(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179623
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】移動体、巡回点検システム及び巡回点検方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20231212BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20231212BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20231212BHJP
【FI】
G05B23/02 Z
G05D1/02 H
G06Q10/20
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023173237
(22)【出願日】2023-10-04
(62)【分割の表示】P 2019019483の分割
【原出願日】2019-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(57)【要約】 (修正有)
【課題】移動体を用いたプラント設備の巡回点検において、図面データの事前準備や、特別な技術及び資格を有するオペレーターを必要とせず、点検対象及び点検ルートを記憶させることが可能な移動体、巡回点検システム及び巡回点検方法を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、作業者の巡回に帯同し、巡回経路を記憶する経路記憶部と、点検対象機器を記憶する機器記憶部とを備えた移動体と、この移動体を備える巡回点検システム及び巡回点検方法を提供する。これによれば、点検場所に係る図面データの事前準備や高度な技術を有するオペレーターを必要とせず、巡回点検に必要な情報を移動体に記憶させることができる。また、移動体に記憶させる巡回経路の変更が容易であることから、点検対象の変更があった場合においても、作業者の負荷を増大させることなく、速やかな対応が可能となる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント設備の巡回点検を行う移動体であって、
作業者の巡回に帯同し、巡回経路を記憶する経路記憶部と、
点検対象機器を記憶する機器記憶部とを備えたことを特徴とする、移動体。
【請求項2】
前記経路記憶部は、周辺環境の形状も記憶することを特徴とする、請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
プラント設備の巡回点検システムであって、
プラント設備の巡回点検を行う移動体と、
作業者の巡回に帯同し、巡回経路を記憶する経路記憶部と、
点検対象機器を記憶する機器記憶部とを備えたことを特徴とする、巡回点検システム。
【請求項4】
プラント設備の巡回点検方法であって、
プラント設備の巡回点検を行う移動体を、作業者の巡回に帯同させ、巡回経路を記憶させる経路記憶ステップと、
前記移動体に点検対象機器を記憶させる機器記憶ステップとを備えたことを特徴とする、巡回点検方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント設備の巡回点検を行う移動体、巡回点検システム及び巡回点検方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラントでは、設けられた設備や機器を維持管理するために、作業者による巡回点検が行われている。しかし、プラントは広い敷地内に多種かつ多数の設備や機器を備えるものである。このため、作業者がそれぞれの設備や機器を漏れなく確認するには、多大な労力を必要とする。また、プラント内の設備や機器が多機能化することに伴い、確認する項目が増加し、点検に係る作業負荷は増大している。近年の人口減による人手不足、人的コストを鑑みると、作業者による巡回点検については減らすことが好ましい。
【0003】
近年、プラント設備内に点検機能を有する無人移動体を巡回させ、作業者に代わって巡回点検を行う技術が注目されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、プラント設備や所定地域におけるプロセス値を検出するセンサーに、所望の位置に移動するための駆動手段を設けた自走センサーが記載されている。この自走式センサーは、敷設されたレール上を移動可能とすることや、GPS等の測位装置により自己の位置情報を取得し、コントロールセンターからの移動制御指令に応じて目的地まで移動可能とするものであることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたような自走式センサーは、移動位置を制御するために、あらかじめレールを敷設する必要があるため、コストが掛かるという問題がある。また、GPS等の測位装置(衛星測位システム)により取得した自己の位置情報を用いていることから、点検対象の設備及び機器が、衛星からの電波が届きにくい建屋内や地下に設けられた場合、使用が困難であるという問題がある。
【0007】
GPSのような衛星測位システムによる位置情報を用いることができない場合、無人移動体による巡回点検を実施するためには、オペレーターのマニュアル操作によって、あらかじめ無人移動体に点検対象及び点検ルートを記憶させることや、点検場所の地図(図面データ)を事前準備する必要がある。
特に、無人移動体として無人飛行体(ドローン等)を用いる場合、プラント内の設備や機器に接触しないように無人飛行体をコントロールする必要があることから、無人飛行体の高度な運転技術及び運転資格を有するオペレーターが必要となる。また、点検場所の三次元図面データが必要となるが、三次元図面データの作成には多くの情報処理を必要とし、コストが掛かるという問題がある。さらに、プラント内の設備や機器の撤去、更新、増設のように、点検対象に変更が生じるたびに、新しい図面データが必要となるとともに、オペレーターのマニュアル操作が必要となり、点検に係る作業負荷が増大するという問題がある。
【0008】
本発明の課題は、移動体を用いたプラント設備の巡回点検において、図面データの事前準備や、特別な技術及び資格を有するオペレーターを必要とせず、点検対象及び点検ルートを記憶させることが可能な移動体、巡回点検システム及び巡回点検方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、移動体を用いたプラント設備の巡回点検において、作業者の巡回点検に帯同することで、巡回経路と点検対象を記憶させる記憶部を設けることで、事前準備や高度な技術を有するオペレーターを必要とせず、巡回点検に必要な情報を移動体に記憶させることが可能となることを見出して、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の移動体、巡回点検システム及び巡回点検方法である。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の移動体は、プラント設備の巡回点検を行う移動体であって、作業者の巡回に帯同し、巡回経路を記憶する経路記憶部と、点検対象機器を記憶する機器記憶部とを備えたことを特徴とする。
この移動体によれば、作業者の巡回に帯同させることで、移動体に巡回経路を記憶させるため、点検場所に係る図面データの事前準備や高度な技術を有するオペレーターを必要とせず、巡回点検に必要な情報を移動体に記憶させることができる。また、移動体に記憶させる巡回経路の変更が容易であることから、プラント内の設備や機器の撤去、更新、増設など、点検対象の変更があった場合においても、作業者の負荷を増大させることなく、速やかな対応が可能となる。
【0011】
また、本発明の移動体の一実施態様としては、経路記憶部は、周辺環境の形状も記憶するという特徴を有する。
この特徴によれば、移動体が巡回経路とともに、周辺環境の形状(例えば、巡回経路周辺にある構造物(設備や機器等)の表面形状や配置場所の位置など)も記憶することで、移動体自身の位置に係る認識精度を上げるとともに、点検対象に変更が生じたことについての情報を得ることも容易となる。これにより、巡回点検に係る移動体の移動精度を上げることが可能となる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の巡回点検システムは、プラント設備の巡回点検システムであって、プラント設備の巡回点検を行う移動体と、作業者の巡回に帯同し、巡回経路を記憶する経路記憶部と、点検対象機器を記憶する機器記憶部とを備えたことを特徴とする。
この巡回点検システムによれば、巡回点検を行う移動体を用いることで、作業者による巡回点検の作業負荷を減少させることができるとともに、経路記憶部及び機器記憶部により、作業者の巡回に帯同させることで巡回経路を記憶することができるため、点検場所に係る図面データの事前準備や高度な技術を有するオペレーターを必要とせず、巡回点検に必要な情報を得ることが可能となる。また、移動体に記憶させる巡回経路の変更が容易であることから、プラント内の設備や機器の撤去、更新、増設など、点検対象の変更があった場合においても、作業者の負荷を増大させることなく、速やかな対応が可能となる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の巡回点検方法は、プラント設備の巡回点検方法であって、プラント設備の巡回点検を行う移動体を、作業者の巡回に帯同させ、巡回経路を記憶させる経路記憶ステップと、移動体に点検対象機器を記憶させる機器記憶ステップとを備えたことを特徴とする。
この巡回点検方法によれば、作業者の巡回に帯同させることで、移動体に巡回経路を記憶させるため、点検場所に係る図面データの事前準備や高度な技術を有するオペレーターを必要とせず、巡回点検に必要な情報を移動体に記憶させることができる。また、移動体に記憶させる巡回経路の変更が容易であることから、プラント内の設備や機器の撤去、更新、増設など、点検対象の変更があった場合においても、作業者の負荷を増大させることなく、速やかな対応が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、移動体を用いたプラント設備の巡回点検において、図面データの事前準備や、特別な技術及び資格を有するオペレーターを必要とせず、点検対象及び点検ルートを記憶させることが可能な移動体、巡回点検システム及び巡回点検方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施態様の移動体を適用するプラント設備を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施態様の移動体の構造を示す概略説明図である。
【
図3】本発明の第1の実施態様の巡回点検方法に係る工程説明図である。
【
図4】本発明の第1の実施態様の巡回点検方法に係る他の工程説明図である。
【
図5】本発明の第2の実施態様における移動体の構造を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る好適な実施態様について、添付図面を参照して詳細に説明する。
なお、実施態様に記載する移動体及び巡回点検システムについては、本発明に係る移動体及び巡回点検システムを説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。また、実施態様に記載する巡回点検方法についても、本発明に係る移動体及び巡回点検システムを用いた巡回点検方法を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明の移動体、巡回点検システム及び巡回点検方法は、プラント設備の維持管理における巡回点検に係るものである。巡回点検対象であるプラント設備は、特に限定されないが、衛星測位システムによる位置情報の利用が困難であるプラント設備が好適である。例えば、屋内や地下に設備や機器が配置されているプラント設備が特に好適である。
なお、実施態様に記載するプラント設備については、本発明を説明するための例示であって、これに限定されるものではない。
【0018】
〔第1の実施態様〕
(プラント設備の巡回点検を行う移動体及び巡回点検システム)
図1は、本発明の第1の実施態様における移動体を適用するプラント設備を示す概略説明図である。また、
図2は、本発明の第1の実施態様における移動体の構造を示す概略説明図である。
本発明の第1の実施態様の移動体1aは、
図1に示すように、プラント100内の巡回点検を行うものである。また、本実施態様における移動体1aは、
図2に示すように、本体2に対し、移動手段3、経路記憶部4、機器記憶部5、点検項目情報取得部6、点検項目情報送受信部7を備えている。なお、
図2において、一点鎖線で示された矢印は、制御又は入力可能に接続されていることを示す。
【0019】
本実施態様におけるプラント100は、複数の機器101を備えている。なお、プラント100及び機器101の種類は、特に限定されない。また、
図1において、3台の機器101を示しているが、機器の台数も特に限定されるものではない。
【0020】
本体2は、筐体20を有し、巡回点検に必要な構造を収容するものである。
本体2は、巡回点検に必要な構造を一体にし、移動を容易にするためのものであればよく、筐体20の形態については特に限定されない。例えば、形状については、立方体や直方体のような箱型構造や、球体などが挙げられる。また、例えば、材質については、特に限定されないが、軽量、かつ強度を有する材質を用いることが挙げられる。また、プラント設備内を移動するため、耐薬品性や耐水性を備える材質を用いることがより好ましい。また、筐体20の大きさも特に限定されないが、プラント設備においては、配管などが集まり、空間が狭い箇所も存在する。したがって、筐体20を小型化し、移動体1a全体の小型化を可能とすることが好ましい。これにより、巡回点検時に移動体1aが移動不能な範囲を削減することが可能となる。
【0021】
移動手段3は、本体2を移動させるためのものであり、駆動部31と駆動制御部32を備えている。
移動手段3は、本体2が安定して移動することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。なお、本体2の移動は、地上を走行するものであってもよく、空中を移動するものであってもよい。
【0022】
移動手段3の一例としては、本体2が地上を走行する地上走行体である場合、駆動部31として、1つ以上の車輪と、車輪を回転駆動するモーターを備え、駆動制御部32として、モーターの制御装置を備え、本体2が前後、左右に走行可能なものとすることが挙げられる。なお、安定した走行を行うためには、車輪を4つ設ける構造とすることが好ましい。また、走行による振動を抑制するための衝撃吸収構造を設けるものとしてもよい。
また、移動手段3の他の例としては、本体2が空中を移動する飛行体である場合、駆動部31として、回転翼と、回転翼を回転駆動するモーターとを備え、駆動制御部32として、モーターの制御装置を備え、本体2が前後、左右、上下に移動可能なものとすることが挙げられる。
【0023】
経路記憶部4は、作業者Aの巡回に帯同して、巡回経路を記憶するものである。
経路記憶部4は、巡回を行う作業者Aを認識する作業者認識部41と、作業者Aを追随する作業者追随部42と、作業者Aを追随した工程を記憶する工程記憶部43とを備えている。また、経路記憶部4は、移動手段3における駆動制御部32と、制御可能に接続されている。
【0024】
作業者認識部41は、移動体1aに記憶させる巡回経路を示す作業者Aを、移動体1aに認識させるものである。作業者認識部41は、作業者Aを特定することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。
例えば、作業者認識部41としては、作業者Aの外観(後姿)を記録するもの、作業者Aが身に着ける帽子、上着などに付与した識別記号を読み取るもの、作業者Aが携帯する情報端末に設けられた近距離無線通信ユニットからの通信を受信するものなどが挙げられる。
【0025】
作業者追随部42は、作業者Aを追随するためのものであり、作業者Aの移動に合わせて移動手段3の駆動部31が駆動するように、駆動制御部32を制御するものである。
作業者追随部42は、本体2と作業者認識部41で特定した作業者Aとの距離Lを計測する手段を有し、この距離Lを略一定に保った状態で、作業者Aを追随するように移動手段3の駆動制御部32を制御する手段を有するものである。距離Lの計測手段や駆動制御部32の制御手段は特に限定されず、公知の技術を用いるものとすることができる。
なお、作業者追随部42による作業者Aの追随における作業者Aと移動部1aの位置関係は特に限定されない。例えば、移動体1aが巡回する作業者Aの後ろを追跡するものとすることや、移動体1aが巡回する作業者Aと並走するものとすることが挙げられる。
【0026】
工程記憶部43は、作業者追随部42により、作業者Aを追随した工程を記憶するものである。
工程記憶部43は、作業者追随部42が駆動制御部32を制御した工程を記憶する手段を有するものである。例えば、作業者Aを追随した際、駆動制御部32に対して入力された前後、左右、上下への移動に係る指示命令を記録するものや、本体2の速度や方向を測定して記録するものなどが挙げられる。
また、工程記憶部43で記憶した工程は、作業者追随部42を介して駆動制御部32に入力可能とする。これにより、巡回点検の始点が同一であれば、移動体1aが作業者Aを追随したときの巡回経路を再現することができ、移動体1a単体による巡回点検が可能となる。
【0027】
機器記憶部5は、点検対象となる機器101を記憶するものである。
機器記憶部5は、機器101の位置を記憶する手段を有するものである。記憶する手段は特に限定されないが、作業者Aにより通知するものや、機器101が発信する情報を読み取るものが挙げられる。例えば、作業者Aが巡回中に停止した箇所又はタイミングを記憶するものや、作業者Aが携帯する情報端末を操作し、このとき発する特定の信号を受信した箇所又はタイミングを記憶するものが挙げられる。また、機器101本体から特定の信号を送信するようにし、この信号を受信するものや、機器101に識別記号を付与し、この識別記号を読み取るものなどが挙げられる。
また、このとき、後述する点検項目情報取得部6により取得すべき点検項目に係る情報について、併せて記憶させるものとしてもよい。これにより、機器101ごとに適切な点検項目に係る情報を得ることが可能となる。
【0028】
点検項目情報取得部6は、点検項目に係る情報を取得するためのものである。
点検項目に係る情報については、特に限定されない。例えば、画像(静止画・動画)、温度、音(振動)、においなどが挙げられる。このような点検項目に係る情報を取得する対象は、機器101自体を情報取得対象とするものであってもよく、機器101近傍を情報取得対象とするものであってもよい。
また、点検項目に係る情報の他の例としては、機器101に設けられている計器類が示す値などが挙げられる。
【0029】
点検項目情報取得部6は、移動体1aが、上述した機器記憶部5に記憶された点検対象の機器101に到達したときには、点検項目に係る情報を必ず取得するものとするが、これに限定されない。点検項目に係る情報の内容に応じて、巡回点検中、常時点検項目に係る情報を取得するようにしてもよい。
【0030】
点検項目情報取得部6としては、上述した点検項目に係る情報を取得可能なセンサー、検出器や記録装置が挙げられる。例えば、静止画や動画の記録が可能なカメラ、温度センサー、音センサー、においセンサー、計器類の読み取り装置などが挙げられる。
また、点検項目情報取得部6は、複数のセンサー、検出器や記録装置を組み合わせ、複数のパラメータに係る情報を取得可能となるようにすることが好ましい。これにより、移動体1aを一度巡回させることで、点検項目に係る情報を十分に得ることが可能となるとともに、移動体1aにより必要な情報を収集することが可能な点検対象機器の範囲を広げることができる。したがって、プラント設備の巡回点検における作業負荷を低減させることが可能となる。
【0031】
画像撮影・記録装置であるカメラは、静止画・動画を記録することができるものであればよい。また、カメラの種類は、機器101のある周辺環境に応じて選択することが好ましい。例えば、機器101及びその周囲に光源がなく、明るさが確保できない場合、赤外線カメラのように、暗い場所でも記録が可能であるものを用いることが好ましい。また、機器101及びその周囲に十分な明るさがある場合や、作業者の目視に近い状況下で、機器101の点検項目に係る情報を得る必要がある場合、可視光カメラを用いることが好ましい。
【0032】
温度センサーは、機器101自体の温度を測定するものであってもよく、機器101周辺の温度を測定するものであってもよい。また、温度センサーの種類は特に限定されない。温度センサーとしては、例えば、バイメタル式や熱膨張式の温度計、熱電対や測温抵抗体を用いた温度センサー、赤外線の検知による温度センサー、サーモカメラなどが挙げられる。
【0033】
音センサーは、音質(周波数)、音量など、音に関する情報を検出することができるものであればよく、音センサーの種類は特に限定されない。なお、検出対象となる音は、人間が聞くことのできる音だけではなく、振動、超音波なども含むものである。音センサーとしては、例えば、マイクロホン、超音波検出器、振動センサーなどが挙げられる。
【0034】
においセンサーは、機器101の異常時に発生することが想定される臭気を検出対象とすることが好ましい。例えば、プラント100が下水処理場などの水処理プラントである場合、被処理水である下水に含まれるアンモニアや硫黄系化合物に由来する臭気成分を検出することが挙げられる。また、プラント100が火力発電やバイオマス発電などの発電プラントである場合、燃料やタービンの潤滑油等に用いられる炭化水素系化合物に由来する臭気成分を検出することが挙げられる。
【0035】
においセンサーとしては、例えば、特定の単成分(例えば、アンモニア、メチルメルカプタン等の特定悪臭物質)を測定する臭気測定器や、複合成分(例えば、硫黄系化合物類、炭化水素系化合物類、アルデヒド類、低級脂肪酸類等)を測定する臭気測定器が挙げられる。また、成分を特定せず、広義の臭気を検出するものとして、脂質膜や半導体を利用したにおいセンサーが挙げられる。
【0036】
計器類の読み取り装置としては、機器101に設けられた計器類が示す値を取得できるものであればよく、特に限定されない。例えば、計器類の画像を取得するものや、計器類がデータ送信機能を有している場合、当該データを受信するデータ受信機能を有するものなどが挙げられる。
【0037】
点検項目情報送受信部7は、点検項目情報取得部6において得られた情報について、外部と送受信を行うためのものである。点検項目情報取得部6と点検項目情報送受信部7は、お互いに入出力可能となるように接続されている。
【0038】
点検項目情報送受信部7が情報の送受信を行う手段は、特に限定されず、公知の技術を用いることができる。なお、情報の送受信先は、管理室であってもよく、作業者が携帯する情報端末であってもよい。
【0039】
点検項目情報送受信部7から送信される情報は、点検項目情報取得部6において得られた情報を直接送信するものであってもよく、点検項目情報取得部6において得られた情報のうち、あらかじめ設定した設定値を超えた場合など、異常が発生していると判断される内容のものについて、警報とともに情報を送信するものであってもよい。
点検項目情報取得部6において得られた情報を直接送信することで、点検項目に係る情報をデジタルデータ化して保管することが容易となり、点検項目のデータ漏れを防ぐことが可能となる。また、点検項目情報取得部6において得られた情報のうち、異常が発生していると判断される内容のものについて、警報とともに送信する場合、その後の対応を速やかに実施することが可能となる。
【0040】
点検項目情報送受信部7から情報を送信する頻度については、適宜選択することができる。例えば、常時情報を送信するものや、所定時間ごとに情報を送信するものが挙げられる。また、管理室や作業者が携帯する情報端末などを介して、送信すべき情報の種類の選択及び指示と、情報の送信に係る命令が発信され、点検項目情報送受信部7がその命令を受信したときに、当該情報を送信すること等が挙げられる。
【0041】
(プラント設備の巡回点検方法)
図3及び
図4は、本実施態様におけるプラント設備の巡回点検方法に係る工程説明図である。なお、
図1及び
図2における説明と同一の構造については、同じ符号を使用しており、説明を省略する。
本実施態様におけるプラント設備の巡回点検方法は、上述した移動体1aを用い、作業者Aの巡回に帯同させ、巡回経路を記憶させる経路記憶ステップと、点検対象機器を記憶させる機器記憶ステップを含むものである。
【0042】
まず、
図3に示すように、プラント100内の地点Pを巡回経路の始点とし、移動体1aの作業者認識部41により、作業者Aを認識させる(経路記憶ステップ1)。
次に、
図4に示すように、作業者Aは巡回を開始し、移動体1aは、作業者追随部42により、作業者Aを追随する(経路記憶ステップ2-1)。このとき、工程記憶部43により、作業者追随部42が行った工程を記録する(経路記憶ステップ2-2)。
巡回の途中、作業者Aは点検対象の機器101についての情報を移動体1aに記憶させるため、機器101の前で停止、あるいは携帯する情報端末を介して、機器101の存在を移動体1aの機器記憶部5に記憶させる(機器記憶ステップ)。また、このとき、機器101において取得すべき点検項目に係る情報についても、移動体1aに記憶させるものとしてもよい。
これにより、移動体1aは、作業者Aの巡回に係る経路及び点検対象機器を記憶する。
【0043】
そして、移動体1aは、工程記憶部43の情報に基づき、地点Pを始点とし、移動手段3を制御することで、記憶した巡回経路に沿って巡回点検を行うことが可能となる。
また、機器記憶部5の情報に基づき、点検項目情報取得部6により、点検項目に係る情報を取得し、必要に応じて点検項目情報送受信部7を介して、管理室や情報端末に情報を送信する。
【0044】
以上のように、本実施態様における移動体、巡回点検システム及び巡回点検方法は、作業者の巡回に移動体を帯同させることで、移動体に巡回経路を記憶させるため、点検場所に係る図面データの事前準備や高度な技術を有するオペレーターを必要とせず、巡回点検に必要な情報を移動体に記憶させることができる。また、移動体に記憶させる巡回経路の変更が容易であることから、プラント内の設備や機器の撤去、更新、増設など、点検対象の変更があった場合においても、作業者の負荷を増大させることなく、速やかな対応が可能となる。
【0045】
〔第2の実施態様〕
図5は、本発明の第2の実施態様における移動体の構造を示す概略説明図である。
本発明の第2の実施態様の移動体1bは、第1の実施態様の移動体1aにおける経路記憶部4において、さらに周辺環境の形状を記憶する周辺環境記憶部44を備えるものである。ここで、周辺環境の形状とは、巡回経路周辺にある構造物(設備や機器等)の表面形状や配置場所の位置、巡回経路周辺の地形(傾斜、高低差等)などを指すものである。また、周辺環境の形状に係る情報は、移動体1b自身の位置を把握するために、移動体1bと巡回経路の周辺環境との相対的な位置関係を把握するための情報の一つとして利用することができるものである。
なお、第1の実施態様における説明と同一の構造については、説明を省略する。
【0046】
周辺環境記憶部44は、巡回経路の周辺環境の形状に係る情報を記憶するものである。
周辺環境記憶部44は、作業者Aの巡回に帯同している際、巡回経路上にある周辺環境の形状に係る情報を取得する手段を有するものである。例えば、画像撮影・記録装置や光・音(超音波)を用いたスキャナーなどが挙げられる。これにより、作業者追随部42によって作業者Aを追随する際、移動体1b自身の位置に係る情報量が増加し、より高い精度で巡回経路を記憶することが可能となる。
周辺環境記憶部44では、巡回経路に関する周辺環境のみに係る情報を得ることができればよく、プラント100全体の情報(地図データ)は必要としない。したがって、記憶対象となる情報量が膨大なものにならないという利点がある。
【0047】
周辺環境記憶部44を設けて、巡回経路を記憶させた場合、移動体1bは、プラント100における移動体1b自身の位置に係る情報を把握することが可能なため、巡回を開始する地点を固定する必要がなくなり、任意の位置から巡回点検を開始することができるようになる。
【0048】
また、周辺環境記憶部44は、移動体1b単体で巡回点検を行う際の周辺環境の形状に係る情報を取得し、記憶した周辺環境の形状に係る情報と比較演算を行う手段と、比較演算結果を外部(管理室や作業者の情報端末等)に送信する手段を設けるものとしてもよい。これにより、移動体1b単体で巡回点検を行う際、周辺環境に変更が生じていることを把握することが可能となるとともに、周辺環境の変更について管理室や作業者が速やかに認識することで、適切な対応が可能となる。
【0049】
また、周辺環境記憶部44で得られた周辺環境の形状に係る情報や上述した比較演算結果を基に、移動体1bの移動手段3を制御することで、移動体1bが機器101等に衝突することを避けるものとしてもよい。これにより、移動体1bを安全に移動させることが可能となる。
【0050】
以上のように、本実施態様における移動体は、巡回経路とともに、周辺環境の形状も記憶することで、移動体自身の位置に係る認識精度を上げるとともに、記憶する巡回経路の精度を上げることが可能となる。これにより、巡回点検に係る移動体の移動精度を上げることが可能となる。
また、本実施態様における移動体は、点検対象に変更が生じたことについての情報を得ることも容易となる。これにより、点検対象の変更があった場合においても、作業者の負荷を増大させることなく、速やかな対応が可能となる。
【0051】
さらに、本実施態様における移動体は、第1の実施態様の巡回点検システム及び巡回点検方法に適用するものとしてもよい。これにより、記憶する巡回経路の精度を上げ、点検対象の変更に速やかに対応することができる巡回点検システム及び巡回点検方法を提供することができる。
【0052】
なお、上述した実施態様は移動体、巡回点検システム及び巡回点検方法の一例を示すものである。本発明に係る移動体、巡回点検システム及び巡回点検方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る移動体、巡回点検システム及び巡回点検方法を変形してもよい。
【0053】
例えば、本実施態様の移動体において、点検項目に係る情報の送受信を行う点検項目情報送受信部を設ける代わりに、点検項目に係る情報をデータとして蓄積を行うデータ保管部を設けるものとしてもよい。
これにより、情報を外部に送受信することが困難な条件下においても、移動体内にデータが蓄積されることにより、作業者が適宜データ回収を行うことができる。
【0054】
また、本実施態様の移動体において、点検項目情報送受信部とデータ保管部の両方を設けるものとしてもよい。
このとき、点検項目に係る情報について、常時送受信を行う内容のもの、データとして蓄積し定期的に送受信を行う内容のものや、データとして保管して後に回収する内容のものなどに区別し、管理室や作業者が認識する情報に優先順位をつけるものとしてもよい。これにより、管理室や作業者の判断に係る時間を短縮させ、かつ記録として必要な情報を取得し、保管することが可能となる。
【0055】
また、本実施態様の巡回点検システム及び巡回点検方法は、点検対象の機器近傍に、移動体を係止する係止部を設け、点検対象機器の点検項目に係る情報の取得と、移動体の移動手段に対する給電(充電)を行うものとしてもよい。特に、移動体が飛行体である場合、点検項目に係る情報の取得時に、移動体の姿勢を安定させた状態とすることができる。また、情報の取得と給電を同一箇所で行うことにより、移動体の巡回を円滑に進めることが可能となる。なお、係止部は、別途設けるものとしてもよく、既設の機器の一部を活用するものとしてもよい。例えば、移動体を積載可能な架台を新たに設けるものや、既設の機器における水平な箇所を活用するものなどが挙げられる。
【0056】
また、本実施態様の巡回点検システム及び巡回点検方法は、巡回点検を行う移動体と、経路記憶部及び機器記憶部とを別体に設けるものとしてもよい。このとき、移動体には移動手段と点検項目に係る情報を取得する手段とを備え、経路記憶部及び機器記憶部で記憶した情報を、外部からの情報として受信して活用するものとすることが挙げられる。これにより、移動体に不具合が生じ交換・更新が行われた場合や、移動体の台数を増やした場合など、新しい移動体を巡回点検に使用する際に、新しい移動体を作業者の巡回に再度帯同させることなく、巡回点検に必要な巡回経路及び点検対象機器の情報を引き継ぐことが可能となる。
【0057】
また、本実施態様の巡回点検システム及び巡回点検方法は、移動体として、地上走行体又は飛行体を用いるものであればよいが、地上走行体と飛行体を併用するものとしてもよい。これにより、点検可能な範囲を広げ、巡回点検の効率を向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のプラント設備の巡回点検を行う移動体、巡回点検システム及び巡回点検方法は、プラント設備の維持管理に好適に利用されるものである。特に、衛星測位システムによる位置情報の取得が困難な条件下にあるプラント設備の維持管理に好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0059】
1a,1b 移動体、2 本体、20 筐体、3 移動手段、31 駆動部、32 駆動制御部、4 経路記憶部、41 作業者認識部、42 作業者追随部、43 工程記憶部、44 周辺環境記憶部、5 機器記憶部、6 点検項目情報取得部、7 点検項目情報送受信部、100 プラント、101 機器、A 作業者、L 移動体と作業者の距離、P 巡回開始地点
【手続補正書】
【提出日】2023-11-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント設備の巡回点検を行う移動体であって、
作業者の巡回に帯同し、巡回経路と該経路の周囲環境の形状を記憶する経路記憶部と、
点検対象機器を記憶する機器記憶部と、
前記作業者を追随して認識した工程を記憶する工程記憶部を備えることを特徴とする、移動体。
【請求項2】
プラント設備の巡回点検システムであって、
プラント設備の巡回点検を行う移動体と、
移動体の巡回した巡回経路と該経路の周囲環境の形状を記憶する経路記憶部と、
点検対象機器を記憶する機器記憶部と、
前記作業者を追随して認識した工程を記憶する工程記憶部を備えることを特徴とする、巡回点検システム。
【請求項3】
プラント設備の巡回点検方法であって、
プラント設備の巡回点検を行う移動体が巡回した巡回経路と該経路の周囲環境の形状を記憶する経路記憶ステップと、
点検対象機器を記憶する機器記憶ステップと、
前記作業者を追随して認識した工程を記憶する工程記憶ステップと、を備えることを特徴とする、巡回点検方法。
【請求項4】
プラント設備の巡回点検プログラムを記録するプログラム記録媒体であって、
プラント設備の巡回点検を行う移動体の巡回した巡回経路と該経路の周囲環境の形状を記憶する経路記憶ステップと、
点検対象機器を記憶する機器記憶ステップと、
前記作業者を追随して認識した工程を記憶する工程記憶ステップと、を実行する巡回点検プログラムを記録することを特徴とする、コンピュータ読み取り可能なプログラ記録媒体。