選択される1つ以上、または薬学的に許容可能なその塩を薬学的に有効な量で、癌に罹った個体に投与する段階を含む、癌治療方法に関するものである。
【0063】
一実施例においては、クロルフェネシンとクロロキン、クロルフェネシンとクロロピラジン、クロロキンとクロロピラジン、またはクロルフェネシン、クロロキンとクロルフェネシン、またはそれらの薬学的に許容可能な塩を投与することができ、クロルフェネシンとクロロキン、またはクロルフェネシンとクロロピラジンを一緒に投与することが相乗的な抗癌効果をそうするので、より好ましい。
【0064】
一実施例において、本発明の薬学組成物は、クロルフェネシンを5~500μM、クロロキンを0.5~25μM、またはクロロピラジンを1~100μMを含むことができ、クロルフェネシンとクロロキンを共に含む場合、クロルフェネシン5μM(固定濃度)およびクロロキン0.5~25μMを含むことができ、クロルフェネシンとクロロピラジンを一緒に含む場合、クロルフェネシン5μM(固定濃度)とクロロピラジン25~50μMを含むことができる。本発明の一実施例においては、前記の濃度範囲で深刻な細胞毒性なく癌細胞の移動および浸潤を抑制した。
【0065】
一実施例において、前記癌は、脳腫瘍、メラノーマ、骨髄腫、非小細胞性肺癌、口腔癌、肝臓癌、胃癌、結腸癌、乳癌、肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部または頸部癌、子宮頸癌、卵巣癌、大腸癌、小腸癌、直腸癌、卵管癌、肛門付近癌、子宮内膜癌、膣癌、陰門癌、ホジキン病(Hodgkin’s disease)、食道癌、リンパ節癌、膀胱癌、胆道癌(胆嚢と胆管癌)、内分泌腺癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、 副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性または急性白血病、リンパ球リンパ腫、腎臓または尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系腫瘍、1次中枢神経系リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫と下垂体腺腫からなる群から選択されるいずれか一つ以上とすることができ、大腸癌、膵臓癌、または胆道癌であることがより好ましい。
【0066】
一側面において、本発明は、癌の予防および治療用薬学的組成物の製造に使用するための、クロルフェネシン、クロロキンおよびクロロピラジンからなる群から選択される1つ以上、または薬学的に許容可能なその塩の用途に関するものである。
【0067】
下記の実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明の内容を具体化するためのものであって、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例0068】
大腸癌に対する抗癌および転移抑制効果の確認
1-1.細胞生存率の確認
1-1-1.単独投与による細胞生存率の確認
クロルフェネシン(chlorphenensin、OC-201と命名)、クロロキン(chloroquine、OC-202と命名)と、クロロピラジン(chloropyrazine、OC-203と命名)、それぞれの単独投与が大腸癌細胞の生存率に及ぼす影響を確認するために、製造業者のプロトコルに従って、MTT assay(Promega、Ltd.)により、大腸癌細胞株CT26、HCT116およびSW480細胞株に対する細胞の生存率を評価した。それぞれの大腸癌細胞株をウェル当たり5×103細胞の密度で96ウェルプレートに接種し、クロルフェネシン(OC-201)、クロロキン(OC-202)およびクロロピラジン(OC-203)を、それぞれOμM(対照群DMSO処理)、10μM、25μM、50μM、100μM、250μM、500μM および1mMで24h、48hまたは72hの間、前処理した細胞を4時間5mg/mL MTTと共にインキュベーションした。その後、培地を除去し、150μLの可溶化溶液および中断溶液を追加した後、30℃で4時間インキュベーションした。反応溶液の吸光度を570nmで測定した。細胞生存率は、下記式を用いて、細胞生存率を計算した。
(数1)
細胞生存率=実験群吸光度(570nm)/対照群吸光度(570nm)×100(%)
【0069】
その結果、
図1~3で見られるように、OC-201は500μM超過、OC-202は10uM超過時、毒性を示し、OC-203は100uM以下で毒性が示さないことが分かった。
【0070】
1-1-2.併用投与による細胞生存率の確認
クロルフェネシン(OC-201)、クロロキン(OC-202)およびクロロピラジン(OC-203)の組み合わせによる併用処理による大腸癌細胞の生存率を確認するために、製造業者のプロトコルに従って、MTT assay(Promega 、Ltd.)により、大腸癌細胞株CT26、HCT116およびSW480細胞株に対する細胞生存率を評価した。それぞれの大腸癌細胞株をウェル当たり5×103細胞の密度で96ウェルプレートに接種し、対照群(DMSO処理)、クロルフェネシン5μM、クロルフェネシンとクロロキン(5μM+500nM、5μM+1μM、5μM+5μM、5μM+10μM、5μM+25μMと5μM+50μM)、またはクロルフェネシンとクロロピラジン(5μM+1μM、5μM+5μM、5μM+10μM、5μM+25μM、5μM+50μMおよび5μM+100μM)をそれぞれ24h、48hまたは72hの間、処理した細胞を4時間5mg/mLのMTTと一緒にインキュベーションした。その後、培地を除去し、150μLの可溶化溶液および中断溶液を追加した後、30℃で4時間の間、インキュベーションした。反応溶液の吸光度を570nmで測定した。細胞生存率は、前記(式1)を用いて細胞生存率を計算した。
【0071】
その結果、クロルフェネシン5μMにクロロキンを25μM以上、併用処理した場合、大腸癌に毒性を示し(
図4)、クロルフェネシン5μMにクロロピラジンを100μM以下で併用処理した場合、大腸癌に毒性を示さなかった(
図5)。
【0072】
1-2.細胞移動の確認
1-2-1.移動解析(migration assay)
1-2-1-1.クロルフェネシン単独投与
癌細胞の転移は、細胞の運動性が前提とされるべき関係にあるので、クロルフェネシン(OC-201)の処理濃度による大腸癌細胞株SW480、HCT116およびCT26細胞株の移動を移動解析方法を使用して確認した。具体的には、大腸癌細胞株CT26、HCT116およびSW480細胞株を無血清RPMIに懸濁した後、ポリカーボネート膜(8.0μMpore size、Costar)を有する24ウェルトランスウェルチャンバーの上部チャンバーにウェル当たり1x105細胞で添加した。ラミニン(10μg/ml)を下部ウェルに位置させ、それぞれの細胞にクロルフェネシン(OC-201)OμM(対照群DMSO処理)、5μM、10μM、25μM、50μM、100μM、250μM、500μM、1mMおよび2mMでそれぞれ処理した。細胞は、37℃のCO2インキュベーター内で18時間培養し、移動するようにした。その後、細胞を30分間PBS内で70%メチルアルコールで固定し、PBSで3回洗浄した。細胞をヘマトキシリン(Sigma)で10分間染色し、蒸留水で洗浄した。移動していない細胞を綿棒で膜上面から除去した。膜をチャンバから切除し、Gel Mount(Biomeda、Foster City、CA)で固定させた。移動した細胞(膜の下面に付着した細胞)を高出力長(x20)からランダムに選択されたスコープで計数した。
【0073】
その結果、SW480細胞株では、クロルフェネシン(OC-201)を25μM以上処理した場合、細胞の移動が著しく減少した(
図6および7)。また、HCT116細胞株では、クロルフェネシン(OC-201)を処理した場合、細胞の移動が減少し、特に250μM以上処理した場合に著しく減少した(
図8および9)。併せて、CT26細胞株でもクロルフェネシン(OC-201)を処理した場合、細胞の移動が減少し、特に250μM以上、処理した場合に著しく減少した(
図10および11)。
【0074】
1-2-1-2.併用投与
クロルフェネシン(OC-201)、クロロキン(OC-202)およびクロロピラジン(OC-203)をそれぞれ単独処理した場合と、クロルフェネシンとクロロキン、またはクロロピラジンを併用処理した場合、大腸癌細胞株CT26、HCT116およびSW480の移動程度を確認した。
【0075】
具体的には、大腸癌細胞株CT26、HCT116、またはSW480を対照群(DMSO処理)、クロルフェネシン(5μM)、クロロキン(5μM、10μMまたは25μM)、クロロピラジン(25μMまたは50μM)、クロルフェネシンとクロロキン(5μM+5μM、5μM+10μM、5μM+25μM)、およびクロルフェネシンとクロロピラジン(5μM+25μM、5μM+50μM)で処理した後、細胞の移動程度を前記実施例と同様の方法で確認した。また、併用処理時、上昇作用(synergistic effect)を、Compusyn softwareを利用してクロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンの併用処理濃度による併用係数(Combination Index、CI)を通じて計算した。
【0076】
その結果、クロロキン(OC-202)およびクロロピラジン(OC-203)をそれぞれ単独処理したものよりもクロルフェネシンとクロロキンまたはクロルフェネシンとクロロピラジンを併用処理したとき、大腸癌細胞株CT26、HCT116およびSW480両方の移動が減少することが確認できた(
図12ないし17)。また、クロルフェネシンとクロロキンまたはクロロピラジンを併用処理した場合、相乗作用を示し、特に、クロルフェネシンとクロロキンを併用処理した場合、すべての細胞株から相乗作用が示された(
図18~20)。
【0077】
1-2-2.創傷治癒アッセイ(wound healing assay)
1-2-2-1.クロルフェネシン単独投与
癌細胞の転移は、細胞の運動性が前提とされるべき関係であるので、クロルフェネシン(OC-201)を単独処理した場合、大腸癌細胞株HCT116の移動程度を、創傷治癒アッセイで確認した。具体的には、大腸癌細胞株HCT116を、10%FBSが補充されたRPMIに添加し、24時間後、単層で70~80%コンフルエンスに達したときの濃度で24ウェル組織培養プレートに接種した。ウェルの中央を横切って、新しい200μLイエローピペットチップで断層に慎重にゆっくりとスクラッチを出した。結果として生成されたギャップ距離をチップの端の外径と同じにした。スクラッチを出した後、ディッシュを培地に慎重に2回洗浄して分離された細胞を除去した。その後、クロルフェネシン0μM(DMSO)、5μM、10μM、25μM、50μM、250μM、500μMまたは1mMを処理し、インキュベーション0時間、8時間、および24時間後、顕微鏡で確認をし、グラフ化した。
【0078】
その結果、クロルフェネシン25μM以上処理した場合、大腸癌細胞の移動が減少した(
図21ないし23)。
【0079】
1-2-2-2.併用投与
クロロキン(OC-202)およびクロロピラジン(OC-203)をそれぞれ単独処理した場合と クロルフェネシン(OC-201)をこれらとそれぞれ併用処理した場合、大腸癌細胞株HCT116の移動程度を確認した。具体的には、大腸癌細胞株HCT116を、10%FBSが補充されたRPMIに添加し、24時間後、単層で70~80%コンフルエンスに達したときの濃度で24ウェル組織培養プレートに接種した。ウェルの中央を横切って、新しい200μLイエローピペットチップで断層に慎重にゆっくりとスクラッチを出した。結果として生成されたギャップ距離をチップの端の外径と同じにした。スクラッチを出した後、ディッシュを培地に慎重に2回洗浄して分離された細胞を除去した。その後、クロロキン単独処理(5、10、または25μM)、クロロピラジン単独処理(25または50μM)、クロルフェネシンとクロロキン併用処理(5μM+5μM、5μM+10μM、5μM+25μM)、およびクロルフェネシンとクロロピラジン併用処理(5μM+ 25μM、5μM+50μM)した後、0時間、8時間、または24時間後の細胞の移動程度を前記実施例1-2-2-1と同様の方法で確認した。
【0080】
その結果、クロロキン(OC-202)とクロロピラジン(OC-203)をそれぞれ単独処理した場合よりもクロルフェネシンと共に処理した場合、大腸癌細胞の移動が減少したことが示された(
図24ないし26)。
【0081】
1-3.非付着増殖解析
1-3-1.クロルフェネシン単独投与
非付着増殖能(Anchorage independent growth)は、正常細胞と癌細胞を区分する重要な形質であって、正常細胞が増殖する際に付着(anchorage)を必要とするが、癌細胞は、付着せずに生存し、増殖することができる。すなわち、正常細胞は、細胞が培養プレートに付着していない場合は、増殖することができないが、癌細胞は軟寒天(soft agar)のように、細胞接着がない浮遊状態で増殖可能な特性を利用して、軟寒天コロニー形成アッセイを通じて非付着増殖能を確認した。まず、クロルフェネシン単独投与による大腸癌細胞株の非付着増殖能を確認するために、コロニー形成アッセイ(colony formation assay)を行った。具体的には、大腸癌細胞株HCT116 3千個を軟寒天と混ぜて6ウェルプレートに分注した後、クロルフェネシン0μM(DMSO)、5μM、10μM、25μM、50μM、100μM、250μM、500μM、1mMまたは2mMで処理した。その後、細胞培地を交換するたびにクロルフェネシンも一緒に補充し、細胞分周3週間後に観察した。
【0082】
その結果、
図27に示すように、クロルフェネシン250μM以上処理した場合、コロニー形成能が減少することが示された。
【0083】
1-3-2.併用投与
クロルフェネシンとクロロキン(OC-202)またはクロロピラジン(OC-203)を併用処理した場合、大腸癌細胞株の非付着増殖能が単独処理に比べて抑制するのかを確認するために、大腸癌細胞株HCT116およびCT26にそれぞれクロルフェネシン5μM、クロロキン10または25μM、クロロピラジン10μM、クロルフェネシンとクロロキン(5μM+10μMまたは5μM+25μM)、クロルフェネシンとクロロピラジン(5μM+10μM、5μM+25μMまたは5μM+50μM)を処理してコロニー形成アッセイを行った。
【0084】
その結果、クロロキンまたはクロロピラジンを、それぞれ単独で処理したものよりもクロルフェネシンとクロロキンを併用処理したとき、コロニー形成が減少した(
図28および29)。