(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179647
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20231212BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20231212BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20231212BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20231212BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20231212BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20231212BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20231212BHJP
H01L 21/8234 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L29/78 652G
H01L29/78 657D
H01L29/78 655B
H01L29/78 658A
H01L21/265 F
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
H01L21/265 602C
H01L21/322 L
H01L29/78 652Q
H01L29/78 652P
H01L29/06 301G
H01L29/78 655G
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/91 C
H01L29/78 657A
H01L29/78 657F
H01L29/78 658H
H01L27/06 102A
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023175463
(22)【出願日】2023-10-10
(62)【分割の表示】P 2022512697の分割
【原出願日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2020066324
(32)【優先日】2020-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 美佐稀
(72)【発明者】
【氏名】吉村 尚
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 博
(72)【発明者】
【氏名】窪内 源宜
(72)【発明者】
【氏名】根本 道生
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水素の注入位置から離れた領域まで、水素が容易に拡散できるび半導体装置の製造方法及び半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置は、半導体基板の下面側に配置され、2個以上のドーピング濃度ピークを有する第1導電型のバッファ領域20と、バッファ領域20と半導体基板の上面との間に配置され、バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高い第1導電型の高濃度領域150と、バッファ領域20と半導体基板の下面との間に配置され、高濃度領域150よりもドーピング濃度の高い第1導電型又は第2導電型の下面領域とを備え、バッファ領域20のドーピング濃度ピーク111のうち、半導体基板の下面に最も近い最浅ドーピング濃度ピーク111-1は、他のドーピング濃度ピークよりも高濃度の水素ドナーの濃度ピークであり、最浅ドーピング濃度ピークのピーク濃度Aと、他のドーピング濃度ピークの平均ピーク濃度Bとの比A/Bが200以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板と、
前記半導体基板の前記下面側に配置され、前記半導体基板の深さ方向において2個以上のドーピング濃度ピークを有する、第1導電型のバッファ領域と、
前記バッファ領域と前記半導体基板の前記上面との間に配置され、前記深さ方向において50μm以上の長さを有し、バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高い第1導電型の高濃度領域と、
前記バッファ領域と前記半導体基板の前記下面との間に配置され、前記高濃度領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型または第2導電型の下面領域と
を備え、
前記バッファ領域の前記ドーピング濃度ピークのうち、前記半導体基板の前記下面に最も近い最浅ドーピング濃度ピークは、他の前記ドーピング濃度ピークよりも高濃度の水素ドナーの濃度ピークであり、
前記最浅ドーピング濃度ピークのピーク濃度Aと、他の前記ドーピング濃度ピークの平均ピーク濃度Bとの比A/Bが200以下である半導体装置。
【請求項2】
前記半導体基板の前記上面側に配置された不純物化学濃度ピークを更に備え、
前記不純物化学濃度ピークの頂点から前記上面側に向かって不純物化学濃度が減少する上側裾は、前記不純物化学濃度ピークの頂点から前記下面側に向かって前記不純物化学濃度が減少する下側裾よりも、前記不純物化学濃度が急峻に減少し、
前記高濃度領域は、前記最浅ドーピング濃度ピークから前記不純物化学濃度ピークまで設けられている
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記高濃度領域は、前記最浅ドーピング濃度ピークから前記半導体基板の前記上面に向かって80μm以上の長さを有する
請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記高濃度領域は、前記半導体基板の前記深さ方向の厚みの40%以上の長さを有する
請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記比A/Bが2以上である
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記最浅ドーピング濃度ピークのドーズ量Cと、他の前記ドーピング濃度ピークの総ドーズ量Dとの比C/Dが、6以上100以下である
請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板の前記下面から、第1の位置に水素イオンを注入し、且つ、前記第1の位置よりも前記上面に近い第2の位置に荷電粒子を注入する第1注入段階と、
前記半導体基板をアニールして、前記第1の位置と前記第2の位置との間に、バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高い高濃度領域を形成する第1アニール段階と、
前記第1の位置および前記第2の位置の間の1箇所以上の第3の位置に、N型ドーパントを注入する第2注入段階と
を備える半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第2の位置は、前記半導体基板の前記上面側に配置され、前記第3の位置は、前記半導体基板の前記下面側に配置されている
請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第2注入段階の後に前記半導体基板をアニールする第2アニール段階を更に備える
請求項7または8に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記第1アニール段階および前記第2アニール段階のアニール温度は、両方とも350℃以上、400℃以下である
請求項9に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1アニール段階および前記第2アニール段階のアニール温度の差は10℃以下である
請求項10に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第2注入段階において、前記第1の位置に水素イオンを注入する
請求項7から11のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記第2注入段階において前記第1の位置に注入する前記水素イオンの第2のドーズ量は、前記第1注入段階において前記第1の位置に注入する前記水素イオンの第1のドーズ量よりも低い
請求項12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記第1のドーズ量は、1×1014ions/cm2以上であり、
前記第2のドーズ量は、3×1013ions/cm2以上である
請求項13に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエハに水素イオンを注入して、半導体ウエハのドーピング濃度を調整する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1 US2015/0050754号
【解決しようとする課題】
【0003】
水素の注入位置から離れた領域まで、水素が容易に拡散できることが好ましい。
【一般的開示】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の一つの態様においては、上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板を備える半導体装置を提供する。半導体装置は、半導体基板の下面側に配置され、半導体基板の深さ方向において2個以上のドーピング濃度ピークを有する、第1導電型のバッファ領域を備えてよい。半導体装置は、バッファ領域と半導体基板の上面との間に配置され、深さ方向において50μm以上の長さを有し、バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高い第1導電型の高濃度領域を備えてよい。半導体装置は、バッファ領域と半導体基板の下面との間に配置され、高濃度領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型または第2導電型の下面領域を備えてよい。バッファ領域のドーピング濃度ピークのうち、半導体基板の下面に最も近い最浅ドーピング濃度ピークは、他のドーピング濃度ピークよりも高濃度の水素ドナーの濃度ピークであってよい。最浅ドーピング濃度ピークのピーク濃度Aと、他のドーピング濃度ピークの平均ピーク濃度Bとの比A/Bが200以下であってよい。
【0005】
半導体装置は、半導体基板の上面側に配置された不純物化学濃度ピークを備えてよい。不純物化学濃度ピークの頂点から上面側に向かって不純物化学濃度が減少する上側裾は、不純物化学濃度ピークの頂点から下面側に向かって不純物化学濃度が減少する下側裾よりも、不純物化学濃度が急峻に減少してよい。高濃度領域は、最浅ドーピング濃度ピークから不純物化学濃度ピークまで設けられていてよい。
【0006】
高濃度領域は、最浅ドーピング濃度ピークから半導体基板の上面に向かって80μm以上の長さを有してよい。
【0007】
高濃度領域は、半導体基板の深さ方向の厚みの40%以上の長さを有してよい。
【0008】
比A/Bが2以上であってよい。
【0009】
最浅ドーピング濃度ピークのドーズ量Cと、他のドーピング濃度ピークの総ドーズ量Dとの比C/Dが、6以上100以下であってよい。
【0010】
本発明の第二の態様においては、半導体装置の製造方法を提供する。製造方法は、上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板の下面から、第1の位置に水素イオンを注入し、且つ、第1の位置よりも上面に近い第2の位置に荷電粒子を注入する第1注入段階を備えてよい。製造方法は、半導体基板をアニールして、第1の位置と第2の位置との間に、バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高い高濃度領域を形成する第1アニール段階を備えてよい。製造方法は、第1の位置および第2の位置の間の1箇所以上の第3の位置に、N型ドーパントを注入する第2注入段階を備えてよい。
【0011】
第2の位置は、半導体基板の上面側に配置され、第3の位置は、半導体基板の下面側に配置されていてよい。
【0012】
製造方法は、第2注入段階の後に半導体基板をアニールする第2アニール段階を備えてよい。
【0013】
第1アニール段階および第2アニール段階のアニール温度は、両方とも350℃以上、400℃以下であってよい。
【0014】
第1アニール段階および第2アニール段階のアニール温度の差は10℃以下であってよい。
【0015】
第2注入段階において、第1の位置に水素イオンを注入してよい。
【0016】
第2注入段階において第1の位置に注入する水素イオンの第2のドーズ量は、第1注入段階において第1の位置に注入する水素イオンの第1のドーズ量よりも低くてよい。
【0017】
第1のドーズ量は、1×1014ions/cm2以上であってよい。第2のドーズ量は、3×1013ions/cm2以上であってよい。
【0018】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】半導体装置100の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図2】
図1のA-A線に示した位置における、深さ方向の格子欠陥密度D
V、水素化学濃度C
H、ドーピング濃度D
dおよび不純物化学濃度C
Iの各分布を示している。
【
図3】比較例に係る格子欠陥密度D
V、水素化学濃度C
H、ドーピング濃度D
dおよび不純物化学濃度C
Iの各分布を示している。
【
図4】バッファ領域20の近傍における、水素化学濃度C
Hおよびドーピング濃度D
dの分布を示す図である。
【
図5A】半導体装置100の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5B】半導体装置100の製造方法の他の例を示すフローチャートである。
【
図6A】半導体装置100の製造方法の他の例を示すフローチャートである。
【
図6B】半導体装置100の製造方法の他の例を示すフローチャートである。
【
図7】バッファ領域20の近傍における水素化学濃度C
Hの分布例を示す図である。
【
図8】第1の深さ位置Z1に対する水素イオンのドーズ量を変化させた場合の、バッファ領域20の近傍におけるドーピング濃度D
dの変化を示す図である。
【
図9A】水素化学濃度ピーク131-1と、ドーピング濃度ピーク111-1との関係を説明する図である。
【
図9B】不純物化学濃度ピーク141と、ドーピング濃度ピーク121との関係を説明する図である。
【
図10A】下側裾112の傾きの規格化の他の定義を説明する図である。
【
図10B】下側裾122の傾きの規格化の他の定義を説明する図である。
【
図11】式(12)で示されるε'とγとの関係を、β毎に示したグラフである。
【
図12】バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。
【
図13】ε'が範囲B(0.01以上、0.333以下)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。
【
図14】ε'が範囲C(0.03以上、0.25以下)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。
【
図15】ε'が範囲D(0.1以上、0.2以下)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。
【
図16】ε'が範囲E(0.001以上、0.1以下)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。
【
図17】ε'が範囲F(0.002以上、0.05以下)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。
【
図18】ε'が範囲G(0.005以上、0.02以下)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。
【
図19】ε'が範囲H(0.01±0.002)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。
【
図22B】
図22Aのd-d線におけるドーピング濃度D
dの分布例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体装置の実装時における方向に限定されない。
【0022】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸および-Z軸に平行な方向を意味する。
【0023】
本明細書では、半導体基板の上面および下面に平行な直交軸をX軸およびY軸とする。また、半導体基板の上面および下面と垂直な軸をZ軸とする。本明細書では、Z軸の方向を深さ方向と称する場合がある。また、本明細書では、X軸およびY軸を含めて、半導体基板の上面および下面に平行な方向を、水平方向と称する場合がある。
【0024】
また、半導体基板の深さ方向における中心から、半導体基板の上面までの領域を、上面側と称する場合がある。同様に、半導体基板の深さ方向における中心から、半導体基板の下面までの領域を、下面側と称する場合がある。本明細書では、半導体基板の深さ方向における中心位置をZcと称する場合がある。
【0025】
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
【0026】
本明細書においては、不純物がドーピングされたドーピング領域の導電型をP型またはN型として説明している。本明細書においては、不純物とは、特にN型のドナーまたはP型のアクセプタのいずれかを意味する場合があり、ドーパントと記載する場合がある。本明細書においては、ドーピングとは、半導体基板にドナーまたはアクセプタを導入し、N型の導電型を示す半導体またはP型の導電型を示す半導体とすることを意味する。
【0027】
本明細書においては、ドーピング濃度とは、熱平衡状態におけるドナーの濃度またはアクセプタの濃度を意味する。本明細書においては、ネット・ドーピング濃度とは、ドナー濃度を正イオンの濃度とし、アクセプタ濃度を負イオンの濃度として、電荷の極性を含めて足し合わせた正味の濃度を意味する。一例として、ドナー濃度をND、アクセプタ濃度をNAとすると、任意の位置における正味のネット・ドーピング濃度はND-NAとなる。本明細書では、ネット・ドーピング濃度を単にドーピング濃度と記載する場合がある。
【0028】
ドナーは、半導体に電子を供給する機能を有している。アクセプタは、半導体から電子を受け取る機能を有している。ドナーおよびアクセプタは、不純物自体には限定されない。例えば、半導体中に存在する空孔(V)、酸素(O)および水素(H)が結合したVOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥を水素ドナーと称する場合がある。
【0029】
本明細書においてP+型またはN+型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P-型またはN-型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が低いことを意味する。また、本明細書においてP++型またはN++型と記載した場合には、P+型またはN+型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。本明細書の単位系は、特に断りがなければSI単位系である。長さの単位をcmで表示することがあるが、諸計算はメートル(m)に換算してから行ってよい。
【0030】
本明細書において化学濃度とは、電気的な活性化の状態によらずに測定される不純物の原子密度を指す。化学濃度(原子密度)は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。上述したネット・ドーピング濃度は、電圧-容量測定法(CV法)により測定できる。また、拡がり抵抗測定法(SR法)により計測されるキャリア濃度を、ネット・ドーピング濃度としてよい。CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度は、熱平衡状態における値としてよい。また、N型の領域においては、ドナー濃度がアクセプタ濃度よりも十分大きいので、当該領域におけるキャリア濃度を、ドナー濃度としてもよい。同様に、P型の領域においては、当該領域におけるキャリア濃度を、アクセプタ濃度としてもよい。本明細書では、N型領域のドーピング濃度をドナー濃度と称する場合があり、P型領域のドーピング濃度をアクセプタ濃度と称する場合がある。
【0031】
また、ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度がほぼ均一な場合等においては、当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度の平均値をドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。本明細書において、単位体積当りの濃度表示にatоms/cm3、または、/cm3を用いる場合がある。この単位は、半導体基板内のドナーまたはアクセプタ濃度、または、化学濃度に用いられる。atоms表記は省略してもよい。
【0032】
SR法により計測されるキャリア濃度が、ドナーまたはアクセプタの濃度より低くてもよい。拡がり抵抗を測定する際に電流が流れる範囲において、半導体基板のキャリア移動度が結晶状態の値よりも低い場合がある。キャリア移動度の低下は、格子欠陥等による結晶構造の乱れ(ディスオーダー)により、キャリアが散乱されることで生じる。
【0033】
CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度から算出したドナーまたはアクセプタの濃度は、ドナーまたはアクセプタを示す元素の化学濃度よりも低くてよい。一例として、シリコンの半導体においてドナーとなるリンまたはヒ素のドナー濃度、あるいはアクセプタとなるボロン(ホウ素)のアクセプタ濃度は、これらの化学濃度の99%程度である。一方、シリコンの半導体においてドナーとなる水素のドナー濃度は、水素の化学濃度の0.1%から10%程度である。本明細書における各濃度は、室温における値でよい。室温における値は、一例として300K(ケルビン)(約26.9℃)のときの値を用いてよい。
【0034】
イオンまたは電子等の荷電粒子を所定の加速エネルギーで半導体基板に注入した場合、これらの粒子は深さ方向において所定の分布を有する。本明細書では、当該分布のピーク位置を、当該粒子が注入された位置、または、注入された深さ等と称する場合がある。
【0035】
図1は、半導体装置100の製造方法の一例を示す断面図である。半導体装置100は半導体基板10を備える。半導体基板10は、半導体材料で形成された基板である。一例として半導体基板10はシリコン基板である。
【0036】
半導体基板10には、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)等のトランジスタ素子、および、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子の少なくとも一方が形成される。
図1においては、トランジスタ素子およびダイオード素子の各電極、半導体基板10の内部に設けられた各領域を省略している。トランジスタ素子およびダイオード素子の構成例は後述する。
【0037】
本例の半導体基板10は、N型のバルク・ドナーが全体に分布している。バルク・ドナーは、半導体基板10の元となるインゴットの製造時に、インゴット内に略一様に含まれたドーパントによるドナーである。本例のバルク・ドナーは、水素以外の元素である。バルク・ドナーのドーパントは、例えばリン、アンチモン、ヒ素、セレンまたは硫黄であるが、これに限定されない。本例のバルク・ドナーは、リンである。バルク・ドナーは、P型の領域にも含まれている。半導体基板10は、半導体のインゴットから切り出したウエハであってよく、ウエハを個片化したチップであってもよい。半導体のインゴットは、チョクラルスキー法(CZ法)、磁場印加型チョクラルスキー法(MCZ法)、フロートゾーン法(FZ法)のいずれかで製造されよい。本例におけるインゴットは、MCZ法で製造されている。MCZ法で製造された基板に含まれる酸素濃度は1×1017~7×1017/cm3である。FZ法で製造された基板に含まれる酸素濃度は1×1015~5×1016/cm3である。酸素濃度が高い方が水素ドナーが生成しやすい傾向がある。バルク・ドナー濃度は、半導体基板10の全体に分布しているバルク・ドナーの化学濃度を用いてよく、当該化学濃度の90%から100%の間の値であってもよい。また、半導体基板10は、リン等のドーパントを含まないノンドープ基板を用いてもよい。その場合、ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度は例えば1×1010/cm3以上、5×1012/cm3以下である。ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度は、好ましくは1×1011/cm3以上である。ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度は、好ましくは5×1012/cm3以下である。
【0038】
半導体基板10は、上面21および下面23を有する。上面21および下面23は、半導体基板10の2つの主面である。本明細書では、上面21および下面23と平行な面における直交軸をX軸およびY軸、上面21および下面23と垂直な軸をZ軸とする。
【0039】
半導体基板10の下面23側(即ち、下面23と、深さ方向の中央位置Zcとの間の領域)には、N型のバッファ領域20が設けられる。バッファ領域20と下面23との間には、下面領域201が設けられる。下面領域201は、後述する高濃度領域150よりもドーピング濃度の高い、N型またはP型の領域である。下面領域201は、後述するカソード領域またはコレクタ領域であってよい。バッファ領域20は、半導体基板10の上面21側から広がる空乏層が、下面領域201に到達すること(パンチスルー)を抑制する。
【0040】
バッファ領域20は、半導体基板10の深さ方向において複数のドーピング濃度ピーク111を有する。
図1の例では、下面23側から順番に、ドーピング濃度ピーク111-1、111-2、111-3および111-4を有する。複数のドーピング濃度ピーク111を設けることで、上述した空乏層が、下面領域201まで広がることを抑制できる。本明細書では、ドーピング濃度ピーク111-1を、最浅ドーピング濃度ピークと称する場合がある。ドーピング濃度ピーク111-1は、他のドーピング濃度ピーク111よりもドーピング濃度が高い。バッファ領域20は、水素ドナーを含んでよい。
【0041】
本例の製造方法においては、バッファ領域20の複数のドーピング濃度ピークを、2つの段階に分けて形成する。第1段階S1001において、半導体基板10の下面23から第2の深さ位置Z2に荷電粒子を注入する。荷電粒子は、例えば水素イオン、ヘリウムイオン、電子等である。本例の半導体基板10は、第2の深さ位置Z2に、水素またはヘリウム等の不純物化学濃度ピーク141を有する。なお第2の深さ位置Z2は、上面21よりも上側の位置であってもよい。つまり、荷電粒子は、半導体基板10を貫通するように注入されてもよい。
【0042】
深さ位置とは、半導体基板10の深さ方向(Z軸方向)における位置である。本明細書では、下面23から各位置までの距離を、各位置の深さ位置と称する場合がある。例えば、第2の深さ位置Z2は、下面23からの距離がZ2である。第2の深さ位置Z2は、半導体基板10の上面21側(即ち、上面21と、深さ方向の中央位置Zcとの間の領域)に配置されていてよい。
【0043】
荷電粒子が半導体基板10の内部を通過する平均距離(飛程とも称される)は、荷電粒子を加速する加速エネルギーにより制御できる。本例においては、荷電粒子の平均飛程が距離Z2となるように、加速エネルギーが設定される。荷電粒子の平均飛程Z2は、半導体基板10の深さ方向の厚みの半分より大きくてよい。
【0044】
本明細書では、注入された荷電粒子が通過した領域を通過領域106と称する場合がある。
図1の例では、半導体基板10の下面23から第2の深さ位置Z2までが通過領域106である。
図1の例では、半導体基板10の下面23の全体から荷電粒子を注入している。他の例では、下面23の一部の領域だけに荷電粒子を注入してよい。これにより、XY面において局所的に通過領域106を形成することもできる。
【0045】
また、第1段階S1001においては、半導体基板10の下面23から第1の深さ位置Z1に、プロトン等の水素イオンを注入する。水素イオンを注入した後に、半導体基板10の全体をアニールする。これにより、第1の深さ位置Z1には、水素ドナーによるドーピング濃度ピーク111-1が形成される。なおアニール時には、第1の深さ位置Z1と、第2の深さ位置Z2との間には、上述した水素イオンおよび荷電粒子以外には、不純物イオンが局所的に注入されていない。
【0046】
半導体基板10において荷電粒子が通過した通過領域106には、荷電粒子が通過したことにより、単原子空孔(V)、複原子空孔(VV)等の、空孔を主体とする格子欠陥が形成されている。空孔に隣接する原子は、ダングリング・ボンドを有する。格子欠陥には格子間原子や転位等も含まれ、広義ではドナーやアクセプタも含まれ得るが、本明細書では空孔を主体とする格子欠陥を空孔型格子欠陥、空孔型欠陥、あるいは単に格子欠陥と称する場合がある。また、半導体基板10への荷電粒子注入により、格子欠陥が多く形成されることで、半導体基板10の結晶性が強く乱れることがある。本明細書では、この結晶性の乱れをディスオーダーと称する場合がある。
【0047】
また、半導体基板10の全体には酸素が含まれる。当該酸素は、半導体のインゴットの製造時において、意図的にまたは意図せずに導入される。半導体基板10の内部では、水素(H)、空孔(V)および酸素(O)が結合し、VOH欠陥が形成される。また、半導体基板10を熱処理することで第1の深さ位置Z1に注入した水素が拡散し、VOH欠陥の形成が促進される。第2の深さ位置Z2に注入した荷電粒子が水素イオンの場合、第2の深さ位置Z2からも水素が拡散し、VOH欠陥の形成が更に促進される。
【0048】
VOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥を単に水素ドナーと称する場合がある。本例では、荷電粒子の通過領域106に水素ドナーが形成される。水素ドナーのドーピング濃度は、水素の化学濃度よりも低い。水素の化学濃度に対する水素ドナーのドーピング濃度の割合を活性化率とすると、活性化率は0.1%~30%の値であってよい。本例では、活性化率は1%~5%である。
【0049】
半導体基板10の通過領域106に水素ドナーを形成することで、通過領域106におけるドナー濃度を、バルク・ドナー濃度よりも高くできる。通常は、半導体基板10に形成すべき素子の特性、特に定格電圧または耐圧に対応させて、所定のバルク・ドナー濃度を有する半導体基板10を準備しなければならない。これに対して、
図1に示した半導体装置100によれば、荷電粒子および水素イオンのドーズ量を制御することで、半導体基板10のドナー濃度を調整できる。このため、素子の特性等に対応していないバルク・ドナー濃度の半導体基板10を用いて、半導体装置100を製造できる。半導体基板10の製造時におけるバルク・ドナー濃度のバラツキは比較的に大きいが、荷電粒子および水素イオンのドーズ量は比較的に高精度に制御できる。このため、荷電粒子を注入することで生じる格子欠陥の濃度も高精度に制御でき、また、格子欠陥と結合する水素濃度も高精度に制御できる。従って、通過領域106のドナー濃度を高精度に制御できる。
【0050】
また、第1の深さ位置Z1に注入した水素は、上面21に向かって、より遠い位置まで拡散することが好ましい。これにより、通過領域106のZ軸方向における長さを大きくでき、半導体基板10の広い領域に渡ってドーピング濃度を調整しやすくなる。
【0051】
第1の深さ位置Z1と、第2の深さ位置Z2との間に、上述した水素イオンおよび荷電粒子以外の不純物が注入されると、当該注入位置の近傍には格子欠陥が多く形成される。格子欠陥が多く形成された領域では、水素イオンの拡散が抑制される。このため、第1の深さ位置Z1と、第2の深さ位置Z2との間に、高密度の格子欠陥を有する領域が存在すると、水素の拡散が抑制されてしまう。
【0052】
本例では、第1の深さ位置Z1に注入した水素を通過領域106に拡散させた第1段階S1001の後に、第2段階S1002において、他のドーピング濃度ピーク111-2、111-3、111-4を形成する。つまり、第2段階S1002では、第1の深さ位置Z1と第2の深さ位置Z2との間の1つ以上の深さ位置に、水素イオン等のN型ドーパントを注入してアニールする。これにより、ドーピング濃度ピーク111-2、111-3、111-4が形成される。このように、第1の深さ位置Z1に注入した水素を拡散させた後に、ドーピング濃度ピーク111-2、111-3、111-4を形成することで、水素をより深い位置まで拡散させることと、バッファ領域20に複数のドーピング濃度ピーク111を設けることとを両立できる。
【0053】
図2は、
図1のA-A線に示した位置における、深さ方向の格子欠陥密度D
V、水素化学濃度C
H、ドーピング濃度D
dおよび不純物化学濃度C
Iの各分布を示している。本例の不純物はヘリウムまたは水素である。
図2の横軸は、下面23からの深さ位置を示しており、縦軸は、単位体積当たりの水素化学濃度、ドナー濃度および不純物化学濃度を対数軸で示している。
図2の分布のうち、格子欠陥密度D
Vは、
図1に示した第1段階S1001のアニール開始時における分布である。格子欠陥以外の濃度は、
図1に示した第2段階S1002のアニール後の分布を示している。
【0054】
図2における水素化学濃度および不純物化学濃度は、例えばSIMS法で計測される。
図2におけるドーピング濃度は、例えばCV法またはSR法で計測される、電気的に活性化したドーピング濃度である。
【0055】
本例の水素化学濃度C
Hは、第1の深さ位置Z1に水素化学濃度ピーク131-1を有する。水素化学濃度ピーク131は、第1の深さ位置Z1において極大値を示している。また、水素化学濃度C
Hは、第3の深さ位置Z3に水素化学濃度ピーク131を有する。第3の深さ位置Z3は、複数配置されていてもよい。
図2の例では、第3の深さ位置Z3-1、Z3-2、Z3-3が配置されている。それぞれの第3の深さ位置Z3に、水素化学濃度ピーク131が配置されている。水素化学濃度ピーク131-2~131-4は、
図1の第2段階S1002で注入された水素イオンによるピークである。
【0056】
本例の不純物化学濃度CIは、第2の深さ位置Z2に不純物化学濃度ピーク141を有する。不純物化学濃度ピーク141は、第2の深さ位置Z2において極大値を示している。
【0057】
ドーピング濃度Ddは、複数のドーピング濃度ピーク111と、ドーピング濃度ピーク121を有する。本例では、第1の深さ位置Z1と、それぞれの第3の深さ位置Z3にドーピング濃度ピーク111が配置されている。また、ドーピング濃度Ddは、下面領域201においてドーピング濃度ピークを有してよい。本例の下面領域201は、P型のドーピング濃度ピークを有している。下面領域201には、ボロン(ホウ素)等のP型ドーパントが注入されていてよい。他の例では、下面領域201は、N型のドーピング濃度ピークを有してよい。この場合、下面領域201には、リン等のN型ドーパントが注入されていてよい。
【0058】
本例のドーピング濃度ピーク111は、第1の深さ位置Z1と、第3の深さ位置Z3に水素イオンが注入されたことによる格子欠陥と、水素とが結合した水素ドナー(VOH欠陥)の濃度ピークである。このため、ドーピング濃度ピーク111は、第1の深さ位置Z1と、それぞれの第3の深さ位置Z3において極大値を示している。
【0059】
ドーピング濃度ピーク121は、第2の深さ位置Z2に荷電粒子が注入されたことによる格子欠陥と、第1の深さ位置Z1から拡散した水素が結合した水素ドナーの濃度ピークである。このため、ドーピング濃度ピーク121は、第2の深さ位置Z2において極大値を示している。
【0060】
なお、ドーピング濃度ピーク111-1が極大値を示す位置は、第1の深さ位置Z1と厳密に一致していなくともよい。例えば、第1の深さ位置Z1を基準とした第1の水素化学濃度ピーク131の半値全幅の範囲内に、ドーピング濃度ピーク111-1が極大値を示す位置が含まれていれば、ドーピング濃度ピーク111-1が実質的に第1の深さ位置Z1に配置されているとしてよい。同様に、第2の深さ位置Z2を基準とした不純物化学濃度ピーク141の半値全幅の範囲内に、ドーピング濃度ピーク121が極大値を示す位置が含まれていれば、ドーピング濃度ピーク121が実質的に第2の深さ位置Z2に配置されているとしてよい。同様に、第3の深さ位置Z3を基準とした水素化学濃度ピーク131の半値全幅の範囲内に、ドーピング濃度ピーク111が極大値を示す位置が含まれていれば、ドーピング濃度ピーク111が実質的に第3の深さ位置Z3に配置されているとしてよい。
【0061】
また、ドーピング濃度ピーク111-1が、下面領域201のドーピング濃度ピークと重なって、ドーピング濃度ピーク111-1が判別しにくい場合には、水素化学濃度ピーク131-1の頂点の深さ位置Z1におけるドーピング濃度を、ドーピング濃度ピーク111-1としてもよい。
【0062】
それぞれの濃度ピークは、頂点から下面23に向かって濃度が減少する下側裾と、頂点から上面21に向かって濃度が減少する上側裾とを有する。本例では、水素化学濃度ピーク131は下側裾132および上側裾133を有する。不純物化学濃度ピーク141は下側裾142および上側裾143を有する。ドーピング濃度ピーク111は下側裾112および上側裾113を有する。ドーピング濃度ピーク121は下側裾122および上側裾123を有する。
【0063】
第1の深さ位置Z1および第3の深さ位置Z3には、下面23から水素イオンが注入されるので、水素は第1の深さ位置Z1と下面23との間、および、第3の深さ位置Z3と下面23との間にも比較的に多く存在する。同様に、第2の深さ位置Z1と下面23との間に、荷電粒子として注入された不純物が多く存在する。このため、各化学濃度分布における各濃度ピークにおいて、下側裾よりも上側裾のほうが、急峻に濃度が減少してよい。また、ドーピング濃度は、水素化学濃度または不純物化学濃度に依存するので、各ドーピング濃度ピークにおいても、下側裾よりも上側裾のほうが、急峻に濃度が減少してよい。
【0064】
第1段階S1001のアニール開始時において、第1の深さ位置Z1および第2の深さ位置Z2の近傍には、水素イオンまたは荷電粒子が注入されたことにより、比較的に多くの格子欠陥が形成される。このため、格子欠陥濃度D
Vは、第1の深さ位置Z1に第1の欠陥密度ピーク211を有し、第2の深さ位置Z2に第2の欠陥密度ピーク212を有する。また、第2の深さ位置Z2から下面23までの通過領域106(
図1参照)には、第1の深さ位置Z1および第2の深さ位置Z2の近傍を除き、荷電粒子が通過したことにより生じる格子欠陥が、ほぼ一様な密度で形成される。
図2の格子欠陥密度D
Vの分布図において点線で示すように、格子欠陥濃度D
Vは、ピーク212を超えない範囲で、ピーク212に向かってなだらかに増加してよい。このように格子欠陥濃度D
Vがピーク212に向かって増加する場合も、荷電粒子が通過したことにより生じる格子欠陥が、ほぼ一様な密度で形成されるとしてよい。
【0065】
第1の深さ位置Z1に注入された水素は、アニール処理により上面21に向かって拡散する。第1段階S1001のアニール開始時には、第3の深さ位置Z3に水素イオンが注入されていない。このため、第1の深さ位置Z1と第2の深さ位置Z2との間には、第1の欠陥密度ピーク211および第2の欠陥密度ピーク212以外の欠陥密度ピークが存在しない。従って、第1の深さ位置Z1から第2の深さ位置Z2まで水素が拡散しやすくなる。通過領域106において一定以上の濃度の水素が拡散した領域ではVOH欠陥(水素ドナー)が形成され、水素ドナーを含む高濃度領域150が形成される。高濃度領域150は、ドナー濃度が、バルク・ドナー濃度Dbよりも高い領域である。高濃度領域150は、バッファ領域20と、半導体基板10の上面21との間に配置されている。
【0066】
高濃度領域150は、深さ方向においてほぼ一様なドーピング濃度の領域であってよい。ドーピング濃度が深さ方向においてほぼ一様とは、例えば、ドーピング濃度の最大値と最小値との差分がドーピング濃度の最大値の50%以内である領域が、深さ方向に連続している状態を指してよい。当該差分は、当該領域のドーピング濃度の最大値の30%以下であってよく、10%以下であってもよい。
【0067】
あるいは、深さ方向の所定範囲におけるドーピング濃度分布の平均濃度に対して、ドーピング濃度分布の値が、当該ドーピング濃度分布の平均濃度の±50%以内にあってよく、±30%以内にあってよく、±10%以内にあってよい。深さ方向の所定範囲Wは、一例として以下の通りでよい。つまり、第1の深さ位置Z1から第2の深さ位置Z2までの長さをZLとして、Z1とZ2との間の中心Z12cから、第1の深さ位置Z1側および第2の深さ位置Z2側にそれぞれ0.25ZL離れた2点間の長さ0.5ZLの区間を当該範囲としてよい。高濃度領域150の長さに応じて、所定範囲の長さを0.75ZLとしてもよく、0.3ZLとしてもよく、0.9ZLとしてもよい。バッファ領域20の上面21側の端部位置は、高濃度領域150においてほぼ一様なドーピング濃度が、ドーピング濃度ピーク111-1に向かって、単調に増加し始める深さ位置であってもよい。
【0068】
また、第1段階S1001のアニール開始時は、第1の深さ位置Z1および第2の深さ位置Z2の間には、ドーピング濃度ピーク111-1およびドーピング濃度ピーク121以外のドーピング濃度ピークが存在しないことが好ましい。また、第1の深さ位置Z1および第2の深さ位置Z2の間には、水素化学濃度ピーク131-1および不純物化学濃度ピーク141以外の化学濃度ピークが存在しないことが好ましい。これにより、第1の深さ位置Z1から第2の深さ位置Z2まで水素が拡散しやすくなる。
【0069】
水素が拡散しやすくなることで、高濃度領域150を深さ方向に長く形成しやすくなる。高濃度領域150は、ドーピング濃度ピーク111-1と接する位置から、不純物化学濃度ピーク141まで連続して設けられていてよい。高濃度領域150は、バッファ領域20の上端から、第2の深さ位置Z2まで連続して設けられていてよい。
【0070】
高濃度領域150の深さ方向における長さは、半導体基板10の深さ方向における厚みの40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってもよい。高濃度領域150の長さは、バッファ領域20の上端から、高濃度領域150の上端までの長さL1であってよく、ドーピング濃度ピーク111-1の位置Z1から、高濃度領域150の上端までの長さL2であってもよい。高濃度領域150の上端は、深さ位置Z2であってよい。また、高濃度領域150の深さ方向における長さは、50μm以上であってよく、60μm以上であってよく、70μm以上であってよく、80μm以上であってよく、90μm以上であってよく、100μm以上であってもよい。本例では、第2の深さ位置Z2まで水素が拡散しやすいので、高濃度領域150が形成される範囲を、第2の深さ位置Z2で規定しやすくなる。
【0071】
高濃度領域150のドナー濃度の最小値は、半導体基板10のバルク・ドナー濃度Dbより高い。つまり、高濃度領域150のドナー濃度(またはドーピング濃度)は、高濃度領域150の全体にわたって、バルク・ドナー濃度Dbより高い。高濃度領域150のドナー濃度は、バルク・ドナー濃度と、水素ドナー濃度(VOH欠陥濃度)との和で定まる。水素ドナー濃度は、第2の深さ位置Z2に対する荷電粒子のドーズ量、および、第1の深さ位置Z1に対する水素イオンのドーズ量で精度よく制御できる。このため、バルク・ドナー濃度に比べて水素ドナー濃度を十分高くすることで、バルク・ドナー濃度がばらついた場合でも、高濃度領域150のドナー濃度のばらつきを低減できる。高濃度領域150のドナー濃度は、バルク・ドナー濃度Dbの2倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。
【0072】
図3は、比較例に係る格子欠陥密度D
V、水素化学濃度C
H、ドーピング濃度D
dおよび不純物化学濃度C
Iの各分布を示している。比較例の半導体装置は、第1の深さ位置Z1およびそれぞれの第3の深さ位置Z3に水素イオンを注入してから、半導体基板10をアニールして第1の深さ位置Z1に注入した水素を拡散させる。
【0073】
本例の格子欠陥密度DVは、水素イオンを拡散させるアニールの開始時に、それぞれの第3の深さ位置Z3に欠陥密度ピーク213を有する。つまり、第1の深さ位置Z1と、第2の深さ位置Z2との間に、1つ以上の欠陥密度ピーク213が設けられている。このため、第1の深さ位置Z1に注入された水素の拡散は、欠陥密度ピーク213により阻害されてしまう。例えば、水素が格子欠陥と結合し、または、格子欠陥が存在することで水素の移動が妨げられる。
【0074】
このため
図3の例では、第2の深さ位置Z2まで水素が十分に拡散しない。この場合、第2の深さ位置Z2まで高濃度領域150が形成されずに、ドナー濃度が低い低濃度領域181が残存してしまう。低濃度領域181のドナー濃度は、バルク・ドナー濃度D
bと同程度であってよい。また、低濃度領域181に格子欠陥が多く残存している場合には、低濃度領域181のキャリア濃度は、バルク・ドナー濃度D
bより低い場合もある。低濃度領域181には、水素ドナーがほとんど形成されないので、低濃度領域181のドナー濃度は、バルク・ドナー濃度の影響が大きくなる。このため、低濃度領域181のドナー濃度は、比較的にばらつきが大きくなってしまう。また、ドーピング濃度分布に谷状の部分が出来てしまうので、半導体装置100の特性に影響を与える場合がある。これに対して
図2に示した半導体装置100によれば、高濃度領域150を広く形成できるので、ドーピング濃度のばらつきを抑制でき、また、半導体装置100の特性を精度よく調整できる。
【0075】
なお、バッファ領域20において、最も上面21に近い水素化学濃度ピーク131-4を高濃度にすることも考えられる。これにより上面21に近い位置まで水素を拡散しやすくなる。ただし、上面21に近い水素化学濃度ピーク131-4を高濃度にすると、エミッタ・コレクタ間電圧が比較的に高い状態で、空乏層が高濃度のドーピング濃度ピーク111-4に到達することになり、アバランシェ耐量が低下する場合がある。
図2に示した例によれば、高濃度のドーピング濃度ピーク111-1を下面23の近傍に配置してアバランシェ耐量の低下を抑制しつつ、高濃度領域150を上面21の近傍まで形成できる。第1の深さ位置Z1と下面23との距離は、5μm以下であってよく、3μm以下であってもよい。
【0076】
図4は、バッファ領域20の近傍における、水素化学濃度C
Hおよびドーピング濃度D
dの分布を示す図である。本例では、ドーピング濃度ピーク111-1のピーク濃度をA、ドーピング濃度ピーク111-2のピーク濃度をB2、ドーピング濃度ピーク111-3のピーク濃度をB3、ドーピング濃度ピーク111-4のピーク濃度をB4とする。また、水素化学濃度ピーク131-1のピーク濃度をH1-1、水素化学濃度ピーク131-2のピーク濃度をH1-2、水素化学濃度ピーク131-3のピーク濃度をH1-3、水素化学濃度ピーク131-4のピーク濃度をH1-4とする。
【0077】
ドーピング濃度ピーク111-1のピーク濃度Aと、他のドーピング濃度ピーク111の平均ピーク濃度B(本例では、(B2+B3+B4)/3)との比A/Bは、200以下である。平均ピーク濃度Bを、10{log10(B2)+log10(B2)+log10(B2)}/3としてもよい。半導体装置100においては、第1の深さ位置Z1に注入した水素が上面21側に拡散しやすいので、ピーク濃度Aを低くしても、高濃度領域150を長い範囲に渡って形成できる。また、ピーク濃度Aを小さくすることで、上面21側からの空乏層がドーピング濃度111-1に到達したときの裏面アバランシェの発生を抑制できる。比A/Bは、100以下であってよく、30以下であってよく、20以下であってよく、10以下であってよく、8以下であってよく、5以下であってもよい。ただし、ドーピング濃度ピーク111-1のピーク濃度Aが低すぎると、水素が十分に拡散できない場合がある。比A/Bは、2以上であってよく、3以上であってよく、5以上であってよく、10以上であってもよい。ピーク濃度Aは、1×1016/cm3以下であってよく、5×1015/cm3以下であってよく、1×1015/cm3以下であってもよい。
【0078】
また、水素化学濃度ピーク131-1のピーク濃度H1-1と、他の水素化学濃度ピーク131の平均ピーク濃度HA(本例では、(H1-2+H1-3+H1-4)/3)との比H1-1/HAも200以下であってよい。比H1-1/HAは、100以下であってよく、30以下であってよく、20以下であってよく、10以下であってよく、8以下であってよく、5以下であってもよい。比H1-1/HAは、2以上であってよく、3以上であってよく、5以上であってよく、10以上であってもよい。
【0079】
また、第1の深さ位置Z1への水素イオンのドーズ量(ions/cm2)をC、それぞれの第3の深さ位置Z3への水素イオンの総ドーズ量Dとする。ドーズ量Cは、ドーピング濃度ピーク111-1に対応するドーズ量であり、ドーズ量Dは、他のドーピング濃度ピーク111に対応するドーズ量である。それぞれのドーピング濃度ピーク111に対応するドーズ量は、それぞれのドーピング濃度ピーク111の半値全幅の範囲で、水素化学濃度CHを積分した値を用いてよい。
【0080】
ドーズ量Cと総ドーズ量Dとの比C/Dは、6以上、100以下であってよい。これにより、高濃度領域150の長さを確保しつつ、裏面アバランシェの発生を抑制しやすくなる。比C/Dは、10以上であってもよい。比C/Dは、30以下であってもよい。
【0081】
図5Aは、半導体装置100の製造方法の一例を示すフローチャートである。まず、上面側構造形成段階S500において、半導体基板10の上面21側の構造を形成する。上面21側の構造とは、後述するゲートトレンチ、ダミートレンチ、エミッタ領域、ベース領域、蓄積領域、層間絶縁膜、エミッタ電極およびゲート配線の少なくとも一部を含む。上面側構造形成段階S500では、これらの全ての構造を形成してもよい。
【0082】
次に研削段階S502において、半導体基板10の下面23側を研削して、半導体基板10の厚みを調整する。研削段階S502においては、半導体装置100が有するべき耐圧に応じて、半導体基板10の厚みを調整してよい。
【0083】
次に下面領域形成段階S504において、半導体基板10の下面23と接する領域に下面領域201を形成する。下面領域形成段階S504では、N型ドーパントまたはP型ドーパントを下面23から注入し、下面23の近傍をレーザー等により局所アニールすることで、下面領域201を形成してよい。
【0084】
次に、第1注入段階S505において、荷電粒子および水素イオンを半導体基板10に注入する。第1注入段階S505は、荷電粒子注入段階S506および水素注入段階S508を有する。荷電粒子注入段階S506において、半導体基板10の下面23から、第2の深さ位置Z2に荷電粒子を注入する。第2の深さ位置Z2は、第1の深さ位置Z1よりも上面21に近い位置である。荷電粒子は水素イオン、ヘリウムイオン、または、電子線であってよい。また、水素注入段階S508において、半導体基板10の下面23から、第1の深さ位置Z1に水素イオンを注入する。水素注入段階S508においては、第2の深さ位置Z2と第1の深さ位置Z1との間の領域において、水素化学濃度分布が単一のピークを有するように、第1の位置Z1に水素イオンを注入してよい。なお、第2の深さ位置Z2に水素イオンを注入する場合、第2の深さ位置Z2には水素化学濃度のピークが存在してよい。荷電粒子注入段階S506および水素注入段階S508は、いずれを先に行ってもよい。
【0085】
次に、第1アニール段階S510において、半導体基板10をアニールする。第1注入段階S505および第1アニール段階S510は、
図1における第1段階S1001に対応している。第1アニール段階S510においては、半導体基板10をアニール炉に投入し、半導体基板10の全体をアニールする。第1アニール段階S510により、第1の深さ位置Z1と第2の深さ位置Z2の間に、高濃度領域150を形成する。第1アニール段階S510は、第1の深さ位置Z1に注入した水素が、第2の深さ位置Z2まで拡散できる条件で行うことが好ましい。例えばアニール段階S510のアニール温度は、350℃以上、400℃以下である。アニール温度は、360℃以上であってよく、380℃以下であってもよい。第1アニール段階S510におけるアニール時間は、30分以上であってよく、1時間以上であってよく、3時間以上であってもよい。アニール時間は10時間以下であってよく、7時間以下であってもよい。
【0086】
次に、第2注入段階S512において、第3の深さ位置Z3に水素等のN型ドーパントを注入する。
図2等において説明したように、第3の深さ位置Z3は、深さ方向において1箇所以上配置されていてよい。第1の深さ位置Z1およびそれぞれの第3の深さ位置Z3は、半導体基板10の下面23側に配置されてよい。第2の深さ位置Z2は、半導体基板10の上面21側に配置されてよい。
【0087】
次に、第2アニール段階S514において、半導体基板10をアニールする。第2注入段階S512および第2アニール段階S514は、
図1における第2段階S1002に対応している。第2アニール段階S514においては、半導体基板10をアニール炉に投入し、半導体基板10の全体をアニールしてよい。第2アニール段階S514により、第3の深さ位置Z3に注入したN型ドーパントを活性化させて、1つ以上のドーピング濃度ピーク111を形成する。第2アニール段階S514におけるアニール条件は、第1アニール段階S510と同様である。つまり、第2アニール段階S514のアニール温度は、350℃以上、400℃以下であってよい。アニール温度は、360℃以上であってよく、380℃以下であってもよい。第2アニール段階S514におけるアニール時間は、30分以上であってよく、1時間以上であってよく、3時間以上であってもよい。アニール時間は10時間以下であってよく、7時間以下であってもよい。
【0088】
第2アニール段階S514のアニール温度T2と、第1アニール段階S510のアニール温度T1の差は10℃以下であってよい。アニール温度の差は、5℃以下であってよく、0であってもよい。アニール温度T1およびT2は、アニール温度の差が上記を満たす条件において、T1=T2であってよく、T2<T1であってよく、T2>T1であってもよい。本例ではT1=T2である。また、第2アニール段階S514と、第1アニール段階S510のアニール時間の差は、大きい方のアニール時間の10%以下であってよく、5%以下であってよく、0であってもよい。第2アニール段階S514を第1アニール段階S510のアニール条件と同等にすることで、第1アニール段階S510で形成した水素ドナーの消失を抑制できる。
【0089】
下面側電極形成段階S520において、半導体基板10の下面23に金属電極を形成する。当該金属電極は、後述するコレクタ電極であってよい。また、第2アニール段階S514と下面側電極形成段階S520との間に、ライフタイムキラー形成段階S516と、第3アニール段階S518を有してもよい。
【0090】
ライフタイムキラー形成段階S516は、半導体基板10にヘリウム等の不純物を注入することで、格子欠陥を局所的に形成する。当該不純物は、半導体基板10の上面21側に注入されてよく、下面23側に注入されてもよい。当該不純物は、後述するダイオード部に注入されてよい。当該不純物は、後述するトランジスタ部にも注入されてよい。第3アニール段階S518では、半導体基板10をアニールして、格子欠陥の密度を調整する。第3アニール段階S518のアニール温度T3は、第1アニール段階S510のアニール温度T1以下であってよい。あるいは、第3アニール段階S518のアニール温度T3は、第2アニール段階S510のアニール温度T2以下であってよい。
【0091】
図5Bは、半導体装置100の製造方法の他の例を示すフローチャートである。本例の製造方法は、
図5Aに示した例に対して、荷電粒子注入段階S506および水素注入段階S508の順番が入れ替わっている。つまり本例では、水素注入段階S508を行った後に、荷電粒子注入段階S506を行う。荷電粒子注入段階S506の後に、第1アニール段階S510を行う。他の工程は、
図5Aに示した例と同様であってよい。本例によっても、高濃度領域150を深さ方向に長く形成できる。
【0092】
図6Aは、半導体装置100の製造方法の他の例を示すフローチャートである。本例の製造方法は、
図5Aに示した例に対して、第2注入段階S512が異なる。他の工程は、
図5Aに示した例と同様であってよい。
【0093】
本例の第2注入段階S512においては、第3の深さ位置Z3に加えて、第1の深さ位置Z1にも水素イオンを注入する。つまり、第1の深さ位置Z1には、第1注入段階S505と、第2注入段階S512の2段階で水素イオンが注入される。
【0094】
第3の深さ位置Z3に水素イオンを注入することで、第3の深さ位置Z3の近傍には格子欠陥が高密度に形成される。第2アニール段階S514により、第3の深さ位置Z3に注入された水素が拡散してこれらの格子欠陥と結合する。しかし、第3の深さ位置Z3に注入された水素は比較的にドーズ量が低いので、格子欠陥が多く残存する場合がある。これに対して、第2注入段階S512において第1の深さ位置Z1にも水素イオンを注入することで、第1の深さ位置Z1に注入した水素が第3の深さ位置Z3の近傍の格子欠陥と結合して、格子欠陥密度を低減できる。
【0095】
図6Bは、半導体装置100の製造方法の他の例を示すフローチャートである。本例の製造方法は、
図6Aに示した例に対して、荷電粒子注入段階S506および水素注入段階S508の順番が入れ替わっている。つまり本例では、水素注入段階S508を行った後に、荷電粒子注入段階S506を行う。荷電粒子注入段階S506の後に、第1アニール段階S510を行う。他の工程は、
図6Aに示した例と同様であってよい。本例によっても、高濃度領域150を深さ方向に長く形成できる。
【0096】
図7は、バッファ領域20の近傍における水素化学濃度C
Hの分布例を示す図である。
図7の水素化学濃度C
Hの分布は、第2アニール段階S514の後の分布である。第1注入段階S505により注入された水素による水素化学濃度をC
H0とする。当該水素は、第1アニール段階S510により上面21側に拡散している。第1アニール段階S510の後における水素化学濃度C
H0のピーク値をH1-0とする。
【0097】
次に、第2注入段階S512において、第1の深さ位置Z1と、それぞれの第3の深さ位置Z3とに水素イオンを注入する。第3の深さ位置Z3には、水素イオンに代えてリン等のN型ドーパントを注入してもよい。第2アニール段階S514により、第1の深さ位置Z1に追加で注入された水素が、それぞれの第3の深さ位置Z3の近傍に拡散する。これにより、それぞれの第3の深さ位置Z3の近傍の格子欠陥密度を低減できる。第2アニール段階S514の後における水素化学濃度CHのピーク値をH1-1とする。
【0098】
なお、バッファ領域20には、リン等のN型ドーパントを追加して注入してもよい。
図7においては、リン化学濃度C
Pの分布例を1点鎖線で示している。リン化学濃度C
Pは、下面23と深さ位置Z1との間に化学濃度ピーク171を有してよい。ピーク171の濃度は、ピーク値H1-1より大きくてよく、小さくてもよい。ピーク171の濃度は、ピーク値H1-0より大きくてよく、小さくてもよい。
【0099】
ピーク値H1-0は、水素化学濃度ピーク131-2、131-3、131-4のいずれのピーク値よりも大きくてよい。第1注入段階S505で注入する水素イオンの濃度を高くすることで、より深い位置まで水素を拡散させることができる。第1注入段階S505で第1の深さ位置Z1に注入する水素イオンのドーズ量は、第2注入段階S512でそれぞれの第2の深さ位置Z3に注入する水素イオンの総ドーズ量よりも多くてよい。
【0100】
ピーク値H1-1と、ピーク値H1-0の差分は、ピーク値H1-0よりも小さくてよい。つまり、第2注入段階S512で第1の深さ位置Z1に注入する水素イオンの第2のドーズ量は、第1注入段階S505で第1の深さ位置Z1に注入する水素イオンの第1のドーズ量よりも低くてよい。第2注入段階S512では、第3の深さ位置Z3の近傍の格子欠陥を終端できればよいので、水素イオンのドーズ量が少なくよい。第2のドーズ量は、第1のドーズ量の半分以下であってよい。第1のドーズ量は、1×1014ions/cm3以上であってよい。第1のドーズ量は、2×1014ions/cm3以上であってよく、5×1014ions/cm3以上であってもよい。第2のドーズ量は、5×1013ions/cm3以上であってよく、1×1014ions/cm3以上であってもよい。
【0101】
図8は、第1の深さ位置Z1に対する水素イオンのドーズ量を変化させた場合の、バッファ領域20の近傍におけるドーピング濃度D
dの変化を示す図である。本例では、第2注入段階512では、第1の深さ位置Z1に水素イオンを注入していない。また、それぞれの第3の深さ位置Z3に対する水素イオンのドーズ量は変化させていない。
【0102】
ドーピング濃度Dd1は、第1の深さ位置Z1に対する水素イオンのドーズ量が1×1014/cm2の場合のドーピング濃度である。ドーピング濃度Dd2は、第1の深さ位置Z1に対する水素イオンのドーズ量が3×1013/cm2の場合のドーピング濃度である。ドーピング濃度Dd3は、第1の深さ位置Z1に対する水素イオンのドーズ量が1×1013/cm2の場合のドーピング濃度である。なお、第1の深さ位置Z1に最も近い第3の深さ位置Z3の水素イオンのドーズ量は1×1013/cm2である。
【0103】
いずれのドーズ量でも、ドーピング濃度ピーク111-2よりも上面21側のドーピング濃度分布は、あまり変化していない。これに対して、ドーピング濃度ピーク111-1とドーピング濃度ピーク111-2の間のドーピング濃度は、第1の深さ位置Z1に対するドーズ量に応じて大きく変化している。なお、第1の深さ位置Z1に対するドーズ量を、1×1014/cm2よりも更に大きくしても、ドーピング濃度ピーク111-1とドーピング濃度ピーク111-2の間のドーピング濃度はほとんど変化しなかった。
【0104】
このため、第1の深さ位置Z1に対するドーズ量が小さいと、ドーピング濃度ピーク111-1とドーピング濃度ピーク111-2の間の格子欠陥が、十分に水素と結合できていないと考えられる。第1の深さ位置Z1に対する水素イオンのドーズ量は、3×1013/cm2以上であってよく、1×1014/cm2以上であってもよい。第1の深さ位置Z1に対する水素イオンのドーズ量は、第1の深さ位置Z1に最も近い第3の深さ位置Z3に対する水素イオンのドーズ量の3倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。また、ドーピング濃度ピーク111-1のドーピング濃度は、ドーピング濃度ピーク111-2のドーピング濃度の3倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。
【0105】
図9Aは、水素化学濃度ピーク131-1と、ドーピング濃度ピーク111-1との関係を説明する図である。本例では、水素化学濃度ピーク131-1の下側裾132の傾き134を用いて、ドーピング濃度ピーク111-1の下側裾112の傾き114を規格化する。規格化は、一例として傾き134で傾き114を除算する処理である。
【0106】
下側裾の傾きは、濃度が極大値を示す位置と、濃度が極大値に対して予め定められた比率となる位置との傾きであってよい。予め定められた比率は、80%であってよく、50%であってよく、10%であってよく、1%であってよく、他の比率を用いてもよい。また、水素化学濃度ピーク131-1およびドーピング濃度ピーク111-1においては、第1の深さ位置Z1と、半導体基板10の下面23との間の濃度分布の傾きを用いてもよい。
【0107】
図9Aに示す例では、水素化学濃度ピーク131-1の傾き134は、(H1-aH1)/(Z1-Z4)で与えられ、ドーピング濃度ピーク111-1の傾き114は(D1-aD1)/(Z1-Z5)で与えられる。H1は第1の深さ位置Z1における水素化学濃度であり、D1は第1の深さ位置Z1におけるドーピング濃度であり、aは予め定められた比率であり、Z4は水素化学濃度ピーク131-1の下側裾132において水素濃度がaH1となる深さであり、Z5はドーピング濃度ピーク111-1の下側裾112においてドーピング濃度がaD1となる深さである。例えば、傾き134で傾き114を規格化すると、(D1-aD1)(Z1-Z4)/{(H1-aH1)(Z1-Z5)}となる。傾き134で傾き114を規格化した傾きをαとする。
【0108】
図9Bは、不純物化学濃度ピーク141と、ドーピング濃度ピーク121との関係を説明する図である。本例では、第2の深さ位置Z2に、荷電粒子として水素イオンを注入している。本例では、不純物化学濃度ピーク141の下側裾142の傾き144を用いて、ドーピング濃度ピーク121の下側裾の傾き124を規格化する。
【0109】
図9Bに示す例では、不純物化学濃度ピーク141の傾き144は(H2-aH2)/(Z2-Z6)で与えられ、ドーピング濃度ピーク121の傾き124は(D2-aD2)/(Z2-Z7)で与えられる。H2は第2の深さ位置Z2における水素化学濃度であり、D2は第2の深さ位置Z2におけるドーピング濃度であり、aは予め定められた比率であり、Z6は不純物化学濃度ピーク141の下側裾142において水素化学濃度がaH2となる深さであり、Z7はドーピング濃度ピーク121の下側裾122においてドーピング濃度がaD2となる深さである。ドーピング濃度ピーク121の傾きを規格化するのに用いる比率aは、ドーピング濃度ピーク111-1の傾きを規格化するのに用いる比率aと同一であってよく、異なっていてもよい。例えば、傾き144で傾き124を規格化すると、(D2-aD2)(Z2-Z6)/{(Z2-Z7)(H2-aH2)}となる。傾き144で傾き124を規格化した傾きをβとする。
【0110】
ドーピング濃度ピーク121の下側裾122の規格化された傾きβは、ドーピング濃度ピーク111-1の下側裾112の規格化された傾きαよりも小さい。つまり、ドーピング濃度ピーク121のほうが、ドーピング濃度ピーク111-1に比べて、水素化学濃度のピークに対してなだらかなピークになっている。このようなドーピング濃度ピーク121が形成されるように水素イオンを注入することで、平坦な濃度分布を有する高濃度領域150を形成できる。また、ドーピング濃度ピーク121をなだらかな形状にすることで、高濃度領域150の先端におけるドーピング濃度の変化を緩やかにすることもできる。ドーピング濃度ピーク121の下側裾122の規格化された傾きβは、ドーピング濃度ピーク111-1の下側裾の規格化された傾きαの1倍以下であってよく、0.1倍以下であってよく、0.01倍以下であってもよい。
【0111】
また、不純物化学濃度ピーク141の下側裾142の傾き144は、上側裾143の傾き145よりも小さくてよい。下面23から深い位置に注入した水素の化学濃度分布は、下面23側にゆるやかな裾を引く場合があるので、下側裾142の傾き144と、上側裾143の傾き145とを比較することで、第2の深さ位置Z2に注入された水素が、下面23側から注入されたか否かを判別できる場合がある。傾き145は(H2-aH2)/(Z8-Z2)で与えられる。傾き125は(D2-aD2)/(Z9-Z2)で与えられる。Z8は、Z8は不純物化学濃度ピーク141の上側裾143において水素化学濃度がaH2となる深さであり、Z9はドーピング濃度ピーク121の上側裾123においてドーピング濃度がaD2となる深さである。なお、
図9Bにおいては、ドーピング濃度ピーク121の下側裾122の傾き124が、上側裾123の傾き125より大きいが、不純物化学濃度ピーク141と同様に、ドーピング濃度ピーク121の下側裾122の傾き124は、上側裾123の傾き125より小さくてもよい。
【0112】
図9Cは、下側裾142の傾きを説明する図である。下側裾142の傾きは、以下のように考えてもよい。
図9Cに記載しているように、不純物化学濃度ピーク141において、ピーク濃度H2の10%(0.1×H2)の濃度となる2つの位置P10、P11の間の幅(10%全幅)を、FW10%Mとする。2つの位置P10、P11は、第2の深さ位置Z2を挟んで、水素化学濃度が0.1×H2となる点のうち、第2の深さ位置Z2に最も近い2つの位置である。2つの位置P10、P11のうち水素化学濃度ピーク131-1側の位置をZ10とする。位置Z10におけるドーピング濃度の傾きはほぼ平坦である。位置Z10における水素化学濃度の傾きは、位置Z10におけるドーピング濃度の傾きの100倍を超える。例えば、位置Z10における水素化学濃度の傾きは、位置Z10におけるドーピング濃度の傾きの100倍以上であってよく、1000倍以上であってもよい。
【0113】
図10Aは、下側裾112の傾きの規格化の他の定義を説明する図である。下側裾112の傾きの規格化においては、例えば、以下の指標γを導入する。
図9Aの例では位置Z4と位置Z5とが異なっていたが、本例では位置Z4と位置Z5を同じ位置とする(Z4=Z5)。位置Z4は、ここでは予め定められた位置である。位置Z4は、水素化学濃度C
Hおよびドーピング濃度D
dが、第1の深さ位置Z1よりも下面23側にて下側裾132、112となっている位置であればよい。位置Z4における水素化学濃度をa×H1、ドーピング濃度をb×D1とする。aは第1の深さ位置Z1の水素化学濃度ピーク131-1の濃度H1に対する、位置Z4における水素化学濃度の比率である。bは第1の深さ位置Z1のドーピング濃度ピーク111-1の濃度D1に対する、位置Z3のドーピング濃度の比率である。ここで、区間Z4~Z1における水素化学濃度およびドーピング濃度のそれぞれ傾きの比と、当該傾きの比を規格化した傾き比γを導入する。区間Z4~Z1における水素化学濃度の傾きの比を、(H1/aH1)/(Z1-Z4)と定義する。同じく、区間Z4~Z1におけるドナー濃度の傾きの比を、(D1/bD1)/(Z1-Z4)と定義する。そして、区間Z4~Z1における水素化学濃度の傾きの比で、ドーピング濃度の傾きの比を規格化した傾き比γを、{(D1/bD1)/(Z1-Z4)}/{(H1/aH1)/(Z1-Z4)}と定義する。規格化した傾き比γは、前式を計算することにより、簡単な比a/bとなる。
【0114】
図10Bは、下側裾122の傾きの規格化の他の定義を説明する図である。下側裾122の傾きの規格化においては、例えば、指標γと同様の指標εを導入する。
図9Bの例では位置Z6と位置Z7とが異なっていたが、本例では位置Z6と位置Z7を同じ位置とする(Z6=Z7)。位置Z6は、ここでは予め定められた位置である。位置Z6は、水素化学濃度およびドーピング濃度が、第2の深さ位置Z2よりも下面23側にて下側裾142、122となっている位置であればよい。位置Z6における水素化学濃度をc×H2、ドーピング濃度をd×D2とする。cは第2の深さ位置Z2の水素化学濃度H2に対する、位置Z6における水素化学濃度の比率である。dは第2の深さ位置Z2のドーピング濃度ピーク121の濃度D2に対する、位置Z6のドーピング濃度の比率である。ここで、区間Z6~Z2における水素化学濃度およびドーピング濃度のそれぞれ傾きの比と、当該傾きの比を規格化した傾き比εを導入する。区間Z6~Z2における水素化学濃度の傾きの比を、(H2/cH2)/(Z2-Z6)と定義する。同じく、区間Z6~Z2におけるドーピング濃度の傾きの比を、(D2/dD2)/(Z2-Z6)と定義する。そして、区間Z6~Z2における水素化学濃度の傾きの比で、ドーピング濃度の傾きの比を規格化した傾き比γを、{(D2/dD2)/(Z2-Z6)}/{(H2/cH2)/(Z2-Z6)}と定義する。規格化した傾き比γは、前式を計算することにより、簡単な比(c/d)となる。
【0115】
水素化学濃度ピーク131-1とドーピング濃度ピーク111-1については、水素化学濃度分布とドーピング濃度分布は相似形になることが多い。ここで相似形になるとは、例えば横軸を深さ、縦軸を濃度の常用対数としたときに、ドーピング濃度分布は水素化学濃度分布を反映した分布を示すことを意味する。すなわち、所定の区間Z4~Z1において、水素イオンをイオン注入し、さらにアニールを行うことにより、ドーピング濃度分布は水素化学濃度分布を反映した分布となる。一例として、水素化学濃度ピーク131-1のH1が1×1017atоms/cm3で、位置Z4の水素化学濃度aH1が2×1016atоms/cm3とすると、aは0.2となる。一方、ドーピング濃度ピーク111-1のD1が1×1016/cm3で、位置Z4のドーピング濃度bD1が2×1015/cm3とすると、bは0.2となる。したがって、規格化した傾き比γは、a/bであるので、1となる。すなわち、下面23に近い第1の深さ位置Z1においては、水素化学濃度分布の傾きの比aとドーピング濃度分布の傾きの比bはほぼ同じ値となり、相似形であると言える。
【0116】
一方、不純物化学濃度ピーク141とドーピング濃度ピーク121については、水素化学濃度分布とドーピング濃度分布は相似形にならなくてもよい。すなわち、所定の区間Z6~Z2において、ドーピング濃度分布は水素化学濃度分布を反映しなくてもよい。一例として、不純物化学濃度ピーク141の水素化学濃度H2が1×1016atоms/cm3で、位置Z6の水素化学濃度cH2が1×1015atоms/cm3とすると、cは0.1となる。一方、ドーピング濃度ピーク121の濃度D2が3×1014/cm3で、位置Z6のドーピング濃度dD2が1.5×1014/cm3とすると、dは0.5となる。したがって、規格化した傾き比εは、c/dであるので、0.2となる。すなわち、下面23から十分深い第2の深さ位置Z2においては、水素化学濃度分布の傾きの比cはドーピング濃度分布の傾きの比dよりも0.2倍小さい値となり、相似とは離れた形を示すと言える。
【0117】
規格化した傾き比γとεを比較すると、水素化学濃度分布のピーク位置が下面23に近い場合にγは1に近くなり、水素化学濃度分布のピーク位置が下面23から十分深い場合にはεは1よりも十分高い値になってよい。すなわち、規格化した傾き比εは、規格化した傾き比γよりも大きくてよい。さらに、傾き比εは、1.1以上であってよく、1.5以上であってよく、2以上であってよい。あるいは、10以上であってよく、100以上であってもよい。
【0118】
なお、水素化学濃度ピーク131-1および不純物化学濃度ピーク141の実際の位置と、ドーピング濃度ピーク111-1およびドーピング濃度ピーク121の実際の位置が、異なる場合もある。このように化学濃度ピークの位置とドーピング濃度の位置が一致しない場合は、化学濃度ピークの位置を第1の深さ位置Z1または第2の深さ位置Z2とし、ドーピング濃度については第1の深さ位置Z1または第2の深さ位置Z2における濃度を便宜的にピークの位置としてもよい。これにより、上記の定義による計算は可能となる。
【0119】
図11から
図19は、バルク・ドナー濃度、および、高濃度領域150のドナー濃度の好ましい範囲を決定する方法の一例を説明する図である。本例では、バルク・ドナー濃度がばらついた場合でも、高濃度領域150における最終的なドナー濃度(ドーピング濃度)が比較的に安定した濃度となるように、バルク・ドナー濃度およびドナー濃度を設定する。
【0120】
本例では、バルク・ドナー濃度の仕様値をNB0とし、実際のバルク・ドナー濃度をNBreとする。バルク・ドナー濃度の仕様値とは、半導体ウエハの製造者が規定する仕様値である。仕様値に幅がある場合、仕様値の中央値を用いてよい。バルク・ドナー濃度は、リン等のバルク・ドナーの濃度で定まる比抵抗ρに対して、N=1/qμρで与えられる。qは電気素量であり、μは半導体基板10中における電子の移動度である。
【0121】
水素ドナー(VOH欠陥)の濃度をNHとする。水素ドナー濃度NHのばらつきは、バルク・ドナー濃度のばらつきに比べて無視できる程度に小さい。本例では水素ドナー濃度NHのばらつきを0とする。
【0122】
最終的なドナー濃度の目標値をNF0とする。また、実際に得られた最終的なドナー濃度をNFreとする。上述した濃度は、全て単位体積当たりの濃度(/cm3)である。
【0123】
最終的なドナー濃度の目標値NF0は、バルク・ドナー濃度の仕様値NB0に、水素ドナー濃度NHを加算したものであるので、下式で与えられる。
NF0=NH+NB0 ・・・式(1)
一方、実際のドナー濃度NFreは、実際のバルク・ドナー濃度NBreに、水素ドナー濃度NHを加算したものであるので、下式で与えられる。
NFre=NH+NBre ・・・式(2)
【0124】
パラメータβを、下式で定義する。
β=NBre/NB0 ・・・式(3)
パラメータβは、実際のバルク・ドナー濃度NBreと仕様値NB0との比であり、1から離れるほど実際のバルク・ドナー濃度NBreが仕様値NB0からずれていることを示す。
【0125】
パラメータγを、下式で定義する。
γ=NFre/NF0 ・・・式(4)
パラメータγは、実際のドナー濃度NFreと目標値NF0との比であり、1から離れるほど実際のドナー濃度NFreが目標値NF0からずれていることを示す。つまり、γが十分に1に近ければ、実際のバルク・ドナー濃度NBreが仕様値NB0に対してβ倍ずれた場合でも、βにほとんど依らずに、実際のドナー濃度NFreが目標値NF0とほぼ一致していることを示している。
【0126】
ここで、バルク・ドナー濃度のばらつきが比較的に小さいFZ法で製造されたシリコンウエハの比抵抗ばらつきは、一般に下記の通りである。
・中性子照射FZウエハ・・・±8%(比では0.92から1.08)
・ガスドープFZウエハ・・・±12%(比では0.88から1.12)
このため、γが0.85以上、1.15以下であれば、最終的なドナー濃度NFreのばらつきが、上述したFZ法のシリコンウエハのバルク・ドナー濃度と同程度になる。本明細書では、γの許容値を0.85以上、1.15以下とする。
【0127】
実際のドナー濃度NFreは、実際のバルク・ドナー濃度NBreのばらつき(β)の影響を受ける。一方で、水素ドナー濃度NHのばらつきは、バルク・ドナー濃度NBreのばらつきに比べると、ほぼ0であると見做すことができる。このため、ドナー濃度の目標値NF0に対してバルク・ドナー濃度の仕様値NB0を小さくすることで、ドナー濃度NFreにおいてばらつく成分の割合を小さくすることが可能となる。
【0128】
パラメータε'を、下式で定義する。
NB0=ε'×NF0 ・・・式(5)
ただし、0<ε'<1。パラメータε'は、ドナー濃度の目標値NF0に対して、バルク・ドナー濃度の仕様値NB0をε'だけ小さく設定する、という意味のパラメータである。
ε'を、0にならない範囲で1よりもどれだけ小さい値とすれば、γがβによらずに、且つ、十分1に近づくかを検討する。
【0129】
パラメータεを、下式で定義する。
ε=1/ε' ・・・式(6)
式(5)および式(6)から、下式が得られる。
NB0=NF0/ε ・・・式(7)
式(1)に式(7)を代入して、下式が得られる。
NF0=NH+NF0/ε つまり、NH=(1-1/ε)NF0 ・・・式(8)
式(2)に式(8)および式(3)を代入して、下式が得られる。
NFre=(1-1/ε)NF0+βNB0 ・・・式(9)
式(9)に式(7)を代入して、下式が得られる。
NFre=(1-1/ε)NF0+(β/ε)NF0
=(1-1/ε+β/ε)NF0 ・・・式(10)
式(4)に式(10)を代入して、下式が得られる。
γ=1-1/ε+β/ε
=1+(β―1)/ε ・・・式(11)
式(6)および式(11)から、下式が得られる。
γ=1+ε'(β―1) ・・・式(12)
【0130】
図11は、式(12)で示されるε'とγとの関係を、β毎に示したグラフである。上述したように、γは実際のドナー濃度N
Freの目標値N
F0に対する比率を示しており、βは実際のバルク・ドナー濃度N
Breの仕様値N
B0に対する比率を示している。また、γの許容値は0.85以上、1.15以下である。
【0131】
例えば、バルク・ドナー濃度の仕様値NB0を、ドナー濃度の目標値NF0の0.5倍以下、すなわち、ε'を0.5以下とする。この場合、例えばβが1.3の場合でも、γは1.15以下となり許容範囲になる。つまり実際のバルク・ドナー濃度NBreが仕様値NB0に比べて30%高い場合でも、実際のドナー濃度NFreは、目標値NF0の1.15倍以下となる。また、βが0.7の場合でも、ε'が0.5以下であれば、γは許容範囲となる。ε'を0に近づけると、γは1に収束する。例えばβ=2の場合、ε'がほぼ0.2以下であれば、γは許容範囲となる。
【0132】
γを上記の許容範囲とするために、ε'の好ましい範囲として、例えば下記の範囲A~Dが考えられる。
(範囲A)
ε'が0.001以上、0.5以下。ε'が0.5の場合、βが0.7~1.3の範囲内であれば、γが許容範囲内となる。例えばバルク・ドナー濃度の仕様値NB0が1×1014/cm3であり、ε'が0.001の場合、ドナー濃度の目標値NF0は1×1011/cm3であり、約46000Ωcmに相当する。
【0133】
(範囲B)
ε'が0.01以上、0.333以下。ε'が0.333の場合、βが0.5~1.5の範囲内であれば、γが許容範囲内となる。例えばバルク・ドナー濃度の仕様値NB0が1×1014/cm3であり、ε'が0.01の場合、ドナー濃度の目標値NF0は1×1012/cm3であり、約4600Ωcmに相当する。
【0134】
(範囲C)
ε'が0.03以上、0.25以下。ε'が0.25の場合、βが概ね0.4~1.6の範囲内であれば、γが許容範囲内となる。例えばバルク・ドナー濃度の仕様値NB0が1×1014/cm3であり、ε'が0.03の場合、ドナー濃度の目標値NF0は3×1012/cm3であり、約1500Ωcmに相当する。
【0135】
(範囲D)
ε'が0.1以上、0.2以下。ε'が0.2の場合、βが概ね0.2~1.8の範囲内であれば、γが許容範囲内となる。例えばバルク・ドナー濃度の仕様値NB0が1×1014/cm3であり、ε'が0.1の場合、ドナー濃度の目標値NF0は1×1013/cm3であり、約460Ωcmに相当する。
【0136】
尚、比抵抗のバラつきが少ない方が実用に向いているため、ε'は0.1以下が好ましく、更に0.02以下が好ましい。この場合、例えば下記の範囲E~Hが考えられる。
(範囲E)
ε'が0.001以上、0.1以下。ε'が0.1の場合、βが概ね0.05(図示しない)~3.0の範囲内であれば、γが十分許容範囲内となる。例えばバルク・ドナー濃度の仕様値NB0が1×1014/cm3であり、ε'が0.1の場合、ドナー濃度の目標値NF0は1×1013/cm3であり、約460Ωcmに相当する。
【0137】
(範囲F)
ε'が0.002以上、0.05以下。ε'が0.05の場合、βが概ね0.01(図示しない)~5.0の範囲内であれば、γが十分許容範囲内となる。例えばバルク・ドナー濃度の仕様値NB0が1×1014/cm3であり、ε'が0.05の場合、ドナー濃度の目標値NF0は5×1012/cm3であり、約920Ωcmに相当する。
【0138】
(範囲G)
ε'が0.005以上、0.02以下。ε'が0.02の場合、βが概ね0.01(図示しない)~10.0の範囲内であれば、γが十分許容範囲内となる。例えばバルク・ドナー濃度の仕様値NB0が1×1014/cm3であり、ε'が0.02の場合、ドナー濃度の目標値NF0は2×1012/cm3であり、約2300Ωcmに相当する。
【0139】
(範囲H)
ε'が0.01±0.002(20%)の幅を有する場合。ε'が0.01の場合、βが概ね0.01(図示しない)~20.0(図示しない)の範囲内であれば、γが十分許容範囲内となる。例えばバルク・ドナー濃度の仕様値NB0が1×1014/cm3であり、ε'が0.01の場合、ドナー濃度の目標値NF0は1×1012/cm3であり、約4600Ωcmに相当する。
【0140】
上述したように、実際のドナー濃度NFreは、高濃度領域150のドナー濃度に対応する。半導体基板10において大きな領域を占める高濃度領域150のドナー濃度によって、半導体装置100の耐圧がほぼ定まる。このため、半導体装置100の定格電圧によって、高濃度領域150のドナー濃度NFreの好ましい範囲が定まる。ドナー濃度NFreに応じて、当該ドナー濃度NFreを安定させることができるバルク・ドナー濃度NBreの範囲が定まる。
【0141】
図12は、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。本例においては、半導体基板10の深さ方向の中央Zcにおけるドナー濃度N
Fre(/cm
3)は、(9.20245×10
15)/x以上、(9.20245×10
16)/xである。ただし、xは定格電圧(V)である。ドナー濃度N
Fre(/cm
3)は、FZ法で形成された一般的な半導体基板におけるドリフト領域のドーピング濃度を参照して決定したが、MCZ法で形成された半導体基板のドリフト領域のドーピング濃度を参照して決定しても構わない。
図12においては、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の好ましい範囲の上限311および下限312を破線で示している。
【0142】
図12においては、上述した範囲A(ε'が0.001以上、0.5以下)の場合のバルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の上限313および下限314を実線で示している。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311にε'の上限値(0.5)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの下限314は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の下限312にε'の下限値(0.001)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313および下限314は下記の通りである。なお、各例における上限313および下限314の単位は(/cm
3)である。上述したように、xは定格電圧(V)である。
・下限314:(9.20245×10
12)/x
・上限313:(4.60123×10
16)/x
【0143】
図13は、ε'が範囲B(0.01以上、0.333以下)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。なお、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311および下限312は、
図12の例と同一である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311にε'の上限値(0.333)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの下限314は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の下限312にε'の下限値(0.01)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313および下限314は下記の通りである。
・下限314:(9.20245×10
13)/x
・上限313:(3.06442×10
16)/x
【0144】
図14は、ε'が範囲C(0.03以上、0.25以下)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。なお、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311および下限312は、
図12の例と同一である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311にε'の上限値(0.25)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの下限314は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の下限312にε'の下限値(0.03)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313および下限314は下記の通りである。
・下限314:(2.76074×10
14)/x
・上限313:(2.30061×10
16)/x
【0145】
図15は、ε'が範囲D(0.1以上、0.2以下)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。なお、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311および下限312は、
図12の例と同一である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311にε'の上限値(0.2)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの下限314は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の下限312にε'の下限値(0.1)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313および下限314は下記の通りである。
・下限314:(9.20245×10
14)/x
・上限313:(1.84049×10
16)/x
【0146】
図16は、ε'が範囲E(0.001以上、0.1以下)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。なお、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311および下限312は、
図12の例と同一である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311にε'の上限値(0.1)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの下限314は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の下限312にε'の下限値(0.001)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313および下限314は下記の通りである。
・下限314:(9.20245×10
12)/x
・上限313:(9.20245×10
15)/x
【0147】
図17は、ε'が範囲F(0.002以上、0.05以下)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。なお、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311および下限312は、
図12の例と同一である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311にε'の上限値(0.05)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの下限314は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の下限312にε'の下限値(0.002)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313および下限314は下記の通りである。
・下限314:(1.84049×10
13)/x
・上限313:(4.60123×10
15)/x
【0148】
図18は、ε'が範囲G(0.005以上、0.02以下)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。なお、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311および下限312は、
図12の例と同一である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311にε'の上限値(0.02)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの下限314は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の下限312にε'の下限値(0.005)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313および下限314は下記の通りである。
・下限314:(4.60123×10
13)/x
・上限313:(1.84049×10
15)/x
【0149】
図19は、ε'が範囲H(0.01±0.002)の場合の、バルク・ドナー濃度N
Breの好ましい範囲の一例を示す図である。なお、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311および下限312は、
図12の例と同一である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の上限311にε'の上限値(0.01)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの下限314は、ドナー濃度N
Fre(/cm
3)の下限312にε'の下限値(0.01)を乗じた値である。バルク・ドナー濃度N
Breの上限313および下限314は下記の通りである。
・下限314:(9.20245×10
13)/x
・上限313:(9.20245×10
14)/x
なお、各範囲における上限313および下限314は、±20%の幅を有してよい。
【0150】
図12から
図19に示したように、バルク・ドナー濃度N
Breを、各例における上限313および下限314の間の濃度にすることで、最終的なドナー濃度N
Freのばらつきを示すγを、許容範囲内に抑制できる。なお、下限314の曲線は、真性キャリア濃度よりも小さい場合がある。ここで真性キャリア濃度は、室温(例えば300K)において1.45×10
10/cm
3である。下限314の曲線の値が真性キャリア濃度よりも小さい場合は、下限314は真性キャリア濃度に置き換えてもよい。
【0151】
図20は、半導体装置100の上面図の一例である。
図20においては、各部材を半導体基板10の上面に投影した位置を示している。
図20においては、半導体装置100の一部の部材だけを示しており、一部の部材は省略している。
【0152】
半導体装置100は、
図1から
図19において説明した半導体基板10を備えている。半導体基板10は、上面視において端辺102を有する。本明細書で単に上面視と称した場合、半導体基板10の上面側から見ることを意味している。本例の半導体基板10は、上面視において互いに向かい合う2組の端辺102を有する。
図20においては、X軸およびY軸は、いずれかの端辺102と平行である。またZ軸は、半導体基板10の上面と垂直である。
【0153】
半導体基板10には活性部160が設けられている。活性部160は、半導体装置100が動作した場合に半導体基板10の上面と下面との間で、深さ方向に主電流が流れる領域である。活性部160の上方には、エミッタ電極が設けられているが
図20では省略している。
【0154】
活性部160には、IGBT等のトランジスタ素子を含むトランジスタ部70と、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子を含むダイオード部80の少なくとも一方が設けられている。
図20の例では、トランジスタ部70およびダイオード部80は、半導体基板10の上面における所定の配列方向(本例ではX軸方向)に沿って、交互に配置されている。他の例では、活性部160には、トランジスタ部70およびダイオード部80の一方だけが設けられていてもよい。
【0155】
図20においては、トランジスタ部70が配置される領域には記号「I」を付し、ダイオード部80が配置される領域には記号「F」を付している。本明細書では、上面視において配列方向と垂直な方向を延伸方向(
図20ではY軸方向)と称する場合がある。トランジスタ部70およびダイオード部80は、それぞれ延伸方向に長手を有してよい。つまり、トランジスタ部70のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。同様に、ダイオード部80のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。トランジスタ部70およびダイオード部80の延伸方向と、後述する各トレンチ部の長手方向とは同一であってよい。
【0156】
ダイオード部80は、半導体基板10の下面と接する領域に、N+型のカソード領域を有する。本明細書では、カソード領域が設けられた領域を、ダイオード部80と称する。つまりダイオード部80は、上面視においてカソード領域と重なる領域である。半導体基板10の下面には、カソード領域以外の領域には、P+型のコレクタ領域が設けられてよい。本明細書では、ダイオード部80を、後述するゲート配線までY軸方向に延長した延長領域81も、ダイオード部80に含める場合がある。延長領域81の下面には、コレクタ領域が設けられている。
【0157】
トランジスタ部70は、半導体基板10の下面と接する領域に、P+型のコレクタ領域を有する。また、トランジスタ部70は、半導体基板10の上面側に、N型のエミッタ領域、P型のベース領域、ゲート導電部およびゲート絶縁膜を有するゲート構造が周期的に配置されている。
【0158】
半導体装置100は、半導体基板10の上方に1つ以上のパッドを有してよい。本例の半導体装置100は、ゲートパッド164を有している。半導体装置100は、アノードパッド、カソードパッドおよび電流検出パッド等のパッドを有してもよい。各パッドは、端辺102の近傍に配置されている。端辺102の近傍とは、上面視における端辺102と、エミッタ電極との間の領域を指す。半導体装置100の実装時において、各パッドは、ワイヤ等の配線を介して外部の回路に接続されてよい。
【0159】
ゲートパッド164には、ゲート電位が印加される。ゲートパッド164は、活性部160のゲートトレンチ部の導電部に電気的に接続される。半導体装置100は、ゲートパッド164とゲートトレンチ部とを接続するゲート配線を備える。
図20においては、ゲート配線に斜線のハッチングを付している。
【0160】
本例のゲート配線は、外周ゲート配線130と、活性側ゲート配線129とを有している。外周ゲート配線130は、上面視において活性部160と半導体基板10の端辺102との間に配置されている。本例の外周ゲート配線130は、上面視において活性部160を囲んでいる。上面視において外周ゲート配線130に囲まれた領域を活性部160としてもよい。また、外周ゲート配線130は、ゲートパッド164と接続されている。外周ゲート配線130は、半導体基板10の上方に配置されている。外周ゲート配線130は、アルミニウム等を含む金属配線であってよい。
【0161】
活性側ゲート配線129は、活性部160に設けられている。活性部160に活性側ゲート配線129を設けることで、半導体基板10の各領域について、ゲートパッド164からの配線長のばらつきを低減できる。
【0162】
活性側ゲート配線129は、活性部160のゲートトレンチ部と接続される。活性側ゲート配線129は、半導体基板10の上方に配置されている。活性側ゲート配線129は、不純物がドープされたポリシリコン等の半導体で形成された配線であってよい。
【0163】
活性側ゲート配線129は、外周ゲート配線130と接続されてよい。本例の活性側ゲート配線129は、Y軸方向の略中央で一方の外周ゲート配線130から他方の外周ゲート配線130まで、活性部160を横切るように、X軸方向に延伸して設けられている。活性側ゲート配線129により活性部160が分割されている場合、それぞれの分割領域において、トランジスタ部70およびダイオード部80がX軸方向に交互に配置されてよい。
【0164】
また、半導体装置100は、ポリシリコン等で形成されたPN接合ダイオードである不図示の温度センス部や、活性部160に設けられたトランジスタ部の動作を模擬する不図示の電流検出部を備えてもよい。
【0165】
本例の半導体装置100は、活性部160と端辺102との間に、エッジ終端構造部90を備える。本例のエッジ終端構造部90は、外周ゲート配線130と端辺102との間に配置されている。エッジ終端構造部90は、半導体基板10の上面側の電界集中を緩和する。エッジ終端構造部90は、複数のガードリング92を有する。ガードリング92は、半導体基板10の上面と接するP型の領域である。ガードリング92は、上面視において活性部160を囲んでいてよい。複数のガードリング92は、外周ゲート配線130と端辺102との間において、所定の間隔で配置されている。外側に配置されたガードリング92は、一つ内側に配置されたガードリング92を囲んでいてよい。外側とは、端辺102に近い側を指し、内側とは、外周ゲート配線130に近い側を指す。複数のガードリング92を設けることで、活性部160の上面側における空乏層を外側に伸ばすことができ、半導体装置100の耐圧を向上できる。エッジ終端構造部90は、活性部160を囲んで環状に設けられたフィールドプレートおよびリサーフのうちの少なくとも一つを更に備えていてもよい。
【0166】
図21は、
図20における領域Aの拡大図である。領域Aは、トランジスタ部70、ダイオード部80、および、活性側ゲート配線129を含む領域である。本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面側の内部に設けられたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15を備える。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、それぞれがトレンチ部の一例である。また、本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面の上方に設けられたエミッタ電極52および活性側ゲート配線129を備える。エミッタ電極52および活性側ゲート配線129は互いに分離して設けられる。
【0167】
エミッタ電極52および活性側ゲート配線129と、半導体基板10の上面との間には層間絶縁膜が設けられるが、
図21では省略している。本例の層間絶縁膜には、コンタクトホール54が、当該層間絶縁膜を貫通して設けられる。
図21においては、それぞれのコンタクトホール54に斜線のハッチングを付している。
【0168】
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15の上方に設けられる。エミッタ電極52は、コンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面におけるエミッタ領域12、コンタクト領域15およびベース領域14と接触する。また、エミッタ電極52は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ダミートレンチ部30内のダミー導電部と接続される。エミッタ電極52は、Y軸方向におけるダミートレンチ部30の先端において、ダミートレンチ部30のダミー導電部と接続されてよい。
【0169】
活性側ゲート配線129は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ゲートトレンチ部40と接続する。活性側ゲート配線129は、Y軸方向におけるゲートトレンチ部40の先端部41において、ゲートトレンチ部40のゲート導電部と接続されてよい。活性側ゲート配線129は、ダミートレンチ部30内のダミー導電部とは接続されない。
【0170】
エミッタ電極52は、金属を含む材料で形成される。
図21においては、エミッタ電極52が設けられる範囲を示している。例えば、エミッタ電極52の少なくとも一部の領域はアルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金、例えばAlSi、AlSiCu等の金属合金で形成される。エミッタ電極52は、アルミニウム等で形成された領域の下層に、チタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。さらにコンタクトホール内において、バリアメタルとアルミニウム等に接するようにタングステン等を埋め込んで形成されたプラグを有してもよい。
【0171】
ウェル領域11は、活性側ゲート配線129と重なって設けられている。ウェル領域11は、活性側ゲート配線129と重ならない範囲にも、所定の幅で延伸して設けられている。本例のウェル領域11は、コンタクトホール54のY軸方向の端から、活性側ゲート配線129側に離れて設けられている。ウェル領域11は、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型の領域である。本例のベース領域14はP-型であり、ウェル領域11はP+型である。
【0172】
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれは、配列方向に複数配列されたトレンチ部を有する。本例のトランジスタ部70には、配列方向に沿って1以上のゲートトレンチ部40と、1以上のダミートレンチ部30とが交互に設けられている。本例のダイオード部80には、複数のダミートレンチ部30が、配列方向に沿って設けられている。本例のダイオード部80には、ゲートトレンチ部40が設けられていない。
【0173】
本例のゲートトレンチ部40は、配列方向と垂直な延伸方向に沿って延伸する2つの直線部分39(延伸方向に沿って直線状であるトレンチの部分)と、2つの直線部分39を接続する先端部41を有してよい。
図21における延伸方向はY軸方向である。
【0174】
先端部41の少なくとも一部は、上面視において曲線状に設けられることが好ましい。2つの直線部分39のY軸方向における端部どうしを先端部41が接続することで、直線部分39の端部における電界集中を緩和できる。
【0175】
トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30はゲートトレンチ部40のそれぞれの直線部分39の間に設けられる。それぞれの直線部分39の間には、1本のダミートレンチ部30が設けられてよく、複数本のダミートレンチ部30が設けられていてもよい。ダミートレンチ部30は、延伸方向に延伸する直線形状を有してよく、ゲートトレンチ部40と同様に、直線部分29と先端部31とを有していてもよい。
図21に示した半導体装置100は、先端部31を有さない直線形状のダミートレンチ部30と、先端部31を有するダミートレンチ部30の両方を含んでいる。
【0176】
ウェル領域11の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30のY軸方向の端部は、上面視においてウェル領域11に設けられる。つまり、各トレンチ部のY軸方向の端部において、各トレンチ部の深さ方向の底部は、ウェル領域11に覆われている。これにより、各トレンチ部の当該底部における電界集中を緩和できる。
【0177】
配列方向において各トレンチ部の間には、メサ部が設けられている。メサ部は、半導体基板10の内部において、トレンチ部に挟まれた領域を指す。一例としてメサ部の上端は半導体基板10の上面である。メサ部の下端の深さ位置は、トレンチ部の下端の深さ位置と同一である。本例のメサ部は、半導体基板10の上面において、トレンチに沿って延伸方向(Y軸方向)に延伸して設けられている。本例では、トランジスタ部70にはメサ部60が設けられ、ダイオード部80にはメサ部61が設けられている。本明細書において単にメサ部と称した場合、メサ部60およびメサ部61のそれぞれを指している。
【0178】
それぞれのメサ部には、ベース領域14が設けられる。メサ部において半導体基板10の上面に露出したベース領域14のうち、活性側ゲート配線129に最も近く配置された領域をベース領域14-eとする。
図21においては、それぞれのメサ部の延伸方向における一方の端部に配置されたベース領域14-eを示しているが、それぞれのメサ部の他方の端部にもベース領域14-eが配置されている。それぞれのメサ部には、上面視においてベース領域14-eに挟まれた領域に、第1導電型のエミッタ領域12および第2導電型のコンタクト領域15の少なくとも一方が設けられてよい。本例のエミッタ領域12はN+型であり、コンタクト領域15はP+型である。エミッタ領域12およびコンタクト領域15は、深さ方向において、ベース領域14と半導体基板10の上面との間に設けられてよい。
【0179】
トランジスタ部70のメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したエミッタ領域12を有する。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。ゲートトレンチ部40に接するメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したコンタクト領域15が設けられていてよい。
【0180】
メサ部60におけるコンタクト領域15およびエミッタ領域12のそれぞれは、X軸方向における一方のトレンチ部から、他方のトレンチ部まで設けられる。一例として、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿って交互に配置されている。
【0181】
他の例においては、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿ってストライプ状に設けられていてもよい。例えばトレンチ部に接する領域にエミッタ領域12が設けられ、エミッタ領域12に挟まれた領域にコンタクト領域15が設けられる。
【0182】
ダイオード部80のメサ部61には、エミッタ領域12が設けられていない。メサ部61の上面には、ベース領域14およびコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部61の上面においてベース領域14-eに挟まれた領域には、それぞれのベース領域14-eに接してコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部61の上面においてコンタクト領域15に挟まれた領域には、ベース領域14が設けられてよい。ベース領域14は、コンタクト領域15に挟まれた領域全体に配置されてよい。
【0183】
それぞれのメサ部の上方には、コンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール54は、ベース領域14-eに挟まれた領域に配置されている。本例のコンタクトホール54は、コンタクト領域15、ベース領域14およびエミッタ領域12の各領域の上方に設けられる。コンタクトホール54は、ベース領域14-eおよびウェル領域11に対応する領域には設けられない。コンタクトホール54は、メサ部60の配列方向(X軸方向)における中央に配置されてよい。
【0184】
ダイオード部80において、半導体基板10の下面と隣接する領域には、N+型のカソード領域82が設けられる。半導体基板10の下面において、カソード領域82が設けられていない領域には、P+型のコレクタ領域22が設けられてよい。
図21においては、カソード領域82およびコレクタ領域22の境界を点線で示している。
【0185】
カソード領域82は、Y軸方向においてウェル領域11から離れて配置されている。これにより、比較的にドーピング濃度が高く、且つ、深い位置まで形成されているP型の領域(ウェル領域11)と、カソード領域82との距離を確保して、耐圧を向上できる。本例のカソード領域82のY軸方向における端部は、コンタクトホール54のY軸方向における端部よりも、ウェル領域11から離れて配置されている。他の例では、カソード領域82のY軸方向における端部は、ウェル領域11とコンタクトホール54との間に配置されていてもよい。
【0186】
図22Aは、
図21におけるb-b断面の一例を示す図である。b-b断面は、エミッタ領域12およびカソード領域82を通過するXZ面である。本例の半導体装置100は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。層間絶縁膜38は、半導体基板10の上面に設けられている。層間絶縁膜38は、ホウ素またはリン等の不純物が添加されたシリケートガラス等の絶縁膜、熱酸化膜、および、その他の絶縁膜の少なくとも一層を含む膜である。層間絶縁膜38には、
図21において説明したコンタクトホール54が設けられている。
【0187】
エミッタ電極52は、層間絶縁膜38の上方に設けられる。エミッタ電極52は、層間絶縁膜38のコンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面21と接触している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23に設けられる。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成されている。本明細書において、エミッタ電極52とコレクタ電極24とを結ぶ方向(Z軸方向)を深さ方向と称する。
【0188】
半導体基板10は、N型のドリフト領域19を有する。本例のドリフト領域19は、蓄積領域16の下端から、バッファ領域20の上端までのN型の領域である。本例のドリフト領域19は、
図1から
図19において説明した高濃度領域150を有する。
図22Aにおいては、高濃度領域150に斜線のハッチングを付している。高濃度領域150は、トランジスタ部70に設けられてよく、ダイオード部80に設けられてよく、トランジスタ部70およびダイオード部80の両方に設けられてもよい。高濃度領域150は、バッファ領域20の上端から上面21に向かって設けられた領域である。高濃度領域150の上端部分には、不純物化学濃度ピーク141(
図1等参照)が配置されている。
【0189】
ドリフト領域19は、N-型のバルク・ドナー領域18を有してよい。バルク・ドナー領域18は、ドーピング濃度がバルク・ドナーのドナー濃度と一致する領域である。バルク・ドナー領域18は、高濃度領域150よりも上側に配置された領域である。本例においてバルク・ドナー領域18は、トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれに設けられている。
【0190】
トランジスタ部70のメサ部60には、N+型のエミッタ領域12およびP-型のベース領域14が、半導体基板10の上面21側から順番に設けられている。ベース領域14の下方にはバルク・ドナー領域18が設けられている。メサ部60には、N+型の蓄積領域16が設けられてもよい。蓄積領域16は、ベース領域14とバルク・ドナー領域18との間に配置される。
【0191】
エミッタ領域12は半導体基板10の上面21に露出しており、且つ、ゲートトレンチ部40と接して設けられている。エミッタ領域12は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。エミッタ領域12は、バルク・ドナー領域18よりもドーピング濃度が高い。
【0192】
ベース領域14は、エミッタ領域12の下方に設けられている。本例のベース領域14は、エミッタ領域12と接して設けられている。ベース領域14は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。
【0193】
蓄積領域16は、ベース領域14の下方に設けられている。蓄積領域16は、ドリフト領域19よりもドーピング濃度が高いN+型の領域である。蓄積領域16は、高濃度領域150よりもドーピング濃度が高くてよい。ドリフト領域19とベース領域14との間に高濃度の蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、オン電圧を低減できる。蓄積領域16は、各メサ部60におけるベース領域14の下面全体を覆うように設けられてよい。
【0194】
ダイオード部80のメサ部61には、半導体基板10の上面21に接して、P-型のベース領域14が設けられている。ベース領域14の下方には、バルク・ドナー領域18が設けられている。メサ部61において、ベース領域14の下方に蓄積領域16が設けられていてもよい。
【0195】
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれにおいて、高濃度領域150よりも下面23側にはN+型のバッファ領域20が設けられている。バッファ領域20の構造は、
図1から
図19において説明したバッファ領域20と同一である。バッファ領域20は、ベース領域14の下端から広がる空乏層が、P+型のコレクタ領域22およびN+型のカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0196】
トランジスタ部70において、バッファ領域20の下には、P+型のコレクタ領域22が設けられる。コレクタ領域22は、
図1から
図19において説明した下面領域201の一例である。コレクタ領域22のアクセプタ濃度は、ベース領域14のアクセプタ濃度より高い。コレクタ領域22は、ベース領域14と同一のアクセプタを含んでよく、異なるアクセプタを含んでもよい。コレクタ領域22のアクセプタは、例えばボロンである。
【0197】
ダイオード部80において、バッファ領域20の下には、N+型のカソード領域82が設けられる。カソード領域82は、
図1から
図19において説明した下面領域201の一例である。カソード領域82のドナー濃度は、高濃度領域150のドナー濃度より高い。カソード領域82のドナーは、例えば水素またはリンである。なお、各領域のドナーおよびアクセプタとなる元素は、上述した例に限定されない。コレクタ領域22およびカソード領域82は、半導体基板10の下面23に露出しており、コレクタ電極24と接続している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23全体と接触してよい。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成される。
【0198】
半導体基板10の上面21側には、1以上のゲートトレンチ部40、および、1以上のダミートレンチ部30が設けられる。各トレンチ部は、半導体基板10の上面21から、ベース領域14を貫通して、ドリフト領域19に到達している。エミッタ領域12、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられている領域においては、各トレンチ部はこれらのドーピング領域も貫通して、バルク・ドナー領域18に到達している。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0199】
上述したように、トランジスタ部70には、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30が設けられている。ダイオード部80には、ダミートレンチ部30が設けられ、ゲートトレンチ部40が設けられていない。本例においてダイオード部80とトランジスタ部70のX軸方向における境界は、カソード領域82とコレクタ領域22の境界である。
【0200】
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられる。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に設けられる。つまりゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。
【0201】
ゲート導電部44は、深さ方向において、ベース領域14よりも長く設けられてよい。当該断面におけるゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われる。ゲート導電部44は、ゲート配線に電気的に接続されている。ゲート導電部44に所定のゲート電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチ部40に接する界面の表層に電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0202】
ダミートレンチ部30は、当該断面において、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21に設けられたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー導電部34は、ゲートパッドとは異なる電極に接続されてよい。例えば、ゲートパッドとは異なる外部回路に接続する図示しないダミーパッドに、ダミー導電部34を接続し、ゲート導電部44とは異なる制御を行ってもよい。また、ダミー導電部34をエミッタ電極52に電気的に接続させてもよい。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられる。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に設けられ、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に設けられる。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミー導電部34は、ゲート導電部44と同一の材料で形成されてよい。例えばダミー導電部34は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ダミー導電部34は、深さ方向においてゲート導電部44と同一の長さを有してよい。
【0203】
本例のゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われている。なお、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40の底部は、下側に凸の曲面状(断面においては曲線状)であってよい。
【0204】
半導体基板10は、
図1から
図19において説明したいずれかの例と同様の、不純物化学濃度C
I、水素化学濃度C
H、および、ドーピング濃度D
dの分布を有する。本例の半導体装置100によれば、高濃度領域150を設けることで、ドリフト領域19におけるドーピング濃度のばらつきを抑制できる。
【0205】
図22Bは、
図22Aのd-d線におけるドーピング濃度D
dの分布例を示す図である。d-d線は、コレクタ領域22およびメサ部60を通過するZ軸と平行な線である。本例のドーピング濃度D
dの分布は、コレクタ領域22からドーピング濃度ピーク121までは、
図2に示したドーピング濃度D
dの分布と同様である。本例のドーピング濃度D
dは、蓄積領域16、ベース領域14およびエミッタ領域12のそれぞれにおいて、濃度ピークを有している。本例の半導体基板10は、蓄積領域16およびドーピング濃度ピーク121の間に、バルク・ドナー領域18を有している。バルク・ドナー領域18は、蓄積領域16と接していてよい。つまり、バルク・ドナー領域18と蓄積領域16との境界においては、バルク・ドナー濃度D
bから蓄積領域16の濃度ピークの頂点まで、ドーピング濃度D
dが連続して増加していてよい。
【0206】
図23は、
図21におけるb-b断面の他の例を示す図である。本例の半導体装置100においては、高濃度領域150が、ドリフト領域19の全体に渡って設けられている点で
図22Aの例と相違する。他の構造は、
図22Aの例と同一であってよい。
【0207】
本例の高濃度領域150は、バッファ領域20の上端から、蓄積領域16と接する位置まで設けられてよい。高濃度領域150は、蓄積領域16の内部まで形成されてもよい。この場合、ドーピング濃度ピーク121は、蓄積領域16に配置されてよい。半導体装置100が蓄積領域16を有さない場合、高濃度領域150は、ベース領域14と接する位置まで設けられてよい。本例によれば、ドリフト領域19全体に渡って、ドーピング濃度のばらつきを抑制できる。
【0208】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0209】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0210】
10・・・半導体基板、11・・・ウェル領域、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクト領域、16・・・蓄積領域、18・・・バルク・ドナー領域、19・・・ドリフト領域、20・・・バッファ領域、21・・・上面、22・・・コレクタ領域、23・・・下面、24・・・コレクタ電極、29・・・直線部分、30・・・ダミートレンチ部、31・・・先端部、32・・・ダミー絶縁膜、34・・・ダミー導電部、38・・・層間絶縁膜、39・・・直線部分、40・・・ゲートトレンチ部、41・・・先端部、42・・・ゲート絶縁膜、44・・・ゲート導電部、52・・・エミッタ電極、54・・・コンタクトホール、60、61・・・メサ部、70・・・トランジスタ部、80・・・ダイオード部、81・・・延長領域、82・・・カソード領域、90・・・エッジ終端構造部、92・・・ガードリング、100・・・半導体装置、102・・・端辺、106・・・通過領域、111・・・ドーピング濃度ピーク、112・・・下側裾、113・・・上側裾、114・・・傾き、121・・・ドーピング濃度ピーク、122・・・下側裾、123・・・上側裾、124・・・傾き、125・・・傾き、129・・・活性側ゲート配線、130・・・外周ゲート配線、131・・・水素化学濃度ピーク、132・・・下側裾、133・・・上側裾、134・・・傾き、141・・・不純物化学濃度ピーク、142・・・下側裾、143・・・上側裾、144・・・傾き、145・・・傾き、150・・・高濃度領域、160・・・活性部、164・・・ゲートパッド、171・・・化学濃度ピーク、181・・・低濃度領域、201・・・下面領域、211・・・第1の欠陥密度ピーク、212・・・第2の欠陥密度ピーク、213・・・欠陥密度ピーク、311・・・上限、312・・・下限、313・・・上限、314・・・下限
【手続補正書】
【提出日】2023-11-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板と、
前記半導体基板の前記下面側に配置され、前記半導体基板の深さ方向において1個以上のドーピング濃度ピークを有する、第1導電型のバッファ領域と、
前記バッファ領域と前記半導体基板の前記上面との間に配置され、バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高い第1導電型の高濃度領域と
を備え、
前記バッファ領域の前記ドーピング濃度ピークのうち、前記半導体基板の前記下面に最も近い最浅ドーピング濃度ピークは、他の前記ドーピング濃度ピークよりも高濃度の水素ドナーの濃度ピークであり、
実際のバルク・ドナー濃度N
Bre
(/cm
3
)とバルク・ドナー濃度の仕様値N
B0
(/cm
3
)との比βを下式で定義し、
β=N
Bre
/N
B0
前記高濃度領域における実際のドナー濃度N
Fre
(/cm
3
)と前記高濃度領域におけるドナー濃度の目標値N
F0
(/cm
3
)との比γを下式で定義し、
γ=N
Fre
/N
F0
前記ドナー濃度の目標値N
F0
に対して、前記バルク・ドナー濃度の仕様値N
B0
をε'だけ小さく設定する、という意味のパラメータε'を下式で定義すると、
N
B0
=ε'×N
F0
前記比β、前記比γおよび前記パラメータε'の関係が下式で表され、
γ=1+ε'(β―1)
上式において、前記比βの値は、0.1以上、10以下であり、前記比γの値は、0.85以上、1.15以下であり、前記パラメータε'の値は、0.001以上、0.5以下であり、
前記比β、前記比γ、前記パラメータε'の値の範囲内で、前記比γが上式を満たす
半導体装置。
【請求項2】
前記半導体基板は、MCZ基板である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体装置の定格電圧をx(V)とした場合に、前記半導体基板の前記深さ方向の中央における前記実際のドナー濃度N
Fre
は、(9.20245×10
15
)/x以上、(9.20245×10
16
)/xである
請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体装置の定格電圧をx(V)とした場合に、前記実際のバルク・ドナー濃度N
Bre
が、(9.20245×10
12
)/x以上、(4.60123×10
16
)/x以下である
請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体基板の前記上面側に配置された不純物化学濃度ピークを更に備え、
前記高濃度領域は、ドーピング濃度が略一様な一様領域を含み、
前記一様領域のドーピング濃度分布は、第1範囲において、ドーピング濃度分布の平均濃度に対してドーピング濃度分布の値が当該平均濃度の±50%以内であり、
前記第1範囲は、前記高濃度領域の前記深さ方向における長さをZ
L
とし、前記深さ方向における前記最浅ドーピング濃度ピークと前記不純物化学濃度ピークとの間の中心をZ
12c
とした場合に、中心Z
12c
を含む0.5Z
L
の長さの区間である
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体基板の前記上面側に配置された不純物化学濃度ピークを更に備え、
前記不純物化学濃度ピークの頂点から前記上面側に向かって不純物化学濃度が減少する上側裾は、前記不純物化学濃度ピークの頂点から前記下面側に向かって前記不純物化学濃度が減少する下側裾よりも、前記不純物化学濃度が急峻に減少する
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記バッファ領域は、2個以上の前記ドーピング濃度ピークを有する
請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
半導体基板のバルク・ドナー濃度の仕様値N
B0
(/cm
3
)を決める段階と、
前記半導体基板のドナー濃度の目標値N
F0
(/cm
3
)を決める段階と、
前記半導体基板の上面または下面から荷電粒子および水素イオンを注入する第1注入段階と、
前記半導体基板をアニールする第1アニール段階と、
を備え、
前記水素イオンの注入による水素ドナー濃度をN
H
(/cm
3
)とし、
前記半導体基板の実際のバルク・ドナー濃度をN
Bre
(/cm
3
)とし、
前記半導体基板の実際に得られた最終的なドナー濃度をN
Fre
(/cm
3
)とすると、
前記ドナー濃度の目標値N
F0
は、前記バルク・ドナー濃度の仕様値N
B0
と前記水素ドナー濃度N
H
により、N
F0
=N
H
+N
B0
で表され、
前記最終的なドナー濃度N
Fre
は、前記実際のバルク・ドナー濃度N
Bre
と前記水素ドナー濃度N
H
により、N
Fre
=N
H
+N
Bre
で表され、
前記実際のバルク・ドナー濃度N
Bre
と前記バルク・ドナー濃度の仕様値N
B0
との比βを下式で定義し、
β=N
Bre
/N
B0
前記実際のドナー濃度N
Fre
と前記ドナー濃度の目標値N
F0
との比γを下式で定義し、
γ=N
Fre
/N
F0
前記ドナー濃度の目標値N
F0
に対して、前記バルク・ドナー濃度の仕様値N
B0
をε'だけ小さく設定する、という意味のパラメータε'を下式で定義すると、
N
B0
=ε'×N
F0
前記比β、前記比γおよび前記パラメータε'の関係が下式で表され、
γ=1+ε'(β―1)
上式において、前記比βの値は、0.1以上、10以下であり、前記比γの値は、0.85以上、1.15以下であり、前記パラメータε'の値は、0.001以上、0.5以下であり、
前記比β、前記比γ、前記パラメータε'の値の範囲内で、前記比γが上式を満たすように、前記第1注入段階および前記第1アニール段階を行う
半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記半導体基板は、MCZ基板である
請求項8に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記半導体装置の定格電圧をx(V)とした場合に、前記半導体基板の深さ方向の中央における前記最終的なドナー濃度N
Fre
は、(9.20245×10
15
)/x以上、(9.20245×10
16
)/xである
請求項8または9に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記半導体装置の定格電圧をx(V)とした場合に、前記実際のバルク・ドナー濃度N
Bre
が、(9.20245×10
12
)/x以上、(4.60123×10
16
)/x以下である
請求項8から10のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1注入段階において、前記下面から第1の位置に前記水素イオンを注入し、且つ、前記第1の位置よりも前記半導体基板の前記上面に近い第2の位置に前記荷電粒子を注入する
請求項8から11のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記第2の位置は、前記半導体基板の前記上面側に配置されている
請求項12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記第1アニール段階において、前記第1の位置から前記第2の位置まで、前記半導体基板に前記バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高い高濃度領域が形成される
請求項12または13のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記高濃度領域は、ドーピング濃度が略一様な一様領域を含み、
前記一様領域のドーピング濃度分布は、第1範囲において、ドーピング濃度分布の平均濃度に対してドーピング濃度分布の値が当該平均濃度の±50%以内であり、
前記第1範囲は、前記高濃度領域の深さ方向における長さをZ
L
とし、前記深さ方向における前記第1の位置と前記第2の位置との間の中心をZ
12c
とした場合に、中心Z
12c
を含む0.5Z
L
の長さの区間である
請求項14に記載の半導体装置の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の一つの態様においては、上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板を備える半導体装置を提供する。上記半導体装置は、前記半導体基板の前記下面側に配置され、前記半導体基板の深さ方向において1個以上のドーピング濃度ピークを有する、第1導電型のバッファ領域を備えてよい。上記いずれかの半導体装置は、前記バッファ領域と前記半導体基板の前記上面との間に配置され、バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高い第1導電型の高濃度領域を備えてよい。上記いずれかの半導体装置において、前記バッファ領域の前記ドーピング濃度ピークのうち、前記半導体基板の前記下面に最も近い最浅ドーピング濃度ピークは、他の前記ドーピング濃度ピークよりも高濃度の水素ドナーの濃度ピークであってよい。上記いずれかの半導体装置において、実際のバルク・ドナー濃度N
Bre
(/cm
3
)とバルク・ドナー濃度の仕様値N
B0
(/cm
3
)との比βを下式で定義し、
β=N
Bre
/N
B0
前記高濃度領域における実際のドナー濃度N
Fre
(/cm
3
)と前記高濃度領域におけるドナー濃度の目標値N
F0
(/cm
3
)との比γを下式で定義し、
γ=N
Fre
/N
F0
前記ドナー濃度の目標値N
F0
に対して、前記バルク・ドナー濃度の仕様値N
B0
をε'だけ小さく設定する、という意味のパラメータε'を下式で定義すると、
N
B0
=ε'×N
F0
前記比β、前記比γおよび前記パラメータε'の関係が下式で表され、
γ=1+ε'(β―1)
上式において、前記比βの値は、0.1以上、10以下であり、前記比γの値は、0.85以上、1.15以下であり、前記パラメータε'の値は、0.001以上、0.5以下であり、
前記比β、前記比γ、前記パラメータε'の値の範囲内で、前記比γが上式を満たしてよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
上記いずれかの半導体装置において、前記半導体基板は、MCZ基板であってよい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
上記いずれかの半導体装置において、前記半導体装置の定格電圧をx(V)とした場合に、前記半導体基板の前記深さ方向の中央における前記実際のドナー濃度N
Fre
は、(9.20245×10
15
)/x以上、(9.20245×10
16
)/xであってよい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記いずれかの半導体装置において、前記半導体装置の定格電圧をx(V)とした場合に、前記実際のバルク・ドナー濃度N
Bre
が、(9.20245×10
12
)/x以上、(4.60123×10
16
)/x以下であってよい。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上記いずれかの半導体装置は、前記半導体基板の前記上面側に配置された不純物化学濃度ピークを更に備えてよい。上記いずれかの半導体装置において、前記高濃度領域は、ドーピング濃度が略一様な一様領域を含んでよい。上記いずれかの半導体装置において、前記一様領域のドーピング濃度分布は、第1範囲において、ドーピング濃度分布の平均濃度に対してドーピング濃度分布の値が当該平均濃度の±50%以内であってよい。上記いずれかの半導体装置において、前記第1範囲は、前記高濃度領域の前記深さ方向における長さをZ
L
とし、前記深さ方向における前記最浅ドーピング濃度ピークと前記不純物化学濃度ピークとの間の中心をZ
12c
とした場合に、中心Z
12c
を含む0.5Z
L
の長さの区間であってよい。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
上記いずれかの半導体装置は、前記半導体基板の前記上面側に配置された不純物化学濃度ピークを更に備えてよい。上記いずれかの半導体装置において、前記不純物化学濃度ピークの頂点から前記上面側に向かって不純物化学濃度が減少する上側裾は、前記不純物化学濃度ピークの頂点から前記下面側に向かって前記不純物化学濃度が減少する下側裾よりも、前記不純物化学濃度が急峻に減少してよい。上記いずれかの半導体装置において、前記バッファ領域は、2個以上の前記ドーピング濃度ピークを有してよい。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の他の態様においては、半導体基板のバルク・ドナー濃度の仕様値N
B0
(/cm
3
)を決める段階を備える半導体装置の製造方法を提供する。上記半導体装置の製造方法は、前記半導体基板のドナー濃度の目標値N
F0
(/cm
3
)を決める段階を備えてよい。上記いずれかの半導体装置の製造方法は、前記半導体基板の上面または下面から荷電粒子および水素イオンを注入する第1注入段階を備えてよい。上記いずれかの半導体装置の製造方法は、前記半導体基板をアニールする第1アニール段階を備えてよい。上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記水素イオンの注入による水素ドナー濃度をN
H
(/cm
3
)とし、前記半導体基板の実際のバルク・ドナー濃度をN
Bre
(/cm
3
)とし、前記半導体基板の実際に得られた最終的なドナー濃度をN
Fre
(/cm
3
)とすると、前記ドナー濃度の目標値N
F0
は、前記バルク・ドナー濃度の仕様値N
B0
と前記水素ドナー濃度N
H
により、N
F0
=N
H
+N
B0
で表され、前記最終的なドナー濃度N
Fre
は、前記実際のバルク・ドナー濃度N
Bre
と前記水素ドナー濃度N
H
により、N
Fre
=N
H
+N
Bre
で表され、前記実際のバルク・ドナー濃度N
Bre
と前記バルク・ドナー濃度の仕様値N
B0
との比βを下式で定義し、
β=N
Bre
/N
B0
前記実際のドナー濃度N
Fre
と前記ドナー濃度の目標値N
F0
との比γを下式で定義し、
γ=N
Fre
/N
F0
前記ドナー濃度の目標値N
F0
に対して、前記バルク・ドナー濃度の仕様値N
B0
をε'だけ小さく設定する、という意味のパラメータε'を下式で定義すると、
N
B0
=ε'×N
F0
前記比β、前記比γおよび前記パラメータε'の関係が下式で表され、
γ=1+ε'(β―1)
上式において、前記比βの値は、0.1以上、10以下であり、前記比γの値は、0.85以上、1.15以下であり、前記パラメータε'の値は、0.001以上、0.5以下であり、前記比β、前記比γ、前記パラメータε'の値の範囲内で、前記比γが上式を満たすように、前記第1注入段階および前記第1アニール段階を行ってよい。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記半導体基板は、MCZ基板であってよい。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記半導体装置の定格電圧をx(V)とした場合に、前記半導体基板の深さ方向の中央における前記最終的なドナー濃度N
Fre
は、(9.20245×10
15
)/x以上、(9.20245×10
16
)/xであってよい。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記半導体装置の定格電圧をx(V)とした場合に、前記実際のバルク・ドナー濃度N
Bre
が、(9.20245×10
12
)/x以上、(4.60123×10
16
)/x以下であってよい。
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記第1注入段階において、前記下面から第1の位置に前記水素イオンを注入し、且つ、前記第1の位置よりも前記半導体基板の前記上面に近い第2の位置に前記荷電粒子を注入してよい。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記第2の位置は、前記半導体基板の前記上面側に配置されていてよい。
【手続補正14】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
上記いずれかの半導体装置の製造方法の前記第1アニール段階において、前記第1の位置から前記第2の位置まで、前記半導体基板に前記バルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高い高濃度領域が形成されてよい。
【手続補正15】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記高濃度領域は、ドーピング濃度が略一様な一様領域を含んでよい。上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記一様領域のドーピング濃度分布は、第1範囲において、ドーピング濃度分布の平均濃度に対してドーピング濃度分布の値が当該平均濃度の±50%以内であってよい。上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記第1範囲は、前記高濃度領域の深さ方向における長さをZ
L
とし、前記深さ方向における前記第1の位置と前記第2の位置との間の中心をZ
12c
とした場合に、中心Z
12c
を含む0.5Z
L
の長さの区間であってよい。