(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179946
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】立体細胞組織の厚さを推測する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20231213BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20231213BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092915
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 祐生
(72)【発明者】
【氏名】横川 由麻
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QX01
4B065AA90X
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】安価な装置を用いて、非破壊かつハイスループットに立体細胞組織の厚さを推測する技術を提供する。
【解決手段】立体細胞組織の厚さを推測する方法であって、培養容器中の立体細胞組織の吸光度を測定し、前記吸光度の測定値から前記立体細胞組織の厚さを推測する方法;前記立体細胞組織が、細胞を、カチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質を含む溶液に懸濁して混合物を得る工程(A)と、前記混合物を基材上に配置して、前記基材上に前記細胞を集め、前記基材上に細胞集合体を形成する工程(B)と、前記細胞集合体を培養して、立体細胞組織を得る工程(C)とを含む方法で作製されたものである、前記方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体細胞組織の厚さを推測する方法であって、
培養容器中の立体細胞組織の吸光度を測定し、前記吸光度の測定値から前記立体細胞組織の厚さを推測する方法。
【請求項2】
前記吸光度が、350nm以上800nm以下の波長範囲で測定された値である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記立体細胞組織が等張液中に配置されている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記等張液が、リン酸緩衝生理食塩水又はフェノールレッドフリーの培地である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記等張液が、フェノールレッドを含む培地であり、前記吸光度が、600nm以上800nm以下の波長範囲で測定された値である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記立体細胞組織が、管腔構造を含む組織である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記立体細胞組織が、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(NHDF)及びヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)から構成される立体細胞組織である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記立体細胞組織中のHUVECの細胞数が、NHDFの細胞数の1.5%以上である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記立体細胞組織が、以下の工程(A)~(C)を含む方法で作製されたものである、請求項1又は2に記載の方法。
(A)細胞を、カチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質を含む溶液に懸濁して混合物を得る工程
(B)前記混合物を基材上に配置して、前記基材上に前記細胞を集め、前記基材上に細胞集合体を形成する工程
(C)前記細胞集合体を培養して、立体細胞組織を得る工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体細胞組織の厚さを推測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体に近い環境が求められる薬剤のアッセイ系等の分野において、平板上で成育させた細胞よりも、立体的に組織化させた立体的細胞組織を使用することの優位性が示されている。このため、生体外で立体的細胞組織を構築するための様々な技術が開発されている。
【0003】
立体細胞組織の性能や品質を把握する指標の1つとして、立体細胞組織の厚さが挙げられる。立体細胞組織の厚さを把握することは、再生医療や及び組織工学の点において有用である。
【0004】
立体細胞組織の厚さを測定する方法としては、立体細胞組織をホルマリン等で固定し、パラフィン包埋して切片標本を作製し、当該切片標本をヘマトキシリン・エオシン染色して顕微鏡観察し、立体細胞組織の厚さを測定する方法(特許文献1)、共焦点レーザー顕微鏡を用いて立体細胞組織の断面図を作製し、当該断面図から立体細胞組織の厚さを求める方法(特許文献2)、光干渉断層計(Optical Coherence Tomography、OCT)を用いて立体細胞組織の断面図を作製し、当該断面図から立体細胞組織の厚さを求める方法(特許文献3)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-138697号公報
【特許文献2】特許第4700299号公報
【特許文献3】特許第6325858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、立体細胞組織の構造や厚さを評価することができるものの、破壊検査であることと、切片標本の作製は多くの工程を要し、スループットが低いことから、一度に多くのサンプルの厚みを測定することが困難である。
【0007】
また、特許文献2に記載された方法は、細胞に蛍光ラベルをする必要があることから破壊検査であり、高価な装置を要する。
【0008】
また、特許文献3に記載された方法は、非破壊検査であるものの、高価な装置を要し、スループットも高くないため、一度に多くのサンプルの厚さを計測することには適していない。
【0009】
本発明は、安価な装置を用いて、非破壊かつハイスループットに立体細胞組織の厚さを推測する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を含む。
[1]立体細胞組織の厚さを推測する方法であって、培養容器中の立体細胞組織の吸光度を測定し、前記吸光度の測定値から前記立体細胞組織の厚さを推測する方法。
[2]前記吸光度が、350nm以上800nm以下の波長範囲で測定された値である、[1]に記載の方法。
[3]前記立体細胞組織が等張液中に配置されている、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記等張液が、リン酸緩衝生理食塩水又はフェノールレッドフリーの培地である、[3]に記載の方法。
[5]前記等張液が、フェノールレッドを含む培地であり、前記吸光度が、600nm以上800nm以下の波長範囲で測定された値である、[3]に記載の方法。
[6]前記立体細胞組織が、管腔構造を含む組織である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記立体細胞組織が、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(NHDF)及びヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)から構成される立体細胞組織である、[6]に記載の方法。
[8]前記立体細胞組織中のHUVECの細胞数が、NHDFの細胞数の1.5%以上である、[7]に記載の方法。
[9]前記立体細胞組織が、以下の工程(A)~(C)を含む方法で作製されたものである、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
(A)細胞を、カチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質を含む溶液に懸濁して混合物を得る工程
(B)前記混合物を基材上に配置して、前記基材上に前記細胞を集め、前記基材上に細胞集合体を形成する工程
(C)前記細胞集合体を培養して、立体細胞組織を得る工程
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安価な装置を用いて、非破壊かつハイスループットに立体細胞組織の厚さを推測する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実験例1の結果を示すグラフである。
【
図2】
図2(a)~(c)は、実験例2の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3(a)及び(b)は、実験例3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[立体細胞組織の厚さを推測する方法]
一実施形態において、本発明は、立体細胞組織の厚さを推測する方法であって、培養容器中の立体細胞組織の吸光度を測定し、前記吸光度の測定値から前記立体細胞組織の厚さを推測する方法を提供する。
【0014】
実施例において後述するように、本願発明者らは、立体細胞組織の吸光度と、立体細胞組織の切片の厚さが高い相関を示すことを明らかにした。したがって、吸光度の測定値から立体細胞組織の厚さを精度よく推測することができる。より具体的には、下記式(1)に基づいて、測定した吸光度から立体細胞組織の厚さを算出することができる。なお、下記式(1)に基づいて算出した立体細胞組織の厚さは、実測値と±12.7μmの範囲でばらつく場合がある。
立体細胞組織の厚さ(μm)=吸光度×52.2+5.4…(1)
【0015】
後述するように、立体細胞組織の吸光度を、フェノールレッドフリーの等張液中で測定する場合には、上記式(1)における吸光度は350nm以上800nm以下の波長範囲で測定した値であることが好ましい。また、立体細胞組織の吸光度を、フェノールレッドを含む等張液中で測定する場合には、上記式(1)における吸光度は600nm以上800nm以下の波長範囲で測定した値であることが好ましい。
【0016】
実施例において後述するように、本実施形態の方法は、固定された立体細胞組織に対して実施してもよいし、生きた立体細胞組織に対して非破壊で実施してもよい。いずれの場合においても精度よく立体細胞組織の厚さを推測することができる。
【0017】
吸光度の測定には、当業者が一般に用いる、特定の波長の光を試料に当てた際に通過した光の量を測定し、試料が吸収した光を分析する装置を使用することができ、吸光光度計を用いることができる。吸光光度計としては、紫外線から赤外線の波長領域を使用することができる分光光度計やプレートリーダー等を使用することができる。一度に大量の立体細胞組織の厚さを推測する場合には、プレートリーダーを好適に利用することができる。プレートリーダーを用いると、一回の測定でウェルプレート内の複数の立体細胞組織の吸光度を測定することができるため、ハイスループットに立体細胞組織の厚さを推測することができる。また、プレートリーダーは、共焦点レーザー顕微鏡や、光干渉断層計と比較して安価な装置であるため、低コストに立体細胞組織の厚さを推測することができる。
【0018】
本明細書において、立体細胞組織とは、少なくとも一種類の細胞を含む立体的な集合体を意味する。立体細胞組織には、皮膚、毛髪、骨、軟骨、歯、角膜、血管、リンパ管、心臓、肝臓、膵臓、神経、食道等の生体組織及び固形癌モデル(例えば、胃癌、食道癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、腎細胞癌、肝癌等)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
また、立体細胞組織の形態に特に制限は無く、例えば、セルカルチャーインサート等の容器の内部で細胞を培養して形成した立体細胞組織であってもよいし、コラーゲン等の天然生体高分子や合成高分子によって構成されたスキャフォールド内で細胞を培養して形成した立体細胞組織であってもよいし、細胞凝集体(スフェロイド)であってもよいし、シート状の細胞構造体であってもよい。
【0020】
したがって、本実施形態の方法における培養容器としては、例えば、96ウェルプレート用インサート、24ウェルプレート用インサート等のセルカルチャーインサート、コラーゲン等の天然生体高分子や合成高分子によって構成されたスキャフォールド等が挙げられる。
【0021】
立体細胞組織の厚さとは、立体細胞組織のほぼ中央部における切片の厚さである。立体細胞組織の形状は、立体細胞組織の製造に使用した容器によって異なるが、例えば、円柱形状のセルカルチャーインサートを用いて立体的細胞組織を製造した場合には、円柱形状となる。この場合、立体的細胞組織を上面から見たときの形状は円であり、上面から見たときの中央部は、円の中心となる。立体細胞組織の形状は、円柱形状に限定されず、目的に応じて任意の形状であることができる。具体的には、例えば、三角柱形状、四角柱形状等の多角柱形状等が例示できる。
【0022】
本実施形態の方法において、吸光度は、立体細胞組織の厚さを測定したい方向に光を照射して測定する。例えば、立体細胞組織の培養容器がウェルプレート用インサートである場合、ウェルプレート用インサートのウェルの開口部とウェルの底面とを結ぶ方向に光を照射して吸光度を測定するとよい。
【0023】
本実施形態の方法において、立体細胞組織は等張液中に配置されていることが好ましい。等張液とは、約280mOsm/Lの浸透圧を有する液体をいう。等張液としては、リン酸緩衝生理食塩水、フェノールレッドフリーの培地等が挙げられる。
【0024】
本実施形態の方法において、吸光度は、350nm以上800nm以下の波長範囲で測定された値であることが好ましい。特に、等張液が、フェノールレッドを含む培地である場合、吸光度は600nm以上800nm以下の波長範囲で測定された値であることが好ましい。実施例において後述するように、上記の波長範囲であれば、フェノールレッドによる吸光の影響を受けることなく立体細胞組織の厚さを推測することができる。
【0025】
立体細胞組織は、管腔構造を含む組織であってもよい。例えば、立体細胞組織が、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(NHDF)及びヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)から構成される立体細胞組織であってもよい。この場合、立体細胞組織中でHUVECが管腔構造を形成する。
【0026】
立体細胞組織が、NHDF及びHUVECから構成される立体細胞組織である場合、立体細胞組織中のHUVECの細胞数は、NHDFの細胞数の1.5%以上であることが好ましい。
【0027】
本実施形態の方法において、立体細胞組織は、細胞を、カチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質を含む溶液に懸濁して混合物を得る工程(A)と、前記混合物を基材上に配置して、前記基材上に前記細胞を集め、前記基材上に細胞集合体を形成する工程(B)と、前記細胞集合体を培養して、立体細胞組織を得る工程(C)とを含む方法で作製されたものであってもよい。工程(C)において、細胞集合体を培養して約4時間後には、細胞が相互に接着し、立体細胞組織が形成されると考えられる。
【0028】
上記工程(A)~(C)を含む方法で作製した立体細胞組織の厚さを推測する場合、立体細胞組織の吸光度の測定は、立体細胞組織を作製後、例えば3日間以上、例えば5日間以上、好ましくは8日間以上培養した後に行う。
【0029】
本実施形態の方法で厚さを推測する立体細胞組織の厚さは、約100μm以下であることが好ましく、約80μm以下であることが好ましく、約60μm以下であることが好ましく、約40μm以下であることが好ましい。また、本実施形態の方法で厚さを推測する立体細胞組織の厚さは、約10μm以上であることが好ましく、約20μm以上であることが好ましい。上記上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0030】
(細胞)
上記工程(A)において、細胞は少なくとも間質細胞を含む。間質細胞とは、上皮細胞の支持組織を構成する細胞を意味する。間質細胞の由来としては特に限定はされず、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の哺乳動物に由来する細胞を使用することができる。本実施形態で用いられる間質細胞としては、線維芽細胞、免疫細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞等が挙げられる。免疫細胞としては、リンパ球、好中球、マクロファージ等が挙げられる。より具体的な間質細胞としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(NHDF)が挙げられる。
【0031】
工程(A)において、細胞をカチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質と混合し、この細胞混合物から細胞集合体を形成することにより、内部に大きな空隙が少ない立体細胞組織を得ることができる。また、得られた立体細胞組織は、比較的安定であるため、少なくとも数日間の培養が可能であり、かつ培地交換時にも組織が崩壊し難い。
【0032】
上記の立体細胞組織の製造方法は、上記工程(B)に代えて、(B’-1)得られた混合物から液体部分を除去し、細胞集合体を得る工程、及び(B’-2)細胞集合体を溶液に懸濁する工程、を含み、かつ工程(C)に代えて、(C’)得られた懸濁液を培養容器に収納した培地に播種する工程を含んでいてもよい。
【0033】
上記工程(A)~(C)を実施することで所望の立体細胞組織を得ることができるが、工程(B)として、(B’-1)及び(B’-2)を実施し、工程(C)に代えて工程(C’)を実施することで、より均質な立体細胞組織を得ることができる。
【0034】
立体細胞組織の製造方法における、細胞、カチオン性物質、細胞外マトリックス成分及び高分子電解質の混合は、ディッシュ、チューブ、フラスコ、ボトル、プレート等の適宜の容器中で行うことができる。また、上記工程(B’-2)における懸濁も、ディッシュ、チューブ、フラスコ、ボトル、プレート等の適宜の容器中で行うことができる。
【0035】
(カチオン性物質)
カチオン性物質としては、間質細胞の生育及び後述する細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の正電荷を有する物質を用いることができる。カチオン性物質には、トリス-塩酸、トリス-マレイン酸、ビス-トリス、HEPES等のカチオン性緩衝剤、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリリシン、ポリヒスチジン、ポリアルギニン等が挙げられるが、これらに限定されない。なかでもカチオン性緩衝剤が好ましく、トリス-塩酸がより好ましい。
【0036】
カチオン性物質としてカチオン性緩衝剤を用いる場合、カチオン性緩衝液のpHは、間質細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは6.0~8.0であることが好ましい。例えば、本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0であってよい。本実施形態で用いられるカチオン性緩衝液のpHは7.2~7.6であることがより好ましく、約7.4であることが更に好ましい。
【0037】
(細胞外マトリックス成分)
細胞外マトリックス成分としては、間質細胞の生育及び後述する細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、細胞外マトリックス(ECM)を構成する任意の成分を用いることができる。細胞外マトリックス成分としては、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリン、プロテオグリカン、これらの組み合わせ等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックス成分は、上述したものの改変体、バリアント等であってもよい。細胞外マトリックス成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
プロテオグリカンとしては、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカンが挙げられる。細胞外マトリックス成分としては、なかでも、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンが好ましく、コラーゲンが特に好ましい。
【0039】
上記工程(A)における混合物中の細胞外マトリックス成分の含有量の合計は、間質細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されず、0.005mg/mL以上1.5mg/mL以下であってもよく、0.005mg/mL以上1.0mg/mL以下であってもよく、0.01mg/mL以上1.0mg/mL以下であってもよく、0.025mg/mL以上1.0mg/mL以下であってもよく、0.025mg/mL以上0.1mg/mL以下であってもよい。細胞外マトリックス成分は、適切な溶媒に溶解して用いることができる。溶媒としては、水、緩衝液、酢酸等が挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、緩衝液又は酢酸が好ましい。
【0040】
(高分子電解質)
本明細書において、高分子電解質とは、高分子鎖中に解離可能な官能基を有する高分子を意味する。高分子電解質としては、間質細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の高分子電解質を用いることができる。高分子電解質としては、ヘパリン、コンドロイチン硫酸(例えば、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸)、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸等のグリコサミノグリカン;デキストラン硫酸、ラムナン硫酸、フコイダン、カラギナン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ポリアクリル酸、これらの組み合わせ等が挙げられるが、これらに限定されない。高分子電解質は、上述したものの誘導体であってもよい。これらの高分子電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
高分子電解質は、グリコサミノグリカンであることが好ましい。なかでも、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸が好ましく、ヘパリンが特に好ましい。
【0042】
上記工程(A)における混合物中の高分子電解質の濃度は、間質細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。細胞外マトリックス成分と異なり、高分子電解質は溶解の限界以下であれば、どのような濃度であっても効果があり、また、細胞外マトリックス成分による効果を阻害しない。高分子電解質の濃度は0.005mg/mL以上であることが好ましく、0.005mg/mL以上1.0mg/mL以下であってもよく、0.01mg/mL以上1.0mg/mL以下であってもよく、0.025mg/mL以上1.0mg/mL以下であってもよく、0.025mg/mL以上0.1mg/mL以下であってもよい。
【0043】
高分子電解質は、適切な溶媒に溶解して用いることができる。溶媒の例としては、水及び緩衝液が挙げられるが、これらに限定されない。上述のカチオン性物質としてカチオン性緩衝液が用いられる場合、高分子電解質をカチオン性緩衝液に溶解して用いてもよい。
【0044】
上記工程(A)における混合物中の高分子電解質と細胞外マトリックス成分との配合比(終濃度比)は1:2~2:1であることが好ましく、1:1.5~1.5:1であってもよく、1:1であってもよい。
【0045】
上記工程(A)において、細胞、カチオン性物質、細胞外マトリックス成分、高分子電解質の混合は、ディッシュ、チューブ、フラスコ、ボトル、ウェルプレート、セルカルチャーインサート等の適宜の容器中で行うことができる。これらの混合は、上記工程(B)で使用する容器中で行ってもよい。
【0046】
続いて、上記工程(B)において、上記混合物を基材上に配置して、前記基材上に前記細胞を集め、前記基材上に細胞集合体を形成する。この工程において、上記混合物から液体部分を除去して細胞集合体を得てもよい。
【0047】
本明細書において、細胞集合体とは、細胞の集団を意味する。細胞集合体には、遠心分離やろ過等によって得られる細胞の沈殿体も含まれる。ある実施形態では、細胞集合体はスラリー状の粘稠体である。「スラリー状の粘稠体」とは、Akihiro Nishiguchi et al., Cell-cell crosslinking by bio-molecular recognition of heparin-based layer-by-layer nanofilms, Macromol Biosci., 15 (3), 312-317, 2015. に記載されるようなゲル様の細胞集合体を指す。
【0048】
液体部分を除去する手段としては、当業者に公知の手法を用いることができる。例えば、遠心分離やろ過によって、液体部分を除去してもよい。遠心分離の条件は、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、混合物の入ったマイクロチューブを、室温、400~1,000×gで約2分間の遠心分離に供して液体部分と細胞集合体とを分離することによって、液体部分を除去してもよい。あるいは、自然沈降によって細胞を集めた後、液体部分を除去してもよい。この結果、細胞集合体を得ることができる。
【0049】
続いて、上記工程(C)において、上記の細胞集合体を培地中で培養し、立体的細胞組織を得る。培養の前に細胞集合体を溶液に懸濁してもよい。溶液は、細胞の生育及び立体的細胞組織の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、細胞集合体を構成する細胞に適した細胞培養培地、緩衝液等を用いることができる。細胞集合体の懸濁は、ディッシュ、チューブ、フラスコ、ボトル、プレート等の適宜の容器中で行うことができる。
【0050】
細胞集合体を溶液に懸濁した場合、培養の前に細胞を沈殿させて基材上に細胞の沈殿体を形成してもよい。基材としては、細胞の培養に用いるための培養容器が挙げられる。培養容器は、細胞や微生物の培養に通常用いられている素材、形状を有する容器であってよい。培養容器の素材としては、ガラス、ステンレス、プラスチック等が挙げられるが、これらに限定されない。培養容器としては、ディッシュ、チューブ、フラスコ、ボトル、プレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。基材は、例えば、液体中の細胞を通過させず、液体を通すことが可能な材料である。基材は透過膜であることが好ましい。かかる透過膜を有する容器としては、Transwell(登録商標)インサート、Netwellインサート、Falcon(登録商標)セルカルチャーインサート、Millicell(登録商標)セルカルチャーインサート等のセルカルチャーインサートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
細胞の沈殿は、例えば、遠心分離により行うことができる。遠心分離の条件は、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、細胞集合体の懸濁液を、室温、400~1,000×gで約2分間の遠心分離に供して沈殿させてもよい。あるいは、自然沈降によって細胞を沈殿させてもよい。
【0052】
細胞の沈殿は、当業者に公知の手法を用いることができる。例えば、遠心分離、磁性分離、ろ過等によって、細胞を集めてもよい。遠心分離の条件は、細胞の生育に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、混合物又は懸濁液をセルカルチャーインサートに播種し、室温、400×gで2分間の遠心分離に供することで、細胞を集めてもよい。あるいは、自然沈降によって細胞を集めてもよい。また、集めた細胞は層構造を形成していてもよい。
【0053】
細胞集合体、又は、細胞集合体を懸濁した場合には懸濁された細胞は、1,000個/mm2以上、例えば10,000個/mm2以上、例えば20,000個/mm2以上、例えば25,000個/mm2以上の細胞密度で播種することが好ましい。また、細胞は、例えば1,000,000個/mm2以下、例えば500,000個/mm2以下、例えば200,000個/mm2以下、例えば100,000個/mm2以下の細胞密度で播種することができる。細胞集合体を溶液に懸濁する工程、及び、細胞を沈殿させる工程を実施することにより、より均質な立体的細胞組織を得ることができる。
【0054】
上記工程(C)において、細胞の培養は、培養される細胞に適した培養条件下で行うことができる。当業者は、細胞の種類や所望の機能に応じて適切な培地を選択することができる。細胞培養培地としては特に限定されないが、DMEM、E-MEM、MEMα、RPMI-1640、Mccoy’5a、Ham’s F-12等の基本培地や、これらの基本培地にCS(ウシ血清)、FBS(ウシ胎児血清)、HBS(ウマ胎児血清)等の血清を1~20容量%程度になるように添加した培地が挙げられる。培養環境の温度や大気組成等の諸条件もまた、当業者であれば容易に決定することができる。
【0055】
細胞の培養時に、構築された立体的細胞組織の変形(例えば、組織の収縮、組織末端の剥離等)を抑制するための物質を培地に添加してもよい。このような物質としては、選択的ROCK(Rho-associated coiled-coil forming kinase/Rho結合キナーゼ)阻害剤であるY-27632が挙げられるが、これに限定されない。
【実施例0056】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[材料]
下記表1に示す細胞及び下記表2に示す試薬を使用した。
【0058】
【0059】
【0060】
[実験例1]
(吸光度による立体細胞組織の厚さの推測1)
吸光度により立体細胞組織の厚さを推測できるか否かを検討した。まず、96ウェルプレートインサートをフィブロネクチンコーティングした。具体的には、96ウェルプレートインサート内に、1ウェルあたり50μLの0.1mg/mLフィブロネクチン-50mM Tris-HClを添加し、37℃のCO2インキュベーター中で静置した。
【0061】
続いて、ヘパリン/コラーゲン溶液(hep/col液、ヘパコラ液)を調製した。具体的には、3mg/mLヘパリン/50mM Tris-HClを50mM Tris-HClで30倍希釈した。また、Collagen TypeI bovine Skin Acid solution(3mg/mL)を5mM酢酸で30倍希釈した。続いて、これらの2種の溶液を1:1の体積比で混合し、hep/col液を得た。
【0062】
続いて、予め培養していたNHDF及びHUVECをそれぞれ回収し、細胞数を計測し、各細胞を必要数ずつ混合して細胞混合液を調製した。続いて、細胞混合液を遠心分離して上清を除去し、必要量のhep/col液に細胞を分散させた。続いて、遠心分離し、上清を除去した。続いて、様々な厚さの立体細胞組織となるよう、10%FBS含有D-MEMを入れ細胞を分散させ、細胞懸濁液を調製した。
【0063】
続いて、フィブロネクチンコーディングした96ウェルインサートを取り出し、インサート内の液体を除去し、適量の培地を入れたレシーバープレートにセットした。続いて、96ウェルインサート内に細胞懸濁液を播種し、遠心分離した後、37℃、5%CO2のインキュベーター中で培養した。培養開始から1、2、5日目に培地交換を行い、8日間培養した。
【0064】
続いて、96ウェルインサート及びレシーバープレートを、PBS(-)で3回洗浄した。続いて、96ウェルインサート内に10%中性緩衝ホルマリン液を添加し、室温で15分間静置し立体細胞組織を固定した。続いて、96ウェルインサートをPBS(-)で3回洗浄した。
【0065】
続いて、96ウェルインサートにPBS(-)を入れ、吸光マイクロプレートリーダー(製品名「Multiskan GO」、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて620nmの吸光度を測定した。
【0066】
続いて、吸光度を測定後の立体細胞組織を、切片作製業者に送付し、組織切片をヘマトキシリン・エオシン染色した標本を作製した。続いて、作製された標本を光学顕微鏡で観察し、顕微鏡画像を取得し、顕微鏡画像から切片の厚さを測定した。
【0067】
下記表3に、各立体細胞組織の吸光度及び顕微鏡画像に基づいて測定した切片の厚さを示す。また、
図1は、立体細胞組織の切片の厚さと吸光度の関係を示すグラフである。その結果、立体細胞組織の厚さと吸光度の決定係数はR
2=0.76であり、強い相関関係があることが明らかとなった。したがって、立体細胞組織の吸光度を測定することにより、立体細胞組織の厚さを推測できることが明らかとなった。立体細胞組織の吸光度と厚さとの関係式を下記式(1)に示す。なお、下記式(1)に基づいて算出した立体細胞組織の厚さは、実測値と±12.7μmの範囲でばらつく場合がある。
立体細胞組織の厚さ(μm)=吸光度×52.2+5.4…(1)
【0068】
【0069】
[実験例2]
(吸光度による立体細胞組織の厚さの推測2)
吸光度により立体細胞組織の厚さを推測できるか否かを検討した。まず、96ウェルプレートインサートをフィブロネクチンコーティングした。具体的には、96ウェルプレートインサート内に、1ウェルあたり50μLの0.1mg/mLフィブロネクチン-50mM Tris-HClを添加し、37℃のCO2インキュベーター中で静置した。
【0070】
続いて、hep/col液を調製した。具体的には、3mg/mLヘパリン/50mM Tris-HClを50mM Tris-HClで30倍希釈した。また、Collagen TypeI bovine Skin Acid solution(3mg/mL)を5mM酢酸で30倍希釈した。続いて、これらの2種の溶液を1:1の体積比で混合し、hep/col液を得た。
【0071】
続いて、予め培養していたNHDF及びHUVECをそれぞれ回収し、細胞数を計測し、各細胞を下記表4に示す細胞数ずつ混合して細胞混合液を調製した。下記表4中、「理論層数」は、以下の方法で算出することができる。培養容器(96ウェルプレートインサート)の底面積を、使用する細胞1個あたりの平均面積で割った値を一層あたりの細胞数とする。続いて、播種する細胞の数を一層あたりの細胞数で割ることで理論層数が得られる。
【0072】
【0073】
続いて、細胞混合液を遠心分離して上清を除去し、必要量のhep/col液に細胞を分散させた。続いて、遠心分離し、上清を除去した。続いて、10%FBS含有D-MEMを入れ細胞を分散させ、細胞懸濁液を調製した。
【0074】
続いて、フィブロネクチンコーディングした96ウェルインサートを取り出し、インサート内の液体を除去し、適量の培地を入れたレシーバープレートにセットした。続いて、96ウェルインサート内に細胞懸濁液を播種し、遠心分離した後、37℃、5%CO2のインキュベーター中で培養した。培養開始から1、2、5日目に培地交換を行い、8日間培養した。培地には、10%FBS含有D-MEM(フェノールレッド含有)を使用した。
【0075】
続いて、吸光マイクロプレートリーダー(製品名「Multiskan GO」、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて620nmの吸光度を測定した。
【0076】
続いて、培地を、フェノールレッドを含まないFluoroBrite DMEM培地に置換後、吸光マイクロプレートリーダー(製品名「Multiskan GO」、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて620nmの吸光度を測定した。
【0077】
続いて、96ウェルインサート及びレシーバープレートを、PBS(-)で3回洗浄した。続いて、96ウェルインサート内に10%中性緩衝ホルマリン液を添加し、室温で15分間静置し立体細胞組織を固定した。続いて、96ウェルインサートをPBS(-)で3回洗浄した。
【0078】
続いて、96ウェルインサートにPBS(-)を入れ、吸光マイクロプレートリーダー(製品名「Multiskan GO」、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて620nmの吸光度を測定した。
【0079】
続いて、吸光度を測定後の立体細胞組織を切片作製業者に送付し、組織切片をヘマトキシリン・エオシン染色した標本を作製した。続いて、作製された標本を光学顕微鏡で観察し、顕微鏡画像を取得し、顕微鏡画像から切片の厚さを測定した。
【0080】
図2(a)は、立体細胞組織の切片の厚さと、フェノールレッド含有培地中で測定した620nmにおける吸光度の関係を示すグラフである。
図2(b)は、立体細胞組織の切片の厚さと、フェノールレッド不含培地中で測定した620nmにおける吸光度の関係を示すグラフである。
図2(c)は、立体細胞組織の切片の厚さと、立体細胞組織を固定した後に、PBS(-)中で測定した620nmにおける吸光度の関係を示すグラフである。
【0081】
その結果、いずれの条件で測定した吸光度の値も、立体細胞組織の切片の厚さと高い相関を示した。この結果は、立体細胞組織が固定されているか固定されていないかに関わらず、吸光度を測定することにより、立体細胞組織の厚さを推測できることを更に支持するものである。
【0082】
また、620nmの吸光度は、立体細胞組織が浸漬されている液体がフェノールレッドを含むか否かによらず、立体細胞組織の厚さの推測に用いることができることが確認された。立体細胞組織の吸光度と厚さとの関係式を下記式(1)に示す。なお、下記式(1)に基づいて算出した立体細胞組織の厚さは、実測値と±12.7μmの範囲でばらつく場合がある。
立体細胞組織の厚さ(μm)=吸光度×52.2+5.4…(1)
【0083】
[実験例3]
(立体細胞組織の吸光度スペクトルの測定)
立体細胞組織の吸光度スペクトルを測定した。まず、実験例2と同様にして、96ウェルプレートインサート内に、理論層数が5層、10層及び20層である立体細胞組織を作製した。
【0084】
続いて、作製した各立体細胞組織について、吸光マイクロプレートリーダー(製品名「Multiskan GO」、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて350nm以上800nm以下の波長範囲における吸光度スペクトルを測定した。まず、各立体細胞組織を培地に浸漬した状態で測定を行った。培地には、10%FBS含有D-MEM(フェノールレッド含有)を使用した。
【0085】
続いて、96ウェルインサート及びレシーバープレートを、PBS(-)で3回洗浄した。続いて、各立体細胞組織をPBS(-)に浸漬した状態で、吸光マイクロプレートリーダー(製品名「Multiskan GO」、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて350nm以上800nm以下の波長範囲における吸光度スペクトルを測定した。
【0086】
図3(a)は、各立体細胞組織をPBS(-)に浸漬した状態で吸光度ペクトルを測定した結果を示すグラフである。
図3(b)は、各立体細胞組織をフェノールレッド含有培地に浸漬した状態で吸光度ペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【0087】
その結果、PBS(-)に浸漬した立体細胞組織では、350nm以上800nm以下の波長範囲において、理論層数が多い方が吸光度が高くなる結果が得られた。また、フェノールレッド含有培地に浸漬した立体細胞組織では、520nm以上580nm以下のフェノールレッドの吸光ピークに重なる波長範囲を除いて、理論層数が多い方が吸光度が高くなる結果が得られた。
【0088】
この結果から、色素を含む培地中で立体細胞組織の吸光度を測定する場合には、色素由来の吸光がない波長範囲で吸光度測定をすることが好ましいと考えられる。また、350nm以上800nm以下の波長範囲において、色素の吸光ピークと重ならない領域の波長、例えば600nm以上800nm以下の波長範囲であれば、立体細胞組織の厚さの推測に用いることができることが明らかとなった。