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特開2023-179839CrNi基合金の腐食試験方法、及び、原子炉内構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179839
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】CrNi基合金の腐食試験方法、及び、原子炉内構造物
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20231213BHJP
   G01N 33/2045 20190101ALI20231213BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N33/2045 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092683
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石嵜 貴大
(72)【発明者】
【氏名】山内 博史
(72)【発明者】
【氏名】石岡 真一
(72)【発明者】
【氏名】小畠 亨司
【テーマコード(参考)】
2G050
2G055
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA01
2G050CA04
2G050EC10
2G055AA05
2G055BA12
2G055CA05
2G055CA11
2G055FA10
(57)【要約】
【課題】短時間で評価可能であり、かつ、安全性、及び、再現性の高いCrNi基合金の腐食試験方法を提供する。
【解決手段】24質量%以上35質量%以下のCrを含むCrNi基合金の腐食試験方法であって、45質量%以上75質量%の硝酸と、0.005質量%以上1.0質量%未満のフッ化水素酸とを含む腐食試験溶液に、試験片を一定時間浸漬し、CrNi基合金の粒界腐食を検出する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
24質量%以上35質量%以下のCrを含むCrNi基合金の腐食試験方法であって、
45質量%以上75質量%の硝酸と、0.005質量%以上1.0質量%未満のフッ化水素酸とを含む腐食試験溶液に、試験片を一定時間浸漬し、前記CrNi基合金の粒界腐食を検出する
CrNi基合金の腐食試験方法。
【請求項2】
前記CrNi基合金の粒界腐食の検出として、前記試験片の単位面積当たりの単位時間ごとの質量変化を示す腐食度を測定する
請求項1に記載のCrNi基合金の腐食試験方法。
【請求項3】
安定化パラメーター[mNBar=(0.065×((Nb+Ta+2Ti)/C)×(Cr/14)1.89)]が、2以上35以下の前記CrNi基合金の前記腐食度を測定する
請求項2に記載のCrNi基合金の腐食試験方法。
【請求項4】
前記腐食試験溶液の温度を90℃以上220℃以下に加熱する
請求項1に記載のCrNi基合金の腐食試験方法。
【請求項5】
試験器具は、
前記腐食試験溶液を投入するフッ素樹脂製の容器、及び、フッ素樹脂コーティングを施した容器の少なくともいずれかの容器と、フッ素樹脂製のコンデンサー、及び、フッ素樹脂コーティングを施したガラス製のコンデンサーの少なくともいずれかのコンデンサーとを用いる
請求項1に記載のCrNi基合金の腐食試験方法。
【請求項6】
前記フッ素樹脂、又は、前記フッ素樹脂コーティングが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)の少なくともいずれかである
請求項5に記載のCrNi基合金の腐食試験方法。
【請求項7】
隙間付き低歪み曲げ試験による前記CrNi基合金の応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking:SCC)最大き裂深さと、前記CrNi基合金の前記腐食度との関係を示す[腐食-SCC特性]を求め、
前記腐食度と[腐食-SCC特性]とから前記CrNi基合金の応力腐食割れを推定する
請求項2に記載のCrNi基合金の腐食試験方法。
【請求項8】
45質量%以上75質量%の硝酸と、0.005質量%以上1.0質量%未満のフッ化水素酸とを含む腐食試験溶液に4.0時間浸漬したときの腐食度が200g/m/h以下である、24質量%以上35質量%以下のCrを含むCrNi基合金からなる
原子炉内構造物。
【請求項9】
前記CrNi基合金の安定化パラメーター[mNBar=(0.065×((Nb+Ta+2Ti)/C)×(Cr/14)1.89)]が、2以上35以下である
請求項8に記載の原子炉内構造物。
【請求項10】
隙間付き低歪み曲げ試験による前記CrNi基合金の応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking:SCC)最大き裂深さと、前記CrNi基合金の前記腐食度との関係を示す[腐食-SCC特性]において、SCC最大き裂深さが50μm以下である前記CrNi基合金からなる
請求項8に記載の原子炉内構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cr濃度が24質量%以上35質量%以下のCrNi基合金の腐食試験方法、及び、原子炉内構造物である。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントは、より高い耐食性が求められる場合、Cr濃度を27質量%以上31質量%以下として応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking:SCC)耐性を向上させた690系合金が使用されている(例えば、特許文献1参照)。また、これらの合金の耐食性、耐SCC性を評価する技術の開発が進められている。粒界腐食試験としては、JISに定められたストライカー試験、ヒューイ試験、JSMEに定められたコリオ試験等の他、硝酸とフッ化水素酸の混酸(以降、硝ふっ酸)を用いた試験方法が提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-19981号公報
【特許文献2】特開2008-291281号公報
【特許文献3】特開2017-166007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献2、及び、特許文献3に記載された手法では、2から3%のフッ化水素酸が添加されており、化学物質排出把握管理促進法に従った管理が必要である。また、試験時間も100時間、または、24時間と長時間となっている。
【0005】
上述した問題の解決のため、本発明においては、短時間で評価可能であり、かつ、安全性、及び、再現性の高いCrNi基合金の腐食試験方法、及び、この手法によって高い耐腐食性が評価されたCrNi基合金からなる原子炉内構造物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のCrNi基合金の腐食試験方法は、24質量%以上35質量%以下のCrを含むCrNi基合金に適用する。この腐食試験方法は、45質量%以上75質量%の硝酸と、0.005質量%以上1.0質量%未満のフッ化水素酸とを含む腐食試験溶液に、試験片を一定時間浸漬し、CrNi基合金の粒界腐食を検出する。
【0007】
また、本発明の原子炉内構造物は、24質量%以上35質量%以下のCrを含むCrNi基合金からなる。CrNi基合金は、45質量%以上75質量%の硝酸と、0.005質量%以上1.0質量%未満のフッ化水素酸とを含む腐食試験溶液に4.0時間浸漬したときの腐食度が200g/m/h以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、短時間で評価可能であり、かつ、安全性、及び、再現性の高いCrNi基合金の腐食試験方法、及び、この手法によって高い耐腐食性が評価されたCrNi基合金からなる原子炉内構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】腐食試験方法に係わる腐食試験装置を示す図である。
図2】硝酸濃度45質量%での腐食試験による腐食度とmNBarとの相関関係を示す図である。
図3】硝酸濃度55質量%での腐食試験による腐食度とmNBarとの相関関係を示す図である。
図4】硝酸濃度65質量%での腐食試験による腐食度とmNBarとの相関関係を示す図である。
図5】硝酸濃度75質量%での腐食試験による腐食度とmNBarとの相関関係を示す図である。
図6】HF濃度0.01質量%での試験片の表面観察結果、腐食度、試験誤差(%)、および、腐食形態の評価を示す図である。
図7】HF濃度0.1質量%での試験片の表面観察結果、腐食度、試験誤差(%)、および、腐食形態の評価を示す図である。
図8】HF濃度1.0質量%での試験片の表面観察結果、腐食度、試験誤差(%)、および、腐食形態の評価を示す図である。
図9】腐食度とSCC最大き裂深さとの関係を示す図である。
図10】CrNi基合金のmNBarと、ビッカース硬さとの関係を示す図である。
図11】CrNi基合金のNb添加量と、ビッカース硬さとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は、ここで取り挙げた実施形態に限定されるものではなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で公知技術と適宜組み合わせたり公知技術に基づいて改良したりすることが可能である。
【0011】
[CrNi基合金および腐食試験方法の概要]
本開示に係わるCrNi基合金の腐食試験方法は、24質量%以上35質量%以下のCrを含むCrNi基合金の耐腐食特性、特に、CrNi基合金の耐粒界腐食特性を評価するための試験方法である。本開示に係わるCrNi基合金は、Niを主体とした690系合金相当の化学組成を有するNi-Cr-Fe系合金であり、主成分のNiに加えて、24~35質量%のCrと、Nb、Ta及びTiのうちの一種以上を少なくとも含有している。
【0012】
このようなCrNi基合金は、例えば、高い信頼性が求められる原子力発電プラントで用いられ、高い耐食性が求められる。原子力発電プラントは、配管、構造物は約300℃に達する高温・高圧の原子炉水に長期間に亘って曝される。また、原子炉水中には、溶存酸素が含まれると共に、放射線の作用で腐食を促進する各種ラジカルが発生する。特に、原子炉内の溶接部は、溶接在留応力および腐食環境の影響によって応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking:SCC)の発生が懸念される。このため、原子力発電プラントで使用されるCrNi基合金は、耐食性および耐SCC性の評価による管理が求められる。
【0013】
CrNi基合金の原子炉内での耐SCC性は、例えば、低歪み曲げ試験(Creviced Bent Beam test:CBB試験)を用いて評価することができる。しかし、このCBB試験は、高温、高圧水環境で試験されるため、オートクレーブのような専用設備を用いる必要がある。さらに、CBB試験は、数百時間以上の非常に長い試験時間必要とする。このため、本開示では、CrNi基合金の耐SCC性の評価を、耐SCC性と相関がある、耐粒界腐食特性によって行う。
【0014】
Ni基合金の耐粒界腐食特性は、JIS G 0572「ステンレス鋼の硫酸・硫酸第二鉄腐食試験方法」で定められているストライカー試験や、JIS G 0573「ステンレス鋼の65%硝酸腐食試験方法」に定められているヒューイ試験が用いられている。また、JSME「再処理設備規格設計規格」に定めれれているコリオ試験が用いられている。しかし、ストライカー試験は、Cr濃度の高いCrNi基合金に対して感受性が無い。ヒューイ試験は、試験時間が48時間と長い。また、コリオ試験は、毒性の強い6価Crを用いるなど、安全性に課題がある。
また、上述のように、硝酸溶液に2~3%のフッ化水素酸が添加された硝ふっ酸を用いる耐粒界腐食特性の試験方法が提案されているが、試験時間が100時間、または、24時間と長時間である。
【0015】
そこで、本開示に係るCrNi基合金の腐食試験方法では、45質量%以上75質量%の硝酸と、0.005質量%以上1.0質量%未満のフッ化水素酸とを含む腐食試験溶液を用いる。そして、この腐食試験溶液に、試験片を一定時間浸漬し、CrNi基合金の腐食試験方法の粒界腐食を検出する。
【0016】
フッ化水素酸の添加量を0.005質量%以上1.0質量%未満とすることにより、フッ化水素酸濃度を下げて、化学物質排出管理促進法の対象外とする。また、CrNi基合金の腐食試験溶液として、硝酸濃度に対する適切なフッ化水素酸の添加量とすることができ、安全性および再現性の高い腐食試験を行うことができる。
【0017】
また、上記の腐食試験溶液を用いた腐食試験では、試験片の単位面積当たりの単位時間ごとの質量変化を腐食度として測定することで、CrNi基合金の粒界腐食を検出する。CrNi基合金の試験片の単位面積当たりの質量変化によって腐食度を求めることにより、CrNi基合金の粒界腐食に対する定量的な測定が可能となる。
【0018】
また、本開示の腐食試験では、腐食試験溶液を加熱し、90℃以上220℃以下の腐食試験溶液にCrNi基合金の試験片を浸漬する。腐食試験溶液を上記の温度に加熱することで、例えば2~4時間程度のより短時間での腐食度の評価が可能となる。
【0019】
本開示の腐食試験に適用可能なCrNi基合金は、Nb、Ta及びTiのうちの一種以上が、後述する式(I)に示す安定化パラメーター(mNBar)に基づいて制限された濃度範囲となるように添加されることが好ましい。具体的には、mNBarが2以上35以下のCrNi基合金に対して、腐食試験を適用することが好ましい。CrNi基合金のmNBarを、腐食試験によって得られる腐食度と、CrNi基合金の耐SCC性等との相関性が高い範囲に制限することにより、より再現性や精度の高い耐粒界腐食特性、および、耐SCC性の評価が可能となる。
【0020】
上述のように、本開示で行われる腐食試験方法で得られる粒界腐食特性は、CrNi基合金の耐SCC性と相関がある。このため、あらかじめ上記の腐食試験方法で得られる腐食度と、隙間付き低歪み曲げ試験によるCrNi基合金のSCC最大き裂深さとをそれぞれ測定し、CrNi基合金の腐食度とSCC最大き裂深さの関係を示す[腐食-SCC特性]を求めておく。例えば、組成の異なる複数のCrNi基合金に対し、上記の腐食度とSCC最大き裂深さとを求め、[腐食-SCC特性]として腐食度とSCC最大き裂深さと相関関係を求めておく。このとき、腐食試験溶液の組成ごとに[腐食-SCC特性]を求めておくことが好ましい。
そして、上記の腐食試験によって求めたCrNi基合金の腐食度を、[腐食-SCC特性]に当てはめることにより、耐SCC性を推定することができる。これによって、本開示の腐食試験により、CrNi基合金の腐食度と共に、耐SCC性の評価を行うことができる。
【0021】
本開示の腐食試験方法において、試験器具は、腐食試験溶液を投入する容器として、フッ素樹脂製の容器、及び、フッ素樹脂コーティングを施した容器の少なくともいずれかを用いることが好ましい。また、加熱によって気化した腐食試験溶液を冷却して凝縮(液化)させる冷却器(コンデンサー)として、フッ素樹脂製のコンデンサー、及び、フッ素樹脂コーティングを施したガラス製のコンデンサーの少なくともいずれかを用いることが好ましい。上記の試験器具に用いるフッ素樹脂、又は、フッ素樹脂コーティングとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)の少なくともいずれかであることが好ましい。
上記の腐食試験方法では、腐食試験溶液にフッ化水素酸が添加されている。このため、上記の試験器具を用いることにより、ストライカー試験やヒューイ試験で一般に用いられるガラス製の試験器具に比べ、Siの腐食試験溶液中の溶出を抑制することができる。この結果、精度や再現性の高い腐食試験を行うことができる。
【0022】
また、上述の腐食試験方法で評価することにより、耐粒界腐食特性、耐SCC性に優れたCrNi基合金を得ることができる。例えば、上記の腐食試験溶液に4.0時間浸漬したときの腐食度が200g/m/h以下であれば、高い信頼性が求められる原子力発電プラントにおいて、CrNi基合金を原子炉内構造物に適用することができる。
特に、上述の腐食試験で求めたCrNi基合金の腐食度を基に、上述の[腐食-SCC特性]を用いて求められるSCC最大き裂深さが50μm以下であれば、原子炉内構造物への適用に好適である。
【0023】
[試験設備の説明]
次に、本開示の腐食試験方法に用いる試験設備(試験器具)について説明する。
図1に、本開示の腐食試験方法に係わる腐食試験装置を示す。
【0024】
図1に示す腐食試験装置は、腐食試験溶液3と、腐食試験溶液3内に浸漬されたCrNi基合金の試験片6、及び、試験片6を保持する治具7を収容している試験容器1を有する。そして、腐食試験装置は、試験容器1及び腐食試験溶液3を加熱するための加熱機器5を有する。図1では、加熱機器5としてオイルバスを用いた例を示し、シリコーンオイル等の熱媒体4を用いている。さらに、腐食試験装置は、試験容器1の上部に配置され、腐食試験溶液3から気化した蒸気を冷却、液化して試験容器1に戻すために、内部を冷却水8が循環する冷却器(コンデンサー)2を有する。
【0025】
本試験において腐食試験溶液3として用いる硝ふっ酸は、フッ化水素酸の影響によりガラスを溶解させる作用がある。このため、試験容器1、及び、冷却器2は、フッ素樹脂等の耐食性を有するものや、ガラスや樹脂製の容器にフッ素樹脂コーティングをしたものを用いる。
【0026】
また、腐食試験装置は、腐食試験溶液3を加熱するための加熱機器5を用いることが好ましい。一般に腐食反応は、環境温度を高温とした方が反応速度が速くなる。このため、腐食試験中において、腐食試験溶液3は試験容器1に保持され、加熱機器5を用いて高温状態で保持される。このように、腐食試験の条件として、加熱機器5を用いて腐食試験溶液3を昇温し、高温下で試験を行うことが好ましい。
【0027】
特に、腐食試験溶液3を沸騰状態とする条件で試験を行うことにより、加熱機器5の温度調整が容易となる。さらに、腐食試験溶液3を沸騰状態とすることにより、腐食試験溶液3内に気泡が発生し、気泡によって腐食試験溶液の内部が撹拌される。このため、試験片6の周囲の溶液が対流して腐食反応が均一となり、腐食試験の再現性が高まる。したがって、腐食試験装置は、腐食試験溶液3を沸騰状態に加熱することが可能な加熱機器5を用いることが好ましい。
【0028】
また、上記の加熱機器5と共に、磁気撹拌機に代表される撹拌装置を用いて腐食試験溶液3を強制的に撹拌および対流させてもよい。このため、加熱機器5として、スターラー付きのオイルバス等を用いることが好ましい。特に、腐食試験溶液3を沸騰状態としない場合、腐食試験溶液3が停滞し再現性が低下するため、撹拌装置の利用は効果的である。
【0029】
腐食試験溶液3を沸騰状態まで加熱する場合、硝ふっ酸の沸点は、硝酸濃度によって110から122℃程度に変化する。このとき、加熱機器5の温度を200℃前後に設定する必要がある。このため、試験容器1や治具7等に用いるフッ素樹脂は、フッ素樹脂の中で耐熱性に優れるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPFA(ペルフルオロアルコキシアルカン)等を用いることが好ましい。
【0030】
また、腐食試験溶液3の硝ふっ酸を高温状態とする場合には、腐食試験溶液3が気化する。このため、冷却器2を用いて、気化した溶液の水蒸気を冷却して液化し、試験容器1に戻すことで、腐食試験溶液3の気化による濃度変化を防止することができる。
冷却器2は、内部を冷却水8が循環する構造となっている。冷却器2は、内部の冷却水8の状況を確認するために、透明度の高いフッ素樹脂や、透明度の高いフッ素樹脂でコーティングしたガラス製のものを用いることが好ましい。
【0031】
図1に示すように、腐食試験に用いる試験片6は、治具7で保持されて腐食試験溶液3に浸漬されている。このとき比液率は、0.5m/m以上が好ましい。また、図1に示すように、CrNi基合金の試験片6を固定するための治具7等を腐食試験溶液3内に配置する場合には、この治具7等も、フッ素樹脂の治具や、ガラスや樹脂製の容器にフッ素樹脂コーティングをした治具を用いる。
【0032】
なお、図1では、加熱機器5としてオイルバスを用いる例を示しているが、加熱機器5としてには、他バンドヒータや、加熱器付スターラーなど各種昇温機能を有する機器を用いることができる。腐食試験では、腐食試験溶液3を均一に加熱することが望まれるため、均一な熱源が得られるオイルバスを加熱機器5として用いることが好ましい。
【0033】
[腐食試験溶液の説明]
腐食試験に用いる腐食試験溶液3は、硝酸とフッ化水素酸との混酸(硝ふっ酸)を含む。腐食試験溶液3は、硝酸及びフッ化水素酸以外の成分は純水であり、また、不可避の不純物を含んでもよい。
【0034】
腐食試験溶液3において、硝酸濃度は、45質量%以上75質量%以下である。特に、硝酸濃度が69質量%を超えると発煙硝酸となり空気中で発煙し、腐食試験溶液の濃度管理が難しく、取り扱いに注意が必要となる。このため、腐食試験溶液3の硝酸濃度は、69質量%未満が好ましい。
【0035】
腐食試験溶液3において、フッ化水素酸濃度は、0.005質量%以上1.0質量%未満である。フッ化水素酸濃度が1.0質量%を超えると化学物質排出把握管理促進法に従った管理が必要になり、取り扱いに注意が必要となる。このため、腐食試験溶液3のフッ化水素酸濃度は、1.0質量%未満が好ましい。
【0036】
[耐SCC性に優れたNi基合金を用いた原子炉内構造物]
上述のように、本開示で行われる腐食試験方法で得られる粒界腐食特性は、CrNi基合金の耐SCC性と相関がある。このため、本開示の腐食試験方法を適用することで、耐SCC性に優れたCrNi基合金を選定することが可能である。
【0037】
本開示の腐食試験方法によって耐SCC性に優れると評価されたCrNi基合金は、原子力設備の構造材として用いるのに好適である。特に、原子炉の炉内構造物として好適であり、高温・高圧の原子炉水が接液する部位に用いることができる。CrNi基合金を用いた原子炉内構造物は、母材および溶接部を含む溶接構造物であってもよい。また、溶接部は、機械加工や研削加工を施されて、表面の硬化層が除去されてもよい。また、溶接部は、ピーニング処理や研磨処理が施されているものを含む。
【0038】
CrNi基合金が用いられる具体的な原子炉内構造物としては、例えば、中性子計装検出管、制御棒案内管等が貫通する原子炉圧力容器の底部や下鏡部の貫通部分、原子炉圧力容器の下鏡部のクラッド部分等が挙げられる。また、シュラウド、シュラウドサポートシリンダ、シュラウドサポートレグ、シュラウドサポートプレート等で構成される、炉心シュラウドの支持部、その他給水入口や再循環水入口のノズル部等が挙げられる。
以上、本開示に係わる腐食試験を用いることにより、CrNi基合金の耐SCC性を予見し、良好な耐食性を有するCrNi基合金の材料条件の選出し、原子炉内構造物に適用することが可能となる。
【実施例0039】
以下、実施例により本開示をさらに具体的に説明する。なお、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
上述の図1に示す構成の試験設備を用いて、CrNi基合金の腐食試験を行った。CrNi基合金の腐食試験は、下記の材料を用いて、以下の手順で行った。
【0040】
[材料]
(合金組成;安定化パラメーター)
上記の腐食試験に用いたCrNi基合金の試料として、表1に化学組成を示すTP1~TP5の合金を作製した。TP1~TP4は、690系合金をベースとする24質量%以上35質量%以下のCrを含むCrNi基合金である。また、TP5はCr濃度の低い600系合金ベースのCrNi基合金である。TP5は、腐食試験に好適なCrNi基合金のCr濃度の適応範囲を検証するための比較用の試料である。
【0041】
【表1】
【0042】
また、表1に示すTP1~TP5の合金において、耐SCC性を下記の式(I)に示す安定化パラメーター(mNBar)で管理した。これらの合金は、真空溶解炉で試作し、1200℃で熱間鍛造を施した後に、1150℃で1時間保持してから水冷する溶体化熱処理を施した。
【0043】
【数1】
【0044】
式(I)中、[Nb]はNb濃度(質量%)、[Ta]はTa濃度(質量%)、[Ti]はTi濃度(質量%)、[C]はC濃度(質量%)、[Cr]はCr濃度(質量%)、[Cr0]は臨界Cr濃度(=14質量%)、aはフィッティングパラメータ(=0.5)である。
【0045】
(合金の熱処理)
TP1~TP5の合金に対して、溶接部に主に用いられる条件で溶接後熱処理を実施した。本実施例の腐食試験では、Cr濃度の高いCrNi基合金の熱鋭敏化による耐粒界腐食性の変化を評価するため、溶接後熱処理の後に、鋭敏化熱処理を実施した。表2に、溶接後熱処理、および、鋭敏化熱処理の処理条件を示す。
【0046】
【表2】
【0047】
[腐食試験片の作製]
熱処理したTP1~TP5の合金を用いて、40×10×3mmの短冊状の試験片をそれぞれ作製した。試験片は、表面を研磨し、最終的に耐水エメリー紙♯320仕上げの表面研磨を行った。次に、アセトン中で超音波洗浄を5分間施して脱脂した。その後、ノギスおよびマイクロメータを用いて試験片の寸法を測定した。さらに、電子天秤を用いて試験片の質量を測定した。試験片は、試験直前にエタノール中で超音波洗浄を5分間施した。
【0048】
[試験条件]
腐食試験溶液は、硝酸濃度が45質量%、55質量%、65質量%、又は、75質量%の溶液に、フッ化水素酸を0.005質量%、0.01質量%、0.1質量%、又は、1.0質量%を添加して、それぞれ作製した。
作製した腐食試験溶液をフッ素樹脂製の試験容器に投入し、試験容器の上部にフッ素樹脂コーティングを施したガラス製冷却器を取り付けた。
また、試験片は、フッ素樹脂製の線材で固定して冷却器から吊り下げ、腐食試験溶液に浸漬した。腐食試験溶液は0.9リットルであり、比液率は、全試験片の平均で0.8m/mであった。
【0049】
腐食試験溶液は、試験片投入後にオイルバスを用いて昇温を開始した。オイルバスの設定温度は、180℃とし、腐食試験溶液を沸騰状態とした。腐食試験溶液の沸点は、溶液の濃度によって異なるので、事前に沸点を確認した。
試験中の溶液温度を熱電対で測定し、沸点マイナス1℃に達した時点を保持開始の時間とした。保持時間は、保持開始から降温開始までを4.0時間とした。そして、保持開始から4.0時間経過後、オイルバスの電源を切り降温を開始した。試験の繰り返し数は、各条件で7個とした。
【0050】
[評価:腐食度、腐食形態]
試験後の試験片に対し、純水中で超音波洗浄を10分間施し、試験片表面の付着物および脱粒した結晶粒を取り除いた。その後、エタノール中で超音波洗浄を5分間施し、乾燥後に電子天秤を用いて試験片の質量を測定した。
そして、試験前の表面積と試験前後の質量変化とから、単位面積当たりの単位時間ごとの質量変化を評価した。この単位面積当たりの単位時間ごとの質量変化を、腐食度(Corrosion rate)[g/m/h]と定義する。
また、試験片の腐食形態を評価するために、試験片の表面をマイクロスコープを用いて観察した。
【0051】
[腐食度とmNBarの相関]
硝酸濃度45質量%、55質量%、65質量%、又は、75質量%の溶液に、フッ化水素酸を0.01質量%、0.1質量%、又は、1.0質量%添加した腐食試験溶液を用いて上記の試験条件で試験した結果を、図2~5に示す。図2~5は、横軸が、TP1~TP5の合金のmNBar、縦軸が、腐食度(Corrosion rate)[g/m/h]を示している。
また、図2は、硝酸濃度を45質量%で固定し、添加するフッ化水素酸(HF)濃度を0.01質量%、0.1質量%、又は、1.0質量%とした腐食試験溶液を用いて得られた、TP1~TP5の試験片の腐食試験の結果である。同様に、図3は硝酸濃度を55質量%、図4は硝酸濃度を65質量%、図5は硝酸濃度を75質量%でそれぞれ固定し、添加するフッ化水素酸(HF)濃度を0.01質量%、0.1質量%、又は、1.0質量%とした腐食試験溶液を用いて得られた、TP1~TP5の試験片の腐食試験の結果である。
図2~5において、Cr濃度が30質量%程度のTP1~TP4と、Cr濃度が20質量%程度の比較例であるTP5とをそれぞれ別の印で示している。
【0052】
図2~5に示すように、TP1~TP5の合金では、いずれの硝酸濃度においても、フッ化水素酸の添加量が増加するに伴って、腐食度が増加した。
また、Cr濃度が30質量%程度のTP1~TP4の合金では、いずれの条件においても、mNBarが2~14の範囲では、フッ化水素酸の添加量が増加するに伴って、腐食度が減少した。さらに、mNBarが2~14の範囲(TP1~TP3)では、mNBarmの増加にしたがって腐食度が低下した。特に、mNBarが10(TP2)から14(TP3)の間では、腐食度が急峻に低下した。
【0053】
一方、mNBarが14(TP3)から35(TP4)まで増加すると、腐食度が増加に転じ耐食性が低下した。このとき、フッ化水素酸の添加量が0.01質量%の場合の腐食度の増加量は、硝酸濃度に係わらず、フッ化水素酸の添加量が1.0質量%や0.1質量%の場合よりも小さいことが明らかになった。
【0054】
また、Cr濃度が20質量%程度のTP5の場合、mNBar=14であるが、Cr濃度が30質量%程度ののTP3(mNBar=14.1)と比べて腐食度が高かった。この結果は、全ての硝酸濃度、及び、全てのフッ化水素酸添加量において得られた。
【0055】
このように、本開示の腐食試験で得られる腐食度は、安定化パラメーターmNBarと相関性を有する。具体的には、mNBarが14以下のCrNi基合金では、mNBarの増加に伴い腐食度は低下する。そして、CrNi基合金のmNBarが一定の値を超えると腐食度が上昇に転じるという相関性が得られた。
CrNi基合金の組成をmNBarで管理することにより、上述の腐食試験を安定して再現性よく行うことができる。
【0056】
[腐食形態の観察結果、および、試験誤差]
次に、上記の腐食試験後において、試験片の腐食試験前および試験後の表面観察結果、腐食度(g/m/h)の定量値、試験誤差(%)、並びに、腐食形態の評価を示す。図6は、65質量%硝酸に0.01質量%のフッ化水素酸を添加した腐食試験溶液を用いた腐食試験の結果である。同様に、図7は、65質量%硝酸に0.1質量%のフッ化水素酸を添加、図8は、65質量%硝酸に1.0質量%のフッ化水素酸を添加した腐食試験溶液を用いた腐食試験の結果である。
【0057】
図6に示すように、フッ化水素酸濃度が0.01質量%の場合、TP3(mNBar=14.1)を除く試験片で粒界腐食と全面腐食とが発生した。TP3は耐粒界腐食性が高く、試験片に全面腐食のみが認められ、粒界腐食は認められなかった。
図7に示すように、フッ化水素酸濃度が、0.1質量%の場合、試験後の表面は、TP1~TP5の全ての試験片で粒界腐食が認められ、TP3を除く試験片に脱粒が認められた。このとき、TP3の試験片では、粒界腐食は一部でのみ認められ、脱粒は生じなかった。
図8に示すように、フッ化水素酸濃度が1.0質量%の場合、mNBarが低いTP1およびTP2の試験片は、すべて溶解した。また、TP3の試験片は、粒界腐食が発生せず全面腐食の様相であった。TP4およびTP5の試験片は、全面腐食と粒界腐食とが発生した。
【0058】
また、図6~8に示すように、各腐食試験溶液でのTP1~TP5の各試験片において、腐食度の試験誤差[(2σ/平均)×100%]を検討した。腐食度の試験誤差は、フッ化水素酸添加量が高くなると誤差が大きくなる傾向が見られた。ただし、試験誤差は、最大でも20%以下であった。
上記の腐食試験方法のような浸漬試験は、腐食試験の中でも試験誤差が大きく数十%を超える試験手法も多い。このため、上記の腐食試験方法は、従来の腐食試験に比べて試験誤差が小さい。
【0059】
したがって、図6~8に示すように、上記の腐食試験方法を用いることにより、Cr濃度が30質量%程度と高いCrNi基合金の粒界腐食を、4.0時間という短時間で検出することができた。さらに、腐食度も試験誤差の十分に小さい結果が得られた。このため、本開示の腐食試験方法によれば、ヒューイ試験等の従来のCrNi基合金の試験方法にくらべ、より短時間で、精度の高い耐粒界腐食特性の試験が可能である。
【0060】
[腐食度とSCC発生感受性の相関]
次に、上記の腐食試験によって得られた腐食度と、CrNi基合金のSCC発生感受性との関係について説明する。図9に、腐食度と、SCC最大き裂深さとの関係を示す。SCC最大き裂深さは、SCC発生感受性を示すものであり、隙間付き低歪み曲げ試験(Creviced Bent Beam test:CBB試験)によって評価した。
図9は、縦軸が65質量%硝酸に0.1質量%のフッ化水素酸を添加した腐食試験溶液を用いたTP1~TP5の試験片の腐食度であり、横軸が下記のCBB試験によるSCC最大き裂深さ[μm]である。
【0061】
(CBB試験)
CBB試験は、幅10mm、長さ50mm、厚さ2mmの供試材に対して加速環境で試験を実施した。試験片は、グラファイトウールで隙間を付け、曲げひずみを付与して試験治具に取り付けた。試験条件は、温度288℃、溶存酸素濃度40ppm、過酸化水素濃度20ppm、電気伝導率20μS/cmの加速条件とした。試験時間は、4000時間として、試験後に試験片の中央断面に対して顕微鏡観察を行い、き裂深さを測定した。
【0062】
CBB試験の結果、TP4を除くTP1~TP3およびTP5では、粒界型のSCCが発生した。一方、TP4は粒内型の割れであった。このような粒界型のSCCの発生、および、粒内型の割れの発生は、CrNi基合金の硬さに起因する。
【0063】
(ビッカース硬さ)
図10に、CrNi基合金のmNBarと、ビッカース硬さとの関係を示す。また、図10は、縦軸がビッカース硬さ、横軸がCrNi基合金(TP1~TP5)のmNBarである。図10に示すように、Cr濃度が20質量%程度のTP5を除き、Cr濃度が30質量%程度のTP1~TP4では、mNBarの増加によってビッカース硬さも増加している。このため、図10に示すように、mNBarが大きいTP4は、ビッカース硬さが高いため、粒内型の割れが発生した。また、TP4以外は、ビッカース硬さが低いため、粒界型のSCCが発生した。
【0064】
また、図11に、CrNi基合金のNb添加量と、ビッカース硬さとの関係を示す。図11は、縦軸がビッカース硬さ、横軸がCrNi基合金(TP1~TP5)のNb添加量(質量%)である。
図11に示すように、CrNi基合金のNb添加量と、硬さには関係性が見られる。このNb添加量と硬さとの関係によると、Nbの添加量が3.7質量%程度を超えたところから、Nb添加量の増加にともなうビッカース硬さの増加が始まる。
ここで、Nb添加が量3.7質量%程度の場合について、TP1からTP4のCr濃度、C濃度、Ta濃度、Ti濃度の平均値に対してmNBarを算出すると、mNBarは25程度である。
したがって、Nbの添加量によってCrNi基合金のmNBarを調整する場合、mNBarが14から25の範囲においては、CrNi基合金が高い耐食性を有する。また、mNBarが25を超える値までNbを添加した場合、CrNi基合金の耐食性が低下する可能性がある。このため、CrNi基合金のNbの添加量は、mNBarが25未満となるように調整することが好ましい。
【0065】
(SCC最大き裂深さ)
図9の説明に戻り、腐食度とSCC最大き裂深さとの相関性に着目すると、腐食度の増加にしたがってSCC最大き裂深さ、すなわちSCC発生感受性が増加することが示された。このとき、SCC最大き裂深さが50μm以下の場合、き裂がそれ以上に進展し難いため、耐SCC性が高いと評価できる。
図9に示す結果では、SCC最大き裂深さが50μm以下となるのは、腐食度が220g/m/h以下の場合であった。このため、上述の腐食試験による腐食度が220g/m/h以下のCrNi基合金であれば、耐SCC性に優れると評価できる。好ましくは、データが確認されている範囲から200g/m/h以下のCrNi基合金であれば、耐SCC性に優れると評価できる。
【0066】
このように、上記の腐食試験方法によって得られる腐食度は、SCC発生感受性と相関がある。このため、上述の腐食試験方法を用いて腐食度を評価することにより、CrNi基合金の耐SCC性を予見できる。
なお、SCC発生感受性、および、腐食度は、いずれも試験条件によって値が変化する。そこで、SCC最大き裂深さが50μm以下の場合、き裂が進展性を有する前段階であることに着目する。そして、推定される腐食環境(腐食試験溶液、温度等)において、SCC発生感受性が50μm以下となる材料条件(CrNi基合金組成、mNBar等)を選定する。そして、当該材料条件に対し、上記の腐食試験を適用して腐食度を評価することにより、当該材料条件での耐SCC性を推定することができる。
【0067】
具体的には、予め上記の腐食試験方法で得られる腐食度と、隙間付き低歪み曲げ試験によるCrNi基合金のSCC最大き裂深さとをそれぞれ測定し、図9に示すCrNi基合金の腐食度とSCC最大き裂深さの相関関係を表す[腐食-SCC特性]を求めておく。例えば、組成の異なる複数のCrNi基合金に対し、上記の腐食度とSCC最大き裂深さとを求め、[腐食-SCC特性]として腐食度とSCC最大き裂深さと相関関係を求めておく。このとき、腐食試験溶液の組成や試験温度条件ごとに、図9に示すCrNi基合金の[腐食-SCC特性]を求めておくことが好ましい。
その後、CrNi基合金の組成条件に対しては、上記の腐食試験を適用して腐食度を評価する。そして、得られた腐食度を、[腐食-SCC特性]に当てはめることにより、当該CrNi基合金の耐SCC性を推定することができる。
【0068】
また、CrNi基合金の腐食環境条件(腐食試験溶液、温度等)において、[腐食-SCC特性]から、SCC最大き裂深さが50μm以下となるCrNi基合金の組成やmNBarを、CrNi基合金の組成条件として求めておく。以降は、新たにCrNi基合金の耐SCC性を評価する際、このCrNi基合金の腐食度が、事前に耐SCC性に優れると判定された組成条件の腐食度以下であれば、その新たなCrNi基合金の耐SCC性も高いと判断できる。このSCC最大き裂深さが50μm以下となる組成条件を活用し、新たなCrNi基合金に対しても、上記の短時間の腐食試験によってSCC発生感受性を予見することが可能である。
【0069】
また、上記の腐食試験では、CrNi基合金の試験片において、結晶粒界だけを効率よく腐食させることが可能である。粒界腐食による腐食度は、結晶粒の腐食長さ、腐食幅、腐食深さに依存する。したがって、腐食試験後に、断面観察を行い腐食度に変わり結晶粒の腐食幅および腐食長さで評価した場合においても図9と同等の結果を得ることができる。
【実施例0070】
次に、上記の腐食試験方法において、試験時間による腐食度への影響について検証した。実施例1と同様の条件において、CrNi基合金の試験片をTP1、硝酸濃度65質量%、フッ化水素酸濃度0.1質量%の腐食試験溶液として、試験時間を4、8、24時間と変更した場合の腐食度の変化への影響を調べた。腐食試験において、腐食試験溶液は沸騰状態とした。表3に、試験時間、腐食度、および、試験誤差の測定結果を示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示すように、腐食度は、試験時間の増加に伴って低下する傾向であった。これは、腐食によって生じる腐食生成物の保護性によるものと考えられる。
また、試験誤差は、試験時間の増加に伴って増大した。上記の実施例2の試験条件では、実施例1と同様にCrNi基合金の試験片に脱粒が生じる。このため、試験時間が増加すると試験片の脱粒に伴い形状変化が大きくなる。このように試験時間の増加によって試験片の形状変化が大きくなるため、試験誤差が大きくなると考えられる。
以上の結果から、上記の腐食試験方法では、試験時間を4時間とすることで、高い試験精度で粒界腐食を検出することが可能である。
【0073】
上述した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実施例の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 試験容器、2 冷却器、3 腐食試験溶液、4 熱媒体、5 加熱機器、6 試験片、7 治具、8 冷却水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11