(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017979
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】血液脳関門を通過する新規な抗ヒトトランスフェリン受容体抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230131BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230131BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230131BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230131BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230131BHJP
C12N 15/56 20060101ALI20230131BHJP
C12N 9/24 20060101ALI20230131BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230131BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230131BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230131BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230131BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230131BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230131BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230131BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N15/56
C12N9/24
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P25/00 101
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K47/68
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182475
(22)【出願日】2022-11-15
(62)【分割の表示】P 2021164252の分割
【原出願日】2017-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2016252148
(32)【優先日】2016-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】薗田 啓之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健一
(57)【要約】 (修正有)
【課題】血中に投与して中枢神経系において機能させるべき化合物(蛋白質、低分子化合物等)が血液脳関門を通過できるようにするために、それらの化合物と結合させて用いることのできる抗TfR抗体を提供する。
【解決手段】抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であって、該抗体が重鎖の可変領域において、CDR1~3がそれぞれ特定のアミノ酸配列を含むものである、抗体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であって,該抗体が重鎖の可変領域において,
(a)CDR1が配列番号62のアミノ酸配列を含んでなり,
(b)CDR2が配列番号13のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(c)CDR3が配列番号15のアミノ酸配列を含んでなり,
該抗体の軽鎖の可変領域において,
(a)CDR1が配列番号6のアミノ酸配列を含んでなり,
(b)CDR2が配列番号8のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(c)CDR3が配列番号10のアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
【請求項2】
請求項1の抗体であって,重鎖のフレームワーク領域3が配列番号64のアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
【請求項3】
請求項2の抗体であって,該重鎖の可変領域が配列番号65のアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
【請求項4】
請求項1の抗体であって,該抗体の軽鎖が,配列番号23,配列番号25,配列番号27又は配列番号29のアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
【請求項5】
抗ヒトトランスフェリン受容体抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質であって,
該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が請求項1~3の何れかの抗体であり,
該蛋白質(A)が,該抗体の軽鎖又は重鎖のC末端側又はN末端側に結合しているものである,融合蛋白質。
【請求項6】
請求項5の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)が,該軽鎖又は該重鎖のC末端側又はN末端側に,直接又はリンカーを介して,結合しているものである,融合蛋白質。
【請求項7】
請求項6の融合蛋白質であって,該リンカーが,1~50個のアミノ酸残基からなるペプチドである,融合蛋白質。
【請求項8】
請求項6の融合蛋白質であって,該リンカーが,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含んでなるペプチドである,融合蛋白質。
【請求項9】
請求項5の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)がヒトα-L-イズロニダーゼであり,該抗体がFab抗体であり,
(1)該抗体の軽鎖が,配列番号23のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(2)該抗体の重鎖が,そのC末端側で,配列番号3のアミノ酸配列の3個が連続してなるアミノ酸配列を介して,ヒトα-L-イズロニダーゼと結合し,それにより配列番号93のアミノ酸配列を形成しているものである,
融合蛋白質。
【請求項10】
請求項5の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)がヒトα-L-イズロニダーゼであり,該抗体がFab抗体であり,
(1)該抗体の軽鎖が,配列番号23のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(2)該抗体の重鎖が配列番号61のアミノ酸配列を含んでなり,該重鎖が,そのC末端側で,配列番号3のアミノ酸配列の3個が連続してなるアミノ酸配列を介して,配列番号75又は配列番号76のアミノ酸配列を有するヒトα-L-イズロニダーゼと結合しているものである,
融合蛋白質。
【請求項11】
請求項1~4の何れかの抗ヒトトランスフェリン受容体抗体のアミノ酸配列をコードする,DNA断片。
【請求項12】
請求項10の融合蛋白質のアミノ酸配列をコードする,DNA断片。
【請求項13】
請求項10のDNA断片を組み込んでなる,発現ベクター。
【請求項14】
請求項13の発現ベクターで形質転換された哺乳動物細胞。
【請求項15】
請求項10の融合蛋白質の使用であって,ハーラー症候群又はハーラー・シャイエ症候群に伴う中枢神経系の疾患状態の治療のための血中投与用薬剤の製造のための,使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,血中に投与して中枢神経系(CNS)において機能させるべき化合物(蛋白質,低分子化合物等)が血液脳関門を通過できるようにするために,それらの化合物と結合させて用いる抗ヒトトランスフェリン受容体抗体,その製造法及びその使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳室周囲器官(松果体,脳下垂体,最後野等)を含む幾つかの領域を除き脳の大半の組織に血液を供給する毛細血管は,筋肉等その他の組織に存在する毛細血管と異なり,その内皮を形成している内皮細胞同士が強固な細胞間接合によって密着し合っている。そのため,血液から脳への物質の受動輸送が妨げられ,例外はあるものの,脂溶性の高い物質,又は分子量が小さく(200~500ダルトン以下)且つ生理pH付近において電気的に中性な物質以外,毛細血管から脳へ移行しにくい。このような,脳内の毛細血管内皮を介した,血液と脳の組織液との間での物質交換を制限する機構は,血液脳関門(Blood-Brain Barrier,BBB)と呼ばれている。また,血液脳関門は,脳のみならず,脳及び脊髄を含む中枢神経系の組織液と血液との間の物質交換をも制限している。
【0003】
血液脳関門の存在により,中枢神経系の細胞の大半は,血中のホルモン,リンホカイン等の物質の濃度変動の影響を受けることなく,その生化学的な恒常性が保たれる。
【0004】
しかしながら,血液脳関門の存在は,薬剤開発の上で問題を提起する。例えば,α-L-イズロニダーゼの欠損に起因する遺伝性代謝疾患であるムコ多糖症I型(ハーラー症候群)に対しては,組換えα-L-イズロニダーゼを静脈内補充する酵素補充療法が,その治療法として行われているが,ハーラー症候群において認められる顕著な中枢神経系(CNS)の異常に対しては,酵素が血液脳関門を通過できないことから有効でない。
【0005】
中枢神経系において作用させるべきそのような蛋白質等の高分子物質に血液脳関門を通過させるための方法が,種々開発されている。例えば,神経成長因子の場合,これを内包させたリポソームを脳内毛細血管の内皮細胞の細胞膜と融合させることにより,血液脳関門を通過させる方法が試みられているが,実用化に至っていない(非特許文献1)。α-L-イズロニダーゼの場合,1回当たりに投与される酵素の量を増加させてその血中濃度を高めることにより,血液脳関門における酵素の受動輸送を高める試みが行われ,ハーラー症候群の動物モデルを用いて,この手法により中枢神経系(CNS)の異常が緩解することが示されている(非特許文献2)。
【0006】
また,血液脳関門を回避し,高分子物質を髄腔内又は脳内に直接投与する試みも行われている。例えば,ハーラー症候群(ムコ多糖症I型)の患者の髄腔内にヒトα-L-イズロニダーゼを投与する方法(特許文献1),ニーマン-ピック病の患者の脳室内にヒト酸スフィンゴミエリナーゼを投与する方法(特許文献2),ハンター症候群のモデル動物の脳室内にイズロン酸2-スルファターゼ(I2S)を投与する方法(特許文献3)が報告されている。このような手法によれば,確実に中枢神経系に薬剤を作用させることができると考えられる一方,侵襲性が極度に高いという問題がある。
【0007】
血液脳関門を通して高分子物質を脳内に到達させる方法として,脳内毛細血管の内皮細胞上に存在する膜蛋白質と親和性を持つように高分子物質を修飾する方法が種々報告されている。脳内毛細血管の内皮細胞上に存在する膜蛋白質としては,インスリン,トランスフェリン,インスリン様成長因子(IGF-I,IGF-II),LDL,レプチン等の化合物に対する受容体が挙げられる。
【0008】
例えば,神経成長因子(NGF)をインスリンとの融合蛋白質の形で合成し,インスリン受容体との結合を介してこの融合蛋白質に血液脳関門を通過させる技術が報告されている(特許文献4~6)。また,神経成長因子(NGF)を抗インスリン受容体抗体との融合蛋白質の形で合成し,インスリン受容体との結合を介してこの融合蛋白質に血液脳関門を通過させる技術が報告されている(特許文献4及び7)。また,神経成長因子(NGF)をトランスフェリンとの融合蛋白質の形で合成し,トランスフェリン受容体(TfR)との結合を介してこの融合蛋白質に血液脳関門を通過させる技術が報告されている(特許文献8)。また,神経成長因子(NGF)を抗トランスフェリン受容体抗体(抗TfR抗体)との融合蛋白質の形で合成し,TfRとの結合を介してこの融合蛋白質に血液脳関門を通過させる技術が報告されている(特許文献4及び9)。
【0009】
抗TfR抗体を用いた技術について更にみると,抗TfR抗体と結合させることにより薬剤に血液脳関門を通過させる技術において,一本鎖抗体を使用できることが報告されている(非特許文献3)。また,hTfRとの解離定数が比較的大きい抗hTfR抗体(低親和性抗hTfR抗体)が,薬剤をして血液脳関門を通過させる技術において,好適に利用できることが報告されている(特許文献10及び11,非特許文献4)。更には,hTfRとの親和性がpH依存的に変化する抗TfR抗体が,薬剤に血液脳関門を通過させるためキャリアとして使用できることが報告されている(特許文献12,非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2007-504166号公報
【特許文献2】特表2009-525963号公報
【特許文献3】特開2012-62312号公報
【特許文献4】米国特許5154924号公報
【特許文献5】特開2011-144178号公報
【特許文献6】米国特許2004/0101904号公報
【特許文献7】特表2006-511516号公報
【特許文献8】特開H06-228199号公報
【特許文献9】米国特許5977307号公報
【特許文献10】WO2012/075037
【特許文献11】WO2013/177062
【特許文献12】WO2012/143379
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Xie Y. et al., J Control Release. 105. 106-19(2005)
【非特許文献2】Ou L. et al., Mol Genet Metab. 111. 116-22(2014)
【非特許文献3】Li JY. Protein Engineering. 12. 787-96 (1999)
【非特許文献4】Bien-Ly N. et al., J Exp Med. 211. 233-44 (2014)
【非特許文献5】Sada H. PLoS ONE. 9. E96340 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記背景の下で,本発明の目的は,血中に投与して中枢神経系において機能させるべき化合物(蛋白質,低分子化合物等)が血液脳関門を通過できるようにするために,それらの化合物と結合させて用いることのできる抗TfR抗体,その製造法及び使用法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,本明細書において詳述する抗体作製法により得た,hTfRの細胞外領域を認識する抗ヒトトランスフェリン受容体抗体(抗hTfR抗体)が,これを生体内に投与したとき効率よく血液脳関門を通過することを見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は以下を提供する。
【0014】
1.抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であって,該抗体が重鎖の可変領域において,
(a)CDR1が配列番号62又は配列番号63のアミノ酸配列を含んでなり,
(b)CDR2が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(c)CDR3が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
2.上記1の抗体であって,重鎖のフレームワーク領域3が配列番号64のアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
3.上記1又は2の抗体であって,但し該重鎖の可変領域において,
CDR2の配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列に代えてこれに対し80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなり,且つ
CDR3の配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列に代えてこれに対し80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
4.上記1又は2の抗体であって,但し該重鎖の可変領域において,
CDR2の配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列に代えてこれに対し90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなり,且つ
CDR3の配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列に代えてこれに対し90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
5.上記1又は2の抗体であって,但し該重鎖の可変領域において,
(a)CDR1については配列番号62又は配列番号63,
(b)CDR2については配列番号13又は配列番号14,
(c)CDR3については配列番号15又は配列番号16,及び
(d)フレームワーク領域3については配列番号64,
のうち少なくとも1つのアミノ酸配列に代えてこれに対し1~5個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,
ここに,CDR1については,配列番号62又は配列番号63のアミノ酸配列のN末端側から5番目に位置するメチオニンが,改変後のアミノ酸配列においても同じ位置にあり,且つ
フレームワーク領域3については,配列番号64のN末端側から17番目に位置するロイシンが,改変後のアミノ酸配列においても同じ位置にあるものである,抗体。
6.上記1又は2の抗体であって,但し該重鎖の可変領域において,
(a)CDR1については配列番号62又は配列番号63,
(b)CDR2については配列番号13又は配列番号14,
(c)CDR3については配列番号15又は配列番号16,及び
(d)フレームワーク領域3については配列番号64,
のうち少なくとも1つのアミノ酸配列に代えてこれに対し1~3個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,
ここに,CDR1については,配列番号62又は配列番号63のアミノ酸配列のN末端側から5番目に位置するメチオニンが,改変後のアミノ酸配列においても同じ位置にあり,且つ
フレームワーク領域3については,配列番号64のN末端側から17番目に位置するロイシンが,改変後のアミノ酸配列においても同じ位置にあるものである,抗体。
7.上記2の抗体であって,該重鎖の可変領域が配列番号65のアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
8.上記7の抗体であって,但し該重鎖の可変領域のうち,CDR1の配列番号62又は配列番号63及びフレームワーク領域3の配列番号64の各アミノ酸配列以外の部分において,該部分に代えて該部分と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
9.上記7の抗体であって,但し該重鎖の可変領域のうち,CDR1の配列番号62又は配列番号63及びフレームワーク領域3の配列番号64の各アミノ酸配列以外の部分において,該部分に代えて該部分と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
10.上記7の抗体であって,但し該重鎖の可変領域を構成するアミノ酸配列に代えてこれに対し1~5個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,
ここに,CDR1については,配列番号63のアミノ酸配列のN末端から5番目に位置するメチオニンが,改変後のアミノ酸配列においても同じ位置にあり,且つフレームワーク領域3については,配列番号64のN末端側から17番目に位置するロイシンが,改変後のアミノ酸配列においても同じ位置にあるものである,抗体。
11.上記7の抗体であって,但し該重鎖の可変領域を構成するアミノ酸配列に代えてこれに対し1~3個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,
ここに,CDR1については,配列番号63のアミノ酸配列のN末端から5番目に位置するメチオニンが,改変後のアミノ酸配列においても同じ位置にあり,且つフレームワーク領域3については,配列番号64のN末端側から17番目に位置するロイシンが,改変後のアミノ酸配列においても同じ位置にあるものである,抗体。
12.上記7の抗体であって,該重鎖が,配列番号66又は配列番号68のアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
13.上記12の抗体であって,但し該重鎖のうち,CDR1の配列番号62又は配列番号63及びフレームワーク領域3の配列番号64の各アミノ酸配列以外の部分に代えて該部分に対し80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
14.上記12の抗体であって,但し該重鎖のうち,CDR1の配列番号62又は配列番号63及びフレームワーク領域3の配列番号64の各アミノ酸配列以外の部分に代えて該部分に対し90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
15.上記12の抗体であって,但し該重鎖を構成するアミノ酸配列に代えてこれに対し1~5個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,
ここに,CDR1については,配列番号63のアミノ酸配列のN末端から5番目に位置するメチオニンが,改変後のアミノ酸配列においても同じ位置にあり,且つフレームワーク領域3については,配列番号64のN末端側から17番目に位置するロイシンが,改変後のアミノ酸配列においても同じ位置にあるものである,抗体。
16.上記12の抗体であって,但し該重鎖を構成するアミノ酸配列に代えてこれに対し1~3個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものであり,
ここに,CDR1については,配列番号63のアミノ酸配列のN末端から5番目に位置するメチオニンが,改変後のアミノ酸配列においても同じ位置にあり,且つフレームワーク領域3については,配列番号64のN末端側から17番目に位置するロイシンが,改変後のアミノ酸配列においても同じ位置にあるものである,抗体。
17.上記1~16の何れかの抗体であって,該抗体の軽鎖の可変領域において,
(a)CDR1が配列番号6又は配列番号7のアミノ酸配列を含んでなり,
(b)CDR2が配列番号8若しくは配列番号9のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serを含んでなり,且つ
(c)CDR3が配列番号10のアミノ酸配列を含んでなるものである,
抗体。
18.上記17の抗体であって,但し,該軽鎖の可変領域において,
(a)CDR1の配列番号6又は配列番号7のアミノ酸配列に代えてこれに対し80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなり,
(b)CDR2の配列番号8若しくは配列番号9のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serに代えてこれに対し80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなり,
且つ
(c)CDR3の配列番号10のアミノ酸配列に代えてこれに対し80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるものである,
抗体。
19.上記17の抗体であって,但し,該軽鎖の可変領域において,
(a)CDR1の配列番号6又は配列番号7のアミノ酸配列に代えてこれに対し90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなり,
(b)CDR2の配列番号8若しくは配列番号9のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serに代えてこれに対し90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなり,
且つ
(c)CDR3の配列番号10のアミノ酸配列に代えてこれに対し90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるものである,
抗体。
20.上記17の抗体であって,但し,該軽鎖の可変領域において,
(a)CDR1については配列番号6又は配列番号7,
(b)CDR2については配列番号8若しくは配列番号9,又はアミノ酸配列Lys-Val-Ser,及び
(c)CDR3については配列番号10,
のうち少なくとも1つのアミノ酸配列に代えてこれに対し1~5個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものである,
抗体。
21.上記17の抗体であって,但し,該軽鎖の可変領域において,
(a)CDR1については配列番号6又は配列番号7,
(b)CDR2については配列番号8若しくは配列番号9,又はアミノ酸配列Lys-Val-Ser,及び
(c)CDR3については配列番号10,
のうち少なくとも1つのアミノ酸配列に代えてこれに対し1~3個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものである,
抗体。
22.上記1~16の何れかの抗体であって,
該抗体の軽鎖の可変領域が,配列番号17,配列番号18,配列番号19,配列番号20,配列番号21又は配列番号22のアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
23.上記22の抗体であって,但し該軽鎖の可変領域のアミノ酸配列に代えてこれに対し80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
24.上記22の抗体であって,但し該軽鎖の可変領域のアミノ酸配列に代えてこれに対し90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
25.上記22の抗体であって,但し該軽鎖の可変領域のアミノ酸配列に代えてこれに対し1~5個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
26.上記22の抗体であって,但し該軽鎖の可変領域のアミノ酸配列に代えてこれに対し1~3個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
27.上記1~16の何れかの抗体であって,該抗体の軽鎖が,配列番号23,配列番号25,配列番号27又は配列番号29のアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
28.上記27の抗体であって,但し該軽鎖のアミノ酸配列に代えてこれに対し80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
29.上記27の抗体であって,但し該軽鎖のアミノ酸配列に代えてこれに対し90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
30.上記27の抗体であって,但し該軽鎖のアミノ酸配列に代えてこれに対し1~5個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
31.上記27の抗体であって,但し該軽鎖のアミノ酸配列に代えてこれに対し1~3個のアミノ酸の置換,欠失又は付加による改変がなされたアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体。
32.上記1~31の何れかの抗体であって,ヒトトランスフェリン受容体の細胞外領域及びサルトランスフェリン受容体の細胞外領域の双方に対して親和性を有するものである,抗体。
33.上記32の抗体であって,ヒトトランスフェリン受容体の細胞外領域との解離定数が1X10-10M以下のものであり,サルトランスフェリン受容体の細胞外領域との解離定数が1X10-9M以下のものである,抗体。
34.Fab抗体,F(ab’)2抗体,又はF(ab’)抗体である,上記1~33の何れかの抗体。
35.scFab,scF(ab’),scF(ab’)2及びscFvからなる群から選ばれる一本鎖抗体である,上記1~33の何れかの抗ヒトトランスフェリン受容体抗体。
36.上記35の抗体であって,その軽鎖と重鎖とがリンカー配列を介して結合しているものである,抗体。
37.上記36の抗体であって,該軽鎖のC末端側において,リンカー配列を介して該重鎖が結合しているものである,抗体。
38.上記35の抗体であって,該重鎖のC末端側において,リンカー配列を介して該軽鎖が結合しているものである,抗体。
39.上記36~38の何れかの抗体であって,該リンカー配列が,8~50個のアミノ酸残基からなるものである,抗体。
40.上記39の抗体であって,該リンカー配列が,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,配列番号3,配列番号4,配列番号5の各アミノ酸配列,配列番号3のアミノ酸配列の3個が連続してなるアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるものである,抗体。
41.抗ヒトトランスフェリン受容体抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質であって,
該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が上記1~40の何れかの抗体であり,
該蛋白質(A)が,該抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側に結合しているものである,融合蛋白質。
42.上記41の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)が,該軽鎖のC末端側又はN末端側に,直接又はリンカーを介して,結合しているものである,融合蛋白質。
43.上記41又は42の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)が,該軽鎖のC末端側又はN末端側においてリンカーを介して結合しているものである,融合蛋白質。
44.該リンカーが,1~50個のアミノ酸残基からなるペプチドである,上記43の融合蛋白質。
45.上記44の融合蛋白質であって,該リンカーが,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含んでなるペプチドである,融合蛋白質。
46.抗ヒトトランスフェリン受容体抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質であって,
該抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が上記1~40の何れかの抗体であり,
該蛋白質(A)が,該抗体の重鎖のC末端側又はN末端側に結合しているものである,融合蛋白質。
47.上記46の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)が,該重鎖のC末端側又はN末端側に,直接又はリンカーを介して,結合しているものである,融合蛋白質。
48.上記46又は47の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)が,該重鎖のC末端側又はN末端側においてリンカーを介して結合しているものである,融合蛋白質。
49.該リンカー配列が,1~50個のアミノ酸残基からなるペプチドである,上記48の融合蛋白質。
50.上記49の融合蛋白質であって,該リンカーが,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選ばれるアミノ酸配列を含んでなるペプチドである,融合蛋白質。
51.該蛋白質(A)が,ヒト由来の蛋白質である,上記41~50の何れかの融合蛋白質。
52.上記41~51の何れかの融合蛋白質であって,該蛋白質(A)が,神経成長因子(NGF),リソソーム酵素,毛様体神経栄養因子(CNTF),グリア細胞株神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,エリスロポエチン,ダルベポエチン,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),上皮細胞増殖因子(EGF),血管内皮増殖因子(VEGF),インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン6,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),各種サイトカイン,腫瘍壊死因子α受容体(TNF-α受容体),PD-1リガンド,PD-L1,PD-L2,ベータアミロイドを分解する活性を有する酵素,抗ベータアミロイド抗体,抗BACE抗体,抗EGFR抗体,抗PD-1抗体,抗PD-L1抗体,抗PD-L2抗体,抗HER2抗体,抗TNF-α抗体,抗CTLA-4抗体,及びその他の抗体医薬からなる群から選択されるものである,上記39~49の何れかの融合蛋白質。
53.該蛋白質(A)がリソソーム酵素であり,該リソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,ヒト酸性α-グルコシダーゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリルスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ A,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1及びCLN2からなる群より選択されるものである,融合蛋白質。
54.該蛋白質(A)が,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ,ヒト酸性α-グルコシダーゼ,又はヒトα-L-イズロニダーゼの何れかである,上記41~51の何れかの融合蛋白質。
55.上記51の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)がヒト酸性α-グルコシダーゼであり,
(1)該抗体の軽鎖が,配列番号23のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(2)該抗体の重鎖が,そのC末端側で,アミノ酸配列Gly-Serを介して,ヒト酸性α-グルコシダーゼと結合し,それにより配列番号57又は配列番号58のアミノ酸配列を形成しているものである,
融合蛋白質。
56.上記51の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)がヒト酸性α-グルコシダーゼであり,
(1)該抗体の軽鎖が,配列番号23のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(2)該抗体の重鎖が配列番号66又は配列番号68のアミノ酸配列を含んでなり,該重鎖が,そのC末端側で,アミノ酸配列Gly-Serを介して,配列番号55又は配列番号56のアミノ酸配列を有するヒト酸性α-グルコシダーゼと結合しているものである,
融合蛋白質。
57.上記51の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)がヒト酸性α-グルコシダーゼであり,該抗体がFab抗体であり,
(1)該抗体の軽鎖が,配列番号23のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(2)該抗体の重鎖が,そのC末端側で,配列番号3のアミノ酸配列の3個が連続してなるアミノ酸配列を介して,ヒト酸性α-グルコシダーゼと結合し,それにより配列番号89のアミノ酸配列を形成しているものである,
融合蛋白質。
58.上記51の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)がヒト酸性α-グルコシダーゼであり,該抗体がFab抗体であり,
(1)該抗体の軽鎖が,配列番号23のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(2)該抗体の重鎖が配列番号61のアミノ酸配列を含んでなり,該重鎖が,そのC末端側で,配列番号3のアミノ酸配列の3個が連続してなるアミノ酸配列を介して,配列番号55又は配列番号56のアミノ酸配列を有するヒト酸性α-グルコシダーゼと結合しているものである,
融合蛋白質。
59.上記51の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)がヒトα-L-イズロニダーゼであり,該抗体がFab抗体であり,
(1)該抗体の軽鎖が,配列番号23のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(2)該抗体の重鎖が,そのC末端側で,配列番号3のアミノ酸配列の3個が連続してなるアミノ酸配列を介して,ヒトα-L-イズロニダーゼと結合し,それにより配列番号93のアミノ酸配列を形成しているものである,
融合蛋白質。
60.上記51の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)がヒトα-L-イズロニダーゼであり,該抗体がFab抗体であり,
(1)該抗体の軽鎖が,配列番号23のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(2)該抗体の重鎖が配列番号61のアミノ酸配列を含んでなり,該重鎖が,そのC末端側で,配列番号3のアミノ酸配列の3個が連続してなるアミノ酸配列を介して,配列番号75又は配列番号76のアミノ酸配列を有するヒトα-L-イズロニダーゼと結合しているものである,
融合蛋白質。
61.上記41の融合蛋白質であって,ヒトIgG Fc領域又はその一部が,該蛋白質(A)と該抗体との間に導入されてなるものである,融合蛋白質。
62.上記61の融合蛋白質であって,該蛋白質(A)のC末端側に,直接又はリンカー配列を介して,ヒトIgG Fc領域が結合してなり,且つ,該ヒトIgG Fc領域のC末端側に直接又はリンカー配列を介して該抗体の重鎖又は軽鎖が結合してなるものである,融合蛋白質。
63.上記61又は62の融合蛋白質であって,ヒトIgG Fc領域が配列番号70のアミノ酸配列を含んでなるものである,融合蛋白質。
64.上記63の融合蛋白質であって,ヒトIgG Fc領域がリンカー配列を介して配列番号61のアミノ酸配列からなるFab重鎖と結合し,それにより形成される配列番号71のアミノ酸配列を含んでなるものである,融合蛋白質。
65.上記1~40の何れかの抗ヒトトランスフェリン受容体抗体のアミノ酸配列をコードする,DNA断片。
66.上記41~64の何れかの融合蛋白質のアミノ酸配列をコードする,DNA断片。
67.上記65又は66のDNA断片を組み込んでなる,発現ベクター。
68.上記67の発現ベクターで形質転換された哺乳動物細胞。
69.上記1~40の何れかの抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の軽鎖及び/又は重鎖の何れかに血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させるべき低分子量の薬理活性物質を結合させたものである,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体-薬理活性物質複合体。
70.該薬理活性物質が,抗ガン剤,アルツハイマー病治療剤,パーキンソン病治療剤,ハンチントン病治療剤,統合失調症治療剤,うつ症治療剤,多発性硬化症治療剤,筋委縮性側索硬化症治療剤,脳腫瘍を含む中枢神経系の腫瘍の治療剤,脳障害を伴うリソソーム病の治療剤,糖原病治療剤,筋ジストロフィー治療剤,脳虚血治療剤,プリオン病治療剤,外傷性の中枢神経系障害の治療剤,ウィルス性及び細菌性の中枢神経系疾患に対する治療剤,脳外科手術後の回復に用いる薬剤,脊椎外科手術後の回復に用いる薬剤,siRNA,アンチセンスDNA,及びペプチドからなる群から選択される何れかのものである,上記69の抗ヒトトランスフェリン受容体抗体-薬理活性物質複合体。
71.蛋白質(A)又は低分子量の薬理活性物質に血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させるための,上記1~40の何れかの抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の使用。
72.中枢神経系の疾患状態の治療のための血中投与用薬剤の製造のための,該疾患状態に対する生理活性蛋白質又は薬理活性低分子化合物の分子と結合させることによる上記1~40の何れかの抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の使用。
73.中枢神経系の疾患の治療方法であって,該疾患に対する生理活性蛋白質又は薬理活性低分子化合物の治療上有効量を,上記1~40の何れかの抗ヒトトランスフェリン受容体抗体分子との結合体の形態で当該疾患を有する患者に血中投与することを含む,治療方法。
74.ヒト酸性α-グルコシダーゼに血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させるための,上記52~58の何れかの融合蛋白質の使用。
75.ポンペ病に伴う中枢神経系の疾患状態の治療のための血中投与用薬剤の製造のための,上記52~58の何れかの融合蛋白質の使用。
76.ポンペ病に伴う中枢神経系の疾患の治療方法であって,上記52~58の何れかの融合蛋白質の治療上有効量を,当該疾患を有する患者に血中投与することを含む,治療方法。
77.ヒト酸性α-L-イズロニダーゼに血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させるための,上記52~54,59,又は60の何れかの融合蛋白質の使用。
78.ハーラー症候群又はハーラー・シャイエ症候群に伴う中枢神経系の疾患状態の治療のための血中投与用薬剤の製造のための,上記52~54,59,又は60の何れかの融合蛋白質の使用。
79.ハーラー症候群又はハーラー・シャイエ症候群に伴う中枢神経系の疾患の治療方法であって,上記52~54,59,又は60の何れかの融合蛋白質の治療上有効量を,当該疾患を有する患者に血中投与することを含む,治療方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明は,生理活性や薬理活性を有する蛋白質や低分子量の物質でありながら,血液脳関門を殆ど又は全く通過できないため,従来は血中投与では利用できなかった諸々の物質について,それらを血液脳関門通過可能な形態にすることができ,従って,中枢神経系の疾患状態の治療のための,血中投与用の新たな薬剤とすることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】抗hTfR抗体を単回静脈内投与した後の,カニクイザルの大脳皮質の,抗hTfR抗体に対する免疫組織化学染色の結果を示す図面代用写真。(a)抗hTfR抗体を非投与,(b)抗hTfR抗体番号3を投与。各写真の右下のバーは50μmを表すゲージである。
【
図2】抗hTfR抗体を単回静脈内投与した後の,カニクイザルの海馬の,抗hTfR抗体に対する免疫組織化学染色の結果を示す図。(a)抗hTfR抗体を非投与,(b)抗hTfR抗体番号3を投与。各写真の右下のバーは50μmを表すゲージである。
【
図3】抗hTfR抗体を単回静脈内投与した後の,カニクイザルの小脳の,抗hTfR抗体に対する免疫組織化学染色の結果を示す図面代用写真。(a)抗hTfR抗体を非投与,(b)抗hTfR抗体番号3を投与。各写真の右下のバーは50μmを表すゲージである。
【
図4】単回静脈内投与した後の,カニクイザルの脳以外の各種臓器へのヒト化抗hTfR抗体の蓄積量を示す図。縦軸は,各臓器の湿重量当たりのヒト化抗hTfR抗体の量(μg/g湿重量)を示す。白バーは左から順に,ヒト化抗hTfR抗体番号3,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2,ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4),及びヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)を,それぞれ投与,黒バーは,トラスツズマブ(ハーセプチン
TM)を投与したサルの各臓器での蓄積量を示す。NDは未測定を意味する。
【
図5】単回静脈内投与した後の,カニクイザルの大脳皮質の,ヒト化抗hTfR抗体に対する免疫組織化学染色の結果を示す図面代用写真。(a)ハーセプチンを投与,(b)ヒト化抗hTfR抗体番号3を投与,(c)ヒト化抗hTfR抗体番号3-2を投与,(d)ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)を投与,(e)ヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)を投与。各写真の右下のバーは20μmを表すゲージである。
【
図6】単回静脈内投与した後の,カニクイザルの海馬の,ヒト化抗hTfR抗体に対する免疫組織化学染色の結果を示す図。(a)ハーセプチンを投与,(b)ヒト化抗hTfR抗体番号3を投与,(c)ヒト化抗hTfR抗体番号3-2を投与,(d)ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)を投与,(e)ヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)を投与。各写真の右下のバーは20μmを表すゲージである。
【
図7】単回静脈内投与した後の,カニクイザルの小脳のヒト化抗hTfR抗体に対する免疫組織化学染色の結果を示す図。(a)ハーセプチンを投与,(b)ヒト化抗hTfR抗体番号3を投与,(c)ヒト化抗hTfR抗体番号3-2を投与,(d)ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)を投与,(e)ヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)を投与。各写真の右下のバーは20μmを表すゲージである。
【
図8】単回静脈内投与した後の,カニクイザルの延髄の,ヒト化抗hTfR抗体に対する免疫組織化学染色の結果を示す図。(a)ハーセプチンを投与,(b)ヒト化抗hTfR抗体番号3を投与,(c)ヒト化抗hTfR抗体番号3-2を投与,(d)ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)を投与,(e)ヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)を投与。各写真の右下のバーは20μmを表すゲージである。
【
図9】単回静脈内投与した後の,カニクイザルの小脳の,hGAAに対する免疫組織化学染色の結果を示す図。(a)hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)を投与,(b)hGAAを投与。各写真の右下のバーは20μmを表すゲージである。
【
図10】hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)のマウスを用いた薬効評価の結果を示す図。(a)右脳,(b)脊髄頚部,(c)心臓,(d)横隔膜,(e)肝臓,(f)脾臓におけるグリコーゲン濃度を示す。各図中,1は正常対照群,2は病態対照群,3はhGAAの20mg/kg投与群,4~7はそれぞれhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)の2.5mg/kg,5.0mg/kg,10mg/kg,20mg/kg投与群を示す。縦軸はグリコーゲン濃度(mg/g湿重量)を示す。縦バーはSD,♯は病態対照群との比較でp<0.01,♯♯は病態対照群との比較でp<0.05,$はhGAA投与群との比較でp<0.01,$$はhGAA投与群との比較でp<0.05(いずれもTukey HSD test)を示す。
【
図11】hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)のマウスを用いた薬効評価の結果を示す図。(a)大腿四頭筋,(b)腓腹筋,(c)ヒラメ筋,(d)前脛骨筋,(e)長趾伸筋腓腹におけるグリコーゲン濃度を示す。各図中,1は正常対照群,2は病態対照群,3はhGAA投与群,4~7はそれぞれhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)の2.5mg/kg,5.0mg/kg,10mg/kg,20mg/kg投与群を示す。縦軸はグリコーゲン濃度(mg/g湿重量)を示す。縦バーはSD,♯は病態対照群との比較でp<0.01,♯♯は病態対照群との比較でp<0.05,$はhGAA投与群との比較でp<0.01,$$はhGAA投与群との比較でp<0.05(いずれもTukey HSD test)を示す。
【
図12】Fab GS-GAAのマウスを用いた薬効評価の結果を示す図。(a)右脳,(b)心臓,(c)横隔膜,(d)大腿四頭筋,(e)ヒラメ筋,(f)前脛骨筋におけるグリコーゲン濃度を示す。各図中,1は正常対照群,2は病態対照群,3はhGAA投与群,4及び5はそれぞれFab GS-GAAの5.0mg/kg,20mg/kg投与群を示す。縦軸はグリコーゲン濃度(mg/g湿重量)を示す。縦バーはSDを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において,「抗体」の語は,主としてヒト抗体,マウス抗体,ヒト化抗体,ヒト抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体,及びマウス抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体のことをいうが,特定の抗原に特異的に結合する性質を有するものである限り,これらに限定されるものではなく,また,抗体の動物種にも特に制限はない。但し,好ましいのは,ヒト化抗体である。
【0018】
本発明において,「ヒト抗体」の語は,その蛋白質全体がヒト由来の遺伝子にコードされている抗体のことをいう。遺伝子の発現効率を上昇させる等の目的で,元のヒトの遺伝子に,元のアミノ酸配列に変化を与えることなく変異を加えた遺伝子にコードされる抗体も,「ヒト抗体」に含まれる。また,ヒト抗体をコードする2つ以上の遺伝子を組み合わせて,あるヒト抗体の一部を他のヒト抗体の一部に置き換えて作製した抗体も,「ヒト抗体」である。ヒト抗体は,免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。免疫グロブリン軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。免疫グロブリン重鎖の3箇所のCDRも,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。あるヒト抗体のCDRを,その他のヒト抗体のCDRに置き換えることにより,ヒト抗体の抗原特異性,親和性等を改変した抗体も,ヒト抗体に含まれる。
【0019】
本発明において,元のヒト抗体の遺伝子を改変することにより,元の抗体のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,「ヒト抗体」に含まれる。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。アミノ酸を付加する場合,元の抗体のアミノ酸配列中若しくはN末端又はC末端に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。即ち,本発明において「ヒト由来の遺伝子」というときは,ヒト由来の元の遺伝子に加えて,これに改変を加えることにより得られる遺伝子も含まれる。
【0020】
元の抗体のアミノ酸配列と変異を加えた抗体のアミノ酸配列との相同性は,周知の相同性計算アルゴリズムを用いて容易に算出することができる。例えば,そのようなアルゴリズムとして,BLAST(Altschul SF. J Mol .Biol. 215. 403-10, (1990)),Pearson及びLipmanの類似性検索法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85. 2444 (1988)),Smith及びWatermanの局所相同性アルゴリズム(Adv. Appl. Math. 2. 482-9(1981))等がある。
【0021】
本発明において,「マウス抗体」というときは,その蛋白質全体がマウス由来の遺伝子にコードされる抗体と同一のアミノ酸配列からなる抗体をいう。従って,遺伝子の発現効率を上昇させる等の目的で,元のマウスの遺伝子に,元のアミノ酸配列に変化を与えることなく変異を加えた遺伝子にコードされる抗体も,「マウス抗体」に含まれる。また,マウス抗体をコードする2つ以上の遺伝子を組み合わせて,あるマウス抗体の一部を他のマウス抗体の一部に置き換えた抗体も,マウス抗体に含まれる。マウス抗体は,免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。免疫グロブリン軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。免疫グロブリン重鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。例えば,あるマウス抗体のCDRを,他のマウス抗体のCDRに置き換えることにより,マウス抗体の抗原特異性,親和性等を改変した抗体も,マウス抗体に含まれる。
【0022】
本発明において,元のマウス抗体の遺伝子を改変することにより,元の抗体のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,「マウス抗体」に含まれる。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換する場合,置換するアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,「マウス抗体」に含まれる。アミノ酸を付加する場合,元の抗体のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個のアミノ酸を付加する。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,「マウス抗体」に含まれる。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を示し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示し,更により好ましくは98%以上の相同性を示す。即ち,本発明において「マウス由来の遺伝子」というときは,マウス由来の元の遺伝子に加えて,これに改変を加えることにより得られる遺伝子も含まれる。
【0023】
本発明において,「ヒト化抗体」の語は,可変領域の一部(例えば,特にCDRの全部又は一部)のアミノ酸配列がヒト以外の哺乳動物由来であり,それ以外の領域がヒト由来である抗体のことをいう。例えば,ヒト化抗体として,ヒト抗体を構成する免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を,他の哺乳動物のCDRに置き換えることによって作製された抗体が挙げられる。ヒト抗体の適切な位置に移植されるCDRの由来となる他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウス及びラットであり,更に好ましくはマウスである。
【0024】
本発明において,「キメラ抗体」の語は,2つ以上の異なる種に由来する,2つ以上の異なる抗体の断片が連結されてなる抗体のことをいう。
【0025】
ヒト抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体とは,ヒト抗体の一部がヒト以外の哺乳動物の抗体の一部によって置き換えられた抗体である。抗体は,以下に説明するFc領域,Fab領域及びヒンジ部とからなる。このようなキメラ抗体の具体例として,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域が他の哺乳動物の抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれかに由来する。逆に,Fc領域が他の哺乳動物に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれに由来する。
【0026】
また,抗体は,可変領域と定常領域とからなるということもできる。キメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)が他の哺乳動物の抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)が他の哺乳動物の抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がヒト抗体に由来するものも挙げられる。ここで,他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウスである。
【0027】
マウス抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体とは,マウス抗体の一部がマウス以外の哺乳動物の抗体の一部に置き換えられた抗体である。このようなキメラ抗体の具体例として,Fc領域がマウス抗体に由来する一方でFab領域が他の哺乳動物の抗体に由来するキメラ抗体や,逆に,Fc領域が他の哺乳動物に由来する一方でFab領域がマウス抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ここで,他の哺乳動物の生物種は,マウス以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,ラット,ウサギ,ウマ,ヒト以外の霊長類であり,より好ましくはヒトである。
【0028】
ヒト抗体とマウス抗体のキメラ抗体は,特に,「ヒト/マウスキメラ抗体」という。ヒト/マウスキメラ抗体には,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域がマウス抗体に由来するキメラ抗体や,逆に,Fc領域がマウス抗体に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又はマウス抗体のいずれかに由来する。ヒト/マウスキメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がマウス抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がマウス抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がヒト抗体に由来するものも挙げられる。
【0029】
抗体は,本来,2本の免疫グロブリン軽鎖と2本の免疫グロブリン重鎖の計4本のポリペプチド鎖からなる基本構造を有する。但し,本発明において,「抗体」というときは,この基本構造を有するものに加え,
(1)1本の免疫グロブリン軽鎖と1本の免疫グロブリン重鎖の計2本のポリペプチド鎖からなるものや,以下に詳述するように,
(2)免疫グロブリン軽鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体,及び
(3)免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体も含まれる。また,
(4)本来の意味での抗体の基本構造からFc領域が欠失したものであるFab領域からなるもの及びFab領域とヒンジ部の全部若しくは一部とからなるもの(Fab,F(ab’)及びF(ab’)2を含む)も,本発明における「抗体」に含まれる。
【0030】
ここでFabとは,可変領域とCL領域(軽鎖の定常領域)を含む1本の軽鎖と,可変領域とCH1領域(重鎖の定常領域の部分1)を含む1本の重鎖が,それぞれに存在するシステイン残基同士でジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。Fabにおいて,重鎖は,可変領域とCH1領域(重鎖の定常領域の部分1)に加えて,更にヒンジ部の一部を含んでもよいが,この場合のヒンジ部は,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠くものである。Fabにおいて,軽鎖と重鎖とは,軽鎖の定常領域(CL領域)に存在するシステイン残基と,重鎖の定常領域(CH1領域)又はヒンジ部に存在するシステイン残基との間で形成されるジスルフィド結合により結合する。Fabを形成する重鎖のことをFab重鎖という。Fabは,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠いているので,1本の軽鎖と1本の重鎖とからなる。Fabを構成する軽鎖は,可変領域とCL領域を含む。Fabを構成する重鎖は,可変領域とCH1領域からなるものであってもよく,可変領域,CH1領域に加えてヒンジ部の一部を含むものであってもよい。但しこの場合,ヒンジ部で2本の重鎖の間でジスルフィド結合が形成されないように,ヒンジ部は重鎖間を結合するシステイン残基を含まないように選択される。F(ab’)においては,その重鎖は可変領域とCH1領域に加えて,重鎖どうしを結合するシステイン残基を含むヒンジ部の全部又は一部を含む。F(ab’)2は2つのF(ab’)が互いのヒンジ部に存在するシステイン残基どうしでジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。F(ab’)又はF(ab’)2を形成する重鎖のことをFab’重鎖という。また,複数の抗体が直接又はリンカーを介して結合してなるニ量体,三量体等の重合体も,抗体である。更に,これらに限らず,免疫グロブリン分子の一部を含み,且つ,抗原に特異的に結合する性質を有するものは何れも,本発明でいう「抗体」に含まれる。即ち,本発明において免疫グロブリン軽鎖というときは,免疫グロブリン軽鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。また,免疫グロブリン重鎖というときは,免疫グロブリン重鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。従って,可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有する限り,例えば,Fc領域が欠失したものも,免疫グロブリン重鎖である。
【0031】
また,ここでFc又はFc領域とは,抗体分子中の,CH2領域(重鎖の定常領域の部分2),及びCH3領域(重鎖の定常領域の部分3)からなる断片を含む領域のことをいう。
【0032】
更には,本発明において,「抗体」というときは,
(5)上記(4)で示したFab,F(ab’)又はF(ab’)2を構成する軽鎖と重鎖を,リンカー配列を介して結合させて,それぞれ一本鎖抗体としたscFab,scF(ab’),及びscF(ab’)2も含まれる。ここで,scFab,scF(ab’),及びscF(ab’)2にあっては,軽鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に重鎖を結合させてなるものでもよく,また,重鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に軽鎖を結合させてなるものでもよい。更には,軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域をリンカー配列を介して結合させて一本鎖抗体としたscFvも,本発明における抗体に含まれる。scFvにあっては,軽鎖の可変領域のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に重鎖の可変領域を結合させてなるものでもよく,また,重鎖の可変領域のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に軽鎖の可変領域を結合させてなるものでもよい。
【0033】
更には,本明細書でいう「抗体」には,完全長抗体,上記(1)~(5)に示されるものに加えて,上記(4)及び(5)を含むより広い概念である,完全長抗体の一部が欠損したものである抗原結合性断片(抗体フラグメント)のいずれの形態も含まれる。
【0034】
「抗原結合性断片」の語は,抗原との特異的結合活性の少なくとも一部を保持している抗体の断片のことをいう。結合性断片の例としては,例えば上記(4)及び(5)に示されるものに加えて,Fab,Fab’,F(ab’)2,可変領域(Fv),重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)とを適当なリンカーで連結させた一本鎖抗体(scFv),重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)を含むポリペプチドの二量体であるダイアボディ,scFvの重鎖(H鎖)に定常領域の一部(CH3)が結合したものの二量体であるミニボディ,その他の低分子化抗体等を包含する。但し,抗原との結合能を有している限りこれらの分子に限定されない。また,これらの結合性断片には,抗体蛋白質の全長分子を適当な酵素で処理したもののみならず,遺伝子工学的に改変された抗体遺伝子を用いて適当な宿主細胞において産生された蛋白質も含まれる。
【0035】
本発明において,「一本鎖抗体」というときは,免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質をいう。例えば,上記(2),(3)及び(5)に示されるものは一本鎖抗体に含まれる。また,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質も,本発明における「一本鎖抗体」である。免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカー配列を介して免疫グロブリン軽鎖が結合した一本鎖抗体にあっては,通常,免疫グロブリン重鎖は,Fc領域が欠失している。免疫グロブリン軽鎖の可変領域は,抗体の抗原特異性に関与する相補性決定領域(CDR)を3つ有している。同様に,免疫グロブリン重鎖の可変領域も,CDRを3つ有している。これらのCDRは,抗体の抗原特異性を決定する主たる領域である。従って,一本鎖抗体には,免疫グロブリン重鎖の3つのCDRが全てと,免疫グロブリン軽鎖の3つのCDRの全てとが含まれることが好ましい。但し,抗体の抗原特異的な親和性が維持される限り,CDRの1個又は複数個を欠失させた一本鎖抗体とすることもできる。
【0036】
一本鎖抗体において,免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の間に配置されるリンカー配列は,好ましくは2~50個,より好ましくは8~50個,更に好ましくは10~30個,更により好ましくは12~18個又は15~25個,例えば15個若しくは25個のアミノ酸残基から構成されるペプチド鎖である。そのようなリンカー配列は,これにより両鎖が連結されてなる抗hTfR抗体がhTfRに対する親和性を保持する限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンのみ又はグリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号4),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号5),又はこれらのアミノ酸配列が2~10回,あるいは2~5回繰り返された配列を含むものである。例えば,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全領域からなるアミノ酸配列のC末端側に,リンカー配列を介して免疫グロブリン軽鎖の可変領域を結合させる場合,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)の3個が連続したものに相当する計15個のアミノ酸を含むリンカー配列が好適である。
【0037】
本発明において,「ヒトトランスフェリン受容体」又は「hTfR」の語は,配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する膜蛋白質をいう。本発明の抗hTfR抗体は,その一実施態様において,配列番号1で示されるアミノ酸配列中N末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの部分(hTfRの細胞外領域)に対して特異的に結合するものであるが,これに限定されない。また,本発明において「サルトランスフェリン受容体」又は「サルTfR」の語は,特に,カニクイザル(Macaca fascicularis)由来の配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する膜蛋白質である。本発明の抗hTfR抗体は,その一実施態様において,配列番号2で示されるアミノ酸配列の中N末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの部分(サルTfRの細胞外領域)に対しても結合するものであるが,これに限定されない。
【0038】
hTfRに対する抗体の作製方法としては,hTfR遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した細胞を用いて,組換えヒトトランスフェリン受容体(rhTfR)を作製し,このrhTfRを用いてマウス等の動物を免疫して得る方法が一般的である。免疫後の動物からhTfRに対する抗体産生細胞を取り出し,これとミエローマ細胞とを融合させることにより,抗hTfR抗体産生能を有するハイブリドーマ細胞を作製することができる。
【0039】
また,マウス等の動物より得た免疫系細胞を体外免疫法によりrhTfRで免疫することによっても,hTfRに対する抗体を産生する細胞を取得できる。体外免疫法を用いる場合,その免疫系細胞が由来する動物種に特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,モルモット,イヌ,ネコ,ウマ,及びヒトを含む霊長類であり,より好ましくは,マウス,ラット及びヒトであり,更に好ましくはマウス及びヒトである。マウスの免疫系細胞としては,例えば,マウスの脾臓から調製した脾細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞としては,ヒトの末梢血,骨髄,脾臓等から調製した細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞を体外免疫法により免疫した場合,hTfRに対するヒト抗体を得ることができる。
【0040】
体外免疫法により免疫系細胞を免疫した後,細胞をミエローマ細胞と融合させることにより,抗体産生能を有するハイブリドーマ細胞を作製することができる。また,免疫後の細胞からmRNAを抽出してcDNAを合成し,このcDNAを鋳型としてPCR反応により免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖をコードする遺伝子を含むDNA断片を増幅し,これらを用いて人工的に抗体遺伝子を再構築することもできる。
【0041】
上記方法により得られたままのハイブリドーマ細胞には,hTfR以外の蛋白質を抗原として認識する抗体を産生する細胞も含まれる。また,抗hTfR抗体を産生するハイブリドーマ細胞の全てが,hTfRに対して高親和性を示す抗hTfR抗体を産生するとも限らない。
【0042】
同様に,人工的に再構築した抗体遺伝子には,hTfR以外の蛋白質を抗原として認識する抗体をコードする遺伝子も含まれる。また,抗hTfR抗体をコードする遺伝子の全てが,hTfRに対して高親和性を示す抗hTfR抗体をコードする等の所望の特性を備えるとも限らない。
【0043】
従って,上記で得られたままのハイブリドーマ細胞から,所望の特性(hTfRに対する高親和性等)を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選択するステップが必要となる。また,人工的に再構築した抗体遺伝子にあっては,当該抗体遺伝子から,所望の特性(hTfRに対する高親和性等)を有する抗体をコードする遺伝子を選択するステップが必要となる。hTfRに対して高親和性を示す抗体(高親和性抗体)を産生するハイブリドーマ細胞,又は高親和性抗体をコードする遺伝子を選択する方法として,以下に詳述する方法が有効である。なお,hTfRに対して高親和性を示す抗体とは,実施例7に記載の方法により測定されるhTfRとの解離定数(KD)が,好ましくは1X10-8M以下のものであり,より好ましくは1X10-9M以下のものであり,更に好ましくは1X10-10M以下のものであり,尚も更に好ましくは1X10-11M以下のものである。例えば好適なものとして,解離定数が1X10-13M~1X10-9Mであるもの,1X10-13M~1X10-10Mであるものを挙げることができる。
【0044】
例えば,抗hTfR抗体に対して高親和性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選択する場合,組換えhTfRをプレートに添加してこれに保持させた後,ハイブリドーマ細胞の培養上清を添加し,次いで組換えhTfRと結合していない抗体をプレートから除去し,プレートに保持された抗体の量を測定する方法が用いられる。この方法によれば,プレートに添加したハイブリドーマ細胞の培養上清に含まれる抗体のhTfRに対する親和性が高いほど,プレートに保持される抗体の量が多くなる。従って,プレートに保持された抗体の量を測定し,より多くの抗体が保持されたプレートに対応するハイブリドーマ細胞を,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗hTfR抗体を産生する細胞株として選択することができる。この様にして選択された細胞株から,mRNAを抽出してcDNAを合成し,このcDNAを鋳型として,抗hTfR抗体をコードする遺伝子を含むDNA断片をPCR法を用いて増幅することにより,高親和性抗体をコードする遺伝子を単離することもできる。
【0045】
上記の人工的に再構築した抗体遺伝子から,高親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を選択する場合は,一旦,人工的に再構築した抗体遺伝子を発現ベクターに組み込み,この発現ベクターをホスト細胞に導入する。このとき,ホスト細胞として用いる細胞としては,人工的に再構築した抗体遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入することにより抗体遺伝子を発現させることのできる細胞であれば原核細胞,真核細胞を問わず特に限定はないが,ヒト,マウス,チャイニーズハムスター等の哺乳動物由来の細胞が好ましく,特にチャイニーズハムスター卵巣由来のCHO細胞,又はマウス骨髄腫に由来するNS/0細胞が好ましい。また,抗体遺伝子をコードする遺伝子を組み込んで発現させるために用いる発現ベクターは,哺乳動物細胞内に導入させたときに,該遺伝子を発現させるものであれば特に限定なく用いることができる。発現ベクターに組み込まれた該遺伝子は,哺乳動物細胞内で遺伝子の転写の頻度を調節することができるDNA配列(遺伝子発現制御部位)の下流に配置される。本発明において用いることのできる遺伝子発現制御部位としては,例えば,サイトメガロウイルス由来のプロモーター,SV40初期プロモーター,ヒト伸長因子-1アルファ(EF-1α)プロモーター,ヒトユビキチンCプロモーター等が挙げられる。
【0046】
このような発現ベクターが導入された哺乳動物細胞は,発現ベクターに組み込まれた上述の人工的に再構築した抗体を発現するようになる。このようにして得た,人工的に再構築した抗体を発現する細胞から,抗hTfR抗体に対して高親和性を有する抗体を産生する細胞を選択する場合,組換えhTfRをプレートに添加してこれに保持させた後,組換えhTfRに細胞の培養上清を接触させ,次いで,組換えhTfRと結合していない抗体をプレートから除去し,プレートに保持された抗体の量を測定する方法が用いられる。この方法によれば,細胞の培養上清に含まれる抗体のhTfRに対する親和性が高いほど,プレートに保持された抗体の量が多くなる。従って,プレートに保持された抗体の量を測定し,より多くの抗体が保持されたプレートに対応する細胞を,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗hTfR抗体を産生する細胞株として選択することができ,ひいては,hTfRに対して高親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を選択できる。このようにして選択された細胞株から,抗hTfR抗体をコードする遺伝子を含むDNA断片を,PCR法を用いて増幅することにより,高親和性抗体をコードする遺伝子を単離することができる。
【0047】
上記の人工的に再構築した抗体遺伝子からの,高親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子の選択は,人工的に再構築した抗体遺伝子を発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを大腸菌に導入し,この大腸菌を培養して得た培養上清又は大腸菌を溶解させて得た抗体を含む溶液を用いて,上述のハイブリドーマ細胞を選択する場合と同様の方法で,所望の遺伝子を有する大腸菌を選択することによってもできる。選択された大腸菌株は,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を発現するものである。この細胞株から,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を選択できる。大腸菌の培養上清中に抗体を分泌させる場合には,N末端側に分泌シグナル配列が結合するように抗体遺伝子を発現ベクターに組み込めばよい。
【0048】
高親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を選択する他の方法として,上述の人工的に再構築した抗体遺伝子にコードされた抗体をファージ粒子上に保持させて発現させる方法がある。このとき,抗体遺伝子は,一本鎖抗体をコードする遺伝子として再構築される。抗体をファージ粒子上に保持する方法は,国際公開公報(WO1997/09436,WO1995/11317)等に記載されており,周知である。人工的に再構築した抗体遺伝子にコードされた抗体を保持するファージから,抗hTfR抗体に対して高親和性を有する抗体を保持するファージを選択する場合,組換えhTfRを,プレートに添加して保持させた後,ファージを接触させ,次いでプレートから組換えhTfRと結合していないファージを除去し,プレートに保持されたファージの量を測定する方法が用いられる。この方法によれば,ファージ粒子上に保持された抗体のhTfRに対する親和性が高いほど,プレートに保持されたファージの量が多くなる。従って,プレートに保持されたファージの量を測定し,より多くのファージが保持されたプレートに対応するファージ粒子を,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗hTfR抗体を産生するファージ粒子として選択することができ,ひいては,hTfRに対して高親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を選択できる。このようにして選択されたファージ粒子から,抗hTfR抗体をコードする遺伝子を含むDNA断片を,PCR法を用いて増幅することにより,高親和性抗体をコードする遺伝子を単離することができる。
【0049】
上記の抗hTfR抗体に対して高親和性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞等の細胞,又は,抗hTfR抗体に対して高親和性を有する抗体を有するファージ粒子からcDNA又はファージDNAを調製し,これを鋳型として,抗hTfR抗体の軽鎖,抗hTfR抗体の重鎖,又は抗hTfR抗体である一本鎖抗体の,全て又はその一部をコードする遺伝子を含むDNA断片を,PCR法等により増幅して単離することができる。同様にして,抗hTfR抗体の軽鎖の可変領域の全て又はその一部をコードする遺伝子を含むDNA断片,抗hTfR抗体の重鎖の可変領域の全て又はその一部をコードする遺伝子を含むDNA断片を,PCR法等により増幅して単離することもできる。
【0050】
この高親和性を有する抗hTfR抗体の軽鎖及び重鎖をコードする遺伝子の全て又はその一部を発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを用いて哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換し,得られた形質転換細胞を培養することにより,高親和性を有する抗hTfR抗体を産生させることができる。単離された抗hTfR抗体をコードする遺伝子の塩基配列から抗hTfR抗体のアミノ酸配列を翻訳し,このアミノ酸配列をコードするDNA断片を人工的に合成することもできる。DNA断片を人工的に合成する場合,適切なコドンを選択することにより,ホスト細胞における抗hTfR抗体の発現量を増加させることができる。
【0051】
元の抗hTfR抗体にアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えるために,単離されたDNA断片に含まれる抗hTfR抗体をコードする遺伝子に,適宜変異を加えることもできる。変異を加えた後の抗hTfR抗体をコードする遺伝子は,元の遺伝子と,好ましくは80%以上の相同性を有するものであり,より好ましくは90%以上の相同性を有するものであるが,相同性に特に制限はない。アミノ酸配列に変異を加えることにより,抗hTfR抗体と結合する糖鎖の数,糖鎖の種類を改変し,生体内における抗hTfR抗体の安定性を増加させること等もできる。
【0052】
抗hTfR抗体の軽鎖の可変領域の全て又はその一部をコードする遺伝子に変異を加える場合にあっては,変異を加えた後の遺伝子は,元の遺伝子と,好ましくは80%以上の相同性を有するものであり,より好ましくは90%以上の相同性を有するものであるが,相同性に特に制限はない。軽鎖の可変領域のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。軽鎖の可変領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。軽鎖の可変領域にアミノ酸を付加させる場合,軽鎖の可変領域のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は,元の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。特に,CDRのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個である。CDRのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。アミノ酸を付加させる場合,当該アミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~5個,より好ましくは1~3個,更に好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた各CDRのそれぞれのアミノ酸配列は,元の各CDRのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0053】
抗hTfR抗体の重鎖の可変領域の全て又はその一部をコードする遺伝子に変異を加える場合にあっては,変異を加えた後の遺伝子は,元の遺伝子と,好ましくは80%以上の相同性を有するものであり,より好ましくは90%以上の相同性を有するものであるが,相同性に特に制限はない。重鎖の可変領域のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。重鎖の可変領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。重鎖の可変領域にアミノ酸を付加させる場合,重鎖の可変領域のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた重鎖の可変領域のアミノ酸配列は,元の重鎖の可変領域のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。特に,CDRのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個である。CDRのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。アミノ酸を付加させる場合,当該アミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~5個,より好ましくは1~3個,更に好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた各CDRのそれぞれのアミノ酸配列は,元の各CDRのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0054】
上記の抗hTfR抗体の軽鎖の可変領域への変異と,上記の抗hTfR抗体の重鎖の可変領域への変異とを組み合わせて,抗hTfR抗体の軽鎖と重鎖の可変領域の両方に変異を加えることもできる。
【0055】
上記の抗hTfR抗体の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸による置換としては,例えば,芳香族アミノ酸(Phe,Trp,Tyr),脂肪族アミノ酸(Ala,Leu,Ile,Val),極性アミノ酸(Gln,Asn),塩基性アミノ酸(Lys,Arg,His),酸性アミノ酸(Glu,Asp),水酸基を有するアミノ酸(Ser,Thr)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は,蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち,保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。但し,本発明者が先に見出し本願発明と同種の効果を有することを確認している抗体番号3(本願出願時点において未公開)のhTfRのフレームワーク領域3のアミノ酸配列である配列番号83は,その第17番目がTrpであり,これに対し本願発明における抗hTfR抗体番号3Nの重鎖のフレームワーク領域3は配列番号68のアミノ酸配列を有し,そのN末端側から第17番目がLeuに置換されたものである。また,CDR1のアミノ酸配列においては,配列番号12の第5番目のThrが,配列番号66で示されるようにMetに置換されたものである。TrpとLeuとは上記の類似関係にはなく,そしてThrとMetも上記の類似関係にはない。ところが後述するように,当該置換を含む抗体番号3Nは,予想外にも,抗体番号3と効果の点で同種であり,しかも一層優れた効果を示す。
【0056】
なお,抗hTfR抗体に変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合において,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体を他の蛋白質(A)と融合させたときに抗hTfR抗体と蛋白質(A)との間に位置することとなった場合,当該付加したアミノ酸は,リンカーの一部を構成する。抗hTfR抗体と蛋白質(A)との融合蛋白質において,抗hTfR抗体と蛋白質(A)との間に配置されるリンカーについては後に詳述する。
【0057】
上記の方法等によって選択されたhTfRに対して比較的高い親和性を有する抗hTfR抗体を産生する細胞を培養して得られる抗hTfR抗体,及び,高親和性を有する抗hTfR抗体をコードする遺伝子を発現させて得られる抗hTfR抗体は,そのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を導入することにより所望の特性を有する抗体に改変させることもできる。抗hTfR抗体のアミノ酸配列への変異の導入は,そのアミノ酸配列に対応する遺伝子に変異を加えることによって行われる。
【0058】
抗hTfR抗体は,その抗体の可変領域のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えることにより,抗体のhTfRに対する親和性を適宜調整することができる。例えば,抗体と抗原との親和性が高く,水性液中での解離定数が著しく低い場合,これを生体内に投与したときに,抗体が抗原と解離せず,その結果,機能上の不都合が生じる可能性がある。このような場合に,抗体の可変領域に変異を導入することにより,解離定数を,元の抗体の2~5倍,5~10倍,10~100倍等と段階的に調整し,目的に合致した最も好ましい抗体を獲得し得る。逆に,当該変異の導入により,解離定数を,元の抗体の1/2~1/5倍,1/5~1/10倍,1/10~1/100倍等と段階的に調整することもできる。
【0059】
抗hTfR抗体のアミノ酸配列への置換,欠失,付加等の変異の導入は,例えば,抗hTfR抗体をコードする遺伝子を鋳型にして,PCR等の方法により,遺伝子の塩基配列の特定の部位に変異を導入するか,又はランダムに変異を導入することにより行うことができる。
【0060】
抗体とhTfRとの親和性の調整を目的とした,抗hTfR抗体のアミノ酸配列への変異の導入は,例えば,一本鎖抗体である抗hTfR抗体をコードする遺伝子をファージミドに組み込み,このファージミドを用いてカプシド表面上に一本鎖抗体を発現させたファージを作製し,変異原等を作用させることにより一本鎖抗体をコードする遺伝子上に変異を導入させながらファージを増殖させ,増殖させたファージから,所望の解離定数を有する一本鎖抗体を発現するファージを,上述の方法により選択するか,又は一定条件下で抗原カラムを用いて精製することにより,得ることができる。
【0061】
上記の高親和性抗体を産生する細胞を選択する方法により得られる,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗体は,好ましくは,実施例7に記載の方法により測定されるhTfRとの解離定数(KD)が,好ましくは1X10-8M以下であるものであり,より好ましくは1X10-9M以下であるものであり,更に好ましくは1X10-10M以下のものであり,尚も更に好ましくは1X10-11M以下のものである。例えば好適なものとして,解離定数が1X10-13M~1X10-9Mであるもの,1X10-13M~1X10-10Mであるものを挙げることができる。抗体が一本鎖抗体であっても同様である。一旦得られた抗体は,変異を導入する等して,所望の特性を有するように適宜改変することができる。
【0062】
上記のようにして得られる抗hTfR抗体から,サルTfRに対する親和性を有する抗体を選択することにより,ヒト及びサルのTfRの何れにも親和性を有する抗体を得ることができる。サルTfRに対する親和性を有する抗体は,例えば,遺伝子組換え技術を用いて作製した組換えサルTfRを用いたELISA法等により選択することができる。このELISA法では,組換えサルTfRをプレートに添加してこれに保持させた後,抗hTfR抗体を接触させ,次いで組換えサルTfRと結合していない抗体をプレートから除去し,プレートに保持された抗体の量を測定する。組換えサルTfRに対する親和性が高いほどプレートに保持される抗体の量が多くなるので,より多くの抗体が保持されたプレートに対応する抗体を,サルTfRに親和性を有する抗体として選択することができる。なお,ここでいう「サル」とは,好ましくはヒトを除く真猿類に分類されるものであり,より好ましくはオナガザル科に分類されるものであり,更に好ましくはマカク属に分類されるものであり,例えば,カニクイザル又はアカゲザルであり,特にカニクイザルは,評価に用いる上で都合が良い。
【0063】
ヒト及びサルのhTfRのいずれにも親和性を有する抗体は,この抗体を投与したときの生体内での動態を,サルを用いて観察できるという有利な効果を有する。例えば,本発明の抗hTfR抗体を利用して医薬を開発する場合,当該医薬の薬物動態試験をサルを用いて実施できるため,当該医薬の開発を著しく促進することができる。
【0064】
本発明において,hTfRに対して相対的に高い親和性を有し且つサルTfRに対しても親和性を有する抗体は,特に,実施例7に記載の方法により測定したとき,ヒト及びサルのTfRとの解離定数が次のものである:
(a)hTfRとの解離定数:好ましくは1X10-10M以下,より好ましくは2.5X10-11M以下,更に好ましくは5X10-12M以下,更により好ましくは1X10-12M以下,
(b)サルTfRとの解離定数:好ましくは1X10-9M以下,より好ましくは5X10-10M以下,更に好ましくは1X10-10M以下,例えば7.5X10-11M以下。
【0065】
例えば,hTfR及びサルTfRとの解離定数が,それぞれ,1X10-10M以下及び1X10-9M以下,1X10-11M以下及び5X10-10M以下,5X10-12M以下及び1X10-10M以下,5X10-12M以下及び7.5X10-11M以下,1X10-12M以下及び1X10-10M以下,1X10-12M以下及び7.5X10-11M以下,であるものが挙げられる。ここにおいて,ヒトのTfRとの解離定数に特段明確な下限はないが,例えば,5X10-13M,1X10-13M等とすることができる。また,サルのTfRとの解離定数にも特段明確な下限はないが,例えば,1X10-11M,1X10-12M等とすることができる。抗体が一本鎖抗体であっても同様である。
【0066】
上記の高親和性抗体を産生する細胞を選択する方法により得られた,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗体は,ヒト以外の動物の抗体である場合,ヒト化抗体とすることができる。ヒト化抗体とは,抗原に対する特異性を維持しつつ,ヒト以外の動物の抗体の可変領域の一部(例えば,特にCDRの全部又は一部)のアミノ酸配列を用い,ヒト抗体の適切な領域を,当該配列で置き換えること(ヒト抗体への当該配列の移植)により得られる抗体のことである。例えば,ヒト化抗体として,ヒト抗体を構成する免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を,他の哺乳動物のCDRで置き換えた抗体が挙げられる。ヒト抗体に組み込まれるCDRが由来する生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,ヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウス及びラットであり,更に好ましくはマウスである。但し,ヒト抗体の一部を他のヒト抗体の一部で置き換えた抗体とすることもできる。
【0067】
ヒト化抗体の作製法は,当該技術分野で周知であり,ウインター(Winter)らが考案した,ヒト抗体の可変領域にある相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を,非ヒト哺乳動物の抗体のCDRで置き換える方法(Verhoeyen M. Science. 239. 1534-1536 (1988))に基づくものが,最も一般的である。ここで,非ヒト哺乳動物の抗体のCDRのみならず,CDRの構造保持あるいは抗原との結合に関与しているCDR外の領域のアミノ酸配列により,アクセプターとなるヒト抗体の対応する箇所を置き換えることが,ドナー抗体の持つ本来の活性を再現するために必要である場合があることも周知である(Queen C. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 86. 10029-10033 (1989)。ここで,CDR外の領域は,フレームワーク領域(FR)ともいう。
【0068】
抗体の重鎖と軽鎖の可変領域はいずれも,4個のフレームワーク領域1~4(FR1~4)を含む。FR1は,CDR1にそのN末端側で隣接する領域であり,重鎖及び軽鎖を構成する各ペプチドにおいて,そのN末端からCDR1のN末端に隣接するアミノ酸までのアミノ酸配列からなる。FR2は,重鎖及び軽鎖を構成する各ペプチドにおいて,CDR1とCDR2との間のアミノ酸配列からなる。FR3は,重鎖及び軽鎖を構成する各ペプチドにおいて,CDR2とCDR3との間のアミノ酸配列からなる。FR4は,CDR3のC末端に隣接するアミノ酸から可変領域のC末端までのアミノ酸配列からなる。但し,これに限らず,本発明においては,上記の各FR領域において,そのN末端側の1~5個のアミノ酸及び/又はC末端側の1~5個のアミノ酸を除いた領域を,フレームワーク領域とすることもできる。
【0069】
ヒト化抗体の作製は,ヒト抗体の可変領域のCDR(と場合によりその周辺のFR)に代えて,非ヒト哺乳動物の抗体のCDR(と場合によりその周辺のFR)を移植する作業を含む。この作業において,元となるヒト抗体の可変領域のフレームワーク領域は,生殖細胞系列抗体遺伝子配列を含む公共のDNAデータベース等から得ることができる。例えば,ヒト重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子の生殖細胞系列DNA配列及びアミノ酸配列は,「VBase」ヒト生殖細胞系配列データベース(インターネットにおいてwww.mrccpe.cam.ac.uk/vbaseで入手可能)から選択することができる。この他,公表された文献,例えば「Kabat EA. Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, 米国保健福祉省, NIH Publication No. 91-3242 (1991)」,「Tomlinson IM. J. fol. Biol. 227. 776-98 (1992)」,「Cox JPL. Eur. J Immunol. 24:827-836 (1994)」等に記載されたDNA配列及びアミノ酸配列から選択することもできる。
【0070】
以上のように,ヒト化抗体において,元のヒト抗体の可変領域に移植される非ヒト哺乳動物の抗体の領域は,一般に,CDRそれ自体,又はCDRとの周辺のFRを含む。但し,CDRとともに移植されるFRも,CDRの構造保持あるいは抗原との結合に関与しており,実質的に抗体の相補性を決定する機能を有すると考えられることから,本発明において「CDR」の語は,ヒト化抗体を作製する場合に,非ヒト哺乳動物の抗体からヒト化抗体に移植される領域,又は移植され得る領域のことをいう。即ち,CDRには,一般にFRとされる領域であっても,それがCDRの構造保持あるいは抗原との結合に関与しており,実質的に抗体の相補性を決定する機能を有していると考えられるものである限り,本発明においてはCDRに含まれる。
【0071】
本発明の抗hTfR抗体は,これを静脈注射等により生体内に投与した場合,脳内の毛細血管の内皮細胞上に存在するhTfRに効率良く結合することができる。hTfRと結合した抗体は,エンドサイトーシス,トランスサイトーシス等の機構により血液脳関門を通過して脳内に取り込まれる。従って,脳内で機能させるべき蛋白質,低分子化合物等を,本発明の抗hTfR抗体と結合させることにより,これらの物質に効率良く血液脳関門を通過させて脳内に到達させることができる。また,本発明の抗hTfR抗体は,血液脳関門を通過した後に,大脳の脳実質,海馬の神経様細胞,小脳のプルキンエ細胞等に,又は少なくともこれらのいずれかに到達できる。そして,大脳の線条体の神経様細胞及び中脳の黒質の神経様細胞へ到達することも予想される。従って,これら組織又は細胞に作用する蛋白質,低分子化合物等を,本発明の抗hTfR抗体と結合させることにより,これら組織又は細胞に到達させることができる。
【0072】
通常であれば血液脳関門を通過することができず,そのため静脈内投与では脳内で生理的,薬理的な作用を殆ど又は全く発揮できない物質(蛋白質,低分子化合物等)を,血中から脳内に到達させそこで作用を発揮させる上で,本発明の抗hTfR抗体は,有効な手段となり得る。特に,本発明の抗hTfR抗体は血液脳関門を通過した後に,大脳の脳実質,海馬の神経様細胞,小脳のプルキンエ細胞等に,又は少なくともこれらのいずれかに到達する。そして,大脳の線条体の神経様細胞及び中脳の黒質の神経様細胞へ到達することも予想される。従って,それらの物質を本発明の抗hTfR抗体分子と結合した形として静脈内投与等により血中投与することにより,これら脳の組織又は細胞においてそれらの作用を発揮させ又は強化することが可能となる。
【0073】
抗hTfR抗体とそのような物質(蛋白質,低分子化合物等)とを結合させる方法としては,非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合させる方法がある。非ペプチドリンカーとしては,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体,ポリオキシエチル化ポリオール,ポリビニルアルコール,多糖類,デキストラン,ポリビニルエーテル,生分解性高分子,脂質重合体,キチン類,及びヒアルロン酸,又はこれらの誘導体,若しくはこれらを組み合わせたものを用いることができる。ペプチドリンカーは,ペプチド結合した1~50個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖若しくはその誘導体であって,そのN末端とC末端が,それぞれ抗hTfR抗体又は蛋白質,低分子化合物等のいずれかと共有結合を形成することにより,抗hTfR抗体と蛋白質,低分子化合物等とを結合させるものである。
【0074】
非ペプチドリンカーとしてPEGを用いて本発明の抗hTfR抗体と所望の他の蛋白質(A)とを結合させたものは,特に,抗hTfR抗体-PEG-蛋白質という。抗hTfR抗体-PEG-蛋白質は,抗hTfR抗体とPEGを結合させて抗hTfR抗体-PEGを作製し,次いで抗hTfR抗体-PEGと他の蛋白質(A)とを結合させることにより製造することができる。又は,抗hTfR抗体-PEG-蛋白質は,他の蛋白質(A)とPEGとを結合させて蛋白質-PEGを作製し,次いで蛋白質-PEGと抗hTfR抗体を結合させることによっても製造することができる。PEGを抗hTfR抗体及び他の蛋白質(A)と結合させる際には,カーボネート,カルボニルイミダゾール,カルボン酸の活性エステル,アズラクトン,環状イミドチオン,イソシアネート,イソチオシアネート,イミデート,又はアルデヒド等の官能基で修飾されたPEGが用いられる。これらPEGに導入された官能基が,主に抗hTfR抗体及び他の蛋白質(A)分子内のアミノ基と反応することにより,PEGとhTfR抗体及び他の蛋白質(A)が共有結合する。このとき用いられるPEGの分子量及び形状に特に限定はないが,その平均分子量(MW)は,好ましくはMW=500~60000であり,より好ましくはMW=500~20000である。例えば,平均分子量が約300,約500,約1000,約2000,約4000,約10000,約20000等であるPEGは,非ペプチドリンカーとして好適に使用することができる。抗hTfR抗体と所望の低分子化合物を結合させる場合も同様である。
【0075】
例えば,抗hTfR抗体-PEGは,抗hTfR抗体とアルデヒド基を官能基として有するポリエチレングリコール(ALD-PEG-ALD)とを,該抗体に対するALD-PEG-ALDのモル比が11,12.5,15,110,120等になるように混合し,これにNaCNBH3等の還元剤を添加して反応させることにより得られる。次いで,抗hTfR抗体-PEGを,NaCNBH3等の還元剤の存在下で,他の蛋白質(A)と反応させることにより,抗hTfR抗体-PEG-蛋白質が得られる。逆に,先に他の蛋白質(A)とALD-PEG-ALDとを結合させて蛋白質-PEGを作製し,次いで蛋白質-PEGと抗hTfR抗体を結合させることによっても,抗hTfR抗体-PEG-蛋白質を得ることができる。
【0076】
抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)とは,抗hTfR抗体の重鎖又は軽鎖のC末端側又はN末端側に,リンカー配列を介して又は直接に,それぞれ他の蛋白質(A)のN末端又はC末端をペプチド結合により結合させることもできる。このように抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)とを結合させてなる融合蛋白質は,抗hTfR抗体の重鎖又は軽鎖をコードするcDNAの3’末端側又は5’末端側に,直接又はリンカー配列をコードするDNA断片を挟んで,他の蛋白質(A)をコードするcDNAがインフレームで配置されたDNA断片を,哺乳動物細胞用の発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入した哺乳動物細胞を培養することにより,得ることができる。この哺乳動物細胞には,他の蛋白質(A)をコードするDNA断片を重鎖と結合させる場合にあっては,抗hTfR抗体の軽鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも,同じホスト細胞に導入され,また,他の蛋白質(A)をコードするDNA断片を軽鎖と結合させる場合にあっては,抗hTfR抗体の重鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも,同じホスト細胞に導入される。抗hTfR抗体が一本鎖抗体である場合,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)とを結合させた融合蛋白質は,他の蛋白質(A)をコードするcDNAの5’末端側又は3’末端側に,直接,又はリンカー配列をコードするDNA断片を挟んで,1本鎖抗hTfR抗体をコードするcDNAを連結したDNA断片を,(哺乳動物細胞,酵母等の真核生物又は大腸菌等の原核生物細胞用の)発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入したこれらの細胞中で発現させることにより,得ることができる。
【0077】
抗hTfR抗体の軽鎖のC末端側に他の蛋白質(A)を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,他の蛋白質(A)が,この抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の軽鎖のC末端側に結合したものである。ここで抗hTfR抗体の軽鎖と他の蛋白質(A)とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0078】
抗hTfR抗体の重鎖のC末端側に他の蛋白質(A)を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,他の蛋白質(A)が,この抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の重鎖のC末端側に結合したものである。ここで抗hTfR抗体の重鎖と他の蛋白質(A)とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0079】
抗hTfR抗体の軽鎖のN末端側に他の蛋白質(A)を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,他の蛋白質(A)が,この抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の軽鎖のN末端側に結合したものである。ここで抗hTfR抗体の軽鎖と他の蛋白質(A)とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0080】
抗hTfR抗体の重鎖のN末端側に他の蛋白質(A)を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,他の蛋白質(A)が,この抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の重鎖のN末端側に結合したものである。ここで抗hTfR抗体の重鎖と他の蛋白質(A)とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0081】
このとき抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との間に配置されるリンカー配列は,好ましくは1~50個,より好ましくは1~17個,更に好ましくは1~10個,更により好ましくは1~5個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖であるが,抗hTfR抗体に結合させるべき他の蛋白質(A)によって,リンカー配列を構成するアミノ酸の個数は,1個,2個,3個,1~17個,1~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個,27個等と適宜調整できる。そのようなリンカー配列は,これにより連結された抗hTfR抗体がhTfRとの親和性を保持し,且つ当該リンカー配列により連結された他の蛋白質(A)が,生理的条件下で当該蛋白質の生理活性を発揮できる限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンとセリンから構成されるものである。例えば,グリシン又はセリンのいずれか1個のアミノ酸からなるもの,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号4),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号5),又はこれらのアミノ酸配列が1~10個,あるいは2~5個連続してなる配列を含むものが挙げられる。1~50個のアミノ酸からなる配列,2~17個,2~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個,又は27個のアミノ酸からなる配列等を有するものである。例えば,アミノ酸配列Gly-Serを含むものはリンカー配列として好適に用いることができる。また,アミノ酸配列Gly-Serに続いてアミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が5個連続してなる計27個のアミノ酸配列を含むものはリンカー配列として好適に用いることができる。更には,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が5個連続してなる計25個のアミノ酸配列を含むものもリンカー配列として好適に用いることができる。
【0082】
抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質において,抗hTfR抗体が一本鎖抗体である場合,免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とは,一般にリンカー配列を介して,結合される。このとき,hTfRに対する抗hTfR抗体の親和性が保持される限り,軽鎖由来のアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に重鎖由来のアミノ酸配列が結合してもよく,またこれとは逆に,重鎖由来のアミノ酸配列のC末端側にリンカー配列が結合し,更にそのC末端側に軽鎖由来のアミノ酸配列が結合してもよい。
【0083】
免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の間に配置されるリンカー配列は,好ましくは2~50個,より好ましくは8~50個,更に好ましくは10~30個,更により好ましくは12~18個又は15~25個,例えば15個若しくは25個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖である。そのようなリンカー配列は,これにより両鎖が連結されてなる抗hTfR抗体がhTfRと親和性を保持し且つ当該抗体に結合した他の蛋白質(A)が,生理的条件下でその生理活性を発揮できる限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンから又はグリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号4),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号5),又はこれらのアミノ酸配列が2~10個,あるいは2~5個連続してなる配列を含むものである。リンカー配列の好ましい一態様として,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が3個連続してなる15個のアミノ酸からなる配列を含むものが挙げられる。
【0084】
抗hTfR抗体が一本鎖抗体である場合における,本発明のヒト化抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,他の蛋白質(A)のC末端側に,アミノ酸配列Gly-Serに続いてアミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が5個連続してなる計27個のアミノ酸からなる第1のリンカー配列を介して,一本鎖抗体が結合したものが例示できる。ここで用いられる,一本鎖抗体の好ましい一態様として,配列番号65に記載のアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3Nの重鎖の可変領域のC末端に,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が3個連続してなる計15個のアミノ酸からなる第1のリンカー配列を介して,配列番号18に記載のアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖の可変領域が結合したものである,配列番号60に記載のアミノ酸配列を有するもの,配列番号61に記載のアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3NのFab重鎖のC末端側に,配列番号3で示されるアミノ酸配列が6回連続するアミノ酸配列にアミノ酸配列Gly-Glyが続く32個のアミノ酸からなるリンカーを介して,配列番号23に記載のアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖が結合したものである,配列番号98に記載のアミノ酸配列を有するものが挙げられる。
【0085】
抗hTfR抗体が一本鎖抗体である場合におけるこのような融合蛋白質は,例えば,融合蛋白質をコードする塩基配列を有するDNA断片を組み込んだ発現ベクターで哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。
【0086】
なお,本発明において,1つのペプチド鎖に複数のリンカー配列が含まれる場合,便宜上,各リンカー配列はN末端側から順に,第1のリンカー配列,第2のリンカー配列というように命名する。
【0087】
抗hTfR抗体がFabである場合における,本発明のヒト化抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,他の蛋白質(A)のC末端側に,Gly-Serに続いてアミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が5個連続してなる計27個のアミノ酸からなるリンカー配列を介して,抗hTfR抗体重鎖の可変領域とCH1領域を含む領域を融合させたものが挙げられる。このときCH1領域に加えてヒンジ部の一部が含まれてもよいが,当該ヒンジ部は重鎖間のジスフィルド結合を形成するシステイン残基を含まない。
【0088】
抗hTfR抗体がFabである場合おける好適な重鎖の一例として,配列番号61に記載のアミノ酸配列を有するものが挙げられる。配列番号61のアミノ酸配列は,配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3Nの重鎖のFabであり,配列番号66のアミノ酸配列のN末端側から1番目~226番目の部分に相当する。なお,配列番号61のN末端から1番目~118番目の部分が,可変領域(配列番号65)に相当し,119番目~216番目の部分がCH1領域に相当し,217番目~226番目の部分がヒンジ部に相当する。
【0089】
抗hTfR抗体がFabである場合において,別のIgGのFc領域を融合蛋白質に更に導入することもできる。Fc領域を融合蛋白質に導入することにより,融合蛋白質の血中等の生体内での安定性を高めることができる。かかるFc領域を導入した融合蛋白質としては,例えば,他の蛋白質(A)のC末端側に直接又はリンカー配列を介してヒトIgG Fc領域が結合してなり,且つ,該ヒトIgG Fc領域のC末端側に直接又はリンカー配列を介して抗ヒトトランスフェリン受容体抗体のFab重鎖が結合してなるものがある。
【0090】
他の蛋白質(A)とヒトIgG Fc領域の間のリンカー配列は,好ましくは1~50個のアミノ酸から構成される。ここに,アミノ酸の個数は,1~17個,1~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個,27個等と適宜調整される。このようなリンカー配列は,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンとセリンから構成されるものである。例えば,グリシン又はセリンのいずれか1個のアミノ酸からなるもの,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号4),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号5),又はこれらのアミノ酸配列が1~10個,あるいは2~5個連結してなる,50個以下のアミノ酸からなる配列,2~17個,2~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個,又は25個のアミノ酸からなる配列等を含むものが挙げられる。例えば,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が5個連続してなる計25個のアミノ酸配列を含むものは,リンカー配列として好適に用いることができる。ヒトIgG Fc領域とFab重鎖との間のリンカー配列についても同様である。
【0091】
なお,ヒトIgG Fc領域を導入する場合,ヒトIgG Fc領域は抗ヒトトランスフェリン受容体抗体の重鎖と軽鎖の何れに結合させてもよい。また,抗体はF(ab’)2,F(ab’),一本鎖抗体を含むその他の抗原結合性断片であってもよい。
【0092】
導入されるヒトIgG Fc領域のIgGのタイプには特に限定はなく,IgG1~IgG5のいずれであってもよい。また,導入されるヒトIgG Fc領域は,Fc領域の全体でもよくその一部であってもよい。斯かるヒトIgG Fc領域の好ましい一実施形態として,ヒトIgG1のFcの全領域である,配列番号70で示されるアミノ酸配列を有するものが挙げられる。また,ヒトIgG Fc領域を導入したFab重鎖のアミノ酸配列として,ヒト化抗hTfR抗体3NのFab重鎖のアミノ酸配列(配列番号61)のN末端側に,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が5個連続してなる計25個のアミノ酸配列を含むリンカー配列を介して,配列番号70で示されるアミノ酸配列を有するヒトIgG Fc領域を結合させた,配列番号71で示されるアミノ酸配列を有するものが挙げられる。
【0093】
抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質を,アルブミンに対する親和性を有するように改変することもできる。アルブミンに対する親和性は,融合蛋白質に,アルブミンに対して親和性を有する化合物,ペプチド,蛋白質等を結合させることにより達成できる。アルブミンに対する親和性を導入した融合蛋白質は,少なくともその一部がアルブミンと結合して血中を循環する。アルブミンは,これと結合した蛋白質を安定化させる機能を有する。従って,アルブミンに対する親和性を導入することにより,生体内に投与した融合蛋白質の血中での半減期を長期化することができるので,その薬効を強化できる。アルブミンに対する親和性の導入は,抗hTfR抗体が,抗体の安定性に寄与するFc領域を欠くもの,例えば,Fabである場合により効果的である。
【0094】
また,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質が,生体内に投与したときに,免疫原性を示すような場合にも,アルブミンに対する親和性を導入することは効果的である。融合蛋白質の免疫原性を示す部位が,融合蛋白質がアルブミンと結合することにより,免疫細胞に提示されることが阻害されるので,免疫原性が軽減される。
【0095】
抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質に,アルブミンに対する親和性を導入する場合,かかる親和性を導入する部分は,抗hTfR抗体の軽鎖,抗hTfR抗体の重鎖,他の蛋白質(A),及びリンカー部分の何れであってもよく,これらの2以上の部分に導入してもよい。
【0096】
アルブミンに対して親和性を有するペプチド又は蛋白質として,例えば,配列番号74で示されるアミノ酸配列を有する,Streptococcus strain G418由来の蛋白質のアルブミン結合ドメイン(Alm T. Biotechnol J. 5. 605-17 (2010))を,アルカリ耐性を示すように改変したペプチドを用いることができるが,これに限定されるものではない。アルブミンに対して親和性を有するペプチド又は蛋白質(アルブミン親和性ペプチド)と,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質(抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質)を結合させる方法としては,非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合させる方法がある。非ペプチドリンカーとしては,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体,ポリオキシエチル化ポリオール,ポリビニルアルコール,多糖類,デキストラン,ポリビニルエーテル,生分解性高分子,脂質重合体,キチン類,及びヒアルロン酸,又はこれらの誘導体,若しくはこれらを組み合わせたものを用いることができる。ペプチドリンカーは,ペプチド結合した1~50個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖若しくはその誘導体であって,そのN末端とC末端が,それぞれアルブミン親和性ペプチド又は融合蛋白質の何れかと共有結合を形成することにより,アルブミン親和性ペプチドと融合蛋白質とを結合させるものである。
【0097】
非ペプチドリンカーとしてPEGを用いてアルブミン親和性ペプチドと抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質とを結合させたものは,特に,アルブミン親和性ペプチド-PEG-蛋白質(A)融合蛋白質という。アルブミン親和性ペプチド-抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質は,アルブミン親和性ペプチドとPEGを結合させてアルブミン親和性ペプチド-PEGを作製し,次いでアルブミン親和性ペプチド-PEGと抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質とを結合させることにより製造することができる。又は,アルブミン親和性ペプチド-抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質は,抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質とPEGとを結合させて抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質を作製し,次いで抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質-PEGとアルブミン親和性ペプチドを結合させることによっても製造することができる。PEGをアルブミン親和性ペプチド及び抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質と結合させる際には,カーボネート,カルボニルイミダゾール,カルボン酸の活性エステル,アズラクトン,環状イミドチオン,イソシアネート,イソチオシアネート,イミデート,又はアルデヒド等の官能基で修飾されたPEGが用いられる。これらPEGに導入された官能基が,主にアルブミン親和性ペプチド及び抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質分子内のアミノ基と反応することにより,PEGとアルブミン親和性ペプチド及び抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質が共有結合する。このとき用いられるPEGの分子量及び形状に特に限定はないが,その平均分子量(MW)は,好ましくはMW=500~60000であり,より好ましくはMW=500~20000である。例えば,平均分子量が約300,約500,約1000,約2000,約4000,約10000,約20000等であるPEGは,非ペプチドリンカーとして好適に使用することができる。
【0098】
例えば,アルブミン親和性ペプチド-PEGは,アルブミン親和性ペプチドとアルデヒド基変性PEG(ALD-PEG-ALD)とを,該アルブミン親和性ペプチドに対する該変性PEGのモル比が11,12.5,15,110,120等になるように混合し,これにNaCNBH3等の還元剤を添加して反応させることにより得られる。次いで,アルブミン親和性ペプチド-PEGを,NaCNBH3等の還元剤の存在下で,抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質と反応させることにより,アルブミン親和性ペプチド-PEG-抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質が得られる。逆に,先に抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質とALD-PEG-ALDとを結合させて抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質-PEGを作製し,次いで融合蛋白質-PEGとアルブミン親和性ペプチドを結合させることによっても,アルブミン親和性ペプチド-PEG-抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質を得ることができる。
【0099】
抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質を,アルブミン親和性ペプチドと融合させることもできる。かかる融合蛋白質(抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質-アルブミン親和性ペプチド)は,抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質の重鎖(重鎖と蛋白質(A)の融合蛋白質を含む)又は軽鎖(軽鎖と蛋白質(A)の融合蛋白質を含む)をコードするcDNAの3’末端側又は5’末端側に,直接に又はリンカー配列をコードするDNA断片を介して,アルブミン親和性ペプチドをコードするcDNAがインフレームで配置されてなるDNA断片を,哺乳動物細胞用発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入した哺乳動物細胞を培養することにより得ることができる。アルブミン親和性ペプチドをコードするDNA断片を重鎖(又は重鎖と蛋白質(A)の融合蛋白質)と結合させる場合にあっては,抗hTfR抗体を構成している軽鎖と蛋白質(A)の融合蛋白質(又は軽鎖)をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用発現ベクターも同じホスト細胞に併せて導入され,またアルブミン親和性ペプチドをコードするDNA断片を軽鎖(又は軽鎖と蛋白質(A)の融合蛋白質)と結合させる場合にあっては,抗hTfR抗体の重鎖と蛋白質(A)の融合蛋白質(又は重鎖)をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも同じホスト細胞に併せて導入される。つまり,アルブミン親和性ペプチドは,抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質の重鎖(重鎖と蛋白質(A)の融合蛋白質を含む)又は軽鎖(軽鎖と蛋白質(A)の融合蛋白質を含む)のN末端側又はC末端側の何れに結合させてもよいが,蛋白質(A)を抗hTfR抗体の重鎖のN末端側に結合させる場合にあっては,抗hTfR抗体のC末端側に結合させることが好ましく,特に重鎖のC末端側に結合させることが好ましい。
【0100】
抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質をアルブミン親和性ペプチドと融合させる場合,直接又はリンカー配列を介して融合させることができる。ここでリンカー配列は,好ましくは1~50個のアミノ酸から構成される。ここに,アミノ酸の個数は,1~17個,1~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個,27個等と適宜調整される。このようなリンカー配列は,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンとセリンから構成されるものである。例えば,グリシン又はセリンのいずれか1個のアミノ酸からなるもの,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号4),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号5),又はこれらのアミノ酸配列が1~10個,あるいは2~5個連結してなる,50個以下のアミノ酸からなる配列,2~17個,2~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個,又は25個のアミノ酸からなる配列等を含むものが挙げられる。例えば,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が3個連続してなる計15個のアミノ酸配列を含むものは,リンカー配列として好適に用いることができる。
【0101】
アルブミン親和性ペプチドを導入した抗hTfR抗体-蛋白質(A)融合蛋白質のアルブミンとの結合親和性は,実施例7に記載のバイオレイヤー干渉法により測定したとき,好ましくは1X10-7M以下,より好ましくは5X10-7M以下,更に好ましくは1X10-8M以下,更により好ましくは1X10-9M以下である。
【0102】
Fab抗体は,Fc領域又はアルブミン親和性ペプチドの導入以外の方法でも血中で安定化させることができる。例えば,Fab抗体は,Fab抗体自体,又はFab抗体と他の蛋白質の融合体をPEG修飾させることにより安定化させることができる。かかる手法は,蛋白質医薬の分野で一般的に実施されており,PEG化されたエリスロポエチン,インターフェロン等が医薬品として実用化されている。また,Fab抗体は,これに変異を導入することによっても安定化させることができる。例えば,軽鎖のN末端側から4番目のメチオニンをロイシンに置換することによりFab抗体を安定化させることができる。但し,変異の導入方法はこれに限定されず,重鎖に変異を導入してもよい。また,Fab抗体の安定化方法はこれらのものに限られず,周知の手法は全て利用可能である。
【0103】
抗hTfR抗体と結合させるべき他の蛋白質(A)に特に限定はないが,生体内において生理活性を発揮し得るものであり,特に,脳内に到達させてその機能を発揮させるべきものであるにも拘らず,そのままでは血液脳関門を通過することができないため,静脈内投与では脳内で機能させることが期待できない蛋白質である。そのような蛋白質としては,例えば,神経成長因子(NGF)や,α-L-イズロニダーゼ(IDUA),イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS),グルコセレブロシダーゼ(GBA),β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ(LAMAN),β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ(GALC),サポシンC,アリルスルファターゼA(ARSA),α-L-フコシダーゼ(FUCA1),アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM),α-ガラクトシダーゼA,β-グルクロニダーゼ(GUSB),ヘパランN-スルファターゼ(SGSH),α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAGLU),アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ(AC),アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1),トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1),ヒアルロニダーゼ-1,酸性α-グルコシダーゼ(GAA),CLN1,CLN2等のリソソーム酵素が挙げられる。
【0104】
抗hTfR抗体と結合させた神経成長因子(NGF)は,アルツハイマー病の痴ほう症治療薬として,抗hTfR抗体と融合させたα-L-イズロニダーゼ(IDUA)はハーラー症候群又はハーラー・シャイエ症候群における中枢神経障害治療剤として,抗hTfR抗体と融合させたイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)はハンター症候群における中枢神経障害治療剤として,グルコセレブロシダーゼ(GBA)はゴーシェ病における中枢神経障害治療剤として,βガラクトシダーゼはGM1-ガングリオシドーシス1~3型における中枢神経障害治療剤として,GM2活性化蛋白質はGM2-ガングリオシドーシスAB異型における中枢神経障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼAはサンドホフ病及びティサックス病における中枢神経障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼBはサンドホフ病における中枢神経障害治療剤として,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼはI-細胞病における中枢神経障害治療剤として,α-マンノシダーゼ(LAMAN)はα-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,β-マンノシダーゼはβ-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)はクラッベ病における中枢神経障害治療剤として,サポシンCはゴーシェ病様蓄積症における中枢神経障害治療剤として,アリルスルファターゼA(ARSA)は異染性白質変性症(異染性白質ジストロフィー)における中枢神経障害治療剤として,α-L-フコシダーゼ(FUCA1)はフコシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,アスパルチルグルコサミニダーゼはアスパルチルグルコサミン尿症における中枢神経障害治療剤として,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼはシンドラー病及び川崎病における中枢神経障害治療剤として,酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)はニーマン・ピック病における中枢神経障害治療剤として,α-ガラクトシダーゼAはファブリー病における中枢神経障害治療剤として,β-グルクロニダーゼ(GUSB)はスライ症候群における中枢神経障害治療剤として,ヘパランN-スルファターゼ(SGSH),α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAGLU),アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ及びN-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼはサンフィリッポ症候群における中枢神経障害治療剤として,酸性セラミダーゼ(AC)はファーバー病における中枢神経障害治療剤として,アミロ-1,6-グルコシダーゼはコリ病(フォーブス・コリ病)における中枢神経障害治療剤として,シアリダーゼはシアリダーゼ欠損症における中枢神経障害治療剤として,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1)は,神経セロイドリポフスチン症又はSantavuori-Haltia病における中枢神経障害治療剤として,トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1)は,神経セロイドリポフスチン症又はJansky-Bielschowsky病における中枢神経障害治療剤として,ヒアルロニダーゼ-1はヒアルロニダーゼ欠損症における中枢神経障害治療剤として,酸性α-グルコシダーゼ(GAA)はポンペ病における中枢神経障害治療剤として,CLN1及び2はバッテン病における中枢神経障害治療剤として使用できる。特に,本発明の抗hTfR抗体は,血液脳関門を通過した後に,大脳の脳実質,海馬の神経様細胞,小脳のプルキンエ細胞等に到達し,又大脳の線条体の神経様細胞及び中脳の黒質の神経様細胞にも到達すると予想されるので,これら組織又は細胞において薬効を機能させるべき蛋白質と融合させることにより,その蛋白質の薬効を強化し得る。但し,医薬用途はこれらの疾患に限られるものではない。
【0105】
なお,本発明において治療剤として用いられるものは,疾患の発症を予防するために用いることもできる。
【0106】
その他,抗hTfR抗体と結合させて薬効を発揮できる蛋白質としては,リソソーム酵素,毛様体神経栄養因子(CNTF),グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF),ニューロトロフィン3,ニューロトロフィン4/5,ニューロトロフィン6,ニューレグリン1,エリスロポエチン,ダルベポエチン,アクチビン,塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF),線維芽細胞成長因子2(FGF2),上皮細胞増殖因子(EGF),血管内皮増殖因子(VEGF),インターフェロンα,インターフェロンβ,インターフェロンγ,インターロイキン6,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF),顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF),マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF),各種サイトカイン,腫瘍壊死因子α受容体(TNF-α受容体),PD-1リガンド,PD-L1,PD-L2,ベータアミロイドを分解する活性を有する酵素,抗ベータアミロイド抗体,抗BACE抗体,抗EGFR抗体,抗PD-1抗体,抗PD-L1抗体,抗PD-L2抗体,抗HER2抗体,抗TNF-α抗体,抗CTLA-4抗体,及びその他の抗体医薬等が挙げられる。
【0107】
抗hTfR抗体と結合させたリソソーム酵素はリソソーム病における中枢神経障害治療剤として,CNTFは筋委縮性側索硬化症の治療剤として,GDNF,ニューロトロフィン3及びニューロトロフィン4/5は脳虚血の治療剤として,GDNFはパーキンソン病の治療剤として,ニューレグリン1は統合失調症の治療剤として,エリスロポエチン及びダルベポエチンは脳虚血の治療剤として,bFGF及びFGF2は外傷性の中枢神経系障害の治療剤,脳外科手術,脊椎外科手術後の回復に,ベータアミロイドを分解する活性を有する酵素,抗ベータアミロイド抗体及び抗BACE抗体はアルツハイマー病の治療剤として,抗EGFR抗体,抗PD-1抗体,抗PD-L1抗体,抗PD-L2抗体,抗HER2抗体,及び抗CTLA-4抗体は脳腫瘍を含む中枢神経系の腫瘍の治療剤として,TNFαR-抗hTfR抗体は脳虚血及び脳炎症性疾患の治療剤として使用できる。
【0108】
アルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン病等の神経変性疾患,統合失調症,うつ症等の精神障害,多発性硬化症,筋委縮性側索硬化症,脳腫瘍を含む中枢神経系の腫瘍,脳障害を伴うリソソーム病,糖原病,筋ジストロフィー,脳虚血,脳炎症性疾患,プリオン病,外傷性の中枢神経系障害等の疾患に対する治療剤は,概ね抗hTfR抗体と融合させるべき他の蛋白質(A)となり得る。また,ウィルス性及び細菌性の中枢神経系疾患に対する治療剤も,概ね抗hTfR抗体と融合させるべき他の蛋白質(A)となり得る。更には,脳外科手術,脊椎外科手術後の回復にも用いることができる薬剤も,概ね抗hTfR抗体と融合させるべき他の蛋白質(A)となり得る。
【0109】
抗hTfR抗体と結合させるべき他の蛋白質(A)として,上記の蛋白質の天然型(野生型)のものに加えて,天然型(野生型)のこれら蛋白質の1個又は複数個のアミノ酸が,他のアミノ酸へ置換,欠失等された類似物も,これら蛋白質としての機能を完全に又は部分的に有する限り,これら蛋白質に含まれる。アミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。アミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせて,所望の類似物とすることもできる。更には,天然型(野生型)の蛋白質又はその類似物のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,1個又は複数個のアミノ酸が付加されたものも,これら蛋白質としての機能を完全に又は部分的に有する限り,これら蛋白質に含まれる。このとき付加されるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個である。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせて,所望のこれら蛋白質の類似物とすることもできる。
【0110】
なお,これら他の蛋白質(A)に変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,これら蛋白質を抗hTfR抗体と融合させたときに,これら蛋白質と抗hTfR抗体との間に位置することとなった場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0111】
天然型のヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA)は,配列番号55で示される883個のアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。但し,配列番号55で示されるアミノ酸配列のN末端側に更に13個のアミノ酸が付加した配列番号56で示される896個のアミノ酸から構成されるものも天然型のhGAAに含まれる。
【0112】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhGAAを融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhGAAが結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。配列番号66のアミノ酸配列を有するものをコードする塩基配列としては配列番号67で示されるものが,配列番号68のアミノ酸配列を有するものをコードする塩基配列としては配列番号69で示されるものが例示できる。
【0113】
ヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA)は,α-1,4-グルコシダーゼ又は酸性マルターゼとも称される。hGAAは,ライソゾーム中グリコーゲンのα-1,4-及びα-1,6-グリコシド結合を加水分解することにより,グリコーゲンを分解する活性を有する。ポンペ病はII型糖原病(GSD II; glycogen storage disease type II)ともいい,リソソーム内の酸性α-グルコシダーゼ(酸性マルターゼ)活性の欠損に伴う細胞内のグリコーゲン蓄積により引き起こされる疾患である。ポンペ病患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhGAAはポンペ病に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0114】
本発明において,「ヒトGAA」又は「hGAA」の語は,特に天然型のhGAAと同一のアミノ酸配列を有するhGAAをいうが,これに限らず,hGAA活性を有するものである限り,天然型のhGAAのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhGAAに含まれる。hGAAのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hGAAのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hGAAにアミノ酸を付加させる場合,hGAAのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhGAAのアミノ酸配列は,元のhGAAのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0115】
なおここで,hGAAがhGAA活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhGAAが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhGAAが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhGAAが変異を加えたものである場合も同様である。
【0116】
抗hTfR抗体とhGAAの融合蛋白質は,例えば,配列番号58で示されるアミノ酸配列をコードする配列番号59で示される塩基配列を有するDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードする配列番号24で示される塩基配列を有するDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質はポンペ病の治療剤,特にポンペ病における中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhGAAの融合蛋白質である。
【0117】
なお,抗hTfR抗体又はhGAAに変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhGAAとの間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0118】
天然型のヒトI2S(hI2S)は,配列番号50で示される525個のアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のヒトI2Sを融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖がそのC末端側で,アミノ酸配列Gly-Serからなるリンカーを介して,ペプチド結合によりヒトI2Sが結合して配列番号53のアミノ酸配列を形成しているもの,が例示できる。配列番号53のアミノ酸配列を有するものは,IgG1タイプの抗hTfR抗体の重鎖とhI2Sが融合したものであり,当該重鎖の部分は配列番号66のアミノ酸配列を有する。この重鎖部分を配列番号68のアミノ酸配列に置き換えることにより,IgG4タイプの抗hTfR抗体とhI2Sの融合したものとすることもできる。
【0119】
ヒトI2S(hI2S)は,グリコサミノグリカンに属するヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の硫酸エステル結合を加水分解する活性を有する。本酵素に遺伝的に異常を有するハンター症候群の患者は,ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の代謝異常のため,これらの部分分解物が肝臓や脾臓等の組織内に蓄積し,骨格異常等の症状をきたす。また,ハンター症候群の患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhI2Sはハンター症候群に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0120】
本発明において,「ヒトI2S」又は「hI2S」の語は,特に天然型のhI2Sと同一のアミノ酸配列を有するhI2Sをいうが,これに限らず,I2S活性を有するものである限り,天然型のhI2Sのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhI2Sに含まれる。hI2Sのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hI2Sのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hI2Sにアミノ酸を付加させる場合,hI2Sのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhI2Sのアミノ酸配列は,元のhI2Sのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0121】
なおここで,hI2SがI2S活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhI2Sが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhI2Sが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhI2Sが変異を加えたものである場合も同様である。
【0122】
抗hTfR抗体とhGAAの融合蛋白質は,例えば,配列番号53のアミノ酸配列をコードする配列番号54の塩基配列を有するDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23のアミノ酸配列(抗hTfR抗体軽鎖)をコードする配列番号24の塩基配列を有するDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質はポンペ病の治療剤,特にポンペ病における中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG1タイプのヒト化抗hTfR抗体とhGAAの融合蛋白質である。
【0123】
なお,抗hTfR抗体又はヒトI2Sに変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とヒトI2Sとの間に配置された場合,当該付加したアミノ酸は,リンカーの一部を構成する。
【0124】
天然型のヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)は,配列番号75又は76で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。配列番号76で示されるhIDUAは,配列番号75で示されるもののN末端側に,Ala-Proが付加したタイプのものである。
【0125】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhIDUAを融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhIDUAが結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0126】
ヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)は,デルマタン硫酸,ヘパラン硫酸分子中に存在するイズロン酸結合を加水分解するリソソーム酵素である。ハーラー症候群はムコ多糖症I型ともいい,リソソーム内のα-L-イズロニダーゼ活性の欠損に伴う細胞内のデルマタン硫酸等の蓄積により引き起こされる疾患である。ハーラー症候群患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhIDUAはハーラー症候群に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0127】
本発明において,「ヒトIDUA」又は「hIDUA」の語は,特に天然型のhIDUAと同一のアミノ酸配列を有するhIDUAをいうが,これに限らず,hIDUA活性を有するものである限り,天然型のhIDUAのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhIDUAに含まれる。hIDUAのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hIDUAのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hIDUAにアミノ酸を付加させる場合,hIDUAのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhIDUAのアミノ酸配列は,元のhIDUAのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0128】
なおここで,hIDUAがhIDUA活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhIDUAが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhIDUAが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhIDUAが変異を加えたものである場合も同様である。
【0129】
抗hTfR抗体とhIDUAの融合蛋白質は,例えば,配列番号90で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質はハーラー症候群の治療剤,特にハーラー症候群における中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhIDUAの融合蛋白質である。
【0130】
なお,抗hTfR抗体又はhIDUAに変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhIDUAとの間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0131】
天然型のヒトパルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(hPPT-1)は,配列番号77で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。
【0132】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhPPT-1を融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhPPT-1が結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0133】
神経セロイドリポフスチン症(Santavuori-Haltia病を含む)は,リソソーム内のパルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1活性の欠損に伴う細胞内のセロイドリポフスチンの蓄積により引き起こされる疾患である。神経セロイドリポフスチン症患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhPPT-1は神経セロイドリポフスチン症に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0134】
本発明において,「ヒトPPT-1」又は「hPPT-1」の語は,特に天然型のhPPT-1と同一のアミノ酸配列を有するhPPT-1をいうが,これに限らず,hPPT-1活性を有するものである限り,天然型のhPPT-1のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhPPT-1に含まれる。hPPT-1のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hPPT-1のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hPPT-1にアミノ酸を付加させる場合,hPPT-1のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhPPT-1のアミノ酸配列は,元のhPPT-1のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0135】
なおここで,hPPT-1がhPPT-1活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhPPT-1が本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhPPT-1が本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhPPT-1が変異を加えたものである場合も同様である。
【0136】
抗hTfR抗体とhPPT-1の融合蛋白質は,例えば,配列番号100で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質は神経セロイドリポフスチン症の治療剤,特に神経セロイドリポフスチン症における中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhPPT-1の融合蛋白質である。
【0137】
なお,抗hTfR抗体又はhPPT-1に変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhPPT-1との間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0138】
天然型のヒト酸性スフィンゴミエリナーゼ(hASM)は,配列番号78で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。
【0139】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhASMを融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhASMが結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0140】
ヒト酸性スフィンゴミエリナーゼ(hASM)は,スフィンゴミエリンをコリンリン酸とセラミドに加水分解するリソソーム酵素である。ニーマン・ピック病は,その病因及び症状の違いによりA~F型にまで分類される。この中で,A型とB型の病因となるのが酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)の遺伝的欠損である。ニーマン・ピック病は,リソソーム内の酸性スフィンゴミエリナーゼ活性の欠損に伴う細胞内の,スフィンゴミエリンの蓄積により引き起こされる疾患である。ニーマン・ピック病患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhASMはニーマン・ピック病に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0141】
本発明において,「ヒトASM」又は「hASM」の語は,特に天然型のhASMと同一のアミノ酸配列を有するhASMをいうが,これに限らず,hASM活性を有するものである限り,天然型のhASMのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhASMに含まれる。hASMのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hASMのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hASMにアミノ酸を付加させる場合,hASMのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhASMのアミノ酸配列は,元のhASMのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0142】
なおここで,hASMがhASM活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhASMが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhASMが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhASMが変異を加えたものである場合も同様である。
【0143】
抗hTfR抗体とhASMの融合蛋白質は,例えば,配列番号106で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質はニーマン・ピック病の治療剤,特にニーマン・ピック病における中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhASMの融合蛋白質である。
【0144】
なお,抗hTfR抗体又はhASMに変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhASMとの間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0145】
天然型のヒトアリルスルファターゼA(hARSA)は,配列番号79で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。
【0146】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhARSAを融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhARSAが結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0147】
異染性白質変性症(異染性白質ジストロフィー)は,リソソーム内のアリルスルファターゼA活性の欠損に伴う細胞内のスルファチド等の蓄積により引き起こされる疾患である。異染性白質変性症患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhARSAは異染性白質変性症に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0148】
本発明において,「ヒトARSA」又は「hARSA」の語は,特に天然型のhARSAと同一のアミノ酸配列を有するhARSAをいうが,これに限らず,hARSA活性を有するものである限り,天然型のhARSAのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhARSAに含まれる。hARSAのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hARSAのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hARSAにアミノ酸を付加させる場合,hARSAのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhARSAのアミノ酸配列は,元のhARSAのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0149】
なおここで,hARSAがhARSA活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhARSAが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhARSAが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhARSAが変異を加えたものである場合も同様である。
【0150】
抗hTfR抗体とhARSAの融合蛋白質は,例えば,配列番号115で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質は異染性白質変性症の治療剤,特に異染性白質変性症における中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhARSAの融合蛋白質である。
【0151】
なお,抗hTfR抗体又はhARSAに変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhARSAとの間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0152】
天然型のヒトヘパランN-スルファターゼ(hSGSH)は,配列番号80で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。
【0153】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhSGSHを融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhSGSHが結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0154】
サンフィリッポ症候群はムコ多糖症II型(MPS III型)ともいい,リソソーム内のヘパランN-スルファターゼ活性の欠損に伴う細胞内のヘパラン硫酸の蓄積により引き起こされる疾患である。但し,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ等の他の酵素の欠損も病因となることもある。サンフィリッポ症候群患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhSGSHはサンフィリッポ症候群に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0155】
本発明において,「ヒトSGSH」又は「hSGSH」の語は,特に天然型のhSGSHと同一のアミノ酸配列を有するhSGSHをいうが,これに限らず,hSGSH活性を有するものである限り,天然型のhSGSHのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhSGSHに含まれる。hSGSHのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hSGSHのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hSGSHにアミノ酸を付加させる場合,hSGSHのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhSGSHのアミノ酸配列は,元のhSGSHのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0156】
なおここで,hSGSHがhSGSH活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhSGSHが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhSGSHが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhSGSHが変異を加えたものである場合も同様である。
【0157】
抗hTfR抗体とhSGSHの融合蛋白質は,例えば,配列番号124で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質はサンフィリッポ症候群の治療剤,特にサンフィリッポ症候群における中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhSGSHの融合蛋白質である。
【0158】
なお,抗hTfR抗体又はhSGSHに変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhSGSHとの間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0159】
天然型のヒトグルコセレブロシダーゼ(hGBA)は,配列番号81で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。
【0160】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhGBAを融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhGBAが結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0161】
ヒトグルコセレブロシダーゼ(hGBA)は,糖脂質グルコセレブシド(又はグルコシルセラミド)を加水分解するリソソーム酵素である。ゴーシェ病は,リソソーム内のグルコセレブロシダーゼ活性の欠損に伴う細胞内のグルコセレブシドの蓄積により引き起こされる疾患である。ゴーシェ病患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhGBAはゴーシェ病に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0162】
本発明において,「ヒトGBA」又は「hGBA」の語は,特に天然型のhGBAと同一のアミノ酸配列を有するhGBAをいうが,これに限らず,hGBA活性を有するものである限り,天然型のhGBAのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhGBAに含まれる。hGBAのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hGBAのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hGBAにアミノ酸を付加させる場合,hGBAのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhGBAのアミノ酸配列は,元のhGBAのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0163】
なおここで,hGBAがhGBA活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhGBAが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhGBAが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhGBAが変異を加えたものである場合も同様である。
【0164】
抗hTfR抗体とhGBAの融合蛋白質は,例えば,配列番号130で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質はゴーシェ病の治療剤,特にゴーシェ病における中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhGBAの融合蛋白質である。
【0165】
なお,抗hTfR抗体又はhGBAに変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhGBAとの間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0166】
天然型のヒトトリペプチジルペプチダーゼ-1(hTPP-1)は,配列番号82で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。
【0167】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhTPP-1を融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhTPP-1が結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0168】
神経セロイドリポフスチン症(Santavuori-Haltia病を含む)はリソソーム内のトリペプチジルペプチダーゼ-1活性の欠損に伴う細胞内のリポフスチンの蓄積により引き起こされる疾患である。神経セロイドリポフスチン症者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhTPP-1は神経セロイドリポフスチン症に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0169】
本発明において,「ヒトTPP-1」又は「hTPP-1」の語は,特に天然型のhTPP-1と同一のアミノ酸配列を有するhTPP-1をいうが,これに限らず,hTPP-1活性を有するものである限り,天然型のhTPP-1のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhTPP-1に含まれる。hTPP-1のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hTPP-1のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hTPP-1にアミノ酸を付加させる場合,hTPP-1のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhTPP-1のアミノ酸配列は,元のhTPP-1のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0170】
なおここで,hTPP-1がhTPP-1活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhTPP-1が本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhTPP-1が本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhTPP-1が変異を加えたものである場合も同様である。
【0171】
抗hTfR抗体とhTPP-1の融合蛋白質は,例えば,配列番号136で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質は神経セロイドリポフスチン症治療剤,特に神経セロイドリポフスチン症における中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhTPP-1の融合蛋白質である。
【0172】
なお,抗hTfR抗体又はhTPP-1に変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhTPP-1との間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0173】
天然型のヒトα-N-アセチルグルコサミニダーゼ(hNAGLU)は,配列番号83で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。
【0174】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhNAGLUを融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhNAGLUが結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0175】
サンフィリッポ症候群は,リソソーム内のα-N-アセチルグルコサミニダーゼ活性の欠損に伴う細胞内のヘパラン硫酸の蓄積により引き起こされる疾患である。サンフィリッポ症候群患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhNAGLUはサンフィリッポ症候群に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0176】
本発明において,「ヒトNAGLU」又は「hNAGLU」の語は,特に天然型のhNAGLUと同一のアミノ酸配列を有するhNAGLUをいうが,これに限らず,hNAGLU活性を有するものである限り,天然型のhNAGLUのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhNAGLUに含まれる。hNAGLUのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hNAGLUのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hNAGLUにアミノ酸を付加させる場合,hNAGLUのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhNAGLUのアミノ酸配列は,元のhNAGLUのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0177】
なおここで,hNAGLUがhNAGLU活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhNAGLUが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhNAGLUが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhNAGLUが変異を加えたものである場合も同様である。
【0178】
抗hTfR抗体とhNAGLUの融合蛋白質は,例えば,配列番号142で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質はサンフィリッポ症候群の治療剤,特にサンフィリッポ症候群における中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhNAGLUの融合蛋白質である。
【0179】
なお,抗hTfR抗体又はhNAGLUに変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhNAGLUとの間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0180】
天然型のヒトβ-グルクロニダーゼ(hGUSB)は,配列番号84で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。
【0181】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhGUSBを融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhGUSBが結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0182】
スライ症候群はムコ多糖症VII型(MPS VII型)ともいい,リソソーム内のβ-グルクロニダーゼ活性の欠損に伴う細胞内のムコ多糖の蓄積により引き起こされる疾患である。スライ症候群患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhGUSBはスライ症候群に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0183】
本発明において,「ヒトGUSB」又は「hGUSB」の語は,特に天然型のhGUSBと同一のアミノ酸配列を有するhGUSBをいうが,これに限らず,hGUSB活性を有するものである限り,天然型のhGUSBのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhGUSBに含まれる。hGUSBのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hGUSBのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hGUSBにアミノ酸を付加させる場合,hGUSBのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhGUSBのアミノ酸配列は,元のhGUSBのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0184】
なおここで,hGUSBがhGUSB活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhGUSBが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhGUSBが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhGUSBが変異を加えたものである場合も同様である。
【0185】
抗hTfR抗体とhGUSBの融合蛋白質は,例えば,配列番号150で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhGUSBの融合蛋白質である。製造された融合蛋白質はスライ症候群の治療剤,特にスライ症候群における中枢神経障害治療剤として使用し得る。
【0186】
なお,抗hTfR抗体又はhGUSBに変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhGUSBとの間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0187】
天然型のヒトガラクトシルセラミダーゼ(hGALC)は,配列番号85で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。
【0188】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhGALCを融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhGALCが結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0189】
クラッベ病は,ガラクトシルセラミダーゼ活性の欠損により引き起こされる疾患である。クラッベ病患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhGALCはクラッベ病に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0190】
本発明において,「ヒトGALC」又は「hGALC」の語は,特に天然型のhGALCと同一のアミノ酸配列を有するhGALCをいうが,これに限らず,hGALC活性を有するものである限り,天然型のhGALCのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhGALCに含まれる。hGALCのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hGALCのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hGALCにアミノ酸を付加させる場合,hGALCのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhGALCのアミノ酸配列は,元のhGALCのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0191】
なおここで,hGALCがhGALC活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhGALCが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhGALCが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhGALCが変異を加えたものである場合も同様である。
【0192】
抗hTfR抗体とhGALCの融合蛋白質は,例えば,配列番号158で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質はクラッベ病の治療剤,特にクラッベ病における中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhGALCの融合蛋白質である。
【0193】
なお,抗hTfR抗体又はhGALCに変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhGALCとの間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0194】
天然型のヒト酸性セラミダーゼ(hAC)は,配列番号86で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。
【0195】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhACを融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhACが結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0196】
ファーバー病はリソソーム内の酸性セラミダーゼ活性の欠損に伴う細胞内のセラミドの蓄積により引き起こされる疾患である。ファーバー病患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhACはファーバー病に伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0197】
本発明において,「ヒトAC」又は「hAC」の語は,特に天然型のhACと同一のアミノ酸配列を有するhACをいうが,これに限らず,hAC活性を有するものである限り,天然型のhACのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhACに含まれる。hACのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hACのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hACにアミノ酸を付加させる場合,hACのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhACのアミノ酸配列は,元のhACのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0198】
なおここで,hACがhAC活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhACが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhACが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhACが変異を加えたものである場合も同様である。
【0199】
抗hTfR抗体とhACの融合蛋白質は,例えば,配列番号166で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質はファーバー病の治療剤,特にファーバー病における中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhACの融合蛋白質である。
【0200】
なお,抗hTfR抗体又はhACに変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhACとの間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0201】
天然型のヒトα-L-フコシダーゼ(hFUCA1)は,配列番号87で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。
【0202】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhFUCA1を融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhFUCA1が結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0203】
フコシドーシスはリソソーム内のα-L-フコシダーゼ活性の欠損に伴う細胞内のフコース含有オリゴ糖の蓄積により引き起こされる疾患である。フコシドーシス患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhFUCA1はフコシドーシスに伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0204】
本発明において,「ヒトFUCA1」又は「hFUCA1」の語は,特に天然型のhFUCA1と同一のアミノ酸配列を有するhFUCA1をいうが,これに限らず,hFUCA1活性を有するものである限り,天然型のhFUCA1のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhFUCA1に含まれる。hFUCA1のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hFUCA1のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hFUCA1にアミノ酸を付加させる場合,hFUCA1のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhFUCA1のアミノ酸配列は,元のhFUCA1のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0205】
なおここで,hFUCA1がhFUCA1活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhFUCA1が本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhFUCA1が本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhFUCA1が変異を加えたものである場合も同様である。
【0206】
抗hTfR抗体とhFUCA1の融合蛋白質は,例えば,配列番号174で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質はフコシドーシスの治療剤,特にフコシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhFUCA1の融合蛋白質である。
【0207】
なお,抗hTfR抗体又はhFUCA1に変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhFUCA1との間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0208】
天然型のヒトα-マンノシダーゼ(hLAMAN)は,配列番号88で示されるアミノ酸配列から構成されるリソソーム酵素の一種である。
【0209】
本発明における,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端にリンカー配列としてアミノ酸配列Gly-Serを介して天然型のhLAMANを融合させたタイプのものが挙げられる。このような融合蛋白質として,軽鎖が配列番号23に記載のアミノ酸配列からなり,且つ重鎖が配列番号66又は68に記載のアミノ酸配列からなり,そのC末端側にペプチド結合によりリンカー配列Gly-Serを介してhLAMANが結合してなるものが例示できる。配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG1タイプの抗hTfR抗体であり,配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するものはIgG4タイプの抗hTfR抗体である。
【0210】
ヒトα-マンノシダーゼ(hLAMAN)は,α型のマンノースを加水分解するリソソーム酵素である。α-マンノシドーシスは,リソソーム内のα-マンノシダーゼ活性の欠損に伴う細胞内のマンノース含有オリゴ糖の蓄積により引き起こされる疾患である。α-マンノシドーシス患者は中枢神経障害を伴うことがある。抗hTfR抗体と結合させたhLAMANはα-マンノシドーシスに伴う中枢神経障害の治療剤として用いることができる。
【0211】
本発明において,「ヒトLAMAN」又は「hLAMAN」の語は,特に天然型のhLAMANと同一のアミノ酸配列を有するhLAMANをいうが,これに限らず,hLAMAN活性を有するものである限り,天然型のhLAMANのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhLAMANに含まれる。hLAMANのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hLAMANのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hLAMANにアミノ酸を付加させる場合,hLAMANのアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhLAMANのアミノ酸配列は,元のhLAMANのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0212】
なおここで,hLAMANがhLAMAN活性を有するというときは,抗hTfR抗体と融合させたときに,天然型のhLAMANが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhLAMANが本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させたhLAMANが変異を加えたものである場合も同様である。
【0213】
抗hTfR抗体とhLAMANの融合蛋白質は,例えば,配列番号182で示されるアミノ酸配列をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターと,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する抗hTfR抗体軽鎖をコードするDNA断片を組み込んだ発現ベクターとにより,哺乳動物細胞等のホスト細胞を形質転換させ,このホスト細胞を培養することにより製造することができる。製造された融合蛋白質はα-マンノシドーシスの治療剤,特にα-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として使用し得る。このようにして得られる融合蛋白質は,IgG4タイプのヒト化抗hTfR抗体とhLAMANの融合蛋白質である。
【0214】
なお,抗hTfR抗体又はhLAMANに変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体とhLAMANとの間に配置された場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0215】
上記のごとく抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)の融合蛋白質について,他の蛋白質(A)がhGAA,hI2S,hIDUA,hPPT-1,hASM,hARSA,hSGSH,hGBA,hTTP-1,hNAGLU,hGUSB,hAC,hFUca1,及びhLAMANである融合蛋白質をそれぞれ例示したが,抗hTfR抗体とこれらを含む他の蛋白質(A)との融合蛋白質の好ましい実施形態において,抗hTfR抗体の重鎖及び軽鎖のCDRのアミノ酸配列は,抗体がhTfRに対する特異的な親和性を有するものである限り,特に制限はない。
但し,ここで用いられる抗TfR抗体は,特に,実施例7に記載の方法により測定したときに,
ヒトのTfRとの解離定数が,好ましくは1X10-10M以下,より好ましくは1X10-11M以下,更に好ましくは5X10-12M以下,更により好ましくは1X10-12M以下であるものであり,
サルのTfRとの解離定数が,好ましくは1X10-9M以下,より好ましくは5X10-10M以下,更に好ましくは1X10-10M以下,例えば7.5X10-11M以下であるものである。
例えば,ヒトのTfR及びサルのTfRとの解離定数が,それぞれ,1X10-10M以下及び1X10-9M以下,1X10-11M以下及び5X10-10M以下,5X10-12M以下及び1X10-10M以下,5X10-12M以下及び7.5X10-11M以下,1X10-12M以下及び1X10-10M以下,1X10-12M以下及び7.5X10-11M以下,であるものが挙げられる。ここにおいて,ヒトのTfRとの解離定数に特段明確な下限はないが,例えば,5X10-13M,1X10-13M等とすることができる。また,サルのTfRとの解離定数に特段明確な下限はないが,例えば,1X10-11M,1X10-12M等とすることができる。抗体が一本鎖抗体であっても同様である。
【0216】
抗hTfR抗体には,抗hTfR抗体に他の蛋白質(A)を結合させるのと同じ手法により,比較的短いペプチド鎖を結合させることもできる。抗hTfR抗体に結合させるべきペプチド鎖は,そのペプチド鎖が所望の生理活性を有するものである限り限定はなく,例えば,各種蛋白質の生理活性を発揮する領域のアミノ酸配列を有するペプチド鎖が挙げられる。ペプチド鎖の鎖長は特に限定はないが,好ましくは2~200個のアミノ酸から構成されるものであり,例えば5~50個のアミノ酸から構成されるものである。
【0217】
抗hTfR抗体に低分子物質を結合させる場合,候補となる低分子物質に特に限定はないが,脳内に到達させてその機能を発揮させるべきものであるにも拘わらず,そのままでは血液脳関門を通過できないため,静脈内投与では脳内で機能させることが期待できない低分子物質である。例えば,斯かる低分子物質として,シクロフォスファミド,イホスファミド,メルファラン,ブスルファン,チオテバ,ニムスチン,ラニムスチン,ダカルバシン,プロカルバシン,テモゾロマイド,カルムスチン,ストレプトゾトシン,ペンダムスチン,シスプラチン,カルボプラチン,オキサリプラチン,ネダプラチン,5-フルオロウラシル,スルファジアジン,スルファメトキサゾール,メトトレキセート,トリメトプリム,ピリメタミン,フルオロウラシル,フルシトシン,アザチオプリン,ペントスタチン,ヒドロキシウレア,フルダラビン,シタラビン,ゲムシタビン,イリノテカン,ドキソルビシン,エトポシド,レポフロキサシン,シプロフロキサシン,ビンブラスチン,ビンクリスチン,パクリタキセル,ドデタキセル,マイトマイシンC,ドキソルビシン,エピルビシン等の抗ガン剤を挙げることができる。その他,抗hTfR抗体と結合させるべき低分子物質としてsiRNA,アンチセンスDNA,短いペプチドが挙げられる。
【0218】
抗hTfR抗体と低分子物質を結合させる場合,低分子物質は軽鎖又は重鎖の何れか一方のみに結合させてもよく,また,軽鎖と重鎖の各々に結合させてもよい。また,抗hTfR抗体は,hTfRに対する親和性を有するものである限り,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列,及び/又は重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列を含むものであってよい。
【0219】
アルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン病等の神経変性疾患,統合失調症,うつ症等の精神障害,多発性硬化症,筋委縮性側索硬化症,脳腫瘍を含む中枢神経系の腫瘍,脳障害を伴うリソソーム病,糖原病,筋ジストロフィー,脳虚血,脳炎症性疾患,プリオン病,外傷性の中枢神経系障害等の疾患に対する治療剤は,一般に抗hTfR抗体と融合させるべき低分子物質候補たり得る。また,ウィルス性及び細菌性の中枢神経系疾患に対する治療剤も,一般に抗hTfR抗体と融合させるべき低分子物質候補たり得る。更には,脳外科手術,脊椎外科手術後の回復にも用いることができる薬剤も,一般に抗hTfR抗体と融合させるべき低分子物質候補たり得る。
【0220】
抗hTfR抗体が,ヒト以外の動物のものである場合,これをヒトに投与したときに,当該抗体に対する抗原抗体反応を惹起し,好ましくない副作用が生じるおそれが高い。ヒト以外の動物の抗体は,ヒト化抗体とすることでそのような抗原性を減少でき,ヒトに投与したときの抗原抗体反応に起因する副作用の発生を抑制できる。また,サルを用いた実験によれば,ヒト化抗体は,マウス抗体と比較して,血中でより安定であることが報告されており,治療効果をそれだけ長期間持続させることができると考えられる。抗原抗体反応に起因する副作用の発生は,抗hTfR抗体としてヒト抗体を用いることによっても抑制することができる。
【0221】
抗hTfR抗体が,ヒト化抗体又はヒト抗体である場合について,以下に更に詳しく説明する。ヒト抗体の軽鎖には,λ鎖とκ鎖がある。抗hTfR抗体を構成する軽鎖は,λ鎖とκ鎖のいずれであってもよい。また,ヒトの重鎖には,γ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖及びε鎖があり,それぞれ,IgG,IgM,IgA,IgD及びIgEに対応している。抗hTfR抗体を構成する重鎖は,γ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖及びε鎖のいずれであってもよいが,好ましくはγ鎖である。更に,ヒトの重鎖のγ鎖には,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖があり,それぞれ,IgG1,IgG2,IgG3及びIgG4に対応している。抗hTfR抗体を構成する重鎖がγ鎖である場合,そのγ鎖は,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖のいずれであってもよいが,好ましくは,γ1鎖又はγ4鎖である。抗hTfR抗体が,ヒト化抗体又はヒト抗体であり,且つIgGである場合,ヒト抗体の軽鎖はλ鎖とκ鎖のいずれでもあってもよく,ヒト抗体の重鎖は,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖のいずれであってもよいが,好ましくは,γ1鎖又はγ4鎖である。例えば,好ましい抗hTfR抗体の一つの態様として,軽鎖がλ鎖であり重鎖がγ1鎖であるものが挙げられる。
【0222】
抗hTfR抗体がヒト化抗体又はヒト抗体である場合,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)とは,抗hTfR抗体の重鎖又は軽鎖のN末端(又はC末端)に,リンカー配列を介して又は直接に,他の蛋白質(A)のC末端(又はN末端)を,それぞれペプチド結合により結合させることができる。他の蛋白質(A)を抗hTfR抗体の重鎖のN末端側(又はC末端側)に結合させる場合,抗hTfR抗体のγ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖又はε鎖のN末端(又はC末端)に,リンカー配列を介し又は直接に,他の蛋白質(A)のC末端(又はN末端)が,ペプチド結合によりそれぞれ結合される。抗hTfR抗体の軽鎖のN末端側(又はC末端側)に他の蛋白質(A)を結合させる場合,抗hTfR抗体のλ鎖又はκ鎖のN末端(又はC末端)に,リンカー配列を介し又は直接に,他の蛋白質(A)のC末端(又はN末端)が,ペプチド結合によりそれぞれ結合される。但し,抗hTfR抗体が,Fab領域からなるもの又はFab領域とヒンジ部の全部若しくは一部とからなるもの(Fab,F(ab’)2及びF(ab’))の場合,他の蛋白質(A)は,Fab,F(ab’)2及びF(ab’)を構成する重鎖又は軽鎖のN末端(又はC末端)に,リンカー配列を介して又は直接に,そのC末端(又はN末端)をペプチド結合によりそれぞれ結合させることができる。
【0223】
ヒト化抗体又はヒト抗体である抗hTfR抗体の軽鎖のC末端側又はN末端側に他の蛋白質(A)を結合させた融合蛋白質において,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体は,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものである。ここで抗hTfR抗体の軽鎖と他の蛋白質(A)とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0224】
ヒト化抗体又はヒト抗体である抗hTfR抗体の重鎖のC末端側又はN末端側に他の蛋白質(A)を結合させた融合蛋白質において,抗ヒトトランスフェリン受容体抗体は,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものである。ここで抗hTfR抗体の重鎖と他の蛋白質(A)とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0225】
抗hTfR抗体又はヒト抗体と他の蛋白質(A)との間にリンカー配列を配置する場合,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との間に配置されるリンカー配列は,好ましくは1~50個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖であるが,抗hTfR抗体に結合させるべき他の蛋白質(A)によって,リンカー配列を構成するアミノ酸の個数は,1~17個,1~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個等と適宜調整される。そのようなリンカー配列は,当該リンカー配列により連結された抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)とが,それぞれの機能(hTfRに対する親和性,及び生理的条件下での活性又は機能)を保持している限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,グリシン又はセリンのいずれか1個のアミノ酸からなるもの,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3),アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号4),アミノ酸配列Ser-Gly-Gly-Gly-Gly(配列番号5),又はこれらのアミノ酸配列が1~10個,あるいは2~5個連続してなる配列を含むものである。例えば,アミノ酸配列Gly-Serに続いてアミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が5個連続してなる計27個のアミノ酸配列を含むものが,リンカー配列として好適に用いることができる。又,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が5個連続してなる計25個のアミノ酸配列を含むものも,リンカー配列として好適に用いることができる。
【0226】
なおここで,抗hTfR抗体又はヒト抗体と融合させた他の蛋白質(A)が,当該他の蛋白質(A)の生理的条件下での活性又は機能を保持しているというとき又は単に活性を有するというときは,天然型である他の蛋白質(A)が本来有する活性に対して,3%以上の活性又は機能を保持していることをいう。但し,その活性又は機能は,天然型の他の蛋白質(A)が本来有する活性に対して,10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗hTfR抗体と融合させた他の蛋白質(A)が変異を加えたものである場合も同様である。
【0227】
本発明における,ヒト化抗hTfR抗体又はヒト抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の更なる具体的な態様の一例として,抗hTfR抗体重鎖のC末端側に,アミノ酸配列Gly-Serに続いてアミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が5個連続してなる計27個のアミノ酸からなるリンカー配列を介して,他の蛋白質(A)を融合させたものが挙げられる。
【0228】
抗hTfR抗体がFabである場合における,本発明のヒト化抗hTfR抗体又はヒト抗体と他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な態様の一例として,他の蛋白質(A)のC末端側に,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が5個連続してなる計25個のアミノ酸からなるリンカー配列を介して,抗hTfR抗体重鎖の可変領域とCH1領域を含む領域を融合させたものが挙げられる。このときCH1領域に加えてヒンジ部の一部が含まれてもよいが,当該ヒンジ部は,重鎖間のジスフィルド結合を形成するシステイン残基を含まない。
【0229】
抗hTfR抗体のhTfRに対する特異的親和性は,主に抗hTfR抗体の重鎖及び軽鎖のCDRのアミノ酸配列に依存する。それらCDRのアミノ酸配列は,抗hTfR抗体がhTfRに加えてサルhTfRに対する特異的な親和性を有するものである限り,特に制限はない。
但し,本発明にあっては,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗体であって,ヒト及びサルのTfRのいずれにも親和性を有するヒト化抗hTfR抗体又はヒト抗体は,特に,実施例7に記載の方法により測定したときに,
ヒトのTfRとの解離定数が,好ましくは1X10-10M以下,より好ましくは2.5X10-11M以下,更に好ましくは5X10-12M以下,更により好ましくは1X10-12M以下であるものであり,
サルのTfRとの解離定数が,好ましくは1X10-9M以下,より好ましくは5X10-10M以下,更に好ましくは1X10-10M以下,例えば7.5X10-11M以下であるものである。
例えば,ヒトのTfR及びサルのTfRとの解離定数が,それぞれ,1X10-10M以下及び1X10-9M以下,1X10-11M以下及び5X10-10M以下,5X10-12M以下及び1X10-10M以下,5X10-12M以下及び7.5X10-11M以下,1X10-12M以下及び1X10-10M以下,1X10-12M以下及び7.5X10-11M以下,であるものが挙げられる。ここにおいて,ヒトのTfRとの解離定数に特段明確な下限はないが,例えば,5X10-13M,1X10-13M等とすることができる。また,サルのTfRとの解離定数に特段明確な下限はないが,例えば,1X10-11M,1X10-12M等とすることができる。抗体が一本鎖抗体であっても同様である。
【0230】
hTfRに親和性を有する抗体の好ましい実施形態として,重鎖の可変領域において:
(a)CDR1が配列番号62又は配列番号63のアミノ酸配列を含んでなり,
(b)CDR2が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(c)CDR3が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体が例示できる。
【0231】
hTfRに親和性を有する抗体のより具体的な実施形態として,重鎖の可変領域において:
(a)CDR1が配列番号62のアミノ酸配列を含んでなり,
(b)CDR2が配列番号13のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(c)CDR3が配列番号15に記載のアミノ酸配列のアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体が例示できる。
【0232】
上記のhTfRに親和性を有する抗体の好ましい実施形態,及びhTfRに親和性を有する抗体のより具体的な実施形態において,抗体の重鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列として好適なものに,配列番号64のアミノ酸配列を含んでなるものが挙げられる。
【0233】
hTfRに親和性を有する抗体の好ましい軽鎖と重鎖の組み合わせとしては,可変領域において以下に示すアミノ酸配列を有するものが例示できる。すなわち:
(a)CDR1が配列番号6又は配列番号7のアミノ酸配列を含んでなり,
(b)CDR2が配列番号8若しくは配列番号9のアミノ酸配列,又はアミノ酸配列Lys-Val-Serを含んでなり,且つ
(c)CDR3が配列番号10のアミノ酸配列を含んでなる
ものである軽鎖と,
(d)CDR1が配列番号62又は配列番号63のアミノ酸配列を含んでなり,
(e)CDR2が配列番号13又は配列番号14のアミノ酸配列含んでなり,且つ
(f)CDR3が配列番号15又は配列番号16のアミノ酸配列含んでなるものである
重鎖のとの組み合わせ。
【0234】
hTfRに親和性を有する抗体の軽鎖と重鎖の組み合わせの具体的態様としては,可変領域において以下に示すアミノ酸配列を有するものが例示できる。すなわち:
CDR1として配列番号6,CDR2として配列番号8,及びCDR3として配列番号10のアミノ酸配列をそれぞれ含んでなるものである軽鎖と,CDR1として配列番号62,CDR2として配列番号13,及びCDR3として配列番号15のアミノ酸配列をそれぞれ含んでなるものである重鎖の組み合わせ。
【0235】
上記のhTfRに親和性を有する抗体の好ましい軽鎖と重鎖の組み合わせ,及びhTfRに親和性を有する抗体の軽鎖と重鎖の組み合わせの具体的態様において,抗体の重鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列として好適なものに,配列番号64のアミノ酸配列を有するものが挙げられる。
【0236】
hTfRに親和性を有するヒト化抗体の好ましい実施形態としては,以下に示すアミノ酸配列を有するものが例示できる。すなわち:
抗hTfR抗体であって,軽鎖の可変領域が,配列番号17,配列番号18,配列番号19,配列番号20,配列番号21,又は配列番号22のアミノ酸配列を含んでなり,重鎖の可変領域が,配列番号65のアミノ酸配列を含んでなる,抗hTfR抗体。
【0237】
配列番号17,配列番号18,配列番号19,配列番号20,配列番号21,及び配列番号22で示される,軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は,CDR1が配列番号6又は7,CDR2が配列番号8又は9,及びCDR3が配列番号10のアミノ酸配列を含むものである。但し,配列番号17~22に記載の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,CDRというときは,CDRの配列はこれらに限定されるものではなく,これらCDRのアミノ酸配列を含む領域,これらCDRのアミノ酸配列の任意の連続した3個以上のアミノ酸を含むアミノ酸配列もCDRとし得る。
【0238】
配列番号65で示される重鎖の可変領域のアミノ酸配列は,
(a)CDR1が配列番号62又は63のアミノ酸配列を含んでなり,
(b)CDR2が配列番号13又は14のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(c)CDR3が配列番号15又は16のアミノ酸配列を含んでなるものであり,更に,フレームワーク領域3として配列番号64のアミノ酸配列を含むものである。但し,配列番号65で示される重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,CDRというときは,CDRの配列はこれらに限定されるものではなく,これらCDRのアミノ酸配列を含む領域,これらCDRのアミノ酸配列の任意の連続した3個以上のアミノ酸を含むアミノ酸配列もCDRとし得る。フレームワーク領域についても同様である。
【0239】
hTfRに親和性を有するヒト化抗体のより具体的な実施形態としては,
軽鎖の可変領域が配列番号18のアミノ酸配列を含み且つ重鎖の可変領域が配列番号65のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖の可変領域が配列番号20のアミノ酸配列を含み且つ重鎖の可変領域が配列番号65のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖の可変領域が配列番号21のアミノ酸配列を含み且つ重鎖の可変領域が配列番号65のアミノ酸配列を含むもの,及び
軽鎖の可変領域が配列番号22のアミノ酸配列を含み且つ重鎖の可変領域が配列番号65のアミノ酸配列を含むもの
が挙げられる。
【0240】
hTfRに親和性を有するヒト化抗体のより具体的な実施形態としては,
軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号66のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖が配列番号25のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号66のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖が配列番号27のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号66のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖が配列番号29のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号66のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖が配列番号25のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖が配列番号27のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むもの,及び
軽鎖が配列番号29のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むもの
が挙げられる。なお,上記の具体的な実施形態において,ヒト化抗hTfR抗体の重鎖が配列番号66のアミノ酸配列を含むものはIgG1タイプの抗体であり,配列番号68のアミノ酸配列を含むものはIgG4タイプの抗体である。いずれも可変領域として配列番号65のアミノ酸配列を含む。
【0241】
また,hTfRに親和性を有するFabであるヒト化抗体のより具体的な実施形態としては,
軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つFab重鎖が配列番号61のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖が配列番号25のアミノ酸配列を含み且つFab重鎖が配列番号61のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖が配列番号27のアミノ酸配列を含み且つFab重鎖が配列番号61のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖が配列番号29のアミノ酸配列を含み且つFab重鎖が配列番号61のアミノ酸配列を含むもの,
が挙げられる。
【0242】
抗hTfR抗体がFabである場合において,別のFc領域をFab重鎖に導入したものの具体的実施例としては,
軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つFc領域を導入したFab重鎖が配列番号71のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖が配列番号25のアミノ酸配列を含み且つFc領域を導入したFab重鎖が配列番号71のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖が配列番号27のアミノ酸配列を含み且つFc領域を導入したFab重鎖が配列番号71のアミノ酸配列を含むもの,
軽鎖が配列番号29のアミノ酸配列を含み且つFc領域を導入したFab重鎖が配列番号71のアミノ酸配列を含むものが挙げられる。
【0243】
上記の別のFc領域をFab重鎖に導入する場合において,例えば,他の蛋白質(A)のC末端側に直接又はリンカー配列を介してFc領域を導入したFab重鎖を結合させることができる。なお,配列番号71で示されるアミノ酸配列を有するものは,ヒト化抗hTfR抗体3NのFab重鎖のアミノ酸配列(アミノ酸配列61)のN末端側に,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号3)が5個連続してなる計25個のアミノ酸配列を含むリンカー配列を介して,配列番号70で示されるアミノ酸配列を有するヒトIgG Fc領域を結合させたものである。
【0244】
hTfRに親和性を有する抗体の好ましい実施形態を上記のごとく例示した。これらの抗hTfR抗体の軽鎖及び重鎖は,その可変領域のアミノ酸配列に,抗hTfR抗体とhTfRの親和性を所望なものに調整等する目的で,適宜,置換,欠失,付加等の変異を加えることができる。
【0245】
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個である。軽鎖の可変領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。
【0246】
軽鎖の可変領域にアミノ酸を付加する場合,軽鎖の可変領域のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は,元の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0247】
特に,軽鎖の各CDR又は各フレームワーク領域のそれぞれのアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個であり,更により好ましくは1個である。各CDR又は各フレームワーク領域のそれぞれのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個であり,更により好ましくは1個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。
【0248】
軽鎖の各CDR又は各フレームワーク領域のそれぞれのアミノ酸配列中にアミノ酸を付加させる場合,当該アミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~5個,より好ましくは1~3個,更に好ましくは1~2個,更により好ましくは1個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた各CDR又は各フレームワーク領域のそれぞれのアミノ酸配列は,元の各CDRのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0249】
重鎖の可変領域である配列番号65で示されるアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個である。重鎖の可変領域のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。
【0250】
重鎖の可変領域である配列番号65で示されるアミノ酸配列にアミノ酸を付加させる場合,重鎖の可変領域のアミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた重鎖の可変領域のアミノ酸配列は,元の重鎖の可変領域のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0251】
特に,配列番号65で示されるアミノ酸配列中の,各CDR又は各フレームワーク領域のそれぞれのアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個であり,更により好ましくは1個である。各CDRのそれぞれのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~5個であり,より好ましくは1~3個であり,更に好ましくは1~2個であり,更により好ましくは1個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。
【0252】
配列番号65で示されるアミノ酸配列中の,各CDR又は各フレームワーク領域のそれぞれのアミノ酸配列中にアミノ酸を付加させる場合,当該アミノ酸配列中若しくはN末端側又はC末端側に,好ましくは1~5個,より好ましくは1~3個,更に好ましくは1~2個,更により好ましくは1個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えた各CDRのそれぞれのアミノ酸配列は,元の各CDRのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の相同性を有し,より好ましくは90%以上の相同性を示し,更に好ましくは,95%以上の相同性を示す。
【0253】
なお,上記のごとく抗hTfR抗体の重鎖の可変領域である配列番号65で示されるアミノ酸配列に,置換,欠失,付加等の変異を加える場合において,元となる配列番号62又は63で示されるCDR1のN末端側から5番目のアミノ酸であるメチオニンと,配列番号64で示されるフレームワーク領域3のN末端側から17番目のアミノ酸であるロイシンは元と同一の位置に保存されることが好ましい。また,重鎖のCDR1及びフレームワーク領域3のアミノ酸配列も元と同一の位置に保存されることが好ましい。
【0254】
上記の抗hTfR抗体の軽鎖の可変領域への変異と,上記の抗hTfR抗体の重鎖の可変領域への変異とを組み合わせて,抗hTfR抗体の軽鎖と重鎖の可変領域の両方に変異を加えることもできる。
【0255】
上記の抗hTfR抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換としては,例えば,芳香族アミノ酸(Phe, Trp,Tyr),脂肪族アミノ酸(Ala,Leu,Ile,Val),極性アミノ酸(Gln,Asn),塩基性アミノ酸(Lys,Arg,His),酸性アミノ酸(Glu,Asp),水酸基を有するアミノ酸(Ser, Thr)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。
【0256】
なお,抗hTfR抗体に変異を加えてC末端又はN末端にアミノ酸を付加した場合,その付加したアミノ酸が,抗hTfR抗体を他の蛋白質(A)と融合させたときに,抗hTfR抗体と他の蛋白質(A)との間に位置することとなった場合,当該付加したアミノ酸はリンカーの一部を構成する。
【0257】
上記に例示したhTfRに親和性を有するヒト化抗体を含む抗体の好ましい実施形態において,抗hTfR抗体の重鎖及び軽鎖のCDRのアミノ酸配列は,抗体がhTfR及びサルTfRに対して特異的な親和性を有するものである限り,特に制限はない。
但し,本発明にあっては,hTfRに対して相対的に高い親和性を有する抗体であって,ヒト及びサルのTfRのいずれにも親和性を有するヒト化抗体は,特に,実施例7に記載の方法により測定したときに,
ヒトのTfRとの解離定数が,好ましくは1X10-10M以下,より好ましくは2.5X10-11M以下,更に好ましくは5X10-12M以下,更により好ましくは1X10-12M以下であるものであり,
サルのTfRとの解離定数が,好ましくは1X10-9M以下,より好ましくは5X10-10M以下,更に好ましくは1X10-10M以下,例えば7.5X10-11M以下であるものである。
例えば,ヒトのTfR及びサルのTfRとの解離定数が,それぞれ,1X10-10M以下及び1X10-9M以下,1X10-11M以下及び5X10-10M以下,5X10-12M以下及び1X10-10M以下,5X10-12M以下及び7.5X10-11M以下,1X10-12M以下及び1X10-10M以下,1X10-12M以下及び7.5X10-11M以下,であるものが挙げられる。ここにおいて,ヒトのTfRとの解離定数に特段明確な下限はないが,例えば,5X10-13M,1X10-13M等とすることができる。また,サルのTfRとの解離定数に特段明確な下限はないが,例えば,5X10-11M,1X10-11M,1X10-12M等とすることができる。抗体が一本鎖抗体であっても同様である。
【0258】
上記の具体的な実施形態として示したhTfRに親和性を有するヒト化抗体と,他の蛋白質(A)との融合蛋白質の具体的な実施形態としては,他の蛋白質(A)が,ヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA),ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S),ヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA),ヒトパルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(hPPT-1),ヒト酸性スフィンゴミエリナーゼ(hASM),ヒトアリルスルファターゼA(hARSA),ヒトヘパランN-スルファターゼ(hSGSH),ヒトグルコセレブロシダーゼ(hGBA),ヒトトリペプチジルペプチダーゼ-1(hTPP-1),ヒトα-N-アセチルグルコサミニダーゼ(hNAGLU),ヒトβ-グルクロニダーゼ(hGUSB),ヒト酸性セラミダーゼ(hAC),ヒトα-L-フコシダーゼ(hFUCA1),及びα-マンノシダーゼ(hLAMAN)であるものが挙げられる。
【0259】
他の蛋白質(A)がヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hGAAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hGAAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hGAAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hGAAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hGAAは配列番号55又は56のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0260】
他の蛋白質(A)がヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hGAAがアミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号57で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hGAAがアミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号58で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,が例示できる。(1)は抗体がIgG1タイプ,(2)は抗体がIgG4タイプのものとなる。また,hGAAは配列番号55のアミノ酸配列を有するものである。
【0261】
ここで,上記(1)において配列番号57に含まれるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号66で示されるものである。つまり,上記(1)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号66のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(2)において配列番号58に含まれるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(2)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。
【0262】
他の蛋白質(A)がヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA)でありヒト化抗体がFab抗体である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hGAAがリンカー配列を介してhTfRのFab重鎖のC末端側又はN末端で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,Fab重鎖のアミノ酸配列が配列番号61で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hGAAがリンカー配列を介してhTfRのFab重鎖のC末端側又はN末端で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,Fab重鎖のアミノ酸配列が配列番号61で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hGAAがリンカー配列を介してhTfRのFab重鎖のC末端側又はN末端で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,Fab重鎖のアミノ酸配列が配列番号61で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hGAAがリンカー配列を介してhTfRのFab重鎖のC末端側又はN末端で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,Fab重鎖のアミノ酸配列が配列番号61で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
【0263】
他の蛋白質(A)がヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA)でありヒト化抗体がFab抗体である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,hGAAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号89で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,が挙げられる。
【0264】
他の蛋白質(A)がヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA)である融合蛋白質はヒト及びサルのTfRのいずれにも親和性を有するものであり,実施例7に記載の方法により測定したときに,
サルのTfRとの解離定数が,好ましくは1X10-10M以下,より好ましくは5X10-11M以下であるものであり,
ヒトのTfRとの解離定数が,好ましくは1X10-10M以下,より好ましくは5X10-11M以下,更に好ましくは1X10-11M以下,更により好ましくは1X10-12M以下であるものである。
例えば,サルのTfR及びヒトのTfRとの解離定数が,それぞれ,1X10-10M以下及び1X10-10M以下,1X10-10M以下及び1X10-11M以下,1X10-10M以下及び1X10-12M以下,5X10-11M以下及び1X10-11M以下,5X10-11M以下及び1X10-11M以下,5X10-11M以下及び1X10-12M以下,であるものが挙げられる。ここにおいて,サルのTfRとの解離定数に特段明確な下限はないが,例えば,1X10-11M,1X10-12M,1X10-13M等とすることができる。ヒトのTfRとの解離定数に特段明確な下限はないが,例えば,1X10-12M,5X10-13M,1X10-13M等とすることができる。抗体が一本鎖抗体であっても同様である。
【0265】
他の蛋白質(A)がヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hI2Sがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hI2Sがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hI2Sがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hI2Sがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。
【0266】
他の蛋白質(A)がヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
hI2Sがアミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号53で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,が例示できる。この場合,抗体はIgG1タイプである。配列番号53に含まれるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は配列番号66で示されるものである。つまり,この融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号66のアミノ酸配列を含むものである。抗体をIgG4タイプとすることも可能であり,この場合は,重鎖を配列番号66のアミノ酸配列を含むものから配列番号68のアミノ酸配列を含むものに置き換えればよい。
【0267】
他の蛋白質(A)がヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)でありヒト化抗体がFab抗体である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hI2Sがリンカー配列を介してhTfRのFab重鎖のC末端側又はN末端で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,Fab重鎖のアミノ酸配列が配列番号61で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hI2Sがリンカー配列を介してhTfRのFab重鎖のC末端側又はN末端で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,Fab重鎖のアミノ酸配列が配列番号61で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hI2Sがリンカー配列を介してhTfRのFab重鎖のC末端側又はN末端で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,Fab重鎖のアミノ酸配列が配列番号61で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hI2Sがリンカー配列を介してhTfRのFab重鎖のC末端側又はN末端で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,Fab重鎖のアミノ酸配列が配列番号61で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
【0268】
他の蛋白質(A)が(hIDUA)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hIDUAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hIDUAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hIDUAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hIDUAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hIDUAは配列番号75又は76のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0269】
他の蛋白質(A)が(hIDUA)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hIDUAが,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号90で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hIDUAが,アミノ酸配列Gly-Serに続いて配列番号3で示されるアミノ酸配列が8回連続する計42個のアミノ酸からなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号91で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hIDUAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号92で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hIDUAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号93で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hIDUAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号94で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)hIDUAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号95で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(7)hIDUAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号96で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(8)配列番号3で示されるアミノ酸配列が6回連続してなるリンカーをC末端側に有するhTfRの重鎖(Fab)が,2回連続してなるアミノ酸配列のC末端側に,hIDUAが結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号97で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(9)配列番号98で示される一本鎖ヒト化抗hTfR抗体番号3N(2)のC末端側で,配列番号3で示されるアミノ酸配列にアミノ酸配列Gly-Glyが続く7個のアミノ酸からなるリンカーを介して,hIDUAが結合するものである,配列番号99で示されるもの,が例示できる。
(1)~(3)は抗体がIgG1タイプのもの,(4)~(9)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0270】
ここで,上記(1)~(3)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(3)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(4)~(9)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(4)~(9)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0271】
他の蛋白質(A)が(hPPT-1)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hPPT-1がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hPPT-1がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hPPT-1がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hPPT-1がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hPPT-1は配列番号77のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0272】
他の蛋白質(A)が(hPPT-1)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hPPT-1が,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号100で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hPPT-1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号101で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hPPT-1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号102で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hPPT-1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号103で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hPPT-1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号104で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)配列番号3で示されるアミノ酸配列が6回連続してなるリンカーをC末端側に有するhTfRの重鎖(Fab)が,2回連続してなるアミノ酸配列のC末端側に,hPPT-1が結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号105で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(1)~(4)は抗体がIgG1タイプのもの,(5)~(6)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0273】
ここで,上記(1)~(4)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(4)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(5)及び(6)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(5)及び(6)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0274】
他の蛋白質(A)が(hASM)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hASMがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hASMがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hASMがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hASMがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hASMは配列番号78のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0275】
他の蛋白質(A)が(hASM)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hASMが,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号106で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hASMが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号107で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hASMが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号108で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hASMが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号109で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hASMが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号110で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)hASMが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号111で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(7)hASMが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号112で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(8)hASMが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号113で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(9)配列番号3で示されるアミノ酸配列が6回連続してなるリンカーをC末端側に有するhTfRの重鎖(Fab)が,2回連続してなるアミノ酸配列のC末端側に,hASMが結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号114で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(1)~(4)は抗体がIgG1タイプのもの,(5)~(9)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0276】
ここで,上記(1)~(4)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(4)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(5)及び(6)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(5)及び(6)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0277】
他の蛋白質(A)が(hARSA)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hARSAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hARSAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hARSAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hARSAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hARSAは配列番号79のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0278】
他の蛋白質(A)が(hARSA)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hARSAが,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号115で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hARSAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号116で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hARSAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号117で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hARSAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号118で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hARSAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号119で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)hARSAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号120で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(7)hARSAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号121で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(8)hARSAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号122で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(9)配列番号3で示されるアミノ酸配列が6回連続してなるリンカーをC末端側に有するhTfRの重鎖(Fab)が,2回連続してなるアミノ酸配列のC末端側に,hARSAが結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号123で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(1)~(4)は抗体がIgG1タイプのもの,(5)~(9)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0279】
ここで,上記(1)~(4)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(4)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(5)~(9)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(5)~(9)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0280】
他の蛋白質(A)が(hSGSH)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hSGSHがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hSGSHがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hSGSHがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hSGSHがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hSGSHは配列番号80のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0281】
他の蛋白質(A)が(hSGSH)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hSGSHが,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号124で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hSGSHが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号125で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hSGSHが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号126で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hSGSHが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号127で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hSGSHが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号128で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)配列番号3で示されるアミノ酸配列が6回連続してなるリンカーをC末端側に有するhTfRの重鎖(Fab)が,2回連続してなるアミノ酸配列のC末端側に,hSGSHが結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号129で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(1)~(4)は抗体がIgG1タイプのもの,(5)及び(6)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0282】
ここで,上記(1)~(4)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(4)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(5)及び(6)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(5)及び(6)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0283】
他の蛋白質(A)が(hGBA)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hGBAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hGBAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hGBAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hGBAがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hGBAは配列番号81のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0284】
他の蛋白質(A)が(hGBA)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hGBAが,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号130で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hGBAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号131で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hGBAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号132で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hGBAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号133で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hGBAが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号134で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)配列番号3で示されるアミノ酸配列が6回連続してなるリンカーをC末端側に有するhTfRの重鎖(Fab)が,2回連続してなるアミノ酸配列のC末端側に,hGBAが結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号135で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(1)~(4)は抗体がIgG1タイプのもの,(5)及び(6)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0285】
ここで,上記(1)~(4)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(4)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(5)及び(6)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(5)及び(6)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0286】
他の蛋白質(A)が(hTPP-1)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hTPP-1がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hTPP-1がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hTPP-1がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hTPP-1がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hTPP-1は配列番号82のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0287】
他の蛋白質(A)が(hTPP-1)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hTPP-1が,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号136で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hTPP-1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号137で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hTPP-1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号138で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hTPP-1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号139で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hTPP-1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号140で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)配列番号3で示されるアミノ酸配列が6回連続してなるリンカーをC末端側に有するhTfRの重鎖(Fab)が,2回連続してなるアミノ酸配列のC末端側に,hTPP-1が結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号141で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(1)~(4)は抗体がIgG1タイプのもの,(5)及び(6)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0288】
ここで,上記(1)~(4)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(4)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(5)及び(6)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(5)及び(6)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0289】
他の蛋白質(A)が(hNAGLU)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hNAGLUがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hNAGLUがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hNAGLUがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hNAGLUがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hNAGLUは配列番号83のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0290】
他の蛋白質(A)が(hNAGLU)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hNAGLUが,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号142で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hNAGLUが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号143で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hNAGLUが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号144で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hNAGLUが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号145で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hNAGLUが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号146で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)hNAGLUが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号147で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(7)hNAGLUが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号148で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(8)hNAGLUが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号149で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(1)~(4)は抗体がIgG1タイプのもの,(5)~(8)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0291】
ここで,上記(1)~(4)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(4)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(5)~(8)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(5)~(8)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0292】
他の蛋白質(A)が(hGUSB)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hGUSBがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hGUSBがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hGUSBがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hGUSBがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hGUSBは配列番号84のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0293】
他の蛋白質(A)が(hGUSB)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hGUSBが,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号150で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hGUSBが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号151で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hGUSBが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号152で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hGUSBが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号153で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hGUSBが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号154で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)hGUSBが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号155で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(7)hGUSBが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号156で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(8)hGUSBが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号157で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(1)~(4)は抗体がIgG1タイプのもの,(5)~(8)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0294】
ここで,上記(1)~(4)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(4)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(5)~(8)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(5)~(8)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0295】
他の蛋白質(A)が(hGALC)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hGALCがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hGALCがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hGALCがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hGALCがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hGALCは配列番号85のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0296】
他の蛋白質(A)が(hGALC)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hGALCが,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号158で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hGALCが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号159で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hGALCが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号160で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hGALCが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号161で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hGALCが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号162で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)hGALCが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号163で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(7)hGALCが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号164で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(8)hGALCが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号165で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(1)~(4)は抗体がIgG1タイプのもの,(5)~(8)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0297】
ここで,上記(1)~(4)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(4)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(5)~(8)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(5)~(8)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0298】
他の蛋白質(A)が(hAC)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hACがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hACがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hACがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hACがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hACは配列番86のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0299】
他の蛋白質(A)が(hAC)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hACが,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号166で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hACが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号167で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hACが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号168で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hACが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号169で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hACが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号170で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)hACが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号171で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(7)hACが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号172で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(8)hACが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号173で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(1)~(4)は抗体がIgG1タイプのもの,(5)~(8)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0300】
ここで,上記(1)~(4)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(4)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(5)~(8)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(5)~(8)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0301】
他の蛋白質(A)が(hFUCA1)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hFUCA1がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hFUCA1がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hFUCA1がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hFUCA1がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hFUCA1は配列番号87のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0302】
他の蛋白質(A)が(hFUCA1)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hFUCA1が,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号174で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hFUCA1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号175で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hFUCA1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号176で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hFUCA1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号177で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hFUCA1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号178で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)hFUCA1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号179で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(7)hFUCA1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号180で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(8)hFUCA1が,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号181で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(1)~(4)は抗体がIgG1タイプのもの,(5)~(8)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0303】
ここで,上記(1)~(4)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(4)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(5)~(8)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(5)~(8)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0304】
他の蛋白質(A)が(hLAMAN)である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)hLAMANがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hLAMANがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)hLAMANがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)hLAMANがリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続,又は1~20個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。また,hLAMANは配列番号88のアミノ酸配列を有するもの,又はその変異体である。
【0305】
他の蛋白質(A)が(hLAMAN)である融合蛋白質のより具体的な実施例としては,
(1)hLAMANが,アミノ酸配列Gly-Serを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号182で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)hLAMANが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号183で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(3)hLAMANが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号184で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(4)hLAMANが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号185で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(5)hLAMANが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が3回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号186で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(6)hLAMANが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が5回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号187で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(7)hLAMANが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が10回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号188で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(8)hLAMANが,配列番号3で示されるアミノ酸配列が20回連続してなるリンカーを介してhTfRの重鎖(Fab)のC末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,前者のアミノ酸配列が配列番号189で示されるものであり,後者のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(1)~(4)は抗体がIgG1タイプのもの,(5)~(8)は抗体がFabタイプのものとなる。
【0306】
ここで,上記(1)~(4)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号68で示されるものである。つまり,上記(1)~(4)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖が配列番号68のアミノ酸配列を含むものである。また,上記(5)~(8)におけるhTfRの重鎖のアミノ酸配列は,配列番号61で示されるものである。つまり,上記(5)~(8)の融合蛋白質は,ヒト化抗体として,軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列を含み且つ重鎖(Fab)が配列番号61のアミノ酸配列を含むものである。
【0307】
他の蛋白質(A)がヒトリソソーム酵素である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)ヒトリソソーム酵素がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)ヒトリソソーム酵素がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)ヒトリソソーム酵素がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)ヒトリソソーム酵素がリンカー配列を介してhTfRの重鎖のC末端側又はN末端側で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,重鎖のアミノ酸配列が配列番号66又は68で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
ここで重鎖が配列番号66を有するものである場合の抗体はIgG1タイプのものであり,配列番号68である場合はIgG4タイプのものである。
【0308】
他の蛋白質(A)がヒトリソソーム酵素でありヒト化抗体がFab抗体である融合蛋白質の具体的な実施例としては,
(1)ヒトリソソーム酵素がリンカー配列を介してhTfRのFab重鎖のC末端側又はN末端で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,Fab重鎖のアミノ酸配列が配列番号61で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号23で示されるもの,
(2)ヒトリソソーム酵素がリンカー配列を介してhTfRのFab重鎖のC末端側又はN末端で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,Fab重鎖のアミノ酸配列が配列番号61で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号25で示されるもの,
(3)ヒトリソソーム酵素がリンカー配列を介してhTfRのFab重鎖のC末端側又はN末端で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,Fab重鎖のアミノ酸配列が配列番号61で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号27で示されるもの,
(4)ヒトリソソーム酵素がリンカー配列を介してhTfRのFab重鎖のC末端側又はN末端で結合してなるものと,hTfRの軽鎖とからなり,Fab重鎖のアミノ酸配列が配列番号61で示されるものであり,軽鎖のアミノ酸配列が配列番号29で示されるもの,が挙げられる。ここで,リンカー配列は,1個のグリシン,1個のセリン,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号3のアミノ酸配列,配列番号4のアミノ酸配列,配列番号5のアミノ酸配列,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなるものが好適である。
【0309】
上記以外のヒトリソソーム酵素も,hGAA及びhI2Sで示したものと同様の態様で,hTfR抗体との融合蛋白質とすることができる。ヒトリソソーム酵素としては,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-ガラクトシダーゼ A,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1及びCLN2が挙げられるが,これらに限られるものではない。また,リソソーム以外の蛋白質を融合させる場合も同様に融合蛋白質を構築し得る。
【0310】
他の蛋白質(A)が上記のヒトリソソーム酵素である融合蛋白質はヒト及びサルのTfRのいずれにも親和性を有するものであり,実施例7に記載の方法により測定したときに,
サルのTfRとの解離定数が,好ましくは1X10-10M以下,より好ましくは5X10-11M以下であるものであり,
ヒトのTfRとの解離定数が,好ましくは1X10-10M以下,より好ましくは5X10-11M以下,更に好ましくは1X10-11M以下,更により好ましくは1X10-12M以下であるものである。
例えば,サルのTfR及びヒトのTfRとの解離定数が,それぞれ,1X10-10M以下及び1X10-10M以下,1X10-10M以下及び1X10-11M以下,1X10-10M以下及び1X10-12M以下,5X10-11M以下及び1X10-11M以下,5X10-11M以下及び1X10-11M以下,5X10-11M以下及び1X10-12M以下,であるものが挙げられる。ここにおいて,サルのTfRとの解離定数に特段明確な下限はないが,例えば,1X10-11M,1X10-12M,1X10-13M等とすることができる。ヒトのTfRとの解離定数に特段明確な下限はないが,例えば,1X10-12M,5X10-13M,1X10-13M等とすることができる。抗体が一本鎖抗体であっても同様である。
【0311】
本発明の抗hTfR抗体は,生理活性蛋白質又は薬理活性低分子化合物の分子と結合させることにより,中枢神経系の疾患状態の治療のための血中投与用薬剤の製造のために使用することができる。また,生理活性蛋白質又は薬理活性低分子化合物の分子と結合させた抗hTfR抗体は,生理活性蛋白質又は薬理活性低分子化合物の治療上有効量を,中枢神経系の疾患の患者に血中投与(点滴静注等の静脈注射を含む)することを含む,治療方法において使用することができる。血中投与された生理活性蛋白質又は薬理活性低分子化合物の分子と結合させた抗hTfR抗体は,脳内に到達する他,hTfRを発現する他の臓器・器官にも到達することができる。また,当該薬剤は,疾患の発症を予防するために用いることもできる。
【0312】
特に,本発明の抗hTfR抗体は,ヒト酸性α-グルコシダーゼ(hGAA)と結合させることにより,hGAAに血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させることができるので,ポンペ病に伴う中枢神経系の疾患状態の治療のための血中投与用薬剤の製造のために使用することができる。また,hGAAと結合させた抗hTfR抗体は,ポンペ病に伴う中枢神経系の疾患状態の治療上有効量を,ポンペ病の患者に血中投与(点滴静注等の静脈注射を含む)することを含む,治療方法において使用することができる。血中投与されたhGAAと結合させた抗hTfR抗体は,脳内に到達する他,hTfRを発現する他の臓器・器官にも到達することができる。また,当該薬剤は,当該疾患状態の発症を予防するために用いることもできる。
【0313】
また特に,本発明の抗hTfR抗体は,ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hI2S)と結合させることにより,hI2Sに血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させることができるので,ハンター症候群に伴う中枢神経系の疾患状態の治療のための血中投与用薬剤の製造のために使用することができる。また,hI2Sと結合させた抗hTfR抗体は,ハンター症候群に伴う中枢神経系の疾患状態の治療上有効量を,ハンター症候群の患者に血中投与(点滴静注等の静脈注射を含む)することを含む,治療方法において使用することができる。血中投与されたhI2Sと結合させた抗hTfR抗体は,脳内に到達する他,hTfRを発現する他の臓器・器官にも到達することができる。また,当該薬剤は,当該疾患状態の発症を予防するために用いることもできる。
【0314】
また特に,本発明の抗hTfR抗体は,ヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)と結合させることにより,hIDUAに血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させることができるので,ハーラー症候群に伴う中枢神経系の疾患状態の治療のための血中投与用薬剤の製造のために使用することができる。また,hIDUAと結合させた抗hTfR抗体は,ハーラー症候群に伴う中枢神経系の疾患状態の治療上有効量を,ハーラー症候群の患者に血中投与(点滴静注等の静脈注射を含む)することを含む,治療方法において使用することができる。血中投与されたhIDUAと結合させた抗hTfR抗体は,脳内に到達する他,hIDUAを発現する他の臓器・器官にも到達することができる。また,当該薬剤は,当該疾患状態の発症を予防するために用いることもできる。
【0315】
また特に,本発明の抗hTfR抗体は,ヒトリソソーム酵素と結合させることにより,ヒトリソソーム酵素に血液脳関門を通過させて脳内で機能を発揮させることができるので,ヒトリソソーム酵素の欠損を原因とする中枢神経系の疾患状態の治療のための血中投与用薬剤の製造のために使用することができる。また,ヒトリソソーム酵素と結合させた抗hTfR抗体は,ヒトリソソーム酵素の欠損を原因とする中枢神経系の疾患状態の治療上有効量を,該当する患者に血中投与(点滴静注等の静脈注射を含む)することを含む,治療方法において使用することができる。血中投与されたヒトリソソーム酵素と結合させた抗hTfR抗体は,脳内に到達する他,ヒトリソソーム酵素を発現する他の臓器・器官にも到達することができる。また,当該薬剤は,当該疾患状態の発症を予防するために用いることもできる。
【0316】
本発明の抗hTfR抗体と結合させた蛋白質,低分子化合物等は,血中に投与して中枢神経系(CNS)において薬効を発揮させるべき薬剤として使用することができる。かかる薬剤は,一般に点滴静脈注射等による静脈注射,皮下注射,筋肉注射により患者に投与されるが,投与経路には特に限定はない。
【0317】
本発明の抗hTfR抗体と結合させた蛋白質,低分子化合物等は,薬剤として,凍結乾燥品,又は水性液剤等の形態で医療機関に供給することができる。水性液剤の場合,薬剤を,安定化剤,緩衝剤,等張化剤を含有する溶液に予め溶解したものを,バイアル又は注射器に封入した製剤として供給できる。注射器に封入された製剤は,一般にプレフィルドシリンジ製剤と呼称される。プレフィルドシリンジ製剤とすることにより,患者自身による薬剤の投与を簡易にすることができる。
【0318】
水性液剤として供給される場合,水性液剤に含有される抗hTfR抗体と結合させた蛋白質,低分子化合物等の濃度は,用法用量によって適宜調整されるべきものであるが,例えば1~4mg/mLである。また,水性液剤に含有される安定化剤は,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,非イオン性界面活性剤が好適に使用できる。このような非イオン性界面活性剤としては,ポリソルベート,ポロキサマー等を単独で又はこれらを組合せて使用できる。ポリソルベートとしてはポリソルベート20,ポリソルベート80が,ポロキサマーとしてはポロキサマー188(ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール)が特に好適である。また,水性液剤に含有される非イオン性界面活性剤の濃度は,0.01~1mg/mLであることが好ましく,0.01~0.5mg/mLであることがより好ましく,0.1~0.5mg/mLであることが更に好ましい。安定化剤として,ヒスチジン,アルギニン,メチオニン,グリシン等のアミノ酸を使用することもできる。安定化剤として使用する場合の,水性液剤に含有されるアミノ酸の濃度は,0.1~40mg/mLであることが好ましく,0.2~5mg/mLであることがより好ましく,0.5~4mg/mLであることが更に好ましい。水性液剤に含有される緩衝剤は,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,リン酸塩緩衝剤が好ましく,特にリン酸ナトリウム緩衝剤が好ましい。緩衝剤としてリン酸ナトリウム緩衝剤を使用する場合の,リン酸ナトリウムの濃度は,好ましくは0.01~0.04Mである。また,緩衝剤によって調整される水性液剤のpHは,好ましくは5.5~7.2である。水性液剤に含有される等張化剤は,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,塩化ナトリウム,マンニトールを単独で又は組み合わせて等張化剤として好適に使用できる。
【実施例0319】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。なお,実施例1~15は,参考例(抗体番号3)についてのものである。
【0320】
〔実施例1〕hTfR発現用ベクターの構築
ヒト脾臓Quick Clone cDNA(Clontech社)を鋳型として,プライマーhTfR5’(配列番号41)及びプライマーhTfR3’(配列番号42)を用いて,PCRによりヒトトランスフェリン受容体(hTfR)をコードする遺伝子断片を増幅させた。増幅させたhTfRをコードする遺伝子断片を,MluIとNotIで消化し,pCI-neoベクター(Promega社)のMluIとNotI間に挿入した。得られたベクターを,pCI-neo(hTfR)と名付けた。次いで,このベクターを,MluIとNotIで消化して,hTfRをコードする遺伝子断片を切り出し,国際公開公報(WO2012/063799)に記載された発現ベクターであるpE-mIRES-GS-puroのMluIとNotIの間に組み込むことにより,hTfR発現用ベクターであるpE-mIRES-GS-puro(hTfR)を構築した。
【0321】
〔実施例2〕組換えhTfRの作製
エレクトロポレーション法により,CHO-K1細胞にpE-mIRES-GS-puro(hTfR)を導入した後,メチオニンスルホキシミン(MSX)及びピューロマイシンを含むCD OptiCHOTM培地(Invitrogen社)を用いて細胞の選択培養を行い,組換えhTfR発現細胞を得た。この組換えhTfR発現細胞を培養して,組換えhTfRを調製した。
【0322】
〔実施例3〕組換えhTfRを用いたマウスの免疫
実施例2で調製した組換えhTfRを抗原として用いてマウスを免疫した。免疫は,マウスに抗原を静脈内投与又は腹腔投与内して行った。
【0323】
〔実施例4〕ハイブリドーマの作製
最後に細胞を投与した日の約1週間後にマウスの脾臓を摘出してホモジナイズし,脾細胞を分離した。得られた脾細胞をマウスミエローマ細胞株(P3.X63.Ag8.653)とポリエチレングリコール法を用いて細胞融合させた。細胞融合終了後,(1X)HATサプリメント(Life Technologies社)及び10% Ultra low IgGウシ胎児血清(Life Technologies社)を含むRPMI1640培地に細胞を懸濁させ,細胞懸濁液を96ウェルプレート20枚に200 μL/ウェルずつ分注した。炭酸ガス培養器(37℃,5% CO2)で細胞を10日間培養した後,各ウェルを顕微鏡下で観察し,単一のコロニーが存在するウェルを選択した。
【0324】
各ウェルの細胞がほぼコンフルエントになった時点で培養上清を回収し,これをハイブリドーマの培養上清として,以下のスクリーニングに供した。
【0325】
〔実施例5〕高親和性抗体産生細胞株のスクリーニング
組換えhTfR溶液(Sino Biologics社)を50 mM炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5~9.6)で希釈して5μg/mLの濃度に調整し,これを固相溶液とした。固相溶液を,Nunc MaxiSorpTM flat-bottom 96ウェルプレート(基材:ポリスチレン,Nunc社)の各ウェルに50μLずつ添加した後,プレートを室温で1時間静置し,組換えhTfRをプレートに吸着させて固定した。固相溶液を捨て,各ウェルを250μLの洗浄液(PBS-T: 0.05% Tween20を含有するPBS)で3回洗浄した後,各ウェルにブロッキング液(1% BSAを含有するPBS)を200μLずつ添加し,プレートを室温で1時間静置した。
【0326】
ブロッキング液を捨て,各ウェルを250μLのPBS-Tで3回洗浄した後,各ウェルにハイブリドーマの培養上清を50μLずつ添加し,プレートを室温で1時間静置し,培養上清に含まれるマウス抗hTfR抗体を組換えhTfRに結合させた。このとき,コントロールとして,マウス抗hTfR抗体を産生しないハイブリドーマの培養上清をウェルに50μL添加したものを置いた。また,各培養上清を加えたウェルの横のウェルに,ハイブリドーマの培養用培地を50μL添加したものを置き,これをモックウェルとした。測定はn=2で実施した。次いで,溶液を捨て,各ウェルを250μLのPBS-Tで3回洗浄した。
【0327】
上記の各ウェルに100μLのHRP標識ヤギ抗マウスイムノグロブリン抗体溶液(プロメガ社)を添加し,プレートを室温で30分間静置した。次いで,溶液を捨て,各ウェルを250μLのPBS-Tで3回洗浄した。次いで,各ウェルに50μLの発色用基質液TMB Stabilized Substrate for Horseradish Peroxidase(プロメガ社)を添加し,室温で10~20分間静置した。次いで,各ウェルに100μLの停止液(2N硫酸)を添加した後,プレートリーダーを用いて各ウェルの450nmにおける吸光度を測定した。各培養上清及びコントロールの2つのウェルの平均値をとり,これらの平均値から,各培養上清及びコントロール毎に置いた2つのモックウェルの平均値をそれぞれ減じたものを測定値とした。
【0328】
高い測定値を示したウェルに添加した培養上清に対応する14種類のハイブリドーマ細胞を,hTfRに対して高親和性を示す抗体(高親和性抗hTfR抗体)を産生する細胞株(高親和性抗体産生細胞株)として選択した。これら14種の細胞株を,クローン1株~クローン14株と番号付けた。これら細胞株からクローン3株を選択し,以下の実験に用いた。また,クローン3株が産生する抗hTfR抗体を,抗hTfR抗体番号3とした。
【0329】
〔実施例6〕高親和性抗hTfR抗体の可変領域のアミノ酸配列の解析
実施例5で選択したクローン3株からcDNAを調製し,このcDNAを鋳型として抗体の軽鎖及び重鎖をコードする遺伝子を増幅させた。増幅させた遺伝子の塩基配列を翻訳し,この細胞株の産生する抗hTfR抗体番号3の抗体について,軽鎖及び重鎖の可変領域のアミノ酸配列を決定した。
【0330】
抗hTfR抗体番号3は,軽鎖の可変領域に配列番号48に記載のアミノ酸配列と,重鎖の可変領域に配列番号49に記載のアミノ酸配列とを含むものであった。また,その軽鎖の可変領域は,CDR1に配列番号6又は7,CDR2に配列番号8又は9,及びCDR3に配列番号10に記載のアミノ酸配列を含んでなり,その重鎖の可変領域は,CDR1に配列番号11又は12,CDR2に配列番号13又は14,及びCDR3に配列番号15又は16に記載のアミノ酸配列を含んでなるものであった。但し,CDRは上記のアミノ酸配列に限られず,これらのアミノ酸配列を含む領域,これらのアミノ酸配列の一部を含む連続した3個以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列もCDRとすることができると考えられた。
【0331】
抗hTfR抗体番号3の,軽鎖の可変領域のCDR1~3と重鎖の可変領域のCDR1~3に含まれるアミノ酸配列の配列番号を,表1にまとめて示す。但し,表1は各CDRのアミノ酸配列を例示するものであり,各CDRのアミノ酸配列は表1に記載のアミノ酸配列に限られるものではなく,これらのアミノ酸配列を含む領域のアミノ酸配列,これらのアミノ酸配列の一部を含む連続した3個以上のアミノ酸からなるアミノ酸配列もCDRとし得ると考えられる。
【0332】
【0333】
〔実施例7〕抗hTfR抗体のヒトTfR及びサルTfRへの親和性の測定
抗hTfR抗体とヒトTfR及びサルTfRへの親和性の測定は,バイオレイヤー干渉法(BioLayer Interferometry:BLI)を用いた生体分子相互作用解析システムであるOctetRED96(ForteBio社,a division of Pall Corporation)を用いて実施した。バイオレイヤー干渉法の基本原理について,簡単に説明する。センサーチップ表面に固定された生体分子の層(レイヤー)に特定波長の光を投射したとき,生体分子のレイヤーと内部の参照となるレイヤーの二つの表面から光が反射され,光の干渉波が生じる。測定試料中の分子がセンサーチップ表面の生体分子に結合することにより,センサー先端のレイヤーの厚みが増加し,干渉波に波長シフトが生じる。この波長シフトの変化を測定することにより,センサーチップ表面に固定された生体分子に結合する分子数の定量及び速度論的解析をリアルタイムで行うことができる。測定は,概ねOctetRED96に添付の操作マニュアルに従って実施した。ヒトTfRとしては,N末端にヒスチジンタグが付加した,配列番号1に示されるアミノ酸配列の中でN末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの,hTfRの細胞外領域のアミノ酸配列を有する組換えヒトTfR(rヒトTfR:Sino Biological社)を用いた。サルTfRとしては,N末端にヒスチジンタグが付加した,配列番号2に示されるアミノ酸配列の中でN末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの,カニクイザルのTfRの細胞外領域のアミノ酸配列を有する組換えサルTfR(rサルTfR:Sino Biological社)を用いた。
【0334】
実施例5で選択したクローン3株を,細胞濃度が約2X105 個/mLとなるように,(1X)HATサプリメント(Life Technologies社)及び10% Ultra low IgGウシ胎児血清(Life Technologies社)を含むRPMI1640培地で希釈し,1Lの三角フラスコに200mLの細胞懸濁液を加え,37℃で,5%CO2と95%空気からなる湿潤環境で約70rpmの撹拌速度で6~7日間培養した。培養液を遠心操作した後に,0.22μmフィルター(Millipore社)でろ過して,培養上清を回収した。回収した培養上清を,予め150mM NaClを含むカラム体積の3倍容の20mM Tris緩衝液(pH8.0)で平衡化しておいたProtein Gカラム(カラム体積:1mL,GEヘルスケア社)に負荷した。次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液によりカラムを洗浄した後,150mM NaClを含むカラム体積の4倍容の50mMグリシン緩衝液(pH2.8)で,吸着した抗体を溶出させ,溶出画分を採取した。溶出画分に1M Tris緩衝液(pH8.0)を添加してpH7.0に調整した。これを抗hTfR抗体番号3の精製品としてとして以下の実験に用いた。
【0335】
抗hTfR抗体番号3の精製品を,HBS-P+(150mM NaCl,50μM EDTA及び0.05% Surfactant P20を含む10mM HEPES)で2段階希釈し,0.78125~50nM(0.117~7.5μg/mL)の7段階の濃度の抗体溶液を調製した。この抗体溶液をサンプル溶液とした。rヒトTfRとrサルTfRとを,それぞれHBS-P+で希釈し,25μg/mLの溶液を調製し,それぞれrヒトTfR-ECD(Histag)溶液及びrサルTfR-ECD(Histag)溶液とした。
【0336】
上記2段階希釈して調製したサンプル溶液を,96well plate, black(greiner bio-one社)に200μL/ウェルずつ添加した。また,上記調製したrヒトTfR-ECD(Histag)溶液及びrサルTfR-ECD(Histag)溶液を,所定のウェルにそれぞれ200μL/ウェルずつ添加した。ベースライン,解離用及び洗浄用のウェルには,HBS-P+を200μL/ウェルずつ添加した。再生用のウェルには,10mM Glycine-HCl(pH1.7)を200μL/ウェルずつ添加した。活性化用のウェルには,0.5mM NiCl2溶液を200μL/ウェルずつ添加した。このプレートと,バイオセンサー(Biosensor/Ni-NTA:ForteBio社,a division of Pall Corporation)を,OctetRED96の所定の位置に設置した。
【0337】
OctetRED96を下記の表2に示す条件で作動させてデータを取得後,OctetRED96付属の解析ソフトウェアを用いて,結合反応曲線を1:1結合モデルあるいは2:1結合モデルにフィッティングし,抗hTfR抗体と,rヒトTfR及びrサルTfRに対する会合速度定数(kon)及び解離速度定数(koff)を測定し,解離定数(KD)を算出した。なお,測定は25~30℃の温度下で実施した。
【0338】
【0339】
表3に抗hTfR抗体番号3のヒトTfR及びサルTfRに対する会合速度定数(kon)及び解離速度定数(koff)の測定結果,及び解離定数(KD)を示す。
【0340】
【0341】
抗hTfR抗体のヒトTfRへの親和性の測定の結果,抗hTfR抗体番号3のヒトTfRとの解離定数は1X10-12M以下であり,サルTfRとの解離定数も1X10-12M以下であった。これらの結果は,抗hTfR抗体番号3がヒトTfRのみならずサルTfRとも高い親和性を有する抗体であることを示す。
【0342】
〔実施例7-2〕抗hTfR抗体のマウスを用いた脳移行評価
次いで,抗hTfR抗体番号3について,抗体がBBBを通過して脳内に移行することを,マウストランスフェリン受容体の細胞外領域をコードする遺伝子をヒトトランスフェリン受容体遺伝子の細胞外領域をコードする遺伝子に置換したhTfRノックインマウス(hTfR-KIマウス)を用いて評価した。hTfR-KIマウスは,概ね下記の方法で作製した。また,抗hTfR抗体番号3としては,実施例7で調製した精製品を用いた。
【0343】
細胞内領域がマウスhTfRのアミノ酸配列であり,細胞外領域がヒトhTfRのアミノ酸配列であるキメラhTfRをコードするcDNAの3’側に,loxP配列で挟み込んだネオマイシン耐性遺伝子を配置した,配列番号45で示される塩基配列を有するDNA断片を化学的に合成した。このDNA断片を,5’アーム配列として配列番号46で示される塩基配列,3’アーム配列として配列番号47で示される塩基配列を有するターゲッティングベクターに,常法により組み込み,これをマウスES細胞にエレクトロポレーション法により導入した。遺伝子導入後のマウスES細胞を,ネオマイシン存在下で選択培養し,ターゲッティングベクターが相同組換えにより染色体に組み込まれたマウスES細胞を選択した。得られた遺伝子組換えマウスES細胞を,ICRマウスの8細胞期胚(宿主胚)へ注入し,精管結紮を行ったマウスとの交配によって得られた偽妊娠マウス(レシピエントマウス)に移植した。得られた産仔(キメラマウス)について毛色判定を行い,ES細胞が生体の形成に高効率で寄与した個体,すなわち全体毛に対する白色毛の占める比率の高い個体を選別した。このキメラマウス個体をICRマウスと掛け合わせてF1マウスを得た。白色のF1マウスを選別し,尻尾の組織より抽出したDNAを解析し,染色体上でマウストランスフェリン受容体遺伝子がキメラhTfRに置き換わっているマウスをhTfR-KIマウスとした。
【0344】
抗hTfR抗体番号3の精製品を,Fluorescein Labeling Kit-NH2(同仁化学研究所)を用いて,添付の操作マニュアルに従ってフルオレセインイソチオシアネート(FITC)により蛍光標識した。このFITC蛍光標識した抗体を含むPBS溶液を調製した。この抗体溶液を,投与される抗hTfR抗体の用量が3mg/kgとなるように,1匹のhTfR-KIマウス(雄,10~12週齢)に静脈注射した。また,コントロールとして,同様にして調製したFITC蛍光標識したマウスIgG1(シグマ社)を含むPBS溶液を,3mg/kgの用量で1匹のhTfR-KIマウス(雄,10~12週齢)に静脈注射した。静脈注射してから約8時間後に生理食塩液で全身灌流し,脳(大脳と小脳を含む部分)を採取した。摘出した脳の重量(湿重量)を測定した後,Protease Inhibitor Cocktail(シグマ社)を含むT-PER(Thermo Fisher Scientific社)を添加して脳組織をホモジネートした。ホモジネートを遠心して上清を回収し,上清中に含まれるFITC蛍光標識した抗体の量を以下の方法で測定した。まず,抗FITC Antibody(Bethyl社)をHigh Bind Plate(Meso Scale Diagnostics社)の各ウェルに10μLずつ添加し,1時間静置してプレートに固定させた。次いで,各ウェルにSuperBlock Blocking buffer in PBS(Thermo Fisher Scientific社)を150μLずつ添加し,1時間振盪してプレートをブロッキングした。次いで,各ウェルに脳組織のホモジネートの上清を25μLずつ添加し,1時間振盪した。次いで,各ウェルにSULFO-TAG Anti-Mouse Antibody(Goat)(Meso Scale Diagnostics社)を25μLずつ添加し,1時間振盪した。次いで,各ウェルにRead buffer T(Meso Scale Diagnostics社)を150μLずつ添加し,SectorTM Imager 6000 readerを用いて各ウェルからの発光量を測定した。濃度既知のFITC蛍光標識した抗hTfR抗体の標準試料の測定値から検量線を作成し,これに各検体の測定値を内挿することにより,脳のグラム重量(湿重量)当たりに含まれる抗hTfR抗体の量(脳組織中の抗hTfR抗体の濃度)を算出した。その結果を表4に示す。
【0345】
コントロールと比較して,抗hTfR抗体番号3の脳組織中の濃度は,約27.8倍であった。この結果は,抗hTfR抗体番号3が,BBBを積極的に通過して脳内に移行する性質を有することを示すものである。
【0346】
【0347】
〔実施例8〕抗hTfR抗体のサルを用いた薬物動態解析
抗hTfR抗体番号3を,5.0mg/kgの用量で雄性カニクイザルに単回静脈内投与し,投与8時間後に生理食塩液で全身潅流を実施した。また,陰性対照として,抗hTfR抗体を非投与の1匹の個体を同様に全身潅流した。潅流後,延髄を含む脳組織を摘出した。この脳組織を用いて,以下の抗hTfR抗体の濃度測定及び免疫組織化学染色を行った。抗hTfR抗体番号3としては,実施例7に記載の抗体の精製品を用いた。
【0348】
脳組織中の抗hTfR抗体の濃度測定は,概ね以下の手順で行った。採取した組織を,脳組織を大脳,小脳,海馬及び延髄に分けてから,それぞれProtease Inhibitor Cocktail(Sigma-Aldrich社)を含むRIPA Buffer(和光純薬工業株式会社)でホモジネートし遠心して上清を回収した。Affinipure Goat Anti mouse IgG Fcγ pAb(Jackson ImmunoResearch社)をHigh Bind Plate(Meso Scale Diagnostics社)の各ウェルに10μLずつ添加し,1時間静置してプレートに固定した。次いで,各ウェルにSuperBlock blocking buffer in PBS(Thermo Fisher Scientific社)を150μLずつ添加し,1時間振盪し,プレートをブロッキングした。次いで,各ウェルに脳組織のホモジネートの上清を25μLずつ添加し,1時間振盪した。次いで,各ウェルにAffinipure Goat Anti mouse IgG Fab-Biotin(Jackson ImmunoResearch社)を25μLずつ添加し,1時間振盪した。次いで,各ウェルにSULFO-Tag-Streptavidin(Meso Scale Diagnostics社)を25μLずつ添加し,30分振盪した。各ウェルにRead buffer T(Meso Scale Diagnostics社)を150μLずつ添加し,SectorTM Imager 6000 reader(Meso Scale Diagnostics社)を用いて各ウェルからの発光量を測定した。濃度既知の抗hTfR抗体の標準試料の測定値から検量線を作成し,これに各検体の測定値を内挿することにより,各脳組織のグラム重量(湿重量)当たりに含まれる抗hTfR抗体の量(脳組織中の抗hTfR抗体の濃度)を算出した。
【0349】
脳組織中の抗hTfR抗体の濃度測定の結果を表5に示す。大脳,小脳,海馬及び延髄のすべてにおいて,抗hTfR抗体番号3の蓄積が認められた。これらの結果は,抗hTfR抗体番号3が血液脳関門を通過して脳組織に蓄積する性質を有することを示すものであり,脳組織内で機能させるべき薬剤をこれらの抗体と結合させることにより,その薬剤を効率良く脳組織に蓄積させることができること示すものである。
【0350】
【0351】
脳組織中の抗hTfR抗体の免疫組織化学染色は,概ね以下の手順で行った。ティシューテッククライオ3DM(サクラファインテック株式会社)を用いて,採取した組織を-80℃にまで急速冷凍し,組織の凍結ブロックを作製した。この凍結ブロックを4μmに薄切後,MASコートスライドガラス(松浪ガラス株式会社)に貼り付けた。組織薄片に4%パラホルムアルデヒド(和光純薬工業株式会社)を4℃で5分間反応させ,組織薄片をスライドガラス上に固定した。続いて,組織薄片に0.3%過酸化水素水を含むメタノール溶液(和光純薬工業株式会社)を30分間反応させ,内因性ペルオキシダーゼを失活させた。次いでスライドガラスをSuperBlock blocking buffer in PBSに30分間室温で反応させてブロッキングした。次いで,組織薄片にMouse IgG-heavy and light chain Antibody(Bethyl Laboratories社)を1時間室温で反応させた。組織薄片を,DAB基質(3,3’-diaminobenzidine,Vector Laboratories社)で発色させ,マイヤー・ヘマトキシリン(Merck社)で対比染色を行い,脱水,透徹した後に封入し,光学顕微鏡で観察した。
【0352】
図1に大脳皮質の抗hTfR抗体の免疫組織化学染色の結果を示す。抗hTfR抗体番号3を投与したサルの大脳皮質では,血管の特異的な染色が確認された(
図1b)。更に,脳血管外の脳実質領域にも広範に特異的な染色が確認された。一方,コントロールとしておいた抗hTfR抗体を非投与のサルの大脳皮質では染色は認められず,バックグラウンドの染色は殆どないことが示された(
図1a)。
【0353】
図2に海馬の抗hTfR抗体の免疫組織化学染色の結果を示す。抗hTfR抗体番号3を投与したサルの大脳皮質では,血管の特異的な染色が確認された(
図2b)。更に,神経様細胞にも特異的な染色が確認され,また,脳血管外の脳実質領域にも広範に特異的な染色が確認された。一方,コントロールとしておいた抗hTfR抗体を非投与のサルの海馬では染色は認められず,バックグラウンドの染色は殆どないことが示された(
図2a)。
【0354】
図3に小脳の抗hTfR抗体の免疫組織化学染色の結果を示す。抗hTfR抗体番号3を投与したサルの大脳皮質では,血管の特異的な染色が確認された(
図3b)。更に,プルキンエ細胞にも特異的な染色が確認された。一方,コントロールとしておいた抗hTfR抗体を非投与のサルの小脳では染色は認められず,バックグラウンドの染色は殆どないことが示された(
図3a)。
【0355】
以上の大脳,海馬及び小脳の免疫組織化学染色の結果から,抗hTfR抗体番号3は,脳血管内皮表面に存在するhTfRへ結合することができ,且つ,hTfRへの結合後,血液脳関門を通過して脳実質内へ移行し,さらに海馬においては脳実質内から神経様細胞にまで,小脳においてはプルキンエ細胞にまで取り込まれることがわかった。
【0356】
〔実施例9〕ヒト化抗hTfR抗体の作製
抗hTfR抗体番号3の軽鎖及び重鎖の可変領域に含まれるアミノ酸配列のヒト化を試みた。そうして,配列番号17~配列番号22に示されるアミノ酸配列を有するヒト化された軽鎖の可変領域と,配列番号31~配列番号36に示されるアミノ酸配列を有するヒト化された重鎖の可変領域を得た。
【0357】
〔実施例10〕ヒト化抗hTfR抗体をコードする遺伝子の構築
上記の抗hTfR抗体番号3について,それぞれヒト化抗hTfR抗体の軽鎖及び重鎖の可変領域を含む,軽鎖及び重鎖の全長をコードする遺伝子を含むDNA断片を人工的に合成した。このとき,軽鎖の全長をコードする遺伝子の5’側には,5’端から順にMluI配列とリーダーペプチドをコードする配列とを,3’側にはNotI配列を導入した。また,重鎖の全長をコードする遺伝子の5’側には,5’端から順にMluI配列とリーダーペプチドをコードする配列とを,3’側にはNotI配列を導入した。なお,ここで導入したリーダーペプチドは,ヒト化抗体の軽鎖及び重鎖をホスト細胞である哺乳動物細胞で発現させたときに,軽鎖及び重鎖が細胞外に分泌されるように,分泌シグナルとして機能するものである。
【0358】
抗hTfR抗体番号3の軽鎖については,可変領域に配列番号18で示されるアミノ酸配列を有する,配列番号23で示されるアミノ酸配列の軽鎖(ヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖)の全長をコードするDNA断片(配列番号24)を合成した。
【0359】
抗hTfR抗体番号3の軽鎖については,可変領域に配列番号20で示されるアミノ酸配列を有する,配列番号25で示されるアミノ酸配列の軽鎖(ヒト化抗hTfR抗体番号3-2の軽鎖)の全長をコードするDNA断片(配列番号26)と,可変領域に配列番号21で示されるアミノ酸配列を有する,配列番号27で示されるアミノ酸配列の軽鎖(ヒト化抗hTfR抗体番号3-3の軽鎖)の全長をコードするDNA断片(配列番号28)と,可変領域に配列番号22で示されるアミノ酸配列を有する,配列番号29で示されるアミノ酸配列の軽鎖(ヒト化抗hTfR抗体番号3-4の軽鎖)の全長をコードするDNA断片(配列番号30)も合成した。
【0360】
抗hTfR抗体番号3の重鎖については,可変領域に配列番号32で示されるアミノ酸配列を有する,配列番号37で示されるアミノ酸配列の重鎖(ヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖)の全長をコードするDNA断片(配列番号38)を合成した。配列番号38で示されるDNA断片にコードされるヒト化抗hTfR抗体の重鎖はIgG1である。
【0361】
更に,抗hTfR抗体番号3の重鎖については,可変領域に配列番号32で示されるアミノ酸配列を有する,配列番号39で示されるアミノ酸配列の重鎖(ヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖IgG4)の全長をコードするDNA断片(配列番号40)を合成した。この配列番号40で示されるDNA断片にコードされるヒト化抗hTfR抗体の重鎖はIgG4である。
【0362】
〔実施例11〕ヒト化抗hTfR抗体発現ベクターの構築
pEF/myc/nucベクター(インビトロジェン社)を,KpnIとNcoIで消化し,EF-1αプロモーター及びその第一イントロンを含む領域を切り出し,これをT4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理した。pCI-neo(インビトロジェン社)を,BglII及びEcoRIで消化して,CMVのエンハンサー/プロモーター及びイントロンを含む領域を切除した後に,T4 DNAポリメラーゼで平滑末端化処理した。これに,上記のEF-1αプロモーター及びその第一イントロンを含む領域を挿入して,pE-neoベクターを構築した。pE-neoベクターを,SfiI及びBstXIで消化し,ネオマイシン耐性遺伝子を含む約1kbpの領域を切除した。pcDNA3.1/Hygro(+)(インビトロジェン社)を鋳型にしてプライマーHyg-Sfi5’(配列番号43)及びプライマーHyg-BstX3’(配列番号44)を用いて,PCR反応によりハイグロマイシン遺伝子を増幅した。増幅したハイグロマイシン遺伝子を,SfiI及びBstXIで消化し,上記のネオマイシン耐性遺伝子を切除したpE-neoベクターに挿入して,pE-hygrベクターを構築した。
【0363】
pE-hygrベクター及びpE-neoベクターをそれぞれMluIとNotIで消化した。実施例10で合成したヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖をコードするDNA断片(配列番号24)と重鎖をコードするDNA断片(配列番号38)をMluIとNotIで消化し,それぞれpE-hygrベクターとpE-neoベクターのMluI-NotI間に挿入した。得られたベクターを,それぞれヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖発現用ベクターのpE-hygr(LC3),ヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖発現用ベクターのpE-neo(HC3)として以下の実験に用いた。
【0364】
更に,抗hTfR抗体番号3の軽鎖については,実施例10で合成したヒト化抗hTfR抗体番号3-2の軽鎖をコードするDNA断片(配列番号26),ヒト化抗hTfR抗体番号3-3の軽鎖をコードするDNA断片(配列番号28),及びヒト化抗hTfR抗体番号3-4の軽鎖をコードするDNA断片(配列番号30)をMluIとNotIで消化し,pE-hygrベクターのMluI-NotI間に挿入し,それぞれヒト化抗hTfR抗体番号3-2の軽鎖発現用ベクターのpE-hygr(LC3-2),ヒト化抗hTfR抗体番号3-3の軽鎖発現用ベクターのpE-hygr(LC3-3),及びヒト化抗hTfR抗体番号3-4の軽鎖発現用ベクターのpE-hygr(LC3-4)を構築した。
【0365】
更に同様に,抗hTfR抗体番号3の重鎖については,実施例10で合成したヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖IgG4をコードするDNA断片(配列番号40)をMluIとNotIで消化し,pE-neoベクターのMluI-NotI間に挿入し,ヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖IgG4発現用ベクターのpE-neo(HC3-IgG4)を構築した。
【0366】
〔実施例12〕ヒト化抗hTfR抗体発現用細胞の構築
CHO細胞(CHO-K1:American Type Culture Collectionから入手)を,下記の方法により,GenePulser(Bio-Rad社)を用いて,実施例11で構築した軽鎖発現用ベクターpE-hygr(LC3)及び重鎖発現用ベクターpE-neo(HC3)で形質転換した。細胞の形質転換は概ね以下の方法で行った。5X105個のCHO-K1細胞をCD OptiCHOTM培地(ライフテクノロジー社)を添加した3.5cm培養ディッシュに播種し,37℃,5%CO2の条件下で一晩培養した。培地をOpti-MEMTM I培地(ライフテクノロジー社)に交換し,細胞を5X106細胞/mLの密度となるように懸濁した。細胞懸濁液100μLを採取し,これにOpti-MEMTM I培地で100μg/mLに希釈したpE-hygr(LC3)及びpE-neo(HC3)プラスミドDNA溶液を5μLずつ添加した。GenePulser(Bio-Rad社)を用いて,エレクトロポレーションを実施し,細胞にプラスミドを導入した。細胞を,37℃,5%CO2の条件下で一晩培養した後,0.5mg/mLのハイグロマイシン及び0.8mg/mLのG418を添加したCD OptiCHOTM培地で選択培養した。
【0367】
次いで,限界希釈法により,1ウェルあたり1個以下の細胞が播種されるように,96ウェルプレート上に選択培養で選択された細胞を播種し,各細胞が単クローンコロニーを形成するように約10日間培養した。単クローンコロニーが形成されたウェルの培養上清を採取し,培養上清中のヒト化抗体含量をELISA法にて調べ,ヒト化抗体高発現細胞株を選択した。
【0368】
このときのELISA法は概ね以下の方法で実施した。96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc社)の各ウェルに,ヤギ抗ヒトIgGポリクローナル抗体溶液を0.05M炭酸水素塩緩衝液(pH9.6)で4μg/mLに希釈したしたものを100μLずつ加え,室温で少なくとも1時間静置して抗体をプレートに吸着させた。次いで,PBS-Tで各ウェルを3回洗浄後,Starting Block (PBS)Blocking Buffer(Thermo Fisher Scientific社)を各ウェルに200μLずつ加えてプレートを室温で30分静置した。各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した後,PBSに0.5%BSA及び0.05%Tween20を添加したもの(PBS-BT)で適当な濃度に希釈した培養上清又はヒトIgG標準品を,各ウェルに100μLずつ加え,プレートを室温で少なくとも1時間静置した。プレートをPBS-Tで3回洗浄した後,PBS-BTで希釈したHRP標識抗ヒトIgGポリクロ-ナル抗体溶液を,各ウェルに100μLずつ加え,プレートを室温で少なくとも1時間静置した。PBS-Tで各ウェルを3回洗浄後,リン酸-クエン酸緩衝液(pH5.0)を含む0.4mg/mL o-フェニレンジアミンを100μLずつ各ウェルに加え,室温で8~20分間静置した。次いで,1mol/L硫酸を100μLずつ各ウェルに加えて反応を停止させ,96ウェルプレートリーダーを用いて,各ウェルの490nmにおける吸光度を測定した。高い測定値を示したウェルに対応する細胞を,ヒト化抗hTfR抗体番号1の高発現細胞株とした。これを抗体番号3発現株とした。
【0369】
更に同様にして,実施例11で構築した軽鎖発現用ベクターpE-hygr(LC3-2)及び重鎖発現用ベクターpE-neo(HC3)を用いてCHO細胞を形質転換させて,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2の高発現細胞株を得た。これを抗体番号3-2発現株とした。
【0370】
更に同様にして,実施例11で構築した軽鎖発現用ベクターpE-hygr(LC3-3)及び重鎖発現用ベクターpE-neo(HC3)を用いてCHO細胞を形質転換させて,ヒト化抗hTfR抗体番号3-3の高発現細胞株を得た。これを抗体番号3-3発現株とした。
【0371】
更に同様にして,実施例11で構築した軽鎖発現用ベクターpE-hygr(LC3-4)及び重鎖発現用ベクターpE-neo(HC3)を用いてCHO細胞を形質転換させて,ヒト化抗hTfR抗体番号3-4の高発現細胞株を得た。これを抗体番号3-4発現株とした。
【0372】
更に同様にして,実施例11で構築した軽鎖発現用ベクターpE-hygr(LC3)及び重鎖発現用ベクターpE-neo(HC3-IgG4)を用いてCHO細胞を形質転換させて,ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)の高発現細胞株を得た。これを抗体番号3(IgG4)発現株とした。
【0373】
更に同様にして,実施例11で構築した軽鎖発現用ベクターpE-hygr(LC3-2)及び重鎖発現用ベクターpE-neo(HC3-IgG4)を用いてCHO細胞を形質転換させて,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)の高発現細胞株を得た。これを抗体番号3-2(IgG4)発現株とした。
【0374】
〔実施例13〕ヒト化抗hTfR抗体の精製
実施例12で得られた抗体番号3発現株,抗体番号3-2発現株,抗体番号3-3発現株及び抗体番号3-4発現株を,それぞれ細胞濃度が約2X105個/mLとなるように,CD OptiCHOTM培地で希釈し,1Lの三角フラスコに200mLの細胞懸濁液を加え,37℃で,5%CO2と95%空気からなる湿潤環境で約70rpmの撹拌速度で6~7日間培養した。培養上清を遠心操作により回収し,0.22μmフィルター(Millipore社)でろ過して,培養上清とした。回収した培養上清に,150mM NaClを含む5倍容の20mM Tris緩衝液(pH8.0)を添加し,予め150mM NaClを含むカラム体積の3倍容の20mM Tris緩衝液(pH8.0)で平衡化しておいたProtein Aカラム(カラム体積:1mL,Bio-Rad社)に負荷した。次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液によりカラムを洗浄した後,150mM NaClを含むカラム体積の4倍容の50mMグリシン緩衝液(pH2.8)で,吸着したヒト化抗体を溶出させ,溶出画分を採取した。溶出画分に1M Tris緩衝液(pH8.0)を添加して中和して,これを抗体の精製品とした。
【0375】
ここで,抗体番号3発現株の培養上清から精製された抗体は,ヒト化抗hTfR抗体番号3とした。抗体番号3-2発現株の培養上清から精製された抗体は,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2とした。抗体番号3-3発現株の培養上清から精製された抗体は,ヒト化抗hTfR抗体番号3-3とした。また,抗体番号3-4発現株の培養上清から精製された抗体は,ヒト化抗hTfR抗体番号3-4とした。
【0376】
また,実施例12で得られた抗体番号3(IgG4)発現株,及び抗体番号3-2(IgG4)発現株についても上記と同様に培養して,その培養上清から,それぞれ精製されたヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)及びヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)を得た。これら2種の抗体は,実施例15に記載のサルを用いた薬物動態解析に用いた。
【0377】
〔実施例14〕ヒト化抗hTfR抗体のヒトTfR及びサルTfRへの親和性の測定
実施例13で得たヒト化抗hTfR抗体のヒトTfR及びサルTfRへの親和性を,実施例7に記載の方法で測定した。表6にヒト化抗hTfR抗体番号3~3-4(表中,No.3~3-4にそれぞれ対応)のヒトTfRに対する会合速度定数(kon)及び解離速度定数(koff)の測定結果,及び解離定数(KD)を示す。
【0378】
【0379】
表7にヒト化抗hTfR抗体番号3~3-4(表中,抗体番号3~3-4にそれぞれ対応)のサルTfRに対する会合速度定数(kon)及び解離速度定数(koff)の測定結果,及び解離定数(KD)を示す。
【0380】
【0381】
ヒト化抗hTfR抗体番号3~3-4のヒトTfRへの親和性の測定の結果,ヒト化抗hTfR抗体番号3及び3-4抗体で,ヒトTfRとの解離定数は1X10-12M未満であった(表6)。また,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2及び3-3のヒトTfRとの解離定数は,それぞれ2.39X10-11Mと2.09X10-11Mであった。一方,これら抗体に対応するヒト化前の抗hTfR抗体(抗体番号3)のヒトTfRとの解離定数は,1X10-12M未満であった(表3)。これらの結果は,抗hTfR抗体のヒトTfRへの高い親和性が,抗体をヒト化する前後で維持されることを示すものである。
【0382】
次いで,ヒト化抗hTfR抗体のサルTfRへの親和性の測定の結果をみると,ヒト化抗hTfR抗体番号3~3-4は,ヒト化前のこれら抗体に対応する抗hTfR抗体番号3のサルTfRとの解離定数が1X10-12M未満であったものが,ヒト化後は2.60X10-10M~1.91X10-9Mと,サルTfRへの親和性の低下が観察された。ヒト化抗hTfR抗体番号3では,サルTfRへの親和性の低下が観察されたものの,これらの結果は,抗hTfR抗体のサルTfRへの高い親和性は,抗体をヒト化する前後で喪失することなく概ね維持されることを示すものである。
【0383】
〔実施例15〕ヒト化抗hTfR抗体のサルを用いた薬物動態解析
ヒト化抗hTfR抗体番号3,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2,ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)及びヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)の4種の抗体を用いて,サルを用いた薬物動態解析を行った。なお,ヒト化抗hTfR抗体番号3は重鎖がIgG1であり,ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)はヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖を可変領域はそのままにしてIgG4としたものである。また,ヒト化抗hfR抗体番号3-2は重鎖がIgG1であり,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)はヒト化抗hTfR抗体番号3-2の重鎖を可変領域はそのままにしてIgG4としたものである。これら4種の抗体を,それぞれ,5.0mg/kgの用量でそれぞれ雄性カニクイザルに単回静脈内投与し,投与前,投与後2分,30分,2時間,4時間及び8時間後に末梢血を採取し,採血後に全身潅流を実施した。また,陰性対照として,HER2蛋白質に対するヒト化抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチンTM,中外製薬)を,同様にして一匹の個体に投与し,投与前,投与後2分,30分,2時間,4時間及び8時間後に末梢血を採取し,採血後に全身潅流を実施した。潅流後,延髄を含む脳組織,脊髄組織及びその他の組織(肝臓,心臓,脾臓及び骨髄を含む)を摘出した。この脳組織,脊髄組織及びその他の組織を用いて,以下のヒト化抗hTfR抗体の濃度測定及び免疫組織化学染色を行った。
【0384】
組織中及び末梢血中のヒト化抗hTfR抗体の濃度測定は,概ね以下の手順で行った。なお,脳については採取した組織を,大脳皮質,小脳,海馬及び延髄に分けてからヒト化抗hTfR抗体の濃度測定を行った。採取した組織を,それぞれProtease Inhibitor Cocktail(Sigma-Aldrich社)を含むRIPA Buffer(和光純薬工業株式会社)でホモジネートし遠心して上清を回収した。末梢血については血清を分離した。Anti-Human Kappa Light Chain Goat IgG Biotin(株式会社免疫生物研究所),Sulfo- tag anti-human IgG (H+L) antibody(Bethyl社)及び脳組織ホモジネートをSuperBlock blocking buffer in PBS(Thermo Fisher Scientific社)でブロッキングを実施したストレプトアビジンプレート(Meso Scale Diagnostics社)に添加し,1時間振盪してプレートに固定した。次いで,各ウェルにRead buffer T(Meso Scale Diagnostics社)を150μLずつ添加し,SectorTM Imager 6000 readerを用いて各ウェルからの発光量を測定した。濃度既知の抗hTfR抗体の標準試料の測定値から検量線を作成し,これに各検体の測定値を内挿することにより,各組織中及び末梢血中に含まれる抗体の量を算出した。濃度の測定は各サンプルにつき3回繰り返し行った。
【0385】
脳組織及び脊髄組織中のヒト化抗hTfR抗体の濃度測定の結果を表8に示す。
【0386】
【0387】
ヒト化抗hTfR抗体番号3,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2,ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)及びヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)の抗体ともに,大脳皮質,小脳,海馬,延髄及び脊髄での蓄積が認められた(表8)。その量は,ヒト化抗hTfR抗体番号3では,陰性対照のトラスツズマブ(ハーセプチンTM)と比較して,大脳皮質で約82倍,小脳で約68倍,海馬で約92倍,延髄で約54倍,脊髄で約3.1倍であり,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2では,陰性対照のトラスツズマブと比較して,大脳皮質で約128倍,小脳で約80倍,海馬で約136倍,延髄で約63倍,脊髄で約3.1倍であり,ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)では,陰性対照のトラスツズマブと比較して,大脳皮質で約79倍,小脳で約66倍,海馬で約106倍,延髄で約54倍,脊髄で約3.1倍であり,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)では,陰性対照のトラスツズマブと比較して,大脳皮質で約93倍,小脳で約63倍,海馬で約117倍,延髄で約66倍,脊髄で約3.2倍であった(表9)。これらの結果は,これら4種のヒト化抗hTfR抗体が,血液脳関門を通過して脳組織に蓄積する性質を有することを示すものであり,脳組織内で機能させるべき薬剤をこれらの抗体と結合させることにより,その薬剤を効率良く脳組織に蓄積させることができること示すものである。
【0388】
【0389】
次いで,肝臓,心臓,脾臓及び骨髄の各組織中のヒト化抗hTfR抗体の濃度測定の結果を
図4に示す。肝臓,及び脾臓では,4種類のヒト化抗hTfR抗体及び陰性対照のトラスツズマブのいずれにおいても蓄積が認められたが,その量はヒト化抗hTfR抗体とトラスツズマブで同等であった。心臓では,ヒト化抗hTfR抗体が陰性対照のトラスツズマブと比較して,蓄積量が多い傾向にあったが,その量は陰性対照の1.5倍~2.8倍程度に留まった。骨髄では,ヒト化抗hTfR抗体が,陰性対照のトラスツズマブと比較して,顕著に蓄積量が多い傾向にあり,その量は陰性対照の3.5~16倍であった。骨髄へのヒト化抗hTfR抗体の蓄積は,造血器官である骨髄ではTfRの発現量が多く,TfRと結合することにより多くのヒト化抗hTfR抗体が陰性対照と比較して蓄積したためと考えられる。これらのデータは,これら4種のヒト化抗hTfR抗体が,中枢神経系である大脳,小脳,海馬及び延髄に特異的に蓄積する性質を有することを示すものであり,脳組織内で機能させるべき薬剤をこれらの抗体と結合させることにより,その薬剤を効率良く脳組織に蓄積させることができること示すものである。
【0390】
次いで,ヒト化抗hTfR抗体の血中動態の測定結果を表9-2に示す。4種類のヒト化抗hTfR抗体は,陰性対照のトラスツズマブと同様に,投与後8時間においても血中濃度が60μg/mL以上の高値を示し,血中で安定であることが示された(表9-2)。
【0391】
【0392】
脳組織中のヒト化抗hTfR抗体の免疫組織化学染色は,実施例8に記載の方法で行った。但し,このとき,Mouse IgG-heavy and light chain Antibody(Bethyl Laboratories社)に替えてHuman IgG-heavy and light chain Antibody(Bethyl Laboratories社)を用いた。
【0393】
図5に大脳皮質のヒト化抗hTfR抗体の免疫組織化学染色の結果を示す。ヒト化抗hTfR抗体番号3,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2,ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)及びヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)を投与したサルの大脳皮質では,血管及び神経様細胞の特異的な染色が確認された(それぞれ
図5b~e)。特に,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2を投与したサルの大脳皮質(
図5c)では,脳血管外の脳実質領域にも広範に特異的な染色が確認された。なお,コントロールとしておいたハーセプチンを投与したサルの大脳皮質では染色は認められず,
図5b~eで観察された組織染色が,ヒト化抗hTfR抗体に特異的なものであることが示された(
図5a)。
【0394】
図6に海馬のヒト化抗hTfR抗体の免疫組織化学染色の結果を示す。ヒト化抗hTfR抗体番号3,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2,ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)及びヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)を投与したサルの海馬では,血管及び神経様細胞の特異的な染色が確認された(それぞれ
図6b~e)。なお,コントロールとしておいたハーセプチンを投与したサルの海馬では染色は認められず,
図6b~eで観察された組織染色が,ヒト化抗hTfR抗体に特異的なものであることが示された(
図6a)。
【0395】
図7に小脳のヒト化抗hTfR抗体の免疫組織化学染色の結果を示す。ヒト化抗hTfR抗体番号3,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2,ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)及びヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)を投与したサルの小脳では,血管及びプルキンエ細胞の特異的な染色が確認された(それぞれ
図7b~e)。なお,コントロールとしておいたハーセプチンを投与したサルの小脳では染色は認められず,
図7b~eで観察された組織染色が,ヒト化抗hTfR抗体に特異的なものであることが示された(
図7a)。
【0396】
図8に延髄のヒト化抗hTfR抗体の免疫組織化学染色の結果を示す。ヒト化抗hTfR抗体番号3,ヒト化抗hTfR抗体番号3-2,ヒト化抗hTfR抗体番号3(IgG4)及びヒト化抗hTfR抗体番号3-2(IgG4)を投与したサルの延髄では,血管及び神経様細胞の特異的な染色が確認された(それぞれ
図8b~e)。なお,コントロールとしておいたハーセプチンを投与したサルの延髄では染色は認められず,
図8b~eで観察された組織染色が,ヒト化抗hTfR抗体に特異的なものであることが示された(
図8a)。
【0397】
上記実施例8の大脳及び小脳の免疫組織化学染色の結果からは,ヒト化前のマウス抗体である抗hTfR抗体番号3は,脳血管内皮表面に存在するhTfRへ結合することができ,且つ,hTfRへの結合後,血液脳関門を通過して脳実質内へ移行し,さらに海馬においては脳実質内から神経様細胞にまで,小脳においてはプルキンエ細胞にまで,取り込まれることを示すものであった。
【0398】
実施例15の大脳,海馬,小脳及び延髄の免疫組織化学染色の結果からは,実験に供した抗hTfR抗体番号3をヒト化して得られた4種類のヒト化抗hTfR抗体は,脳血管内皮表面に存在するhTfRへ結合し,且つ,hTfRへの結合後,血液脳関門を通過して脳実質内へ移行し,さらに大脳皮質においては神経様細胞にまで,海馬においては脳実質内から神経様細胞にまで,小脳においてはプルキンエ細胞にまで,延髄においては神経様細胞に取り込まれることがわかった。
【0399】
〔実施例16〕ヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖への変異導入
配列番号37で示されるヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖の可変領域において,CDR1を配列番号12で示されるものとしたときの,当該CDR1のアミノ酸配列を1個置換するとともに,フレームワーク領域3のアミノ酸配列を1個置換するヒト化抗体の重鎖を作成した。この新たな抗体の重鎖は,CDR1に配列番号62又は63のアミノ酸配列を含み,フレームワーク領域3に配列番号64のアミノ酸配列を含むものであり,配列番号37で示されるヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖のアミノ酸配列を構成するアミノ酸を2個置換したものである。この新たな抗体の重鎖(ヒト化抗hTfR抗体番号3Nの重鎖)は,配列番号66で示されるアミノ酸配列を含み,そのアミノ酸配列の可変領域は配列番号65で示されるアミノ酸配列を含んでなる。
【0400】
表10にヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖における配列番号12のCDR1とヒト化抗hTfR抗体番号3Nの重鎖における配列番号62のCDR1とのアラインメントを示した。当該アラインメントにおいて,N末端側から5番目のアミノ酸が,トレオニンからメチオニンに置換されている。
【0401】
表11には,ヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖におけるフレームワーク領域3(配列番号73)とヒト化抗hTfR抗体番号3Nの重鎖におけるフレームワーク領域3(配列番号64)のアミノ酸配列のアラインメントを示した。当該アラインメントにおいて,N末端側から17番目のアミノ酸が,トリプトファンからロイシンに置換されている。
【0402】
【0403】
【0404】
〔実施例17〕ヒト化抗hTfR抗体番号3N発現用細胞の構築
配列番号66で示されるアミノ酸配列からなる抗体の重鎖をコードする遺伝子を含むDNA断片(配列番号67)を人工的に合成した。このDNA断片の5’側には,5’端から順にMluI配列とリーダーペプチドをコードする配列とを,3’側にはNotI配列を導入した。こうして合成したDNAを実施例11に記載の方法でpE-neoベクターに組み込み,得られたベクターを,ヒト化抗hTfR抗体番号3Nの重鎖発現用ベクターのpE-neo(HC3)Nとした。このpE-neo(HC3)Nと実施例11で構築した軽鎖発現用ベクターpE-hygr(LC3)とを用いて,実施例12に記載の方法でCHO細胞を形質転換させて,ヒト化抗hTfR抗体番号3N発現株を得た。
【0405】
〔実施例18〕ヒト化抗hTfR抗体番号3Nの精製
実施例17で得られたヒト化抗hTfR抗体番号3N発現株を用いて,実施例13に記載の方法で,ヒト化抗hTfR抗体番号3Nの精製品を得た。なお,ヒト化抗hTfR抗体番号3Nは,ヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖のアミノ酸配列中,表10及び表11で示される2箇所のアミノ酸を置換したものである。一方,ヒト化抗hTfR抗体番号3Nとヒト化抗hTfR抗体番号3の軽鎖のアミノ酸配列は同一である。
【0406】
〔実施例19〕ヒト化抗hTfR抗体番号3とヒト化抗hTfR抗体番号3NのヒトTfR及びサルTfRへの親和性の比較
実施例13で得たヒト化抗hTfR抗体番号3と実施例17で得たヒト化抗hTfR抗体番号3NのヒトTfR及びヒトTfRへの親和性を,実施例7に記載の方法で測定した。表12にそれぞれの抗体のヒトTfRに対する会合速度定数(kon)及び解離速度定数(koff)の測定結果,及び解離定数(KD)を示す。なお,ヒト化抗hTfR抗体番号3のヒトTfRへの親和性を示す測定値は,表6に示されたものと異なるが,実験誤差である。
【0407】
【0408】
実施例13で得たヒト化抗hTfR抗体番号3と実施例17で得たヒト化抗hTfR抗体番号3NのヒトTfR及びサルTfRへの親和性を,実施例7に記載の方法で測定した。表13にそれぞれの抗体のサルTfRに対する会合速度定数(kon)及び解離速度定数(koff)の測定結果,及び解離定数(KD)を示す。なお,ヒト化抗hTfR抗体番号3のサルTfRへの親和性を示す測定値は,表7に示されたものと異なるが,実験誤差である。
【0409】
【0410】
ヒト化抗hTfR抗体番号3N及びヒト化抗hTfR抗体番号3のサルTfRとのKD値を比較すると,前者が5.07X10-11Mであり後者が1.32X10-9Mであり,ヒト化抗hTfR抗体番号3NとサルTfRとのKD値は,ヒト化抗hTfR抗体番号3のそれと比較して,約30分の1であった。一方,ヒト化抗hTfR抗体番号3N及びヒト化抗hTfR抗体番号3のヒトTfRとのKd値を比較すると,いずれも1X10-12M未満であり,いずれの抗体もヒトTfRに高い親和性を有するものであった。また,いずれの抗体もサルTfRへの親和性よりもヒトTfRに高い親和性を有する。
【0411】
ヒト化抗hTfR抗体を薬剤として開発する際に実施する非臨床試験の一環として,サルを用いた薬理試験を実施する場合が多い。ここで,サルを用いた薬理試験の結果は,ヒトを用いた臨床試験を実施する妥当性を判断するために用いられるので,サル体内での挙動が,ヒトに投与したときの挙動とより近似するものであることが好ましい。上記の結果のとおり,ヒト化抗hTfR抗体番号3Nは,サルTfRへの親和性がヒト化抗hTfR抗体番号3の約30倍の高値を示すことから,ヒト化抗hTfR抗体番号3Nのサル体内での挙動は,ヒトに投与したときの挙動とより近似するといえる。従って,ヒト化抗hTfR抗体番号3Nを用いることにより,サルを用いた試験で,よりヒトに投与したときの挙動を反映した結果が得られる。従って,サルを用いた試験により,ヒトを用いた臨床試験を実施する際の判断材料として,より有益な結果が得られることになる。
【0412】
〔実施例20〕ヒト化抗hTfR抗体番号3とヒト化抗hTfR抗体番号3Nのサルを用いた脳組織への移行性の比較
実施例13で得たヒト化抗hTfR抗体番号3と実施例17で得たヒト化抗hTfR抗体番号3Nを,それぞれ,5.0mg/kgの用量でそれぞれ雄性カニクイザルに単回静脈内投与し,投与8時間後に全身潅流を実施した。潅流後,延髄を含む脳組織及び脊髄組織を摘出した。脳組織については,摘出後に大脳皮質,小脳,海馬及び延髄に分けた。
【0413】
各組織に含まれるヒト化抗hTfR抗体の濃度測定は,実施例15に記載の測定法に準じて行った。
【0414】
脳組織中の抗hTfR抗体の濃度測定の結果を表14に示す。ヒト化抗hTfR抗体番号3Nとヒト化抗hTfR抗体番号3の大脳,小脳,海馬における濃度を比較すると,ヒト化抗hTfR抗体番号3Nの濃度は,大脳においては約1.42倍,小脳においては約1.56倍,海馬においては約1.29倍と,ヒト化抗hTfR抗体番号3よりも高い値を示した。延髄においては両者の濃度はほぼ同等だった。頸椎においても,ヒト化抗hTfR抗体番号3Nの濃度は,約1.47倍と,ヒト化抗hTfR抗体番号3よりも高い値を示した。これらの結果は,ヒト化抗hTfR抗体番号3Nがヒト化抗hTfR抗体番号3と比較して,より効率よく血液脳関門を通過して大脳,小脳,海馬等の脳組織に蓄積する性質を有することを示すものである。すなわち,ヒト化抗hTfR抗体番号3Nは,脳組織内で機能させるべき薬剤をこれらの抗体と結合させることにより,その薬剤を効率良く脳組織に蓄積させることができる性質を有することを示すものである。
【0415】
【0416】
〔実施例20-2〕hFc-ヒト化抗hTfR抗体発現用細胞の作製
配列番号71で示されるアミノ酸配列からなるヒトIgG Fc領域を導入したヒト化抗hTfR抗体3NのFab重鎖のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むDNA断片(配列番号72)を人工的に合成した。このDNA断片の5’側には,5’端から順にMluI配列とリーダーペプチドをコードする配列とを,3’側にはNotI配列を導入する。こうして合成したDNAを実施例11に記載の方法でpE-neoベクターに組み込み,得られたベクターをpE-neo(Fc-Fab HC(3N))とした。このpE-neo(Fc-Fab HC(3N))と実施例11で構築した軽鎖発現用ベクターpE-hygr(LC3)とを用いて,実施例12に記載の方法でCHO細胞を形質転換させて,Fc-Fab(3N)発現株を得た。
【0417】
〔実施例20-3〕hFc-ヒト化抗hTfR抗体の作製
Fc-Fab(3N)発現株を用いて,実施例13に記載の方法で,Fc-Fab(3N)の精製品を得た。
【0418】
〔実施例20-4〕hFc-ヒト化抗hTfR抗体のヒトTfR及びサルTfRへの親和性の比較
実施例20-3で得られたFc-Fab(3N)の精製品のヒトTfR及びサルTfRへの親和性を,実施例7に記載の方法で測定した。結果を表14-2に示す。Fc-Fab(3N)はヒトTfRに高い親和性を示した(KD<1.0X10-12)。この結果は,Fc-Fab(3N)は,脳組織内で機能させるべき薬剤をこれらの抗体と結合させることにより,その薬剤を効率良く脳組織に蓄積させることができる性質を有することを示すものである。
【0419】
【0420】
〔実施例20-5〕hFc-ヒト化抗hTfR抗体のサルを用いた脳組織への移行性の測定
実施例20-3で得られたFc-Fab(3N)を,5.0mg/kgの用量で雄性カニクイザルに単回静脈内投与し,投与8時間後に全身潅流を実施した。潅流後,延髄を含む脳組織及び脊髄組織を摘出した。脳組織については,摘出後に大脳皮質,小脳,海馬及び延髄に分けた。
【0421】
各組織に含まれるヒト化抗hTfR抗体の濃度測定は,実施例15に記載の測定法に準じて行った。
【0422】
脳組織中の抗hTfR抗体の濃度測定の結果を表14-3に示す。Fc-Fab(3N)の大脳,小脳,海馬における濃度は,それぞれ,0.80μg/g湿重量,0.80μg/g湿重量,及び1.05μg/gであった。また,延髄及び脊髄における濃度は,それぞれ,0.68μg/g湿重量,0.67μg/g湿重量であった。これらの結果は,Fabであるヒト化抗hTfR抗体のN末端側にFc領域を結合させた場合であっても,抗hTfR抗体がBBBを通過できることを示すものである。Fabに所望の物質(蛋白質,生理活性物質)を結合させた結合体が,生体内に投与したときに不安定である場合に,FabのN末端側にFc領域に結合させることにより,BBBを通過する特性を維持させつつ,かかる結合体を生体内で安定化,例えば,当該結合体の血中半減期を増加,させることができる。
【0423】
【0424】
〔実施例21〕hI2S-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質発現用細胞の作製
配列番号37で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3の重鎖のC末端側にリンカー配列(Gly Ser)を介して配列番号50で示されるアミノ酸配列を有するhI2Sを結合させた蛋白質をコードする遺伝子を含む,配列番号52で示される塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成した。このDNA断片は,配列番号51で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖にリンカー配列(Gly Ser)を介してhI2Sが結合した蛋白質をコードする。また,このDNA断片は,5’側には,5’端から順にMluI配列と,分泌シグナルとして機能するリーダーペプチドをコードする配列とを有し,3’側にはNotI配列を有する。このDNA断片をMluIとNotIで消化し,pE-neoベクターのMluIとNotIの間に組み込み,pE-neo(HC-I2S-3)を構築した。
【0425】
また,配列番号66で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3Nの重鎖のC末端側にリンカー配列(Gly Ser)を介して配列番号50で示されるアミノ酸配列を有するhI2Sを結合させた蛋白質をコードする遺伝子を含む,配列番号54で示される塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成した。このDNA断片は,配列番号53で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖にリンカー配列(Gly Ser)を介してhI2Sが結合した蛋白質をコードする。また,このDNA断片は,5’側には,5’端から順にMluI配列と,分泌シグナルとして機能するリーダーペプチドをコードする配列とを有し,3’側にはNotI配列を有する。このDNA断片をMluIとNotIで消化し,pE-neoベクターのMluIとNotIの間に組み込み,pE-neo(HC-I2S-3N)を構築した。
【0426】
CHO細胞(CHO-K1:American Type Culture Collectionから入手)を,pE-neo(HC-I2S-3)と実施例11で構築したpE-hygr(LC3)で形質転換し,hI2Sとヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質を発現する細胞株を得た。この細胞株を,hI2S-抗hTfR抗体発現株3とした。この細胞株が発現するhI2Sとヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質をI2S-抗hTfR抗体3とした。
【0427】
また,CHO細胞を,pE-neo(HC-I2S-3N)とpE-hygr(LC3)で形質転換し,hI2Sとヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質を発現する細胞株を得た。この細胞株を,hI2S-抗hTfR抗体発現株3Nとした。この細胞株が発現するhI2Sとヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質をI2S-抗hTfR抗体3Nとした。
【0428】
〔実施例22〕I2S-抗hTfR抗体の製造
I2S-抗hTfR抗体を,以下の方法で製造した。実施例21で得たhI2S-抗hTfR抗体発現株3及び3Nを,それぞれ細胞濃度が約2X105個/mLとなるように,CD OptiCHOTM培地で希釈し,1Lの三角フラスコに200mLの細胞懸濁液を加え,37℃で,5%CO2と95%空気からなる湿潤環境で約70rpmの撹拌速度で6~7日間培養した。培養上清を遠心操作により回収し,0.22μmフィルター(Millipore社)でろ過して,培養上清とした。回収した培養上清に,カラム体積の5倍容の150mL NaClを含む20mM Tris緩衝液(pH8.0)を添加し,カラム体積の3倍容の150mM NaClを含む20mM Tris緩衝液(pH8.0)で予め平衡化しておいたProtein Aカラム(カラム体積:1mL,Bio-Rad社)に負荷した。次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液を供給してカラムを洗浄した後,150mM NaClを含むカラム体積の4倍容の50mMグリシン緩衝液(pH2.8)で,吸着したI2S-抗hTfR抗体を溶出させた。このI2S-抗hTfR抗体を含む溶出液のpHを1M Tris緩衝液(pH8.0)を添加してpH7.0に調整し,次いでアミコンウルトラ30kDa膜(Millipore社)を用いてPBSにバッファー交換した。こうして得られものをI2S-抗hTfR抗体3及びI2S-抗hTfR抗体3Nの精製品とした。
【0429】
〔実施例23〕I2S-抗hTfR抗体のヒトTfR及びサルTfRへの親和性の測定
実施例22で得たI2S-抗hTfR抗体のヒトTfR及びサルTfRへの親和性を,実施例7に記載の方法に準じて測定した。表15にI2S-抗hTfR抗体3及びI2S-抗hTfR抗体3NのヒトTfRに対する会合速度定数(kon)及び解離速度定数(koff)の測定結果,及び解離定数(KD)を示す。また,表16にI2S-抗hTfR抗体3及びI2S-抗hTfR抗体3NのサルTfRに対する会合速度定数(kon)及び解離速度定数(koff)の測定結果,及び解離定数(KD)を示す。
【0430】
I2S-抗hTfR抗体3Nは,I2S-抗hTfR抗体と比較して,約5倍のヒトTfRに対する親和性を示した(表15)。また,I2S-抗hTfR抗体3Nは,I2S-抗hTfR抗体と比較して,非常に高いサルTfRに対する親和性を示した(表16)。I2S-抗hTfR抗体3Nは,I2S-抗hTfR抗体3よりも,ヒトTfR及びサルTfRに対し高い親和性を示した。
【0431】
【0432】
【0433】
〔実施例24〕I2S-抗hTfR抗体3とI2S-抗hTfR抗体3Nのサルを用いた脳組織への移行性の比較
実施例22で得たI2S-抗hTfR抗体3及びI2S-抗hTfR抗体3Nを,それぞれ,5.0mg/kgの用量でそれぞれ雄性カニクイザルに単回静脈内投与し,投与8時間後に全身潅流を実施した。潅流後,延髄を含む脳組織及び脊髄組織を摘出した。脳組織については,摘出後に大脳皮質,小脳,海馬及び延髄に分けた。
【0434】
各組織に含まれるI2S-抗hTfR抗体の濃度測定は,概ね実施例20に記載の手順で行った。脳組織中のI2S-抗hTfR抗体の濃度測定の結果を表17に示す。I2S-抗hTfR抗体3NとI2S-抗hTfR抗体3の大脳,小脳,海馬,延髄,及び頸椎における濃度を比較すると,I2S-抗hTfR抗体3Nの濃度は,I2S-抗hTfR抗体3の濃度と比較して,大脳においては約2.12倍,小脳においては約1.97倍,海馬においては約2.41倍,延髄においては1.94倍,及び頸椎においては1.63倍と,I2S-抗hTfR抗体3よりも高い値を示した。この結果は,I2S-抗hTfR抗体3Nが,I2S-抗hTfR抗体3と比較して,より効率よく血液脳関門を通過できることを示すものである。
【0435】
【0436】
〔実施例25〕hGAA-ヒト化抗hTfR抗体融合蛋白質発現用細胞の作製
配列番号68で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3Nの重鎖(IgG4)のC末端側にリンカー配列(Gly Ser)を介して配列番号55で示されるアミノ酸配列を有するhGAAを結合させた蛋白質をコードする遺伝子を含む,配列番号59で示される塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成した。このDNA断片は,配列番号58で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体番号3Nの重鎖(IgG4)にリンカー配列(Gly Ser)を介してhGAAが結合した蛋白質をコードする。また,このDNA断片は,5’側には,5’端から順にMluI配列と,分泌シグナルとして機能するリーダーペプチドをコードする配列とを有し,3’側にはNotI配列を有する。このDNA断片をMluIとNotIで消化し,pE-neoベクターのMluIとNotIの間に組み込み,pE-neo(HC-GAA-3N(IgG4))を構築した。
【0437】
CHO細胞(CHO-K1:American Type Culture Collectionから入手)を,pE-neo(HC-GAA-3N(IgG4))と実施例11で構築したpE-hygr(LC3)で形質転換し,hGAAとヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質を発現する細胞株を得た。この細胞株を,hGAA-抗hTfR抗体発現株3N(IgG4)とした。この細胞株が発現するhGAAとヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質をGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)とした。
【0438】
〔実施例26〕GAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)の製造
GAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)は,実施例25で得たhGAA-抗hTfR抗体発現株3N(IgG4)を用いて,概ね実施例22に記載の方法で製造した。
【0439】
〔実施例27〕hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)のヒトTfR及びサルTfRへの親和性の測定
実施例26で得たhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)のヒトTfR及びサルTfRへの親和性を,実施例23に記載の方法に準じて測定した。また,下記の実施例31で作製したFab GS-GAAのヒトTfR及びサルTfRへの親和性の測定結果についてもここに記載する。
【0440】
hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)は,ヒトTfR及びサルTfRの何れにも,非常に高い親和性を示した。結果を表17-2に示す。Fab GS-GAAもヒトTfR及びサルTfRの何れにも,高い親和性を示すものの,その親和性はhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)と比較して低かった。
【0441】
【0442】
〔実施例28〕hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)のサルを用いた脳組織への移行性評価
実施例26で得たhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)の脳組織への移行性は,実施例24に記載の方法に準じて評価することができる。具体的には,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)を,5.0mg/kg及び20mg/kgの用量で雄性カニクイザルに単回静脈内投与した。また,対象薬として,ポンペ病治療薬として市販されているhGAAを,5.0mg/kg及び20mg/kgの用量で雄性カニクイザルに単回静脈内投与した。また,20mg/kgの用量のhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)は3匹のサルに投与し,その他のものは1匹のサルに投与した。20mg/kgの用量のhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)を投与したサルについては,投与4時間,8時間,及び24時間後に,それぞれ1匹ずつ生理食塩液(大塚製薬工場社)を用いて全身潅流を実施した。その他のサルについては,投与8時間後に全身潅流を実施した。
【0443】
潅流後,延髄を含む脳組織,脊髄組織,及び骨格筋組織を摘出した。脳組織については,摘出後に大脳皮質,小脳,海馬,延髄,及び橋に分けた。また,骨格筋組織については,大腿直筋,長趾伸筋,ヒラメ筋,上腕三頭筋,大腰筋,横隔膜,及び舌筋を摘出した。また,薬剤を非投与の1匹の雄性カニクイザルを,生理食塩液(大塚製薬工場社)を用いて全身潅流し,大脳皮質及び大腿直筋を摘出した。摘出した各組織をProtease Inhibitor Cocktail(シグマ社)を含むT-PER (Thermo Fisher Scientific社)でホモジネートし,遠心後の上清を回収した。調製した上清を用いて,以下のECL法によるhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)及びhGAAの濃度測定及び免疫組織化学染色を実施した。
【0444】
ECL法による蛋白質の濃度測定:
ウサギ抗hGAAポリクロ―ナル抗体をMSD GOLD Sulfo-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery社)を用いてSULFO標識し,SULFO標識抗hGAA抗体を調製した。また,ウサギ抗hGAAポリクロ―ナル抗体をEZ-Link NHS-PEG4-Biotin(Thermo Scientific社)を用いてBiotin標識し,Biotin標識抗hGAA抗体を調製した。SULFO標識抗hGAA抗体とBiotin標識抗hGAA抗体とを等量混合した溶液を調製し,これに,上記で得られた上清を添加して,室温で1時間インキュベートし,これを抗体反応試料とした。ストレプトアビジンでコートされたプレートであるStreptavidin Gold Plate 96well(Meso Scale Diagnostics社)の各ウェルに1%BSA/PBS溶液を添加して1時間静置し,プレートをブロッキングした。
【0445】
ブロッキング後のプレートの各ウェルを,200μLのPBS-T(シグマ社)で洗浄した後,各ウェルに抗体反応試料を添加し,室温で1時間インキュベートした。インキュベート後,プレートの各ウェルをPBS-Tで洗浄し,次いで,4X Read buffer T(Meso scale Diagnostics社)と注射用水(大塚製薬工場社)の等量混合液を添加し,SectorTM Imager 6000(Meso scale Diagnostics社)を用いて各ウェルからの発光量を測定した。濃度既知のhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)又はhGAAの標準試料の測定値から検量線を作成し,これに各試料の測定値を内挿することによりhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)及びhGAAを定量し,脳のグラム重量(g湿重量)当たりに含まれる量を算出した。
【0446】
ECL法による濃度測定結果を表18に示す。まず,脳組織の結果について見る。hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)を投与したサルでは,投与8時間後の大脳皮質におけるhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)の濃度が,5mg/kgと20mg/kgの用量で投与したもので,それぞれ0.740μg/g湿重量,1.42μg/g湿重量と濃度依存的に増加した。小脳,海馬,延髄,及び橋においても同様の結果であった。一方,hGAAを投与したサルでは,投与8時間後の大脳皮質におけるhGAAの濃度が,5mg/kgと20mg/kgの用量で投与したもので,それぞれ0.414μg/g湿重量,0.435μg/g湿重量とほぼ同じ値であった。小脳,海馬,延髄,及び橋においても同様の結果であった。薬剤を非投与のサルのhGAAを定量した大脳皮質における内在性GAAの値が0.425μg/g湿重量であることから,静脈内投与したhGAAは,ほとんど脳内に取り込まれないことがわかる。一方,静脈内投与したhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)は,BBBを通過して脳内に取り込まれることがわかる。
【0447】
次いで,骨格筋組織の結果について見る。5mg/kgの用量で,それぞれhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)とhGAAを投与したサルでは,投与8時間後の大腿直筋におけるhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)とhGAAの濃度が,前者は0.311μg/g湿重量であり後者は0.251μg/g湿重量と,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)がhGAAと比較して約1.23倍の定量値を示した。20mg/kgの用量で投与したものについても同様の結果であった。また,長趾伸筋,ヒラメ筋,上腕三頭筋,大腰筋,横隔膜,及び舌筋についても同様の結果であった。すなわち,静脈内投与したhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)は,静脈内投与したhGAAと比較して,骨格筋組織に取り込まれる量が多いことがわかる。
【0448】
【0449】
免疫組織化学染色:
脳組織中のhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)及びhGAAの免疫組織化学染色は,概ね以下の手順で行った。ティシューテッククライオ3DM(サクラファインテック株式会社)を用いて,上記で得られた脳組織を-80℃にまで急速冷凍し,この凍結ブロックをLEICA CM1860 UVクリオスタット(Leica Biosystems Nussloch社)を用いて4μmに薄切後,MASコートスライドガラス(松浪ガラス株式会社)に貼り付けた。組織薄片に4%パラホルムアルデヒド(和光純薬工業株式会社)を4℃で5分間反応させ,組織薄片をスライドガラス上に固定した。続いて,組織薄片に0.3%過酸化水素水を含むメタノール溶液(和光純薬工業株式会社)を30分間反応させ,内因性ペルオキシダーゼを失活させた。次いでスライドガラスをSuperBlock blocking buffer in PBSに30分間室温で反応させブロッキングした。次いで,組織薄片に一次抗体としてウサギ抗hGAAポリクロ―ナル抗体を16時間,4℃で反応させた。次いで,組織薄片をCSAII Rabbit Link(Agilent社),及びCSAII Biotin-free Tyramide Signal Amplification Systemキット(Agilent社)で処理した。次いで,組織薄片にAnti-Fluorescein HRPを15分間,室温を反応させた。次いで,DAB基質(3,3’-diaminobenzidine,Vector Laboratories社)で発色させ,マイヤー・ヘマトキシリン(Merck社)で対比染色を行い,脱水,透徹した後に封入し,光学顕微鏡で観察した。なお,免疫組織化学染色は,20mg/kgの用量でhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)を投与したものと,20mg/kgの用量でhGAAを投与したサルの小脳についてのみ実施した。従って,投与後経過時間はいずれも8時間である。
【0450】
図9に小脳のhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)及びhGAAの免疫組織化学染色結果を示す。hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)を投与したサルの小脳では,血管及びプルキンエ細胞の特異的な染色が確認された(
図9a)。一方,hGAAを投与したサルの小脳では,かかる染色は認められなかった(
図9b)。これらの結果は,通常では血液脳関門を通過することのないhGGAを,抗hTfR抗体3N(IgG4)と融合させることにより,血液脳関門を通過させて,小脳においてはプルキンエ細胞にまで,取り込ませることができることを示すものである。
【0451】
〔実施例29〕hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)のマウスを用いた薬効評価-グリコーゲンの濃度の定量(1)
ポンペ病の病態モデルである酸性α-グルコシダーゼ(GAA)遺伝子を破壊したノックアウトマウスを元にして,実施例7-2に記載の方法でマウスTfRの細胞外領域をコードする遺伝子をヒトTfR受容体遺伝子の細胞外領域をコードする遺伝子に置換し,GAA遺伝子をホモで欠損し且つキメラTfR遺伝子をヘテロで有するマウス(GAA-KO/hTfR-KIマウス)を作製した。マウスを7群に分けて,表19に示す用法,用量で,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)又はhGAAを静脈内投与した。なお,薬剤非投与の正常マウスを正常対照(第1群),薬剤非投与のGAA-KO/hTfR-KIマウスを病態対照(第2群)とした。各群ともマウスは5匹とした。また,マウスは雄性及び雌性の9~14週齢(投与開始時)を用いた。
【0452】
【0453】
第2回目と第3回目の試験物質投与時には,投与10~20分前に,ジフェンヒドラミンを10mL/kgの用量でマウスに投与した。これは試験物質の投与により実験動物にアナフィラキシーショック等の免疫反応が生じることを防止するための措置である。最後の投与から13日後に,イソフルラン麻酔下,マウスを断頭し右脳及び脊髄頚部を速やかに摘出した後,素早く液体窒素に浸漬し急速凍結した。凍結後,各組織の湿重量を測定した。心臓,横隔膜,肝臓,脾臓,大腿四頭筋,ヒラメ筋,前脛骨筋,長趾伸筋,腓腹筋(採取した骨格筋:右脚)については,放血により十分に血液を覗いた後,組織を採取し,生理食塩液で洗浄後,各組織の湿重量を測定した。測定後の臓器は1.5mLチューブに封入し,液体窒素で瞬間凍結した。
【0454】
各組織の湿重量に対して20倍量の注射用水を添加し,ビーズ破砕機を用いて組織をホモジネートした。組織のホモジネートを遠心チューブに移し,100℃で5分間加熱処理を行い,氷上に静置した。続いて,13000rpm,4℃で5分間遠心分離し,上清を回収した。上清は-70℃以下の温度で凍結保存した。
【0455】
上記の上清中に含まれるグリコーゲンの濃度を,Glycogen Assay Kit(viovision社)によって測定した。測定結果を
図10及び
図11に示す。
図10は,右脳,脊髄頚部,心臓,横隔膜,肝臓及び脾臓におけるグリコーゲンの濃度を示す(それぞれ,
図10a~f)。また,
図11は,大腿四頭筋,ヒラメ筋,前脛骨筋,長趾伸筋,腓腹筋におけるグリコーゲンの濃度を示す(それぞれ,
図11a~e)。但し,20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群は,最終投与後5日後に死亡したので,これを除外した。
【0456】
以下に結果の
図10及び
図11の結果を考察する。
脳:
正常対照群,病態対照群,20mg/kgのhGAA投与群,並びにhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)の2.5,5.0,10及び20mg/kg投与群の脳組織中のグリコーゲン濃度は,それぞれ0.0815,3.08,2.36,2.07,1.00,0.891及び0.592mg/g湿重量であった(
図10(a))。hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群の投与量が5.0mg/kg以上の群において,病態対照群及び20mg/kgのhGAA投与群に比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。また,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)によるグリコーゲンの減少は用量依存性を示した。
【0457】
脊髄頚部:
正常対照群,病態対照群,20mg/kgのhGAA投与群,hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)の2.5,5.0,10及び20mg/kg投与群の頸髄組織中のグリコーゲン濃度は,それぞれ0.0459,3.10,2.68,2.26,1.77,1.06及び0.795mg/g湿重量であった(
図10(b))。hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群の全てにおいて,病態対照群に比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。また,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群の投与量が5.0mg/kg以上の群において,20mg/kgのhGAA投与群と比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。また,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)によるグリコーゲンの減少は用量依存性を示した。
【0458】
心臓:
正常対照群,病態対照群,20mg/kgのhGAA投与群,hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)の2.5,5.0,10及び20mg/kg投与群の心臓中のグリコーゲン濃度は,それぞれ0.0816,32.4,4.54,12.3,3.45,1.10及び0.205mg/g湿重量であった(
図10(c))。hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)投与群の全てにおいて,病態対照群に比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。20mg/kgのhGAA投与群と比較すると,20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与量で有意な減少を示した。
【0459】
横隔膜:
正常対照群,病態対照群,20mg/kgのhGAA投与群,hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)の2.5,5.0,10及び20mg/kg投与群の横隔膜組織中のグリコーゲン濃度は,それぞれ0.0824,14.1,6.96,12.4,5.57,2.68及び0.564mg/g湿重量であった(
図10(d))。hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群の投与量が5.0mg/kg以上の群において,病態対照群に比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。20mg/kgのhGAA投与群と比較すると,10mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与量で有意な減少を示した。
【0460】
肝臓:
正常対照群,病態対照群,20mg/kgのhGAA投与群,hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)の2.5,5.0,10及び20mg/kg投与群の肝臓中のグリコーゲン濃度は,それぞれ1.16,22.5,2.65,8.88,2.95,3.01及び1.46mg/g湿重量であった(
図10(e))。hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)投与群の全てにおいて,病態対照群に比較して,20mg/kg投与群のhGAA投与群と同等の有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。
【0461】
脾臓:
正常対照群,病態対照群,20mg/kgのhGAA投与群,hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)の2.5,5.0,10及び20mg/kg投与群の脾臓中のグリコーゲン濃度は,それぞれ0.0295,3.15,0.182,0.368,0.165,0.122及び0.0990mg/g湿重量であった(
図10(f))。hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)投与群の全てにおいて,病態対照群に比較して,20mg/kg投与群のhGAA投与群と同等の有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。
【0462】
大腿四頭筋:
正常対照群,病態対照群,20mg/kgのhGAA投与群,hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)の2.5,5.0,10及び20mg/kg投与群の大腿四頭筋組織中のグリコーゲン濃度は,それぞれ0.0529,8.66,7.41,6.40,2.68,1.71及び0.282mg/g湿重量であった(
図11(a))。hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群の投与量が5.0mg/kg以上の群において,病態対照群及び20mg/kgのhGAA投与群に比較して,有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。なお,20mg/kgのhGAA投与群は病態対照群に比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少は示さなかった。
【0463】
腓腹筋:
正常対照群,病態対照群,20mg/kgのhGAA投与群,hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)の2.5,5.0,10及び20mg/kg投与群の腓腹筋組織中のグリコーゲン濃度は,それぞれ0.173,7.68,5.09,5.23,2.40,1.58及び0.221mg/g湿重量であった(
図11(b))。hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群の投与量が5.0mg/kg以上の群において,病態対照群に比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。なお,20mg/kgのhGAA投与群は病態対照群に比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少は示さなかった。
【0464】
ヒラメ筋:
正常対照群,病態対照群,20mg/kgのhGAA投与群,hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)の2.5,5.0,10及び20mg/kg投与群のヒラメ筋組織中のグリコーゲン濃度は,それぞれ0.116,12.08,2.233,7.20,2.74,1.07及び0.378mg/g湿重量であった(
図11(c))。hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)投与群の全てにおいて,病態対照群に比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少を示した。また,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群の投与量が5.0mg/kg以上の群において,20mg/kgのhGAA投与群と同等の有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。
【0465】
前脛骨筋:
正常対照群,病態対照群,20mg/kgのhGAA投与群,hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)の2.5,5.0,10及び20mg/kg投与群の前脛骨筋組織中のグリコーゲン濃度は,それぞれ0.0419,9.68,8.23,4.13,2.56,0.895及び0.277mg/g湿重量であった(
図11(d))。hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)投与群の全てにおいて,病態対照群及び20mg/kgのhGAA投与群に比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。なお,20mg/kgのhGAA投与群は病態対照群に比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少は示さなかった。
【0466】
長趾伸筋:
正常対照群,病態対照群,20mg/kgのhGAA投与群,hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)の2.5,5.0,10及び20mg/kg投与群の長趾伸筋組織中のグリコーゲン濃度は,それぞれ0.0950,10.4,9.11,4.79,2.59,1.34及び0.188mg/g湿重量であった(
図11(e))。hGAA-抗HTFR抗体3N(IgG4)投与群の全てにおいて,病態対照群に比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。また,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群の投与量が5.0mg/kg以上の群において,20mg/kgのhGAA投与群と比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少が認められた。なお,20mg/kgのhGAA投与群は病態対照群に比較して有意な組織中のグリコーゲンの減少は示さなかった。
【0467】
〔実施例30〕hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)のマウスを用いた薬効評価-病理組織学的評価(2)
実施例29で採取した左脳,脊髄頚部,大腿四頭筋,ヒラメ筋,長趾伸筋を,十分量の10%中性緩衝ホルマリン液に浸漬した。約24時間後に10%中性緩衝ホルマリン液を交換した。組織採取日から3日後に,80%エタノールに浸漬し,48時間ディレイタイマーを設定して自動固定包埋装置(サクラロータリー)によりエタノールからトルエンに置換し,最終的にパラフィンに浸漬後,包埋した。これをPAS染色及びHE染色に供した。
【0468】
以下にPAS染色の結果を考察する。
大脳皮質:
細胞内のPAS染色性は,病態対照群及び20mg/kgのhGAA投与群では全例が中等度であったが,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)2.5~20mg/kg投与群では染色性の低下がみられた。血管のPAS染色性については,20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群で染色性の低下がみられた。
【0469】
海馬・歯状回,及び基底核:
病態対照群と比較して,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)20mg/kg投与群では,細胞内及び血管のPAS染色性の低下がみられた。基底核では,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)2.5mg/kg投与群及びhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)5.0mg/kg投与群でも,PAS染色性の低下がみられた。
【0470】
間脳(視床・視床下部):
病態対照群と比較して,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)2.5~20mg/kg投与群でPAS染色性の低下がみられた。
【0471】
中脳~橋:
hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)5.0~20mg/kg投与群でPAS染色性の低下がみられた。
【0472】
延髄:
病態対照群と比較して,20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群でPAS染色性の低下がみられた。
【0473】
小脳:
プルキンエ細胞層・顆粒層では,病態対照群と比較して,2.5~20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群では,プルキンエ細胞周囲の細胞内のPAS染色性の低下傾向がみられた。白質では,2.5mg/kg及び20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群でPAS染色性の低下傾向がみられた。
【0474】
大腿四頭筋:
病態対照群と比較して,5.0mg/kg及び10mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群で,PAS染色性の低下傾向がみられ,20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)では,染色性の著しい減少が認められた。
【0475】
ヒラメ筋:
病態対照群と比較して,20mg/kgのhGAA投与群,及び10mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群でPAS染色性低下がみられ,さらに,20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群では,染色性の著しい減少が認められた。
【0476】
次いで,以下にHE染色の結果を考察する。
大脳皮質:
大脳皮質:病態対照群と比較して,5.0~20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群では細胞腫大の軽減化傾向がみられた。大脳白質(脳梁,海馬采,前交連)及び脳室:病態対照群と比較して,20mg/kgのhGAA投与群,5.0~20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群で白質の空胞の減少が認められた。
延髄病態対照群と比較して,20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群のみで細胞腫大の軽減化傾向がみられた。
【0477】
小脳:
白質の細胞腫大について,20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群で軽減化傾向がみられた。
【0478】
大腿四頭筋:
病態対照群と比較して,10mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群で筋線維の空胞・空隙形成の軽減化傾向がみられ,20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群では,さらなる軽減化が認められた。
【0479】
ヒラメ筋:
病態対照群と比較して,20mg/kgのhGAA投与群,5.0~10mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群で筋線維の空胞・空隙形成の軽減化がみられ,さらに20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群では同所見は殆どみられなかった。
【0480】
長趾伸筋:
病態対照群と比較して,5.0mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群で筋線維の空胞・空隙形成の軽減化がみられ,10~20mg/kgのhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)投与群では,さらなる軽減化が認められた。
【0481】
以上のhGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)のマウスを用いた薬効評価の結果は,hGAA-抗hTfR抗体3N(IgG4)が5mg/kg以上の用量で投与することにより,市販のhGAAを20mg/kg投与の用量で投与した場合よりも,病理組織学的にもポンペ病の治療薬として効果的であることを示すものであり,その効果は,中枢神経系及び骨格筋組織において極めて顕著であることを示すものである。
【0482】
〔実施例31〕Fab抗hTfR抗体3NとhGAAの融合蛋白質(Fab GS-GAA)の作製
配列番号89で示されるヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖とhGAAの融合蛋白質をコードする遺伝子を含む塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成し,これをpE-neoベクターのMluIとNotIの間に組み込み,発現ベクターpE-neo(Fab HC-GS-GAA)を構築した。このとき融合蛋白質をコードする遺伝子の5’末端側には分泌シグナルとして機能するリーダーペプチドをコードする塩基配列を導入した。pE-neo(Fab HC-GS-GAA)と実施例11で構築したpE-hygr(LC3)で,CHO細胞(CHO-K1:American Type Culture Collectionから入手)を形質転換し,Fabである抗hTfR抗体3NとhGAAの融合蛋白質(Fab GS-GAA)を発現する細胞株を得た。この発現株を,実施例22に記載方法に準じて培養し,培養上清を得た。培養上清を,カラム体積の5倍容の100mM NaClを含有する20mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.0)で平衡化した,CH1アフィニティーカラムであるCaptureSelect IgG-CH1カラム (カラム体積:約1.0mL,Thermo Fisher社)に負荷し,融合蛋白質をCH1アフィニティーカラムに吸着させた。次いで,カラム体積の5倍容の100mM NaClを含有する20mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.0)を供給してカラムを洗浄した。次いで,カラム体積の5倍容の50mM NaClを含有する100mM グリシン緩衝液(pH3.0)で,CH1アフィニティーカラムに吸着した融合蛋白質を溶出させた。溶出液は,予め1M HEPES-NaOH緩衝液(pH7.5)を入れておいた容器に受けて,直ちに中和した。こうして得られたものをFab GS-GAAの精製品として以下の実験に用いた。
【0483】
〔実施例32〕Fab GS-GAAのマウスを用いた薬効評価
実施例28に記載のあるマウス(GAA-KO/hTfR-KIマウス)に,表19-2に示す用法,用量で,実施例31で得たFab GS-GAA,又はhGAAを静脈内投与した。なお,薬剤非投与の正常マウスを正常対照(第1群),薬剤非投与のGAA-KO/hTfR-KIマウスを病態対照(第2群)とした。各群ともマウスは3~4匹とした。また,マウスは雄性及び雌性の9~14週齢(投与開始時)を用いた。投与1週間後に,実施例29に記載の方法で,右脳,心臓,横隔膜,大腿四頭筋,ヒラメ筋,前脛骨筋を採取し,これら組織に含まれるグリコーゲンの濃度を測定した。測定結果を
図12に示す。Fab GS-GAA投与群では,グリコーゲンの濃度を測定した全ての臓器において,hGAAよりも顕著にグリコーゲンが減少した。特に,その減少傾向は,右脳及び心臓において顕著であった。また,5.0mg/kgの用量のFab GS-GAA投与群においても,20mg/kgの用量のhGAA投与群と比較して,右脳及び心臓において顕著なグリコーゲンの減少が認められた。これらの結果は,Fab GS-GAAが,ポンペ病の治療薬として,特に脳及び/又は心臓の機能障害を伴うポンペ病の治療薬として,使用し得ることを示す。
【0484】
【0485】
〔実施例33〕各種ヒトリソソーム酵素とヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質の作製
表20-A~表20-Cに示される配列番号のアミノ酸配列を有する表20-A~表20-Cで「融合蛋白質名」として示される名称の,ヒト化抗hTfR抗体の重鎖(但し,scFab-IDUAについては一本鎖ヒト化抗hTfR抗体)と,各種ヒトリソソーム酵素との融合蛋白質をコードする遺伝子を含む塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成し,これをpE-neoベクターのMluIとNotIの間に組み込み,発現ベクターを構築した。このとき融合蛋白質をコードする遺伝子の5’末端側には分泌シグナルとして機能するリーダーペプチドをコードする塩基配列を導入した。それぞれの発現ベクターの名称を表20-A~表20-Cに示す。得られた各発現ベクターと実施例11で構築したpE-hygr(LC3)で,CHO細胞(CHO-K1:American Type Culture Collectionから入手)を形質転換し,各種リソソーム酵素とヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質を発現する細胞株を得た。この発現株を,実施例22に記載方法に準じて培養し,培養上清を得た。
【0486】
培養上清に含まれるリソソーム酵素とヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質を,抗体がFabであるものについては下記の精製法1で,抗体が重鎖の全長を含むものについては下記の精製法2により生成した。
【0487】
精製法1:培養上清を,カラム体積の5倍容の100mM NaClを含有する20mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.0)で平衡化した,CH1アフィニティーカラムであるCaptureSelect IgG-CH1カラム(カラム体積:約1.0mL,Thermo Fisher社)に負荷し,融合蛋白質をCH1アフィニティーカラムに吸着させた。次いで,カラム体積の5倍容の100mM NaClを含有する20mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.0)を供給してカラムを洗浄した。次いで,カラム体積の5倍容の50mM NaClを含有する100mM グリシン緩衝液(pH3.0)で,CH1アフィニティーカラムに吸着した融合蛋白質を溶出させた。溶出液は,予め1M HEPES-NaOH緩衝液(pH7.5)を入れておいた容器に受けて,直ちに中和した。
【0488】
精製法2:
培養上清を,カラム体積の5倍容の100mM NaClを含有する20mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.0)で平衡化した,プロテインAアフィニティーカラムであるMabSelect SuRe LXカラム(カラム体積:約1.0mL,GE Healthcare社)に負荷し,融合蛋白質をプロテインAに吸着させた。次いで,カラム体積の5倍容の100mM NaClを含有する20mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.0)を供給してカラムを洗浄した。次いで,カラム体積の5倍容の50mM NaClを含有する100mM グリシン緩衝液(pH3.0)で,プロテインAに吸着した融合蛋白質を溶出させた。溶出液は,予め1M HEPES-NaOH緩衝液(pH7.5)を入れておいた容器に受けて,直ちに中和した。
【0489】
こうして得られた融合蛋白質の精製品を用いて,下記の実験を実施した。また,こうして得られたリソソーム酵素とヒト化抗hTfR抗体の融合蛋白質を,表20-A~表20-Cの最右列に示すように名付けた。
【0490】
【0491】
【0492】
【0493】
〔実施例34〕各種ヒトリソソーム酵素とヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質のヒトTfR及びサルTfRへの親和性及び酵素活性の測定
ヒトTfR及びサルTfRへの親和性は実施例7に記載の方法で測定した。ヒトリソソーム酵素の活性は,下記の方法で測定した。但し,hAC及びhLAMANの酵素活性は測定していない。
【0494】
hIDUAの活性測定:
精製したhIDUAの抗TfR抗体融合蛋白質を,0.1% BSAを含む50mM クエン酸緩衝液(pH3.5)で適当な濃度に希釈し,フルオロヌンクプレート F96 (Nunc社)の各ウェルに20μLずつ加えた。スタンダードには4-Methylumbelliferone(4MU)(SIGMA社)を使用した。次に,基質として4-Methylumbelliferyl α-L-Iduronide(glycosynth社)を同緩衝液で1mMに希釈したものを,各ウェルに60μLずつ加えた。プレートミキサーで撹拌後,37℃で1時間反応させた。反応後,各ウェルに0.05M Glycine/NaOH酸緩衝(pH10.6)を200μLずつ加えて反応を停止させ,プレートリーダーで励起波長365nm,検出波長460nmを測定した。なお,酵素活性は,1Unitを4MUμmol/分,37℃と定義し,蛋白質単位重量(mg)当たりの比活性を求めた。以下の融合蛋白質についても比活性を求めた。
【0495】
hPPT-1の活性測定:
β-Glucosidase (オリエンタル酵母社)を0.2%BSA及び0.00625% Triton X-100を含む0.4M Na2HPO4/0.2Mクエン酸緩衝液(pH 4.0)で0.25mg/mLに希釈し,フルオロヌンクプレート F96(Nunc社)の各ウェルに20μLずつ加えた。次に,精製したhPPT-1の抗TfR抗体融合蛋白質を,同緩衝液で適当な濃度に希釈し,各ウェルに20μLずつ加えた。スタンダードには4-Methylumbelliferone(4MU)(SIGMA社)を使用した。次に,基質として4-Methylumbelliferyl 6-Thio-palmitate-β-D-glucopyranoside (Santa Cruz Biotechnology社)を同緩衝液で0.25mMに希釈し,各ウェルに20μLずつ加えた。プレートミキサーで撹拌後,37℃で1時間反応させた。反応後,0.05M Glycine/NaOH緩衝液(pH10.6)を各ウェルに150μLずつ加えて反応を停止し,プレートリーダーで励起波長365nm,検出波長460nmを測定した。なお,酵素活性は,1Unitを4MUμmol/分,37℃と定義した。
【0496】
hASMの活性測定:
精製したhASMの抗TfR抗体融合蛋白質を,0.1mM 酢酸亜鉛,0.25mg/mL BSA,及び0.15%Tween20を含む250mM 酢酸緩衝液(pH5.0)で適当な濃度に希釈し,フルオロヌンクプレート F96(Nunc社)の各ウェルに20μLずつ加えた。スタンダードには4-Methylumbelliferone(4MU)(SIGMA社)を使用した。次に,基質として6-Hexadecanoylamino-4-methylumbelliferyl phosphorylcholine(Carbosynth社)を同緩衝液で1mMに希釈し,各ウェルに20μLずつ加えた。プレートミキサーで撹拌後,37℃で1時間反応させた。反応後,0.05M Glycine/NaOH緩衝液(pH10.6)を各ウェルに200μLずつ加えて反応を停止させ,プレートリーダーで励起波長365nm,検出波長460nmを測定した。なお,酵素活性は,1Unitを4MUμmol/分,37℃と定義し,蛋白質単位重量(mg)当たりの比活性を求めた。
【0497】
hARSAの活性測定:
精製したhARSAの抗TfR抗体融合蛋白質を,0.5% BSA及び1.0%Triton-X 100を含む50mM 酢酸緩衝液(pH5.0)で適当な濃度に希釈し,フルオロヌンクプレート F96(Nunc社)の各ウェルに20μLずつ加えた。スタンダードには4-Methylumbelliferone (4MU)(SIGMA社)を使用した。次に,基質として4-methylumbelliferyl sulfate potassium salt(SIGMA社)を同緩衝液で5mMに希釈し,各ウェルに100μLずつ加えた。プレートミキサーで撹拌後,37℃で1時間反応させた。反応後,0.05M Glycine/NaOH緩衝液(pH10.6)を各ウェルに150μLずつ加えて反応を停止させ,プレートリーダーで励起波長365nm,検出波長460nmを測定した。なお,酵素活性は,1Unitを4MUμmol/分,37℃と定義した。
【0498】
hSGSHの活性測定:
精製したhSGSHの抗TfR抗体融合蛋白質を,0.2%BSAを含む50mM 酢酸緩衝液(pH5.0)で適当な濃度に希釈し,フルオロヌンクプレート F96(Nunc社)の各ウェルに20μLずつ加えた。スタンダードには4-Methylumbelliferone(4MU)(SIGMA社)を使用した。次に,基質として4-methylumbelliferyl 2-deoxy-2-sulfamino-α-D-glucopyranoside(Carbosynth社)を同緩衝液で5mMに希釈し,各ウェルに20μLずつ加えた。プレートミキサーで撹拌後,37℃で2時間反応させた。反応後,同緩衝液で希釈した0.5mg/mL α-Glucosidase(オリエンタル酵母社)を,各ウェルに20μLずつ加え,37℃で17時間反応させた。反応後,0.05M Glycine/NaOH緩衝液(pH10.6)を各ウェルに150μLずつ加えて反応を停止させ,プレートリーダーで励起波長365nm,検出波長460nmを測定した。なお,酵素活性は,1Unitを4MUμmol/分,37℃と定義した。
【0499】
hGBAの活性測定:
精製したhGBAの抗TfR抗体融合蛋白質を,0.1% BSA,0.15% Triton-X 100,及び0.125%タウロコール酸ナトリウムを含む100mM リン酸緩衝液(pH6.0)で適当な濃度に希釈し,フルオロヌンクプレート F96(Nunc社)の各ウェルに20μLずつ加えた。スタンダードには4-Methylumbelliferone(4MU)(SIGMA社)を使用した。次に,基質として4-methylumbelliferyl β-D-glucopyranoside (SIGMA社)を同緩衝液で3.5mMに希釈し,各ウェルに70μLずつ加えた。プレートミキサーで撹拌後,37℃で1時間反応させた。反応後,0.05M Glycine/NaOH緩衝液(pH10.6)を各ウェルに150μLずつ加えて反応を停止させ,プレートリーダーで励起波長365nm,検出波長460nmを測定した。なお,酵素活性は,1Unitを4MUμmol/分,37℃と定義した。
【0500】
hTPP-1の活性測定:
精製したhTPP-1の抗TfR抗体融合蛋白質を,150mM NaCl及び0.1% Triton-X 100を含む50mM ギ酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)で適当な濃度に希釈し,37℃で1時間プレインキュベーションした。スタンダードには7-Amino-4-methylcoumarin (AMC)(SIGMA社)を使用し,同様に処理した。1時間後,フルオロヌンクプレート F96(Nunc社)の各ウェルに20μLずつ加えた。次に,基質としてAla-Ala-Phe-7-amido-4-methylcoumarin (SIGMA社),150mM NaCl及び0.1% Triton-X 100を含む100mM 酢酸緩衝液(pH4.0)で25mMに希釈し,各ウェルに40μLずつ加えた。プレートミキサーで撹拌後,37℃で1時間反応させた。反応後,100mM モノクロロ酢酸/130mM NaOH/100mM 酢酸緩衝液(pH4.3)を各ウェルに150μLずつ加えて反応を停止させ,プレートリーダーで励起波長365nm,検出波長460nmを測定した。なお,酵素活性は,1UnitをAMCμmol/分,37℃と定義した。
【0501】
hGAAの活性測定:
精製したhGAAの抗TfR抗体融合蛋白質を,0.5% BSAを含むPBS(-)(pH7.2)で適当な濃度に希釈し,フルオロヌンクプレート F96(Nunc社)の各ウェルに20μLずつ加えた。スタンダードには4-Methylumbelliferone (4MU)(SIGMA社)を使用した。次に,基質として4-methylumbelliferyl-a-D-glucopyranoside(SIGMA社)を200mM 酢酸緩衝液(pH4.3)で2.2mMに希釈し,各ウェルに20μLずつ加えた。プレートミキサーで撹拌後,37℃で1時間反応させた。反応後,0.05M Glycine/NaOH緩衝液(pH10.6)を各ウェルに200μLずつ加えて反応を停止させ,プレートリーダーで励起波長365nm,検出波長460nmを測定した。なお,酵素活性は,1Unitを4MUμmol/min,37℃と定義した。
【0502】
hNAGLUの活性測定:
精製したhNAGLUの抗TfR抗体融合蛋白質を,0.1% BSAを含む50mM 酢酸緩衝液(pH4.3)で適当な濃度に希釈し,フルオロヌンクプレート F96(Nunc社)の各ウェルに20μLずつ加えた。スタンダードには4-Methylumbelliferone(4MU)(SIGMA社)を使用した。次に,基質として4-methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-glucosaminide(Calbiochem社)を同緩衝液で1mMに希釈し,各ウェルに20μLずつ加えた。プレートミキサーで撹拌後,37℃で1時間反応させた。反応後,0.05M Glycine/NaOH緩衝液(pH10.6)を各ウェルに150μLずつ加えて反応を停止させ,プレートリーダーで励起波長365nm,検出波長460nmを測定した。なお,酵素活性は,1Unitを4MUμmol/min,37℃と定義した。
【0503】
hGUSBの活性測定:
精製したhGUSBの抗TfR抗体融合蛋白質を,50mM NaClを含む25mM 酢酸緩衝液(pH4.5)で適当な濃度に希釈し,フルオロヌンクプレート F96(Nunc社)の各ウェルに20μLずつ加えた。スタンダードには4-Methylumbelliferone(4MU)(SIGMA社)を使用した。次に,基質として4-methylumbelliferyl-β-D-glucuronide hydrate(SIGMA社)を同緩衝液で2mMに希釈し,各ウェルに20μLずつ加えた。プレートミキサーで撹拌後,37℃で1時間反応させた。反応後,0.05M Glycine/NaOH緩衝液(pH10.6)を各ウェルに150μLずつ加えて反応を停止させ,プレートリーダーで励起波長365nm,検出波長460nmを測定した。なお,酵素活性は,1Unitを4MUμmol/min,37℃と定義した。
【0504】
hGALCの活性測定:
精製したGALCの抗TfR抗体融合蛋白質を,125mM NaCl及び0.5%Triton X-100を含む50mM 酢酸緩衝液(pH4.5)で適当な濃度に希釈し,フルオロヌンクプレート F96(Nunc社)の各ウェルに20μLずつ加えた。スタンダードには4-Methylumbelliferone(4MU)(SIGMA社)を使用した。次に,基質として4-methylumbelliferyl-β-D-galactopyranoside(SIGMA社)を同緩衝液で1mMに希釈し,各ウェルに20μLずつ加えた。プレートミキサーで撹拌後,37℃で1時間反応させた。反応後,0.05M Glycine/NaOH緩衝液(pH10.6)を各ウェルに150μLずつ加えて反応を停止させ,プレートリーダーで励起波長365nm,検出波長460nmを測定した。なお,酵素活性は,1Unitを4MUμmol/min,37℃と定義した。
【0505】
hFUCA1の活性測定:
精製したFUCA1の抗TfR抗体融合蛋白質を,0.2%BSAlを含む100mM クエン酸緩衝液(pH5.5)で適当な濃度に希釈し,フルオロヌンクプレート F96(Nunc社)の各ウェルに20μLずつ加えた。スタンダードには4-Methylumbelliferone(4MU)(SIGMA社)を使用した。次に,基質として4MU-α-L-fucopyranoside(SIGMA社)を同緩衝液で2mMに希釈し,各ウェルに20μLずつ加えた。プレートミキサーで撹拌後,37℃で1時間反応させた。反応後,0.05M Glycine/NaOH緩衝液(pH10.6)を各ウェルに150μLずつ加えて反応を停止させ,プレートリーダーで励起波長365nm,検出波長460nmを測定した。なお,酵素活性は,1Unitを4MUμmol/min,37℃と定義した。
【0506】
表21に,各種ヒトリソソーム酵素とヒト化抗hTfR抗体との融合蛋白質のヒトTfR及びサルTfRへの親和性及び酵素活性の測定を示す。なお,親和性及び酵素活性の測定は,実施例33で得たリソソーム酵素とヒト化抗hTfR抗体の融合蛋白質の一部についてのみ実施した。すなわち,ヒトTfR及びサルTfRへの親和性測定は24種類,酵素活性測定は20種類の融合蛋白質についてのみ実施した。
【0507】
酵素活性を測定した融合蛋白質は,いずれもリソソーム酵素としての酵素活性を有するものであった。また,ヒトTfRとの親和性を測定した融合蛋白質は,いずれもヒトTfRと高い親和性を有するものであり,最も親和性の低いものでも,そのKD値は2.09x10-10であり,19種類の融合蛋白質は,そのKD値が1.00x10-12未満であった。また,サルTfRとの親和性を測定した融合蛋白質は,いずれもサルTfRと高い親和性を有するものであり,最も親和性の低いものでも,そのKD値は3.05x10-8であり,12種類の融合蛋白質は,そのKD値が1.00x10-12未満であった。
【0508】
ここで用いた抗hTfR抗体は,重鎖が,可変領域として配列番号65で示されるアミノ酸配列を有するものである重鎖(IgG)又はFab重鎖であり,軽鎖が,可変領域として配列番号18で示されるアミノ酸配列を有するものである。これらの結果は,リソソーム酵素を,可変領域としてこれらのアミノ酸配列を含むものとの融合蛋白質とすることにより,ヒトTfRを介してBBBを通過させ,且つ,脳内で酵素活性を発揮させることができることを示すものである。
【0509】
本発明の抗hTfR抗体は,これと融合させることにより,所望の生理活性蛋白質,低分子物質等を血液脳関門を通過させることができるので,中枢神経系において作用させるべき生理活性蛋白質,低分子物質等を脳内に送達する手段を提供するものとして有用性が高い。