(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179595
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】増大した分解速度を備えるFE-MN吸収性インプラント合金
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231212BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20231212BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231212BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20231212BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20231212BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/60
B22F1/00 T
B22F3/02 S
B22F3/10 C
C22C33/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023171308
(22)【出願日】2023-10-02
(62)【分割の表示】P 2020540692の分割
【原出願日】2018-10-05
(31)【優先権主張番号】62/569,228
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520119507
【氏名又は名称】バイオ ディージー, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ジョン エー. ディセギ
(57)【要約】
【課題】 増大した分解速度を備えるFE-MN吸収性インプラント合金を提供すること
【解決手段】 本発明は、少なくとも50重量%の鉄、少なくとも25重量%のマンガン、および少なくとも0.01重量%の硫黄、および/またはセレンを含む、医療用のインプラントの使用に適している生分解性合金に関するものであり、そこで、該生分解性合金は非磁性である。本発明は、望ましい分解速度を備える生分解性合金の作製方法も提供するところのものである。本発明は、増大した分解速度を備えるFE-MN吸収性インプラント合金を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年10月6日出願の米国仮特許出願第62/569,228号の優先権の利益を主張するものであり、その内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、生分解性Fe-Mn合金に関する。
【背景技術】
【0003】
他の合金元素を伴うもしくはそれを伴わない鉄、マグネシウムまたは亜鉛系金属は、吸収性金属インプラントの製造で評価されてきた。吸収性金属インプラントは、一定期間にわたって生じる腐食反応の結果として、身体内で分解するように設計されている。分解産物は、身体に局所または全身蓄積されることなく、輸送されて、除去されなければならない。インプラントの分解速度は、指定された時間枠上で機能を達成するために必要な機械的結着性のレベルに対してバランスをとらなければならない。
【0004】
吸収性Fe-Mn合金は、心血管用途のために長年にわたって広く研究されている。LiuおよびZhengによる研究(Acta Biomater.7、1407-1420(2011))は、Fe-Mn合金と比較して改善を示さなかった純粋な鉄に近い二元合金FeSの分解速度を調べた。LiuおよびZhengが調べたFeS二元合金は、Mnを含有していなかった。他の研究は、最小25%のマンガンの添加が完全に非磁性微細構造を提供するために必要だと判断した(Hermawan,H.,Metallic Biodegradable Coronary Stent:Materials Development in Biodegradable Metals From Concept to Applications,Chapter4,Springer,43-44(2012))。非磁性インプラント微細構造は、磁気共鳴映像法(MRI)手順への患者の曝露を可能にするのに必要である。
【0005】
軽量心血管ステントは、複雑な管状壁パターンを含むように機械加工したまたはレーザー切断したシームレスチューブから通常製造される。ステントの外径は一般的に2.0mm未満であり、通常カテーテルによって小動脈または大動脈内に挿入される(Hermawan,H.,Biodegradable Metals for Cardiovascular Applications,in Biodegradable Metals from Concept to Applications,Chapter3,Springer,23-24(2012))。しかし、Fe-Mn吸収性合金の分解速度は、中程度のサイズの金属医療用インプラント(例えば、プレート、ねじ、釘、骨アンカーなど)ではあまりに遅い。中程度のサイズの医療用インプラントは、心血管ステントまたは神経ステントの質量を超えるインプラントとして定義される。
したがって、望ましい分解可能速度を備える生分解性FeMn合金の必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】LiuおよびZheng.,Acta Biomater.7、1407-1420(2011)
【非特許文献2】Hermawan,H.,Metallic Biodegradable Coronary Stent:Materials Development in Biodegradable Metals From Concept to Applications,Chapter4,Springer,43-44(2012)
【非特許文献3】Hermawan,H.,Biodegradable Metals for Cardiovascular Applications,in Biodegradable Metals from Concept to Applications,Chapter3,Springer,23-24(2012)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、少なくとも50重量%の鉄、少なくとも25重量%のマンガンおよび少なくとも0.01重量%の硫黄および/またはセレンを含む、医療用インプラントの使用に適している生分解性合金に関し、そこで前記生分解性合金は非磁性である。
【0008】
いくつかの実施形態では、生分解性合金はクロムを実質的に含まない。
【0009】
いくつかの実施形態では、生分解性合金はニッケルを実質的に含まない。
【0010】
いくつかの実施形態では、硫黄およびマンガンは、硫化マンガンの二次相を形成する。
【0011】
いくつかの実施形態では、セレンおよびマンガンは、セレン化マンガンの二次相を形成する。
【0012】
いくつかの実施形態では、硫黄またはセレンは、生分解性合金中に均等に分散する。
【0013】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、少なくとも60重量%の鉄を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、少なくとも30重量%のマンガンを含む。
【0015】
いくつかの実施形態で、生分解性合金は、鍛造製品、鋳造物または粉末冶金製品の形態である。
【0016】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、生理的条件下で、約0.155~3.1mg/cm2の分解速度を有する。
【0017】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.35重量%の硫黄および/またはセレンを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.20重量%の硫黄および/またはセレンを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.02重量%~0.10重量%の硫黄および/またはセレンを含む。
【0020】
本発明の別の態様は、本明細書に開示される生分解性合金を含む、埋め込み型医療装置に関する。いくつかの実施形態では、埋め込み型医療装置は、骨用ねじ、骨用アンカー、組織ステープル、頭蓋顎顔面再建プレート、外科用メッシュ、固定具(例えば、外科用固定具)、歯科用再建インプラント、およびステントからなる群から選択される。
【0021】
本発明の別の態様は、望ましい分解速度を備える生分解性合金の作製方法に関し、前記方法は、(a)生分解性合金を作成するために硫黄および/またはセレンを含む組成物を
溶融混合物に加えることであって、そこで前記溶融混合物は、少なくとも50重量%の鉄および少なくとも25重量%のマンガンを有し、前記生分解性合金は、少なくとも0.01重量%の硫黄および/またはセレンを含む、前記加えることと、(b)生分解性合金を冷却することと、を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、クロムを実質的に含まない。
【0023】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、ニッケルを実質的に含まない。
【0024】
いくつかの実施形態では、硫黄および/セレンは、100~3500ppmで添加される。
【0025】
いくつかの実施形態で、硫黄を含む組成物は、硫化鉄(II)である。
【0026】
いくつかの実施形態で、セレンを含む組成物は、セレン化鉄(II)である。
【0027】
いくつかの実施形態では、硫黄またはセレンは、生分解性合金中に均等に分散する。
【0028】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、少なくとも60重量%の鉄を含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、少なくとも30重量%のマンガンを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、溶融混合物は、ケイ素を実質的に含まない。
【0031】
いくつかの実施形態では、溶融混合物は、アルミニウムを実質的に含まない。
【0032】
いくつかの実施形態では、溶融混合物は、酸素を実質的に含まない。
【0033】
いくつかの実施形態では、前記方法は更に、塩基性スラグを溶融混合物へ添加し、それにより溶融混合物から酸素を除去して、塩基性スラグに加えることを含む。いくつかの実施形態では、塩基性スラグは、少なくとも2の二酸化ケイ素に対する酸化カルシウムの比を含む。
【0034】
いくつかの実施形態で、生分解性合金は、30℃/分~60℃/分の速度で冷却される。
【0035】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.35重量%の硫黄および/またはセレンを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.20重量%の硫黄および/またはセレンを含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.02重量%~0.10重量%の硫黄および/またはセレンを含む。
【0038】
本発明の更に別の態様は、望ましい分解速度を備える生分解性合金の製造方法に関し、前記方法は、100~3500ppmの硫黄を、少なくとも50重量%の鉄および少なくとも25重量%のマンガンを有する溶融混合物に添加して、それにより少なくとも0.01重量%の硫黄を有する生分解性合金を作成することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】鍛造製品形態の細長いMnSの二次相を示す概略図である。
【
図2】鋳造物または粉末冶金製品形態の球状のMnSの二次相を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は、なかでも、鋼鉄中の硫化マンガン析出物の形成が腐食速度を増大させることを示したという発見に基づく。硫化マンガン(II)(MnS)析出物は、周囲の合金鋼より化学的に活性があることも示した。いくつかの実施形態では、Fe-Mn鋼が細長い形(例えば、棒、管またはワイヤ)に冷却延伸される際に、MnS析出物は割れて、その形態内に空隙を残し、それにより更なる腐食面を作成する。腐食は、生分解性インプラントの主要な分解メカニズムであり、および生分解性インプラントのより速い分解プロファイルと同等の増大した腐食速度である。
【0041】
この発明の目的は、硫黄(S)またはセレン(Se)を合金に加えることにより、吸収性Fe-Mn合金の分解速度を高めることである。いくつかの実施形態では、Fe-Mn合金の意図的に添加した硫黄またはセレンの量は、快削ステンレス鋼に加えられる硫黄またはセレンの量と類似し得る。例えば、快削非埋め込み型ステンレス鋼303、非吸収性インプラント質316L、および本明細書に開示するFe-Mn吸収性埋め込み型合金の硫黄またはセレンの相対量を、表1に示す。
【表1】
【0042】
本発明の一態様にて、本発明は、少なくとも50重量%の鉄、少なくとも25重量%のマンガンおよび少なくとも0.01重量%の硫黄および/またはセレンを含む、医療用インプラントの使用に適している生分解性合金を提供し、そこで該生分解性合金は非磁性である。硫黄またはセレンは、生分解性合金中に均等に分散できる。
【0043】
生分解性合金は、炭素、窒素、リン、ケイ素、または通常Fe-Mn合金に付随する微量元素の微量の増加分を含んでも含まなくてもよい。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、クロムを実質的に含まない。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、ニッケルを実質的に含まない。本明細書で使用する場合「実質的に含まない」という用語は、生分解性合金中の元素の存在を指す場合、生分解性合金中の元素の濃度が、0.2重量%以下、0.1重量%以下または0.05重量%以下であることを意味する。
【0044】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、少なくとも55重量%の鉄(例えば、少なくとも60重量%の鉄、少なくとも65重量%の鉄、または少なくとも70重量%の鉄)を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、50重量%~70重量%の鉄(例えば、少なくとも50重量%~60重量%の鉄、少なくとも55重量%~60重量%の鉄、
少なくとも55重量%~70重量%の鉄、または少なくとも60重量%~70重量%の鉄)を含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、少なくとも28重量%のマンガン(例えば、少なくとも30重量%のマンガン、少なくとも35重量%のマンガン、少なくとも40重量%のマンガン、または少なくとも45重量%のマンガン)を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、25重量%~45重量%のマンガン(例えば、少なくとも25重量%~40重量%のマンガン、少なくとも25重量%~35重量%のマンガン、少なくとも30重量%~45重量%のマンガン、または少なくとも35重量%~45重量%のマンガン)を含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~2.0重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~1.5重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~1.2重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~1.0重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.35重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.30重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.20重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.15重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.02重量%~0.10重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.10重量%~0.35重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.15重量%~0.35重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.20重量%~0.35重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.5重量%~2.0重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.5重量%~1.5重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.5重量%~1.2重量%の硫黄を含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.5重量%~1.0重量%の硫黄を含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~2.0重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~1.5重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~1.2重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~1.0重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.35重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.30重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.20重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.15重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.02重量%~0.10重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.10重量%~0.35重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.15重量%~0.35重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.20重量%~0.35重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.5重量%~2.0重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.5重量%~1.5重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.5重量%~1.2重量%のセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.5重量%~1.0重量%のセレンを含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~2.0重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~1.5重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重
量%~1.2重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~1.0重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.35重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.30重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.20重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.01重量%~0.15重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.02重量%~0.10重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.10重量%~0.35重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.15重量%~0.35重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.20重量%~0.35重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.5重量%~2.0重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.5重量%~1.5重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.5重量%~1.2重量%の硫黄およびセレンを含む。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、0.5重量%~1.0重量%の硫黄およびセレンを含む。セレンに対する硫黄の重量比は、99:1~1:99の範囲であり得る。例えば、セレンに対する硫黄の重量比は、99:1~75:1、99:1~50:1、または90:1~50:1の範囲であり得る。
【0049】
いくつかの実施形態で、生分解性合金は、50重量%~70重量%の鉄、25重量%~35重量%のマンガン、および0.01重量%~0.35重量%の硫黄を含む。
【0050】
いくつかの実施形態で、生分解性合金は、50重量%~70重量%の鉄、25重量%~35重量%のマンガン、および0.01重量%~0.35重量%のセレンを含む。
【0051】
いくつかの実施形態で、生分解性合金は、50重量%~70重量%の鉄、25重量%~35重量%のマンガン、および0.01重量%~0.35重量%の硫黄およびセレンを含む。セレンに対する硫黄の重量比は、1:99~99:1の範囲であり得る。例えば、セレンに対する硫黄の重量比は、99:1~75:1、99:1~50:1、または90:1~50:1の範囲であり得る。
【0052】
硫黄および/またはセレンの濃度に応じて、生分解性合金の分解速度は、生理的条件下で、1日当たり約0.155~3.1mg/cm2の範囲であり得る。いくつかの実施形態で、生分解性合金の分解速度は、生理的条件下で、1日当たり約0.2~3.0mg/cm2の範囲であり得る。いくつかの実施形態で、生分解性合金の分解速度は、生理的条件下で、1日当たり約0.2~2.5mg/cm2の範囲であり得る。いくつかの実施形態で、生分解性合金の分解速度は、生理的条件下で、1日当たり約1.0~3.1mg/cm2の範囲であり得る。生分解性合金の分解速度は、1日当たり少なくとも0.3mg/cm2、1日当たり少なくとも0.4mg/cm2、1日当たり少なくとも0.5mg/cm2、1日当たり少なくとも1.0mg/cm2、1日当たり少なくとも1.5mg/cm2、1日当たり少なくとも2.0mg/cm2、または1日当たり少なくとも2.5mg/cm2でもあり得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、「生理的条件」という用語は、20~40℃の温度範囲、1大気圧、pH6~8、グルコース濃度1~20mM、大気中の酸素濃度、および地球重力を指す。したがって本開示は、インプラントの所定の範囲の分解速度を得るために、制御された硫黄またはセレン含有量を備える、一連の完全にまたは部分的に高密度化したFe-Mn合金を提供する。改善された機械加工性および予測可能な分解速度を備える、小さいおよび中程度のサイズのFe-Mn吸収性インプラントは、用途に応じて設計すること
ができる。
【0054】
生分解性合金は、鍛造製品、鋳造物または粉末冶金製品の形態であり得る。
【0055】
Fe-Mn合金への硫黄の添加は、微細構造中にMnSの二次相を形成する。同様に、Fe-Mn合金へのセレンの添加は、微細構造中にMnSeの二次相を形成する。MnX(X=SまたはSe)二次相を含有する鍛造Fe-Mn合金は、熱間、温間または冷間金属加工作業(例えばこれらに限定されないが、圧締、鍛造、圧延、押出し、スウェージングおよび延伸)によって半完成製品形態に処理され得る。これらのすべての鍛造金属加工作業は断面積を低減し、長手方向にストリンガーとして知られる細長いMnX二次相を作成する。細長いMnXストリンガーの形態を
図1に示す。MnX二次相は、強化した機械加工性、ならびにバルクマトリックスの腐食速度と比較した場合、多くの化学溶液の増大した孔食および隙間腐食反応を提供する。鍛造製品形態は処理されて、インプラント用途に応じて、Fe-Mn吸収性医療装置に機械加工され得る。用途に応じて、鍛造半完成製品形態は、機械加工され、洗浄され、不動態化され、滅菌され、包装されて、完成したインプラント装置に製造され得る。
【0056】
埋没材鋳造を、MnX二次相を備えるFe-Mn成形形状を製造するために使用できる。鋳造物は、内部欠陥、大粒径および化学分離を伴う可能性があり、それは通常、機械的特性および磁気応答に影響を及ぼし得る。二次処理(例えば、熱間等方プレス加工)は、鋳放し特性を改善するために使用できる。注型成形技術と比較した場合、上述の鍛造金属加工のやり方は、少ない内部欠陥、小さな粒径および改善した機械的特性を提供することができる。
【0057】
硫黄添加物を含有する、特殊溶解したもしくは通常溶解したFe-Mn吸収性合金バーまたはビレットは、粉末冶金合金を製造するために電極として知られる出発ストックとして使用し得る。電極表面は通常、ピーリング、芯なし研削、研磨または表面欠陥の除去のための他の金属除去処理によって調整される。水噴霧、アルゴンもしくはヘリウムガス噴霧、プラズマ回転電極法(PREP)または他の粉末製造法は、Fe-Mn合金化粉末を製造するのに使用できる。粉末冶金製造ルートは、金属射出成形(MIM)、冷間静水圧プレス成形、熱間静水圧プレス成形もしくは他の周知の粉末圧密技術によって、簡易形状、ニアネットシェイプまたはネットシェイプに固化成形され得る、Fe-Mn粉末粒子のために使用できる。本明細書で使用する場合「簡易形状」という用語は、仕上げ部分図に一致するために、広範囲の機械加工を必要とする製品の形態を指す。本明細書で使用する場合「ニアネットシェイプ」という用語は、仕上げ部分図に一致するために、中程度の量の機械加工を必要とする半完成製品の形態を指す。本明細書で使用する場合「ネットシェイプ」という用語は、仕上げ部分図に一致するために、最小量の機械加工を必要とする半完成製品の形態を指す。粉末固化パラメータは、用途に応じて、完全に高密度化または部分的に高密度化した半完成製品の形態を提供するように調整できる。粉末固化成形された半完成製品形態は、仕上げ機械加工され、洗浄され、不動態化され、滅菌され(任意)、包装されて、完成したインプラント装置に製造され得る。
【0058】
主な利点は、粉末冶金吸収性インプラント装置が、小さな粉末粒径および粉末処理工程の結果として、微球状MnX二次相を含有することである。これにより、鍛造金属加工作業と関連する、典型的なストリンガーまたは細長いMnX形態が回避される。粉末冶金法は、微粒球状のMnX形態を示す、固化成形された粉末製品を提供することが可能であり、それは良好な機械加工性および予測可能な腐食反応を容易にする。
図2は、粉末冶金製品形状中の球状MnX形態の図である。
【0059】
当業者であれば容易に認識するように、本明細書に開示する合金を使用して作製するこ
とができる、様々な埋め込み型医療機器がある。生分解性合金は、骨用ねじ、骨用アンカー、組織ステープル、頭蓋顎顔面再建プレート、外科用メッシュ、固定具(例えば、外科用固定具)、歯科用再建インプラント、またはステントを含む、埋め込み型医療装置を作製するために使用できるが、これらに限定されない。特定の実施形態で、埋め込み型医療装置は、骨アンカー(例えば、分離した骨部位の修復のため)である。他の実施形態で、埋め込み型医療装置は、骨用ねじ(例えば、骨折した骨部位を固定するため)である。他の実施形態で、埋め込み型医療装置は、骨固定化装置(例えば、大骨用)である。他の実施形態で、埋め込み型医療装置は、組織を固定するためのステープルである。他の実施形態で、埋め込み型医療装置は、頭蓋顎顔面再建プレートまたは固定具である。他の実施形態で、埋め込み型医療装置は、外科用メッシュである。他の実施形態で、埋め込み型医療装置は、歯科用インプラント(例えば、歯科用再建インプラント)である。更に他の実施形態で、埋め込み型医療装置は、ステント(例えば、動物身体の器官の開口部の内腔を維持する)である。
【0060】
いくつかの実施形態で、埋め込み型医療装置は、ヒトへの移植のために設計される。他の実施形態で、埋め込み型医療装置は、ペット(例えば、イヌ、ネコ)への移植のために設計される。他の実施形態で、埋め込み型医療装置は、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタなど)への移植のために設計される。更に他の実施形態で、埋め込み型医療装置は、動物園の動物への移植のために設計される。
【0061】
埋め込み型医療機器に生物活性剤(例えば、薬物)を組み込むことが望ましいことが多い。例えば、米国特許第6,649,631号は、整形外科用インプラントと共に使用することができる骨成長の促進のための薬物を特許請求する。生物活性剤は、本発明の埋め込み型医療機器の表面上に直接組み込まれ得る。例えば薬剤は、ポリマーコーティング(例えば、米国特許第6,368,356号のヒドロゲル)と混合でき、ポリマーコーティングは装置の表面に適用できる。あるいは生物活性剤は、薬剤がゆっくりと時間をかけて放出されるように、デポーとして機能する医療装置の空洞または孔に充填され得る。孔は、薬物の比較的迅速な放出を可能にする医療機器の表面上、または医療装置を製造するために使用される合金の総構造の一部上に存在し得て、その結果、生物活性剤は、装置のほとんどまたはすべての耐用年数の間、徐々に放出される。生物活性剤は、例えば、ペプチド、核酸、ホルモン、化学薬剤、または治癒過程を促進するのに有用な他の生物学的薬剤であり得る。
【0062】
一態様にて、本開示は、本発明の埋め込み型医療装置を入れた容器を提供する。いくつかの実施形態で、容器は、箱などの包装容器(例えば、格納、販売または装置を輸送するための箱)である。いくつかの実施形態で、容器は更に、使用説明書(例えば、医療処置のために埋め込み型医療装置を使用するための)を含む。
【0063】
別の態様で、本開示は、望ましい分解速度を備える生分解性合金の作製方法であって、該方法は、(a)生分解性合金を作製するために硫黄および/またはセレンを含む組成物を溶融混合物に加えることであって、そこで溶融混合物は少なくとも50重量%の鉄および少なくとも25重量%のマンガンを有し、該生分解性合金は少なくとも0.01重量%の硫黄および/またはセレンを含む、該加えることと、(b)生分解性合金を冷却することと、を含む。
【0064】
生分解性合金の分解速度は、生分解性合金中の硫黄および/またはセレンの濃度を変えることによって制御することができる。硫黄および/セレン濃度が高ければ、分解速度は速くなる。いくつかの実施形態では、硫黄および/セレンは100~6000百万分率(ppm)で添加される。例えば、硫黄および/またはセレンは、300~3000ppmで添加され得る。
【0065】
いくつかの実施形態で、硫黄を含む組成物は、S、硫化鉄(II)、FeS2、Fe2S3、またはMnSである。いくつかの実施形態で、セレンを含む組成物は、Se、セレン化鉄(II)、FeSe2、Fe2Se3、またはMnSeである。
【0066】
生分解性合金の分解速度は、MnX含有物のサイズ、形状および/または分散を変えることによっても制御され得る。より微細かつ分散する含有物は、より均一かつ迅速な分解をもたらす。一方で、大きな含有物は、より遅くかつ不均一な腐食を引き起こす。これらの状態の両方が、埋め込み型装置の目的に応じて、適切であり得る。したがって、含有物の大きさの制御は、吸収性合金の汎用性を最大化させるために望ましい。MnX含有物は、球状または球形から棒状および角度のある複数の形態も取ることができる。いくつかの実施形態で、MnX含有物は球状形態を有する。球状/球形のMnX含有物は、分散した均一な分解をもたらす。角度のあるまたは細長いMnX含有物は、より多くの表面積とより速い分解を有し得るが、それは、不規則な分解のため、早期のインプラント不具合を引き起こす可能性がある。したがって、球状/球形のMnX含有物は、いくつかの用途でより望ましい。
【0067】
生分解性合金の分解速度は、生分解性合金の形成前に、溶鋼中の溶存酸素濃度を制御することによっても制御することができる。溶鋼中の低濃度の溶存酸素は、より球状のMnX形状をもたらす。いくつかの実施形態で、球状含有物は、溶鋼中の150ppm未満の溶存酸素で形成される。いくつかの実施形態では、溶融混合物は、酸素を実質的に含まない。
【0068】
生分解性合金の分解速度は、生分解性合金の形成前に、溶鋼へのアルミニウム添加を制御することによっても制御することができる。アルミニウムは、含有物の形状に影響を及ぼす。溶鋼へのアルミニウムの添加は、後続の処理中に、MnX含有物に、より長く、より角度があり、より容易な変形可能を生じさせる。高いアルミニウム濃度は、より大きく、より不規則な含有物を生成する。いくつかの実施形態で、溶融混合物は、アルミニウムを実質的に含まない。
【0069】
生分解性合金の分解速度は、生分解性合金中のケイ素濃度を制御することによっても制御することができる。増加したケイ素濃度は、MnX含有物の幅に対する長さの比を増加させ、それによって、より不規則な方法で表面積および分解速度を増大させる。いくつかの実施形態では、溶融混合物は、ケイ素を実質的に含まない。いくつかの実施形態では、低シリコン、低酸素および低アルミニウムの合金鋼は、直径約1マイクロメートル~20マイクロメートル(例えば、直径1マイクロメートル~15マイクロメートル、直径1マイクロメートル~10マイクロメートル、または直径4マイクロメート~10マイクロメートル)の球状含有物を作成できる。いくつかの実施形態で、低シリコン、低酸素および低アルミニウムの合金鋼は、直径約1マイクロメートル、直径2マイクロメートル、直径3マイクロメートル、直径4マイクロメートルまたは直径5マイクロメートルの球状含有物を作成できる。
【0070】
生分解性合金の分解速度は、溶融冷却時間を制御することによっても制御され得る。溶融冷却時間も、MnX含有物のサイズおよび形態に影響を及ぼす。急速に冷却した溶融物は、より小さく、より分散した球状MnX含有物をもたらす。生分解性合金を製造するための冷却速度は、溶融温度、浸漬時間、およびインゴットの大きさに依存し、それは、使用される溶融法に依存して変化する。いくつかの実施形態では、生分解性合金は、10℃/分~60℃/分(例えば、10℃/分~60℃/分、20℃/分~60℃/分、20℃/分~50℃/分、または30℃/分~50℃/分)の範囲で冷却され得る。熱間加工後の冷却は、水中でクエンチすることによって60℃/分よりはるかに高速であり得る。
【0071】
アルミニウム、ケイ素および酸素の濃度は、当技術分野で公知の技術により、鋼溶融物中で制御できる。アルミニウム濃度およびシリコン濃度は、原材料の品質、および後続のエレクトロスラグ溶解(ESR)中で使用するスラグの組成を制御することによって制御され得る。減圧または不活性ガス下で、誘導炉内の合金の一次溶融は、溶融物中に溶解した雰囲気ガスの濃度を低下させる。酸素は、溶融物から、少なくとも2の二酸化ケイ素(SiO2)に対する酸化カルシウム(CaO)比を含有する、高度に塩基性スラグにより、およびCaOに対して非常に低い酸化アルミニウム(Al2O3)比により、スラグ内に除去されることができる。
【0072】
本発明の更に別の態様は、望ましい分解速度を備える生分解性合金の製造方法に関し、該方法は、100~3500ppmの硫黄を、少なくとも50重量%の鉄および少なくとも25重量%のマンガンを有する溶融混合物に添加して、それにより少なくとも0.01重量%の硫黄を有する生分解性合金を作成することを含む。
【0073】
本発明の詳細は、下以下の付随する説明に記載される。本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料が本発明の実施または試験で使用され得るが、例示的な方法および材料についてこれから説明する。本発明の他の特徴、目的および利点は、説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。本明細書および添付の特許請求の範囲にて、単数形は、別途文脈が明確に指示されない限り、複数形も含む。特段の記載がない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で引用されるすべての特許および出版物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0074】
定義
本明細書で使用する場合「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」または「含む(containing)」と同義であり、包括的または非制限的であり、追加の記載していない部材、要素または方法の工程を除外しない。「~からなる(consisting of)」は、「~からなる(consisting of)」という語句の後に来るものすべてを含み、それに限定されることを意味する。したがって「~からなる(consisting of)」という語句は、挙げられる要素が必要または必須であり、かつ他の要素は存在しない場合があることを示す。「~から本質的になる(consisting essentially of)」は、この語句の後に挙げられる任意の要素を含み、他の要素については、挙げられる要素の開示内容で指定された活性または作用を妨げない、またはそれに寄与しない要素に限定することを意味する。したがって、「~から本質的になる(consisting essentially of)」という語句は、挙げられる要素は必要または必須であるが、他の要素については任意であり、挙げられる要素の活性または作用に実質的に影響を及ぼすかどうかに応じて、他の要素が存在する場合もあれば存在しない場合もあることを示す。
【0075】
冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法的目的語の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために本明細書で使用される。例えば、「(an)要素」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0076】
「および/または」という用語は、特に指示がない限り、「および」または「または」のいずれかを意味するために本開示で使用される。
【0077】
「約」という用語は、所与の値または範囲の±10%以内を意味する。
【0078】
本明細書で使用する場合「生分解性」「生体吸収性」および「生体再吸収性」という用
語はすべて、生理環境で、すなわち身体内でまたは身体組織内部で、例えば再吸収および吸収を含む生物学的プロセスによって、化学的に分解されることが可能な材料を意味する。化学分解のこの過程は一般的に、例えば、数週間から数か月の期間内(例えば、18か月以内、24か月以内、または36か月以内)での材料および/または器具の完全な分解をもたらす。この速度は、構造的に未変化のまま、少なくとも36か月を超えかつ場合によってはレシピエントの寿命を通してずっと身体に留まっている、より「耐分解性」または永続的な材料および/または器具(例えば、ニッケル-チタン合金(「Ni-Ti」)またはステンレス鋼から構成されるもの)とは対照的である。本明細書で使用する生分解性金属は、栄養金属(例えば、鉄およびマンガンなどの金属)を含む。これらの栄養金属および金属合金は、哺乳動物の身体中で生物学的有用性を有し、生物学的経路によって使用される、またはそれに取り込まれる。
【実施例0079】
本開示は、以下の実施例および合成例によって更に例証され、これらは、本開示の範囲または趣旨を本明細書に記載の特定の手順に限定するものと見なされるべきではない。特定の実施形態を例示するために実施例が提供されること、およびそれにより本開示の範囲に対して何の制限も意図されないことを理解されたい。本開示の趣旨および/または添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、それら自体が当業者に提案し得る、様々な他の実施形態、修正ならびにその等価物に対する手段が取られ得ることを更に理解されたい。
【0080】
実施例1
28.3%のマンガン、0.08%の炭素、0.0006%の窒素、0.01%未満のケイ素、0.005%未満の亜リン酸、0.0057%の硫黄および残部は鉄を含有するFe-Mn合金は、エレクトロスラグ再溶融(ESR)炉の二次溶融のための電極に真空誘導炉で融解させた。0.0012%の硫黄分を、ESRの後に測定した。得られたインゴットはアップセット鍛造されて、中間サイズに熱延されて、厚さ0.094インチまで冷延された。鍛造製品形態は、微細構造が長手方向配向で試験されたとき、細長いMnS二次相を含んだ。
【0081】
実施例2
0.15%超の硫黄を含有するFe-28Mn組成物は、真空誘導溶融されて、複数の形状の空洞を含有するセラミックインベストメント型内に注がれた。固化の後、セラミック注型成形シェルは取り除かれ、鋳造物はグリットブラストにより洗浄されて、鋳造物は熱間静水圧プレスされて、内部多孔を除去した。鋳造物は、微細構造が横方向および長手方向配向の両方で試験されたとき、球状MnS二次相を含んだ。
【0082】
実施例3
実施例1からのFe-28Mn合金の量を誘導溶融させて、不規則な金属粉末の作成のために水噴霧器へ移動させた。水を噴霧した粉は、所望の粒径分布を提供するために分類されて、ポリマー結合剤を、金属射出成形(MIM)による高密度化の前に添加した。固化したままのMIM製品形態は、結合剤を除去するために、中間温度まで加熱された。MIM製品形態は、微細構造が横方向および長手方向配向の両方で試験されたとき、球状MnS二次相を含んだ。
【0083】
実施例4
硫黄は、28%のマンガン、0.2%のニオブ、0.08%の炭素、残部は鉄を含有するFe-Mn合金の真空誘導溶融に意図的に添加されなかった。インゴットは、均質化され、熱間加工され、脱スケールされた。矩形片がインゴットから切り取られて、洗浄され、直径を測定されて、試料は秤量されて、腐食試験が、14~15日間、7.4±0.2のpHで37℃にて重炭酸ナトリウムを追加したハンクス液で実行された。試料は再秤量
されて、1.3928mg/平方インチ/日の腐食速度の計算結果を得た。
【0084】
実施例5
硫黄は、28%のマンガン、0.2%のニオブ、0.08%の炭素、残部は鉄を含有するFe-Mn合金の真空誘導溶融に添加された。固化インゴット中で測定された硫黄分は、400ppmの硫黄だった。インゴットは、均質化され、熱間加工され、脱スケールされた。矩形片がインゴットから切り取られて、洗浄され、直径を測定されて、試料は秤量されて、腐食試験が、14~15日間、7.4±0.2のpHで37℃にて重炭酸ナトリウムを追加したハンクス液で実行された。試料は再秤量されて、3.8142mg/平方インチ/日の腐食速度の計算結果を得た。
【0085】
実施例6
硫黄は、28%のマンガン、0.2%のニオブ、0.08%の炭素、残部は鉄を含有するFe-Mn合金の真空誘導溶融に添加された。固化インゴット中で測定された硫黄分は、520ppmの硫黄だった。インゴットは、均質化され、熱間加工され、脱スケールされた。矩形片がインゴットから切り取られて、洗浄され、直径を測定されて、試料は秤量されて、腐食試験が、14~15日間、7.4±0.2のpHで37℃にて重炭酸ナトリウムを追加したハンクス液で実行された。試料は再秤量されて、6.7569mg/平方インチ/日の腐食速度の計算結果を得た。
【0086】
実施例7
出願人は、鉄と28%のマンガンの生分解性合金に対して400百万分率(ppm)および520ppmの硫黄を添加して腐食速度を評価した。腐食速度は、追加の硫黄を含まない同じ合金と比較した。
【0087】
2週間にわたって、腐食速度は、硫黄400ppmを添加した試料で2.9倍増大し、硫黄520ppmを添加した試料で4.8倍増大した。
【0088】
ΔfG=-118.0kJK-1mol-1(キロジュール毎ケルビン度モル)のギブス自由エネルギーの変化により、硫化鉄(FeS)(II)は、溶融物中のMnSへ自然に転換する。出願人は、鋼構造中でMnS析出物を形成するために、28%のマンガンを含有する生分解性鋼へFeSを意図的に添加することによる腐食速度への影響を調べた。
【0089】
方法:Bio4生分解性鋼(28%のMn、0.2%Nb、0.08%C、残部は鉄)のインゴットを、FeSとして500および2,500ppmで添加した硫黄と共に溶融させた。インゴットは溶融され、均質化され、熱間加工された(熱鍛造および熱延の両方)。インゴットの試料は、追加のFeSのないBio4インゴットからの薄片と比較した。硫黄濃度は、最終インゴットで測定した。
【0090】
試料の製造:インゴットを、250ミクロンのアルゴン分圧による減圧下で誘導溶融させた。硫化物を、溶融中の硫化物の損失を防ぐためのFeSとして添加した。インゴットを減圧下で均質化し、熱間鍛造および熱延により加工した。各熱間加工したインゴットの試料を、ダイヤモンド冶金鋸を使用して薄片から矩形片を切断して、2400グリットのサンドペーパーで研磨することによって整え、平滑な表面を作成するために電解研磨することにより、腐食試験のために準備した。試料を最近接の0.001インチまで測定して、測定値から表面積を計算した。試料を、最近接の0.1mgまで秤量した。
【0091】
腐食試験:試料を、14~15日間、37℃にて7.4±0.2のpHで重炭酸ナトリウムを添加したハンクス液(Sigma H9269-1L)に浸漬させた。pHは、溶液上方のヘッドスペースのCO2濃度を調整することにより維持した。
【0092】
試験溶液内に置かれる前に、試料を測定かつ秤量して、試験終了後、再秤量した。腐食生成物は、1分間の超音波撹拌下で蒸留水中で除去され、それぞれ1分間の超音波浴の10W/V%クエン酸の複数の処理が続いた。試料は、各処理サイクル後、蒸留水ですすがれ、乾燥し、秤量された。腐食除去の終点は、ASTM G1-03(2017年再承認)のパラグラフ7.1.2.1~7.1.2.2に示すように、重量損失対処理のプロットの傾斜の変化により測定した。
【0093】
解析:各試料の表面積を計算した。それから腐食速度は、ハンクス液への曝露のmg/平方インチ/日での損失として計算した。
【0094】
結果:添加した硫黄の目標濃度は500および2500ppmであったが、最終的なインゴットはそれぞれ400および520ppmを含むだけだった。残りの添加した硫黄は、溶融るつぼ中に残る頭蓋骨から消えた。表2は、表面積、重量損失g、曝露日数、および計算した特定損失(損失/平方インチ/日 mg)を示す。
【表2】
【0095】
露出の1日当たりの露出の平方インチ当たりの損失で測定される腐食速度は、400ppmの硫黄を有する試料で2.9倍、および520ppmの硫黄濃度で4.8倍増加した。
【0096】
考察:この実験で出願人は、28%のマンガン、0.2%のニオブ、0.08%の炭素および残部は鉄の鋼装填に、FeSを加えて、MnS析出物を最終的な合金鋼に形成した。ΔfG=-118.0kJK-1mol-1のギブス自由エネルギーの変化により、FeSは、炉中でMnSへ自然に転換する。添加した硫黄の目標濃度は、0.05%(500ppm)および0.25%(2500ppm)だった。合金中の最終的な測定値は、400ppmおよび520ppmだった。装填の残りの部分は、るつぼに付着したままになっている頭蓋骨として溶融るつぼから消え、それは頭蓋骨の解析により検証した。400および520ppmの測定値は、研究室で利用可能な最高標準が270ppmだったので、わずかに低くてもよい。
【0097】
腐食は表面積の現象であり、特に、粒子の現在の表面層を越えて粒子境界の下方で腐食が進行するのを防ぐために作製される、Bio4鋼の変異型による。局所感受性を腐食に増大させて、および反応性含有物を囲む表面積の形状のインプラント表面に、追加の疑似腐食表面積を加える両方の、表面の特徴を形成することによって、腐食速度が増大され得ることを示すために、この実験を始めた。この実施例は、2マイクロメートル×4マイクロメートルの卵形固体としておおまかに成形した含有物を含んだ。
【0098】
結論:本明細書に開示される他の実験で示したように、硫黄成分をマンガンに富む合金に加えることは、制御可能な方法で腐食速度を上昇させる。
【0099】
等価物
本発明を上述の特定の実施形態に関連して説明してきたが、その多くの代替、変更および他の変形が当業者には明らかでああろう。そのようなすべての代替、変更および変形は、本発明の趣旨および範囲内にあることが意図されている。
【0100】
本発明の好ましい実施形態によれば、例えば、以下が提供される。
(項1)
医療用インプラントの使用に適している生分解性合金であって、前記生分解性合金が、少なくとも50重量%の鉄、少なくとも25重量%のマンガンおよび少なくとも0.01重量%の硫黄および/またはセレンを含み、
前記生分解性合金が非磁性である、前記生分解性合金。
(項2)
クロムを実質的に含まない、上記項1に記載の生分解性合金。
(項3)
ニッケルを実質的に含まない、上記項1または2に記載の生分解性合金。
(項4)
硫黄およびマンガンが、硫化マンガンの二次相を形成する、上記項1~3のいずれか一項に記載の生分解性合金。
(項5)
セレンおよびマンガンが、セレン化マンガンの二次相を形成する、上記項1~3のいずれか一項に記載の生分解性合金。
(項6)
前記硫黄または前記セレンが、前記生分解性合金中に均等に分散する、上記項1~5のいずれか一項に記載の生分解性合金。
(項7)
少なくとも60重量%の鉄を含む、上記項1~6のいずれか一項に記載の生分解性合金。
(項8)
少なくとも30重量%のマンガンを含む、上記項1~7のいずれか一項に記載の生分解性合金。
(項9)
鍛造製品、鋳造物または粉末冶金製品の形態である、上記項1~8のいずれか一項に記載の生分解性合金。
(項10)
生理的条件下で、約0.155~3.1mg/cm
2
の分解速度を有する、上記項1~9のいずれか一項に記載の生分解性合金。
(項11)
0.01重量%~0.35重量%の硫黄および/またはセレンを含む、上記項1~10のいずれか一項に記載の生分解性合金。
(項12)
0.01重量%~0.20重量%の硫黄および/またはセレンを含む、上記項11に記載の生分解性合金。
(項13)
0.02重量%~0.10重量%の硫黄および/またはセレンを含む、上記項11に記載の生分解性合金。
(項14)
望ましい分解速度を備える生分解性合金の作製方法であって、前記方法が、
(a)前記生分解性合金を作製するために硫黄および/またはセレンを含む組成物を溶融混合物に加えることであって、前記溶融混合物が少なくとも50重量%の鉄および少なくとも25重量%のマンガンを有し、前記生分解性合金が少なくとも0.01重量%の硫黄および/またはセレンを含む、前記加えることと、
(b)前記生分解性合金を冷却することと、を含む、前記方法。
(項15)
前記生分解性合金がクロムを実質的に含まない、上記項14に記載の方法。
(項16)
前記生分解性合金がニッケルを実質的に含まない、上記項14または15に記載の方法。
(項17)
前記硫黄および/またはセレンが100~3500百万分率で添加される、上記項14~16のいずれか一項に記載の方法。
(項18)
前記硫黄を含有する組成物が、硫化鉄(II)である、上記項14~17のいずれか一項に記載の方法。
(項19)
前記硫黄または前記セレンが、前記生分解性合金中に均等に分散する、上記項14~18のいずれか一項に記載の方法。
(項20)
少なくとも60重量%の鉄を含む、上記項14~19のいずれか一項に記載の方法。
(項21)
少なくとも30重量%のマンガンを含む、上記項14~20のいずれか一項に記載の方法。
(項22)
前記溶融混合物がケイ素を実質的に含まない、上記項14~21のいずれか一項に記載の方法。
(項23)
前記溶融混合物がアルミニウムを実質的に含まない、上記項14~22のいずれか一項に記載の方法。
(項24)
前記溶融混合物が酸素を実質的に含まない、上記項14~23のいずれか一項に記載の方法。
(項25)
塩基性スラグを前記溶融混合物へ添加し、酸素を、前記溶融混合物から前記塩基性スラグに除去することを更に含む、上記項24に記載の方法。
(項26)
前記塩基性スラグが、少なくとも2の二酸化ケイ素に対する酸化カルシウムの比を含む、上記項25に記載の方法。
(項27)
前記生分解性合金が、30℃/分~60℃/分の速度で冷却される、上記項14~26のいずれか一項に記載の方法。
(項28)
0.01重量%~0.35重量%の硫黄および/またはセレンを含む、上記項14~27のいずれか一項に記載の方法。
(項29)
0.01重量%~0.20重量%の硫黄および/またはセレンを含む、上記項28に記載の方法。
(項30)
0.02重量%~0.10重量%の硫黄および/またはセレンを含む、上記項28に記載の方法。
(項31)
上記項1~13のいずれか一項に記載の生分解性合金を含む、埋め込み型医療装置。
(項32)
前記埋め込み型医療装置が、骨用ねじ、骨用アンカー、組織ステープル、頭蓋顎顔面再建プレート、外科用メッシュ、固定具、歯科用再建インプラント、およびステントからなる群から選択される、上記項31に記載の埋め込み型医療装置。
(項33)
望ましい分解速度を備える生分解性合金の作製方法であって、
前記方法が、100~3500ppmの硫黄を、少なくとも50重量%の鉄および少なくとも25重量%のマンガンを有する溶融混合物に添加して、少なくとも0.01重量%の硫黄を有する生分解性合金を作製することを含む、前記方法。