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特開2023-179751増幅毛包間葉系細胞の製造方法及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179751
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】増幅毛包間葉系細胞の製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20231212BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20231212BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20231212BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20231212BHJP
   A61L 27/60 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20231212BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20231212BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20231212BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C12N5/077
A61L27/36 100
A61L27/36 300
A61L27/38 100
A61L27/38 300
A61L27/40
A61L27/60
A61K35/28
A61K35/36
A61P17/14
A61P43/00 105
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180459
(22)【出願日】2023-10-19
(62)【分割の表示】P 2023544358の分割
【原出願日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2022031086
(32)【優先日】2022-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】景山 達斗
(72)【発明者】
【氏名】エン ライ
(57)【要約】
【課題】その数が増幅され、且つ毛髪再生能が回復した毛包間葉系細胞の製造方法及びその使用を提供する。
【解決手段】増幅毛包間葉系細胞の製造方法は、基材表面に接着した毛包間葉系細胞を、コンフルエントな状態から、継代することなく培養する主工程を含み、前記主工程は、前記毛包間葉系細胞を、前記コンフルエントな状態から、さらに増殖させて、増殖した前記毛包間葉系細胞が前記基材表面の少なくとも一部において積み重なって2層以上の細胞層を形成するまで培養することを含む。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に接着した毛包間葉系細胞を、コンフルエントな状態から、継代することなく培養する主工程を含み、
前記主工程は、前記毛包間葉系細胞を、前記コンフルエントな状態から、さらに増殖させて、増殖した前記毛包間葉系細胞が前記基材表面の少なくとも一部において積み重なって2層以上の細胞層を形成するまで培養することを含む、増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項2】
前記主工程は、前記コンフルエントな状態から120時間以上の時間が経過するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項3】
前記主工程は、前記基材表面上の前記毛包間葉系細胞の細胞密度が7×10cells/cm以上に到達するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項4】
前記主工程は、前記基材表面上の前記毛包間葉系細胞の細胞密度が7×10cells/cm以上の状態で50時間以上、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項5】
前記主工程は、前記基材表面上の前記毛包間葉系細胞の細胞密度が前記コンフルエントな状態におけるそれの1.5倍以上に到達するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項6】
前記主工程は、前記毛包間葉系細胞の1以上の発毛関連遺伝子の発現量が前記コンフルエントな状態におけるそれの1.5倍以上に増加するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項7】
前記主工程に先立って実施される前工程をさらに含み、
前記前工程は、前記基材表面上において、未だ前記コンフルエントな状態に到達していない前記毛包間葉系細胞を培養して、前記コンフルエントな状態に到達するまで前記毛包間葉系細胞を増殖させることを含む、請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項8】
前記前工程は、2.5×10cells/cm以下の細胞密度で前記毛包間葉系細胞を培養して、前記コンフルエントな状態に到達するまで前記毛包間葉系細胞を増殖させることを含む、請求項7に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項9】
前記主工程は、前記前工程における前記毛包間葉系細胞の培養の開始から200時間以上の時間が経過するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、請求項7に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項10】
前記主工程は、前記毛包間葉系細胞の1以上の発毛関連遺伝子の発現量が、前記前工程における前記毛包間葉系細胞の培養開始から24時間が経過した時点のそれの1.1倍以上に増加するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、請求項7に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項11】
前記主工程において前記コンフルエントな状態から継代することなく前記基材表面上で培養して得られた毛包間葉系細胞を、前記基材表面から脱離させて回収する回収工程をさらに含む、請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項12】
前記毛包間葉系細胞は、毛乳頭細胞及び真皮毛根鞘細胞からなる群より選択される1以上である、請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法により製造された増幅毛包間葉系細胞を含む細胞凝集塊を形成することを含む、
細胞凝集塊の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法により製造された増幅毛包間葉系細胞を含む移植用組成物を調製することを含む、
移植用組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法を実施すること、及び、
前記方法により製造された増幅毛包間葉系細胞を含む細胞凝集塊を形成すること
を含む、
細胞凝集塊の製造方法。
【請求項16】
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法を実施すること、及び、
前記方法により製造された増幅毛包間葉系細胞を含む移植用組成物を調製すること
を含む、
移植用組成物の製造方法。
【請求項17】
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法により製造された、
増幅毛包間葉系細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅毛包間葉系細胞の製造方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、ヒト毛包から分離した毛乳頭を培養液中プラスチックペトリディッシュ上に載置し、当該毛乳頭から当該ディッシュ底面上に毛乳頭細胞を遊走させて培養する初代培養法が記載されている。
【0003】
非特許文献2には、in vitroにおいてヒト毛乳頭細胞の機能を維持するための培養法を検討した結果が記載されている。非特許文献2には、毛乳頭細胞の初代培養においてコンフルエントに到達したら細胞を回収し、60mmディッシュに20000cells/dishの細胞密度で再播種したこと、及び、その後、さらに継代培養を行ったことも記載されている。
【0004】
特許文献1には、FGF系材料、BMP-2/BMP-4系材料及びWNT系材料の存在下で毛乳頭細胞を培養することを特徴とする、毛誘導能を維持した毛乳頭細胞の培養方法が記載されている。特許文献1には、一般に細胞の数を十分に確保するため、また、細胞の密度を適切に保ち、良好な増殖能力を維持するために、培養器具内で培養細胞が過密になる前に細胞を回収し、数を調整した後新しく培養するという継代が必要になることも記載されている。
【0005】
特許文献2には、a)活力のある毛髪を調製する工程と、b)工程a)で調製した毛髪を分割する工程と、c)真皮毛乳頭と共に杯状様物質付着毛杯を単離する工程と、d)前記毛杯から真皮毛乳頭を分離する工程と、e)工程d)で得た毛杯を培養する工程と、f)コンフルエントな細胞をプールする工程とを含む、毛包間葉系幹細胞の単離方法が記載されている。特許文献2には、マウスの毛包から採取した杯状様物質付着ヘアボウル(DSC)細胞を24ウェル培養フラスコで培養し、コンフルエントに到達後、当該細胞をトリプシン-EDTAで分離し、25ml培養フラスコに移すことを含む継代培養を行ったことが記載されている。
【0006】
非特許文献3には、ヒト毛包から採取された毛乳頭細胞を二次元培養することによりin vivo特性が低下するのに対し、当該二次元培養で継代された当該毛乳頭細胞をハンギングドロップ法で培養してスフェロイドを形成すると、当該スフェロイドを構成する毛乳頭細胞のin vivo特性は回復することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2010-021245号
【特許文献2】特表2005-528916号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A.G. MESSENGER, British Journal of Dermatology (1984) 110, 685-689
【非特許文献2】M. Ohyama et al., Journal of Cell Science (2012) 125, 4114-4125
【非特許文献3】Claire A. Higgins et al., PNAS (2013) vol.110, no.49, 19679-19688
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、毛乳頭細胞の数を増幅するためには、当該毛乳頭細胞を二次元培養し、継代を繰り返すことが行われていた。しかしながら、二次元培養された毛乳頭細胞の毛髪再生能は大きく低下してしまうというのが技術常識であった。
【0010】
一方、毛乳頭細胞を三次元培養、すなわち当該毛乳頭細胞からスフェロイドを形成して培養すると、当該スフェロイドを構成する毛乳頭の毛髪再生能は、ある程度まで回復する。しかしながら、スフェロイドを形成した毛乳頭細胞の数を増幅することは困難であった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、その数が増幅され、且つ毛髪再生能が回復した毛包間葉系細胞及びその使用を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る方法の一側面は、基材表面に接着した毛包間葉系細胞を、コンフルエントな状態から、継代することなく培養する主工程を含み、前記主工程は、前記毛包間葉系細胞を、前記コンフルエントな状態から、さらに増殖させて、増殖した前記毛包間葉系細胞が前記基材表面の少なくとも一部において積み重なって2層以上の細胞層を形成するまで培養することを含む、増幅毛包間葉系細胞の製造方法である。本発明によれば、その数が増幅され、且つ毛髪再生能が回復した毛包間葉系細胞の製造方法が提供される。
【0013】
[2]前記[1]の方法において、前記主工程は、前記コンフルエントな状態から120時間以上の時間が経過するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含むこととしてもよい。[3]前記[1]又は[2]の方法において、前記主工程は、前記基材表面上の前記毛包間葉系細胞の細胞密度が7×10cells/cm以上に到達するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含むこととしてもよい。[4]前記[1]乃至[3]のいずれかの方法において、前記主工程は、前記基材表面上の前記毛包間葉系細胞の細胞密度が7×10cells/cm以上の状態で50時間以上、前記毛包間葉系細胞を培養することを含むこととしてもよい。[5]前記[1]乃至[4]のいずれかの方法において、前記主工程は、前記基材表面上の前記毛包間葉系細胞の細胞密度が前記コンフルエントな状態におけるそれの1.5倍以上に到達するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含むこととしてもよい。[6]前記[1]乃至[5]のいずれかの方法において、前記主工程は、前記毛包間葉系細胞の1以上の発毛関連遺伝子の発現量が前記コンフルエントな状態におけるそれの1.5倍以上に増加するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含むこととしてもよい。
【0014】
[7]前記[1]乃至[6]のいずれかの方法は、前記主工程に先立って実施される前工程をさらに含み、前記前工程は、前記基材表面上において、未だ前記コンフルエントな状態に到達していない前記毛包間葉系細胞を培養して、前記コンフルエントな状態に到達するまで前記毛包間葉系細胞を増殖させることを含むこととしてもよい。[8]前記[7]の方法において、前記前工程は、2.5×10cells/cm以下の細胞密度で前記毛包間葉系細胞を培養して、前記コンフルエントな状態に到達するまで前記毛包間葉系細胞を増殖させることを含むこととしてもよい。[9]前記[7]又は[8]の方法において、前記主工程は、前記前工程における前記毛包間葉系細胞の培養の開始から200時間以上の時間が経過するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含むこととしてもよい。[10]前記[7]乃至[9]のいずれかの方法において、前記主工程は、前記毛包間葉系細胞の1以上の発毛関連遺伝子の発現量が、前記前工程における前記毛包間葉系細胞の培養開始から24時間が経過した時点のそれの1.1倍以上に増加するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含むこととしてもよい。
【0015】
[11]前記[1]乃至[10]のいずれかの方法は、前記主工程において前記コンフルエントな状態から継代することなく前記基材表面上で培養して得られた毛包間葉系細胞を、前記基材表面から脱離させて回収する回収工程をさらに含むこととしてもよい。[12]前記[1]乃至[11]のいずれかの方法において、前記毛包間葉系細胞は、毛乳頭細胞及び真皮毛根鞘細胞からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0016】
[13]上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る方法の他の側面は、前記[1]乃至[12]のいずれかの方法により製造された増幅毛包間葉系細胞を含む細胞凝集塊を形成することを含む、細胞凝集塊の製造方法である。本発明によれば、その数が増幅され、且つ毛髪再生能が回復した毛包間葉系細胞を含む細胞凝集塊の製造方法が提供される。
【0017】
[14]上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る方法のさらに他の側面は、前記[1]乃至[12]のいずれかの方法により製造された増幅毛包間葉系細胞を含む移植用組成物を調製することを含む、移植用組成物の製造方法である。本発明によれば、その数が増幅され、且つ毛髪再生能が回復した毛包間葉系細胞を含む移植用組成物の製造方法が提供される。
【0018】
[15]上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る方法のさらに他の側面は、前記[1]乃至[12]のいずれかの方法により製造された増幅毛包間葉系細胞を生体に移植することを含む、毛髪再生方法である。本発明によれば、その数が増幅され、且つ毛髪再生能が回復した毛包間葉系細胞を用いた毛髪再生方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、その数が増幅され、且つ毛髪再生能が回復した毛包間葉系細胞及びその使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1の例1で培養した毛乳頭細胞のギムザ染色を示す説明図である。
図2】実施例1の例C1培養した毛乳頭細胞(スフェロイド)の顕微鏡写真を示す説明図である。
図3】実施例1で培養した毛乳頭細胞の数を定量した結果を示す説明図である。
図4】実施例1で培養した毛乳頭細胞のALP遺伝子発現を定量した結果を示す説明図である。
図5】実施例1の例1で培養した毛乳頭細胞の細胞層を共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す説明図である。
図6A】実施例1の例1においてフィブロネクチン及び細胞核を免疫蛍光二重染色した結果を示す説明図である。
図6B図6Aに示す蛍光二重染色画像のうち、フィブロネクチンの免疫蛍光染色画像のみを示す説明図である。
図6C】実施例1の例1においてI型コラーゲン及び細胞核を免疫蛍光二重染色した結果を示す説明図である。
図6D図6Cに示す蛍光二重染色画像のうち、I型コラーゲンの免疫蛍光染色画像のみを示す説明図である。
図6E】実施例1の例1においてアルカリフォスファターゼ及び細胞核を免疫蛍光二重染色した結果を示す説明図である。
図6F図6Eに示す蛍光二重染色画像のうち、アルカリフォスファターゼの免疫蛍光染色画像のみを示す説明図である。
図7A】実施例2の例2で培養した毛包間葉系細胞のギムザ染色を低倍率で観察した結果を示す説明図である。
図7B】実施例2の例2で培養した毛包間葉系細胞のギムザ染色を高倍率で観察した結果を示す説明図である。
図8】実施例2の例C2培養した毛包間葉系細胞(スフェロイド)の顕微鏡写真を示す説明図である。
図9】実施例2で培養した毛包間葉系細胞の数を定量した結果を示す説明図である。
図10】実施例2で培養した毛包間葉系細胞のALP遺伝子発現を定量した結果を示す説明図である。
図11A】実施例3の例3で培養した毛乳頭細胞を位相差顕微鏡で観察した結果を示す説明図である。
図11B】実施例3の例C3で培養した毛乳頭細胞(スフェロイド)を位相差顕微鏡で観察した結果を示す説明図である。
図12A】実施例3の例3で培養した毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を位相差顕微鏡で観察した結果を示す説明図である。
図12B】実施例3の例C3で培養した毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を位相差顕微鏡で観察した結果を示す説明図である。
図13A】実施例3の例3で培養した毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植した結果を示す説明図である。
図13B】実施例3の例C3で培養した毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植した結果を示す説明図である。
図14A】実施例3の例3で培養した毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊の移植部位に生えた毛を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す説明図である。
図14B】実施例3の例C3で培養した毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊の移植部位に生えた毛を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す説明図である。
図15】実施例3において毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植した部位に生えた毛の数を定量した結果を示す説明図である。
図16A】実施例4の例4-1において移植後21日目にヌードマウスの移植部位を撮影して得られた写真を示す説明図である。
図16B】実施例4の例4-2において移植後21日目にヌードマウスの移植部位を撮影して得られた写真を示す説明図である。
図16C】実施例4の例4Cにおいて移植後21日目にヌードマウスの移植部位を撮影して得られた写真を示す説明図である。
図17】実施例4において移植後21日目にヌードマウスの移植部位に生えていた毛髪の数をカウントした結果を示す説明図である。
図18】実施例5においてSHOマウスの移植部位における相対蛍光強度を評価した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0022】
本実施形態に係る方法(以下、「本方法」という。)は、その一側面として、基材表面に接着した毛包間葉系細胞を、コンフルエントな状態から、継代することなく培養する主工程を含む増幅毛包間葉系細胞の製造方法を包含する。
【0023】
本方法の主工程は、基材表面に接着した毛包間葉系細胞を、コンフルエントな状態から、さらに増殖させて、増殖した当該毛包間葉系細胞が当該基材表面の少なくとも一部において積み重なって2層以上の細胞層を形成するまで培養することを含むことが好ましい。
【0024】
ここで一般に、接着性の細胞をin vitroで二次元培養して、その数を増幅させる場合には、まず当該細胞を細胞接着性の基材表面上に当該細胞の増殖に適した低密度で播種し、次いで当該基材表面に接着した細胞を培養して増殖させ、その後、好ましくはコンフルエントに到達する前に、又は遅くともコンフルエントに到達した時点で継代する方法が用いられる。
【0025】
なお、「継代」とは、上述のように、まずは細胞を基材表面で二次元培養して増殖させ、次いでコンフルエントに到達する前に又はコンフルエントに到達した時点で、当該細胞を当該基材表面から脱離させて回収し、その後、回収された当該細胞を新たな基材表面に播種しなおす操作である。そして従来、in vitroで毛乳頭細胞等の毛包間葉系細胞の数を増幅する場合においても、上述のように当該毛包間葉系細胞を二次元培養して継代する方法が用いられていた。
【0026】
これに対し、本発明の発明者らは、毛包間葉系細胞(以下、「HFM細胞」という。)の数の増幅と、毛髪再生能の維持又は回復との両方を達成するための技術的手段について検討した結果、意外にも、HFM細胞を、コンフルエントの状態から、継代することなく、さらに増殖させて培養することにより、当該HFM細胞の数を増幅させながら、その毛髪再生能を効果的に回復させることができることを独自に見出し、本発明を完成するに至った。
【0027】
HFM細胞は、毛髪再生能を有する間葉系細胞である。すなわち、例えば、HFM細胞は、生体に移植された場合に、当該HFM細胞が移植された部位における発毛を促進する。具体的に、生体に移植されたHFM細胞は、例えば、発毛を促進する因子(例えば、Wnt)を分泌することにより、当該HFM細胞が移植された部位における発毛を促進する。
【0028】
HFM細胞は、生体から採取された毛包に由来するものであってもよいし、毛包以外の組織に由来する細胞からin vitroで分化誘導されたものであってもよいが、当該毛包に由来するものであることが好ましい。
【0029】
具体的に、HFM細胞は、生体から採取された毛包に含まれる毛乳頭(dermal papilla)及び/又は真皮毛根鞘(dermal sheath)に由来する間葉系細胞であることが好ましく、毛乳頭及び/又は毛球部真皮毛根鞘(dermal sheath cup)に由来する間葉系細胞であることがより好ましく、毛乳頭に由来する間葉系細胞であることが特に好ましい。
【0030】
すなわち、HFM細胞は、毛乳頭細胞及び真皮毛根鞘細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましく、毛乳頭細胞及び毛球部真皮毛根鞘細胞からなる群より選択される1以上であることがより好ましく、毛乳頭細胞であることが特に好ましい。
【0031】
HFM細胞の分化誘導に用いられる細胞は、in vitroで当該HFM細胞に分化する能力を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、多能性幹細胞(例えば、iPS(induced Pluripotent Stem)細胞、ES(Embryonic Stem)細胞、Muse(Multilineage-differentiating stress-enduring)細胞、及び、EG(Embryonic Germ)細胞からなる群より選択される1以上)、当該多能性幹細胞以外の幹細胞(例えば、分化細胞のリプログラミングにより得られた幹細胞、及び、間葉系幹細胞(例えば、脂肪組織由来間葉系幹細胞)からなる群より選択される1以上)、及び、胎児又は新生児の皮膚由来の間葉系細胞(例えば、胎児又は新生児の皮膚の真皮層に由来する間葉系細胞)からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0032】
HFM細胞は、1以上の発毛関連遺伝子を発現していることが好ましい。HFM細胞が発現する発毛関連遺伝子は、生体における発毛に関連する遺伝子であれば特に限られないが、例えば、アルカリフォスファターゼ(ALP)遺伝子、Versican遺伝子、LEF1遺伝子、WNT5A遺伝子、NOG遺伝子、BMP4遺伝子、Sox2遺伝子、αMSA遺伝子及びGREM2遺伝子からなる群より選択される1以上であってもよい。ここで、例えば、ALP遺伝子は特に毛乳頭細胞が強く発現する遺伝子であり、αMSA遺伝子は特に真皮毛根鞘細胞(毛球部真皮毛根鞘細胞を含む)が強く発現する遺伝子であり、GREM2遺伝子は、特に毛球部真皮毛根鞘細胞が強く発現する遺伝子である。したがって、HFM細胞は、例えば、ALP遺伝子、αMSA遺伝子及びGREM2遺伝子からなる群より選択される1以上を発現する間葉系細胞であることが好ましく、ALP遺伝子及びGREM2遺伝子からなる群より選択される1以上を発現する間葉系細胞であることがより好ましく、ALP遺伝子を発現する間葉系細胞であることが特に好ましい。
【0033】
HFM細胞は、毛包を有する動物に由来するものであれば特に限られないが、例えば、哺乳動物の細胞であることが好ましい。哺乳動物の細胞は、ヒトの細胞であってもよいし、ヒト以外の哺乳動物(例えば、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット又はウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、又は有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ又はヒツジ))の細胞であってもよいが、ヒト細胞であることが好ましい。
【0034】
生体への移植を目的として用いるHFM細胞は、当該HFM細胞を移植する個体に由来するものであってもよいし、当該HFM細胞を移植する個体以外の個体に由来するものであってもよいが、当該HFM細胞を移植する個体に由来するものであることが好ましい。
【0035】
例えば、ヒトへの移植のために用いられるヒトHFM細胞は、当該ヒトHFM細胞を移植するヒト患者に由来するものであってもよいし、当該患者以外のヒトに由来するもの(例えば、当該患者以外のヒトに由来する多能性幹細胞(例えば、セルバンクに保存されているiPS細胞、ES細胞、Muse細胞又はEG細胞)からin vitroで分化誘導されたヒトHFM細胞)であってもよいが、当該患者に由来するものであることが好ましい。
【0036】
本方法において培養されるHFM細胞の継代数は、本発明の効果が得られれば特に限られず、継代数がゼロのHFM細胞(未だ継代されたことがないHFM細胞)を用いてもよいし、継代数が1以上のHFM細胞(既に1回以上継代されたHFM細胞)を用いてもよい。また、HFM細胞の継代数は、例えば、15以下であってもよく、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましく、5以下であることがさらに好ましく、4以下であることがさらに好ましく、3以下であることが特に好ましい。
【0037】
具体的に、例えば、生体から採取された毛包の毛乳頭及び/又は真皮毛根鞘(例えば、生体から採取後に酵素処理が施された毛乳頭及び/又は真皮毛根鞘)を基材表面に載置して、当該毛乳頭及び/又は真皮毛根鞘から当該基材表面上に遊走してくるHFM細胞を得る場合、当該基材表面上に遊走してきたHFM細胞(継代数がゼロのHFM細胞)を当該基材表面から脱離させることなく、そのまま本方法で培養してもよい。また、例えば、継代数がゼロのHFM細胞を基材表面から脱離させて回収し、新たな基材表面上に播種し、継代数が1のHFM細胞として本方法で培養してもよい。また、継代数が2以上のHFM細胞を本方法で培養してもよい。
【0038】
基材表面は、HFM細胞の培養担体として用いる基材の表面であり、HFM細胞に対して接着性を有する表面である。基材表面を構成する材料は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、樹脂(例えば、ポリスチレン又はポリプロピレン)、ガラス、金属及びセラミックスからなる1以上の材料から構成される表面であることが好ましい。基材表面は、非多孔性であってもよいし、多孔性であってもよい。
【0039】
基材表面は、細胞接着性を向上させる処理(例えば、細胞接着性成分のコーティング)が施されていてもよいし、当該処理が施されていなくてもよい。基材表面にコーティングされていてもよい細胞接着性成分は、当該基材表面のHFM細胞に対する接着性を向上させる成分であれば特に限られないが、例えば、細胞外マトリックス(例えば、コラーゲン又はフィブロネクチン)、及び/又は、細胞接着性の部位(例えば、RGD配列を含むアミノ酸配列)が人為的に導入された化合物であることが好ましい。
【0040】
基材表面としては、例えば、培養容器(例えば、培養ディッシュ、培養フラスコ、又は、マルチウェルプレートのウェル、又はローラーボトル)の細胞接着性の表面が好ましく用いられる。なお、培養容器の基材表面が、HFM細胞に対して接着性の領域と、非接着性の領域とを含む場合、当該表面のうち、当該接着性の領域が当該HFM細胞を培養する基材表面として用いられる。また、基材表面としては、例えば、培養容器内で底面に載置され又は培養液中に浮遊して用いられる培養担体(例えば、マイクロキャリアビーズ等の粒子状の培養担体)の表面を用いてもよい。
【0041】
基材表面の形状は、本発明の効果が得られれば特に限られず、平坦な表面(例えば、培養ディッシュ、培養フラスコ、又は、マルチウェルプレートのウェルの平底の表面)であってもよいし、曲面(例えば、ローラーボトルの内面、及び/又は、マイクロキャリアビーズ等の粒子状の培養担体の表面)であってもよい。
【0042】
本方法において、HFM細胞を接着させて培養する1つの基材表面は、当該HFM細胞が接着している一続きの細胞接着性表面である。具体的に、1つの基材表面は、例えば、1つの培養フラスコの底面(多段フラスコの場合は1つの段の底面)、1つのローラーボトルの内面、1つの培養ディッシュの底面、マルチウェルプレートの1つのウェルの底面、HFM細胞に対して非接着性の表面で囲まれた1つの細胞接着性表面、又は、粒子状担体(例えば、マイクロキャリアビーズ)の1つの粒子の表面であってもよい。
【0043】
1つの基材表面の面積は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、5×10-5cm以上であってもよく、2×10-4cm以上であってもよく、2×10-3cm以上であってもよく、0.01cm以上であってもよく、0.1cm以上であってもよく、0.3cm以上であってもよく、0.5cm以上であってもよく、1cm以上であってもよく、3cm以上であってもよく、5cm以上であってもよく、10cm以上であってもよく、15cm以上であってもよく、20cm以上であってもよい。また、1つの基材表面の面積は、例えば、1000cm以下であってもよいし、800cm以下であってもよいし、600cm以下であってもよい。1つの基材表面の面積は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0044】
HFM細胞の培養に用いる培養液は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、市販の毛乳頭細胞増殖用培地等、HFM細胞の増殖に適した成分を含む培養液が好ましく用いられる。具体的に、培養液は、例えば、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)及びインスリンからなる群より選択される1以上を含むことが好ましく、bFGFを含むことが特に好ましい。
【0045】
本方法の主工程においては、基材表面に接着したコンフルエントな状態のHFM細胞を、継代することなく、さらに培養して増殖させる。すなわち、コンフルエントな状態のHFM細胞を基材表面から脱離させることなく、そのまま当該基材表面上で培養して、さらに増殖させる。
【0046】
ここで、「コンフルエントな状態」とは、HFM細胞が1つの基材表面の全体を覆い尽くしている状態である。コンフルエントな状態かどうかは、本発明が属する技術分野において技術常識を有する者であれば容易に判断することができるが、当該コンフルエントな状態は、例えば、基材表面上におけるHFM細胞の細胞密度(1つの基材表面上のHFM細胞の総数を、当該1つの基材表面の面積で除して得られる密度)により特定されてもよい。すなわち、HFM細胞がコンフルエントな状態とは、例えば、基材表面上におけるHFM細胞の細胞密度が、3×10cells/cm以上、6×10cells/cm以下の範囲内である状態であってもよく、3×10cells/cm以上、5.5×10cells/cm以下の範囲内である状態であってもよく、3×10cells/cm以上、5×10cells/cm以下の範囲内である状態であってもよく、3×10cells/cm以上、4.5×10cells/cm以下の範囲内である状態であってもよく、3×10cells/cm以上、4×10cells/cm以下の範囲内である状態であってもよい。
【0047】
なお、基材表面上のHFM細胞の細胞密度の算出に用いられる当該基材表面上における当該HFM細胞の数は、蛍光酵素と、生細胞によって当該蛍光酵素の基質に変換される前駆体化合物とを含む測定キットを用いて好ましく測定される。具体的に、例えば、蛍光酵素としてのルシフェラーゼと、生細胞の細胞質内でルシフェラーゼの基質に変換される細胞膜透過性の前駆体化合物とを含む測定キットが好ましく用いられる。この場合、まずルシフェラーゼ及び前駆体化合物を、基材表面上のHFM細胞を含む培養液中に添加する。その結果、前駆体化合物は培養液中から生きたHFM細胞の細胞質内に透過し、当該細胞質内で、当該HFM細胞による還元能によってルシフェラーゼの基質に変換される。生成された細胞膜透過性の基質はHFM細胞の細胞質から培養液中に漏出し、当該培養液中においてルシフェラーゼによって発光物質に変換される。そこで、この発光物質に由来する蛍光の強度(例えば、特定波長における吸光度)を測定し、当該測定された蛍光強度と、予め作成された検量線(蛍光強度と細胞数との関係を示すグラフ)とに基づき、基材表面上のHFM細胞の数を算出する。なお、検量線は、例えば、基材表面への播種時のHFM細胞を用いて作成される。そして、算出されたHFM細胞の数を、基材表面の面積で除することにより、当該基材表面上におけるHFM細胞の細胞密度を算出する。
【0048】
主工程は、HFM細胞を、コンフルエントな状態から、さらに増殖させて増殖した当該HFM細胞が基材表面の少なくとも一部において積み重なって2層以上の細胞層を形成するまで培養することを含むことが好ましい。
【0049】
具体的に、単層のHFM細胞が基材表面を覆い尽くしているコンフルエントな状態から、継代することなく、当該HFM細胞をさらに増殖させることにより、当該基材表面の一部又は全部において、基材表面に接している1層目のHFM細胞に加えて、当該1層目のHFM細胞上に積み重なった2層目のHFM細胞をさらに含む細胞層が形成される。
【0050】
さらに、主工程は、基材表面の少なくとも一部において、増殖したHFM細胞が3層以上、好ましくは4層以上、より好ましくは5層以上、特に好ましくは6層以上の細胞層を形成するまで、HFM細胞を培養することとしてもよい。
【0051】
主工程は、増殖したHFM細胞が、基材表面の50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは基材表面の全範囲(100%)において、2層以上の細胞層を形成するまで、HFM細胞を培養することとしてもよい。
【0052】
また、主工程は、増殖したHFM細胞が、基材表面の20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上において、3層以上の細胞層を形成するまで、HFM細胞を培養することとしてもよい。
【0053】
また、主工程は、増殖したHFM細胞が、基材表面の10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは60%以上において、4層以上の細胞層を形成するまで、HFM細胞を培養することとしてもよい。
【0054】
また、主工程は、増殖したHFM細胞が、基材表面の10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上において、5層以上の細胞層を形成するまで、HFM細胞を培養することとしてもよい。
【0055】
また、主工程は、増殖したHFM細胞が、基材表面の10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上において、6層以上の細胞層を形成するまで、HFM細胞を培養することとしてもよい。
【0056】
HFM細胞の増殖は、基材表面の全体に亘って必ずしも均一ではないため、当該基材表面上に形成される細胞層に含まれる層の数もまた、当該基材表面の一部と他の一部とで異なり得る。このため、主工程は、増殖したHFM細胞が、基材表面の一部において、第一の数のHFM細胞層(例えば、1層、2層又は3層のHFM細胞層)を含む第一の細胞層を形成し、且つ、当該基材表面の他の一部において、当該第一の数より1以上、2以上、又は3以上多い数のHFM細胞層(例えば、4層以上、5層以上、又は6層以上のHFM細胞層)を含む第二の細胞層を形成するまで、HFM細胞を培養することとしてもよい。
【0057】
増殖したHFM細胞が積み重なって形成された細胞層は、HFM細胞が分泌した細胞外マトリックス(例えば、I型コラーゲン及び/又はフィブロネクチン)を含むことが好ましい。すなわち、細胞層は、HFM細胞の2以上の層と、当該HFM細胞により分泌され、当該HFM細胞間に蓄積された細胞外マトリックスとを含むことが好ましい。
【0058】
主工程は、コンフルエントな状態から120時間以上の時間が経過するまで、HFM細胞を継代することなく培養することを含むことが好ましい。具体的に、例えば、HFM細胞が基材表面上でコンフルエントな状態に到達した時点(例えば、細胞密度が上述したコンフルエントな状態を形成する細胞密度に到達した時点)からさらに120時間以上、当該基材表面上において引き続き当該HFM細胞を継代することなく培養する。
【0059】
この場合、主工程は、コンフルエントな状態から200時間以上、好ましくは300時間以上、より好ましくは400時間以上、さらに好ましくは500時間以上、さらに好ましくは550時間以上、特に好ましくは600時間以上の時間が経過するまで、HFM細胞を継代することなく培養することを含んでもよい。
【0060】
また、主工程においてコンフルエントな状態から継代することなくHFM細胞を培養する時間は、例えば、2400時間以下であってもよく、2000時間以下であってもよく、1800時間以下であってもよく、1600時間以下であってもよく、1400時間以下であってもよく、1200時間以下であってもよく、950時間以下であってもよく、700時間以下であってもよい。主工程においてコンフルエントな状態から継代することなくHFM細胞を培養する時間は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0061】
主工程は、基材表面上のHFM細胞の細胞密度が6.5×10cells/cm以上に到達するまで、継代することなく当該HFM細胞を培養することを含むことが好ましい。この場合、主工程は、基材表面上のHFM細胞の細胞密度が7×10cells/cm以上、好ましくは7.5×10cells/cm以上、より好ましくは8×10cells/cm以上、さらに好ましくは8.5×10cells/cm以上、さらに好ましくは9×10cells/cm以上、さらに好ましくは9.5×10cells/cm以上、特に好ましくは10×10cells/cm以上に到達するまで、当該HFM細胞を培養することを含んでもよい。
【0062】
また、主工程においてコンフルエントな状態から継代することなくHFM細胞を培養して到達する細胞密度は、例えば、25×10cells/cm以下であってもよく、20×10cells/cm以下であってもよく、18×10cells/cm以下であってもよく、16×10cells/cm以下であってもよく、15×10cells/cm以下であってもよく、14×10cells/cm以下であってもよく、13×10cells/cm以下であってもよく、12×10cells/cm以下であってもよい。主工程においてコンフルエントな状態から継代することなくHFM細胞を培養して到達する細胞密度は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0063】
主工程は、基材表面上のHFM細胞の細胞密度が7×10cells/cm以上の状態で50時間以上、当該HFM細胞を培養することを含むことが好ましい。この場合、主工程は、基材表面上のHFM細胞の細胞密度が7×10cells/cm以上の状態で100時間以上、好ましくは200時間以上、より好ましくは300時間以上、さらに好ましくは350時間以上、さらに好ましくは400時間以上、特に好ましくは450時間以上、当該HFM細胞を培養することを含んでもよい。
【0064】
また、主工程において、細胞密度が7×10cells/cm以上の状態で培養する時間は、例えば、2000時間以下であってもよく、1500時間以下であってもよく、1000時間以下であってもよく、800時間以下であってもよく、600時間以下であってもよく、500時間以下であってもよい。主工程において細胞密度が7×10cells/cm以上の状態で培養する時間は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0065】
主工程は、基材表面上のHFM細胞の細胞密度が9×10cells/cm以上の状態で50時間以上、好ましくは150時間以上、より好ましくは250時間以上、さらに好ましくは300時間以上、特に好ましくは350時間以上、当該HFM細胞を培養することを含んでもよい。
【0066】
また、主工程において、基材表面上のHFM細胞の細胞密度が9×10cells/cm以上の状態で培養する時間は、例えば、2000時間以下であってもよく、1500時間以下であってもよく、1000時間以下であってもよく、800時間以下であってもよく、600時間以下であってもよく、500時間以下であってもよく、400時間以下であってもよい。主工程において細胞密度が9×10cells/cm以上の状態で培養する時間は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0067】
主工程は、基材表面上のHFM細胞の細胞密度が10×10cells/cm以上の状態で50時間以上、好ましくは100時間以上、より好ましくは150時間以上、さらに好ましくは200時間以上、特に好ましくは250時間以上、当該HFM細胞を培養することを含んでもよい。
【0068】
また、主工程において、基材表面上のHFM細胞の細胞密度が10×10cells/cm以上の状態で培養する時間は、例えば、2000時間以下であってもよく、1500時間以下であってもよく、1000時間以下であってもよく、500時間以下であってもよく、400時間以下であってもよく、300時間以下であってもよい。主工程において細胞密度が10×10cells/cm以上の状態で培養する時間は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0069】
主工程は、基材表面上のHFM細胞の細胞密度がコンフルエントな状態におけるそれの1.5倍以上に到達するまで、当該HFM細胞を培養することを含むことが好ましい。この場合、主工程は、基材表面上のHFM細胞の細胞密度がコンフルエントな状態におけるそれの2倍以上、好ましくは2.5倍以上、より好ましくは3倍以上、特に好ましくは3.5倍以上に到達するまで、当該HFM細胞を培養することを含んでもよい。
【0070】
主工程において到達するHFM細胞の細胞密度は、コンフルエントな状態における細胞密度の10倍以下であってもよく、8倍以下であってもよく、6倍以下であってもよく、5倍以下であってもよく、4倍以下であってもよい。主工程において到達するHFM細胞の細胞密度は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0071】
主工程は、HFM細胞の上述した1以上の発毛関連遺伝子(例えば、ALP遺伝子)の発現量が、コンフルエントな状態におけるそれの1.5倍以上に増加するまで、当該HFM細胞を培養することを含むことが好ましい。この場合、主工程は、HFM細胞の1以上の発毛関連遺伝子の発現量が、コンフルエントな状態におけるそれの2.0倍以上、好ましくは2.5倍以上、より好ましくは3.0倍以上、さらに好ましくは3.5倍以上、さらに好ましくは4.0倍以上、さらに好ましくは4.5倍以上、さらに好ましくは5.0倍以上、特に好ましくは5.5倍以上に増加するまで、当該HFM細胞を培養することを含んでもよい。
【0072】
また、主工程においてHFM細胞を培養して到達する発毛関連遺伝子の発現量は、当該コンフルエントな状態におけるそれの100倍以下であってもよく、50倍以下であってもよく、40倍以下であってもよい。主工程においてHFM細胞を培養して到達する発毛関連遺伝子の発現量は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0073】
本方法において、基材表面上におけるHFM細胞のコンフルエントな状態を形成する方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、主工程において当該コンフルエントな状態を形成する細胞密度でHFM細胞を基材表面上に播種することにより、当該コンフルエントな状態を形成してもよいし、又は、主工程を実施する前に、コンフルエントな状態に到達していないHFM細胞を基材表面上で培養し増殖させることにより、当該コンフルエントな状態を形成してもよい。
【0074】
すなわち、本方法は、主工程に先立って実施される前工程をさらに含み、当該前工程は、基材表面上において、未だコンフルエントな状態に到達していないHFM細胞を培養して、コンフルエントな状態に到達するまで当該HFM細胞を増殖させることを含むこととしてもよい。
【0075】
この場合、前工程においても、基材表面に接着したHFM細胞を、継代することなく培養する。すなわち、本方法においては、前工程及び主工程を通じて、継代することなく、HFM細胞を培養する。具体的に、まず前工程では、基材表面上において未だコンフルエントな状態に到達していないHFM細胞を、継代することなく、当該基材表面上で培養することにより、当該基材表面上でコンフルエントな状態に到達するまで、当該HFM細胞を増殖させる。そして、前工程に続く主工程においては、当該前工程で基材表面においてコンフルエントな状態に到達したHFM細胞を、継代することなく、当該基材表面上で培養してさらに増殖させる。
【0076】
前工程における、未だコンフルエントな状態に到達していないHFM細胞の培養は、例えば、少なくとも一部が未だ細胞で覆われていない基材表面上における当該HFM細胞の培養であってもよく、及び/又は、基材表面上においてコンフルエントな状態を形成する細胞密度より小さい細胞密度でのHFM細胞の培養であってもよい。
【0077】
前工程は、2.5×10cells/cm以下の細胞密度でHFM細胞を培養して、コンフルエントな状態に到達するまで当該HFM細胞を増殖させることを含んでもよい。この場合、前工程は、好ましくは2×10cells/cm以下、より好ましくは1.5×10cells/cm以下、さらに好ましくは1×10cells/cm以下、さらに好ましくは0.8×10cells/cm以下、特に好ましくは0.7×10cells/cm以下の細胞密度でHFM細胞を培養して、コンフルエントな状態に到達するまで当該HFM細胞を増殖させることを含んでもよい。
【0078】
また、前工程は、0.005×10cells/cm以上、0.01×10cells/cm以上、0.05×10cells/cm以上、0.1×10cells/cm以上、0.2×10cells/cm以上、0.3×10cells/cm以上、0.4×10cells/cm以上、又は0.5×10cells/cm以上の細胞密度でHFM細胞を培養して、コンフルエントな状態に到達するまで当該HFM細胞を増殖させることを含んでもよい。前工程においてHFM細胞を培養する細胞密度は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0079】
前工程は、基材表面上にHFM細胞を播種することをさらに含んでもよい。すなわち、前工程は、まずコンフルエントな状態に到達しない細胞密度でHFM細胞を基材表面上に播種すること、及び、次いで当該基材表面に接着したHFM細胞を培養して、コンフルエントな状態に到達するまで当該HFM細胞を増殖させることを含んでもよい。
【0080】
この場合、前工程は、2.5×10cells/cm以下、好ましくは2×10cells/cm以下、より好ましくは1.5×10cells/cm以下、さらに好ましくは1×10cells/cm以下、さらに好ましくは0.8×10cells/cm以下、特に好ましくは0.7×10cells/cm以下の細胞密度でHFM細胞を基材表面上に播種することを含んでもよい。
【0081】
また、前工程は、0.005×10cells/cm以上、0.01×10cells/cm以上、0.05×10cells/cm以上、0.1×10cells/cm以上、0.2×10cells/cm以上、0.3×10cells/cm以上、0.4×10cells/cm以上、又は0.5×10cells/cm以上の細胞密度でHFM細胞を基材表面上に播種することを含んでもよい。前工程におけるHFM細胞の播種密度は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0082】
本方法においては、培養液に分散されたHFM細胞を基材表面上に播種することとしてもよい。ここで、培養液に分散された個々のHFM細胞は、実質的に他の細胞と結合しておらず、又は、他の細胞に付着しているがピペッティング等の操作により当該培養液を流動させることで当該他の細胞から容易に分離される。
【0083】
また、本方法においては、細胞凝集塊を形成しているHFM細胞を基材表面上に播種することとしてもよい。すなわち、例えば、予めHFM細胞の細胞凝集塊(例えば、スフェロイド)を形成し、その後、当該細胞凝集塊を含む培養液を基材表面上に加えることで、当該細胞凝集塊を形成しているHFM細胞を当該基材表面上に播種してもよい。この場合、細胞凝集塊を形成するHFM細胞のうち一部のHFM細胞が基材表面に接着し、さらに基材表面上に遊走してくる。そして、細胞凝集塊から基材表面に遊走してきたHFM細胞を当該基材表面で培養することにより、当該HFM細胞を当該基材表面上で増殖させることができる。具体的に、例えば、前工程において、細胞凝集塊を形成しているHFM細胞を基材表面上に播種し、少なくとも一部が未だ細胞で覆われていない当該基材表面上で、当該細胞凝集塊から当該基材表面に遊走してきたHFM細胞を培養し、増殖させることとしてもよい。なお、HFM細胞を含む細胞凝集塊の形成については後述する。
【0084】
前工程におけるHFM細胞の培養時間(すなわち、前工程においてHFM細胞の培養を開始した時点から(例えば、前工程においてHFM細胞を基材表面上に播種した時点から)、コンフルエントな状態に到達するまでの時間)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、20時間以上であってもよく、40時間以上であってもよく、60時間以上であってもよく、80時間以上であってもよく、100時間以上であってもよい。
【0085】
また、前工程におけるHFM細胞の培養時間は、例えば、500時間以下であってもよく、450時間以下であってもよく、400時間以下であってもよく、350時間以下であってもよく、300時間以下であってもよく、250時間以下であってもよく、200時間以下であってもよく、150時間以下であってもよい。前工程におけるHFM細胞の培養時間は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0086】
本方法が前工程及び主工程を含む場合、当該主工程は、当該前工程におけるHFM細胞の培養の開始(例えば、前工程においてHFM細胞を基材表面上に播種した時点)から200時間以上の時間が経過するまで、当該HFM細胞を培養することを含んでもよい。この場合、主工程は、前工程におけるHFM細胞の培養開始から250時間以上、より好ましくは300時間以上、さらに好ましくは350時間以上、さらに好ましくは400時間以上、さらに好ましくは450時間以上、さらに好ましくは500時間以上、さらに好ましくは550時間以上、さらに好ましくは600時間以上、さらに好ましくは650時間以上、特に好ましくは700時間以上の時間が経過するまで、当該HFM細胞を培養することを含んでもよい。
【0087】
また、主工程は、前工程におけるHFM細胞の培養開始から2500時間以下、2000時間以下、1800時間以下、1600時間以下、1400時間以下、1200時間以下、1000時間以下、900時間以下、850時間以下、800時間以下、又は750時間以下の時間が経過するまで、当該HFM細胞を培養することを含んでもよい。主工程においてHFM細胞を培養する時間は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0088】
本方法が前工程及び主工程を含む場合、当該主工程は、HFM細胞の上述した1以上の発毛関連遺伝子(例えば、ALP遺伝子)の発現量が、当該前工程におけるHFM細胞の培養の開始(例えば、前工程においてHFM細胞を基材表面上に播種した時点)から24時間が経過した時点のそれの1.1倍以上に増加するまで、HFM細胞を培養することを含んでもよい。この場合、主工程は、HFM細胞の1以上の発毛関連遺伝子の発現量が、前工程におけるHFM細胞の培養開始から24時間が経過した時点のそれの1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは2.5倍以上、さらに好ましくは3倍以上、さらに好ましくは3.5倍以上、特に好ましくは3.8倍以上に増加するまで、HFM細胞を培養することを含んでもよい。
【0089】
また、主工程において到達するHFM細胞の発毛関連遺伝子の発現量は、前工程におけるHFM細胞の培養開始から24時間が経過した時点のそれの50倍以下であってもよく、30倍以下であってもよく、25倍以下であってもよく、20倍以下であってもよく、15倍以下であってもよく、10倍以下であってもよい。主工程において到達するHFM細胞の発毛関連遺伝子の発現量は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0090】
本方法において、基材表面上に播種される細胞又は基材表面上で培養される細胞の総数に対する、当該細胞に含まれるHFM細胞の数の割合は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、80%以上であってもよく、90%以上であることが好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0091】
本方法において、基材表面上に播種されるHFM細胞又は基材表面上で培養されるHFM細胞の総数に対する、当該HFM細胞に含まれる毛乳頭細胞の数の割合は、例えば、5%以上であってもよく、10%以上であってもよく、20%以上であってもよく、30%以上であってもよく、40%以上であってもよく、50%以上であってもよく、60%以上であってもよく、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよく、95%以上であってもよい。
【0092】
本方法は、主工程においてコンフルエントな状態から継代することなく基材表面上で培養して得られたHFM細胞を、当該基材表面から脱離させて回収する回収工程をさらに含むこととしてもよい。
【0093】
すなわち、この場合、まず主工程において、基材表面上でコンフルエントな状態から継代することなく培養することによって数が増幅されたHFM細胞(以下、「増幅HFM細胞」という。)を得る。次いで、主工程に続く回収工程において、当該主工程で得られた増幅HFM細胞を当該基材表面から脱離させて回収する。
【0094】
具体的に、回収工程においては、例えば、増幅HFM細胞を、分散された細胞として回収する。すなわち、例えば、基材表面上に接着した増幅HFM細胞に酵素処理を施すことにより、当該増幅HFM細胞を当該基材表面から脱離させるとともに分散させ、培養液中に分散された当該増幅HFM細胞を回収する。酵素処理には、例えば、トリプシン等のプロテアーゼが好ましく用いられる。
【0095】
また、回収工程においては、例えば、増幅HFM細胞を、分散された細胞層片として回収する。すなわち、例えば、基材表面上に形成された増幅HFM細胞の細胞層を破砕し、又は脱離させることにより、培養液中に分散された1又は複数の細胞層片を回収する。
【0096】
より具体的に、例えば、基材表面を覆う増幅HFM細胞の細胞層をセルスクレーパー等の破砕器具を用いて破砕することにより、当該細胞層の破砕により形成され、培養液中に分散された複数の細胞層片を回収することとしてもよい。
【0097】
また、例えば、基材表面上において互いに離間した、増幅HFM細胞の複数の細胞層を形成し、その後、当該複数の細胞層の各々を当該基材表面から脱離させることにより、培養液中に分散された複数の細胞層片を回収することとしてもよい。この場合、基材表面において互いに離間した複数の細胞層を形成する方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、1つの基材表面上に、各々がHFM細胞に対して非接着性の表面に囲まれた、HFM細胞に対して接着性の複数の領域を形成し、当該基材表面上の当該各接着性領域でHFM細胞を培養して細胞層を形成する方法を用いてもよい。
【0098】
基材表面から1又は複数の細胞層を脱離させる方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、培養液中で細胞層の外周部分のみを培養液中でセルスクレーパー等の剥離器具を用いて剥離することにより、その後の当該細胞層の当該外周部分からの剥離及び凝集を促進し、最終的に当該細胞層の凝集体を基材表面から脱離させてもよい。
【0099】
また、例えば、温度応答性ポリマーがコーティングされた細胞接着性の基材表面上でHFM細胞を培養して細胞層を形成し、その後、温度を変化させることにより当該温度応答性ポリマーを可溶化することにより、当該基材表面から当該細胞層を脱離させる方法を用いてもよい。また、例えば、特開2008-295382号公報に記載されているような電気化学的方法を用いてもよい。
【0100】
回収された細胞層片は、基材表面上に形成されていた細胞層に由来する、2層以上を形成するよう積層された増幅HFM細胞層を含む。また、回収された細胞層片は、HFM細胞から分泌され細胞層に蓄積していた細胞外マトリックスをさらに含むことが好ましい。
【0101】
上述のとおり、少なくとも主工程を含む本方法によれば、HFM細胞の数を増幅させるのみならず、当該HFM細胞の毛髪再生能を効果的に回復させることができる。すなわち、本方法によれば、高い毛髪再生能を有する増幅HFM細胞が製造される。
【0102】
本方法の主工程で最終的に得られる増幅HFM細胞(すなわち、主工程における長期高密度培養によって得られる増幅HFM細胞)は、当該増幅HFM細胞を得るための培養前のコンフルエントな状態のHFM細胞に比べて、高い毛髪再生能を有する。
【0103】
すなわち、本方法で製造される増幅HFM細胞は、例えば、生体に移植された場合に、当該生体の移植部位において、当該増幅HFM細胞を得るための培養前のコンフルエントな状態から回収されたHFM細胞に比べて、より多い数の毛髪を再生する能力を有する。
【0104】
具体的に、本方法の主工程は、例えば、生体に移植された場合に、当該生体の移植部位において、コンフルエントな状態から回収されたHFM細胞のそれの5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは15倍以上、さらに好ましくは20倍以上、さらに好ましくは25倍以上、特に好ましくは30倍以上の数の毛髪を再生する能力を有する増幅HFM細胞を得ることを含んでもよい。
【0105】
そこで、本方法は、他の側面として、上述のようにして製造された増幅HFM細胞を生体に移植することを含む毛髪再生方法を包含する。増幅HFM細胞を移植する生体は、毛包を有する動物であれば特に限られないが、例えば、哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることが特に好ましい。増幅HFM細胞の生体への移植は、当該生体の皮膚への移植であることが好ましく、当該生体の頭皮への移植であることが特に好ましい。
【0106】
増幅HFM細胞の生体への移植は、医学用途であってもよいし、研究用途であってもよいが、脱毛を伴う疾患の治療又は予防のためであることが好ましい。すなわち、増幅HFM細胞の生体への移植は、脱毛を伴う疾患を患っているヒト患者、又は脱毛を伴う疾患を患う可能性のあるヒト患者への移植であることが好ましい。したがって、増幅HFM細胞を生体に移植することを含む毛髪再生方法は、脱毛を伴う疾患の治療又は予防方法であることが好ましい。
【0107】
脱毛を伴う疾患は、特に限られないが、例えば、男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)、女子男性型脱毛症(Female Androgenetic Alopecia:FAGA)、分娩後脱毛症、びまん性脱毛症、脂漏性脱毛症、粃糠性脱毛症、牽引性脱毛症、代謝異常性脱毛症、圧迫性脱毛症、円形脱毛症、神経性脱毛症、抜毛症、全身性脱毛症、及び症候性脱毛症からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0108】
増幅HFM細胞を生体に移植する際には、当該増幅HFM細胞を含む移植用組成物を当該生体に移植することが好ましい。この点、本方法は、さらに他の側面として、上述のようにして製造された増幅HFM細胞を含む移植用組成物を調製することを含む、移植用組成物の製造方法を包含する。
【0109】
増幅HFM細胞を含む移植用組成物は、移植による効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該増幅HFM細胞と、当該増幅HFM細胞の生存を維持する生体適合性の担体とを含むことが好ましい。具体的に、移植用組成物に含まれる担体は、例えば、生理食塩水等の等張液を含むことが好ましい。移植用組成物は、さらに他の成分を含んでもよい。すなわち、移植用組成物は、例えば、コラーゲン等の細胞外マトリックス成分をさらに含んでもよい。
【0110】
移植用組成物に含まれる増幅HFM細胞の形態は、移植による効果が得られれば特に限られないが、当該移植用組成物は、例えば、分散された増幅HFM細胞、及び/又は、互いに接着した複数の増幅HFM細胞を含むことが好ましい。
【0111】
分散された増幅HFM細胞は、例えば、基材表面上に接着した当該増幅HFM細胞に酵素処理を施すことにより得られる。互いに接着した複数の増幅HFM細胞は、例えば、当該増幅HFM細胞の細胞層片、及び/又は、細胞凝集塊として得られる。細胞層片は、例えば、上述のとおり、主工程において基材表面上に形成した増幅HFM細胞の細胞層を回収することにより得られる。細胞凝集塊は、分散された増幅HFM細胞、及び/又は、基材表面上に形成した増幅HFM細胞の細胞層を凝集させることにより形成させる。HFM細胞を含む細胞凝集塊は、球状の細胞凝集塊(スフェロイド)であってもよい。
【0112】
この点、本方法は、さらに他の側面として、上述のようにして製造された増幅HFM細胞を含む細胞凝集塊を形成することを含む、細胞凝集塊の製造方法を包含する。細胞凝集塊の製造方法においては、増幅HFM細胞を凝集させることにより、当該増幅HFM細胞を含む細胞凝集塊を形成する。
【0113】
増幅HFM細胞を凝集させる方法は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、当該増幅HFM細胞を浮遊培養する方法、当該増幅HFM細胞に遠心処理を施す方法、又は、当該増幅HFM細胞の細胞層を基材表面から剥離させて凝集させる方法が好ましく用いられる。
【0114】
すなわち、例えば、分散された増幅HFM細胞を浮遊状態(非接着状態)で培養することにより、当該増幅HFM細胞を凝集させて、当該増幅HFM細胞を含む細胞凝集塊を形成する。浮遊培養は、全体として流動性を有する培養液中で行う。また、浮遊培養には、細胞に対して非接着性の表面を有する培養容器(例えば、培養ディッシュ、培養フラスコ、又は、マルチウェルプレートのウェル)が好ましく用いられる。
【0115】
この場合、播種された細胞は、浮遊培養において、培養容器の表面に実質的に接着することなく、非接着状態で培養される。具体的に、例えば、培養容器の非接着性の表面上に沈降した細胞は、培養液中、当該表面に接着せず、又は、ピペッティング等の操作で当該培養液を流動させることにより当該表面から容易に脱離する程度に弱く当該表面に付着する。非接着性の底面上で培養される細胞の形状は、ほぼ球形に維持される。
【0116】
また、細胞凝集塊は、非接着性の表面に実質的に接着することなく、培養液中で浮遊した状態(すなわち、非接着状態)で形成される。具体的に、例えば、非接着性の表面を有する培養容器中で形成された細胞凝集塊は、培養液中、当該表面に接着せず、又は、ピペッティング等の操作で当該培養液を流動させることにより当該表面から容易に脱離する程度に弱く当該表面に付着する。
【0117】
また、例えば、容器内で培養液に分散された増幅HFM細胞に遠心処理を施すことにより、当該容器内で当該増幅HFM細胞を沈降させるとともに凝集させて、当該増幅HFM細胞を含む細胞凝集塊を形成することとしてもよい。
【0118】
また、例えば、上述のとおり、基材表面上に形成された細胞層の外周部分のみを培養液中でセルスクレーパー等の剥離器具を用いて剥離することにより、その後の当該細胞層の当該外周部分からの剥離及び凝集を促進し、細胞凝集塊を形成することとしてもよい。
【0119】
HFM細胞を含む細胞凝集塊が球状である場合、当該細胞凝集塊の直径は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、20μm以上であってもよく、40μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。また、HFM細胞を含む細胞凝集塊の直径は、例えば、900μm以下であってもよく、800μm以下であることが好ましく、700μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましく、500μm以下であることが特に好ましい。HFM細胞を含む細胞凝集塊の直径は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0120】
1つの細胞凝集塊の形成に用いられる細胞の数、及び/又は、1つの細胞凝集塊に含まれる細胞の数は、本発明の効果が得られれば特に限れないが、例えば、0.1×10個以上であってもよく、0.5×10個以上であることが好ましく、0.6×10個以上であることがより好ましく、0.7×10個以上であることがさらに好ましく、0.8×10個以上であることがさらに好ましく、0.9×10個以上であることがさらに好ましく、1.0×10個以上であることが特に好ましい。
【0121】
また、1つの細胞凝集塊の形成に用いられる細胞の数、及び/又は、1つの細胞凝集塊に含まれる細胞の数は、例えば、15×10個以下であってもよく、10×10個以下であってもよく、8×10個以下であってもよく、7×10個以下であってもよく、6×10個以下であってもよく、5×10個以下であってもよく、4×10個以下であってもよく、3×10個以下であってもよく、2×10個以下であってもよく、1×10個以下であってもよい。1つの細胞凝集塊の形成に用いられる細胞の数、及び、1つの細胞凝集塊に含まれる細胞の数は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0122】
細胞凝集塊の形成に用いられる細胞の総数に対する、当該細胞に含まれるHFM細胞の数の割合は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、10%以上であってもよく、20%以上であってもよく、30%以上であってもよく、40%以上であってもよく、50%以上であってもよく、60%以上であってもよく、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよく、95%以上であってもよい。
【0123】
また、細胞凝集塊に含まれる細胞の総数に対する、当該細胞に含まれるHFM細胞の数の割合は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、10%以上であってもよく、20%以上であってもよく、30%以上であってもよく、40%以上であってもよく、50%以上であってもよく、60%以上であってもよく、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよく、95%以上であってもよい。
【0124】
細胞凝集塊の形成に用いられるHFM細胞の数に対する、当該HFM細胞に含まれる毛乳頭細胞の数の割合は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、10%以上であってもよく、20%以上であってもよく、30%以上であってもよく、40%以上であってもよく、50%以上であってもよく、60%以上であってもよく、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよく、95%以上であってもよい。
【0125】
また、細胞凝集塊に含まれるHFM細胞の数に対する、当該HFM細胞に含まれる毛乳頭細胞の数の割合は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、10%以上であってもよく、20%以上であってもよく、30%以上であってもよく、40%以上であってもよく、50%以上であってもよく、60%以上であってもよく、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよく、95%以上であってもよい。
【0126】
細胞凝集塊の形成に用いられる細胞が増幅HFM細胞に加えて他の細胞をさらに含む場合、当該他の細胞は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、上皮系細胞であることが好ましい。
【0127】
この場合、細胞凝集塊の形成に用いられる増幅HFM細胞の数と上皮系細胞の数との比率(増幅HFM細胞:上皮系細胞)は、例えば、1:10~10:1の範囲内であってもよく、1:9~9:1の範囲内であってもよく、1:8~8:1の範囲内であってもよく、1:7~7:1の範囲内であってもよく、1:6~6:1の範囲内であってもよく、1:5~5:1の範囲内であってもよく、1:4~4:1の範囲内であってもよく、1:3~3:1の範囲内であってもよく、1:2~2:1の範囲内であってもよい。
【0128】
また、細胞凝集塊に含まれる増幅HFM細胞の数と上皮系細胞の数との比率(増幅HFM細胞:上皮系細胞)は、例えば、1:10~10:1の範囲内であってもよく、1:9~9:1の範囲内であってもよく、1:8~8:1の範囲内であってもよく、1:7~7:1の範囲内であってもよく、1:6~6:1の範囲内であってもよく、1:5~5:1の範囲内であってもよく、1:4~4:1の範囲内であってもよく、1:3~3:1の範囲内であってもよく、1:2~2:1の範囲内であってもよい。
【0129】
細胞凝集塊の形成に用いられる上皮系細胞は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、毛包上皮系細胞及びその前駆細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましい。毛包上皮系細胞は、発毛に寄与する上皮系細胞(より具体的には、例えば、HFM細胞と協調して発毛に寄与する上皮系細胞)である。
【0130】
毛包上皮系細胞は、生体から採取された毛包に由来するものであってもよいし、in vitroで分化誘導されたものであってもよいが、生体から採取された毛包に由来するものであることが好ましい。
【0131】
具体的に、毛包上皮系細胞は、毛包上皮幹細胞、毛母(hair matrix)細胞、外毛根鞘(outer root sheath)細胞、及び内毛根鞘(inner root sheath)細胞からなる群より選択される1以上であることが好ましく、毛包上皮幹細胞、毛母細胞、及び外毛根鞘細胞からなる群より選択される1以上であることが特に好ましい。
【0132】
毛包上皮系細胞の分化誘導に用いられる未分化細胞は、in vitroで当該毛包上皮系細胞に分化する能力を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞、Muse細胞又はEG細胞)、及び、当該多能性幹細胞以外の幹細胞(例えば、分化細胞のリプログラミングにより得られた幹細胞)からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0133】
毛包上皮系細胞の前駆細胞は、in vitroで当該毛包上皮系細胞に分化する能力を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、胎児又は新生児の皮膚上皮系細胞(例えば、胎児又は新生児の皮膚の表皮層に由来する上皮系細胞)、及び、in vitroで当該毛包上皮系細胞に分化する能力を有する、多能性幹細胞以外の幹細胞(例えば、皮膚の基底細胞)からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0134】
毛包上皮系細胞は、毛包を有する動物に由来するものであれば特に限らないが、例えば、哺乳動物の細胞であることが好ましい。哺乳動物の細胞は、ヒトの細胞であってもよいし、ヒト以外の哺乳動物(例えば、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット又はウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、又は有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ又はヒツジ))の細胞であってもよいが、ヒト細胞であることが好ましい。
【0135】
生体への移植を目的として用いる毛包上皮系細胞は、当該毛包上皮系細胞を移植する個体に由来するものであってもよいし、当該毛包上皮系細胞を移植する個体以外の個体に由来するものであってもよいが、当該毛包上皮系細胞を移植する個体に由来するものであることが好ましい。
【0136】
例えば、ヒトへの移植のために用いられるヒト毛包上皮系細胞は、当該ヒト毛包上皮系細胞を移植するヒト患者に由来するものであってもよいし、当該患者以外のヒトに由来する細胞(例えば、当該患者以外のヒトに由来する多能性幹細胞(例えば、セルバンクに保存されているiPS細胞、ES細胞、Muse細胞又はEG細胞)からin vitroで分化誘導されたヒト細胞)であってもよいが、当該ヒト毛包上皮系細胞を移植するヒト患者に由来するものであることが好ましい。
【0137】
増幅HFM細胞及び上皮系細胞を含む細胞凝集塊は、当該増幅HFM細胞同士が凝集して形成されたHFM細胞凝集部と、当該上皮系細胞同士が凝集して形成された上皮系細胞凝集部とを含むこととしてもよい。
【0138】
すなわち、例えば、培養液中で増幅HFM細胞及び上皮系細胞を含む分散された細胞の浮遊培養を行うことにより、当該増幅HFM細胞同士が凝集してHFM細胞凝集部を形成するとともに、当該上皮系細胞同士が凝集して上皮系細胞凝集部を形成し、さらに、当該HFM細胞凝集部の一部と当該上皮系細胞凝集部の一部とが結合することにより、当該HFM細胞凝集部と当該上皮系細胞凝集部をと含む細胞凝集塊を形成することとしてもよい。
【0139】
また、例えば、増幅HFM細胞に遠心処理を施すことによるHFM細胞凝集部の形成と、上皮系細胞に遠心処理を施すことによる上皮系細胞凝集部の形成とを別々に実施し、その後、当該HFM細胞凝集部と当該上皮系細胞凝集部とを接触させて結合させることにより、当該HFM細胞凝集部と当該上皮系細胞凝集部をと含む細胞凝集塊を形成することとしてもよい。
【0140】
また、例えば、容器内で増幅HFM細胞及び上皮系細胞の一方の細胞に遠心処理を施してHFM細胞凝集部及び上皮系細胞凝集部の一方を形成し、次いで、その上に当該増幅HFM細胞及び上皮系細胞の他方の細胞を加えて遠心処理を施して当該HFM細胞凝集部及び上皮系細胞凝集部の他方を形成することにより、積層された当該HFM細胞凝集部と当該上皮系細胞凝集部をを含む細胞凝集塊を形成することとしてもよい。
【0141】
増幅HFM細胞を含む細胞凝集塊は、毛髪再生能を有する。細胞凝集塊の毛髪再生能は、当該細胞凝集塊を生体に移植した場合に、当該細胞凝集塊が移植された部位において発毛を生じさせる能力である。
【0142】
すなわち、増幅HFM細胞を含む細胞凝集塊は、例えば、生体に移植された場合に、当該生体の移植部位において、当該増幅HFM細胞に代えて、当該増幅HFM細胞を得るための培養前のコンフルエントな状態から回収されたHFM細胞を含む細胞凝集塊に比べて、より多い数の毛髪を再生する能力を有する。
【0143】
具体的に、増幅HFM細胞を含む細胞凝集塊の製造方法は、例えば、生体に移植された場合、当該生体の移植部位において、当該増幅HFM細胞に代えて、当該コンフルエントな状態から回収されたHFM細胞を含む細胞凝集塊のそれの5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは15倍以上、より一層好ましくは20倍以上、さらにより一層好ましくは25倍以上、特に好ましくは30倍以上の数の毛髪を再生する能力を有する細胞凝集塊を得ることを含んでもよい。
【0144】
本方法により製造される増幅HFM細胞、及び、当該増幅HFM細胞を含む細胞凝集塊の用途は、上述した生体への移植に限られず、例えば、毛髪に関連する研究にも好ましく用いられる。
【0145】
なお、本方法の前工程及び主工程において、基材表面上に接着したHFM細胞は、ハイドロゲルに包埋されていないこととしてもよい。また、基材表面は、ゲル化後のハイドロゲルの表面ではないこととしてもよい。また、基材表面上のHFM細胞の上に、当該HFM細胞以外の細胞(他の細胞)を播種しないこととしてもよい。また、基材表面上のHFM細胞の上で、他の細胞を培養しないこととしてもよい。また、基材表面上のHFM細胞の上に他の細胞の層を形成しないこととしてもよい。また、他の細胞の層の上にHFM細胞を播種しないこととしてもよい。また、他の細胞の層の上でHFM細胞を培養しないこととしてもよい。
【0146】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例0147】
[継代培養]
市販のヒト毛乳頭細胞(PromoCell社、P2(継代数2))の継代培養を行った。すなわち、購入した毛乳頭細胞(P2)を培養液に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。培養液としては、市販の毛乳頭細胞増殖培地(PromoCell社)を用いた。
【0148】
次いで、培養開始時の細胞密度が約0.9×10cells/cmとなる量の細胞懸濁液を培養ディッシュに加えることで、毛乳頭細胞を当該培養ディッシュの平坦な底面(面積約55cm)に播種した。そして、底面に接着した毛乳頭細胞(P3)の二次元培養を4日間行った。培養液の交換は2日に1回行った。
【0149】
4日間の培養によって、毛乳頭細胞は増殖し、その細胞密度は、コンフルエントな状態のそれの70%~90%程度に到達した。この培養4日目における、コンフルエントになる前の毛乳頭細胞に0.25%トリプシン溶液を加えて、当該毛乳頭細胞を培養ディッシュの底面から脱離させ、分散された当該毛乳頭細胞を得た。分散された毛乳頭細胞を回収し、新たな培養液に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。
【0150】
次いで、培養開始時の細胞密度が約0.9×10cells/cmとなる量の細胞懸濁液を、新たな培養ディッシュに加えることで、毛乳頭細胞を当該培養ディッシュの平坦な底面(面積約55cm)に播種した。そして、底面に接着した毛乳頭細胞(P4)の二次元培養を3日間行った。培養液の交換は2日に1回行った。
【0151】
培養3日目における、コンフルエントになる前の毛乳頭細胞に0.25%トリプシン溶液を加えて、当該毛乳頭細胞を培養ディッシュの底面から脱離させ、分散された当該毛乳頭細胞を回収した。回収された毛乳頭細胞を新たな毛乳頭細胞増殖培地(PromoCell社)に懸濁し、当該毛乳頭細胞(P4)の細胞懸濁液を調製した。
【0152】
[細胞培養]
例1として、毛乳頭細胞の長期接着培養を行った。すなわち、培養開始時の細胞密度が1×10個/ウェル(約0.53×10cells/cm)となる量の細胞懸濁液
を24ウェルプレートの平底ウェル(底面積約1.9cm)に加えることで、毛乳頭細胞を当該ウェルの平坦な底面に播種した。播種された毛乳頭細胞(P5)は、ウェルの底面に接着した。そして、継代を行うことなく、毛乳頭細胞の接着培養を30日間行った。培養液の交換は2日に1回行った。
【0153】
一方、例C1として、毛乳頭細胞の長期浮遊培養を行った。すなわち、培養開始時の細胞密度が1×10個/ウェルとなる量の細胞懸濁液を96ウェルプレートの非接着性の丸底ウェルに加えることで、毛乳頭細胞を当該ウェル内に播種した。そして、継代を行うことなく、毛乳頭細胞(P5)の浮遊培養を30日間行った。培養液の交換は2日に1回行った。例C1において毛乳頭細胞は、培養時間の経過とともに凝集して、各ウェルに1つずつ細胞凝集塊(スフェロイド)を形成した。
【0154】
なお、スフェロイドの径が大きすぎると、当該スフェロイドの内部の細胞が壊死してしまう。このため、内部が壊死しないサイズのスフェロイドが確実に形成されるよう、例C1においては、上述のとおり、例1の10分の1の細胞密度で各ウェルに毛乳頭細胞を播種した。
【0155】
[ギムザ染色]
例1で培養された毛乳頭細胞のギムザ染色を行った。具体的に、まずウェルから培養液を捨て、当該ウェルの底面に接着した細胞を適量のメタノールでリンスした。その後、ウェルにメタノールを添加して10分間保持することで、当該ウェルの底面に接着した細胞を固定した。一方、Giemsa's azur eosin methylene blue solution (1.09204, Merck)を精製水で200倍希釈してギムザ染色液を調製した。そして、ウェルからメタノールを捨て、代わりにギムザ染色液1mLを当該ウェルに加えて1時間放置した。その後、ウェルを水で10分間よく洗浄し、2日間乾燥させた。
【0156】
[蛍光染色]
例1で培養された毛乳頭細胞の蛍光染色を行った。具体的に、まずウェル内の毛乳頭細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した。次いで、PBSを用いた5分間の洗浄を2回行った。さらに、1%BSA溶液を添加して30分インキュベーションすることで、ブロッキングを行った。そして、BSA溶液で希釈した1次抗体(抗フィブロネクチン抗体、抗I型コラーゲン抗体、又は抗ALP抗体)溶液を加え、4℃で一晩振盪した。その後、PBSを用いた10分間の洗浄を3回行った。
【0157】
次いで、蛍光標識された2次抗体の溶液を添加して、60分保持した。その後、PBSを用いた10分間の洗浄を3回行った。さらに、DAPI溶液を添加して9分間保持することで、細胞核を染色した。その後、PBSを用いた5分間の洗浄を2回行った。こうして蛍光染色された毛乳頭細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0158】
[細胞数]
市販のキット(RealTime-Glo(商標))を用いて、例1及び例C1のそれぞれで培養された毛乳頭細胞の数を定量した。すなわち、ルシフェラーゼと、生細胞の還元能によって当該ルシフェラーゼの基質に変換される細胞透過性の前駆体基質とを含むキットを用いて、毛乳頭細胞の数を測定した。
【0159】
[発毛関連遺伝子の発現量]
例1及び例C1のそれぞれで培養された毛乳頭細胞の発毛関連遺伝子の発現量を定量した。具体的に、毛乳頭細胞のRNAを抽出し、逆転写した後、RT-PCRを行って、発毛関連遺伝子の一つであるアルカリフォスファターゼ(ALP)遺伝子の発現量を定量した。なお、RT-PCRには、次の塩基配列を有するプライマーを用いた。ALPのフォワードプライマー:5´-ATTGACCACGGGCACCAT-3´。ALPのリバースプライマー:5´-CTCCACCGCCTCATGCA-3´。GAPDHのフォワードプライマー:5´-TGGAAATCCCATCACCATCTTC-3´。GAPDHのリバースプライマー:5´-CGCCCCACTTGATTTTGG-3´。
【0160】
[結果]
図1には、例1における培養1日目(Day 1)、3日目(Day 3)、5日目(Day 5)、10日目(Day 10)、15日目(Day 15)、20日目(Day 20)、25日目(Day 25)、及び30日目(Day 30)のウェル内の毛乳頭細胞をギムザ染色した結果を示す。
【0161】
図1に示すように、例1の接着培養において、毛乳頭細胞は培養時間の経過とともに増殖し、培養5日目(Day 5)にはコンフルエントに達した。ここで従来、毛乳頭細胞の数を増幅するための接着培養においては、コンフルエントに到達する前、又はコンフルエントに到達した時点で、酵素処理によって当該毛乳頭細胞を基材表面から脱離させて、分散された当該毛乳頭細胞を回収し、次いで、回収された当該毛乳頭細胞を新たな培養液に懸濁し、新たな基材表面上に播種するという継代が行われていた。
【0162】
これに対し、例1では、コンフルエントに達した後も、継代することなく、毛乳頭細胞の接着培養を継続した。その結果、毛乳頭細胞は、コンフルエントに到達した後も増殖を続けた。そして、培養10日目(図1のDay 10)には、ウェルの底面の一部の領域で、増殖した毛乳頭細胞が積み重なった状態で高密度で存在している部分(図1のDay 10の写真において濃く染色されている部分)が観察された。
【0163】
ギムザ染色において、この毛乳頭細胞が積み重なった部分は、ウェルの平面視において独特の縞模様として観察された。さらに、培養時間の経過に伴い、ウェルの底面において積み重なった毛乳頭細胞が占める領域が広がっていく傾向がみられた。
【0164】
図2には、例C1における培養1日目(Day 1)、3日目(Day 3)、5日目(Day 5)、10日目(Day 10)、15日目(Day 15)、20日目(Day 20)、25日目(Day 25)、及び30日目(Day 30)のウェル内の毛乳頭細胞を位相差顕微鏡で観察した結果を示す。
【0165】
図2に示すように、例C1の浮遊培養において、毛乳頭細胞は凝集し、培養1日目(Day 1)でスフェロイドを形成した。その後、スフェロイドのサイズは、やや増加したものの、培養10日目以降はほとんど変化しなかった。
【0166】
図3には、例1(実線)及び例C1(点線)における毛乳頭細胞の数を経時的に定量した結果を示す。図3において、横軸は培養日数(毛乳頭細胞を播種してから経過した日数)(日)を示し、縦軸は細胞数(×10cells)を示す。
【0167】
なお、上述のとおり、例1では1×10個の細胞を24プレートの1つのウェルに播種したのに対し、例C1では1×10個の細胞を96プレートの10個のウェルに播種した。このため、図3では、培養1日目における1×10個の細胞が、その後、培養時間の経過に伴ってどのように増えたかを示している。また、例1については、図3に示される細胞数をウェルの底面積(約1.9cm)で除して得られる値が、接着培養における細胞密度に相当する。
【0168】
図3に示すように、例C1において浮遊培養され、スフェロイドを形成した毛乳頭細胞の増殖はわずかであった。すなわち、例C1において、培養30日目の毛乳頭細胞の数は、培養1日目のそれの約2.4倍であった。
【0169】
これに対し、例1において接着培養された毛乳頭細胞は、ウェルの底面上で増殖し、培養5日目にはコンフルエントに達した。具体的に、例1における毛乳頭細胞の数は、培養1日目で1.09×10cells/well(0.57×10cells/cm)、培養3日目で3.46×10cells/well(1.82×10cells/cm)、培養5日目で6.63×10cells/well(3.49×10cells/cm)であった。
【0170】
さらに、例1の毛乳頭細胞は、コンフルエントに到達した後も増殖を続け、その数は培養25日目まで増加した。具体的に、例1における毛乳頭細胞の数は、培養10日目で12.02×10cells/well(6.32×10cells/cm)、培養15日目で17.76×10cells/well(9.35×10cells/cm)、培養20日目で18.97×10cells/well(9.98×10cells/cm)、培養25日目で20.18×10cells/well(10.62×10cells/cm)、培養30日目で19.90×10cells/well(10.48×10cells/cm)であった。すなわち最終的に、例1の培養30日目における毛乳頭細胞の数は、培養1日目のそれの約18.4倍、及び培養5日目のそれの約3.0倍に増幅した。
【0171】
図4には、例1(実線)及び例C1(点線)で培養された毛乳頭細胞のALP遺伝子の発現量を経時的に定量した結果を示す。図4において、横軸は培養日数(日)を示し、縦軸は例1の培養1日目におけるALP遺伝子の発現量(算術平均値、n=3)を「1」とした場合の相対的なALP遺伝子発現量を示す。
【0172】
図4に示すように、例C1の毛乳頭細胞(すなわち、スフェロイドを形成している毛乳頭細胞)のALP遺伝子発現量は、培養5日目までは例1のそれより高く維持されていた。
【0173】
これに対し、例1の毛乳頭細胞のALP遺伝子発現量は、培養5日目まで(すなわちコンフルエントに到達するまで)減少する傾向を示したが、その後、増加傾向に転じ、培養10日目には例C1のそれと同程度になった。
【0174】
具体的に、例1の毛乳頭細胞のALP遺伝子発現量は、培養10日目には培養1日目の
それの約1.3倍及び培養5日目のそれの約1.9倍に達した。さらに、培養10日目以降も例1の毛乳頭細胞のALP遺伝子発現量は増加し続けたのに対し、例C1の毛乳頭細胞のALP遺伝子発現量は低下する傾向がみられた。そして、例1の毛乳頭細胞のALP遺伝子発現量は、培養15日目には培養1日目のそれの約1.8倍及び培養5日目のそれの約2.6倍に達し、培養20日目には培養1日目のそれの約2.2倍及び培養5日目のそれの約3.2倍に達し、培養25日目には培養1日目のそれの約4.0倍及び培養5日目のそれの約5.8倍に達し、培養30日目には培養1日目のそれの約3.9倍及び培養5日目のそれの約5.8倍に達した。最終的に、培養30日目において、例1の毛乳頭細胞のALP遺伝子発現量は、例C1のそれの約6.9倍に達した。
【0175】
図5には、培養5日目(Day 5)及び培養30日目(Day 30)における例1の毛乳頭細胞の細胞核をDAPIで蛍光染色し、当該毛乳頭細胞の細胞層の断面を共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す。上述のとおり、培養5日目(Day 5)において、例1の毛乳頭細胞はコンフルエントに達していたが、ウェルの底面上で積み重なることなく1層で接着していた。
【0176】
これに対し、培養30日目(Day 30)において、ギムザ染色で比較的薄い色で染色された細胞密度が比較的低い部分(Day 30:低密度部分)は、3層程度の細胞層を形成するよう積み重なった毛乳頭細胞を含み、また、ギムザ染色で比較的濃い色で染色された細胞密度が比較的高い部分(Day30:高密度部分)は、4層から6層程度の細胞層を形成するよう積み重なった毛乳頭細胞を含んでいた。
【0177】
図6Aには、培養5日目(Day 5)及び培養30日目(Day 30)における例1のウェル内のフィブロネクチン及び細胞核を免疫蛍光二重染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す。図6Bには、図6Aに示す蛍光二重染色画像のうち、フィブロネクチンの蛍光染色画像のみを示す。図6Cには、培養5日目(Day 5)及び培養30日目(Day 30)における例1のウェル内のI型コラーゲン及び細胞核を免疫蛍光二重染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す。図6Dには、図6Cに示す蛍光二重染色画像のうち、I型コラーゲンの蛍光染色画像のみを示す。図6Eには、培養5日目(Day 5)及び培養30日目(Day 30)における例1のウェル内のALP及び細胞核を免疫蛍光二重染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す。図6Fには、図6Eに示す蛍光二重染色画像のうち、ALPの蛍光染色画像のみを示す。
【0178】
図6Aから図6Fに示すように、ウェル内のフィブロネクチン、I型コラーゲン及びALPの量は、培養5日目より培養30日のほうが顕著に大きかった。すなわち、培養時間の経過に伴って、毛乳頭細胞が増殖するとともに、毛乳頭細胞により生成されたフィブロネクチン、I型コラーゲン及びALPが蓄積していったと考えられた。
【0179】
また、培養30日目(Day 30)においては、細胞密度が比較的低い部分(Day 30:低密度部分)よりも、細胞密度が比較的高い部分(Day 30:高密度部分)において、より多くのフィブロネクチン、I型コラーゲン及びALPが蓄積されていた。
【実施例0180】
[細胞の採取]
医療機関において脱毛症患者から採取され、研究室に冷蔵輸送されてきた頭髪の毛包からヒト毛包間葉系細胞を採取した。すなわち、まず毛包をプラスチックディッシュに移し、マイクロピンセット及びマイクロ剪刃を用いて、当該毛包のうち毛乳頭より上方の組織を切断し分離した。次いで、得られた毛乳頭及びその周囲の組織(毛乳頭及び毛球部真皮毛根鞘を含む毛包の下部組織)を新たなプラスチックディッシュに移し、ディスパーゼ及びコラゲナーゼを含む溶液(具体的には、HBSSとPBSとを体積比1:1で混合した溶液にDispase II(最終濃度4.8U/mL)とCollagenase(最終濃度100U/mL)とを混合し、滅菌フィルターを通して調製された酵素溶液)に浸し、37℃で30分インキュベートすることで酵素処理を施した。
【0181】
その後、プラスチックディッシュから上澄みを捨て、代わりに新たな培養液を添加し、酵素処理によって軟化した毛乳頭及びその周辺組織をピペッティングでほぐした。その結果、毛乳頭の破片、毛乳頭の一部が付着した周辺組織、及び分散細胞を含む混合物が得られた。次いで、この混合物を含む培養液2mLを6ウェルプレートの平底ウェル(底面積約9.5cm)に加えて、2日間の培養を行った。2日間の培養によって、混合物に含まれていた毛乳頭の破片及び一部の分散細胞がウェルの底面に接着した。培養2日目に、ウェルの底面に接着していない組織片及び細胞を含む培養液を捨て、代わりに新たな培養液を添加した。
【0182】
そして、ウェルの底面に接着した細胞の培養を継続した。培養液は2日に1回交換した。培養期間中、底面に接着した毛乳頭の破片からは当該底面上に細胞が遊走してきた。これらウェル底面に接着した毛包間葉系細胞(継代数ゼロ:P0)は、培養時間の経過に伴って、当該底面上で増殖し、培養7日目にコンフルエントに到達した。
【0183】
[細胞培養]
上述のようにコンフルエントに到達した毛包間葉系細胞に0.25%トリプシン溶液を加えてウェルの底面から脱離させ、分散された当該毛包間葉系細胞を得た。分散された毛包間葉系細胞を回収し、毛乳頭細胞増殖培地(PromoCell社)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。
【0184】
そして、例2として、上述の実施例1における例1と同様に、毛包間葉系細胞の長期接着培養を行った。すなわち、培養開始時の細胞密度が1×10個/ウェル(約5.3×10cells/cm)となる量の細胞懸濁液を24ウェルプレートの平底ウェル(底面積約1.9cm)に加えることで、毛包間葉系細胞を当該ウェルの平坦な底面に播種した。播種された毛包間葉系細胞(P1)は、ウェルの底面に接着した。そして、継代を行うことなく、毛包間葉系細胞の接着培養を30日間行った。培養液の交換は2日に1回行った。
【0185】
一方、例C2-1として、上述の実施例1における例C1と同様に、毛包間葉系細胞の長期浮遊培養を行った。すなわち、培養開始時の細胞密度が1×10個/ウェルとなる量の細胞懸濁液を96ウェルプレートの非接着性の丸底ウェルに加えることで、毛包間葉系細胞を当該ウェル内に播種した。そして、継代を行うことなく、毛包間葉系細胞(P1)の浮遊培養を30日間行った。培養液の交換は2日に1回行った。
【0186】
また、例C2-2として、毛包間葉系細胞の継代培養を行った。すなわち、培養開始時の細胞密度が1×10個/ウェル(約5.3×10cells/cm)となる量の細胞懸濁液を24ウェルプレートの平底ウェル(底面積約1.9cm)に加えることで、毛包間葉系細胞を当該ウェルの平坦な底面に播種した。そして、底面に接着した毛包間葉系細胞(P1)の培養を5日間行った。培養液の交換は2日に1回行った。
【0187】
その後、例C2-2では、培養5日目にコンフルエントに達した毛包間葉系細胞に0.25%トリプシン溶液を加えてウェルの底面から脱離させ、分散された当該毛包間葉系細胞を回収した。回収された毛包間葉系細胞を新たな培養液に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。次いで、培養開始時の細胞密度が1×10個/ウェル(約5.3×10cells/cm)となる量の細胞懸濁液を、新たな24ウェルプレートの平底ウェルに加えることで、毛包間葉系細胞を当該ウェルの平坦な底面に播種した。そして、底面に接着した毛包間葉系細胞(P2)の培養を5日間行った。培養液の交換は2日に1回行った。
【0188】
さらに、例C2-2では同様に、P2の毛包間葉系細胞の培養5日目(P1の毛包間葉系細胞を播種してから10日目)に、コンフルエントに達した当該毛包間葉系細胞を回収し、新たなウェルの底面に播種した。そして、毛包間葉系細胞(P3)の培養を5日間行った。さらに、例C2-2では同様に、P3の毛包間葉系細胞の培養5日目(P1の毛包間葉系細胞を播種してから15日目)に、コンフルエントに達した当該毛包間葉系細胞を回収し、新たなウェルの底面に播種した。そして、毛包間葉系細胞(P4)の培養を5日間行った。さらに、例C2-2では同様に、P4の毛包間葉系細胞の培養5日目(P1の毛包間葉系細胞を播種してから20日目)に、コンフルエントに達した当該毛包間葉系細胞を回収し、新たなウェルの底面に播種した。そして、毛包間葉系細胞(P5)の培養を5日間行った。
【0189】
[ギムザ染色]
上述の実施例1と同様に、例2で培養された毛包間葉系細胞のギムザ染色を行った。
【0190】
[細胞数]
上述の実施例1と同様に、例2、例C2-1及び例C2-2のそれぞれで培養された毛包間葉系細胞の数を定量した。
【0191】
[発毛関連遺伝子の発現量]
上述の実施例1と同様に、例2、例C2-1及び例C2-2のそれぞれで培養された毛包間葉系細胞の発毛関連遺伝子の発現量を定量した。
【0192】
[結果]
図7Aには、例2における培養5日目(Day 5)、10日目(Day 10)、20日目(Day 20)、及び30日目(Day 30)のウェル内の毛包間葉系細胞のギムザ染色を低倍率で観察した結果を示す。図7Bには、例2における培養5日目(Day 5)、10日目(Day 10)、20日目(Day 20)、及び30日目(Day 30)のウェル内の毛包間葉系細胞のギムザ染色を高倍率で観察した結果を示す。
【0193】
図7A及び図7Bに示すように、例2の接着培養において、毛包間葉系細胞は培養時間の経過とともに増殖し、培養5日目(Day 5)にはコンフルエントに達した。また、例2では、コンフルエントに達した後も、継代することなく、毛包間葉系細胞の接着培養を継続した。その結果、毛包間葉系細胞は、コンフルエントに到達した後も増殖を続けた。
【0194】
そして、培養10日目(図7A及び図7BのDay 10)には、ウェルの底面の一部の領域で、増殖した毛包間葉系細胞が積み重なった状態で高密度で存在している部分(図7A及び図7BのDay 10の写真において濃く染色されている部分)が観察された。さらに、この毛包間葉系細胞が積み重なった部分は、培養時間の経過に伴い増加する傾向がみられた。
【0195】
図8には、例C2-1における培養5日目(Day 5)、10日目(Day 10)、20日目(Day 20)、及び30日目(Day 30)のウェル内の毛包間葉系細胞を位相差顕微鏡で観察した結果を示す。図8に示すように、例C2-1の浮遊培養において、毛包間葉系細胞は凝集してスフェロイドを形成した。培養期間を通じて、スフェロイドのサイズに大きな変化は見られなかった。
【0196】
図9には、例2(実線)、例C2-1(点線)及び例C2-2(一点鎖線)において毛包間葉系細胞の数を経時的に定量した結果を示す。図3と同様、図9において、横軸は培養日数を示し、縦軸は細胞数(×10 cells)を示す。
【0197】
図9に示すように、例C2-1において浮遊培養され、スフェロイドを形成した毛包間葉系細胞の増殖はわずかであった。すなわち、例C2-1において、培養30日目の毛包間葉系細胞の数は、培養1日目のそれの約2.9倍であった。
【0198】
これに対し、例2及び例C2-2において接着培養された毛包間葉系細胞は、ウェルの底面上で増殖し、培養5日目にはコンフルエントに達した。具体的に、例2における毛包間葉系細胞の数は、培養1日目で1.21×10cells/well(0.64×10cells/cm)、培養3日目で4.14×10cells/well(2.18×10cells/cm)、培養5日目で6.91×10cells/well(3.64×10cells/cm)であった。
【0199】
さらに、例2の毛包間葉系細胞は、コンフルエントに達した後も増殖を続け、その数は培養25日目まで増加した。具体的に、例1における毛包間葉系細胞の数は、培養10日目で14.28×10cells/well(7.52×10cells/cm)、培養15日目で19.90×10cells/well(10.47×10cells/cm)、培養20日目で21.34×10cells/well(11.23×10cells/cm)、培養25日目で21.82×10cells/well(11.48×10cells/cm)、培養30日目で21.48×10cells/well(11.30×10cells/cm)であった。すなわち最終的に、例2の培養30日目における毛包間葉系細胞の数は、培養1日目のそれの約17.7倍、及び培養5日目のそれの約3.1倍に達した。また、培養30日目において、例2の毛包間葉系細胞の数は、例C2-1のそれの約8.4倍に達した。
【0200】
一方、例C2-2においては、上述のとおり毛包間葉系細胞の継代を繰り返した。その結果、P2の毛包間葉系細胞の培養5日目(すなわちP1の毛包間葉系細胞を播種してから10日目)において、当該毛包間葉系細胞(P2)の数は、P1の毛包間葉系細胞の培養1日目におけるそれの約21倍に達した。例C2-2においては、その後も継代のたびに毛包間葉系細胞の数は増幅した。
【0201】
図10には、例2(実線)、例C2-1(点線)及び例C2-2(一点鎖線)で培養された毛包間葉系細胞のALP遺伝子の発現量を経時的に定量した結果を示す。図4と同様、図10において、横軸は、P1の毛包間葉系細胞を播種してから経過した培養日数(日)を示し、縦軸は例2の培養1日目におけるALP遺伝子の発現量(算術平均値、n=3)を「1」とした場合の相対的なALP遺伝子発現量を示す。
【0202】
図10に示すように、例C2-1の毛包間葉系細胞(すなわち、スフェロイドを形成している毛包間葉系細胞)のALP遺伝子発現量は、培養5日目まで急激に増加し、その後も緩やかに増加を続ける傾向を示した。
【0203】
一方、例C2-2の毛包間葉系細胞のALP遺伝子発現量は、培養時間の経過に伴い低下する傾向を示した。なお、図10に示す例C2-2の結果については、培養5日目の値はP1細胞(P1細胞の培養5日目)の結果を示し、培養10日目の値はP2細胞(P2細胞の培養5日目)の結果を示し、培養15日目の値はP3細胞(P3細胞の培養5日目)の結果を示し、培養20日目の値はP4細胞(P4細胞の培養5日目)の結果を示し、培養25日目の値はP5細胞(P5細胞の培養5日目)の結果を示す。
【0204】
これらに対し、例2の毛包間葉系細胞のALP遺伝子発現量は、培養5日目まで(すなわちコンフルエントに到達するまで)減少する傾向を示したが、その後、増加傾向に転じ、培養25日目から培養30日目の間に、例2-1のそれを上回った。
【0205】
具体的に、例2の毛包間葉系細胞のALP遺伝子発現量は、培養10日目には培養1日目のそれの約1.2倍及び培養5日目のそれの約4.2倍に達し、培養15日目には培養1日目のそれの約1.5倍及び培養5日目のそれの約5.4倍に達し、培養20日目には培養1日目のそれの約2.3倍及び培養5日目のそれの約8.2倍に達し、培養25日目には培養1日目のそれの約3.7倍及び培養5日目のそれの約12.9倍に達し、培養30日目には培養1日目のそれの約9.9倍及び培養5日目のそれの約34.9倍に達した。最終的に、培養30日目において、例2の毛包間葉系細胞のALP遺伝子発現量は、例C2-1のそれの約1.9倍、及び例C2-2のそれの約34.9倍に達した。
【実施例0206】
[細胞培養]
例3においては、上述の実施例1の例1と同様にして、市販のヒト毛乳頭細胞を24ウェルプレートの平底ウェルに播種し、継代を行うことなく、当該毛乳頭細胞の接着培養を30日間行った。
【0207】
例C3においては、上述の実施例1の例C1と同様にして、市販のヒト毛乳頭細胞を96ウェルプレートの丸底ウェルに播種し、継代を行うことなく、当該毛乳頭細胞の浮遊培養を30日間行った。
【0208】
[移植実験]
例3における培養5日目及び30日目の毛乳頭細胞を0.25%トリプシン溶液を用いてウェル底面から脱離させ、分散された当該毛乳頭細胞を回収した。また、例C3における培養5日目及び30日目のスフェロイドを、それぞれ0.25%トリプシン溶液中で保持し、その後、ピペッティングによって当該スフェロイドを構成する毛乳頭細胞を分散させ、回収した。
【0209】
一方、胎齢18日のC57BL/6マウス胎児より背部の皮膚組織を採取し、48U/mLディスパーゼ処理を4℃で1時間、20~30rpm振とう条件で行い、当該皮膚組織の上皮層と間葉層とを分離した。その後、上皮層に100U/mLのコラゲナーゼ処理を80分施し、さらにトリプシン処理を10分施すことで、上皮系細胞を単離した。
【0210】
例3で回収した毛乳頭細胞、又は例C3で回収した毛乳頭細胞と、上述のようにして単離した上皮系細胞とを培養液に混合し、分散された毛乳頭細胞及び上皮系細胞を含む細胞懸濁液を調製した。なお、培養液としては、間葉系細胞培養培地(DMEM+10%FBS+1%ペニシリン/ストレプトマイシン)と、HuMedia-KG2とを体積比1:1で混合して調製された混合培地を用いた。
【0211】
次いで、96ウェルプレートの非接着性の丸底ウェルの各々に、毛乳頭細胞の播種密度が1×10cells/ウェル及び上皮系細胞の播種密度が1×10cells/ウェル(全細胞数2×10cells/ウェル)となる量の細胞懸濁液を加えることで、当該毛乳頭細胞及び上皮系細胞を播種した。
【0212】
そして毛乳頭細胞と上皮系細胞との共培養である浮遊培養をインキュベータ内で3日間行った。この共培養において、毛乳頭細胞及び上皮系細胞は凝集し、各ウェル内で1つの細胞凝集塊(毛包原基)を形成した。すなわち、培養時間が経過するにつれて、各ウェル内において細胞同士は自発的に凝集して、球状で浮遊状態の細胞凝集塊を形成した。
【0213】
上述のようにして3日間の培養で形成した細胞凝集塊を回収して、ヌードマウスの皮内に移植した。すなわち、ヌードマウスにイソフルラン吸引麻酔を施し、その背部をイソジンで消毒した。次いで、Vランスマイクロメス(日本アルコン)を用いて、皮膚の表皮層から真皮層下部に至る移植創を形成した。そして、この移植創に、細胞凝集塊を30個ずつ注入した。なお、ヌードマウスの飼育及び移植実験は、横浜国立大学動物実験専門委員会の指針を遵守して行った。
【0214】
[結果]
図11Aには、例3の接着培養における培養5日目(Day 5)、及び30日目(Day 30)のウェル内の毛乳頭細胞を位相差顕微鏡で観察した結果を示す。図11Aに示すように、培養5日目(Day 5)において毛乳頭細胞はコンフルエントに達していたが、当該毛乳頭細胞の積み重なりは見られず、当該毛乳頭細胞は単一の層を形成していた。一方、培養30日目(Day 30)の毛乳頭細胞は、ウェル内の一部において、当該毛乳頭細胞が積み重なった高密度部分を含んでいた。
【0215】
図11Bには、例C3の浮遊培養における培養5日目(Day 5)、及び30日目(Day 30)のウェル内のスフェロイドを位相差顕微鏡で観察した結果を示す。図11Bに示すように、培養5日目(Day 5)と30日目(Day 30)とでスフェロイドの外観に大きな差異は見られなかった。
【0216】
図12Aには、例3において接着培養5日目(Day 5)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊、及び例3において接着培養30日目(Day 30)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を位相差顕微鏡で観察した結果を示す。図12Bには、例C3において浮遊培養5日目(Day 5)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊、及び例C3において浮遊培養30日目(Day 30)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を位相差顕微鏡で観察した結果を示す。図12A及び図12Bに示すように、これらの細胞凝集塊の外観に大きな差異は見られなかった。
【0217】
図13Aには、例3において接着培養5日目(Day 5)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植してから21日後のマウス皮膚の写真、及び例3において接着培養30日目(Day 30)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植してから21日後のマウス皮膚の写真を示す。
【0218】
図13Aに示すように、例3で接着培養30日目(Day 30)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植した場合に再生された毛髪の量のほうが、接着培養5日目(Day 5)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植した場合のそれに比べて顕著に多かった。
【0219】
図13Bには、例C3において浮遊培養5日目(Day 5)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植してから21日後のマウス皮膚の写真、及び例C3において浮遊培養30日目(Day 30)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植してから21日後のマウス皮膚の写真を示す。
【0220】
図13Bに示すように、例C3で浮遊培養30日目(Day 30)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植した場合に再生された毛髪の量のほうが、例C3で浮遊培養5日目(Day 5)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植した場合のそれに比べて顕著に少なかった。
【0221】
図14Aには、例3において接着培養5日目(Day 5)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊の移植部位に生えた毛、及び、接着培養30日目(Day 30)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊の移植部位に生えた毛を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を示す。図14Bには、例C3において接着培養5日目(Day 5)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊の移植部位に生えた毛、及び、接着培養30日目(Day 30)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊の移植部位に生えた毛をSEMで観察した結果を示す。図14A及び図14Bに示すように、細胞凝集塊を移植した部位に生えた毛はいずれも、生体の毛髪と同様のキューティクル構造を有していることが確認された。
【0222】
図15には、図13A及び図13Bに示した4つの場合について、マウス皮膚で再生した毛髪の本数(縦軸)をカウントした結果を示す。図15に示すように、例C3の浮遊培養30日目(Day 30)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植した場合(例C3のDay 30(黒塗り棒グラフ))に再生された毛髪の数は、例C3の浮遊培養5日目(Day 5)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植した場合(例C3のDay 5(白抜き棒グラフ))のそれの約0.42倍であった。
【0223】
これに対し、例3の接着培養30日目(Day 30)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植した場合(例3のDay 30(黒塗り棒グラフ))に再生された毛髪の数は、例3の接着培養5日目(Day 5)に回収された毛乳頭細胞を含む細胞凝集塊を移植した場合(例3のDay 5(白抜き棒グラフ))のそれの約38倍であった。このように、例3の長期高密度接着培養によって数が増幅された毛乳頭細胞は、極めて高い毛髪再生能を有することが示された。
【実施例0224】
[細胞の採取]
上述の実施例2と同様に、脱毛症患者の頭髪の毛包からヒト毛包間葉系細胞を採取し、6ウェルプレートの平底ウェル内で培養した。ウェル底面に接着した毛包間葉系細胞(継代数ゼロ:P0)は、培養時間の経過に伴って、当該底面上で増殖し、培養7日目にコンフルエントに到達した。
【0225】
[細胞培養]
上述の実施例2と同様に、コンフルエントに到達した毛包間葉系細胞をウェルの底面から脱離させ、分散された毛包間葉系細胞を毛乳頭細胞増殖培地に懸濁して、細胞懸濁液を調製した。
【0226】
そして、例4-1として、上述の実施例2における例2と同様に、毛包間葉系細胞の長期接着培養を行った。すなわち、培養開始時の細胞密度が1×10個/ウェル(約5.3×10cells/cm)となる量の細胞懸濁液を24ウェルプレートの平底ウェル(底面積約1.9cm)に加えることで、毛包間葉系細胞を当該ウェルの平坦な底面に播種した。播種された毛包間葉系細胞(P1)は、ウェルの底面に接着した。そして、継代を行うことなく、毛包間葉系細胞の接着培養を30日間行った。培養液の交換は2日に1回行った。
【0227】
また、例4-2として、上述の例4-1と同様に、毛包間葉系細胞の接着培養を30日間行った。
【0228】
また、例4Cとして、上述の例4-1及び例4-2の培養25日目に、上述の例4-1及び例4-2と同様に患者の毛包から調製された毛包間葉系細胞を24ウェルプレートのウェルの平坦な底面に播種した。播種された毛包間葉系細胞(P1)は、ウェルの底面に接着した。そして、継代を行うことなく、毛包間葉系細胞の接着培養を5日間行った。培養液の交換は2日に1回行った。
【0229】
[培養細胞の回収]
例4-1においては、培養30日目に、市販のセルスクレーパーを用いて、各ウェルの底面から毛包間葉系細胞を剥離させた。その結果、各ウェルから回収された、積み重なった毛包間葉系細胞を含み培地中に浮遊する細胞層片を得た。この細胞層片は、底面から剥離された直後はシート状であったが、培地中で浮遊している間に凝集し、細胞凝集塊を形成した。
【0230】
例4-2においては、培養30日目に、各ウェルに0.25%トリプシン溶液を加えて、各ウェルの底面から毛包間葉系細胞を剥離させた。その結果、各ウェルから回収され、培地中に分散された毛包間葉系細胞を得た。
【0231】
例4Cにおいては、その培養5日目、すなわち例4-1及び例4-2の培養30日目に、各ウェルに0.25%トリプシン溶液を加えて、各ウェルの底面から毛包間葉系細胞を剥離させた。その結果、各ウェルから回収され、培地中に分散された毛包間葉系細胞を得た。
【0232】
[移植実験]
まず上述の実施例3と同様に、マウス胎児の皮膚組織から上皮系細胞を単離した。次いで、約2.2×10個の上皮系細胞と、約2.2×10個の毛包間葉系細胞を含む例4-1の細胞凝集塊、約2.2×10個の例4-2の分散された毛包間葉系細胞、又は約2.2×10個の例4Cの分散された毛包間葉系細胞とを混合して、3種類の細胞懸濁液を調製した。さらに、各細胞懸濁液を容積200μLのマイクロチップに入れ、当該マイクロチップに遠心処理を施すことにより、当該マイクロチップ内で沈降した細胞凝集塊を得た。そして、上述の実施例3と同様に、各細胞凝集塊をパッチ法にてヌードマウスの皮内に移植した。
【0233】
[結果]
図16Aには、移植後21日目に、ヌードマウスの背部のうち例4-1の細胞が移植された部位を撮影して得られた写真を示す。同様に、図16B及び図16Cには、移植後21日目に、ヌードマウスの背部のうち、例4-2の細胞が移植された部位、及び例4Cの細胞が移植された部位をそれぞれ撮影して得られた写真を示す。また、図17には、例4-1の細胞が移植された部位、例4-2の細胞が移植された部位、及び例4Cの細胞が移植された部位のそれぞれにおいて移植後21日目に生えていた毛髪の数をカウントした結果を示す。
【0234】
図16A~16B及び図17に示すように、例4-1の細胞が移植された部位における発毛数、及び例4-2の細胞が移植された部位における発毛数は、例4Cのそれに比べて顕著に多かった。さらに、例4-1の細胞が移植された部位における発毛数は、例4-2のそれに比べて顕著に多かった。
【実施例0235】
[細胞培養]
上述の実施例1の例1と同様に、市販のヒト毛乳頭細胞を継代培養し、継代数が6の毛乳頭細胞を得た。そして、例5として、この毛乳頭細胞(P6)を24ウェルプレートの平底ウェルに播種し、継代を行うことなく、当該毛乳頭細胞の接着培養を55日間行った。
【0236】
[培養細胞の回収]
例5においては、上述の実施例4の例4-1と同様に、培養55日目に、市販のセルスクレーパーを用いて、各ウェルの底面から毛乳頭細胞を剥離させ、培地中で浮遊している細胞凝集塊を回収した。次いで、回収された細胞凝集塊を市販の蛍光染色用試薬(DiD Cell-Labeling Solution)で染色した。また、例5Cとして、長期接着培養を行っていない分散された毛乳頭細胞(P6)を市販の蛍光染色用試薬(DiD Cell-Labeling Solution)で染色した。
【0237】
[移植実験]
例5においては、染色された細胞凝集塊を2匹のSHOマウス(5週齢、The Jackson Laboratory)のそれぞれの背部の互いに離間した3か所の皮下に移植した。また、例5Cにおいては、染色された毛乳頭細胞を分散された状態で各SHOマウスの背部の互いに離間した3か所の皮下に移植した。
【0238】
[蛍光強度の測定]
移植直後、及び、移植後7日目に、市販のIn vivo蛍光イメージング装置(IVIS(商標) Lumina Series III、Perkin Elmer)を用いて、マウスの各移植部位の蛍光強度を測定した。そして各移植部位について、移植直後における蛍光強度に対する、移植後7日目における蛍光強度の比率を相対蛍光強度として評価した。なお、蛍光強度は、市販のソフトウェア(Living Image(商標) Software、Perkin Elmer)を用いて測定した。
【0239】
[結果]
図18には、例5の細胞が移植された部位、及び例5Cの細胞が移植された部位のそれぞれにおいて相対蛍光強度を評価した結果を示す。図18に示すように、例5の細胞が移植された部位の相対蛍光強度は、図5Cのそれより顕著に大きかった。

図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15
図16A
図16B
図16C
図17
図18
【手続補正書】
【提出日】2023-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に接着した毛包間葉系細胞を、前記基材表面上における前記毛包間葉系細胞の細胞密度が、3×10 cells/cm 以上、6×10 cells/cm 以下の範囲内である状態から、継代することなく培養する主工程を含み、
前記主工程は、前記毛包間葉系細胞を、前記基材表面上における前記毛包間葉系細胞の細胞密度が前記範囲内である前記状態から、さらに増殖させて、増殖した前記毛包間葉系細胞が前記基材表面の少なくとも一部において積み重なって2層以上の細胞層を形成するまで培養することを含む、
増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項2】
前記主工程は、前記基材表面上における前記毛包間葉系細胞の細胞密度が前記範囲内である前記状態から120時間以上の時間が経過するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、
請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項3】
前記主工程は、前記基材表面上の前記毛包間葉系細胞の細胞密度が7×10cells/cm以上に到達するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、
請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項4】
前記主工程は、前記基材表面上の前記毛包間葉系細胞の細胞密度が7×10cells/cm以上の状態で50時間以上、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、
請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項5】
前記主工程は、前記基材表面上の前記毛包間葉系細胞の細胞密度が前記基材表面上における前記毛包間葉系細胞の細胞密度が前記範囲内である前記状態におけるそれの1.5倍以上に到達するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、
請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項6】
前記主工程は、前記毛包間葉系細胞の1以上の発毛関連遺伝子の発現量が前記基材表面上における前記毛包間葉系細胞の細胞密度が前記範囲内である前記状態におけるそれの1.5倍以上に増加するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、
請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項7】
前記主工程に先立って実施される前工程をさらに含み、
前記前工程は、前記基材表面上において、未だ前記基材表面上における前記毛包間葉系細胞の細胞密度が前記範囲内である前記状態に到達していない前記毛包間葉系細胞を培養して、前記基材表面上における前記毛包間葉系細胞の細胞密度が前記範囲内である前記状態に到達するまで前記毛包間葉系細胞を増殖させることを含む、
請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項8】
前記前工程は、2.5×10cells/cm以下の細胞密度で前記毛包間葉系細胞を培養して、前記基材表面上における前記毛包間葉系細胞の細胞密度が前記範囲内である前記状態に到達するまで前記毛包間葉系細胞を増殖させることを含む、
請求項7に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項9】
前記主工程は、前記前工程における前記毛包間葉系細胞の培養の開始から200時間以上の時間が経過するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、
請求項7に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項10】
前記主工程は、前記毛包間葉系細胞の1以上の発毛関連遺伝子の発現量が、前記前工程における前記毛包間葉系細胞の培養開始から24時間が経過した時点のそれの1.1倍以上に増加するまで、前記毛包間葉系細胞を培養することを含む、
請求項7に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項11】
前記主工程において前記基材表面上における前記毛包間葉系細胞の細胞密度が前記範囲内である前記状態から継代することなく前記基材表面上で培養して得られた毛包間葉系細胞を、前記基材表面から脱離させて回収する回収工程をさらに含む、
請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項12】
前記毛包間葉系細胞は、毛乳頭細胞及び真皮毛根鞘細胞からなる群より選択される1以上である、
請求項1に記載の増幅毛包間葉系細胞の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法により製造された増幅毛包間葉系細胞を含む細胞凝集塊を形成することを含む、
細胞凝集塊の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法により製造された増幅毛包間葉系細胞を含む移植用組成物を調製することを含む、
移植用組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法を実施すること、及び、
前記方法により製造された増幅毛包間葉系細胞を含む細胞凝集塊を形成すること
を含む、
細胞凝集塊の製造方法。
【請求項16】
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法を実施すること、及び、
前記方法により製造された増幅毛包間葉系細胞を含む移植用組成物を調製すること
を含む、
移植用組成物の製造方法。
【請求項17】
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法により製造された、
増幅毛包間葉系細胞。