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  • 特開-硫安含有排水の再利用方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179939
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】硫安含有排水の再利用方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20230101AFI20231213BHJP
   C01G 31/00 20060101ALI20231213BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20231213BHJP
   B09B 3/80 20220101ALI20231213BHJP
【FI】
C02F1/58 Q
C01G31/00
B09B3/70
B09B3/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092895
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 雄太
(72)【発明者】
【氏名】小池 純平
(72)【発明者】
【氏名】辻田 章次
【テーマコード(参考)】
4D004
4D038
4G048
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004AA50
4D004AB01
4D004AC05
4D004BA05
4D004BA06
4D004CA13
4D004CA15
4D004CA35
4D004CA36
4D004CA40
4D004CB05
4D004CB21
4D004CB31
4D004CC01
4D004CC02
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA07
4D004DA10
4D038AA08
4D038AB36
4D038BA04
4D038BB02
4D038BB09
4D038BB13
4D038BB16
4D038BB17
4D038BB18
4G048AA01
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE01
(57)【要約】
【課題】硫安含有排水を有効に再利用する方法の提供。
【解決手段】硫安含有排水の再利用方法は、硫安を含む排水を、この排水中の硫安濃度が25質量%以上45質量%以下になるように濃縮すること、この濃縮した排水を固液分離すること、及び、この固液分離後の排水をバナジン酸塩の塩析剤として用いること、を含む。硫安含有排水の再利用装置は、硫安を含む排水の濃縮装置、濃縮後の排水中の硫安濃度を計測する測定装置、硫安濃度が25質量%以上45質量%以下のときに濃縮排水を移送する移送装置、濃縮排水から固形分を除去する分離装置、及び、固形分を除去した排水をバナジン酸塩の塩析装置に移送する移送装置を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫安を含む排水を、この排水中の硫安濃度が25質量%以上45質量%以下になるように濃縮すること、
上記濃縮した排水を固液分離すること、
及び
上記固液分離後の排水をバナジン酸塩の塩析剤として用いること
を含む、硫安含有排水の再利用方法。
【請求項2】
上記排水のpHを調整することと、
上記pH調整した排水を固液分離することと、
をさらに含む、請求項1に記載の硫安含有排水の再利用方法。
【請求項3】
上記濃縮後の固液分離をおこなった後、上記pH調整後の固液分離をおこなう、請求項2に記載の硫安含有排水の再利用方法。
【請求項4】
上記排水のpHを7.0以上11.0以下に調整する、請求項2又は3に記載の硫安含有排水の再利用方法。
【請求項5】
上記pH調整後の固液分離を、異なるpH領域において2回以上繰り返す、請求項2又は3に記載の硫安含有排水の再利用方法。
【請求項6】
上記pH調整後の固液分離を、少なくとも1回、7.0以上11.0以下のpH領域においておこなう、請求項5に記載の硫安含有排水の再利用方法。
【請求項7】
上記硫安を含む排水にリン酸を添加する、請求項1に記載の硫安含有排水の再利用方法。
【請求項8】
上記排水を酸化処理することをさらに含む、請求項1に記載の硫安含有排水の再利用方法。
【請求項9】
上記排水に鉄化合物を添加することをさらに含む、請求項1に記載の硫安含有排水の再利用方法。
【請求項10】
上記硫安を含む排水が燃焼灰又は廃触媒の洗浄排水である、請求項1に記載の硫安含有排水の再利用方法。
【請求項11】
上記固液分離後の排水を晶析して、結晶硫安を得ることをさらに含む、請求項1に記載の硫安含有排水の再利用方法。
【請求項12】
硫安を含む排水を濃縮する濃縮装置と、濃縮後の排水から固形分を除去する分離装置と、を備えており、
上記濃縮装置で濃縮した排水中の硫安濃度を計測する濃度測定装置と、計測された硫安濃度が25質量%以上45質量%以下のときに、この濃縮した排水を上記分離装置に移送する第一の移送装置と、上記分離装置で固形分を除去した排水を、塩析剤としてバナジン酸塩の塩析装置に移送する第二の移送装置と、をさらに備えている硫安含有排水の再利用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫安含有排水の再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼灰、廃触媒等には、レドックス・フロー電池の電解液材料として利用可能なバナジウムが含まれている。燃焼灰からのバナジウムの回収は、有用な技術である。例えば、燃焼灰をアルカリ性溶液に浸漬し、バナジウムをアルカリ性溶液に抽出して回収する方法が検討されている。
【0003】
特許文献1(特開2020-200227号公報)には、硫安分、硫酸、バナジウム及びニッケル等他の金属を含む原料灰から、バナジウムを分離するバナジウム化合物の製造方法が開示されている。この製造方法は、アルカリ抽出工程と、固液分離工程と、蒸発濃縮工程と、晶析・固液分離工程と、を含む。特許文献1は、さらに、アルカリ抽出工程の前段階において原料灰を洗浄して、原料灰中の硫安分と硫酸を相当程度少なくすることを開示している。
【0004】
通常、燃焼灰及び廃触媒に含まれる硫安は、多い。従って、燃焼灰等の洗浄排水には、多量の硫安が含まれる。この硫安を含む洗浄排水を廃棄するためには、薬品処理等が必要であり、処理コストが高額になるという問題があった。
【0005】
特許文献2(特開2019-46723号公報)には、集塵機灰を洗浄して得られる硫酸アンモニウムを含む洗浄廃水を、集塵機灰から抽出したバナジン酸アルカリと混合して、五酸化バナジウムを生成させる工程を含む、レドックス・フロー電池用電解液の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-200227号公報
【特許文献2】特開2019-46723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃焼灰等の洗浄排水中には、バナジウム以外に、種々の金属が含まれる。特許文献2が開示するように、洗浄排水を再利用すると、これら種々の金属が不純物として混入するという問題がある。
【0008】
特許文献1に記載された製造方法によれば、原料灰中のバナジウムは、Naを含むバナジウムケーキとして回収される。このバナジウムケーキを溶解又はスラリー化して、硫安((NHSO)を添加する塩析工程により、レドックス・フロー電池用に好適なアンモニウム塩(メタバナジン酸アンモニウム)が得られる。しかし、この塩析工程に、燃焼灰等の洗浄排水を使用すると、洗浄排水中の不純物の混入に加えて、洗浄排水中の硫安濃度が十分ではないため、塩析工程におけるバナジウムの溶解度が高く、収率が低いという問題があった。さらには、塩析処理に要する装置が大きくなるという問題もあった。そのため、硫安を含む排水を、特に、バナジン酸塩を得るための塩析剤として再利用することは困難であった。
【0009】
本発明の目的は、硫安含有排水を、特に、バナジン酸塩の塩析剤として有効に再利用する方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る硫安含有排水の再利用方法は、
(1)硫安を含む排水を、この排水中の硫安濃度が25質量%以上45質量%以下になるように濃縮すること
(2)この濃縮した排水を固液分離すること
及び
(3)この固液分離後の排水を、バナジン酸塩を得るための塩析剤として用いること
を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、排水中の硫安濃度が高く、かつ、排水中の不純物が低減されるので、硫安含有排水を、バナジン酸塩の塩析剤として有効に再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る硫安含有排水の再利用方法が示されたフローチャートである。
図2図2は、硫安含有排水の再利用の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本開示が詳細に説明される。本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除及び変更が可能である。なお、本願明細書において特に言及しない限り、「X~Y」は「X以上Y以下」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0014】
[硫安含有排水の再利用方法]
本開示の一実施形態に係る硫安含有排水の再利用方法は、硫安を含む排水を、この排水中の硫安濃度が25質量%以上45質量%以下になるように濃縮すること、この濃縮した排水を固液分離すること、及び、この固液分離後の排水をバナジン酸塩の塩析剤として用いること、を含んでいる。
【0015】
硫安を含む排水には、通常、種々の金属成分が不純物として含まれている。この不純物のうち、例えば、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Zn(亜鉛)、Mg(マグネシウム)及びFe(鉄)は、硫安濃度25質量%以上45質量%以下の排水中で、硫安との複塩を形成する。形成された硫安との複塩は、固形分として、排水中に析出する。析出した固形分は、固液分離により除去される。
【0016】
この再利用方法によれば、排水中の硫安濃度が高く、かつ、不純物(特に、Ni、Co、Zn、Mg及びFe)が低減された排水が得られる。この排水は、硫安又は硫安溶液を使用する種々の用途に利用することができる。さらに、この方法によれば、排水からの不純物の混入が少ないので、高純度が求められる用途、特に、レドックス・フロー電池用のアンモニウム塩(メタバナジン酸アンモニウム)の製造に利用することができる。
【0017】
図1は、本開示の一実施形態に係る硫安含有排水の再利用方法が示されたフローチャートである。図1に示される通り、この実施形態では、原料灰の洗浄・固液分離(ステップ2)が実施されて、洗浄排水として硫安含有排水が得られる。次に、この硫安含有排水の濃縮(ステップ4)に続く固液分離(ステップ6)、及び、pH調整(ステップ8)に続く固液分離(ステップ10)が順次実施されて、再利用可能な硫安含有排水(再利用排水)が回収される。以下、各ステップについて詳細に説明する。
【0018】
(原料灰の洗浄・固液分離:ステップ2)
本実施形態では、原料灰に洗浄水を添加して洗浄後、固液分離をおこなって、硫安を含む洗浄排水を回収する。原料灰としては、例えば、重質油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油などの燃焼灰、焼却ボイラー灰、部分酸化灰、石油コークス灰、オイルサンドの残渣灰などを挙げることができる。これらの原料灰には、硫安((NHSO)、硫酸水素アンモニウム(NHHSO)、硫酸が含まれている。硫安及び硫酸水素アンモニウムは、硫安分とも称される。原料灰に含まれる硫安分は、通常、質量比で20~60%程度であり、より一般的には30~50%程度である。
【0019】
燃焼灰等の原料灰には、V(バナジウム)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Si(ケイ素)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、Ca(カルシウム)等の元素が含まれる場合がある。一般にこれらの元素は、硫酸塩や酸化物等として含まれることが多い。例えば、バナジウムは、3価、4価、5価の様々な価数の化合物の形態をとっている。具体的にはNH(OH)(SO、VOSO・5HO、V等である。一般に、原料灰に含まれるバナジウムは、0.1~30質量%程度であり、より一般的には1~10質量%程度である。バナジウム以外の元素の場合、元素の種類にもよるが、0.1~20質量%程度であり、より一般的には1~10質量%程度である。
【0020】
本工程において原料灰を洗浄することにより、硫安とともに、溶解性の成分が洗浄排水中に溶出する。洗浄に使用する溶媒としては特に限定されないが、環境への負荷が少なく、再利用が容易であるとの観点から、水が好ましい。本開示の効果が得られる限り、アルカリを含む水が洗浄に使用されてもよい。原料灰に対する洗浄水の量は、好ましくは、質量比で2~20倍である。
【0021】
本工程における洗浄方法は、バッチ法でもよく、連続法でもよい。具体的には、洗浄水添加用の水槽と、固液分離用の真空ベルトフィルタ、バスケット式遠心機、デカンターといった脱水機とを組み合わせた方法を挙げることができる。洗浄水添加用の水槽を用いずに真空ベルトフィルタ上へ散水する方法でもよい。
【0022】
洗浄後の固液分離によって回収される硫安含有排水のpHは、原料灰洗浄工程で設定する洗浄水のpHに依存する。原料灰洗浄工程で設定する洗浄水のpHは、洗浄によるバナジウムの溶出を抑制する観点から、好ましくは3~8であり、4~7がより好ましく、5~6がさらに好ましい。
【0023】
他の好ましい実施形態において、硫安含有排水が、廃触媒の洗浄排水であってもよい。廃触媒としては、例えば、原油の脱硫用触媒等が挙げられる。
【0024】
(硫安含有排水の濃縮:ステップ4)
本工程では、洗浄・固液分離(ステップ2)により回収した硫安含有排水を濃縮して、硫安濃度を25質量%以上45質量%以下に調整する。これにより、排水中に溶出した種々の元素が、硫安との複塩を形成する。硫安との複塩を形成しやすいとの観点から、濃縮後の硫安濃度は30質量%以上が好ましく、32質量%以上がより好ましく、34質量%以上がさらに好ましく、36質量%以上がよりさらに好ましく、38質量%以上が特に好ましい。濃縮後の硫安濃度は高い程好ましいが、43質量%を超えると、硫安の飽和濃度を超えて析出する場合がある。
【0025】
本工程において、硫安との複塩を形成しやすい元素として、Ni、Co、Zn、Mg及びFeが挙げられる。これらの元素と硫安との複塩は、固形分として排水中に析出する。
【0026】
硫安含有排水中の各元素と硫安との複塩の溶解度が低下して、固形分として析出しやすいとの観点から、濃縮時の硫安含有排水は、pH3~7が好ましく、pH3~6がより好ましく、pH3~5がさらに好ましい。洗浄・固液分離(ステップ2)で回収した硫安含有排水に、酸又はアルカリを添加して、本工程におけるpHを前述の範囲に調整してもよい。
【0027】
本工程における濃縮方法としては、特に限定されず、蒸発濃縮法、膜濃縮法等の既知の方法が用いられうる。また、回収した硫安含有排水を、洗浄水として洗浄・固液分離(ステップ2)に使用する操作を、所定の硫安濃度になるまで、繰り返すことにより濃縮してもよい。蒸発濃縮法、膜濃縮法、繰り返し洗浄等適宜組み合わせて、本工程を実施してもよい。
【0028】
蒸発濃縮法の場合、硫安含有排水から水分等が蒸気として除去されることにより濃縮される。蒸発濃縮する場合の温度は、70~130℃が好ましい。作業効率の観点から、減圧下で蒸発濃縮することが好ましく、減圧下、100℃以下がより好ましく、80~90℃がより好ましい。
【0029】
蒸発濃縮方法としては、特に制限はなく、多重効用式蒸発法(MED)、自己蒸気機械圧縮式蒸発法(MVR)、蒸気圧縮式蒸発法(VCD)、真空多段蒸発濃縮式蒸発法(VMEC)、多段フラッシュ式蒸発法(MSF)等が適宜選択して用いられる。省エネルギー及びコストの観点から、自己蒸気機械圧縮式(MVR)が好ましい。
【0030】
膜濃縮法の場合、用いる分離膜の種類は特に限定されない。例えば、逆浸透膜(RO膜)及びナノろ過膜(NF膜)が、分離膜として好適に用いられる。
【0031】
(濃縮後の固液分離:ステップ6)
本工程では、硫安含有排水の濃縮(ステップ4)において、排水中に固形分として析出した各種元素と硫安との複塩を分離する。本工程において固形分を分離することにより、排水中に不純物として含まれていた種々の元素が除去される。特に、Ni、Co、Zn、Mg及びFeが効率的に除去されうる。本工程により得られる分離液は、硫安濃度が高く、かつ、液中の不純物含有量が少ない。この分離液は、そのまま、硫安又は硫安溶液を要する種々の用途に利用することができる。
【0032】
本開示の効果が得られる限り、固液分離方法は特に限定されない。沈殿分離、遠心分離、吸引ろ過、加圧ろ過等既知の方法を適宜選択して用いることができる。
【0033】
(pH調整:ステップ8)
本実施形態では、濃縮後の固液分離(ステップ6)で固形分(不純物)が除去された分離液のpHを調整する。詳細には、本工程では、分離液のpHを異なるpH領域に変更する。水酸化物、酸化物、硫安との複塩等を形成して沈殿する元素の種類は、分離液のpHにより異なる。従って、分離液のpH領域を変更することにより、前工程(ステップ4及びステップ6)とは異なる種類の元素が、固形分として析出する。
【0034】
例えば、分離液のpHを8.0以上11.0以下に調整することにより、Fe、Si及びAlが水酸化物や酸化物を形成して沈殿する。なお、本願明細書において、pHは溶液中の水素イオン指数を意味する。特に言及がない限り、pHは、25℃、1気圧の条件下、市販のpHメーターを用いて測定される。
【0035】
本工程において、pHを調整する方法は特に限定されない。例えば、分離液にpH調整剤を添加して調整する方法が挙げられる。本開示の効果が得られる限り、pH調整剤の種類も特に制限はないが、例えば、アンモニア、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ及びこれらの水溶液、並びに、硫酸、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸等の酸及びこれらの水溶液が挙げられる。2種以上のpH調整剤を併称してもよい。対象液の主成分が硫酸アンモニウムであり、他の金属元素の混入を回避する観点から、アンモニア、硫酸等が好ましい。pH調整剤の種類及び添加量は、分離液のpH及び量並びに目的とするpH領域により、適宜調整される。
【0036】
(pH調整後の固液分離:ステップ10)
本工程では、pH調整(ステップ8)において、固形分として析出した各種元素の化合物を分離する。本工程において固形分を分離することにより、分離液中に残存する不純物がさらに除去される。特に、Fe、Si及びAlが効率的に除去される。本工程における固液分離方法として、濃縮後の固液分離(ステップ6)にて前述した方法が好適に用いられうる。
【0037】
本工程により、硫安濃度が高く、かつ、液中の不純物含有量がさらに低減された分離液が、再利用排水として回収される。この再利用排水は、バナジン酸塩を得るための塩析剤として用いることができる。この再利用排水は、特に、高純度が求められる用途におけるバナジン酸塩の塩析剤として使用することができる。
【0038】
図2は、原料灰(燃焼灰)の洗浄排水である硫安含有排水の再利用の一例を説明するためのフローチャートである。この実施態様では、燃焼灰から回収したバナジウムを塩析して、レドックス・フロー電池用電解液の製造に用いるバナジウム化合物(バナジン酸塩)を得るために、硫安含有排水が利用される。
【0039】
以下、適宜図1を参照しつつ、図2に従って詳細を説明する。この実施態様では、はじめに、原料灰として、バナジウム及び硫安を含む燃焼灰が準備される。この燃焼灰の洗浄・固液分離(ステップ2)により、硫安を含む洗浄排水(硫安含有排水)と、バナジウムを含む固形分(洗浄灰)とが分離される。
【0040】
図1について前述した通り、硫安含有排水は、濃縮(ステップ4)、濃縮後の固液分離(ステップ6)、pH調整(ステップ8)及びpH調整後の固液分離(ステップ10)を経ることにより、硫安濃度が高く、かつ不純物が少ない再利用排水として回収される。
【0041】
(アルカリ抽出:ステップ12)
本工程では、洗浄・固液分離(ステップ2)を経た洗浄灰に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、液相にバナジウムを浸出させて、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得る(ステップ12)。本工程で使用するアルカリとしては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が例示される。水酸化ナトリウムが好適に用いられる。
【0042】
(アルカリ抽出後の固液分離:ステップ14)
本工程では、アルカリ抽出(ステップ12)で得たアルカリ浸出液から、不溶物を固液分離して、バナジウムを含む浸出ろ液を得る(ステップ14)。本工程により、主として、燃焼灰に含まれる焼却残渣である炭素が、固形分として分離される。アルカリ抽出後の固液分離方法としては特に制限はなく、濃縮後の固液分離(ステップ6)にて前述した方法が用いられうる。
【0043】
アルカリ後の固液分離(ステップ14)で得られる浸出ろ液は、バナジン酸イオンとしてバナジウムを含む。例えば、アルカリ抽出(ステップ12)で、水酸化ナトリウムをアルカリとして使用した場合、浸出ろ液には、バナジン酸イオンとナトリウムイオンとが含まれ、析出操作によりバナジン酸ナトリウムとして回収することができる。バナジン酸イオンを含む浸出ろ液をバナジウム原料としても使用してもよいし、バナジン酸ナトリウム等アルカリ金属塩を浸出ろ液から回収してバナジウム原料として使用してもよい。
【0044】
この実施形態では、バナジウムを含む浸出ろ液を蒸発濃縮後、冷却して晶析することにより、バナジン酸アルカリ金属塩を固形分(以下、バナジウムケーキとも称される)として回収する。濃縮後の冷却晶析により、高収率で高純度のバナジウム原料を得ることができる。
【0045】
(溶解又はスラリー化:ステップ16)
本工程は、固形分として回収したバナジウムケーキに、水を添加して溶解又はスラリー化する(ステップ16)。本工程の目的は、後述する塩析(ステップ18)において、塩析剤との混合性を向上されるため、バナジウムケーキに流動性を付与することにある。これにより、バナジン酸アルカリ金属塩の溶液又はスラリーが得られる。水の添加量は、バナジウムケーキの固形分率に応じて適宜調整される。なお、バナジン酸アルカリ金属塩を固形分として回収しない態様では、本工程は省略される。
【0046】
(塩析:ステップ18)
本工程では、洗浄灰から回収されたバナジウム原料に、塩析剤を添加して塩析する(ステップ18)。詳細には、バナジウム原料であるバナジン酸アルカリ金属塩を、アンモニア化合物で塩析してバナジン酸アンモニウムを得る。
【0047】
アンモニア化合物としては、水酸化アンモニウム(アンモニア水)や、塩化アンモニウム、硫安アンモニウム等のアンモニウム塩を使用することができる。この実施形態では、燃焼灰の洗浄排水から得られた硫安を含む再利用排水が、塩析剤として用いられる。前述した通り、この再利用排水は、硫安を高濃度で含み、かつ、不純物が低減されている。この再利用排水を塩析剤として使用することにより、不純物の少ないバナジン酸アンモニウムを効率的に得ることができる。塩析剤として、この再利用排水と、他のアンモニア化合物とを併用してもよい。
【0048】
(塩析後の固液分離:ステップ20)
本工程では、固液分離をおこなって、塩析(ステップ18)で得られたバナジン酸アンモニウムを回収する。本開示によれば、回収されるバナジン酸アンモニウムへの、硫安含有排水からの不純物の混入が少ない。このバナジン酸アンモニウムは、高純度である。
【0049】
本工程で回収されたバナジン酸アンモニウムは、例えば、レドックス・フロー電池用電解液の製造に供される。例えば、回収されたバナジン酸アンモニウムを熱処理することにより、五酸化バナジウム(V)が得られる。この五酸化バナジウムを、他の電解液成分と配合して所定の溶媒に溶解することにより、レドックス・フロー電池用電解液を得ることができる。
【0050】
(他の好ましい実施形態)
本開示の再利用方法において、pH調整(ステップ8)及びpH調整後の固液分離(ステップ10)を、異なるpH領域において、2回以上繰り返し実施してもよい。これにより、硫安含有排水に含まれる多種の元素を、より広い範囲で低減することができる。
【0051】
pH領域として、例えば、pH4.0以上6.0未満、pH6.0以上7.0未満、pH7.0以上11.0以下、pH11.0を超えて13.0以下が挙げられる。これらpH領域に調整後の固液分離の順序は、特に限定されない。少なくとも1回、7.0以上11.0以下のpH領域に調整して、固液分離することが好ましい。
【0052】
本開示の再利用方法において、硫安を含む排水にリン酸を添加してもよい。リン酸の添加により、排水中の各元素とリン酸とが不溶性又は難溶性の化合物を形成するため、不純物除去効果が向上する。リン酸の添加は、硫安含有排水の濃縮(ステップ4)前におこなってもよく、濃縮(ステップ4)後固液分離(ステップ6)前におこなってもよく、pH調整(ステップ8)前におこなってもよく、pH調整(ステップ8)後固液分離(ステップ10)前におこなってもよい。リン酸添加の効果が得られやすいとの観点から、濃縮(ステップ4)前の添加が好ましい。
【0053】
リン酸の添加量は、硫安含有排水の種類に応じて適宜選択される。不純物除去効果が得られやすいとの観点から、リン酸の添加量は、添加する排水又は分離液に対して、リン酸イオン(PO 3-)として、0.5質量%以上が好ましく、0.7質量%以上がより好ましく、0.9質量%以上がさらに好ましい。排水中のリン濃度が過剰になることを回避する観点から、添加量は12.0質量%以下が好ましい。
【0054】
本開示の再利用方法において、硫安を含む排水を酸化処理してもよい。酸化処理により、排水中のFe2+を、水酸化物を形成しやすいFe3+に酸化することができる。この酸化処理により、不純物であるFeの除去効果が向上する。
【0055】
本開示の効果が阻害されない限り、酸化処理の方法は特に限定されない。例えば、酸化性ガス又は酸化剤を添加する方法が挙げられる。酸化性ガスとしては、空気、酸素、オゾン、亜酸化窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、塩素等が例示される。酸化剤としては、過酸化水素、次亜塩素酸等が例示される。また、酸化速度を向上させるため、処理液を昇温してもよい。昇温時の温度は、酸化反応促進の観点から30℃以上が好ましく、また、アンモニアの揮発及び飛散防止の観点から50℃以下が好ましい。
【0056】
酸化処理は、硫安含有排水の濃縮(ステップ4)前におこなってもよく、濃縮(ステップ4)後固液分離(ステップ6)前におこなってもよく、pH調整(ステップ8)前におこなってもよく、pH調整(ステップ8)後固液分離(ステップ10)前におこなってもよい。Feの除去効果向上及び酸化速度向上の観点から、pH調整(ステップ8)後固液分離(ステップ10)前の酸化処理が好ましい。
【0057】
本開示の再利用方法において、硫安を含む排水に鉄化合物若しくはアルミニウム化合物又はその両方を添加してもよい。鉄化合物又はアルミニウム化合物の添加により、Fe又はAlと、排水中のFe及びAl以外の元素との共沈が促進される。これにより、Fe及びAl以外の元素の除去効果が向上する。
【0058】
鉄化合物及びアルミニウム化合物としては、排水中の他の元素との反応に影響しやすい水溶性化合物が好ましい。水溶性鉄化合物としては、例えば、硫酸鉄、硝酸鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、塩化鉄等が挙げられる。水溶性アルミニウム化合物としては、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等が例示される。1種又は2種以上を併用してもよい。
【0059】
鉄化合物又はアルミニウム化合物の添加は、硫安含有排水の濃縮(ステップ4)前におこなってもよく、濃縮(ステップ4)後固液分離(ステップ6)前におこなってもよく、pH調整(ステップ8)前におこなってもよく、pH調整(ステップ8)後固液分離(ステップ10)前におこなってもよい。不純物除去効果が得られやすいとの観点から、鉄化合物は、pH調整(ステップ8)前の添加が好ましい。
【0060】
鉄化合物の添加量及びアルミニウム化合物の添加量は、硫安含有排水の種類に応じて適宜選択される。不純物除去効果が得られやすいとの観点から、鉄化合物の添加量は、添加する排水又は分離液に対して、Feとして、0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましい。排水中の鉄濃度が過剰になり、沈殿物量が増大することを回避する観点から、鉄化合物の添加量は、Feとして、1.0質量%以下が好ましい。同様の観点から、アルミニウム化合物の添加量は、Alとして、0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、また、1.0質量%以下が好ましい。本開示の効果が得られる限り、所定量の鉄化合物及びアルミニウム化合物を、水溶液として排水に添加してもよい。
【0061】
本開示の再利用方法において、濃縮後に固液分離して得た排水を晶析してもよく、pH調整後に固液分離して得た排水を晶析してもよい。これら固液分離後の排水は、硫安濃度が高く、かつ、不純物の混入が少ない。固液分離後の排水を晶析することにより、不純物の混入が少ない結晶硫安を、効率よく製造することができる。この結晶硫安を、バナジン酸塩の塩析剤として使用してもよい。
【0062】
[硫安含有排水の再利用装置]
本開示の硫安含有排水の再利用装置(以下、「再利用装置」と称する)は、前述した実施形態に係る硫安含有排水の再利用方法を実施するための装置である。本開示の一実施形態に係る再利用装置は、硫安を含む排水を濃縮する濃縮装置と、この濃縮した排水から固形分を除去する分離装置と、を備えている。この再利用装置は、濃縮装置で濃縮した排水中の硫安濃度を計測する濃度測定装置と、硫安濃度が25質量%以上45質量%以下のときに、この濃縮した排水を分離装置に移送する第一の移送装置と、分離装置で固形分を除去した排水を、塩析剤としてバナジン酸塩の塩析装置に移送する第二の移送装置と、をさらに備えている。
【0063】
この再利用装置によれば、硫安濃度が高く、かつ、不純物(特に、Ni、Co、Zn、Mg及びFe)が低減された排水を回収することができる。この排水は、硫安又は硫安溶液を使用する種々の用途に利用することができる。この排水は、バナジン酸塩を得るための塩析剤として用いることができる。この排水は、特に、高純度が求められる用途におけるバナジン酸塩の塩析剤として再利用することができる。
【0064】
本開示の再利用装置において、濃縮装置とは、排水中の硫安濃度を増大させるための装置を意味する。この効果が得られる限り、濃縮装置の種類は特に限定されず、蒸発濃縮法、膜濃縮法等を利用した既知の濃縮装置が用いられうる。また、硫安含有排水として、硫安を含む原料灰の洗浄排水を使用する場合、この再利用装置が原料灰の洗浄装置を備えてもよく、この洗浄装置を用いて、同じ洗浄水を用いて、繰り返し原料灰を洗浄することにより、排水中の硫安濃度を増大してもよい。この場合、原料灰の洗浄装置が、本開示の濃縮装置とされる。2種以上の濃縮装置を併用してもよい。
【0065】
蒸発濃縮法による濃縮装置としては、多重効用缶式(MED)、自己蒸気機械圧縮式(MVR)、蒸気圧縮式(VCD)、真空多段蒸発濃縮式(VMEC)、多段フラッシュ式(MSF)等が例示される。省エネルギー及びコストの観点から、自己蒸気機械圧縮式(MVR)の濃縮機が好ましい。膜濃縮法による濃縮装置としては、例えば、逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)を分離膜として用いた濃縮装置が挙げられる。
【0066】
原料灰の洗浄装置としては、例えば、水添加用の水槽と固液分離のための真空ベルトフィルタ、バスケット式遠心機、デカンター等脱水機等との組み合わせを挙げることができる。また、水添加用の水槽を用いずに真空ベルトフィルタ上へ散水する装置であってもよい。この洗浄装置を濃縮装置として使用する場合、例えば、脱水機から固液分離した洗浄排水を、水槽又は散水装置に供給するための返送ポンプ及び配管をさらに備えてもよい。
【0067】
排水中の硫安濃度測定装置として、例えば、濃度計、比重計等既知の手段を使用することができる。また、排水中のアンモニウムイオン量から硫安濃度を算出してもよく、アンモニウムイオンを測定するための滴定装置を、硫安濃度測定装置とすることもできる。
【0068】
本開示の効果が得られる限り、第一及び第二の移送装置の種類は特に限定されない。例えば、第一及び第二の移送装置は、各装置を接続する配管(パイプ)であってよく、この配管にポンプが接続されてもよい。本開示の再利用装置では、排水中の硫安濃度が25質量%以上45質量%以下の場合に、第一の移送装置によって、濃縮装置で濃縮された排水が移送され、分離装置に供給される。また、この再利用装置では、第二の移送装置によって、分離装置で固形分を除去した排水が移送され、塩析剤としてバナジン酸塩の塩析装置に供給される。
【0069】
分離装置は、濃縮により析出した固形分を排水から除去する装置である。分離装置の種類は特に限定されず、沈殿分離、遠心分離、吸引ろ過、加圧ろ過等既知の方法を用いた分離装置を使用することができる。具体的には、例えば、シックナー、デカンター、バスケット遠心真空ベルトフィルタ等を挙げることができる。2種以上を併用してもよい。
【0070】
塩析装置は、例えば、洗浄灰から回収されたバナジウム原料に塩析剤を添加して、バナジン酸塩を塩析させる装置である。この実施態様では、分離装置から移送された排水が塩析剤として塩析装置に供給される。塩析装置の種類は特に限定されない。例えば、バナジウム原料及び塩析剤を混合する撹拌混合槽等が挙げられる。
【0071】
好ましい実施態様において、硫安含有排水の再利用装置が、硫安を含む排水にpH調整剤を添加する添加装置をさらに備えてもよい。この添加装置は、例えば、pH調整剤槽と、送液ポンプとを含み、所定量のpH調整剤を、配管を通して排水に添加する機能を有している。再利用装置が、pHメーター等既知のpH測定装置をさらに備えてもよい。
【0072】
pH調整剤の添加装置を備える実施態様において、再利用装置が、第二の分離装置をさらに備えてもよい。第二の分離装置とは、pH調整によって排水中に析出した固形分を除去する装置である。前述した分離装置が適宜選択されて用いられうる。
【0073】
好ましい他の実施態様において、硫安含有排水の再利用装置が、硫安を含む排水にリン酸を添加する添加装置をさらに備えてもよい。この添加装置は、例えば、リン酸槽と、送液ポンプとを含み、所定量のリン酸を、配管を通して排水に添加する機能を有している。
【0074】
さらに他の実施態様において、硫安含有排水の再利用装置が、硫安を含む排水に、鉄化合物若しくはアルミニウム化合物又はその両方を添加する添加装置をさらに備えてもよい。この添加装置は、例えば、鉄化合物又はアルミニウム化合物を秤量して、所定量の鉄化合物又はアルミニウム化合物得を排水に添加する機能を有している。鉄化合物又はアルミニウム化合物を水溶液として排水に添加する場合、鉄化合物溶液槽又はアルミニウム溶液槽と、送液ポンプとをさらに備えてもよい。
【0075】
さらに他の実施態様において、硫安含有排水の再利用装置が、硫安を含む排水の酸化処理装置をさらに備えてもよい。酸化処理装置としては特に限定されず、例えば、酸化性ガス又は酸化剤の添加装置が接続された酸化処理槽であってもよい。この酸化処理槽が、処理液の温度調節装置をさらに有してもよい。
【0076】
好ましい実施態様として、本開示の再利用装置が、分離装置で固形分を除去した排水を晶析する晶析装置を備えてもよい。晶析装置としては、例えば、冷却機能を備えた水槽、冷却晶析槽、メタノール等有機系貧溶媒を加える貧溶媒晶析槽等を挙げることができる。この再利用装置が、晶析装置で析出した結晶硫安を分離して回収する第三の分離装置をさらに備えてもよい。前述した分離装置を適宜選択して用いることができる。
【実施例0077】
以下、実施例によって本開示の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本開示が限定的に解釈されるべきではない。なお、特に言及がない限り、試験は全て室温(25℃±5℃)でなされている。
【0078】
(試験1)
[実施例1-1]
原料灰として、燃焼灰200g(含水率1%)を準備した。この燃焼灰に洗浄水400g(pH7)を加えた後、28%NH水(和光純薬工業社製)を3g添加してpHを5.5に調整した。その後、1時間撹拌して洗浄をおこない、遠心脱水機で固液分離することにより、洗浄排水Aを得た。この洗浄排水Aを1atm、100℃の条件にて蒸発濃縮して濃縮液A(固液分離前)とした。この濃縮液Aを固液分離することにより、分離液Aを得た。洗浄排水A、濃縮液A及び分離液A中の硫安濃度(質量%)及び液中成分濃度(mg/kg)が、下表1に示されている。なお、液中成分(V,Ni,Mg,Si)の測定には、ICP発光分光分析装置(Agilent社製の商品名「ICP-OES」)を使用した。また、硫安濃度は、中和滴定法で求めたアンモニウムイオン量に基づいて算出した。
【0079】
[実施例1-2]
原料灰である燃焼灰の種類を変更した以外は、実施例1-1と同様にして、洗浄排水B、濃縮液B及び分離液Bを得た。洗浄排水B、濃縮液B及び分離液B中の硫安濃度及び液中成分濃度が、下表1に示されている。
【0080】
【表1】
【0081】
(試験2)
原料灰として、燃焼灰600g(含水率1%)を準備した。この燃焼灰のうち200gを採取して、洗浄水400g(pH7)を加えた後、28%NH水(和光純薬工業社製)を3g添加してpHを5.5に調整した。その後、1時間撹拌して洗浄した後、遠心脱水機にて固液分離をおこなった。得られたろ液を、新たに採取した原料灰200gに添加してスラリー化して、同様の方法で洗浄した後固液分離をおこなった。得られたろ液を用いて、さらに採取した原料灰200gに添加してスラリー化して、再度同様に洗浄及び固液分離をおこなった。3回繰り返し洗浄に使用して、固液分離した後の洗浄排水中の硫安濃度は、約28質量%であった。
【0082】
(試験液A)
得られた洗浄排水を1atm、100℃の条件にて蒸発濃縮した後、固液分離をおこなって得たろ液を、試験液Aとした。
【0083】
(試験液B-F)
得られた洗浄排水を1atm、100℃の条件にて蒸発濃縮した後、硫酸アンモニウム(東レ社製)を添加して、下表2に示される硫安濃度に調整した後、固液分離をおこなって得たろ液を、それぞれ、試験液B-Fとした。
【0084】
試験液A-Fの硫安濃度(質量%)及び液中成分濃度(mg/kg)が、下表2に示されている。なお、液中成分(V,Fe,Ni,Co,Zn,Mn,Si,Mg,Al,Ca)の測定には、ICP発光分光分析装置(Agilent社製の商品名「ICP-OES」)を使用した。また、硫安濃度は、中和滴定法で求めたアンモニウムイオン量に基づいて算出した。
【0085】
【表2】
【0086】
表1及び2に示される通り、洗浄排水を濃縮して固液分離することにより、分離液中の各成分濃度が減少することを確認した。また、液中の硫安濃度の増加に伴って、液中成分の濃度が減少することを確認した。表2に示される通り、特に、V、Fe、Ni、Co、Zn、Mn及びMgの減少率が顕著であった。なお、実施例1-2において分離液中のV及びSiの濃度が高い原因としては、測定データ間のばらつき、析出/固液分離時の液体成分の移動等に伴う液量の減少が考えられる。
【0087】
(試験3)
[実施例3-1]-[実施例3-2]
試験2と同様にして、燃焼灰の洗浄排水を準備した。この洗浄排水を1atm、100℃の条件にて蒸発濃縮した後、固液分離をおこなった。得られた分離液のpHは3.8であった。この分離液に濃度28%のアンモニア水(和光純薬工業社製)を添加して、それぞれ、下表3に示されたpHに調整した後、固液分離をおこなった。この固液分離後の液中成分(Fe、Si及びAl)の濃度と、pH調整前の分離液中の各成分の濃度とを試験2と同様にして測定した。測定結果が、下表3に示されている。なお、pH調整前の硫安濃度は、中和滴定法で求めたアンモニウムイオン量に基づいて算出した。
【0088】
[実施例3-3]-[実施例3-4]
燃焼灰の種類を変更した以外は試験2と同様にして、洗浄排水を準備した。この洗浄排水を1atm、100℃の条件にて蒸発濃縮した後、固液分離をおこなった。得られた分離液のpHは3.9であった。この分離液に濃度28%のアンモニア水(和光純薬工業社製)を添加して、それぞれ、下表3に示されたpHに調整した後、固液分離をおこなった。この固液分離後の液中成分(Fe、Si及びAl)の濃度と、pH調整前の分離液中の各成分の濃度とを試験1と同様にして測定した結果が、下表3に示されている。なお、pH調整前の硫安濃度は、中和滴定法で求めたアンモニウムイオン量に基づいて算出した。
【0089】
【表3】
【0090】
表3に示される通り、洗浄排水を濃縮後固液分離して得た分離液のpHを調整してさらに固液分離することにより、分離液中のFe、Si及びAlの濃度が減少することを確認した。この試験結果から、濃縮後の固液分離と、pH調整後の固液分離とを組み合わせることにより、洗浄排水中の不純物をより効率的に除去できることがわかった。
【0091】
(試験4)
[実施例4-1]
試験2と同様にして、燃焼灰の洗浄排水A(硫安濃度約28重量%)を準備した。この洗浄排水Aを蒸発濃縮した後、リン酸濃度110450mg/kgとなる量で75%リン酸(大和薬品社製)を添加して濃縮後液(pH3.8)を得た。この濃縮後液に濃度28%のアンモニア水(和光純薬工業社製)を添加して、pH5.0に調整した後、固液分離をおこなって分離液Bを得た(1段階処理)。この分離液Bに、前述のアンモニア水を添加してpH7.0に調整した後、固液分離をおこなって、分離液Cを得た(2段階処理)。処理前の洗浄排水、1段階処理後の分離液B及び2段階処理後の分離液Cの液中成分の濃度を、試験2と同様にして測定した。測定結果が、下表4に示されている。なお、硫安濃度は、中和滴定法で求めたアンモニウムイオン量から算出した。
【0092】
[実施例4-2]-[実施例4-3]
1段階処理及び2段階処理において、下表4に示されるpHに調整した以外は、実施例4-1と同様の操作をおこない、洗浄排水A、1段階処理後の分離液B及び2段階処理後の分離液Cの液中成分の濃度を測定した。測定結果が、それぞれ、(液A)、(液B)及び(液C)として、下表4に示されている。なお、硫安濃度は、ICP分析で検出されたアンモニウムイオン量から算出した。
【0093】
【表4】
【0094】
表4に示される通り、洗浄排水を濃縮した後リン酸を添加し、さらに、分離液のpHを調整して固液分離する処理を、異なるpH領域で2回おこなうことにより、液中の不純物を効率よく除去できることを確認した。
【0095】
以上の試験結果において本開示による顕著な効果は十分に示されているから、従来技術に対する本開示の優位性は明らかである。
【0096】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0097】
[項目1]
項目1の硫安含有排水の再利用方法は、硫安を含む排水を、この排水中の硫安濃度が25質量%以上45質量%以下になるように濃縮すること、この濃縮した排水を固液分離すること、及び、固液分離後の排水をバナジン酸塩の塩析剤として用いることを含む。この方法によれば、排水中の硫安濃度が高く、かつ、不純物が低減された排水が得られる。さらには、不純物の少ないバナジン酸塩を効率的に製造することができる。この方法によれば、硫安含有排水を有効利用することができる。
【0098】
[項目2]
項目2の硫安含有排水の再利用方法は、項目1の再利用方法において、排水のpHを調整すること、及び、このpH調整した排水を固液分離することをさらに含む。pH調整後に固液分離することにより、排水中の不純物がさらに低減される。
【0099】
[項目3]
項目3の硫安含有排水の再利用方法は、項目2の再利用方法において、前述した濃縮後の固液分離をおこなった後、pH調整後の固液分離をおこなう。これにより、排水中の不純物が効率的に低減される。
【0100】
[項目4]
項目4の硫安含有排水の再利用方法では、項目2又は3の再利用方法において、排水のpHを7.0以上11.0以下に調整する。これにより、排水中のFe、Si及びAlが不純物として除去される。
【0101】
[項目5]
項目5の硫安含有排水の再利用方法では、項目2又は3の再利用方法において、前述したpH調整後の固液分離を、異なるpH領域において2回以上繰り返す。これにより、多種の元素が不純物として除去される。
【0102】
[項目6]
項目6の硫安含有排水の再利用方法は、項目5の再利用方法において、前述したpH調整後の固液分離を、少なくとも1回、7.0以上11.0以下のpH領域においておこなう。これにより、排水中のFe、Si及びAlが効率的に低減される。
【0103】
[項目7]
項目7の硫安含有排水の再利用方法では、項目1から6のいずれかに記載の再利用方法において、硫安を含む排水にリン酸を添加する。これにより、不純物の除去効果が向上する。
【0104】
[項目8]
項目8の硫安含有排水の再利用方法では、項目1から7のいずれかに記載の再利用方法において、排水を酸化処理することをさらに含む。これにより、排水中のFeがより効率的に低減される。
【0105】
[項目9]
項目9の硫安含有排水の再利用方法では、項目1から8のいずれかに記載の再利用方法において、排水に鉄化合物を添加することをさらに含む。これにより、Fe以外の元素の除去効果が向上する。
【0106】
[項目10]
項目10の硫安含有排水の再利用方法では、項目1から9のいずれかに記載の再利用方法において、硫安を含む排水が燃焼灰又は廃触媒の洗浄排水である。これにより、燃焼灰及び廃触媒中の硫安を有効利用することができる。
【0107】
[項目11]
項目11の硫安含有排水の再利用方法は、項目1から10のいずれかに記載の再利用方法において、固液分離後の排水を晶析して、結晶硫安を得ることをさらに含む。これにより、不純物の混入が少ない結晶硫安を、効率的に製造することができる。
【0108】
[項目12]
項目12の硫安含有排水の再利用装置は、硫安を含む排水を濃縮する濃縮装置と、この濃縮した排水から固形分を除去する分離装置と、を備えている。この再利用装置は、濃縮装置で濃縮した排水中の硫安濃度を計測する濃度測定装置と、硫安濃度が25質量%以上45質量%以下のときに、この濃縮した排水を分離装置に移送する移送装置と、分離装置で固形分を除去した排水を、塩析剤としてバナジン酸塩の塩析装置に移送する第二の移送装置とをさらに備えている。
【符号の説明】
【0109】
2・・・原料灰洗浄工程
4・・・濃縮工程
6・・・固液分離工程
8・・・pH調整工程
10・・・固液分離工程
12・・・アルカリ抽出工程
14・・・固液分離(バナジウム回収)工程
16・・・溶解/スラリー化工程
18・・・塩析工程
20・・・固液分離(バナジン酸アンモニウム回収)工程
図1
図2