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  • 特開-環式化合物の精製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001795
(43)【公開日】2023-01-06
(54)【発明の名称】環式化合物の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/80 20060101AFI20221226BHJP
   C07C 33/22 20060101ALI20221226BHJP
   C07C 29/86 20060101ALI20221226BHJP
   C07C 229/56 20060101ALI20221226BHJP
   C07C 227/40 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
C07C29/80
C07C33/22
C07C29/86
C07C229/56
C07C227/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102732
(22)【出願日】2021-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】藤原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】橘 賢也
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄介
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 正義
(72)【発明者】
【氏名】村田 隆一
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD11
4H006AD16
4H006BJ20
4H006BT32
(57)【要約】
【課題】原料の濃度が低い場合でも、高純度の環式化合物を効率よく取り出すことができる環式化合物の精製方法を提供すること。
【解決手段】本発明の環式化合物の精製方法は、精製前の環式化合物と、水と、を含む原料液を用意する準備工程と、前記原料液に抽出剤を添加して、前記環式化合物と前記抽出剤とを含む抽出液を得る抽出工程と、前記抽出液を蒸留処理に供し、精製後の前記環式化合物を取り出す蒸留工程と、を有し、前記環式化合物の融点が60℃以下であり、前記環式化合物の沸点が200℃以上であり、前記抽出剤の沸点が150℃以下であり、前記抽出剤のlogPが0以上であり、前記抽出剤と前記環式化合物とのハンセン溶解度パラメーター距離dHSPが11以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製前の環式化合物と、水と、を含む原料液を用意する準備工程と、
前記原料液に抽出剤を添加して、前記環式化合物と前記抽出剤とを含む抽出液を得る抽出工程と、
前記抽出液を蒸留処理に供し、精製後の前記環式化合物を取り出す蒸留工程と、
を有し、
前記環式化合物の融点が60℃以下であり、
前記環式化合物の沸点が200℃以上であり、
前記抽出剤の沸点が150℃以下であり、
前記抽出剤のlogPが0以上であり、
前記抽出剤と前記環式化合物とのハンセン溶解度パラメーター距離dHSPが11以下であることを特徴とする環式化合物の精製方法。
【請求項2】
前記抽出剤のlogPが0.20以上である請求項1に記載の環式化合物の精製方法。
【請求項3】
前記原料液における前記環式化合物の濃度は、0質量%超10.0質量%以下である請求項1または2に記載の環式化合物の精製方法。
【請求項4】
前記環式化合物は、芳香族アルコール類または芳香族エステル類である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の環式化合物の精製方法。
【請求項5】
前記抽出工程は、抽残液から前記抽出剤を分離する第1分離操作を含み、
前記抽出工程は、前記第1分離操作で分離された前記抽出剤を再利用する第1再利用操作を含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載の環式化合物の精製方法。
【請求項6】
前記蒸留工程は、前記抽出液から前記抽出剤を分離する第2分離操作を含み、
前記抽出工程は、前記第2分離操作で分離された前記抽出剤を再利用する第2再利用操作を含む請求項1ないし5のいずれか1項に記載の環式化合物の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環式化合物の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の構造を有する環式化合物は、例えば香料、化粧料、医薬品、農薬等の各種用途の原料に用いられている。これらの用途においては、原料中の不純物が用途に影響を及ぼすことから、環式化合物を十分に精製する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルカリ洗浄工程と、抽出蒸留工程と、を有するβ-フェニルエチルアルコールの精製方法が開示されている。
【0004】
このうち、アルカリ洗浄工程は、粗製β-フェニルエチルアルコールをアルカリ水溶液で洗浄する工程である。
【0005】
また、抽出蒸留工程は、アルカリ洗浄後の粗製β-フェニルエチルアルコールを抽出蒸留塔に供給するとともに、水と1,2プロパンジオールとの混合液を抽出溶媒(A)として抽出蒸留塔に供給し、抽出蒸留塔の塔頂からは揮発性の高い抽出溶媒(A)と不純物とを留出させ、塔底からはβ-フェニルエチルアルコールを取り出す工程である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-290205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の精製方法は、例えば酸化スチレンの水素還元による方法等の各種製造方法によって粗製されたβ-フェニルエチルアルコールを、さらに精製する方法である。
【0008】
したがって、特許文献1に記載の精製方法では、粗製β-フェニルエチルアルコールを、ある程度濃縮した状態で抽出蒸留塔に供給することが前提となっている。このため、供給される原料におけるβ-フェニルエチルアルコールの濃度が低い場合には、精製効率が低くなる場合がある。
【0009】
本発明の目的は、原料の濃度が低い場合でも、高純度の環式化合物を効率よく取り出すことができる環式化合物の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)~(6)に記載の本発明により達成される。
(1) 精製前の環式化合物と、水と、を含む原料液を用意する準備工程と、
前記原料液に抽出剤を添加して、前記環式化合物と前記抽出剤とを含む抽出液を得る抽出工程と、
前記抽出液を蒸留処理に供し、精製後の前記環式化合物を取り出す蒸留工程と、
を有し、
前記環式化合物の融点が60℃以下であり、
前記環式化合物の沸点が200℃以上であり、
前記抽出剤の沸点が150℃以下であり、
前記抽出剤のlogPが0以上であり、
前記抽出剤と前記環式化合物とのハンセン溶解度パラメーター距離dHSPが11以下であることを特徴とする環式化合物の精製方法。
【0011】
(2) 前記抽出剤のlogPが0.20以上である上記(1)に記載の環式化合物の精製方法。
【0012】
(3) 前記原料液における前記環式化合物の濃度は、0質量%超10.0質量%以下である上記(1)または(2)に記載の環式化合物の精製方法。
【0013】
(4) 前記環式化合物は、芳香族アルコール類または芳香族エステル類である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の環式化合物の精製方法。
【0014】
(5) 前記抽出工程は、抽残液から前記抽出剤を分離する第1分離操作を含み、
前記抽出工程は、前記第1分離操作で分離された前記抽出剤を再利用する第1再利用操作を含む上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の環式化合物の精製方法。
【0015】
(6) 前記蒸留工程は、前記抽出液から前記抽出剤を分離する第2分離操作を含み、
前記抽出工程は、前記第2分離操作で分離された前記抽出剤を再利用する第2再利用操作を含む上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の環式化合物の精製方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、原料の濃度が低い場合でも、高純度の環式化合物を効率よく取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る環式化合物の精製方法を説明するための工程図である。
図2図1の精製方法に用いられる精製装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の環式化合物の精製方法について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1は、実施形態に係る環式化合物の精製方法を説明するための工程図である。図2は、図1の精製方法に用いられる精製装置の一例を示す模式図である。
【0020】
本実施形態に係る環式化合物の精製方法では、精製前の環式化合物を精製し、高純度の環式化合物を取り出す。環式化合物は、例えば、化成品、香料、化粧料、医薬品、農薬等の各種用途の原料に用いられる。用途の実現にあたっては、原料となる環式化合物の高純度化が不可欠である。
【0021】
図1に示す環式化合物の精製方法は、準備工程S102と、抽出工程S106と、蒸留工程S110と、を有する。
【0022】
このような精製方法は、例えば図2に示す精製装置1を用いて行われる。以下、精製装置1について説明する。
【0023】
1.精製装置
図2に示す精製装置1は、原料液調製槽2と、抽出槽4と、蒸留塔6と、抽出剤回収部8と、を備える。なお、図2に示す精製装置1は、連続して精製処理を行う連続式の装置である。なお、本実施形態に係る環式化合物の精製方法は、バッチ式の装置を用いて行うこともできる。
【0024】
原料液調製槽2は、精製前の環式化合物を含む原料液22を貯留する容器である。
抽出槽4は、原料液22を抽出剤42に接触させ、抽出液44を得る液液抽出処理を行う容器である。この液液抽出処理により、抽出液44の他、抽残液46を得る。
【0025】
蒸留塔6は、抽出液44に蒸留処理を行う容器である。この蒸留処理により、蒸留塔6の塔頂から再生抽出剤42bを除去するとともに、蒸留塔6の塔底から高沸点不純物64を除去する。そして、蒸留塔6の塔中間から精製後の環式化合物を抜き出すことができる。図2では、精製後の環式化合物を「精製環式化合物66」とする。蒸留塔6は、図示しないものの、塔底に設けられたリボイラーと、塔頂に設けられたコンデンサーと、を備えている。また、蒸留塔6は、図2に示す単蒸留塔であってもよいし、図示しない多段蒸留塔であってもよい。
【0026】
以上、精製装置1について説明したが、この精製装置1は、後述する環式化合物の精製方法に用いられる装置の一例であり、説明した構成に限定されない。
【0027】
2.精製方法
次に、図1に示す環式化合物の精製方法について説明する。
【0028】
2.1.準備工程
準備工程S102では、まず、原料液22を原料液調製槽2に供給する。原料液調製槽2では、供給された原料液22を貯留するとともに、必要に応じてpHを調整する。
【0029】
原料液22は、精製前の環式化合物と、水と、を含む。以下、精製前の環式化合物を「未精製環式化合物」という。
【0030】
未精製環式化合物は、化石資源由来の化合物であってもよいが、バイオマス由来の化合物であってもよい。バイオマスとは、植物由来の有機性資源を指す。具体的には、デンプンやセルロース等の形に変換されて蓄えられたもの、植物体を食べて成育する動物の体、植物体や動物体を加工してできる製品等が挙げられる。未精製環式化合物としてバイオマス由来の化合物を用いることにより、精製後の環式化合物は、二酸化炭素の増加の抑制に寄与するものとなる。したがって、準備工程S102は、任意の入手先から原料液22を入手する工程であってもよいが、これらのバイオマスから未精製環式化合物を粗製する工程であってもよい。
【0031】
本実施形態で精製する環式化合物は、水への20℃における溶解度が100,000mg/L以下であるのが好ましく、50,000mg/L以下であるのがより好ましい。このような環式化合物は、十分に高い疎水性を有しているため、後述する抽出工程S106において環式化合物が水へ混入しにくくなる。このため、最終的な精製環式化合物66の高収率化および高純度化をより確実に図ることができる。
【0032】
原料液22における環式化合物の濃度は、特に限定されないが、0質量%超10.0質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましく、0.10質量%以上3.0質量%以下であるのがさらに好ましい。本実施形態に係る環式化合物の精製方法は、このような比較的低濃度の原料液22を用いた場合でも、優れた収率で環式化合物を精製することができる。
【0033】
また、原料液22における水の含有割合は、特に限定されないが、50質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのがより好ましい。原料液22がこのような割合で水を含むことにより、水を多く含む原料液22を濃縮することなく用いることができるので、工数の削減といった観点から有用である。
【0034】
原料液22に含まれる環式化合物は、以下の2つの要素(a)、(b)を満たす。このような(a)、(b)の要素を満たす環式化合物を精製対象にすることで、原料液22における環式化合物の濃度が低い場合でも、精製環式化合物66の収率および純度を高めるとともに、回収操作が容易になる。
【0035】
(a)環式化合物の融点が60℃以下である
(b)環式化合物の沸点が200℃以上である
【0036】
環式化合物が(a)の要素を満たすことにより、蒸留工程S110で回収される精製環式化合物66を、液体として回収しやすくなる。これにより、固体として回収する場合に比べて精製環式化合物66の回収操作が容易になる。なお、環式化合物の融点は、好ましくは-40℃以上50℃以下とされ、より好ましくは-30℃以上40℃以下とされる。環式化合物の融点が前記上限値を上回ると、精製環式化合物66が固体として回収されるため、回収操作が煩雑になるおそれがある。
【0037】
環式化合物が(b)の要素を満たすことにより、環式化合物の沸点と抽出剤42の沸点との差が十分に大きくなるため、蒸留工程S110において精製環式化合物66と抽出剤42との分離性が向上する。これにより、回収される精製環式化合物66の収率および純度を容易に高めることができる。なお、環式化合物の沸点は、好ましくは210℃以上400℃以下とされ、より好ましくは215℃以上300℃以下とされる。環式化合物の沸点が前記上限値を上回ると、蒸留工程S110において精製環式化合物66と高沸点不純物64との分離性が低下するおそれがある。
【0038】
原料液22に含まれる環式化合物としては、例えば、芳香族アルコール類、芳香族エステル類、芳香族アルデヒド類、芳香族エーテル類等が挙げられる。このうち、原料液22に含まれる環式化合物は、芳香族アルコール類または芳香族エステル類であるのが好ましい。これらは、様々な用途の原料として特に有用な化合物である。
【0039】
芳香族アルコール類としては、例えば、ベンジルアルコール、シンナミックアルコール、β-フェニルエチルアルコール(フェネチルアルコール)、p-アニシルアルコール、p-メチルベンジルアルコール、フェノキシエタノール、2-ベンジルオキシエタノール、ジメチルベンジルカルビノール、フェニルエチルジメチルカルビノール、フェニルヘキサノール等が挙げられる。
【0040】
芳香族エステル類としては、例えば、メチルアンスラニレート(アンスラニル酸メチル)、エチルアンスラニレート、ジメチルアンスラニレート(メチルN-メチルアンスラニレート)等が挙げられる。
なお、主な環式化合物の融点および沸点を、表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
原料液22には、必要に応じて吸着処理が施されてもよい。吸着処理は、原料液22中の不純物を吸着剤に吸着させ、不純物濃度を下げる処理である。
【0043】
吸着剤としては、例えば、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナゲル、シリカアルミナゲル、活性白土、モレキュラーシーブ、モレキュラーシービングカーボン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0044】
2.2.抽出工程
抽出工程S106では、抽出槽4において、原料液22を抽出剤42に接触させ、抽出液44を得る液液抽出処理を行う。液液抽出処理は、抽出剤42に対する溶解性の違いを利用して、原料液22中に含まれている環式化合物を選択的に抽出する処理である。この液液抽出処理により、環式化合物を抽出剤42に選択的に移行させるとともに、不純物を水に選択的に移行させることができる。そして、環式化合物および抽出剤42を含む抽出液44と、不純物および水を含む抽残液46と、を得る。
【0045】
抽出工程S106で用いる抽出剤42は、以下の3つの要素(c)、(d)、(e)を満たす。このような(c)、(d)、(e)の要素を満たす抽出剤42を用いることにより、原料液22における環式化合物の濃度が低い場合でも、精製環式化合物66の収率を高めるとともに、回収操作が容易になる。また、蒸留工程S110において環式化合物の分離性を高めることができ、精製環式化合物66の収率および純度を高めることができる。
【0046】
(c)抽出剤42の沸点が150℃以下である
(d)抽出剤42のlogPが0以上である
(e)抽出剤42と環式化合物とのハンセン溶解度パラメーター距離dHSPが11以下である
【0047】
抽出剤42が(c)の要素を満たすことにより、抽出剤42の沸点と環式化合物の沸点との差が十分に大きくなるため、蒸留工程S110において抽出剤42と精製環式化合物66との分離性が向上する。これにより、回収される精製環式化合物66の収率および純度を容易に高めることができる。なお、抽出剤42の沸点は、好ましくは40℃以上120℃以下とされ、より好ましくは50℃以上100℃以下とされる。抽出剤42の沸点が前記下限値を下回ると、抽出剤42が液体として取り扱いにくくなる。抽出剤42の沸点が前記上限値を上回ると、抽出剤42の沸点と環式化合物の沸点との差が小さくなる。
【0048】
なお、抽出剤42の沸点と環式化合物の沸点との差(沸点差)は、好ましくは60℃以上300℃以下とされ、より好ましくは70℃以上200℃以下とされる。沸点差が前記上限値を上回ると、環式化合物の沸点が高くなりすぎるため、蒸留工程S110において精製環式化合物66と高沸点不純物64との分離性が低下するおそれがある。
【0049】
抽出剤42が(d)の要素を満たすことにより、水に対する抽出剤42の混和性が低下する。このため、抽出工程S106において抽出剤42と水との分離性が高くなり、抽出工程S106において環式化合物の抽出効率を高めることができる。その結果、精製環式化合物66の収率を高めることができる。
【0050】
抽出剤42のlogPとは、抽出剤42のオクタノール/水分配係数のことをいい、例えば、Crippen’s fragmentation法(「Ghose A. K. and Crippen G. M., Atomic physicochemical parameters for three-dimensional-structure-directed quantitative structure-activity relationships. 2. Modeling dispersive and hydrophobic interactions., J. Chem. Inf. Comput. Sci., 27, 21-35, 1987.」を参照。)により求めることができる。
【0051】
logPの具体的な測定方法としては、例えばJIS Z 7260-107:2000に記載のフラスコ振とう法が挙げられる。また、logPは、上記のような実測方法に代わって、計算化学的手法あるいは経験的方法により見積もることも可能である。
【0052】
計算化学的手法による見積もりは、化合物の構造式に基づいて、コンピューターソフトウェアで行うことができる。このソフトウェアには、例えば、パーキンエルマー社製、ChemDraw Ultra ver.10.0が挙げられる。
【0053】
抽出剤42が(e)の要素を満たすことにより、抽出剤42に対する環式化合物の溶解性を高めることができる。これにより、原料液22における環式化合物の濃度が低い場合でも、抽出工程S106において環式化合物の抽出効率を高めることができる。その結果、精製環式化合物66の収率を高めることができる。なお、抽出剤42と環式化合物とのハンセン溶解度パラメーター距離dHSPは、好ましくは10以下とされ、より好ましくは9以下とされ、さらに好ましくは8以下とされる。
【0054】
ハンセン溶解度パラメーター距離dHSPとは、複数の化合物の溶解性、すなわち、複数の化合物同士の親和性の強さを判断する指標の1つである。例えば、2種類の化合物のハンセン溶解度パラメーターHSPの距離dHSPが小さいと、これらの化合物同士の溶解性が高くなる傾向がある。複数の化合物の混合物のHSPは、当該混合物に含まれる各化合物のHSPと組成比の積の足し合わせで求めることができる。
【0055】
ハンセン溶解度パラメーターHSPの定義と計算方法については、Charles M. Hansen著、「Hansen Solubility Parameters: A User’s Handbook」(CRCプレス、2007年)に記載されている。
【0056】
ハンセン溶解度パラメーターHSPは、ファンデルワールス相互作用に相当する分散力項(δD)と、双極子モーメントより発生する引斥力に起因する極性項(δP)と、活性水素や孤立電子対により発生する水素結合に起因する水素結合項(δH)と、に分けられる。そして、2種類の化合物a、bのハンセン溶解度パラメーター距離(dHSP)は、それぞれの溶解度パラメーターの成分に基づいて下記式(1)により計算することができる。式(1)において、δD、δP、δHの単位はいずれも(J/cm1/2である。
(dHSP)=4×(δDa-δDb)+(δPa-δPb)+(δHa-δHb) …(1)
【0057】
この計算は、化合物の構造式に基づいて、コンピューターソフトウェアを用いて行うことができる。このソフトウェアには、例えば、HSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)4th Edition(4.1.07)が挙げられる。
【0058】
抽出工程S106で用いる抽出剤42としては、例えば、酢酸エチル、クロロホルム、メチルエチルケトン等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を含む有機溶剤が挙げられる。
【0059】
抽出剤42の添加量は、特に限定されないが、原料液22に対して10質量%以上の割合であるのが好ましく、10~100質量%の割合であるのがより好ましく、20~90質量%の割合であるのがさらに好ましい。抽出剤42の添加量を前記範囲内に設定することにより、抽出剤42と環式化合物との接触機会および水と不純物との接触機会がそれぞれ十分に得られる。その結果、環式化合物の抽出率を特に高めることができ、最終的に、精製環式化合物66の高収率化および高純度化をより確実に図ることができる。
【0060】
なお、抽出工程S106で得られた抽出液44に対し、必要に応じて、濃縮処理を行うようにしてもよい。濃縮処理は、抽出液44に含まれる抽出剤42を除去して環式化合物を濃縮する処理であって、例えば、抽出液44に含まれる抽出剤42を蒸発させる処理である。濃縮処理の具体的な操作としては、例えば、加熱、減圧、ガス吹付等が挙げられ、これらのうちの1種または複数を組み合わせた操作が用いられる。
【0061】
このうち、加熱操作が好ましく用いられる。加熱温度は、抽出剤42を揮発させ得る温度であり、かつ、環式化合物の沸点を下回る温度であれば、特に限定されないが、雰囲気圧力に応じて適宜設定される。例えば、雰囲気圧力が大気圧(50~110kPa)である場合、加熱温度は70~100℃であるのが好ましく、80~100℃であるのがより好ましい。また、雰囲気圧力が大気圧未満(50kPa未満)である場合、加熱温度は30~70℃であるのが好ましく、40~60℃であるのがより好ましい。なお、大気圧未満にした場合の圧力は、減圧コスト等を考慮した場合、20~50kPaであるのが好ましい。
【0062】
加熱時間は、特に限定されないが、1~120分であるのが好ましく、5~90分であるのがより好ましい。
【0063】
また、濃縮処理で蒸発させた抽出剤42を、抽出工程S106で再利用するようにしてもよい。これにより、精製コストの削減を図ることができる。
【0064】
なお、抽出工程S106は、抽残液46から抽出剤42を分離する第1分離操作を含んでいてもよい。第1分離操作は、図2に示す抽出剤回収部8において、水と抽出剤42とに分離する操作である。そして、図2では、分離された抽出剤42が再生抽出剤42aとして抽出槽4に戻されるようになっている。つまり、抽出工程S106は、第1分離操作で分離された抽出剤42を再利用する第1再利用操作を含んでいてもよい。
【0065】
このような第1分離操作および第1再利用操作を含むことにより、抽出工程S106では、抽出剤42の廃棄量が削減され、ランニングコストを低減することができる。
【0066】
また、図2に示す精製装置1は、抽出剤回収部8で分離された水を、再生水82として原料液調製槽2に戻すように構成されている。このような構成によれば、抽出剤42のみでなく、水も再利用することができる。これにより、精製方法のランニングコストをさらに低減することができる。
【0067】
抽出剤回収部8としては、例えば、多孔質ファイバーを用いた油水分離装置等が挙げられる。また、抽出剤回収部8は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。
【0068】
2.3.蒸留工程
蒸留工程S110では、蒸留塔6において、抽出液44に蒸留処理を行う。この蒸留処理により、蒸留塔6の塔頂から抽出剤42を除去するとともに、蒸留塔6の塔底から高沸点不純物64を除去する。そして、蒸留塔6の塔中間から精製環式化合物66を抜き出すことができる。
【0069】
蒸留処理は、物質の沸点の違いを利用して精製環式化合物66を分離する処理である。図2に示す蒸留塔6は、精製環式化合物66と、抽出剤42および高沸点不純物64と、を分離することができるように、サイドカットとして精製環式化合物66を取り出すことができるようになっている。
【0070】
サイドカット位置は、蒸留塔6の塔頂および塔底以外であれば、特に限定されず、環式化合物の沸点等に応じて適宜設定される。
【0071】
また、蒸留塔6の塔底温度および減圧度は、原料液22に含まれる環式化合物や抽出剤42の種類、濃度等を考慮して、適宜設定される。一例として、塔底温度は、100~250℃であるのが好ましい。また、塔内減圧度は、絶対圧で110kPa以下であるのが好ましく、5~50kPaであるのがより好ましい。
【0072】
高沸点不純物64のような各種不純物としては、例えば、乳酸、プロピオン酸、ギ酸、酢酸、酪酸、安息香酸、アミノ酸、フマル酸等、またはこれらの誘導体が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上が含まれ得る。
【0073】
精製環式化合物66中の不純物の含有比率は、特に限定されないが、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましい。これにより、精製環式化合物66は、十分に精製されたものとなる。
【0074】
以上のように、本実施形態に係る環式化合物の精製方法は、準備工程S102と、抽出工程S106と、蒸留工程S110と、を有する。準備工程S102では、未精製環式化合物(精製前の環式化合物)と、水と、を含む原料液22を用意する。抽出工程S106では、原料液22に抽出剤42を添加して、環式化合物と抽出剤42とを含む抽出液44を得る。蒸留工程S110では、抽出液44を蒸留処理に供し、精製環式化合物66(精製後の環式化合物)を取り出す。
【0075】
そして、かかる精製方法で精製の対象となる環式化合物は、融点が60℃以下であり、沸点が200℃以上である化合物である。また、この精製方法で用いる抽出剤42は、沸点が150℃以下であり、logPが0以上であり、環式化合物とのハンセン溶解度パラメーター距離dHSPが11以下である有機溶剤である。
【0076】
このような構成によれば、原料液22における環式化合物の濃度が低い場合でも、精製環式化合物66の収率および純度を高めることができる。また、回収操作が容易になるため、精製環式化合物66を効率よく回収することができる。
【0077】
また、抽出剤42のlogPは、0以上とされるが、好ましくは0.20以上8.0以下とされ、より好ましくは0.30以上3.0以下とされる。
【0078】
これにより、水に対する抽出剤42の混和性がさらに低下する。このため、抽出工程S106において抽出剤42と水との分離性が特に高くなり、抽出工程S106において環式化合物の抽出効率を特に高めることができる。なお、抽出剤42のlogPは前記上限値を上回っても構わないが、その場合、抽出剤42と環式化合物との親和性が若干低下するおそれがある。
【0079】
なお、蒸留工程S110は、抽出液44から抽出剤42を分離する第2分離操作を含んでいてもよい。第2分離操作は、蒸留塔6から抽出剤42を選択的に分離する操作である。そして、図2では、分離された抽出剤42が再生抽出剤42bとして抽出槽4に戻されるようになっている。つまり、抽出工程S106は、第2分離操作で分離された抽出剤42を再利用する第2再利用操作を含んでいてもよい。
【0080】
このような第2分離操作および第2再利用操作を含むことにより、蒸留工程S110では、抽出剤42の廃棄量が削減され、ランニングコストを低減することができる。
【0081】
取り出された精製環式化合物66は、前述したように、例えば、化成品、香料、化粧料、医薬品、農薬等の原材料として特に有用なものである。なお、原材料には、中間体を含む。
【0082】
以上、本発明の環式化合物の精製方法を実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
例えば、本発明の環式化合物の精製方法は、前記実施形態に任意の工程が付加されたものであってもよい。
【実施例0084】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
3.環式化合物の製造
3.1.実施例1
実施例1では、図2に示す精製装置を用いて精製前のβ-フェニルエチルアルコール(未精製環式化合物)を精製した。
【0085】
具体的には、まず、精製前のβ-フェニルエチルアルコールと水とを含む原料液を用意した。
【0086】
次に、この原料液に対し、抽出剤を接触させる液液抽出処理を行った。これにより、抽出液を得た。抽出剤には、原料液に対して50質量%の酢酸エチルを用いた。
【0087】
次に、得られた抽出液に対し、蒸留処理を行った。これにより、不純物を除去し、精製後のβ-フェニルエチルアルコールを得た。蒸留塔の塔底温度は195℃、塔内減圧度は30kPaとした。
【0088】
3.2.実施例2~5および比較例1~4
精製条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして未精製環式化合物を精製した。
【0089】
3.3.実施例6
精製対象の環式化合物をアンスラニル酸メチル(メチルアンスラニレート)に変更した以外は、実施例1と同様にして未精製環式化合物を精製した。なお、精製条件は、表3に示すとおりである。
【0090】
3.4.実施例7~9および比較例5~9
精製条件を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして未精製環式化合物を精製した。
【0091】
3.5.実施例10
精製対象の環式化合物をシンナミックアルコールに変更した以外は、実施例1と同様にして未精製環式化合物を精製した。なお、精製条件は、表4に示すとおりである。
【0092】
3.6.実施例11~13および比較例10~14
精製条件を表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして未精製環式化合物を精製した。
【0093】
4.環式化合物の評価
4.1.精製後のβ-フェニルエチルアルコールの純度
各実施例および各比較例で得られた精製後のβ-フェニルエチルアルコールについて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、β-フェニルエチルアルコールの純度を測定した。なお、純度は、回収した物質の全質量に対するβ-フェニルエチルアルコールの質量の割合とした。測定結果を表2に示す。
【0094】
測定条件は、以下の通りである。
<β-フェニルエチルアルコールのHPLC分析条件>
カラム:COSMOSIL 5C18-AR-II(φ4.6mm×250mm)ナカライテスク社製
移動相:水/メタノール/過塩素酸=4/1/0.0075(vol/vol/vol)イソクラティック溶出
流量:1mL/mmin
カラム温度:40℃
検出方法:フォトダイオードアレイ(PDA)検出器
【0095】
4.2.精製後のβ-フェニルエチルアルコールの収率
各実施例および各比較例で得られた精製後のβ-フェニルエチルアルコールについて、4.1.で算出した純度に基づき、β-フェニルエチルアルコールの収率を算出した。なお、収率は、原料液中に含まれるβ-フェニルエチルアルコールの質量に対する、回収したβ-フェニルエチルアルコールの質量の割合とした。算出結果を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2から明らかなように、各実施例では、各比較例に比べて、高純度のβ-フェニルエチルアルコールを高い収率で取り出すことができた。
【0098】
4.3.精製後のアンスラニル酸メチルの純度
各実施例および各比較例で得られた精製後のアンスラニル酸メチルについて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、アンスラニル酸メチルの純度を測定した。測定条件は、β-フェニルエチルアルコールの場合と同様である。測定結果を表3に示す。
【0099】
4.4.精製後のアンスラニル酸メチルの収率
各実施例および各比較例で得られた精製後のアンスラニル酸メチルについて、4.3.で算出した純度に基づき、アンスラニル酸メチルの収率を算出した。算出結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3から明らかなように、各実施例では、各比較例に比べて、高純度のアンスラニル酸メチルを高い収率で取り出すことができた。
【0102】
4.5.精製後のシンナミックアルコールの純度
各実施例および各比較例で得られた精製後のシンナミックアルコールについて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、シンナミックアルコールの純度を測定した。測定条件は、β-フェニルエチルアルコールの場合と同様である。測定結果を表4に示す。
【0103】
4.6.精製後のシンナミックアルコールの収率
各実施例および各比較例で得られた精製後のシンナミックアルコールについて、4.5.で算出した純度に基づき、シンナミックアルコールの収率を算出した。算出結果を表4に示す。
【0104】
【表4】
【0105】
表4から明らかなように、各実施例では、各比較例に比べて、高純度のシンナミックアルコールを高い収率で取り出すことができた。
【0106】
以上のことから、本発明によれば、投入される原料液中の原料、つまり環式化合物の濃度が低い場合でも、高純度の環式化合物を効率よく精製し得ることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0107】
1 精製装置
2 原料液調製槽
4 抽出槽
6 蒸留塔
8 抽出剤回収部
22 原料液
42 抽出剤
42a 再生抽出剤
42b 再生抽出剤
44 抽出液
46 抽残液
64 高沸点不純物
66 精製環式化合物
82 再生水
S102 準備工程
S106 抽出工程
S110 蒸留工程
図1
図2