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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179917
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】化学反応デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20231213BHJP
   H01L 31/0749 20120101ALI20231213BHJP
   H10K 39/10 20230101ALI20231213BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231213BHJP
   C25B 1/22 20060101ALI20231213BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20231213BHJP
【FI】
H01L31/04 122
H01L31/04 112Z
H01L31/06 460
H01L31/04 120
C25B1/04
C25B1/22
C25B1/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092853
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 康彦
(72)【発明者】
【氏名】山中 健一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直彦
【テーマコード(参考)】
4K021
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AB13
4K021AB25
4K021BA02
4K021CA15
4K021DC01
4K021DC03
4K021DC15
5F151AA02
5F151AA10
5F151AA20
5F151DA15
5F151EA20
5F251AA02
5F251AA10
5F251AA20
5F251DA15
5F251EA20
(57)【要約】
【課題】太陽エネルギーから生成物の化学エネルギーへの変換効率を向上させる。
【解決手段】PVモジュール100からECモジュール102へ電力を供給し、当該電力を利用して化学反応を生じさせる化学反応デバイスであって、PVモジュール100は、受光面側から、バンドギャップが1.3eV以上1.7eV以下の光吸収材料を用いた光電変換セルをn個直列接続したトップセルモジュールと、バンドギャップが1.0eV以上1.2eV以下の光吸収材料を用いた光電変換セルをn個直列接続したボトムセルモジュールと、を積層して、互いに並列接続した構成であり、ECモジュール102は、ECリアクタをnEC個直列接続した構成であり、n/nECは1.1以上であり、n/nECは2以上とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換モジュールから電気化学モジュールへ電力を供給し、当該電力を利用して化学反応を生じさせる化学反応デバイスであって、
前記光電変換モジュールは、受光面側から、
バンドギャップが1.3eV以上1.7eV以下の光吸収材料を用いた光電変換セルをn個直列接続したトップセルモジュールと、
バンドギャップが1.0eV以上1.2eV以下の光吸収材料を用いた光電変換セルをn個直列接続したボトムセルモジュールと、
を、積層して、互いに並列接続した構成であり、
前記電気化学モジュールは、電気化学リアクタをnEC個直列接続した構成であり、
/nECは1.1以上であり、n/nECは2以上であることを特徴とする化学反応デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の化学反応デバイスであって、
前記トップセルモジュールを構成する光電変換セルは、有機無機ハイブリッドペロブスカイトセルであることを特徴とする化学反応デバイス。
【請求項3】
請求項1に記載の化学反応デバイスであって、
前記ボトムセルモジュールを構成する光電変換セルは、結晶シリコンセル又はCu(in,Ga)Seセルであることを特徴とする化学反応デバイス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化学反応デバイスであって、
前記電気化学リアクタは、水(HO)から水素(H)と酸素(O)を生成することを特徴とする化学反応デバイス。
【請求項5】
請求項4に係る化学反応デバイスであって、
/nECは1.1以上1.8以下であり、n/nECは2.0以上3.0以下であることを特徴とする化学反応デバイス。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化学反応デバイスであって、
前記電気化学リアクタは、二酸化炭素(CO)と水(HO)から一酸化炭素(CO)又はギ酸(HCOOH)を生成することを特徴とする化学反応デバイス。
【請求項7】
請求項6に係る化学反応デバイスであって、
/nECは1.3以上3.0以下であり、n/nECは2.3以上4.0以下であることを特徴とする化学反応デバイス。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化学反応デバイスであって、
前記電気化学リアクタは、二酸化炭素(CO)を還元することを特徴とする化学反応デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光エネルギーの利用は、カーボンニュートラルを実現するために必須の技術である。既に世の中に広く普及している太陽光発電に加えて、太陽光エネルギーのみを用いて水(HO)から水素(H)を、二酸化炭素(CO)と水(HO)から一酸化炭素(CO)やギ酸(HCOOH)などを合成する人工光合成の研究が精力的に行われている。
【0003】
人工光合成技術の現状において、光触媒を用いた方式に比べて、光電変換(PV)セルと電気化学(EC)リアクタを組み合わせた方式が太陽光エネルギーから化学エネルギーへの変換効率(ηSTC)の高い値が得られている。例えば、水(HO)を分解して水素(H)を生成する反応の熱力学的閾値電圧は1.23Vであり、二酸化炭素(CO)と水(HO)から一酸化炭素(CO)やギ酸(HCOOH)を生成する反応の熱力学的閾値電圧はそれぞれ1.34V及び1.43Vである。しかしながら、ECリアクタを駆動して実用的に意味のある反応速度を得るためには、これらの値に過電圧を加えた、少なくとも1.6V~1.8Vの印加電圧が必要である。そこで、太陽光エネルギーから化学エネルギーへの変換効率(ηSTC)を高くするために、現在は2接合(2J:double-junction)、あるいは3接合(3J:triple-junctionJ)のPVセルが用いられる。
【0004】
また、下記の課題として述べる2J-PVセル及び3J-PVセルの問題点を解消するために、半透光性PVセルを複数直列接続したトップPVモジュールと、トップモジュールに用いられるPVセルよりもバンドギャップが狭いPVセルを複数直列接続したボトムPVモジュールを、トップPVモジュールを上(光照射面側)にして積層し、それぞれ別のECリアクタに接続した、4端子タンデムPVモジュールを用いる構成が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】R. T. White, et al., J. Mater. Chem. A 5, 13112 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、2J-PVセルや3J-PVセルには以下の2つの技術的な問題がある。第1の問題は、太陽光スペクトルが変動すると、電流が著しく低下することである。これは、トップセル/ボトムセル間の電流整合が成り立たなくなり、セル全体の電流がトップセル/ボトムセルの光電流のうちの最小値によって制限されるからである。第2の問題は、現実的な材料の制約より生じる問題である。有機無機ハイブリッドペロブスカイト(PVK)太陽電池はその組成によってバンドギャップEgが変化する。現状ではバンドギャップEg=1.5eVとなる組成のセルのおよそ25%が最高の光電変換効率(ηPV)であり、バンドギャップEg=1.2eV~1.7eVの範囲ではそれに近い高品質のセルが実現されている。そのため、2Jセルのトップセルに用いることができる。一方、現時点で現実的なボトムセルは、結晶シリコン(Si)PVセル(バンドギャップEg=1.12eV,光電変換効率(ηPV)の最高値26.3%)と、Cu(In,Ga)Se(CIGS)セル(バンドギャップEg=1.08eV、光電変換効率(ηPV)の最高値23.4%)に限られる。PVKトップセルのバンドギャップEgはボトムセルとの電流整合の制約を受けるので、ECリアクタの特性に合わせるための設計の自由度が限られる。
【0007】
また、4端子タンデムPVモジュールは、上記電流整合の問題を解決する。さらに、トップセル及びボトムセルの各PVモジュールの直列接続数及びそれぞれが接続されるECリアクタの面積比が設計パラメータであるので、最適設計を行えば高い変換効率(ηSTC)を得ることができる。しかしながら、ECリアクタを2つに分割するので構造が複雑になり、設計が最適値から大きく外れると逆に変換効率(ηSTC)が低下するという技術的な問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、光電変換モジュールから電気化学モジュールへ電力を供給し、当該電力を利用して化学反応を生じさせる化学反応デバイスであって、前記光電変換モジュールは、受光面側から、バンドギャップが1.3eV以上1.7eV以下の光吸収材料を用いた光電変換セルをn個直列接続したトップセルモジュールと、バンドギャップが1.0eV以上1.2eV以下の光吸収材料を用いた光電変換セルをn個直列接続したボトムセルモジュールと、を、積層して、互いに並列接続した構成であり、前記電気化学モジュールは、電気化学リアクタをnEC個直列接続した構成であり、n/nECは1.1以上であり、n/nECは2以上であることを特徴とする化学反応デバイスである。
【0009】
ここで、前記トップセルモジュールを構成する光電変換セルは、有機無機ハイブリッドペロブスカイトセルであることが好適である。
【0010】
また、前記ボトムセルモジュールを構成する光電変換セルは、結晶シリコンセル又はCu(in,Ga)Seセルであることが好適である。
【0011】
また、前記電気化学リアクタは、水(HO)から水素(H)と酸素(O)を生成することが好適である。
【0012】
また、n/nECは1.1以上1.8以下であり、n/nECは2.0以上3.0以下であることが好適である。
【0013】
また、前記電気化学リアクタは、二酸化炭素(CO)と水(HO)から一酸化炭素(CO)又はギ酸(HCOOH)を生成することが好適である。
【0014】
また、n/nECは1.3以上3.0以下であり、n/nECは2.3以上4.0以下であることが好適である。
【0015】
また、前記電気化学リアクタは、二酸化炭素(CO)を還元することが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、多接合型の光電変換セルとECリアクタとを組み合わせた化学反応デバイスに比べて、太陽エネルギーから生成物の化学エネルギーへの変換効率を向上させることができる。また、4端子タンデム型の化学反応デバイスと2分割されたECリアクタとを組み合わせた化学反応デバイスに比べて、太陽エネルギーから生成物の化学エネルギーへの変換効率を維持しつつ、構造を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1における化学反応デバイスの構成を示す図である。
図2】本発明の実施例2における化学反応デバイスの構成を示す図である。
図3】本発明の実施例3における化学反応デバイスの構成を示す図である。
図4】比較例1における化学反応デバイスの構成を示す図である。
図5】比較例2における化学反応デバイスの構成を示す図である。
図6】光電変換セルの各種特性の計算結果及び実測値を示す図である。
図7】本発明の実施例における動作電流密度Jop~の計算結果を示す図である。
図8】本発明の実施例における動作電流密度Jop~の計算結果を示す図である。
図9】本発明の実施例における動作電流密度Jop~の計算結果を示す図である。
図10】本発明の実施例における動作電圧Vop~に対する動作電流密度Jop~、PVKセルの数nPVK~及びSiセルの数nSi~の最適値及び動作電流密度Jop~の年間平均値の計算結果を示す図である。
図11】本発明の実施例における変換効率の計算結果を示す図である。
図12】本発明の水電解水素生成用の化学反応デバイスについてPVKセルに接続されるECリアクタの面積比APVKに対する変換効率の計算結果を示す図である。
図13】本発明の二酸化炭素分解一酸化炭素生成用の化学反応デバイスについてPVKセルに接続されるECリアクタの面積比APVKに対する変換効率の計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1図5は、それぞれ化学反応デバイスの各種態様を示す。各化学反応デバイスは、トップセル10及びボトムセル12を組み合わせた光電変換(PV)モジュール100と電気化学(EC)モジュール102を接続した構成を有する。
【0019】
トップセル10は、ボトムセル12よりもバンドギャップが広い光電変換セルである。トップセル10は、例えば、有機無機ハイブリッドペロブスカイト(PVK)太陽電池とされる。PVKセルは、その組成によってバンドギャップEgが変化するが、例えば、バンドギャップEgは1.2eV~1.7eVとすることが好適である。現状ではバンドギャップEg=1.5eVとなる組成において、約25%が最高の光電変換効率(ηPV)が得られている。
【0020】
ボトムセル12は、トップセル10よりもバンドギャップが狭い光電変換セルである。ボトムセル12は、例えば、結晶シリコン(Si)PVセルやCu(In,Ga)Se(CIGS)セルとされる。Siセルは、例えば、バンドギャップEgが1.12eVであり、光電変換効率(ηPV)の最高値として26.3%が得られている。CIGSセルは、例えば、バンドギャップEgが1.08eVであり、光電変換効率(ηPV)の最高値として23.4%が得られている。
【0021】
以下、トップセル10はPVKセルとし、ボトムセル12はSiセルとして説明する。ただし、これらの組み合わせに限定されるものではない。
【0022】
ECモジュール102は、1つ以上の電気化学(EC)リアクタ14を含む。ECリアクタ14は、電気エネルギーを利用して化学反応を生じさせる。本実施の形態において、PVモジュール100からECリアクタ14へ電気エネルギーが供給される。ECリアクタ14で生ずる化学反応は、例えば、水(HO)を分解して水素(H)を生成する反応や二酸化炭素(CO)と水(HO)から一酸化炭素(CO)やギ酸(HCOOH)を生成する反応とすることができる。
【0023】
図1は、受光面側から2つ直列接続されたトップセル10からなるトップセルモジュール及び3つ直列接続されたボトムセル12からなるボトムセルモジュールを積層し並列接続してPVモジュール100を構成し、1つのECリアクタ14からなるECモジュール102に当該PVモジュール100を接続した2PVK/3Si-1ECタイプの化学反応デバイスを示す。
【0024】
図2は、受光面側から3つ直列接続されたトップセル10からなるトップセルモジュール及び5つ直列接続されたボトムセル12からなるボトムセルモジュールを積層し並列接続してPVモジュール100を構成し、2つ直列接続されたECリアクタ14からなるECモジュール102に当該PVモジュール100を接続した3PVK/5Si-2ECタイプの化学反応デバイスを示す。
【0025】
図3は、受光面側からηPVK個が直列接続されたトップセル10からなるトップセルモジュール及びηSi個が直列接続されたボトムセル12からなるボトムセルモジュールを積層し並列接続してPVモジュール100を構成し、nEC個が直列接続されたECリアクタ14からなるECモジュール102に当該PVモジュール100を接続したηPVKPVK/ηSiSi-nECECタイプの化学反応デバイスを示す。
【0026】
図4は、受光面側からトップセル10とボトムセル12を接合した2J-PVセルからなるPVモジュール100を構成し、1つのECリアクタ14からなるECモジュール102に当該PVモジュール100を接続した2J-1ECタイプの化学反応デバイスを示す。
【0027】
図5は、受光面側から3つ直列接続されたトップセル10からなるトップセルモジュール及び3つ直列接続されたボトムセル12からなるボトムセルモジュールを積層して配置し、2つ直列接続されたECリアクタ14からなる2つのECモジュール102にトップセルモジュール及びボトムセルモジュールをそれぞれ接続したタンデム型の4T-3PVK/5Si-2ECタイプの化学反応デバイスを示す。
【0028】
本実施の形態では、図1の2PVK/3Si-1ECタイプ、図2の3PVK/5Si-2ECタイプ、及び、図3のηPVKPVK/ηSiSi-nECECタイプの化学反応デバイスが実施例1~3に相当する。また、図4の2J-1ECタイプ、及び、図5の4T-3PVK/5Si-2ECタイプの化学反応デバイスが比較例1及び2に相当する。
【0029】
[電流密度-電圧(J-V)特性の評価]
図1図5に示した各化学反応デバイスに対して、PVモジュール100の光電変換動作をモデル化し、電流密度-電圧(J-V)特性を求めた。PVモジュール100のJ-V曲線とECリアクタ14の負荷曲線との交点が化学反応デバイスの動作点である。当該動作点における電流密度Jを太陽光エネルギーから化学エネルギーへの変換効率ηSTCに変換した。
【0030】
なお、各化学反応デバイスにおいてPVモジュール100とECモジュール102の面積は等しいことを前提にした。また、”Reference Solar Spectral Irradiance: Air Mass 1.5,National Renewable Energy Laboratory, available from https://rredc.nrel.gov/solar/spectra/am1.5/.”に示された標準条件であるAM1.5G:1sunの太陽光を照射したときの変換効率ηSTCが最大となるように、PVKセルのバンドギャップを最適化した。また、”NEDO, 日射に関するデータベース.”に示された日射スペクトルのデータベースを用いて年間平均の変換効率ηSTCを求めた。
【0031】
PVセル(単セル)の電流密度j(PV)は、定電流源、ダイオード、直列抵抗の組み合わせからなる等価回路から数式(1)より表される。
【数1】
【0032】
ここで、jph,j,rはそれぞれ光電流密度、ダイオードの逆飽和電流密度、及び直列抵抗である。q,k,Tはそれぞれ電荷素量、Boltzmann定数、素子の温度(ここでは300Kとする)である。光電変換の外部量子効率ηEQEが光子エネルギーによらない一定値であると近似すると、光電流密度jphはセルに用いられる光吸収材料のバンドギャップEと太陽光の光子数スペクトルnsun(h(バー)ω)より数式(2)によって決まる(ここで、h(バー)=h/2π,hはプランク定数)。
【数2】
【0033】
ダイオードの逆飽和電流密度jのうち、輻射再結合による成分は、一般化されたプランクの法則により表される。これと、輻射及び非輻射の両過程を合わせた全再結合電流密度の比である外部発光効率ηEREを用い、更にフェルミ-ディラック分布関数をボルツマン分布関数により近似すると、数式(3)が導かれる。ただし、h,cはそれぞれプランク定数、真空中の光速度である。
【数3】
【0034】
トップセル10としてPVKセル、ボトムセル12としてSiセルがそれぞれnPVK個及びnSi個直列接続されたサブモジュールが並列に接続された電圧整合タンデム型のPVモジュール100の電流密度J(PV)は数式(4)で示される。ただし、j(PVK)及びj(Si)は、それぞれPVKセル及びSiセルの電流密度である。
【数4】
【0035】
PVKセルの電流密度j(PVK)は、数式(1)~(3)に基づいてバンドギャップE,及び光電変換の外部量子効率ηEQEをそれぞれPVKセルのバンドギャップE PVK及び光電変換の外部量子効率ηEQE PVKに置き換えることにより求められる。
【0036】
一方、Siセルの電流密度j(Si)については、PVKセルを透過した光がSiセルに到達するので数式(5)によって表される。
【数5】
【0037】
EC個のECリアクタが直列接続されたECモジュール102の電流密度J(EC)は、個々のECリアクタの電流密度j(EC)と数式(6)に示す関係にある。
【数6】
【0038】
数式(4)及び数式(6)からなる連立方程式の解より、化学反応デバイスの動作点における電流密度Jop及び電圧Vopが求められる。この際、電流密度Jopが直列接続されたnEC個のECリアクタを流れるので、Jop~(数式中ではチルダ~は変数上に示す)=nEC・Jopが反応に寄与する電流密度となる。ECリアクタ1個当たりのPVKセルの数及びSiセルの数をそれぞれnPVK~=nPVK/nEC及びnSi~=nSi/nECと定義し、電流密度と電圧をJ~=nEC・J及びV~=V/nECと定義すれば、電流密度Jop~及び電圧Vop~を求めるための連立方程式は数式(7)で示される。すなわち、化学反応デバイスの構造はECリアクタ1個当たりのPVKセルの数nPVK~及びSiセルの数nSi~の2つのパラメータにより規定される。
【数7】
【0039】
水(HO)を分解して水素(H)を生成する反応において、太陽光エネルギーから水素の化学エネルギーへの変換効率ηH2は数式(8)で示される。ただし、Psunは日射強度である。
【数8】
【0040】
二酸化炭素(CO)の還元による一酸化炭素(CO)の生成反応の変換効率ηCOについては、ファラデー効率ηFEがECリアクタへの印加電圧に依存することを考慮して数式(9)で示される。
【数9】
【0041】
比較例である2J-1ECタイプの化学反応デバイスの電流密度Jop~及び電圧Vop~は、数式(10)の連立方程式を解くことにより求められる。
【数10】
【0042】
また、もう一つの比較例である4T-3PVK/5Si-2ECタイプの化学反応デバイスの場合、PVKセル及びSiセルの2種類のセルが電気的には独立に動作する。したがって、数式(7)に相当する方程式を解いて、PVKセルの電流密度Jop PVK~及びSiセルの電流密度Jop Si~を算出する。これら電流密度Jop PVK~と電流密度Jop Si~の和が全体の電流密度Jop~となる。ここで、APVK:(1-APVK)がPVKセルに接続されるECリアクタとSiセルに接続されるECリアクタの面積比である。二酸化炭素(CO)の還元による一酸化炭素(CO)の生成反応の変換効率ηCOは、PVKセル及びSiセルの各々について計算された値の重み付きの和となる。
【数11】
【0043】
PVKセル及びSiセルの各々について数式(1)により表される発電特性が”H. Min, D. Y. Lee, J. Kim, G. Kim, K. S. Lee, J. Kim, M. J. Paik, Y. K. Kim, K. S. Kim, M. G. Kim, T. J. Shin, and S. I. Seok, Nature 598, 444 (2021).”,” K. Yoshikawa, H. Kawasaki, W. Yoshida, T. Irie, K. Konishi, K. Nakano, T. Uto, D. Adachi, M. Kanematsu, H. Uzu, and K.i Yamamoto, Nat. Energy 2, 17032 (2017).”,”M. Nakamura, K. Yamaguchi, Y. Kimoto, Y. Yasaki, T. Kato, and H. Sugimoto, IEEE J. Photovolt. 9, 1863 (2019).”における変換効率の最高値が得られたセルの特性に近い値となるように、光電変換の外部量子効率ηEQE,外部発光効率ηERE,直列抵抗rを定めた。このときの光電変換効率ηPVなどの計算結果を図6に示す。計算結果は、実験結果にほぼ一致した。なお、水素(H)生成のためのECリアクタの電流密度j(EC)、一酸化炭素(CO)生成のためのECリアクタの電流密度j(EC)及びファラデー効率ηFEには、それぞれ”S. Wen, T. Yang, N. Zhao, L. Ma, and E. Liu, Appl. Catal. B: Environ. 258, 117953 (2019).”及び”S. Verma, Y. Hamasaki, C. Kim, W. Huang, S. Lu, H.-R. M. Jhong, A. A. Gewirth, T. Fujigaya, N. Nakashima, and P. J. A. Kenis, ACS Energy Lett. 4, 193 (2018).”に記載のデータを用いた。
【0044】
以上のような方法に基づいて、所定の動作電圧Vop~におけるPVモジュール100の動作電流密度Jop~及び変換効率ηSTCを計算した。図7図9は、それぞれPVモジュール100にAM1.5G光を照射したときの動作電流密度Jop~の計算結果を示す。水(HO)を分解して水素(H)を生成するためには、通常では電圧Vop~=1.4V~1.6Vが必要である。二酸化炭素(CO)を還元して一酸化炭素(CO)又はギ酸(HCOOH)を生成するためには、通常では電圧Vop~=1.6V~2.0Vが必要である。そこで、これらの電圧Vop~を適用したときの動作電流密度Jop~を上記実施例3についてECリアクタ1個当たりのPVKセルの数nPVK~及びSiセルの数nSi~の関数として計算した。なお、トップセル10としてPVKセルを用いて、PVKセルのバンドギャップを1.7eV以下の拘束条件の下においてそれぞれの場合について最適化した。また、ボトムセル12にはSiセルを用いた。
【0045】
図7に示すように、水(HO)を分解して水素(H)を生成するために電圧Vop~=1.4eVとした場合、ECリアクタ1個当たりのPVKセルの数nPVK~が1.1以上1.8以下及びSiセルの数nSi~が2.0以上3.0以下のときに比較例1よりも高い動作電流密度Jop~が得られた。また、図8に示すように、二酸化炭素(CO)を還元して一酸化炭素(CO)又はギ酸(HCOOH)を生成するために電圧Vop~=1.6eVとした場合、ECリアクタ1個当たりのPVKセルの数nPVK~が1.3以上3.0以下であり、Siセルの数nSi~が2.3以上4.0以下のときに比較例1よりも高い動作電流密度Jop~が得られた。より好ましくは、ECリアクタ1個当たりのPVKセルの数nPVK~が1.3以上1.6以下及びSiセルの数nSi~が2.3以上3.0以下のときにさらに高い動作電流密度Jop~が得られた。また、図9に示すように、電圧Vop~=2.0eVの場合、ECリアクタ1個当たりのPVKセルの数nPVK~が1.6以上3.0以下及びSiセルの数nSi~が2.8以上4.0以下のときに比較例1よりも高い動作電流密度Jop~が得られた。
【0046】
図10(a)は、PVモジュール100にAM1.5G光を照射したときの動作電流密度Jop~を電圧Vop~の関数として計算した結果を示す。トップセル10にはPVKセルを適用し、ボトムセル12にはSiを適用した。また、図10(b)に示すように、実施例3において各電圧Vop~についてECリアクタ1個当たりのPVKセルの数nPVK~及びSiセルの数nSi~の最適値を求めた。このとき、PVKセルのバンドギャップEgを1.7eV以下の拘束条件の下にそれぞれの場合について最適化した。さらに、図10(c)に示すように、PVモジュール100に実際に屋外で実測された太陽光スペクトル(つくば市、2015年)を照射した場合の年間平均値も併せて計算した。その結果、電圧Vop~の全領域において比較例1よりも高い動作電流密度Jop~が得られた。
【0047】
図11は、PVモジュール100と水電解水素生成用のECモジュール102、又は、二酸化炭素分解一酸化炭素生成用のECモジュール102を接続した化学反応デバイスにAM1.5G光を照射したときの水素(H)の生成又は一酸化炭素(CO)の生成の変換効率を示す。PVモジュール100のボトムセルにはSiセル又はCIGSセルを適用した。CIGSセルを適用する際には、式(1)~数式(11)が用いられるSiの値をCIGSの値に置き換えた。光電変換の外部量子効率ηEQE、外部発光効率ηERE、直列抵抗rは、”M.Nakamura, K. Yamaguchi, Y.kimoto, Y. Yasaki, T. Kato, and H. Sugimoto, IEEE J. Photovolt. 9, 1863 (2019)”を基にして決めた。図11において、水電解水素生成用のECモジュール102を適用した場合にはHと示し、一酸化炭素生成用のECモジュール102を適用した場合にはCOと示した。また、PVモジュール100のボトムセルにSiセルを適用した場合にはSiと示し、CIGSセルを適用した場合にはCIGSと示した。なお、実際に屋外で実測された太陽光スペクトル(つくば市、2015年)を照射した場合の年間平均値も併せて計算した。
【0048】
図11に示すように、5個のPVKセル及び10個のSiセルを4個のECリアクタに組み合わせた化学反応デバイス(5PVK/10Si-4EC)、7個のPVKセル及び13個のSiセルを5個のECリアクタに組み合わせた化学反応デバイス(7PVK/13Si-5EC)、5個のPVKセル及び9個のCIGSセルを4個のECリアクタに組み合わせた化学反応デバイス(5PVK/9CIGS-4EC)、7個のPVKセル及び13個のCIGSセルを5個のECリアクタに組み合わせた化学反応デバイス(7PVK/13CIGS-5EC)のいずれにおいても比較例1よりも高い変換効率が得られた。
【0049】
図12(a)は、水電解水素生成用の化学反応デバイスにAM1.5G光を照射したときの変換効率を計算した結果を示す。水電解水素生成用の化学反応デバイスは、5個のPVKセルと10個のSiセルを4個のECリアクタに接続した構成(5PVK/10Si-4EC)とした。実線は、比較例2である4端子タンデムPVモジュール+2分割ECモジュール(4T-PVK/10Si-4EC)について、ECモジュール102におけるPVKセルに接続されるECリアクタの面積比APVKの関数として計算した結果である。このとき、ボトムセルであるSiセルに接続されるECモジュールの面積比は1-APVKである。破線は実施例である5PVK/10Si-4ECの結果である。また、図12(b)は、当該化学反応デバイスに実際に屋外で実測された太陽光スペクトル(つくば市、2015年)を照射した場合の年間平均値を示す。
【0050】
図13(a)は、二酸化炭素分解一酸化炭素生成用の化学反応デバイスにAM1.5G光を照射したときの変換効率を計算した結果を示す。二酸化炭素分解一酸化炭素生成用の化学反応デバイスは、7個のPVKセルと13個のSiセルを5個のECリアクタに接続した構成(7PVK/13CIGS-5EC)とした。実線は、比較例2である4端子タンデムPVモジュール+2分割ECモジュール(4T-7PVK/13CIGS-5EC)について、ECモジュール102におけるPVKセルに接続されるECリアクタの面積比APVKの関数として計算した結果である。このとき、ボトムセルであるCIGSセルに接続されるECモジュールの面積比は1-APVKである。破線は実施例である7PVK/13CIGS-5ECの結果である。また、図13(b)は、当該化学反応デバイスに実際に屋外で実測された太陽光スペクトル(つくば市、2015年)を照射した場合の年間平均値を示す。
【0051】
図12に示した水電解水素生成用の化学反応デバイス及び図13に示した二酸化炭素分解一酸化炭素生成用の化学反応デバイスのいずれにおいても比較例4において面積比APVKが最適値である場合と同等の変換効率が得られた。
【0052】
[本願発明の構成]
構成1:
光電変換モジュールから電気化学モジュールへ電力を供給し、当該電力を利用して化学反応を生じさせる化学反応デバイスであって、
前記光電変換モジュールは、受光面側から、
バンドギャップが1.3eV以上1.7eV以下の光吸収材料を用いた光電変換セルをn個直列接続したトップセルモジュールと、
バンドギャップが1.0eV以上1.2eV以下の光吸収材料を用いた光電変換セルをn個直列接続したボトムセルモジュールと、
を、積層して、互いに並列接続した構成であり、
前記電気化学モジュールは、電気化学リアクタをnEC個直列接続した構成であり、
/nECは1.1以上であり、n/nECは2以上であることを特徴とする化学反応デバイス。
構成2:
構成1に記載の化学反応デバイスであって、
前記トップセルモジュールを構成する光電変換セルは、有機無機ハイブリッドペロブスカイトセルであることを特徴とする化学反応デバイス。
構成3:
構成1又は2に記載の化学反応デバイスであって、
前記ボトムセルモジュールを構成する光電変換セルは、結晶シリコンセル又はCu(in,Ga)Seセルであることを特徴とする化学反応デバイス。
構成4:
構成1~3のいずれか1つに記載の化学反応デバイスであって、
前記電気化学リアクタは、水(HO)から水素(H)と酸素(O)を生成することを特徴とする化学反応デバイス。
構成5:
構成4に係る化学反応デバイスであって、
/nECは1.1以上1.8以下であり、n/nECは2.0以上3.0以下であることを特徴とする化学反応デバイス。
構成6:
構成1~3のいずれか1つに記載の化学反応デバイスであって、
前記電気化学リアクタは、二酸化炭素(CO)と水(HO)から一酸化炭素(CO)又はギ酸(HCOOH)を生成することを特徴とする化学反応デバイス。
構成7:
構成6に係る化学反応デバイスであって、
/nECは1.3以上3.0以下であり、n/nECは2.3以上4.0以下であることを特徴とする化学反応デバイス。
構成8:
構成1~3のいずれか1つに記載の化学反応デバイスであって、
前記電気化学リアクタは、二酸化炭素(CO)を還元することを特徴とする化学反応デバイス。
【符号の説明】
【0053】
10 トップセル、12 ボトムセル、14 ECリアクタ、100 PVモジュール、102 ECモジュール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13