(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179523
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】水銀蒸気放出の低減
(51)【国際特許分類】
B01J 20/20 20060101AFI20231212BHJP
B01D 53/64 20060101ALI20231212BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B01J20/20 E
B01D53/64 100
B01D53/82
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023154205
(22)【出願日】2023-09-21
(62)【分割の表示】P 2021568130の分割
【原出願日】2020-05-12
(31)【優先権主張番号】62/846,985
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】391028362
【氏名又は名称】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ジェイ.ハードウィック
(57)【要約】
【課題】吸着剤材料からの水銀除去効率の回復及び水銀蒸気放出の低減を提供する。
【解決手段】本開示の幾つかの態様は、吸着剤ポリマー複合材料を得ること、前記吸着剤ポリマー複合材料を水銀蒸気と接触させて使用済み吸着剤ポリマー複合材料を形成すること、ここで、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料は酸化型水銀を含み、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料は酸化型水銀蒸気を放出する、及び、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料をハロゲン源と接触させて、処理済み吸着剤ポリマー複合材料をもたらすことを含む方法に関する。幾つかの実施形態において、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、95%の相対湿度を有する空気中にて65℃で測定したときに、使用済み吸着剤ポリマー複合材と比較して、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材1グラムあたり毎分0.01μg未満の酸化型水銀蒸気を放出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤材料とポリマー材料とを含む吸着剤ポリマー複合材料を得、
該吸着剤ポリマー複合材料を水銀蒸気と接触させて使用済み吸着剤ポリマー複合材料を形成するに際し、該使用済み吸着剤ポリマー複合材料は酸化型水銀を含み、かつ、該使用済み吸着剤ポリマー複合材料は酸化型水銀蒸気を放出し、そして
該使用済み吸着剤ポリマー複合材料をハロゲン源と接触させて処理済み吸着剤ポリマー複合材料を得るに際し、該処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定したときに、該使用済み吸着剤ポリマー複合材料と比較して、該処理済み吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分0.01μgの水銀蒸気~0.10μgのより低い酸化型水銀蒸気を放出する
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定したときに、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、酸化型水銀1グラムあたり毎分0.01μg未満の水銀蒸気を放出するまで、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料を前記ハロゲン源と接触させる工程を繰り返すことをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料は第一の水銀除去効率を有し、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料は第二の水銀除去効率を有し、かつ、前記第二の水銀除去効率は前記第一の水銀除去効率よりも10%~100%大きい、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料が前記第一の水銀除去効率の2倍を超える第二の水銀除去効率を有するまで、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料を前記ハロゲン源と接触させる工程をさらに含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料の質量に基づいて0.1wt%~10wt%のハロゲン源を含む、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料の質量に基づいて1wt%~5wt%のハロゲン源を含むまで、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料を前記ハロゲン源と接触させることを含む、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフルオロエチレンプロピレン(PFEP)、ポリペルフルオロアクリレート(PPFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとのターポリマー(THV)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCFE)、及び、追加の非フッ素化モノマーを含むか又は含まない少なくとも1つのフルオロモノマーを含有する他のコポリマー又はターポリマーのうちの少なくとも1つである、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記吸着剤材料は活性炭である、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記ハロゲン源は、アルカリ金属ハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム、第四級アンモニウムハロゲン化物又はそれらの組み合わせである、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記アルカリ金属ハロゲン化物は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム又はそれらの組み合わせである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記第四級アンモニウムハロゲン化物は、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、アンモニウムクロリド、アンモニウムブロミド又はそれらの組み合わせである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料をハロゲン源と接触させる工程は、前記ハロゲン源を含む溶液を前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料に噴霧することを含む、請求項1~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料をハロゲン源と接触させる工程は、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料を、前記ハロゲン源を含む溶液に浸漬することを含む、請求項1~12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記溶液は、前記吸着剤ポリマー複合材料又は前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料の質量に基づいて0.01wt%~10wt%のハロゲン源を含む、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
前記溶液は水溶液である、請求項12~14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記溶液は非水溶液である、請求項12~14のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記非水溶液はアルコールを含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記アルコールはメタノール、エタノール又はイソプロパノールのうちの1つ以上を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記溶液は界面活性剤をさらに含む、請求項12~18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記溶液は、前記溶液の質量に基づいて0.001wt%~0.1wt%の界面活性剤を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記界面活性剤は非イオン性界面活性剤である、請求項17又は18記載の方法。
【請求項22】
前記溶液は共溶媒を含む、請求項12~19のいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
前記溶液は、前記溶液の質量に基づいて10wt%~50wt%の共溶媒を含む、請求項12~20のいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
前記酸化型水銀はハロゲン化水銀を含む、請求項1~23のいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、(i)酸化型水銀及び(ii)ハロゲン源の錯体を含む、請求項1~24のいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
吸着剤材料、
ポリマー材料、及び
酸化型水銀とハロゲン源とを含む化学錯体
を含んでなる処理済み吸着剤ポリマー複合材料であって、
該処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定したときに、使用済み吸着剤ポリマー複合材料と比較して、該処理済み吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分0.01μgの水銀蒸気~0.10μgのより低い酸化型水銀蒸気を放出し、かつ
該使用済み吸着剤ポリマー複合材料は、
該使用済み吸着剤ポリマー複合材料がハロゲン源を含まないこと、及び
該使用済み吸着剤ポリマー複合材料の酸化型水銀がハロゲン源との錯体中に存在しないこと
を除いて、該処理済み吸着剤ポリマー複合材料と同一であることを特徴とする、処理済み吸着剤ポリマー複合材料。
【請求項27】
前記化学錯体は、式HgX4
2-(式中、Xは、塩化物(Cl-)、臭化物(Br-)又はヨウ化物(I-)である)を有する、請求項26記載の処理済み吸着剤ポリマー複合材料。
【請求項28】
前記化学錯体は、式HgX3
-(式中、Xは、塩化物(Cl-)、臭化物(Br-)又はヨウ化物(I-)である)を有する、請求項26記載の処理済み吸着剤ポリマー複合材料。
【請求項29】
前記化学錯体は、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料のマトリックス中に統合されている、請求項26~28のいずれか1項記載の処理済み吸着剤ポリマー複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の分野は、吸着剤材料からの水銀除去効率の回復及び水銀蒸気放出の低減に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電所、都市ごみ焼却炉及び石油精製所は、多種多様な環境汚染物質を含む大量の排煙を発生する。そのような汚染物質の1つは水銀である。水銀は非常に有毒で環境に危険である。そのため、水銀の排出は厳しい規制の対象となる。したがって、排煙流から水銀を低減する改善された方法は非常に望ましい。
【0003】
排煙流から水銀を除去するための1つの方法は、活性炭を含む吸着剤材料の使用を含む。粉末活性炭は、一般に、電気集じん器又はファブリックフィルタの前に排煙流に注入される。この方法は有効であるが、低水銀レベルを達成するために非常に大量の注入炭素を必要とすることがしばしばある。粉末炭素注入は費用がかかり、大量の水銀含有廃棄物を生成し、セメント又は他の用途で使用するためのフライアッシュの価値を制限することがある。粉末注入よりも効果的に炭素を利用する固定床プロセスは、詰まりの懸念があるため、これらの粒子を含む環境で実施することは困難である。その結果、固定床プロセスは、一般に、排煙脱硫(FGD)ユニットの下流に適用されてきた。FGDを出る冷却された排煙は吸着剤に導入され、そこで水銀蒸気は吸収されて除去される。その後、排煙は、水銀蒸気を実質的に含まずに煙突に排出される。
【0004】
水銀捕捉を強化するための様々な添加剤を含む、活性炭充填PTFEを利用する吸着剤ポリマー複合材は、固定床水銀除去用途で特に有効であることが証明されている。
【0005】
長期間にわたる高い水銀除去効率の1つの欠点は、捕捉促進添加剤の減少及び酸化型水銀種の蓄積である。捕捉促進剤の減少は水銀除去効率の低下につながり、一方、酸化型水銀種の蓄積は水銀蒸気の放出につながる可能性がある。酸化型水銀種は石炭燃焼の排煙に遍在している。特に、塩化水銀(II)、臭化水銀(II)及びヨウ化水銀(II)などのハロゲン化水銀は、有意に蒸気圧が高く、特定の条件下で蒸気を放出する可能性がある。ハロゲン化水銀は、石炭の燃焼、石炭中の臭素塩の使用から生じる可能性があり、ヨウ素化活性炭と水銀との反応からの副生成物として生成される可能性がある。幾つかの例において、酸化型水銀種の蓄積から発生する蒸気圧が蒸気放出を引き起こす可能性があり、これにより有効な除去効率が低下し、固定床吸着剤の寿命に実際的な限定が生じる。
【0006】
時間経過とともに、酸化型水銀種が吸着剤内及び吸着剤上に蓄積する可能性がある。この酸化型水銀種の蓄積は蒸気放出を引き起こす可能性がある。水銀制限は、一般に、10μg/m3未満のレベルに設定されている。10μg/m3の水銀は、およそ1ppbに相当する。その結果、非常に少量の酸化型水銀が測定可能なレベルの水銀を生成する可能性がある。除去効率の低下及び水銀蒸気の放出は、最終的には水銀吸着剤がコンプライアンス目標を達成する能力を制限する可能性がある。このように、酸化型水銀の蓄積は吸着剤の寿命を限定する可能性がある。
【0007】
したがって、吸着剤からの酸化型水銀の蒸気放出を低減する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本開示の1つの態様は、
吸着剤材料とポリマー材料とを含む吸着剤ポリマー複合材料を得、
該吸着剤ポリマー複合材料を水銀蒸気と接触させて使用済み吸着剤ポリマー複合材料を形成するに際し、該使用済み吸着剤ポリマー複合材料は酸化型水銀を含み、かつ、該使用済み吸着剤ポリマー複合材料は酸化型水銀蒸気を放出し、そして
該使用済み吸着剤ポリマー複合材料をハロゲン源と接触させて処理済み吸着剤ポリマー複合材料を得るに際し、該処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定したときに、該使用済み吸着剤ポリマー複合材料と比較して、該処理済み吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分0.01μgの水銀蒸気~0.10μgのより低い酸化型水銀蒸気を放出する
ことを特徴とする方法に関する。
【0009】
さらなる態様において、この方法は、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定したときに、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、酸化型水銀1グラムあたり毎分0.01μg未満の水銀蒸気を放出するまで、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料を前記ハロゲン源と接触させる工程を繰り返すことをさらに含む。
【0010】
さらなる態様において、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料は第一の水銀除去効率を有し、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料は第二の水銀除去効率を有し、かつ、前記第二の水銀除去効率は前記第一の水銀除去効率よりも10%~100%大きい。
【0011】
さらなる態様において、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料をハロゲン源と接触させる工程は、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料が前記第一の水銀除去効率の2倍を超える第二の水銀除去効率を有するまで行われる。
【0012】
さらなる態様において、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料の質量に基づいて0.1wt%~10wt%の前記ハロゲン源を含む。
【0013】
さらなる態様において、この方法は、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料の質量に基づいて1wt%~5wt%のハロゲン源を含むまで、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料を前記ハロゲン源と接触させることを含む。
【0014】
さらなる態様において、前記ポリマー材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフルオロエチレンプロピレン(PFEP)、ポリペルフルオロアクリレート(PPFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとのターポリマー(THV)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCFE)、及び、追加の非フッ素化モノマーを含む又は含まない、少なくとも1つのフルオロモノマーを含む他のコポリマー又はターポリマーのうちの少なくとも1つである。
【0015】
さらなる態様において、前記吸着剤材料は活性炭である。
【0016】
さらなる態様において、前記ハロゲン源は、アルカリ金属ハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム、第四級アンモニウムハロゲン化物又はそれらの組み合わせである。
【0017】
さらなる態様において、前記アルカリ金属ハロゲン化物は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム又はそれらの組み合わせである。
【0018】
さらなる態様において、前記第四級アンモニウムハロゲン化物は、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、アンモニウムクロリド、アンモニウムブロミド又はそれらの組み合わせである。
【0019】
さらなる態様において、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料をハロゲン源と接触させる工程は、前記ハロゲン源を含む溶液を前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料に噴霧することを含む。
【0020】
さらなる態様において、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料をハロゲン源と接触させる工程は、前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料を、前記ハロゲン源を含む溶液に浸漬することを含む。
【0021】
さらなる態様において、前記溶液は、前記吸着剤ポリマー複合材料又は前記使用済み吸着剤ポリマー複合材料の質量に基づいて0.01wt%~10wt%のハロゲン源を含む。
【0022】
さらなる態様において、前記溶液は水溶液である。
【0023】
さらなる態様において、前記溶液は非水溶液である。
【0024】
さらなる態様において、前記非水溶液はアルコールを含む。
【0025】
さらなる態様において、前記アルコールはメタノール、エタノール又はイソプロパノールのうちの1つ以上を含む。
【0026】
さらなる態様において、前記溶液は界面活性剤をさらに含む。
【0027】
さらなる態様において、前記溶液は、前記溶液の質量に基づいて0.001wt%~0.1wt%の界面活性剤を含む。
【0028】
さらなる態様において、前記界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。
【0029】
さらなる態様において、前記溶液は共溶媒を含む。
【0030】
さらなる態様において、前記溶液は、前記溶液の質量に基づいて10wt%~50wt%の共溶媒を含む。
【0031】
さらなる態様において、前記酸化型水銀はハロゲン化水銀を含む。
【0032】
さらなる態様において、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、(i)酸化型水銀及び(ii)ハロゲン源の錯体を含む。
【0033】
本開示の別の態様は、
吸着剤材料、
ポリマー材料、及び
酸化型水銀とハロゲン源とを含む化学錯体
を含んでなる処理済み吸着剤ポリマー複合材料であって、
該処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定したときに、使用済み吸着剤ポリマー複合材料と比較して、該処理済み吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分0.01μgの水銀蒸気~0.10μgのより低い酸化型水銀蒸気を放出し、かつ
該使用済み吸着剤ポリマー複合材料は、
該使用済み吸着剤ポリマー複合材料がハロゲン源を含まないこと、及び
該使用済み吸着剤ポリマー複合材料の酸化型水銀がハロゲン源との錯体中に存在しないこと
を除いて、該処理済み吸着剤ポリマー複合材料と同一であることを特徴とする、処理済み吸着剤ポリマー複合材料に関する。
【0034】
さらなる態様において、前記化学錯体は、式HgX4
2-(式中、Xは、塩化物(Cl-)、臭化物(Br-)又はヨウ化物(I-)である)を有する。
【0035】
さらなる態様において、前記化学錯体は、式HgX3
-(式中、Xは、塩化物(Cl-)、臭化物(Br-)又はヨウ化物(I-)である)を有する。
【0036】
さらなる態様において、前記化学錯体は、前記処理済み吸着剤ポリマー複合材料のマトリックス中に統合されている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本開示の幾つかの実施形態は、添付の図面を参照して、例としてのみ本明細書に記載されている。ここで詳細に図面を具体的に参照すると、示されている実施形態は、例として、そして本開示の実施形態の例示的な議論の目的のためであることが強調される。これに関して、図面とともに取られた記載は、本開示の実施形態がどのように実施されうるかを当業者に明らかにする。
【0038】
【
図1】
図1は、吸着剤ポリマー複合材料からの酸化型水銀の除去効率に対する本開示のハロゲン源の効果を示している。
【0039】
【
図2】
図2は、例示的なハロゲン源で処理する前及び後の吸着剤ポリマー複合材料からの水銀放出を示している。
【0040】
【
図3】
図3は、別の例示的なハロゲン源で処理する前及び後の吸着剤ポリマー複合材料からの水銀放出を示している。
【0041】
【
図4】
図4は、HgI
2、(Bu
4N)HgI
3及びフィールド暴露された吸着剤ポリマー複合材料サンプルのHg L
111XANESスペクトルの導関数を示している。
【発明を実施するための形態】
【0042】
開示されたこれらの利点及び改善の中で、本開示の他の目的及び利点は、添付の図面と併せて以下の説明から明らかになるであろう。本開示の詳細な実施形態は、本明細書に開示されている。しかしながら、開示された実施形態は、様々な形態で具体化されうる開示の単なる例示であることが理解されるべきである。さらに、本開示の様々な実施形態に関して与えられた実施例のそれぞれは、例示的であり、限定的ではないことが意図されている。
【0043】
明細書及び特許請求の範囲全体を通じて、文脈が明確に別段の指示をしない限り、以下の用語は本明細書に明示的に関連付けられた意味をとる。本明細書で使用されるときに、「1つの実施形態において」、「実施形態において」及び「幾つかの実施形態において」という語句は、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らないが、同じ実施形態である場合もある。さらに、本明細書で使用されるときに、「別の実施形態において」及び「幾つかの他の実施形態において」という語句は、必ずしも異なる実施形態を指すとは限らないが、異なる実施形態である場合もある。したがって、以下に説明するように、本開示の様々な実施形態は、本開示の範囲又は主旨から逸脱することなく、容易に組み合わせることができる。
【0044】
本明細書で使用されるときに、「に基づく」という用語は排他的ではなく、文脈が明らかに他のことを指示しない限り、記載されていない追加の要因に基づくことを可能にする。さらに、本明細書全体を通して、「a」、「an」及び「the」の意味は、複数形の参照を含む。「in」の意味には、「in」及び「on」が含まれる。
【0045】
幾つかの実施形態において、吸着剤ポリマー複合材料が得られる。本明細書で使用されるときに、「吸着剤ポリマー複合材料」は、ポリマー材料のマトリックス内に埋め込まれた吸着剤材料と規定される。
【0046】
幾つかの実施形態において、吸着剤ポリマー複合材料は水銀蒸気と接触され、それにより、使用済み吸着剤ポリマー複合材料をもたらす。本明細書で使用されるときに、「使用済み吸着剤ポリマー複合材料」は、吸着剤ポリマー複合材料が、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分少なくとも0.01μgの水銀蒸気の放出速度で水銀蒸気を放出するまで、水銀蒸気と接触させられた吸着剤ポリマー複合材料である。幾つかの実施形態において、「使用済み吸着剤ポリマー複合材料」は、吸着剤ポリマー複合材料が、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分少なくとも0.01μgの水銀蒸気の放出速度で水銀蒸気を放出するまで、水銀蒸気を含む排煙流と接触させられた吸着剤ポリマー複合材料である。幾つかの実施形態において、排煙流は追加の成分を含むことができ、例えば、限定するわけではないが、SOx及びNOx化合物などを挙げることができる。幾つかの実施形態において、排煙流中の水銀蒸気は、酸化型水銀、元素水銀又はそれらの任意の組み合わせを含む。幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料は、商業規模のプロセスで形成されうる。幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料は、実験室条件下で作成されうる。
【0047】
幾つかの実施形態において、放出速度は、本明細書で以下に記載されるように、放出濃度に変換されうる。幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料の放出速度は、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、少なくとも1μg/m3の放出濃度に対応する。幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料の放出速度は、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、少なくとも5μg/m3の放出濃度に対応する。幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料の放出速度は、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、少なくとも10μg/m3の放出濃度に対応する。幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料の放出速度は、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、1μg/m3~10μg/m3の放出濃度に対応する。幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料の放出速度は、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、5μg/m3~10μg/m3の放出濃度に対応する。
【0048】
幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料は、酸化型水銀を含み、酸化型水銀蒸気を放出し、これは、限定するわけではないが、HgCl2、HgBr2、HgI2又はそれらの任意の組み合わせなどの少なくとも1つのハロゲン化水銀を含むことができる。使用済み吸着剤ポリマー複合材料はハロゲン源と接触して、処理済み吸着剤ポリマー複合材料を形成する。
【0049】
本明細書で使用されるときに、「処理済み吸着剤ポリマー複合材料」は、ある時点で、本明細書で規定されるとおりの「使用済み吸着剤ポリマー材料」であったが、次いで、吸着剤ポリマー材料が、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分0.01μg未満の水銀蒸気の放出速度で水銀蒸気を放出するまで、ハロゲン源と接触された吸着剤ポリマー複合材料として規定される。
【0050】
幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料は、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分0.01μg未満の水銀蒸気の放出速度で水銀蒸気を放出するまで、ハロゲン源と繰り返し接触される。幾つかの実施形態において、ハロゲン源との繰り返しの接触は、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分0.005μg未満の水銀蒸気の放出速度で水銀蒸気を放出するまで行う。幾つかの実施形態において、ハロゲン源との繰り返しの接触は、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分0.001μg未満の水銀蒸気の放出速度で水銀蒸気を放出するまで行う。
【0051】
幾つかの実施形態において、ハロゲン源との繰り返しの接触は、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分0.001μg~0.01μgの水銀蒸気の放出速度で水銀蒸気を放出するまで行う。幾つかの実施形態において、ハロゲン源との繰り返しの接触は、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分0.001μg~0.005μgの水銀蒸気の放出速度で水銀蒸気を放出するまで行う。幾つかの実施形態において、ハロゲン源との繰り返しの接触は、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、95%の相対湿度を有する空気中で65℃にて測定されたときに、吸着剤ポリマー複合材料1グラムあたり毎分0.005μg~0.01μgの水銀蒸気の放出速度で水銀蒸気を放出するまで行う。
【0052】
幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料は第一の水銀除去効率を有し、処理済み吸着材ポリマー複合材料は第二の水銀除去効率を有する。幾つかの実施形態において、第二の水銀除去効率は第一の水銀除去効率よりも大きい。
【0053】
幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、第一の水銀除去効率よりも10%~50%高い第二の除去効率を有するまで、使用済み吸着剤ポリマー複合材料はハロゲン源と繰り返し接触される。幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、第一の水銀除去効率よりも20%~40%高い第二の除去効率を有するまで、使用済み吸着剤ポリマー複合材料はハロゲン源と繰り返し接触される。幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、第一の水銀除去効率よりも25%~35%高い第二の除去効率を有するまで、使用済み吸着剤ポリマー複合材料はハロゲン源と繰り返し接触される。
【0054】
幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、第一の水銀除去効率よりも50%~100%高い第二の除去効率を有するまで、ハロゲン源との繰り返し接触は行われる。幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、第一の水銀除去効率よりも60%~90%高い第二の除去効率を有するまで、ハロゲン源との繰り返し接触は行われる。幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、第一の水銀除去効率よりも70%~80%高い第二の除去効率を有するまで、ハロゲン源との繰り返し接触は行われる。
【0055】
幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、第一の水銀除去効率よりも100%を超えて高い第二の水銀除去効率を有するまで、繰り返し接触は行われる。幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、第一の水銀除去効率よりも200%又は500%高い第二の水銀除去効率を有するまで、繰り返し接触は行われる。幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が、第一の水銀除去効率よりも500%高い第二の水銀除去効率を有するまで、繰り返し接触は行われる。
【0056】
幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料はハロゲン源と接触されて、処理済み吸着剤ポリマー複合材料を形成し、処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、0.1%~10%のハロゲン源を含む。幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料はハロゲン源と接触されて、処理済み吸着剤ポリマー複合材料を形成し、処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、0.5%~5%のハロゲン源を含む。幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料はハロゲン源と接触されて、処理済み吸着剤ポリマー複合材料を形成し、処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、1%~2%のハロゲン源を含む。
【0057】
幾つかの実施形態において、吸着剤ポリマー複合材料は、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が0.1%~1.0%のハロゲン源を含むまで、ハロゲン源と繰り返し接触される。幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が0.2%~0.8%のハロゲン源を含むまで、ハロゲン源との繰り返しの接触が行われる。幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が0.4%~0.5%のハロゲン源を含むまで、ハロゲン源との繰り返しの接触が行われる。
【0058】
幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が1%~10%のハロゲン源を含むまで、ハロゲン源との繰り返しの接触が行われる。幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が2%~8%のハロゲン源を含むまで、ハロゲン源との繰り返しの接触が行われる。幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料が4%~5%のハロゲン源を含むまで、ハロゲン源との繰り返しの接触が行われる。
【0059】
幾つかの実施形態において、吸着剤ポリマー複合材料のポリマー材料は、追加の非フッ素化モノマーを含む又は含まない少なくとも1つのフルオロモノマーを含む1つ以上のホモポリマー、コポリマー又はターポリマーを含むことができる。
【0060】
幾つかの実施形態において、吸着剤ポリマー複合材料のポリマー材料は、ポリフルオロエチレンプロピレン(PFEP)、ポリペルフルオロアクリレート(PPFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン又はフッ化ビニリデンのターポリマー(THV)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCFE)のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0061】
幾つかの実施形態において、吸着剤ポリマー複合材料のポリマー材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むことができる。幾つかの実施形態において、吸着剤ポリマー複合材料のポリマー材料は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)を含むことができる。
【0062】
幾つかの実施形態において、吸着剤ポリマー複合材料の吸着剤材料は活性炭を含む。幾つかの実施形態において、活性炭材料は、石炭、亜炭、木材、ココナッツ殻又は別の炭素質材料のうちの1つ以上に由来することができる。幾つかの実施形態において、吸着剤材料はシリカゲル又はゼオライトを含むことができる。
【0063】
幾つかの実施形態において、使用済み吸着剤ポリマー複合材料を処理するために使用されるハロゲン源は、アルカリ金属ハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム又は第四級アンモニウムハロゲン化物のうちの1つ以上を含む。アルカリ金属ハロゲン化物は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化カリウムのうちの1つ以上を含むことができる。第四級アンモニウムハロゲン化物は、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド又はテトラブチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、塩化アンモニウム、臭化アンモニウムのうちの1つ以上又はそれらの任意の組み合わせを含むことができる。幾つかの実施形態において、ハロゲン化物はヨウ素を含む。
【0064】
幾つかの実施形態において、酸化型水銀と錯体を形成するハロゲン塩などのハロゲン源の添加は、酸化型水銀の蒸気圧を低下させることによって、使用済み吸着剤材料からの蒸気放出を低減することができる。
【0065】
幾つかの実施形態において、酸化型水銀は1つ以上のハロゲン化水銀を含む。幾つかの実施形態において、ハロゲン化水銀はハロゲン化第二水銀である。幾つかの実施形態において、ハロゲン化水銀は、塩化水銀(II)、臭化水銀(II)又はヨウ化水銀(II)のうちの1つ以上を含む。幾つかの実施形態において、ハロゲン化水銀はハロゲン化第一水銀である。幾つかの実施形態において、ハロゲン化第一水銀は、塩化水銀(I)、臭化水銀(I)又はヨウ化水銀(I)のうちの1つ以上を含む。
【0066】
幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、酸化型水銀とハロゲン源との錯体を含む。
【0067】
幾つかの実施形態において、酸化型水銀の錯化は、以下の反応の一方又は両方を介して起こることができる:(1)AX+HgX2→AHgX3及び(2)AX+AHgX3→A2HgX4(式中、Aはアルカリ金属、アンモニウムカチオン又は第四級アンモニウムカチオンのうちの1つ以上であり、Xはハロゲン化物である)。
【0068】
幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、吸着剤ポリマー複合材料又は使用済み吸着剤ポリマー複合材料上に、ハロゲン源を含む溶液を噴霧することによって形成することができる。幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料は、吸着剤ポリマー複合材料又は使用済み吸着剤ポリマー複合材料を、ハロゲン源を含む溶液中に浸漬することによって形成することができる。幾つかの実施形態において、溶液は、0.01wt%~0.1wt%のハロゲン源、0.1wt%~1wt%のハロゲン源、又は1wt%~10wt%のハロゲン源を含むことができる。幾つかの実施形態において、溶液は、0.03wt%~0.06wt%のハロゲン源、0.3wt%~0.6wt%のハロゲン源、又は3wt%~6wt%のハロゲン源を含むことができる。幾つかの実施形態において、溶液は、0.04wt%~0.05wt%のハロゲン源、0.4wt%~0.5wt%のハロゲン源、又は4wt%~5wt%のハロゲン源を含むことができる。
【0069】
幾つかの実施形態において、溶液は水性又は非水性であることができる。幾つかの実施形態において、溶液は1つ以上の共溶媒を含むことができる。幾つかの実施形態において、溶液は、0.01wt%~1wt%の1つ以上の共溶媒、1wt%~10wt%の1つ以上の共溶媒又は10wt%~50wt%の1つ以上の共溶媒を含むことができる。幾つかの実施形態において、溶液は、0.05wt%~0.5wt%の1つ以上の共溶媒、2wt%~5wt%の1つ以上の共溶媒又は20wt%~50wt%の1つ以上の共溶媒を含むことができる。幾つかの実施形態において、溶液は、0.03wt%~0.25wt%の1つ以上の共溶媒、3wt%~4wt%の1つ以上の共溶媒又は30wt%~40wt%の1つ以上の共溶媒を含むことができる。幾つかの実施形態において、溶媒又は共溶媒は、メタノール、エタノール又はイソプロパノールなどの1つ以上のアルコールを含む。幾つかの実施形態において、共溶媒は存在しない。
【0070】
幾つかの実施形態において、処理済み吸着剤ポリマー複合材料を形成するために使用される溶液は、1つ以上の界面活性剤を含むことができる。1つ以上の界面活性剤が存在する実施形態において、溶液は、臨界ミセル濃度が達成されることを確実にするのに十分な量の界面活性剤を含むことができる。臨界ミセル濃度は、界面活性剤をさらに添加しても溶液の表面張力がそれ以上低下しない濃度である。幾つかの実施形態において、溶液は、0.001wt%~0.01wt%の1つ以上の界面活性剤、又は0.01wt%~0.1wt%の界面活性剤を含むことができる。幾つかの実施形態において、溶液は、0.005wt%~0.05wt%の1つ以上の界面活性剤、又は0.05wt%~0.5wt%の1つ以上の界面活性剤を含むことができる。幾つかの実施形態において、溶液は、0.0075wt%~0.075wt%の1つ以上の界面活性剤、又は0.075wt%~0.75wt%の界面活性剤を含むことができる。幾つかの実施形態において、1つ以上の界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、双性イオン性又は非イオン性界面活性剤のうちの1つ以上である。幾つかの実施形態において、1つ以上の界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。
【0071】
幾つかの実施形態において、1つ以上の界面活性剤は、1~30ダイン/センチメートルの表面張力を提供することができる。幾つかの実施形態において、1つ以上の界面活性剤は、5~20ダイン/センチメートルの表面張力を提供することができる。幾つかの実施形態において、1つ以上の界面活性剤は、10~15ダイン/センチメートルの表面張力を提供することができる。
【0072】
幾つかの実施形態において、1つ以上の非イオン性界面活性剤は、第二級アルコールエトキシレート(例えば、DOW TERGITOL(商標)15-S界面活性剤)、エチレンオキシド-プロピレンオキシドコポリマー(例えば、DOW TERGITOL(商標)L界面活性剤)、オクチルフェノールエトキシレート(例えば、界面活性剤のDOW TRITON Xライン)、ソルビタンモノラウレート(例えば、CRODA SPAN(商標)20)又はラウレルアミンオキシド(例:STEPAN AMONYX(登録商標)LO)のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0073】
幾つかの実施形態において、1つ以上のカチオン性界面活性剤は、1つ以上の長鎖第四級アミン(例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB))を含むことができる。
【0074】
幾つかの実施形態において、1つ以上のアニオン性界面活性剤は、1つ以上のペルフルオロアルキルスルホネート(例えば、ペルフルオロオクチルスルホネート、PFOS)を含むことができる。
【0075】
試験方法
(1)マスフローコントローラによって調整される空気供給、(2)水銀透過管を含むDYNACALIBRATORキャリブレーションガスジェネレータ(VICI Metronics, Inc., Poulsbo, WA, USA)の小さい窒素パージにより生成される水銀源、(3)バイパスが取り付けられ、65℃に維持されたオーブン内に配置されたサンプルセル、(4)酸化型水銀を元素水銀に転化するための塩化第一スズ/H2SO4バブラ及び(5)短経路長ガスセルを備えたRA915+水銀分析装置(OHIO LUMEX Co., Inc., OH, USA)による水銀検出を含む、装置を用いて水銀蒸気除去の例示的な試験を行った。
【0076】
水銀浄化効率(η)は、入口水銀レベル(サンプルをバイパス)と出口レベル(サンプルを通過)の差を入口濃度で割ったものとして報告される。
【0077】
η=(入口濃度-出口濃度)/(入口濃度)
【0078】
水銀放出試験手順
計量されたサンプル(典型的に10mmx150mm)を、65℃に維持されたオーブン内に含まれる1cmx1cmの正方形のガラスで酸化型水銀放出について試験した。サンプルを、マスフローコントローラによって制御された、流れている水銀不含空気に暴露した。サンプルの上流に配置された膜ベースの透過デバイス(Permapure)によって、空気流を湿気でほぼ飽和した。必要な感度に応じて、1~10slpm(標準リットル/分)の総流速を使用した。サンプルを出た空気を、塩化スズ(II)/硫酸トラップを通過して、酸化型水銀を元素水銀に転化させた。加熱したPFAサンプルラインをオーブンと塩化スズ(II)/硫酸トラップとの間に使用して、ハロゲン化水銀の凝縮を防いだ。出口水銀濃度を、短経路長セルを使用してRA915+水銀分析装置(OHIO LUMEX)によって測定した。放出速度を次式に基づいて算出した。
【0079】
放出速度(μgHg/分/g)=(流速(L/分)*(1m3/1000L)*(Hg濃度*(μg/Nm3)*(1/サンプル重量(g))
【実施例0080】
例1
各々初期的に、米国特許第7,791,861号明細書で教示されている一般的な乾式混合方法を使用して吸着剤ポリマー複合材料(「SPC」)を含む4つのサンプル(「サンプル1~4」)を調製して複合サンプルを形成し、次いで、酸化型水銀を含むゴアの米国特許第3,953,566号明細書の教示に従って一軸延伸し、石炭火力発電所の排煙に数年間フィールド暴露した後に回収した。使用済みSPCの4つのサンプルは、それぞれ10x150mmのピースの形で、それぞれ約1グラムの重さがあった。
【0081】
50部の活性炭、39部のPTFE及び6部のTBAIの形のハロゲン源を含むサンプル1~4を、75g/Lの塩化カリウムを含む水溶液で処理した。サンプル1及び2を両側に噴霧し、サンプル3を2回浸漬し、サンプル4を30分間浸漬することによって塩化カリウムを適用した。処理サンプル1~4の結果、処理済みSPC材料に変化させた。
【0082】
サンプル5及び6は、サンプル1~4で記載したものと同じ使用済みSPC材料の10x150mm片(各約1グラム)の形であり、サンプル1~4で記載したものと同一のフィールド暴露された吸収剤ポリマー複合材料から得た。酸化型水銀を含む使用済みSPC材料を、塩化カリウム溶液による処理なしで試験した。それらは、脱イオン水に30分間浸漬することによってのみ処理した。
【0083】
各サンプルに適用された処理の要約表を以下に示す。
【表1】
【0084】
サンプルを、65℃のオーブン内の10mmx10mmの正方形のガラスチャンバーに入れた。サンプルを、約10標準リットル/分の速度にて空気でパージした。サンプルの酸化型水銀蒸気放出レベルは、RA915+水銀分析装置(Ohio Lumex)を使用して測定した。水銀分析装置で検出するために酸化型水銀を元素形態に転化させるために、水銀分析装置に入る前に空気をSnCl2/H2SO4バブラに通過させた。放出速度を以下の式で算出した。
【0085】
放出速度(μgHg/分/g)=(流速(L/分)*(1m3/1000L)*(Hg濃度*(μg/Nm3)*(1/サンプル重量(g))
【0086】
【0087】
示されているように、ハロゲン源で処理する前に、すべてのサンプルは0.01μgHg蒸気/分/gSPCを超える放出量を示した。
【0088】
しかしながら、ハロゲン源(塩化カリウム溶液)で処理した後に、サンプル1~4は、0.01μgHg蒸気/分/g未満で放出した。
【0089】
しかしながら、塩化カリウム溶液で処理せずに、脱イオン水中に浸したサンプル5及び6は、サンプル1立方メートルあたり1.8~2.0μgの酸化型水銀蒸気で放出し、平均放出量は1立方メートルあたり約0.5μg減少した。サンプル5及び6からの対応する放出速度は0.018~0.020であった。
【0090】
要約すると、例1は、酸化型水銀を含む使用済み吸着ポリマー複合材料のハロゲン源(例えば、塩化カリウム溶液の形態のアルカリ金属ハロゲン化物塩)での処理が、同じ吸着剤ポリマー複合材料の脱イオン水での処理よりも明らかに優れていることを示している。
【0091】
例2
この例は、例1の2つのサンプル(すなわち、サンプル1及び2)の水銀除去効率試験について記載する。
【0092】
例1からのサンプル1を、約10標準リットル/分の速度にて空気でパージした。試験温度は65℃であった。サンプル1の除去効率を測定するために、加熱透過装置(VICI Metronics)を使用して水銀蒸気を導入した。空気を含む水銀蒸気をほぼ飽和状態まで加湿した。
【0093】
水銀除去効率を測定するために、光路長の短い光学セルを備えたRA915+水銀分析装置(Ohio Lumex)を使用した。
【0094】
10%硫酸中の10%塩化スズ(II)溶液を使用して、サンプル1の空気流出物を処理し、確実に分析装置によって酸化型水銀を検出した。
【0095】
サンプル1を水銀除去効率について試験した。
【0096】
次に、サンプル1の両側に脱イオン水を噴霧し、水銀除去効率を再試験した。
【0097】
次に、サンプル1を両側で5.5mlの1モル濃度の塩化カリウム溶液で処理し、水銀除去効率について再試験した。
【0098】
例1からのサンプル2を両側で5.5mlの75g/Lの塩化カリウム水溶液で処理し、上記で概説された同手順を使用して効率について試験した。
【0099】
各サンプルに適用された処理の要約表を以下に示す。
【表3】
【0100】
【0101】
示されているように、未処理のサンプル1は、15.1%の第一の水銀除去効率を示した。脱イオン水で処理したときに、サンプル1は17.0%の水銀除去効率を示した。対照的に、塩化カリウムで処理したときに、サンプル1は21.0%の第二の水銀除去効率を示した。したがって、第二の水銀除去効率は、第一の水銀除去効率よりも約45%高い。
【0102】
同様に、サンプル1と同じ材料から取った第二のサンプルであるサンプル2は、塩化カリウムで処理した後に、23.0%の水銀除去効率を示した。
【0103】
要約すると、例2は、酸化型水銀を含む使用済みの暴露された吸着剤ポリマー複合材料を塩化カリウム溶液(アルカリ金属ハロゲン化物塩)のハロゲン源で処理して、未処理の吸着剤ポリマー複合材料の水銀除去効率(第一の水銀除去効率)よりも明らかに高く、また、脱イオン水で処理された吸着剤ポリマー複合材料の除去効率よりも明らかに高い水銀除去効率(第二の水銀除去効率)を達成することができる。
【0104】
例3
米国特許第7,791,861号明細書で教示されている一般的な乾式混合方法を使用して調製された吸着剤ポリマー複合材料(SPC)から5つのサンプルを切り出し、複合材料サンプルを形成し、その後、Goreの米国特許第3,953,566号明細書の教示に従って一軸延伸し、プロセスからの酸化型水銀を含む石炭火力発電所の排煙に数年間フィールド暴露した後に回収した。サンプル1~5は、10x150mmの使用済みSPC材料片の形で、それぞれの重量は約1グラムであった。
【0105】
50部の活性炭、39部のPTFE及び6部のTBAIの形のハロゲン源を含むサンプル1~5を、約10標準リットル/分の速度にて空気でパージした。試験温度は65℃であった。水銀蒸気を、加熱された透過装置(VICI Metronics)によって導入した。水銀蒸気含有空気を、ほぼ飽和状態まで加湿した。
【0106】
水銀除去効率を測定するために、光路長の短い光学セルを備えたRA915+水銀分析装置(Ohio Lumex)を使用した。
【0107】
10%硫酸中の10%塩化スズ(II)溶液を使用してサンプルの空気流出物を処理し、確実に酸化型水銀を分析装置によって検出した。
【0108】
2つのサンプル(サンプル1~2)は、処理せずに水銀除去効率について試験した。
【0109】
サンプルのうちの2つ(サンプル3~4)を、NALCO(登録商標)によって製造されたNALSPERSE73551界面活性剤を10ppmで含む水溶液に浸し、水銀除去効率について試験した。
【0110】
サンプルの1つ(サンプル5)を、10ppmの同界面活性剤で処理した。しかしながら、サンプル5では、ハロゲン源としてSigma Aldrichのテトラブチルアンモニウムヨージド(TBAI)0.05gを界面活性剤溶液に添加した。サンプル5は、水銀除去効率についても試験した。
【0111】
各サンプルに適用された処理の要約表を以下に示す。
【表5】
【0112】
試験したサンプルの除去効率を
図1に示し、以下の表に示す。
【表6】
【0113】
上記表及び
図1に示すように、使用済み吸着剤ポリマー複合材料を界面活性剤の水溶液及びTBAIの形のハロゲン源で処理すると、(i)未処理の吸着剤ポリマー複合材料及び(ii)界面活性剤水溶液で処理されたが、ハロゲン源で処理されていない吸着剤ポリマー複合材料の両方と比較したときに、ほぼ3倍高い水銀除去効率が得られる。
【0114】
例4
例3に概説された手順を繰り返し、サンプル1~5を同様に調製した。しかしながら、水銀除去効率を測定するのではなく、水銀蒸気放出に対するハロゲン源の効果を測定した。試験開始時の初期水銀蒸気濃度から試験30分後の水銀蒸気濃度を差し引いた単純な比較によって放出速度を評価した。
【0115】
試験期間中のサンプル1~5の水銀蒸気放出速度を以下に示す。
【表7】
【0116】
示されているように、未処理のサンプル1~2は、試験の過程で約0.05μgHg蒸気/分/gSPCの水銀放出を示した。これは、試験中に吸着剤ポリマー複合材料が酸化型水銀で汚染され、達成できる効率が制限されたことを示している。
【0117】
同様に、ハロゲン源ではなく界面活性剤溶液のみで処理されたサンプル3~4は、試験の過程で約0.03~0.05μgHg/分/gの放出速度を示した。これも、サンプル3~4では、試験中に吸着剤ポリマー複合材料が酸化型水銀で汚染され、達成できる効率が制限されたことを示している。
【0118】
明確な対照として、ハロゲン源(TBAIなど)及び界面活性剤で処理されたサンプル5は、30分間の試験で水銀効率の向上を示した。これは、サンプル5では、試験中に、吸着剤ポリマー複合材料が時間の経過とともに水銀蒸気の放出を防ぐのにより効果的になり、偶発的な酸化型水銀の放出によって性能が制限されなかったことを示している。
【0119】
例5
酸化型水銀を含む使用済み吸着剤ポリマー複合材料の調製
使用済みの吸着剤ポリマー複合材を、80部の活性炭及び20部のPTFEを含む実験室条件下で作成し(「吸着剤ポリマー複合材料」)、米国特許第7,791,861号明細書で教えられている一般的な乾式混合方法を使用して調製し、次に、Goreの米国特許第3,953,566号明細書の教示に従って一軸延伸した。この5.5グラムのサンプルを、0.1gのHgI2(Sigma-Aldrich)(「酸化型水銀」)を含む50gのメタノール(Sigma-Aldrich)溶液で一晩処理した。サンプルを風乾した。処理されたサンプルの一部を蛍光X線(「XRF」)によって分析し、約1wt%のHgを有することが示された。
【0120】
例6
例5からのHgI
2処理サンプルから10mm×150mmのストリップ(0.79g)を切り取った。サンプルを60℃で1cm×1cmの正方形のサンプルホルダーに入れた。安定したベースラインを、80%を超えるまで加湿された1分あたり1標準リットルの空気でサンプルをバイパスして確立した。流出物を、0℃に冷却されたSnCl
2/硫酸トラップを通過させ、次に水銀分析装置(Ohio Lumex)に送った。次に、湿った空気をサンプルに送った。この時点で、
図2に示すように、非常に大きな水銀放出(約25,000μg/m
3)を観察した。サンプルを再びバイパスすると、水銀量は最終的にベースラインに戻った。この大量の水銀放出は、サンプル上のヨウ化第二水銀の蒸気圧に起因する。
【0121】
サンプルをホルダーから取り外し、メタノール中のKIの2wt%溶液のハロゲン源に15分間浸した。次に、サンプルを風乾し、サンプルホルダーに戻した。空気がサンプルを通したときに、水銀の放出は検出されなかった。これは、ヨウ化カリウムによる処理が水銀蒸気の放出を効果的に低減することを示した。試験に続いて、サンプルは蛍光X線によってHgI2含有量について再度試験した(そして、約1wt%のHgを含むことがわかり、浸漬によってサンプルから有意な量のHgI2が失われなかったことを示している)。1slpmで実施したこの試験の感度は、<0.0013μgHg蒸気/分/gサンプルである。
【0122】
例7
例5のHgI
2処理サンプルの10mm×150mmのストリップ(0.79g)を、60℃で1cm×1cmの正方形のサンプルホルダーに入れた。安定したベースラインを、1slpmの空気(>80%に加湿)でサンプルをバイパスして確立した。流出物を、0℃に冷却されたSnCl
2/硫酸トラップを通過させ、次に水銀分析装置(Ohio Lumex)に送った。次に、湿った空気をサンプルに送った。この時点で、
図3に示されるように、非常に大量の水銀放出(約16,000μg/m
3)を観察した。サンプルを再びバイパスさせると、水銀量は最終的にベースラインに戻った。この大量の水銀放出は、サンプル上のヨウ化第二水銀の蒸気圧に起因する。
【0123】
サンプルをホルダーから取り外し、メタノール中のTBAIの0.74wt%溶液に15分間浸し、次に風乾してサンプルホルダーに戻した。空気をサンプルに通したときに、水銀の放出は検出されなかった。これは、TBAIによる処理が水銀蒸気の放出を効果的に低減することを示した。試験に続いて、サンプルを、蛍光X線によってHgI2含有量について再度試験し、約1wt%のHgを含むことが判った。これは、浸漬によってサンプルから有意な量のHgI2が失われなかったことを示している。1slpmで実施されたこの試験の感度は、<0.0013μgHg蒸気/分/gサンプルである。
【0124】
例8
処理済み吸着剤ポリマー複合材(SPC)材料中のハロゲン化水銀錯体の検出
ハロゲン化水銀との錯体の形成は、次の式1及び2によって起こる。
HgX2+X-→HgX3
-(式1)
HgX3
-+X-→HgX4
2-(式2)
(式中、Xは塩化物(Cl-)、臭化物(Br-)及びヨウ化物(I-)である)。
【0125】
錯体を形成する傾向は、I->Br->Cl-の順に増加する。
【0126】
反応は、一般に、錯体アニオンの電荷をバランスさせるカチオンとは独立であるが、カチオンは錯体の溶解度に影響を与えることができる。例えば、K2HgI4などの錯化カリウムカチオンの化合物は水に可溶であることができるが、(Bu4N)2HgI4などの錯化テトラブチルアンモニウム([Bu4N]+)カチオンの化合物は水に不溶であることができる。本明細書及び以下において、「Bu」はブチル基を指す。
【0127】
XANESの概要
XANES分析は、X線吸収端近傍分光法の略語である。サンプルは高エネルギーX線(一般に、シンクロトロンから)に付される。X線吸収はX線エネルギーの関数として測定される。近端吸収の位置及び形状は元素の酸化状態に関する情報を提供する。適切な標準が提供されるならば、位置及び形状を指紋として使用して、未知のものを識別することもできる。
【0128】
(Bu4N)HgI3(1:1錯体)の合成
(Bu4N)HgI3を、XANES研究のための標準を提供するために合成した。
【0129】
0.3716g(1ミリモル)のTBAIを75mLのメタノールに溶解した。0.4522g(1ミリモル)のHgI2を加えた。HgI2は数分以内に溶解し、淡黄色の溶液を生じた。溶液を30分間撹拌した。溶液を結晶化皿で蒸発乾固させた。0.69グラムのネオンイエローの針状結晶を得た(サンプル1)。
【0130】
75mLのメタノール中の0.3686グラムのTBAI及び0.454グラムのHgI2を使用して合成を繰り返した。蒸発時に、0.75グラムのネオンイエローの結晶を回収した(サンプル2)。
【0131】
サンプル1及び2の元素分析を、Knoxville TNのGalbraith Laboratories Inc.(登録商標)によって実施した。結果を以下の表8に示す。
【0132】
【0133】
示されているように、元素分析の結果は、1:1錯体の理論値と相関していた。さらに、サンプル1及び2について得られた融点は、Richard V.Snyder及びGerd N. La Mar, J. Am. Chem. Soc., 98(15), 4419~4424(1976)によって得られた文献値と相関していた。比較のために、TBAI及びHgI2の融点はそれぞれ141~143℃及び259℃である。元素分析及び融点の両方の相関関係は、サンプル1及び2がハロゲン化水銀錯体を含んでいたことの証拠と見なされる。
【0134】
(TGA)(Bu4N)HgI3vs.HgI2及びTBAIの揮発性の低下
熱重量分析をHgI2及びサンプル1で行った。熱重量分析は、TA Instruments製のTGAV5000熱重量分析装置を使用して、TA Instruments Hi-Res動的方法を使用して、空気雰囲気下で質量損失を測定しながら、サンプル温度を周囲温度から800℃までゆっくりと上昇させることによって行った。時間に対する質量損失の一次導関数は、気化速度が最大に達する温度の尺度を提供する。HgI2では、このピークは159℃で観察された。(Bu4N)HgI3について、ピークは258℃であった。この分析から、問題のハロゲン化水銀錯体がHgI2よりも低い揮発性であることが明らかであった。
【0135】
XANESサンプルの調製
参照サンプルとして使用された水銀化合物(HgI2及び(Bu4N)HgI3)を、カプトンチューブ内に装填する前に1:1の比率でPTFE粉末と混合した。
【0136】
米国特許第9,827,551号明細書に一般的に記載され、酸化型水銀を含む吸着剤ポリマー複合材料(「SPC」)も、石炭火力発電所の排煙中で長時間フィールド暴露し、120℃で乾燥させた後に、使用済みSPCサンプルの形で回収した。
【0137】
すべてのサンプルを直径1mmにカットし、各サンプルをワイヤで押してカプトンチューブ中に装填した。すべてのサンプルは、それぞれのカプトンチューブに各サンプルが1~2cm含まれるまで装填され、端をモデリングクレイで固定した。
【0138】
XANES実験の実験詳細
XANES分析を、ブルックヘブン国立研究所の国立シンクロトロン光源で行った。Hg L111端のX線スペクトルを、参照サンプル及びフィールド暴露された使用済みSPCサンプルの両方で取得した。上記のように、フィールド暴露された使用済みSPCサンプルを、石炭火力発電所の排煙に長時間暴露された後に得た。これらのサンプルの水銀含有量は比較的低かった(排煙中の水銀濃度が比較的低かったため)。
【0139】
HgI
2、(Bu
4N)HgI
3のXANESのグラフ
図4は、HgI
2、(Bu
4N)HgI
3及びフィールド暴露されたSPCサンプルについてのHg L
111XANESスペクトルの導関数を示している。
【0140】
具体的には、上記のフィールド暴露サンプル(「XANESサンプルの調製」を参照されたい)は、米国特許第7,791,861号明細書で教示されている一般的な乾式混合方法を使用して調製された使用済み吸着剤ポリマー複合材(SPC)材料であり、それにより、複合材サンプルを形成し、その後、Goreの米国特許第3,953,566号明細書の教示に従って一軸延伸した。フィールド暴露された使用済みSPCサンプルは、65部の活性炭、20部のPTFE及び10部のTBAIの形のハロゲン源を含み、商業用亜炭石炭火力発電所の排出物に数か月間暴露し、約0.2wt%のHgを含んだ。
【0141】
HgI2標準は、Sigma Aldrich(登録商標)の試薬グレード(>99%)HgI2(部品番号221090)であった。
【0142】
(Bu4N)HgI3化合物を上記のように調製した。
【0143】
フィールド暴露されたサンプルと参照化合物(HgI2及び(Bu4N)HgI3)との間の導関数スペクトルの比較を使用して、スペクトル内の変曲点の位置及び分離を決定した。フィールド暴露された使用済みSPCサンプルのピーク及び相対強度の、(Bu4N)HgI3のピーク及び相対強度と比較した違いは、フィールド暴露された使用済みSPCサンプルを処理するために使用された排煙中の水銀濃度が比較的低いことに起因していた。
【0144】
図4に示すように、フィールド暴露された使用済みSPCサンプルのピーク及び相対強度は、HgI
2よりも(Bu
4N)HgI
3のものに近く、フィールド暴露された使用済みSPC材料中にハロゲン化水銀錯体が存在する可能性があることを示す。
【0145】
本開示の幾つかの実施形態を記載してきたが、これらの実施形態は例示にすぎず、限定的ではなく、多くの変更が当業者に明らかになりうることが理解される。例えば、本明細書で論じられるすべての寸法は、例としてのみ提供されており、例示的であり、限定的ではないことが意図されている。