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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179919
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】工事計画支援装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/02 20060101AFI20231213BHJP
   E02D 13/06 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
E02D1/02
E02D13/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092859
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大前 知也
【テーマコード(参考)】
2D043
2D050
【Fターム(参考)】
2D043AA05
2D043AA08
2D043BA10
2D050CB42
2D050CB43
2D050FF02
(57)【要約】
【課題】注水を伴って排泥を行う工事における排泥量を見積もる工事計画支援装置を提供する。
【解決手段】注水を伴って排泥を行う工事に用いられる工事計画支援装置100は、未施工の工事の所定の施工予定データを入力するためのデータ入力手段110と、複数の既施工の工事の施工予定データ及び注水率データを含む施工実績データを格納するデータ格納手段120と、データ格納手段120から所定の複数の既施工の工事の施工実績データを読み取るデータ読取手段130と、入力された未施工の工事の施工予定データから、読み取った複数の既施工の工事の施工実績データに基づいて、未施工の工事の注水率を予測する注水率予測手段130と、予測した注水率から、未施工の工事の排泥量を見積もる排泥量見積手段130とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注水を伴って排泥を行う工事に用いられる工事計画支援装置であって、
未施工の工事の所定の施工予定データを入力するためのデータ入力手段と、
複数の既施工の工事の施工予定データ及び注水率データを含む施工実績データを格納するデータ格納手段と、
前記データ格納手段から所定の複数の既施工の工事の施工実績データを読み取るデータ読取手段と、
前記データ入力手段により入力された未施工の工事の施工予定データから、前記データ読取手段により前記データ格納手段から読み取った複数の既施工の工事の施工実績データに基づいて、前記未施工の工事の注水率を予測する注水率予測手段と、
前記注水率予測手段により予測した注水率から、前記未施工の工事の排泥量を見積もる排泥量見積手段と、
を備えた工事計画支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載された工事計画支援装置において、
前記排泥量見積手段により見積もった未施工の工事の排泥量から、前記未施工の工事の排泥処理費を見積もる排泥処理費見積手段を更に備えた工事計画支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載された工事計画支援装置において、
前記未施工の工事における特定の施工要素の複数の施工パターンのそれぞれについて、前記注水率予測手段は、前記未施工の工事の注水率を予測するとともに、前記排泥量見積手段は、前記未施工の工事の排泥量を見積もり、且つ前記排泥処理費見積手段は、前記未施工の工事の排泥処理費を見積もり、
前記排泥処理費見積手段により見積もった前記複数の施工パターンの排泥処理費に基づいて、前記複数の施工パターンのうちのいずれかを選択する施工パターン選択手段を更に備えた工事計画支援装置。
【請求項4】
請求項3に記載された工事計画支援装置において、
前記複数の施工パターンが、前記注水する水への分散剤の添加量を変量する複数の施工パターンである工事計画支援装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された工事計画支援装置において、
前記注水率予測手段は、前記複数の既施工の工事の施工実績データを教師データとして機械学習した予測モデルを形成するとともに、前記予測モデルに前記未施工の工事の施工予定データを入力して前記未施工の工事をシミュレートすることにより、その注水率を予測する工事計画支援装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された工事計画支援装置において、
前記注水を伴って排泥を行う工事が掘削工事である工事計画支援装置。
【請求項7】
注水を伴って排泥を行う工事の工事計画支援方法であって、
未施工の工事の所定の施工予定データから、所定の複数の既施工の工事の施工予定データ及び注水率データを含む施工実績データに基づいて、前記未施工の工事の注水率を予測し、前記予測した注水率から、前記未施工の工事の排泥量を見積もる工事計画支援方法。
【請求項8】
注水を伴って排泥を行う工事の工事計画支援に用いられ、未施工の工事の所定の施工予定データを入力するためのデータ入力手段と、複数の既施工の工事の施工予定データ及び注水率データを含む施工実績データを格納するデータ格納手段とを備えたコンピュータに、
前記データ入力手段からの未施工の工事の施工予定データの入力を求める手順と、
前記データ格納手段から所定の複数の既施工の工事の施工実績データを読み取る手順と、
前記入力された未施工の工事の施工予定データから、前記読み取った複数の既施工の工事の施工実績データに基づいて、前記未施工の工事の注水率を予測する手順と、
前記予測した注水率から、前記未施工の工事の排泥量を見積もる手順と、
を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載されたコンピュータプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事計画支援装置、工事計画支援方法、並びにコンピュータプログラム及びそれを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
プレボーリング杭工法では、まずオーガで地盤を掘削して杭を挿入するための掘削孔を形成する。このとき、オーガに設けられた配管を介して掘削孔内に掘削水を注水し、それによって掘削抵抗を減少させるとともに、掘削した土壌を泥土化させる。そして、泥土化した土壌をオーガの搬送機構により掘削孔外に排泥する(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-85196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プレボーリング杭工法のような注水を伴って排泥を行う工事において、排泥量は、施工コストに大きな影響を及ぼす。そのため、予め排泥量を見積もることができれば、それは有益な情報となる。
【0005】
本発明の課題は、注水を伴って排泥を行う工事における排泥量を見積もる工事計画支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、注水を伴って排泥を行う工事に用いられる工事計画支援装置であって、未施工の工事の所定の施工予定データを入力するためのデータ入力手段と、複数の既施工の工事の施工予定データ及び注水率データを含む施工実績データを格納するデータ格納手段と、前記データ格納手段から所定の複数の既施工の工事の施工実績データを読み取るデータ読取手段と、前記データ入力手段により入力された未施工の工事の施工予定データから、前記データ読取手段により前記データ格納手段から読み取った複数の既施工の工事の施工実績データに基づいて、前記未施工の工事の注水率を予測する注水率予測手段と、前記注水率予測手段により予測した注水率から、前記未施工の工事の排泥量を見積もる排泥量見積手段とを備える。
【0007】
本発明は、注水を伴って排泥を行う工事の工事計画支援方法であって、未施工の工事の所定の施工予定データから、所定の複数の既施工の工事の施工予定データ及び注水率データを含む施工実績データに基づいて、前記未施工の工事の注水率を予測し、前記予測した注水率から、前記未施工の工事の排泥量を見積もる。
【0008】
本発明は、注水を伴って排泥を行う工事の工事計画支援に用いられ、未施工の工事の所定の施工予定データを入力するためのデータ入力手段と、複数の既施工の工事の施工予定データ及び注水率データを含む施工実績データを格納するデータ格納手段とを備えたコンピュータに、
前記データ入力手段からの未施工の工事の施工予定データの入力を求める手順と、
前記データ格納手段から所定の複数の既施工の工事の施工実績データを読み取る手順と、
前記入力された未施工の工事の施工予定データから、前記読み取った複数の既施工の工事の施工実績データに基づいて、前記未施工の工事の注水率を予測する手順と、
前記予測した注水率から、前記未施工の工事の排泥量を見積もる手順と、
を実行させるコンピュータプログラムである。
【0009】
本発明は、本発明のコンピュータプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、未施工の工事の所定の施工予定データから、複数の既施工の工事の施工実績データに基づいて、未施工の工事の注水率を予測し、その予測した注水率から未施工の工事の排泥量を見積もることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】プレボーリング杭工法の第1の説明図である。
図1B】プレボーリング杭工法の第2の説明図である。
図1C】プレボーリング杭工法の第3の説明図である。
図1D】プレボーリング杭工法の第4の説明図である。
図1E】プレボーリング杭工法の第5の説明図である。
図2】実施形態に係る工事計画支援装置を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る工事計画支援装置を用いた工事計画支援方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態について詳細に説明する。
【0013】
実施形態に係る工事計画支援方法は、既製コンクリート杭工法等の掘削水の注水を伴って排泥を行う掘削工事に適用される。以下では、既製コンクリート杭工法の一種であるプレボーリング杭工法を事例として説明する。
【0014】
プレボーリング杭工法では、図1A乃至Eに示すように、掘削水を注水しながら地盤20を掘削して形成した掘削孔21に、セメントスラリー22を注入し、その後、管状の杭23を挿入して定着させる。
【0015】
具体的には、まず、図1Aに示すように、オーガ10で地盤20を掘削して掘削孔21を形成する。このとき、オーガ10に設けられた配管を介して掘削水を注水する。この掘削水の注水により、掘削抵抗を減少させるとともに、掘削孔21内で掘削した土壌を泥土化させる。泥土化した土壌は、オーガ10の搬送機構により孔外に排泥する。
【0016】
次いで、図1Bに示すように、掘削孔21が予定の深さまで達した時点で、オーガ10による掘削及び掘削水の注水を停止する。
【0017】
次いで、図1Cに示すように、オーガ10を引き上げながら、掘削孔21内に、オーガ10に設けられた配管を介してセメントスラリー22を注入する。
【0018】
続いて、図1Dに示すように、セメントスラリー22を注入した掘削孔21に、クレーン(不図示)で吊り上げた筒状の杭23を建て込んで挿入する。杭23は、長さ方向に複数に分割されていてもよく、その場合、分割された杭23を挿入しながら継手施工を行えばよい。
【0019】
そして、図1Eに示すように、掘削孔21に杭23が沈設された後、セメントスラリー22が硬化すると杭23が地盤20に定着する。
【0020】
図2は、実施形態に係る工事計画支援装置100を示す。この工事計画支援装置100は、未施工の工事の特に図1A乃至Bに示す掘削工程における掘削水の構成についての最適条件を出力する。
【0021】
実施形態に係る工事計画支援装置100は、工事計画支援用のコンピュータプログラムがインストールされたコンピュータで構成されており、キーボード等の入力部110、データベース120、CPU及びメモリを含む情報処理部130、並びにディスプレイ等の表示部140を備える。
【0022】
入力部110は、未施工の工事の所定の施工予定データを入力するためのデータ入力手段である。施工予定データは、掘削工事に関する掘削形状に係る物理的な情報である例えば、掘削長、掘削径、掘削に使用するドリル幅、高さに関するデータ;注入予定の杭の形状に係る物理的な情報である例えば、杭長、杭径(内径、外形)、杭のジョイント構造、杭の強度、杭の密度、ジョイント数に関するデータ;注入に使用する材料に関する情報である例えば、セメントスラリー体積、セメント重量、掘削水量、掘削水の注入速度のデータ;掘削に使用する工機の情報である例えば、工機の総重量、最大出力トルク、最大出力電圧値、掘削ドリルを支える支柱の長さのデータ等の少なくとも1つを含む。また、施工予定データには、施工場所の地層に関するデータである例えば、地層の硬さ(N値)、深度、地盤種類、地下水浸、含水比、地質の粒度、均等係数、石分重量率、礫分重量率、砂分重量率、シルト分重量率、粘土分重量率、組成限界、施工場所の緯度、経度、最近郊の水源(川、池、海、等)までの距離等のうちの少なくとも1つが含まれていてもよい。
【0023】
データベース120は、複数の既施工の工事の施工予定データ及び注水率データを含む施工実績データを格納するデータ格納手段である。例えば、入力部110で入力された杭工事に関する複数の情報は、それぞれのデータベース120に振り分けられる。データベース120は、工法データベース121、施工・設計データベース122、地層データベース123、掘削水データベース124、解析データベース125、及び評価情報データベース126を含み、複数の既施工の工事の施工実績データ及び情報処理部130で行う計算のための基礎データを格納している。例えば、データベース120には、工法データベース121、施工・設計データベース122、及び地層データベース123のデータに基づいて、掘削水データベース124の数値の予測を行い、予測した結果の予測注水率が解析データベース125へ格納され、またこの時の予測式についての情報、アルゴリズム種類、計算過程に使用した数値も同様に格納されることが挙げられる。評価情報データベース125には、例えば、予測注水率と実際の注水率の誤差から算出した予測精度に関するデータと注水率と実際の排泥量の相関に関するデータ並びに、予測注水率を用いて算出した予測排泥量と実際の排泥量の誤差から算出した予測精度に関するデータが格納されることが挙げられる。
【0024】
工法データベース121は、複数の既施工の工事のそれぞれについて、施工実績データのうちの施工予定データとして、既製コンクリート杭工法の種類、施工メーカ、施工機械の種類、施主等のデータを格納している。
【0025】
施工・設計データベース122は、複数の既施工の工事のそれぞれについて、施工実績データのうちの施工予定データとして、掘削孔21の形状、内径、深さ;セメントスラリー22の組成、セメントの種類、セメントの含有量;杭23の形状、内径及び外径、長さ、ジョイント数等のデータを格納している。
【0026】
地層データベース123は、複数の既施工の工事のそれぞれについて、施工実績データのうちの施工予定データとして、工事現場における掘削孔21の深度毎の地層種、各地層の細粒分含有率粒度(JIS A1223:2020)、各地層を構成する酸性土又はアルカリ土の種類等のデータを格納している。
【0027】
掘削水データベース124は、複数の既施工の工事のそれぞれについて、施工実績データとして、掘削水使用の有無、掘削水への分散剤の添加の有無、分散剤の種類、分散剤の添加量、分散剤の材料費、分散剤の使用温度、予測注水率、実注水率等の情報を格納している。ここで、「注水率」とは、完成した掘削孔21の容積を基準とする掘削水の使用量の体積百分率である。そして、予測注水率データは、各既施工の工事の施工前の段階において、この工事計画支援装置100により、工法データベース121、施工・設計データベース122、地層データベース123、及び掘削水データベース124のデータに基づいて予測された注水率のデータである。実注水率データは、各既施工の工事の実際の施工時の注水率のデータである。
【0028】
解析データベース125は、複数の既施工の工事のそれぞれについて、施工実績データとして、予測注水率の予測精度、予測注水率の予測に用いられた情報処理部130での計算方法等のデータを格納している。ここで、予測注水率の予測精度は、例えば予測注水率の実注水率からのずれを百分率で表したものである。
【0029】
評価情報データベース126は、基礎データとして、工事現場毎又は地域毎の注水率と排泥量との比例定数、工事現場毎又は地域毎の搬出制限率及び排泥処理単価等のデータを格納している。なお、搬出制限率は、排泥運搬車両の最大積載量に対する実積載量の割合である。排泥処理単価は、排泥運搬車両が最大積載量で排泥を運搬した場合の単位排泥量当たりの処理費用である。
【0030】
工事計画支援用のコンピュータプログラムは、大略として、実施形態に係る工事計画支援装置100を構成するコンピュータに、
入力部110からの未施工の工事の所定の施工予定データの入力を求める手順と、
未施工の工事における特定の施工要素についての複数の施工パターンP(N=1,2,3,・・・,N)のそれぞれについて、データベース120から所定の複数の既施工の工事の施工実績データを読み取る手順と、
複数の施工パターンPのそれぞれについて、入力された未施工の工事の施工予定データから、読み取った複数の既施工の工事の施工実績データに基づいて、未施工の工事の注水率を予測する手順と、
複数の施工パターンPのそれぞれについて、予測した注水率から、未施工の工事の排泥量を見積もる手順と、
複数の施工パターンPのそれぞれについて、見積もった未施工の工事の排泥量から、未施工の工事の排泥処理費を見積もる手順と、
見積もった複数の施工パターンPの排泥処理費に基づいて、複数の施工パターンPのうちのトータルコストが最も低いものを表示部140に表示させる手順と、
を実行させるものである。
【0031】
このコンピュータプログラムは、CD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体として独立した取引対象となり得る。
【0032】
次に、実施形態に係る工事計画支援装置100を用いた工事計画支援方法について、図3のフローチャートに従って具体的に説明する。
【0033】
ここで、本実施形態では、複数の施工パターンPは、注水する掘削水への分散剤の添加量m(N=1,2,3,・・・,N)を変量するものとする。このとき、mN-1<m(N=1,2,3,・・・,N)とし、m=0とすると、複数の施工パターンPは、注水する掘削水に分散剤を添加しない場合を含む分散剤の添加量mの変量で構成されることとなる。それに加えて、N=2とすると、複数の施工パターンPは、注水する掘削水に分散剤を添加しない施工パターンPと、注水する掘削水に分散剤を所定の添加量mで添加する施工パターンPとで構成されることとなる。
【0034】
まず、スタート後のステップS1では、表示部140に、対象の未施工の工事の所定の施工予定データを入力することを促す表示をさせ、入力部110から適切な入力があった場合にはステップS2に進む。したがって、入力部110がデータ入力手段を構成する。ここで、入力する未施工の工事の施工予定データは、工法データベース121、施工・設計データベース122、及び地層データベース123に格納されている既施工の工事の施工予定データに対応するものである。
【0035】
ステップS2では、施工パターンPにPを書き込むとともに、分散剤の添加量mにmを書き込み、続くステップS3に進む。
【0036】
ステップS3では、施工パターンPの分散剤の添加量mの場合について、データベース120の工法データベース121等から、解析に用いる所定の複数の既施工の工事の施工実績データを読み取り、続くステップS4に進む。したがって、データベース120がデータ格納手段を構成し、このステップS3を実行する情報処理部130がデータ読取手段を構成する。なお、解析に用いる既施工の工事の施工実績データの個数が、例えば100個以下しかなく、精度の高い解析ができない場合には、表示部140にエラーを表示させる。
【0037】
ステップS4では、ステップS1で入力された未施工の工事の施工予定データから、ステップS3で読み取った複数の既施工の工事の施工実績データに基づいて、未施工の工事の注水率を予測し、続くステップS5に進む。したがって、このステップS4を実行する情報処理部130が注水率予測手段を構成する。
【0038】
この情報処理部130によるステップS3及びステップS4の情報処理は、AI(人工知能)による情報処理、つまり、複数の既施工の工事の施工実績データを教師データとして機械学習した予測モデルを形成するとともに、その予測モデルに未施工の工事の施工予定データを入力して未施工の工事をシミュレートすることにより、その注水率を予測するものであることが好ましい。
【0039】
注水を伴って排泥を行う工事では、排泥量を少なくして環境負荷の低減を図る観点から、事前に適切な注水率を予測することが好ましい。しかしながら、注水率は、多くの要因の影響を受け、例えば細粒分含有率粒度が高いと、細粒分含有率粒度が同じ土質の場合でも、その他の要因の影響により、注水率が2倍以上も異なることがある。そのため、注水率の予測は困難であり、結局、人の経験に頼らざるを得ないというのが実情である。一方、AIによる注水率の予測では、注水率に影響を及ぼす多くの要因が考慮されるので、高精度の注水率の予測を行うことができる。
【0040】
このAIによる情報処理で用いることができるアルゴリズムとしては、例えば、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクトルマシン、ニューラルネットワーク、ディープラーニング、ロジスティック回帰、最近傍分類法(K-NN)、判別分析等が挙げられる。このAIによる情報処理は、高い注水率の予測精度を得る観点から、これらのうちの2種以上を用いてアンサンブル学習するものであることが好ましい。
【0041】
また、このAIによる情報処理では、ステップS3において、解析データベース125から予測注水率の予測精度及び計算方法のデータを読み取るとともに、それに基づいて、予測注水率の予測精度が一定水準以上である複数の既施工の工事の施工実績データのみを選択して読み取り、且つステップS4において、その予測注水率の予測精度が優れる複数の既施工の工事の施工実績データに基づき、最適な計算方法を用いて、未施工の工事の注水率を予測することが好ましい。
【0042】
ステップS5では、データベース120の評価情報データベース126から、対象の未施工の工事についての注水率と排泥量との比例定数のデータを読み取るとともに、ステップS4で予測した注水率にその比例定数を乗じることにより未施工の工事の排泥量を見積もり、続くステップS6に進む。したがって、このステップS5を実行する情報処理部130が排泥量見積手段を構成する。なお、工事現場毎の単位や地域毎の単位において、注水率と排泥量とが比例するとの知見を得ている。
【0043】
ステップS6では、評価情報データベース126から、対象の未施工の工事についての搬出制限率及び排泥処理単価のデータを読み取るとともに、ステップS5で見積もった排泥量を搬出制限率で除し、それに排泥処理単価を乗じることにより未施工の工事の排泥処理費を見積もり、続くステップS7に進む。したがって、このステップS6を実行する情報処理部130が排泥処理費見積手段を構成する。
【0044】
ステップS7では、N<Nか否かを判断し、YESの場合にはステップS8に進む一方、NO、つまり、N=Nの場合にはステップS9に進む。
【0045】
ステップS8では、施工パターンPをパターン番号N+1のPN+1に書き換えるとともに、分散剤の添加量mもパターン番号N+1のmN+1に書き換え、ステップS3に戻る。
【0046】
ステップS9では、ステップS3からステップS8のループで見積もった複数の施工パターンPの排泥処理費に基づいて、分散剤の添加による排泥量の削減に起因するコストダウン及び分散剤の添加による材料費の増加に起因するコストアップが反映されたそれぞれのトータルコストを算出し、それらを比較することにより、トータルコストが最も低い施工パターンPを選択して表示部140に表示させた後にエンドとなる。したがって、このステップS9を実行する情報処理部130が施工パターン選択手段を構成する。
【0047】
以上の構成の実施形態に係る工事計画支援装置100を用いれば、未施工の工事の所定の施工予定データから、所定の複数の既施工の工事の施工実績データに基づいて、未施工の工事の注水率を予測し、その予測した注水率から未施工の工事の排泥量を見積もることができる。また、その排泥量から排泥処理費を見積もることができる。さらに、複数の施工パターンPについて見積もった排泥処理費に基づいて、トータルコストの最も低い施工パターンPを選択して出力することができる。
【0048】
なお、上記実施形態では、掘削水の注水を伴って排泥を行う工事として、掘削工事である既製コンクリート杭工法のプレボーリング杭工法を事例としたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば、ジェットグラウト工法、鋼管杭工法、中層混合工法、深層混合工法、連壁工法等であってもよい。また、注水を伴って排泥を行う工事として、例えば、粉体混合による浅層混合改良工事、建築工事、盛土工事などの土木工事等であってもよい。
【0049】
上記実施形態では、注水する掘削水への分散剤の添加量mを変量する複数の施工パターンPについてトータルコストを比較するものとしたが、特にこれに限定されるものではなく、注水する掘削水に複数種の分散剤を混合して添加する場合において、その分散剤の組み合わせや混合割合などを変える複数の施工パターン、それに分散剤の添加量の変量を組み合わせた複数の施工パターン等についてトータルコストを比較するものであってもよい。
【0050】
上記実施形態では、複数の施工パターンPを、注水する掘削水への分散剤の添加量mを変量するものとしたが、特にこれに限定されるものではなく、例えばセメントスラリーに添加する分散剤の添加量を変量等するものであってもよい。
【0051】
上記実施形態では、施工パターンPのうちのトータルコストの最も低いものを選択して出力するものとしたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば施工品質の最も高いものを選択して出力するもの等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、工事計画支援装置、工事計画支援方法、並びにコンピュータプログラム及びそれを記録した記録媒体の技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0053】
10 オーガ
20 地盤
21 掘削孔
22 セメントスラリー
23 杭
100 工事計画支援装置
110 入力部
120 データベース
121 工法データベース
122 施工・設計データベース
123 地層データベース
124 掘削水データベース
125 解析データベース
126 評価情報データベース
130 情報処理部
140 表示部
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3