(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179905
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】アンジオポエチンー2のヒト血液中存在形態分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/53 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092822
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】722005477
【氏名又は名称】根木 茂人
(72)【発明者】
【氏名】根木 茂人
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ヒト血漿・血清中の内因性アンジオポエチン-2の存在形態を明らかにする
【解決手段】ヒト血漿・血清からアンジオポエチン-2を単離し、高感度Western Blot分析による方法を開発した。アンジオポエチン-2の単離は、通常のELISAプレートを用いて吸着し、塩化リチウムとドデシル硫酸リチウム塩からなる変性液を用いてプレートから脱離させる。得られた変性液をSDS電気泳動後、PDVF膜へ転写して、SH基とNH
2基の両方を修飾したアンジオポエチン-2抗体2つを用いる高感度Western Blot分析法により、ヒト血漿・血清中の内因性アンジオポエチン-2の存在形態を明らかにする分析方法を確立した。健常成人のヒト血漿・血清中のアンジオポエチン-2を用いた結果では、モノマーとダイマーを中心とする混合体であることを明らかとし、本発明の有用性を示した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンジオポエチン-2抗体を二つ用いてアンジオポエチン-2検出を行い、感度の向上を可能とする。
【請求項2】
アンジオポエチン-2抗体のジスルフィド基にはマレインイミドを利用して、アミノ基には活性エステルを利用し、抗体に存在する両方の官能基にビオチンを導入し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で修飾されたストレプトアビジンあるいはアビジンを使ってアンジオポエチン-2検出を行い、感度の向上を可能とする。
【請求項3】
異なるエピトープを認識するアンジオポエチン-2抗体を2つ用いてWestern blot検出を行い、感度の向上を可能とする。
【請求項4】
電気泳動に用いるサンプルバッファーの組成としてラウリル硫酸ナトリウム(SDS)とラウリル硫酸リチウム(LDS)を混合しラウリル硫酸イオンとして10%を超える緩衝液を使用することにより、Western blot分析の感度の向上を可能とする。
【請求項5】
ヒト血液(血清あるいは血漿)に20%の割合でクエン酸ナトリウム水溶液あるいはEDTA ナトリウム水溶液を加えて、ELISA分析用のプレートに加え、アンジオポエチン-2を効率的に吸着させる。
【請求項6】
ELISA分析用のプレートを用いて、アンジオポエチン-2を含む抗原溶液を吸着させ、変性を行ってプレートに吸着させた抗原を脱離させ、これを電気泳動を用いてゲルに分子量順に展開を行い、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜にゲルから転移を行い、PVDF膜に吸着されたアンジオポエチン-2を修飾されたアンジオポエチン-2抗体を用いてWestern blot分析で検出を行う。
【請求項7】
ELISA分析用のプレートを用いて、アンジオポエチン-2を含む抗原溶液を吸着させ、塩化リチウム(LiCl)とLDSからなるリン酸リチウム(LiPO4)緩衝液(pH 5~6)で変性を行ってプレートに吸着させた抗原を脱離させることにより、Western blot分析の障害となるELISA分析用のプレートに結合させたアンジオポエチン-2抗体の変性体を抑制すること。
【請求項8】
ELISA分析用のプレートを用いて、アンジオポエチン-2を含む血清あるいは血漿を吸着させ、トリス緩衝液(pH 7~9)で短時間洗浄することで、非特異的な反応をする物質を除去し、変性を行ってプレートに吸着させた抗原を脱離させることにより、Western blot分析の障害となる非特異的反応を起こす血清あるいは血漿成分を除去すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンジオポエチン-2はオリゴマーとして存在するとされているが、ヒト血液(血清あるいは血漿)中の存在形態については知られていないため、簡便な方法でヒト血液中のアンジオポエチン-2存在形態を調べることを可能とする新規な分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1及び非特許文献2において述べられているように、アンジオポエチン-2は血管新生に関わる受容体型チロシンキナーゼタンパク質Tie2受容体の天然のアンタゴニストで、アゴニストのアンジオポエチン-1と同様にオリゴマーとしてTie2受容体に作用することが知られている。
【0003】
非特許文献3では、アンジオポエチン-2は、ガンをはじめとする様々な疾患で増加すること報告されており、中でも多くのガンではアンジオポエチン-2の量と生存率との関係性があるとされ、血液中のアンジオポエチン-2量が多いほど予後が悪いことが報告されている。
【0004】
また、非特許文献4では、糖尿病においては網膜症を発症している患者でアンジオポエチン-2の量が多くなっているとの報告がされている。
【0005】
一方、アンジオポエチン-2をコードする遺伝子を人工的に作成し、各種細胞にウイルスなどを使って導入し、ヒト型アンジオポエチン-2を産生させ、単離してその物理化学的、生物学的な特質を明らかにする研究が行われてきた。
【0006】
非特許文献5では、293T human embryonic kidney (HEK293T)細胞にアンジオポエチン-2 プラスミドを導入し、アンジオポエチン-2を発現させ、Tie2-FCを使って免疫沈降して取り出し、電気泳動後、Western blot分析を行いジスルフィド結合で架橋された複合体を検出したと報告している。
【0007】
非特許文献6では、c-Myc tag およびαHis tag を修飾可能な状態にしサイトメガロウイルスを用いてヒトアンジオポエチン-2 DNAをCOS-7 細胞に導入しアンジオポエチン-2を発現させ、ニッケル錯体を用いて精製を行いアンジオポエチン-2のモノマーとダイマーを検出したと報告している。
【0008】
非特許文献7では、ヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC)中でアンジオポエチン-2を発現し、sTie2-Fcにより免疫沈降で単離し、電気泳動後、Western blot分析を行い、主としてダイマーを検出したと報告している。
【0009】
非特許文献8では、バキュロウイルスを用いてinsect cell (Sf9)中でMycを標識したアンジオポエチン-2を発現しsTie2により免疫沈降で単離し、電気泳動後、Western blot分析を行い、主としてダイマーを検出したと報告している。
【0010】
非特許文献9では、ルイス肺ガン (LLC) あるいはTA3 乳腺がん細胞にアンジオポエチン-2をコードする遺伝子を導入してアンジオポエチン-2を発現させ、血清フリーの培養液を、電気泳動後、Western blot分析を行いモノマー、ダイマー、オリゴマーの混合体を検出したと報告している。
【0011】
多くの細胞培養系ではアンジオポエチン-2はダイマーとして存在することが報告されているが、がん細胞の培養では多数のオリゴマーとして存在することが確認されている。ヒト血液(血清あるいは血漿)中のアンジオポエチン-2の存在形態はダイマーとして考えられているが、細胞培養系の結果から考えるとガン患者で増加すると報告されているアンジオポエチン-2がダイマーであるかあるいは別の形態であるかは興味が持たれるところである。しかし、技術的な限界からヒト血液(血清あるいは血漿)中のアンジオポエチン-2の存在形態については報告が無く、その存在形態に関して調べることができなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Hanahan D. Signaling Vascular Morphogenesis and Maintenance. Science, 277, 48―50 (1997).
【非特許文献2】Kim I, Kim JH, Moon SO, Kwak HJ, Kim NG, Koh GY, Angiopoietin -2 at high concentration can enhance endothelial cell survival through the phosphatidylinositol 3'-kinase/Akt signal transduction pathway, Oncogene, 19, 4549―4552 (2000).
【非特許文献3】Jary M, Vernerey D, Lecomte T, Dobi E, Ghiringhelli F, Monnien F, Godet Y, Kim S, Bouche O, Fratte S, Gonsalves A, Leger J, Queiroz L, Adotevi O, Bonnetain F, Borg C. Prognostic value of Angiopoietin -2 for death risk stratification in patients with metastatic colorectal carcinoma. Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev., 24, 603―612 (2015).
【非特許文献4】Khalaf N., Helmy H., Iabib H., I. Fahmy, Hamid M. A. E., Moemen L. Role of Angiopoietins and Tie-2 in Diabetic Retinopathy. Electronic Physician. 9. 5031―5035 (2017).
【非特許文献5】Maisonpierre PC, Suri C, Jones PF, Bartunkova S, Wiegand SJ, Radziejewski C, Compton D, McClain J, Aldrich TH, Papadopoulos N, Daly TJ, Davis S, Sato TN, Yancopoulos GD. Angiopoietin -2, a natural antagonist for Tie2 that disrupts in vivo angiogenesis. Science, 277, 55―60 (1997).
【非特許文献6】Procopio WN, Pelavin PI, Lee WMF, Yielding NM. Angiopoietin -1 and -2 coiled coil domains mediate distinct homo-oligomerization patterns, but fibrinogen-like domains mediate ligand activity. J. Biol. Chem., 274, 30196―30201 (1999).
【非特許文献7】Kim I, Kim JH, Ryu YS, Jung SH, Nah JJ, Koh GY. Characterization and expression of a novel alternative spliced human Angiopoietin-2. J. Biol. Chem., 275, 18550―18556 (2000).
【非特許文献8】Kim HZ, Jung K, Kim HM, Cheng Y, Koh GY. A designed Angiopoietin -2 variant, pentameric COMP-Ang2, strongly activates Tie2 receptor and stimulates angiogenesis. Biochim. Biophys. Acta, 1793, 772―780 (2009).
【非特許文献9】Yin X., Qin Y. Angiopoietin-1, Unlike Angiopoietin-2, Is Incorporated into the Extracellular Matrix via Its Linker Peptide Region. J. Biol. Chem., 276, 34990―34998 (2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
アンジオポエチン-2はオリゴマーとして存在する事が報告されているが、ヒト血液(血清あるいは血漿)中で低濃度のタンパク質に関しては、その存在形態については簡便な分析方法が知られていないため調べることができなかった。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、これまで明らかとされてこなかったヒト血液(血清あるいは血漿)中アンジオポエチン-2の存在形態を明らかにできる分析方法を提供することにより、Tie2関連の血管新生に関するアンジオポエチン-1および2の役割を理解することに貢献するだけでなく、ガンをはじめとする多くの疾患でアンジオポエチン-2量の変化が報告されており、疾患の診断マーカーあるいは新たな治療方法が見いだされる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ヒト血液(血清あるいは血漿)中のアンジオポエチン-2の吸着をアンジオポエチン-2抗体を固相したELISAプレートを用いて行い、プレートに吸着したアンジオポエチン-2を変性をしてプレートから取り出し、変性したアンジオポエチン-2溶液をWestern blot分析により分析して存在形態を明らかにする方法を提供することにある。
【0016】
本発明は、ヒト血液(血清あるいは血漿)中のng/mLという低濃度のアンジオポエチン-2を高感度で検出できるように複数の方法でビオチン修飾化を行ったアンジオポエチン-2抗体を用いて高感度なWestern blot分析を可能にする方法を提供することにある。
【0017】
本発明は、ヒト血液(血清あるいは血漿)中のng/mLという低濃度のアンジオポエチン-2濃度を高感度で検出できるように複数の方法でビオチン修飾化を行ったアンジオポエチン-2抗体で異なるエピトープを認識するアンジオポエチン-2抗体二つを用いて高感度なWestern blot分析を可能にする方法を提供することにある。
【0018】
ヒト血液(血清あるいは血漿)中のアンジオポエチン-2の吸着をアンジオポエチン-2抗体を固相したELISAプレートを用いて行い、プレートに吸着したアンジオポエチン-2を変性をしてプレートから取り出し、変性したアンジオポエチン-2溶液を電気泳動で分離し、検出感度に合わせるため限外濾過装置により適切な方法で濃縮し、ゲルからタンパク質を膜に転写し、複数の方法でビオチン修飾化を行ったアンジオポエチン-2抗体で異なるエピトープを認識する高感度化したアンジオポエチン-2抗体二つを用いてアンジオポエチン-2の組成をWestern blot分析する方法を提供することにある。
【0019】
本課題を解決する概念を
図1に示した。
第1段階:ELISAプレートにアンジオポエチン-2抗体を吸着し、固相プレートを作成する。
第2段階:アンジオポエチン-2を含む試料(血液試料を含む)を上記固相プレートに加え、反応をする。
第3段階:固相プレートを洗浄し、アンジオポエチン-2がELISAプレートに固定したアンジオポエチン-2抗体に結合した状態を作る。
第4段階:第3段階のプレートは通常のELISA測定法で、各ウエルに存在するアンジオポエチン-2量を分析する。
第5段階:一方、検出に使用しないウエルに変性液を加え、アンジオポエチン-2をプレートに固定したアンジオポエチン-2抗体から脱離させ、変性溶液中に溶出させる。
第6段階:変性液を取り出し、濃縮などを行い、Western blot分析を行う。
【0020】
この分析概念を実現するには下記の課題を解決する分析手段および単離手段を開発する必要があった。
【0021】
1) ヒト血液中のアンジオポエチン-2の量はng/mLと微量であり、高感度に検出できるWestern blot分析条件を確立する必要があった。
【0022】
2) 本発明は、抗体を固相したELISAプレートにアンジオポエチン-2を選択的に吸着し、変性して脱離させる方法を採用しているため、効率的に変性して高純度のアンジオポエチン-2を単離する手段を確立する必要があった。
【0023】
3) 本発明は、抗体を固相したELISAプレートにアンジオポエチン-2を選択的に吸着し、変性して脱離させた後、高感度にアンジオポエチン-2を検出する必要があり、アンジオポエチン-2だけを検出できるWestern blot分析手段を確立する必要があった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】サンプルバッファー中のSDSとLDSの比率によるAng2 モノマー検出感度の比較
【
図3】抗体2種を組み合わせることによるAng2 モノマー検出感度の比較
【
図4】SH基ビオチン標識化抗体とSH基NH
2基ビオチン標識化抗体2種の組み合わせによるAng2 モノマー検出感度の比較
【
図5】SH基NH
2基ビオチン標識化抗体2種の組み合わせによるAng2 ダイマー検出
【
図7】
図6各種変性条件液のWestern blot分析
【
図8】ヒト血漿・血清における添加剤のAng2抗体プレートへの吸着効果
【
図9】ヒト血漿・血清を用いて吸着後、トリス緩衝液洗浄効果比較
【
図10】ヒト血漿・血清を用いて吸着後、トリス緩衝液洗浄有り無しにおける、変性溶液のWestern Blot分析
【
図11】本発明に従い取り出し分析した ヒト血漿・血清中のAng2 Western Blot分析
【
図12】ヒト血漿・血清サンプルにおけるAng2のプレート吸着結果
【実施例0025】
<ELISA分析用のプレートの作成>
【0026】
ヌンクELISA用プレートを用意し、アンジオポエチン-2抗体を溶解した溶液100 μLを各ウエルに加え、24時間以上静置後、溶液を抜き出し、洗浄液で洗浄し、ブロッキングを行い、洗浄液で洗浄し、溶液を抜き取りアンジオポエチン-2抗体を吸着させたプレートを作成した。
SDS (sodium dodecyl sulfate)あるいはLDS(lithium dodecyl sulfate)を100 mg秤取り、0.3 mLの50%グリセリン水溶液と0.312 Mのトリス緩衝液(pH 6.8~7.5)0.7 mLの混合液に溶解する。ブロモフェノールをわずか加えサンプルバッファーを調製した。