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特開2023-179469免疫療法のためのT細胞におけるTGFBR2のCRISPR-CAS9編集のための方法、組成物、および構成要素
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179469
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】免疫療法のためのT細胞におけるTGFBR2のCRISPR-CAS9編集のための方法、組成物、および構成要素
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20231212BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20231212BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20231212BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20231212BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231212BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20231212BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20231212BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231212BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20231212BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20231212BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231212BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20231212BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/55
C12N9/16 Z
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12N5/0783
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
G01N33/53 D
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146660
(22)【出願日】2023-09-11
(62)【分割の表示】P 2020543733の分割
【原出願日】2018-11-01
(31)【優先権主張番号】62/580,320
(32)【優先日】2017-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516135900
【氏名又は名称】エディタス・メディシン,インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】516316897
【氏名又は名称】ジュノー セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】バーリー スティーブン マイケル
(72)【発明者】
【氏名】チン メリッサ
(72)【発明者】
【氏名】ハービンスキー フレッド
(72)【発明者】
【氏名】ナイ クリストファー ヒース
(72)【発明者】
【氏名】サザー ブライズ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ボン クウィーニー
(72)【発明者】
【氏名】ウェルステッド ゴードン グラント
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン クリス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】CRISPR/CASに関連するゲノム編集システム、形質転換成長因子β受容体II(TGFBR2)遺伝子座を標的とするための組成物および方法、ならびにこれらのシステム、組成物および方法を使用して編集された細胞を提供する。
【解決手段】TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAと、RNAガイドヌクレアーゼと、を含む、ゲノム編集システムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形質転換成長因子β受容体II(TGFBR2)遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAと、
RNAガイドヌクレアーゼと、
を含む、ゲノム編集システム。
【請求項2】
TGFBR2遺伝子の標的配列が、SEQ ID NO:1、2および3からなる群より選択される配列を含む、請求項1記載のゲノム編集システム。
【請求項3】
TGFBR2遺伝子の標的配列が、SEQ ID NO:4~10からなる群より選択される配列を含む、請求項1記載のゲノム編集システム。
【請求項4】
ターゲティングドメインが、TGFBR2遺伝子の標的配列に対して少なくとも85%の相補性を有する、請求項1記載のゲノム編集システム。
【請求項5】
ターゲティングドメインが、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bp、または約10bp以内に二本鎖切断または一本鎖切断を形成するように構成され、それによりTGFBR2遺伝子を改変する、請求項1記載のゲノム編集システム。
【請求項6】
TGFBR2遺伝子発現がノックアウトまたはノックダウンされている、請求項5記載のゲノム編集システム。
【請求項7】
gRNAが、TGFBR2遺伝子のコード領域または非コード領域を標的とし、非コード領域が、TGFBR2遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域、イントロン、3’UTR、5’UTR、またはポリアデニル化シグナル領域を含む、請求項1~6のいずれか一項記載のゲノム編集システム。
【請求項8】
コード領域が、エクソン3、エクソン4、およびエクソン5から選択される、請求項7記載のゲノム編集システム。
【請求項9】
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5036~5096からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、請求項1~8のいずれか一項記載のゲノム編集システム。
【請求項10】
RNAガイドヌクレアーゼが、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9ヌクレアーゼであり、
ターゲティングドメインが、
(a)SEQ ID NO:5041、
(b)SEQ ID NO:5042、
(c)SEQ ID NO:5047、
(d)SEQ ID NO:5050、
(e)SEQ ID NO:5052、
(f)SEQ ID NO:5092、および
(g)SEQ ID NO:5093
からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、請求項1~9のいずれか一項記載のゲノム編集システム。
【請求項11】
化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼが、NGGのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識し、
ゲノム編集システムがTGFBR2を標的とし、
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5041~5042、5047、5050、5052および5092~5093からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
請求項10記載のゲノム編集システム。
【請求項12】
RNAガイドヌクレアーゼが、黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9ヌクレアーゼである、請求項1~9のいずれか一項記載のゲノム編集システム。
【請求項13】
黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼが、NNNRRTまたはNNNRRVのいずれかのPAMを認識し、ゲノム編集システムがTGFBR2を標的とする、請求項12記載のゲノム編集システム。
【請求項14】
RNAガイドヌクレアーゼが変異体Cas9ヌクレアーゼである、請求項1~13のいずれか一項記載のゲノム編集システム。
【請求項15】
gRNAが、モジュラーgRNAまたはキメラgRNAである、請求項1~14のいずれか一項記載のゲノム編集システム。
【請求項16】
ターゲティングドメインが、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、または約26ヌクレオチドの長さを有する、請求項1~15のいずれか一項記載のゲノム編集システム。
【請求項17】
ターゲティングドメインが、TGFBR2遺伝子に相補的な少なくとも約18個の連続したヌクレオチドを含む、請求項16記載のゲノム編集システム。
【請求項18】
2つ、3つまたは4つのgRNAを含む、請求項1~17のいずれか一項記載のゲノム編集システム。
【請求項19】
少なくとも1つの化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼ;および
SEQ ID NO:5042と5041との組合せ、または5042と5092との組合せ、またはSEQ ID NO:5042と5093との組合せ、またはSEQ ID NO:5093と5041との組合せを含む、gRNA
を含む、請求項9記載のゲノム編集システム。
【請求項20】
細胞内のTGFBR2遺伝子を改変するのに使用するための、請求項1~19のいずれか一項記載のゲノム編集システム。
【請求項21】
細胞が、癌に罹患している対象に由来する、請求項20記載のゲノム編集システム。
【請求項22】
TGFBR2の発現が、ベースライン測定値と比較して30%以上低下する、請求項1記載のゲノム編集システム。
【請求項23】
TGFBR2タンパク質の発現が、ウエスタンブロットまたは間接的細胞内染色フローサイトメトリーによって決定される、請求項22記載のゲノム編集システム。
【請求項24】
フレームシフト変異がTGFBR2遺伝子に導入される、請求項1記載のゲノム編集システム。
【請求項25】
TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAを含む、組成物。
【請求項26】
TGRBR2遺伝子の標的配列が、SEQ ID NO:1、2、および3からなる群より選択される配列を含む、請求項25記載の組成物。
【請求項27】
TGRBR2遺伝子の標的配列が、SEQ ID NO:4~10からなる群より選択される配列を含む、請求項25記載の組成物。
【請求項28】
ターゲティングドメインが、TGRBR2遺伝子の標的配列に対して少なくとも85%の相補性を有する、請求項25記載の組成物。
【請求項29】
ターゲティングドメインが、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、または約26ヌクレオチドの長さを有する、請求項25記載の組成物。
【請求項30】
ターゲティングドメインが、TGFBR2遺伝子に相補的な少なくとも約18個の連続したヌクレオチドを含む、請求項29記載の組成物。
【請求項31】
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5036~5096からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、請求項25記載の組成物。
【請求項32】
1つ、2つ、3つ、または4つのgRNAを含む、請求項25または31記載の組成物。
【請求項33】
Cas9ヌクレアーゼをさらに含む、請求項25~32のいずれか一項記載の組成物。
【請求項34】
Cas9ヌクレアーゼが、化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼまたは黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼである、請求項33記載の組成物。
【請求項35】
野生型Cas9ヌクレアーゼおよび変異体Cas9ヌクレアーゼの一方または両方をさらに含む、請求項33記載の組成物。
【請求項36】
Cas9分子が化膿性連鎖球菌Cas9分子であり、
ターゲティングドメインが、
(a)SEQ ID NO:5041、
(b)SEQ ID NO:5042、
(c)SEQ ID NO:5047、
(d)SEQ ID NO:5050、
(e)SEQ ID NO:5052、
(f)SEQ ID NO:5092、および
(g)SEQ ID NO:5093
からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
請求項33記載の組成物。
【請求項37】
化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼが、NGGのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識し、
前記組成物がTGFBR2を標的とし、
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5041~5042、5047、5050、5052、5092、および5093から選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
請求項36記載の組成物。
【請求項38】
黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼが、NNNRRTまたはNNNRRVのいずれかのPAMを認識し、前記組成物がTGFBR2を標的とする、請求項34記載の組成物。
【請求項39】
少なくとも1つの化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼ;および
SEQ ID NO:5042と5041との組合せ、または5042と5092との組合せ、またはSEQ ID NO:5042と5093との組合せ、またはSEQ ID NO:5093と5041との組合せを含む、gRNA
を含む、請求項25~38のいずれか一項記載の組成物。
【請求項40】
細胞内のTGFBR2遺伝子発現を低下させるかまたは排除するのに使用するための、請求項25~39のいずれか一項記載の組成物。
【請求項41】
細胞が、癌に罹患している対象に由来する、請求項40記載の組成物。
【請求項42】
TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAをコードするポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項43】
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5036~5096からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、請求項42記載のベクター。
【請求項44】
Cas9ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項42または43記載のベクター。
【請求項45】
Cas9ヌクレアーゼが、化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼまたは黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼである、請求項44記載のベクター。
【請求項46】
Cas9ヌクレアーゼが、野生型Cas9ヌクレアーゼおよび変異体Cas9ヌクレアーゼの一方または両方をさらに含む、請求項44または45記載のベクター。
【請求項47】
Cas9ヌクレアーゼが化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼであり、
ターゲティングドメインが、
(a)SEQ ID NO:5041、
(b)SEQ ID NO:5042、
(c)SEQ ID NO:5047、
(d)SEQ ID NO:5050、
(e)SEQ ID NO:5052、
(f)SEQ ID NO:5092、および
(g)SEQ ID NO:5093
からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
請求項44記載のベクター。
【請求項48】
化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼが、NGGのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識し、
ベクターが、TGFBR2を標的とするgRNAをコードし、
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5041~5042、5047、5050、5052および5092~5093から選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
請求項47記載のベクター。
【請求項49】
黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼが、NNNRRTまたはNNNRRVのいずれかのPAMを認識し、ベクターが、TGFBR2を標的とするgRNAをコードする、請求項45記載のベクター。
【請求項50】
ベクターがウイルスベクターである、請求項42~49のいずれか一項記載のベクター。
【請求項51】
ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルス(LV)ベクターである、請求項50記載のベクター。
【請求項52】
細胞内のTGFBR2遺伝子発現を低下させるかまたは排除するのに使用するための、請求項42~51のいずれか一項記載のベクター。
【請求項53】
細胞が、癌に罹患している対象に由来する、請求項52記載のベクター。
【請求項54】
(i)TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAと、RNAガイドヌクレアーゼとを含む、ゲノム編集システム、または
(ii)TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAをコードするポリヌクレオチドと、RNAガイドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドとを含む、ベクター
のうちの1つを細胞に投与する工程を含む、細胞内のTGFBR2遺伝子の発現を改変する方法。
【請求項55】
改変が、TGFBR2遺伝子発現のノックアウトまたはTGFBR2遺伝子発現のノックダウンを含む、請求項54記載の方法。
【請求項56】
細胞が、癌に罹患している対象に由来する、請求項54または55記載の方法。
【請求項57】
gRNAおよびRNAガイドヌクレアーゼが、リボ核タンパク質(RNP)複合体を構成する、請求項54記載の方法。
【請求項58】
様々なターゲティングドメインを有するgRNAを含む2つ以上のRNP複合体を細胞に投与する工程を含む、請求項57記載の方法。
【請求項59】
RNP複合体が、酵素的に活性なCas9(eaCas9)ヌクレアーゼを含む、請求項57記載の方法。
【請求項60】
RNP複合体が、標的核酸に二本鎖切断または標的核酸に一本鎖切断を形成するeaCas9ヌクレアーゼを含む、請求項59記載の方法。
【請求項61】
別個のgRNAを含む2つのRNP複合体を使用して、細胞内のTGFBR2遺伝子にオフセット一本鎖切断を形成する、請求項58記載の方法。
【請求項62】
請求項1~24のいずれか一項記載のゲノム編集システム、請求項24~41のいずれか一項記載の組成物、または請求項42~53のいずれか一項記載のベクターを含む、細胞。
【請求項63】
TGFBR2を発現する、請求項62記載の細胞。
【請求項64】
T細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞である、請求項62または63記載の細胞。
【請求項65】
操作されたT細胞受容体(eTCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をさらに含む、請求項64記載の細胞。
【請求項66】
請求項54~61のいずれか一項に従って改変された細胞。
【請求項67】
a)TGFBR2を標的とする十分な量のgRNA、およびRNAガイドヌクレアーゼと、細胞とを接触させる工程、ならびに
b)細胞のTGFBR2遺伝子内のTGFBR2標的位置の近くに第1のDNA二本鎖切断を形成する工程であって、第1のDNA二本鎖切断がNHEJによって修復され、修復がTGFBR2遺伝子の発現を改変する、工程
を含む、細胞内のTGFBR2遺伝子発現を改変するRNAガイドヌクレアーゼ媒介方法。
【請求項68】
TGFBR2標的位置の近くに第2のDNA二本鎖切断を形成する工程をさらに含む、請求項68記載の方法。
【請求項69】
第1の二本鎖切断が、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bp、または約10bp以内に形成される、請求項67記載の方法。
【請求項70】
第1および第2の二本鎖切断が、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bp、または約10bp以内に形成される、請求項68記載の方法。
【請求項71】
第1の二本鎖切断が、TGFBR2遺伝子のコード領域または非コード領域に形成され、非コード領域が、TGFBR2遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域、イントロン、3’UTR、5’UTR、またはポリアデニル化シグナル領域を含む、請求項67記載の方法。
【請求項72】
第1および第2の二本鎖切断が、TGFBR2遺伝子のコード領域または非コード領域に形成され、非コード領域が、TGFBR2遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域、イントロン、3’UTR、5’UTR、またはポリアデニル化シグナル領域を含む、請求項68記載の方法。
【請求項73】
コード領域が、エクソン3、エクソン4、およびエクソン5から選択される、請求項67~72のいずれか一項記載の方法。
【請求項74】
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5036~5096からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、請求項67~73のいずれか一項記載の方法。
【請求項75】
RNAガイドヌクレアーゼが、化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼであり、
ターゲティングドメインが、
(a)SEQ ID NO:5041、
(b)SEQ ID NO:5042、
(c)SEQ ID NO:5047、
(d)SEQ ID NO:5050、
(e)SEQ ID NO:5052、
(f)SEQ ID NO:5092、および
(g)SEQ ID NO:5093
からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
請求項67~74のいずれか一項記載の方法。
【請求項76】
RNAガイドヌクレアーゼが黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼである、請求項67~74のいずれか一項記載の方法。
【請求項77】
RNAガイドヌクレアーゼが変異体Cas9ヌクレアーゼである、請求項75または76記載の方法。
【請求項78】
NHEJ修復が、20%以上の頻度で挿入または欠失をもたらす、請求項67記載の方法。
【請求項79】
挿入または欠失の頻度が、30%以上、40%以上、または50%以上である、請求項78記載の方法。
【請求項80】
TGFBR2遺伝子の標的位置の近くまたはTGFBR2遺伝子の標的位置に挿入または欠失を含むゲノム操作された細胞であって、
標的位置が、
SEQ ID NO:5036~5096から選択されるヌクレオチド配列に対して相補的であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
ゲノム操作された細胞。
【請求項81】
挿入または欠失が、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bp、または約10bp以内にある、請求項80記載の細胞。
【請求項82】
T細胞またはNK細胞である、請求項80記載の細胞。
【請求項83】
eTCRまたはCARをさらに含む、請求項82記載の細胞。
【請求項84】
a. TGFBR2遺伝子の標的位置の近くまたはTGFBR2遺伝子の標的位置に挿入または欠失を含むゲノム操作された細胞の集団であって、標的位置が、SEQ ID NO:5036~5096から選択されるヌクレオチド配列に対して相補的であるかまたは約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含む、ゲノム操作された細胞の集団と、
b. 薬学的に許容される緩衝液と
を含む、組成物。
【請求項85】
細胞の集団が、T細胞またはNK細胞を含む、請求項84記載の組成物。
【請求項86】
T細胞またはNK細胞が、eTCRまたはCARをさらに含む、請求項85記載の組成物。
【請求項87】
操作された免疫細胞を対象に投与する工程を含む、対象の癌を治療する方法であって、
操作された免疫細胞ではTGFBR2の発現が低下しており、操作された免疫細胞が、操作されたT細胞受容体(eTCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を任意で発現し、操作された免疫細胞が、TGFBR2遺伝子の標的位置の近くまたはTGFBR2遺伝子の標的位置に挿入または欠失を有する、
方法。
【請求項88】
操作された免疫細胞が、T細胞またはNK細胞を含む、請求項87記載の方法。
【請求項89】
eTCRまたはCARが、癌細胞に対して抗原特異性を有する、請求項87記載の方法。
【請求項90】
癌が、白血病、リンパ腫、例えば、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、難治性濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、低悪性度B細胞性リンパ腫、B細胞悪性腫瘍、大腸癌、肺癌、肝癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、皮膚癌、黒色腫、骨癌、および脳癌、卵巣癌、上皮性癌、腎細胞癌、膵臓腺癌、ホジキンリンパ腫、子宮頸癌、結腸直腸癌、神経膠芽腫、神経芽腫、ユーイング肉腫、髄芽腫、骨肉腫、滑膜肉腫、中皮腫、および/またはTGF-βを発現する任意の癌タイプからなる群より選択される、請求項87記載の方法。
【請求項91】
T細胞が、CD4+T細胞および/またはCD8+T細胞である、請求項88記載の方法。
【請求項92】
操作された免疫細胞が、操作されていない免疫細胞と比較して、標的癌細胞に対する溶解活性を維持するか、または増強されている、請求項87記載の方法。
【請求項93】
操作された免疫細胞が、操作されていない免疫細胞と比較して、TGFβの存在下でグランザイムBおよび/またはインターフェロンγの発現を維持するか、または増加されている、請求項87記載の方法。
【請求項94】
操作された免疫細胞が、操作されていない免疫細胞と比較して、反復抗原刺激に対する持続性を維持するか、または改善されている、請求項87記載の方法。
【請求項95】
操作された免疫細胞が、操作されていない免疫細胞と比較して、CD25の発現を維持するか、または増加されている、請求項87記載の方法。
【請求項96】
操作された免疫細胞が、操作されていない免疫細胞と比較して、PD-1の発現を維持するか、または低下されている、請求項87記載の方法。
【請求項97】
操作された免疫細胞が、操作されていない免疫細胞と比較して、増殖を維持するか、または増加されている、請求項87記載の方法。
【請求項98】
複数の操作されたT細胞を含む組成物であって、操作されたT細胞が、操作されていないT細胞と比較してTGFBR2遺伝子発現の低下を示す、組成物。
【請求項99】
操作されたT細胞が、操作されていないT細胞内のTGFBR2発現レベルの約50%、約40%、約30%、約20%、約10%、または約5%であるTGFBR2遺伝子発現レベルを示す、請求項98記載の組成物。
【請求項100】
操作されたT細胞が、eTCRまたはCARの発現をさらに含む、請求項98記載の組成物。
【請求項101】
T細胞が、CD4+T細胞および/またはCD8+T細胞である、請求項98記載の組成物。
【請求項102】
a)操作されていないT細胞と比較して、標的癌細胞に対する増強された溶解活性、
b)操作されていないT細胞と比較して、TGFβの存在下で、グランザイムBおよび/もしくはインターフェロンγの維持されたかもしくは増加した発現、
c)操作されていないT細胞と比較して、反復抗原刺激に対する維持されたかもしくは増加した持続性、
d)操作されていないT細胞と比較して、CD25の維持されたかもしくは増加した発現、
e)操作されていないT細胞と比較して、PD-1の維持されたかもしくは低下した発現、および/または
f)操作されていないT細胞と比較して、維持されたかもしくは増加した増殖
を有することによって、操作されたT細胞がさらに特徴付けられる、請求項98記載の組成物。
【請求項103】
複数の操作されたT細胞を含む組成物であって、
操作されたT細胞が、操作されていないT細胞と比較してTGFBR2遺伝子発現の低下を示し、
操作されたT細胞が、
TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNA、および
RNAガイドヌクレアーゼ
を含むゲノム編集システムと、操作されていないT細胞を接触させることにより生成される、
組成物。
【請求項104】
操作されたT細胞が、eTCRまたはCARを発現するベクターを用いてさらに形質導入される、請求項103記載の組成物。
【請求項105】
ベクターがウイルスベクターである、請求項104記載の組成物。
【請求項106】
ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルス(LV)ベクターである、請求項105記載の組成物。
【請求項107】
RNAガイドヌクレアーゼが、化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼであり、
ターゲティングドメインが、
(a)SEQ ID NO:5041、
(b)SEQ ID NO:5042、
(c)SEQ ID NO:5047、
(d)SEQ ID NO:5050、
(e)SEQ ID NO:5052、
(f)SEQ ID NO:5092、および
(g)SEQ ID NO:5093
からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
請求項103記載の組成物。
【請求項108】
複数の操作されたT細胞を含む組成物であって、操作されたT細胞では、TGFBR2シグナル伝達が欠損している、組成物。
【請求項109】
欠損したTGFBR2シグナル伝達が、操作されたT細胞内にドミナントネガティブ(DN)型のTGFBR2を発現させることにより媒介される、請求項108記載の組成物。
【請求項110】
操作されたT細胞が、eTCRまたはCARを発現するベクターを用いてさらに形質導入される、請求項109記載の組成物。
【請求項111】
ベクターがウイルスベクターである、請求項110記載の組成物。
【請求項112】
ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルス(LV)ベクターである、請求項111記載の組成物。
【請求項113】
T細胞が、CD4+T細胞および/またはCD8+T細胞である、請求項108記載の組成物。
【請求項114】
a)操作されていないT細胞と比較して、標的癌細胞に対する増強された溶解活性、
b)操作されていないT細胞と比較して、TGFβの存在下で、グランザイムBおよび/もしくはインターフェロンγの維持されたかもしくは増加した発現、
c)操作されていないT細胞と比較して、反復抗原刺激に対する維持されたかもしくは増加した持続性、
d)操作されていないT細胞と比較して、CD25の維持されたかもしくは増加した発現、
e)操作されていないT細胞と比較して、PD-1の維持されたかもしくは低下した発現、および/または
f)操作されていないT細胞と比較して、維持されたかもしくは増加した増殖
を有することによって、操作されたT細胞がさらに特徴付けられる、請求項108記載の組成物。
【請求項115】
操作された免疫細胞が、野生型TGFBR2の発現低下をさらに含む、請求項109記載の組成物。
【請求項116】
野生型TGFBR2発現が、
TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNA、および
RNAガイドヌクレアーゼ
を含むゲノム編集システムと、操作された免疫細胞を接触させることによって低下される、請求項115記載の組成物。
【請求項117】
TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAと、RNAガイドヌクレアーゼとを含む、リボ核タンパク質(RNP)複合体。
【請求項118】
RNAガイドヌクレアーゼがCas9ヌクレアーゼである、請求項117記載のRNP。
【請求項119】
RNPが細胞にエレクトロポレーションされる、請求項117記載のRNP。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2017年11月1日に出願された米国仮出願第62/580,320号の利益を主張し、参照によりその全体を本明細書に組み入れる。
【0002】
分野
本開示は、標的核酸配列、例えば形質転換成長因子β受容体II(TGFBR2)遺伝子を編集するため、または標的核酸配列、例えばTGFBR2遺伝子の発現を調節するための、CRISPR/Cas9関連方法および構成要素に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
遺伝的に修飾されたT細胞を利用した養子T細胞移入は、固形悪性腫瘍および血液悪性腫瘍の治療法として臨床試験に入っている。血液悪性腫瘍(例えば、リンパ腫、慢性リンパ性白血病(CLL)および急性リンパ性白血病(ALL))を対象とした第I相および第II相試験では、多くの患者が少なくとも部分奏効を示し、一部の患者は完全奏効を示した(Kochenderfer, J. N. et al., 2012 Blood 119, 2709-2720(非特許文献1))。しかし、固形腫瘍型(黒色腫、腎細胞癌および結腸直腸癌を含む)に観察された効果は、必ずしも強力ではなかった(Johnson, L. A. et al., 2009 Blood 114, 535-546; Lamers, C. H. et al., 2013 Mol. Ther. 21, 904-912; Warren, R. S. et al., 1998 Cancer Gene Ther. 5, S1-S2(非特許文献2~4))。
【0004】
いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、固形腫瘍患者に対する養子T細胞療法の効果は、多くの因子、例えば、(1)T細胞増殖、例えば、養子移入後のT細胞の限られた増殖、(2)T細胞生存、例えば、癌細胞などの標的細胞環境内の因子によるT細胞アポトーシスの誘導、ならびに(3)T細胞機能、例えば、宿主免疫細胞および標的細胞、例えば、癌細胞によって分泌される阻害因子による細胞傷害性T細胞機能の阻害によって影響を受ける可能性がある。これらの因子は、次いで、腫瘍浸潤リンパ球を直接抑制するとともに、抗腫瘍免疫を抑制することができる制御性T細胞(Treg)の機能を誘導および促進することが示されている、多種多様な腫瘍型によって産生されるサイトカインである形質転換成長因子β(TGF-β)の活性によって影響を受ける可能性がある。
【0005】
TGFBR2は、免疫細胞を含む無数の細胞型に発現する、TGF-βの受容体である。TGFBR2によるTGF-βの結合は、T細胞の活性化、増殖および分化をダウンレギュレートすることが実証されている。腫瘍応答性T細胞に対するTGFBR2活性を改善し得るTGFBR2阻害剤の開発は、TGFBR2を条件的に欠失させるように操作されたT細胞を含むマウスに観察される重度の自己免疫表現型のために前臨床マウスモデルが欠如していることによって、困難になっている。結果として、T細胞媒介免疫療法の状況などでは、TGF-βのT細胞阻害作用を低減または排除するための有効な戦略が必要とされている。
【0006】
CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)は、ウイルスの攻撃から防御するための適応免疫系として細菌および古細菌で進化した。ウイルスに曝露されると、ウイルスDNAの短いセグメントがCRISPR遺伝子座に組み込まれる。ウイルス配列を含むCRISPR遺伝子座の一部からRNAが転写される。ウイルスゲノムに相補的な配列を含むそのRNAは、ウイルスゲノムの標的配列へのRNAガイドヌクレアーゼのターゲティングを媒介する。次いで、RNAガイドヌクレアーゼは、ウイルスの標的を切断し、それによってサイレンシングする。
【0007】
近年、CRISPR/Cas9システムは、真核細胞のゲノム編集に適合されている。部位特異的な二本鎖切断(DSB)の導入は、内因性DNA修復機構、例えば、非相同末端結合(NHEJ)または相同組換え修復(HDR)を介した標的配列改変を可能にする。CRISPR/Cas9は、腫瘍治療という観点からT細胞のTGF-β媒介性阻害に対処するための有望な手段を示しているが、現在まで、腫瘍治療に使用するためのT細胞におけるこの問題に対処するための実行可能なアプローチは特定されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kochenderfer, J. N. et al., 2012 Blood 119, 2709-2720
【非特許文献2】Johnson, L. A. et al., 2009 Blood 114, 535-546
【非特許文献3】Lamers, C. H. et al., 2013 Mol. Ther. 21, 904-912
【非特許文献4】Warren, R. S. et al., 1998 Cancer Gene Ther. 5, S1-S2
【発明の概要】
【0009】
概要
特定の局面では、本明細書において提供されるのは、TGFBR2の核酸配列の標的編集のためのゲノム編集システムならびに関連する組成物および方法である。特定の態様では、そのような標的編集は、TGFBR2発現の改変(例えば、ダウンレギュレーション)をもたらす。特定の態様では、発現のそのような改変は、T細胞で起こる。特定の態様では、T細胞内のTGFBR2発現の改変は、TGFBR2遺伝子を標的とするgRNAと複合体化されたRNAガイドヌクレアーゼタンパク質を含むゲノム編集システムとしてのリボ核タンパク質(RNP)複合体の使用を含む。特定の態様では、TGFBR2発現の改変は、RNPによって誘発される二本鎖切断、および標的TGFBR2配列でのインデルおよび/または標的TGFBR2配列に隣接するインデルをもたらすその後の不完全な修復の結果として起こる。
【0010】
特定の態様では、本開示は、TGFBR2遺伝子の標的配列に相補的なターゲティングドメインを有するガイドRNAを含み、RNAガイドヌクレアーゼがCas9ヌクレアーゼであるゲノム編集システムに関する。ターゲティングドメインは、70%、80%、85%、90%、95%または100%相補的であり得る。
【0011】
特定の態様では、ターゲティングドメインは、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25または26ヌクレオチドの長さを有する。
【0012】
特定の態様では、ターゲティングドメインは、TGFBR2遺伝子に相補的な少なくとも18個の連続したヌクレオチドを有する。
【0013】
特定の態様では、ターゲティングドメインは、SEQ ID NO:5036~5096から選択されるヌクレオチド配列と同一であるかまたは3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含む。特定の態様では、ターゲティングドメインは、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bpまたは約10bp以内に二本鎖切断または一本鎖切断を形成するように構成される。
【0014】
本明細書において開示される特定の態様では、ゲノム編集システムは、TGFBR2遺伝子の発現をノックアウトするか、またはTGFBR2遺伝子の発現をノックダウンすることにより、TGFBR2遺伝子を改変することができる。
【0015】
特定の態様では、本明細書において開示されるゲノム編集システムは、TGFBR2遺伝子のコード領域または非コード領域を標的とするように構成されたターゲティングドメインを含むgRNAを組み込み、非コード領域は、TGFBR2遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域、イントロン、3’UTR、5’UTRまたはポリアデニル化シグナル領域を含み、コード領域は、例えば、TGFBR2遺伝子の初期コード領域を含む。
【0016】
特定の態様では、本明細書において開示されるゲノム編集システムは、SEQ ID NO:1、2および3からなる群より選択される配列を含むTGFBR2遺伝子の標的配列を有する。
【0017】
特定の態様では、本明細書において開示されるゲノム編集システムは、SEQ ID NO:4~10からなる群より選択される配列を含むTGFBR2遺伝子の標的配列を有する。
【0018】
特定の態様では、本明細書において開示されるゲノム編集システムは、SEQ ID NO:5036~5096から選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを組み込む。特定の態様では、ターゲティングドメインは、(a)SEQ ID NO:5041、(b)SEQ ID NO:5042、(c)SEQ ID NO:5047、(d)SEQ ID NO:5050、(e)SEQ ID NO:5052、(f)SEQ ID NO:5092、および(g)SEQ ID NO:5093からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるかまたは3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含む。特定の態様では、ゲノム編集システムは、例えば、標的配列SEQ ID NO:5042および5041、または5042および5092、またはSEQ ID NO:5042および5093、またはSEQ ID NO:5093および5041を有するgRNA対を含む、gRNA分子の対を組み込む。
【0019】
特定の態様では、本開示は、TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNA分子を含む組成物に関する。特定の態様では、組成物は、1つ、2つ、3つまたは4つのgRNA分子を含む。特定の態様では、組成物は、RNAガイドヌクレアーゼ、例えば、Cas9分子をさらに含む。特定の態様では、そのような組成物に組み込まれるターゲティングドメインは、SEQ ID NO:5036~5096から選択されるヌクレオチド配列と同一であるかまたは3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含む。特定の態様では、ターゲティングドメインは、(a)SEQ ID NO:5041、(b)SEQ ID NO:5042、(c)SEQ ID NO:5047、(d)SEQ ID NO:5050、(e)SEQ ID NO:5052、(f)SEQ ID NO:5092、および(g)SEQ ID NO:5093からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるかまたは3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含む。特定の態様では、組成物は、例えば、標的配列SEQ ID NO:5042および5041、または5042および5092、またはSEQ ID NO:5042および5093、またはSEQ ID NO:5093および5041を有するgRNA対を含む、gRNA分子の対を組み込む。
【0020】
特定の態様では、本開示は、TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNA分子をコードするベクターに関する。特定の態様では、ベクターは、RNAガイドヌクレアーゼ、例えば、Cas9分子をさらにコードする。特定の態様では、ベクターによってコードされるgRNAのターゲティングドメインは、SEQ ID NO:5036~5096から選択されるヌクレオチド配列と同一であるかまたは3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含む。特定の態様では、ターゲティングドメインは、(a)SEQ ID NO:5041、(b)SEQ ID NO:5042、(c)SEQ ID NO:5047、(d)SEQ ID NO:5050、(e)SEQ ID NO:5052、(f)SEQ ID NO:5092、および(g)SEQ ID NO:5093からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるかまたは3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含む。特定の態様では、ベクターはウイルスベクターである。特定の態様では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルス(LV)ベクターである。
【0021】
特定の態様では、本開示は、(i)TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNA分子と、Cas9分子とを含むゲノム編集システム、(ii)TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNA分子をコードするポリヌクレオチドと、Cas9分子をコードするポリヌクレオチドとを含むベクター、または(iii)TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNA分子と、Cas9分子とを含む組成物のうちの1つを、細胞に投与する工程を含む、細胞内のTGFBR2遺伝子を改変する方法に関する。
【0022】
特定の態様では、本開示は、本明細書において記載されるゲノム編集システム、本明細書において記載されるgRNA組成物、または本明細書において記載されるベクターを含む細胞に関する。特定の態様では、細胞はTGFBR2を発現する。特定の態様では、細胞はT細胞である。
【0023】
特定の態様では、本開示は、リボ核タンパク質(RNP)複合体を構成するgRNAおよびRNAガイドヌクレアーゼに関する。
【0024】
特定の態様では、本開示は、様々なターゲティングドメインを有するgRNAを含む2つ以上のRNP複合体を細胞に投与することに関する。
【0025】
特定の態様では、本開示は、酵素的に活性なCas9(eaCas9)ヌクレアーゼを含むRNP複合体に関する。
【0026】
特定の態様では、本開示は、標的核酸に二本鎖切断または標的核酸に一本鎖切断を形成するeaCas9ヌクレアーゼを含むRNP複合体に関する。
【0027】
特定の態様では、本開示は、細胞内のTGFBR2遺伝子にオフセット一本鎖切断(offset single strand break)を形成するために使用される別個のgRNAを含む2つのRNP複合体に関する。
【0028】
特定の態様では、本開示は、T細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞である細胞に関する。特定の態様では、細胞は、操作されたT細胞受容体(eTCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をさらに含む。
【0029】
特定の態様では、本開示は、(a)TGFBR2を標的とする十分な量のgRNA、およびRNAガイドヌクレアーゼと、細胞とを接触させる工程、ならびに)b)細胞のTGFBR2遺伝子内のTGFBR2標的位置の近くに第1のDNA二本鎖切断を形成する工程を含む、細胞内のTGFBR2遺伝子発現を改変するRNAガイドヌクレアーゼ媒介方法に関し、第1のDNA二本鎖切断はNHEJによって修復され、修復はTGFBR2遺伝子の発現を改変する。
【0030】
特定の態様では、本開示は、TGFBR2標的位置の近くに第2のDNA二本鎖切断を形成することに関する。特定の態様では、第1の二本鎖切断は、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bpまたは約10bp以内に形成される。特定の態様では、第1および第2の二本鎖切断は、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bpまたは約10bp以内に形成される。特定の態様では、第1の二本鎖切断は、TGFBR2遺伝子のコード領域または非コード領域に形成され、非コード領域は、TGFBR2遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域、イントロン、3’UTR、5’UTRまたはポリアデニル化シグナル領域を含む。特定の態様では、第1および第2の二本鎖切断は、TGFBR2遺伝子のコード領域または非コード領域に形成され、非コード領域は、TGFBR2遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域、イントロン、3’UTR、5’UTRまたはポリアデニル化シグナル領域を含む。
【0031】
特定の態様では、コード領域は、エクソン3、エクソン4およびエクソン5から選択される。
【0032】
特定の態様では、ターゲティングドメインは、SEQ ID NO:5036~5096からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるかまたは約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含む。
【0033】
特定の態様では、RNAガイドヌクレアーゼは、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9ヌクレアーゼであり、ターゲティングドメインは、(a)SEQ ID NO:5041、(b)SEQ ID NO:5042、(c)SEQ ID NO:5047、(d)SEQ ID NO:5050、(e)SEQ ID NO:5052、(f)SEQ ID NO:5092、および(g)SEQ ID NO:5093からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるかまたは約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含む。
【0034】
特定の態様では、RNAガイドヌクレアーゼは、黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9ヌクレアーゼである。
【0035】
特定の態様では、RNAガイドヌクレアーゼは、変異体Cas9ヌクレアーゼである。
【0036】
特定の態様では、NHEJ修復は、20%以上の頻度で挿入または欠失をもたらす。
【0037】
特定の態様では、挿入または欠失の頻度は、30%以上、40%以上または50%以上である。
【0038】
特定の態様では、本開示は、TGFBR2遺伝子の標的位置の近くまたはTGFBR2遺伝子の標的位置に挿入または欠失を含むゲノム操作された細胞に関し、標的位置は、SEQ ID NO:5036~5096から選択されるヌクレオチド配列に対して相補的であるかまたは約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含む。
【0039】
特定の態様では、挿入または欠失は、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bpまたは約10bp以内にある。
【0040】
特定の態様では、細胞はT細胞またはNK細胞である。特定の態様では、細胞は、eTCRまたはCARをさらに含む。
【0041】
特定の態様では、本開示は、(a)TGFBR2遺伝子の標的位置の近くまたはTGFBR2遺伝子の標的位置に挿入または欠失を含むゲノム操作された細胞の集団であって、標的位置が、SEQ ID NO:5036~5096から選択されるヌクレオチド配列に対して相補的であるかまたは約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含むゲノム操作された細胞の集団と、(b)薬学的に許容される緩衝液とを含む組成物に関する。
【0042】
特定の態様では、細胞の集団は、T細胞またはNK細胞を含む。特定の態様では、細胞は、eTCRまたはCARをさらに含む。
【0043】
特定の態様では、本開示は、操作された免疫細胞を対象に投与する工程を含む、対象の癌を治療する方法に関し、操作された免疫細胞ではTGFBR2の発現が低下しており、操作された免疫細胞は、操作されたT細胞受容体(eTCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を任意で発現し、操作された免疫細胞は、TGFBR2遺伝子の標的位置の近くまたはTGFBR2遺伝子の標的位置に挿入または欠失を有する。
【0044】
特定の態様では、操作された免疫細胞は、T細胞またはNK細胞を含む。特定の態様では、細胞は、eTCRまたはCARをさらに含む。
【0045】
特定の態様では、癌は、白血病、リンパ腫、例えば、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、難治性濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、低悪性度B細胞性リンパ腫、B細胞悪性腫瘍、大腸癌、肺癌、肝癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、皮膚癌、黒色腫、骨癌および脳癌、卵巣癌、上皮性癌、腎細胞癌、膵臓腺癌、ホジキンリンパ腫、子宮頸癌、結腸直腸癌、神経膠芽腫、神経芽腫、ユーイング肉腫、髄芽腫、骨肉腫、滑膜肉腫、中皮腫、および/またはTGF-βを発現する任意の癌タイプからなる群より選択される。
【0046】
特定の態様では、T細胞は、CD4+T細胞および/またはCD8+T細胞である。
【0047】
特定の態様では、操作された免疫細胞は、操作されていない免疫細胞と比較して、標的癌細胞に対する溶解活性を維持するか、または増強されている。
【0048】
特定の態様では、操作された免疫細胞は、操作されていない免疫細胞と比較して、TGFβの存在下でグランザイムBおよび/またはインターフェロンγの発現を維持するか、または増加されている。
【0049】
特定の態様では、操作された免疫細胞は、操作されていない免疫細胞と比較して、反復抗原刺激に対する持続性を維持するか、または改善されている。
【0050】
特定の態様では、操作された免疫細胞は、操作されていない免疫細胞と比較して、CD25の発現を維持するか、または増加されている。
【0051】
特定の態様では、操作された免疫細胞は、操作されていない免疫細胞と比較して、PD-1の発現を維持するか、または低下されている。
【0052】
特定の態様では、操作された免疫細胞は、操作されていない免疫細胞と比較して、増殖を維持するか、または増加されている。
【0053】
特定の態様では、本開示は、複数の操作されたT細胞を含む組成物に関し、操作されたT細胞は、操作されていないT細胞と比較してTGFBR2遺伝子発現の低下を示す。
【0054】
特定の態様では、操作されたT細胞は、操作されていないT細胞内のTGFBR2発現レベルの約50%、約40%、約30%、約20%、約10%または約5%であるTGFBR2遺伝子発現レベルを示す。
【0055】
特定の態様では、操作されたT細胞は、eTCRまたはCARの発現をさらに含む。
【0056】
特定の態様では、T細胞は、CD4+T細胞および/またはCD8+T細胞である。
【0057】
特定の態様では、(a)操作されていないT細胞と比較して、標的癌細胞に対する増強された溶解活性、(b)操作されていないT細胞と比較して、TGFβの存在下で、グランザイムBおよび/もしくはインターフェロンγの維持されたかもしくは増加した発現、(c)操作されていないT細胞と比較して、反復抗原刺激に対する維持されたかもしくは増加した持続性、(d)操作されていないT細胞と比較して、CD25の維持されたかもしくは増加した発現、(e)操作されていないT細胞と比較して、PD-1の維持されたかもしくは低下した発現、および/または(f)操作されていないT細胞と比較して、維持されたかもしくは増加した増殖を有することによって、操作されたT細胞がさらに特徴付けられる。
【0058】
特定の態様では、本開示は、複数の操作されたT細胞を含む組成物に関し、操作されたT細胞は、操作されていないT細胞と比較してTGFBR2遺伝子発現の低下を示し、操作されたT細胞は、操作されていないT細胞をゲノム編集システムと接触させることにより生成され、ゲノム編集システムは、TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAと、RNAガイドヌクレアーゼとを含む。
【0059】
特定の態様では、操作されたT細胞は、eTCRまたはCARを発現するベクターを用いてさらに形質導入される。特定の態様では、ベクターはウイルスベクターである。特定の態様では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルス(LV)ベクターである。
【0060】
特定の態様では、RNAガイドヌクレアーゼは、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9ヌクレアーゼであり、ターゲティングドメインは、(a)SEQ ID NO:5041、(b)SEQ ID NO:5042、(c)SEQ ID NO:5047、(d)SEQ ID NO:5050、(e)SEQ ID NO:5052、(f)SEQ ID NO:5092、および(g)SEQ ID NO:5093からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるかまたは約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含む。
【0061】
特定の態様では、本開示は、複数の操作されたT細胞を含む組成物に関し、操作されたT細胞は、TGFBR2シグナル伝達が欠損している。
【0062】
特定の態様では、欠損したTGFBR2シグナル伝達は、操作されたT細胞内にドミナントネガティブ(DN)型のTGFBR2を発現させることにより媒介される。
【0063】
特定の態様では、操作されたT細胞は、eTCRまたはCARを発現するベクターを用いてさらに形質導入される。特定の態様では、ベクターはウイルスベクターである。特定の態様では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルス(LV)ベクターである。
【0064】
特定の態様では、T細胞は、CD4+T細胞および/またはCD8+T細胞である。
【0065】
特定の態様では、(a)操作されていないT細胞と比較して、標的癌細胞に対する増強された溶解活性、(b)操作されていないT細胞と比較して、TGFβの存在下で、グランザイムBおよび/もしくはインターフェロンγの維持されたかもしくは増加した発現、(c)操作されていないT細胞と比較して、反復抗原刺激に対する維持されたかもしくは増加した持続性、(d)操作されていないT細胞と比較して、CD25の維持されたかもしくは増加した発現、(e)操作されていないT細胞と比較して、PD-1の維持されたかもしくは低下した発現、および/または(f)操作されていないT細胞と比較して、維持されたかもしくは増加した増殖を有することによって、操作されたT細胞がさらに特徴付けられる。
【0066】
特定の態様では、操作された免疫細胞は、野生型TGFBR2の発現低下をさらに含む。
【0067】
特定の態様では、野生型TGFBR2発現は、操作された免疫細胞をゲノム編集システムと接触させることによって低下し、ゲノム編集システムは、TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAと、RNAガイドヌクレアーゼとを含む。
【0068】
特定の態様では、本開示は、TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAと、RNAガイドヌクレアーゼとを含むリボ核タンパク質(RNP)複合体に関する。
【0069】
特定の態様では、RNAガイドヌクレアーゼがCas9ヌクレアーゼである、請求項117記載のRNP。
【0070】
特定の態様では、RNPが細胞にエレクトロポレーションされる、請求項117記載のRNP。
【0071】
別段の定義がない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において記載されるものと同様または同等の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、好適な方法および材料を以下に記載する。本明細書において言及されるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照によりその全体が組み入れられる。さらに、材料、方法および実施例は、単なる例示であり、限定することを意図するものではない。
【0072】
数字およびアルファベットの見出しおよび小見出しを含む見出しは、組織化と提示とを目的とし、限定することを意図するものではない。
【0073】
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明、実施例、図面、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0074】
添付の図面は、本開示の特定の局面および態様の包括的というよりはむしろ、例示的かつ概略的な例を提供することを意図している。図面は、任意の特定の理論またはモデルに限定または拘束することを意図しておらず、必ずしも縮尺どおりではない。上記を限定することなく、核酸およびポリペプチドは、直線配列として、または概略的な二次元もしくは三次元構造として示され得る。これらの描写は、それらの構造に関する任意の特定のモデルまたは理論に限定または拘束するのではなく、例示を意図している。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1図1は、形質転換成長因子β受容体II(TGFBR2)のエクソン1A~5を標的とする例示的なgRNA、およびそれらの関連する非相同末端結合(NHEJ)活性率(%)の一覧を示す。
図2図2は、特定の例示的なgRNA対のゲノム編集効率を示す。
図3図3は、TGFBR2遺伝子のmiSeqによって決定されたインデル形成率(%)を示す。様々な濃度のRNPで7つのgRNAを試験して、用量反応曲線を作成した。
図4図4A図4Bは、TGFBR2を標的とするいくつかの試験されたgRNAとAAVS1遺伝子座を標的とする対照gRNAとを用いた編集済み細胞率(%)(図4A)およびインデル頻度率(%)(図4B)を示す。
図5図5は、フレーム外インデル変異をもたらすそれらの能力における2つのTGFBR2ターゲティングgRNAの比較を示す。
図6図6は、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドにおける、抗BCMA CARを発現するように形質導入された初代T細胞の相対的なIFN-γ産生を示す。単一または対合gRNAを比較した。
図7図7は、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドにおける、抗BCMA CARを発現するように形質導入された初代T細胞の相対的な細胞増殖を示す。単一または対合gRNAを比較した。
図8図8A図8Bは、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドにおける、抗BCMA CARを発現するように形質導入された初代T細胞内のCD25(図8A)発現およびPD-1(図8B)発現を示す。単一または対合gRNAを比較した。同様に48時間にわたりRPMI 8226細胞を用いて細胞を刺激した。
図9図9は、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドにおける、異なるCARを発現するように形質導入されたT細胞のSmad 2/3リン酸化を示す。
図10図10は、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドにおける、異なるCARを発現するように形質導入されたT細胞内の相対的なグランザイムB発現を示す。
図11図11は、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドにおける、異なるCARを発現するように形質導入されたT細胞のIFN-γ産生を示す。
図12図12は、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドにおける、異なるCARを発現するように形質導入されたT細胞の相対的なT細胞増殖を示す。
図13図13A図13Bは、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドまたはTGFBR2 DNバックグラウンドにおける、抗BCMA CARを発現するように形質導入された初代T細胞のグランザイムB(図13A)産生およびインターフェロンγ(図13B)産生を示す。
図14図14は、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドまたはTGFBR2 DNバックグラウンドにおける、抗BCMA CAR発現T細胞によるRPMI 8226細胞の相対的な溶解率(%)を示す。
図15A図15A図15Fは、反復TGFβ抗原刺激を用いたTGFBR2未編集バックグラウンド、TGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンド、またはTGFBR2 DNバックグラウンドにおける抗BCMA CAR発現T細胞を示す。図15A図15Cは、3つの異なる抗原による刺激後の予測細胞数を示す。図15D図15Fは、反復TGFβ抗原刺激を用いた抗BCMA CAR発現T細胞率(%)を経時的に示す。
図15B】説明は図15Aを参照のこと。
図15C】説明は図15Aを参照のこと。
図15D】説明は図15Aを参照のこと。
図15E】説明は図15Aを参照のこと。
図15F】説明は図15Aを参照のこと。
図16図16A図16Bは、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドまたはTGFBR2 DNバックグラウンドにおける、抗BCMA CARを発現するように形質導入された初代T細胞のINF-γ産生を示す。T細胞は、RPMI 8226細胞(図16A)またはOPM2細胞(図16B)のいずれかと共インキュベートした。
図17図17A図17Bは、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドまたはTGFBR2 DNバックグラウンドにおける、抗BCMA CARを発現するように形質導入された初代T細胞内のCD25発現を示す。T細胞は、RPMI 8226細胞(図17A)またはOPM2細胞(図17B)のいずれかと共インキュベートした。
図18図18A図18Bは、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドまたはTGFBR2 DNバックグラウンドにおける、抗BCMA CARを発現するように形質導入された初代T細胞内のPD-1発現を示す。T細胞は、RPMI 8226細胞(図18A)またはOPM2細胞(図18B)のいずれかと共インキュベートした。
図19図19A図19Bは、TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下でのTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドまたはTGFBR2 DNバックグラウンドにおける、抗BCMA CAR発現T細胞の相対的な細胞増殖(図19A)および相対的なIFN-γ産生(図19B)を示す。同様にRPMI 8226細胞を用いて細胞を刺激した。
図20図20A図20Bは、TGFβの濃度を漸増させた、TGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドまたはTGFBR2 DNバックグラウンドでのいくつかのCD4+(図20A)およびCD8+(図20B)抗BCMA CAR発現T細胞におけるPD-1+細胞率(%)を示す。同様に48時間にわたりRPMI 8226細胞を用いて細胞を刺激した。
図21図21は、TGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドまたはTGFBR2 DNバックグラウンドにおける、抗BCMA CAR発現T細胞のTGFβシグナル伝達経路遺伝子PMEPA1、SKIL、SKIおよびLDLRAD4の発現レベルを示す。マウスの脾臓、またはRPMI 8226細胞由来腫瘍からT細胞を単離した。
図22図22は、TGFβの存在下および非存在下でのTGFBR2 DNバックグラウンドにおける、抗CD19 CAR発現T細胞のSmad 2/3リン酸化レベル、増殖およびグランザイムB発現を示す。
図23図23は、T細胞に対するTGFBR2遺伝子編集が野生型細胞を上回る選択的利点を付与するかどうかを決定するための概略図を示す。
図24図24は、抗BCMA CAR細胞、TGFBR2-KO細胞とWT細胞(1、0.75、0.5、0.25)との様々な比を示す。1:1のエフェクター:標的比±10ng/ml TGFβで、RPMI8226細胞と細胞を共培養した。細胞を7日ごとに収集し、ハイスループットシーケンシングによりインデル率(%)を分析した。新鮮なRPMI8226を用いて細胞を再刺激し、1:1のエフェクター:標的比に毎週再調整した。
【発明を実施するための形態】
【0076】
詳細な説明
定義および略語
別段の指定がない限り、以下の各用語は、本項においてそれに関連する意味を有する。
【0077】
不定冠詞「a」および「an」は、関連する名詞のうちの少なくとも1つを指し、用語「少なくとも1つ」および「1つまたは複数」と区別なく使用される。例えば、「モジュール」は、少なくとも1つのモジュールまたは1つもしくは複数のモジュールを意味する。
【0078】
接続詞「または」および「および/または」は、非排他的な選言として区別なく使用される。
【0079】
語句「から本質的になる」は、列挙された種は優勢な種であるが、他の種が対象組成物の構造、機能、または挙動に影響を及ぼさない微量または量で存在し得ることを意味する。例えば、特定の種から本質的になる組成物は、一般に、その種の90%、95%、96%またはそれ以上を含む。
【0080】
「ドメイン」は、タンパク質または核酸のセグメントを説明するために使用される。特に明記しない限り、ドメインはいずれかの特定の機能特性を有する必要はない。
【0081】
「インデル」は、核酸配列内の挿入および/または欠失である。インデルは、本開示のゲノム編集システムによって形成される二本鎖切断などのDNA二本鎖切断の修復の産物であり得る。インデルは、後述するNHEJ経路などの「エラーが発生しやすい」修復経路によって切断が修復される際に最もよく形成される。インデルは、標的配列にフレーム内またはフレーム外変異を生じる挿入または欠失をもたらし得る。
【0082】
「遺伝子変換」は、内因性相同配列(例えば、遺伝子アレイ内の相同配列)の組み込みによるDNA配列の改変を指す。「遺伝子修正」は、外因性一本鎖または二本鎖ドナーテンプレートDNAなどの外因性相同配列の組み込みによるDNA配列の改変を指す。遺伝子変換および遺伝子修正は、後述するようなHDR経路によるDNA二本鎖切断の修復の産物である。
【0083】
インデル、遺伝子変換、遺伝子修正、および他のゲノム編集の結果は、典型的には、配列決定(最も一般的には「次世代」法または「合成時解読(sequencing-by-synthesis)」法によるが、サンガー配列決定法が依然として使用され得る)によって評価され、あらゆる配列決定読み取りの中の関心部位での数値変化(例えば、±1、±2またはそれ以上の塩基)の相対的頻度によって定量される。配列決定のためのDNA試料は、当技術分野において公知の様々な方法によって調製されてもよく、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による対象部位の増幅、Tsaiら(参照により本明細書に組み入れられるNat.Biotechnol.34(5):483(2016))に記載されているGUIDEseqプロセスにおけるような二本鎖切断により生じたDNA末端の捕捉、または当技術分野において周知の他の手段によるものを含み得る。ゲノム編集の結果はまた、Genomic Vision(Bagneux,France)によって商品化されているFiberComb(商標)システムなどのインサイチューハイブリダイゼーション法によって、および当技術分野において公知の任意の他の好適な方法によって評価されてもよい。
【0084】
「Alt-HDR」、「代替相同組換え修復」または「代替HDR」は区別なく使用されて、相同核酸(例えば、内因性相同配列、例えば、姉妹染色分体、または外因性核酸、例えば、テンプレート核酸)を使用してDNA損傷を修復するプロセスを指す。Alt-HDRは、このプロセスが標準HDRとは異なる経路を利用し、標準HDR媒介物質であるRAD51およびBRCA2によって阻害することができるという点で、標準HDRとは異なる。Alt-HDRは一本鎖またはニック相同核酸テンプレートの関与によっても区別されるが、標準HDRは一般に二本鎖相同テンプレートを含む。
【0085】
「標準HDR」、「標準相同組換え修復」、または「cHDR」は、相同核酸(例えば、内因性相同配列、例えば、姉妹染色分体、または外因性核酸、例えば、テンプレート核酸)を使用してDNA損傷を修復するプロセスを指す。標準HDRは、典型的に、二本鎖切断に顕著な切除が存在した場合に作用し、DNAの少なくとも1つの一本鎖部分を形成する。正常細胞では、cHDRは、典型的に、切断の認識、切断の安定化、切除、一本鎖DNAの安定化、DNAクロスオーバー中間体の形成、クロスオーバー中間体の分割、およびライゲーションなどの一連の工程を含む。このプロセスにはRAD51およびBRCA2が必要であり、相同核酸は典型的には二本鎖である。
【0086】
特に明記しない限り、本明細書において使用される用語「HDR」は、標準HDRおよびalt-HDRの両方を包含する。
【0087】
「非相同末端結合」または「NHEJ」は、標準NHEJ(cNHEJ)および代替NHEJ(altNHEJ)を含むライゲーション媒介性修復および/または非テンプレート媒介性修復を指し、このようなものには、マイクロホモロジー媒介性末端結合(MMEJ)、一本鎖アニーリング(SSA)および合成依存的マイクロホモロジー媒介性末端結合(SD-MMEJ)が含まれる。
【0088】
「置換」または「置換された」は、分子(例えば、核酸またはタンパク質)の修飾に関連して使用される場合、プロセスの制限は必要でなく、置換実体が存在することを示すに過ぎない。
【0089】
「対象」は、ヒトまたは非ヒト動物を意味する。ヒト対象は、任意の年齢(例えば、乳幼児、小児、若年成人または成人)であってよく、疾患に罹患している場合もあり、または遺伝子の改変を必要としている場合もある。あるいは、対象は動物であってよく、この用語には、限定されることなく、哺乳動物、鳥、魚、爬虫類、両生類、およびさらに具体的には非ヒト霊長類、齧歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスターなど)、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコなどが含まれる。本開示の特定の態様では、対象は家畜、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジまたはヤギである。特定の態様では、対象は家禽である。
【0090】
「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」および「治療(treatment)」は、対象(例えば、ヒト対象)の疾患の治療を意味し、疾患を阻害すること、すなわちその発症または進行を停止または阻止すること;疾患を緩和すること、すなわち病態を退行させること;疾患の1つまたは複数の症状を緩和すること;および疾患を治癒させることのうち、1つまたは複数を含む。
【0091】
「予防する(prevent)」、「予防すること(preventing)」および「予防(prevention)」は、哺乳動物、例えば、ヒトの疾患の予防を指し、(a)疾患を回避もしくは排除すること、(b)疾患に対する素因に影響を与えること、または(c)疾患の少なくとも1つの症状の発症を予防もしくは遅延させることを含む。
【0092】
「キット」は、特定の目的のために使用することができる機能ユニットをともに構成する2つ以上の構成要素の任意の集合を指す。例として(限定されることなく)、本開示による1つのキットは、RNAガイドヌクレアーゼと複合体化されているかまたは複合体化することができ、(例えば、懸濁されているかまたは懸濁可能な)薬学的に許容される担体を伴うガイドRNAを含むことができる。キットは、例えば、細胞または対象に複合体を導入して、そのような細胞または対象に対して所望のゲノム改変を引き起こすために使用することができる。キットの構成要素は一緒にパッケージ化することができるか、または個別にパッケージ化することができる。本開示によるキットはまた、例えば、本開示の方法によるキットの使用を説明する使用説明書(DFU)を含んでもよい。DFUは、キットとともに物理的にパッケージすることができるか、または例えば、電子的手段によって、キットの使用者が利用できるようにすることができる。
【0093】
用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」、「核酸分子」、「核酸配列」、および「オリゴヌクレオチド」は、DNAおよびRNA内の一連のヌクレオチド塩基(「ヌクレオチド」とも呼ばれる)を指し、2つ以上のヌクレオチドの任意の鎖を意味する。ポリヌクレオチド、ヌクレオチド配列、核酸などは、キメラ混合物もしくは誘導体またはその修飾されたバージョン、一本鎖もしくは二本鎖であり得る。それらは、例えば、分子、そのハイブリダイゼーションパラメーターなどの安定性を改善するために、塩基部分、糖部分またはリン酸骨格で修飾することができる。ヌクレオチド配列は、典型的には、限定されることなく、タンパク質および酵素を作製するために細胞機構によって使用される情報を含む遺伝情報を保有する。これらの用語には、二本鎖または一本鎖のゲノムDNA、RNA、合成および遺伝子操作された任意のポリヌクレオチド、ならびにセンスポリヌクレオチドおよびアンチセンスポリヌクレオチドの両方が含まれる。これらの用語には、修飾塩基を含む核酸も含まれる。
【0094】
以下の表1に示すように、本明細書において提示されるヌクレオチド配列では、従来のIUPAC表記が使用される(参照により本明細書に組み入れられるCornish-Bowden A,Nucleic Acids Res.1985 May 10;13(9):3021-30も参照)。ただし、例えば、gRNAターゲティングドメインで配列がDNAまたはRNAのいずれかによってコードされ得る場合には、「T」は「チミンまたはウラシル」を意味することに留意されたい。
【0095】
(表1)IUPAC核酸表記
【0096】
用語「タンパク質」、「ペプチド」、および「ポリペプチド」は区別なく使用され、ペプチド結合を介して互いに連結されたアミノ酸の連続した鎖を指す。この用語には、個々のタンパク質、互いに会合するタンパク質の群または複合体、ならびにそのようなタンパク質のフラグメントまたは部分、変異体、誘導体および類似体が含まれる。ペプチド配列は、本明細書において、左側のアミノ末端すなわちN末端から始まり、右側のカルボキシル末端すなわちC末端に続く従来の表記を使用して提示される。標準の1文字または3文字の略語を使用することができる。
【0097】
用語「変異体」は、参照実体と顕著な構造的同一性を示すが、参照実体と比較して1つまたは複数の化学部分の存在またはレベルが参照実体とは構造的に異なるポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは小分子などの実体を指す。多くの態様では、変異体はまた、その参照実体と機能的に異なる。一般に、特定の実体が参照実体の「変異体」であると適切に考えられるかどうかは、参照実体との構造的同一性の程度に基づく。
【0098】
概要
本明細書において記載されるゲノム編集システムは、一般に、1つまたは複数のTGFBR2標的配列に相補的なターゲティングドメインを含む1つまたは複数のgRNAを含み、この標的配列は、次いで、1つまたは複数のgRNAが結合する(例えば、複合体化する)ことができる1つまたは複数のRNAガイドヌクレアーゼによって認識されるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含むか、またはそれに隣接する。したがって、本開示のゲノム編集システムは、部位特異的な方法で、1つまたは複数のTGFBR2標的配列を対象とし、それらのTGFBR2標的配列内に、またはそれに近接して、改変を導入するように機能する。
【0099】
本開示のゲノム編集システムによってTGFBR2標的部位内にまたはそれに近接して導入される改変は、最も一般的には、DNA一本鎖切断(SSBまたは「ニック」)および/または二本鎖切断(DSB)を含む。次いで、1つまたは複数のTGFBR2標的部位での小さなインデルまたは比較的大きな挿入もしくは欠失の導入、2つのTGFBR2標的部位間の配列の欠失、および/またはTGFBR2部位への配列(特に、ドナーテンプレートオリゴヌクレオチドを介して細胞に導入される外因性配列)の挿入、または2つのTGFBR2標的部位間の内因性細胞DNA配列をそれらの標的部位間で置換するような方法で、細胞によってニックおよびDSBが修復される。ただし、場合によっては、ゲノム編集システムは、1つまたは複数の点変異(例えば、システイン脱アミノ化を介して)、DNAマーキングの変化(例えば、DNAメチル化、ヒストンアセチル化もしくは脱アセチル化、または他のクロマチン修飾)、および/または転写因子などのトランス作用因子の動員を導入する。あるいは、本開示のゲノム編集システムは、持続性のある(例えば、数週間、数カ月またはそれ以上の間隔にわたる)または一過性の(数秒、数分、数時間または数日の間隔にわたる)様式で、1つまたは複数のTGFBR2標的配列と会合し、それにより、他の因子(特に、RNAポリメラーゼだけでなく、DNAポリメラーゼ、転写因子、および/または遺伝子発現に影響を及ぼす他のシスまたはトランス作用因子)がTGFBR2標的配列と会合するのを防ぎ得る。ゲノム編集システムおよびそれらの構成要素のこれらおよび他の作用様式については、「RNAガイドヌクレアーゼ」および「RNAガイドヌクレアーゼの修飾」の見出しの下に以下に詳述する。
【0100】
TGFBR2標的配列および対応するgRNAターゲティングドメイン配列は、必ずしもではないが、一般に、エクソンに位置し、そこでは、小さなインデル、または比較的大きな挿入もしくは欠失の導入は、TGFBR2タンパク質の機能を低下または排除する1つまたは複数の変異(例えば、フレームシフト変異、ナンセンス変異、周囲のタンパク質の構造を破壊するアミノ酸に対するコドンの導入、および/またはタンパク質活性に必要なアミノ酸に対するコドンの除去)をもたらし得る。図1は、TGFBR2遺伝子のエクソン構造内の標的位置に対する、様々な化膿性連鎖球菌ガイドRNAの切断活性のマッピングを示す。これらの変異は、本明細書全体を通じて「ノックアウト」変異と呼ばれ、それらの機能的効果は、TGFBR2タンパク質機能の「ノックアウト」である。
【0101】
特定のTGFBR2標的配列は、gRNAターゲティングドメイン配列の「ホットスポット」標的部位と考えられ得る。本明細書において使用される場合、「ホットスポット」は、高いインデル頻度率(%)、またはTGFBR2遺伝子の効果的なノックダウンもしくはノックアウトを生じるため、優先的に標的とされる部位を指す。これらの好ましい部位のうちの1つまたは複数を標的とするgRNAは、30%以上のインデル頻度率(%)を生じ得る。例えば、TGFBR2遺伝子内の好ましい標的部位は、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%またはそれ以上のインデル頻度率(%)を生じる相補的gRNAターゲティングドメインを有し得る。TGFBR2遺伝子内のホットスポット標的部位は、本明細書において記載されている。
【0102】
好ましいホットスポットTGFBR2領域を表xに示す。
【0103】
(表2)好ましいTGFBR2標的部位
【0104】
特に好ましいホットスポットTGFBR2領域を表3に示す。
【0105】
(表3)
【0106】
TGFBR2標的配列は、例えば、TGFBR2遺伝子のエクソン3、4または5に位置し得る。TGFBR2遺伝子のエクソン3、4、または5に存在するTGFBR2標的配列に対応するgRNAターゲティングドメイン配列は、SEQ ID NO:5036~5096から選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、あるいは1、2、または3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含むことができる。例えば、限定されることなく、例示的なターゲティングドメインは、以下からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるかあるいは1、2または3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含むことができる:
(a)SEQ ID NO:5041、
(b)SEQ ID NO:5042、
(c)SEQ ID NO:5047、
(d)SEQ ID NO:5050、
(e)SEQ ID NO:5052、
(f)SEQ ID NO:5092、および
g)SEQ ID NO:5093。
【0107】
(表4)ターゲティング配列
【0108】
TGFBR2発現をノックアウトする代わりに、遺伝子の発現を改変(例えば、ノックダウン)するように、転写調節領域、例えば、プロモーター領域(例えば、TGFBR2遺伝子の転写を制御するプロモーター領域)を標的とすることができる。本明細書において記載されるように、標的ノックダウンアプローチは、酵素的に不活性なCas9(eiCas9)分子またはeiCas9融合タンパク質(例えば、転写リプレッサードメインまたはクロマチン修飾タンパク質に融合されたeiCas9)を含むCRISPR/Casシステムによって媒介され得る。例えば、ターゲティングドメインを含む1つまたは複数のgRNA分子は、TGFBR2遺伝子の転写が減少および/または排除されるように、転写調節領域、例えば、プロモーター領域(例えば、TGFBR2遺伝子の転写を制御するプロモーター領域)に十分に近いeiCas9分子またはeiCas9融合タンパク質を標的とするように構成することができる。特定の態様では、eiCas9またはeiCas9融合タンパク質を使用して、T細胞、例えば、ヒトT細胞内のTGFBR2発現をノックダウンすることができる。
【0109】
TGFBR2のノックアウトおよび/またはノックダウンは、限定されることなく、TGFBR2遺伝子の配列の検査、細胞表面上のTGFBR2タンパク質発現の評価(例えば、免疫染色および細胞ソーティングによる、特に間接的細胞内染色フローサイトメトリーを含む蛍光活性化細胞ソーティングすなわちFACSによる)、TGFBR2によって媒介される細胞もしくは分子変化の検出、細胞増殖もしくは生存に対するTGF-βの作用の評価、またはTGFBR2タンパク質レベルを検出するためのウエスタンブロットによる評価を含む任意の好適な方法で評価することができる。特にT細胞に関しては、(a)TGFBR2遺伝子座またはT7E1プライマー伸長アッセイの配列決定、および/または(b)SMAD2/3リン酸化の細胞内FACS評価によって、TGFBR2ノックアウトを確認することができる。配列決定およびT7E1については以下にさらに詳細に記載され、細胞内SMAD2/3リン酸化アッセイについては、例えば、Chenらによる文献、J. Experimental Med. Volume 198, Number 12, December 15, 2003 1875-1886(この参考文献は、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み入れられる)、特に、1877頁のMaterials & MethodsセクションおよびSupplemental Figure S2に記載されている。
【0110】
TGFBR2のノックアウトおよび/またはノックダウンは、ベースライン測定値または野生型細胞と比較して、TGFBR2発現の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%または100%の減少に相当し得る。
【0111】
いくつかの局面では、提供される組成物および方法は、TGFBR2遺伝子のノックアウトまたは遺伝子破壊のための作用物質(例えば、gRNA/Cas9)が導入された細胞の組成物中の細胞の少なくとも約50%もしくは約50%超、少なくとも約60%もしくは約60%超、少なくとも約65%もしくは約65%超、少なくとも約70%もしくは約70%超、少なくとも約75%もしくは約75%超、少なくとも約80%もしくは約80%超、少なくとも約85%もしくは約85%超、少なくとも約90%もしくは約90%超または少なくとも約95%もしくは約95%超が、遺伝子破壊を含み、内因性TGFBR2ポリペプチドを発現せず、連続したTGFBR2遺伝子、TGFBR2遺伝子、および/または機能的なTGFBR2遺伝子を含まないものを含む。いくつかの態様では、本開示による方法、組成物、および細胞は、TGFBR2遺伝子のノックアウトまたは遺伝子破壊のための作用物質(例えば、gRNA/Cas9)が導入された細胞の組成物中の細胞の少なくとも約50%もしくは約50%超、少なくとも約60%もしくは約60%超、少なくとも約65%もしくは約65%超、少なくとも約70%もしくは約70%超、少なくとも約75%もしくは約75%超、少なくとも約80%もしくは約80%超、少なくとも約85%もしくは約85%超、少なくとも約90%もしくは約90%超または少なくとも約95%もしくは約95%超が、細胞表面上などでTGFBR2ポリペプチドを発現しないものを含む。いくつかの態様では、TGFBR2遺伝子のノックアウトまたは遺伝子破壊のための作用物質(例えば、gRNA/Cas9)が導入された細胞の組成物中の細胞の少なくとも約50%もしくは約50%超、少なくとも約60%もしくは約60%超、少なくとも約65%もしくは約65%超、少なくとも約70%もしくは約70%超、少なくとも約75%もしくは約75%超、少なくとも約80%もしくは約80%超、少なくとも約85%もしくは約85%超、少なくとも約90%もしくは約90%超または少なくとも約95%もしくは約95%超は、両対立遺伝子内でノックアウトされる、すなわち、そのような割合の細胞内に二対立遺伝子欠失を含む。
【0112】
TGFBR2を標的とするゲノム編集システムは、様々な方法で実装されてもよく、それらの実装は、細胞が編集される設定に合わせて調整されてもよい。本開示の特定の態様は、例えば、MaxCyte(Gaithersburg,MD)またはLonza(Basel,Switzerland)などの市販の供給業者から入手可能なエレクトロポレーターおよびキュベットを使用するエレクトロポレーションによって、リボ核タンパク質(RNP)複合体の形態で、TGFBR2を標的とするRNAガイドヌクレアーゼおよびガイドRNAをエクスビボで細胞に送達することを含む。しかし、他の態様は、インビボまたはエクスビボ編集のいずれかのために、ウイルスベクターまたは脂質ナノ粒子などのインビボ核酸ベクターを実装してもよい。これらの実装の詳細については、「ゲノム編集システムの実装」の見出しの下に以下にさらに詳しく記載する。
【0113】
TGFBR2のノックアウトおよび/またはノックダウンは、限定されることなく、適応T細胞療法の状況を含む様々な状況で有用であり得る。本開示の特定の態様によれば、TGFBR2は、治療に使用されるT細胞などの免疫細胞内でノックアウトされる。一例として、T細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)または異種T細胞受容体(TCR)などの操作された受容体を発現してもよく、この受容体は、腫瘍などの病態に関与する細胞または組織上の抗原を認識するように構成され得る。本開示によるTGFBR2ノックアウトT細胞は、それらが操作された受容体を発現するかどうかにかかわらず、TGFBR2を発現するT細胞の増殖または活性を低下させるのに十分な量で、TGF-βが存在する組織または器官のターゲティングに使用され得る。
【0114】
TGFBR2ノックアウトおよび/またはノックダウン細胞は、「自家」細胞療法に使用されてもよく、この療法では、対象から細胞が採取され、TGFBR2発現をノックアウトまたはノックダウンするように改変され、次いで、同じ対象に戻される。あるいは、これらの細胞は、「同種異系」細胞療法では異なる対象に投与されてもよい。いずれのアプローチでも、本開示のTGFBR2細胞は、採取と投与との間で、増殖、刺激、精製またはソーティング、導入遺伝子の形質導入、凍結および/または解凍などの様々な方法で操作されてもよい。
【0115】
本明細書において記載されるように、TGFBR2遺伝子の存在をノックアウトまたはノックダウンすると、(1)T細胞増殖を改善する、(2)T細胞生存を改善する、および/または(3)T細胞機能を改善することが可能になる。本明細書において記載されるように、TGFBR2遺伝子の発現をノックダウンすると、同様に、(1)T細胞増殖を改善する、(2)T細胞生存を改善する、および/または(3)T細胞機能を改善することが可能になる。
【0116】
ゲノム編集システム
用語「ゲノム編集システム」は、RNAにガイドされたDNA編集活性を有する任意のシステムを指す。本開示のゲノム編集システムは、天然に存在するCRISPRシステムから適合された少なくとも2つの構成要素、すなわち、ガイドRNA(gRNA)およびRNAガイドヌクレアーゼを含む。これら2つの構成要素は、例えば、一本鎖切断(SSBまたはニック)、二本鎖切断(DSB)および/または点変異のうちの1つまたは複数を行うことによって、特定の核酸配列と会合し、その核酸配列内またはその周囲のDNAを編集することができる複合体を形成する。特定の態様では、二本鎖切断または一本鎖切断は、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bpまたは約10bp以内にあり、それによりTGFBR2遺伝子の発現の改変を誘導する。
【0117】
天然に存在するCRISPRシステムは、2つのクラスおよび5つのタイプに進化的に分類され(参照により本明細書に組み入れられるMakarova et al. Nat Rev Microbiol. 2011 Jun;9 (6): 467-477(Makarova))、本開示のゲノム編集システムは、天然に存在するCRISPRシステムの任意のタイプまたはクラスの構成要素を適合させ得るが、本明細書において提示される態様は、一般に、クラス2およびタイプIIまたはVのCRISPRシステムから適合される。タイプIIおよびVを包含するクラス2のシステムは、crRNAのターゲティング(またはスペーサー)配列に相補的な特異的遺伝子座と会合し(すなわち、標的とし)これを切断するリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成する比較的大型のマルチドメインRNAガイドヌクレアーゼタンパク質(例えば、Cas9またはCpf1)と1つまたは複数のガイドRNA(例えば、crRNAおよび任意でtracrRNA)とによって特徴付けられる。本開示によるゲノム編集システムは、細胞DNA配列を同様に標的とし編集するが、天然に存在するCRISPRシステムとは著しく異なる。例えば、本明細書において記載される単分子ガイドRNAは天然には存在せず、本開示によるガイドRNAおよびRNAガイドヌクレアーゼはともに、任意の数の非天然修飾を組み込み得る。
【0118】
ゲノム編集システムは、様々な方法で実装(例えば、細胞または対象に投与または送達)することができ、様々な実装が別個の用途に適している場合がある。例えば、ゲノム編集システムは、特定の態様では、タンパク質/RNA複合体(リボ核タンパク質、すなわちRNP)として実装され、これは、薬学的に許容される担体および/または封入剤、例えば、脂質またはポリマーマイクロ粒子もしくはポリマーナノ粒子、ミセル、リポソームなどを任意で含む薬学的組成物に含めることができる。特定の態様では、ゲノム編集システムは、上記のRNAガイドヌクレアーゼおよびガイドRNA構成要素をコードする1つまたは複数の核酸として(任意で1つまたは複数の追加の構成要素とともに)実装される。特定の態様では、ゲノム編集システムは、そのような核酸を含む1つまたは複数のベクター、例えば、アデノ随伴ウイルスなどのウイルスベクターとして実装される。特定の態様では、ゲノム編集システムは、上記のいずれかの組合せとして実装される。本明細書において記載された原理に従って機能する追加のまたは修正された実装は、当業者には明らかであり、本開示の範囲内である。
【0119】
本開示のゲノム編集システムは、単一の特定のヌクレオチド配列を標的とすることができるか、または2つ以上のガイドRNAの使用により2つ以上の特定のヌクレオチド配列を標的とし、同時に編集することが可能であり得ることに留意されたい。複数のgRNAの使用は、本開示全体を通じて「多重化」と呼ばれ、目的の複数の無関係な標的配列を標的とするために、または単一の標的ドメイン内で複数のSSBもしくはDSBを形成し、場合によっては、そのような標的ドメイン内で特定の編集を生じさせるために使用することができる。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Maederら(Maeder)による国際特許公開番号WO2015/138510は、ヒトCEP290遺伝子内の点変異(C.2991+1655AからG)を修正するためのゲノム編集システムを記載しており、このゲノム編集システムは、潜在的スプライス部位を生成し、ひいては、この遺伝子の機能を低下または消失させる。Maederのゲノム編集システムは、点変異の両側の(すなわち、隣接する)配列を標的とする2つのガイドRNAを利用し、その変異に隣接するDSBを形成する。これは、次いで、変異を含め、介在配列の欠失を促進し、それにより潜在的スプライス部位を排除し、正常な遺伝子機能を回復させる。
【0120】
別の例として、参照により本明細書に組み入れられる、Cotta-Ramusinoら(「Cotta-Ramusino」)によるWO2016/073990は、Cas9ニッカーゼ(化膿性連鎖球菌D10Aなどの一本鎖ニックを作製するCas9)と組み合わせて2つのgRNAを利用するゲノム編集システム、「二重ニッカーゼ系」と呼ばれる構成を記載している。Cotta-Ramusinoの二重ニッカーゼ系は、1つまたは複数のヌクレオチドによってオフセットされた目的の配列の反対側の鎖上に2つのニックを作製するように構成され、このニックは結合して、オーバーハング(Cotta-Ramusinoの場合は5’であるが、3’オーバーハングも可能である)を有する二本鎖切断を作製する。次いで、オーバーハングは、いくつかの状況では、相同組換え修復事象を促進することができる。また、別の例として、PalestrantらによるWO2015/070083(参照により本明細書に組み入れられる「Palestrant」)は、Cas9(「governing RNA」と呼ばれる)をコードするヌクレオチド配列を標的とするgRNAを記載しており、これは、例えば、ウイルスによって形質導入されたいくつかの細胞では普通なら構成的に発現され得るCas9の一過性発現を可能にするために、1つまたは複数の追加のgRNAを含むゲノム編集システムに含めることができる。これらの多重化アプリケーションは、限定ではなく例示的であることが意図され、当業者であれば、多重化の他のアプリケーションが、本明細書において記載されるゲノム編集システムと一般的に互換性があることを認識するであろう。
【0121】
ゲノム編集システムは、場合によっては、NHEJまたはHDRなどの細胞DNA二本鎖切断機構によって修復される二本鎖切断を形成することができる。これらの機構は、文献を通して、例えば、Davis & Maizels, PNAS, 111(10): E924-932, March 11, 2014(Davis)(Alt-HDRの説明)、Frit et al. DNA Repair 17(2014)81-97(Frit)(Alt-NHEJの説明)、およびIyama and Wilson III, DNA Repair(Amst.)2013-Aug; 12(8): 620-636(Iyama)(標準HDRおよびNHEJ経路の一般的な説明)によって説明されている。
【0122】
ゲノム編集システムがDSBを形成することによって機能する場合、そのようなシステムは、二本鎖切断修復の特定の様式、または特定の修復結果を促進する1つまたは複数の構成要素を任意で含む。例えば、Cotta-Ramusinoは、一本鎖オリゴヌクレオチド「ドナーテンプレート」が付加されるゲノム編集システムについても記載している。ドナーテンプレートは、ゲノム編集システムによって切断される細胞DNAの標的領域に組み込まれ、標的配列の変化をもたらすことができる。
【0123】
特定の態様では、ゲノム編集システムは、一本鎖切断または二本鎖切断を引き起こすことなく、標的配列を修飾するか、標的配列内またはその近くの遺伝子の発現を修飾する。例えば、ゲノム編集システムは、DNAに作用する機能ドメインに融合したRNAガイドヌクレアーゼを含み、それにより標的配列またはその発現を修飾してもよい。一例として、RNAガイドヌクレアーゼは、シチジンデアミナーゼ機能ドメインに接続(例えば、融合)され得、標的とされたCからAへの置換をもたらすことによって機能してもよい。例示的なヌクレアーゼ/デアミナーゼ融合は、参照により組み入れられるKomor et al. Nature 533, 420-424(19 May 2016)(「Komor」)に記載されている。あるいは、ゲノム編集システムは、切断-不活性化(すなわち、「死んだ」)ヌクレアーゼ、例えば、死んだCas9(dCas9)を利用してもよく、細胞DNAの1つまたは複数の標的とした領域上に安定な複合体を形成することによって機能し、それにより、限定されることなく、mRNA転写、クロマチンリモデリングなどを含む標的領域を含む機能を妨害してもよい。
【0124】
ガイドRNA(gRNA)分子
用語「ガイドRNA」および「gRNA」は、Cas9またはCpf1などのRNAガイドヌクレアーゼと、細胞内のゲノム配列またはエピゾーム配列などの標的配列との特異的会合(または「ターゲティング」)を促進する任意の核酸を指す。gRNAは、単分子(単一のRNA分子を含み、あるいはキメラと呼ばれる)であってもよく、またはモジュラー(通常、例えば二重にすることによって互いに結合しているcrRNAおよびtracrRNAなどの複数の、典型的には2つの別個のRNA分子を含む)であってもよい。gRNAおよびそれらの構成要素部分は、例えば、Brinerら(参照により組み入れられるMolecular Cell 56(2), 333-339, October 23, 2014(Briner))およびCotta-Ramusinoに、文献を通して記載されている。
【0125】
細菌および古細菌では、タイプII CRISPRシステムは、一般に、Cas9などのRNAガイドヌクレアーゼタンパク質と、外来配列に相補的な5’領域を含むCRISPR RNA(crRNA)と、crRNAの3’領域に相補的であり、それと二本鎖を形成する5’領域を含むトランス活性化crRNA(tracrRNA)とを含む。いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、この二本鎖はCas9/gRNA複合体の形成を促進し、その活性に必要であると考えられている。タイプII CRISPRシステムが遺伝子編集に使用するために適合されたことから、1つの非限定的な例では、crRNA(その3’末端で)およびtracrRNA(その5’末端で)の相補的領域を架橋する4ヌクレオチド(例えば、GAAA)の「テトラループ」または「リンカー」配列によって、crRNAおよびtracrRNAが単一の単分子またはキメラガイドRNAに結合され得ることが発見された。(いずれも参照により本明細書に組み入れられるMali et al. Science. 2013 Feb 15; 339(6121): 823-826(「Mali」);Jiang et al. Nat Biotechnol. 2013 Mar; 31(3): 233-239(「Jiang」); およびJinek et al., 2012 Science Aug. 17; 337(6096): 816-821(「Jinek」)。)
【0126】
ガイドRNAは、単分子であろうとモジュラーであろうと、編集が望まれる細胞のゲノム内のDNA配列などの標的配列内の標的ドメインに完全にまたは部分的に相補的な「ターゲティングドメイン」を含む。ターゲティングドメインは、限定されることなく、「ガイド配列」(参照により本明細書に組み入れられるHsu et al., Nat Biotechnol. 2013 Sep; 31(9): 827-832(「Hsu」)、「相補性領域」(Cotta-Ramusino)、「スペーサー」(Briner)、および総称して「crRNA」(Jiang)を含め、文献では様々な名称によって呼ばれる。それらが与えられる名称にかかわらず、ターゲティングドメインは、典型的には長さが10~30ヌクレオチドであり、特定の態様では、長さが16~24ヌクレオチド(例えば、長さが16、17、18、19、20、21、22、23または24ヌクレオチド)であり、Cas9 gRNAの場合は5’末端にまたはその近くにあり、Cpf1 gRNAの場合は3’末端にまたはその近くにある。
【0127】
ターゲティングドメインに加えて、gRNAは、典型的には(以下に説明するように必ずしもそうではない)、gRNA/Cas9複合体の形成または活性に影響を及ぼし得る複数のドメインを含む。例えば、上述したように、gRNAの第1および第2の相補性ドメインによって形成される二本鎖構造(「リピート:アンチリピート二本鎖」とも呼ばれる)は、Cas9の認識(REC)ローブと相互作用し、Cas9/gRNA複合体の形成を媒介することができる。(いずれも参照により本明細書に組み入れられるNishimasu et al., Cell 156, 935-949, February 27, 2014(Nishimasu 2014)およびNishimasu et al., Cell 162, 1113-1126, August 27, 2015(Nishimasu 2015))。第1および/または第2の相補性ドメインは、RNAポリメラーゼにより終結シグナルとして認識され得る1つまたは複数のポリAトラクトを含み得ることに留意されたい。したがって、第1および第2の相補性ドメインの配列は、これらのトラクトを排除し、例えば、Brinerに記載されているA-Gスワップ、またはA-Uスワップの使用を介してgRNAの完全なインビトロ転写を促進するように任意で修飾される。第1および第2の相補性ドメインに対するこれらおよび他の同様の修飾は、本開示の範囲内である。
【0128】
第1および第2の相補性ドメインに加えて、Cas9 gRNAは、典型的には、インビボではヌクレアーゼ活性に関与するが、インビトロでは必ずしも関与しない2つ以上の追加の二本鎖領域を含む。(Nishimasu 2015)。第2の相補性ドメインの3’部分の近くの第1のステムループは、「近位ドメイン」、(Cotta-Ramusino)「ステムループ1」(Nishimasu 2014および2015)および「ネクサス」(Briner)と様々に呼ばれる。1つまたは複数の追加のステムループ構造は通常、gRNAの3’末端近くに存在し、その数は種によって異なる。化膿性連鎖球菌gRNAは、典型的には、(リピート:アンチリピート二本鎖を含む合計4つのステムループ構造について)2つの3’ステムループを含み、黄色ブドウ球菌および他の種は(合計3つのステムループ構造について)1つのみを有する。種ごとに分類された保存されたステムループ構造(およびさらに一般的にはgRNA構造)の説明は、Brinerに提供されている。
【0129】
前述の説明はCas9とともに使用するためのgRNAに焦点を合わせてきたが、ここまでに説明したものとはいくつかの点で異なるgRNAを利用する他のRNAガイドヌクレアーゼが発見または発明されている(または将来的には発見もしくは発明され得る)ことを理解されたい。例えば、Cpf1(「プレボテラ(Prevotella)およびフランシセラ(Franciscella)1由来のCRISPR」)は、近年発見されたRNAガイドヌクレアーゼであり、機能するためにtracrRNAを必要としない。(参照により本明細書に組み入れられるZetsche et al.,2015,Cell 163,759-771 October 22,2015(Zetsche I))。Cpf1ゲノム編集システムに使用するためのgRNAは、一般に、ターゲティングドメインと相補性ドメイン(「ハンドル」とも呼ばれる)とを含む。また、Cpf1とともに使用するためのgRNAでは、ターゲティングドメインは、通常、Cas9 gRNAに関して上述した5’末端ではなく、3’末端にまたはその近くに存在する(ハンドルはCpf1 gRNAの5’末端にまたはその近くにある)ことに留意されたい。
【0130】
当業者であれば、様々な原核生物種由来のgRNA間、またはCpf1とCas9 gRNAとの間に構造的な差が存在し得るが、gRNAが機能する原理は概ね一貫していることを理解するであろう。機能のこの一貫性のために、gRNAは、それらのターゲティングドメイン配列によって広義に定義することができ、当業者であれば、所与のターゲティングドメイン配列が、1つまたは複数の化学的修飾および/または配列修飾(置換、付加的なヌクレオチド、切断など)を含む単分子もしくはキメラgRNAまたはgRNAを含む任意の好適なgRNAに組み込まれ得ることを理解するであろう。したがって、本開示における提示を簡潔にするために、gRNAは、それらのターゲティングドメイン配列に関してのみ記載され得る。
【0131】
さらに一般的には、当業者であれば、本開示のいくつかの局面が、複数のRNAガイドヌクレアーゼを使用して実装することができるシステム、方法、および組成物に関することを理解するであろう。このため、別段の指定がない限り、gRNAという用語は、Cas9またはCpf1の特定の種と適合するgRNAだけでなく、任意のRNAガイドヌクレアーゼとともに使用することができる任意の好適なgRNAを包含することを理解されたい。例として、gRNAという用語は、特定の態様では、タイプIIもしくはタイプVもしくはCRISPRシステムなどのクラス2 CRISPRシステムに生じる任意のRNAガイドヌクレアーゼ、またはそれらに由来するか適合されたRNAガイドヌクレアーゼとともに使用するためのgRNAを含むことができる。
【0132】
以下の表2は、化膿性連鎖球菌Cas9を用いてTGFBR2を標的とするための例示的なgRNAを示す。
【0133】
(表5)
【0134】
gRNA設計
標的配列の選択および妥当性確認、ならびにオフターゲット分析の方法は、例えば、Mali; Hsu; Fu et al., 2014 Nat Biotechnol 32(3): 279-84, Heigwer et al., 2014 Nat methods 11(2): 122-3; Bae et al. (2014)Bioinformatics 30(10):1 473-5;およびXiao A et al.(2014)Bioinformatics 30(8): 1180-1182に以前に記載されている。これらの参考文献のそれぞれは、参照により本明細書に組み入れられる。非限定的な例として、gRNA設計は、使用者の標的配列に対応する潜在的な標的配列の選択を最適化するため、例えば、ゲノムにわたる総オフターゲット活性を最小化するために、ソフトウェアツールの使用を含んでもよい。オフターゲット活性は切断に限定されないが、各オフターゲット配列での切断効率は、例えば、実験的に導出された重み付けスキームを使用して予測することができる。これらおよび他のガイド選択方法は、MaederおよびCotta-Ramusinoに詳細に記載されている。
【0135】
gRNA修飾
gRNAの活性、安定性またはその他の特性は、特定の修飾を組み込むことによって改変することができる。一例として、一過性に発現または送達された核酸は、例えば、細胞ヌクレアーゼによる分解を受けやすい可能性がある。したがって、本明細書において記載されるgRNAは、ヌクレアーゼに対する安定性を導入する1つまたは複数の修飾されたヌクレオシドまたはヌクレオチドを含むことができる。理論に拘束されることを望まないが、本明細書において記載される特定の修飾されたgRNAは、細胞に導入されると、自然免疫応答の低減を示し得るとも考えられている。当業者であれば、外因性核酸、特にウイルス起源または細菌起源の外因性核酸に応答して、細胞、例えば哺乳動物細胞に一般的に観察される特定の細胞応答を認識するであろう。サイトカイン発現の誘導、および放出、および細胞死を含み得るこのような応答は、本明細書において提示される修飾により、完全に低減または排除され得る。
【0136】
本項で説明される特定の例示的な修飾は、gRNA配列内の任意の位置に、例えば、限定されることなく、5’末端(例えば、5’末端の1~10、1~5または1~2ヌクレオチド以内)に、またはその近くに、および/または3’末端(例えば、3’末端の1~10、1~5または1~2ヌクレオチド以内)に、またはその近くに含めることができる。場合によっては、修飾は、Cas9 gRNAのリピート-アンチリピート二本鎖、Cas9またはCpf1 gRNAのステムループ構造、および/またはgRNAのターゲティングドメインなどの機能的モチーフ内に位置する。
【0137】
一例として、gRNAの5’末端は、以下に示すように、真核生物mRNAキャップ構造またはキャップ類似体(例えば、G(5’)ppp(5’)Gキャップ類似体、m7G(5’)ppp(5’)Gキャップ類似体または3’-O-Me-m7G(5’)ppp(5’)G抗逆方向キャップ類似体(anti reverse cap analog)(ARCA))を含むことができる。
キャップまたはキャップ類似体は、gRNAの化学合成中またはインビトロ転写中のいずれかに含めることができる。
【0138】
同様の系統に沿って、gRNAの5’末端は5’三リン酸基を欠いてもよい。例えば、インビトロで転写されたgRNAをホスファターゼにより処理して(例えば、子牛腸アルカリホスファターゼを使用して)、5’三リン酸基を除去することができる。
【0139】
別の一般的な修飾は、gRNAの3’末端に、ポリAトラクトと呼ばれる複数(例えば、1~10、10~20、または25~200)のアデニン(A)残基を付加することを含む。ポリAトラクトは、化学合成中、ポリアデノシンポリメラーゼ(例えば、大腸菌(E.coli)ポリ(A)ポリメラーゼ)を使用したインビトロ転写後、またはMaederに記載されているようにポリアデニル化配列を用いてインビボでgRNAに付加することができる。
【0140】
本明細書において記載される修飾は、任意の好適な方法で組み合わせることができ、例えば、DNAベクターからインビボで転写されるか、インビトロで転写されるgRNAかにかかわらず、gRNAは、5’キャップ構造またはキャップ類似体および3’ポリAトラクトのいずれかまたは両方を含むことができることに留意されたい。
【0141】
ガイドRNAは3’末端Uリボースで修飾することができる。例えば、Uリボースの2つの末端ヒドロキシル基は酸化されてアルデヒド基となり、それに伴ってリボース環が開環して、以下に示すような修飾ヌクレオシドが得られる。
式中、「U」は、未修飾または修飾ウリジンであり得る。
【0142】
3’末端Uリボースは、以下に示すように、2’3’環状リン酸により修飾され得る。
式中、「U」は、未修飾または修飾ウリジンであり得る。
【0143】
ガイドRNAは、例えば、本明細書において記載される修飾ヌクレオチドのうちの1つまたは複数を組み込むことにより、分解に対して安定化され得る3’ヌクレオチドを含み得る。特定の態様では、ウリジンは、修飾ウリジンによって、例えば、5-(2-アミノ)プロピルウリジン、および5-ブロモウリジン、または本明細書において記載される修飾ウリジンのいずれかによって置換され得る。アデノシンおよびグアノシンは、修飾アデノシンおよびグアノシンによって、例えば、8位に修飾がある8-ブロモグアノシンなどによって、または本明細書において記載される修飾アデノシンまたはグアノシンのいずれかによって置換され得る。
【0144】
特定の態様では、gRNAに糖修飾リボヌクレオチドを組み込むことができ、例えば、2’OH-基は、H、-OR、-R(式中、Rは、例えば、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、ヘテロアリールまたは糖であり得る)、ハロ、-SH、-SR(式中、Rは、例えば、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、ヘテロアリールまたは糖であり得る)、アミノ(式中、アミノは、例えば、NH2;アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ヘテロシクリル、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノまたはアミノ酸であり得る);またはシアノ(-CN)から選択される基によって置換される。特定の態様では、リン酸骨格は、例えば、ホスホチオエート(PhTx)基によって、本明細書において記載されるように修飾され得る。特定の態様では、gRNAのヌクレオチドのうちの1つまたは複数は、それぞれ独立して、限定されることなく、2’-糖修飾、例えば、2’-O-メチル、2’-O-メトキシエチル、または例えば、2’-Fもしくは2’-O-メチル、アデノシン(A)、2’-Fもしくは2’-O-メチル、シチジン(C)、2’-Fもしくは2’-O-メチル、ウリジン(U)、2’-Fもしくは2’-O-メチル、チミジン(T)、2’-Fもしくは2’-O-メチル、グアノシン(G)、2’-O-メトキシエチル-5-メチルウリジン(Teo)、2’-O-メトキシエチルアデノシン(Aeo)、2’-O-メトキシエチル-5-メチルシチジン(m5Ceo)を含む2’-フルオロ修飾、およびそれらの任意の組合せを含む修飾または未修飾ヌクレオチドであり得る。
【0145】
ガイドRNAはまた、2’OH基が例えばC1~6アルキレンまたはC1~6ヘテロアルキレン架橋によって同じリボース糖の4’炭素に接続され得る「ロックド」核酸(LNA)を含むことができる。任意の好適な部分を使用して、限定されることなく、メチレン、プロピレン、エーテル、またはアミノ架橋;O-アミノ(アミノは、例えば、NH2;アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ヘテロシクリル、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、またはジヘテロアリールアミノ、エチレンジアミン、またはポリアミノであり得る)およびアミノアルコキシもしくはO(CH2n-アミノ(アミノは、例えば、NH2;アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ヘテロシクリル、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、またはジヘテロアリールアミノ、エチレンジアミン、またはポリアミノであり得る)を含むこのような架橋を提供することができる。
【0146】
特定の態様では、gRNAは、多環である修飾ヌクレオチド(例えば、トリシクロ;およびグリコール核酸(GNA)などの「アンロックド」形態(例えば、リボースが、リン酸ジエステル結合に付着したグリコール単位によって置換されているR-GNAまたはS-GNA)、またはトレオース核酸(リボースがα-L-トレオフラノシル-(3’→2’)によって置換されているTNA)を含むことができる。
【0147】
通常gRNAは、酸素を有する5員環である糖類リボースを含む。例示的な修飾gRNAは、限定されることなく、リボース中の酸素の置換(例えば、イオウ(S)、セレン(Se)、または例えば、メチレンもしくはエチレンなどのアルキレンによる);二重結合付加(例えば、リボースをシクロペンテニルまたはシクロヘキセニルによって置換する);リボース環縮小(例えば、シクロブタンまたはオキセタンの4員環を形成する);リボース環拡大(例えば、アンヒドロヘキシトール、アルトリトール、マンニトール、シクロヘキサニル、シクロヘキセニル、およびホスホロアミダート骨格も有するモルホリノなどの追加の炭素またはヘテロ原子を有する6または7員環を形成する)を含むことができる。糖類似体改変の大部分は2’位置に局在するが、4’位置を含む他の部位も修飾の対象となる。特定の態様では、gRNAは、4’-S、4’-Seまたは4’-C-アミノメチル-2’-O-Me修飾を含む。
【0148】
特定の態様では、デアザヌクレオチド、例えば、7-デアザ-アデノシンをgRNAに組み込むことができる。特定の態様では、O-およびN-アルキル化ヌクレオチド、例えば、N6-メチルアデノシンをgRNAに組み込むことができる。特定の態様では、gRNA内の1つもしくは複数またはあらゆるヌクレオチドは、デオキシヌクレオチドである。
【0149】
RNAガイドヌクレアーゼ
本開示によるRNAガイドヌクレアーゼには、限定されることなく、天然に存在するクラス2 CRISPRヌクレアーゼ、例えば、Cas9およびCpf1、ならびにそれらに由来するかそれらから得られる他のヌクレアーゼが含まれる。機能的な用語では、RNAガイドヌクレアーゼは、(a)gRNAと相互作用する(例えば、gRNAと複合体化する)ヌクレアーゼであり、かつ(b)gRNAとともに、(i)gRNAのターゲティングドメインに相補的な配列、および任意で(ii)以下にさらに詳しく記載される「プロトスペーサー隣接モチーフ」すなわち「PAM」と呼ばれる付加的な配列を含むDNAの標的領域に会合し、任意で切断または修飾するヌクレアーゼとして定義される。以下の実施例で説明するように、同一のPAM特異性または切断活性を共有する個々のRNAガイドヌクレアーゼ間に変異が存在し得る場合であっても、RNAガイドヌクレアーゼは、そのPAM特異性および切断活性によって広義に定義することができる。当業者であれば、本開示のいくつかの局面が、特定のPAM特異性および/または切断活性を有する任意の好適なRNAガイドヌクレアーゼを使用して実装され得るシステム、方法および組成物に関連することを理解するであろう。このため、別段の指定がない限り、RNAガイドヌクレアーゼという用語は一般的な用語として理解されるべきであり、RNAガイドヌクレアーゼのいずれかの特定のタイプ(例えば、Cas9対Cpf1)、種(例えば、化膿性連鎖球菌対黄色ブドウ球菌)または変異(例えば、完全長対切断または分割;天然に存在するPAM特異性対操作されたPAM特異性など)に限定されるべきではない。
【0150】
PAM配列は、gRNAターゲティングドメイン(または「スペーサー」)に相補的な「プロトスペーサー」配列との配列関係からその名称をとっている。PAM配列は、プロトスペーサー配列とともに、特異的なRNAガイドヌクレアーゼ/gRNAの組合せのための標的領域または標的配列を規定する。
【0151】
様々なRNAガイドヌクレアーゼは、PAMとプロトスペーサーとの間の様々な配列関係を必要とし得る。
【0152】
RNAガイドヌクレアーゼは、PAMおよびプロトスペーサーの特異的な配列の向きを認識することに加えて、特異的なPAM配列も認識することができる。例えば、黄色ブドウ球菌Cas9は、NNGRRTまたはNNGRRVのPAM配列を認識し、N残基はgRNAターゲティングドメインによって認識される領域のすぐ3’側にある。化膿性連鎖球菌Cas9はNGG PAM配列を認識する。また、F.ノビシダ(F.novicida)Cpf1はTTN PAM配列を認識する。様々なRNAガイドヌクレアーゼについてPAM配列が同定されており、新規PAM配列を同定するための戦略は、Shmakov et al., 2015, Molecular Cell 60, 385-397, November 5, 2015によって記載されている。また、操作されたRNAガイドヌクレアーゼは、参照分子のPAM特異性とは異なるPAM特異性を有し得ることにも留意されたい(例えば、操作されたRNAガイドヌクレアーゼの場合、参照分子は、RNAガイドヌクレアーゼが由来する天然に存在する変異体、または操作されたRNAガイドヌクレアーゼに対して最大のアミノ酸配列相同性を有する天然に存在する変異体であり得る)。
【0153】
それらのPAM特異性に加えて、RNAガイドヌクレアーゼは、それらのDNA切断活性によって特徴付けることができる。天然に存在するRNAガイドヌクレアーゼは、典型的には、標的核酸内でDSBを形成するが、SSBのみを生成するか(上記で説明)参照により本明細書に組み入れられるRan & Hsu, et al., Cell 154(6), 1380-1389, September 12, 2013(Ran))、全く切断しない操作された変異体が生成されている。
【0154】
Cas9
化膿性連鎖球菌Cas9(Jinek 2014)について、ならびに単分子ガイドRNAおよび標的DNAとの複合体では黄色ブドウ球菌Cas9(Nishimasu 2014;Anders 2014;and Nishimasu 2015)について、結晶構造が決定されている。
【0155】
天然に存在するCas9タンパク質は、それぞれが特定の構造ドメインおよび/または機能ドメインを含む2つのローブ、すなわち、認識(REC)ローブおよびヌクレアーゼ(NUC)ローブを含む。RECローブは、アルギニンに富むブリッジヘリックス(BH)ドメインと、少なくとも1つのRECドメイン(例えば、REC1ドメイン、および任意でREC2ドメイン)とを含む。RECローブは他の公知のタンパク質と構造的類似性を共有せず、独自の機能ドメインであることを示している。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、変異分析は、BHドメインおよびRECドメインの特異的な機能的役割を示唆している。BHドメインはgRNA:DNA認識に何らかの役割を果たすように思われるが、RECドメインはgRNAのリピート:アンチリピート二本鎖と相互作用し、Cas9/gRNA複合体の形成を媒介すると考えられている。
【0156】
NUCローブは、RuvCドメインと、HNHドメインと、PAM相互作用(PI)ドメインとを含む。RuvCドメインは、レトロウイルスインテグラーゼスーパーファミリーのメンバーと構造的類似性を共有し、標的核酸の非相補(すなわち、下)鎖を切断する。RuvCドメインは、2つ以上の分割されたRuvCモチーフ(例えば、化膿性連鎖球菌および黄色ブドウ球菌のRuvC I、RuvCII、およびRuvCIII)から形成され得る。一方、HNHドメインは、HNNエンドヌクレアーゼモチーフに構造的に類似しており、標的核酸の相補(すなわち、上)鎖を切断する。PIドメインは、その名称が示唆するように、PAM特異性に寄与する。
【0157】
Cas9の特定の機能は、上記の特定のドメインに関連しているが(上記の特定のドメインによって必ずしも完全に決定されるわけではない)、これらおよび他の機能は、他のCas9ドメインによって、またはいずれかのローブ上の複数のドメインによって媒介されるか、影響を受け得る。例えば、化膿性連鎖球菌Cas9では、Nishimasu 2014に記載されているように、gRNAのリピート:アンチリピート二本鎖はRECローブとNUCローブとの間の溝に入り、二本鎖のヌクレオチドはBHドメイン、PIドメイン、およびRECドメインのアミノ酸と相互作用する。第1のステムループ構造のいくつかのヌクレオチドは、第2および第3のステムループ(RuvCドメイおよびPIドメイン)のいくつかのヌクレオチドと同様に、複数のドメイン(PI、BHおよびREC1)のアミノ酸とも相互作用する。
【0158】
Cpf1
crRNAと、TTTN PAM配列を含む二本鎖(ds)DNA標的との複合体内のアシダミノコッカス(Acidaminococcus)種Cpf1の結晶構造は、Yamanoらによって解明されている(参照により本明細書に組み入れられるCell. 2016 May 5; 165(4): 949-962(Yamano))。Cas9と同様に、Cpf1は、2つのローブ、すなわち、REC(認識)ローブおよびNUC(ヌクレアーゼ)ローブを有する。RECローブは、公知のタンパク質構造との類似性を欠くREC1ドメインおよびREC2ドメインを含む。一方、NUCローブは、3つのRuvCドメイン(RuvC-I、RuvC-II、およびRuvC-III)とBHドメインとを含む。ただし、Cas9とは対照的に、Cpf1 RECローブはHNHドメインを欠き、公知のタンパク質構造、すなわち、構造的に独自のPIドメイン、3つのWedge(WED)ドメイン(WED-I、WED-II、およびWED-III)およびヌクレアーゼ(Nuc)ドメインとの類似性も欠く他のドメインを含む。
【0159】
Cas9およびCpf1は構造および機能の類似性を共有しているが、特定のCpf1活性はいずれのCas9ドメインにも類似していない構造ドメインによって媒介されることを理解されたい。例えば、標的DNAの相補鎖の切断は、Cas9のHNHドメインと連続的かつ空間的に異なるNucドメインによって媒介されるように思われる。さらに、Cpf1 gRNAの非ターゲティング部分(ハンドル)は、Cas9 gRNAのリピート:アンチリピート二本鎖によって形成されるステムループ構造ではなく、シュードノット構造を採用する。
【0160】
RNAガイドヌクレアーゼの修飾
上記のRNAガイドヌクレアーゼは、様々な用途に有用であり得る活性および特性を有するが、当業者であれば、RNAガイドヌクレアーゼが、切断活性、PAM特異性、または他の構造的もしくは機能的特徴を改変するために、特定の場合に修飾され得ることを理解するであろう。
【0161】
最初に、切断活性を改変する修飾に目を向けると、NUCローブ内のドメインの活性を低下させるかまたは排除する変異が上記に記載されている。RuvCドメイン、Cas9 HNHドメイン、またはCpf1 Nucドメインに対して行われ得る例示的な変異は、RanおよびYamano、ならびにCotta-Ramusinoに記載されている。通常、2つのヌクレアーゼドメインのうちの1つの活性を低下させるかまたは排除する変異は、ニッカーゼ活性を有するRNAガイドヌクレアーゼを生じるが、ニッカーゼ活性のタイプは、いずれのドメインが不活性化されるかによって異なることに留意されたい。一例として、Cas9のRuvCドメインの不活性化は、相補鎖または上鎖を切断するニッカーゼを生じる。一方、Cas9 HNHドメインを不活性化すると、ニッカーゼが生じ、これにより下鎖または非相補鎖が切断される。
【0162】
天然に存在するCas9参照分子に対するPAM特異性の修飾は、化膿性連鎖球菌(Kleinstiver et al., Nature. 2015 Jul 23; 523(7561): 481-5(Kleinstiver I)および黄色ブドウ球菌(Kleinstiver et al., Nat Biotechnol. 2015 Dec; 33(12): 1293-1298(Klienstiver II))の両方について、Kleinstiverらによって記載されている。Kleinstiverらは、Cas9のターゲティング忠実度を改善する修飾についても記載している(Nature, 2016 January 28; 529, 490-495(Kleinstiver III))。これらの参考文献のそれぞれは、参照により本明細書に組み入れられる。
【0163】
RNAガイドヌクレアーゼは、Zetscheら(参照により組み入れられるNat Biotechnol. 2015 Feb; 33(2): 139-42(Zetsche II))およびFineら(参照により組み入れられるSci Rep. 2015 Jul 1; 5: 10777(Fine))によって記載されているように、2つ以上の部分に分割されている。
【0164】
RNAガイドヌクレアーゼは、特定の態様では、例えば、gRNA会合、標的およびPAM認識、ならびに切断活性をなお保持しながら、ヌクレアーゼのサイズを減少させる1つまたは複数の欠失を介して、サイズ最適化または切断され得る。特定の態様では、RNAガイドヌクレアーゼは、任意でリンカーによって、別のポリペプチド、ヌクレオチド、または他の構造に、共有結合または非共有結合される。例示的な結合したヌクレアーゼおよびリンカーは、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み入れられるGuilinger et al., Nature Biotechnology 32, 577-582(2014)に記載されている。
【0165】
RNAガイドヌクレアーゼはまた、限定されることなく、RNAガイドヌクレアーゼタンパク質の核への移動を容易にするための核局在化シグナルなどのタグを含んでもよい。特定の態様では、RNAガイドヌクレアーゼは、C末端および/またはN末端核局在化シグナルを組み込むことができる。核局在化配列は当技術分野において公知であり、Maederおよび他の箇所に記載されている。
【0166】
前述の修飾の一覧は、本質的に例示的であることが意図されており、当業者であれば、本開示を考慮して、特定の用途では他の修飾が可能であるかまたは望ましい場合があることを理解するであろう。したがって、簡潔にするために、本開示の例示的なシステム、方法、および組成物は、特定のRNAガイドヌクレアーゼを参照して提示されるが、使用されるRNAガイドヌクレアーゼは、それらの機能原理を改変しない方法で修飾され得ることを理解されたい。このような修飾は、本開示の範囲内である。
【0167】
RNAガイドヌクレアーゼをコードする核酸
RNAガイドヌクレアーゼ、例えばCas9、Cpf1、またはそれらの機能的断片をコードする核酸が、本明細書において提供される。RNAガイドヌクレアーゼをコードする例示的な核酸は、以前に記載されている(例えば、Cong 2013; Wang 2013; Mali 2013; Jinek 2012を参照)。
【0168】
場合によっては、RNAガイドヌクレアーゼをコードする核酸は、合成核酸配列であり得る。例えば、合成核酸分子は化学的に修飾され得る。特定の態様では、RNAガイドヌクレアーゼをコードするmRNAは、以下の特性のうちの1つまたは複数(例えば、全部)を有する。それは、キャップされ、ポリアデニル化され、5-メチルシチジンおよび/またはプソイドウリジンによって置換され得る。
【0169】
合成核酸配列はまた、コドン最適化されてよく、例えば、少なくとも1つの非共通コドンまたは少なくとも1つの低頻度コドンが共通コドンによって置換されている。例えば、合成核酸は、例えば、本明細書において記載される哺乳動物発現系内の発現のために最適化された、最適化されたメッセンジャーmRNAの合成を導くことができる。コドン最適化されたCas9コード配列の例は、Cotta-Ramusinoに提示されている。
【0170】
追加でまたは代替として、RNAガイドヌクレアーゼをコードする核酸は、核局在化配列(NLS)を含み得る。核局在化配列は当技術分野において公知である。
【0171】
候補分子の機能分析
候補RNAガイドヌクレアーゼ、gRNA、およびそれらの複合体は、当技術分野において公知の標準的な方法によって評価することができる。例えば、Cotta-Ramusinoを参照されたい。RNP複合体の安定性は、以下に説明するように、示差走査蛍光定量法よって評価されてもよい。
【0172】
示差走査蛍光定量法(DSF)
gRNAおよびRNAガイドヌクレアーゼを含むリボ核タンパク質(RNP)複合体の熱安定性は、DSFを介して測定することができる。DSF技術はタンパク質の熱安定性を測定し、タンパク質の熱安定性は、gRNAなどの結合RNA分子の添加などの好ましい条件下で増大し得る。
【0173】
DSFアッセイは、任意の好適なプロトコルに従って実施することができ、限定されることなく、(a)RNP形成のための最適条件を特定するために異なる条件(例えば、異なる化学量論比のgRNA:RNAガイドヌクレアーゼタンパク質、異なる緩衝液など)を試験すること、および(b)RNP形成または安定性を改善する修飾を特定するためにRNAガイドヌクレアーゼおよび/またはgRNAの修飾(例えば、化学的修飾、配列の改変など)を試験することを含む任意の好適な設定で使用することができる。DSFアッセイの1つの読み出しは、RNP複合体の融解温度のシフトである。相対的に高いシフトは、RNP複合体が比較的低いシフトを特徴とする参照RNP複合体よりも安定であることを示唆する(したがって、参照RNP複合体よりも活性が高いか、有利な形成速度、分解速度または他の機能的特徴を有し得る)。DSFアッセイがスクリーニングツールとして展開される場合、閾値融解温度シフトが指定され得、その結果、出力は、閾値以上の融解温度シフトを有する1つまたは複数のRNPになる。例えば、閾値は、5~10℃(例えば、5°、6°、7°、8°、9°、10°)以上であり得、出力は、閾値以上の融解温度シフトを特徴とする1つまたは複数のRNPであり得る。
【0174】
DSFアッセイ条件の2つの非限定的な例を以下に記載する。
【0175】
RNP複合体を形成するための最良の溶液を決定するために、固定濃度(例えば、2μM)のCas9水溶液+10x SYPRO Orange(登録商標)(Life Technologiesカタログ番号S-6650)を384ウェルプレートに分注する。次いで、様々なpHの溶液中で希釈された等モル量のgRNAと塩とを加える。室温で10分間インキュベートし、短時間遠心分離して気泡を除去した後、Bio-Rad CFX ManagerソフトウェアとともにBio-Rad CFX384(商標)Real-Time System C1000 Touch(商標)サーマルサイクラーを使用して、10秒ごとに温度を1℃上昇させて20℃から90℃への勾配を実行する。
【0176】
第2のアッセイは、上記のアッセイ1からの最適緩衝液中で様々な濃度のgRNAを固定濃度(例えば、2μM)のCas9と混合し、384ウェルプレート内で(例えば、室温で10分間)インキュベートすることからなる。等容積の最適緩衝液+10 x SYPRO Orange(登録商標)(Life Technologiesカタログ番号S-6650)を加え、Microseal(登録商標)B接着剤(MSB-1001)を用いてプレートを密封する。短時間遠心分離して気泡を除去した後、Bio-Rad CFX ManagerソフトウェアとともにBio-Rad CFX384(商標)Real-Time System C1000 Touch(商標)サーマルサイクラーを使用して、10秒ごとに温度を1℃上昇させて20℃から90℃への勾配を実行する。
【0177】
ゲノム編集戦略
上記のゲノム編集システムは、本開示の様々な態様では、細胞内のDNAまたは細胞から得られたDNA(例えば、TGFBR2 DNA)の標的領域に編集を生じさせる(すなわち、改変する)ために使用される。特定の編集を生じさせるための様々な戦略が本明細書において記載されており、これらの戦略は一般に、所望の修復結果、個々の編集(例えば、SSBまたはDSB)の数および位置、ならびにそのような編集の標的部位に関して記載されている。
【0178】
SSBまたはDSBの形成を含むゲノム編集戦略は、(a)標的領域の全部もしくは一部の欠失、(b)標的領域の全部もしくは一部への挿入もしくは置換、または(c)標的領域の全部もしくは一部の中断を含む修復結果を特徴とする。このグループ分けは、いずれかの特定の理論またはモデルを限定するか、それらに拘束されることを意図するものではなく、提示を簡潔にするためにのみ提供される。当業者であれば、列挙された結果が相互に排他的ではなく、いくつかの修復が他の結果をもたらす可能性があることを理解するであろう。特定の編集戦略または編集方法の説明は、別段の指定がない限り、特定の修復結果を必要とすると理解されるべきではない。
【0179】
標的領域の置換は通常、例えば、HDR経路によって媒介される2つの修復結果である遺伝子修正または遺伝子変換を介して、相同配列によって標的領域内の既存の配列の全部または一部を置換することを含む。HDRは、以下にさらに詳細に記載されるように、一本鎖または二本鎖であり得るドナーテンプレートの使用によって促進される。一本鎖または二本鎖のテンプレートは、外因性であってよく、その場合それらは、遺伝子変換を促進するために遺伝子修正を促進し、または内因性(例えば、細胞ゲノム内の相同配列)であってもよい。外因性テンプレートは、例えば、Richardsonら(参照により組み入れられるNature Biotechnology 34, 339-344 (2016), (Richardson))によって記載されるように、非対称オーバーハング(すなわち、DSBの部位に相補的なテンプレートの部分は、ドナーテンプレート内で中心に位置するのではなく、3’または5’方向にオフセットされ得る)を有することができる。テンプレートが一本鎖である場合、テンプレートは標的領域の相補(上)鎖または非相補(下)鎖のいずれかに対応し得る。
【0180】
遺伝子変換および遺伝子修正は、場合によっては、RanおよびCotta-Ramusinoに記載されているように、標的領域内またはその周囲に1つまたは複数のニックを形成することによって促進される。場合によっては、二重ニッカーゼ戦略を使用して、オーバーハング(例えば、5’オーバーハング)を有する単一のDSBを順次形成する2つのオフセットSSBを形成する。
【0181】
様々な修復結果によって、標的配列の全部または一部の中断および/または欠失を実現することができる。一例として、LCA10変異についてMaederに記載されているように、標的領域に隣接する2つ以上のDSBを同時に生成することによって配列を欠失させることができ、次いで、DSBが修復される際にこれを切除する。別の例として、一本鎖オーバーハングを伴う二本鎖切断の形成によって生成される欠失によって配列を中断し、その後、修復前にオーバーハングのエキソヌクレアーゼ処理を続けることができる。
【0182】
標的配列内のインデルの形成によって、標的配列の中断の1つの特定のサブセットが媒介され、修復結果は、典型的には、NHEJ経路(Alt-NHEJを含む)によって媒介される。NHEJはインデル変異とのその関連から「エラーが発生しやすい」修復経路と呼ばれる。ただし、場合によっては、DSBはその周辺の配列を改変することなくNHEJによって修復される(いわゆる「完全」または「無傷」の修復)。これは一般に、DSBの両末端を完全にライゲーションする必要がある。一方、インデルは、ライゲーションされる前の遊離DNA末端の酵素的処理から生じ、これにより、遊離末端の一方または両方の鎖の一方または両方にヌクレオチドを付加するおよび/またはそれらからヌクレオチドを除去すると考えられる。
【0183】
遊離DSB末端の酵素的処理は本質的に確率的であり得るため、インデル変異は可変的であり、分布に沿って生じる傾向があり、特異的標的部位、使用される細胞型、使用されるゲノム編集戦略などを含む様々な因子の影響を受ける可能性がある。それでも、インデル形成に関して限定された一般化を引き出すことは可能である。すなわち、単一のDSBの修復によって形成される欠失は、1~50bpの範囲にあることが最も多いが、100~200bpを超えることもある。単一のDSBの修復によって形成される挿入は短くなる傾向があり、切断部位を直接囲む配列の短い重複を含むことが多い。ただし、大きな挿入を得ることが可能であり、これらの場合、挿入された配列は、ゲノムの他の領域まで、または細胞内に存在するプラスミドDNAまで、トレースされることが多い。
【0184】
インデル変異、およびインデルを生じるように構成されたゲノム編集システムは、例えば、特定の最終配列の生成が必要でない場合、および/またはフレームシフト変異が許容される場合に、標的配列を中断するのに有用である。それらはまた、特定の配列が好ましい状況では、所望の特定の配列が所与の部位でのSSBまたはDSBの修復から優先的に生じる傾向がある限り、有用であり得る。インデル変異は、特定のゲノム編集システムおよびそれらの構成要素の活性を評価またはスクリーニングするための有用なツールでもある。これらおよび他の状況では、インデルは、(a)ゲノム編集システムと接触した細胞のゲノム内のそれらの相対的および絶対的頻度、ならびに(b)未編集配列に対する、例えば、±1、±2、±3などの数値差の分布によって特徴付けられ得る。一例として、リード探索設定では、複数のgRNAをスクリーニングして、制御された条件下でインデル読み出しに基づいて標的部位で切断を最も効率的に促進するgRNAを同定することができる。その後の試験および開発のために、閾値頻度以上のインデルを生じるガイド、またはインデルの特定の分布を生じるガイドを選択することができる。インデルの頻度および分布は、例えば、gRNAを一定に維持し、特定の他の反応条件または送達方法を変化させることによって、様々なゲノム編集システムの実装または製剤および送達方法を評価するための読み出しとしても有用であり得る。
【0185】
多重化戦略
上記で説明された例示的な戦略は、単一のDSBによって媒介される修復結果に焦点を合わせてきたが、本開示によるゲノム編集システムは、同じ遺伝子座または異なる遺伝子座のいずれかに2つ以上のDSBを生成するためにも使用され得る。複数のDSBまたはSSBの形成を伴う編集のための戦略は、例えば、Cotta-Ramusinoに記載されている。
【0186】
ドナーテンプレート設計
ドナーテンプレート設計については、Cotta-Ramusinoなどの文献に詳しく記載されている。一本鎖(ssODN)または二本鎖(dsODN)であり得るDNAオリゴマードナーテンプレート(オリゴデオキシヌクレオチドすなわちODN)は、DSBのHDRに基づく修復を促進するために使用することができ、標的DNA配列への改変の導入、標的配列への新規配列の挿入、または標的配列全体の置換に特に有用である。
【0187】
一本鎖であろうと二本鎖であろうと、ドナーテンプレートは通常、切断される標的配列内またはその近く(例えば、隣接しているか接している)のDNAの領域と相同な領域を含む。これらの相同領域は、ここでは「ホモロジーアーム」と呼ばれ、以下に概略的に示されている。
[5’ホモロジーアーム]-[置換配列]-[3’ホモロジーアーム]。
【0188】
ホモロジーアームは、任意の好適な長さ(1つのホモロジーアームのみが使用される場合は0ヌクレオチドを含む)を有することができ、3’および5’ホモロジーアームは、同じ長さを有し得るか、長さが異なってもよい。適切なホモロジーアーム長の選択は、Alu反復または他の非常に一般的な要素などの特定の配列とのホモロジーまたはマイクロホモロジーを回避したいという要望などの様々な因子の影響を受け得る。例えば、5’ホモロジーアームを短縮して、配列反復要素を回避することができる。他の態様では、3’ホモロジーアームを短縮して、配列反復要素を回避することができる。いくつかの態様では、5’および3’ホモロジーアームの両方を短縮して、特定の配列反復要素の包含を回避することができる。さらに、いくつかのホモロジーアーム設計は、編集の効率を改善するか、所望の修復結果の頻度を増加させることができる。例えば、参照により組み入れられるRichardson et al. Nature Biotechnology 34, 339-344(2016)(Richardson)は、一本鎖ドナーテンプレートの3’および5’ホモロジーアームの相対的非対称性が、修復速度および/または修復結果に影響を及ぼすことを見出した。
【0189】
ドナーテンプレートの置換配列は、Cotta-Ramusinoらを含む他の箇所に記載されている。置換配列は、任意の好適な長さ(所望の修復結果が欠失である場合、0ヌクレオチドを含む)であり得、典型的には、編集が望まれる細胞内の天然に存在する配列に対して1、2、3またはそれ以上の配列修飾を含む。1つの一般的な配列修飾には、治療が望まれる疾患または状態に関連する変異を修復するための天然に存在する配列の改変が含まれる。別の一般的な配列修飾には、置換配列が標的部位に組み込まれた後の標的部位の反復切断を低減するか排除するために、RNAガイドヌクレアーゼのPAM配列に、またはSSBもしくはDSBを生成するために使用されるgRNAのターゲティングドメインに相補的であるか、それらをコードする1つまたは複数の配列の改変が含まれる。
【0190】
線形ssODNを使用する場合、それは、(i)標的核酸のニックされた鎖にアニーリングし、(ii)標的核酸の無傷の鎖にアニーリングし、(iii)標的核酸のプラス鎖にアニーリングし、および/または(iv)標的核酸のマイナス鎖にアニーリングするように構成することができる。ssODNは、任意の好適な長さ、例えば、約、少なくとも、または150~200ヌクレオチド以下(例えば、150、160、170、180、190または200ヌクレオチド)を有し得る。
【0191】
テンプレート核酸はまた、ウイルスゲノムまたは環状二本鎖DNA、例えばプラスミドなどの核酸ベクターであり得ることに留意されたい。ドナーテンプレートを含む核酸ベクターは、他のコード要素または非コード要素を含み得る。例えば、テンプレート核酸は、特定のゲノム骨格要素(例えば、AAVゲノムの場合、逆方向末端反復)を含み、gRNAおよび/またはRNAガイドヌクレアーゼをコードする追加の配列を任意で含むウイルスゲノム(例えば、AAVまたはレンチウイルスのゲノム)の一部として送達され得る。特定の態様では、ドナーテンプレートは、1つまたは複数のgRNAによって認識される標的部位に隣接して、同じgRNAを使用して細胞DNA内に形成された対応するSSBまたはDSBの修復に関与し得るドナーテンプレートの一方または両方の末端上の遊離DSBの形成を促進し得る。ドナーテンプレートとして使用するのに適した例示的な核酸ベクターは、Cotta-Ramusinoに記載されている。
【0192】
いずれのフォーマットを使用しても、望ましくない配列を回避するようにテンプレート核酸を設計することができる。特定の態様では、一方または両方のホモロジーアームを短縮して、特定の配列反復要素、例えば、Alu反復、LINE要素などとの重複を回避することができる。
【0193】
標的細胞
本開示によるゲノム編集システムは、細胞を操作または改変するために、例えば、標的核酸を編集または改変するために使用することができる。操作は、様々な態様では、インビボまたはエクスビボで生じ得る。
【0194】
本開示の態様に従って様々な細胞型を操作または改変することができ、インビボ適用などの場合によっては、例えば、複数の細胞型に本開示によるゲノム編集システムを送達することによって、複数の細胞型が改変または操作される。ただし、他の場合には、操作または改変を単数または複数の特定の細胞型に限定することが望ましい場合がある。例えば、遺伝子型の修飾が細胞表現型の変化をもたらすことが予測されるMaederの場合の光受容体細胞など、限定された分化能を有する細胞、または最終分化細胞を編集することが、いくつかの例では望ましい場合がある。ただし、他の場合には、分化度の低い、多能性の幹細胞または前駆細胞を編集することが望ましい場合がある。例として、細胞は、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)、造血幹/前駆細胞(HSPC)、または所定の用途もしくは適応症に関連する細胞型に分化する他の幹細胞もしくは前駆細胞型であり得る。特定の態様では、細胞はT細胞である。
【0195】
当然の帰結として、改変または操作される細胞は、標的とされる細胞型および/または所望の編集結果に応じて、様々に、分裂細胞または非分裂細胞である。
【0196】
細胞をエクスビボで操作または改変すると、細胞を直ちに使用する(例えば、対象に投与する)ことができ、または細胞を後で使用するために維持もしくは保存することができる。当業者であれば、細胞が、当技術分野において公知の任意の好適な方法を使用して、培養で維持するか、または保存(例えば、液体窒素中で凍結)することができることを理解するであろう。
【0197】
ゲノム編集システムの実装:送達、製剤、および投与経路
上記で説明したように、本開示のゲノム編集システムは、任意の好適な方法で実装することができ、これは、ゲノム編集システムの形質導入、発現、もしくは導入をもたらす、および/または細胞、組織、もしくは対象に所望の修復結果を引き起こす任意の好適な形態もしくは形態の組合せで、限定されることなく、RNAガイドヌクレアーゼ、gRNAおよび任意でドナーテンプレート核酸を含む、そのようなシステムの構成要素を送達、製剤化、または投与することができることを意味する。表3および表4は、ゲノム編集システム実装のいくつかの非限定的な例を記載している。ただし、当業者であれば、これらの列挙が包括的ではなく、他の実装が可能であることを理解するであろう。特に表3を参照すると、表には、シングルgRNAと任意でドナーテンプレートとを含むゲノム編集システムのいくつかの例示的な実装が列挙されている。ただし、本開示によるゲノム編集システムは、複数のgRNA、複数のRNAガイドヌクレアーゼ、およびタンパク質などの他の構成要素を組み込むことができ、表に示されている原理に基づいて、当業者には様々な実装が明らかであろう。表中では、[N/A]は、ゲノム編集システムが示された構成要素を含まないことを示している。
【0198】
(表6)
【0199】
表7では、本明細書において記載されるゲノム編集システムの構成要素の様々な送達方法を要約する。この場合も、列挙は限定ではなく例示を意図している。
【0200】
(表7)
【0201】
ゲノム編集システムの核酸に基づく送達
本開示によるゲノム編集システムの様々な要素をコードする核酸は、当技術分野において公知の方法によって、または本明細書において記載されるように、対象に投与するか、細胞に送達することができる。例えば、RNAガイドヌクレアーゼをコードするDNAおよび/またはgRNAをコードするDNA、ならびにドナーテンプレート核酸は、例えば、ベクター(例えば、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクター)、非ベクターに基づく方法(例えば、裸のDNAまたはDNA複合体を使用して)、またはそれらの組合せによって送達することができる。
【0202】
ゲノム編集システムの要素をコードする核酸は、1、2、3、4またはそれ以上のgRNAをコードする配列を含むことができる。例えば、核酸は、第1および第2の両方のgRNA分子をコードすることができ、例えば、第2のgRNAは、TGFBR2遺伝子の第2の標的配列に相補的な第2のターゲティングドメインを有する。本明細書において開示される核酸は、TGFBR2遺伝子の第3の標的配列に相補的な第3のターゲティングドメインを有する第3のgRNA分子をコードするヌクレオチド配列をさらに含むことができる。本明細書において開示される核酸組成物は、TGFBR2遺伝子の第4の標的配列に相補的な第4のターゲティングドメインを有する、本明細書において記載される第4のgRNA分子をコードするヌクレオチド配列をさらに含むことができる。特定の態様では、第2、第3および/または第4のgRNA分子は、SEQ ID NO:5036~5096から選択されるヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む。
【0203】
ゲノム編集システムまたはその構成要素をコードする核酸は、例えばトランスフェクションもしくはエレクトロポレーションによって、裸のDNAもしくはRNAとして細胞に直接送達することができ、または標的細胞による取り込みを促進する分子(例えば、N-アセチルガラクトサミン)(例えば、赤血球、HSC)に結合させることができる。表4に要約したベクターなどの核酸ベクターも使用することができる。
【0204】
核酸ベクターは、ゲノム編集システム構成要素、例えば、RNAガイドヌクレアーゼ、gRNAおよび/またはドナーテンプレートをコードする1つまたは複数の配列を含むことができる。ベクターはまた、タンパク質をコードする配列に関連する(例えば、それに挿入または融合される)シグナルペプチド(例えば、核局在化、核小体局在またはミトコンドリア局在のための)をコードする配列を含むことができる。一例として、核酸ベクターは、1つまたは複数の核局在化配列(例えば、SV40からの核局在化配列)を含むCas9コード配列を含むことができる。
【0205】
核酸ベクターはまた、プロモーター、エンハンサー、イントロン、ポリアデニル化シグナル、コザックコンセンサス配列または配列内リボソーム進入部位(IRES)など、任意の好適な数の調節/制御要素を含むことができる。これらの要素は、当技術分野において周知であり、Cotta-Ramusinoに記載されている。
【0206】
本開示による核酸ベクターには、組換えウイルスベクターが含まれる。例示的なウイルスベクターを表7に記載し、追加の好適なウイルスベクターならびにそれらの使用および生成については、Cotta-Ramusinoに記載されている。特定の態様では、ベクターは、ウイルスベクター、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルス(LV)ベクターである。当技術分野において公知の他のウイルスベクターも使用することができる。さらに、ウイルス粒子を使用して、ゲノム編集システム構成要素を核酸および/またはペプチドの形態で送達することができる。例えば、「空の」ウイルス粒子は、任意の好適なカーゴを含むように組み立てることができる。ウイルスベクターおよびウイルス粒子はまた、ターゲティングリガンドを組み込んで標的組織特異性を改変するように操作することができる。
【0207】
ウイルスベクターに加えて、非ウイルスベクターを使用して、本開示によるゲノム編集システムをコードする核酸を送達することができる。非ウイルス核酸ベクターの1つの重要なカテゴリーは、有機または無機であり得るナノ粒子である。ナノ粒子は、当技術分野において周知であり、Cotta-Ramusinoに要約されている。任意の好適なナノ粒子設計を使用して、ゲノム編集システム構成要素、またはそのような構成要素をコードする核酸を送達することができる。例えば、有機(例えば、脂質および/またはポリマー)ナノ粒子は、本開示の特定の態様では送達ビヒクルとして使用するのに好適であり得る。ナノ粒子製剤および/または遺伝子導入に使用するための例示的な脂質を表8に示し、表9では遺伝子導入および/またはナノ粒子製剤に使用するための例示的なポリマーを列挙する。
【0208】
(表8)遺伝子導入に使用される脂質
【0209】
(表9)遺伝子導入に使用されるポリマー
【0210】
非ウイルスベクターは、取り込みを改善し、および/または特定の細胞型を選択的に標的とするためのターゲティング修飾を任意で含む。これらのターゲティング修飾には、例えば、細胞特異的抗原、モノクローナル抗体、一本鎖抗体、アプタマー、ポリマー、糖(例えば、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc))および細胞透過性ペプチドが含まれ得る。そのようなベクターはまた、融合性およびエンドソーム不安定化ペプチド/ポリマーを任意で使用し、酸によって引き起こされる立体構造変化を起こし(例えば、カーゴのエンドソーム脱出を加速するため)、および/または例えば細胞区画内の放出のために刺激切断可能ポリマーを組み込む。例えば、還元性細胞環境で切断されるジスルフィドベースのカチオン性ポリマーを使用することができる。
【0211】
特定の態様では、ゲノム編集システムの構成要素、例えば、本明細書において記載されるRNAガイドヌクレアーゼ構成要素および/またはgRNA構成要素以外の1つまたは複数の核酸分子(例えば、DNA分子)が送達される。特定の態様では、核酸分子は、ゲノム編集システムの構成要素のうちの1つまたは複数と同時に送達される。特定の態様では、核酸分子は、ゲノム編集システムの構成要素のうちの1つまたは複数が送達される前または後に送達される(例えば、約30分未満、約1時間未満、約2時間未満、約3時間未満、約6時間未満、約9時間未満、約12時間未満、約1日未満、約2日未満、約3日未満、約1週間未満、約2週間未満または約4週間未満)。特定の態様では、核酸分子は、ゲノム編集システムの構成要素のうちの1つまたは複数、例えば、RNAガイドヌクレアーゼ構成要素および/またはgRNA構成要素が送達されるのとは異なる手段によって送達される。核酸分子は、本明細書において記載される送達方法のいずれかによって送達することができる。例えば、核酸分子は、ウイルスベクター、例えば、組込み欠損レンチウイルスによって送達され得、RNAガイドヌクレアーゼ分子構成要素および/またはgRNA構成要素は、例えば、核酸(例えば、DNA)によって引き起こされる毒性が低下し得るように、エレクトロポレーションによって送達され得る。特定の態様では、核酸分子は、治療用タンパク質、例えば、本明細書において記載されるタンパク質をコードする。特定の態様では、核酸分子は、RNA分子、例えば、本明細書において記載されるRNA分子をコードする。
【0212】
RNPおよび/またはゲノム編集システム構成要素をコードするRNAの送達
RNP(gRNAとRNAガイドヌクレアーゼとの複合体、すなわち、リボ核タンパク質複合体)および/またはRNAガイドヌクレアーゼおよびgRNAをコードするRNAは、当技術分野において公知の方法によって細胞内に送達されるか、または対象に投与されてよく、そのいくつかはCotta-Ramusinoに記載されている。インビトロでは、RNAガイドヌクレアーゼをコードするRNAおよび/またはgRNAをコードするRNAは、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、一過性細胞圧縮、またはスクイージングによって送達され得る(例えば、Lee 2012を参照)。脂質を介したトランスフェクション、ペプチドを介した送達、GalNAcまたは他のコンジュゲートを介した送達、およびそれらの組合せもまた、インビトロおよびインビボでの送達に使用することができる。
【0213】
インビトロでは、エレクトロポレーションを介した送達は、ドナーテンプレート核酸分子の有無にかかわらず、カートリッジ、チャンバー、またはキュベット内で、細胞と、RNAガイドヌクレアーゼおよび/またはgRNAをコードするRNAとを混合し、規定された持続時間および振幅の1つまたは複数の電気インパルスを印加することを含む。エレクトロポレーションのためのシステムおよびプロトコルは当技術分野において公知であり、本開示の様々な態様と関連して任意の好適なエレクトロポレーションツールおよび/またはプロトコルを使用することができる。
【0214】
特定の態様では、例えば、RNP薬学的組成物を含む、本開示のRNP複合体は、(1)T細胞増殖を改善する、(2)T細胞生存を改善する、および/または(3)T細胞機能を改善するために使用することができる。例えば、限定されることなく、別個のgRNAを含む2つ以上のRNP複合体を同時にまたは順次使用して、細胞、例えば、T細胞内のTGFBR2遺伝子発現を改変することができる。そのようなRNP複合体は、別個のTGFBR2遺伝子配列を標的とする別個のgRNAを含むことができる。RNP複合体は、特定の例では、切断事象、例えば、二本鎖切断または一本鎖切断を誘発し得る。例えば、RNP複合体は、標的核酸内で二本鎖切断を形成する酵素的に活性なCas9(eaCas9)分子、または標的核酸内で一本鎖切断を形成するeaCas9分子(例えば、ニッカーゼ分子)を含むことができる。特定の態様では、二重ニッカーゼRNP戦略を使用して、2つのオフセット一本鎖切断を形成し、ひいては、オーバーハング(例えば、5’オーバーハング)を有する単一の二本鎖切断を形成することができる。
【0215】
投与経路
ゲノム編集システム、またはそのようなシステムを使用して改変もしくは操作された細胞は、局所的または全身的のいずれかの好適な様式または経路によって、対象に投与することができる。全身投与様式には、経口経路および非経口経路が含まれる。非経口経路には、例として、静脈内経路、骨髄内経路、動脈内経路、筋肉内経路、皮内経路、皮下経路、鼻腔内経路、および腹腔内経路が含まれる。全身投与される構成要素は、例えば、HSC、造血幹/前駆細胞、または赤血球前駆細胞を標的とするように、修飾または製剤化することができる。
【0216】
局所投与様式には、例として、小柱骨への骨髄内注射、または骨髄空間への大腿骨内注射、および門脈への注入が含まれる。特定の態様では、全身(例えば、静脈内)投与される場合と比較して、局所(例えば、骨髄に直接)投与された場合に、(全身的アプローチと比較して)著しく少ない量の構成要素が効果を発揮することができる。局所投与様式は、治療有効量の構成要素が全身投与される場合に生じる可能性のある毒性副作用の発生を、低減または排除することができる。
【0217】
投与は、周期的ボーラス(例えば、静脈内)として、または内部リザーバーからもしくは外部リザーバーから(例えば、静脈内バッグまたは埋め込み型ポンプから)の連続注入として、提供することができる。構成要素は、例えば、徐放性薬物送達装置からの連続的な放出によって局所投与することができる。
【0218】
さらに、構成要素は、長期間にわたる放出を可能にするように製剤化することができる。放出システムは、生分解性材料のマトリックス、または組み込まれた構成要素を拡散によって放出する材料のマトリックスを含むことができる。構成要素は、放出システム内で均一または不均一に分布することができる。様々な放出システムが有用であり得るが、適切なシステムの選択は、特定の用途によって必要とされる放出速度に依存する。非分解性および分解性の両方の放出システムを使用することができる。好適な放出システムには、ポリマーおよびポリマーマトリックス、非ポリマーマトリックス、または無機および有機の賦形剤および希釈剤、例えば、限定されることなく、炭酸カルシウムおよび糖(例えば、トレハロース)が含まれる。放出システムは、天然または合成であり得る。ただし、合成放出システムの方が、一般に信頼性が高く、再現性が高く、明確性の高い放出プロファイルをもたらすため、好ましい。放出システムの材料は、様々な分子量を有する構成要素が、材料を通した拡散、または材料の分解によって放出されるように選択することができる。
【0219】
代表的な合成生分解性ポリマーには、例えば、ポリ(アミノ酸)およびポリ(ペプチド)などのポリアミド;ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、およびポリ(カプロラクトン)などのポリエステル;ポリ(無水物);ポリオルトエステル;ポリカーボネート;ならびにそれらの化学誘導体(化学基、例えば、アルキル、アルキレンの置換、付加、ヒドロキシル化、酸化、および当業者により常用的に実施される他の修飾)、それらのコポリマーおよび混合物が含まれる。代表的な合成非分解性ポリマーには、例えば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)およびポリ(テトラメチレンオキシド)などのポリエーテル;メチル、エチル、他のアルキル、ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリル酸およびメタクリル酸などのビニルポリマー-ポリアクリレートおよびポリメタクリレート、およびポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)およびポリ(酢酸ビニル)などの他のもの;ポリ(ウレタン);アルキル、ヒドロキシアルキル、エーテル、エステル、ニトロセルロースおよび様々な酢酸セルロースなどのセルロースおよびその誘導体;ポリシロキサン;ならびにそれらの任意の化学誘導体(化学基、例えば、アルキル、アルキレンの置換、付加、ヒドロキシル化、酸化、および当業者により常用的に実施される他の修飾)、それらのコポリマーおよび混合物が含まれる。
【0220】
ポリ(ラクチド-co-グリコリド)ミクロスフェアも使用することができる。典型的には、ミクロスフェアは乳酸とグリコール酸とのポリマーから構成され、中空の球体を形成するように構造化されている。球体は、直径が約15~30ミクロンであってよく、本明細書において記載される構成要素を添加することができる。
【0221】
構成要素の多様式または差次的送達
当業者であれば、本開示を考慮して、本明細書において開示されるゲノム編集システムの様々な構成要素が一緒にまたは別個に、および同時にまたは非同時に送達され得ることを理解するであろう。ゲノム編集システム構成要素の別個および/または非同期送達は、ゲノム編集システムの機能に対する時間的または空間的制御を提供し、それらの活性によって引き起こされる特定の作用を制限するために、特に望ましい場合がある。
【0222】
本明細書において使用される異なる様式または差次的様式とは、対象構成要素分子、例えば、RNAガイドヌクレアーゼ分子、gRNA、テンプレート核酸またはペイロードに、異なる薬力学的特性または薬物動態学的特性を付与する送達様式を指す。例えば、送達様式は、例えば、選択された区画、組織または器官に、異なる組織分布、異なる半減期または異なる時間的分布をもたらすことができる。
【0223】
いくつかの送達様式、例えば、細胞内、または細胞の子孫内で持続する核酸ベクターによる送達、例えば自律複製、または細胞核酸への挿入による送達は、構成要素の発現および構成要素の存在の持続性を高める。例には、ウイルス、例えば、AAVまたはレンチウイルスによる送達が挙げられる。
【0224】
一例として、身体または特定の区画、組織、もしくは器官での送達された構成要素の結果として得られる半減期または持続性に関して異なる様式によって、ゲノム編集システムの構成要素、例えば、RNAガイドヌクレアーゼおよびgRNAを送達することができる。特定の態様では、gRNAは、そのような様式によって送達することができる。RNAガイドヌクレアーゼ分子構成要素は、身体または特定の区画もしくは組織もしくは器官への持続性が低いかまたは曝露が少ない様式によって送達することができる。
【0225】
さらに一般的には、特定の態様では、第1の送達様式を使用して第1の構成要素を送達し、第2の送達様式を使用して第2の構成要素を送達する。第1の送達様式は、第1の薬力学的特性または薬物動態学的特性を付与する。第1の薬力学的特性は、例えば、身体、区画、組織、または器官内の構成要素、または構成要素をコードする核酸の分布、持続性、または曝露であり得る。第2の送達様式は、第2の薬力学的特性または薬物動態学的特性を付与する。第2の薬力学的特性は、例えば、身体、区画、組織、または器官内の構成要素、または構成要素をコードする核酸の分布、持続性、または曝露であり得る。
【0226】
特定の態様では、第1の薬力学的特性または薬物動態学的特性、例えば、分布、持続性、または曝露は、第2の薬力学的特性または薬物動態学的特性よりも制限される。
【0227】
特定の態様では、第1の送達様式は、薬力学的特性または薬物動態学的特性、例えば、分布、持続性、または曝露を最適化する、例えば、最小化するように選択される。
【0228】
特定の態様では、第2の送達様式は、薬力学的特性または薬物動態学的特性、例えば、分布、持続性、または曝露を最適化する、例えば、最大化するように選択される。
【0229】
特定の態様では、第1の送達様式は、比較的持続的な要素、例えば、核酸、例えば、プラスミドまたはウイルスベクター、例えば、AAVまたはレンチウイルスの使用を含む。そのようなベクターは比較的持続的であるため、それらから転写された産物も比較的持続的となる。
【0230】
特定の態様では、第2の送達様式は、比較的一過性の要素、例えば、RNAまたはタンパク質を含む。
【0231】
特定の態様では、第1の構成要素はgRNAを含み、送達様式は比較的持続的であり、例えば、gRNAは、プラスミドまたはウイルスベクター、例えば、AAVまたはレンチウイルスから転写される。これらの遺伝子の転写は、遺伝子がタンパク質産物をコードしておらず、gRNAは単独では作用することができないため、生理学的な影響はほとんどない。第2の構成要素であるRNAガイドヌクレアーゼ分子は、例えば、mRNAまたはタンパク質として一過性に送達され、完全なRNAガイドヌクレアーゼ分子/gRNA複合体が、短い期間だけ存在し、活性であることを確実にする。
【0232】
さらに、構成要素は、様々な分子形態で、または互いに補完する様々な送達ベクターを用いて送達して、安全性および組織特異性を高めることができる。
【0233】
差次的送達様式を使用すると、性能、安全性、および/または効果を高めることができ、例えば、最終的なオフターゲット修飾の可能性を低減することができる。細菌由来のCas酵素由来のペプチドはMHC分子によって細胞表面に提示されるため、免疫原性構成要素、例えばCas9分子を持続性の低い様式で送達すると、免疫原性が低下する可能性がある。二部送達システムは、これらの欠点を軽減することができる。
【0234】
差次的送達様式を使用して、異なるが重複する標的領域に構成要素を送達することができる。形成活性複合体は、標的領域の重複の外側で最小化される。したがって、特定の態様では、第1の構成要素、例えばgRNAは、第1の空間的、例えば組織分布をもたらす第1の送達様式によって送達される。第2の構成要素、例えばRNAガイドヌクレアーゼ分子は、第2の空間的、例えば組織分布をもたらす第2の送達様式によって送達される。特定の態様では、第1の様式は、リポソーム、ナノ粒子、例えばポリマーナノ粒子、および核酸、例えばウイルスベクターから選択される第1の要素を含む。第2の様式は、上記の群から選択される第2の要素を含む。特定の態様では、第1の送達様式は、第1のターゲティング要素、例えば細胞特異的受容体または抗体を含み、第2の送達様式はその要素を含まない。特定の態様では、第2の送達様式は、第2のターゲティング要素、例えば、第2の細胞特異的受容体または第2の抗体を含む。
【0235】
RNAガイドヌクレアーゼ分子が、ウイルス送達ベクター、リポソーム、またはポリマーナノ粒子で送達される場合、単一の組織のみを標的とすることが望ましいと考えられる際に、複数の組織に送達され、複数の組織に治療活性が生じる可能性がある。二部送達システムは、この課題を解決し、組織特異性を高めることができる。gRNAおよびRNAガイドヌクレアーゼ分子が、別個であるが重複する組織屈性を有する分離された送達ビヒクル内にパッケージ化される場合、両ベクターによって標的とされる組織内には、完全に機能性の複合体のみが形成される。
【0236】
遺伝子操作された細胞、および組換え受容体を発現する細胞の作製方法
養子免疫療法などの養子細胞療法のための細胞、および細胞を作製または生成するための方法が本明細書において提供される。細胞には、T細胞などの免疫細胞が含まれる。細胞は通常、1つまたは複数の遺伝子操作された核酸またはその産物を導入することによって操作される。そのような産物の中には、遺伝子操作されたT細胞受容体(TCR)を含む遺伝子操作された抗原受容体、および機能性非TCR抗原受容体、例えば、活性化、刺激性、および共刺激性CARを含むキメラ抗原受容体(CAR)、ならびにそれらの組合せがある。いくつかの態様では、細胞はまた、遺伝子操作された抗原受容体をコードする核酸とともに、TGFBR2をコードする遺伝子を破壊することができる作用物質(例えば、Cas9/gRNA RNP)とともに、同時にまたは順次導入される。
【0237】
いくつかの態様では、細胞(例えば、T細胞)は、組換え受容体をコードする核酸分子および/または作用物質(例えば、Cas9/gRNA RNP)を導入する前、最中、および/または後にインキュベートまたは培養することができる。いくつかの態様では、細胞(例えば、T細胞)は、組換え受容体をコードする核酸分子の導入の前、最中、または後に、例えば、組換え受容体をコードするウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)を細胞に形質導入する前、最中、または後に、インキュベートまたは培養することができる。いくつかの実施形態では、細胞(例えば、T細胞)は、細胞と作用物質との接触前、最中または後、あるいは例えば電気穿孔を通じた細胞への作用物質送達の前、最中または後などの、作用物質(例えば、Cas9/gRNA RNP)の導入前、最中または後に、インキュベートまたは培養され得る。いくつかの実施形態では、インキュベーションは、組換え受容体をコードする核酸分子を導入し、例えばCas9/gRNA RNPなどの作用物質を導入する状況の双方であり得る。いくつかの実施形態では、インキュベーションは、IL-2、IL-7またはIL-15などのサイトカインの存在下、または抗CD3/抗CD28抗体などの細胞の増殖または活性化を誘導する刺激剤または活性化剤の存在下であり得る。
【0238】
いくつかの実施形態では、方法は、組換え受容体をコードする核酸分子と、例えばCas9/gRNA RNPなどの作用物質とを導入する前に、細胞を刺激剤または活性化剤(例えば、抗CD3/抗CD28抗体)で活性化または刺激することを含む。いくつかの実施形態では、インキュベーションはまた、IL-2(例えば1U/mL~500U/mL、10U/mL~200U/mLなど、例えば少なくとも50U/mLもしくは少なくとも100U/mL、または約50U/mLもしくは約100U/mL)、IL-7(例えば0.5ng/mL~50ng/mL、1ng/mL~20ng/mLなど、例えば少なくとも5ng/mLもしくは少なくとも10ng/mL、または約5ng/mLもしくは約10ng/mL)またはIL-15(例えば0.1ng/mL~50ng/mL、0.5ng/mL~25ng/mLなど、例えば少なくとも1ng/mLもしくは少なくとも5ng/mL、または約1ng/mLもしくは約5ng/mL)などのサイトカインの存在下でも実施され得る。いくつかの実施形態では、(例えば、形質導入を通じて)組換え受容体をコードする核酸分子を導入する前に、細胞は、24~48時間または24~36時間などの、6時間~96時間にわたってインキュベートされる。
【0239】
遺伝子操作のための細胞および細胞調製
TGFBR2ポリペプチドをコードするTGFBR2遺伝子の遺伝子編集のための特異的抗原および作用物質(例えば、Cas9/gRNA RNP)に結合する組換え受容体は、多種多様な細胞に導入され得る。いくつかの実施形態では、組換え受容体が操作されおよび/またはTGFBR2標的遺伝子がエクスビボで操作され、得られた遺伝子操作された細胞が対象に投与される。エクスビボ操作のための標的細胞の起源としては、例えば、対象の血液、対象の臍帯血、または対象の骨髄が挙げられる。エクスビボ操作のための標的細胞の起源としては、例えば、異種供与者血液、臍帯血、または骨髄もまた挙げられる。
【0240】
いくつかの実施形態では、例えば操作された細胞などの細胞は、例えばヒト細胞などの哺乳類細胞のような真核細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、血液、骨髄、リンパ液、またはリンパ器官に由来し、例えばリンパ球をはじめとする骨髄性またはリンパ系細胞などの先天または適応免疫細胞などの免疫系細胞であり、典型的にT細胞および/またはNK細胞である。その他の例示的細胞としては、人工多能性幹細胞(iPSC)をはじめとする、多能性および多能性幹細胞などの幹細胞が挙げられる。いくつかの態様では、細胞はヒト細胞である。治療される対象に関して、細胞は、同種異系および/または自己由来であってもよい。細胞は、典型的には、対象から直接単離されたもの、および/または対象から単離され凍結されたものなどの初代細胞である。
【0241】
いくつかの実施形態では、標的細胞は、例えば、CD8+T細胞(例えば、CD8+未感作T細胞、セントラルメモリーT細胞、またはエフェクターメモリーT細胞)、CD4+T細胞、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、制御性T細胞(Treg)、幹細胞メモリーT細胞、リンパ系前駆細胞、造血幹細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)または樹状細胞などのT細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、骨髄性細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞、肥満細胞、好酸球、および/または好塩基球などの単球または顆粒球である。一実施形態では、標的細胞は、例えば、対象から生成され、操作されて改変された(例えば、変異誘導された)、または1つまたは複数の標的遺伝子の発現が操作されて、例えば、CD8+T細胞(例えば、CD8+未感作T細胞、セントラルメモリーT細胞、またはエフェクターメモリーT細胞)、CD4+T細胞、幹細胞メモリーT細胞などのT細胞、リンパ系前駆細胞または造血幹細胞に分化した、人工多能性幹(iPS)細胞などの、iPS細胞、またはiPS細胞に由来する細胞である。
【0242】
いくつかの実施形態では、細胞は、全T細胞集団、CD4+細胞、CD8+細胞などの、そして機能、活性化状態、成熟度、分化可能性、拡張、再循環、局在化、および/または持続能力、抗原特異性、抗原受容体のタイプ、特定の臓器またはコンパートメント中の存在、マーカーまたはサイトカイン分泌プロファイル、および/または分化度によって定義されるその亜集団などの、T細胞またはその他の細胞型の1つまたは複数のサブセットを含む。
【0243】
T細胞のおよび/またはCD4+および/またはCD8+T細胞の亜型および亜集団としては、未感作T(TN)細胞;エフェクターT細胞(TEFF);メモリーT細胞、および幹細胞メモリーT(TSCM)、セントラルメモリーT(TCM)、エフェクターメモリーT(TEM)、または最終分化エフェクターメモリーT細胞などのその亜型;腫瘍細胞浸潤性リンパ球(TIL);未熟T細胞;成熟T細胞;ヘルパーT細胞;細胞傷害性T細胞;粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞、天然および適応型調節性T(Treg)細胞;TH1細胞、TH2細胞、TH3細胞、TH17細胞、TH9細胞、TH22細胞、濾胞性ヘルパーT細胞などのヘルパーT細胞;α/βT細胞、およびδ/γT細胞が挙げられる。
【0244】
いくつかの実施形態では、方法は、対象から細胞を単離し、それらを調製、処理、培養、および/または操作することを含む。いくつかの実施形態では、操作された細胞の調製は、1つまたは複数の培養および/または調製工程を含む。記載されるような操作のための細胞は、例えば、対象から得られ、またはそれに由来する、生物学的サンプルなどのサンプルから単離されてもよい。いくつかの実施形態では、細胞がそれから単離される対象は、疾患または病状を有する、または細胞療法を必要とする、またはそれに対して細胞療法が投与される、対象である。いくつかの実施形態における対象は、そのために細胞が単離され、処理され、および/または操作される養子細胞療法などの特定の治療的介入を必要とするヒトである。
【0245】
したがって、いくつかの実施形態における細胞は、例えば初代ヒト細胞などの初代細胞である。サンプルとしては、対象から直接採取された、組織、体液、およびその他のサンプル、ならびに分離、遠心分離、遺伝子操作(例えば、ウイルスベクターによる形質導入)、洗浄、および/またはインキュベーションなどの1つまたは複数の処理工程から得られたサンプルが挙げられる。生物学的サンプルは、生物学的起源から直接得られたサンプル、または処理されたサンプルであり得る。生物学的サンプルとしては、それに由来する処理されたサンプルを含めた、血液、血漿、血清、脳脊髄液、滑液、尿、および汗などの体液や、組織および臓器サンプルが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0246】
いくつかの態様では、細胞がそれに由来するまたはそれから単離されるサンプルは、血液であるかもしくは血液由来サンプルであるか、またはアフェレーシスもしくは白血球除去生成物に由来する。例示的サンプルとしては、全血、末梢血単核細胞(PBMC)、白血球、骨髄、胸腺、組織生検、腫瘍、白血病、リンパ腫、リンパ節、腸関連リンパ系組織、粘膜関連リンパ系組織、脾臓、その他のリンパ系組織、肝臓、肺、胃、腸管、結腸、腎臓、膵臓、乳房、骨、前立腺、子宮頸部、精巣、卵巣、扁桃、またはその他の臓器、および/またはそれに由来する細胞が挙げられる。サンプルには、例えば養子細胞療法などの細胞療法の文脈で、自己由来および同種異系起源のサンプルが含まれる。
【0247】
いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、T細胞株などの細胞株に由来する。いくつかの実施形態における細胞は、例えば、マウス、ラット、非ヒト霊長類、またはブタなどの異種起源から得られる。
【0248】
いくつかの実施形態では、細胞の単離は、1つまたは複数の調製および/または非親和性ベース細胞分離の工程を含む。いくつかの例では、細胞は、洗浄、遠心分離、および/または1つ以上の試薬の存在下でインキュベートされ、例えば、望まれない成分が除去され、所望の成分が富化され、特定の試薬に感受性の細胞が溶解または除去される。いくつかの例では、細胞は、密度、付着特性、サイズ、感受性および/または特定の成分に対する耐性などの1つまたは複数の特性に基づいて分離される。
【0249】
いくつかの例では、対象の循環血液に由来する細胞は、例えば、アフェレーシスまたは白血球除去血によって得られる。サンプルは、いくつかの態様では、T細胞、単球、顆粒球、B細胞をはじめとするリンパ球;その他の有核白血球細胞;赤血球および/または血小板を含有し、いくつかの態様では、赤血球および血小板以外の細胞を含有する。
【0250】
いくつかの実施形態では、対象から採取された血液細胞は洗浄され、例えば血漿画分が除去されて、後続する処理工程のために、細胞は適切な緩衝液または媒体に入れられる。いくつかの実施形態では、細胞は、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄される。いくつかの実施形態では、洗浄液は、カルシウムおよび/またはマグネシウムおよび/または多数のまたは全ての二価カチオンを欠いている。いくつかの態様では、洗浄工程は、製造会社の使用説明書に従って、半自動「通過型」遠心分離機(例えば、Cobe 2991 cell processor,Baxter)で達成される。いくつかの態様では、洗浄ステップは、製造会社の使用説明書に従って、接線流濾過(TFF)によって達成される。いくつかの実施形態では、細胞は、洗浄後に、例えばCa++/Mg++非含有PBSなどの様々な生体適合性緩衝液に再懸濁される。特定の実施形態では、血液細胞サンプルの成分が除去され、細胞が培地に直接再懸濁される。
【0251】
いくつかの実施形態では、方法は、赤血球を溶解し、パーコールまたはフィコール勾配により遠心分離することによる、末梢血からの白血球の調製などの密度に基づく細胞分離法を含む。
【0252】
いくつかの実施形態では、単離法は、例えば、表面タンパク質、細胞内マーカーまたは核酸などの表面マーカーなどの1つまたは複数の特異的分子の細胞における発現または存在に基づく、異なる細胞型の分離を含む。いくつかの実施形態では、このようなマーカーに基づく分離のための任意の既知の方法が用いられてもよい。いくつかの実施形態では、分離は、親和性または免疫親和性に基づく分離である。例えば、単離は、いくつかの態様では、例えば、このようなマーカーに特異的に結合する抗体または結合パートナーとのインキュベーションと、一般にそれに続く、洗浄工程、および、抗体または結合パートナーへの結合を有する細胞の抗体または結合パートナーに結合していない細胞からの分離による、典型的に細胞表面マーカーである、細胞の1つまたは複数のマーカー発現または発現レベルに基づく、細胞および細胞集団の分離を含む。
【0253】
このような分離工程は、試薬に結合している細胞がさらなる使用のために保持される正の選択、および/または抗体または結合パートナーに結合していない細胞が保持される負の選択に基づき得る。いくつかの例では、双方の画分が、さらなる使用のために保持される。いくつかの態様では、負の選択は、不均一集団中の細胞型を特異的に同定する抗体が利用可能でなく、その結果、所望の集団以外の細胞によって発現されるマーカーに基づく分離が最良である場合に、特に有用であり得る。
【0254】
分離は、特定の細胞集団または特定のマーカーを発現する細胞の100%富化または除去をもたらす必要はない。例えば、マーカーを発現するものなどの特定タイプの細胞の正の選択または富化は、そのような細胞の数または百分率を増加させることを意味するが、必ずしもマーカーを発現しない細胞が完全に不在である必要はない。同様に、マーカーを発現するものなどの特定タイプの細胞の負の選択、除去または枯渇は、そのような細胞の数または百分率を減少させることを意味するが、必ずしもそのような細胞の全てが完全に除去される必要はない。
【0255】
いくつかの例では、複数回の分離工程が実施され、1回の工程からの正または負の選択画分が、後続する正または負の選択などの別の分離工程に供される。いくつかの例では、細胞と、それぞれ負の選択の標的となるマーカーに特異的である、複数の抗体または結合パートナーとをインキュベートすることなどによって、単一の分離工程が、複数のマーカーを同時に発現する細胞を枯渇させる得る。同様に、細胞と、様々な細胞型で発現される複数の抗体または結合パートナーとをインキュベートすることによって、複数の細胞型が同時に正に選択され得る。
【0256】
いくつかの実施形態では、表面マーカーなどの1つまたは複数のT細胞集団は、1つまたは複数の特定のマーカーについて陽性である(マーカー+)、またはそれを高レベルで発現する(マーカーhigh)細胞、または1つまたは複数のマーカーについて陰性である(マーカー-)、またはそれを比較的低レベルで発現する(マーカーlow)細胞が、富化されておりまたは枯渇している。例えば、いくつかの態様では、例えば、CD28+、CD62L+、CCR7+、CD27+、CD127+、CD4+、CD8+、CD45RA+、および/またはCD45RO+T細胞などの1つまたは複数の表面マーカーについて陽性である、またはそれを高レベルで発現する細胞などのT細胞の特定の亜集団が、正または負の選択技術によって単離される。場合によっては、このようなマーカーは、T細胞の特定の集団(非記憶細胞など)に存在しないかまたは比較的低いレベルで発現されるが、T細胞の特定のその他の集団(記憶細胞など)に比較的より高いレベルで存在しまたは発現されるものである。一実施形態では、細胞(CD8+細胞またはT細胞など、例えばCD3+細胞)は、CD45RO、CCR7、CD28、CD27、CD44、CD127、および/またはCD62Lについて陽性でありまたはそれを高い表面レベルで発現する細胞が富化されており(すなわち、正に選択される)、および/またはCD45RAについて陽性でありまたはそれを高い表面レベルで発現する細胞が枯渇している(例えば、負に選択される)。いくつかの実施形態では、細胞は、CD122、CD95、CD25、CD27、および/またはIL7-Rα(CD127)について陽性でありまたはそれを高い表面レベルで発現する細胞が、富化されておりまたは枯渇している。いくつかの例では、CD8+T細胞は、CD45ROおよびCD62Lについて陽性(またはCD45RAについて陰性)の細胞が富化されている。
【0257】
例えば、CD3+、CD28+T細胞は、CD3/CD28コンジュゲート磁気ビーズ(例えば、DYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 T Cell Expander)を用いて、正に選択され得る。
【0258】
いくつかの実施形態では、T細胞は、B細胞、単球、またはCD14などのその他の白血球細胞などの非T細胞上で発現される陰性の選択マーカーによって、末梢血単核細胞(PBMC)サンプルから分離される。いくつかの態様では、CD4+またはCD8+選択工程を使用して、CD4+ヘルパーおよびCD8+細胞傷害性T細胞が分離される。このようなCD4+およびCD8+集団は、1つまたは複数の未感作、メモリー、および/またはエフェクターT細胞亜集団上で発現される、または比較的高い程度で発現される、マーカーに対する正または負の選択によって、亜集団にさらに分類され得る。
【0259】
いくつかの実施形態では、CD8+細胞は、それぞれの亜集団に関連する表面抗原に基づく正または負の選択などによって、未感作、セントラルメモリー、エフェクターメモリー、および/またはセントラルメモリー幹細胞についてさらに富化または枯渇されている。いくつかの実施形態では、セントラルメモリーT(TCM)細胞の富化が実施されて、投与に続く長期生存、拡張および/または生着を改善するなど、有効性を高め、それはいくつかの態様では、このような亜集団において特に堅固である。(Terakura et al.(2012)Blood.1:72-82;Wang et al.(2012)J Immunother.35(9):689-701を参照されたい。)いくつかの実施形態では、TCM富化CD8+T細胞とCD4+T細胞とを組み合わせることにより、有効性がさらに増強される。
【0260】
いくつかの実施形態では、メモリーT細胞は、CD8+末梢血リンパ球のCD62L+およびCD62L-サブセットの双方に存在する。PBMCは、抗CD8および抗CD62L抗体などを使用して、CD62L-CD8+および/またはCD62L+CD8+画分が富化または枯渇され得る。
【0261】
いくつかの実施形態では、CD4+T細胞集団およびCD8+T細胞亜集団は、例えば、セントラルメモリー(TCM)細胞が富化された亜集団などの。いくつかの実施形態では、セントラルメモリーT(TCM)細胞の富化は、CD45RO、CD62L、CCR7、CD28、CD3、および/またはCD127の陽性または高度の表面発現に基づき;いくつかの態様では、それは、CD45RAおよび/またはグランザイムBを発現しまたは高度に発現する細胞の負の選択に基づく。いくつかの態様では、TCM細胞富化CD8+集団の単離は、CD4、CD14、CD45RAを発現する細胞の枯渇、およびCD62Lを発現する細胞の正の選択または富化によって実施される。一態様では、セントラルメモリーT(TCM)細胞の富化は、CD4発現に基づいて選択される細胞の陰性画分から出発して行われ、それはCD14およびCD45RAの発現に基づく負の選択、およびCD62Lに基づく正の選択を受ける。そのような選択は、いくつかの態様では同時に行われ、その他の態様ではいずれかの順序で順次行われる。いくつかの態様では、CD8+細胞集団または亜集団を調製するのに使用されるのと同じCD4発現に基づく選択工程が、CD4+細胞集団または亜集団を作製するのにも使用され、その結果、CD4に基づく分離からの陽性および陰性画分の双方が保持され、任意選択的に1つまたは複数のさらなる正または負の選択工程に続いて、方法の引き続く工程で使用される。
【0262】
特定の例では、PBMCまたはその他の白血球のサンプルは、CD4+細胞の選択に供され、陰性画分および陽性画分の双方が保持される。次に陰性画分は、CD14およびCD45RAまたはCD19の発現に基づく負の選択、およびCD62LまたはCCR7などのセントラルメモリーT細胞のマーカーに基づく正の選択に供され、正の選択および負の選択はどちらの順序でも実施される。
【0263】
CD4+Tヘルパー細胞は、細胞表面抗原を有する細胞集団を同定することによって、未感作、セントラルメモリー、およびエフェクター細胞に分類される。CD4+リンパ球は、標準法によって得られ得る。いくつかの実施形態では、未感作CD4+Tリンパ球は、CD45RO-、CD45RA+、CD62L+、CD4+T細胞である。いくつかの実施形態では、セントラルメモリーCD4+細胞は、CD62L+およびCD45RO+である。いくつかの実施形態では、エフェクターCD4+細胞は、CD62L-およびCD45ROである。
【0264】
一例では、負の選択によってCD4+細胞を富化するために、モノクローナル抗体混合物は、典型的には、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、およびCD8に対する抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗体または結合パートナーは、磁性ビーズまたは常磁性ビーズのような固体支持体またはマトリックスに結合され、正および/または負の選択について細胞が分離できるようにする。例えば、いくつかの実施形態では、細胞および細胞集団は、免疫磁気(または親和性磁気)分離技術を用いて、分離または単離される(Methods in Molecular Medicine,vol.58:Metastasis Research Protocols,Vol.2:Cell Behavior In Vitro and In Vivo,p 17-25 Edited by:S.A.Brooks and U.Schumacher(著作権)Humana Press Inc.,Totowa,NJで概説される)。
【0265】
いくつかの実施形態では、細胞は、遺伝子操作の前に、またはそれに関連してインキュベートおよび/または培養される。インキュベーション工程は、培養、育成、刺激、活性化、および/または増殖を含み得る。いくつかの実施形態では、組成物または細胞は、刺激条件または刺激剤の存在下でインキュベートされる。このような条件としては、集団における細胞の増殖、拡張、活性化および/または生存を誘導するために、抗原曝露を模倣するために、および/または組換え抗原受容体の導入などのための遺伝子操作のために細胞を準備するために、設計されたものが挙げられる。
【0266】
条件としては、1つまたは複数の特定の培地;温度;酸素含有量;二酸化炭素含有量;時間;例えば、栄養素、アミノ酸、抗生物質、イオンなどの作用物質;および/またはサイトカインなどの刺激因子;ケモカイン;抗原;結合パートナー;融合タンパク質;組換え可溶性受容体;および細胞を活性化するように設計された任意のその他の作用物質が挙げられる。
【0267】
いくつかの実施形態では、刺激条件または作用物質は、例えばリガンドなどの、TCR複合体の細胞内シグナル伝達ドメインを活性化できる、1つまたは複数の作用物質を含む。いくつかの態様では、作用物質は、T細胞においてTCR/CD3細胞内シグナル伝達カスケードを活性化しまたは開始する。このような作用物質は、例えば、ビーズなどの固体支持体に結合した抗CD3や抗CD28などの、TCR成分および/または共刺激受容体に特異的なものなどの抗体、および/または1つまたは複数のサイトカインを含み得る。任意選択的に、この拡張方法は、抗CD3抗体および/または抗CD28抗体を培地に(例えば、少なくとも約0.5ng/mlの濃度で)添加する工程をさらに含んでなってもよい。いくつかの実施形態において、刺激剤は、例えば、少なくとも約10単位/mLの濃度のIL-2などの、IL-2および/またはIL-15を含む。
【0268】
いくつかの態様では、インキュベーションは、Riddellらに付与された米国特許第6,040,177号、Klebanoff et al.(2012)J Immunother.35(9):651-660、Terakura et al.(2012)Blood.1:72-82、および/またはWang et al.(2012)J Immunother.35(9):689-701に記載されるものなどの技術に従って実施される。
【0269】
いくつかの実施形態では、T細胞は、非分裂PBMCなどの培養開始組成物支持細胞を(例えば、得られる細胞集団が、拡張される最初の集団中の各Tリンパ球毎に少なくとも約5、10、20、または40個以上のPBMC支持細胞を含有するように)添加すること、および培養物を(例えば、T細胞数を拡張させるのに十分な時間にわたり)インキュベートすることによって拡張される。いくつかの態様では、非分裂支持細胞は、γ照射PBMC支持細胞を含んでなり得る。いくつかの実施形態では、細胞分裂を防ぐために、PBMCに約3000~3600ラドの範囲のγ線が照射される。いくつかの態様では、支持細胞は、T細胞集団の添加前に培地に添加される。
【0270】
いくつかの実施形態では、刺激条件は、例えば、少なくとも約25℃、一般に少なくとも約30℃、および一般に約37℃などのヒトTリンパ球増殖に適した温度を含む。任意選択的に、インキュベーションは、支持細胞として、非分裂型EBV形質転換リンパ芽球様細胞(LCL)を添加することをさらに含んでなってもよい。LCLは、約6000~10,000ラドの範囲のγ線で照射され得る。LCL支持細胞は、いくつかの態様では、少なくとも約10:1の最初のTリンパ球に対するLCL支持細胞の比率などの任意の適切な量で提供される。
【0271】
いくつかの実施形態では、調製方法は、単離、インキュベーションおよび/または操作の前または後のいずれかで、細胞を例えば凍結保存するなど、凍結する工程を含む。いくつかの実施形態では、凍結および引き続く解凍工程は、細胞集団中の顆粒球を除去し、単球もある程度は除去する。いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、血漿および血小板を除去するための洗浄工程に続いて、凍結溶液中に懸濁される。様々な既知の凍結溶液およびパラメータのいずれかを、特定の局面において使用することができる。一例は、20%DMSOおよび8%ヒト血清アルブミン(HSA)、または他の適切な細胞凍結媒体を含有するPBSを使用することを伴う。次に、これは、DMSOおよびHSAの最終濃度がそれぞれ10%および4%になるように、媒体で1:1に希釈される。次に、細胞は、一般に毎分1℃の速度で-80℃に凍結され、液体窒素貯蔵タンクの気相中に保存される。
【0272】
いくつかの実施形態では、方法は、操作された細胞を冷凍保存の前または後に、同一患者に再導入することを含む。
【0273】
組換え受容体
いくつかの実施形態では、細胞は、遺伝子操作を通じて導入された組換え受容体をコードする1つまたは複数の核酸と、このような核酸の遺伝子操作された生成物とを含んでなる。いくつかの実施形態では、細胞は、組換え受容体をコードする核酸分子を(例えば、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターの形質導入を通じて)細胞に導入することによって、生成または作製され得る。いくつかの実施形態では、核酸は異種であり、すなわち、通常は細胞に、または細胞から得られたサンプルに存在せず、例えば、通常は操作された細胞に、および/またはこのような細胞が由来する生物に見られない、別の生物または細胞から得られたものなどである。いくつかの実施形態では、核酸は天然に存在せず、複数の異なる細胞型に由来する様々なドメインをコードする核酸のキメラの組み合わせを含んでなるものをはじめとする、天然に見られない核酸などである。
【0274】
いくつかの実施形態では、標的細胞は、1つまたは複数の腫瘍抗原などの1つまたは複数の標的抗原に結合するように改変されている。いくつかの実施形態では、標的抗原は、ROR1、B細胞成熟抗原(BCMA)、炭酸脱水酵素9(CAIX)、tEGFR、Her2/neu(受容体チロシンキナーゼerbB2)、L1-CAM、CD19、CD20、CD22、メソテリン、CEA、およびB型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、上皮糖タンパク質2(EPG-2)、上皮糖タンパク質40(EPG-40)、EPHa2、erb-B2、erb-B3、erb-B4、erbB二量体、EGFRvIII、葉酸結合タンパク質(FBP)、FCRL5、FCRH5、胎児型アセチルコリン受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-α、IL-13R-α2、キナーゼ挿入ドメイン受容体(kdr)、κ軽鎖、ルイスY、L1-細胞接着分子、(L1-CAM)、黒色腫関連抗原(MAGE)-A1、MAGE-A3、MAGE-A6、黒色腫優先発現抗原(PRAME)、サバイビン、TAG72、B7-H6、IL-13受容体α2(IL-13Ra2)、CA9、GD3、HMW-MAA、CD171、G250/CAIX、HLA-AI MAGE Al、HLA-A2 NY-ESO-1、PSCA、葉酸受容体-a、CD44v6、CD44v7/8、avb6インテグリン、8H9、NCAM、VEGF受容体、5T4、胎児AchR、NKG2Dリガンド、CD44v6、二重抗原、がん精巣抗原、メソテリン、マウス型CMV、ムチン1(MUC1)、MUC16、PSCA、NKG2D、NY-ESO-1、MART-1、gp100、がん胎児性抗原(oncofetal antigen)、ROR1、TAG72、VEGF-R2、がん胎児性抗原(carcinoembryonic antigen;CEA)、Her2/neu、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、c-Met、GD-2、O-アセチル化GD2(OGD2)、CE7、ウィルムス腫瘍1(WT-1)、サイクリン、サイクリンA2、CCL-1、CD138、病原体特異的抗原およびユニバーサル標識に関連する抗原から選択される。いくつかの実施形態では、標的細胞は、例えば、TCRまたはCARなどによって、以下の腫瘍抗原の1つまたは複数に結合するように改変されている。腫瘍抗原としては、AD034、AKT1、BRAP、CAGE、CDX2、CLP、CT-7、CT8/HOM-TES-85、cTAGE-1、フィビュリン-1、HAGE、HCA587/MAGE-C2、hCAP-G、HCE661、HER2/neu、HLA-Cw、HOM-HD-21/ガレクチン9、HOM-MEEL-40/SSX2、HOM-RCC-3.1.3/CAXII、HOXA7、HOXB6、Hu、HUB1、KM-HN-3、KM-KN-1、KOC1、KOC2、KOC3、KOC3、LAGE-1、MAGE-1、MAGE-4a、MPP11、MSLN、NNP-1、NY-BR-1、NY-BR-62、NY-BR-85、NY-CO-37、NY-CO-38、NY-ESO-1、NY-ESO-5、NY-LU-12、NY-REN-10、NY-REN-19/LKB/STK11、NY-REN-21、NY-REN-26/BCR、NY-REN-3/NY-CO-38、NY-REN-33/SNC6、NY-REN-43、NY-REN-65、NY-REN-9、NY-SAR-35、OGFr、PLU-1、Rab38、RBPJκ、RHAMM、SCP1、SCP-1、SSX3、SSX4、SSX5、TOP2A、TOP2B、またはチロシナーゼが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0275】
抗原受容体
キメラ抗原受容体(CAR)
細胞は、一般に、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)、そして遺伝子組換えT細胞受容体(TCR)のようなその他の抗原結合受容体などの、機能性非TCR抗原受容体をはじめとする、抗原受容体などの組換え受容体を発現する。受容体としては、その他のキメラ受容体も挙げられる。
【0276】
CARなどの例示的抗原受容体、およびこのような受容体を操作して細胞に導入する方法としては、例えば、国際特許出願公開番号WO200014257号、WO2013126726号、WO2012/129514号、WO2014031687号、WO2013/166321号、WO2013/071154号、WO2013/123061号、米国特許出願公開番号US2002131960号、US2013287748号、US20130149337号、米国特許第6,451,995号、第7,446,190号、第8,252,592号、第8,339,645号、第8,398,282号、第7,446,179号、第6,410,319号、第7,070,995号、第7,265,209号、第7,354,762号、第7,446,191号、第8,324,353号、および第8,479,118号、および欧州特許出願第EP2537416号に記載されるもの、および/またはSadelain et al.,Cancer Discov.2013 April;3(4):388-398;Davila et al.(2013)PLoS ONE 8(4):e61338;Turtle et al.,Curr.Opin.Immunol.,2012 October;24(5):633-39;Wu et al.,Cancer,2012 March 18(2):160-75によって記載されるものが挙げられる。いくつかの態様では、抗原受容体としては、米国特許第7,446,190号に記載されるようなCAR、および国際特許出願公開番号WO/2014055668 A1号に記載されるものが挙げられる。CARの例としては、WO2014031687、US8,339,645、US7,446,179号、US2013/0149337号、米国特許第7,446,190号、米国特許第8,389,282号、Kochenderfer et al.,2013, Nature Reviews Clinical Oncology,10,267-276(2013);Wang et al.(2012)J.Immunother.35(9):689-701;およびBrentjens et al.,Sci Transl Med.2013 5(177)などの前述の文献のいずれかで開示されるようなCARが挙げられる。WO2014031687、US8,339,645、US7,446,179、US2013/0149337、米国特許第7,446,190号、および米国特許第8,389,282号もまた参照されたい。CARなどのキメラ受容体は、一般に、例えばscFv抗体フラグメントである、抗体の可変重(VH)鎖領域および/または可変軽(VL)鎖領域のような抗体分子の一部などの細胞外抗原結合ドメインを一般に含む。
【0277】
いくつかの実施形態では、受容体によってターゲティングされる抗原は、ポリペプチドである。いくつかの実施形態では、それは炭水化物またはその他の分子である。いくつかの実施形態では、抗原は、正常細胞または非標的細胞または組織と比較して、例えば腫瘍または病原性細胞などの疾患または病状の細胞上で、選択的に発現されまたは過剰発現される。その他の実施形態では、抗原は、正常細胞上で発現され、および/または操作された細胞上で発現される。
【0278】
受容体によってターゲティングされてもよい抗原としては、αvβ6インテグリン(avb6インテグリン)、B細胞成熟抗原(BCMA)、B7-H6、炭酸脱水酵素9(CA9;CAIXまたはG250としても知られている)、がん精巣抗原、がん/精巣抗原1B(CTAG;NY-ESO-1およびLAGE-2としても知られている)、がん胎児性抗原(CEA)、サイクリン、サイクリンA2、C-Cモチーフケモカインリガンド1(CCL-1)、CD19、CD20、CD22、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD123、CD138、CD171、上皮成長因子タンパク質(EGFR)、切断型上皮成長因子タンパク質(tEGFR)、III型上皮成長因子受容体変異(EGFRvIII)、上皮糖タンパク質2(EPG-2)、上皮糖タンパク質40(EPG-40)、エフリンB2、エフリン受容体A2(EPHa2)、エストロゲン受容体、Fc受容体様5(FCRL5;Fc受容体ホモログ5またはFCRH5としても知られている)、胎児アセチルコリン受容体(胎児AchR)、葉酸結合タンパク質(FBP)、葉酸受容体α、胎児アセチルコリン受容体、ガングリオシドGD2、O-アセチル化GD2(OGD2)、ガングリオシドGD3、糖タンパク質100(gp100)、Her2/neu(受容体チロシンキナーゼerbB2)、Her3(erb-B3)、Her4(erb-B4)、erbB二量体、ヒト高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、B型肝炎表面抗原、ヒト白血球抗原A1(HLA-AI)、ヒト白血球抗原A2(HLA-A2)、IL-22受容体α(IL-22Ra)、IL-13受容体α2(IL-13Ra2)、キナーゼ挿入ドメイン受容体(kdr)、κ軽鎖、L1細胞接着分子(L1CAM)、L1-CAMのCE7エピトープ、ロイシン富化リピート含有8ファミリーメンバーA(LRRC8A)、ルイスY、黒色腫関連抗原(MAGE)-A1、MAGE-A3、MAGE-A6、メソテリン、c-Met、マウスサイトメガロウイルス(CMV)、ムチン1(MUC1)、MUC16、ナチュラルキラーグループ2メンバーD(NKG2D)リガンド、メランA(MART-1)、神経細胞接着分子(NCAM)、がん胎児性抗原、黒色腫優先発現抗原(PRAME)、プロゲステロン受容体、前立腺特異的抗原、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)、サバイビン、トロホブラスト糖タンパク質(TPBG;5T4としても知られている)、腫瘍関連糖タンパク質72(TAG72)、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)、ウィルムス腫瘍1(WT-1)、および病原体特異的抗原が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0279】
いくつかの実施形態では、いくつかの実施形態の受容体によってターゲティングされる抗原としては、オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、Ll-CAM、CD19、CD20、CD22、メソテリン、CEA、およびB型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、0EPHa2、ErbB2、3、もしくは4、FBP、胎児型アセチルコリンe受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-α、IL-13R-α2、kdr、κ軽鎖、ルイスY、L1-細胞接着分子、MAGE-A1、メソテリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gp100、がん胎児性抗原(oncofetal antigen)、ROR1、TAG72、VEGF-R2、がん胎児性抗原(carcinoembryonic antigen;CEA)、前立腺特異的抗原、PSMA、Her2/neu、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、c-Met、GD-2、およびMAGE A3、CE7、ウィルムス腫瘍1(WT-1)、サイクリンA1(CCNA1)などのサイクリン、および/またはビオチン化分子、および/またはHIV、HCV、HBVまたはその他の病原体によって発現される分子が挙げられる。
【0280】
いくつかの実施形態では、CARは、例えば、CD19、CD20、炭酸脱水酵素IX(CAIX)、CD171、CEA、ERBB2、GD2、α-葉酸受容体、ルイスY抗原、前立腺特異的膜抗原(PSMA)または腫瘍関連糖タンパク質72(TAG72)などの腫瘍関連抗原に対する結合特異性を有する。
【0281】
いくつかの実施形態では、CARは、病原体特異的抗原に結合する。いくつかの実施形態では、CARは、ウイルス抗原(HIV、HCV、HBVなど)、細菌抗原、および/または寄生性抗原に対して特異的である。
【0282】
キメラ受容体としては、キメラ抗原受容体(CAR)が挙げられる。CARなどのキメラ受容体は、一般に例えばscFv抗体フラグメントである、抗体の可変重(V)鎖領域および/または可変軽(V)鎖領域のような抗体分子の一部などの細胞外抗原結合ドメインを一般に含む。
【0283】
いくつかの実施形態では、例えばCARなどの組換え受容体の抗体部分は、例えばIgG4ヒンジ領域のようなヒンジ領域および/またはCH1/CLおよび/またはFc領域などの免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部をさらに含む。いくつかの実施形態では、定常領域または部分は、IgG4またはIgG1などのヒトIgGである。いくつかの態様では、定常領域の部分は、例えばscFvなどの抗原認識成分と、膜貫通ドメインとの間のスペーサー領域の役割を果たす。スペーサーは、スペーサーの非存在下と比較して、抗原結合に続く細胞の応答性の増大をもたらす長さであり得る。例えば、ヒンジ領域などの例示的スペーサーとしては、国際公開第WO2014031687号に記載されるものが挙げられる。いくつかの例では、スペーサーは、12アミノ酸長または約12アミノ酸長であるか、または12アミノ酸長以下である。例示的スペーサーとしては、少なくとも約10~229個のアミノ酸、約10~200個のアミノ酸、約10~175個のアミノ酸、約10~150個のアミノ酸、約10~125個のアミノ酸、約10~100個のアミノ酸、約10~75個のアミノ酸、約10~50個のアミノ酸、約10~40個のアミノ酸、約10~30個のアミノ酸、約10~20個のアミノ酸、または約10~15個のアミノ酸、および列挙されたいずれかの範囲の終点の間の任意の整数を有するものが挙げられる。いくつかの実施形態では、スペーサー領域は、約12個以下のアミノ酸、約119個以下のアミノ酸、または約229個以下のアミノ酸を有する。例示的スペーサーとしては、IgG4ヒンジのみ、CH2およびCH3ドメインに連結したIgG4ヒンジ、またはCH3ドメインに連結したIgG4ヒンジが挙げられる。
【0284】
例示的スペーサーとしては、Hudecek et al.(2013)Clin.Cancer Res.,19:3153または国際特許出願公開番号WO2014031687号に記載されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0285】
この抗原認識ドメインは、CARの場合にはTCR複合体などの抗原受容体複合体を通じた活性化を模倣するシグナル伝達成分、および/または別の細胞表面受容体を通じたシグナルなどの1つまたは複数の細胞内シグナル伝達成分に一般に連結している。したがって、いくつかの実施形態では、抗原結合成分(例えば、抗体)は、1つまたは複数の膜貫通および細胞内シグナル伝達ドメインに連結している。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、細胞外ドメインに融合する。一実施形態では、例えば、CARなどの受容体中の1つのドメインに天然に結合する、膜貫通ドメインが使用される。場合によっては、膜貫通ドメインは、このようなドメインと、同一または異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインとの結合を避けるために、選択されまたはアミノ酸置換によって修飾されて、受容体複合体のその他の構成員との相互作用が最小化される。
【0286】
いくつかの実施形態における膜貫通ドメインは、天然または合成起源のどちらかに由来する。起源が天然である場合、いくつかの態様では、ドメインは、任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来する。膜貫通領域は、T細胞受容体のα、β、またはζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154に由来するものを含む(すなわち少なくともその膜貫通領域を含んでなる)。代案としては、いくつかの実施形態における膜貫通ドメインは、合成される。いくつかの態様では、合成膜貫通ドメインは、主に、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を含んでなる。いくつかの態様では、フェニルアラニン、トリプトファン、およびバリンの三つ組が、合成膜貫通ドメインの各末端に見いだされるであろう。いくつかの実施形態では、連結は、リンカー、スペーサーおよび/または膜貫通ドメインによるものである。
【0287】
細胞内シグナル伝達ドメインとしては、天然抗原受容体を通じたシグナル、このような受容体と共刺激受容体との組み合わせと組み合わせを通じたシグナル、および/または共刺激受容体のみを通じたシグナルを模倣または近似するものが挙げられる。いくつかの実施形態では、例えばグリシン-セリン二つ組などのグリシンおよびセリンを含有するものなどの例えば2~10アミノ酸長のリンカーなどの短いオリゴ-またはポリペプチドリンカーが、CARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメインの間に存在して、連結を形成する。
【0288】
例えばCARなどの受容体は、一般に、少なくとも1つの細胞内シグナル伝達成分を含む。いくつかの実施形態では、受容体は、例えばCD3ζ鎖などの、T細胞活性化および細胞傷害性を媒介するTCR CD3鎖などの、TCR複合体の細胞内成分を含む。したがって、いくつかの態様では、抗原結合部分は、1つまたは複数の細胞シグナル伝達モジュールに連結される。いくつかの実施形態では、細胞シグナル伝達モジュールは、CD3膜貫通ドメイン、CD3細胞内シグナル伝達ドメイン、および/またはその他のCD膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態では、例えばCARなどの受容体は、Fc受容体γ、CD8、CD4、CD25、またはCD16などの1つまたは複数の追加的な分子の一部をさらに含む。例えば、いくつかの態様では、CARまたは他のキメラ受容体は、CD3-ゼータ(CD3-ζ)またはFc受容体γと、CD8、CD4、CD25またはCD16との間のキメラ分子を含む。
【0289】
いくつかの実施形態では、CARまたはその他のキメラ受容体とのライゲーションに際して、受容体の細胞質ドメインまたは細胞内シグナル伝達ドメインは、例えば、CARを発現するように操作されたT細胞などの免疫細胞の、正常なエフェクター機能または応答の少なくとも1つを活性化する。例えば、いくつかの状況では、CARは、細胞溶解活性またはサイトカインまたはその他の因子の分泌などのTヘルパー活性などのT細胞の機能を誘導する。いくつかの実施形態では、例えば、それがエフェクター機能シグナルを伝達する場合、抗原受容体成分の細胞内シグナル伝達ドメインのトランケート部分または共刺激分子が、非損傷免疫賦活性鎖の代わりに使用される。いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、T細胞受容体(TCR)の細胞質配列を含み、いくつかの実施形態では、天然の状況においてこのような受容体と協調して作用し抗原受容体結合に続くシグナル伝達を開始する共受容体の細胞質配列、および/またはこのような分子の任意の誘導体または変異型、および/または同一機能的能力を有する任意の合成配列もまた含む。
【0290】
天然TCRの文脈で、完全な活性化は、一般に、TCRを通じたシグナル伝達だけでなく、共刺激シグナルもまた必要とする。したがって、いくつかの実施形態では、完全な活性化を促進するために、二次的または共刺激シグナルを生じさせるための成分もまた、CARに含まれる。その他の実施形態では、CARは、共刺激シグナルを生じさせるための成分を含まない。いくつかの態様では、追加的なCARが同一細胞内で発現され、二次的または共刺激シグナルを生じさせるための成分を提供する。
【0291】
T細胞活性化は、いくつかの態様では、TCRを通じて抗原依存性一次活性化を開始するもの(一次細胞質シグナル伝達配列)と、抗原非依存性様式で作用して二次的または共刺激シグナルを提供するもの(二次的細胞質シグナル伝達配列)との、2つのクラスの細胞質シグナル伝達配列によって媒介されると記載されている。いくつかの態様では、CARは、このようなシグナル伝達成分の片方または双方を含む。
【0292】
いくつかの態様では、CARは、TCR複合体の一次活性化を調節する一次細胞質シグナル伝達配列を含む。刺激性様式で作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフまたはITAMとして知られている、シグナル伝達モチーフを含有してもよい。一次細胞質シグナル伝達配列を含有するITAMの例としては、CD3ζ鎖、FcRγ、CD3γ、CD3δ、およびCD3εに由来するものが挙げられる。いくつかの実施形態では、CAR中の細胞質シグナル伝達分子は、細胞質シグナル伝達ドメイン、その一部、またはCD3ζ由来の配列を含有する。
【0293】
いくつかの実施形態では、CARは、CD28、4-1BB、OX40、DAP10、およびICOSなどの共刺激受容体のシグナル伝達ドメインおよび/または膜貫通部分を含む。いくつかの態様では、同一CARは、活性化成分と共刺激成分の双方を含む。
【0294】
いくつかの実施形態では、活性化ドメインが1つのCAR内に含まれる一方で、共刺激成分は別の抗原を認識する別のCARによって提供される。いくつかの実施形態では、CARは、どちらも同一細胞上で発現される、活性化または刺激CAR、共刺激CARの双方を含む(WO2014/055668号を参照されたい)。いくつかの態様では、細胞は、1つまたは複数の刺激または活性化CARおよび/または共刺激CARを含む。いくつかの実施形態では、細胞阻害的CAR(iCAR;Fedorov et al.,Sci.Transl.Medicine,5(215)(December,2013)を参照されたい、疾患または病状に関連しおよび/またはそれに特異的なもの以外の抗原を認識するCARなどをさらに含み、それによって疾患ターゲティングCARを通じて送達された活性化シグナルは、阻害性CARのそのリガンドへの結合によって低下しまたは阻害され、例えばオフターゲット効果が減少する。
【0295】
特定の実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3(例えば、CD3-ζ)細胞内ドメインに連結した、CD28膜貫通およびシグナル伝達ドメインを含んでなる。いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ細胞内ドメインに連結された、キメラCD28およびCD137(4-1BB、TNFRSF9)共刺激ドメインを含んでなる。
【0296】
いくつかの実施形態では、CARは、細胞質部分中に、例えば2つ以上などの1つまたは複数の共刺激ドメインと、例えば一次活性化ドメインなどの、活性化ドメインとを包含する。例示的CARは、CD3-ζ、CD28、および4-1BBの細胞内成分を含む。
【0297】
いくつかの実施形態では、CARまたはその他の抗原受容体は、切断型EGFR(tEGFR)のような切断型細胞表面受容体などの受容体を発現する細胞の形質導入または操作を確認するために使用されてもよい、細胞表面マーカーなどのマーカーをさらに含む。いくつかの態様では、マーカーは、CD34、NGFR、または上皮成長因子受容体(例えば、tEGFR)の全部または一部(例えば、切断型)を含む。いくつかの実施形態では、マーカーをコードする核酸は、例えばT2Aなどの切断可能リンカー配列のようなリンカー配列をコードする、ポリヌクレオチドと作動可能に連結される。WO2014031687を参照されたい。いくつかの実施形態では、T2Aリボソームスイッチによって隔てられるCARおよびEGFRtをコードするコンストラクトの導入は、同一コンストラクトから2つのタンパク質を発現し得て、その結果、EGFRtは、このようなコンストラクトを発現する細胞を検出するためのマーカーとして使用され得る。いくつかの実施形態では、マーカー、および任意選択的にリンカー配列は、公開出願番号WO2014/031687に開示されているようなものであれば何でもよい。例えば、マーカーは、任意選択的に、T2A切断可能リンカー配列などのリンカー配列に連結された切断型EGFR(tEGFR)であり得る。
【0298】
いくつかの実施形態では、マーカーは、T細胞上に天然に見られない、またはT細胞の表面に天然に見られない、例えば、細胞表面タンパク質またはその一部などの分子である。
【0299】
いくつかの実施形態では、マーカーは、例えば、細胞表面タンパク質などの分子であり、すなわち、細胞が養子移入される宿主の免疫系によって、「自己」として認識されないものである。
【0300】
いくつかの実施形態では、マーカーは、例えば、成功裏に操作された細胞を選択するための遺伝子操作のマーカーとして使用される以外に、治療機能を果たさず、および/または効果をもたらさない。その他の実施形態では、マーカーは、養子免疫伝達およびリガンドとの遭遇に際して、細胞の応答を増強および/または抑制するための、共刺激または免疫チェックポイント分子などのインビボで遭遇する細胞のリガンドのような、治療分子またはいくつかの所望の効果を発揮する分子であってもよい。
【0301】
場合によっては、CARは、第1世代、第2世代、および/または第3世代CARと称される。いくつかの態様では、第1世代CARは、抗原結合に際してCD3鎖誘導シグナルのみを提供するものであり;いくつかの態様では、第2世代CARは、CD28またはCD137などの共刺激レセプターに由来する細胞内シグナル伝達ドメインを含むものなどの、このようなシグナルおよび共刺激シグナルを提供するものであり;いくつかの態様では、第3世代CARは、異なる共刺激受容体の複数の共刺激ドメインを含むものである。
【0302】
いくつかの実施形態では、キメラ抗原受容体は、抗体または抗体フラグメントを含有する細胞外部分を含む。いくつかの態様では、キメラ抗原受容体は、抗体またはフラグメントを含有する細胞外部分と、細胞内シグナル伝達ドメインとを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントは、scFvと、ITAMを含有する細胞内ドメインとを含む。いくつかの態様では、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3-ゼータ(CD3ζ)鎖のζ鎖のシグナル伝達ドメインを含む。いくつかの実施形態では、キメラ抗原受容体は、細胞外ドメインと細胞内シグナル伝達ドメインとを連結する、膜貫通ドメインを含む。いくつかの態様では、膜貫通ドメインは、CD28の膜貫通部分を含有する。細胞外ドメインおよび膜貫通は、直接的または間接的に連結され得る。いくつかの実施形態では、細胞外ドメインおよび膜貫通は、本明細書に記載されるようなスペーサーによって連結される。いくつかの実施形態では、キメラ抗原受容体は、膜貫通ドメインと細胞内シグナル伝達ドメインとの間などの、T細胞共刺激分子の細胞内ドメインを含有する。いくつかの態様では、T細胞共刺激分子は、CD28または41BBである。
【0303】
いくつかの実施形態では、CARは、例えば抗体フラグメントなどの抗体;CD28の膜貫通部分またはその機能性変異型でありまたはそれを含有する膜貫通ドメイン;CD28またはその機能性変異型のシグナル伝達部分と、CD3ζまたはその機能性変異型のシグナル伝達部分とを含有する細胞内シグナル伝達ドメインを含有する。いくつかの実施形態では、CARは、例えば抗体フラグメントなどの抗体;CD28の膜貫通部分またはその機能性変異型でありまたはそれを含有する膜貫通ドメイン;4-1BBまたはその機能性変異型のシグナル伝達部分と、CD3ζまたはその機能性変異型のシグナル伝達部分とを含有する細胞内シグナル伝達ドメインを含有する。いくつかのこのような実施形態では、受容体は、ヒンジのみのスペーサーなどの、例えばIgG4ヒンジのようなIgヒンジなどの、ヒトIg分子などのIg分子の一部を含有するスペーサーをさらに含む。
【0304】
いくつかの実施形態では、例えばCARなどの受容体の膜貫通ドメインは、例えばヒトCD28(アクセッション番号P10747.1)の27アミノ酸膜貫通ドメインなどのヒトCD28の膜貫通ドメインまたはその変異型である。
【0305】
いくつかの実施形態では、キメラ抗原受容体は、T細胞共刺激分子の細胞内ドメインを含有する。いくつかの態様では、T細胞共刺激分子は、CD28または41BBである。
【0306】
いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD28の細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン、またはその41アミノ酸ドメインなどの、および/または天然CD28タンパク質の186~187位にLLからGGへの置換を有するドメインなどの、その機能性変異型または部分を含んでなる。いくつかの実施形態では、細胞内ドメインは、ヒト4-1BB(アクセッション番号Q07011.1)の42アミノ酸細胞質ドメイン、またはその機能性変異型または部分などの、41BBの細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン、またはその機能性変異型または部分を含んでなる。
【0307】
いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、米国特許第7,446,190号または米国特許第8,911,993号に記載されるような、ヒトCD3ζ(アクセッション番号P20963.2)またはCD3ζシグナル伝達ドメインのイソ型3の112 AA細胞質ドメインなどの、ヒトCD3ζ刺激性シグナル伝達ドメイン、またはその機能性変異型を含んでなる。
【0308】
いくつかの態様では、スペーサーは、IgG4またはIgG1のヒンジのみなどの、IgGのヒンジ領域のみを含有する。その他の実施形態では、スペーサーは、例えばIgヒンジであり、およびCH2および/またはCH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジなどである。いくつかの実施形態では、スペーサーは、CH2およびCH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジなどのIgヒンジである。いくつかの実施形態では、スペーサーは、CH3ドメインのみに連結されたIgG4ヒンジなどのIgヒンジである。いくつかの実施形態では、スペーサーは、グリシン-セリン富化配列、または既知の可撓性リンカーなどのその他の可撓性リンカーであるか、またはそれを含んでなる。
【0309】
例えば、いくつかの実施形態では、CARは抗体またはフラグメントを含み、それは、抗原、Igヒンジ含有スペーサーのいずれかなどのスペーサー、CD28膜貫通ドメイン、CD28細胞内シグナル伝達ドメイン、およびCD3ζシグナル伝達ドメインと特異的に結合する。いくつかの実施形態では、CARは抗体またはフラグメントを含み、それは、抗原、Igヒンジ含有スペーサーのいずれかなどのスペーサー、CD28膜貫通ドメイン、CD28細胞内シグナル伝達ドメイン、およびCD3ζシグナル伝達ドメインと特異的に結合する。いくつかの実施形態では、このようなCARコンストラクトは、T2Aリボソームスキップ要素および/または例えばCAR下流のtEGFR配列をさらに含む。
【0310】
「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために同義的に使用され、最小の長さに限定されない。リンカーまたはペプチドなどの提供される受容体およびその他のポリペプチドをはじめとするポリペプチドは、天然および/または非天然アミノ酸残基をはじめとするアミノ酸残基を含んでもよい。用語はまた、例えば、グリコシル化、シアル酸付加、アセチル化、およびリン酸化などのポリペプチドの発現後修飾も含む。いくつかの態様では、ポリペプチドは、タンパク質が所望の活性を保持する限り、天然または自然配列に対する修飾を含有してもよい。これらの修飾は、部位特異的変異誘発などのように意図的であってもよく、またはタンパク質を産生する宿主の変異、またはPCR増幅に起因する誤りのように偶然的であってもよい。
【0311】
T細胞受容体
いくつかの実施形態では、遺伝子操作された抗原受容体は、組換えT細胞受容体(TCR)および/または天然に存在するT細胞からクローン化されたTCRを含む。したがって、いくつかの実施形態では、標的細胞は、特異的T細胞受容体(TCR)遺伝子(例えば、TRACおよびTRBC遺伝子)を含有するように改変されている。TCRまたはその抗原結合部分としては、腫瘍、ウイルスまたは自己免疫タンパク質の抗原などのターゲティングポリペプチドのペプチドエピトープまたはT細胞エピトープを認識するものが挙げられる。いくつかの実施形態では、TCRは、例えば、がん胎児性抗原(CEA)、GP100、T細胞1によって認識される黒色腫抗原(MART1)、黒色腫抗原A3(MAGE A3)、NYESO1またはp53などの腫瘍関連抗原に対する結合特異性を有する。
【0312】
いくつかの実施形態では、「T細胞受容体」または「TCR」は、可変αおよびβ鎖(それぞれTCRαおよびTCRβとしても知られている)または可変γおよびδ鎖(それぞれTCRγおよびTCRδとしても知られている)またはその抗原結合部分を含有して、MHC分子に結合したペプチドに特異的に結合できる分子である。いくつかの実施形態では、TCRはαβ形態である。典型的に、αβおよびγδ形態で存在するTCRは、一般に構造的に類似しているが、それらを発現するT細胞は、別個の解剖学的位置または機能を有してもよい。一般に、TCRは、主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識に一般的に関与する、T細胞(またはTリンパ球)の表面で発現され、または発現され得る。
【0313】
いくつかの実施形態では、TCRは完全なTCRまたはその抗原結合部分または抗原結合断片である。いくつかの実施形態では、TCRは、αβ形態またはγδ形態のTCRなどの非損傷または完全長TCRである。いくつかの実施形態では、TCRは、完全長TCR未満であるが、MHCペプチド複合体に結合するなどの、MHC分子中の特異的ペプチド結合に結合する、抗原結合部分である。場合によっては、TCRの抗原結合部分またはフラグメントは、完全長または非損傷TCRの構造ドメインのほんの一部分を含有し得るが、完全TCRがそれに結合するMHCペプチド複合体などのペプチドエピトープに依然として結合できる。場合によっては、抗原結合部分は、TCRの可変α鎖および可変β鎖などのTCRの可変ドメインを含有して、特異的MHC-ペプチド複合体に結合するための結合部位を形成するのに十分である。一般に、TCRの可変鎖は、ペプチド、MHCおよび/またはMHC-ペプチド複合体の認識に関与する相補性決定領域(CDR)を含有する。
【0314】
いくつかの実施形態では、TCRの可変ドメインは、抗原認識および結合能力および特異性に主要な寄与体である超可変ループまたはCDRを含有する。いくつかの実施形態では、TCRのCDRまたはその組み合わせは、所与のTCR分子の抗原結合部位の全てまたは実質的に全てを形成する。TCR鎖の可変領域内の様々なCDRは、一般に、フレームワーク領域(FR)によって隔てられ、これは一般に、CDRと比較して、TCR分子間の変動性がより低い(例えば、Jores et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.U.S.A.87:9138,1990;Chothia et al.,EMBO J.7:3745,1988を参照されたい;Lefranc et al.,Dev.Comp.Immunol.27:55,2003もまた参照されたい)。いくつかの実施形態では、CDR3は、抗原結合または特異性に関与する主要CDRであるか、または抗原認識のための、および/またはペプチド-MHC複合体のプロセスされたペプチド部分との相互作用のための、所与のTCR可変領域上の3つのCDRのうちで最も重要である。いくつかの状況では、α鎖のCDR1は、特定の抗原性ペプチドのN末端部分と相互作用し得る。いくつかの状況では、β鎖のCDR1は、ペプチドのC末端部分と相互作用し得る。いくつかの状況では、CDR2は、MHC-ペプチド複合体のMHC部分との相互作用またはその認識に関与する一次CDRに最も大きく寄与し、または一次CDRである。いくつかの実施形態では、β鎖の可変領域は、超抗原結合に一般に関与して抗原認識ではない、さらなる超可変領域(CDR4またはHVR4)を含有し得る(Kotb(1995)Clinical Microbiology Reviews,8:411-426)。
【0315】
いくつかの実施形態では、TCRは、可変αドメイン(Vα)および/または可変βドメイン(Vβ)、またはその抗原結合断片を含有する。いくつかの実施形態では、TCRのα鎖および/またはβ鎖は、定常ドメイン、膜貫通ドメインおよび/または短い細胞質テールもまた含有し得る(例えば、Janeway et al.,Immunobiology:The Immune System in Health and Disease,3rd Ed.,Current Biology Publications,p.4:33,1997を参照されたい)。いくつかの実施形態では、α鎖定常ドメインは、TRAC遺伝子(IMGT命名法)によってコードされ、またはその変異型である。いくつかの実施形態では、β鎖定常領域は、TRBC1またはTRBC2遺伝子(IMGT命名法)によってコードされまたはその変異型である。いくつかの実施形態では、定常ドメインは細胞膜に隣接する。例えば、場合によっては、2つの鎖によって形成されるTCRの細胞外部分は、2つの膜隣接定常ドメインと、2つの膜遠位可変ドメインとを含有し、その可変ドメインはそれぞれCDRを含有する。
【0316】
TCRの様々なドメインまたは領域を決定しまたは同定することは、当業者のレベルの範囲内である。いくつかの態様では、TCRの残基は、International Immunogenetics Information System(IMGT)番号付与体系によって知られているか、または同定され得る(例えば、www.imgt.orgを参照されたい;Lefranc et al.(2003)Developmental and Comparative Immunology,2 &;55-77;およびThe T Cell Factsbook 2nd Edition,Lefranc and LeFranc Academic Press 2001もまた参照されたい)。この体系を用いて、TCR Vα鎖および/またはVβ鎖内のCDR1配列は、残基番号27~38に存在するアミノ酸に対応し、TCR Vα鎖および/またはVβ鎖内のCDR2配列は、残基番号56~65に存在するアミノ酸に対応し、TCR Vα鎖および/またはVβ鎖内のCDR3配列は、残基番号105~117に存在するアミノ酸に対応する。
【0317】
いくつかの実施形態では、TCRは、ジスルフィド結合などによって連結される、2本の鎖αおよびβ(または任意選択的にγおよびδ)のヘテロ二量体であってもよい。いくつかの実施形態では、TCRの定常ドメインは短い結合配列を含有してもよく、その中ではシステイン残基がジスルフィド結合を形成し、それによって2本のTCR鎖を連結する。いくつかの実施形態では、TCRが定常ドメイン中に2つのジスルフィド結合を含有するように、TCRがそれぞれのαおよびβ鎖中に追加的なシステイン残基を有してもよい。いくつかの実施形態では、定常ドメインおよび可変ドメインのそれぞれは、システイン残基によって形成されるジスルフィド結合を含有する。
【0318】
いくつかの実施形態では、記載されるような細胞を操作するためのTCRは、実質的に完全長のコード配列が容易に入手できる、Vα、β鎖の配列などの、既知のTCR配列から作製されるものである。細胞供給源からのV鎖配列を含む完全長TCR配列を得る方法は、良く知られている。いくつかの実施形態では、所与の細胞内のまたはそれから単離された、TCRをコードする核酸のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、または公的に利用可能なTCR DNA配列の合成などによって、TCRをコードする核酸は、様々な起源から得られ得る。いくつかの実施形態では、TCRは、T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、T細胞ハイブリドーマまたは他の公的に入手可能な供給源に由来する細胞などの、生物学的起源から得られ得る。いくつかの実施形態では、T細胞はインビボ単離細胞から得られ得る。いくつかの実施形態では、T細胞は培養したT細胞ハイブリドーマまたはクローンであり得る。いくつかの実施形態では、TCRまたはその抗原結合部分は、TCRの配列の知識から、合成的に作製され得る。
【0319】
いくつかの実施形態では、標的抗原(例えば、がん抗原)に対する高親和性T細胞クローンが同定され、患者から単離され、細胞に導入される。いくつかの実施形態では、標的抗原のTCRクローンは、ヒト免疫系遺伝子(例えば、ヒト白血球抗原系、またはHLA)で操作された遺伝子組換えマウスにおいて作製されている。例えば腫瘍抗原を参照されたい(例えば、Parkhurst et al.(2009)Clin Cancer Res.15:169-180 and Cohen et al.(2005)J Immunol.175:5799-5808を参照されたい。いくつかの実施形態では、ファージディスプレイが使用されて、標的抗原に対するTCRを単離される(例えば、Varela-Rohena et al.(2008)Nat Med.14:1390-1395 and Li(2005)Nat Biotechnol.23:349-354を参照されたい。
【0320】
いくつかの実施形態では、TCRまたはその抗原結合部分は、修飾または操作されているものである。いくつかの実施形態では、指向性進化法が使用され、特異的MHC-ペプチド複合体に対するより高い親和性などの変化した特性を有するTCRが作製される。いくつかの実施形態では、指向性進化は、酵母ディスプレイ(Holler et al.(2003)Nat Immunol,4,55-62;Holler et al.(2000)Proc Natl Acad Sci USA,97,5387-92)、ファージディスプレイ(Li et al.(2005)Nat Biotechnol,23,349-54)、またはT細胞提示(Chervin et al.(2008)J Immunol Methods,339,175-84)をはじめとするが、これに限定されるものではない、提示方法によって達成される。いくつかの実施形態では、提示アプローチは、既知の親TCRまたは参照TCRを操作し、または修飾することを伴う。例えば、場合によっては、野生型TCRが、変異誘発TCRを生成するための鋳型として使用され得て、CDRの1つまたは複数の残基が変異され、所望の標的抗原に対するより高い親和性などの所望の改変された特性を有する変異体が選択される。
【0321】
記載されるようないくつかの実施形態では、TCRは、導入されたジスルフィド結合を含有し得る。いくつかの実施形態では、天然ジスルフィド結合は存在しない。いくつかの実施形態では、天然鎖間ジスルフィド結合を形成する、(例えば、α鎖およびβ鎖の定常ドメイン中の)1つまたは複数の天然システインが、例えばセリンまたはアラニンなどの別の残基によって置換される。いくつかの実施形態では、導入されたジスルフィド結合は、例えばα鎖およびβ鎖の定常ドメイン中などの、αおよびβ鎖上の非システイン残基をシステインに変異させることによって形成され得る。TCRの例示的非天然ジスルフィド結合は、国際公開PCT番号WO2006/000830号およびWO2006/037960号に記載される。いくつかの実施形態では、システインは、α鎖の残基Thr48およびβ鎖のSer57に、α鎖の残基Thr45およびβ鎖のSer77に、α鎖の残基Tyr10およびβ鎖のSer17に、α鎖の残基Thr45およびβ鎖のAsp59に、および/またはα鎖の残基Ser15およびβ鎖のGlu15に、導入され得る。いくつかの実施形態では、組換えTCR中の非天然システイン残基(例えば、生じた1つまたは複数の非天然ジスルフィド結合)の存在は、天然TCR鎖を含有するミスマッチTCR対の過剰発現が導入された細胞における、所望の組換えTCRの生成を支援し得る。
【0322】
いくつかの実施形態では、TCR鎖は膜貫通ドメインを含有する。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは正に帯電している。場合によっては、TCR鎖は細胞質テールを含有する。いくつかの態様では、TCRの各鎖(例えば、αまたはβ)は、1つのN末端免疫グロブリン可変ドメイン、1つの免疫グロブリン定常ドメイン、膜貫通領域、およびC末端の短い細胞質テールを有し得る。いくつかの実施形態では、TCRは、例えば、細胞質テールを通じて、シグナル伝達の媒介に関与するCD3複合体のインバリアントタンパク質と結合する。場合によっては、この構造は、TCRが、CD3およびそのサブユニットのような別の分子と結合できるようにする。例えば、膜貫通領域を有する定常ドメインを含有するTCRは、タンパク質を細胞膜に固定し、CD3シグナル伝達装置または複合体のインバリアントサブユニットと結合してもよい。CD3シグナル伝達サブユニット(例えば、CD3γ、CD3δ、CD3ε、およびCD3ζ鎖)の細胞内テールは、TCR複合体のシグナル伝達能力に関与する、1つまたは複数の免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフまたはITAMを含有する。
【0323】
いくつかの実施形態では、TCRは完全長TCRである。いくつかの実施形態では、TCRは抗原結合部分である。いくつかの実施形態では、TCRは二量体TCR(dTCR)である。いくつかの実施形態では、TCRは、一本鎖TCR(sc-TCR)である。TCRは、細胞結合形態または可溶性形態であってもよい。いくつかの実施形態では、提供される方法の目的のために、細胞結合形態のTCRは細胞の表面で発現される。
【0324】
いくつかの実施形態では、dTCRは、TCRα鎖可変領域配列に対応する配列がTCRα鎖定常領域細胞外配列に対応する配列のN末端に融合される第1のポリペプチドと、TCRβ鎖可変領域配列に対応する配列がTCRβ鎖定常領域細胞外配列に対応する配列のN末端に融合される第2のポリペプチドとを含有し、第1および第2のポリペプチドはジスルフィド結合によって連結されている。いくつかの実施形態では、結合は、天然二量体αβTCRに存在する天然鎖間ジスルフィド結合に相当し得る。いくつかの実施形態では、鎖間ジスルフィド結合は、天然のTCRには存在しない。例えば、いくつかの実施形態では、1つまたは複数のシステインは、dTCRポリペプチド対の定常領域細胞外配列に組み込まれ得る。場合によっては、天然および非天然ジスルフィド結合の双方が望ましいこともある。いくつかの実施形態では、TCRは、膜貫通配列を含有して膜に固着する。
【0325】
いくつかの実施形態では、dTCRは、可変αドメイン、定常αドメイン、定常αドメインC末端に付着する第1の二量体化モチーフを含有するTCRα鎖と、可変βドメイン、定常βドメイン、定常βドメインC末端に付着する第1の二量体化モチーフを含んでなるTCRβ鎖とを含有し、第1および第2の二量体化モチーフは容易に相互作用して、第1の二量体化モチーフのアミノ酸と第2の二量体化モチーフのアミノ酸との間に共有結合を形成し、TCRα鎖およびTCRβ鎖を一緒に連結する。
【0326】
いくつかの実施形態では、TCRは、MHC-ペプチド複合体を結合できるα鎖およびβ鎖を含有する単一のアミノ酸鎖である、scTCRである。典型的に、scTCRは、当業者に知られている方法を用いて作製され得て、例えば、国際公開PCT番号WO1996/13593号、WO1996/18105号、WO1999/18129号、WO2004/033685号、WO2006/037960号、WO2011/044186号;米国特許第7,569,664号;およびSchlueter,C.J.et al.J.Mol.Biol.256,859(1996)を参照されたい。
【0327】
いくつかの実施形態では、scTCRは、TCRα鎖可変領域に対応するアミノ酸配列によって構成される第1のセグメント、TCRβ鎖定常ドメイン細胞外配列に対応するアミノ酸配列N末端に融合したTCRβ鎖可変領域配列に対応するアミノ酸配列によって構成される第2のセグメント、および第1のセグメントのC末端を第2のセグメントのN末端に連結するリンカー配列を含有する。
【0328】
いくつかの実施形態では、scTCRは、TCRβ鎖可変領域に対応するアミノ酸配列によって構成される第1のセグメント、TCRα鎖定常ドメイン細胞外配列に対応するアミノ酸配列N末端に融合したTCRα鎖可変領域配列に対応するアミノ酸配列によって構成される第2のセグメント、および第1のセグメントのC末端を第2のセグメントのN末端に連結するリンカー配列を含有する。
【0329】
いくつかの実施形態では、scTCRは、α鎖細胞外定常ドメイン配列のN末端と融合したα鎖可変領域配列によって構成される第1のセグメントと、配列β鎖の細胞外定常および膜貫通配列のN末端に融合したβ鎖可変領域配列によって構成される第2のセグメントと、任意選択的に、第1のセグメントのC末端を第2のセグメントのN末端に連結するリンカー配列とを含有する。
【0330】
いくつかの実施形態では、scTCRは、β鎖細胞外定常ドメイン配列のN末端と融合したTCRβ鎖可変領域配列によって構成される第1のセグメントと、配列α鎖の細胞外定常および膜貫通配列のN末端に融合したα鎖可変領域配列によって構成される第2のセグメントと、任意選択的に、第1のセグメントのC末端を第2のセグメントのN末端に連結するリンカー配列とを含有する。
【0331】
いくつかの実施形態では、scTCRがMHC-ペプチド複合体に結合するためには、その可変領域配列がこのような結合のために配向されるように、α鎖およびβ鎖が対形成されなくてはならない。scTCRにおけるαおよびβの対形成を促進する様々な方法が、当該技術分野で周知である。いくつかの実施形態では、α鎖およびβ鎖を連結して単一のポリペプチド鎖を形成する、リンカー配列が含まれる。いくつかの実施形態では、リンカーの長さが、scTCRの標的ペプチド-MHC複合体への結合を阻止または減少させるほどに長くないことを確実にしながら、リンカーは、α鎖のC末端とβ鎖のN末端との間の距離に広がる十分な長さを有するべきであり、または逆もまた同様である。
【0332】
いくつかの実施形態では、第1および第2のTCRセグメントを連結するscTCRのリンカーは、TCR結合特異性を保ちながら単一のポリペプチド鎖を形成できる任意のリンカーであり得る。いくつかの実施形態では、リンカー配列は、例えば、式、-P-AA-P-を有してもよく、式中、Pはプロリンであり、AAはアミノ酸がグリシンおよびセリンであるアミノ酸配列を表す。いくつかの実施形態では、第1および第2のセグメントは、その可変領域配列がこのような結合のために配向するように対形成する。場合によっては、リンカーは、第1のセグメントのC末端と第2のセグメントのN末端との間の距離に広がる十分な長さを有し、または逆もまた同様であるが、scTCRの標的リガンドへの結合を阻止または減少させるほどには長くない。いくつかの実施形態では、リンカーは、例えば、29、30、31または32個のアミノ酸などの、10~30個のアミノ酸または26~41個のアミノ酸残基などの、約10~45個のアミノ酸を含有し得る。いくつかの実施形態では、リンカーは、式、-PGGG-(SGGGG)-P-または-PGGG-(SGGGG)-P-を有し、式中、Pはプロリンであり、Gはグリシンであり、Sはセリンである。いくつかの実施形態では、リンカーは、配列
を有する。
【0333】
いくつかの実施形態では、scTCRは、単一アミノ酸鎖の残基間にジスルフィド結合を含有し、それは場合によっては、一本鎖分子のαおよびβ領域間の対形成の安定性を促進し得る(例えば、米国特許第7,569,664号を参照されたい)。いくつかの実施形態では、scTCRは、一本鎖分子の、α鎖の定常ドメインの免疫グロブリン領域の残基とβ鎖の定常ドメインの免疫グロブリン領域の残基とを連結する、共有結合型ジスルフィド結合を含有する。いくつかの実施形態では、ジスルフィド結合は、天然dTCRに存在する天然ジスルフィド結合に対応する。いくつかの実施形態では、天然TCR中にジスルフィド結合は存在しない。いくつかの実施形態では、ジスルフィド結合は、例えば、1つまたは複数のシステインを、scTCRポリペプチドの第1鎖および第2鎖領域の細胞外配列の定常領域に組み込むことで、非天然ジスルフィド結合に導入される。例示的なシステイン変異としては、上記のいずれかが挙げられる。場合によっては、天然および非天然ジスルフィド結合の双方が望ましいこともある。
【0334】
scTCRは、非ジスルフィド連結切断型TCRであり、そのC末端に融合した異種ロイシンジッパーが、鎖結合を促進する(例えば、国際公開PCT番号WO1999/60120号を参照されたい)。いくつかの実施形態では、scTCRは、ペプチドリンカーを介してTCRβ可変ドメインに共有結合する、TCRα可変ドメインを含有する(例えば、国際公開PCT番号WO1999/18129号を参照されたい)。
【0335】
いくつかの実施形態では、dTCRまたはscTCRをはじめとするTCRのいずれかを、T細胞表面に活性TCRをもたらすシグナル伝達ドメインに連結させ得る。いくつかの実施形態では、TCRは、T細胞表面に発現される。いくつかの実施形態では、TCRは、膜貫通配列に対応する配列を含有する。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、CαまたはCβ膜貫通ドメインであり得る。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、例えば、CD3z、CD28またはB7.1からの膜貫通領域などの非TCR起源に由来し得る。いくつかの実施形態では、TCRは、細胞質配列に対応する配列を含有する。いくつかの実施形態では、TCRは、CD3zシグナル伝達ドメインを含有する。いくつかの実施形態では、TCRは、CD3とTCR複合体を形成できる。
【0336】
いくつかの実施形態では、TCRまたはその抗原結合断片は、約10-5~10-12Mおよびその中の全ての個々の値および範囲にわたる、標的抗原に対する平衡結合定数を有する親和性を示す。いくつかの実施形態では、標的抗原は、MHC-ペプチド複合体またはリガンドである。
【0337】
いくつかの実施形態では、TCRまたはその抗原結合部分は、結合特性などの1つまたは複数の性質が改変されている、組換え的に生成された天然タンパク質またはその突然変異型であってもよい。いくつかの実施形態では、TCRは、ヒト、マウス、ラット、またはその他の哺乳類などの様々な動物種の1つから誘導されてもよい。いくつかの実施形態では、TCRをコードするベクターを作製するために、目的のTCRを発現するT細胞クローンから単離された全cDNAからα鎖およびβ鎖がPCR増幅され、発現ベクターにクローン化され得る。いくつかの実施形態では、αおよびβ鎖は、合成的に作製され得る。
【0338】
いくつかの実施形態では、TCRαおよびβ鎖は単離され、遺伝子発現ベクターにクローン化される。いくつかの実施形態では、転写単位は、単一プロモーターからのメッセージによる(例えば、α鎖およびβ鎖をコードする)遺伝子産物の同時発現を可能にする、IRES(配列内リボソーム進入部位)を含有する、バイシストロニック単位として操作され得る。あるいは、場合によっては、単一のプロモーターが、単一のオープンリーディングフレーム(ORF)中に、自己切断ペプチド(例えば、T2A)またはプロテアーゼ認識部位(例えば、フューリン)をコードする配列によって互いに隔てられた、複数の遺伝子(例えば、αおよびβ鎖をコードする)を含有するRNAの発現を誘導してもよい。したがって、ORFは単一のポリタンパク質をコードし、それは、翻訳中(T2Aの場合)または翻訳後のいずれかにおいて、個々のタンパク質に切断される。場合によっては、T2Aなどのペプチドは、リボソームに、2A要素のC末端におけるペプチド結合の合成のスキップ(リボソームスキッピング)を引き起こし得て、2A配列の末端と下流の次のペプチドとの間の分離をもたらす。リボソームスキッピングを誘導し得るペプチドをはじめとする2A切断ペプチドの例は、T2A、P2A、E2A、およびF2Aである。いくつかの態様では、αおよびβ鎖は、異なるベクターにクローン化される。いくつかの実施形態では、作製されたα鎖およびβ鎖は、例えばレンチウイルスなどのレトロウイルスベクターに組み込まれる。
【0339】
いくつかの実施形態では、TCRα遺伝子およびβ遺伝子は、双方の鎖が同時発現するように、ピコルナウイルス2Aリボソームスキップペプチドを介して連結される。いくつかの実施形態では、TCRの遺伝子移入は、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターを通じて、またはトランスポゾンを通じて達成される(例えば、Baum et al.(2006)Molecular Therapy:The Journal of the American Society of Gene Therapy.13:1050-1063;Frecha et al.(2010)Molecular Therapy:The Journal of the American Society of Gene Therapy.18:1748-1757;およびHackett et al.(2010)Molecular Therapy:The Journal of the American Society of Gene Therapy.18:674-683を参照されたい)。
【0340】
ベクターおよび操作方法
提供される方法は、このような結合分子を発現する遺伝子操作された細胞を生成するために、CARまたはTCRをはじめとする組換え受容体を発現させることを含む。遺伝子操作は、一般に、レトロウイルス形質導入、形質移入、または形質転換などによって、組換えまたは操作された成分をコードする核酸を細胞に導入することを伴う。
【0341】
いくつかの実施形態では、遺伝子導入は、例えば、サイトカインまたは活性化マーカーの発現によって測定されるように、増殖、生存、および/または活性化などの応答を誘導する刺激と組み合わせることなどによって、最初に細胞を刺激することと、それに続く、活性化細胞の形質導入、および臨床適用に十分な数への培養の拡張によって達成される。
【0342】
例えば、CARのような抗原受容体などの遺伝子操作された成分を導入するための様々な方法は周知であり、提供された方法および組成物と共に使用されてもよい。例示的な方法としては、例えば、レトロウイルスまたはレンチウイルスなどのウイルス、形質導入、トランスポゾン、および電気穿孔などを通じた、受容体をコードする核酸を移入するための方法が挙げられる。
【0343】
いくつかの実施形態では、組換え受容体をコードする核酸が、適切な発現ベクターにクローン化され得る。発現ベクターは、任意の適切な組換え発現ベクターであり得て、任意の適切な宿主を形質転換またはトランスフェクトするために使用され得る。適切なベクターとしては、例えば、プラスミドおよびウイルスなどの、増殖および拡張のために、または発現またはその双方のために、設計されたものなどのベクターが挙げられる。
【0344】
いくつかの実施形態では、ベクターは、pUCシリーズ(Fermentas Life Sciences)、pBluescriptシリーズ(Stratagene,La Jolla,Calif.)、pETシリーズ(Novagen,Madison,Wis.)、pGEXシリーズ(Pharmacia Biotech,Uppsala,Sweden)、またはpEXシリーズ(Clontech,Palo Alto,Calif.)のベクターであり得る。場合によっては、λG10、λGT11、λZapII(Stratagene)、λEMBL4、およびλNM1149などのバクテリオファージベクターもまた使用され得る。いくつかの実施形態では、pBI01、pBI101.2、pBI101.3、pBI121、およびpBIN19(Clontech)をはじめとする植物発現ベクターが使用され得る。いくつかの実施形態では、動物発現ベクターとしては、pEUK-Cl、pMAM、およびpMAMneo(Clontech)が挙げられる。いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターなどのウイルスベクターが使用される。
【0345】
いくつかの実施形態では、組換え発現ベクターは、標準的な組換えDNA技術を用いて調製され得る。いくつかの実施形態では、ベクターは、適切な場合、DNAベースまたはRNAベースかどうかを勘案して、ベクターが導入される宿主タイプ(例えば、細菌、真菌、植物、または動物)に特異的な、転写および翻訳開始および終止コドンなどの制御配列を含有し得る。いくつかの実施形態では、ベクターは、組換え受容体をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結した、非天然プロモーターを含有し得る。いくつかの実施形態では、プロモーターは、非ウイルスプロモーターであり得て、またはサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーター、およびマウス幹細胞ウイルスの長末端反復に見いだされるプロモーターなどのウイルスプロモーターであり得る。当業者に公知のその他のプロモーターもまた検討される。
【0346】
いくつかの実施形態では、組換え核酸は、例えば、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するベクターなどの組換え感染性ウイルス粒子を使用して細胞に移入される。いくつかの実施形態では、組換え核酸は、γ-レトロウイルスベクターなどの組換えレンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターを使用して、T細胞に移入される(例えば、Koste et al.(2014)Gene Therapy 2014 Apr 3.doi:10.1038/gt.2014.25;Carlens et al.(2000)Exp Hematol 28(10):1137-46;Alonso-Camino et al.(2013)Mol Ther Nucl Acids 2,e93;Park et al.,Trends Biotechnol.2011 November 29(11):550-557を参照されたい)。
【0347】
いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターは、例えば、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)、マウス胚性幹細胞ウイルス(MESV)、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)、脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)、またはアデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するレトロウイルスベクターなどのように、長末端反復配列(LTR)を有する。大多数のレトロウイルスベクターは、マウスレトロウイルスに由来する。いくつかの実施形態では、レトロウイルスとしては、任意の鳥類または哺乳類細胞源に由来するものが挙げられる。レトロウイルスは、典型的には広宿主性であり、これはヒトをはじめとするいくつかの生物種の宿主細胞に感染できることを意味する。一実施形態では、発現される遺伝子は、レトロウイルスgag、polおよび/またはenv配列を置換する。いくつかの例示的なレトロウイルス系が、(例えば、米国特許第5,219,740号;米国特許第6,207,453号;米国特許第5,219,740号;Miller and Rosman(1989)BioTechniques 7:980-990;Miller,A.D.(1990)Human Gene Therapy 1:5-14;Scarpa et al.(1991)Virology 180:849-852;Burns et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:8033-8037;およびBoris-Lawrie and Temin (1993)Cur.Opin.Genet.Develop.3:102-109に)記載されている。
【0348】
レンチウイルス形質導入の方法は、当技術分野で公知である。例示的方法は、例えば、Wang et al.(2012)J.Immunother.35(9):689-701;Cooper et al.(2003)Blood.101:1637-1644;Verhoeyen et al.(2009)Methods Mol Biol.506:97-114;およびCavalieri et al.(2003)Blood.102(2):497-505に記載される。
【0349】
いくつかの実施形態では、組換え核酸は、電気穿孔を通じてT細胞に移入される(例えば、Chicaybam et al,(2013)PLoS ONE 8(3):e60298 and Van Tedeloo et al.(2000)Gene Therapy 7(16):1431-1437を参照されたい)。いくつかの実施形態では、組換え核酸は、遺伝子転位を通じてT細胞に移入される(例えば、Manuri et al.(2010)Hum Gene Ther 21(4):427-437;Sharma et al.(2013)Molec Ther Nucl Acids 2,e74;およびHuang et al.(2009)Methods Mol Biol 506:115-126を参照されたい)。免疫細胞に遺伝物質を導入し発現するその他の方法としては、リン酸カルシウム形質移入(例えば、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York.N.Y.に記載されるように)、プロトプラスト融合、カチオン性リポソーム媒介形質移入;タングステン粒子促進微粒子衝撃(Johnston,Nature,346:776-777(1990));およびリン酸ストロンチウムDNA共沈殿(Brash et al.,Mol.Cell Biol.,7:2031-2034(1987))が挙げられる。
【0350】
組換え生成物をコードする核酸を移入するためのその他のアプローチおよびベクターは、例えば、国際特許出願公開番号WO2014/055668号、および米国特許第7,446,190号に記載されるものである。
【0351】
いくつかの状況では、刺激因子(例えば、リンフォカインまたはサイトカイン)の過剰発現は、対象にとって有毒なこともある。したがって、いくつかの状況では、操作された細胞は、養子免疫療法における投与の場合のように、インビボで細胞が負の選択を受けやすくする遺伝子セグメントを含む。例えば、いくつかの態様では、細胞は、それらが投与される患者のインビボ状態の変化の結果として排除され得るように、操作される。負の選択可能な表現型は、例えば化合物などの投与された作用物質に対する感受性を与える、遺伝子の挿入に起因してもよい。負の選択遺伝子としては、ガンシクロビル感受性を与える単純ヘルペスウイルスI型チミジンキナーゼ(HSV-I TK)遺伝子(Wigler et al.,Cell II:223,1977);細胞ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子、細胞アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)遺伝子、細菌シトシンデアミナーゼ(Mullen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.89:33(1992))が挙げられる。
【0352】
いくつかの態様では、細胞はさらに操作されて、サイトカインまたはその他の因子の発現を促進する。
【0353】
例えば、導入される遺伝子などの追加的な核酸としては、移入された細胞の生存および/または機能を促進することなどによって、治療法の有効性を改善するもの;インビボ生存または局在化を評価するためなどの細胞の選択および/または評価のための遺伝的マーカーを提供する遺伝子;例えば、Lupton S.D.et al.,Mol.and Cell Biol.、11:6(1991);およびRiddell et al.,Human Gene Therapy 3:319-338(1992)によって記載されるように、細胞をインビボにおける負の選択に対して感受性にすることによって、安全性を改善するための遺伝子が挙げられ、優勢な正の選択マーカーと負の選択マーカーとの融合に由来する、二機能性選択融合遺伝子の使用について記載する、LuptonらによるPCT/US91/08442およびPCT/US94/05601などの文献もまた参照されたい。例えば、Riddellらに付与された米国特許第6,040,177号第14~17欄を参照されたい。
【0354】
組成物および製剤
このような細胞の集団、このような細胞を含有する、および/またはこのような細胞が富化されている組成物もまた提供され、その中では、組換え受容体を発現する細胞が、組成物中の全細胞の、またはT細胞またはCD8+またはCD4+細胞などの特定のタイプの、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上を構成する。組成物としては、養子細胞療法などの投与のための薬学的組成物および製剤が挙げられる。細胞および組成物が、例えば患者などの対象に投与される治療方法もまた提供される。
【0355】
所定の用量またはその一部分の投与のための細胞数を含む単位用量形態の組成物などの、薬学的組成物および製剤をはじめとする、投与のための細胞を含む組成物もまた提供される。薬学的組成物および製剤は、一般に、1つまたは複数の任意選択の薬学的に許容可能な担体または賦形剤を含む。いくつかの実施形態では、組成物は、少なくとも1つの追加的な治療剤を含む。
【0356】
「医薬製剤」という用語は、その中に含有される活性成分の生物学的活性が有効になるような形態であり、製剤が投与される対象にとって許容できないほど毒性である追加の成分を含有しない、調製物を指す。
【0357】
「薬学的に許容可能な担体」は、対象にとって無毒である、活性成分以外の医薬製剤中の成分を指す。薬学的に許容可能な担体としては、緩衝液、賦形剤、安定剤、または保存料が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0358】
いくつかの態様では、担体の選択は、特定の細胞および/または投与方法によって、ある程度決定される。したがって、様々な適切な製剤が存在する。例えば、薬学的組成物は保存料を含有し得る。適切な保存料としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、および塩化ベンザルコニウムが挙げられる。いくつかの態様では、2種以上の保存料の混合物が使用される。保存料またはそれらの混合物は、典型的に、全組成物の約0.0001重量%~約2重量%の量で存在する。担体は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)によって記載される。薬学的に許容可能な担体は、一般に、用いられる用量および濃度でレシピエントにとって無毒であり、リン酸塩、クエン酸塩、およびその他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンなどの抗酸化剤;保存料(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子量(約10未満の残基)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンなどの単糖類、二糖類、およびその他の炭水化物;EDTAなどのキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0359】
いくつかの態様では、緩衝剤が組成物に含まれる。適切な緩衝剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸カリウム、および様々なその他の酸および塩が挙げられる。いくつかの態様では、2種以上の緩衝剤の混合物が使用される。緩衝剤またはそれらの混合物は、典型的に、全組成物の約0.001重量%~約4重量%の量で存在する。投与可能な薬学的組成物を調製するための方法は、公知である。例示的方法は、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Lippincott Williams & Wilkins;21st ed.(May1、2005)により詳細に記載される。
【0360】
製剤は、水溶液を含み得る。製剤または組成物はまた、細胞で治療される特定の適応症、疾患、または病状に有用であり、好ましくは、細胞に対する相補的活性があって各活性が互いに悪影響を及ぼさないものである、2種以上の活性成分もまた含有してもよい。このような活性成分は、意図された目的に有効な量で組み合わされて、適切に存在する。したがって、いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、例えば、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、メトトレキサート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチン、および/またはビンクリスチンのような化学療法剤などのその他の薬学的に活性な作用物質または薬物をさらに含む。
【0361】
いくつかの実施形態における薬学的組成物は、治療有効量または予防有効量などの、疾患または病状を治療または予防するのに有効な量で細胞を含有する。いくつかの実施形態における治療的または予防的有効性は、治療対象の定期的な評価によってモニタリングされる。所望の投与量は、細胞の単回ボーラス投与、細胞の複数回ボーラス投与、または細胞の持続注入投与によって送達され得る。
【0362】
細胞および組成物は、標準的な投与技術、製剤、および/または装置を用いて投与されてもよい。細胞の投与は、自己由来または異種であり得る。例えば、免疫応答性細胞または前駆細胞は、1対象から得られ得て、同一対象または異なる適合性対象に投与され得る。免疫応答性細胞由来またはそれらの子孫由来(例えば、インビボ、エクスビボまたはインビトロ由来)の末梢血は、カテーテル投与、全身注射、局所注射、静脈内注射または非経口投与をはじめとする、局所注射を通じて投与され得る。治療用組成物(例えば、遺伝子修飾免疫応答細胞を含有する薬学的組成物)が投与される場合、それは、一般に、単位投与量の注射可能な形態(溶液、懸濁液、エマルジョン)で製剤化される。
【0363】
製剤としては、経口、静脈内、腹腔内、皮下、肺、経皮、筋肉内、鼻腔内、バッカル、舌下、または坐薬投与のためのものが挙げられる。いくつかの実施形態では、細胞集団は非経口的に投与される。「非経口」という用語は、本明細書の用法では、静脈内、筋肉内、皮下、直腸内、膣内、および腹腔内投与を含む。いくつかの実施形態では、細胞は、静脈内、腹腔内または皮下注射による末梢全身送達を用いて対象に投与される。
【0364】
いくつかの態様における組成物は、例えば、等張性水溶液、懸濁液、エマルジョン、分散液などの滅菌液体調製物または粘稠組成物として提供され、いくつかの態様では、それは選択されたpHに緩衝化されてもよい。液体製剤は、通常、ゲル、その他の粘稠組成物、および固体組成物よりも調製するのが容易である。さらに、液体組成物は、特に、注射によって投与するのに、いくらか都合が良い。他方、粘稠組成物は、特定の組織とのより長い接触時間を提供するために、適切な粘度範囲内で製剤化され得る。液体または粘稠組成物は担体を含んでなり得て、それは例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)、およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒体であり得る。
【0365】
無菌注射液は、滅菌水、生理学的生理食塩水、グルコース、デキストロースなどの適切な担体、希釈剤、または賦形剤の混合物などの溶媒に、細胞を組み入れることによって、調製され得る。組成物は、投与経路および所望の調製物次第で、湿潤剤、分散剤または乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝剤、ゲル化または増粘添加剤、保存料、着香剤および/または着色料などの補助剤を含有し得る。いくつかの態様では、標準的なテキストが、適切な調製物を作製するために参照されてもよい。
【0366】
抗菌保存料、抗酸化剤、キレート化剤、および緩衝剤をはじめとする、組成物の安定性および無菌性を増強する様々な添加剤が添加され得る。微生物活動の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、およびソルビン酸などの様々な抗菌剤および抗真菌剤によって確実にされ得る。例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる作用物質の使用により、注射用医薬品形態の持続的吸収がもたらされ得る。
【0367】
インビボ投与のために使用される製剤は、一般に滅菌されている。滅菌は、例えば、滅菌濾過膜を通過させることによって容易に達成されてもよい。
【0368】
養子細胞療法における投与および使用の方法
本明細書に記載の細胞、集団、および組成物を投与する方法、ならびにがんをはじめとする疾患、病状、および障害を治療または予防するためのこのような本明細書に記載の細胞、集団、および組成物の使用が、本明細書に提供される。いくつかの実施形態では、細胞、集団、および組成物は、例えば、養子T細胞療法などの養子細胞療法を通じて治療される、特定の疾患または病状を有する対象または患者に投与される。いくつかの実施形態では、インキュベーションおよび/またはその他の処理工程に続いて、操作された組成物および最終生成組成物などの提供される方法によって調製された細胞および組成物は、疾患または病状を有しまたはリスクがある対象などの対象に投与される。いくつかの態様では、それによって方法は、操作されたT細胞によって認識される抗原を発現するがんにおける腫瘍量を低下させることなどによって、例えば、疾患または病状の1つまたは複数の症状を寛解させるなどして、治療する。
【0369】
養子細胞療法のための細胞の投与方法は公知であり、提供される方法および組成物に関連して使用されてもよい。例えば、養子T細胞療法方法は、例えば、Gruenbergらに付与された米国特許出願公開第2003/0170238号;Rosenbergに付与された米国特許第4,690,915号;Rosenberg(2011)Nat Rev Clin Oncol.8(10):577-85に記載される)。例えば、Themeli et al.(2013)Nat Biotechnol.31(10):928-933;Tsukahara et al.(2013)Biochem Biophys Res Commun 438(1):84-9;Davila et al.(2013)PLoS ONE 8(4):e61338を参照されたい。
【0370】
本明細書の用法では、「対象」は、ヒトまたはその他の動物などの哺乳類であり、典型的にヒトである。いくつかの実施形態では、例えば、細胞、細胞集団、または組成物が与される患者などの対象は、哺乳類であり、典型的にヒトなどの霊長類である。いくつかの実施形態では、霊長類は、サルまたは類人猿である。対象は男性または女性であってよく、乳児、若年者、青年、成人、および老人対象をはじめとする、任意の適切な年齢であり得る。いくつかの実施形態では、対象は、齧歯類などの非霊長類哺乳類である。
【0371】
本明細書の用法では、「治療(treatment)」(および「治療する(treat)」または「治療する(treating)」などのその文法的変形)は、疾患または症状または障害、またはそれに関連する症状、悪影響または転帰、または表現型の完全なまたは部分的な改善または低下を指す。治療の望ましい効果としては、疾患の発生または再発の予防、症状の緩和、疾患の任意の直接的または間接的病理学的帰結の減少、転移の予防、疾患進行速度の低下、病態の改善または一時的緩和、および寛解または予後の改善が挙げられるが、これに限定されるものではない。この用語は、疾患の完全な治癒、またはあらゆる症状の完全な消失、または全ての症状または転帰に対する効果を暗示するものではない。
【0372】
本明細書の用法では、「疾患の発生を遅延させる」とは、疾患(がんなど)の発症を延期し、妨げ、減速し、遅らせ、安定化し、抑制しおよび/または遅延させることを意味する。この遅延は、治療される疾患および/または個人の病歴に左右され、様々な時間であり得る。当業者には明白であるように、個人が疾患を発症しないという点で、十分なまたは顕著な遅延は、実質的に予防を包含し得る。例えば、転移の発生などの後期がんが、遅延されてもよい。
【0373】
本明細書の用法では、「予防する」は、疾患に罹りやすいがなおも疾患を診断されていない対象における、疾患の発生または再発に対する予防を提供することを含む。いくつかの実施形態では、提供される細胞および組成物を使用して、疾患の発生を遅延させ、または疾患の進行を減速する。
【0374】
本明細書の用法では、機能または活性を「抑制」することは、関心のある条件またはパラメータ以外は同じである条件と比較した場合に、あるいは別の条件と比較して、機能または活性を低下させることである。例えば、腫瘍増殖を抑制する細胞は、細胞の非存在下における腫瘍の増殖速度と比較して、腫瘍の増殖速度を低下させる。
【0375】
投与の文脈における、例えば、医薬製剤、細胞または組成物などの作用物質の「有効量」は、治療的または予防的結果などの所望の結果を達成するのに必要な投与量/量および必要な期間で、有効な量を指す。
【0376】
例えば、医薬製剤または細胞などの作用物質の「治療的有効量」は、疾患、病状、または障害の治療などの所望の治療的結果、および/または治療の薬物動態学的または薬力学的効果を達成するのに必要な投与量および期間で、有効な量を指す。治療有効量は、患者の疾患の状態、年齢、性別、および体重、そして投与される細胞集団などの要素によって異なってもよい。いくつかの実施形態では、提供される方法は、例えば治療有効量などの有効量で、細胞および/または組成物を投与することを伴う。
【0377】
「予防有効量」は、所望の予防的な結果を達成するのに必要な投与量および期間で、有効な量を指す。典型的には、しかし必須ではないが、予防的用量は、疾患の前にまたはその初期段階で、対象において使用されるので、予防有効量は治療有効量を下回るであろう。より低い腫瘍量の文脈では、いくつかの態様における予防有効量は、治療有効量よりも高いであろう。
【0378】
いくつかの実施形態では、対象は、例えば、化学療法、照射、および/または例えば同種異系HSCTのような造血幹細胞移植(HSCT)などの別の治療的介入による処置に続いて、持続性または再発性の疾患を有する。いくつかの実施形態では、投与は、対象が別の治療に対して抵抗性となったにもかかわらず、対象を効果的に治療する。
【0379】
養子細胞療法のための細胞の投与方法は公知であり、提供される方法および組成物に関連して使用されてもよい。例えば、養子T細胞療法方法は、例えば、Gruenbergらに付与された米国特許出願公開第2003/0170238号;Rosenbergに付与された米国特許第4,690,915号;Rosenberg(2011)Nat Rev Clin Oncol.8(10):577-85に記載される)。例えば、Themeli et al.(2013)Nat Biotechnol.31(10):928-933;Tsukahara et al.(2013)Biochem Biophys Res Commun 438(1):84-9;Davila et al.(2013)PLoS ONE 8(4):e61338を参照されたい。
【0380】
いくつかの実施形態では、例えば養子T細胞療法などの細胞療法は、細胞が、細胞治療を受ける対象から、またはこのような対象由来のサンプルから、単離され、および/または別の様式で調製される、自己由来移入によって実施される。したがって、いくつかの態様では、細胞は、例えば患者などの治療を必要とする対象に由来し、細胞は、単離および処理に続いて同一対象に投与される。
【0381】
いくつかの実施形態では、例えば養子T細胞療法などの細胞療法は、細胞が、例えば第1の対象などの細胞療法を受けるまたは最終的にそれを投与される対象以外の対象から単離され、および/または別の様式で調製される、同種異系移入によって実施される。このような実施形態では、細胞は、次に、例えば同一生物種の第2の対象などの異なる対象に投与される。いくつかの実施形態では、第1および第2の対象は、遺伝的に同一である。いくつかの実施形態では、第1および第2の対象は、遺伝的に類似している。いくつかの実施形態では、第2の対象は、第1の対象と同じHLAクラスまたはスーパータイプを発現する。
【0382】
いくつかの実施形態では、対象は、細胞または細胞を含有する組成物の投与前に、例えば腫瘍などの疾患または病状をターゲティングする治療剤によって治療されている。いくつかの態様では、対象は、難治性であるか、またはその他の治療剤に対して非応答性である。いくつかの実施形態では、対象は、例えば、化学療法、照射、および/または例えば同種異系HSCTのような造血幹細胞移植(HSCT)などの別の治療的介入による処置に続いて、持続性または再発性の疾患を有する。いくつかの実施形態では、投与は、対象が別の治療に対して抵抗性となっているにもかかわらず、対象を効果的に治療する。
【0383】
いくつかの実施形態では、対象は別の治療剤に応答性であり、治療剤による治療は疾病負荷を軽減する。いくつかの態様では、対象は当初、治療剤に応答性であるが、経時的に疾患または病状の再発を示す。いくつかの実施形態では、対象は再発性でない。いくつかのこのような実施形態では、対象は、例えば、高再発リスクなどの再発の高リスクがあると判定され、したがって細胞が予防的に投与されて、例えば、再発の可能性を低下させ、再発を予防する。
【0384】
いくつかの態様では、対象は、別の治療剤による以前の治療を受けていない。
【0385】
提供される組成物、細胞、方法、および使用によって治療される疾患、病状、および障害としては、固形腫瘍、血液学的悪性腫瘍、および黒色腫などの腫瘍;例えば、HIV、HCV、HBV、CMVなどのウイルスまたはその他の病原体による感染症などの感染性疾患;および寄生虫病が挙げられる。いくつかの実施形態では、疾患または病状は、腫瘍、がん、悪性腫瘍、新生物、またはその他の増殖性疾患もしくは障害である。このような疾患としては、白血病、リンパ腫、例えば、慢性リンパ球性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、難治性濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、無痛性B細胞リンパ腫、B細胞悪性腫瘍、結腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、皮膚がん、黒色腫、骨がん、および脳がん、卵巣がん、上皮がん、腎細胞がん、膵臓腺がん、ホジキンリンパ腫、子宮頸がん、結腸直腸がん、神経膠芽腫、神経芽腫、ユーイング肉腫、髄芽腫、骨肉腫、滑膜肉腫、および/または中皮腫が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0386】
いくつかの実施形態では、疾患または病状は、ウイルス、レトロウイルス、細菌、および原生動物性感染症、免疫不全症、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、アデノウイルス、BKポリオーマウイルスなどであるが、これに限定されるものではない、感染性疾患または病状である。いくつかの実施形態では、疾患または病状は、例えば関節リウマチ(RA)などの関節炎、I型糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、炎症性腸疾患、乾癬、強皮症、自己免疫甲状腺疾患、グレーブス病、クローン病多発性硬化症、喘息などの自己免疫または炎症性疾患または病状、および/または移植に関連する疾患または病状である。
【0387】
いくつかの実施形態では、疾患、障害または病状に関連する抗原は、ROR1、B細胞成熟抗原(BCMA)、炭酸脱水酵素9(CAIX)、tEGFR、Her2/neu(受容体チロシンキナーゼerbB2)、L1-CAM、CD19、CD20、CD22、メソテリン、CEA、およびB型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、上皮糖タンパク質2(EPG-2)、上皮糖タンパク質40(EPG-40)、EPHa2、erb-B2、erb-B3、erb-B4、erbB二量体、EGFR vIII、葉酸結合タンパク質(FBP)、FCRL5、FCRH5、胎児型アセチルコリン受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-α、IL-13R-α2、キナーゼ挿入ドメイン受容体(kdr)、κ軽鎖、ルイスY、L1-細胞接着分子、(L1-CAM)、黒色腫関連抗原(MAGE)-A1、MAGE-A3、MAGE-A6、黒色腫優先発現抗原(PRAME)、サバイビン、TAG72、B7-H6、IL-13受容体α2(IL-13Ra2)、CA9、GD3、HMW-MAA、CD171、G250/CAIX、HLA-AI MAGE Al、HLA-A2 NY-ESO-1、PSCA、葉酸受容体-a、CD44v6、CD44v7/8、vb6インテグリン、8H9、NCAM、VEGF受容体、5T4、胎児AchR、NKG2Dリガンド、CD44v6、二重抗原、がん精巣抗原、メソテリン、マウス型CMV、ムチン1(MUC1)、MUC16、PSCA、NKG2D、NY-ESO-1、MART-1、gp100、がん胎児性抗原(oncofetal antigen)、ROR1、TAG72、VEGF-R2、がん胎児性抗原(carcinoembryonic antigen;CEA)、Her2/neu、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、c-Met、GD-2、O-アセチル化GD2(OGD2)、CE7、ウィルムス腫瘍1(WT-1)、サイクリン、サイクリンA2、CCL-1、CD138、病原体-特異的抗原から選択される。
【0388】
いくつかの実施形態では、疾患または障害に関連する抗原は、オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、Ll-CAM、CD19、CD20、CD22、メソテリン、CEA、およびB型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、0EPHa2、ErbB2、3、もしくは4、FBP、胎児型アセチルコリンe受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-α、IL-13R-α2、kdr、κ軽鎖、ルイスY、L1-細胞接着分子、MAGE-A1、メソテリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gp100、がん胎児性抗原(oncofetal antigen)、ROR1、TAG72、VEGF-R2、がん胎児性抗原(carcinoembryonic antigen;CEA)、前立腺特異的抗原、PSMA、Her2/neu、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、およびMAGE A3および/またはビオチン化分子、および/またはHIV、HCV、HBVまたはその他の病原体によって発現される分子からなる群から選択される。
【0389】
いくつかの実施形態では、細胞は、所望の投与量で投与され、いくつかの態様では、所望の用量または細胞数または細胞型、および/または所望の細胞型比を含む。したがって、細胞の投与量は、いくつかの実施形態では、総細胞数(または体重1kg当たりの数)、およびCD4+対CD8+比などの個々の集団または亜型の所望の比率に基づく。いくつかの実施形態では、細胞の投与量は、個々の集団または個々の細胞型の細胞の所望の総数(または体重1kg当たりの数)に基づく。いくつかの実施形態では、投与量は、所望の総細胞数、所望の比率、および個々の集団の望ましい総細胞数などの特徴の組み合わせに基づく。
【0390】
いくつかの実施形態では、CD8+およびCD4+T細胞などの細胞の集団または亜型は、例えばT細胞の所望の用量などの所望の総細胞量で、またはその許容差異内で投与される。いくつかの態様では、所望の用量は、所望の細胞数であるか、または例えば細胞/kgなどの、細胞が投与される対象の体重単位当たりの所望の細胞数である。いくつかの態様では、所望の用量は、最小細胞数以上、または体重単位当たりの最小細胞数以上である。いくつかの態様では、所望の用量で投与される全総細胞のうち、個々の集団または亜型は、所望の出力比(CD4+対CD8+比など)で、またはその近くで存在し、例えば、このような比率の一定の許容差異または誤差の範囲内である。
【0391】
いくつかの実施形態では、細胞は、CD4+細胞の所望の用量および/またはCD8+細胞の所望の用量などの、個々の集団または亜型の細胞の1つまたは複数の所望の用量で、またはその許容差異内で投与される。いくつかの態様では、所望の用量は、亜型または集団の所望の細胞数であるか、または例えば細胞/kgなどの、細胞が投与される対象の体重単位当たりの所望の細胞数である。いくつかの態様では、所望の用量は、集団または亜型の最小細胞数、または体重単位当たりの集団または亜型の最小細胞数以上である。
【0392】
したがって、いくつかの実施形態では、投与量は、全細胞の所望の固定用量および所望の比率に基づき、および/または例えば個々の亜型または亜集団のそれぞれの1つまたは複数の所望の固定用量に基づく。したがって、いくつかの実施形態では、投与量は、T細胞の所望の固定または最小用量、およびCD4+対CD8+細胞の所望の比率に基づき、および/またはCD4+および/またはCD8+細胞の所望の固定または最小用量に基づく。
【0393】
特定の実施形態では、細胞または亜型の細胞の個々の集団は、例えば、100万~約500億個の細胞(例えば、約500万個の細胞、約2500万個の細胞、約5億個の細胞、約10億個の細胞、約50億個の細胞、約200億個の細胞、約300億個の細胞、約400億個の細胞、または前述の値の任意の2つによって画定される範囲)、例えば、約1000万~約1000億個の細胞(例えば、約2000万個の細胞、約3000万個の細胞、約4000万個の細胞、約6000万個の細胞、約7000万個の細胞、約8000万個の細胞、約9000万個の細胞、約100億個の細胞、約250億個の細胞、約500億個の細胞、約750億個の細胞、約900億個の細胞、または前述の値の任意の2つによって画定される範囲)、および場合によっては約1億個の細胞~約500億個の細胞(例えば、約1.2億個の細胞、約2.5億個の細胞、約3.5億個の細胞、約4.5億個の細胞、約6.5億個の細胞、約8億個の細胞、約9億個の細胞、約30億個の細胞、約300億個の細胞、約450億個の細胞)、またはこれらの範囲の間の任意の値などの約100万~約1000億個の細胞の範囲で対象に投与される。
【0394】
いくつかの実施形態では、全細胞の用量および/または細胞の個々の亜集団の用量は、例えば、1×10細胞/kg、1.5×10細胞/kg、2×10細胞/kg、または1×10細胞/kg体重、または約1×10細胞/kg、約1.5×10細胞/kg、約2×10細胞/kg、または約1×10細胞/kg体重などの、10~10個の細胞/kg体重などの、10~10細胞/キログラム(kg)体重または約10~約10細胞/キログラム(kg)体重の範囲内である。例えば、いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、1×10T細胞/kg、1.5×10T細胞/kg、2×10T細胞/kg、または1×10T細胞/kg体重、または、約1×10T細胞/kg、約1.5×10T細胞/kg、約2×10T細胞/kg、または約1×10T細胞/kg体重などの、10~10T細胞/kg体重などの、10~10T細胞/キログラム(kg)体重または約10~約10T細胞/キログラム(kg)体重で、またはその特定誤差範囲内で投与される。
【0395】
いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、1×10CD4+および/またはCD8+細胞/kg、1.5×10CD4+および/またはCD8+細胞/kg、2×10CD4+および/またはCD8+細胞/kg、または1×10CD4+および/またはCD8+細胞/kg体重、または約1×10CD4+および/またはCD8+細胞/kg、約1.5×10CD4+および/またはCD8+細胞/kg、約2×10CD4+および/またはCD8+細胞/kg、または約1×10CD4+および/またはCD8+細胞/kg体重などの、10~10CD4+および/またはCD8+細胞/kg体重などの、10~または10または約10~または約10CD4+および/またはCD8+細胞/キログラム(kg)体重で、またはその特定誤差範囲内で投与される。
【0396】
いくつかの実施形態では、細胞は、少なくとも約1×10、約2.5×10、約5×10、約7.5×10、または約9×10CD4+細胞、および/または少なくとも約1×10、約2.5×10、約5×10、約7.5×10、または約9×10CD8+細胞、および/または少なくとも約1×10、約2.5×10、約5×10、約7.5×10、または約9×10T細胞、またはそれより多いT細胞で、またはその特定誤差範囲内で、投与される。いくつかの実施形態では、細胞は、約10~1012または約1010~1011T細胞、約10~1012または約1010~1011CD4+細胞、および/または約10~1012または約1010~1011CD8+細胞で、またはその特定誤差範囲内で投与される。
【0397】
いくつかの実施形態では、細胞は、CD4+およびCD8+細胞または亜型などの複数の細胞集団または亜型の所望の出力比で、またはその耐容される範囲内で投与される。いくつかの態様では、所望の比率は特定の比率であり得て、または比率範囲であり得て、例えば、いくつかの実施形態では、所望の比率(例えば、CD4+対CD8+細胞比)は、5:1~5:1または約5:1~約5:1(または約1:5を超えて約5:1未満)、または1:3~3:1または約1:3~約3:1(または約1:3を超えて約3:1未満)、例えば、2:1~1:5または約2:1~約1:5(または、5:1、4.5:1、4:1、3.5:1、3:1、2.5:1、2:1、1.9:1、1.8:1、1.7:1、1.6:1、1.5:1、1.4:1、1.3:1、1.2:1、1.1:1、1:1.1、1:1.2、1:1.3、1:1.4、1:1.5、1:1.6、1:1.7、1:1.8、1:1.9、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5、または1:5、または約5:1、約4.5:1、約4:1、約3.5:1、約3:1、約2.5:1、約2:1、約1.9:1、約1.8:1、約1.7:1、約1.6:1、約1.5:1、約1.4:1、約1.3:1、約1.2:1、約1.1:1、約1:1.1、約1:1.2、約1:1.3、約1:1.4、約1:1.5、約1:1.6、約1:1.7、約1:1.8、約1:1.9、約1:2、約1:2.5、約1:3、約1:3.5、約1:4、約1:4.5、または約1:5などの、約1:5を超えて約2:1未満)である。いくつかの態様では、許容差異は、これらの範囲の間の任意の値をはじめとする、所望の比率の約1%、約2%、約3%、約4%約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%以内である。
【0398】
疾患の予防または治療のために、適切な投与量は、治療される疾患のタイプ、細胞または組換え受容体のタイプ、疾患の重症度および経過、細胞が予防目的または治療目的のために投与されるかどうか、以前の治療、患者の病歴および細胞への応答、および主治医の裁量に左右されてもよい。組成物および細胞は、いくつかの実施形態では、一度に、または一連の処置にわたって対象に適切に投与される。
【0399】
細胞は、例えば、ボーラス注入によって、例えば、静脈内または皮下注射、眼内注射、眼周囲注射、網膜下注射、硝子体内注射、経中隔注射、強膜下注射、脈絡膜内注射、前房内注射、結膜下注射、結膜下注射、テノン嚢下注射、球後注射、眼球周囲注射などの注射によって、または後強膜近傍送達などの任意の適切な手段によって投与され得る。いくつかの実施形態では、それらは、非経口、肺内、および鼻腔内、そして所望ならば、局所処置、病巣内投与によって投与される。非経口注入としては、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下投与が挙げられる。いくつかの実施形態では、所与の用量が、細胞の単回ボーラス投与によって投与される。いくつかの実施形態では、それは、例えば、3日間以下の期間にわたる細胞の複数回のボーラス投与によって、または細胞の持続注入投与によって投与される。
【0400】
いくつかの実施形態では、細胞は、例えば、細胞毒性薬または治療剤などの抗体または操作された細胞または受容体または作用物質などの別の治療的介入と共に、任意の順序で、同時または順次に実施されるなどの併用療法の一部として投与される。いくつかの実施形態における細胞は、1つまたは複数の追加的な治療剤と同時投与されるか、または別の治療的介入と関連して、同時にまたは任意の順序で連続して投与される。いくつかの状況では、細胞は、時間的に十分に近い別の治療法と共に同時投与され、その結果、細胞集団は、1つまたは複数の追加的な治療剤の効果を高め、またはその逆もまた同様である。いくつかの実施形態では、細胞は、1つまたは複数の追加的な治療剤の前に投与される。いくつかの実施形態では、細胞は、1つまたは複数の追加的な治療剤の後に投与される。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の追加的な作用物質は、持続性を高めるために、IL-2などのサイトカインを含む。いくつかの実施形態では、方法は、化学療法剤の投与を含んでなる。
【0401】
細胞の投与に続いて、いくつかの実施形態における操作された細胞集団の生物学的活性は、例えば、いくつかの既知の方法のいずれかによって測定される。評価されるパラメータとしては、インビボにおける例えばイメージングによる、またはエクスビボにおける例えばELISAまたはフローサイトメトリーによる、操作されたまたは天然のT細胞またはその他の免疫細胞の抗原への特異的結合が挙げられる。特定の実施形態では、操作された細胞が標的細胞を破壊する能力は、例えば、Kochenderfer et al.,J.Immunotherapy,32(7):689-702(2009)、およびHerman et al.J.Immunological Methods,285(1):25-40(2004)に記載される、細胞傷害性アッセイなどの当該技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて測定され得る。特定の実施形態では、細胞の生物学的活性は、CD 107a、IFNγ、IL-2、およびTNFなどの1つまたは複数のサイトカインの発現および/または分泌をアッセイすることによって測定される。いくつかの態様では、生物学的活性は、腫瘍量または負荷の減少などの臨床転帰を評価することによって測定される。
【0402】
特定の実施形態では、操作された細胞は、それらの治療効果または予防効果が増大するように、多数の様式でさらに修飾される。例えば、集団によって発現される操作されたCARまたはTCRは、直接的に、またはリンカーを介して間接的にのどちらかで、ターゲティング部分にコンジュゲートされ得る。例えば、CARまたはTCRなどの化合物をターゲティング部分にコンジュゲートさせる慣行は、当技術分野で公知である。例えば、Wadwa et al.,J.Drug Targeting 3:111(1995)、および米国特許第5,087,616号を参照されたい。
【実施例0403】
以下の実施例は単に例示的なものであり、本発明の範囲または内容を限定することを何ら意図するものではない。
【0404】
実施例1-gRNAの初期スクリーニング
商業的に合成されたgRNAをCas9とインビトロで複合化し、エレクトロポレーションを介して細胞にgRNA/Cas9リボ核タンパク質(RNP)を送達することによって、ガイドRNAをスクリーニングした。
【0405】
図1は、試験したgRNAのインデル頻度率(%)を示す。図2は、特定の例示的なgRNA対のゲノム編集効率(%)を示す。
【0406】
実施例2-T細胞内のTGFBR2に対するgRNA候補の分析
細胞のCRISPR-Cas9編集の目標は、可能な限り低い濃度のgRNA/Cas9複合体と、最も少ない数のオフターゲット切断事象とを使用して、標的遺伝子の最も高い割合のノックアウトを達成することである。TGFBR2遺伝子編集に最適なgRNA候補を決定するために、7つの潜在的なgRNAを試験した。様々な濃度のgRNA/Cas9 RNPをT細胞にトランスフェクトした。次いで、Illumina miSeq分析を使用して、インデル頻度を決定した。結果は、様々なgRNAのインデル頻度率(%)が20%から80%の範囲にあり、gRNAがいずれも2μMのRNP濃度で最も高いインデル頻度率(%)を達成したことを示す(図3)。その後、全実験に2μM RNP濃度を使用した。
【0407】
BCMA CAR T細胞に対するその後の分析のために、miSeq分析から選択gRNAを選択した。RNP再切断アッセイにSEQ ID NO:5050、5052、5093および5043のgRNAを使用して、TGFBR2遺伝子の編集率(%)を決定した。また、SEQ ID NO5043/5093の組合せを使用して、デュアルgRNAアプローチを試験した。SEQ ID NO:5043および5093の個々のgRNAは20~40%の編集を達成したに過ぎなかったが、組合せの方が効果的であり、約80%の編集率(%)の値が得られたことが見出された(図4A)。
【0408】
選択gRNAを用いてハイスループットシーケンシング分析を行って、インデル頻度率(%)を決定した。SEQ ID NO:aおよびbのgRNA、ならびにc/dのデュアルgRNAの組合せを試験した。驚くべきことに、選択したgRNAから95%もの高いインデル頻度率(%)が達成された(図4B)。
【0409】
インデル頻度率(%)はgRNAの有効性の有用な指標であるが、生じるインデルの一部は、フレーム内の挿入または欠失である可能性がある。そのようなフレーム内のインデルは、タンパク質産物がいくらかの活性を保持する修飾された遺伝子を生成する可能性がある。遺伝子ノックアウトを作製しようとする場合、フレーム外インデルが好ましい。実際に、試験されたgRNAが望ましいフレーム外インデルを生じさせていることを確認するために、生じた特定のタイプのインデルについて配列決定結果を分析した。結果は、SEQ ID NO:5052が最も高いインデル頻度率(%)をもたらしたのに対して、SEQ ID NO:5050の方が高いフレーム外インデル頻度率(%)をもたらしたことを示す(図5)。
【0410】
実施例3-初代T細胞および操作されたT細胞における遺伝子編集のインビトロ有効性
BCMAを標的とするCARを発現するように修飾された初代T細胞に対するTGFβの阻害効果を分析した。選択gRNAを使用してCRISPR‐Cas9システムを介して、編集されたTGFBR2遺伝子を有するように抗BCMA CAR T細胞をさらに修飾した。遺伝子編集のためのAAVS1対照と、未編集のTGFBR2遺伝子を有する抗BCMA CAR発現T細胞とを対照として使用した。10ng/ml TGFβの存在下または非存在下で、RPMI 8226多発性骨髄腫細胞株とこの細胞株を共培養した。過剰なTGFβの存在下では、初代T細胞および抗BCMA CAR T細胞は、インターフェロン-γ(IFNγ)の産生低下という予測される阻害効果を示す。しかし、遺伝子編集済み抗BCMA CAR T細胞では、TGFβの阻害効果がレスキューされ、IFNγ産生がTGFβを添加しない場合のレベルに回復する(図6)。
【0411】
T細胞増殖の阻害は、TGFβシグナル伝達によって引き起こされる作用の1つである(Tiemessen et al. Int.I mmunol. 15: 1495-1504. 2003)。細胞増殖に対するTGFβシグナル伝達の作用に対処するために、いくつかのgRNAを使用してTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドで抗BCMA CAR T細胞増殖をモニターした。TGFBR2遺伝子を編集すると、抗BCMA CAR T細胞は過剰なTGFβの存在下で増殖することができた(図7)。
【0412】
T細胞活性は、様々な刺激性受容体および阻害性受容体の発現の影響を受ける。TGFBR2遺伝子編集済み抗BCMA CAR T細胞に対して、CD25発現を評価した。TGFBR2遺伝子編集は、TGFβに曝露すると、対照細胞よりも高いレベルのCD25発現をもたらす(図8A)。また、過剰なTGFβの存在下および非存在下でのPD-1+細胞率(%)を測定することによって、阻害性受容体PD-1の発現を評価した。TGFBR2遺伝子編集済み抗BCMA CAR T細胞は、対照細胞よりも低いPD-1の増加を示した。驚くべきことに、遺伝子編集済み細胞はまた、TGFβを添加しなかった場合であっても、比較的少ないPD-1+細胞を生じさせた(図8B)。
【0413】
TGFβシグナル伝達経路の活性化により、Smad 2/3複合体のリン酸化が起こり、次いでこれがTGFβシグナル伝達経路の下流プロセスの多くを調節する。このため、リン酸化Smad 2/3は、細胞内のTGFβシグナル伝達の指標として使用されることが多い。TGFBR2遺伝子編集の有無にかかわらず、様々なCARを発現するように形質導入されたT細胞ではリン酸化Smad2/3が検出された。TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下で、AAVS1遺伝子編集対照を含むCAR発現T細胞を対照として使用した。過剰なTGFβは、未編集細胞ではSmad 2/3リン酸化の予測される増加をもたらすが、TGFBR2遺伝子編集済み細胞は、TGFβの添加の有無にかかわらず、同じレベルのSmad 2/3リン酸化を維持した(図9)。結果は、TGFBR2 CRISPR遺伝子編集アプローチがTGFβシグナル伝達経路のサイレンシングに効果的であることを示している。
【0414】
様々なCAR T細胞バックグラウンドでのTGFBR2遺伝子編集の効果をさらに分析するために、TGFβの存在下および非存在下でGzmBレベルを検出した。TGFβの存在下(10ng/ml)または非存在下で、AAVS1遺伝子編集対照を含むCAR発現T細胞を対照として使用した。GzmB細胞内染色の結果は、TGFBR2遺伝子編集がTGFβの存在下でGzmB発現を維持することを明らかにしている(図10)。
【0415】
サイトカイン検出アッセイを使用して、図10に記載されているのと同様の実験でIFNγ産生を分析した。GzmB発現の以前の結果と一致して、IFNγ産生は維持され、過剰なTGFβの条件での対照と比較してTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドであっても増加した(図11)。
【0416】
ThermoFisher製のEdu Click-Itアッセイを使用して、図10および図11に記載されているのと同様の実験で細胞増殖を分析した。過剰なTGFβの条件では、対照と比較して、TGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドで細胞増殖が維持された(図12)。
【0417】
実施例3の総合的な結果は、TGFBR2遺伝子を編集するためにCRISPR-Cas9遺伝子編集システムを使用する利点を示している。シングルおよびデュアルgRNAアプローチを使用すると、CAR T細胞のバックグラウンドでTGFβシグナル伝達経路を効果的に抑制することができる。
【0418】
実施例4-TGFBR2ドミナントネガティブアプローチとCRISPR-Cas9遺伝子編集アプローチとの比較
TGFβシグナル伝達を無効にする別のアプローチは、TGFBR2のドミナントネガティブ型(DN)を発現させることである。このバージョンのTGFBR2は、TGFβ結合について野生型TGFBR2と競合するため、効果的なシグナル伝達応答が最小限に抑えられる。
【0419】
抗BCMA CARを発現するように形質導入された初代T細胞に対するTGFβの阻害効果を分析した。CRISPR-Cas9システムを介して、DNを発現するか、編集されたTGFBR2遺伝子を有するように抗BCMA CAR発現T細胞をさらに修飾した。SEQ ID NO:5043および5093のデュアルgRNAを用いて、CRISPR-Cas9編集済み細胞を編集した。遺伝子編集のためのAAVS1対照と、未編集のTGFBR2遺伝子を有する抗BCMA CAR発現T細胞と、AAVS1遺伝子編集対照を含む抗BCMA CAR発現T細胞とを対照として使用した。10ng/ml TGFβの存在下または非存在下で、RPMI 8226多発性骨髄腫細胞株とこの細胞株を共培養した。過剰なTGFβの存在下では、初代T細胞および抗BCMA CAR T細胞は、GzmB(図13A)およびIFNγ(図13B)の産生低下という予測される阻害効果を示す。しかし、DN細胞またはCRISPR編集済み抗BCMA CAR T細胞では、TGFβの阻害効果がレスキューされ、GzmB産生およびIFNγ産生がTGFβを添加しない場合のレベルに回復する。
【0420】
TGFβシグナル伝達の阻害効果をレスキューすることの有用性をさらに実証するために、DNバックグラウンドまたはCRISPR編集済みバックグラウンドでの抗BCMA CAR T細胞の殺傷活性を分析した。未編集のTGFBR2遺伝子を有する抗BCMA CAR発現T細胞を対照として使用した。10ng/ml TGFβの存在下または非存在下で、1つの抗BCMA CAR T細胞に対して4つのRPMI細胞の比で、抗BCMA CAR T細胞をRPMI 8226細胞と共培養した。TGFβの存在下では、DNバックグラウンドおよびCRISPR編集済みバックグラウンドの両方で抗BCMA CAR T細胞の溶解活性は維持された。驚くべきことに、CRISPR編集済み抗BCMA CAR T細胞は、DN細胞と比較して優れた溶解活性を示した(図14)。CRISPR編集済み抗BCMA CAR T細胞の溶解活性は、過剰なTGFβを添加しない場合であっても対照細胞よりも高かった。
【0421】
CAR T細胞を含むT細胞の反復抗原刺激は、T細胞の持続性を低下させ、活性化誘導細胞死(AICD)を引き起こす可能性がある(Gargett et al. Mol. Ther. 24:1 135-1149. 2016)。特異的な抗原に対するT細胞活性を維持する戦略は、T細胞に基づく治療の効果を改善するために極めて重要である。DNバックグラウンドまたはCRISPR編集済みバックグラウンドでの抗BCMA CAR T細胞を、TGFβによる反復刺激の存在下でのそれらの増殖能について分析した。未編集のTGFBR2遺伝子を有する抗BCMA CAR発現T細胞を対照として使用した。未修飾の抗BCMA CAR T細胞は数日間のTGFβ刺激にわたって増殖しなかったが、TGBR2 DN細胞またはCRISPR編集済み細胞は、TGFβの存在下で経時的に増殖し続ける(図15A図15C)。また、抗BCMA CAR T細胞率(%)は、TGFβによる反復刺激中に減少しない(図15D図15F)。
【0422】
デュアルgRNAアプローチではなくシングルgRNAアプローチを使用して、DNバックグラウンドおよび遺伝子編集済みバックグラウンドでのIFNγ産生を再度分析した。図13に記載されているように、以前に使用したRPMI 8226細胞株との比較として、追加の多発性骨髄腫細胞株OPM2を使用した。以前の結果と一致して、TGFβシグナル伝達の阻害は、過剰なTGFβの存在下でIFNγ産生を効果的に維持した。これは、RPMI(図16A)細胞株およびOPM2(図16B)細胞株の両方に当てはまる。
【0423】
また、シングルgRNAアプローチを使用して、DNバックグラウンドおよび遺伝子編集済みバックグラウンドでCD25発現を分析した。RPMI(図17A)細胞株およびOPM2(図17B)細胞株では、過剰なTGFβの存在下でCD25発現は維持された。驚くべきことに、DN細胞および遺伝子編集済み細胞内のCD25発現は、未修飾T細胞と比較して増加した。
【0424】
DNバックグラウンドおよび遺伝子編集済みバックグラウンドでPD-1発現は同様に検出された。いずれかのアプローチによるTGFβシグナル伝達の抑制は、過剰なTGFβの存在下でのPD-1発現の増加を効果的に防止した(図18Aおよび図18B)。
【0425】
以前の実験では、刺激のために10ng/mlの設定用量でTGFβを使用した。TGFBR2遺伝子編集が生理学的条件下でTGFβシグナル伝達にどのように影響を及ぼすかをさらによく理解するために、0~100ng/mlのTGFβの範囲を使用した。この範囲は、多発性骨髄腫骨髄内ではTGFβ血清レベルが約3~88ng/ml(Aref et al. Hematological Oncology. 35: 51-57. 2017)および約3~10ng/ml(Bruns et al. Blood. 120: 2620-2630. 2012)の範囲にあることを実証する以前の研究に基づいている。細胞増殖アッセイを使用して、DNバックグラウンドおよび遺伝子編集済みバックグラウンドでの細胞の相対的な増殖倍率を決定した。抗BCMA CAR T細胞をRPMI 8226細胞と1:1の比で共培養した。予想外なことに、0.1ng/mlという低いTGFβ濃度、すなわち、正常または癌環境での生理学的レベルよりも十分に低い濃度で、細胞増殖に対する正の効果を認めることができる(図19A)。この応答性は、IFNγの産生の増加によってさらに実証される(図19B)。
【0426】
同じ範囲のTGFβ濃度を使用して、CD4+およびCD8+CAR T細胞でのPD-1発現を分析した。ここでも、TGFBR2 DNバックグラウンドおよび遺伝子編集済みバックグラウンドでは、0.1ng/mlという低いTGFβで低レベルのPD-1発現を維持することができた(図20Aおよび図20B)。
【0427】
DN TGFBR2戦略を使用して、3つの異なるCARを発現するように形質導入されたT細胞での細胞増殖、グランザイムB発現、およびSmad 2/3リン酸化を試験した。DN TGFBR2は、試験されたCAR T細胞のバックグラウンドでは過剰なTGFβの抗増殖効果をレスキューすることができた。DNは、試験されたCAR T細胞のバックグラウンドでは過剰なTGFβの存在下でグランザイムBの発現を維持することができた。最後に、DNは、試験されたCAR T細胞のバックグラウンドでのSmad 2/3リン酸化の減少によって測定されるように、過剰なTGFβの存在下でTGFβシグナル伝達を効果的に抑制することができた(図22)。3つのCAR T細胞のバックグラウンドのうち1つのみのデータが示されているが、他の2つのCAR T細胞のバックグラウンドでも同様の結果が観察された。
【0428】
実施例5-インビボでのBCMA CAR T細胞の転写プロファイリング
本明細書において開示されるTGFBR2遺伝子編集戦略が効果的な治療を形成するためには、TGFβ免疫抑制経路がインビボ設定で存在しなければならない。TGFβ免疫抑制経路が存在する場合、TGFBR2遺伝子編集戦略は、TGFβ免疫抑制効果からT細胞を効果的に放出しなければならない。これらの懸念の両方に対処するために、マウスの腫瘍微小環境から単離された抗BCMA CAR T細胞から、抗BCMA CAR T細胞の転写プロファイリングを行った。多発性骨髄腫RPMI 8226細胞をマウスに移植することによって腫瘍異種移植モデルを作製し、21日間腫瘍を増殖/形成させた。21日間のインキュベーション期間の後、野生型、AAVS遺伝子編集対照、TGFBR2 DNバックグラウンドまたはTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドの抗BCMA CAR T細胞を、腫瘍担持マウスに注射した。腫瘍を14日間退縮させた後、腫瘍および脾臓から腫瘍浸潤白血球(TIL)およびCAR T細胞を単離した(非癌性陰性対照組織)。単離後、細胞に対してRNAseq分析を行って、TGFβシグナル伝達経路メンバーの遺伝子発現プロファイルを決定した。
【0429】
転写プロファイリングの結果は、CAR T細胞のTGFBR2遺伝子編集により、TGFβ抑制性シグナル伝達が発生する腫瘍内で、いくつかのTGFβシグナル伝達経路メンバーの発現が首尾よく制限されることを明らかにしている(図21)。図21に示すように、脾臓ではなく腫瘍から単離された抗BCMA CAR発現T細胞では、TGFβシグナル伝達経路メンバーがアップレギュレートされる。データは、抗BCMA CAR発現T細胞がTGFβに富む腫瘍微小環境(TME)に曝露されることを示している。さらに、TGFBR2 DNバックグラウンドまたはTGFBR2遺伝子編集済みバックグラウンドを有する抗BCMA CAR発現T細胞は、TGFβシグナル伝達経路メンバーのアップレギュレートを逆転させる。データは、TGFβシグナル伝達経路が効果的に無効にされたことを示している。
【0430】
実施例6-TGFBR2遺伝子編集戦略の選択的利点
TGFBR2遺伝子編集済みCAR T細胞が選択的増殖利点を有するかどうかを決定するために、抗BCMA CAR T細胞を遺伝子編集して、様々なインデル頻度率(%)を生じさせた。10ng/ml TGFβの存在下または非存在下で、刺激のために1:1の比で、RPMI 8226細胞と、CAR T細胞のこれらの別個のインデル率(%)集団を共培養した。ハイスループットシーケンシングを使用して約7日ごとに細胞を評価して、細胞のいずれの部分が遺伝子編集され、いずれの部分が依然として野生型であるかを決定した(図23)。新鮮なRPMI細胞により細胞を再刺激し、毎週1:1の比に再調整する。結果は、免疫刺激環境では、TGFBR2遺伝子編集が、野生型細胞を上回る選択的増殖利点を付与することを示している(図24を参照)。
【0431】
参照による組入れ
本明細書において言及されたすべての刊行物、特許および特許出願は、あたかも各個々の刊行物、特許または特許出願が参照により組み入れられることが具体的かつ個別に示されているかのように、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。矛盾する場合、本明細書の任意の定義を含む本出願が優先される。
【0432】
均等物
当業者であれば、本明細書において記載される特定の態様に対する多くの均等物を認識するか、常用的な実験のみを使用して確認することができるであろう。そのような均等物は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
【0433】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> EDITAS MEDICINE, INC.
JUNO THERAPEUTICS, INC.
<120> METHODS, COMPOSITIONS AND COMPONENTS FOR CRISPR-CAS9 EDITING OF
TGFBR2 IN T CELLS FOR IMMUNOTHERAPY
<150> US 62/580,320
<151> 2017-11-01
<160> 5102
<170> PatentIn version 3.5

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<212> DNA
<213> Unknown
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<223> /note="Description of Unknown:
TGFBR2 Exon 3 sequence"
<400> 1
ttaataacga catgatagtc actgacaaca acggtgcagt caagtttcca caactgtgta 60
aattttgtga tgtgagattt tccacctgtg acaaccagaa atcctgcatg agcaactgca 120
gcatcacctc catctgtgag aagccacagg aagtctgtgt ggctgtatg 169

<210> 2
<211> 191
<212> DNA
<213> Unknown
<220>
<221> source
<223> /note="Description of Unknown:
TGFBR2 Exon 4 sequence"
<400> 2
gagaaagaat gacgagaaca taacactaga gacagtttgc catgacccca agctccccta 60
ccatgacttt attctggaag atgctgcttc tccaaagtgc attatgaagg aaaaaaaaaa 120
gcctggtgag actttcttca tgtgttcctg tagctctgat gagtgcaatg acaacatcat 180
cttctcagaa g 191

<210> 3
<211> 800
<212> DNA
<213> Unknown
<220>
<221> source
<223> /note="Description of Unknown:
TGFBR2 Exon 5 sequence"
<400> 3
aatataacac cagcaatcct gacttgttgc tagtcatatt tcaagtgaca ggcatcagcc 60
tcctgccacc actgggagtt gccatatctg tcatcatcat cttctactgc taccgcgtta 120
accggcagca gaagctgagt tcaacctggg aaaccggcaa gacgcggaag ctcatggagt 180
tcagcgagca ctgtgccatc atcctggaag atgaccgctc tgacatcagc tccacgtgtg 240
ccaacaacat caaccacaac acagagctgc tgcccattga gctggacacc ctggtgggga 300
aaggtcgctt tgctgaggtc tataaggcca agctgaagca gaacacttca gagcagtttg 360
agacagtggc agtcaagatc tttccctatg aggagtatgc ctcttggaag acagagaagg 420
acatcttctc agacatcaat ctgaagcatg agaacatact ccagttcctg acggctgagg 480
agcggaagac ggagttgggg aaacaatact ggctgatcac cgccttccac gccaagggca 540
acctacagga gtacctgacg cggcatgtca tcagctggga ggacctgcgc aagctgggca 600
gctccctcgc ccgggggatt gctcacctcc acagtgatca cactccatgt gggaggccca 660
agatgcccat cgtgcacagg gacctcaaga gctccaatat cctcgtgaag aacgacctaa 720
cctgctgcct gtgtgacttt gggctttccc tgcgtctgga ccctactctg tctgtggatg 780
acctggctaa cagtgggcag 800

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TGFBR2 Target sequence"
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atgaatctct tcactctagg 20

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TGFBR2 Target sequence"
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acaggagtac ctgacgcggc 20

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TGFBR2 Target sequence"
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ctgttagcca ggtcatccac 20

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TGFBR2 Target sequence"
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gggtgtccag ctcaatgggc 20

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<213> Unknown
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<223> /note="Description of Unknown:
TGFBR2 Target sequence"
<400> 9
tcataatgca ctttggagaa 20

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<212> DNA
<213> Unknown
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<223> /note="Description of Unknown:
TGFBR2 Target sequence"
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tgactttatt ctggaagatg 20

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Gly Ser Ala Asp Asp Ala Lys Lys Asp Ala Ala Lys Lys Asp Gly Lys
1 5 10 15
Ser
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図15F
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【配列表】
2023179469000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-10-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2023179469000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-10-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0073
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0073】
[本発明1001]
形質転換成長因子β受容体II(TGFBR2)遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAと、
RNAガイドヌクレアーゼと、
を含む、ゲノム編集システム。
[本発明1002]
TGFBR2遺伝子の標的配列が、SEQ ID NO:1、2および3からなる群より選択される配列を含む、本発明1001のゲノム編集システム。
[本発明1003]
TGFBR2遺伝子の標的配列が、SEQ ID NO:4~10からなる群より選択される配列を含む、本発明1001のゲノム編集システム。
[本発明1004]
ターゲティングドメインが、TGFBR2遺伝子の標的配列に対して少なくとも85%の相補性を有する、本発明1001のゲノム編集システム。
[本発明1005]
ターゲティングドメインが、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bp、または約10bp以内に二本鎖切断または一本鎖切断を形成するように構成され、それによりTGFBR2遺伝子を改変する、本発明1001のゲノム編集システム。
[本発明1006]
TGFBR2遺伝子発現がノックアウトまたはノックダウンされている、本発明1005のゲノム編集システム。
[本発明1007]
gRNAが、TGFBR2遺伝子のコード領域または非コード領域を標的とし、非コード領域が、TGFBR2遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域、イントロン、3’UTR、5’UTR、またはポリアデニル化シグナル領域を含む、本発明1001~1006のいずれかのゲノム編集システム。
[本発明1008]
コード領域が、エクソン3、エクソン4、およびエクソン5から選択される、本発明1007のゲノム編集システム。
[本発明1009]
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5036~5096からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、本発明1001~1008のいずれかのゲノム編集システム。
[本発明1010]
RNAガイドヌクレアーゼが、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9ヌクレアーゼであり、
ターゲティングドメインが、
(a)SEQ ID NO:5041、
(b)SEQ ID NO:5042、
(c)SEQ ID NO:5047、
(d)SEQ ID NO:5050、
(e)SEQ ID NO:5052、
(f)SEQ ID NO:5092、および
(g)SEQ ID NO:5093
からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、本発明1001~1009のいずれかのゲノム編集システム。
[本発明1011]
化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼが、NGGのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識し、
ゲノム編集システムがTGFBR2を標的とし、
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5041~5042、5047、5050、5052および5092~5093からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
本発明1010のゲノム編集システム。
[本発明1012]
RNAガイドヌクレアーゼが、黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9ヌクレアーゼである、本発明1001~1009のいずれかのゲノム編集システム。
[本発明1013]
黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼが、NNNRRTまたはNNNRRVのいずれかのPAMを認識し、ゲノム編集システムがTGFBR2を標的とする、本発明1012のゲノム編集システム。
[本発明1014]
RNAガイドヌクレアーゼが変異体Cas9ヌクレアーゼである、本発明1001~1013のいずれかのゲノム編集システム。
[本発明1015]
gRNAが、モジュラーgRNAまたはキメラgRNAである、本発明1001~1014のいずれかのゲノム編集システム。
[本発明1016]
ターゲティングドメインが、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、または約26ヌクレオチドの長さを有する、本発明1001~1015のいずれかのゲノム編集システム。
[本発明1017]
ターゲティングドメインが、TGFBR2遺伝子に相補的な少なくとも約18個の連続したヌクレオチドを含む、本発明1016のゲノム編集システム。
[本発明1018]
2つ、3つまたは4つのgRNAを含む、本発明1001~1017のいずれかのゲノム編集システム。
[本発明1019]
少なくとも1つの化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼ;および
SEQ ID NO:5042と5041との組合せ、または5042と5092との組合せ、またはSEQ ID NO:5042と5093との組合せ、またはSEQ ID NO:5093と5041との組合せを含む、gRNA
を含む、本発明1009のゲノム編集システム。
[本発明1020]
細胞内のTGFBR2遺伝子を改変するのに使用するための、本発明1001~1019のいずれかのゲノム編集システム。
[本発明1021]
細胞が、癌に罹患している対象に由来する、本発明1020のゲノム編集システム。
[本発明1022]
TGFBR2の発現が、ベースライン測定値と比較して30%以上低下する、本発明1001のゲノム編集システム。
[本発明1023]
TGFBR2タンパク質の発現が、ウエスタンブロットまたは間接的細胞内染色フローサイトメトリーによって決定される、本発明1022のゲノム編集システム。
[本発明1024]
フレームシフト変異がTGFBR2遺伝子に導入される、本発明1001のゲノム編集システム。
[本発明1025]
TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAを含む、組成物。
[本発明1026]
TGRBR2遺伝子の標的配列が、SEQ ID NO:1、2、および3からなる群より選択される配列を含む、本発明1025の組成物。
[本発明1027]
TGRBR2遺伝子の標的配列が、SEQ ID NO:4~10からなる群より選択される配列を含む、本発明1025の組成物。
[本発明1028]
ターゲティングドメインが、TGRBR2遺伝子の標的配列に対して少なくとも85%の相補性を有する、本発明1025の組成物。
[本発明1029]
ターゲティングドメインが、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、または約26ヌクレオチドの長さを有する、本発明1025の組成物。
[本発明1030]
ターゲティングドメインが、TGFBR2遺伝子に相補的な少なくとも約18個の連続したヌクレオチドを含む、本発明1029の組成物。
[本発明1031]
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5036~5096からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、本発明1025の組成物。
[本発明1032]
1つ、2つ、3つ、または4つのgRNAを含む、本発明1025または1031の組成物。
[本発明1033]
Cas9ヌクレアーゼをさらに含む、本発明1025~1032のいずれかの組成物。
[本発明1034]
Cas9ヌクレアーゼが、化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼまたは黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼである、本発明1033の組成物。
[本発明1035]
野生型Cas9ヌクレアーゼおよび変異体Cas9ヌクレアーゼの一方または両方をさらに含む、本発明1033の組成物。
[本発明1036]
Cas9分子が化膿性連鎖球菌Cas9分子であり、
ターゲティングドメインが、
(a)SEQ ID NO:5041、
(b)SEQ ID NO:5042、
(c)SEQ ID NO:5047、
(d)SEQ ID NO:5050、
(e)SEQ ID NO:5052、
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(g)SEQ ID NO:5093
からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
本発明1033の組成物。
[本発明1037]
化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼが、NGGのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識し、
前記組成物がTGFBR2を標的とし、
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5041~5042、5047、5050、5052、5092、および5093から選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
本発明1036の組成物。
[本発明1038]
黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼが、NNNRRTまたはNNNRRVのいずれかのPAMを認識し、前記組成物がTGFBR2を標的とする、本発明1034の組成物。
[本発明1039]
少なくとも1つの化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼ;および
SEQ ID NO:5042と5041との組合せ、または5042と5092との組合せ、またはSEQ ID NO:5042と5093との組合せ、またはSEQ ID NO:5093と5041との組合せを含む、gRNA
を含む、本発明1025~1038のいずれかの組成物。
[本発明1040]
細胞内のTGFBR2遺伝子発現を低下させるかまたは排除するのに使用するための、本発明1025~1039のいずれかの組成物。
[本発明1041]
細胞が、癌に罹患している対象に由来する、本発明1040の組成物。
[本発明1042]
TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAをコードするポリヌクレオチドを含む、ベクター。
[本発明1043]
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5036~5096からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、本発明1042のベクター。
[本発明1044]
Cas9ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、本発明1042または1043のベクター。
[本発明1045]
Cas9ヌクレアーゼが、化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼまたは黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼである、本発明1044のベクター。
[本発明1046]
Cas9ヌクレアーゼが、野生型Cas9ヌクレアーゼおよび変異体Cas9ヌクレアーゼの一方または両方をさらに含む、本発明1044または1045のベクター。
[本発明1047]
Cas9ヌクレアーゼが化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼであり、
ターゲティングドメインが、
(a)SEQ ID NO:5041、
(b)SEQ ID NO:5042、
(c)SEQ ID NO:5047、
(d)SEQ ID NO:5050、
(e)SEQ ID NO:5052、
(f)SEQ ID NO:5092、および
(g)SEQ ID NO:5093
からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
本発明1044のベクター。
[本発明1048]
化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼが、NGGのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識し、
ベクターが、TGFBR2を標的とするgRNAをコードし、
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5041~5042、5047、5050、5052および5092~5093から選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
本発明1047のベクター。
[本発明1049]
黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼが、NNNRRTまたはNNNRRVのいずれかのPAMを認識し、ベクターが、TGFBR2を標的とするgRNAをコードする、本発明1045のベクター。
[本発明1050]
ベクターがウイルスベクターである、本発明1042~1049のいずれかのベクター。
[本発明1051]
ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルス(LV)ベクターである、本発明1050のベクター。
[本発明1052]
細胞内のTGFBR2遺伝子発現を低下させるかまたは排除するのに使用するための、本発明1042~1051のいずれかのベクター。
[本発明1053]
細胞が、癌に罹患している対象に由来する、本発明1052のベクター。
[本発明1054]
(i)TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAと、RNAガイドヌクレアーゼとを含む、ゲノム編集システム、または
(ii)TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAをコードするポリヌクレオチドと、RNAガイドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドとを含む、ベクター
のうちの1つを細胞に投与する工程を含む、細胞内のTGFBR2遺伝子の発現を改変する方法。
[本発明1055]
改変が、TGFBR2遺伝子発現のノックアウトまたはTGFBR2遺伝子発現のノックダウンを含む、本発明1054の方法。
[本発明1056]
細胞が、癌に罹患している対象に由来する、本発明1054または1055の方法。
[本発明1057]
gRNAおよびRNAガイドヌクレアーゼが、リボ核タンパク質(RNP)複合体を構成する、本発明1054の方法。
[本発明1058]
様々なターゲティングドメインを有するgRNAを含む2つ以上のRNP複合体を細胞に投与する工程を含む、本発明1057の方法。
[本発明1059]
RNP複合体が、酵素的に活性なCas9(eaCas9)ヌクレアーゼを含む、本発明1057の方法。
[本発明1060]
RNP複合体が、標的核酸に二本鎖切断または標的核酸に一本鎖切断を形成するeaCas9ヌクレアーゼを含む、本発明1059の方法。
[本発明1061]
別個のgRNAを含む2つのRNP複合体を使用して、細胞内のTGFBR2遺伝子にオフセット一本鎖切断を形成する、本発明1058の方法。
[本発明1062]
本発明1001~1024のいずれかのゲノム編集システム、本発明1024~1041のいずれかの組成物、または本発明1042~1053のいずれかのベクターを含む、細胞。
[本発明1063]
TGFBR2を発現する、本発明1062の細胞。
[本発明1064]
T細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞である、本発明1062または1063の細胞。
[本発明1065]
操作されたT細胞受容体(eTCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)をさらに含む、本発明1064の細胞。
[本発明1066]
本発明1054~1061のいずれかに従って改変された細胞。
[本発明1067]
a)TGFBR2を標的とする十分な量のgRNA、およびRNAガイドヌクレアーゼと、細胞とを接触させる工程、ならびに
b)細胞のTGFBR2遺伝子内のTGFBR2標的位置の近くに第1のDNA二本鎖切断を形成する工程であって、第1のDNA二本鎖切断がNHEJによって修復され、修復がTGFBR2遺伝子の発現を改変する、工程
を含む、細胞内のTGFBR2遺伝子発現を改変するRNAガイドヌクレアーゼ媒介方法。
[本発明1068]
TGFBR2標的位置の近くに第2のDNA二本鎖切断を形成する工程をさらに含む、本発明1068の方法。
[本発明1069]
第1の二本鎖切断が、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bp、または約10bp以内に形成される、本発明1067の方法。
[本発明1070]
第1および第2の二本鎖切断が、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bp、または約10bp以内に形成される、本発明1068の方法。
[本発明1071]
第1の二本鎖切断が、TGFBR2遺伝子のコード領域または非コード領域に形成され、非コード領域が、TGFBR2遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域、イントロン、3’UTR、5’UTR、またはポリアデニル化シグナル領域を含む、本発明1067の方法。
[本発明1072]
第1および第2の二本鎖切断が、TGFBR2遺伝子のコード領域または非コード領域に形成され、非コード領域が、TGFBR2遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域、イントロン、3’UTR、5’UTR、またはポリアデニル化シグナル領域を含む、本発明1068の方法。
[本発明1073]
コード領域が、エクソン3、エクソン4、およびエクソン5から選択される、本発明1067~1072のいずれかの方法。
[本発明1074]
ターゲティングドメインが、
SEQ ID NO:5036~5096からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、本発明1067~1073のいずれかの方法。
[本発明1075]
RNAガイドヌクレアーゼが、化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼであり、
ターゲティングドメインが、
(a)SEQ ID NO:5041、
(b)SEQ ID NO:5042、
(c)SEQ ID NO:5047、
(d)SEQ ID NO:5050、
(e)SEQ ID NO:5052、
(f)SEQ ID NO:5092、および
(g)SEQ ID NO:5093
からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
本発明1067~1074のいずれかの方法。
[本発明1076]
RNAガイドヌクレアーゼが黄色ブドウ球菌Cas9ヌクレアーゼである、本発明1067~1074のいずれかの方法。
[本発明1077]
RNAガイドヌクレアーゼが変異体Cas9ヌクレアーゼである、本発明1075または1076の方法。
[本発明1078]
NHEJ修復が、20%以上の頻度で挿入または欠失をもたらす、本発明1067の方法。
[本発明1079]
挿入または欠失の頻度が、30%以上、40%以上、または50%以上である、本発明1078の方法。
[本発明1080]
TGFBR2遺伝子の標的位置の近くまたはTGFBR2遺伝子の標的位置に挿入または欠失を含むゲノム操作された細胞であって、
標的位置が、
SEQ ID NO:5036~5096から選択されるヌクレオチド配列に対して相補的であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
ゲノム操作された細胞。
[本発明1081]
挿入または欠失が、TGFBR2標的位置の約500bp、約450bp、約400bp、約350bp、約300bp、約250bp、約200bp、約150bp、約100bp、約50bp、約25bp、または約10bp以内にある、本発明1080の細胞。
[本発明1082]
T細胞またはNK細胞である、本発明1080の細胞。
[本発明1083]
eTCRまたはCARをさらに含む、本発明1082の細胞。
[本発明1084]
a. TGFBR2遺伝子の標的位置の近くまたはTGFBR2遺伝子の標的位置に挿入または欠失を含むゲノム操作された細胞の集団であって、標的位置が、SEQ ID NO:5036~5096から選択されるヌクレオチド配列に対して相補的であるかまたは約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列を含む、ゲノム操作された細胞の集団と、
b. 薬学的に許容される緩衝液と
を含む、組成物。
[本発明1085]
細胞の集団が、T細胞またはNK細胞を含む、本発明1084の組成物。
[本発明1086]
T細胞またはNK細胞が、eTCRまたはCARをさらに含む、本発明1085の組成物。
[本発明1087]
操作された免疫細胞を対象に投与する工程を含む、対象の癌を治療する方法であって、
操作された免疫細胞ではTGFBR2の発現が低下しており、操作された免疫細胞が、操作されたT細胞受容体(eTCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を任意で発現し、操作された免疫細胞が、TGFBR2遺伝子の標的位置の近くまたはTGFBR2遺伝子の標的位置に挿入または欠失を有する、
方法。
[本発明1088]
操作された免疫細胞が、T細胞またはNK細胞を含む、本発明1087の方法。
[本発明1089]
eTCRまたはCARが、癌細胞に対して抗原特異性を有する、本発明1087の方法。
[本発明1090]
癌が、白血病、リンパ腫、例えば、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、難治性濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、低悪性度B細胞性リンパ腫、B細胞悪性腫瘍、大腸癌、肺癌、肝癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、皮膚癌、黒色腫、骨癌、および脳癌、卵巣癌、上皮性癌、腎細胞癌、膵臓腺癌、ホジキンリンパ腫、子宮頸癌、結腸直腸癌、神経膠芽腫、神経芽腫、ユーイング肉腫、髄芽腫、骨肉腫、滑膜肉腫、中皮腫、および/またはTGF-βを発現する任意の癌タイプからなる群より選択される、本発明1087の方法。
[本発明1091]
T細胞が、CD4+T細胞および/またはCD8+T細胞である、本発明1088の方法。
[本発明1092]
操作された免疫細胞が、操作されていない免疫細胞と比較して、標的癌細胞に対する溶解活性を維持するか、または増強されている、本発明1087の方法。
[本発明1093]
操作された免疫細胞が、操作されていない免疫細胞と比較して、TGFβの存在下でグランザイムBおよび/またはインターフェロンγの発現を維持するか、または増加されている、本発明1087の方法。
[本発明1094]
操作された免疫細胞が、操作されていない免疫細胞と比較して、反復抗原刺激に対する持続性を維持するか、または改善されている、本発明1087の方法。
[本発明1095]
操作された免疫細胞が、操作されていない免疫細胞と比較して、CD25の発現を維持するか、または増加されている、本発明1087の方法。
[本発明1096]
操作された免疫細胞が、操作されていない免疫細胞と比較して、PD-1の発現を維持するか、または低下されている、本発明1087の方法。
[本発明1097]
操作された免疫細胞が、操作されていない免疫細胞と比較して、増殖を維持するか、または増加されている、本発明1087の方法。
[本発明1098]
複数の操作されたT細胞を含む組成物であって、操作されたT細胞が、操作されていないT細胞と比較してTGFBR2遺伝子発現の低下を示す、組成物。
[本発明1099]
操作されたT細胞が、操作されていないT細胞内のTGFBR2発現レベルの約50%、約40%、約30%、約20%、約10%、または約5%であるTGFBR2遺伝子発現レベルを示す、本発明1098の組成物。
[本発明1100]
操作されたT細胞が、eTCRまたはCARの発現をさらに含む、本発明1098の組成物。
[本発明1101]
T細胞が、CD4+T細胞および/またはCD8+T細胞である、本発明1098の組成物。
[本発明1102]
a)操作されていないT細胞と比較して、標的癌細胞に対する増強された溶解活性、
b)操作されていないT細胞と比較して、TGFβの存在下で、グランザイムBおよび/もしくはインターフェロンγの維持されたかもしくは増加した発現、
c)操作されていないT細胞と比較して、反復抗原刺激に対する維持されたかもしくは増加した持続性、
d)操作されていないT細胞と比較して、CD25の維持されたかもしくは増加した発現、
e)操作されていないT細胞と比較して、PD-1の維持されたかもしくは低下した発現、および/または
f)操作されていないT細胞と比較して、維持されたかもしくは増加した増殖
を有することによって、操作されたT細胞がさらに特徴付けられる、本発明1098の組成物。
[本発明1103]
複数の操作されたT細胞を含む組成物であって、
操作されたT細胞が、操作されていないT細胞と比較してTGFBR2遺伝子発現の低下を示し、
操作されたT細胞が、
TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNA、および
RNAガイドヌクレアーゼ
を含むゲノム編集システムと、操作されていないT細胞を接触させることにより生成される、
組成物。
[本発明1104]
操作されたT細胞が、eTCRまたはCARを発現するベクターを用いてさらに形質導入される、本発明1103の組成物。
[本発明1105]
ベクターがウイルスベクターである、本発明1104の組成物。
[本発明1106]
ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルス(LV)ベクターである、本発明1105の組成物。
[本発明1107]
RNAガイドヌクレアーゼが、化膿性連鎖球菌Cas9ヌクレアーゼであり、
ターゲティングドメインが、
(a)SEQ ID NO:5041、
(b)SEQ ID NO:5042、
(c)SEQ ID NO:5047、
(d)SEQ ID NO:5050、
(e)SEQ ID NO:5052、
(f)SEQ ID NO:5092、および
(g)SEQ ID NO:5093
からなる群より選択されるヌクレオチド配列と同一であるか、または約3ヌクレオチド以下だけ異なるヌクレオチド配列
を含む、
本発明1103の組成物。
[本発明1108]
複数の操作されたT細胞を含む組成物であって、操作されたT細胞では、TGFBR2シグナル伝達が欠損している、組成物。
[本発明1109]
欠損したTGFBR2シグナル伝達が、操作されたT細胞内にドミナントネガティブ(DN)型のTGFBR2を発現させることにより媒介される、本発明1108の組成物。
[本発明1110]
操作されたT細胞が、eTCRまたはCARを発現するベクターを用いてさらに形質導入される、本発明1109の組成物。
[本発明1111]
ベクターがウイルスベクターである、本発明1110の組成物。
[本発明1112]
ウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレンチウイルス(LV)ベクターである、本発明1111の組成物。
[本発明1113]
T細胞が、CD4+T細胞および/またはCD8+T細胞である、本発明1108の組成物。
[本発明1114]
a)操作されていないT細胞と比較して、標的癌細胞に対する増強された溶解活性、
b)操作されていないT細胞と比較して、TGFβの存在下で、グランザイムBおよび/もしくはインターフェロンγの維持されたかもしくは増加した発現、
c)操作されていないT細胞と比較して、反復抗原刺激に対する維持されたかもしくは増加した持続性、
d)操作されていないT細胞と比較して、CD25の維持されたかもしくは増加した発現、
e)操作されていないT細胞と比較して、PD-1の維持されたかもしくは低下した発現、および/または
f)操作されていないT細胞と比較して、維持されたかもしくは増加した増殖
を有することによって、操作されたT細胞がさらに特徴付けられる、本発明1108の組成物。
[本発明1115]
操作された免疫細胞が、野生型TGFBR2の発現低下をさらに含む、本発明1109の組成物。
[本発明1116]
野生型TGFBR2発現が、
TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNA、および
RNAガイドヌクレアーゼ
を含むゲノム編集システムと、操作された免疫細胞を接触させることによって低下される、本発明1115の組成物。
[本発明1117]
TGFBR2遺伝子の標的配列と相補的なターゲティングドメインを含むgRNAと、RNAガイドヌクレアーゼとを含む、リボ核タンパク質(RNP)複合体。
[本発明1118]
RNAガイドヌクレアーゼがCas9ヌクレアーゼである、本発明1117のRNP。
[本発明1119]
RNPが細胞にエレクトロポレーションされる、本発明1117のRNP。
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明、実施例、図面、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。