(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179455
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】TAS1R3タンパク質を発現する腫瘍に関する治療目的、診断目的及び/又は予後診断目的のマーカーとしてのTAS1R3タンパク質の使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20231212BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231212BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20231212BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20231212BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231212BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231212BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20231212BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
G01N33/574 A
G01N33/53 D ZNA
G01N33/53 Y
A61K47/64
A61K47/54
A61P35/00
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61K49/00
C07K14/705
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023145020
(22)【出願日】2023-09-07
(62)【分割の表示】P 2020559029の分割
【原出願日】2019-01-15
(31)【優先権主張番号】18382013.3
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520258105
【氏名又は名称】フンダシオン インスティテュート デ インベスティガシオン サニタリア デ サンティアゴ デ コンポステーラ (フィディス)
(71)【出願人】
【識別番号】520258116
【氏名又は名称】セルビソ ガレゴ デ サウーデ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デ ラ フエンテ フレイレ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ロペス ロペス ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】アロンソ ノセロ マルタ
(72)【発明者】
【氏名】バスケス リオス アビ フディ
(57)【要約】 (修正有)
【解決手段】癌の診断、モニタリング及び療法における適用のためのバイオマーカーとしてTAS1R3受容体を使用する。
【効果】TAS1R3が、疾患の診断のために有用であり、それに関連した情報を提供することで進化をモニタリングし、治療を選択し、選択的に治療分子を誘導することを可能にするバイオマーカーであることを実証した。この受容体に対する療法を特定することが可能であること、原発性腫瘍細胞、播種性腫瘍細胞及び転移性腫瘍細胞における細胞内蓄積が非常に効率的に観察されるコンジュゲート及びナノ粒子等の薬物制御放出系を誘導することが可能であることも確かめた。循環腫瘍細胞(CTC)におけるTAS1R3の存在も実証された。循環腫瘍細胞は転移の生成における重要な要因と見なされ、その早期段階での検出は転移の早期検出因子としての役割を果たし、疾患のモニタリング及び薬物への応答の評価においても有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍バイオマーカーとしてのTAS1R3膜細胞受容体のin vitroでの使用。
【請求項2】
患者における腫瘍の存在、新生物の存在又は転移の存在をin vitroで診断する方法であって、以下の工程:
a)前記患者から単離された少なくとも1つの生体試料から出発して、前記生体試料の細胞におけるTAS1R3の発現レベルを測定する工程と、
c)前記発現レベルを、健康な個体又は健康な器官若しくは組織の一部の生体試料又は腫瘍の存在を有しない生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値と比較する工程と、
を含み、健康な個体又は健康な器官若しくは組織の一部の生体試料又は腫瘍の存在を有しない生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値と比較して増加した発現レベルが、患者における腫瘍の存在、新生物の存在又は転移の存在の指標である、方法。
【請求項3】
患者における腫瘍の存在、新生物の存在又は転移の存在に見舞われている患者の臨床経過をin vitroで予後診断する方法であって、以下の工程:
a)前記患者から単離された少なくとも1つの生体試料から出発して、前記生体試料の細胞におけるTAS1R3の発現を測定する工程と、
c)前記発現レベルと、項目a)の生体試料を得た時点よりも早い時点で得られた同じ患者からの生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値とを比較する工程と、
を含み、項目a)の生体試料を得た時点よりも早い時点で得られた生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値と比較して増加した発現レベルが、患者の消極的な臨床的進化の指標である、方法。
【請求項4】
腫瘍の存在、新生物の存在又は転移の存在に見舞われている患者の臨床経過をin vitroでモニタリングする方法であって、以下の工程:
a)前記患者から単離された少なくとも1つの生体試料から出発して、前記生体試料の細胞におけるTAS1R3の発現を測定する工程と、
c)前記発現レベルと、項目a)の生体試料を得た時点よりも早い時点で得られた同じ患者からの生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値とを比較する工程と、
を含み、項目a)の生体試料を得た時点よりも早い時点で得られた同じ患者からの生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値と比較して増加した発現レベルが、患者の消極的な臨床的進化の指標である、方法。
【請求項5】
腫瘍の存在、新生物の存在又は転移の存在に見舞われている患者の治療に対する応答をモニタリングする方法であって、以下の工程:
a)前記患者から単離された少なくとも1つの生体試料から出発して、前記生体試料の細胞におけるTAS1R3の発現を測定する工程と、
c)前記発現レベルと、項目a)の生体試料を得た時点よりも早い時点で得られた同じ患者からの生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値とを比較する工程と、
を含み、項目a)の生体試料を得た時点よりも早い時点で得られた同じ患者からの生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値と比較して増加した発現レベルが、治療に対する応答の欠如の指標である、方法。
【請求項6】
前記生体試料の細胞におけるTAS1R3の発現の測定は、TAS1R3受容体に選択
的に結合することができるFv、Fab、Fab’及びF(ab’)2、scFv、又はダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ及び/又はヒト化抗体からなる群に属するアプタマー、抗体又はそのフラグメントを用いて行われる、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アプタマー、前記抗体若しくはそのフラグメント、又は前記ダイアボディ、前記トリアボディ、前記テトラボディ及び/又は前記ヒト化抗体は、配列番号1又は配列番号2の配列のいずれかに選択的に結合することができる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記存在する腫瘍は固形腫瘍である、又は前記患者は、乳癌、黒色腫、ブドウ膜黒色腫、膵臓癌、肺癌、前立腺癌、胃癌、頭頸部癌、肉腫、神経膠芽腫、神経芽腫、結腸及び直腸の癌、頭頸部の癌、腎臓癌及び膀胱癌並びに肝癌からなる群より選択される疾患を患っている、請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記受容体のリガンド、好ましくはコンジュゲート又は免疫毒素の形のリガンドの使用により腫瘍細胞に向かって療法薬を誘導するための分子マーカー/腫瘍バイオマーカーとして使用される、細胞膜受容体TAS1R3。
【請求項10】
前記受容体のリガンド、好ましくは放射性医薬品とのコンジュゲートの形のリガンドの使用によりin vivo診断するための分子マーカー/腫瘍バイオマーカーとして使用される、細胞膜受容体TAS1R3。
【請求項11】
腫瘍細胞に対する療法で使用される又はin vivo診断での腫瘍バイオマーカーとして使用される、
a)TAS1R3受容体と相互作用又は結合することができる特異的な標的剤と、
b)細胞毒性剤、放射性同位体、ナノ構造物又はナノエマルジョンと、
を含むコンジュゲート。
【請求項12】
前記TAS1R3受容体と相互作用又は結合することができる標的剤は、単糖及び二糖、スクラロース、シクラメート、ネオエスペリジン、ジヒドロカルコン等の人工甘味料、ラクチゾール等の甘味阻害剤、ブラゼイン等のタンパク質、抗体又は抗体のフラグメント、ペプチド、アプタマー又は小分子からなる群より選択される、請求項11に記載のコンジュゲート。
【請求項13】
前記標的剤は、アプタマー、抗体、Fv、Fab、Fab’及びF(ab’)2、scFvからなる群より選択される抗体のフラグメント、又はダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ及び/又はヒト化抗体からなる群より選択され、ここで、前記標的剤は、配列番号1又は配列番号2の配列のいずれかに選択的に結合することができる、請求項11に記載のコンジュゲート。
【請求項14】
a)ブラゼイン及びラクチゾールからなる群より選択される特異的な標的剤と、
b)細胞毒性剤、放射性同位体、ナノ構造物又はナノエマルジョンと、
を含む、コンジュゲート。
【請求項15】
固形腫瘍、好ましくは、以下の群:乳癌、黒色腫、ブドウ膜黒色腫、膵臓癌、肺癌、前立腺癌、胃癌、頭頸部癌、肉腫、神経膠芽腫、神経芽腫、結腸及び直腸の癌、頭頸部の癌、腎臓癌及び膀胱癌並びに肝癌から選択される腫瘍の治療又はin vivo診断のために使用される、請求項11~13のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮腫瘍及び他のヒトの病状における新しいマーカー及び分子標的としてのTAS1R3タンパク質の使用を示す。特に、通常TAS1R3タンパク質を発現する腫瘍に関する治療目的、診断目的及び/又は予後診断目的のマーカーとしてのTAS1R3タンパク質及びその発現産物の検出の使用が本発明の重要部分である。
【背景技術】
【0002】
腫瘍性疾患の化学療法では、過去30年間で大きな進展があった。これには、新しい化学療法剤の開発、より詳細には、薬物の併用投与のためのレジメンの開発における幾らかの進展が含まれる。細胞レベル及び組織レベルでの腫瘍性プロセス並びに基本的な抗腫瘍剤の作用機序がかなり理解されたことで、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、急性白血病、横紋筋肉腫、網膜芽細胞腫、ホジキン病及びバーキットリンパ腫を含む多くの腫瘍性疾患の化学療法における進歩を獲得することもできた。しかしながら、腫瘍学の分野での、特に化学療法におけるこれまでの進展にもかかわらず、最も一般的な形態のヒト癌の多くは、現在の化学療法的治療に依然として耐性である。
【0003】
この意味で、あらゆる腫瘍学的治療レジメンにおいてそれが有効であるためには、「全細胞消滅」の概念が重要である。この概念は、効果的な治療レジメンを実現するために、外科的アプローチ若しくは化学療法的アプローチのいずれか又はその両方を通じて、全てのいわゆる「クローン原性」悪性細胞、すなわち、制御不能に成長することで、除去可能であった任意の腫瘍塊に置き換わる能力を有する細胞の全細胞消滅が起こらねばならないという考えである。全細胞除去を実現する治療剤及びレジメンを開発することが最終的に必要とされるため、或る特定の腫瘍型は、他の腫瘍型よりも療法に対してより感受性が高かった。例えば、軟部組織腫瘍(例えば、リンパ腫)並びに血液及び造血器官の腫瘍(例えば、白血病)は、一般的に、癌腫等の固形腫瘍よりも化学療法により十分に応答している。化学療法に対する軟部腫瘍の感受性に関する1つの理由は、化学療法介入におけるリンパ腫及び白血病細胞へのより高い物理的アクセス可能性である。平たく言えば、殆どの化学療法剤は、固形腫瘍塊の全ての細胞に到達する方が、軟部腫瘍に到達するよりもはるかに困難であり、したがって、固形腫瘍の場合に、全細胞破壊を実現することははるかに困難である。これに関して、そのような腫瘍、つまり固形腫瘍を治療するためには、化学療法剤の用量が著しく増加し、副作用が引き起こされることから、一般的に療法の全体的な有効性は制限される。
【0004】
したがって、固形腫瘍を治療することができる満足のいく抗腫瘍剤を開発する方略には、腫瘍細胞を選択的に殺傷する一方で、正常組織に対して、あるとしても比較的少ない有害作用しか及ぼさない作用物質の設計が必要とされる。腫瘍性組織と正常組織との間には質的な違いが殆どないため、この目的を達成することは困難であった。このため、近年では、化学療法及び診断の両方のために、免疫学的標的として用いることができる腫瘍特異的な「マーカー抗原」を特定する試みに多くの努力が充てられている。この意味で、本発明は、原発性腫瘍及び播種性細胞の両方の腫瘍細胞の細胞膜における発現が異なる新しいバイオマーカーを提供することによってこの側面に対処している。さらに、このバイオマーカーの発現は、腫瘍細胞のより侵襲性が高い腫瘍形成能力に関連しており、この発現は、特に栄養が存在しない条件下で増加するため、このバイオマーカーを癌の診断/予後診断のために使用することができる。最後に、そのバイオマーカーは膜受容体であるので、細胞増殖並びに細胞の移動能力、侵入能力及び播種能力を停止させる標的療法薬、例えば小分子、ペプチド又はアンタゴニスト等のリガンドを設計することが可能である。そのた
め、過去には、固形腫瘍の癌細胞を選択的に標的化するために免疫毒素が使用されてきた。免疫毒素は、特異的な標的剤、典型的には腫瘍に対する抗体又はそのフラグメントと、毒素部分等の細胞毒性剤とのコンジュゲートである。標的剤は、標的抗原を有する細胞に毒素を誘導して、そのような細胞を殺傷するように設計されている。一方で、脱グリコシル化リシンA鎖を使用する免疫毒素等の「第2世代」の免疫毒素は、免疫毒素の肝臓への取り込みを防ぎ、肝毒性を軽減するように開発され(非特許文献1)、より高いin vivo安定性を免疫毒素に与えるために新しい架橋を伴う免疫毒素が開発された(非特許文献2)。免疫毒素は、マウス(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)だけでなくヒト(非特許文献5)においてもリンパ腫及び白血病の治療に有効であることが示された。したがって、本発明は、免疫毒素の合成のために有用な、本発明のバイオマーカーに対する特異的な標的剤を提供する。
【0005】
さらに、本発明で詳述されるバイオマーカー等の新しいバイオマーカーの特定は、診断目的及び予後診断目的の両方ための個別化医療の開発だけでなく、標的療法の選択及び治療のモニタリングのためにも極めて有用である。個別化医療は、各腫瘍が特有のものであり、時間とともに動的変化するという前提に基づくため、常に最良の治療アプローチを決定することができるツールがあることが重要である。個別化医療の分野では、リキッドバイオプシーがその決定的な役割のため際立っている。今日では、腫瘍は、細胞の増殖機序及び生存機序に影響を及ぼす遺伝子改変が出現するだけでなく、それらの分子組成が複雑かつ不均一であることに起因することが知られている。一方で、癌が診断されたら、DNA、RNA及びタンパク質のプロファイルを分析することによって、原発性腫瘍か又はその転移であるかを特徴付けねばならない。同じ腫瘍内にも腫瘍の進化及び様々な療法に対する耐性を示す種々の腫瘍クローンが共存するため、「動的腫瘍」という用語が作られた。動的腫瘍は、時間の経過に伴って変動を受けやすく、最も有効な治療方略を選択するには、各時点での優勢なクローンを突き止めることが重要である。非小細胞肺癌(NSCLC)の診断は、通常、感度が良いが特異的な技術ではないCTスキャンによって行われるが、それには侵襲的手順(生検)による追加の追跡調査が必要とされるため、臨床診療には画像診断に添えられた情報を提供する新しいバイオマーカーだけでなく、生検のような侵襲的手順を適用する必要なく情報を提供することができるバイオマーカーも必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Blakey et al., 1987a; b
【非特許文献2】Thorpe et al., 1988
【非特許文献3】Ghetie et al., 1991
【非特許文献4】Griffin et al., 1988a; b
【非特許文献5】Vitetta et al., 1991
【発明の概要】
【0007】
本発明において、癌の診断、モニタリング及び療法における適用のためのバイオマーカーとしてのTAS1R3受容体の使用が初めて記載されている。この意味で、本発明の著者らは、TAS1R3が、腫瘍学において興味深く、疾患の診断のために有用であり、それに関連した情報を提供することで進化をモニタリングし、治療を選択し、選択的に治療分子を誘導することを可能にするバイオマーカーであることを実証した。この受容体に対する療法を特定することが可能であること、そして原発性腫瘍細胞、播種性腫瘍細胞及び転移性腫瘍細胞における細胞内蓄積が非常に効率的に観察されるコンジュゲート及びナノ粒子等の薬物制御放出系を誘導することが可能であることも確かめられた。一方で、循環腫瘍細胞(CTC)におけるTAS1R3の存在も実証された。循環腫瘍細胞は、原発性腫瘍によって血流に放出された腫瘍細胞であり、転移の生成における重要な要因と見なさ
れているため、その早期段階での検出は転移の早期検出因子としての役割を果たし、疾患のモニタリング及び薬物への応答の評価においても有用である。
【0008】
総合的に言えば、この発見により、腫瘍細胞に向かう、特にCTC(循環腫瘍細胞)及び原発性腫瘍細胞、播種性腫瘍細胞又は転移性腫瘍細胞に向かう薬理学的媒介物及び/又は診断用媒介物として使用するために、TAS1R3受容体に対するリガンドとして作用する化合物、好ましくは、TAS1R3受容体に結合することができる抗体、抗体フラグメント、アプタマー、ペプチド、又は低分子量疎水性分子若しくはラクチゾール等の低分子量親水性分子からなる群より選択されるリガンドによる任意の種類の分子の機能付与(functionalization:官能化)だけでなく、リガンド-薬物コンジュゲート又はリガンド
-放射性同位体コンジュゲート、又は反応性基で機能付与されたリガンドにもつながる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】CTCの生物学を解釈するための差次的発現のためのインジェヌイティパスウェイアナリシス(IPA)ソフトウェアを使用したバイオインフォマティクス解析を示す図である。上の画像:主要なネットワーク、分子機能及び細胞機能と共に、主要なカノニカルパスウェイ及び対応するp値。下の画像:CTCの発現プロファイルによる、細胞移動経路、脂質代謝及び炭水化物についての相互作用ネットワーク。
【
図2】健康なドナー(n=16)のコントロール群と比較した、転移性非小細胞肺癌(NSCLC)患者(n=42)から分離された循環腫瘍細胞におけるTAS1R3発現の検証を示す図である。
【
図3】非腫瘍コントロール組織(n=6)に対する転移性肺癌(NSCLC)患者由来の腫瘍組織におけるTAS1R3発現を示す図である。
【
図4】U87系統の値を基準にした、結腸腫瘍(SW620及びSW480)、肺腫瘍(A549及びH1755)、神経膠芽腫(U87及びU118)及び膵臓腫瘍(MiaPaCa2)の種々の腫瘍型の異なる細胞系統におけるTAS1R3受容体(mRNA)の相対的発現(P値=0.0001)を示す図である。
【
図5】様々な起源の腫瘍細胞のパネルにおける免疫蛍光法によるTAS1R3発現の研究(核の周りのより明るい点状のシグナル)を示す図である(A)。免疫蛍光法により、原発性腫瘍から分離された結腸細胞(SW480)に対して、転移性起源の結腸細胞(SW620)において対象のタンパク質であるTAS1R3がより多く発現(明るいシグナル)していることが明らかとなる(B)。細胞核はDAPIで染色されている。
【
図6】高グルコース濃度及び低グルコース濃度を有する培地で培養されたSW620細胞におけるTAS1R3発現を示す図である。RT-PCR(A)。ウエスタンブロットによるタンパク質発現のデンシトメトリー分析(B)。
【
図7】高グルコース濃度及び低グルコース濃度を有する培地で培養されたSW620細胞系統の細胞増殖(A)アッセイ及びコロニー形成(B)アッセイ(データは、15日間培養を続けた400個の播種細胞の数に相当する)を示す図である。
【
図8】コントロール(低グルコース濃度を有する培地で培養されたSW620)と比較した、細胞をラクチゾールと9日間接触させた場合の受容体のRT-PCRを示す図である(A)。低グルコース濃度を有する培地においてラクチゾールの濃度を増加させて(0.44mg/mL~7mg/mL)72時間培養されたSW620細胞の細胞増殖を示す図である(B)。15日間の培養後の、コントロールSW620細胞又は3.5mg/mLの濃度でラクチゾールリガンドと接触させたSW620細胞のコロニー形成を示す図である(C)。ラクチゾールで処理されたSW620細胞(3.5mg/mLで72時間、矢印は染色を認めることができる細胞を示す)における、細胞老化の指標となるβ-ガラクトシダーゼ染色を示す図である(D)。種々のグルコース濃度(高及び低)及びラクチゾール(3.5mg/ml)に9日間曝露した場合のSW620細胞における腫瘍進行に関与する種々のタンパク質の発現を示すウエスタンブロットを示す図である(E)。種々の受容体リガンド(グルコース、シクラメート、ブラゼイン及びラクチゾール)を補充したDMEM培地で培養されたSW620細胞の細胞増殖(p値<0.0001)を示す図である(F)。
【
図9】4時間インキュベートされた、DiRで標識されたラクチゾールで機能付与されたスフィンゴミエリンナノエマルジョン(O:SM:Lact 1:0.1:0.1)の、より高いTAS1R3の発現を有するSW620(低グルコース濃度で培養された)又はより低いTAS1R3の発現を有するSW620(高グルコース濃度で培養された)における内部移行を示す図である。機能付与ナノエマルジョンを受容体の発現がより高い細胞と一緒にインキュベートした場合に、蛍光の強度はより大きくなる。細胞核はDAPIで染色されており、最も明るいシグナルは、ナノエマルジョン内に封入されたDiDに起因する。
【
図10】オレイン酸とスフィンゴミエリンとの白色のナノエマルジョン(NE)及びラクチゾールで機能付与されたオレイン酸とスフィンゴミエリンとのナノエマルジョン(F-NE)又は抗腫瘍薬のエトポシドを封入したナノエマルジョンで処理した後の、48日間のインキュベート後の結腸腫瘍細胞(SW620)の細胞生存率(MTTアッセイ)(p値、
****=0.0001、
***=0.001)を示す図である。
【
図11】ヒト抗TAS1R3ポリクローナル抗体(参照sc50353、SCBT社)で機能付与された蛍光量子ドット(赤)の内部移行を示す図である。量子ドットは37℃で1時間インキュベートされた。TAS1R3受容体の標識(緑色)は、量子ドットとの共局在を調べるために行われた。細胞核はDAPIで染色されている。
【
図12】TAS1R3受容体及びそのリガンドの図である。
【
図13】CTCの検出及び遺伝子発現プロファイルを示す図である。進行期の非小細胞肺癌患者から免疫技術によって分離されたCTCの遺伝子発現プロファイルのためのワークフロー図である。患者(n=10)とコントロール(n=4)との間で発現が異なる遺伝子(CTCの特定の遺伝子)の階層的グループ化を示す図である。患者の群とコントロールの群との間の遺伝子発現の違いを示すマイクロアレイの有意性分析(マイクロアレイの有意性分析(SAM))の結果のグラフを示す図である。強調表示された点は、コントロール群と比較して患者の群の方で発現レベルが増加した統計学的に有意な遺伝子に対応し、それは転移性肺癌のCTCの集団を特徴付けているとみなされる。
【
図14】カプラン・マイヤー曲線を示す図である。該カプラン・マイヤー曲線は、42人の非小細胞肺癌患者のCTC試料における高レベル又は低レベル/中レベルのTAS1R3の存在に基づく全生存期間に関連している。患者の全生存(OS)時間は、化学療法手順の開始から患者の死亡まで間の経過時間として定められた。TAS1R3受容体の発現値が低い患者ほど生存期間が長くなることが観察された(値≧-7.5、カットオフポイントはTAS1R3の発現値の平均に設定された)。データ分析は、統計分析パッケージSPSSを使用して実施した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
本発明では、「TAS1R3受容体」は、味蕾においてだけでなく、肝臓及び膵臓等の他の組織並びに腫瘍細胞においても発現される味覚Gタンパク質共役型膜貫通受容体として理解される。この受容体には、HGNC:15661(NCBI Vega:OTTHUMG00000003071)、Entrez Gene:83756、Ensembl:ENSG00000169962、OMIM:605865、o UniProtKB:Q7RTX0等の多くの参照が存在する。該受容体は、TAS1R1受容体又はTAS1R2とヘテロ二量体を形成し、種々のアミノ酸、グルコース等によって活性化される甘味又はうま味の検出器として機能することが分かっている。TAS1R3受容体及びそのリガンドの図に関する
図12を参照。
【0011】
本発明では、TAS1R3受容体のためのリガンドは、単糖及び二糖、スクラロース、シクラメート、ネオエスペリジン、ジヒドロカルコン及び誘導体等の人工甘味料、ラクチ
ゾール及び誘導体等の甘味阻害剤、ブラゼイン等のタンパク質又はその断片、並びに抗体、抗体のフラグメント、ペプチド、アプタマー、小分子、タンパク質等の選択系によって特に設計された他の分子等のTAS1R3受容体と相互作用することができる分子であると理解される。
【0012】
本発明では、「リガンドとのコンジュゲート」は、リガンド及び治療活性を有する分子(薬物、放射性医薬品等)又は診断用分子(放射性同位体、キレート剤、ガドリニウム、蛍光体等)を含む化学的コンジュゲートである。
【0013】
本発明では、「反応性基で機能付与されたリガンド」は、化学反応若しくは生化学反応においてその後に使用され得る又は他の分子のその後の結合若しくは選択的相互作用のための反応性基が存在するように化学修飾されたリガンドを意味する。
【0014】
本明細書で使用される場合に、「患者から単離された生体試料」という用語は、生体腫瘍試料を指すか又は定型的な臨床プロトコルで診断に使用するための定型的な外科的手順によって摘出された腫瘍組織を含む。さらに、この用語は、腫瘍組織又は循環腫瘍細胞又は腫瘍によって放出された物質を含む任意の組織又は血液、血清若しくは血漿から単離された生体試料を包含すると理解される。
【0015】
本明細書で使用される場合に、「組織病変」という用語は、組織内に腫瘍細胞が存在することを指す。
【0016】
本明細書で使用される場合に、「TAS1R3発現の測定」という用語は、上記タンパク質又はRNA等のその発現産物のいずれかの発現を評価することができるプライマー、抗体又は任意の他のシステムに関連する。
【0017】
本明細書で使用される場合に、「患者」という用語は、好ましくはヒトを指す。しかしながら、患者は、非霊長類哺乳動物(例えば、ウマ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウシ又はブタ)及び霊長類哺乳動物(例えば、サル)を含む哺乳動物を指し得る。
【0018】
本明細書で使用される場合に、「分子マーカー/腫瘍バイオマーカー」という用語は、癌の生体マーカー、すなわち、腫瘍又はその存在に密接に関連する間質細胞によって産生され、腫瘍細胞によって冒された腫瘍病変の状態についての臨床的に関心が持たれる情報を提供する1つ以上の物質を指す。また「分子マーカー/腫瘍バイオマーカー」とは、癌の生体マーカー、すなわち、腫瘍又はその存在に密接に関連する間質細胞によって産生され、受容体リガンド、好ましくはコンジュゲートの形のリガンドの使用によって上記細胞に向けて療法薬を誘導する可能性をもたらす1つ以上の物質を意味する。
【0019】
TAS1R3発現レベルの測定は、例えば、ELISA、ELONA、イムノブロッティング、免疫蛍光法又は免疫組織化学、フローサイトメトリー及びアプタヒストケミストリー(aptahistochemistry)等の免疫学的技術によって行われ得る。イムノブロッティングは、変性条件下でのゲル電気泳動によって事前に分離され、特異的抗体及び現像系(例えば化学発光)と一緒にインキュベートすることによって、一般的にニトロセルロース膜上に固定化されたタンパク質の検出に基づく。免疫蛍光分析では、発現の分析のための標的タンパク質に特異的な抗体の使用が必要とされる。ELISA及びELONAは、酵素で標識された抗原、抗体又はアプタマーの使用に基づくため、標的抗原と標識抗体との間で形成されたコンジュゲートは、酵素的に活性な複合体の形成をもたらす。構成要素の1つ(抗原又は標識抗体又はアプタマー)が支持体上に固定化されているので、抗原-抗体/アプタマー複合体は支持体上に固定化され、こうして、酵素によって、例えば分光光度法又は蛍光光度法により検出可能な産物に変換される基質を添加することによって検出す
ることができる。
【0020】
免疫学的方法を使用する場合に、標的タンパク質の量を検出するために高い親和性で標的タンパク質に結合することが知られている抗体又はアプタマー等の任意の試薬を使用することができる。しかしながら、抗体、例えばポリクローナル血清、ハイブリドーマ上清又はモノクローナル抗体、抗体のフラグメント、Fv、Fab、Fab’及びF(ab’)2、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ及びヒト化抗体の使用が好ましい。一方で、タンパク質発現レベルの測定は、現在の技術水準においてよく知られる免疫組織化学的技術によって行うことができる。免疫組織化学及び/又は適切な組織化学による測定を行うために、試料は新鮮な試料、凍結された試料又はパラフィン包埋試料及びホルマリン型の保護剤を使用して固定された試料であってもよい。免疫組織化学的測定のためには、TAS1R3に特異的な抗体又はアプタマーで試料を染色し、染色された細胞の度数及び染色強度が測定される。典型的に、試料には、染色された細胞の度数(0から4の間で変化する値)及び染色された各細胞での強度の度数(0から4の間で変化する値)に基づいて計算される全体の発現の指標となる値が割り当てられる。発現値を試料に割り当てるための典型的な基準は、例えば、Handbook of Immunohistochemistry and In Situ Hybridization in Human Carcinomas, M. Hayat E d., 2004, Academic Pressにお
いて詳細に記載されている。さらに、免疫組織化学により、癌組織に存在するどの細胞型が、マーカー発現のレベルに変化を示す細胞であるかを特定することが可能となる。好ましくは、免疫組織化学的検出は、ポジティブマーカー及びネガティブマーカーとして機能する細胞試料と並行して行われ、参照として、分析されている腫瘍と同じ起源の健康な組織を使用することができる。バックグラウンドコントロールを使用することも一般的である。
【0021】
多数の試料が分析されるべきである場合(例えば、同じ患者からの幾つかの試料又は異なる患者からの試料が分析されるべきである場合)に、マトリックス形式及び/又は自動化された手順の使用が可能である。一実施形態では、種々の技術を使用して得ることができる組織マイクロアレイ(組織マイクロアレイすなわちTMA)の使用が可能である。マイクロアレイの一部である試料を、免疫組織化学、in situハイブリダイゼーション、in situ PCR、RNA分析又はDNA分析、形態検査、及び上記のいずれかの組合せを含む種々の様式で分析することができる。組織マイクロアレイを処理する方法は、例えばKonenen, J. et al.(Nat. Med. 1987, 4: 844-7)に記載されている。組織マイクロアレイは、パラフィンに包埋された組織試料からの直径0.6mm~2mmの円柱状コアから調製され、単一のレシピエントブロック中に再び包埋される。こうして、多数の試料からの組織を、単一のパラフィンブロック中に挿入することができる。TAS1R3の発現レベルの測定は、癌被験体からの生検試料における腫瘍組織のコレクションで測定されたTAS1R3発現レベルの中央値に対応する参照値と相関させる必要がある。上記参照試料は、典型的には、被験体の集団からの等量の試料を混ぜ合わせることにより得られる。一般に、典型的な参照試料は、臨床的に十分に記録に残されており、疾患が通常の方法(直腸指診、便中の潜血検査、S状結腸鏡検査、大腸内視鏡検査、生検、癌胎児性抗原等の腫瘍マーカーの測定、超音波、CT、核磁気共鳴、陽電子放出断層撮影)の1つによって十分に特徴付けられている被験体から得られる。そのような試料では、バイオマーカーの通常の(参照の)濃度は、例えば参照集団全体の平均濃度を得ることによって測定することができる。マーカーの参照濃度を測定する場合に、幾つかの検討事項が考慮に入れられる。そのような検討事項には、関係する試料の種類(例えば、組織又はCSF)、患者の年齢、体重、性別、全身健康状態等が含まれる。例えば、少なくとも2体、少なくとも10体、少なくとも100体ないし、好ましくは1000体を超える被験体の同量の群が参照群として採用され、好ましくは、例えば様々な年齢カテゴリーの上記検討事項に従って分類される。参照レベルが導き出される元の試料のコレクションは、好ましくは、研究対象の患者と同じ型の癌に罹患している被験体から構成される。
【0022】
この中央値又は閾値が設定されたら、この中央値を有する患者の腫瘍組織中で発現されるこのマーカーのレベルを比較し、こうして「増加」又は「減少」した発現レベルに割り当てることができる。被験者間のばらつき(例えば、年齢、人種等に関連する側面)のため、TAS1R3発現の絶対的な参照値を確立することは(実際には不可能ではないにしても)非常に困難である。したがって、特定の実施形態では、「増加」又は「減少」したTAS1R3の発現についての参照値は、疾患が上述の方法の1つによって十分に記録に残されている被験体における1つ以上の単離された試料においてTAS1R3発現レベルを試験することを含む慣例的な手段によってパーセンタイルを計算することによって決定される。次いで、「減少」したAPTXのレベルを、好ましくは、TAS1R3発現レベルが正常な集団における50パーセンタイル以下である試料、例えば正常な集団における60パーセンタイル以下、正常な集団における70パーセンタイル以下、正常な集団における80パーセンタイル以下、正常な集団における90パーセンタイル以下、正常な集団における95パーセンタイル以下であることを含む発現レベルの試料に割り当てることができる。次いで、「増加」したTAS1R3のレベルを、好ましくは、TAS1R3発現レベルが正常な集団における50パーセンタイル以上である試料、例えば正常な集団における60パーセンタイル以上、正常な集団における70パーセンタイル以上、正常な集団における80パーセンタイル以上、正常な集団における90パーセンタイル以上、正常な集団における95パーセンタイル以上であることを含む発現レベルの試料に割り当てることができる。本明細書で使用される「増加したTAS1R3の発現レベル」という用語は、参照試料に見られるよりも高いTAS1R3のレベルを指す。特に、発現レベルが、参照試料に対して、患者から単離された試料に対して、少なくとも1.1倍、1.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍又はそれ以上である場合に、試料は、増加したTAS1R3発現レベルを有するとみなすことができる。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明の著者らは、CTC(循環腫瘍細胞)(実施例1を参照)及び腫瘍において、新しい受容体であるTAS1R3(味覚の受容体)を特定し、その受容体の発現がグルコースの存在に応じて変化し、原発性腫瘍細胞、播種性腫瘍細胞又は転移性腫瘍細胞の存在に関連していることを突き止めた。
【0024】
この意味で、
図2~
図5から分かるように、健康なドナーのコントロール群(n=16)と比較して、転移性肺癌(NSCLC)患者(n=42)から分離された循環腫瘍細胞では、TAS1R3の発現がより高いこと(
図2)、非腫瘍コントロール組織(n=6)に対して、転移性肺癌(NSCLC)患者の腫瘍組織におけるTAS1R3の発現がより高いこと(
図3)、そして種々の腫瘍型の異なる細胞系統、すなわち結腸腫瘍(SW620及びSW480)、肺腫瘍(A549及びH1755)、神経膠芽腫(U87及びU118)及び膵臓腫瘍(MiaPaCa2)においてTAS1R3受容体が発現すること(
図4)が検証された。同様に、TAS1R3の発現を、原発性腫瘍の分離された結腸細胞(SW480)と比較して、種々の起源の腫瘍細胞のパネル、特に転移性起源由来の結腸細胞(SW620)において免疫蛍光法によって研究した。
【0025】
これらのデータは、
図2及び
図3が非腫瘍コントロール組織に対する腫瘍細胞における発現レベルの明確な違いを示していることを考慮して、このバイオマーカーの診断能力を裏付けていると共に、より低いレベルのTAS1R3受容体発現を伴う患者においてより良好な全生存期間を示す
図14の結果に基づいて、その予後診断能力を裏付けている。
【0026】
したがって、本発明は、組織又は血液、血清若しくは血漿の試料等の生体試料における原発性腫瘍細胞、播種性腫瘍細胞又は転移性腫瘍細胞の存在を検出することができる新し
い予後診断/診断用の腫瘍バイオマーカーに関する。また、本発明は、組織又は血清若しくは血漿の血液試料等の生体試料におけるTAS1R3発現レベルを検出して、上記組織又は生体試料における原発性、播種性又は転移性のいずれかの腫瘍細胞の病変又は存在を診断することに関する。上記情報はまた予後診断的価値も有する。それというのも、転移性腫瘍細胞の同定又は組織又は血清若しくは血漿の血液試料等の生体試料におけるTAS1R3のレベル及び/又は濃度と、健康な個体又は健康な器官若しくは組織の一部からの生体試料又は腫瘍病変を有しない生体試料における又は参照値からのTAS1R3受容体のレベル及び/又は濃度との比較により、癌に罹患している患者の全生存(OS)期間についての情報等の個体の予後診断において有用な情報を提供するからである。この意味で、TAS1R3の発現の測定及びTAS1R3を発現する細胞型の特定によって、腫瘍細胞により冒された組織の病変を予測することが可能となる。さらに、TAS1R3受容体の発現レベルにより、転移性腫瘍細胞が示唆する病変の可能性を予測することができるため、明らかな予後診断的価値が得られる。
【0027】
したがって、本発明の第1の態様は、患者における腫瘍の病変又は存在(腫瘍性又は転移性の病変又は存在)を予測する又はin vitroで診断する方法であって、以下の工程:
a)患者から単離された少なくとも1つの生体試料、好ましくは血液、血清若しくは血漿の試料又は組織の試料、好ましくは固定された試料、より好ましくはパラフィンに固定及び包埋された試料から始める工程と、
b)細胞型特定技術によって、組織又は血清若しくは血漿の血液試料等の生体試料の細胞におけるTAS1R3の発現レベルを測定する工程と、
c)上記発現レベルと、健康な個体又は健康な器官若しくは組織の一部の生体試料又は腫瘍病変を有しない生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値とを比較する工程と、
を含み、健康な個体又は健康な器官若しくは組織の一部の生体試料又は腫瘍病変を有しない生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値と比較して増加した発現レベルが、患者における腫瘍の病変又は存在(腫瘍性又は転移性の病変又は存在)の指標であることを特徴とする、方法に関する。
【0028】
さらに、第2の態様では、本発明は、腫瘍の病変又は存在(腫瘍性又は転移性の病変又は存在)に見舞われている患者の臨床経過をin vitroで予後診断する方法であって、以下の工程:
a)患者から単離された少なくとも1つの生体試料、好ましくは血液、血清若しくは血漿の試料又は腫瘍組織の試料、好ましくは固定された試料、より好ましくはパラフィン中に包み込まれ固定された試料から始める工程と、
b)細胞型特定技術によって、組織又は血清若しくは血漿の血液試料等の生体試料の細胞におけるTAS1R3の発現を測定する工程と、
c)上記発現レベルと、項目a)の生体試料よりも早い時点で得られた同じ患者からの生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値とを比較する工程と、
を含み、項目a)の生体試料よりも早い時点で得られた同じ患者からの生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値と比較して増加した発現レベルが、患者の消極的な臨床的進化の指標であることを特徴とする、方法に関する。
【0029】
患者の消極的な臨床的進化は、好ましくは、5年未満、好ましくは3年未満の推定全生存期間として理解される。
【0030】
さらに、第3の態様では、本発明は、腫瘍の病変又は存在(腫瘍性又は転移性の病変又は存在)に見舞われている患者の臨床的進化のin vitroでモニタリングする方法であって、以下の工程:
a)患者から単離された少なくとも1つの生体試料、好ましくは血液、血清若しくは血漿の試料又は腫瘍組織の試料、好ましくは固定された試料、より好ましくはパラフィン中に包み込まれ固定された試料から始める工程と、
b)細胞型特定技術によって、組織又は血液、血清若しくは血漿の試料等の生体試料の細胞におけるTAS1R3の発現を測定する工程と、
c)上記発現レベルと、項目a)の生体試料よりも早い時点で得られた同じ患者からの生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値とを比較する工程と、
を含み、項目a)の生体試料よりも早い時点で得られた同じ患者からの生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値と比較して増加した発現レベルが、患者の消極的な臨床的進化の指標であることを特徴とする、方法に関する。
【0031】
さらに、第4の態様では、本発明は、腫瘍の病変又は存在(腫瘍性又は転移性の病変又は存在)に見舞われている患者のin vitro治療に対する応答をモニタリングする方法であって、以下の工程:
a)患者から単離された少なくとも1つの生体試料、好ましくは血液、血清若しくは血漿の試料又は腫瘍組織の試料、好ましくは固定された試料、より好ましくはパラフィンに固定及び包埋された試料から始める工程と、
b)細胞型特定技術によって、組織又は血清若しくは血漿の血液試料等の生体試料の細胞におけるTAS1R3の発現を測定する工程と、
c)上記発現レベルと、項目a)の生体試料よりも早い時点で得られた同じ患者の生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値とを比較する工程と、
を含み、項目a)の生体試料よりも早い時点で得られた同じ患者からの生体試料におけるTAS1R3受容体の発現レベル又は参照値と比較して増加した発現レベルが、患者の治療に対する応答の欠如の指標であることを特徴とする、方法に関する。
【0032】
「定義」の節で既に述べたように、本明細書で使用される場合に、「TAS1R3の発現の測定」という用語は、上記タンパク質、例えばアプタマーの発現を評価することができる抗体又は任意の他の系を指す。TAS1R3発現レベルの測定に有用な抗体又はアプタマーを得るために、ヒトTAS1R3タンパク質の配列分析を行った。これらのデータから、免疫学的観点から最も適切な配列(N末端の細胞外領域に存在する)は、以下の通りであると予測することができた:
アセチル-LSQQLRMKGDYVLGGC-アミド(配列番号1)
アセチル-ERLKIRWHTSDNQKPVSRC-アミド(配列番号2)
【0033】
これらのデータに基づいて、異種発現系である大腸菌を使用してペプチドを合成した(アセチル-LSQQLRMKGDYVLGGC-アミド)。得られたタンパク質を、最終純度90%~95%で均質になるまで精製して、2mgをKLHとコンジュゲートさせ、3mgをBSAとコンジュゲートさせた。ゲノムコンストラクトの設計は、文献(Maitrepierre et al., 2012)に基づいて行った。同様に、タンパク質の完全性を維持するため
に、保存バッファー配合物の研究を行った(最終配合での界面活性剤及び多糖類の使用を制限する)。得られたバッチをラベル付きの滅菌バイアル中に分注し、使用するまで-80℃で保存した。4用量及び2用量の50μgのペプチドでマウスを数回免疫化した後に、出血を力価測定して、該ペプチドに対する応答の増加を評価した。それらの結果は、マウスが該ペプチドに対して或る程度の応答を生ずるが、非常に低い値で生産の達成を妨げることを示している。
【0034】
したがって、本発明の第1の態様から第4の態様の好ましい実施形態では、組織又は血清若しくは血漿の血液試料等の生体試料の細胞におけるTAS1R3の発現の測定は、配列番号1又は配列番号2に結合することができる抗体若しくはそのフラグメント又はアプタマーを用いて行われる。
【0035】
本発明の第1の態様から第4の態様の好ましい実施形態では、本発明は、上記方法の消極的な予測値が80%より大きく、より好ましくは90%、95%、96%、97%、98%又は99%より大きいことを特徴とする。すなわち、患者の生体試料中の細胞においてTAS1R3の発現が検出されない場合に、上記試料は腫瘍に冒されていないことを意味する。
【0036】
本明細書で使用される場合に、「消極的な予測値」という用語は、疾患(腫瘍細胞によって冒される組織病変)を有しない中の消極的な試験結果を有する場合のパーセンテージを指す。
【0037】
別の好ましい実施形態では、本発明は、患者が固形腫瘍を患っており、好ましくは、以下の群:乳癌、黒色腫、ブドウ膜黒色腫、膵臓癌、肺癌、前立腺癌、胃癌、頭頸部癌、肉腫、神経膠芽腫、神経芽腫、結腸及び直腸の癌、頭頸部の癌、腎臓癌及び膀胱癌並びに肝癌の中から選択される疾患を患っていることを特徴とする。
【0038】
別の好ましい実施形態では、本発明は、工程b)で規定される細胞型特定技術が、以下の群:免疫組織化学、免疫蛍光法、アプタヒストケミストリー及びフローサイトメトリーの中から選択されることを特徴とする。好ましくは、工程b)で規定される細胞型特定のための技術は免疫組織化学であり、より好ましくは、免疫組織化学は、以下の工程:
i)試料を前処理する工程と、
ii)免疫染色する工程と、
iii)対比染色する工程と、
iv)免疫染色分析する工程と、
を含む。
【0039】
別の好ましい実施形態では、本発明は、工程a)で規定された組織から既に得られた試料が、以下の群:固定された組織試料、新鮮な組織試料及び凍結された組織又は血液、血清若しくは血漿の試料の中から選択されることを特徴とする。好ましくは、該試料は、固定された組織試料又は血液、血清若しくは血漿の試料である。
【0040】
別の好ましい実施形態では、本発明は、患者が哺乳動物であることを特徴とする。好ましくは、哺乳動物は、以下の群:ヒト、霊長類及び非霊長類から選択される。より好ましくは、患者はヒトである。
【0041】
本発明はまた、本発明の第5の態様では、好ましくは上記の方法において腫瘍バイオマーカーとして使用されるTAS1R3に関する。
【0042】
本発明はまた、上記の方法で使用されるキットに関する。
【0043】
本発明の実施形態は、新鮮な組織、固定された組織又は凍結された組織において、フローサイトメトリー、免疫組織化学、免疫蛍光法又は当業者に知られる細胞型の特定を可能にする任意の他の技術によって行われ得る。
【0044】
一方で、ナノ粒子、薬物又は放射性同位体等の分子の選択的な誘導のためのこの受容体の多大な可能性のため、上記受容体と相互作用する内因性でないため競合現象が起こらない分子の存在を本発明者らが知っていることを考慮に入れると、本発明者らは、受容体の幾つかのリガンド、特に幾つかの甘味料を選択することで、それに対する療法薬を設計することが可能であるという仮説を検証した。本発明者らはまた、上記リガンドでナノ構造物を機能付与することで、TAS1R3を発現する腫瘍、例えば原発性腫瘍又は播種性腫
瘍細胞、例えばCTC(循環腫瘍細胞)及び転移性細胞に向けてそれらを誘導した。本発明者らはまた、ラクチゾール等の幾つかのリガンド又は該リガンドで機能付与されたナノ構造物が、腫瘍の毒性及び増殖に関して治療効果をもたらし得ることも確認した。
【0045】
上記の機能付与を実施するために、表2に記載されるリガンドを取得し、それらのリガンドを、共有結合によって疎水性部(例えば、LACT-C16)に連結させた又はインキュベートによって事前に形成されたナノエマルジョン(例えば、BRA)上に連結させた。使用されたペプチドの配列及び得られたナノエマルジョンの物理化学的特性を以下で説明する(表2)。
【0046】
【0047】
事前の機能付与が行われると、該受容体を発現する細胞(腫瘍細胞)における、TAS1R3に対するリガンドで機能付与されたこれらのナノエマルジョンの高い内部移行能力が確認された。例えば、ラクチゾールで機能付与されたナノエマルジョンの場合に、ナノエマルジョン内に封入されたDiDシグナルは、他の機能付与されていないナノエマルジョンよりも大きかった。さらに、腫瘍細胞が標的受容体をより低い強度で発現した場合に(この場合に、より高いグルコース含有量を有する培地中で培養されたSW620細胞におけるTAS1R3(低発現、実施例2))、シグナルの強度が減少する(実施例4)ことが確認された。
【0048】
したがって、本発明は、腫瘍細胞の細胞膜、特に播種性腫瘍細胞及び転移性腫瘍細胞の膜において発現されるTAS1R3に対するリガンドによるナノシステムの機能付与により、そのナノシステムが強力な治療能力を有する単位となることを実証している。特に、上記ナノシステムは、併用療法の開発のための媒介物として使用され得る。さらに、量子ドット等のナノエマルジョン以外の構造物を機能付与する上記可能性は、本発明の実施例5に記載されている。この発見は、ナノ粒子、ミセル又はリポソーム等の任意の種類のナノシステムについて推定することができる。すなわち、この受容体に対するリガンドは、任意の種類のナノシステムの機能付与に用いられる選択的な媒介物として機能し得る。さらに、この発見は、この受容体に対するリガンドを含む任意のリガンド-薬物コンジュゲート及び/又はリガンド-放射性同位体等の任意の種類の系について推定することができ、上記薬物又は放射性同位体を機能付与する選択的な細胞内媒介物として機能し得る。
【0049】
【0050】
したがって、本発明は、リガンドを有する任意の種類のナノ構造物、リポソーム、薬物又は放射性同位体が本発明の受容体に対して機能付与されると、該受容体を発現するこれらの細胞に向かう上記構造物の輸送、特に原発性腫瘍細胞、播種性腫瘍細胞又は転移性腫瘍細胞に向かう輸送が観察されることを実証している。
【0051】
したがって、本発明の第6の態様は、受容体リガンド、好ましくはコンジュゲート又は免疫毒素の形のリガンドの使用により腫瘍細胞に対して療法薬を誘導するための分子マーカー/腫瘍バイオマーカーとしてのTAS1R3受容体の使用に関する。免疫毒素は、特異的な標的剤、典型的には腫瘍に対する抗体又はそのフラグメントと、毒素部分等の細胞毒性剤とのコンジュゲートである。標的剤は、標的抗原を有する細胞に毒素を誘導して、そのような細胞を殺傷するように設計されている。
【0052】
したがって、本発明は、本発明の第7の態様では、
特異的な標的剤、典型的には、TAS1R3受容体と相互作用することができる分子、例えば、単糖及び二糖、スクラロース、シクラメート、ネオエスペリジン、ジヒドロカルコン及び誘導体等の人工甘味料、ラクチゾール及び誘導体等の甘味阻害剤、ブラゼイン等のタンパク質、並びに抗体、抗体のフラグメント、ペプチド、アプタマー、小分子、タンパク質等の選択系によって特に設計された他の分子と、
細胞毒性剤、例えば細胞毒性剤又は抗腫瘍薬、放射性同位体、ナノ構造物又はナノエマルジョンと、
のコンジュゲートを提供する。
【0053】
本発明の第7の態様の好ましい実施形態では、標的剤は、配列番号1又は配列番号2に結合することができる抗体若しくはそのフラグメント又はペプチド又はアプタマーである。
【0054】
本発明の第8の態様は、治療又はin vivo診断で使用される、好ましくは、癌のin vivo治療又は診断で使用される、より好ましくは、固形腫瘍、好ましくは、以下の群:乳癌、黒色腫、ブドウ膜黒色腫、膵臓癌、肺癌、前立腺癌、胃癌、頭頸部癌、肉腫、神経膠芽腫、神経芽腫、結腸及び直腸の癌、頭頸部癌、腎臓癌及び膀胱癌並びに肝癌又は播種性細胞若しくは転移性細胞の中から選択される腫瘍の治療又はin vivo診断で使用される、本発明の第7の態様のコンジュゲートに関する。
【0055】
発明の詳細な説明及び特許請求の範囲全体を通して、「含む」という語句及びその別形は、他の技術的特徴、添加物、構成要素又は工程を除外することを意図しない。当業者には、本発明の他の課題、利点及び特徴は、一部は発明の詳細な説明から、そして一部は本発明の実際の実施から明らかになるであろう。以下の図面及び実施例は、例示として提供されるものであって、本発明を限定するものとは意図されない。
【実施例0056】
実施例1.腫瘍細胞におけるTAS1R3受容体の発現
転移性肺癌患者のCTC(循環腫瘍細胞)におけるTAS1R3受容体の遺伝子発現の分析を、末梢血試料(患者=10、コントロールn=4)から、その分離のために磁性粒子(EpCAMベースのCELLection(商標)Epithelial Enrich Dynabeads(商標)キット)を使用して、
図13に示される図に従って行った。試料からRNAを抽出した後に、それらのRNAを遺伝子発現アレイにおいてハイブリダイズさせた。シグナルを取り込み、処理することで、患者におけるコントロールと比べて発現が異なる遺伝子のリストを得たところ、その中にTAS1R3受容体があった。要約すると、CTCのトータルRNAを増幅し、相補的DNAを遺伝子発現マイクロアレイ(Agilent社)においてハイブリダイズさせ、生データを処理することで、品質の基
準を満たす2392個の点(7.01%)が得られた。平均シグナルは60889ユニットであり、患者群及びコントロール群について、それぞれ76597ユニット及び16979ユニットであった。正規化後に、少なくとも8人の患者及び2人のコントロールにおいて、211を超える発現を有する1810個のプローブを後続の分析のために考慮した。進行性非小細胞肺癌患者から分離されたCTCの集団を特徴付ける遺伝子を、ソフトウェアMeV v4.7(Multiexperiment Viewer)(TM4 Microarray Software Suite)を適用することにより特定した。厳しい基準で候補遺伝子を選択するために2つのクラスのマイクロアレイデータ分析(SAM)アルゴリズムを使用して有意性を得た。偽発見率(FDR)=0の中央値についてのデルタパラメーターが3.3であると仮定すると、進行NSCLC患者のCTCの集団を明確に特徴付ける1.5より大きいlog2比を有する529個のプローブのみを考慮して、2461個の遺伝子のリストが示された。有意に発現されたこれらの遺伝子で、MeVを使用して階層的グループ化(HCL)を実施した。距離メトリックとして、ピアソン相関を選択し、MeVオプションにおいて絶対距離及び完全リンクグループ化パラメーターを使用した。
【0057】
差次的発現のゲノム分析も行った。
図1に示されるように、遺伝子セットを最初にインジェヌイティパスウェイ(IPA)ソフトウェアで分析して、遺伝子ネットワークを生成し、転移性肺癌患者のCTCを特徴付けるシグナル伝達経路の概要を得た。529個の有意な遺伝子のうち、349個はアノテーションされた遺伝子であったため、IPAによって識別した。腫瘍細胞の活動的な播種性亜集団と一貫して、CTCの特定の遺伝子のセットによって表される主な分子機能及び細胞機能は、細胞運動、細胞死、シグナル伝達及び
細胞間相互作用、分子輸送並びに脂質代謝に関連し、それらは主としてGタンパク質に共役した受容体のシグナル伝達及び補体系の経路によって調整される。遺伝子のリストを、1)接着、細胞運動及び遊走に関連する機能に関してだけでなく、その後に、2)細胞表面上の位置に関してもフィルタリングした。得られた分子はNocth1及びTAS1R3であった。
【0058】
次いで、本発明者らは、患者及びコントロールの独立したコホートにおける候補遺伝子の発現の検証を進めた。定量的PCRを使用して、この受容体の発現レベルが患者において有意に高いことが確認された(
図2)。発現値を、非特異的分離マーカーとしてのCD45(造血細胞マーカー)で正規化した。さらに、この受容体の発現の補足的な検証を、パラフィン包埋された健康な組織及び腫瘍組織の試料で行った(
図3)。これを行うために、本発明者らは、パラフィン包埋された試料用の特定の抽出キット(RNeasy FFPEキット、QIAGEN社)を使用して、それぞれ14ミクロンの5つのパラフィン切片からRNA抽出を行った。その濃度を知るために、Nanodrop機器(Nanodrop 2000C、Thermoscientific社)を使用した。これらのデータを用いて、各試料におけるRNA濃度の正規化を行い、合計2μgをヌクレアーゼフリー水で10μLの最終容量にした。次いで、High Capacity cDNA Reverse Transcriptionキット(Appliesbiosystems社)を使用し、RNAからcDNAへ
の経過のためにサーマルサイクラー(peq STAR 96HPL、VWR(商標)社)
を使用した。cDNAを取得したら、TAS1R3に特異的なプローブと共にTaqman Universal PCR MasterMixと一緒に混合を行った。GAPDHをコントロール又はハウスキーピングとして使用し、ポリメラーゼ連鎖反応をStepOne Plus-Real-Time PCRシステム(AppliedBiosystems(商標)
社)において実施した。
【0059】
マーカーの予後診断値に関する情報を取得するために、SPSS統計パッケージを使用してカプラン・マイヤー生存分析を実施した(
図14)。この方法を適用するために、観測された全ての生存時間を最短から最長の順に並べ、各生存時間について起こった死亡及び中途打ち切りの数を注記する。各期間について生存の確率を計算し、カプラン・マイヤー関数は「経時的に累積された個体の生存確率」である。TAS1R3の発現値がカット-7.5より低いCTCを伴う患者の全生存期間(月単位で測定)は、より高いTASR13の発現値を有するCTCを伴う患者(暗い線)と比べてより優れている(明るい線)(0.09のp値)。
【0060】
細胞培養物における発現の評価に関しては、ATCC(アメリカ培養細胞系統保存機関)から入手した幾つかの型の細胞系統を使用した(
図4)。リンパ節由来の転移性結腸細胞(SW620、CCL-227)、結腸直腸腺癌上皮細胞(SW480、CCL-228)、肺癌上皮細胞(A549、CCL-185)及び肝臓由来の転移性肺細胞(H1755、CRL-5892)、膵臓癌細胞(MIA PaCa-2、CRL-1420)及び膠芽腫細胞(U118、HTB-15及びU87MG、HTB-14)を使用した。SW620系統、SW480系統、A549系統、U118系統及びU87MG系統を、DMEM HG培地(ダルベッコ改変イーグル培地-高グルコース、Sigma-Aldrich社)中
で維持し、H1755系統を、RPMI 1640培地(Gibco(商標)、LifeTecnologies社)中で維持し、両者ともウシ胎児血清(Gibco(商標)、LifeTecnologies社)が10%まで補充され、抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン、Sigma-Aldrich社)が1%まで補充されている。TAS1R3の発現の定量的分析のために、培養物
中の全ての細胞系統から抽出されたRNAから出発して、逆転写酵素を用いてポリメラーゼ連鎖反応を行った(RT-PCR)。最初に、細胞を定型的にトリプシン処理した後に、ノイバウエルチャンバーを使用してそれらの細胞を計数することで、各系統から500万個の細胞を分離して、同等の細胞数から開始することができた。RNA抽出を、抽出キ
ット(GeneJET RNA精製キット、ThermoScientic社)を使用して実施し、分析を前段落で説明されたのと同様に実施した。手順が終了したら、データを分析した。発現の結果は
図4及び
図5に示されている。リンパ節から分離された転移性癌細胞系統(SW620)は、同じ患者の原発性腫瘍の分離された系統SW480と比較して、より大きなその発現を示す。これらの違いは肺腺癌細胞を参照した場合には観察されず、その際、両者の系統は、その起源(肝臓中の転移性肺H1755細胞及び肺癌由来のA549細胞)にかかわらず、同様の発現レベルを示す。膵臓腺癌細胞系統であるMiaPaCa-2は、他の細胞系統(SW620を除く)よりも僅かに高い発現レベルを示す。一方で、神経膠腫系統(U87MG及びU118)は、該受容体をより少ない程度でしか発現しない。
【0061】
図5に示される免疫蛍光研究に関して、研究対象の細胞を、試験が行われる1日前に、8ウェルのマイクロチャンバー(PLC30108、SPL LifeSciences社)に播種した。24時間後に、培養培地を吸引により除去し、1×PBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で15分間細胞の固定を続けた。それらの細胞を1×PBSで2回洗浄した後に、該細胞を0.2%のtriton 100Xを用いて室温で10分間透過処理した。tritonを洗い流した後に、一次抗体の抗ヒト(ウサギ)(MBiosource社)を0.2%BSA(1×PBS中に1:1000希釈で溶解)中でインキュベートし、プレートを室温で1時間インキュベートした。次いで、一次抗体を洗浄し、蛍光体(抗体に応じてAlexa fluor 488又は594)で標識された抗ウサギ二次抗体(ab150077又は111-585-144 Jackson Immunoresearch社)(1×PBS中0.2%BSAにおいて1:500希釈)を適用した。同時に、Hoechst 33342(ThermoFisher(商標)社)(1:1000希釈)を加え、1時間インキュベートすることで、考えられる光劣化から蛍光体を保護した。インキュベート時間が経過したら、撹拌しながら再度1×PBSで3回洗浄した後に、マイクロチャンバーの壁を取り外し、Mowiol封入剤(Calbiochem社)を適用し、試料上にカバースリップを置いた。それを暗所から遮って室温で一晩放置して乾燥させ、翌日、共焦点顕微鏡(共焦点レーザー顕微鏡Leica SP8(商標))で観察するまで-20℃で貯蔵した。
図5Aから分かるように、腫瘍起源の殆どの細胞系統は検出可能なレベルの蛍光を有している。結腸系統SW480(原発性)とSW620(神経節転移性)(5B)との間の強度を比較した場合に、SW620細胞系統においてより大きな強度を観察することができるため、この試験で得られた結果は、RT-PCRのデータと相関している。
【0062】
タンパク質の定性的研究のために、SW620細胞系統から単離されたタンパク質からウエスタンブロットを実施し、結果を
図6(B)に示す。高グルコース濃度を有する培地(ダルベッコ改変イーグル培地-高グルコース、Sigma-Aldrich社)及び低グルコース濃
度を有する培地(ダルベッコ改変イーグル培地-低グルコース、Sigma-Aldrich社)中で
細胞を培養し、それらを通常の頻度で変えた。細胞をトリプシン処理し、ノイバウエルチャンバーを使用して計数を行ったところ、全ての系統の同様の数の細胞(500万個)を有していた。次に、それを室温で5分間150×gで遠心分離し(Centrifuge
SL 16R、ローターTX-400、ThermoScientific(商標)社)、培地を吸引し、得られたペレットを1×PBS中で再懸濁し、引き続き1回目と同じ条件下で新たな遠心分離を実施して、1×PBSを吸引し、ペレットをできるだけ分離されたままにするようにした。次いで、このペレットを完全な1×RIPA(8μLのフッ化ナトリウム(NaF)、1.6μlのオルトバナジン酸ナトリウム(Na
3OV
4)、2μLのプロテアーゼ阻害剤(PIC)、2μLのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)及び186.4μlの1×RIPA)中に再懸濁し、氷上で20分間インキュベートした後に、10分間超音波処理して、その後に、13800×g、4℃で15分間遠心分離し(Microcentrifuge 5415R、ローターF452411 Eppendorf(商標)
社)、試料から上清を収集した。各試料の総タンパク質を、ブラッドフォード法(システイン、シスチン、トリプトファン、チロシン等の特定のアミノ酸によって、そしてまたペ
プチド鎖によっても影響されるアルカリ条件での二価カチオン銅から一価カチオン銅への変換法;二価カチオン銅の量はこれらの成分の量に依存し、分光光度法で測定される)によって、市販のキットDC-Assay(BIO-RAD(商標)社)を使用し、ウシ血清アル
ブミン(BSA、Sigma-Aldrich社)で検量線を確立して定量化した。試料の吸光度を、
VersaMax ELISA Microplate Reader(Molecular Devices(商標)社)プレートリーダーにて750ナノメートルで測定した。電気泳動のため
に、濃縮ゲル、4%SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミド)及びSDS-PAGEの10%分離ゲルからなる厚さ1.5mmの垂直ゲルを調製した。同時に、総量20μgのタンパク質、6×ローディングバッファー(Tris pH6.8、SDS、グリセロール、ブロモフェノールブルー及びβ-メルカプトエタノール)及び各試料のタンパク質濃度に応じた容量の水を用いて試料を調製した。試料をサーモブロック内にて95℃で5分間変性させた後に、試料をMini-Protean II(Bio-Rad社)キュベットに入れられたゲルのウェルにロードし、試料がゲルセパレーターの
限界に達するまで50Vの電流を印加し、その後にこの電圧を120Vに増加させ、推定時間は1時間30分(先頭がゲルから出るまで)であった。ゲルは常にランニングバッファー中に取り囲まれていた。次いで、タンパク質を0.45μmのニトロセルロース膜(Bio-Rad社)に転写し、その際、電気泳動ゲルをこの膜と接触させ、トランスファーバッ
ファー中で100Vの電圧を1時間30分間印加した。その過程の後に、タンパク質の存在を観察するために、上記膜をポンソーレッド溶液で浸漬させた。引き続き、膜を1×TTBS(トリス緩衝生理食塩水+Tween20)中の5%のミルクで、撹拌しながら室温で1時間ブロッキングした。この時間後に、膜を特別なプラスチックバッグに入れた後に、膜をそのタンパク質に特異的な一次抗体(商社Santa Cruzの濃度及び希釈で)と一緒にインキュベートし、それを撹拌しながら4℃で一晩保持した。翌日、膜を取り出し、撹拌しながら1×TTBSで10分間3回洗浄した後に、膜を別のプラスチックバッグに戻して、二次抗体(抗マウス又は抗ウサギ、BD-Jackson社)(1×TTBS中で1:5000希釈)と一緒にインキュベートして、膜を撹拌しながら室温で1時間保持した。二次抗体とのインキュベートの終わりに、室温で撹拌しながら1×TTBSで10分間の3回の洗浄を再び行った。最後に、Pierce ECL試薬(化学発光の増強)ウエスタンブロッティング基質(Thermo Fisher社)1:1を膜に適用し、その現像を進めた。膜をE
CLと一緒に暗所で露光カセット(revelation cassette)に導入し、その上にオートラ
ジオグラフィーフィルム(Mamorray社)を様々な露光時間でCurix 60自動現像機(AGFA(商標)社)を使用して配置した。ImageJソフトウェアを使用して取得したデータを、フィルムをスキャンした後に相対化した。
【0063】
実施例2.種々のグルコース濃度のレベルを有する培養培地におけるTAS1R3の発現
結腸系統SW620におけるTAS1R3の発現は、培養培地中のグルコース含有量に応じて変動する(高レベルのグルコースは、低含有量のグルコース中で培養された細胞について
図6Aで観察されたものと比較して、より低い発現を引き起こす)。この結果を、ウエスタンブロットによって更に確認した(
図6B)。さらに、
図6から分かるように、SW620結腸細胞をグルコースの不存在下で成長させると、受容体の発現が増加することから、この受容体の発現は細胞代謝に関連付けられる。
【0064】
細胞増殖研究を、高グルコース濃度及び低グルコース濃度を有する培地で培養されたSW620細胞において行った(
図7A)。細胞をトリプシン処理し、同じ数の細胞をプレーティングして、そのトリプシン処理後の0時間、24時間、72時間、96時間及び168時間の時点で、このためにノイバウエルチャンバーを使用して細胞を計数した。同様の方法で、細胞増殖研究を、種々の濃度で培養培地に添加された遊離リガンドが存在する培地中で行った(
図8)。顕微鏡(Leica社のDMIL(商標)顕微鏡)を使用して写真
を撮影し、引き続きそれらをトリプシン処理し、細胞数を計数して、これらの細胞と出発細胞との間で比較し、細胞に対するリガンドの効果を観察した。細胞増殖は、研究条件下
で同等であった。しかしながら、1ウェル当たり200個の細胞の量から出発して15日間待機してコロニー形成の研究を行った場合に、低濃度のグルコースを有する培地で培養された細胞は、高グルコース培地中で成長した細胞よりも高いレベルの受容体を発現し、より多くのコロニーを形成することが確認された(
図7B)。コロニー形成の研究のためには、12ウェルプレートを使用し、高(4500mg/L)含有量及び低(1000mg/L)含有量のグルコースを有する培地中で種々の量の細胞(1ウェル当たり200個、400個、600個及び800個の細胞)でプレーティングした。コロニーのサイズが顕微鏡を使用しなくても視認することができるようになるまで、これらのプレートを光学顕微鏡によって肉眼で15日間観察した。次いで、PBS中に溶解されたMTTの溶液(5mg/mL)をウェル自体に加え、4時間のインキュベート後に、培地を慎重に吸引すると、紫色に染色されたコロニーがウェルの底に残留することとなる。プレートを室温で一晩乾燥させた後にスキャンして、OpenCFUプログラムを使用して各ウェル中のコロニーを計数した。
【0065】
実施例3.新しい抗腫瘍療法薬を開発するための標的としてのTAS1R3
TAS1R3受容体のリガンドであるラクチゾールが培養培地中に存在すると、研究対象の受容体の発現に増加が引き起こされる(
図8A)。より高い濃度では、リガンドの存在は細胞増殖を妨害するが(
図8B)、実際、細胞老化の誘導に関連付けられた(
図8D)。さらに、ウエスタンブロットによって、SW620の培養培地中にラクチゾール又はグルコース(HG)等のTAS1R3のリガンドが存在すると、p-ERK、p-AKT又はIGF-IR等の腫瘍の進行に関連付けられた経路が活性化されることも分かった(
図8E)。また、ブラゼイン及びシクラメートから誘導されたペプチドであるTAS1R3の他のリガンドがどのようにして、濃度及び各分子に応じて多かれ少なかれ増殖を妨げるのかも突き止めた(
図8F)。
【0066】
リガンドと一緒に細胞をインキュベートした後に細胞老化が誘発されるかどうかを調べるために、SW620系統の500000個の細胞を6ウェルプレートにおいて低グルコース濃度を有する培地中で培養した。幾つかのウェルにおいて、リガンド(3.5mg/mL)を加えた。72時間後に、ウェルを洗浄し、室温で15分間固定した(PBS中の2%ホルムアルデヒド、0.2%グルタルアルデヒド)。その溶液を除去して、1×PBSで3回洗浄した後に、1ミリリットルの溶液のために計算された染色液を適用した:200μLのクエン酸/リン酸バッファー(pH6.0)(0.2Mの二塩基性リン酸ナトリウム(Na2HPO4)+0.1Mのクエン酸)、30μLの5MのNaCl、50μLの100mMのフェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])、50μLの100mMのフェロシアン化カリウム(K4[Fe(CN)6])、2μLの1Mの塩化マグネシウム(MgCl2)、50μLのX-gal溶液(ジメチルホルムアルデヒド中の20mg/mLの5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルβ-D-ガラクトピラノシド)及び618μLの蒸留水。それをオーブン内にて37℃で一晩インキュベートし、流れている蒸留水によってウェルを2回洗浄した後に、1×PBSを適用し、Vert.A1顕微鏡(Zeiss(商標)社)下であり得る老化細胞を観察した。老化した細胞に対応する青
色染色が観察される。
【0067】
遊離リガンドを有する培地中でのコロニー形成を試験するために、同じ方法を実施したが、この場合に、細胞を1000ml/Lのグルコース(低グルコース濃度)で播種し、3.5mg/mLのリガンドを24ウェルのそれぞれに加えた。これらの結果は
図8Cに示される。処理された細胞の場合に、低グルコース濃度(LG)を有する培地中で成長したコントロールSW620細胞とは対照的に、プレート上に形成された代表的なコロニーは観察されなかった。したがって、該リガンドは腫瘍増殖、ひいてはコロニーを形成する能力に影響を与えると言うことができる。
【0068】
この知見は、このリガンドに、ナノ粒子の積極的な誘導のための機能及び薬物としての機能の二重の機能を与え得るので極めて興味深いものである。
【0069】
実施例4.TAS1R3に対する標的療法
TAS1R3に対する種々のリガンドによるナノエマルジョンの機能付与を、以下のように行った。ナノエマルジョンは、オレイン酸及びスフィンゴミエリン(それぞれ5mg及び500μg)を含む100μLのエタノールと一緒にC16~C18鎖に共有結合された500μgのラクチゾールを、穏やかに磁気撹拌しながら1mLのMilli-Q水(Millipore社 Milli-Q system(商標))に加えた後に自発的に得られ
た。G7111Aポンプ、G7129Aオートサンプラー及びG7114A UV-Vis検出器を備えたHPLCシステム(1260 Infinity II、Agilent社)
と共にInfinityLab Poroshell 120EC-C18カラム(Agilent社、4.6×00mm、4μmポアサイズ)を使用した高速液体クロマトグラフィー
(HPLC)を使用して、ナノエマルジョン中にリガンドが含まれていることを確認した。
【0070】
ナノエマルジョンが対象の受容体を発現する細胞と相互作用する能力に対する機能付与の効果を研究するために、フローサイトメトリー及び共焦点顕微鏡技術を使用した。具体的には、SW620細胞を使用し、共焦点顕微鏡法を使用した。これらの実験のために、8ウェルのマイクロチャンバー(PLC30108、SPL LifeSciences社)に1ウェル当たり80000個の細胞を播種した。24時間後に細胞を、オレイン酸及びスフィンゴミエリン誘導体から調製された、ニトロベンゾオキサジアゾール(NBD)で標識され、更にDiRが封入されたナノエマルジョン(OLM;O:SM 1:0.1)及びラクチゾールで機能付与されたこれらの同じナノエマルジョン(OLM-L;O:SM:Lact
1:0.1:0.1)と一緒に、0.12mg/mLのナノエマルジョンのウェル中の最終濃度でインキュベートした。37℃で4時間インキュベートした後に、細胞を1×PBSで2回洗浄し、次いで4%パラホルムアルデヒドで15分間固定した後に、ウェルを1×PBSで2回洗浄し、次いで細胞核をHoechst 33342(Thermo Fisher
(商標)社)で染色した。封入剤(Mowiol、Calbiochem社)を適用し、試料を共焦点顕微鏡(共焦点レーザー顕微鏡Leica SP8(商標))下で観察した。類似の実験を実施し、この場合に、高濃度又は低濃度のグルコースを有する培地で培養されたため、実施例2に見られるように異なるレベルの受容体の発現を有するSW620細胞における、ラクチゾールで機能付与され(O:SM:Lact 1:0.1:0.1)、DiDで標識されたナノエマルジョンのインキュベート後の内部移行を比較した。
図9から分かるように、ラクチゾールのためのTAS1R3受容体の発現が低いSW620細胞でインキュベートした場合に、ナノエマルジョンによる蛍光強度が実際に減少することが判明した。
【0071】
O:SM:Lact 1:0.1:0.1(NE-F)に、他の成分に対して1重量%でエトポシドを負荷した。96ウェルプレート中で1ウェル当たり10000個の細胞を播種した。24時間の培養後に、濃度の増加順に20μLの試験配合物を110μLの培養培地に適用し、ナノシステムが溶解されるビヒクル(大部分の場合に水)を加えているポジティブコントロール及び6%のTriton 100Xの希釈が適用されたネガティブコントロールすなわち全死滅を、コントロールとして設定した。48時間後に、プレートの培養培地を吸引して、1×PBSで洗浄し、その後に、MTT試薬を1×PBS中で5mg/mLの濃度で、補充を有しないDMEM培地中で1:10に希釈した後に適用し、0.22μmフィルターで濾過した。1ウェル当たり110μLを適用した。インキュベーター中で4時間後に、培地をプレートから除去し、110μLの容量の1×DMSO(ジメチルスルホキシド、99.7%、AcrosOrganics社)を添加して、ミトコンドリア
酵素により生成されたホルマザン結晶を溶解させた。遮光して、プレートを37℃で15
分間インキュベートした後に、分光光度計(Multiskan EX、ThermoLabsystems(商標)社)において570ナノメートルで吸光度を測定し、GraphPad Prism 5プログラムを使用して各配合物のEC50値を取得した。抗腫瘍薬の封入のために、エトポシドを選択し、13.75μlの40mg/mLの溶液(550μgの薬物)を有機相に加えた。全てのナノエマルジョンを、14000×g、15℃で30分間遠心分離(Microcentrifuge 5415R、ローターF452411 Eppendorf(商標)社)することによって単離して、ナノエマルジョンの一部ではなく全てを
排除した。
図10Aに示されるように、薬物のナノエマルジョンで処理された細胞の場合に(白色のナノエマルジョンは殆ど活性を示さなかった)、特に機能付与されたナノエマルジョンの場合に、より大きな細胞傷害活性が観察された。
【0072】
実施例5.量子ドットによる実験
量子ドットをヒトタンパク質TAS1R3に対する抗体で機能付与した。TAS1R3に対する抗体(参照sc50353、SCBT社)を、SiteClick(商標)Qdot(商標)655抗体標識キット(参照S10453、ThermoFisher社)を使用して、供給元の使用説明書に従って、量子ドットにコンジュゲートさせた。最終調製物中の濃度は、指定された波長で光学密度を計測した後に、式A=εcL(式中、Aは吸光度であり、εはモル吸光係数であり、cはモル濃度であり、Lは光路長である)を使用して測定した。量子ドットのサイズ分布を確認し、約400nmの過半数集団の存在を観察した。
【0073】
機能付与された量子ドットと懸濁及び接着した肺腫瘍細胞A549との相互作用試験を行った。インキュベートを4℃及び37℃で4時間行った。インキュベート時間後に、培養培地を除去し、1×PBSで洗浄した。懸濁液中でインキュベートされた細胞を、それらの付着を可能にし、TAS1R3受容体の免疫蛍光研究を実施するために、事後的に播種した。24時間後に、培養培地を吸引により除去し、1×PBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で15分間細胞の固定を続けた。次いで、抗ヒト一次抗体TAS1R3(ウサギ)(参照sc50353、SCBT社)を0.2%BSA(1×PBS中に1:1000希釈で溶解)中でインキュベートし、プレートを室温で1時間インキュベートした。次いで、一次抗体を洗浄し、蛍光体(Alexa Fluor 488)で標識された抗ウサギ二次抗体(111-545-144 Jackson Immunoresearch社)(1×PBS中0.2%BSAにおいて1:500に希釈)を適用した。同時に、Hoechst 33342(ThermoFisher(商標)社)(1:1000希釈)を加え、1時間インキュベートすることで、考えられる光劣化から蛍光体を保護した。インキュベート時間が経過したら、撹拌しながら再度1×PBSで3回洗浄した後に、マイクロチャンバーの壁を取り外し、Mowiol封入剤(Calbiochem社)を適用し、試料上にカバースリップを置いた。それを暗所から遮って室温で一晩放置して乾燥させ、翌日、共焦点顕微鏡(Leica SP8(商標)共焦点レーザー顕微鏡)下で観察した。
前記生体試料の細胞におけるTAS1R3の発現の測定は、TAS1R3受容体に選択的に結合することができるFv、Fab、Fab’及びF(ab’)2、scFv、又はダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ及び/又はヒト化抗体からなる群に属するアプタマー、抗体又はそのフラグメントを用いて行われる、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
前記アプタマー、前記抗体若しくはそのフラグメント、又は前記ダイアボディ、前記トリアボディ、前記テトラボディ及び/又は前記ヒト化抗体は、配列番号1又は配列番号2の配列のいずれかに選択的に結合することができる、請求項6に記載の方法。
前記TAS1R3受容体と相互作用又は結合することができる標的剤は、単糖及び二糖、スクラロース、シクラメート、ネオエスペリジン、ジヒドロカルコン、ラクチゾール、ブラゼイン、抗体又は抗体のフラグメント、ペプチド、アプタマー又は小分子からなる群より選択される、請求項12に記載のコンジュゲート。
前記標的剤は、アプタマー、抗体、Fv、Fab、Fab’及びF(ab’)2、scFvからなる群より選択される抗体のフラグメント、又はダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ及び/又はヒト化抗体からなる群より選択され、ここで、前記標的剤は、配列番号1又は配列番号2の配列のいずれかに選択的に結合することができる、請求項12に記載のコンジュゲート。