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特開2023-179677電動オイルポンプの制御装置および制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179677
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】電動オイルポンプの制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20231212BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B60L3/00 H
H02K9/19 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176503
(22)【出願日】2023-10-12
(62)【分割の表示】P 2019177041の分割
【原出願日】2019-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000220505
【氏名又は名称】ニデックパワートレインシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】古性 賢也
(72)【発明者】
【氏名】白井 康弘
(57)【要約】      (修正有)
【課題】車両に搭載されるモータユニットを冷却するための電動オイルポンプの制御装置または制御方法を提供する。
【解決手段】少なくとも外気温と、モータユニットのコイルの温度と、車両のソーク時間と、車両が前回運転を終了した時の車両停止時推定オイル温度と、を含むモータユニットの情報を取得し、外気温と、コイルの温度と、ソーク時間または車両停止時推定オイル温度と、に基づいてモータユニットが有するハウジング内のオイルの温度を推定し、推定される推定オイル温度に基づいて電動オイルポンプの起動タイミングを決定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるモータユニットを冷却するための電動オイルポンプの制御装置であって、
少なくとも外気温と、前記モータユニットのコイルの温度と、前記車両のソーク時間と、前記車両が前回運転を終了した時の車両停止時推定オイル温度と、を含む前記モータユニットの情報を取得し、
前記外気温と、前記コイルの温度と、前記ソーク時間または前記車両停止時推定オイル温度と、に基づいて前記モータユニットが有するハウジング内のオイルの温度を推定し、推定される推定オイル温度に基づいて前記電動オイルポンプの起動タイミングを決定する、
電動オイルポンプの制御装置。
【請求項2】
車両に搭載されるモータユニットを冷却するための電動オイルポンプの制御方法であって、
少なくとも外気温と、前記モータユニットのコイルの温度と、前記車両のソーク時間と、前記車両が前回運転を終了した時の車両停止時推定オイル温度と、を含む前記モータユニットの情報を取得し、
前記外気温と、前記コイルの温度と、前記ソーク時間または前記車両停止時推定オイル温度と、に基づいて前記モータユニットが有するハウジング内のオイルの温度を推定し、推定される推定オイル温度に基づいて前記電動オイルポンプの起動タイミングを決定する、
電動オイルポンプの制御方法。
【請求項3】
車両に搭載されるモータユニットを冷却するための電動オイルポンプの制御装置であって、
少なくとも外気温と、前記モータユニットのコイルの温度と、前記車両のソーク時間と、前記車両が前回運転を終了した時の車両停止時推定オイル温度と、を含む前記モータユニットの情報を取得し、
前記外気温と、前記コイルの温度と、前記ソーク時間または前記車両停止時推定オイル温度と、に基づいて前記モータユニットが有するハウジング内のオイルの温度を推定し、推定される推定オイル温度に基づいて前記電動オイルポンプの起動タイミングを決定し、
前記推定オイル温度が前記電動オイルポンプの起動可能温度よりも低い場合に、
前記推定オイル温度と前記起動可能温度との差分を用いて、前記オイルの温度が前記起動可能温度に到達するまでの昇温時間を推定し、前記昇温時間に基づいて、前記電動オイルポンプの起動を待機させる起動待機時間を決定する、
電動オイルポンプの制御装置。
【請求項4】
車両に搭載されるモータユニットを冷却するための電動オイルポンプの制御方法であって、
少なくとも外気温と、前記モータユニットのコイルの温度と、前記車両のソーク時間と、前記車両が前回運転を終了した時の車両停止時推定オイル温度と、を含む前記モータユニットの情報を取得し、
前記外気温と、前記コイルの温度と、前記ソーク時間または前記車両停止時推定オイル温度と、に基づいて前記モータユニットが有するハウジング内のオイルの温度を推定し、推定される推定オイル温度に基づいて前記電動オイルポンプの起動タイミングを決定し、
前記推定オイル温度が前記電動オイルポンプの起動可能温度よりも低い場合に、
前記推定オイル温度と前記起動可能温度との差分を用いて、前記オイルの温度が前記起
動可能温度に到達するまでの昇温時間を推定し、
前記昇温時間に基づいて、前記電動オイルポンプの起動を待機させる起動待機時間を決定する、
電動オイルポンプの制御方法。
【請求項5】
請求項3に記載の電動オイルポンプの制御装置であって、
前記モータユニットのモータの消費電力と前記モータユニットのオイル循環量とに
基づいて前記昇温時間を推定する、
電動オイルポンプの制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載の電動オイルポンプの制御方法であって、
前記モータユニットのモータの消費電力と前記モータユニットのオイル循環量とに
基づいて前記昇温時間を推定する、
電動オイルポンプの制御方法。
【請求項7】
車両に搭載されるモータユニットを冷却するための電動オイルポンプの制御装置であって、
少なくとも外気温と、前記モータユニットのコイルの温度と、前記車両が前回運転を終了した時の車両停止時推定オイル温度と、を含む前記モータユニットの情報を取得し、
前記外気温と、前記コイルの温度または前記車両停止時推定オイル温度と、に基づいて前記モータユニットが有するハウジング内のオイルの温度を推定し、推定される推定オイル温度に基づいて前記電動オイルポンプの起動タイミングを決定し、
前記コイルの温度と前記外気温との差が5℃以内である場合に、始動時の前記オイルの温度を、前記コイルの温度と等しい温度であると推定する、
電動オイルポンプの制御装置。
【請求項8】
車両に搭載されるモータユニットを冷却するための電動オイルポンプの制御方法であって、
少なくとも外気温と、前記モータユニットのコイルの温度と、前記車両が前回運転を終了した時の車両停止時推定オイル温度と、を含む前記モータユニットの情報を取得し、
前記外気温と、前記コイルの温度または前記車両停止時推定オイル温度と、に基づいて前記モータユニットが有するハウジング内のオイルの温度を推定し、推定される推定オイル温度に基づいて前記電動オイルポンプの起動タイミングを決定し、
前記コイルの温度と前記外気温との差が5℃以内である場合に、始動時の前記オイルの温度を、前記コイルの温度と等しい温度であると推定する、
電動オイルポンプの制御方法。
【請求項9】
車両に搭載されるモータユニットを冷却するための電動オイルポンプの制御装置であって、
少なくとも外気温と、前記モータユニットのコイルの温度と、前記車両が前回運転を終了した時の車両停止時推定オイル温度と、を含む前記モータユニットの情報を取得し、
前記外気温と、前記コイルの温度または前記車両停止時推定オイル温度と、に基づいて前記モータユニットが有するハウジング内のオイルの温度を推定し、推定される推定オイル温度に基づいて前記電動オイルポンプの起動タイミングを決定し、
前記コイルの温度が前記外気温よりも5℃以上高い場合に、前記車両停止時推定オイル温度と、車両ソーク時間と、前記外気温と、に基づいて、始動時の前記オイルの温度を推定する、
電動オイルポンプの制御装置。
【請求項10】
車両に搭載されるモータユニットを冷却するための電動オイルポンプの制御方法であって、
少なくとも外気温と、前記モータユニットのコイルの温度と、前記車両が前回運転を終了した時の車両停止時推定オイル温度と、を含む前記モータユニットの情報を取得し、
前記外気温と、前記コイルの温度または前記車両停止時推定オイル温度と、に基づいて前記モータユニットが有するハウジング内のオイルの温度を推定し、推定される推定オイル温度に基づいて前記電動オイルポンプの起動タイミングを決定し、
前記コイルの温度が前記外気温よりも5℃以上高い場合に、前記車両停止時推定オイル温度と、車両ソーク時間と、前記外気温と、に基づいて、始動時の前記オイルの温度を推定する、
電動オイルポンプの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動オイルポンプの制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両駆動用のモータユニットが知られる。例えば特許文献1には、ハウジング内に冷却用のオイルを循環させる電動オイルポンプを備える構成が開示される。電動オイルポンプでは、オイル温度の変化に伴う粘性抵抗の増減に対応するため、オイル温度に応じた駆動制御が行われる(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-047908号公報
【特許文献2】特許第5834509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、モータユニットにおいて、小型化、低コスト化のために、オイル温度を検出する温度センサが設けられない場合があり、このようなモータユニットでは、従来の制御方法が採用できず、電動オイルポンプの駆動制御が難しかった。
特に、電動オイルポンプの起動自体が制限されるような低温環境では、不適切なタイミングで電動オイルポンプを起動させると起動できずに電動オイルポンプ不良と判定されるおそれがある。このような低温環境において、オイル温度を参照せずに電動オイルポンプを適切に駆動制御することは極めて難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様によれば、車両に搭載されるモータユニットを冷却するための電動オイルポンプの制御装置が提供される。少なくとも外気温と、モータユニットのコイルの温度と、車両のソーク時間と、車両が前回運転を終了した時の車両停止時推定オイル温度と、を含むモータユニットの情報を取得し、外気温と、コイルの温度と、ソーク時間または車両停止時推定オイル温度と、に基づいてモータユニットが有するハウジング内のオイルの温度を推定し、推定される推定オイル温度に基づいて電動オイルポンプの起動タイミングを決定する。
また本発明の1つの態様によれば、車両に搭載されるモータユニットを冷却するための電動オイルポンプの制御方法が提供される。 少なくとも外気温と、モータユニットのコイルの温度と、車両のソーク時間と、車両が前回運転を終了した時の車両停止時推定オイル温度と、を含むモータユニットの情報を取得し、外気温と、コイルの温度と、ソーク時間または車両停止時推定オイル温度と、に基づいてモータユニットが有するハウジング内のオイルの温度を推定し、推定される推定オイル温度に基づいて電動オイルポンプの起動タイミングを決定する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の態様によれば、オイル用の温度センサを備えないモータユニットにおいても、電動オイルポンプを適切に駆動制御できる電動オイルポンプの制御装置または電動オイルポンプの制御方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、モータユニットを備える車両を示す図である。
図2図2は、モータユニットの概略構成を示す図である。
図3図3は、モータユニットの機能ブロック図である。
図4図4は、電動オイルポンプ起動時のモータユニットのフローチャートである。
図5図5は、車両ソーク時間と推定オイル温度との関係を説明する図である。
図6図6は、コールドスタート時のコイル温度および推定オイル温度の時間変化を説明する図である。
図7図7は、モータ駆動信号のデューティとコイルの熱容量の時間変化を説明する図である。
図8図8は、モータ回転数と総循環油量の時間変化を説明する図である。
図9図9は、ホットスタート時のコイル温度およびオイル温度の時間変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、車両駆動用のモータユニットを備える車両の一例を示す概略図である。
車両100は、モータユニット1と、車軸101、102と、前輪103、104と、後輪105、106と、車両制御装置107と、バッテリ108と、外気温センサ109と、モータ制御装置110と、を備える。
【0009】
モータユニット1は、車軸101を介して、前輪103、104を駆動する。モータユニット1は、モータ制御装置110により駆動制御される。モータ制御装置110は、車両制御装置107およびバッテリ108に接続される。車両制御装置(VCU)107は、車両100の各部から信号を収集し、車両100の全体を制御する。モータ制御装置(MCU)110は、車両制御装置107から受信する制御信号に基づいて、モータユニット1を制御する。
【0010】
以下の説明では、モータユニット1が水平な路面上に位置する車両に搭載された場合の位置関係を基に、重力方向を規定して説明する。また、図面においては、適宜3次元直交座標系としてXYZ座標系を示す。XYZ座標系において、Z軸方向は、鉛直方向(すなわち上下方向)を示し、+Z方向が上側(重力方向の反対側)であり、-Z方向が下側(重力方向)である。また、X軸方向は、Z軸方向と直交する方向であってモータユニット1が搭載される車両の前後方向を示し、+X方向が車両前方であり、-X方向が車両後方である。Y軸方向は、X軸方向とZ軸方向との両方と直交する方向であって、車両の幅方向(左右方向)である。
【0011】
以下の説明において特に断りのない限り、モータ2のモータ軸J2に平行な方向(Y軸方向)を単に「軸方向」と呼び、モータ軸J2を中心とする径方向を単に「径方向」と呼び、モータ軸J2を中心とする周方向を単に「周方向」と呼ぶ。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は略直交する方向も含む。
【0012】
モータユニット1は、図2に示すように、モータ2と、伝達機構3と、ハウジング6と、オイルクーラー8と、電動オイルポンプ9と、を備える。モータユニット1は、ハウジング6の内部に、オイルOと、オイルOをモータ2に供給する油路90と、を備える。モータユニット1は、パーキング機構を有していてもよい。
【0013】
モータ2は、水平方向に延びるモータ軸J2を中心として回転するロータ20と、ロータ20の径方向外側に位置するステータ30と、を備える。モータ2は、インナーロータ型モータである。
【0014】
ロータ20は、シャフト21と、ロータ本体24とを有する。ロータ本体24は、ロータコアとロータマグネットとを含む。シャフト21は、水平方向かつ車両の幅方向(Y軸方向)に延びるモータ軸J2を中心とする。シャフト21は、内部に中空部22を有する。すなわちシャフト21は、モータ軸J2に沿って延びる内周面を有する中空シャフトである。
【0015】
ステータ30は、ステータコア32と、コイル31と、ステータコア32とコイル31との間に介在する図示略のインシュレータとを有する。ステータ30は、ハウジング6に保持される。ステータコア32は、ロータ20を囲む円筒状である。ステータコア32は、軸方向に見て円環状のコアバックと、コアバックの内周面から径方向内側に延びる複数のティースを有する。ティース間のスロットにコイル線が掛け回されることでコイル31が構成される。
【0016】
伝達機構3は、減速装置4と、差動装置5とを有する。減速装置4は、モータ2のロータ20に接続される。差動装置5は、減速装置4に接続される。差動装置5は車軸101に連結される。車軸101は、差動軸J5の軸回りに回転可能である。
【0017】
ハウジング6は、内部に収容空間80を有する。モータ2、減速装置4および差動装置5は、収容空間80に収容される。オイルOは、減速装置4および差動装置5の潤滑用として使用されるとともに、モータ2の冷却用として使用される。オイルOは、収容空間80の鉛直方向下側の領域に溜る。オイルOは、潤滑油および冷却油の機能を奏するため、粘度の低いオートマチックトランスミッション用潤滑油(ATF:Automatic Transmission Fluid)と同等のオイルを用いることが好ましい。油路90は、収容空間80の下側の領域からオイルOをモータ2に供給するオイルOの経路である。油路90は、第1の油路91と第2の油路92とを有する。
【0018】
なお、本明細書において、「油路」とは、収容空間80を循環するオイルOの経路を意味する。したがって、「油路」とは、定常的に一方向に向かう定常的なオイルの流動を形成する「流路」のみならず、オイルを一時的に滞留させる経路(例えばリザーバ)およびオイルが滴り落ちる経路をも含む概念である。
【0019】
ハウジング6は、内部に隔壁61を有する。隔壁61は、収容空間80をモータ室81とギヤ室82とに区画する。モータ室81は、モータ2を収容する。ギヤ室82は、減速装置4および差動装置5を収容する。
【0020】
ハウジング6は、収容空間80の下部領域に、オイルOが溜るオイル溜りPを有する。本実施形態では、オイル溜りPは、ギヤ室82の下側の領域に位置する。モータ室81の底部81aは、ギヤ室82の底部82aより上側に位置する。また、モータ室81とギヤ室82とを区画する隔壁61は、下端部に、隔壁61を厚さ方向に貫通する隔壁開口68を有する。隔壁開口68は、モータ室81とギヤ室82とを繋ぐ。隔壁開口68を通じて、モータ室81の下側の領域に溜ったオイルOが、ギヤ室82に移動する。
【0021】
オイル溜りPには、差動装置5の一部が浸かる。オイル溜りPに溜るオイルOは、差動装置5の動作によってかき上げられて、一部が第1の油路91に供給され、一部がギヤ室82内に拡散される。ギヤ室82に拡散されたオイルOは、ギヤ室82内の減速装置4および差動装置5の各ギヤに供給されてギヤの歯面にオイルOを行き渡らせる。減速装置4および差動装置5に使用されたオイルOは、ギヤから滴下してギヤ室82の下側に位置するオイル溜りPに回収される。収容空間80のオイル溜りPの容量は、モータユニット1の停止時に、差動装置5の軸受の一部がオイルOに浸かる程度である。
【0022】
ハウジング6は、モータユニット1の外枠を構成する。ハウジング6は、前輪103、104を支持する車軸101が通される2つの車軸挿入孔6a、6bを有する。ハウジング6は、内部に、第1のリザーバ93と、案内流路94と、を有する。第1のリザーバ93は、差動装置5によってかき上げられたオイルOを溜める。案内流路94は、第1のリザーバ93からモータ2のシャフト21に向かって延びる。案内流路94は、第1のリザーバ93で受けたオイルOをシャフト21の中空部22の内側に案内する流路である。
【0023】
減速装置4は、モータ2から出力されるトルクを差動装置5へ伝達する。減速装置4は、第1のギヤ41と、第2のギヤ42と、第3のギヤ43と、中間シャフト45と、を有する。モータ2から出力されるトルクは、モータ2のシャフト21、第1のギヤ41、第2のギヤ42、中間シャフト45および第3のギヤ43を介して差動装置5のリングギヤ51へ伝達される。各ギヤのギヤ比およびギヤの個数等は、必要とされる減速比に応じて種々変更可能である。本実施形態では、減速装置4は、各ギヤの軸芯が平行に配置される平行軸歯車タイプの減速機である。
【0024】
第1のギヤ41は、シャフト21の一方の端部に固定される。第1のギヤ41は、シャフト21とともに、モータ軸J2を中心に回転する。中間シャフト45は、モータ軸J2と平行な中間軸J4に沿って延びる。中間シャフト45は、中間軸J4を中心とする円筒状である。中間シャフト45は、中間軸J4を中心として回転する。
第2のギヤ42および第3のギヤ43は、中間シャフト45の軸方向の両端に位置する。第2のギヤ42と第3のギヤ43は、中間シャフト45を介して接続される。第2のギヤ42および第3のギヤ43は、中間軸J4を中心として回転する。第2のギヤ42は、第1のギヤ41に噛み合う。第3のギヤ43は、差動装置5のリングギヤ51と噛み合う。
【0025】
差動装置5は、モータ2から出力されるトルクを車軸101に伝達する。差動装置5は、車両の旋回時に、左右の車輪の速度差を吸収しつつ、左右両輪の車軸101に均一にトルクを伝える。差動装置5は、リングギヤ51と、差動機構52とを有する。差動機構52は、例えば、ギヤハウジング、一対のピニオンギヤ、ピニオンシャフト、一対のサイドギヤ等を含む。車軸101は、差動機構52の一対のサイドギヤに連結される。リングギヤ51は、モータ軸J2と平行な差動軸J5を中心として回転する。リングギヤ51には、モータ2から出力されるトルクが減速装置4を介して伝えられる。リングギヤ51は、差動機構52のギヤハウジングの外周に固定される。
【0026】
油路90は、収容空間80のモータ室81とギヤ室82とに跨って構成される。油路90は、オイルOをオイル溜りPからモータ2を経て、再びオイル溜りPに導くオイルOの経路である。油路90は、モータ2の内部を通る第1の油路91と、モータ2の外部を通る第2の油路92と、を有する。オイルOは、第1の油路91および第2の油路92において、モータ2を内部および外部から冷却する。
【0027】
第1の油路91および第2の油路92は、ともにオイル溜りPからオイルOをモータ2に供給して、再びオイル溜りPに回収する経路である。第1の油路91および第2の油路92において、オイルOは、モータ2から滴下して、モータ室の下側の領域に溜る。モータ室81の下側の領域に溜ったオイルOは、隔壁開口68を介して、ギヤ室82の下側のオイル溜りPに移動する。
【0028】
第1の油路91は、かき上げ経路91aと、シャフト供給経路91bと、シャフト内経路91cと、ロータ内経路91dと、貯留経路91eと、を有する。第1の油路91の経路中には、第1のリザーバ93が配置される。
【0029】
オイルOは、オイル溜りPから差動装置5によりかき上げられ、かき上げ経路91aを通じて第1のリザーバ93に流入する。オイルOは、第1のリザーバ93からシャフト供給経路91bを通ってシャフト21の中空部22内に流入する。オイルOは、シャフト21内のシャフト内経路91cを通り、シャフト21の図示しない貫通孔からロータ本体24の内部に流入する。オイルOは、ロータ内経路91dを通ってロータ本体24の軸方向の両端から外側へ噴出する。オイルOは、ロータ20の回転に伴う遠心力によって径方向外側に飛散し、ステータ30のコイル31を冷却する。オイルOは、モータ2から下側へ滴下され、貯留経路91eを通ってオイル溜まりPへ移動する。
【0030】
第2の油路92は、第1の流路92aと第2の流路92bと第3の流路92cとを有する。第2の油路92の経路中には、電動オイルポンプ9と、オイルクーラー8と、第2のリザーバ98と、が配置される。第2の油路92において、オイルOは、第1の流路92a、電動オイルポンプ9、第2の流路92b、オイルクーラー8、第3の流路92c、第2のリザーバ98の順で各部を通過して、モータ2に供給される。
【0031】
電動オイルポンプ9は、第1の流路92aを介してオイル溜りPからオイルOを吸い上げて、第2の流路92bへオイルOを吐出する。オイルOは、第2の流路92bからオイルクーラー8および第3の流路92cを通って、第2のリザーバ98に流入する。オイルOは第2のリザーバ98からモータ2に供給される。
【0032】
以下、図3から図9を参照して、モータユニット1における電動オイルポンプの制御について説明する。
図3に示すように、モータユニット1の制御装置であるモータ制御装置110は、制御部111と、駆動部112と、電流センサ117と、を有する。制御部111は、モータ制御部113と、ポンプ制御部114とを有する。駆動部112は、駆動回路115と、インバータ116とを有する。モータユニット1は、モータ2と電動オイルポンプ9を備える。モータ2は、コイル31の温度を測定するコイル温度センサ33と、ロータ20の回転方向位置を検出する回転センサ25とを有する。
【0033】
制御部111のモータ制御部113は、駆動部112と、モータ2の回転センサ25と、モータ制御装置110上の電流センサ117と、に接続される。モータ制御部113は、上位装置である車両制御装置107からの指令信号に基づいて、駆動部112を介してモータ2を駆動制御する。本実施形態の場合、モータ制御部113は、回転センサ25を介してロータ20の回転角度を取得し、ロータ20の回転制御を行う。モータ制御部113は、電流センサ117を介してモータ2のコイル31に流れる電流を検出し、電流フィードバック制御を行う。
ポンプ制御部114は、モータユニット1の電動オイルポンプ9に接続される。ポンプ制御部114は、電動オイルポンプ9を駆動制御する。ポンプ制御部114とモータ制御部113は、相互に通信する。すなわち、ポンプ制御部114は、モータ制御部113からモータ2の情報を取得可能である。またモータ制御部113は、ポンプ制御部114から電動オイルポンプ9の情報を取得可能である。
【0034】
本実施形態では、モータ制御装置110がモータ制御部113とポンプ制御部114とを兼ね備える構成としたが、モータ制御部113とポンプ制御部114をそれぞれ独立した制御装置として備える構成としてもよい。
【0035】
駆動部112の駆動回路115は、モータ制御部113とインバータ116に接続される。本実施形態の場合、駆動回路115は、モータ制御部113から出力される指令電圧信号とキャリアの三角波とを比較することにより、PWM(Pulse Width Moduration)制御信号を生成する。駆動回路115は、PWM制御信号をインバータ116に出力する。インバータ116は、駆動回路115から入力されるPWM制御信号により駆動される。インバータ116は、バッテリ108の直流電力をモータ2を駆動する三相の交流電力に変換する。
【0036】
本実施形態のモータ制御装置110において、ポンプ制御部114は、外気温とコイル温度とからオイルOの温度を推定し、オイル温度に基づいて電動オイルポンプ9の起動タイミングを決定する。具体的には、ポンプ制御部114において、図4に示すステップS1~S6が実行される。
【0037】
車両100のイグニッションスイッチがオンされ、モータユニット1が通電状態になると、ポンプ制御部114は、ステップS1において、コイル31のコイル温度と、車両100の外気温とを取得する。コイル温度は、モータ2のコイル温度センサ33により取得可能である。外気温は、車両100に設置される外気温センサ109を通じて車両制御装置107が取得する。ポンプ制御部114は、車両制御装置107から外気温を取得する。
【0038】
ポンプ制御部114は、ステップS2において、コイル温度と外気温とから始動時のオイル温度を推定する。
ポンプ制御部114は、オイル温度の推定にあたり、まず、ステップS21において、コイル温度と外気温とを比較する。比較の結果、コイル温度と外気温とがほぼ等しい場合、ポンプ制御部114は、オイルOが十分に冷えた状態から車両100が始動されたコールドスタートであると判断する。コールドスタートの判断基準は、コイル温度と外気温との温度差が、車両が冷機状態にあると判断できる範囲内にあることである。例えば、コイル温度と外気温の差が5℃以下である場合に、コールドスタートと判断できる。コールドスタートの判断基準となる温度差は、モータユニットの機種ごとに異ならせてもよい。
【0039】
ポンプ制御部114がコールドスタートと判断した場合、ステップS22が実行される。ポンプ制御部114は、始動時のオイル温度を、コイル温度に等しい温度であると推定する。今回始動時の推定オイル温度Toil_startと、今回始動時のコイル温度Tcoil_startとは、下記式(1)に示す関係となる。
【0040】
Toil_start=Tcoil_start …(1)
【0041】
一方、コイル温度と外気温との差がコールドスタートの判断基準となる温度差、例えば5℃を超える場合、オイルOの温度が下がりきる前に車両100が再始動されたホットスタートであると判断する。この場合、オイルOの温度は外気温までは低下していないと推定される。ポンプ制御部114は、ホットスタートと判断した場合、前回の運転終了時の推定オイル温度と、車両100の車両ソーク時間と、コイル温度および外気温とに基づいて、今回始動時のオイル温度を推定する。
【0042】
図5は、車両ソーク時間と推定オイル温度との関係を示す説明図である。
図5に示すように、モータユニット1のオイル温度は、前回の運転終了時の推定オイル温度T1またはT2から、車両ソーク時間の経過に伴って低下し、外気温に近づいていく。オイル温度の変化の傾きは、外気温によって変化する。すなわち、外気温が高ければ、オイル温度の低下が緩やかになり、外気温が低ければ、オイル温度は速く低下する。
【0043】
モータユニット1を備える車両100では、一般的に、イグニッションオフ後にモータユニット1を冷却する運転後冷却動作が実行される。本実施形態の場合、モータユニット1の停止後にも電動オイルポンプ9が稼働し続け、モータユニット1内にオイルを循環させる。このオイル循環動作により、モータユニット1の各部、特にコイル31が冷却される。運転後冷却動作により、モータユニット1の各部が冷却され、オイル温度とコイル温度はほぼ等しくなる。本実施形態において、前回の運転終了時の推定オイル温度は、運転後冷却動作が実行された後の推定オイル温度である。したがって、運転後冷却動作の実行後に、コイル温度を測定することにより、車両停止時の推定オイル温度を取得可能である。
【0044】
前回の車両停止時の推定オイル温度をToil_stop、車両100の車両ソーク時間をtsoak、外気温の平均値をTout_avgとすると、現在の推定オイル温度Toil_startは、以下の式(2)により計算できる。なお、外気温の平均値Tout_avgは、前回の運転終了時の外気温と、今回始動時の外気温との平均値である。また、式(2)のaは、実験的に求められる定数である。
【0045】
Toil_start=Toil_stop-(a/Tout_avg)・tsoak …(2)
【0046】
式(2)における定数aを決定するには、車両100の運転後冷却動作が終了した後、種々の外気温において、ソーク時間に対するオイル温度の変化を観測する実験を実施する。多数の外気温環境下でデータを収集することにより、精度よく定数aを決定可能である。
【0047】
次に、ポンプ制御部114は、ステップS3において、今回始動時の推定オイル温度Toil_startと、電動オイルポンプ9の起動可能温度Teop_okとを比較する。推定オイル温度Toil_startが起動可能温度Teop_ok以上である場合、ステップS6に移行し、ポンプ制御部114は、電動オイルポンプ9を起動する。
【0048】
一方、推定オイル温度Toil_startが起動可能温度Teop_okを下回っている場合、ステップS4に移行し、ポンプ制御部114は、推定オイル温度Toilが、起動可能温度Teop_okに到達するまでの昇温時間を推定し、昇温時間に基づいて電動オイルポンプ9の起動待機時間を決定する。ポンプ制御部114は、ステップS5において、起動待機時間の間だけ、電動オイルポンプ9の起動を待機する。所定時間の待機後、ステップS6に移行し、ポンプ制御部114は、電動オイルポンプ9を起動する。
【0049】
以下、電動オイルポンプ9の起動待機の動作について、図6から図9を参照して詳細に説明する。
図6は、コールドスタートにおけるコイル温度および推定オイル温度の経過時間に対する変化を、概念的に示す説明図である。
ステップS21においてコールドスタートであると判断されている場合、図6に示すように、今回始動時の推定オイル温度Toil_startは、今回始動時のコイル温度Tcoil_startに等しいと推定される。イグニッションオン時には、電動オイルポンプ9は起動していない。
【0050】
イグニッションオン後にモータユニット1のモータ2が回転を開始すると、コイル31への通電によりコイル温度Tcoilが上昇し始める。このとき、電動オイルポンプ9は起動していないが、モータユニット1の伝達機構3は、差動装置5のリングギヤ51によってオイル溜まりPからオイルOをかき上げ、モータ2のシャフト21内にオイルOが流入する。シャフト21内のオイルは、ロータ本体24を通ってコイル31に噴射される。これにより、ハウジング6内を循環するオイルOは、コイル31との接触によって加熱され、オイル温度が徐々に温度上昇する。
【0051】
コイル31との接触によるオイルOの温度上昇値(ΔToil)は、コイル31の熱容量Ccoilの増加分と、コイル31と接触するオイルOの量(オイル循環量Voil)とから見積もることができる。図7は、モータユニットの駆動時間に対する、モータ駆動信号のデューティ値変化と、コイルの熱容量の変化を概念的に示す説明図である。
【0052】
コイル31の熱容量Ccoilは、式(3)に示すように、コイル31に入力されるモータ駆動信号のデューティ値dutyをモータユニット1の駆動期間だけ積算した値Σdutyの関数として求めることができる。ポンプ制御部114は、モータ駆動信号のデューティ値dutyを、モータ制御部113から随時取得可能である。下記式(3)において、b1は定数である。
【0053】
Ccoil=∫duty・dt
≒Σduty・Δt
=b1・Σduty …(3)
【0054】
コイル31に噴射されるオイルOの量は、リングギヤ51によりかき上げられ、シャフト21に案内されるオイル量とみなすことができる。リングギヤ51の回転数は、車軸101の回転数rpmに一致する。リングギヤ51の回転によってハウジング6内を循環するオイルOの総量であるオイル循環量Voilは、下記式(4)に示すように、車軸101の回転数rpmに比例する。ポンプ制御部114は、車軸101の回転数rpmを、車両制御装置107から随時取得可能である。下記式(4)において、b2は定数である。
【0055】
Voil =∫rpm・dt
≒Σrpm・Δt
=b2・Σrpm …(4)
【0056】
図8は、モータユニットの駆動時間に対する、車軸101の回転数rpmと、オイル循環量Voilの変化を概念的に示す説明図である。図8に示すように、モータユニット1の駆動時間の経過に伴って、オイル循環量Voilは単調に増加する。
【0057】
以上から、モータユニット1の駆動開始後のオイル温度上昇値ΔToilは、下記式(5)に示すように、コイルの熱容量Ccoilとオイル循環量Voilとの積として表すことができる。式(6)に示すように、式(3)の定数b1と、式(4)の定数b2は、デューティ値dutyと回転数rpmとの積を駆動期間だけ積算した値に掛かる定数bとして整理できる。定数bは、実験的に求めることが可能である。
【0058】
ΔToil =b1・Σduty × b2・Σrpm …(5)
=b・Σ(duty×rpm) …(6)
【0059】
式(6)における定数bを決定するには、例えば、モータユニット1を種々のデューティ値dutyで駆動し、各条件において駆動時間に対する推定オイル温度Toilの変化を観測する。多数のデューティ値条件でデータを収集することにより、精度よく定数bを決定可能である。
【0060】
ポンプ制御部114は、モータ制御部113から取得されるモータ駆動信号のデューティ値dutyおよび車両制御装置107から取得される車軸101の回転数rpmを式(6)により演算することで、モータユニット1の駆動開始からのオイル温度上昇値ΔToilを推定する。ポンプ制御部114は、下記式(7)に示すように、今回始動時の推定オイル温度Toil_startとオイル温度上昇値ΔToilとを合算することで、現在の推定オイル温度Toilを取得する。
【0061】
Toil=Toil_start+ΔToil …(7)
【0062】
ポンプ制御部114は、現在の推定オイル温度Toilと、電動オイルポンプ9の起動可能温度Teop_okとの差分と、単位時間当たりのオイル温度の上昇値とから、推定オイル温度Toilが起動可能温度Teop_okに到達するまでの昇温時間teop_okを推定する。ポンプ制御部114は、昇温時間teop_okを、電動オイルポンプ9の軌道を待機する起動待機時間twaitとして決定する。単位時間当たりのオイル温度の上昇値は、オイル温度上昇値ΔToilをモータユニット1の駆動時間t1で除した値である。
【0063】
twait=(Teop_ok-Toil)/(ΔToil/t1) …(8)
【0064】
ポンプ制御部114は、ステップS5において、式(8)で得られる起動待機時間twaitの間、電動オイルポンプ9の起動を待機する。待機時間の経過後、ステップS6に移行し、ポンプ制御部114は、電動オイルポンプ9を起動する。
【0065】
本実施形態では、推定オイル温度Toilが起動可能温度Teop_okに到達するまでの昇温時間teop_okを、起動待機時間twaitとしているが、実機の状況に応じて、起動待機時間twaitを昇温時間teop_okに対して長くまたは短く調整してもよい。すなわち、起動待機時間twaitは、昇温時間teop_okに基づいて決定されればよく、起動待機時間twaitと昇温時間teop_okとは必ずしも一致していなくてもよい。
【0066】
次に、図9は、ホットスタートにおけるコイル温度および推定オイル温度の経過時間に対する変化を、概念的に示す説明図である。
ステップS21においてホットスタートであると判断されている場合、図9に示すように、今回始動時の推定オイル温度Toil_startは、外気温よりも高い。今回始動時の推定オイル温度Toil_startとコイル温度Tcoilとの大小関係は不定である。ホットスタートの場合も、イグニッションオン時には、電動オイルポンプ9は起動していない。
【0067】
イグニッションオン後にモータユニット1のモータ2が回転を開始すると、コイル31への通電によりコイル温度Tcoilが上昇し始める。また、差動装置5のリングギヤ51によってオイルOがかき上げられ、オイルOとコイル31との接触によりオイルOの温度が上昇し始める。
【0068】
ポンプ制御部114は、オイル温度の初期値として、ステップS23において推定された今回始動時の推定オイル温度Toil_startを用いる。推定オイル温度の初期条件以外は、コールドスタートの場合と同様である。ポンプ制御部114は、現在の推定オイル温度Toilと、電動オイルポンプ9の起動可能温度Teop_okとの差分と、単位時間当たりのオイル温度の上昇値とから、推定オイル温度Toilが起動可能温度Teop_okに到達するまでの昇温時間teop_okを推定する。ポンプ制御部114は、昇温時間teop_okに基づいて、電動オイルポンプ9の起動を待機する起動待機時間twaitを推定する。
【0069】
ポンプ制御部114は、ステップS5において、式(8)で得られる起動待機時間twaitの間、電動オイルポンプ9の起動を待機する。待機時間の経過後、ステップS6に移行し、ポンプ制御部114は、電動オイルポンプ9を起動する。
【0070】
以上に説明した本実施形態のモータ制御装置110によれば、モータユニット1のハウジング6に収容されるオイルOの温度センサを備えない場合であっても、コイル温度と外気温とに基づいてオイル温度を推定でき、推定されるオイル温度に基づいて電動オイルポンプ9の起動タイミングを決定可能である。したがって、本実施形態のモータ制御装置110を備えるモータユニット1によれば、電動オイルポンプ9の起動自体が制限されるような低温環境においても、電動オイルポンプ9を安全に動作させることができる。よって、オイル用の温度センサを備えないモータユニット1の動作信頼性を向上させることができる。モータユニット1を備える車両100によれば、低温環境において優れた動作信頼性が得られる。
【0071】
本実施形態のモータ制御装置110では、ポンプ制御部114は、推定オイル温度Toilが電動オイルポンプ9の起動可能温度Teop_okよりも低い場合に、推定オイル温度Toilが起動可能温度Teop_okに到達するまでの昇温時間teop_okを推定し、昇温時間teop_okに基づいて、電動オイルポンプ9の起動を待機させる起動待機時間twaitを決定する。この構成によれば、電動オイルポンプ9を安全に動作させることができる。また、モータ制御装置110が、ポンプ起動までの時間を認識できるため、モータ制御の効率を高めることも可能である。
【0072】
本実施形態のモータ制御装置110では、ポンプ制御部114は、コイル温度Tcoilと外気温との差が5℃以内である場合に、コールドスタート時の推定オイル温度Toilの上昇速度データに基づいて、昇温時間teop_okを推定する。この構成によれば、冷機状態からの始動に電動オイルポンプ9の起動タイミングを精度よく制御可能である。
【0073】
本実施形態のモータ制御装置110では、ポンプ制御部114は、モータ駆動信号のデューティ値duty、すなわち、モータ2の消費電力と、モータユニット1のオイル循環量Voilとに基づいて昇温時間teop_okを推定する。この構成によれば、モータ2の発熱によるオイル温度上昇を比較的精度よく見積もることができ、オイル温度の推定精度を高めることができる。これにより、低温環境において、より安全に電動オイルポンプ9を稼働できる。
【0074】
本実施形態のモータ制御装置110では、ポンプ制御部114は、コイル温度Tcoilと外気温との差が5℃以内である場合に、始動時のオイル温度を、コイル温度に等しい温度であると推定する。この構成によれば、コールドスタートにおける始動時のオイル温度を比較的精度よく推定できる。
【0075】
本実施形態のモータ制御装置110では、ポンプ制御部114は、コイル温度Tcoilが外気温よりも5℃以上高い場合に、車両停止時の推定オイル温度Toil_stopと、車両ソーク時間tsoakと、外気温と、に基づいて、始動時の推定オイル温度Toil_startを推定する。この構成によれば、ホットスタートにおける始動時のオイル温度を比較的精度よく推定できる。
【符号の説明】
【0076】
1…モータユニット、2…モータ、3…伝達機構、6…ハウジング、9…電動オイルポンプ、31…コイル、33…コイル温度センサ、100…車両、101…車軸、111…制御部、113…モータ制御部、114…ポンプ制御部、J2…モータ軸、O…オイル、Toil…推定オイル温度、Toil_start…始動時の推定オイル温度、Toil_stop…車両停止時の推定オイル温度、Tcoil…コイル温度、Teop_ok…起動可能温度、teop_ok…昇温時間、tsoak…車両ソーク時間、twait…起動待機時間、Voil…オイル循環量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9