(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179546
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20231212BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20231212BHJP
H01L 29/417 20060101ALI20231212BHJP
H01L 29/423 20060101ALI20231212BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20231212BHJP
H10K 59/12 20230101ALI20231212BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20231212BHJP
G02F 1/1368 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L29/78 617N
H01L29/78 616T
H01L29/78 618B
H01L21/28 301B
H01L21/28 301R
H01L29/50 M
H01L29/58 G
H05B33/14 Z
H10K59/12
G09F9/30 338
G02F1/1368
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023158603
(22)【出願日】2023-09-22
(62)【分割の表示】P 2022021739の分割
【原出願日】2014-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2013213240
(32)【優先日】2013-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2013216220
(32)【優先日】2013-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2013242253
(32)【優先日】2013-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2013250040
(32)【優先日】2013-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 舜平
(72)【発明者】
【氏名】保坂 泰靖
(72)【発明者】
【氏名】生内 俊光
(72)【発明者】
【氏名】肥塚 純一
(72)【発明者】
【氏名】島 行徳
(72)【発明者】
【氏名】早川 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】羽持 貴士
(72)【発明者】
【氏名】平石 鈴之介
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させる酸化物半導体を有するトランジスタを用いた半導体装置を提供する。
【解決手段】トランジスタ10は、絶縁表面上のゲート電極13と、ゲート電極と重なる酸化物半導体膜17と、ゲート電極及び酸化物半導体膜の間であって、酸化物半導体膜と接するゲート絶縁膜15と、酸化物半導体膜において、ゲート絶縁膜と接する面と反対側の面において接する保護膜21と、酸化物半導体膜に接する一対の電極19、20と、を有し、ゲート絶縁膜または保護膜は、加熱処理により放出する窒素酸化物の放出量より、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=17の気体の放出量が多い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電層と、
前記第1の導電層上の第1の絶縁層と、
前記第1の絶縁層を介して前記第1の導電層と重なる領域を有する酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層上の第2の絶縁層と、
前記第2の絶縁層に設けられた第1の開口を介して前記酸化物半導体層と接する領域を有する第2の導電層と、
前記第2の絶縁層に設けられた第2の開口を介して前記酸化物半導体層と接する領域を有する第3の導電層と、
前記第2の絶縁層を介して前記酸化物半導体層と重なる領域を有する第4の導電層と、を有し、
前記酸化物半導体層は、トランジスタのチャネル形成領域を有し、
前記第1の導電層は、前記トランジスタの第1のゲート電極として機能する領域を有し、
前記第4の導電層は、前記トランジスタの第2のゲート電極として機能する領域を有する半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物、方法、または、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、マシ
ン、マニュファクチャ、または、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。特
に、本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、記憶装置、それら
の駆動方法、またはそれらの製造方法に関する。特に、本発明の一態様は、電界効果トラ
ンジスタを有する半導体装置に関する。
【0002】
なお、本明細書等において、半導体装置とは、半導体特性を利用することで機能しうる
装置全般を指す。トランジスタなどの半導体素子をはじめ、半導体回路、演算装置、記憶
装置は、半導体装置の一態様である。撮像装置、表示装置、液晶表示装置、発光装置、電
気光学装置、発電装置(薄膜太陽電池、有機薄膜太陽電池等を含む)、及び電子機器は、
半導体装置を有している場合がある。
【背景技術】
【0003】
液晶表示装置や発光表示装置に代表されるフラットパネルディスプレイの多くに用いら
れているトランジスタは、ガラス基板上に形成されたアモルファスシリコン、単結晶シリ
コン又は多結晶シリコンなどのシリコン半導体によって構成されている。また、該シリコ
ン半導体を用いたトランジスタは、集積回路(IC)などにも利用されている。
【0004】
近年、シリコン半導体に代わって、半導体特性を示す金属酸化物をトランジスタに用い
る技術が注目されている。なお、本明細書中では、半導体特性を示す金属酸化物を酸化物
半導体とよぶことにする。
【0005】
例えば、酸化物半導体として、酸化亜鉛、又はIn-Ga-Zn系酸化物を用いたトラ
ンジスタを作製し、該トランジスタを表示装置の画素のスイッチング素子などに用いる技
術が開示されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0006】
ところで、特に酸化物半導体においては、水素がキャリアの供給源となることが指摘さ
れている。そのため、酸化物半導体の形成時に水素が混入しないような措置を講じること
が求められており、酸化物半導体膜や、酸化物半導体に接するゲート絶縁膜の水素を低減
することで、しきい値電圧の変動を抑制している(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-123861号公報
【特許文献2】特開2007-96055号公報
【特許文献3】特開2009-224479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、水素と同様に窒素がキャリア供給源となる。このため、酸化物半導体膜
に接する膜に大量に窒素が含まれることで、酸化物半導体膜を有するトランジスタの電気
特性の変動、代表的にはしきい値電圧の変動が生じる。また、トランジスタごとに電気特
性がばらつくという問題がある。
【0009】
そこで、本発明の一態様は、酸化物半導体を有するトランジスタを用いた半導体装置に
おいて、電気特性の変動を抑制すると共に、信頼性を向上させることを課題の一とする。
または、本発明の一態様は、消費電力が低減された半導体装置を提供することを課題の一
とする。または、本発明の一態様は、新規な半導体装置などを提供することを課題の一と
する。なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発
明の一態様は、必ずしも、これらの課題の全てを解決する必要はない。なお、これら以外
の課題は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細
書、図面、請求項などの記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、絶縁表面上のゲート電極と、ゲート電極と重なる酸化物半導体膜と
、ゲート電極及び酸化物半導体膜の間であって、酸化物半導体膜と接するゲート絶縁膜と
、酸化物半導体膜において、ゲート絶縁膜と接する面と反対側の面において接する保護膜
と、酸化物半導体膜に接する一対の電極と、を有し、ゲート絶縁膜または保護膜は、加熱
処理により放出する窒素酸化物の放出量より、加熱処理により放出する質量電荷比m/z
=17の気体の放出量が多い領域を有する半導体装置である。
【0011】
また、本発明の一態様は、絶縁表面上のゲート電極と、ゲート電極と重なる酸化物半導
体膜と、ゲート電極及び酸化物半導体膜の間であって、酸化物半導体膜と接するゲート絶
縁膜と、酸化物半導体膜において、ゲート絶縁膜と接する面と反対側の面において接する
保護膜と、酸化物半導体膜に接する一対の電極と、を備えるトランジスタを有する半導体
装置である。ストレス時間に対するトランジスタのしきい値電圧の変動量を示す両対数グ
ラフにおいて、横軸と縦軸の対数目盛の間隔が等しく、しきい値電圧の変動量の絶対値の
累乗近似線と、しきい値電圧の変動量の絶対値が0Vである直線とがなす角度が、-3°
以上20°未満であり、ストレス時間が0.1時間のときのしきい値電圧の変動量の絶対
値が0.3V未満である。なお、ストレス時間とは、トランジスタに、電圧、温度等の負
荷を与える時間のことをいう。
【0012】
また、本発明の一態様は、絶縁表面上のゲート電極と、ゲート電極と重なる酸化物半導
体膜と、ゲート電極及び酸化物半導体膜の間であって、酸化物半導体膜と接するゲート絶
縁膜と、酸化物半導体膜において、ゲート絶縁膜と接する面と反対側の面において接する
保護膜と、酸化物半導体膜に接する一対の電極と、を備えるトランジスタを有する半導体
装置である。ストレス時間に対するトランジスタのしきい値電圧の変動量を示すグラフに
おいて、しきい値電圧の変動値の累乗近似線の指数が、-0.1以上0.3以下であり、
ストレス時間が0.1時間のときのしきい値電圧の変動量が0.3V未満である。
【0013】
なお、ゲート絶縁膜または保護膜は、電子スピン共鳴法(ESR)で測定したスピンの
密度が1×1018spins/cm3未満、好ましくは1×1017spins/cm
3以上1×1018spins/cm3未満である領域や部分を有する。
【0014】
また、ゲート絶縁膜または保護膜は、電子スピン共鳴スペクトルにおいて、g値が2.
037以上2.039以下の第1のシグナル、g値が2.001以上2.003以下の第
2のシグナル、及びg値が1.964以上1.966以下の第3のシグナルが観測される
領域や部分を有する。また、第1のシグナルおよび第2のシグナル、並びに第2のシグナ
ル及び第3のシグナルのスプリット幅がXバンドの測定においてそれぞれ約5mTである
。
【0015】
また、ゲート絶縁膜または保護膜は、窒素酸化物に起因するシグナルが観測される。該
窒素酸化物は、一酸化窒素または二酸化窒素が含まれる。
【0016】
絶縁表面及びゲート電極の間に、保護膜、酸化物半導体膜、及びゲート絶縁膜を有して
もよい。または、絶縁表面及び酸化物半導体膜の間に、ゲート電極及びゲート絶縁膜を有
してもよい。
【0017】
一対の電極は、酸化物半導体膜及び保護膜の間に設けられてもよい。または、一対の電
極は、酸化物半導体膜及びゲート絶縁膜の間に設けられてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様により、酸化物半導体膜を有するトランジスタの電気特性の変動を抑制
すると共に、信頼性を向上させることができる。または、本発明の一態様により、消費電
力が低減された半導体装置を提供することができる。または、本発明の一態様により、新
規な半導体装置などを提供することができる。なお、これらの効果の記載は、他の効果の
存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、必ずしも、これらの効果の全てを
有する必要はない。なお、これら以外の効果は、明細書、図面、請求項などの記載から、
自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の効
果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】BTストレス試験後のトランジスタのしきい値電圧の変動量の絶対値を示す図。
【
図3】トランジスタの作製方法の一形態を説明する図。
【
図11】形成エネルギー及び遷移レベルの関係と、欠陥の電子配置を説明する図。
【
図12】フェルミ準位の変化と、欠陥の荷電状態の変化を説明する図。
【
図14】c-SiO
2モデルの格子間にNO
2を導入したモデルを説明する図。
【
図15】c-SiO
2モデルの格子間にN
2Oを導入したモデルを説明する図。
【
図16】c-SiO
2モデルの格子間にNOを導入したモデルを説明する図。
【
図17】c-SiO
2モデルの格子間にNを導入したモデルを説明する図。
【
図20】NO2及びN-Si-NのESRスペクトルを説明する図。
【
図21】トランジスタのしきい値電圧がプラスシフトする現象のメカニズムを説明する図。
【
図24】V
OHの形成エネルギー及び遷移レベルの関係、及びV
OHの熱力学的遷移レベルを説明する図。
【
図25】V
OHのキャリア密度と欠陥密度の関係を説明する図。
【
図26】酸化物半導体膜内部、及びその界面近傍のDOSを示すバンド構造。
【
図27】酸化物半導体膜を有するトランジスタの暗状態における劣化を説明する図。
【
図28】酸化物半導体膜を有するトランジスタの暗状態における劣化を説明する図。
【
図29】酸化物半導体膜を有するトランジスタの光照射下における劣化を説明する図。
【
図30】酸化物半導体膜を有するトランジスタの光照射下における劣化を説明する図。
【
図31】酸化物半導体膜を有するトランジスタの光照射下における劣化を説明する図。
【
図32】酸化物半導体膜の高純度真性化を説明するモデル図。
【
図33】InGaZnO4結晶モデル及び欠陥を説明する図。
【
図34】格子間(6)にCを配置したモデルの構造及びその状態密度を説明する図。
【
図35】InをCに置換したモデルの構造及びその状態密度を説明する図。
【
図36】GaをCに置換したモデルの構造及びその状態密度を説明する図。
【
図37】ZnをCに置換したモデルの構造及びその状態密度を説明する図。
【
図38】トランジスタの一形態を説明する上面図及び断面図。
【
図39】トランジスタの作製方法の一形態を説明する断面図。
【
図41】トランジスタの一形態を説明する上面図及び断面図。
【
図42】実施の形態に係る、表示パネルの構成を説明する図。
【
図46】実施の形態に係る、電子機器を説明する図。
【
図59】ゲートBTストレス試験及び光ゲートBTストレス試験後のトランジスタのしきい値電圧及びシフト値の変動量を示す図。
【
図61】ゲートBTストレス試験及び光ゲートBTストレス試験後のトランジスタのしきい値電圧及びシフト値の変動量を示す図。
【
図62】スピン密度及びしきい値電圧の変動量を示す図。
【
図65】BTストレス試験後のトランジスタのしきい値電圧の変動量の絶対値を示す図。
【
図66】繰り返し±BTストレス試験におけるトランジスタのしきい値電圧の変動を示す図。
【
図70】酸化物半導体の断面TEM像および局所的なフーリエ変換像。
【
図71】酸化物半導体膜のナノビーム電子回折パターンを示す図、および透過電子回折測定装置の一例を示す図。
【
図72】透過電子回折測定による構造解析の一例を示す図、および平面TEM像。
【
図73】CAAC-OSの断面におけるCs補正高分解能TEM像、およびCAAC-OSの断面模式図。
【
図74】CAAC-OSの平面におけるCs補正高分解能TEM像。
【
図75】CAAC-OSおよび単結晶酸化物半導体のXRDによる構造解析を説明する図。
【
図76】CAAC-OSの電子回折パターンを示す図。
【
図77】In-Ga-Zn酸化物の電子照射による結晶部の変化を示す図。
【
図78】CAAC-OSおよびnc-OSの成膜モデルを説明する模式図。
【
図79】InGaZnO
4の結晶、およびペレットを説明する図。
【
図80】CAAC-OSの成膜モデルを説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明
は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及
び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は
、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。また
、以下に説明する実施の形態及び実施例において、同一部分または同様の機能を有する部
分には、同一の符号または同一のハッチパターンを異なる図面間で共通して用い、その繰
り返しの説明は省略する。
【0021】
なお、本明細書で説明する各図において、各構成の大きさ、膜の厚さ、または領域は、
明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されな
い。
【0022】
また、本明細書にて用いる第1、第2、第3などの用語は、構成要素の混同を避けるた
めに付したものであり、数的に限定するものではない。そのため、例えば、「第1の」を
「第2の」または「第3の」などと適宜置き換えて説明することができる。
【0023】
また、本明細書において、「平行」とは、二つの直線が-10°以上10°以下の角度
で配置されている状態をいう。従って、-5°以上5°以下の場合も含まれる。また、「
垂直」とは、二つの直線が80°以上100°以下の角度で配置されている状態をいう。
従って、85°以上95°以下の場合も含まれる。
【0024】
また、本明細書において、結晶が三方晶または菱面体晶である場合、六方晶系として表
す。
【0025】
また、「ソース」や「ドレイン」の機能は、回路動作において電流の方向が変化する場
合などには入れ替わることがある。このため、本明細書においては、「ソース」や「ドレ
イン」の用語は、入れ替えて用いることができるものとする。
【0026】
また、電圧とは2点間における電位差のことをいい、電位とはある一点における静電場
の中にある単位電荷が持つ静電エネルギー(電気的な位置エネルギー)のことをいう。た
だし、一般的に、ある一点における電位と基準となる電位(例えば接地電位)との電位差
のことを、単に電位もしくは電圧と呼び、電位と電圧が同義語として用いられることが多
い。このため、本明細書では特に指定する場合を除き、電位を電圧と読み替えてもよいし
、電圧を電位と読み替えてもよいこととする。
【0027】
また、酸化物半導体膜を有するトランジスタはnチャネル型トランジスタであるため、
本明細書において、ゲート電圧が0Vの場合、ドレイン電流が流れていないとみなすこと
ができるトランジスタを、ノーマリーオフ特性を有するトランジスタと定義する。また、
ゲート電圧が0Vの場合、ドレイン電流が流れているとみなすことができるトランジスタ
を、ノーマリーオン特性を有するトランジスタと定義する。
【0028】
なお、チャネル長とは、例えば、トランジスタの上面図において、酸化物半導体膜(ま
たはトランジスタがオン状態のときに酸化物半導体膜の中で電流の流れる部分)とゲート
電極とが重なる領域、またはチャネルが形成される領域における、ソース(ソース領域ま
たはソース電極)とドレイン(ドレイン領域またはドレイン電極)との間の距離をいう。
なお、一つのトランジスタにおいて、チャネル長が全ての領域で同じ値をとるとは限らな
い。即ち、一つのトランジスタのチャネル長は、一つの値に定まらない場合がある。その
ため、本明細書では、チャネル長は、チャネルの形成される領域における、いずれか一の
値、最大値、最小値または平均値とする。
【0029】
チャネル幅とは、例えば、酸化物半導体膜(またはトランジスタがオン状態のときに酸
化物半導体膜の中で電流の流れる部分)とゲート電極とが重なる領域、またはチャネルが
形成される領域における、ソースとドレインとが向かい合っている部分の長さをいう。な
お、一つのトランジスタにおいて、チャネル幅がすべての領域で同じ値をとるとは限らな
い。即ち、一つのトランジスタのチャネル幅は、一つの値に定まらない場合がある。その
ため、本明細書では、チャネル幅は、チャネルの形成される領域における、いずれか一の
値、最大値、最小値または平均値とする。
【0030】
なお、トランジスタの構造によっては、実際にチャネルの形成される領域におけるチャ
ネル幅(以下、実効的なチャネル幅とよぶ。)と、トランジスタの上面図において示され
るチャネル幅(以下、見かけ上のチャネル幅とよぶ。)と、が異なる場合がある。例えば
、立体的な構造を有するトランジスタでは、実効的なチャネル幅が、トランジスタの上面
図において示される見かけ上のチャネル幅よりも大きくなり、その影響が無視できなくな
る場合がある。例えば、微細かつ立体的な構造を有するトランジスタでは、酸化物半導体
膜の上面に形成されるチャネル領域の割合に対して、酸化物半導体膜の側面に形成される
チャネル領域の割合が大きくなる場合がある。その場合は、上面図において示される見か
け上のチャネル幅よりも、実際にチャネルの形成される実効的なチャネル幅の方が大きく
なる。
【0031】
ところで、立体的な構造を有するトランジスタにおいては、実効的なチャネル幅の、実
測による見積もりが困難となる場合がある。例えば、設計値から実効的なチャネル幅を見
積もるためには、酸化物半導体膜の形状が既知という仮定が必要である。したがって、酸
化物半導体膜の形状が正確にわからない場合には、実効的なチャネル幅を正確に測定する
ことは困難である。
【0032】
そこで、本明細書では、トランジスタの上面図において、酸化物半導体膜とゲート電極
とが重なる領域における、ソースとドレインとが向かい合っている部分の長さである見か
け上のチャネル幅を、「囲い込みチャネル幅(SCW:Surrounded Chan
nel Width)」とよぶ場合がある。また、本明細書では、単にチャネル幅と記載
した場合には、囲い込みチャネル幅または見かけ上のチャネル幅を指す場合がある。また
は、本明細書では、単にチャネル幅と記載した場合には、実効的なチャネル幅を指す場合
がある。なお、チャネル長、チャネル幅、実効的なチャネル幅、見かけ上のチャネル幅、
囲い込みチャネル幅などは、断面TEM像などを取得して、その画像を解析することなど
によって、値を決定することができる。
【0033】
なお、トランジスタの電界効果移動度や、チャネル幅当たりの電流値などを計算して求
める場合、囲い込みチャネル幅を用いて計算する場合がある。その場合には、実効的なチ
ャネル幅を用いて計算する場合とは異なる値をとる場合がある。
【0034】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様である半導体装置、及びその作製方法について図面
を参照して説明する。本実施の形態に示すトランジスタ10は、ボトムゲート構造のトラ
ンジスタである。
【0035】
<1.トランジスタの構造>
図1(A)乃至
図1(C)に、半導体装置が有するトランジスタ10の上面図及び断面
図を示す。
図1(A)はトランジスタ10の上面図であり、
図1(B)は、
図1(A)の
一点鎖線A-B間の断面図、
図1(C)は、
図1(A)の一点鎖線C-D間の断面図であ
る。なお、
図1(A)では、明瞭化のため、基板11、ゲート絶縁膜15、保護膜21な
どを省略している。
【0036】
図1(A)乃至
図1(C)に示すトランジスタ10は、基板11上に設けられるゲート
電極13と、基板11及びゲート電極13上に形成されるゲート絶縁膜15と、ゲート絶
縁膜15を介して、ゲート電極13と重なる酸化物半導体膜17と、酸化物半導体膜17
に接する一対の電極19、20とを有する。また、ゲート絶縁膜15、酸化物半導体膜1
7、及び一対の電極19、20上には、保護膜21が形成される。
【0037】
なお、保護膜21は、酸化物半導体膜17において、ゲート絶縁膜15が接する面と反
対側の面において接する。すなわち、保護膜21は、酸化物半導体膜17において、チャ
ネルが形成される領域の反対側(以下、バックチャネル領域という。)において、酸化物
半導体膜17と接することで、酸化物半導体膜17のバックチャネル領域を保護する機能
を有する。
【0038】
本実施の形態において、酸化物半導体膜17と接する膜、代表的には、ゲート絶縁膜1
5及び保護膜21の少なくとも一方が、酸化物絶縁膜であり、該酸化物絶縁膜は、窒素を
含み、且つ欠陥量の少ないことを特徴とする。
【0039】
窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜の代表例としては、酸化窒化シリコン膜
、酸化窒化アルミニウム膜等がある。なお、酸化窒化シリコン膜、酸化窒化アルミニウム
膜とは、その組成として、窒素よりも酸素の含有量が多い膜を指し、窒化酸化シリコン膜
、窒化酸化アルミニウム膜とは、その組成として、酸素よりも窒素の含有量が多い膜を指
す。
【0040】
窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理により放出する窒素酸化物
(NOx、xは0以上2以下、好ましくは1以上2以下)の放出量より、加熱処理により
放出する質量電荷比m/z=17の気体の放出量が多い領域や部分を有する。なお、窒素
酸化物の代表例としては、一酸化窒素、二酸化窒素等がある。または、窒素を含み、且つ
欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=30の気体
の放出量より、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=17の気体の放出量が多い領
域や部分を有する。または、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理
により放出する質量電荷比m/z=46の気体の放出量より、加熱処理により放出する質
量電荷比m/z=17の気体の放出量が多い領域や部分を有する。または、窒素を含み、
且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=30の
気体及び質量電荷比m/z=46の気体の放出総和量より、加熱処理により放出する質量
電荷比m/z=17の気体の放出量が多い領域や部分を有する。なお、本明細書において
、加熱処理により放出する気体の放出量は、一例としては、膜の表面温度が50℃以上6
50℃以下、好ましくは50℃以上550℃以下の加熱処理による放出量とする。
【0041】
また、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理により放出する質量
電荷比m/z=30の気体の放出量が検出下限以下であり、加熱処理により放出する質量
電荷比m/z=17の気体の放出量が1×1018個/cm3以上5×1019個/cm
3以下である領域や部分を有する。または、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁
膜は、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=46の気体の放出量が検出下限以下で
あり、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=17の気体の放出量が1×1018個
/cm3以上5×1019個/cm3以下である領域や部分を有する。または、窒素を含
み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=3
0の気体の放出量が検出下限以下であり、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=4
6の気体の放出量が検出下限以下であり、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=1
7の気体の放出量が1×1018個/cm3以上5×1019個/cm3以下である領域
や部分を有する。
【0042】
なお、質量電荷比m/z=30の気体の代表例としては、一酸化窒素がある。また、質
量電荷比m/z=17の気体の代表例としては、アンモニアがある。また、質量電荷比m
/z=46の気体の代表例としては、二酸化窒素がある。加熱処理により気体の放出量を
測定する方法の一例として昇温脱離ガス分析法(TDS(Thermal Desorp
tion Spectroscopy))がある。
【0043】
ここで、TDS分析にて、気体の放出量の測定方法について説明する。ここでは、気体
の一例を分子xとし、分子xの放出量の測定方法について説明する。
【0044】
TDS分析したときの気体の放出量は、分析によって得られるスペクトルの積分値に比
例する。このため、絶縁膜のスペクトルの積分値と、標準試料の基準値に対する比とによ
り、気体の放出量を計算することができる。標準試料の基準値とは、所定の原子を含む試
料の、スペクトルの積分値に対する原子の密度の割合である。
【0045】
例えば、標準試料である所定の密度の水素を含むシリコンウェハのTDS分析結果、及
び絶縁膜のTDS分析結果から、絶縁膜の分子xの放出量(Nx)は、数式1で求めるこ
とができる。ここで、TDS分析で得られる質量電荷比で検出されるスペクトルの全てが
分子x由来と仮定する。
【0046】
【0047】
NH2は、標準試料から放出した水素分子を密度で換算した値である。SH2は、標準
試料をTDS分析したときのスペクトルの積分値である。ここで、標準試料の基準値を、
NH2/SH2とする。Sxは、絶縁膜をTDS分析したときのスペクトルの積分値であ
る。αx(xは分子種。)は、TDS分析におけるスペクトル強度に影響する係数であり
、分子の種類によって異なる。数式1の詳細に関しては、特開平6-275697公報を
参照する。なお、上記絶縁膜の分子xの放出量は、電子科学株式会社製の昇温脱離分析装
置EMD-WA1000S/Wを用い、標準試料として9.62×1016atoms/
cm2の水素原子を含むシリコンウェハを用いて測定する。
【0048】
また、上記数式1において、一酸化窒素、二酸化窒素、またはアンモニアの放出量をT
DS分析したときのスペクトルの積分値を、Sxに代入することで、一酸化窒素、二酸化
窒素、またはアンモニアの放出量を求めることができる。
【0049】
なお、TDS分析において、質量電荷比m/z=30の気体(一酸化窒素)の放出量の
検出下限は、1×1017個/cm3、さらに低い検出下限は5×1016個/cm3、
さらに低い検出下限は4×1016個/cm3、さらに低い検出下限は1×1016個/
cm3である。
【0050】
また、TDS分析において、質量電荷比m/z=46の気体(二酸化窒素)の放出量の
検出下限は、1×1017個/cm3、さらに低い検出下限は5×1016個/cm3、
さらに低い検出下限は4×1016個/cm3、さらに低い検出下限は1×1016個/
cm3である。
【0051】
また、TDS分析において、質量電荷比m/z=17の気体(アンモニア)の放出量の
検出下限は、5×1017個/cm3、さらに低い検出下限は1×1017個/cm3で
ある。
【0052】
なお、試料に水が含まれる場合、試料をTDS分析したときのスペクトルは、質量電荷
比18、17、及び16のフラグメントに分裂する。それぞれの質量電荷比の強度比から
フラグメント・パターン係数を求めることができる。質量電荷比18、17、及び16の
フラグメント・パターン係数はそれぞれ、100、23、1となる。即ち、質量電荷比1
7のスペクトルにおいては、アンモニアと水の放出量の合計の強度が観察される。このた
め、アンモニアの放出量は、TDS分析における質量電荷比m/z=17の気体の放出量
から、質量電荷比m/z=18の気体の放出量を0.23倍した放出量を除くことで、求
められる。なお、本明細書においては、質量電荷比m/z=17とは、水の放出量が除か
れたアンモニアのみの放出量として説明する。
【0053】
なお、保護膜21として、加熱処理により放出する窒素酸化物の放出量より、加熱処理
により放出するアンモニアの放出量が多い酸化物絶縁膜を用いることで、代表的には、保
護膜21として、質量電荷比m/z=17の気体の放出量が1×1018個/cm3以上
5×1019個/cm3以下である酸化物絶縁膜を用いることで、作製工程のプロセスに
おける加熱処理において、反応式(A-1)及び反応式(A-2)が生じ、窒素酸化物が
窒素ガスとなって脱離する。この結果、保護膜21の窒素濃度及び窒素酸化物の含有量を
低減することができる。また、ゲート絶縁膜15若しくは保護膜21と、酸化物半導体膜
17との界面におけるキャリアトラップを低減することが可能である。また、半導体装置
に含まれるトランジスタのしきい値電圧の変動を低減することが可能であり、トランジス
タの電気特性の変動を低減することができる。
【0054】
【0055】
【0056】
また、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理後において、100
K以下のESRで測定して得られたスペクトルにおいてg値が2.037以上2.039
以下の第1のシグナル、g値が2.001以上2.003以下の第2のシグナル、及びg
値が1.964以上1.966以下の第3のシグナルが観測される。なお、第1のシグナ
ル及び第2のシグナルのスプリット幅、並びに第2のシグナル及び第3のシグナルのスプ
リット幅は、XバンドのESR測定において約5mTである。また、g値が2.037以
上2.039以下の第1のシグナル、g値が2.001以上2.003以下の第2のシグ
ナル、及びg値が1.964以上1.966以下である第3のシグナルのスピンの密度の
合計が、1×1018spins/cm3未満であり、代表的には1×1017spin
s/cm3以上1×1018spins/cm3未満である。
【0057】
なお、100K以下のESRスペクトルにおいてg値が2.037以上2.039以下
の第1シグナル、g値が2.001以上2.003以下の第2のシグナル、及びg値が1
.964以上1.966以下の第3のシグナルは、窒素酸化物(NOx、xは0以上2以
下、好ましくは1以上2以下)起因のシグナルに相当する。窒素酸化物の代表例としては
、一酸化窒素、二酸化窒素等がある。即ち、g値が2.037以上2.039以下の第1
のシグナル、g値が2.001以上2.003以下の第2のシグナル、及びg値が1.9
64以上1.966以下である第3のシグナルのスピンの密度の合計が少ないほど、酸化
物絶縁膜に含まれる窒素酸化物の含有量が少ないといえる。
【0058】
また、ゲート絶縁膜15及び保護膜21の少なくとも一方は、SIMS(Second
ary Ion Mass Spectrometry)で測定される窒素濃度が、6×
1020atoms/cm3以下であることが好ましい。この結果、ゲート絶縁膜15及
び保護膜21の少なくとも一方において、窒素酸化物が生成されにくくなり、ゲート絶縁
膜15または保護膜21と、酸化物半導体膜17との界面におけるキャリアトラップを低
減することが可能である。また、半導体装置に含まれるトランジスタのしきい値電圧の変
動を低減することが可能であり、トランジスタの電気特性の変動を低減することができる
。
【0059】
ゲート絶縁膜15または保護膜21が、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜
を有するトランジスタ10において、ゲートに正の電圧または負の電圧を印加するゲート
BTストレス試験の前後における、試験時間(以下、ストレス時間ともいう。)に対する
しきい値電圧の変動量の絶対値(|ΔVth|)を表す累乗近似線L1を
図2に示す。な
お、試験時間(ストレス時間)としきい値電圧の変動量をグラフにプロットすると、プロ
ットされた値は累乗近似線で近似することができ、その累乗近似線は両対数グラフ上では
直線となる。また、累乗近似線の指数は、両対数グラフにおける直線の傾きに相当する。
図2は両対数グラフであり、横軸はストレス時間の対数を表し、縦軸はしきい値電圧の変
動量の絶対値の対数を表す。また、ストレス試験の条件としては、例えば半導体装置とし
て表示装置を用いた場合、使用最高温度として60℃、駆動最大電圧として30Vを印加
し、任意の時間、例えば100時間のストレスを与える条件を用いることができる。
【0060】
ここで、ゲートBTストレス試験の測定方法について説明する。はじめに、基板温度を
任意の温度(以下、ストレス温度という。)に一定に維持し、トランジスタの初期特性に
おけるVg-Id特性を測定する。
【0061】
次に、基板温度をストレス温度に維持したまま、トランジスタのソース電極及びドレイ
ン電極として機能する一対の電極を同電位とし、当該一対の電極とは異なる電位をゲート
電極に一定時間(以下、ストレス時間という。)印加する。次に、基板温度はストレス温
度に維持したまま、トランジスタのVg-Id特性を測定する。この結果、ゲートBTス
トレス試験前後の電気特性におけるしきい値電圧及びシフト値の差を、変動量として得る
ことができる。
【0062】
なお、ゲート電極に負の電圧を印加するストレス試験をマイナスゲートBTストレス試
験(ダークマイナスストレス)といい、正の電圧を印加するストレス試験をプラスゲート
BTストレス試験(ダークプラスストレス)という。また、光を照射しつつゲート電極に
負の電圧を印加するストレス試験を光マイナスゲートBTストレス試験(フォトマイナス
ストレス)といい、正の電圧を印加するストレス試験を光プラスゲートBTストレス試験
(フォトプラスストレス)という。
【0063】
図2において、両対数グラフ上では累乗近似線L1は直線となるため、横軸と縦軸の対
数目盛の間隔が等しい場合、本実施の形態に示すトランジスタ10における累乗近似線L
1と、ストレス時間に対してしきい値電圧の変動量が無いときの直線、即ち
図2に示す、
累乗関数の指数が0の破線L2とのなす角度θ1は、θ2の範囲内であり、且つストレス
時間が0.1時間のときの|ΔVth|が0.3V未満、好ましくは0.1V未満である
。なお、θ2は、一点鎖線で囲まれる範囲であり、代表的には、|ΔVth|が0.1V
ときの直線から、プラス方向に20°であり且つマイナス方向に3°の範囲の角度であり
、即ち-3°以上20°未満、好ましくは0°以上15°未満である。なお、対数目盛の
間隔が同じとは、例えば、横軸においてストレス時間が10倍となる0.01時間から0
.1時間の間隔と、縦軸において、ΔVthが10倍となる0.01Vから0.1Vの間
隔が等しい、ということである。また、θ2においてプラス方向とは、反時計まわりの方
向である。
【0064】
本実施の形態に示すトランジスタ10のように、ストレス時間に対するしきい値電圧の
変動量の絶対値(|ΔVth|)を表す累乗近似線L1と破線L2とのなす角度θ1が小
さいほど、経年変化によるしきい値電圧の変動量が小さく、信頼性の高いトランジスタで
ある。
【0065】
また、
図2において、横軸をx、縦軸をyとすると、累乗近似線L1は、数式2で示す
ことができる。なお、b、Cは定数であり、bは、累乗近似線L1の指数に相当する。
【0066】
【0067】
本実施の形態に示すトランジスタ10における累乗近似線L1の指数bは、-0.1以
上0.3以下、好ましくは0以上0.2以下であり、且つストレス時間が0.1時間のと
きのΔVthが0.3V未満、好ましくは0.1V未満である。
【0068】
累乗近似線L1の指数bが小さい程、経年変化によるしきい値電圧の変動量が小さく、
信頼性の高いトランジスタである。また、ストレス時間が0.1時間のときのΔVthが
小さい程、動作初期時における信頼性が高いトランジスタである。この結果、累乗近似線
L1の指数bが、-0.1以上0.3以下、好ましくは0以上0.2以下であり、且つス
トレス時間が0.1時間のときのΔVthが0.3V未満、好ましくは0.1V未満であ
るトランジスタは信頼性が高い。
【0069】
酸化物半導体膜17に接するゲート絶縁膜15及び保護膜21の少なくとも一方が、上
記のように、窒素酸化物の含有量が少ないと、ゲート絶縁膜15または保護膜21と、酸
化物半導体膜17との界面におけるキャリアトラップを低減することが可能である。この
結果、半導体装置に含まれるトランジスタのしきい値電圧の変動を低減することが可能で
あり、トランジスタの電気特性の変動を低減することができる。
【0070】
以下に、トランジスタ10の他の構成の詳細について説明する。
【0071】
基板11の材質などに大きな制限はないが、少なくとも、後の熱処理に耐えうる程度の
耐熱性を有している必要がある。基板11として、例えば、様々な基板を用いて、トラン
ジスタを形成することが出来る。基板の種類は、特定のものに限定されることはない。そ
の基板の一例としては、半導体基板(例えば単結晶基板又はシリコン基板)、SOI基板
、ガラス基板、石英基板、プラスチック基板、金属基板、ステンレス・スチル基板、ステ
ンレス・スチル・ホイルを有する基板、タングステン基板、タングステン・ホイルを有す
る基板、可撓性基板、貼り合わせフィルム、繊維状の材料を含む紙、又は基材フィルムな
どがある。ガラス基板の一例としては、バリウムホウケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸
ガラス、又はソーダライムガラスなどがある。可撓性基板、貼り合わせフィルム、基材フ
ィルムなどの一例としては、以下のものがあげられる。例えば、ポリエチレンテレフタレ
ート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PE
S)に代表されるプラスチックがある。または、一例としては、アクリル等の合成樹脂な
どがある。または、一例としては、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリフッ化ビニル、
又はポリ塩化ビニルなどがある。または、一例としては、ポリエステル、ポリアミド、ポ
リイミド、アラミド、エポキシ、無機蒸着フィルム、又は紙類などがある。特に、半導体
基板、単結晶基板、又はSOI基板などを用いてトランジスタを製造することによって、
特性、サイズ、又は形状などのばらつきが少なく、電流能力が高く、サイズの小さいトラ
ンジスタを製造することができる。このようなトランジスタによって回路を構成すると、
回路の低消費電力化、又は回路の高集積化を図ることができる。
【0072】
また、基板11として、可撓性基板を用い、可撓性基板上に直接、トランジスタ10を
形成してもよい。または、基板11とトランジスタ10の間に剥離層を設けてもよい。剥
離層は、その上に半導体装置を一部あるいは全部完成させた後、基板11より分離し、他
の基板に転載するのに用いることができる。その際、トランジスタ10は耐熱性の劣る基
板や可撓性の基板にも転載できる。なお、上述の剥離層には、例えば、タングステン膜と
酸化シリコン膜との無機膜の積層構造の構成や、基板上にポリイミド等の有機樹脂膜が形
成された構成等を用いることができる。
【0073】
トランジスタが転載される基板の一例としては、上述したトランジスタを形成すること
が可能な基板に加え、紙基板、セロファン基板、アラミドフィルム基板、ポリイミドフィ
ルム基板、石材基板、木材基板、布基板(天然繊維(絹、綿、麻)、合成繊維(ナイロン
、ポリウレタン、ポリエステル)若しくは再生繊維(アセテート、キュプラ、レーヨン、
再生ポリエステル)などを含む)、皮革基板、又はゴム基板などがある。これらの基板を
用いることにより、特性のよいトランジスタの形成、消費電力の小さいトランジスタの形
成、壊れにくい装置の製造、耐熱性の付与、軽量化、又は薄型化を図ることができる。
【0074】
なお、基板11及びゲート電極13の間に下地絶縁膜を設けてもよい。下地絶縁膜とし
ては、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化ガリウ
ム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム等が
ある。なお、下地絶縁膜として、窒化シリコン、酸化ガリウム、酸化ハフニウム、酸化イ
ットリウム、酸化アルミニウム等を用いることで、基板11から不純物、代表的にはアル
カリ金属、水、水素等の酸化物半導体膜17への拡散を抑制することができる。
【0075】
ゲート電極13は、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタン、モリブデン、ニッ
ケル、鉄、コバルト、タングステンから選ばれた金属元素、または上述した金属元素を成
分とする合金か、上述した金属元素を組み合わせた合金等を用いて形成することができる
。また、マンガン、ジルコニウムのいずれか一または複数から選択された金属元素を用い
てもよい。また、ゲート電極13は、単層構造でも、二層以上の積層構造としてもよい。
例えば、シリコンを含むアルミニウム膜の単層構造、マンガンを含む銅膜の単層構造、ア
ルミニウム膜上にチタン膜を積層する二層構造、窒化チタン膜上にチタン膜を積層する二
層構造、窒化チタン膜上にタングステン膜を積層する二層構造、窒化タンタル膜または窒
化タングステン膜上にタングステン膜を積層する二層構造、マンガンを含む銅膜上に銅膜
を積層する二層構造、チタン膜と、そのチタン膜上にアルミニウム膜を積層し、さらにそ
の上にチタン膜を形成する三層構造、マンガンを含む銅膜上に銅膜を積層し、さらにその
上にマンガンを含む銅膜を形成する三層構造等がある。また、アルミニウムに、チタン、
タンタル、タングステン、モリブデン、クロム、ネオジム、スカンジウムから選ばれた一
または複数を組み合わせた合金膜、もしくは窒化膜を用いてもよい。
【0076】
また、ゲート電極13は、インジウム錫酸化物、酸化タングステンを含むインジウム酸
化物、酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物、酸化チタンを含むインジウム酸化
物、酸化チタンを含むインジウム錫酸化物、インジウム亜鉛酸化物、酸化シリコンを含む
インジウム錫酸化物等の透光性を有する導電性材料を適用することもできる。また、上記
透光性を有する導電性材料と、上記金属元素の積層構造とすることもできる。
【0077】
保護膜21が窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜で形成される場合、ゲート
絶縁膜15は、例えば酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化シリコ
ン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化ガリウムまたはGa-Zn系金属酸化物な
どを用いればよく、積層または単層で設ける。なお、酸化物半導体膜17との界面特性を
向上させるため、ゲート絶縁膜15において少なくとも酸化物半導体膜17と接する領域
は、酸化物絶縁膜で形成することが好ましい。
【0078】
また、ゲート絶縁膜15として、酸素、水素、水等のブロッキング効果を有する絶縁膜
を設けることで、酸化物半導体膜17からの酸素の外部への拡散と、外部から酸化物半導
体膜17への水素、水等の侵入を防ぐことができる。酸素、水素、水等のブロッキング効
果を有する絶縁膜としては、酸化アルミニウム膜、酸化窒化アルミニウム膜、酸化ガリウ
ム膜、酸化窒化ガリウム膜、酸化イットリウム膜、酸化窒化イットリウム膜、酸化ハフニ
ウム膜、酸化窒化ハフニウム膜等がある。
【0079】
また、ゲート絶縁膜15として、ハフニウムシリケート(HfSiOx)、窒素が添加
されたハフニウムシリケート(HfSixOyNz)、窒素が添加されたハフニウムアル
ミネート(HfAlxOyNz)、酸化ハフニウム、酸化イットリウムなどのhigh-
k材料を用いることでトランジスタのゲートリークを低減できる。
【0080】
ゲート絶縁膜15の厚さは、5nm以上400nm以下、より好ましくは10nm以上
300nm以下、より好ましくは50nm以上250nm以下とするとよい。
【0081】
酸化物半導体膜17は、少なくともIn若しくはZnを含む金属酸化物膜で形成され、
代表的には、In-Ga酸化物膜、In-Zn酸化物膜、In-M-Zn酸化物膜(Mは
Al、Ga、Y、Zr、La、Ce、またはNd)等で形成される。
【0082】
なお、酸化物半導体膜17がIn-M-Zn酸化物であるとき、InおよびMの和を1
00atomic%としたときInとMの原子数比率は、好ましくはInが25atom
ic%より多く、Mが75atomic%未満、さらに好ましくはInが34atomi
c%より多く、Mが66atomic%未満とする。
【0083】
酸化物半導体膜17は、エネルギーギャップが2eV以上、好ましくは2.5eV以上
、より好ましくは3eV以上である。このように、エネルギーギャップの広い酸化物半導
体を用いることで、トランジスタ10のオフ電流を低減することができる。
【0084】
酸化物半導体膜17の厚さは、3nm以上200nm以下、好ましくは3nm以上10
0nm以下、さらに好ましくは3nm以上50nm以下とする。
【0085】
酸化物半導体膜17がIn-M-Zn酸化物(MはAl、Ga、Y、Zr、La、Ce
、またはNd)の場合、In-M-Zn酸化物を成膜するために用いるスパッタリングタ
ーゲットの金属元素の原子数比は、In≧M、Zn≧Mを満たすことが好ましい。このよ
うなスパッタリングターゲットの金属元素の原子数比として、In:M:Zn=1:1:
1、In:M:Zn=1:1:1.2、In:M:Zn=3:1:2が好ましい。なお、
成膜される酸化物半導体膜17の原子数比はそれぞれ、誤差として上記のスパッタリング
ターゲットに含まれる金属元素の原子数比のプラスマイナス40%の変動を含む。
【0086】
酸化物半導体膜に含まれる水素は、金属原子と結合する酸素と反応して水になると共に
、酸素が脱離した格子(または酸素が脱離した部分)に酸素欠損を形成する。当該酸素欠
損に水素が入ることで、キャリアである電子が生成される場合がある。また、水素の一部
が金属原子と結合する酸素と結合することで、キャリアである電子を生成する場合がある
。従って、水素が含まれている酸化物半導体を用いたトランジスタはノーマリーオン特性
となりやすい。
【0087】
このため、酸化物半導体膜17は、酸素欠損と共に、水素ができる限り低減されている
ことが好ましい。具体的には、酸化物半導体膜17において、二次イオン質量分析法(S
IMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により得
られる水素濃度を、2×1020atoms/cm3以下、好ましくは5×1019at
oms/cm3以下、好ましくは1×1019atoms/cm3以下、好ましくは5×
1018atoms/cm3以下、好ましくは1×1018atoms/cm3以下、よ
り好ましくは5×1017atoms/cm3以下、さらに好ましくは1×1016at
oms/cm3以下とする。この結果、トランジスタ10は、しきい値電圧がプラスとな
る電気特性(ノーマリーオフ特性ともいう。)を有する。
【0088】
また、酸化物半導体膜17において、第14族元素の一つであるシリコンや炭素が含ま
れると、酸化物半導体膜17において酸素欠損が増加し、n型化してしまう。このため、
酸化物半導体膜17におけるシリコンや炭素の濃度(二次イオン質量分析法により得られ
る濃度)を、2×1018atoms/cm3以下、好ましくは2×1017atoms
/cm3以下とする。この結果、トランジスタ10は、しきい値電圧がプラスとなる電気
特性(ノーマリーオフ特性ともいう。)を有する。
【0089】
また、酸化物半導体膜17において、二次イオン質量分析法により得られるアルカリ金
属またはアルカリ土類金属の濃度を、1×1018atoms/cm3以下、好ましくは
2×1016atoms/cm3以下にする。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、酸
化物半導体と結合するとキャリアを生成する場合があり、トランジスタのオフ電流が増大
してしまうことがある。このため、酸化物半導体膜17のアルカリ金属またはアルカリ土
類金属の濃度を低減することが好ましい。この結果、トランジスタ10は、しきい値電圧
がプラスとなる電気特性(ノーマリーオフ特性ともいう。)を有する。
【0090】
また、酸化物半導体膜17に窒素が含まれていると、キャリアである電子が生じ、キャ
リア密度が増加し、n型化しやすい。この結果、窒素が含まれている酸化物半導体を用い
たトランジスタはノーマリーオン特性となりやすい。従って、当該酸化物半導体膜におい
て、窒素はできる限り低減されていることが好ましい、例えば、二次イオン質量分析法に
より得られる窒素濃度は、5×1018atoms/cm3以下にすることが好ましい。
【0091】
酸化物半導体膜17の不純物を低減することで、酸化物半導体膜のキャリア密度を低減
することができる。このため、酸化物半導体膜17は、キャリア密度が1×1017個/
cm3以下、好ましくは1×1015個/cm3以下、さらに好ましくは1×1013個
/cm3以下、より好ましくは1×1011個/cm3以下であることが好ましい。
【0092】
酸化物半導体膜17として、不純物濃度が低く、欠陥準位密度の低い酸化物半導体膜を
用いることで、さらに優れた電気特性を有するトランジスタを作製することができる。こ
こでは、不純物濃度が低く、欠陥準位密度の低い(酸素欠損の少ない)ことを高純度真性
または実質的に高純度真性とよぶ。高純度真性または実質的に高純度真性である酸化物半
導体を用いたトランジスタは、キャリア発生源が少ないため、キャリア密度を低くするこ
とができる場合がある。従って、当該酸化物半導体膜にチャネル領域が形成されるトラン
ジスタは、しきい値電圧がプラスとなる電気特性(ノーマリーオフ特性ともいう。)にな
りやすい。また、高純度真性または実質的に高純度真性である酸化物半導体膜を用いたト
ランジスタは、欠陥準位密度が低いため、トラップ準位密度も低くなる場合がある。また
、高純度真性または実質的に高純度真性である酸化物半導体膜は、オフ電流が著しく小さ
く、ソース電極とドレイン電極間の電圧(ドレイン電圧)が1Vから10Vの範囲におい
て、オフ電流が、半導体パラメータアナライザの測定限界以下、すなわち1×10-13
A以下という特性を得ることができる。従って、当該酸化物半導体膜にチャネル領域が形
成されるトランジスタは、電気特性の変動が小さく、信頼性の高いトランジスタとなる場
合がある。
【0093】
また、酸化物半導体膜17は、例えば非単結晶構造でもよい。非単結晶構造は、例えば
、後述するCAAC-OS(C Axis Aligned Crystalline
Oxide Semiconductor)、多結晶構造、後述する微結晶構造、または
非晶質構造を含む。非単結晶構造において、非晶質構造は最も欠陥準位密度が高く、CA
AC-OSは最も欠陥準位密度が低い。
【0094】
なお、酸化物半導体膜17が、非晶質構造の領域、微結晶構造の領域、多結晶構造の領
域、CAAC-OSの領域、単結晶構造の領域の二種以上を有する混合膜であってもよい
。混合膜は、例えば、非晶質構造の領域、微結晶構造の領域、多結晶構造の領域、CAA
C-OSの領域、単結晶構造の領域のいずれか二種以上の領域を有する単層構造の場合が
ある。また、混合膜は、例えば、非晶質構造の領域、微結晶構造の領域、多結晶構造の領
域、CAAC-OSの領域、単結晶構造の領域のいずれか二種以上の領域の積層構造を有
する場合がある。
【0095】
一対の電極19、20は、アルミニウム、チタン、クロム、ニッケル、銅、イットリウ
ム、ジルコニウム、モリブデン、鉄、コバルト、銀、タンタル、またはタングステンから
なる単体金属、またはこれを主成分とする合金を単層構造または積層構造として用いる。
例えば、シリコンを含むアルミニウム膜の単層構造、マンガンを含む銅膜の単層構造、チ
タン膜上にアルミニウム膜を積層する二層構造、タングステン膜上にアルミニウム膜を積
層する二層構造、銅-マグネシウム-アルミニウム合金膜上に銅膜を積層する二層構造、
チタン膜上に銅膜を積層する二層構造、タングステン膜上に銅膜を積層する二層構造、マ
ンガンを含む銅膜上に銅膜を積層する二層構造、チタン膜または窒化チタン膜と、そのチ
タン膜または窒化チタン膜上に重ねてアルミニウム膜または銅膜を積層し、さらにその上
にチタン膜または窒化チタン膜を形成する三層構造、モリブデン膜または窒化モリブデン
膜と、そのモリブデン膜または窒化モリブデン膜上に重ねてアルミニウム膜または銅膜を
積層し、さらにその上にモリブデン膜または窒化モリブデン膜を形成する三層構造、マン
ガンを含む銅膜上に銅膜を積層し、さらにその上にマンガンを含む銅膜を形成する三層構
造等がある。なお、酸化インジウム、酸化錫または酸化亜鉛を含む透明導電材料を用いて
もよい。
【0096】
なお、本実施の形態では、一対の電極19、20を酸化物半導体膜17及び保護膜21
の間に設けたが、ゲート絶縁膜15及び酸化物半導体膜17の間に設けてもよい。
【0097】
ゲート絶縁膜15が、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜で形成される場合
、保護膜21は、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、またはGa-Zn系金属酸化物等を
用いて形成することができる。
【0098】
また、保護膜21として、酸素、水素、水等のブロッキング効果を有する絶縁膜を設け
ることで、酸化物半導体膜17からの酸素の外部への拡散と、外部から酸化物半導体膜1
7への水素、水等の侵入を防ぐことができる。酸素、水素、水等のブロッキング効果を有
する絶縁膜としては、酸化アルミニウム膜、酸化窒化アルミニウム膜、酸化ガリウム膜、
酸化窒化ガリウム膜、酸化イットリウム膜、酸化窒化イットリウム膜、酸化ハフニウム膜
、酸化窒化ハフニウム膜、窒化シリコン膜等がある。
【0099】
保護膜21は、厚さ50nm以上1000nm以下、好ましくは、150nm以上40
0nm以下の領域を有すればよい。
【0100】
<2. トランジスタの作製方法>
次に、
図1に示すトランジスタ10の作製方法について、
図3を用いて説明する。なお
、
図3において、
図1(A)の一点破線A-Bに示すチャネル長方向の断面図、及び一点
破線C-Dに示すチャネル幅方向の断面図を用いて、トランジスタ10の作製方法を説明
する。
【0101】
トランジスタ10を構成する膜(絶縁膜、酸化物半導体膜、金属酸化物膜、導電膜等)
は、スパッタリング法、化学気相堆積(CVD)法、真空蒸着法、パルスレーザー堆積(
PLD)法を用いて形成することができる。あるいは、塗布法や印刷法で形成することが
できる。成膜方法としては、スパッタリング法、プラズマ化学気相堆積(PECVD)法
が代表的であるが、熱CVD法でもよい。熱CVD法の例として、MOCVD(Meta
l Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属
化学気相堆積)法やALD(原子層成膜)法を使ってもよい。
【0102】
熱CVD法は、チャンバー内を大気圧または減圧下とし、原料ガスと酸化剤を同時にチ
ャンバー内に送り、基板近傍または基板上で反応させて基板上に堆積させることで成膜を
行う。このように、熱CVD法は、プラズマを発生させない成膜方法であるため、プラズ
マダメージにより欠陥が生成されることが無いという利点を有する。
【0103】
また、ALD法は、チャンバー内を大気圧または減圧下とし、反応のための原料ガスが
順次にチャンバーに導入され、そのガス導入の順序を繰り返すことで成膜を行う。例えば
、それぞれのスイッチングバルブ(高速バルブともよぶ)を切り替えて2種類以上の原料
ガスを順番にチャンバーに供給し、複数種の原料ガスが混ざらないように第1の原料ガス
と同時またはその後に不活性ガス(アルゴン、或いは窒素など)などを導入し、第2の原
料ガスを導入する。なお、同時に不活性ガスを導入する場合には、不活性ガスはキャリア
ガスとなり、また、第2の原料ガスの導入時にも同時に不活性ガスを導入してもよい。ま
た、不活性ガスを導入する代わりに真空排気によって第1の原料ガスを排出した後、第2
の原料ガスを導入してもよい。第1の原料ガスが基板の表面に吸着して第1の単原子層を
成膜し、後から導入される第2の原料ガスと反応して、第2の単原子層が第1の単原子層
上に積層されて薄膜が形成される。
【0104】
このガス導入順序を制御しつつ所望の厚さになるまで複数回繰り返すことで、段差被覆
性に優れた薄膜を形成することができる。薄膜の厚さは、ガス導入順序を繰り返す回数に
よって調節することができるため、精密な膜厚調節が可能であり、微細なトランジスタを
作製する場合に適している。
【0105】
図3(A)に示すように、基板11上にゲート電極13を形成する。
【0106】
ゲート電極13の形成方法を以下に示す。はじめに、スパッタリング法、真空蒸着法、
パルスレーザー堆積(PLD)法、熱CVD法等により導電膜を形成し、導電膜上にフォ
トリソグラフィ工程によりマスクを形成する。次に、該マスクを用いて導電膜の一部をエ
ッチングして、ゲート電極13を形成する。この後、マスクを除去する。
【0107】
なお、ゲート電極13は、上記形成方法の代わりに、電解メッキ法、印刷法、インクジ
ェット法等で形成してもよい。
【0108】
また、ALDを利用する成膜装置により導電膜としてタングステン膜を成膜することが
できる。この場合には、WF6ガスとB2H6ガスを順次繰り返し導入して初期タングス
テン膜を形成し、その後、WF6ガスとH2ガスを同時に導入してタングステン膜を形成
する。なお、B2H6ガスに代えてSiH4ガスを用いてもよい。
【0109】
ここでは、厚さ100nmのタングステン膜をスパッタリング法により形成する。次に
、フォトリソグラフィ工程によりマスクを形成し、当該マスクを用いてタングステン膜を
ドライエッチングして、ゲート電極13を形成する。
【0110】
次に、基板11及びゲート電極13上にゲート絶縁膜15を形成し、ゲート絶縁膜15
上であって、ゲート電極13と重なる領域に酸化物半導体膜17を形成する。
【0111】
ゲート絶縁膜15は、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法、パルスレーザー堆積
(PLD)法、熱CVD法等で形成する。
【0112】
ゲート絶縁膜15として酸化シリコン膜または酸化窒化シリコン膜を形成する場合、原
料ガスとしては、シリコンを含む堆積性気体及び酸化性気体を用いることが好ましい。シ
リコンを含む堆積性気体の代表例としては、シラン、ジシラン、トリシラン、フッ化シラ
ン等がある。酸化性気体としては、酸素、オゾン、一酸化二窒素、二酸化窒素等がある。
【0113】
また、ゲート絶縁膜15として酸化ガリウム膜を形成する場合、MOCVD法を用いて
形成することができる。
【0114】
また、ゲート絶縁膜15として、MOCVD法やALD法などの熱CVD法を用いて、
酸化ハフニウム膜を形成する場合には、溶媒とハフニウム前駆体化合物を含む液体(ハフ
ニウムアルコキシド溶液、代表的にはテトラキスジメチルアミドハフニウム(TDMAH
))を気化させた原料ガスと、酸化剤としてオゾン(O3)の2種類のガスを用いる。な
お、テトラキスジメチルアミドハフニウムの化学式はHf[N(CH3)2]4である。
また、他の材料液としては、テトラキス(エチルメチルアミド)ハフニウムなどがある。
【0115】
また、ゲート絶縁膜15として、MOCVD法やALD法などの熱CVD法を用いて、
酸化アルミニウム膜を形成する場合には、溶媒とアルミニウム前駆体化合物を含む液体(
トリメチルアルミニウムTMAなど)を気化させた原料ガスと、酸化剤としてH2Oの2
種類のガスを用いる。なお、トリメチルアルミニウムの化学式はAl(CH3)3である
。また、他の材料液としては、トリス(ジメチルアミド)アルミニウム、トリイソブチル
アルミニウム、アルミニウムトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタン
ジオナート)などがある。
【0116】
また、ゲート絶縁膜15として、MOCVD法やALD法などの熱CVD法を用いて、
酸化シリコン膜を形成する場合には、ヘキサクロロジシランを被成膜面に吸着させ、吸着
物に含まれる塩素を除去し、酸化性ガス(O2、一酸化二窒素)のラジカルを供給して吸
着物と反応させる。
【0117】
ここでは、ゲート絶縁膜15として、プラズマCVD法により酸化窒化シリコン膜を形
成する。
【0118】
酸化物半導体膜17の形成方法について以下に説明する。ゲート絶縁膜15上にスパッ
タリング法、塗布法、パルスレーザー蒸着法、レーザーアブレーション法、熱CVD法等
により酸化物半導体膜を形成する。次に、酸化物半導体膜上にフォトリソグラフィ工程に
よりマスクを形成した後、該マスクを用いて酸化物半導体膜の一部をエッチングすること
で、
図3(B)に示すように、ゲート絶縁膜15上であって、ゲート電極13の一部と重
なるように素子分離された酸化物半導体膜17を形成する。この後、マスクを除去する。
【0119】
また、酸化物半導体膜17として印刷法を用いることで、素子分離された酸化物半導体
膜17を直接形成することができる。
【0120】
スパッタリング法で酸化物半導体膜を形成する場合、プラズマを発生させるための電源
装置は、RF電源装置、AC電源装置、DC電源装置等を適宜用いることができる。
【0121】
スパッタリングガスは、希ガス(代表的にはアルゴン)、酸素ガス、希ガス及び酸素ガ
スの混合ガスを適宜用いる。なお、希ガス及び酸素ガスの混合ガスの場合、希ガスに対し
て酸素のガス比を高めることが好ましい。
【0122】
また、ターゲットは、形成する酸化物半導体膜の組成にあわせて、適宜選択すればよい
。
【0123】
なお、酸化物半導体膜を形成する際に、例えば、スパッタリング法を用いる場合、基板
温度を150℃以上750℃以下、好ましくは150℃以上450℃以下、さらに好まし
くは200℃以上350℃以下として、酸化物半導体膜を成膜することで、CAAC-O
S膜を形成することができる。
【0124】
また、CAAC-OS膜を成膜するために、以下の条件を適用することが好ましい。
【0125】
成膜時の不純物混入を抑制することで、不純物によって結晶状態が崩れることを抑制で
きる。例えば、成膜室内に存在する不純物濃度(水素、水、二酸化炭素及び窒素など)を
低減すればよい。また、成膜ガス中の不純物濃度を低減すればよい。具体的には、露点が
-80℃以下、好ましくは-100℃以下である成膜ガスを用いる。
【0126】
また、成膜ガス中の酸素割合を高め、電力を最適化することで成膜時のプラズマダメー
ジを軽減すると好ましい。成膜ガス中の酸素割合は、30体積%以上、好ましくは100
体積%とする。
【0127】
スパッタリング用ターゲットの一例として、In-Ga-Zn系金属酸化物ターゲット
について以下に示す。
【0128】
また、酸化物半導体膜を形成した後、加熱処理を行い、酸化物半導体膜の脱水素化また
は脱水化をしてもよい。加熱処理の温度は、代表的には、150℃以上基板歪み点未満、
好ましくは250℃以上450℃以下、更に好ましくは300℃以上450℃以下とする
。
【0129】
加熱処理は、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、クリプトン等の希ガス、または
窒素を含む不活性ガス雰囲気で行う。または、不活性ガス雰囲気で加熱した後、酸素雰囲
気で加熱してもよい。なお、上記不活性雰囲気及び酸素雰囲気に水素、水などが含まれな
いことが好ましい。処理時間は3分以上24時間以下とする。
【0130】
該加熱処理は、電気炉、RTA装置等を用いることができる。RTA装置を用いること
で、短時間に限り、基板の歪み点以上の温度で熱処理を行うことができる。そのため加熱
処理時間を短縮することができる。
【0131】
酸化物半導体膜を加熱しながら成膜することで、さらには酸化物半導体膜を形成した後
、加熱処理を行うことで、酸化物半導体膜において、水素濃度を5×1019atoms
/cm3以下、好ましくは1×1019atoms/cm3以下、好ましくは5×101
8atoms/cm3以下、好ましくは1×1018atoms/cm3以下、好ましく
は5×1017atoms/cm3以下、好ましくは1×1016atoms/cm3以
下とすることができる。
【0132】
ALDを利用する成膜装置により酸化物半導体膜、例えばInGaZnOX(X>0)
膜を成膜する場合には、In(CH3)3ガスとO3ガスを順次繰り返し導入してInO
2層を形成し、その後、Ga(CH3)3ガスとO3ガスを同時に導入してGaO層を形
成し、更にその後Zn(CH3)2とO3ガスを同時に導入してZnO層を形成する。な
お、これらの層の順番はこの例に限らない。また、これらのガスを混ぜてInGaO2層
やInZnO2層、GaInO層、ZnInO層、GaZnO層などの混合化合物層を形
成してもよい。なお、O3ガスに変えてAr等の不活性ガスでバブリングしたH2Oガス
を用いてもよいが、Hを含まないO3ガスを用いる方が好ましい。また、In(CH3)
3ガスにかえて、In(C2H5)3ガスを用いてもよい。また、Ga(CH3)3ガス
にかえて、Ga(C2H5)3ガスを用いてもよい。また、Zn(CH3)2ガスを用い
てもよい。
【0133】
ここでは、スパッタリング法により、厚さ35nmの酸化物半導体膜を形成した後、当
該酸化物半導体膜上にマスクを形成し、酸化物半導体膜の一部を選択的にエッチングする
。次に、マスクを除去した後、窒素及び酸素を含む混合ガス雰囲気で加熱処理を行うこと
で、酸化物半導体膜17を形成する。
【0134】
なお、加熱処理は、350℃より高く650℃以下、好ましくは450℃以上600℃
以下で行うことで、後述するCAAC化率が、70%以上100%未満、好ましくは80
%以上100%未満、好ましくは90%以上100%未満、より好ましくは95%以上9
8%以下である酸化物半導体膜を得ることができる。また、水素、水等の含有量が低減さ
れた酸化物半導体膜を得ることが可能である。すなわち、不純物濃度が低く、欠陥準位密
度の低い酸化物半導体膜を形成することができる。
【0135】
次に、
図3(C)に示すように、一対の電極19、20を形成する。
【0136】
一対の電極19、20の形成方法を以下に示す。はじめに、スパッタリング法、真空蒸
着法、パルスレーザー堆積(PLD)法、熱CVD法等で導電膜を形成する。次に、該導
電膜上にフォトリソグラフィ工程によりマスクを形成する。次に、該マスクを用いて導電
膜をエッチングして、一対の電極19、20を形成する。この後、マスクを除去する。
【0137】
ここでは、厚さ50nmのタングステン膜、厚さ400nmのアルミニウム膜、及び厚
さ100nmのチタン膜を順にスパッタリング法により積層する。次に、チタン膜上にフ
ォトリソグラフィ工程によりマスクを形成し、当該マスクを用いてタングステン膜、アル
ミニウム膜、及びチタン膜をドライエッチングして、一対の電極19、20を形成する。
【0138】
なお、一対の電極19、20を形成した後、加熱処理を行ってもよい。当該加熱処理と
しては酸化物半導体膜17を形成した後に行う加熱処理と同様の条件を用いて行うことが
できる。
【0139】
また、一対の電極19、20を形成した後、エッチング残渣を除去するため、洗浄処理
をすることが好ましい。この洗浄処理を行うことで、一対の電極19、20の短絡を抑制
することができる。当該洗浄処理は、TMAH(Tetramethylammoniu
m Hydroxide)溶液などのアルカリ性の溶液、フッ酸、シュウ酸、リン酸など
の酸性の溶液、または水を用いて行うことができる。
【0140】
次に、酸化物半導体膜17及び一対の電極19、20上に保護膜21を形成する。保護
膜21は、スパッタリング法、CVD法、蒸着法等により形成することができる。
【0141】
保護膜21として、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜を形成する場合、窒
素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜の一例として、酸化窒化シリコン膜をCVD
法を用いて形成することができる。この場合、原料ガスとしては、シリコンを含む堆積性
気体及び酸化性気体を用いることが好ましい。シリコンを含む堆積性気体の代表例として
は、シラン、ジシラン、トリシラン、フッ化シラン等がある。酸化性気体としては、一酸
化二窒素、二酸化窒素等がある。
【0142】
また、堆積性気体に対する酸化性気体を20倍より大きく100倍未満、好ましくは4
0倍以上80倍以下とし、処理室内の圧力を100Pa未満、好ましくは50Pa以下と
するCVD法を用いることで、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜を形成する
ことができる。
【0143】
ここでは、基板11を保持する温度を220℃とし、流量50sccmのシラン及び流
量2000sccmの一酸化二窒素を原料ガスとし、処理室内の圧力を20Paとし、平
行平板電極に供給する高周波電力を13.56MHz、100W(電力密度としては1.
6×10-2W/cm2)とするプラズマCVD法を用いて、酸化窒化シリコン膜を形成
する。
【0144】
また、保護膜21として、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜を形成する場
合、原料ガスとして、シリコンを含む堆積性気体及び酸化性気体の他に、アンモニアを用
いてもよい。この結果、質量電荷比m/z=17の気体(代表的には、アンモニア)の放
出量が多い領域を有する膜を形成することができる。
【0145】
例えば、基板11を保持する温度を220℃とし、流量30sccmのシラン、流量4
000sccmの一酸化二窒素、及び流量100sccmのアンモニアを原料ガスとし、
処理室内の圧力を40Paとし、平行平板電極に供給する高周波電力を13.56MHz
、150W(電力密度としては2.4×10-2W/cm2)とするプラズマCVD法を
用いて、酸化窒化シリコン膜を形成する。
【0146】
次に、加熱処理を行ってもよい。該加熱処理の温度は、代表的には、150℃以上基板
歪み点未満、好ましくは200℃以上450℃以下、更に好ましくは300℃以上450
℃以下とする。当該加熱処理により、保護膜21に含まれる水、水素等を放出させること
が可能である。
【0147】
ここでは、窒素及び酸素を含む混合ガス雰囲気で、350℃、1時間の加熱処理を行う
。
【0148】
次に、加熱処理を行ってもよい。該加熱処理の温度は、代表的には、150℃以上基板
歪み点未満、好ましくは200℃以上450℃以下、更に好ましくは300℃以上450
℃以下とする。
【0149】
以上の工程により、しきい値電圧の変動が低減されたトランジスタを作製することがで
きる。また、電気特性の変動が低減されたトランジスタを作製することができる。
【0150】
<変形例1>
本実施の形態に示すトランジスタ10の変形例について、
図4を用いて説明する。本変
形例で説明するトランジスタは、ゲート絶縁膜または保護膜が積層構造である例について
説明する。
【0151】
酸化物半導体膜を用いたトランジスタにおいて、酸化物半導体膜に含まれる酸素欠損は
、トランジスタの電気特性の不良に繋がる。例えば、膜中に酸素欠損が含まれている酸化
物半導体膜を用いたトランジスタは、しきい値電圧がマイナス方向に変動しやすく、ノー
マリーオン特性となりやすい。これは、酸化物半導体に含まれる酸素欠損に起因して電荷
が生じてしまい、低抵抗化するためである。
【0152】
また、酸化物半導体膜に酸素欠損が含まれると、経時変化やバイアス温度ストレス試験
(以下、BT(Bias-Temperature)ストレス試験ともいう。)により、
トランジスタの電気特性、代表的にはしきい値電圧の変動量が増大してしまうという問題
がある。
【0153】
このため、保護膜の一部として、化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む
酸化物絶縁膜を設けることで、しきい値電圧のマイナスシフトを抑制した、優れた電気特
性を有するトランジスタを作製することができる。また、経時変化や光ゲートBTストレ
ス試験による電気特性の変動の少ない、信頼性の高いトランジスタを作製することができ
る。
【0154】
図4(A)に示すトランジスタ10aは、保護膜21が多層構造であることを特徴とす
る。具体的には、保護膜21は、酸化物絶縁膜23、化学量論的組成を満たす酸素よりも
多くの酸素を含む酸化物絶縁膜25、及び窒化物絶縁膜27を有し、酸化物半導体膜17
に接する酸化物絶縁膜23は、トランジスタ10のゲート絶縁膜15及び保護膜21の少
なくとも一方に用いることが可能な、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜であ
ることを特徴とする。
【0155】
酸化物絶縁膜25は、化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物絶縁
膜を用いて形成する。化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物絶縁膜
は、加熱により酸素の一部が脱離する。化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を
含む酸化物絶縁膜は、TDS分析(昇温脱離ガス分析)にて、酸素原子に換算しての酸素
の脱離量が1.0×1018atoms/cm3以上、好ましくは3.0×1020at
oms/cm3以上である酸化物絶縁膜である。なお、上記TDS分析時における膜の表
面温度としては、100℃以上700℃以下、または100℃以上500℃以下の範囲が
好ましい。
【0156】
酸化物絶縁膜25としては、厚さが30nm以上500nm以下、好ましくは50nm
以上400nm以下の、酸化シリコン、酸化窒化シリコン等を用いることができる。
【0157】
酸化物絶縁膜25としては、プラズマCVD装置の真空排気された処理室内に載置され
た基板を180℃以上280℃以下、さらに好ましくは200℃以上240℃以下に保持
し、処理室に原料ガスを導入して処理室内における圧力を100Pa以上250Pa以下
、さらに好ましくは100Pa以上200Pa以下とし、処理室内に設けられる電極に0
.17W/cm2以上0.5W/cm2以下、さらに好ましくは0.25W/cm2以上
0.35W/cm2以下の高周波電力を供給する条件により、酸化シリコン膜または酸化
窒化シリコン膜を形成する。
【0158】
酸化物絶縁膜25の原料ガスとしては、シリコンを含む堆積性気体及び酸化性気体を用
いることが好ましい。シリコンを含む堆積性気体の代表例としては、シラン、ジシラン、
トリシラン、フッ化シラン等がある。酸化性気体としては、酸素、オゾン、一酸化二窒素
、二酸化窒素等がある。
【0159】
酸化物絶縁膜25の成膜条件として、上記圧力の処理室において上記パワー密度の高周
波電力を供給することで、プラズマ中で原料ガスの分解効率が高まり、酸素ラジカルが増
加し、原料ガスの酸化が進むため、酸化物絶縁膜25中における酸素含有量が化学量論的
組成よりも多くなる。一方、基板温度が、上記温度で形成された膜では、シリコンと酸素
の結合力が弱いため、後の工程の加熱処理により膜中の酸素の一部が脱離する。この結果
、化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含み、加熱により酸素の一部が脱離す
る酸化物絶縁膜を形成することができる。また、酸化物半導体膜17上に酸化物絶縁膜2
3が設けられている。このため、酸化物絶縁膜25の形成工程において、酸化物絶縁膜2
3が酸化物半導体膜17の保護膜となる。この結果、酸化物半導体膜17へのダメージを
低減しつつ、パワー密度の高い高周波電力を用いて酸化物絶縁膜25を形成することがで
きる。また、のちの加熱処理工程において、酸化物絶縁膜25に含まれる酸素の一部を酸
化物半導体膜17に移動させ、酸化物半導体膜17に含まれる酸素欠損量をさらに低減す
ることができる。
【0160】
窒化物絶縁膜27は、少なくとも、水素及び酸素のブロッキング効果を有する膜を用い
る。さらに、好ましくは、酸素、水素、水、アルカリ金属、アルカリ土類金属等のブロッ
キング効果を有する。窒化物絶縁膜27を設けることで、酸化物半導体膜17からの酸素
の外部への拡散と、外部から酸化物半導体膜17への水素、水等の侵入を防ぐことができ
る。
【0161】
窒化物絶縁膜27としては、厚さが50nm以上300nm以下、好ましくは100n
m以上200nm以下の、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化アルミニウム、窒化酸
化アルミニウム等がある。
【0162】
なお、窒化物絶縁膜27の代わりに、酸素、水素、水等のブロッキング効果を有する酸
化物絶縁膜を設けてもよい。酸素、水素、水等のブロッキング効果を有する酸化物絶縁膜
としては、酸化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化窒化ガリウム
、酸化イットリウム、酸化窒化イットリウム、酸化ハフニウム、酸化窒化ハフニウム等が
ある。
【0163】
窒化物絶縁膜27は、スパッタリング法、CVD法等を用いて形成することができる。
【0164】
窒化物絶縁膜27としてプラズマCVD法により窒化シリコン膜を形成する場合、シリ
コンを含む堆積性気体、窒素、及びアンモニアを原料ガスとして用いる。原料ガスとして
、窒素と比較して少量のアンモニアを用いることで、プラズマ中でアンモニアが解離し、
活性種が発生する。当該活性種が、シリコンを含む堆積性気体に含まれるシリコン及び水
素の結合、及び窒素の三重結合を切断する。この結果、シリコン及び窒素の結合が促進さ
れ、シリコン及び水素の結合が少なく、欠陥が少なく、緻密な窒化シリコン膜を形成する
ことができる。一方、原料ガスにおいて、窒素に対するアンモニアの量が多いと、シリコ
ンを含む堆積性気体及び窒素それぞれの分解が進まず、シリコン及び水素結合が残存して
しまい、欠陥が増大した、且つ粗な窒化シリコン膜が形成されてしまう。これらのため、
原料ガスにおいて、アンモニアに対する窒素の流量比を5以上50以下、好ましくは10
以上50以下とすることが好ましい。
【0165】
図4(B)に示すトランジスタ10bは、ゲート絶縁膜15が、窒化物絶縁膜29と、
窒素を含む酸化物絶縁膜31が積層されており、酸化物半導体膜17に接する酸化物絶縁
膜31は、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜であることを特徴とする。
【0166】
窒化物絶縁膜29としては、水、水素等のブロッキング効果を有する膜を用いることが
好ましい。または、窒化物絶縁膜29として、欠陥量の少ない膜を用いることが好ましい
。窒化物絶縁膜29の代表例としては、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化アルミニ
ウム、窒化酸化アルミニウム等がある。
【0167】
なお、窒化物絶縁膜29に窒化シリコン膜を用いることで、以下の効果を得ることがで
きる。窒化シリコン膜は、酸化シリコン膜と比較して比誘電率が高く、同等の静電容量を
得るのに必要な膜厚が大きいため、ゲート絶縁膜15を物理的に厚膜化することができる
。よって、トランジスタ10bの絶縁耐圧の低下を抑制、さらには絶縁耐圧を向上させて
、半導体装置の静電破壊を抑制することができる。
【0168】
酸化物半導体膜を用いたトランジスタにおいて、ゲート絶縁膜15中に捕獲準位(界面
準位ともいう。)があると、トランジスタの電気特性の変動、代表的にはしきい値電圧の
変動の原因となる。この結果、トランジスタごとに電気特性がばらつくという問題がある
。このため、窒化物絶縁膜29に欠陥量の少ない窒化シリコン膜を用いることで、しきい
値電圧の変動、及びトランジスタの電気特性のばらつきを低減することができる。
【0169】
また、窒化物絶縁膜29を積層構造で形成してもよい。例えば、第1の窒化シリコン膜
として、欠陥量が少ない窒化シリコン膜とし、第1の窒化シリコン膜上に、水素分子放出
量及びアンモニア分子放出量の少ない窒化シリコン膜を第2の窒化シリコン膜を設けるこ
とで、ゲート絶縁膜15として、欠陥量が少なく、且つ水素分子及びアンモニア分子の放
出量の少ないゲート絶縁膜を形成することができる。この結果、ゲート絶縁膜15に含ま
れる水素及び窒素が、酸化物半導体膜17へ移動することを抑制できる。
【0170】
このような窒化物絶縁膜29は、2段階の形成方法を用いて窒化シリコン膜を積層して
形成することが好ましい。はじめに、シラン、窒素、及びアンモニアの混合ガスを原料ガ
スとして用いたプラズマCVD法により、欠陥量の少ない第1の窒化シリコン膜を形成す
る。先に説明した窒化物絶縁膜27のような原料ガスの流量比を用いることで、水素分子
放出量及びアンモニア分子放出量の少ない窒化シリコン膜を第2の窒化シリコン膜として
形成することができる。
【0171】
<変形例2>
本実施の形態に示すトランジスタ10の変形例について、
図5を用いて説明する。本実
施の形態に示すトランジスタ10は、チャネルエッチ型のトランジスタであったが、本変
形例で説明するトランジスタ10cは、チャネル保護型のトランジスタである。
【0172】
図5(A)に示すトランジスタ10cは、基板11上に設けられるゲート電極13と、
基板11及びゲート電極13上に形成されるゲート絶縁膜15と、ゲート絶縁膜15を介
して、ゲート電極13と重なる酸化物半導体膜17と、ゲート絶縁膜15及び酸化物半導
体膜17上の絶縁膜33と、該絶縁膜33の開口部において酸化物半導体膜17に接する
一対の電極19、20とを有する。
【0173】
なお、
図5(B)に示すトランジスタ10dは、酸化物半導体膜17上に形成される絶
縁膜35と、絶縁膜35に端部が形成され、且つ酸化物半導体膜17と接する一対の電極
19、20とを有する。
【0174】
トランジスタ10c、10dは、一対の電極19、20を形成する際、酸化物半導体膜
17の一部、代表的にはバックチャネル領域が絶縁膜33、35に覆われているため、一
対の電極19、20を形成するエッチングによって、酸化物半導体膜17のバックチャネ
ル領域はダメージを受けない。さらに、絶縁膜33、35を、窒素を有し、且つ欠陥量の
少ない酸化物絶縁膜とすることで、電気特性の変動が抑制され、信頼性が向上されたトラ
ンジスタを作製することができる。
【0175】
<変形例3>
本実施の形態に示すトランジスタ10の変形例について、
図6を用いて説明する。本実
施の形態に示すトランジスタ10は、一つのゲート電極を備えたトランジスタであったが
、本変形例で説明するトランジスタ10eは、酸化物半導体膜を挟む2つのゲート電極を
有する。
【0176】
図6(A)乃至
図6(C)に、半導体装置が有するトランジスタ10eの上面図及び断
面図を示す。
図6(A)はトランジスタ10eの上面図であり、
図6(B)は、
図6(A
)の一点鎖線A-B間の断面図であり、
図6(C)は、
図6(A)の一点鎖線C-D間の
断面図である。なお、
図6(A)では、明瞭化のため、基板11、ゲート絶縁膜15、保
護膜21などを省略している。
【0177】
図6(B)及び
図6(C)に示すトランジスタ10eは、チャネルエッチ型のトランジ
スタであり、基板11上に設けられるゲート電極13と、基板11及びゲート電極13上
に形成されるゲート絶縁膜15と、ゲート絶縁膜15を介して、ゲート電極13と重なる
酸化物半導体膜17と、酸化物半導体膜17に接する一対の電極19、20とを有する。
また、ゲート絶縁膜15、酸化物半導体膜17、及び一対の電極19、20上に、酸化物
絶縁膜23、酸化物絶縁膜25、及び窒化物絶縁膜27で構成される保護膜21と、保護
膜21上に形成されるゲート電極37とを有する。ゲート電極37は、ゲート絶縁膜15
及び保護膜21に設けられた開口部42、43においてゲート電極13と接続する。なお
、ここでは、ゲート絶縁膜15として、窒化物絶縁膜29及び酸化物絶縁膜31が積層さ
れている。また、保護膜21としては、酸化物絶縁膜23、酸化物絶縁膜25、及び窒化
物絶縁膜27が積層されている。
【0178】
ゲート絶縁膜15及び保護膜21には複数の開口部を有する。代表的には、
図6(C)
に示すように、チャネル幅方向において、酸化物半導体膜17を挟む開口部42、43を
有する。即ち、酸化物半導体膜17の側面の外側に開口部42、43を有する。開口部4
2、43において、ゲート電極13及びゲート電極37が接続する。即ち、チャネル幅方
向において、ゲート電極13及びゲート電極37は、ゲート絶縁膜15及び保護膜21を
介して酸化物半導体膜17を囲む。また、チャネル幅方向において、保護膜21を介して
酸化物半導体膜17の側面と当該開口部42、43に設けられたゲート電極37が位置す
る。
【0179】
なお、
図6(C)に示すように、チャネル幅方向において、酸化物半導体膜17の側面
とゲート電極37とが対向することで、さらには、チャネル幅方向において、ゲート電極
13及びゲート電極37が、ゲート絶縁膜15及び保護膜21を介して酸化物半導体膜1
7を囲むことで、酸化物半導体膜17においてキャリアが、ゲート絶縁膜15及び保護膜
21と酸化物半導体膜17との界面のみでなく、酸化物半導体膜17の内部においても流
れるため、トランジスタ10eにおけるキャリアの移動量が増加する。この結果、トラン
ジスタ10のオン電流が大きくなる共に、電界効果移動度が高くなる。また、ゲート電極
37の電界が酸化物半導体膜17の側面、または側面及びその近傍を含む端部に影響する
ため、酸化物半導体膜17の側面または端部における寄生チャネルの発生を抑制すること
ができる。
【0180】
<変形例4>
本実施の形態に示すトランジスタ10の変形例について、
図7及び
図8を用いて説明す
る。本実施の形態に示すトランジスタ10は、酸化物半導体膜が単層であったが、本変形
例で説明するトランジスタ10f、10gは、多層膜を有する。
【0181】
図7(A)乃至
図7(C)に、半導体装置が有するトランジスタ10fの上面図及び断
面図を示す。
図7(A)はトランジスタ10fの上面図であり、
図7(B)は、
図7(A
)の一点鎖線A-B間の断面図であり、
図7(C)は、
図7(A)の一点鎖線C-D間の
断面図である。なお、
図7(A)では、明瞭化のため、基板11、ゲート絶縁膜15、保
護膜21などを省略している。
【0182】
図7(A)に示すトランジスタ10fは、ゲート絶縁膜15を介して、ゲート電極13
と重なる多層膜45と、多層膜45に接する一対の電極19、20とを有する。また、ゲ
ート絶縁膜15、多層膜45、及び一対の電極19、20上には、保護膜21が形成され
る。
【0183】
本実施の形態に示すトランジスタ10fにおいて、多層膜45は、酸化物半導体膜17
及び酸化物半導体膜46を有する。即ち、多層膜45は2層構造である。また、酸化物半
導体膜17の一部がチャネル領域として機能する。また、多層膜45に接するように、保
護膜21が形成されている。
【0184】
酸化物半導体膜46は、酸化物半導体膜17を構成する元素の一種以上から構成される
酸化物半導体膜である。このため、酸化物半導体膜17と酸化物半導体膜46との界面に
おいて、界面散乱が起こりにくい。従って、該界面においてはキャリアの動きが阻害され
ないため、トランジスタの電界効果移動度が高くなる。
【0185】
酸化物半導体膜46は、少なくともIn若しくはZnを含む金属酸化物で形成され、代
表的には、In-Ga酸化物膜、In-Zn酸化物膜、In-M-Zn酸化物膜(MはA
l、Ga、Y、Zr、La、Ce、またはNd)であり、且つ酸化物半導体膜17よりも
伝導帯の下端のエネルギーが真空準位に近く、代表的には、酸化物半導体膜46の伝導帯
の下端のエネルギーと、酸化物半導体膜17の伝導帯の下端のエネルギーとの差が、0.
05eV以上、0.07eV以上、0.1eV以上、または0.15eV以上、且つ2e
V以下、1eV以下、0.5eV以下、または0.4eV以下である。即ち、酸化物半導
体膜46の電子親和力と、酸化物半導体膜17の電子親和力との差が、0.05eV以上
、0.07eV以上、0.1eV以上、または0.15eV以上、且つ2eV以下、1e
V以下、0.5eV以下、または0.4eV以下である。
【0186】
酸化物半導体膜46は、Inを含むことで、キャリア移動度(電子移動度)が高くなる
ため好ましい。
【0187】
酸化物半導体膜46として、Al、Ga、Y、Zr、La、Ce、またはNdをInよ
り高い原子数比で有することで、以下の効果を有する場合がある。(1)酸化物半導体膜
46のエネルギーギャップを大きくする。(2)酸化物半導体膜46の電子親和力を小さ
くする。(3)外部からの不純物の拡散を低減する。(4)酸化物半導体膜17と比較し
て、絶縁性が高くなる。(5)Al、Ga、Y、Zr、La、Ce、またはNdは、酸素
との結合力が強い金属元素であるため、酸素欠損が生じにくくなる。
【0188】
酸化物半導体膜46がIn-M-Zn酸化物であるとき、InおよびMの和を100a
tomic%としたときInとMの原子数比率は、好ましくは、Inが50atomic
%未満、Mが50atomic%より多く、さらに好ましくは、Inが25atomic
%未満、Mが75atomic%より多いとする。
【0189】
また、酸化物半導体膜17及び酸化物半導体膜46が、In-M-Zn酸化物(Mは、
Al、Ga、Y、Zr、La、Ce、またはNd)の場合、酸化物半導体膜17と比較し
て、酸化物半導体膜46に含まれるM(Al、Ga、Y、Zr、La、Ce、またはNd
)の原子数比が大きく、代表的には、酸化物半導体膜17に含まれる上記原子と比較して
、1.5倍以上、好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上高い原子数比である。
【0190】
また、酸化物半導体膜17及び酸化物半導体膜46が、In-M-Zn酸化物(MはA
l、Ga、Y、Zr、La、Ce、またはNd)の場合、酸化物半導体膜46をIn:M
:Zn=x1:y1:z1[原子数比]、酸化物半導体膜17をIn:M:Zn=x2:
y2:z2[原子数比]とすると、y1/x1がy2/x2よりも大きく、好ましくは、
y1/x1がy2/x2よりも1.5倍以上である。さらに好ましくは、y1/x1がy
2/x2よりも2倍以上大きく、より好ましくは、y1/x1がy2/x2よりも3倍以
上大きい。このとき、酸化物半導体膜において、y2がx2以上であると、当該酸化物半
導体膜を用いたトランジスタに安定した電気特性を付与できるため好ましい。
【0191】
酸化物半導体膜17がIn-M-Zn酸化物膜(Mは、Al、Ga、Y、Zr、La、
Ce、またはNd)の場合、酸化物半導体膜17を成膜するために用いるターゲットにお
いて、金属元素の原子数比をIn:M:Zn=x1:y1:z1とすると、x1/y1は
、1/3以上6以下、さらには1以上6以下であって、z1/y1は、1/3以上6以下
、さらには1以上6以下であることが好ましい。なお、z1/y1を1以上6以下とする
ことで、酸化物半導体膜17としてCAAC-OS膜が形成されやすくなる。ターゲット
の金属元素の原子数比の代表例としては、In:M:Zn=1:1:1、In:M:Zn
=1:1:1.2、In:M:Zn=3:1:2等がある。
【0192】
酸化物半導体膜46がIn-M-Zn酸化物膜(Mは、Al、Ga、Y、Zr、La、
Ce、またはNd)の場合、酸化物半導体膜46を成膜するために用いるターゲットにお
いて、金属元素の原子数比をIn:M:Zn=x2:y2:z2とすると、x2/y2<
x1/y1であって、z2/y2は、1/3以上6以下、さらには1以上6以下であるこ
とが好ましい。なお、z2/y2を1以上6以下とすることで、酸化物半導体膜46とし
てCAAC-OS膜が形成されやすくなる。ターゲットの金属元素の原子数比の代表例と
しては、In:M:Zn=1:3:2、In:M:Zn=1:3:4、In:M:Zn=
1:3:6、In:M:Zn=1:3:8、In:M:Zn=1:4:3、In:M:Z
n=1:4:4、In:M:Zn=1:4:5、In:M:Zn=1:4:6、In:M
:Zn=1:5:5、In:M:Zn=1:5:6等がある。
【0193】
なお、酸化物半導体膜17及び酸化物半導体膜46の原子数比はそれぞれ、誤差として
上記の原子数比のプラスマイナス40%の変動を含む。
【0194】
酸化物半導体膜46の厚さは、3nm以上100nm以下、好ましくは3nm以上50
nm以下とする。
【0195】
また、酸化物半導体膜46は、酸化物半導体膜17と同様に、例えば非単結晶構造でも
よい。非単結晶構造は、例えば、後述するCAAC-OS(C Axis Aligne
d-Crystalline Oxide Semiconductor)、多結晶構造
、後述する微結晶構造、または非晶質構造を含む。
【0196】
酸化物半導体膜46は、例えば非晶質構造でもよい。非晶質構造の酸化物半導体膜は、
例えば、原子配列が無秩序であり、結晶成分を有さない。または、非晶質構造の酸化物半
導体膜は、例えば、完全な非晶質構造であり、結晶部を有さない。
【0197】
なお、酸化物半導体膜17及び酸化物半導体膜46において、非晶質構造の領域、微結
晶構造の領域、多結晶構造の領域、CAAC-OSの領域、単結晶構造の領域の二種以上
を有する混合膜を構成してもよい。混合膜は、例えば、非晶質構造の領域、微結晶構造の
領域、多結晶構造の領域、CAAC-OSの領域、単結晶構造の領域のいずれか二種以上
の領域を有する単層構造の場合がある。また、混合膜は、例えば、非晶質構造の領域、微
結晶構造の領域、多結晶構造の領域、CAAC-OSの領域、単結晶構造の領域のいずれ
か二種以上の領域の積層構造を有する場合がある。
【0198】
ここでは、酸化物半導体膜17及び保護膜21の間に、酸化物半導体膜46が設けられ
ている。このため、酸化物半導体膜46と保護膜21の間において、不純物及び欠陥によ
りキャリアトラップが形成されても、当該キャリアトラップが形成される領域と酸化物半
導体膜17との間には隔たりがある。この結果、酸化物半導体膜17を流れる電子がキャ
リアトラップに捕獲されにくく、トランジスタのオン電流を増大させることが可能である
と共に、電界効果移動度を高めることができる。また、キャリアトラップに電子が捕獲さ
れると、該電子が負の固定電荷としてふるまう。この結果、トランジスタのしきい値電圧
が変動してしまう。しかしながら、酸化物半導体膜17とキャリアトラップが形成される
領域との間に隔たりがあるため、キャリアトラップにおける電子の捕獲を低減することが
可能であり、しきい値電圧の変動を低減することができる。
【0199】
また、酸化物半導体膜46は、外部からの不純物を遮蔽することが可能であるため、外
部から酸化物半導体膜17へ移動する不純物量を低減することが可能である。また、酸化
物半導体膜46は、酸素欠損を形成しにくい。これらのため、酸化物半導体膜17におけ
る不純物濃度及び酸素欠損量を低減することが可能である。
【0200】
なお、酸化物半導体膜17及び酸化物半導体膜46は、各膜を単に積層するのではなく
連続接合(ここでは特に伝導帯の下端のエネルギーが各膜の間で連続的に変化する構造)
が形成されるように作製する。すなわち、各膜の界面トラップ中心や再結合中心のような
欠陥準位を形成するような不純物が存在しないような積層構造とする。仮に、積層された
酸化物半導体膜17及び酸化物半導体膜46の間に不純物が混在していると、エネルギー
バンドの連続性が失われ、界面でキャリアがトラップされ、あるいは再結合して、消滅し
てしまう。
【0201】
連続接合を形成するためには、ロードロック室を備えたマルチチャンバー方式の成膜装
置(スパッタリング装置)を用いて各膜を大気に触れさせることなく連続して積層するこ
とが必要となる。スパッタリング装置における各チャンバーは、酸化物半導体膜にとって
不純物となる水等を可能な限り除去すべくクライオポンプのような吸着式の真空排気ポン
プを用いて高真空排気(5×10-7Pa乃至1×10-4Pa程度まで)することが好
ましい。または、ターボ分子ポンプとコールドトラップを組み合わせて排気系からチャン
バー内に気体、特に炭素または水素を含む気体が逆流しないようにしておくことが好まし
い。
【0202】
なお、多層膜45の代わりに、
図7(D)に示すトランジスタ10gのように、多層膜
48を有してもよい。
【0203】
多層膜48は、酸化物半導体膜47、酸化物半導体膜17、及び酸化物半導体膜46が
順に積層されている。即ち、多層膜48は3層構造である。また、酸化物半導体膜17が
チャネル領域として機能する。
【0204】
また、ゲート絶縁膜15及び酸化物半導体膜47が接する。即ち、ゲート絶縁膜15と
酸化物半導体膜17との間に、酸化物半導体膜47が設けられている。
【0205】
また、酸化物半導体膜46及び保護膜21が接する。即ち、酸化物半導体膜17と保護
膜21との間に、酸化物半導体膜46が設けられている。
【0206】
酸化物半導体膜47は、酸化物半導体膜46と同様の材料及び形成方法を適宜用いるこ
とができる。
【0207】
酸化物半導体膜47は、酸化物半導体膜17より膜厚が小さいと好ましい。酸化物半導
体膜47の厚さを1nm以上5nm以下、好ましくは1nm以上3nm以下とすることで
、トランジスタのしきい値電圧の変動量を低減することが可能である。
【0208】
本実施の形態に示すトランジスタは、酸化物半導体膜17及び保護膜21の間に、酸化
物半導体膜46が設けられている。このため、酸化物半導体膜46と保護膜21の間にお
いて、不純物及び欠陥によりキャリアトラップが形成されても、当該キャリアトラップが
形成される領域と酸化物半導体膜17との間には隔たりがある。この結果、酸化物半導体
膜17を流れる電子がキャリアトラップに捕獲されにくく、トランジスタのオン電流を増
大させることが可能であると共に、電界効果移動度を高めることができる。また、キャリ
アトラップに電子が捕獲されると、該電子が負の固定電荷としてふるまう。この結果、ト
ランジスタのしきい値電圧が変動してしまう。しかしながら、酸化物半導体膜17とキャ
リアトラップが形成される領域との間に隔たりがあるため、キャリアトラップにおける電
子の捕獲を低減することが可能であり、しきい値電圧の変動を低減することができる。
【0209】
また、酸化物半導体膜46は、外部からの不純物を遮蔽することが可能であるため、外
部から酸化物半導体膜17へ移動する不純物量を低減することが可能である。また、酸化
物半導体膜46は、酸素欠損を形成しにくい。これらのため、酸化物半導体膜17におけ
る不純物濃度及び酸素欠損量を低減することが可能である。
【0210】
また、ゲート絶縁膜15と酸化物半導体膜17との間に、酸化物半導体膜47が設けら
れており、酸化物半導体膜17と保護膜21との間に、酸化物半導体膜46が設けられて
いるため、酸化物半導体膜47と酸化物半導体膜17との界面近傍におけるシリコンや炭
素の濃度、酸化物半導体膜17におけるシリコンや炭素の濃度、または酸化物半導体膜4
6と酸化物半導体膜17との界面近傍におけるシリコンや炭素の濃度を低減することがで
きる。
【0211】
このような構造を有するトランジスタ10gは、酸化物半導体膜17を含む多層膜48
において欠陥が極めて少ないため、トランジスタの電気特性を向上させることが可能であ
り、代表的には、オン電流の増大及び電界効果移動度の向上が可能である。また、ストレ
ス試験の一例であるゲートBTストレス試験及び光ゲートBTストレス試験におけるしき
い値電圧の変動量が少なく、信頼性が高い。
【0212】
なお、
図7(B)に示すトランジスタ10fに、ゲート電極37を設けたトランジスタ
10hを作製することができる(
図7(E)参照。)。または、
図7(D)に示すトラン
ジスタ10gに、ゲート電極37を設けたトランジスタ10iを作製することができる(
図7(F)参照。)。
【0213】
<トランジスタのバンド構造>
次に、
図7(A)に示すトランジスタ10fに設けられる多層膜45、及び
図7(D)
に示すトランジスタ10gに設けられる多層膜48のバンド構造について、
図8を用いて
説明する。
【0214】
ここでは、例として、酸化物半導体膜17としてエネルギーギャップが3.15eVで
あるIn-Ga-Zn酸化物を用い、酸化物半導体膜46としてエネルギーギャップが3
.5eVであるIn-Ga-Zn酸化物を用いる。エネルギーギャップは、分光エリプソ
メータ(HORIBA JOBIN YVON社 UT-300)を用いて測定できる。
【0215】
酸化物半導体膜17及び酸化物半導体膜46の真空準位と価電子帯上端のエネルギー差
(イオン化ポテンシャルともいう。)は、それぞれ8eV及び8.2eVである。なお、
真空準位と価電子帯上端のエネルギー差は、紫外線光電子分光分析(UPS:Ultra
violet Photoelectron Spectroscopy)装置(ULV
AC-PHI社 VersaProbe)を用いて測定できる。
【0216】
したがって、酸化物半導体膜17及び酸化物半導体膜46の真空準位と伝導帯下端のエ
ネルギー差(電子親和力ともいう。)は、それぞれ4.85eV及び4.7eVである。
【0217】
図8(A)は、トランジスタ10fに含まれる多層膜45のバンド構造の一部を模式的
に示している。ここでは、ゲート絶縁膜15及び保護膜21を酸化シリコン膜とし、多層
膜45と酸化シリコン膜を接して設けた場合について説明する。なお、
図8(A)に表す
EcI1は酸化シリコン膜の伝導帯下端のエネルギーを示し、EcS1は酸化物半導体膜
17の伝導帯下端のエネルギーを示し、EcS2は酸化物半導体膜46の伝導帯下端のエ
ネルギーを示し、EcI2は酸化シリコン膜の伝導帯下端のエネルギーを示す。また、E
cI1は、
図7(B)に示すゲート絶縁膜15に相当し、EcI2は、
図7(B)示す保
護膜21に相当する。
【0218】
図8(A)に示すように、酸化物半導体膜17及び酸化物半導体膜46において、伝導
帯下端のエネルギーは障壁が無くなだらかに変化する。換言すると、連続的に変化すると
もいうことができる。これは、多層膜45は、酸化物半導体膜17と共通の元素を含み、
酸化物半導体膜17及び酸化物半導体膜46の間で、酸素が相互に移動することで混合層
が形成されるためであるということができる。
【0219】
図8(A)より、多層膜45の酸化物半導体膜17がウェル(井戸)となり、多層膜4
5を用いたトランジスタにおいて、チャネル領域が酸化物半導体膜17に形成されること
がわかる。なお、多層膜45は、伝導帯下端のエネルギーが連続的に変化しているため、
酸化物半導体膜17と酸化物半導体膜46とが連続接合している、ともいえる。
【0220】
なお、
図8(A)に示すように、酸化物半導体膜46と、保護膜21との界面近傍には
、不純物や欠陥に起因したトラップ準位が形成され得るものの、酸化物半導体膜46が設
けられることにより、酸化物半導体膜17と該トラップ準位とを遠ざけることができる。
ただし、EcS1とEcS2とのエネルギー差が小さい場合、酸化物半導体膜17の電子
が該エネルギー差を越えてトラップ準位に達することがある。トラップ準位に電子が捕獲
されることで、酸化物絶縁膜表面に負の固定電荷が生じ、トランジスタのしきい値電圧は
プラス方向にシフトしてしまう。したがって、EcS1とEcS2とのエネルギー差を、
0.1eV以上、好ましくは0.15eV以上とすると、トランジスタのしきい値電圧の
変動が低減され、安定した電気特性となるため好適である。
【0221】
また、
図8(B)は、トランジスタ10fの多層膜45のバンド構造の一部を模式的に
示し、
図8(A)に示すバンド構造の変形例である。ここでは、ゲート絶縁膜15及び保
護膜21を酸化シリコン膜とし、多層膜45と酸化シリコン膜を接して設けた場合につい
て説明する。なお、
図8(B)に表すEcI1は酸化シリコン膜の伝導帯下端のエネルギ
ーを示し、EcS1は酸化物半導体膜17の伝導帯下端のエネルギーを示し、EcI2は
酸化シリコン膜の伝導帯下端のエネルギーを示す。また、EcI1は、
図7(B)に示す
ゲート絶縁膜15に相当し、EcI2は、
図7(B)に示す保護膜21に相当する。
【0222】
図7(B)に示すトランジスタにおいて、一対の電極19、20の形成時に多層膜45
の上方、すなわち酸化物半導体膜46がエッチングされる場合がある。一方、酸化物半導
体膜17の上面は、酸化物半導体膜46の成膜時に酸化物半導体膜17と酸化物半導体膜
46の混合層が形成される場合がある。
【0223】
例えば、酸化物半導体膜17が、In:Ga:Zn=1:1:1[原子数比]のIn-
Ga-Zn酸化物、またはIn:Ga:Zn=3:1:2[原子数比]のIn-Ga-Z
n酸化物をスパッタリングターゲットに用いて成膜された酸化物半導体膜であり、酸化物
半導体膜46が、In:Ga:Zn=1:3:2[原子数比]のIn-Ga-Zn酸化物
、In:Ga:Zn=1:3:4[原子数比]のIn-Ga-Zn酸化物、またはIn:
Ga:Zn=1:3:6[原子数比]のIn-Ga-Zn酸化物をスパッタリングターゲ
ットに用いて成膜された酸化物半導体膜である場合、酸化物半導体膜17よりも酸化物半
導体膜46のGaの含有量が多いため、酸化物半導体膜17の上面には、GaOx層また
は酸化物半導体膜17よりもGaを多く含む混合層が形成されうる。
【0224】
したがって、酸化物半導体膜46がエッチングされた場合においても、EcS1のEc
I2側の伝導帯下端のエネルギーが高くなり、
図8(B)に示すバンド構造のようになる
場合がある。
【0225】
図8(B)に示すバンド構造のようになる場合、チャネル領域の断面観察時において、
多層膜45は、酸化物半導体膜17のみと見かけ上観察される場合がある。しかしながら
、実質的には、酸化物半導体膜17上には、酸化物半導体膜17よりもGaを多く含む混
合層が形成されているため、該混合層を1.5番目の層として、捉えることができる。な
お、該混合層は、例えば、EDX分析等によって、多層膜45に含有する元素を測定した
場合、酸化物半導体膜17の上方の組成を分析することで確認することができる。例えば
、酸化物半導体膜17の上方の組成が、酸化物半導体膜17中の組成よりもGaの含有量
が多い構成となることで確認することができる。
【0226】
図8(C)は、トランジスタ10gの多層膜48のバンド構造の一部を模式的に示して
いる。ここでは、ゲート絶縁膜15及び保護膜21を酸化シリコン膜とし、多層膜48と
酸化シリコン膜を接して設けた場合について説明する。なお、
図8(C)に表すEcI1
は酸化シリコン膜の伝導帯下端のエネルギーを示し、EcS1は酸化物半導体膜17の伝
導帯下端のエネルギーを示し、EcS2は酸化物半導体膜46の伝導帯下端のエネルギー
を示し、EcS3は酸化物半導体膜47の伝導帯下端のエネルギーを示し、EcI2は酸
化シリコン膜の伝導帯下端のエネルギーを示す。また、EcI1は、
図7(D)に示すゲ
ート絶縁膜15に相当し、EcI2は、
図7(D)に示す保護膜21に相当する。
【0227】
図8(C)に示すように、酸化物半導体膜47、酸化物半導体膜17、及び酸化物半導
体膜46において、伝導帯下端のエネルギーは障壁が無くなだらかに変化する。換言する
と、連続的に変化するともいうことができる。これは、多層膜48は、酸化物半導体膜1
7と共通の元素を含み、酸化物半導体膜17及び酸化物半導体膜47の間で、並びに酸化
物半導体膜17及び酸化物半導体膜46の間で、酸素が相互に移動することで混合層が形
成されるためであるということができる。
【0228】
図8(C)より、多層膜48の酸化物半導体膜17がウェル(井戸)となり、多層膜4
8を用いたトランジスタにおいて、チャネル領域が酸化物半導体膜17に形成されること
がわかる。なお、多層膜48は、伝導帯下端のエネルギーが連続的に変化しているため、
酸化物半導体膜47と、酸化物半導体膜17と、酸化物半導体膜46とが連続接合してい
る、ともいえる。
【0229】
なお、酸化物半導体膜17及び保護膜21の界面近傍、並びに酸化物半導体膜17及び
ゲート絶縁膜15の界面近傍には、不純物や欠陥に起因したトラップ準位が形成され得る
ものの、
図8(C)に示すように、酸化物半導体膜46、酸化物半導体膜47が設けられ
ることにより、酸化物半導体膜17と該トラップ準位が形成される領域とを遠ざけること
ができる。ただし、EcS1とEcS2とのエネルギー差、及びEcS1とEcS3との
エネルギー差が小さい場合、酸化物半導体膜17の電子がエネルギー差を越えてトラップ
準位に達することがある。トラップ準位に電子が捕獲されることで、酸化物絶縁膜表面に
負の固定電荷が生じ、トランジスタのしきい値電圧はプラス方向にシフトしてしまう。し
たがって、EcS1とEcS2とのエネルギー差、及びEcS1とEcS3とのエネルギ
ー差を、0.1eV以上、好ましくは0.15eV以上とすると、トランジスタのしきい
値電圧の変動が低減され、安定した電気特性となるため好適である。
【0230】
なお、酸化物半導体膜46の代わりに、In-M酸化物(Mは、Al、Ga、Y、Zr
、La、Ce、またはNd)で形成される金属酸化物膜を用いることができる。ただし、
該金属酸化物膜がチャネル領域の一部として機能することを防止するため、金属酸化物膜
には導電率が十分に低い材料を用いるものとする。または、金属酸化物膜には、電子親和
力(真空準位と伝導帯下端のエネルギー差)が酸化物半導体膜17よりも小さく、伝導帯
下端のエネルギーが酸化物半導体膜17の伝導帯下端エネルギーと差分(バンドオフセッ
ト)を有する材料を用いるものとする。また、ドレイン電圧の大きさに依存したしきい値
電圧の差が生じることを抑制するためには、金属酸化物膜の伝導帯下端のエネルギーが、
酸化物半導体膜17の伝導帯下端のエネルギーよりも0.2eV以上真空準位に近い材料
、好ましくは0.5eV以上真空準位に近い材料を適用することが好ましい。
【0231】
また、Inに対する元素Mの原子数比を高めることで、金属酸化物膜のエネルギーギャ
ップを大きくし、電子親和力を小さくすることができる。例えば、金属酸化物膜として、
In-M酸化物(Mは、Al、Ga、Y、Zr、La、Ce、またはNd)で構成される
材料を用いる場合、酸化物半導体膜17との間に伝導帯のバンドオフセットを形成し、金
属酸化物膜にチャネルが形成されることを抑制するためには、金属酸化物膜は、In:M
=x:y[原子数比]とすると、y/(x+y)を、0.75以上1以下、好ましくは、
0.78以上1以下、より好ましくは0.80以上1以下とすることが好ましい。ただし
、金属酸化物膜は、主成分であるインジウム、M及び酸素以外の元素が不純物として混入
していてもよい。その際の不純物の割合は、0.1%以下が好ましい。
【0232】
また、金属酸化物膜をスパッタリング法によって形成する場合、Inに対する元素Mの
原子数比を高めることで、成膜時のパーティクル数を低減させることが可能である。パー
ティクル数を低減させるためには、In:M=x:y[原子数比]とすると、y/(x+
y)を、0.90以上、例えば0.93とするとよい。ただし、金属酸化物膜をスパッタ
リング法によって形成する場合、Inに対するMの原子数比が高すぎると、ターゲットの
絶縁性が高く、DC放電を用いた成膜が困難となり、RF放電を適用する必要が生じる。
よって、大面積基板への対応が可能なDC放電を用いて成膜を行うためには、y/(x+
y)を0.96以下、好ましくは0.95以下、例えば0.93とするとよい。大面積基
板に対応した成膜方法を適用することで、半導体装置の生産性を高めることができる。
【0233】
なお、金属酸化物膜は、膜中にスピネル型の結晶構造が含まれないことが好ましい。金
属酸化物膜の膜中にスピネル型の結晶構造を含む場合、該スピネル型の結晶構造と他の領
域との間において、一対の電極19、20の構成元素が酸化物半導体膜17へ拡散してし
まう場合があるためである。例えば、金属酸化物膜としてIn-M酸化物を適用し、Mと
して2価の金属原子(例えば、亜鉛など)を含まない構成とすることで、スピネル型の結
晶構造を含有しない金属酸化物膜を形成することができるため好ましい。
【0234】
金属酸化物膜の膜厚は、一対の電極19、20の構成元素が酸化物半導体膜17に拡散
することを抑制することのできる膜厚以上であって、保護膜21から酸化物半導体膜17
への酸素の供給を抑制する膜厚未満とする。例えば、金属酸化物膜の膜厚が10nm以上
であると、一対の電極19、20の構成元素が酸化物半導体膜17へ拡散するのを抑制す
ることができる。また、金属酸化物膜の膜厚を100nm以下とすると、保護膜21から
酸化物半導体膜17へ効果的に酸素を供給することができる。
【0235】
<変形例5>
本実施の形態に示すトランジスタの変形例について、
図10を用いて説明する。本変形
例に示すトランジスタ10jは、多階調マスクを用いて形成された酸化物半導体膜17a
及び一対の電極19a、20aを有することを特徴とする。
【0236】
多階調マスクを用いることで、複数の厚さを有するレジストマスクを形成することが可
能であり、該レジストマスクを用い、酸化物半導体膜17aを形成した後、酸素プラズマ
等にレジストマスクを曝すことで、レジストマスクの一部が除去され、一対の電極を形成
するためのレジストマスクとなる。このため、酸化物半導体膜17a及び一対の電極19
a、20aの作製工程におけるフォトリソグラフィ工程数を削減することができる。
【0237】
なお、多階調マスクを用いることで、酸化物半導体膜17aの一部が、平面形状におい
て一対の電極19a、20aの外側に露出する。
【0238】
なお、本実施の形態に示す構成及び方法などは、他の実施の形態及び実施例に示す構成
及び方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【0239】
<変形例6>
本実施の形態に示すトランジスタの変形例について、
図9を用いて説明する。本変形例
に示すトランジスタ10kは、保護膜21上に有機絶縁膜38を有する。
【0240】
有機絶縁膜38としては、例えば、ポリイミド、アクリル、ポリアミド、エポキシ等の
有機樹脂膜を用いることができる。有機絶縁膜38は、厚さが500nm以上10μm以
下であることが好ましい。
【0241】
なお、有機絶縁膜38は、保護膜21上全面に設けられてもよい。または、各トランジ
スタごとに分離されており、且つ各トランジスタの酸化物半導体膜17と重なるように設
けられてもよい。有機絶縁膜38が分離して形成されていると、外部からの水が有機絶縁
膜38を通じて半導体装置内に拡散しないため好ましい。
【0242】
有機絶縁膜38は、500nm以上と厚さが厚いため、ゲート電極13に負の電圧が印
加されることによって発生する電場が有機絶縁膜38の表面にまで影響せず、有機絶縁膜
38の表面に正の電荷が帯電しにくい。また、空気中に含まれる正の荷電粒子が、有機絶
縁膜38の表面に吸着しても、有機絶縁膜38は、500nm以上と厚さが厚いため、有
機絶縁膜38の表面に吸着した正の荷電粒子の電場は、酸化物半導体膜17及び保護膜2
1の界面まで影響しにくい。この結果、酸化物半導体膜17及び保護膜21の界面におい
て、実質的に正のバイアスが印加された状態とならず、トランジスタのしきい値電圧の変
動が少ない。
【0243】
なお、本実施の形態に示す構成及び方法などは、他の実施の形態及び実施例に示す構成
及び方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【0244】
(実施の形態2)
本実施の形態では、トランジスタに含まれる酸化物半導体膜、及び該酸化物半導体膜に
接する酸化物絶縁膜に含まれる欠陥と、トランジスタ特性の劣化について説明する。
【0245】
<1. NOx>
はじめに、酸化物半導体膜に接する酸化物絶縁膜に含まれる窒素酸化物(以下、NOx
と表記する(x=0以上2以下、好ましくは1以上2以下))について説明する。
【0246】
<1-1. 酸化物絶縁膜中のNOxの遷移レベルについて>
はじめに、固体中の点欠陥の遷移レベルを用いて説明する。遷移レベルとは、ギャップ
内に準位を形成する不純物あるいは欠陥(以下、欠陥Dと記す。)の荷電状態を説明する
概念であり、欠陥の形成エネルギーから算出される。すなわち、遷移レベルは、ドナー準
位やアクセプター準位と類似の概念である。
【0247】
欠陥Dの荷電状態の形成エネルギーと遷移レベルの関係について説明する。欠陥Dは荷
電状態によって形成エネルギーが異なり、フェルミエネルギーにも依存する。欠陥が電子
を1つ放出した状態をD+と示し、電子を1つ捕獲した状態をD-と示し、電子の移動の
ない状態を、D0と示す。
【0248】
欠陥D
+、欠陥D
0、欠陥D
-それぞれの形成エネルギーと遷移レベルの関係を
図11
(A)に示す。また、
図11(B)に、欠陥Dが中性状態で電子が1個占有した軌道を有
する場合について、欠陥D
+、欠陥D
0、欠陥D
-それぞれの電子配置を示す。
【0249】
図11(A)において、点線は欠陥D
+の形成エネルギー、実線は欠陥D
0の形成エネ
ルギー、破線は欠陥D
-の形成エネルギーを示す。遷移レベルは、欠陥Dの異なる荷電状
態の形成エネルギーが等しくなるフェルミ準位の位置を表す。欠陥D
+と欠陥D
0との形
成エネルギーが等しくなるフェルミ準位の位置(即ち、点線と実線の交点の位置)をε(
+/0)と表し、欠陥D
0と欠陥D
-との形成エネルギーが等しくなるフェルミ準位の位
置(即ち、実線と破線の交点の位置)をε(0/-)と表す。
【0250】
次に、フェルミ準位を変化させたときの欠陥のエネルギー的に安定な荷電状態の変遷の
概念図を
図12に示す。
図12において、二点破線はフェルミ準位を表す。また、
図12
左図において、(1)、(2)、(3)それぞれをフェルミ準位とした場合のバンド図を
図12右図に示す。
【0251】
固体の遷移レベルを知ることで、フェルミ準位をパラメータとしたときに、それぞれの
フェルミ準位で欠陥がどのような荷電状態でエネルギー的に安定かを定性的に把握するこ
とができる。
【0252】
次に、酸化物半導体膜に接する酸化物絶縁膜の代表例として酸化窒化シリコン(SiO
N)を用い、酸化窒化シリコン中の欠陥準位と、該欠陥準位に起因するESRシグナルに
ついて、計算による検証を行った。具体的には、酸化シリコン(SiO2)中にNO2、
N2O、NO、及びN原子を導入したモデルについて、NO2、N2O、NO、及びN原
子の遷移レベルを調べることで、NO2、N2O、NO、及びN原子がトランジスタの電
子トラップとなりうるのかどうかを検証した。
【0253】
計算には、低温型石英(α-quartz)結晶構造のSiO
2(c-SiO
2)をモ
デルとして用いた。欠陥のないc-SiO
2の結晶モデルを
図13に示す。
【0254】
まず、c-SiO2の単位格子を全ての軸方向に2倍した72原子モデルに対し、格子
定数、各原子座標について構造最適化計算を行った。計算には、第一原理計算ソフトウェ
アVASP(The Vienna Ab initio simulation pa
ckage)を用いた。また、内殻電子の効果はProjector Augmente
d Wave(PAW)法により計算し、汎関数にはHeyd-Scuseria-Er
nzerhof(HSE) DFTハイブリッド汎関数(HSE06)を用いた。計算条
件を以下に示す。
【0255】
【0256】
最適化後のc-SiO2モデルのバンドギャップは、実験値である9.0eVに近い8
.97eVであった。
【0257】
続いて、上記c-SiO2モデルにおける、結晶構造内の空間(格子間)にNO2、N
2O、NO、またはN原子を導入したそれぞれのモデルについて、構造の最適化計算を行
った。ここで、各モデルについて、モデル全体が+1価である場合(電荷:+1)、モデ
ル全体が電気的に中性(0価)である場合(電荷:中性)、及びモデル全体が-1価であ
る場合(電荷:-1)、の3通りについて、それぞれ最適化計算を行った。ただし、モデ
ル全体に課した電荷は、電子の基底状態ではそれぞれ、NO2、N2O、NO、及びN原
子を含む欠陥に局在していることを確認した。
【0258】
まず、c-SiO
2モデルの格子間にNO
2を導入したモデルについて、最適化計算を
行った後の構造及びNO
2分子の構造パラメータを
図14に示す。なお、
図14において
、参考例として、気相状態におけるNO
2分子の構造パラメータも付記する。
【0259】
一般に電気的に中性でない分子を分子イオンなどとよぶことが多いが、ここでは結晶格
子の内部に導入された分子を議論しているため、気相状態とは異なり分子の価数を定量す
ることは困難であることなどから、便宜上、電気的に中性でない分子についても分子とよ
ぶこととする。
【0260】
図14より、NO
2分子を導入したとき、モデルの電荷が+1の場合ではNO
2分子が
ほぼ直線状であり、モデルの電荷が中性、-1の順で、O-N-O結合角が小さくなる傾
向がみられた。このNO
2分子の構造変化は、気相中の孤立分子の電荷数を変えたときの
結合角の変化とほぼ同等であることから、仮定した電荷の殆どはNO
2分子が担っており
、またSiO
2中のNO
2分子は、孤立分子に近い状態で存在していることが推察される
。
【0261】
続いて、c-SiO
2モデルの格子間にN
2Oを導入したモデルについて、最適化計算
を行った後の構造と、N
2O分子の構造パラメータを
図15に示す。なお、
図15におい
て、参考例として、気相状態におけるN
2O分子の構造パラメータも付記する。
【0262】
図15より、モデルの電荷が+1の場合と中性の場合とでは、N
2O分子の構造はほぼ
同じ直線状の構造となった。一方、モデルの電荷が-1の場合では、N
2O分子は折れ曲
がった構造であり、且つN-O間距離が他の2条件に比べて伸びている。これはN
2O分
子のπ
*軌道であるLUMO準位に電子が入ったためと考えられる。
【0263】
次に、c-SiO
2モデルの格子間にNOを導入したモデルについて、最適化計算を行
った後の構造と、NO分子の構造パラメータを
図16に示す。
【0264】
図16より、モデルの電荷が+1の場合N-O間距離は短く、逆にモデルの電荷が-1
のときにはN-O間距離が長くなっている。これは、気相状態のNO分子の電荷が+1、
0、または-1のときに、N-O結合の結合次数がそれぞれ3.0、2.5、2.0であ
り、電荷が+1のときに最も大きいことを反映していると推察される。このことから、S
iO
2中のNO分子は、孤立分子に近い状態で安定に存在すると推察される。
【0265】
最後に、c-SiO
2モデルの格子間にN原子を導入したモデルについて、最適化計算
を行った後の構造を
図17に示す。
【0266】
図17より、いずれの荷電状態でも、N原子は格子間に孤立原子として存在するよりも
、SiO
2中の原子と結合した方が、エネルギー的に安定であることが分かった。
【0267】
続いて、各モデルに対して、遷移レベルの計算を行った。
【0268】
ここで、構造中に欠陥Dを有するモデルにおける、電荷qの状態と電荷q’の状態とを
遷移する遷移レベルε(q/q’)は、以下の数式3により算出することができる。
【0269】
【0270】
ここで、Etot(Dq)は電荷qの欠陥Dをもつモデルの全エネルギー、Etot(
bulk)は欠陥のないモデルの全エネルギー、niは欠陥に寄与する原子iの個数、μ
iは原子iの化学ポテンシャル、εVBMは欠陥のないモデルにおける価電子帯上端のエ
ネルギー、ΔVqは静電ポテンシャルに関する補正項、Efはフェルミエネルギーである
。
【0271】
上記式より得られた遷移レベルを記載したバンドダイアグラムを
図18に示す。なお、
酸化物半導体膜として、原子数比がIn:Ga:Zn=1:1:1の金属酸化物を用いて
形成した酸化物半導体膜(以下、IGZO(111)と示す。)を用いた。また、
図18
には、上記4つのモデルのバンドダイアグラムに加え、IGZO(111)のバンドダイ
アグラムも合わせて明示している。なお、
図18の数値の単位はeVである。
【0272】
図18において、各遷移レベルの値は、SiO
2の価電子帯上端を基準(0.0eV)
とした値を示している。なお、ここではSiO
2の電子親和力として文献値を用いたが、
SiO
2とIGZO(111)を接合した場合の各々のバンドの位置関係は、実際にはS
iO
2の電子親和力の影響を受ける場合がある。
【0273】
また、モデルの電荷が+1の状態と0の状態を遷移する遷移レベルを(+/0)と表記
し、モデルの電荷が0の状態と-1の状態を遷移する遷移レベルを(0/-)と表記する
。
【0274】
図18において、SiO
2内にNO
2分子を導入したモデルでは、IGZO(111)
のバンドギャップ内に相当する位置に(+/0)及び(0/-)の2つの遷移レベルが存
在し、電子のトラップ・デトラップに関与する可能性があることを示唆する。また、Si
O
2にNO分子を導入したモデル、及びN原子を導入したモデルでは、いずれもIGZO
(111)のバンドギャップ内に相当する位置に(+/0)の遷移レベルが存在する。一
方、SiO
2内にN
2O分子を導入したモデルの遷移レベルは、いずれもIGZO(11
1)のバンドギャップよりも外側に存在し、フェルミ準位の位置に関わらず中性分子とし
て安定に存在することが推察される。
【0275】
以上の結果から、トランジスタのしきい値電圧のプラスシフトの要因である電子のトラ
ップ・デトラップに関与する、窒素を含む格子間分子は、IGZO(111)のバンドギ
ャップ内の伝導帯よりの位置に遷移レベルを有する分子である。ここでは、IGZO(1
11)のバンドギャップ内の伝導帯よりの位置に遷移レベルを有する分子は、NO2分子
またはNO分子、若しくはその両方である可能性が高いことが強く示唆される。
【0276】
<1-2. ESRシグナルの検証>
上記遷移レベルの計算結果を受け、以下ではNO2分子のESRシグナルを計算にて求
めた。また、ここではSiO2内のO原子にN原子が置換したモデルについても同様の検
証を行った。
【0277】
ここで、N原子は電子が7個、O原子は電子が8個存在するため、NO2分子は電子が
開殻構造となる。したがって、中性のNO2分子は孤立電子を有するため、ESRで測定
することが可能である。また、SiO2中のO原子にN原子が置換した場合、N原子の周
りにSiが2つしかない状況となり、Nはダングリングボンドを有するため、同様にES
Rで測定することが可能である。また、14Nはその核スピンが1であるため、14Nが
関与するESRシグナルのピークは3つにスプリットする。このとき、ESRシグナルの
スプリット幅は超微細結合定数である。
【0278】
そこで、酸化物絶縁膜におけるESRシグナルが3つにスプリットする起源が、NO
2
分子に起因するのか、またはSiO
2内のO原子を置換したN原子に起因するのか、を計
算により検証した。なお、SiO
2の結晶構造をモデルとして用いた場合、計算量が膨大
となるため、ここでは
図19に示すような2種類のクラスタ構造のモデルを用い、これら
に関して構造最適化を行った後、g値と超微細結合定数について計算した。
図19(A)
は中性状態のNO
2分子のモデルであり、
図19(B)は、Si-N-Si結合を有する
クラスタモデルである。なお、
図19(B)に示すモデルでは、Si原子の未結合手をH
原子で終端したクラスタモデルを用いた。
【0279】
モデルの構造最適化ならびに構造最適化されたモデルのg値及び超微細結合定数の計算
にはADF(Amsterdam Density Functional softw
are)を用いた。また、モデルの構造最適化ならびに構造最適化されたモデルのg値及
び超微細結合定数の計算共に、汎関数として”GGA:BP”を、基底関数として”QZ
4P”を、Core Typeとして”None”を用いた。また、g値及び超微細結合
定数の計算時には、相対論効果として”Spin-Orbit”を考慮し、ESR/EP
Rの計算方法として、”g & A-Tensor(full SO)”を選択した。計
算条件を以下に示す。
【0280】
【0281】
構造最適化の結果、まず、
図19(A)に示すNO
2分子について、N-O結合長は0
.1205nm、O-N-O結合角は134.1°となった。これはNO
2分子について
の実験値である結合長0.1197nm、結合角134.3°と近い値となった。また、
図19(B)に示すSi-N-Siクラスタモデルについては、Si-Nの結合長は0.
172nm、Si-N-Si結合角は138.3°となった。これは、第一原理計算によ
りSiO
2結晶中のO原子にN原子を置換して構造最適化計算を行った後の構造における
、Si-Nの結合長0.170nm、Si-N-Si結合角139.0°と同程度であっ
た。
【0282】
計算したg値及び超微細結合定数の値を、以下に示す。
【0283】
【0284】
上述のように、超微細結合定数Aは、ESRシグナルのピークのスプリット幅に対応す
る。表3より、NO
2分子の超微細結合定数Aの値は、平均値がほぼ5mTである。一方
、Si-N-Siクラスタモデルについては、超微細結合定数AのうちA_xのみ正の値
を取るが、その値は3mT程度である。なお、g値と超微細結合定数Aから求めた、NO
2及びSi-N-SiのESRスペクトルをそれぞれ
図20(A)及び
図20(B)に示
す。
【0285】
この結果から、XバンドのESR測定において、3つのシグナルを有し、約5mTの超
微細構造定数を有し、g値が約2であるESRスペクトルは、SiO2結晶中のNO2分
子に起因するものである可能性が高い。なお、3つのシグナルにおいて、中央のシグナル
のg値が約2である。
【0286】
<1-3. トランジスタの劣化メカニズムの考察>
以下では、上記の結果をもとに、プラスゲートBTストレス試験(+GBT)を行った
ときの、トランジスタのしきい値電圧がプラスシフトする現象について、そのメカニズム
を考察する。
【0287】
図21を用いてメカニズムを考察する。
図21には、ゲート(GE)、ゲート絶縁膜(
GI)、酸化物半導体膜(OS)、酸化窒化シリコン膜(SiON)が順に積層された構
造を示す。ここでは、酸化物半導体膜(OS)のバックチャネル側である酸化窒化シリコ
ン膜SiONに、窒素酸化物が含まれる場合について説明する。
【0288】
まず、トランジスタにプラスゲートBTストレス試験(+GBT)を行うと、酸化物半
導体膜OSのゲート絶縁膜GI側及び酸化窒化シリコン膜SiON側の電子密度は大きく
なる。なお、酸化物半導体膜OSの酸化窒化シリコン膜SiON側は、ゲート絶縁膜GI
側と比較して電子密度が小さい。酸化窒化シリコン膜SiONに含まれるNO2分子また
はNO分子が、ゲート絶縁膜GI及び酸化物半導体膜OSの界面、並びに酸化物半導体膜
OSと酸化窒化シリコン膜SiONの界面に拡散すると、プラスゲートBTストレス試験
(+GBT)によって誘起されたゲート絶縁膜GI側及びバックチャネル側の電子をトラ
ップする。その結果、トラップされた電子が、ゲート絶縁膜GI及び酸化物半導体膜OS
の界面、並びに酸化物半導体膜OS及び酸化窒化シリコン膜SiONの界面近傍に留まる
ため、トランジスタのしきい値電圧がプラス方向にシフトする。
【0289】
すなわち、酸化物半導体膜と接する酸化窒化シリコン膜において、含有する窒素酸化物
の濃度が低いほどトランジスタのしきい値電圧の変動を抑制することができる。ここで、
酸化物半導体膜と接する酸化窒化シリコン膜としては、バックチャネル側に接する保護膜
、及びゲート絶縁膜などがある。窒素酸化物の含有量が極めて低い酸化窒化シリコン膜を
、酸化物半導体膜と接して設けることにより、極めて信頼性の高いトランジスタを実現す
ることができる。
【0290】
<2. VOH>
次に、酸化物半導体膜に含まれる欠損の一つである、酸素欠損VO中に位置するH原子
(以下、VOHと表記する。)について説明する。
【0291】
<2-1. Hの存在形態間のエネルギーと安定性>
はじめに、酸化物半導体膜に存在するHの形態のエネルギー差と安定性について、計算
した結果を説明する。ここでは、酸化物半導体膜としてInGaZnO4(以下、IGZ
O(111)と示す。)を用いた。
【0292】
計算に用いた構造は、IGZO(111)の六方晶の単位格子をa軸及びb軸方向に2
倍ずつにした84原子バルクモデルを基本とした。
【0293】
バルクモデルにおいて、3個のIn原子及び1個のZn原子と結合したO原子1個をH
原子に置換したモデルを用意した(
図22(A)参照)。また、
図22(A)において、
InO層におけるab面をc軸から見た図を
図22(B)に示す。3個のIn原子及び1
個のZn原子と結合したO原子1個を取り除いた領域を、酸素欠損V
Oと示し、
図22(
A)及び
図22(B)において破線で示す。また、酸素欠損V
O中に位置するH原子をV
OHと表記する。
【0294】
また、バルクモデルにおいて、3個のIn原子及び1個のZn原子と結合したO原子1
個を取り除き、酸素欠損(V
O)を形成する。該V
O近傍で、ab面に対して1個のGa
原子及び2個のZn原子と結合したO原子にH原子が結合したモデルを用意した(
図22
(C)参照)。また、
図22(C)において、InO層におけるab面をc軸から見た図
を
図22(D)に示す。
図22(C)及び
図22(D)において、酸素欠損V
Oを破線で
示す。また、酸素欠損V
Oを有し、且つ酸素欠損V
O近傍で、ab面に対して1個のGa
原子及び2個のZn原子と結合したO原子に結合したH原子を有するモデルをV
O+Hと
表記する。
【0295】
上記2つのモデルに対して、格子定数を固定しての最適化計算を行い、全エネルギーを
算出した。なお、全エネルギーの値が小さいほどその構造はより安定といえる。
【0296】
計算には、第一原理計算ソフトウェアVASP(The Vienna Ab ini
tio simulation package)を用いた。計算条件を表4に示す。
【0297】
【0298】
電子状態擬ポテンシャルにはPAW(Projector Augmented Wa
ve)法により生成されたポテンシャルを、汎関数にはGGA/PBE(General
ized-Gradient-Approximation/Perdew-Burke
-Ernzerhof)を用いた。
【0299】
また、計算により算出された2つのモデルの全エネルギーを表5に示す。
【0300】
【0301】
表5より、VOHの方がVO+Hよりも全エネルギーが0.78eV小さい。よって、
VOHの方がVO+Hよりも安定であるといえる。したがって、酸素欠損(VO)にH原
子が近づくと、H原子はO原子と結合するよりも、酸素欠損(VO)中に取り込まれやす
いと考えられる。
【0302】
<2-2. VOHの熱力学的状態>
次に、酸素欠損(VO)中にH原子が取り込まれたVOHの熱力学的状態に関して電子
状態計算を用いて評価した結果を説明する。
【0303】
IGZO(111)に含まれる欠陥VOHについて、(VOH)+、(VOH)-、(
VOH)0それぞれの形成エネルギーを計算した。なお、(VOH)+は電子を1つ放出
した状態を示し、(VOH)-は電子を1つ捕獲した状態を示し、(VOH)0は電子の
移動のない状態を示す。
【0304】
計算には、第一原理計算ソフトウェアVASPを用いた。計算条件を表6に示す。また
、計算に用いたモデルの構造を
図23に示す。なお、形成エネルギーの評価は、数式4に
示す反応を想定して算出した。また、電子状態擬ポテンシャル計算にはPAW法により生
成されたポテンシャルを、汎関数にはHeyd-Scuseria-Ernzerhof
(HSE) DFTハイブリッド汎関数(HSE06)を用いた。また、酸素欠損の形成
エネルギーの算出では酸素欠損濃度の希薄極限を仮定し、電子及び正孔の伝導帯、価電子
帯への過剰な広がりを補正してエネルギーを算出した。また、完全結晶の価電子帯上端を
エネルギー原点とし、欠陥構造に起因する価電子帯のズレは、平均静電ポテンシャルを用
いて補正した。
【0305】
【0306】
【0307】
本計算で得られた形成エネルギーを
図24(A)に示す。
【0308】
図24(A)に、(V
OH)
+、(V
OH)
-、(V
OH)
0それぞれの形成エネルギ
ーを示す。横軸はフェルミ準位であり、縦軸は形成エネルギーである。点線は(V
OH)
+の形成エネルギーを示し、実線は(V
OH)
0の形成エネルギーを示し、破線は(V
O
H)
-の形成エネルギーを示す。また、V
OHの電荷が、(V
OH)
+から(V
OH)
0
を経て(V
OH)
-に変わる遷移レベルをε(+/-)と示す。
【0309】
図24(B)に、V
OHの熱力学的遷移レベルを示す。計算結果から、InGaZnO
4のエネルギーギャップは2.739eVであった。また、価電子帯のエネルギーを0e
Vとすると、遷移レベル(ε(+/-))は2.62eVであり、伝導帯の直下に存在す
る。このことから、フェルミ準位がエネルギーギャップ内に存在する場合、V
OHの荷電
状態は常に+1であり、V
OHはドナーとなると考えられる。すなわち、酸素欠損(V
O
)中にH原子が取り込まれることにより、IGZO(111)がn型になることが分かる
。
【0310】
次に、キャリア(電子)密度と欠陥(V
OH)密度の関係を評価した結果を
図25に示
す。
【0311】
図25より、欠陥(V
OH)密度が増加することで、キャリア密度が増加することがわ
かる。
【0312】
以上のことから、IGZO(111)中のVOHは、ドナーとなることが分かった。ま
た、VOHの密度が高くなると、IGZO(111)はn型となることがわかった。
【0313】
<3. 酸化物半導体膜におけるDOS、及びDOSとなる元素の関係を説明するモデル
>
酸化物半導体膜内部、及び酸化物半導体膜と外部との界面近傍において、DOS(De
nsity of States)が存在すると、酸化物半導体膜を有するトランジスタ
を劣化させる要因などとなる。酸化物半導体膜内部、及びその界面近傍のDOSは、酸素
(O)、酸素欠損(VO)、水素(H)、及び窒素酸化物(NOx)の位置や結合関係に
よって説明することができる。以下、モデルの概要を説明する。
【0314】
トランジスタに安定した電気特性を付与するためには、酸化物半導体膜内部、及びその
界面近傍にDOSをより少なくすること(高純度真性化)が重要である。そのDOSを低
減するためには、酸素欠損、水素、及び窒素酸化物を低減することが必要となる。以下に
、酸化物半導体膜内部及びその界面近傍のDOSと、酸素欠損、水素及び窒素酸化物との
関係について、モデルを用いて説明する。
【0315】
図26は、酸化物半導体膜内部、及びその界面近傍のDOSを示すバンド構造である。
以下では、酸化物半導体膜が、インジウム、ガリウム及び亜鉛を有する酸化物半導体膜(
IGZO(111))である場合について説明する。
【0316】
まず、一般に、DOSには、浅い位置のDOS(shallow level DOS
)と深い位置のDOS(deep level DOS)とがある。なお、本明細書にお
いて、浅い位置のDOS(shallow level DOS)は、伝導帯下端のエネ
ルギー(Ec)とミッドギャップ(mid gap)との間にあるDOSのことをいう。
従って、例えば、浅い位置のDOS(shallow level DOS)は、伝導帯
下端のエネルギーの近くに位置する。また、本明細書において、深い位置のDOS(de
ep level DOS)は、価電子帯上端のエネルギー(Ev)とミッドギャップと
の間にあるDOSのことをいう。従って、例えば、深い位置のDOS(deep lev
el DOS)は、価電子帯上端のエネルギーよりもミッドギャップの近くに位置する。
【0317】
酸化物半導体膜において、浅い位置のDOS(shallow level DOS)
は2種類ある。1つ目の浅い位置のDOS(shallow level DOS)は、
酸化物半導体膜の表面近傍(絶縁膜(Insulator)との界面またはその近傍)の
DOS(surface shallow DOS)である。2つ目の浅い位置のDOS
(shallow level DOS)は、酸化物半導体膜内部のDOS(bulk
shallow DOS)である。一方、深い位置のDOS(deep level D
OS)としては、酸化物半導体膜内部のDOS(bulk deep DOS)がある。
【0318】
これらのDOSは、以下のように作用する可能性がある。まず、酸化物半導体膜の表面
近傍のsurface shallow DOSは、伝導帯下端から浅い位置にある。こ
のため、surface shallow DOSにおいて、電荷の捕獲及び消失が容易
に起こりうる。一方、酸化物半導体膜内部のbulk shallow DOSは、酸化
物半導体膜の表面近傍のsurface shallow DOSと比べると伝導帯下端
から深い位置にある。このため、bulk shallow DOSにおいて、電荷の消
失が起こりにくい。
【0319】
以下では、酸化物半導体膜にDOSを作る原因元素について説明する。
【0320】
例えば、酸化物半導体膜上に酸化シリコン膜を形成する場合、酸化シリコン膜中に酸化
物半導体膜に含まれるインジウムが入り込み、シリコンと置換することで、浅い位置のD
OS(shallow level DOS)を作る場合がある。
【0321】
また、例えば、酸化物半導体膜および酸化シリコン膜の界面では、酸化物半導体膜に含
まれるインジウムと酸素との結合が切れ、当該酸素とシリコンとの結合が生じる。これは
、シリコンと酸素との結合エネルギーがインジウムと酸素との結合エネルギーよりも高い
こと、及びシリコン(4価)がインジウム(3価)よりも価数が多いことに起因する。そ
して、酸化物半導体膜に含まれる酸素がシリコンに奪われることによって、インジウムと
結合していた酸素のサイトは酸素欠損となる。また、この現象は、表面だけでなく、酸化
物半導体膜内部にシリコンが入っていった場合も、同様に生じる。これらの酸素欠損は、
深い位置のDOS(deep level DOS)を形成する。
【0322】
また、シリコンだけでなく、別の要因によっても、インジウムと酸素との結合が切れる
場合がある。例えば、インジウム、ガリウム及び亜鉛を有する酸化物半導体膜において、
インジウムと酸素との結合は、ガリウムや亜鉛と酸素との結合よりも弱くて切れやすい。
そのため、例えば、プラズマによるダメージやスパッタ粒子によるダメージなどによって
も、インジウムと酸素との結合が切れ、酸素欠損が生じうる。この酸素欠損は、深い位置
のDOS(deep level DOS)を形成する。
【0323】
これらの深い位置のDOS(deep level DOS)は、正孔を捕獲すること
ができるため、正孔トラップ(正孔捕獲中心)となる。つまり、この酸素欠損が、酸化物
半導体膜内部のbulk deep DOSを形成する。酸素欠損は、bulk dee
p DOSを形成するため、酸化物半導体膜の不安定要因となる。
【0324】
また、これらの酸素欠損による深い位置のDOS(deep level DOS)は
、以下で説明するように、酸化物半導体膜内部のbulk shallow DOSを形
成するための要因の一つとなる。
【0325】
酸化物半導体膜中の酸素欠損は、水素を捕獲することで準安定状態となる。つまり、深
い位置のDOS(deep level DOS)であり、正孔を捕獲することができる
酸素欠損が、水素を捕獲すると、bulk shallow DOSを形成し、準安定状
態となる。本実施の形態に示す<VOHの熱力学的状態>で述べたように、酸素欠損は水
素を捕獲すると、中性またはプラスに帯電する。すなわち、酸化物半導体膜内部のbul
k shallow DOSの一つであるVOHが電子を放出して、中性またはプラスに
帯電するため、トランジスタの特性に影響を与える。
【0326】
なお、酸素欠損がトランジスタの特性に対して悪影響を及ぼさないようにするためには
、酸素欠損の密度を低減することが重要となる。そこで、酸化物半導体膜に過剰な酸素を
供給することで、即ち酸素欠損を過剰酸素で埋めることで、酸化物半導体膜の酸素欠損の
密度を低減することができる。つまり、酸素欠損は、過剰酸素が入ることで安定状態とな
る。例えば、酸化物半導体膜の内部、または酸化物半導体膜の界面近傍に設けられた絶縁
膜中に、過剰酸素を有せしめると、該過剰酸素が酸化物半導体膜の酸素欠損を埋めること
が可能であり、酸化物半導体膜の酸素欠損を効果的に消滅または低減することができる。
【0327】
このように、酸素欠損は、水素または酸素のいずれかによって、準安定状態または安定
状態となる。
【0328】
また、本実施の形態に示す<酸化物絶縁膜中のNOxの遷移レベルについて>で述べた
ように、NOxであるNOまたはNO2が、酸化物半導体膜に含まれる電子を捕獲する。
NOxであるNOまたはNO2は、酸化物半導体膜の表面近傍のsurface sha
llow DOSの一つであるため、酸化物半導体膜の界面近傍に設けられた絶縁膜中に
NOxが含まれることで、トランジスタの特性に影響を与える。
【0329】
なお、NOxがトランジスタの特性に対して悪影響を及ぼさないようにするためには、
酸化物半導体膜の界面近傍に設けられた絶縁膜に含まれるNOxの含有量を低減すること
が重要となる。
【0330】
<3-1. 酸化物半導体膜を有するトランジスタの暗状態におけるヒステリシス劣化モ
デル>
次に、酸化物半導体膜を有するトランジスタの劣化のメカニズムについて述べる。酸化
物半導体膜を有するトランジスタは、光が照射されている場合と、光が照射されていない
場合とで、特性が劣化するときの挙動が異なる。光が照射されている場合は、酸化物半導
体膜内部の深い位置のDOS(bulk deep DOS)が大きく影響する可能性が
ある。光が照射されていない場合は、酸化物半導体膜の表面近傍(絶縁膜(Insula
tor)との界面またはその近傍)の浅い位置のDOS(surface shallo
w DOS)が関係している可能性がある。
【0331】
そこで、まず、酸化物半導体膜を有するトランジスタに光が照射されていない場合(暗
状態)について述べる。暗状態では、酸化物半導体膜の表面近傍(絶縁膜(Insula
tor)との界面またはその近傍)の浅い位置のDOS(surface shallo
w DOS)による電荷の捕獲、放出の関係から、トランジスタの劣化メカニズムについ
て説明することができる。なお、ここでは、酸化物半導体膜の界面近傍に設けられた絶縁
膜として、ゲート絶縁膜を用いて説明する。
【0332】
酸化物半導体膜を有するトランジスタに対し、暗状態においてゲートBT(bias
temperature)ストレス試験を繰り返し行った場合のしきい値電圧(Vth)
の変化を
図27に示す。
図27より、プラスゲートBTストレス試験(+GBT)を行う
ことでしきい値電圧はプラス方向へと変化する。次に、マイナスゲートBTストレス試験
(-GBT)を行うと、しきい値電圧はマイナス方向へと変化して、初期値(Initi
al)と同程度のしきい値電圧となる。このように、プラスゲートBTストレス試験と、
マイナスゲートBTストレス試験とを交互に繰り返し行うと、しきい値電圧が上下に変化
する(ヒステリシスが生じる)。つまり、光を照射しない状態において、マイナスゲート
BTストレス試験と、プラスゲートBTストレス試験とを繰り返し行うと、しきい値電圧
はプラス方向とマイナス方向へと、繰り返しシフトするが、全体としては、一定の範囲内
での変化にとどまることがわかった。
【0333】
このような暗状態でのゲートBTストレス試験におけるトランジスタのしきい値電圧の
変化は、酸化物半導体膜の表面近傍のsurface shallow DOSによって
説明することができる。
図28に、酸化物半導体膜を含むバンド構造と、バンド構造に対
応するフローチャートを示す。
【0334】
ゲートBTストレスの印加前(ゲート電圧(Vg)は0)は、酸化物半導体膜の表面近
傍のsurface shallow DOSは、フェルミ準位(Ef)よりもエネルギ
ーが高く、電子が捕獲されていないため電気的に中性である(
図28のステップS101
)。ステップS101において測定したしきい値電圧を、ゲートBTストレスの印加前の
初期値とする。
【0335】
次に、プラスゲートBTストレス試験(暗状態)を行う。プラスのゲート電圧を印加す
ることで、伝導帯のバンドが曲がり、酸化物半導体膜の表面近傍のsurface sh
allow DOSがフェルミ準位よりも低いエネルギーとなる。その結果、酸化物半導
体膜の表面近傍のsurface shallow DOSには電子が捕獲され、負に帯
電する(
図28のステップS102)。
【0336】
次に、ストレスを止め、ゲート電圧を0にする。ゲート電圧を0にすることで、酸化物
半導体膜の表面近傍のsurface shallow DOSがフェルミ準位よりも高
いエネルギーとなる。ところが、酸化物半導体膜の表面近傍のsurface shal
low DOSに捕獲された電子が放出するまでに長い時間を要する。そのため、酸化物
半導体膜の表面近傍のsurface shallow DOSは負に帯電したままとな
る(
図28のステップS103)。このとき、トランジスタのチャネル形成領域にはゲー
ト電圧のほかに、マイナスの電圧が印加され続けている状態となる。従って、トランジス
タをオンするために、初期値よりも高いゲート電圧を印加しなくてはならず、しきい値電
圧はプラス方向に変化する。つまり、ノーマリーオフ化しやすくなる可能性がある。
【0337】
次に、マイナスゲートBTストレス試験(暗状態)を行い、マイナスのゲート電圧を印
加する。マイナスのゲート電圧を印加することで、伝導帯のバンドが曲がり、酸化物半導
体膜の表面近傍のsurface shallow DOSがさらに高いエネルギーとな
る。そのため、酸化物半導体膜の表面近傍のsurface shallow DOSに
捕獲された電子が放出され、電気的に中性となる(
図28のステップS104)。
【0338】
次に、ストレスを止め、ゲート電圧を0にする。このとき、酸化物半導体膜の表面近傍
のsurface shallow DOSは、すでに電子を放出しているため、電気的
に中性である(ステップS101)。そのため、しきい値電圧は、プラス方向に変化し、
結果として、ゲートBTストレスの印加前の初期値に戻る。つまり、暗状態で、マイナス
ゲートBTストレス試験と、プラスゲートBTストレス試験とを繰り返し行うと、しきい
値電圧はプラス方向とマイナス方向へと、繰り返し変化していく。しかし、酸化物半導体
膜の表面近傍のsurface shallow DOSにおいて、プラスゲートBTス
トレス試験時に捕獲された電子が、マイナスゲートBTストレス試験時に放出されるため
、全体としては、しきい値電圧は一定の範囲内で変化することがわかった。
【0339】
以上のように、暗状態におけるゲートBTストレス試験によるトランジスタのしきい値
電圧の変化は、酸化物半導体膜の表面近傍のsurface shallow DOSを
理解することによって説明することができる。
【0340】
<3-2. 酸化物半導体膜を有するトランジスタの明状態における劣化モデル>
次に、光が照射されている場合(明状態)における劣化のメカニズムについて述べる。
明状態では、酸化物半導体膜内部の深い位置のDOS(bulk deep DOS)に
よる電荷の捕獲、放出の関係から、トランジスタの劣化のメカニズムについて説明するこ
とができる。
【0341】
酸化物半導体膜を有するトランジスタに対し、明状態においてゲートBTストレス試験
を繰り返し行った場合のしきい値電圧(Vth)の変化を
図29に示す。
図29より、し
きい値電圧(Vth)は初期値(Initial)からマイナス方向へ変化する。
【0342】
図29では、はじめに、しきい値電圧の初期値として、ゲートBTストレスを加えずに
、暗状態において測定した結果をプロットした。次に、ゲートBTストレスを加えずに、
明状態において、しきい値電圧を測定した。その結果、暗状態でのしきい値電圧と比べて
、明状態でのしきい値電圧は、マイナス方向に大きく変化することがわかった。これは、
光を照射することによって、電子及び正孔(ホール)が生成され、生成された電子が伝導
帯へ励起されることが一要因として考えられる。つまり、ゲートBTストレスを加えない
場合であっても、光の照射によって、酸化物半導体膜を有するトランジスタのしきい値電
圧は、マイナス方向へシフトし、ノーマリーオン化しやすくなるといえる。この場合、酸
化物半導体膜のエネルギーギャップが大きいほど、または、ギャップ内のDOSが少ない
ほど、励起される電子は少なくなる。そのため、そのような場合は、光の照射のみによる
しきい値電圧の変化は小さくなる。
【0343】
次に、光を照射したままの状態で、マイナスゲートBTストレス試験(-GBT)を行
うと、しきい値電圧はさらにマイナス方向に変化した。
【0344】
その後、光を照射したままの状態で、プラスゲートBTストレス試験(+GBT)を行
うと、しきい値電圧はプラス方向に変化した。
【0345】
さらに、光を照射したままの状態で、マイナスゲートBTストレス試験と、プラスゲー
トBTストレス試験とを繰り返し行っていくと、しきい値電圧はプラス方向とマイナス方
向へと、繰り返し変化しながら、全体としては、徐々にマイナス方向へ変化していくこと
がわかった。
【0346】
以上に示した明状態でのゲートBTストレス試験(プラスゲートBTとマイナスゲート
BTの繰り返し試験)において、トランジスタのしきい値電圧が変化していくメカニズム
について、
図30及び
図31に示すバンド構造を用いて説明する。
図30及び
図31では
、酸化物半導体膜内部のbulk deep DOS、及びゲート絶縁膜中の非架橋酸素
正孔捕獲中心(NBOHC1及びNBOHC2)を用いて説明する。なお、非架橋酸素正
孔捕獲中心(NBOHC1)は、非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC2)よりも、酸化
物半導体膜との界面に近い位置(表面側)にある非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC)
である。
【0347】
ゲートBTストレスの印加と光の照射とを行う前(ゲート電圧(Vg)は0)、酸化物
半導体膜内部のbulk deep DOSは、フェルミ準位(Ef)よりもエネルギー
が低く、正孔が捕獲されていないため電気的に中性である(
図30のステップS111)
。このとき、暗状態で測定したしきい値電圧を、暗状態の初期値とする。
【0348】
次に、ゲートBTストレスを加えずに、酸化物半導体膜に光を照射すると、電子及び正
孔が生成される(
図30のステップS112)。生成された電子は、伝導帯に励起され、
しきい値電圧をマイナス方向へ変化させる(以降のステップでは電子を省略して示す。)
。また、正孔が生成されることで、正孔の擬フェルミ準位(Efp)が下がる。正孔の擬
フェルミ準位(Efp)が下がることで、酸化物半導体膜内部のbulk deep D
OSに正孔が捕獲される(
図30のステップS113)。従って、ゲートBTストレスを
加えずに、光を照射すると、暗状態のときと比べて、しきい値電圧がマイナス方向に変化
し、ノーマリーオン化しやすくなる可能性がある。
【0349】
次に、光を照射したままの状態で、マイナスゲートBTストレス試験を行うと、電界勾
配が生じ、酸化物半導体膜内部のbulk deep DOSに捕獲された正孔が、ゲー
ト絶縁膜中の非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC1)に注入される(
図30のステップ
S114)。さらに、電界により、ゲート絶縁膜のさらに内部の非架橋酸素正孔捕獲中心
(NBOHC2)へも正孔の一部が移動する(
図31のステップS115)。ゲート絶縁
膜中で非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC1)から非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOH
C2)への正孔の移動は、電界を印加する時間が長いほど進行する。ゲート絶縁膜中の非
架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC1及びNBOHC2)の正孔は、プラスの固定電荷と
して振る舞うため、しきい値電圧をマイナス方向に変化させ、ノーマリーオン化しやすく
なる。
【0350】
なお、ここでは、理解を容易にするため、光照射とマイナスゲートBTストレス試験と
を異なるステップに分けて示したが、これに限定して解釈されるものではない。例えば、
ステップS112乃至ステップS115が、並行して起こるステップであると考えても構
わない。
【0351】
次に、光を照射したままの状態でプラスゲートBTストレス試験を行う。プラスのゲー
ト電圧を印加することによって、酸化物半導体膜内部のbulk deep DOSに捕
獲された正孔、及びゲート絶縁膜中の非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC1)の正孔が
放出される(
図31のステップS116)。その結果、しきい値電圧はプラス方向に変化
する。ただし、ゲート絶縁膜中の非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC2)は、ゲート絶
縁膜の内部の深い位置であるため、明状態でプラスゲートBTストレス試験を行ったとし
ても、直接正孔が放出されることはほとんど起こりえない。ゲート絶縁膜中の非架橋酸素
正孔捕獲中心(NBOHC2)の正孔を放出するためには、一度、表面側にある非架橋酸
素正孔捕獲中心(NBOHC1)に移動しなくてはならない。ゲート絶縁膜中の非架橋酸
素正孔捕獲中心(NBOHC2)から非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC1)への正孔
の移動は、電界を印加した時間に応じて少しずつ起こる。従って、しきい値電圧のプラス
方向への変化量も小さく、初期値まで戻り切らない。
【0352】
また、ゲート絶縁膜中の非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC1)と、酸化物半導体膜
内部のbulk deep DOSとの間でも、正孔のやりとりが起こる。しかし、酸化
物半導体膜内部のbulk deep DOSには、既に多くの正孔が捕獲されている状
態となっているため、酸化物半導体膜及びゲート絶縁膜全体の帯電量はほとんど減少しな
い可能性がある。
【0353】
次に、再び、光を照射したままの状態で、マイナスゲートBTストレス試験を行うと、
電界勾配が生じ、酸化物半導体膜内部のbulk deep DOSに捕獲された正孔が
、ゲート絶縁膜中の非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC1)に注入される。また、電界
により、ゲート絶縁膜のさらに内部の非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC2)へも正孔
の一部が注入される(
図31のステップS117)。なお、ゲート絶縁膜中の非架橋酸素
正孔捕獲中心(NBOHC2)は、ステップS115で入った正孔が放出せずに残ったま
まの状態である。そのため、さらに正孔が注入されることで、固定電荷として振る舞う正
孔数はさらに増える。しきい値電圧をさらにマイナス方向に変化させ、よりノーマリーオ
ン化しやすくなる。
【0354】
次に、光を照射したままの状態でプラスゲートBTストレス試験を行うと、プラスのゲ
ート電圧を印加することによって、酸化物半導体膜内部のbulk deep DOSに
捕獲された正孔、及びゲート絶縁膜中の非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC1)の正孔
が放出される(
図31のステップS118)。その結果、しきい値電圧はプラス方向に変
化する。ただし、ゲート絶縁膜中の非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC2)の正孔は、
ほとんど放出されない。従って、しきい値電圧のプラス方向への変化量も小さく、初期値
まで戻り切らない。
【0355】
以上のように、明状態において、マイナスゲートBTストレス試験とプラスゲートBT
ストレス試験とを繰り返し行うことによって、しきい値電圧はプラス方向とマイナス方向
へと、繰り返し変化しながら、全体としては、徐々にマイナス方向へ変化していくものと
考えられる。
【0356】
以上のように、明状態でのゲートBTストレス試験におけるトランジスタのしきい値電
圧の変化は、酸化物半導体膜内部のbulk deep DOS、及びゲート絶縁膜中の
非架橋酸素正孔捕獲中心(NBOHC1及びNBOHC2)を理解することによって説明
することができる。
【0357】
<3-3. 酸化物半導体膜の脱水化及び脱水素化、ならびに加酸素化のプロセスモデル
>
トランジスタに安定した電気特性を付与するためには、酸化物半導体膜内部、及びその
界面近傍にDOSをより少なくすること(高純度真性化)が重要である。以下では、酸化
物半導体膜の高純度真性化のプロセスモデルについて説明する。そこで、まずは、酸化物
半導体膜の、脱水化及び脱水素化について説明し、次に、酸素欠損(VO)を酸素で埋め
ることによる加酸素化について説明する。
【0358】
なお、高純度真性化のプロセスモデルについて説明する前に、酸化物半導体膜の酸素欠
損がどの位置に生じやすいかを説明する。インジウム、ガリウム及び亜鉛を有する酸化物
半導体膜において、ガリウムと酸素との結合、亜鉛と酸素との結合に比べ、インジウムと
酸素との結合が最も切れやすい。従って、以下では、インジウムと酸素との結合が切れ、
酸素欠損が形成されるモデルについて説明する。
【0359】
インジウムと酸素との結合が切れると、酸素が脱離し、インジウムと結合していた酸素
のサイトが酸素欠損となる。酸素欠損は、酸化物半導体膜の深い位置のDOS(deep
level DOS)を形成する。酸化物半導体膜の酸素欠損は、不安定であるため、
酸素または水素を捕獲することで安定化を図る。そのため、酸素欠損の近くに水素がある
と、酸素欠損が水素を捕獲することでVOHとなる。VOHは、酸化物半導体膜の浅い位
置のDOS(shallow level DOS)を形成する。
【0360】
次に、酸化物半導体膜のV
OHに酸素が近づいてくると、酸素は、V
OHから水素を奪
い、水酸基(OH)の状態で、水素を脱離させる(
図32(A)及び
図32(B)参照。
)。酸素は、加熱処理などによって酸化物半導体膜中を移動することで近づいてくる。
【0361】
さらに、脱離した水酸基は、別の酸化物半導体膜のV
OHに近づくと、V
OHから水素
を奪い、水分子(H
2O)の状態で、さらに水素を脱離させる(
図32(C)及び
図32
(D)参照。)。以上のように、1つの酸素は、酸化物半導体膜の2つの水素を脱離させ
る。これを、酸化物半導体膜の脱水化及び脱水素化とよぶ。脱水化及び脱水素化によって
、酸化物半導体膜の浅い位置のDOS(shallow level DOS)が低減さ
れ、深い位置のDOS(deep level DOS)が形成される。
【0362】
次に、酸化物半導体膜の酸素欠損に酸素が近づいてくると、酸素は、酸素欠損に捕獲さ
れ、酸素欠損は消失する(
図32(E)及び
図32(F)参照。)。これを、酸化物半導
体膜の加酸素化とよぶ。加酸素化によって、酸化物半導体膜の深い位置のDOS(dee
p level DOS)を低減することができる。
【0363】
以上のようにして、酸化物半導体膜の脱水化及び脱水素化、ならびに加酸素化を行うと
、酸化物半導体膜の浅い位置のDOS(shallow level DOS)及び深い
位置のDOS(deep level DOS)を低減することができる。これを酸化物
半導体の高純度真性化とよぶ。
【0364】
なお、本実施の形態に示す構成及び方法などは、他の実施の形態及び実施例に示す構成
及び方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【0365】
(実施の形態3)
本実施の形態では、トランジスタに含まれる酸化物半導体膜に含まれる不純物と、トラ
ンジスタ特性の劣化について説明する。ここでは、酸化物半導体膜としてIGZO(11
1)を用い、不純物の一つとして炭素を用いて説明する。
【0366】
<1. IGZO中の炭素の影響について>
IGZO(111)にCを導入したモデルについて、電子状態の計算を行った。
【0367】
計算には、
図33(A)に示すIGZO(111)結晶モデル(原子数:112個)を
用いた。
【0368】
ここでは、IGZO(111)にCを混入したモデルとして、
図33(A)及び表7の
ように格子間(1)乃至(6)それぞれにCを配置したモデル、1個のInをCに置換し
たモデル、1個のGaをCに置換したモデル、1個のZnをCに置換したモデル、1個の
OをCに置換したモデルを検討した。
【0369】
【0370】
<1-1. 格子間にCが配置されたモデル>
(1)乃至(6)に示す格子間にCを配置したモデルについては、構造最適化後の全エネ
ルギーを比較することで安定配置を調べた。計算条件を表8に示す。なお、交換相関汎関
数にGGAを適用しているため、バンドギャップは過小評価される傾向にある。
【0371】
【0372】
(1)乃至(6)に示す格子間にCを配置したモデルの構造最適化計算の結果を、表9に
示す。
【0373】
【0374】
Cの初期位置として格子間を選択したが、構造最適化を行ったところ、(1)、(3)
、(4)の格子間にCを配置したモデルは、
図33(C)に示すような、(CO)
O欠陥
構造となった。なお、「(CO)
O」は
図33(B)に示す構造のOを
図33(C)に示
すように、COで置換したことを意味する。(CO)
O欠陥構造において、Cは、Oと結
合する。また、Cは、原子M1及びM2と結合する。また、Oは、M3及びM4と結合す
る。また、(5)、(6)の格子間にCを配置したモデルは、IGZO(111)中の原
子と結合した構造となった。エネルギーを比較すると、格子間よりも(CO)
O欠陥構造
やIGZO(111)中の原子と結合した構造の方が安定という結果となった。
【0375】
次に、当該計算でエネルギーが最も低く、安定だったモデル((6)にCを配置したモ
デル)の構造を
図34(A)に示し、状態密度を
図34(B)に示す。なお、
図34(B
)において、横軸において、フェルミ準位E
fを0eVとし、上半分にup-spin、
下半分にdown-spinの状態密度を示す。
【0376】
図34(A)に示す構造において、Cは1個のInと2個のOと結合した状態となって
いる。Cと同族であるSiを格子間に配置したモデルでは、SiはOとのみ結合した状態
であった。当該結果を参照すると、SiとCの結合状態の違いは、イオン半径と電気陰性
度の違いにより生じると推測される。また、
図34(B)において、伝導帯の下端からフ
ェルミ準位E
fの間における状態密度を積分したところ、状態密度は電子2個分であった
。フェルミ準位E
fは伝導帯下端より電子2個分真空準位側に位置することから、格子間
にCを配置することで、Cより電子が2個放出され、IGZO(111)がn型化すると
考えられる。
【0377】
<1-2. 金属元素をCで置換したモデル>
次に、1個のInをCに置換したモデルの最適構造および状態密度を
図35に示す。な
お、
図35(B)において、横軸において、フェルミ準位E
fを0eVとする。
【0378】
図35(A)に示す構造において、Cは、3個のOと結合し、Oを頂点とする三角形の
平面内に位置している。また、
図35(B)に示す状態密度の概形は、欠陥のない場合と
ほぼ同じであるが、フェルミ準位E
fが伝導帯下端より電子1個分真空準位側に位置する
ことから、InをCに置換することで、Cより電子が1個放出され、IGZO(111)
がn型化すると考えられる。これは、3価のInを4価のCに置換したためと考えられる
。
【0379】
次に、1個のGaをCに置換したモデルの最適構造および状態密度を
図36に示す。な
お、
図36(B)において、横軸において、フェルミ準位E
fを0eVとする。
【0380】
図36(A)に示す構造において、Cは4個のOと結合し、Oを頂点とする四面体のほ
ぼ中心に位置している。また、
図36(B)に示す状態密度の概形は、欠陥のない場合と
ほぼ同じであるが、フェルミ準位E
fが伝導帯下端より電子1個分真空準位側に位置する
ことから、GaをCに置換することで、Cより電子が1個放出され、IGZO(111)
がn型化すると考えられる。これは、3価のGaを4価のCに置換したためと考えられる
。
【0381】
次に、1個のZnをCに置換したモデルの最適構造および状態密度を
図37に示す。な
お、
図37(B)において、横軸において、フェルミ準位E
fを0eVとする。
【0382】
図37(A)に示す構造おいて、Cは3個のOと結合し、Oを頂点とする三角形の平面
内に位置している。また、
図37(B)に示す状態密度の概形は、欠陥のない場合とほぼ
同じであるが、フェルミ準位E
fが伝導帯下端より電子2個分真空準位側に位置すること
から、ZnをCに置換することで、Cより電子が2個放出され、IGZO(111)がn
型化すると考えられる。これは、2価のZnを4価のCに置換したためと考えられる。
【0383】
<1-3. OをCで置換したモデル>
次に、CがOと置き換わるかを検討した。1個のOをCに置換する場合、Oサイトは結
合相手である金属の組み合わせを考慮すると4箇所あるので、それぞれ置換モデルを作成
し、構造最適化計算を行った。この結果、2個のGaと1個のZnと結合したOをCに置
換したモデルがエネルギー的に安定であった。
【0384】
酸素雰囲気で成膜されたIGZO(111)はOが十分に含まれている。酸素を多く含
むIGZO(111)において、CがOと置換するのに必要なエネルギーを比較するため
、表10の(1)及び(2)のモデルを検討する。なお、以下の2つのモデルでは、互い
に原子数を一致させた後に、全エネルギーを算出した。
【0385】
【0386】
Cの安定配置を調べるため、酸素を多く含むIGZO(111)を想定し、原子数が一
致するようなモデルにて全エネルギーを算出した。計算結果を表11に示す。
【0387】
【0388】
なお、表10の(1)のモデルは、IGZO(111)においてCがCO2として存在
するモデルである。また、表10の(2)のモデルは、IGZO(111)のOがCに置
換されたモデルである。
【0389】
計算の結果、(1)のモデルの方が約10.8eV低く、安定であったことから、(2
)のモデルより(1)のモデルの方が生じやすいと考えられる。すなわち、CはOと置き
換わりにくく、OがCと置換するのは不安定と考えられる。
【0390】
表11に示すように、IGZO(111)中のCは、Gaとの置換の方が、エネルギー
が低いため、生じやすく、Oとの置換が生じにくい、と考えられる。なお、表11におい
て、「IGZO:C原子」は、InGaZnO4中において、原子をCで置換したことを
意味する。
【0391】
以上の結果から、Cが格子間に配置される、またはCが金属原子(In、Ga、Zn)
と置換されると、IGZO(111)はn型になることが分かった。また、IGZO(1
11)中のCは、特にGaと置換されることで、安定であると考えられる。
【0392】
なお、本実施の形態に示す構成及び方法などは、他の実施の形態及び実施例に示す構成
及び方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【0393】
(実施の形態4)
本実施の形態では、実施の形態1と異なる構造の半導体装置、及びその作製方法につい
て図面を参照して説明する。本実施の形態に示すトランジスタ50は、実施の形態1に示
すトランジスタ10と比較して、トップゲート構造のトランジスタである点が異なる。
【0394】
<1.トランジスタの構造>
図38(A)乃至
図38(C)に、トランジスタ50の上面図及び断面図を示す。
図3
8(A)はトランジスタ50の上面図であり、
図38(B)は、
図38(A)の一点鎖線
A-B間の断面図であり、
図38(C)は、
図38(A)の一点鎖線C-D間の断面図で
ある。なお、
図38(A)では、明瞭化のため、基板51、保護膜53、ゲート絶縁膜5
9、絶縁膜63などを省略している。
【0395】
図38に示すトランジスタ50は、保護膜53上に形成される酸化物半導体膜55と、
酸化物半導体膜55に接する一対の電極57、58と、酸化物半導体膜55及び一対の電
極57、58に接するゲート絶縁膜59と、ゲート絶縁膜59を介して酸化物半導体膜5
5と重なるゲート電極61とを有する。また、保護膜53、一対の電極57、58、ゲー
ト絶縁膜59、及びゲート電極61上に、絶縁膜63が形成されてもよい。
【0396】
本実施の形態において、酸化物半導体膜55と接する膜、代表的には、保護膜53及び
ゲート絶縁膜59の少なくとも一方が、窒素を含む酸化物絶縁膜であり、該窒素を含む酸
化物絶縁膜は欠陥量の少ないことを特徴とする。
【0397】
窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜の代表例としては、酸化窒化シリコン膜
、酸化窒化アルミニウム膜等がある。なお、酸化窒化シリコン膜、酸化窒化アルミニウム
とは、その組成として、窒素よりも酸素の含有量が多い膜を指し、窒化酸化シリコン膜、
窒化酸化アルミニウムとは、その組成として、酸素よりも窒素の含有量が多い膜を指す。
【0398】
窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理により放出する窒素酸化物
(NOx、xは0以上2以下、好ましくは1以上2以下)の放出量より、加熱処理により
放出する質量電荷比m/z=17の気体の放出量が多い領域や部分を有する。なお、窒素
酸化物の代表例としては、一酸化窒素、二酸化窒素等がある。または、窒素を含み、且つ
欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=30の気体
の放出量より、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=17の気体の放出量が多い領
域や部分を有する。または、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理
により放出する質量電荷比m/z=46の気体の放出量より、加熱処理により放出する質
量電荷比m/z=17の気体の放出量が多い領域や部分を有する。または、窒素を含み、
且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=30の
気体及び質量電荷比m/z=46の気体の放出総和量より、加熱処理により放出する質量
電荷比m/z=17の気体の放出量が多い領域や部分を有する。
【0399】
また、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理により放出する質量
電荷比m/z=30の気体の放出量が検出下限以下であり、加熱処理により放出する質量
電荷比m/z=17の気体の放出量が1×1018個/cm3以上5×1019個/cm
3以下である領域や部分を有する。または、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁
膜は、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=46の気体の放出量が検出下限以下で
あり、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=17の気体の放出量が1×1018個
/cm3以上5×1019個/cm3以下である領域や部分を有する。または、窒素を含
み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=3
0の気体の放出量が検出下限以下であり、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=4
6の気体の放出量が検出下限以下であり、加熱処理により放出する質量電荷比m/z=1
7の気体の放出量が1×1018個/cm3以上5×1019個/cm3以下である領域
や部分を有する。
【0400】
なお、質量電荷比m/z=30の気体の代表例としては、一酸化窒素がある。また、質
量電荷比m/z=17の気体の代表例としては、アンモニアがある。また、質量電荷比m
/z=46の気体の代表例としては、二酸化窒素がある。
【0401】
窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜は、加熱処理後において、100K以下
のESRで測定して得られたスペクトルにおいてg値が2.037以上2.039以下の
第1シグナル、g値が2.001以上2.003以下の第2のシグナル、及びg値が1.
964以上1.966以下の第3のシグナルが観測される。また、g値が2.037以上
2.039以下の第1のシグナル、g値が2.001以上2.003以下の第2のシグナ
ル、及びg値が1.964以上1.966以下である第3のシグナルのスピンの密度の合
計が1×1018spins/cm3未満であり、代表的には1×1017spins/
cm3以上1×1018spins/cm3未満である。
【0402】
なお、100K以下のESRスペクトルにおいてg値が2.037以上2.039以下
の第1シグナル、g値が2.001以上2.003以下の第2のシグナル、及びg値が1
.964以上1.966以下の第3のシグナルは、窒素酸化物(NOx、xは0以上2以
下、好ましくは1以上2以下)起因のシグナルに相当する。窒素酸化物の代表例としては
、一酸化窒素、二酸化窒素等がある。
【0403】
酸化物半導体膜55に接する保護膜53及びゲート絶縁膜59の少なくとも一方が、上
記のように、窒素酸化物の含有量が少ないと、保護膜53及びゲート絶縁膜59と、酸化
物半導体膜55との界面におけるキャリアトラップを低減することが可能である。この結
果、半導体装置に含まれるトランジスタのしきい値電圧の変動を低減することが可能であ
り、トランジスタの電気特性の変動を低減することができる。
【0404】
また、保護膜53及びゲート絶縁膜59の少なくとも一方は、SIMSで測定される窒
素濃度が6×1020atoms/cm3以下であることが好ましい。この結果、保護膜
53及びゲート絶縁膜59の少なくとも一方において、窒素酸化物が生成されにくくなり
、保護膜53またはゲート絶縁膜59と、酸化物半導体膜55との界面におけるキャリア
トラップを低減することが可能である。また、半導体装置に含まれるトランジスタのしき
い値電圧の変動を低減することが可能であり、トランジスタの電気特性の変動を低減する
ことができる。
【0405】
以下に、トランジスタ50の他の構成の詳細について説明する。
【0406】
基板51は、実施の形態1に示す基板11に列挙する基板を適宜用いることができる。
【0407】
ゲート絶縁膜59が、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜で形成される場合
、保護膜53は、化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物絶縁膜を用
いて形成することができる。化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物
絶縁膜は、加熱処理により酸化物半導体膜に酸素を拡散させることができる。保護膜53
の代表例としては、酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化ガ
リウム膜、酸化ハフニウム膜、酸化イットリウム膜、酸化アルミニウム膜、酸化窒化アル
ミニウム膜等がある。
【0408】
保護膜53は、50nm以上、好ましくは200nm以上3000nm以下、好ましく
は300nm以上1000nm以下とする。保護膜53を厚くすることで、保護膜53の
酸素分子の放出量を増加させることができると共に、保護膜53及び後に形成される酸化
物半導体膜との界面における界面準位を低減することが可能である。
【0409】
ここで、「加熱により酸素の一部が脱離する」とは、TDS分析にて、酸素原子に換算
しての酸素の放出量が1.0×1018atoms/cm3以上、好ましくは3.0×1
020atoms/cm3以上であることをいう。なお、上記TDS分析時における膜の
表面温度としては、100℃以上700℃以下、または100℃以上500℃以下の範囲
が好ましい。
【0410】
酸化物半導体膜55は、実施の形態1に示す酸化物半導体膜17と同様に形成すること
ができる。
【0411】
一対の電極57、58は、実施の形態1に示す一対の電極19、20と同様に形成する
ことができる。
【0412】
なお、本実施の形態では、一対の電極57、58を酸化物半導体膜55及びゲート絶縁
膜59の間に設けたが、保護膜53及び酸化物半導体膜55の間に設けてもよい。
【0413】
保護膜53が、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜で形成される場合、ゲー
ト絶縁膜59は、例えば酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、窒
化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化ハフニウム膜、酸化ガリウム膜またはGa-Z
n系金属酸化物膜などを用いればよく、積層または単層で設ける。なお、酸化物半導体膜
55との界面特性を向上させるため、ゲート絶縁膜59において少なくとも酸化物半導体
膜55と接する領域は酸化物絶縁膜で形成することが好ましい。
【0414】
また、ゲート絶縁膜59として、酸素、水素、水等のブロッキング効果を有する絶縁膜
を設けることで、酸化物半導体膜55からの酸素の外部への拡散と、外部から酸化物半導
体膜55への水素、水等の侵入を防ぐことができる。酸素、水素、水等のブロッキング効
果を有する絶縁膜としては、酸化アルミニウム膜、酸化窒化アルミニウム膜、酸化ガリウ
ム膜、酸化窒化ガリウム膜、酸化イットリウム膜、酸化窒化イットリウム膜、酸化ハフニ
ウム膜、酸化窒化ハフニウム膜等がある。
【0415】
また、ゲート絶縁膜59として、ハフニウムシリケート(HfSiOx)、窒素が添加
されたハフニウムシリケート(HfSixOyNz)、窒素が添加されたハフニウムアル
ミネート(HfAlxOyNz)、酸化ハフニウム、酸化イットリウムなどのhigh-
k材料を用いることでトランジスタのゲートリークを低減できる。
【0416】
ゲート絶縁膜59は、例えば厚さ5nm以上400nm以下、より好ましくは10nm
以上300nm以下、より好ましくは15nm以上100nm以下とする。
【0417】
ゲート電極61は、実施の形態1に示すゲート電極13と同様に形成することができる
。
【0418】
絶縁膜63は、厚さが30nm以上500nm以下、好ましくは100nm以上400
nm以下の、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、窒化シリコン、酸化
アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、窒化酸化アルミニウム、窒化アルミニウム等を用
いればよく、積層または単層で設ける。
【0419】
なお、絶縁膜63として、保護膜53のように、化学量論的組成を満たす酸素よりも多
くの酸素を含む酸化窒化物絶縁膜と、酸素、水素、水等のブロッキング特性を有する絶縁
膜の積層構造としてもよい。酸素、水素、水等のブロッキング効果を有する絶縁膜として
は、酸化アルミニウム膜、酸化窒化アルミニウム膜、酸化ガリウム膜、酸化窒化ガリウム
膜、酸化イットリウム膜、酸化窒化イットリウム膜、酸化ハフニウム膜、酸化窒化ハフニ
ウム膜、窒化シリコン膜等がある。この結果、加熱処理において、ゲート絶縁膜59また
は/及び保護膜53を介して、酸素が酸化物半導体膜55に酸素が供給されるため、ゲー
ト絶縁膜59または/及び保護膜53と、酸化物半導体膜55との界面準位を低減できる
。また、酸化物半導体膜55に含まれる酸素欠損量を低減することができる。
【0420】
<2.トランジスタの作製方法>
次に、
図38に示すトランジスタの作製方法について、
図39を用いて説明する。なお
、
図39において、
図38(A)の一点破線A-Bに示すチャネル長方向の断面図、及び
一点破線C-Dに示すチャネル幅方向の断面図を用いて、トランジスタ50の作製方法を
説明する。
【0421】
図39(A)に示すように、基板51上に保護膜53を形成する。次に、保護膜53上
に酸化物半導体膜55を形成する。
【0422】
保護膜53は、スパッタリング法、CVD法等により形成する。
【0423】
保護膜53として、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜を形成する場合、窒
素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜の一例として、酸化窒化シリコン膜をCVD
法を用いて形成することができる。この場合、原料ガスとしては、シリコンを含む堆積性
気体及び酸化性気体を用いることが好ましい。シリコンを含む堆積性気体の代表例として
は、シラン、ジシラン、トリシラン、フッ化シラン等がある。酸化性気体としては、一酸
化二窒素、二酸化窒素等がある。
【0424】
なお、保護膜53として、加熱により酸素の一部が脱離する酸化物絶縁膜を形成する場
合、加熱により酸素の一部が脱離する酸化物絶縁膜として、成膜ガス中の酸素量が高い条
件を用いたスパッタリング法により形成することが好ましく、酸素、または酸素及び希ガ
スの混合ガス等を用いることができる。代表的には、成膜ガス中の酸素濃度を6%以上1
00%以下にすることが好ましい。
【0425】
また、保護膜53として、加熱により酸素の一部が脱離する酸化物絶縁膜を形成する場
合、加熱により酸素の一部が脱離する酸化物絶縁膜として、CVD法により酸化物絶縁膜
を形成した後、該酸化物絶縁膜に酸素を導入することで、加熱により脱離する酸素量を増
加させることができる。酸化物絶縁膜に酸素を導入する方法としては、イオン注入法、イ
オンドーピング法、プラズマ処理等がある。本実施の形態では、保護膜53の下に酸化物
半導体膜が設けられていないため、保護膜53に酸素を導入しても、酸化物半導体膜への
ダメージがない。このため、酸化物半導体膜へのダメージなく、酸化物半導体膜に接する
保護膜53に酸素を導入することができる。
【0426】
また、保護膜53としてCVD法で酸化物絶縁膜を形成する場合、原料ガス由来の水素
または水が酸化物絶縁膜中に混入される場合がある。このため、CVD法で酸化物絶縁膜
を形成した後、脱水素化または脱水化として、加熱処理を行うことが好ましい。
【0427】
酸化物半導体膜55は、実施の形態1に示す酸化物半導体膜17と同様の形成方法を適
宜用いることができる。
【0428】
また、CAAC-OS膜に含まれる結晶部の配向を高めるためには、酸化物半導体膜の
下地絶縁膜である、保護膜53の表面の平坦性を高めることが好ましい。代表的には、保
護膜53の平均面粗さ(Ra)が1nm以下、0.3nm以下、または0.1nm以下に
できる。
【0429】
保護膜53の表面の平坦性を高める平坦化処理としては、化学的機械的研磨(Chem
ical Mechanical Polishing:CMP)処理、ドライエッチン
グ処理、真空のチャンバーに不活性ガス、例えばアルゴンガスを導入し、被処理面を陰極
とする電界をかけて、表面の微細な凹凸を平坦化するプラズマ処理(いわゆる逆スパッタ
)等の一または複数を適用することができる。
【0430】
次に、
図39(B)に示すように、一対の電極57、58を形成する。一対の電極57
、58は、実施の形態1に示す一対の電極19、20と同様の形成方法を適宜用いること
ができる。または、印刷法またはインクジェット法により一対の電極57、58を形成す
ることができる。
【0431】
次に、
図39(C)に示すように、ゲート絶縁膜59及びゲート電極61を形成する。
スパッタリング法、CVD法、蒸着法等で絶縁膜を形成し、該絶縁膜上に、スパッタリン
グ法、CVD法、蒸着法等により導電膜を形成する。次に、導電膜上にフォトリソグラフ
ィ工程によりマスクを形成する。次に、該マスクを用いて絶縁膜及び導電膜の一部をエッ
チングして、ゲート絶縁膜59及びゲート電極61を形成する。この後、マスクを除去す
る。
【0432】
ゲート絶縁膜59となる膜はスパッタリング法、CVD法、蒸着法等で形成する。ゲー
ト電極61となる膜は、スパッタリング法、CVD法、蒸着法等で形成する。
【0433】
なお、ゲート絶縁膜59となる膜として、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁
膜を形成する場合、保護膜53と同様の条件を適宜用いて形成することができる。
【0434】
次に、
図39(D)に示すように、基板51、一対の電極57、58、ゲート絶縁膜5
9、及びゲート電極61上に絶縁膜63を形成する。絶縁膜63は、スパッタリング法、
CVD法、印刷法、塗布法等を適宜用いて形成することができる。
【0435】
次に、実施の形態1と同様に、加熱処理を行ってもよい。該加熱処理の温度は、代表的
には、150℃以上基板歪み点未満、好ましくは250℃以上450℃以下、更に好まし
くは300℃以上450℃以下とする。
【0436】
以上の工程により、しきい値電圧の変動が低減されたトランジスタを作製することがで
きる。また、電気特性の変動が低減されたトランジスタを作製することができる。
【0437】
なお、本実施の形態に示す構成及び方法などは、他の実施の形態及び実施例に示す構成
及び方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【0438】
<変形例1>
実施の形態4に示すトランジスタ50の変形例について、
図40を用いて説明する。本
変形例で説明するトランジスタは、ゲート絶縁膜または保護膜が積層構造である例につい
て説明する。
【0439】
図40(A)に示すトランジスタ50aは、保護膜53が多層構造であることを特徴と
する。具体的には、保護膜53は、酸化物絶縁膜65及び酸化物絶縁膜67が積層され、
酸化物絶縁膜65は、化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物絶縁膜
であり、酸化物半導体膜55に接する酸化物絶縁膜67は、トランジスタ50の保護膜5
3及びゲート絶縁膜59の少なくとも一方に用いることが可能な、窒素を含み、且つ欠陥
量の少ない酸化物絶縁膜である。
【0440】
化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物絶縁膜65は、50nm以
上、好ましくは200nm以上3000nm以下、好ましくは300nm以上1000n
m以下とする。化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物絶縁膜65を
厚くすることで、化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物絶縁膜65
の酸素分子の放出量を増加させることができると共に、酸化物絶縁膜67及び酸化物半導
体膜55の界面における界面準位を低減することが可能である。
【0441】
化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物絶縁膜65の形成方法とし
ては、保護膜53で説明した加熱により酸素の一部が脱離する酸化物絶縁膜を適宜用いる
ことができる。
【0442】
また、酸化物絶縁膜67は、トランジスタ50に含まれる保護膜53及びゲート絶縁膜
59に列挙した、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜の形成方法を用いること
ができる。
【0443】
なお、化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物絶縁膜65及び酸化
物絶縁膜67を形成し、酸化物絶縁膜67上に酸化物半導体膜55を形成したのち、加熱
処理を行ってもよい。当該加熱処理により、化学量論的組成を満たす酸素よりも多くの酸
素を含む酸化物絶縁膜65に含まれる酸素の一部を、酸化物絶縁膜67及び酸化物半導体
膜55の界面近傍に拡散させることができる。この結果、酸化物絶縁膜67及び酸化物半
導体膜55の界面近傍における界面準位を低減することが可能であり、しきい値電圧の変
動を低減できる。
【0444】
加熱処理の温度は、代表的には、150℃以上基板歪み点未満、好ましくは250℃以
上450℃以下、更に好ましくは300℃以上450℃以下とする。
【0445】
加熱処理は、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、クリプトン等の希ガス、または
窒素を含む不活性ガス雰囲気で行う。または、不活性ガス雰囲気で加熱した後、酸素雰囲
気で加熱してもよい。なお、上記不活性雰囲気及び酸素雰囲気に水素、水などが含まれな
いことが好ましい。処理時間は3分以上24時間以下とする。
【0446】
図40(B)に示すトランジスタ50bは、ゲート絶縁膜59が、酸化物絶縁膜69及
び窒化物絶縁膜71が順に積層されており、酸化物半導体膜55に接する該酸化物絶縁膜
69は、窒素を含み、且つ欠陥量の少ない酸化物絶縁膜であることを特徴とする。
【0447】
窒化物絶縁膜71としては、実施の形態1の変形例1に示す窒化物絶縁膜29と同様の
膜を用いることが好ましい。この結果、ゲート絶縁膜59を物理的に厚膜化することがで
きる。よって、トランジスタ50bの絶縁耐圧の低下を抑制、さらには絶縁耐圧を向上さ
せて、半導体装置の静電破壊を抑制することができる。
【0448】
<変形例2>
実施の形態4に示すトランジスタ50の変形例について、
図41を用いて説明する。本
変形例で説明するトランジスタは、一対の電極とゲート絶縁膜の間に酸化物半導体膜を有
する例について説明する。
【0449】
図41(A)乃至
図41(C)は、本発明の一態様の半導体装置が有するトランジスタ
50cの上面図及び断面図である。
図41(A)は上面図であり、
図41(B)は
図41
(A)中の一点破線A-Bにおける断面概略図を示し、
図41(C)は
図41(A)中の
一点破線C-Dにおける断面概略図を示す。
【0450】
図41(B)及び
図41(C)に示すトランジスタ50cは、保護膜53上に形成され
る酸化物半導体膜73と、酸化物半導体膜73上に形成される酸化物半導体膜55と、酸
化物半導体膜55及び酸化物半導体膜73に接する一対の電極57、58と、酸化物半導
体膜55及び一対の電極57、58に接する酸化物半導体膜75と、酸化物半導体膜75
上に形成されるゲート絶縁膜59と、ゲート絶縁膜59を介して酸化物半導体膜55と重
なるゲート電極61とを有する。また、保護膜53、一対の電極57、58、酸化物半導
体膜75、ゲート絶縁膜59、及びゲート電極61上に、絶縁膜63が形成されてもよい
。
【0451】
トランジスタ50cにおいて、保護膜53は凸部を有し、保護膜53の凸部上に、積層
された酸化物半導体膜73及び酸化物半導体膜55が設けられる。
【0452】
酸化物半導体膜75は、
図41(B)に示すように、酸化物半導体膜55の上面、及び
一対の電極57、58の上面及び側面において接し、
図41(C)に示すように、保護膜
53の凸部の側面、酸化物半導体膜73の側面、酸化物半導体膜55の側面及び上面にお
いて接する。
【0453】
図41(C)に示すように、トランジスタ50cのチャネル幅方向において、ゲート電
極61は、酸化物半導体膜75及びゲート絶縁膜59を介して酸化物半導体膜55の上面
及び側面に面する。
【0454】
ゲート電極61は、酸化物半導体膜55を電気的に取り囲む。この構造により、トラン
ジスタ50cのオン電流を増大させることができる。このようなトランジスタの構造を、
Surrounded Channel(S-Channel)構造とよぶ。なお、S-
Channel構造では、電流は酸化物半導体膜55の全体(バルク)を流れる。酸化物
半導体膜55の内部を電流が流れることで、界面散乱の影響を受けにくいため、高いオン
電流を得ることができる。なお、酸化物半導体膜55を厚くすると、オン電流を向上させ
ることができる。
【0455】
また、トランジスタのチャネル長及びチャネル幅を微細化するとき、レジストマスクを
後退させながら一対の電極や酸化物半導体膜等を形成すると、一対の電極や酸化物半導体
膜の端部が丸みを帯びる(曲面を有する)場合がある。このような構成により、酸化物半
導体膜55上に形成される酸化物半導体膜75及びゲート絶縁膜59の被覆性を向上させ
ることができる。また、一対の電極57,58の端部に生じる恐れのある電界集中を緩和
することができ、トランジスタの劣化を抑制することができる。
【0456】
また、トランジスタを微細化することで、集積度を高め、高密度化することができる。
例えば、トランジスタのチャネル長を100nm以下、好ましくは40nm以下、さらに
好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下とし、かつ、トランジスタのチャ
ネル幅を100nm以下、好ましくは40nm以下、さらに好ましくは30nm以下、よ
り好ましくは20nm以下とする。本発明の一態様に係るトランジスタは、チャネル幅が
上記のように縮小していても、S-channel構造を有することでオン電流を高める
ことができる。
【0457】
なお、酸化物半導体膜73は、実施の形態1の変形例4に示す酸化物半導体膜46の材
料を適宜用いることができる。また、
図39(A)において、酸化物半導体膜55となる
膜を成膜する前に、酸化物半導体膜73となる膜を形成する。次に、酸化物半導体膜73
となる膜及び酸化物半導体膜55となる膜を加工することで、酸化物半導体膜73及び酸
化物半導体膜55を形成することができる。
【0458】
酸化物半導体膜75は、実施の形態1の変形例4に示す酸化物半導体膜47の材料を適
宜用いることができる。また、
図39(C)において、ゲート絶縁膜59となる膜を成膜
する前に、酸化物半導体膜75となる膜を形成する。次に、ゲート絶縁膜59となる膜及
びゲート電極61となる膜を形成した後、それぞれを同時に加工することで、酸化物半導
体膜75、ゲート絶縁膜59、及びゲート電極61を形成することができる。
【0459】
また、酸化物半導体膜73は、酸化物半導体膜55の界面準位の生成を抑制する効果が
失われない程度の厚さであればよい。例えば、酸化物半導体膜55は、酸化物半導体膜7
3の厚さに対して、1倍よりも大きく、好ましくは2倍以上、より好ましくは4倍以上、
より好ましくは6倍以上の厚さである領域を有すればよい。なお、トランジスタのオン電
流を増大させる必要のない場合にはその限りではなく、酸化物半導体膜73は、酸化物半
導体膜55の厚さ以上の厚さである領域を有してもよい。
【0460】
また、酸化物半導体膜75も酸化物半導体膜73と同様に、酸化物半導体膜55の界面
準位の生成を抑制する効果が失われない程度の厚さである領域を有すればよい。例えば、
酸化物半導体膜73と同等またはそれ以下の厚さである領域を有すればよい。酸化物半導
体膜75が厚いと、ゲート電極61による電界が酸化物半導体膜55に届きにくくなる恐
れがあるため、酸化物半導体膜75は薄く形成することが好ましい。例えば、酸化物半導
体膜55の厚さよりも薄い領域を有すればよい。なおこれに限られず、酸化物半導体膜7
5の厚さはゲート絶縁膜59の耐圧を考慮して、トランジスタを駆動させる電圧に応じて
適宜設定すればよい。
【0461】
半導体装置を高集積化するにはトランジスタの微細化が必須である。一方、トランジス
タの微細化によりトランジスタの電気特性が悪化することが知られており、チャネル幅が
縮小するとオン電流が低下する。
【0462】
しかしながら、本発明の一態様のトランジスタでは、前述したように、酸化物半導体膜
55のチャネルが形成される領域を覆うように酸化物半導体膜75が形成されており、チ
ャネル領域とゲート絶縁膜59が接しない構成となっている。そのため、酸化物半導体膜
55とゲート絶縁膜59との界面で生じるキャリアの散乱を抑えることができ、トランジ
スタのオン電流を高くすることができる。
【0463】
また、酸化物半導体膜を真性または実質的に真性とすると、酸化物半導体膜に含まれる
キャリア数の減少により、電界効果移動度の低下が懸念される。しかしながら、本発明の
一態様のトランジスタにおいては、酸化物半導体膜55に垂直方向からのゲート電界に加
えて、側面方向からのゲート電界が印加される。すなわち、酸化物半導体膜55の全体的
にゲート電界が印加させることとなり、電流は酸化物半導体膜のバルクを流れる。これに
よって、高純度真性化による、電気特性の変動の抑制を達成しつつ、トランジスタの電界
効果移動度の向上を図ることが可能となる。
【0464】
また、本発明の一態様のトランジスタは、酸化物半導体膜55を酸化物半導体膜73上
に形成することで界面準位を形成しにくくする効果や、酸化物半導体膜55を酸化物半導
体膜73、75の間に設けることで、上下からの不純物混入の影響を排除できる効果など
を併せて有する。そのため、酸化物半導体膜55は、酸化物半導体膜73と酸化物半導体
膜75で取り囲まれた構造(また、ゲート電極61で電気的に取り囲まれた構造)となり
、上述したトランジスタのオン電流の向上に加えて、しきい値電圧の安定化が可能である
。したがって、ゲート電極の電圧が0Vにおいてソース及びドレインの間を流れる電流を
下げることができ、消費電力を低減させることができる。また、トランジスタのしきい値
電圧が安定化することから、半導体装置の長期信頼性を向上させることができる。
【0465】
なお、本実施の形態に示す構成及び方法などは、他の実施の形態及び実施例に示す構成
及び方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【0466】
(実施の形態5)
本実施の形態では、上記実施の形態で説明した半導体装置に含まれているトランジスタ
において、酸化物半導体膜に適用可能な一態様について説明する。
【0467】
酸化物半導体膜は、単結晶構造の酸化物半導体(以下、単結晶酸化物半導体という。)
、多結晶構造の酸化物半導体(以下、多結晶酸化物半導体という。)、微結晶構造の酸化
物半導体(以下、微結晶酸化物半導体という。)、及び非晶質構造の酸化物半導体(以下
、非晶質酸化物半導体という。)の一以上で構成されてもよい。また、酸化物半導体膜は
、CAAC-OS膜で構成されていてもよい。また、酸化物半導体膜は、非晶質酸化物半
導体及び結晶粒を有する酸化物半導体で構成されていてもよい。
【0468】
酸化物半導体は、例えば、非単結晶酸化物半導体と単結晶酸化物半導体とに分けられる
。または、酸化物半導体は、例えば、結晶性酸化物半導体と非晶質酸化物半導体とに分け
られる。
【0469】
なお、非単結晶酸化物半導体としては、CAAC-OS(C Axis Aligne
d Crystalline Oxide Semiconductor)、多結晶酸化
物半導体、微結晶酸化物半導体、非晶質酸化物半導体などがある。また、結晶性酸化物半
導体としては、単結晶酸化物半導体、CAAC-OS、多結晶酸化物半導体、微結晶酸化
物半導体などがある。
【0470】
以下に、CAAC-OS、微結晶酸化物半導体、及び非晶質酸化物半導体について説明
する。
【0471】
まずは、CAAC-OSについて説明する。
【0472】
CAAC-OSは、c軸配向した複数の結晶部(ペレットともいう。)を有する酸化物
半導体の一つである。
【0473】
CAAC-OSを透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Elect
ron Microscope)によって観察すると、明確な結晶部同士の境界、即ち結
晶粒界(グレインバウンダリーともいう。)を確認することができない。そのため、CA
AC-OSは、結晶粒界に起因する電子移動度の低下が起こりにくいといえる。
【0474】
例えば、
図73(A)に示すように、試料面と概略平行な方向から、CAAC-OSの
断面の高分解能TEM像を観察する。ここでは、球面収差補正(Spherical A
berration Corrector)機能を用いてTEM像を観察する。なお、球
面収差補正機能を用いた高分解能TEM像を、以下では、特にCs補正高分解能TEM像
と呼ぶ。なお、Cs補正高分解能TEM像の取得は、例えば、日本電子株式会社製原子分
解能分析電子顕微鏡JEM-ARM200Fなどによって行うことができる。
【0475】
図73(A)の領域(1)を拡大したCs補正高分解能TEM像を
図73(B)に示す
。
図73(B)より、結晶部において、金属原子が層状に配列していることを確認できる
。金属原子の各層は、CAAC-OSの膜を形成する面(被形成面ともいう。)または上
面の凹凸を反映した形状であり、CAAC-OSの被形成面または上面と平行に配列する
。
【0476】
図73(B)において、CAAC-OSは特徴的な原子配列を有する。
図73(C)は
、特徴的な原子配列を、補助線で示したものである。
図73(B)および
図73(C)よ
り、ペレット一つの大きさは1nm以上3nm以下程度であり、ペレットとペレットとの
傾きにより生じる隙間の大きさは0.8nm程度であることがわかる。したがって、ペレ
ットを、ナノ結晶(nc:nanocrystal)と呼ぶこともできる。
【0477】
ここで、Cs補正高分解能TEM像から、基板5120上のCAAC-OSのペレット
5100の配置を模式的に示すと、レンガまたはブロックが積み重なったような構造とな
る(
図73(D)参照。)。
図73(C)で観察されたペレットとペレットとの間で傾き
が生じている箇所は、
図73(D)に示す領域5161に相当する。
【0478】
また、例えば、
図74(A)に示すように、試料面と概略垂直な方向から、CAAC-
OSの平面のCs補正高分解能TEM像を観察する。
図74(A)の領域(1)、領域(
2)および領域(3)を拡大したCs補正高分解能TEM像を、それぞれ
図74(B)、
図74(C)および
図74(D)に示す。
図74(B)、
図74(C)および
図74(D
)より、結晶部において、金属原子が、三角形状、四角形状または六角形状に配列してい
ることを確認できる。しかしながら、異なる結晶部間で、金属原子の配列に規則性は見ら
れない。
【0479】
図70(A)は、CAAC-OSの断面の高分解能TEM像である。また、
図70(B
)は、
図70(A)をさらに拡大した断面の高分解能TEM像であり、理解を容易にする
ために原子配列を強調表示している。
【0480】
図70(C)は、
図70(A)のA-O-A’間において、丸で囲んだ領域(直径約4
nm)の局所的なフーリエ変換像である。
図70(C)より、各領域においてc軸配向性
が確認できる。また、A-O間とO-A’間とでは、c軸の向きが異なるため、異なるグ
レインであることが示唆される。また、A-O間では、c軸の角度が14.3°、16.
6°、26.4°のように少しずつ連続的に変化していることがわかる。同様に、O-A
’間では、c軸の角度が-18.3°、-17.6°、-15.9°と少しずつ連続的に
変化していることがわかる。
【0481】
なお、CAAC-OSに対し、電子回折を行うと、配向性を示すスポット(輝点)が観
測される。例えば、CAAC-OSの上面に対し、例えば1nm以上30nm以下の電子
線を用いる電子回折(ナノビーム電子回折ともいう。)を行うと、スポットが観測される
(
図71(A)参照。)。
【0482】
断面の高分解能TEM像および平面の高分解能TEM像より、CAAC-OSの結晶部
は配向性を有していることがわかる。
【0483】
なお、CAAC-OSに含まれるほとんどの結晶部は、一辺が100nm未満の立方体
内に収まる大きさである。従って、CAAC-OSに含まれる結晶部は、一辺が10nm
未満、5nm未満または3nm未満の立方体内に収まる大きさの場合も含まれる。ただし
、CAAC-OSに含まれる複数の結晶部が連結することで、一つの大きな結晶領域を形
成する場合がある。例えば、平面の高分解能TEM像において、2500nm2以上、5
μm2以上または1000μm2以上となる結晶領域が観察される場合がある。
【0484】
例えば、InGaZnO
4の結晶を有するCAAC-OSに対し、X線回折(XRD:
X-Ray Diffraction)装置を用いてout-of-plane法による
解析を行うと、
図75(A)に示すように、回折角(2θ)が31°近傍にピークが現れ
る場合がある。このピークは、InGaZnO
4の結晶の(009)面に帰属されること
から、CAAC-OSの結晶がc軸配向性を有し、c軸が被形成面または上面に概略垂直
な方向を向いていることが確認できる。
【0485】
なお、InGaZnO4の結晶を有するCAAC-OSのout-of-plane法
による構造解析では、2θが31°近傍のピークの他に、2θが36°近傍にもピークが
現れる場合がある。2θが36°近傍のピークは、CAAC-OS中の一部に、c軸配向
性を有さない結晶が含まれることを示している。CAAC-OSは、2θが31°近傍に
ピークを示し、2θが36°近傍にピークを示さないことが好ましい。
【0486】
一方、CAAC-OSに対し、c軸に概略垂直な方向からX線を入射させるin-pl
ane法による解析を行うと、2θが56°近傍にピークが現れる。このピークは、In
GaZnO
4の結晶の(110)面に帰属される。CAAC-OSの場合は、2θを56
°近傍に固定し、試料面の法線ベクトルを軸(φ軸)として試料を回転させながら分析(
φスキャン)を行っても、
図75(B)に示すように明瞭なピークは現れない。これに対
し、InGaZnO
4の単結晶酸化物半導体であれば、2θを56°近傍に固定してφス
キャンした場合、
図75(C)に示すように、(110)面と等価な結晶面に帰属される
ピークが6本観察される。したがって、XRDを用いた構造解析から、CAAC-OSは
、a軸およびb軸の配向が不規則であることが確認できる。
【0487】
次に、CAAC-OSであるIn-Ga-Zn酸化物に対し、試料面に平行な方向から
プローブ径が300nmの電子線を入射させたときの回折パターン(制限視野透過電子回
折パターンともいう。)を
図76(A)に示す。
図76(A)より、例えば、InGaZ
nO
4の結晶の(009)面に起因するスポットが確認される。したがって、電子回折に
よっても、CAAC-OSに含まれるペレットがc軸配向性を有し、c軸が被形成面また
は上面に略垂直な方向を向いていることがわかる。一方、同じ試料に対し、試料面に垂直
な方向からプローブ径が300nmの電子線を入射させたときの回折パターンを
図76(
B)に示す。
図76(B)より、リング状の回折パターンが確認される。したがって、電
子回折によっても、CAAC-OSに含まれるペレットのa軸およびb軸は配向性を有さ
ないことがわかる。なお、
図76(B)における第1リングは、InGaZnO
4の結晶
の(010)面および(100)面などに起因すると考えられる。また、
図76(B)に
おける第2リングは(110)面などに起因すると考えられる。
【0488】
このように、それぞれのペレット(ナノ結晶)のc軸が、被形成面または上面に略垂直
な方向を向いていることから、CAAC-OSをCANC(C-Axis Aligne
d nanocrystals)を有する酸化物半導体と呼ぶこともできる。
【0489】
以上のことから、CAAC-OSでは、異なる結晶部間ではa軸およびb軸の配向は不
規則であるが、c軸配向性を有し、かつc軸が被形成面または上面の法線ベクトルに平行
な方向を向いていることがわかる。従って、前述の断面の高分解能TEM像で確認された
層状に配列した金属原子の各層は、結晶のab面に平行な面である。
【0490】
なお、結晶部は、CAAC-OSを成膜した際、または加熱処理などの結晶化処理を行
った際に形成される。上述したように、結晶のc軸は、CAAC-OSの被形成面または
上面の法線ベクトルに平行な方向に配向する。従って、例えば、CAAC-OSの形状を
エッチングなどによって変化させた場合、結晶のc軸がCAAC-OSの被形成面または
上面の法線ベクトルと平行にならないこともある。
【0491】
また、CAAC-OS中において、c軸配向した結晶部の分布が均一でなくてもよい。
例えば、CAAC-OSの結晶部が、CAAC-OSの上面近傍からの結晶成長によって
形成される場合、上面近傍の領域は、被形成面近傍の領域よりもc軸配向した結晶部の割
合が高くなることがある。また、不純物の添加されたCAAC-OSは、不純物が添加さ
れた領域が変質し、部分的にc軸配向した結晶部の割合の異なる領域が形成されることも
ある。
【0492】
CAAC-OSは、不純物濃度の低い酸化物半導体である。不純物は、水素、炭素、シ
リコン、遷移金属元素などの酸化物半導体の主成分以外の元素である。特に、シリコンな
どの、酸化物半導体を構成する金属元素よりも酸素との結合力の強い元素は、酸化物半導
体から酸素を奪うことで酸化物半導体の原子配列を乱し、結晶性を低下させる要因となる
。また、鉄やニッケルなどの重金属、アルゴン、二酸化炭素などは、原子半径(または分
子半径)が大きいため、酸化物半導体内部に含まれると、酸化物半導体の原子配列を乱し
、結晶性を低下させる要因となる。なお、酸化物半導体に含まれる不純物は、キャリアト
ラップやキャリア発生源となる場合がある。
【0493】
また、CAAC-OSは、欠陥準位密度の低い酸化物半導体である。例えば、酸化物半
導体中の酸素欠損は、キャリアトラップとなることや、水素を捕獲することによってキャ
リア発生源となることがある。
【0494】
また、CAAC-OSを用いたトランジスタは、可視光や紫外光の照射による電気特性
の変動が小さい。
【0495】
また、CAAC-OSを用いたトランジスタを有する半導体装置は折り曲げても壊れに
くい。このため、可撓性を有する半導体装置にCAAC-OSを用いたトランジスタを用
いることが好ましい。
【0496】
次に、微結晶酸化物半導体について説明する。
【0497】
微結晶酸化物半導体は、高分解能TEM像において、結晶部を確認することのできる領
域と、明確な結晶部を確認することのできない領域と、を有する。微結晶酸化物半導体に
含まれる結晶部は、1nm以上100nm以下、または1nm以上10nm以下の大きさ
であることが多い。特に、1nm以上10nm以下、または1nm以上3nm以下の微結
晶であるナノ結晶を有する酸化物半導体を、nc-OS(nanocrystallin
e Oxide Semiconductor)とよぶ。また、nc-OSは、例えば、
高分解能TEM像では、結晶粒界を明確に確認できない場合がある。なお、ナノ結晶は、
CAAC-OSにおけるペレットと同じ起源を有する可能性がある。そのため、以下では
nc-OSの結晶部をペレットと呼ぶ場合がある。
【0498】
nc-OSは、微小な領域(例えば、1nm以上10nm以下の領域、特に1nm以上
3nm以下の領域)において原子配列に周期性を有する。また、nc-OSは、異なる結
晶部間で結晶方位に規則性が見られない。そのため、膜全体で配向性が見られない。従っ
て、nc-OSは、分析方法によっては、非晶質酸化物半導体と区別が付かない場合があ
る。例えば、nc-OSに対し、結晶部よりも大きい径のX線を用いるXRD装置を用い
て構造解析を行うと、out-of-plane法による解析では、結晶面を示すピーク
が検出されない。また、nc-OSに対し、結晶部よりも大きいプローブ径(例えば50
nm以上)の電子線を用いる電子回折(制限視野電子回折ともいう。)を行うと、ハロー
パターンのような回折パターンが観測される。一方、nc-OSに対し、結晶部の大きさ
と近いか結晶部より小さいプローブ径の電子線を用いるナノビーム電子回折を行うと、ス
ポットが観測される。また、nc-OSに対しナノビーム電子回折を行うと、円を描くよ
うに(リング状に)輝度の高い領域が観測される場合がある。また、nc-OSに対しナ
ノビーム電子回折を行うと、リング状の領域内に複数のスポットが観測される場合がある
(
図71(B)参照。)。
【0499】
このように、それぞれのペレット(ナノ結晶)の結晶方位が規則性を有さないことから
、nc-OSをNANC(Non-Aligned nanocrystals)を有す
る酸化物半導体と呼ぶこともできる。
【0500】
nc-OSは、非晶質酸化物半導体よりも規則性の高い酸化物半導体である。そのため
、nc-OSは、非晶質酸化物半導体よりも欠陥準位密度が低くなる。ただし、nc-O
Sは、異なる結晶部間で結晶方位に規則性が見られない。そのため、nc-OSは、CA
AC-OSと比べて欠陥準位密度が高くなる。
【0501】
なお、酸化物半導体は、例えば、非晶質酸化物半導体、微結晶酸化物半導体、CAAC
-OSのうち、二種以上を有する積層膜であってもよい。
【0502】
酸化物半導体膜が複数の構造を有する場合、ナノビーム電子回折を用いることで構造解
析が可能となる場合がある。
【0503】
図71(C)に、電子銃室310と、電子銃室310の下の光学系312と、光学系3
12の下の試料室314と、試料室314の下の光学系316と、光学系316の下の観
察室320と、観察室320に設置されたカメラ318と、観察室320の下のフィルム
室322と、を有する透過電子回折測定装置を示す。カメラ318は、観察室320内部
に向けて設置される。なお、フィルム室322を有さなくても構わない。
【0504】
また、
図71(D)に、
図71(C)で示した透過電子回折測定装置内部の構造を示す
。透過電子回折測定装置内部では、電子銃室310に設置された電子銃から放出された電
子が、光学系312を介して試料室314に配置された物質328に照射される。物質3
28を通過した電子は、光学系316を介して観察室320内部に設置された蛍光板33
2に入射する。蛍光板332では、入射した電子の強度に応じたパターンが現れることで
透過電子回折パターンを測定することができる。
【0505】
カメラ318は、蛍光板332を向いて設置されており、蛍光板332に現れたパター
ンを撮影することが可能である。カメラ318のレンズの中央、および蛍光板332の中
央を通る直線と、蛍光板332の上面と、の為す角度は、例えば、15°以上80°以下
、30°以上75°以下、または45°以上70°以下とする。該角度が小さいほど、カ
メラ318で撮影される透過電子回折パターンは歪みが大きくなる。ただし、あらかじめ
該角度がわかっていれば、得られた透過電子回折パターンの歪みを補正することも可能で
ある。なお、カメラ318をフィルム室322に設置しても構わない場合がある。例えば
、カメラ318をフィルム室322に、電子324の入射方向と対向するように設置して
もよい。この場合、蛍光板332の裏面から歪みの少ない透過電子回折パターンを撮影す
ることができる。
【0506】
試料室314には、試料である物質328を固定するためのホルダが設置されている。
ホルダは、物質328を通過する電子を透過するような構造をしている。ホルダは、例え
ば、物質328をX軸、Y軸、Z軸などに移動させる機能を有していてもよい。ホルダの
移動機能は、例えば、1nm以上10nm以下、5nm以上50nm以下、10nm以上
100nm以下、50nm以上500nm以下、100nm以上1μm以下などの範囲で
移動させる精度を有すればよい。これらの範囲は、物質328の構造によって最適な範囲
を設定すればよい。
【0507】
次に、上述した透過電子回折測定装置を用いて、物質の透過電子回折パターンを測定す
る方法について説明する。
【0508】
例えば、
図71(D)に示すように物質におけるナノビームである電子324の照射位
置を変化させる(スキャンする)ことで、物質の構造が変化していく様子を確認すること
ができる。このとき、物質328がCAAC-OS膜であれば、
図71(A)に示したよ
うな回折パターンが観測される。または、物質328がnc-OS膜であれば、
図71(
B)に示したような回折パターンが観測される。
【0509】
ところで、物質328がCAAC-OS膜であったとしても、部分的にnc-OS膜な
どと同様の回折パターンが観測される場合がある。したがって、CAAC-OS膜の良否
は、一定の範囲におけるCAAC-OS膜の回折パターンが観測される領域の割合(CA
AC化率ともいう。)で表すことができる場合がある。例えば、良質なCAAC-OS膜
であれば、CAAC化率は、50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90
%以上、より好ましくは95%以上となる。なお、CAAC-OS膜と異なる回折パター
ンが観測される領域を非CAAC化率と表記する。
【0510】
一例として、成膜直後(as-sputteredと表記。)、または酸素を含む雰囲
気における450℃加熱処理後のCAAC-OS膜を有する各試料の上面に対し、スキャ
ンしながら透過電子回折パターンを取得した。ここでは、5nm/秒の速度で60秒間ス
キャンしながら回折パターンを観測し、観測された回折パターンを0.5秒ごとに静止画
に変換することで、CAAC化率を導出した。なお、電子線としては、プローブ径が1n
mのナノビーム電子線を用いた。なお、同様の測定は6試料に対して行った。そしてCA
AC化率の算出には、6試料における平均値を用いた。
【0511】
各試料におけるCAAC化率を
図72(A)に示す。成膜直後のCAAC-OS膜のC
AAC化率は75.7%(非CAAC化率は24.3%)であった。また、450℃加熱
処理後のCAAC-OS膜のCAAC化率は85.3%(非CAAC化率は14.7%)
であった。成膜直後と比べて、450℃加熱処理後のCAAC化率が高いことがわかる。
即ち、高い温度(例えば400℃以上)における加熱処理によって、非CAAC化率が低
くなる(CAAC化率が高くなる)ことがわかる。また、500℃未満の加熱処理におい
ても高いCAAC化率を有するCAAC-OS膜が得られることがわかる。
【0512】
ここで、CAAC-OS膜と異なる回折パターンのほとんどはnc-OS膜と同様の回
折パターンであった。また、測定領域において非晶質酸化物半導体膜は、確認することが
できなかった。したがって、加熱処理によって、nc-OS膜と同様の構造を有する領域
が、隣接する領域の構造の影響を受けて再配列し、CAAC化していることが示唆される
。
【0513】
図72(B)および
図72(C)は、成膜直後および450℃加熱処理後のCAAC-
OS膜の平面の高分解能TEM像である。
図72(B)と
図72(C)とを比較すること
により、450℃加熱処理後のCAAC-OS膜は、膜質がより均質であることがわかる
。即ち、高い温度における加熱処理によって、CAAC-OS膜の膜質が向上することが
わかる。
【0514】
このような測定方法を用いれば、複数の構造を有する酸化物半導体膜の構造解析が可能
となる場合がある。
【0515】
次に、非晶質酸化物半導体について説明する。
【0516】
非晶質酸化物半導体は、膜中における原子配列が不規則であり、結晶部を有さない酸化
物半導体である。石英のような無定形状態を有する酸化物半導体が一例である。
【0517】
非晶質酸化物半導体は、高分解能TEM像において結晶部を確認することができない。
【0518】
非晶質酸化物半導体に対し、XRD装置を用いた構造解析を行うと、out-of-p
lane法による解析では、結晶面を示すピークが検出されない。また、非晶質酸化物半
導体に対し、電子回折を行うと、ハローパターンが観測される。また、非晶質酸化物半導
体に対し、ナノビーム電子回折を行うと、スポットが観測されず、ハローパターンが観測
される。
【0519】
非晶質構造については、様々な見解が示されている。例えば、原子配列に全く秩序性を
有さない構造を完全な非晶質構造(completely amorphous str
ucture)と呼ぶ場合がある。また、最近接原子間距離または第2近接原子間距離ま
で秩序性を有し、かつ長距離秩序性を有さない構造を非晶質構造と呼ぶ場合もある。した
がって、最も厳格な定義によれば、僅かでも原子配列に秩序性を有する酸化物半導体を非
晶質酸化物半導体と呼ぶことはできない。また、少なくとも、長距離秩序性を有する酸化
物半導体を非晶質酸化物半導体と呼ぶことはできない。よって、結晶部を有することから
、例えば、CAAC-OSおよびnc-OSを、非晶質酸化物半導体または完全な非晶質
酸化物半導体と呼ぶことはできない。
【0520】
なお、酸化物半導体は、nc-OSと非晶質酸化物半導体との間の物性を示す構造を有
する場合がある。そのような構造を有する酸化物半導体を、特に非晶質ライク酸化物半導
体(a-like OS:amorphous-like Oxide Semicon
ductor)と呼ぶ。
【0521】
a-like OSは、高分解能TEM像において鬆(ボイドともいう。)が観察され
る場合がある。また、高分解能TEM像において、明確に結晶部を確認することのできる
領域と、結晶部を確認することのできない領域と、を有する。
【0522】
以下では、酸化物半導体の構造による電子照射の影響の違いについて説明する。
【0523】
a-like OS、nc-OSおよびCAAC-OSを準備する。いずれの試料もI
n-Ga-Zn酸化物である。
【0524】
まず、各試料の高分解能断面TEM像を取得する。高分解能断面TEM像により、各試
料は、いずれも結晶部を有することがわかる。
【0525】
さらに、各試料の結晶部の大きさを計測する。
図77は、各試料の結晶部(22箇所か
ら45箇所)の平均の大きさの変化を調査した例である。試料Aはa-like OSを
有し、試料Bはnc-OSを有し、試料CはCAAC-OSを有する。
図77より、a-
like OSは、電子の累積照射量に応じて結晶部が大きくなっていくことがわかる。
具体的には、
図77中に(1)で示すように、TEMによる観察初期においては1.2n
m程度の大きさだった結晶部が、累積照射量が4.2×10
8e
-/nm
2においては2
.6nm程度の大きさまで成長していることがわかる。一方、nc-OSおよびCAAC
-OSは、電子照射開始時から電子の累積照射量が4.2×10
8e
-/nm
2になるま
での範囲で、電子の累積照射量によらず結晶部の大きさに変化が見られないことがわかる
。具体的には、
図77中の(2)で示すように、TEMによる観察の経過によらず、結晶
部の大きさは1.4nm程度であることがわかる。また、
図77中の(3)で示すように
、TEMによる観察の経過によらず、結晶部の大きさは2.1nm程度であることがわか
る。
【0526】
このように、a-like OSは、TEMによる観察程度の微量な電子照射によって
、結晶化が起こり、結晶部の成長が見られる場合がある。一方、良質なnc-OS、およ
びCAAC-OSであれば、TEMによる観察程度の微量な電子照射による結晶化はほと
んど見られないことがわかる。
【0527】
なお、a-like OSおよびnc-OSの結晶部の大きさの計測は、高分解能TE
M像を用いて行うことができる。例えば、InGaZnO4の結晶は層状構造を有し、I
n-O層の間に、Ga-Zn-O層を2層有する。InGaZnO4の結晶の単位格子は
、In-O層を3層有し、またGa-Zn-O層を6層有する、計9層がc軸方向に層状
に重なった構造を有する。よって、これらの近接する層同士の間隔は、(009)面の格
子面間隔(d値ともいう。)と同程度であり、結晶構造解析からその値は0.29nmと
求められている。そのため、高分解能TEM像における格子縞に着目し、格子縞の間隔が
0.28nm以上0.30nm以下である箇所においては、それぞれの格子縞がInGa
ZnO4の結晶のa-b面に対応する。
【0528】
また、酸化物半導体は、構造ごとに密度が異なる場合がある。例えば、ある酸化物半導
体の組成がわかれば、該組成と同じ組成における単結晶の密度と比較することにより、そ
の酸化物半導体の構造を推定することができる。例えば、単結晶の密度に対し、a-li
ke OSの密度は78.6%以上92.3%未満となる。また、例えば、単結晶の密度
に対し、nc-OSの密度およびCAAC-OSの密度は92.3%以上100%未満と
なる。なお、単結晶の密度に対し密度が78%未満となる酸化物半導体は、成膜すること
自体が困難である。
【0529】
上記について、具体例を用いて説明する。例えば、In:Ga:Zn=1:1:1[原
子数比]を満たす酸化物半導体において、菱面体晶構造を有する単結晶InGaZnO4
の密度は6.357g/cm3となる。よって、例えば、In:Ga:Zn=1:1:1
[原子数比]を満たす酸化物半導体において、a-like OSの密度は5.0g/c
m3以上5.9g/cm3未満となる。また、例えば、In:Ga:Zn=1:1:1[
原子数比]を満たす酸化物半導体において、nc-OSの密度およびCAAC-OSの密
度は5.9g/cm3以上6.3g/cm3未満となる。
【0530】
なお、同じ組成の単結晶が存在しない場合がある。その場合、任意の割合で組成の異な
る単結晶を組み合わせることにより、所望の組成の単結晶に相当する密度を算出すること
ができる。所望の組成の単結晶の密度は、組成の異なる単結晶を組み合わせる割合に対し
て、加重平均を用いて算出すればよい。ただし、密度は、可能な限り少ない種類の単結晶
を組み合わせて算出することが好ましい。
【0531】
なお、酸化物半導体は、例えば、非晶質酸化物半導体、a-like OS、微結晶酸
化物半導体、CAAC-OSのうち、二種以上を有する積層膜であってもよい。
【0532】
不純物濃度が低く、欠陥準位密度が低い(酸素欠損が少ない)酸化物半導体は、キャリ
ア密度を低くすることができる。したがって、そのような酸化物半導体を、高純度真性ま
たは実質的に高純度真性な酸化物半導体と呼ぶ。CAAC-OSおよびnc-OSは、a
-like OSおよび非晶質酸化物半導体よりも不純物濃度が低く、欠陥準位密度が低
い。即ち、高純度真性または実質的に高純度真性な酸化物半導体となりやすい。したがっ
て、CAAC-OSまたはnc-OSを用いたトランジスタは、しきい値電圧がマイナス
となる電気特性(ノーマリーオンともいう。)になることが少ない。また、高純度真性ま
たは実質的に高純度真性な酸化物半導体は、キャリアトラップが少ない。そのため、CA
AC-OSまたはnc-OSを用いたトランジスタは、電気特性の変動が小さく、信頼性
の高いトランジスタとなる。なお、酸化物半導体のキャリアトラップに捕獲された電荷は
、放出するまでに要する時間が長く、あたかも固定電荷のように振る舞うことがある。そ
のため、不純物濃度が高く、欠陥準位密度が高い酸化物半導体を用いたトランジスタは、
電気特性が不安定となる場合がある。
【0533】
<成膜モデル>
以下では、CAAC-OSおよびnc-OSの成膜モデルの一例について説明する。
【0534】
図78(A)は、スパッタリング法によりCAAC-OSが成膜される様子を示した成
膜室内の模式図である。
【0535】
ターゲット5130は、バッキングプレートに接着されている。バッキングプレートを
介してターゲット5130と向かい合う位置には、複数のマグネットが配置される。該複
数のマグネットによって磁場が生じている。マグネットの配置や構成などについては、上
述した成膜室の記載を参照する。マグネットの磁場を利用して成膜速度を高めるスパッタ
リング法は、マグネトロンスパッタリング法と呼ばれる。
【0536】
ターゲット5130は、多結晶構造を有し、いずれかの結晶粒には劈開面が含まれる。
【0537】
一例として、In-Ga-Zn酸化物を有するターゲット5130の劈開面について説
明する。
図79(A)に、ターゲット5130に含まれるInGaZnO
4の結晶の構造
を示す。なお、
図79(A)は、c軸を上向きとし、b軸に平行な方向からInGaZn
O
4の結晶を観察した場合の構造である。
【0538】
図79(A)より、近接する二つのGa-Zn-O層において、それぞれの層における
酸素原子同士が近距離に配置されていることがわかる。そして、酸素原子が負の電荷を有
することにより、近接する二つのGa-Zn-O層は互いに反発する。その結果、InG
aZnO
4の結晶は、近接する二つのGa-Zn-O層の間に劈開面を有する。
【0539】
基板5120は、ターゲット5130と向かい合うように配置しており、その距離d(
ターゲット-基板間距離(T-S間距離)ともいう。)は0.01m以上1m以下、好ま
しくは0.02m以上0.5m以下とする。成膜室内は、ほとんどが成膜ガス(例えば、
酸素、アルゴン、または酸素を5体積%以上の割合で含む混合ガス)で満たされ、0.0
1Pa以上100Pa以下、好ましくは0.1Pa以上10Pa以下に制御される。ここ
で、ターゲット5130に一定以上の電圧を印加することで、放電が始まり、プラズマが
確認される。なお、ターゲット5130の近傍には磁場によって、高密度プラズマ領域が
形成される。高密度プラズマ領域では、成膜ガスがイオン化することで、イオン5101
が生じる。イオン5101は、例えば、酸素の陽イオン(O+)やアルゴンの陽イオン(
Ar+)などである。
【0540】
イオン5101は、電界によってターゲット5130側に加速され、やがてターゲット
5130と衝突する。このとき、劈開面から平板状またはペレット状のスパッタ粒子であ
るペレット5100aおよびペレット5100bが剥離し、叩き出される。なお、ペレッ
ト5100aおよびペレット5100bは、イオン5101の衝突の衝撃によって、構造
に歪みが生じる場合がある。
【0541】
ペレット5100aは、三角形、例えば正三角形の平面を有する平板状またはペレット
状のスパッタ粒子である。また、ペレット5100bは、六角形、例えば正六角形の平面
を有する平板状またはペレット状のスパッタ粒子である。なお、ペレット5100aおよ
びペレット5100bなどの平板状またはペレット状のスパッタ粒子を総称してペレット
5100(
図73(D)参照。)と呼ぶ。ペレット5100の平面の形状は、三角形、六
角形に限定されない、例えば、三角形が複数個合わさった形状となる場合がある。例えば
、三角形(例えば、正三角形)が2個合わさった四角形(例えば、ひし形)となる場合も
ある。
【0542】
ペレット5100は、成膜ガスの種類などに応じて厚さが決定する。理由は後述するが
、ペレット5100の厚さは、均一にすることが好ましい。また、スパッタ粒子は厚みの
ないペレット状である方が、厚みのあるサイコロ状であるよりも好ましい。例えば、ペレ
ット5100は、厚さを0.4nm以上1nm以下、好ましくは0.6nm以上0.8n
m以下とする。また、例えば、ペレット5100は、幅を1nm以上3nm以下、好まし
くは1.2nm以上2.5nm以下とする。ペレット5100は、上述の
図77中の(1
)で説明した初期核に相当する。例えば、In-Ga-Zn酸化物を有するターゲット5
130にイオン5101を衝突させる場合、
図79(B)に示すように、Ga-Zn-O
層、In-O層およびGa-Zn-O層の3層を有するペレット5100が飛び出してく
る。なお、
図79(C)は、ペレット5100をc軸に平行な方向から観察した場合の構
造である。したがって、ペレット5100は、二つのGa-Zn-O層(パン)と、In
-O層(具)と、を有するナノサイズのサンドイッチ構造と呼ぶこともできる。
【0543】
ペレット5100は、プラズマを通過する際に電荷を受け取ることで、側面が負または
正に帯電する場合がある。ペレット5100は、側面に酸素原子を有し、当該酸素原子が
負に帯電する可能性がある。このように、側面が同じ極性の電荷を帯びることにより、電
荷同士の反発が起こり、平板状の形状を維持することが可能となる。なお、CAAC-O
Sが、In-Ga-Zn酸化物である場合、インジウム原子と結合した酸素原子が負に帯
電する可能性がある。または、インジウム原子、ガリウム原子または亜鉛原子と結合した
酸素原子が負に帯電する可能性がある。また、ペレット5100は、プラズマを通過する
際にインジウム原子、ガリウム原子、亜鉛原子および酸素原子などと結合することで成長
する場合がある。これは、上述の
図77中の(2)と(1)の大きさの違いに相当する。
ここで、基板5120が室温程度である場合、ペレット5100がこれ以上成長しないた
めnc-OSとなる(
図78(B)参照。)。成膜可能な温度が室温程度であることから
、基板5120が大面積である場合でもnc-OSの成膜は可能である。なお、ペレット
5100をプラズマ中で成長させるためには、スパッタリング法における成膜電力を高く
することが有効である。成膜電力を高くすることで、ペレット5100の構造を安定にす
ることができる。
【0544】
図78(A)および
図78(B)に示すように、例えば、ペレット5100は、プラズ
マ中を凧のように飛翔し、ひらひらと基板5120上まで舞い上がっていく。ペレット5
100は電荷を帯びているため、ほかのペレット5100が既に堆積している領域が近づ
くと、斥力が生じる。ここで、基板5120の上面では、基板5120の上面に平行な向
きの磁場(水平磁場ともいう。)が生じている。また、基板5120およびターゲット5
130間には、電位差が与えられているため、基板5120からターゲット5130に向
けて電流が流れている。したがって、ペレット5100は、基板5120の上面において
、磁場および電流の作用によって、力(ローレンツ力)を受ける。このことは、フレミン
グの左手の法則によって理解できる。
【0545】
ペレット5100は、原子一つと比べると質量が大きい。そのため、基板5120の上
面を移動するためには何らかの力を外部から印加することが重要となる。その力の一つが
磁場および電流の作用で生じる力である可能性がある。なお、ペレット5100に与える
力を大きくするためには、基板5120の上面において、基板5120の上面に平行な向
きの磁場が10G以上、好ましくは20G以上、さらに好ましくは30G以上、より好ま
しくは50G以上となる領域を設けるとよい。または、基板5120の上面において、基
板5120の上面に平行な向きの磁場が、基板5120の上面に垂直な向きの磁場の1.
5倍以上、好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上と
なる領域を設けるとよい。
【0546】
このとき、マグネットまたは/および基板5120が相対的に移動すること、または回
転することによって、基板5120の上面における水平磁場の向きは変化し続ける。した
がって、基板5120の上面において、ペレット5100は、様々な方向への力を受け、
様々な方向へ移動することができる。
【0547】
また、
図78(A)に示すように基板5120が加熱されている場合、ペレット510
0と基板5120との間で摩擦などによる抵抗が小さい状態となっている。その結果、ペ
レット5100は、基板5120の上面を滑空するように移動する。ペレット5100の
移動は、平板面を基板5120に向けた状態で起こる。その後、既に堆積しているほかの
ペレット5100の側面まで到達すると、側面同士が結合する。このとき、ペレット51
00の側面にある酸素原子が脱離する。脱離した酸素原子によって、CAAC-OS中の
酸素欠損が埋まる場合があるため、欠陥準位密度の低いCAAC-OSとなる。なお、基
板5120の上面の温度は、例えば、100℃以上500℃未満、150℃以上450℃
未満、または170℃以上400℃未満とすればよい。即ち、基板5120が大面積であ
る場合でもCAAC-OSの成膜は可能である。
【0548】
また、ペレット5100が基板5120上で加熱されることにより、原子が再配列し、
イオン5101の衝突で生じた構造の歪みが緩和される。歪みの緩和されたペレット51
00は、ほぼ単結晶となる。ペレット5100がほぼ単結晶となることにより、ペレット
5100同士が結合した後に加熱されたとしても、ペレット5100自体の伸縮はほとん
ど起こり得ない。したがって、ペレット5100間の隙間が広がることで結晶粒界などの
欠陥を形成し、クレバス化することがない。
【0549】
また、CAAC-OSは、単結晶酸化物半導体が一枚板のようになっているのではなく
、ペレット5100(ナノ結晶)の集合体がレンガまたはブロックが積み重なったような
配列をしている。また、その間には結晶粒界を有さない。そのため、成膜時の加熱、成膜
後の加熱または曲げなどで、CAAC-OSに縮みなどの変形が生じた場合でも、局部応
力を緩和する、または歪みを逃がすことが可能である。したがって、可とう性を有する半
導体装置に適した構造である。なお、nc-OSは、ペレット5100(ナノ結晶)が無
秩序に積み重なったような配列となる。
【0550】
ターゲットをイオンでスパッタした際に、ペレットだけでなく、酸化亜鉛などが飛び出
す場合がある。酸化亜鉛はペレットよりも軽量であるため、先に基板5120の上面に到
達する。そして、0.1nm以上10nm以下、0.2nm以上5nm以下、または0.
5nm以上2nm以下の酸化亜鉛層5102を形成する。
図80に断面模式図を示す。
【0551】
図80(A)に示すように、酸化亜鉛層5102上にはペレット5105aと、ペレッ
ト5105bと、が堆積する。ここで、ペレット5105aとペレット5105bとは、
互いに側面が接するように配置している。また、ペレット5105cは、ペレット510
5b上に堆積した後、ペレット5105b上を滑るように移動する。また、ペレット51
05aの別の側面において、酸化亜鉛とともにターゲットから飛び出した複数の粒子51
03が基板5120の加熱により結晶化し、領域5105a1を形成する。なお、複数の
粒子5103は、酸素、亜鉛、インジウムおよびガリウムなどを含む可能性がある。
【0552】
そして、
図80(B)に示すように、領域5105a1は、ペレット5105aと同化
し、ペレット5105a2となる。また、ペレット5105cは、その側面がペレット5
105bの別の側面と接するように配置する。
【0553】
次に、
図80(C)に示すように、さらにペレット5105dがペレット5105a2
上およびペレット5105b上に堆積した後、ペレット5105a2上およびペレット5
105b上を滑るように移動する。また、ペレット5105cの別の側面に向けて、さら
にペレット5105eが酸化亜鉛層5102上を滑るように移動する。
【0554】
そして、
図80(D)に示すように、ペレット5105dは、その側面がペレット51
05a2の側面と接するように配置する。また、ペレット5105eは、その側面がペレ
ット5105cの別の側面と接するように配置する。また、ペレット5105dの別の側
面において、酸化亜鉛とともにターゲットから飛び出した複数の粒子5103が基板51
20の加熱により結晶化し、領域5105d1を形成する。
【0555】
以上のように、堆積したペレット同士が接するように配置し、ペレットの側面において
結晶成長が起こることで、基板5120上にCAAC-OSが形成される。したがって、
CAAC-OSは、nc-OSよりも一つ一つのペレットが大きくなる。これは、上述の
図77中の(3)と(2)の大きさの違いに相当する。
【0556】
また、ペレット5100の隙間が極めて小さくなることで、あたかも一つの大きなペレ
ットが形成される場合がある。大きなペレットは、単結晶構造を有する。例えば、大きな
ペレットの大きさが、上面から見て10nm以上200nm以下、15nm以上100n
m以下、または20nm以上50nm以下となる場合がある。したがって、トランジスタ
のチャネル形成領域が、大きなペレットよりも小さい場合、チャネル形成領域として単結
晶構造を有する領域を用いることができる。また、ペレットが大きくなることで、トラン
ジスタのチャネル形成領域、ソース領域およびドレイン領域として単結晶構造を有する領
域を用いることができる場合がある。
【0557】
このように、トランジスタのチャネル形成領域などが、単結晶構造を有する領域に形成
されることによって、トランジスタの周波数特性を高くすることができる場合がある。
【0558】
以上のようなモデルにより、ペレット5100が基板5120上に堆積していくと考え
られる。したがって、エピタキシャル成長とは異なり、被形成面が結晶構造を有さない場
合においても、CAAC-OSの成膜が可能であることがわかる。例えば、基板5120
の上面(被形成面)の構造が非晶質構造(例えば非晶質酸化シリコン)であっても、CA
AC-OSを成膜することは可能である。
【0559】
また、CAAC-OSは、被形成面である基板5120の上面に凹凸がある場合でも、
その形状に沿ってペレット5100が配列することがわかる。例えば、基板5120の上
面が原子レベルで平坦な場合、ペレット5100はab面と平行な平面である平板面を下
に向けて並置するため、厚さが均一で平坦、かつ高い結晶性を有する層が形成される。そ
して、当該層がn段(nは自然数。)積み重なることで、CAAC-OSを得ることがで
きる。
【0560】
一方、基板5120の上面が凹凸を有する場合でも、CAAC-OSは、ペレット51
00が凹凸に沿って並置した層がn段(nは自然数。)積み重なった構造となる。基板5
120が凹凸を有するため、CAAC-OSは、ペレット5100間に隙間が生じやすい
場合がある。ただし、ペレット5100間で分子間力が働き、凹凸があってもペレット間
の隙間はなるべく小さくなるように配列する。したがって、凹凸があっても高い結晶性を
有するCAAC-OSとすることができる。
【0561】
したがって、CAAC-OSは、レーザ結晶化が不要であり、大面積のガラス基板など
であっても均一な成膜が可能である。
【0562】
このようなモデルによってCAAC-OSが成膜されるため、スパッタ粒子が厚みのな
いペレット状である方が好ましい。なお、スパッタ粒子が厚みのあるサイコロ状である場
合、基板5120上に向ける面が一定とならず、厚さや結晶の配向を均一にできない場合
がある。
【0563】
以上に示した成膜モデルにより、非晶質構造を有する被形成面上であっても、高い結晶
性を有するCAAC-OSを得ることができる。
【0564】
なお、本実施の形態に示す構成及び方法などは、他の実施の形態及び実施例に示す構成
及び方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【0565】
(実施の形態6)
本実施の形態では、本発明の一態様の表示パネルの構成例について説明する。
【0566】
<構成例>
図42(A)は、本発明の一態様の表示パネルの上面図であり、
図42(B)は、本発
明の一態様の表示パネルの画素に液晶素子を適用する場合に用いることができる画素回路
を説明するための回路図である。また、
図42(C)は、本発明の一態様の表示パネルの
画素に有機EL素子を適用する場合に用いることができる画素回路を説明するための回路
図である。
【0567】
画素部に配置するトランジスタは、上記実施の形態に従って形成することができる。ま
た、当該トランジスタはnチャネル型とすることが容易なので、駆動回路のうち、nチャ
ネル型トランジスタで構成することができる駆動回路の一部を画素部のトランジスタと同
一基板上に形成する。このように、画素部や駆動回路に上記実施の形態に示すトランジス
タを用いることにより、信頼性の高い表示装置を提供することができる。
【0568】
アクティブマトリクス型表示装置のブロック図の一例を
図42(A)に示す。表示装置
の基板900上には、画素部901、第1の走査線駆動回路902、第2の走査線駆動回
路903、信号線駆動回路904を有する。画素部901には、複数の信号線が信号線駆
動回路904から延伸して配置され、複数の走査線が第1の走査線駆動回路902、及び
第2の走査線駆動回路903から延伸して配置されている。なお走査線と信号線との交差
領域には、各々、表示素子を有する画素がマトリクス状に設けられている。また、表示装
置の基板900はFPC(Flexible Printed Circuit)等の接
続部を介して、タイミング制御回路(コントローラ、制御ICともいう)に接続されてい
る。
【0569】
図42(A)では、第1の走査線駆動回路902、第2の走査線駆動回路903、信号
線駆動回路904は、画素部901と同じ基板900上に形成される。そのため、外部に
設ける駆動回路等の部品の数が減るので、コストの低減を図ることができる。また、基板
900外部に駆動回路を設けた場合、配線を延伸させる必要が生じ、配線間の接続数が増
える。同じ基板900上に駆動回路を設けた場合、その配線間の接続数を減らすことがで
き、信頼性の向上、又は歩留まりの向上を図ることができる。
【0570】
<液晶パネル>
また、画素の回路構成の一例を
図42(B)に示す。ここでは、VA型液晶表示パネル
の画素に適用することができる画素回路を示す。
【0571】
この画素回路は、一つの画素に複数の画素電極を有する構成に適用できる。それぞれの
画素電極は異なるトランジスタに接続され、各トランジスタは異なるゲート信号で駆動で
きるように構成されている。これにより、マルチドメイン設計された画素の個々の画素電
極に印加する信号を、独立して制御できる。
【0572】
トランジスタ916のゲート配線912と、トランジスタ917のゲート配線913に
は、異なるゲート信号を与えることができるように分離されている。一方、データ線とし
て機能するソース電極又はドレイン電極914は、トランジスタ916とトランジスタ9
17で共通に用いられている。トランジスタ916とトランジスタ917は上記実施の形
態で説明するトランジスタを適宜用いることができる。これにより、信頼性の高い液晶表
示パネルを提供することができる。
【0573】
トランジスタ916と電気的に接続する第1の画素電極と、トランジスタ917と電気
的に接続する第2の画素電極の形状について説明する。第1の画素電極と第2の画素電極
の形状は、スリットによって分離されている。第1の画素電極はV字型に広がる形状を有
し、第2の画素電極は第1の画素電極の外側を囲むように形成される。
【0574】
トランジスタ916のゲート電極はゲート配線912と接続され、トランジスタ917
のゲート電極はゲート配線913と接続されている。ゲート配線912とゲート配線91
3に異なるゲート信号を与えてトランジスタ916とトランジスタ917の動作タイミン
グを異ならせ、液晶の配向を制御できる。
【0575】
また、容量配線910と、誘電体として機能するゲート絶縁膜と、第1の画素電極また
は第2の画素電極と電気的に接続する容量電極とで保持容量を形成してもよい。
【0576】
マルチドメイン構造は、一画素に第1の液晶素子918と第2の液晶素子919を備え
る。第1の液晶素子918は第1の画素電極と対向電極とその間の液晶層とで構成され、
第2の液晶素子919は第2の画素電極と対向電極とその間の液晶層とで構成される。
【0577】
なお、
図42(B)に示す画素回路は、これに限定されない。例えば、
図42(B)に
示す画素に新たにスイッチ、抵抗素子、容量素子、トランジスタ、センサ、又は論理回路
などを追加してもよい。
【0578】
<有機ELパネル>
画素の回路構成の他の一例を
図42(C)に示す。ここでは、有機EL素子を用いた表
示パネルの画素構造を示す。
【0579】
有機EL素子は、発光素子に電圧を印加することにより、一対の電極の一方から電子が
、他方から正孔がそれぞれ発光性の有機化合物を含む層に注入され、電流が流れる。そし
て、電子および正孔が再結合することにより、発光性の有機化合物が励起状態を形成し、
その励起状態が基底状態に戻る際に発光する。このようなメカニズムから、このような発
光素子は、電流励起型の発光素子と呼ばれる。
【0580】
図42(C)は、適用可能な画素回路の一例を示す図である。ここではnチャネル型の
トランジスタを画素に用いる例を示す。また、当該画素回路は、デジタル時間階調駆動を
適用することができる。
【0581】
適用可能な画素回路の構成及びデジタル時間階調駆動を適用した場合の画素の動作につ
いて説明する。
【0582】
画素920は、スイッチング用トランジスタ921、駆動用トランジスタ922、発光
素子924及び容量素子923を有している。スイッチング用トランジスタ921は、ゲ
ート電極が走査線926に接続され、第1電極(ソース電極及びドレイン電極の一方)が
信号線925に接続され、第2電極(ソース電極及びドレイン電極の他方)が駆動用トラ
ンジスタ922のゲート電極に接続されている。駆動用トランジスタ922は、ゲート電
極が容量素子923を介して電源線927に接続され、第1電極が電源線927に接続さ
れ、第2電極が発光素子924の第1電極(画素電極)に接続されている。発光素子92
4の第2電極は共通電極928に相当する。共通電極928は、同一基板上に形成される
共通電位線と電気的に接続される。
【0583】
スイッチング用トランジスタ921および駆動用トランジスタ922は上記実施の形態
で説明するトランジスタを適宜用いることができる。これにより、信頼性の高い有機EL
表示パネルを提供することができる。
【0584】
発光素子924の第2電極(共通電極928)の電位は低電源電位に設定する。なお、
低電源電位とは、電源線927に供給される高電源電位より低い電位であり、例えばGN
D、0Vなどを低電源電位として設定することができる。発光素子924の順方向のしき
い値電圧以上となるように高電源電位と低電源電位を設定し、その電位差を発光素子92
4に印加することにより、発光素子924に電流を流して発光させる。なお、発光素子9
24の順方向電圧とは、所望の輝度とする場合の電圧を指しており、少なくとも順方向し
きい値電圧を含む。
【0585】
なお、容量素子923は駆動用トランジスタ922のゲート容量を代用することにより
省略できる。駆動用トランジスタ922のゲート容量については、半導体膜とゲート電極
との間で容量が形成されていてもよい。
【0586】
次に、駆動用トランジスタ922に入力する信号について説明する。電圧入力電圧駆動
方式の場合、駆動用トランジスタ922が十分にオンするか、オフするかの二つの状態と
なるようなビデオ信号を、駆動用トランジスタ922に入力する。なお、駆動用トランジ
スタ922を線形領域で動作させるために、電源線927の電圧よりも高い電圧を駆動用
トランジスタ922のゲート電極にかける。また、信号線925には、電源線電圧に駆動
用トランジスタ922のしきい値電圧Vthを加えた値以上の電圧をかける。
【0587】
アナログ階調駆動を行う場合、駆動用トランジスタ922のゲート電極に発光素子92
4の順方向電圧に駆動用トランジスタ922のしきい値電圧Vthを加えた値以上の電圧
をかける。なお、駆動用トランジスタ922が飽和領域で動作するようにビデオ信号を入
力し、発光素子924に電流を流す。また、駆動用トランジスタ922を飽和領域で動作
させるために、電源線927の電位を、駆動用トランジスタ922のゲート電位より高く
する。ビデオ信号をアナログとすることで、発光素子924にビデオ信号に応じた電流を
流し、アナログ階調駆動を行うことができる。
【0588】
なお、画素回路の構成は、
図42(C)に示す画素構成に限定されない。例えば、
図4
2(C)に示す画素回路にスイッチ、抵抗素子、容量素子、センサ、トランジスタ又は論
理回路などを追加してもよい。
【0589】
図42で例示した回路に上記実施の形態で例示したトランジスタを適用する場合、低電
位側にソース電極(第1の電極)、高電位側にドレイン電極(第2の電極)がそれぞれ電
気的に接続される構成とする。さらに、制御回路等により第1のゲート電極(及び第3の
ゲート電極)の電位を制御し、第2のゲート電極には図示しない配線によりソース電極に
与える電位よりも低い電位を入力可能な構成とすればよい。
【0590】
例えば、本明細書等において、表示素子、表示素子を有する装置である表示装置、発光
素子、及び発光素子を有する装置である発光装置は、様々な形態を用いること、又は様々
な素子を有することが出来る。表示素子、表示装置、発光素子又は発光装置の一例として
は、EL(エレクトロルミネッセンス)素子(有機物及び無機物を含むEL素子、有機E
L素子、無機EL素子)、LED(白色LED、赤色LED、緑色LED、青色LEDな
ど)、トランジスタ(電流に応じて発光するトランジスタ)、電子放出素子、液晶素子、
電子インク、電気泳動素子、グレーティングライトバルブ(GLV)、プラズマディスプ
レイ(PDP)、MEMS(マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム)を用いた表
示素子、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)、DMS(デジタル・マイクロ・シ
ャッター)、MIRASOL(登録商標)、IMOD(インターフェアレンス・モジュレ
ーション)素子、シャッター方式のMEMS表示素子、光干渉方式のMEMS表示素子、
エレクトロウェッティング素子、圧電セラミックディスプレイ、カーボンナノチューブ、
など、電気磁気的作用により、コントラスト、輝度、反射率、透過率などが変化する表示
媒体を有するものがある。EL素子を用いた表示装置の一例としては、ELディスプレイ
などがある。電子放出素子を用いた表示装置の一例としては、フィールドエミッションデ
ィスプレイ(FED)又はSED方式平面型ディスプレイ(SED:Surface-c
onduction Electron-emitter Display)などがある
。液晶素子を用いた表示装置の一例としては、液晶ディスプレイ(透過型液晶ディスプレ
イ、半透過型液晶ディスプレイ、反射型液晶ディスプレイ、直視型液晶ディスプレイ、投
射型液晶ディスプレイ)などがある。電子インク又は電気泳動素子を用いた表示装置の一
例としては、電子ペーパーなどがある。
【0591】
例えば、
図1(B)に示すトランジスタに液晶素子を設けた場合の例を、
図43に示す
。液晶素子は、画素電極80、液晶層83、共通電極82を有している。共通電極82は
、基板81に設けられている。別の例として、
図5(A)に示すトランジスタに発光素子
を設けた場合の例を
図44に示す。電極19、20の上には、絶縁膜84が設けられてい
る。絶縁膜84の上に、画素電極80が設けられている。画素電極80の上には、絶縁膜
85が設けられている。発光素子は、画素電極80、発光層86、共通電極82を有して
いる。このように、様々な構造のトランジスタに様々な表示素子を組み合わせて、表示装
置を構成させることができる。
【0592】
本実施の形態は、本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施するこ
とができる。
【0593】
(実施の形態7)
本実施の形態では、本発明の一態様の半導体装置を適用した表示モジュールについて、
説明する。また、本発明の一態様の半導体装置が適用された電子機器の構成例について説
明する。
【0594】
図45に示す表示モジュール8000は、上部カバー8001と下部カバー8002と
の間に、FPC8003に接続されたタッチパネル8004、FPC8005に接続され
た表示パネル8006、バックライトユニット8007、フレーム8009、プリント基
板8010、バッテリー8011を有する。なお、バックライトユニット8007、バッ
テリー8011、タッチパネル8004などは、設けられない場合もある。
【0595】
本発明の一態様の半導体装置は、例えば、表示パネル8006に用いることができる。
【0596】
上部カバー8001及び下部カバー8002は、タッチパネル8004及び表示パネル
8006のサイズに合わせて、形状や寸法を適宜変更することができる。
【0597】
タッチパネル8004は、抵抗膜方式または静電容量方式のタッチパネルを表示パネル
8006に重畳して用いることができる。また、表示パネル8006の対向基板(封止基
板)に、タッチパネル機能を持たせるようにすることも可能である。または、表示パネル
8006の各画素内に光センサを設け、光学式のタッチパネルとすることも可能である。
または、表示パネル8006の各画素内にタッチセンサ用電極を設け、静電容量方式のタ
ッチパネルとすることも可能である。
【0598】
バックライトユニット8007は、光源8008を有する。光源8008をバックライ
トユニット8007の端部に設け、光拡散板を用いる構成としてもよい。
【0599】
フレーム8009は、表示パネル8006の保護機能の他、プリント基板8010の動
作により発生する電磁波を遮断するための電磁シールドとしての機能を有する。またフレ
ーム8009は、放熱板としての機能を有していてもよい。
【0600】
プリント基板8010は、電源回路、ビデオ信号及びクロック信号を出力するための信
号処理回路を有する。電源回路に電力を供給する電源としては、外部の商用電源であって
も良いし、別途設けたバッテリー8011による電源であってもよい。バッテリー801
1は、商用電源を用いる場合には、省略可能である。
【0601】
また、表示モジュール8000には、偏光板、位相差板、プリズムシートなどの部材を
追加して設けてもよい。
【0602】
図46は、本発明の一態様の半導体装置を含む電子機器の外観図である。
【0603】
電子機器としては、例えば、テレビジョン装置(テレビ、またはテレビジョン受信機と
もいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等のカ
メラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯
型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げら
れる。
【0604】
図46(A)は、携帯型の情報端末であり、本体1001、筐体1002、表示部10
03a、1003bなどによって構成されている。表示部1003bはタッチパネルとな
っており、表示部1003bに表示されるキーボードボタン1004を触れることで画面
操作や、文字入力を行うことができる。勿論、表示部1003aをタッチパネルとして構
成してもよい。上記実施の形態で示したトランジスタをスイッチング素子として液晶パネ
ルや有機発光パネルを作製して表示部1003a、1003bに適用することにより、信
頼性の高い携帯型の情報端末とすることができる。
【0605】
図46(A)に示す携帯型の情報端末は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像な
ど)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に
表示した情報を操作又は編集する機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理
を制御する機能、等を有することができる。また、筐体の裏面や側面に、外部接続用端子
(イヤホン端子、USB端子など)、記録媒体挿入部などを備える構成としてもよい。
【0606】
また、
図46(A)に示す携帯型の情報端末は、無線で情報を送受信できる構成として
もよい。無線により、電子書籍サーバから、所望の書籍データなどを購入し、ダウンロー
ドする構成とすることも可能である。
【0607】
図46(B)は、携帯音楽プレイヤーであり、本体1021には表示部1023と、耳
に装着するための固定部1022と、スピーカー、操作ボタン1024、外部メモリスロ
ット1025等が設けられている。上記実施の形態で示したトランジスタをスイッチング
素子として液晶パネルや有機発光パネルを作製して表示部1023に適用することにより
、より信頼性の高い携帯音楽プレイヤーとすることができる。
【0608】
さらに、
図46(B)に示す携帯音楽プレイヤーにアンテナやマイク機能や無線機能を
持たせ、携帯電話と連携させれば、乗用車などを運転しながらワイヤレスによるハンズフ
リーでの会話も可能である。
【0609】
図46(C)は、携帯電話であり、筐体1030及び筐体1031の二つの筐体で構成
されている。筐体1031には、表示パネル1032、スピーカー1033、マイクロフ
ォン1034、ポインティングデバイス1036、カメラ用レンズ1037、外部接続端
子1038などを備えている。また、筐体1030には、携帯電話の充電を行う太陽電池
セル1040、外部メモリスロット1041などを備えている。また、アンテナは筐体1
031内部に内蔵されている。上記実施の形態で説明するトランジスタを表示パネル10
32に適用することにより、信頼性の高い携帯電話とすることができる。
【0610】
また、表示パネル1032はタッチパネルを備えており、
図46(C)には映像表示さ
れている複数の操作キー1035を点線で示している。なお、太陽電池セル1040で出
力される電圧を各回路に必要な電圧に昇圧するための昇圧回路も実装している。
【0611】
表示パネル1032は、使用形態に応じて表示の方向が適宜変化する。また、表示パネ
ル1032と同一面上にカメラ用レンズ1037を備えているため、テレビ電話が可能で
ある。スピーカー1033及びマイクロフォン1034は音声通話に限らず、テレビ電話
、録音、再生などが可能である。さらに、筐体1030と筐体1031は、スライドし、
図46(C)のように展開している状態から重なり合った状態とすることができ、携帯に
適した小型化が可能である。
【0612】
外部接続端子1038はACアダプタ及びUSBケーブルなどの各種ケーブルと接続可
能であり、充電及びパーソナルコンピュータなどとのデータ通信が可能である。また、外
部メモリスロット1041に記録媒体を挿入し、より大量のデータ保存及び移動に対応で
きる。
【0613】
また、上記機能に加えて、赤外線通信機能、テレビ受信機能などを備えたものであって
もよい。
【0614】
図46(D)は、テレビジョン装置の一例を示している。テレビジョン装置1050は
、筐体1051に表示部1053が組み込まれている。表示部1053により、映像を表
示することが可能である。また、筐体1051を支持するスタンド1055にCPUが内
蔵されている。上記実施の形態で説明するトランジスタを表示部1053およびCPUに
適用することにより、信頼性の高いテレビジョン装置1050とすることができる。
【0615】
テレビジョン装置1050の操作は、筐体1051が備える操作スイッチや、別体のリ
モートコントローラにより行うことができる。また、リモコン操作機に、当該リモコン操
作機から出力する情報を表示する表示部を設ける構成としてもよい。
【0616】
なお、テレビジョン装置1050は、受信機やモデムなどを備えた構成とする。受信機
により一般のテレビ放送の受信を行うことができ、さらにモデムを介して有線または無線
による通信ネットワークに接続することにより、一方向(送信者から受信者)または双方
向(送信者と受信者間、あるいは受信者間同士など)の情報通信を行うことも可能である
。
【0617】
また、テレビジョン装置1050は、外部接続端子1054や、記憶媒体再生録画部1
052、外部メモリスロットを備えている。外部接続端子1054は、USBケーブルな
どの各種ケーブルと接続可能であり、パーソナルコンピュータなどとのデータ通信が可能
である。記憶媒体再生録画部1052では、ディスク状の記録媒体を挿入し、記録媒体に
記憶されているデータの読み出し、記録媒体への書き込みが可能である。また、外部メモ
リスロットに差し込まれた外部メモリ1056にデータ保存されている画像や映像などを
表示部1053に映し出すことも可能である。
【0618】
また、上記実施の形態で説明するトランジスタのオフリーク電流が極めて小さい場合は
、当該トランジスタを外部メモリ1056やCPUに適用することにより、消費電力が十
分に低減された信頼性の高いテレビジョン装置1050とすることができる。
【0619】
本実施の形態は、本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施するこ
とができる。
【実施例0620】
本実施例では、本発明の一態様に係る半導体装置に含まれるトランジスタに適用できる
、酸化物絶縁膜を評価した結果について説明する。詳細には、加熱による一酸化窒素、一
酸化二窒素、二酸化窒素、アンモニア、水、及び窒素それぞれの放出量をTDSで評価し
た結果について説明する。
【0621】
<試料の作製方法>
本実施例では、本発明の一態様に係るトランジスタに適用できる酸化物絶縁膜である試
料A1、並びに比較用の試料A2及び試料A3をそれぞれ作製した。
【0622】
<試料A1>
試料A1は、実施の形態1に示すゲート絶縁膜15及び保護膜21の少なくとも一方(
図1参照)に適用できる形成条件を用いたプラズマCVD法により、シリコンウェハ上に
酸化物絶縁膜を形成して、作製された。
【0623】
酸化物絶縁膜は、シリコンウェハを保持する温度を220℃とし、流量50sccmの
シラン及び流量2000sccmの一酸化二窒素を原料ガスとし、処理室内の圧力を20
Paとし、平行平板電極に供給する高周波電力を13.56MHz、100W(電力密度
としては1.6×10-2W/cm2)とするプラズマCVD法を用いて形成した。なお
、シランの流量に対する一酸化二窒素の流量比は40である。また、酸化物絶縁膜として
、厚さ400nmの酸化窒化シリコン膜を形成した。
【0624】
<試料A2>
試料A2は、試料A1の酸化物絶縁膜の代わりに、以下の条件を用いて酸化物絶縁膜を
形成した。
【0625】
試料A2において、酸化物絶縁膜は、シリコンウェハを保持する温度を220℃とし、
流量30sccmのシラン及び流量4000sccmの一酸化二窒素を原料ガスとし、処
理室内の圧力を40Paとし、平行平板電極に供給する高周波電力を13.56MHz、
150W(電力密度としては8.0×10-2W/cm2)とするプラズマCVD法を用
いて形成した。なお、シランの流量に対する一酸化二窒素の流量比は133である。また
、酸化物絶縁膜として、厚さ400nmの酸化窒化シリコン膜を形成した。
【0626】
<試料A3>
試料A3は、試料A1の酸化物絶縁膜の代わりに、以下の条件を用いて酸化物絶縁膜を
形成した。
【0627】
試料A3において、酸化物絶縁膜は、シリコンウェハを保持する温度を100℃とし、
シリコンターゲットと、スパッタリングガスである流量50sccmの酸素とを用い、処
理室内の圧力を0.5Paとし、電極に供給する高周波電力を6kWとするスパッタリン
グ法を用いて形成した。また、酸化物絶縁膜として、厚さ100nmの酸化シリコン膜を
形成した。
【0628】
<TDS分析>
試料A1乃至試料A3についてTDS分析を行った。なお、各試料において、各試料が
搭載されるステージを55℃以上997℃以下で加熱した。試料A1乃至試料A3におい
て、質量電荷比m/z=30の気体(一酸化窒素)の放出量、質量電荷比m/z=44の
気体(一酸化二窒素)の放出量、質量電荷比m/z=46の気体(二酸化窒素)の放出量
をそれぞれ、
図47(A)、(B)、及び(C)に示す。また、試料A1乃至試料A3に
おいて、質量電荷比m/z=17の気体(アンモニア)の放出量、質量電荷比m/z=1
8の気体(水)の放出量、及び質量電荷比m/z=28の気体(窒素分子)の放出量をそ
れぞれ、
図48(A)、(B)、及び(C)に示す。
【0629】
なお、
図47及び
図48において、横軸は試料の温度であり、ここでは50℃以上65
0℃以下を示す。試料温度650℃が、本実施例で用いた分析装置のおよその昇温限界と
なる。また、縦軸は、ガスの放出量に比例する強度を示す。なお、外部に放出される分子
の総量は、当該ピークの積分値に相当する。それゆえ、当該ピーク強度の高低によって酸
化物絶縁膜に含まれる分子の総量を評価できる。
【0630】
図47及び
図48において、太実線は試料A1の測定結果であり、細実線は試料A2の
測定結果であり、破線は試料A3の測定結果である。
【0631】
図47(A)乃至(C)より、試料A1においては、質量電荷比m/z=30及び質量
電荷比m/z=44のピークが見られる。しかしながら、
図47(A)において、試料A
1の150℃以上200℃以下においてみられるピークは一酸化窒素以外の気体の放出と
思われる。また、
図47(B)において、試料A1のピークは一酸化二窒素以外の気体の
放出と思われる。このため、試料A1において、一酸化窒素、一酸化二窒素、及び二酸化
窒素の放出が確認されない。試料A2においては、質量電荷比m/z=30、質量電荷比
m/z=44、及び質量電荷比m/z=46のピークが見られる。このため、試料A2に
おいて、一酸化窒素、一酸化二窒素、及び二酸化窒素の放出が確認された。試料A3にお
いては、質量電荷比m/z=30、及び質量電荷比m/z=44、質量電荷比m/z=4
6のピークが見られない。このため、試料A3において、一酸化窒素、一酸化二窒素、及
び二酸化窒素の放出が確認されない。
【0632】
図48(A)より、試料A1において、質量電荷比m/z=17のピークが見られるが
、試料A2は、試料A1と比較してピーク強度が小さく、試料A3においては該ピークが
見られない。このことから、試料A1に含まれる酸化物絶縁膜には、多くのアンモニアが
含まれることが分かる。また、
図48(B)より、試料A1及び試料A2において、質量
電荷比m/z=18のピークが見られる。このことから、試料A1及び試料A2に含まれ
る酸化物絶縁膜には、水が含まれることが分かる。また、
図48(C)より、試料A2に
おいて、質量電荷比m/z=28のピークが見られる。このことから、試料A2に含まれ
る酸化物絶縁膜には、窒素分子が含まれることが分かる。
【0633】
次に、試料A1及び試料A2において、
図47及び
図48の曲線のピークの積分値から
算出した質量電荷比m/z=30の気体(一酸化窒素)、質量電荷比m/z=44の気体
(一酸化二窒素)、質量電荷比m/z=46の気体(二酸化窒素)、及び質量電荷比m/
z=28の気体(窒素)の放出量を
図49(A)に示し、質量電荷比m/z=17の気体
の放出量を
図49(B)に示す。なお、試料A2において、質量電荷比m/z=17の気
体の放出量は、試料の表面に吸着する水の放出量を示し、アンモニアは放出されていない
。
【0634】
図49(A)に示すように、試料A2と比較して、試料A1の一酸化窒素、一酸化二窒
素、二酸化窒素及び窒素の放出量は少なく、検出下限以下、すなわち各気体の放出が検出
されなかった。なお、ここでの、一酸化窒素の検出下限は、4×10
16個/cm
3であ
り、一酸化二窒素の検出下限は、4×10
17個/cm
3であり、二酸化窒素の検出下限
は、4×10
16個/cm
3であり、窒素の検出下限は、9×10
17個/cm
3である
。また、
図49(B)に示すように、試料A2と比較して、試料A1のアンモニアの放出
量は多いことがわかった。
【0635】
また、
図50に、試料A1及び試料A2における、一酸化窒素、二酸化窒素、窒素、及
びアンモニアの放出総和量を示す。
【0636】
また、試料A1及び試料A2の、アンモニア、窒素、一酸化窒素、酸素、及び二酸化窒
素の放出量を表12に示す。
【0637】
【0638】
図50より、試料A1において、窒素、一酸化窒素及び二酸化窒素の放出総和量と比較
して、アンモニアの放出量が多いことがわかる。また、試料A2において、窒素、一酸化
窒素及び二酸化窒素の放出総和量と比較して、アンモニアの放出量が少ないことがわかる
。
【0639】
以上のことから、原料ガスにおいて、シランに対する一酸化二窒素の流量比を小さくす
ることで、一酸化窒素、一酸化二窒素、二酸化窒素、及び窒素の放出量の少ない酸化物絶
縁膜が形成できることが分かる。また、窒素酸化物の放出量と比較して、アンモニアの放
出量の多い酸化物絶縁膜を形成できることがわかる。