(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179949
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】鉛蓄電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/171 20210101AFI20231213BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20231213BHJP
H01M 50/193 20210101ALI20231213BHJP
H01M 50/198 20210101ALI20231213BHJP
H01M 50/15 20210101ALI20231213BHJP
【FI】
H01M50/171
H01M50/184 B
H01M50/193
H01M50/198
H01M50/15 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092919
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】322013937
【氏名又は名称】エナジーウィズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 賢二
【テーマコード(参考)】
5H011
【Fターム(参考)】
5H011AA09
5H011DD14
5H011KK04
(57)【要約】
【課題】電槽と蓋部材との間に封止材を複数回供給する鉛蓄電池の製造方法であって、封止材が電槽の内部に入り込むことを抑制することが可能な鉛蓄電池の製造方法を提供する。
【解決手段】電槽と、当該電槽の開口を封口する蓋部材と、前記電槽と前記蓋部材との間に配置された封止部と、を備える鉛蓄電池の製造方法であって、前記電槽と前記蓋部材との間に溶融状態の第1の封止材を供給する第1の工程と、前記第1の封止材上に溶融状態の第2の封止材を供給する第2の工程と、を備え、前記第1の工程における供給時の前記第1の封止材の温度が前記第2の工程における供給時の前記第2の封止材の温度よりも低い、鉛蓄電池の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電槽と、当該電槽の開口を封口する蓋部材と、前記電槽と前記蓋部材との間に配置された封止部と、を備える鉛蓄電池の製造方法であって、
前記電槽と前記蓋部材との間に溶融状態の第1の封止材を供給する第1の工程と、
前記第1の封止材上に溶融状態の第2の封止材を供給する第2の工程と、を備え、
前記第1の工程における供給時の前記第1の封止材の温度が前記第2の工程における供給時の前記第2の封止材の温度よりも低い、鉛蓄電池の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程における供給時の前記第1の封止材の温度が180~200℃である、請求項1に記載の鉛蓄電池の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程における供給時の前記第2の封止材の温度が200℃超225℃以下である、請求項2に記載の鉛蓄電池の製造方法。
【請求項4】
前記第1の封止材及び前記第2の封止材の溶融温度が160~180℃である、請求項1~3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉛蓄電池の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、従来から使用されている二次電池の一つであり、信頼性、価格の安さ等から産業用又は民生用の二次電池として広く用いられている。例えば、鉛蓄電池は、自動車用鉛蓄電池、電動車用鉛蓄電池、電源装置用鉛蓄電池等として用いることができる。鉛蓄電池は、電槽と、当該電槽の開口を封口する蓋部材と、を備える(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉛蓄電池(例えば、ベント式(液式)鉛蓄電池)では、電槽と蓋部材との間に封止材を供給することにより電槽と蓋部材とを接着している。電槽と蓋部材との間に封止材を供給する際に封止材の全てを一括して供給すると、乾燥に伴う封止材の収縮等によって封止材の表面が凹む場合がある。このような状態で、鉛蓄電池の作製に際して水洗(例えば、電解液の注入時に鉛蓄電池の外側に付着した電解液を洗い流すための水洗)等の処理を施すと、凹部に水が残存し、封止部の変色、電槽と蓋部材との接着不良等の不具合が生じ得る。これに対し、本発明者は、電槽と蓋部材との間に封止材を複数回供給することが上述の不具合を軽減することに有効であることに着目した。
【0005】
また、本発明者の知見によれば、蓋部材によって電槽の開口を封口した状態において、電槽の内部に連通する隙間が電槽と蓋部材との間に存在する場合があり、このような場合に封止材を供給すると、当該隙間を経由して封止材が電槽の内部に入り込むことがある。封止材が電槽の内部に入り込むと、封止材と電解液とが反応すること等により、電池寿命、電槽の耐久性等が劣化する場合がある。そのため、封止材が電槽の内部に入り込むことを抑制しつつ鉛蓄電池を得ることが求められる。
【0006】
本開示の一側面は、電槽と蓋部材との間に封止材を複数回供給する鉛蓄電池の製造方法であって、封止材が電槽の内部に入り込むことを抑制することが可能な鉛蓄電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、いくつかの側面において、下記の[1]~[4]等に関する。
[1]電槽と、当該電槽の開口を封口する蓋部材と、前記電槽と前記蓋部材との間に配置された封止部と、を備える鉛蓄電池の製造方法であって、前記電槽と前記蓋部材との間に溶融状態の第1の封止材を供給する第1の工程と、前記第1の封止材上に溶融状態の第2の封止材を供給する第2の工程と、を備え、前記第1の工程における供給時の前記第1の封止材の温度が前記第2の工程における供給時の前記第2の封止材の温度よりも低い、鉛蓄電池の製造方法。
[2]前記第1の工程における供給時の前記第1の封止材の温度が180~200℃である、[1]に記載の鉛蓄電池の製造方法。
[3]前記第2の工程における供給時の前記第2の封止材の温度が200℃超225℃以下である、[1]又は[2]に記載の鉛蓄電池の製造方法。
[4]前記第1の封止材及び前記第2の封止材の溶融温度が160~180℃である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の鉛蓄電池の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一側面によれば、電槽と蓋部材との間に封止材を複数回供給する鉛蓄電池の製造方法であって、封止材が電槽の内部に入り込むことを抑制することが可能な鉛蓄電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、鉛蓄電池の一例の一部分を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例で用いられた封止材のDSCスペクトルを示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について説明するが、本開示はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0011】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0012】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、電槽と、当該電槽の開口を封口する蓋部材と、電槽と蓋部材との間に配置された封止部と、を備える鉛蓄電池の製造方法である。本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、電槽と蓋部材との間に溶融状態の第1の封止材を供給する第1の工程と、第1の工程の後に、第1の封止材上に溶融状態の第2の封止材を供給する第2の工程と、を備える。本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法では、第1の工程における供給時の第1の封止材の温度(以下、「第1の温度」という)が第2の工程における供給時の第2の封止材の温度(以下、「第2の温度」という)よりも低い。
【0013】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法によれば、封止材が電槽の内部に入り込むことを抑制することができる。本発明者の知見によれば、電槽の内部に連通する隙間が電槽と蓋部材との間に存在する場合において、粘度の低い封止材が供給されると、封止材が隙間を経由して電槽の内部に入り込みやすい。一方、本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法では、第1の温度が第2の温度よりも低いことから、第1の工程における第1の封止材の粘度が第2の工程における第2の封止材よりも高く保持されやすいことから、電槽の内部に連通する隙間が電槽と蓋部材との間に存在する場合であっても、封止材が隙間を経由して電槽の内部に入り込むことを抑制できる。但し、封止材が電槽の内部に入り込むことが抑制される要因は当該内容に限定されない。
【0014】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、電槽と蓋部材との間に封止材を複数回供給して鉛蓄電池を得る鉛蓄電池の製造方法である。本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法の一態様によれば、電槽と蓋部材との間に封止材を複数回供給することにより、封止材の表面が凹むことを軽減できる。
【0015】
第1の温度は、第1の工程において第1の封止材を供給する際の第1の封止材の温度である。第1の温度は、第1の封止材の溶融温度以上であり、第1の封止材の溶融温度より高くてよい。第2の温度は、第2の工程において第2の封止材を供給する際の第2の封止材の温度である。第2の温度は、第2の封止材の溶融温度以上であり、第2の封止材の溶融温度より高くてよい。本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法において、第1の工程における第1の封止材の粘度は、第2の工程における第2の封止材の粘度よりも高く調整できる。
【0016】
第1の温度は、封止材の粘度が高く保持されやすいことから、封止材が電槽の内部に入り込むことを抑制しやすい観点から、240℃以下、235℃以下、230℃以下、225℃以下、220℃以下、215℃以下、210℃以下、205℃以下、200℃以下、200℃未満、195℃以下、190℃以下、185℃以下、又は、180℃以下であってよい。第1の温度は、封止材が電槽の内部に入り込むことを抑制しつつ、封止材の粘度が適度に低減されて封止の作業性が向上しやすい観点から、160℃以上、165℃以上、170℃以上、175℃以上、180℃以上、185℃以上、190℃以上、195℃以上、又は、200℃以上であってよい。これらの観点から、第1の温度は、160~240℃、180~200℃、又は、180℃以上200℃未満であってよい。
【0017】
第2の温度は、封止材の表面が凹むことを軽減しやすい観点から、250℃以下、245℃以下、240℃以下、235℃以下、230℃以下、225℃以下、225℃未満、220℃以下、215℃以下、210℃以下、又は、205℃以下であってよい。第2の温度は、封止材の粘度が低減されて封止の作業性が向上しやすい観点から、170℃以上、175℃以上、180℃以上、185℃以上、190℃以上、195℃以上、200℃以上、200℃超、205℃以上、210℃以上、215℃以上、220℃以上、又は、225℃以上であってよい。これらの観点から、第2の温度は、170~250℃、200~225℃、200℃超225℃以下、又は、200℃以上225℃未満であってよい。
【0018】
第1の温度と第2の温度との差は、封止材が電槽の内部に入り込むことを抑制しやすい観点から、1℃以上、5℃以上、10℃以上、15℃以上、又は、20℃以上であってよい。第1の温度と第2の温度との差は、封止材の表面が凹むことを軽減しやすい観点から、90℃以下、80℃以下、70℃以下、60℃以下、50℃以下、45℃以下、40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下、又は、20℃以下であってよい。これらの観点から、第1の温度と第2の温度との差は、1~90℃であってよい。
【0019】
第1の温度に対する第2の温度の比率は、封止材が電槽の内部に入り込むことを抑制しやすい観点から、1.01以上、1.03以上、1.05以上、1.07以上、又は、1.10以上であってよい。第1の温度に対する第2の温度の比率は、封止材の表面が凹むことを軽減しやすい観点から、1.55以下、1.50以下、1.40以下、1.30以下、1.20以下、1.17以下、1.15以下、1.13以下、又は、1.11以下であってよい。これらの観点から、第1の温度に対する第2の温度の比率は、1.01~1.55であってよい。
【0020】
第1の封止材及び第2の封止材からなる群より選ばれる少なくとも一種の溶融温度(Melting temperature)は、下記の範囲であってよい。溶融温度は、130℃以上、135℃以上、140℃以上、145℃以上、150℃以上、155℃以上、160℃以上、165℃以上、170℃以上、又は、175℃以上であってよい。溶融温度は、250℃以下、240℃以下、230℃以下、220℃以下、210℃以下、200℃以下、195℃以下、190℃以下、185℃以下、180℃以下、175℃以下、又は、170℃以下であってよい。これらの観点から、溶融温度は、130~250℃、又は、160~180℃であってよい。第1の封止材及び第2の封止材の溶融温度が上述の各範囲であってよく、例えば、第1の封止材及び第2の封止材の溶融温度が160~180℃であってよい。溶融温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定できる。
【0021】
封止材が複数の成分(例えば複数の樹脂材料)を含有する場合、封止材は複数の溶融温度を有し得る。封止材は複数の溶融温度を有する場合、上述の第1の封止材の溶融温度及び第2の封止材の溶融温度としては、少なくとも一つの溶融温度を用いることができる。
【0022】
第1の封止材及び第2の封止材からなる群より選ばれる少なくとも一種のガラス転移温度は、下記の範囲であってよい。ガラス転移温度は、-50℃以上、-40℃以上、-30℃以上、-20℃以上、-10℃以上、0℃以上、10℃以上、20℃以上、又は、30℃以上であってよい。ガラス転移温度は、60℃以下、50℃以下、40℃以下、30℃以下、20℃以下、10℃以下、0℃以下、-10℃以下、又は、-20℃以下であってよい。これらの観点から、ガラス転移温度は、-50~60℃であってよい。第1の封止材及び第2の封止材のガラス転移温度が上述の各範囲であってよい。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定できる。
【0023】
封止材が複数の成分(例えば複数の樹脂材料)を含有する場合、封止材は複数のガラス転移温度を有し得る。封止材は複数のガラス転移温度を有する場合、上述の第1の封止材の溶融温度及び第2の封止材のガラス転移温度としては、少なくとも一つのガラス転移温度を用いることができる。
【0024】
第1の封止材及び第2の封止材は、互いに同一の封止材であってよく、互いに異なる封止材であってもよい。第1の封止材及び第2の封止材からなる群より選ばれる少なくとも一種としては、株式会社GSユアサケミカル製の商品名「Hコンパウンド」等を用いることができる。第1の封止材及び第2の封止材は、溶融状態で供給された後、温度の低下に伴い固化し得る(固化物が形成され得る)。第2の封止材は、第1の封止材が固化した後に供給されてよく、第1の封止材が固化する前に供給されてもよい。第1の封止材及び第2の封止材は、電槽及び蓋部材に当接してよい。
【0025】
第1の封止材及び第2の封止材の構成材料は、特に限定されない。第1の封止材及び第2の封止材の構成材料(含有成分)としては、樹脂材料(エポキシ樹脂等)、鉱油、石油ピッチ、アスファルトなどが挙げられる。
【0026】
第1の工程における第1の封止材の供給量、及び、第2の工程における第2の封止材の供給量の大小関係は、特に限定されない。第1の封止材の供給量は、第2の封止材の供給量と同等量であってよく、第2の封止材の供給量より多くてもよく、第2の封止材の供給量より少なくてもよい。
【0027】
電槽及び蓋部材の構成材料は、特に限定されない。電槽及び蓋部材の構成材料(含有成分)としては、AS樹脂、ABS樹脂、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)などが挙げられる。
【0028】
電槽及び蓋部材の形状は、特に限定されない。蓋部材は、電解液を電槽内に注液するための注液口を有してよい。電槽は、後述する電極群、電解液等を収容する内部空間を有している。電槽は開口を有しており、当該開口は蓋部材によって封口されている。開口の位置は、特に限定されず、例えば、電槽の上面に開口が位置してよい。開口の開口方向は、鉛直方向であってよく、鉛直方向に交差する方向(鉛直方向から傾斜した方向)であってもよい。
【0029】
第1の封止材及び第2の封止材は、電槽の内側及び外側のいずれに供給されてもよい。すなわち、蓋部材が電槽の内側に配置された状態で第1の封止材及び第2の封止材が電槽と蓋部材との間に供給されてよく、蓋部材が電槽の外側に配置された状態で第1の封止材及び第2の封止材が電槽と蓋部材との間に供給されてよい。電槽の鉛直方向上方に蓋部材が配置された状態で、鉛直方向における電槽と蓋部材との間に第1の封止材及び第2の封止材が供給されてもよい。
【0030】
蓋部材が電槽の内側に配置された状態で第1の封止材及び第2の封止材が電槽と蓋部材との間に供給される場合、第1の封止材及び第2の封止材は、水平方向において蓋部材の周囲の一部又は全体に供給されてよい。蓋部材が電槽の外側に配置された状態で第1の封止材及び第2の封止材が電槽と蓋部材との間に供給される場合、第1の封止材及び第2の封止材は、水平方向において電槽の周囲の一部又は全体に供給されてよい。
【0031】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、第1の工程の後に第2の工程を備えていればよく、封止材を供給する工程として、第1の工程及び第2の工程を含む3以上の工程を備えてよい。本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、第2の工程を複数備えてよい。本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、第2の工程に該当しない他の工程を第1の工程と第2の工程との間に備えてよく、第2の工程に該当しない他の工程を第2の工程の後に備えてよい。
【0032】
本実施形態に係る鉛蓄電池は、本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法により得られる鉛蓄電池である。本実施形態に係る鉛蓄電池は、電解液及び電極群を備えてよく、電解液及び電極群は、電槽に収容されてよい。電解液は、硫酸を含んでよい。
【0033】
電極群は、複数の電極の集合体であり、複数の電極(例えば電極板)と、セパレータと、を有してよい。電極は、蓋部材に配置された端子に電気的に接続されてよい。電極群は、電極として、正極(例えば正極板)と、負極(例えば負極板)と、を有してよい。電極の少なくとも一部は、電解液に浸漬されてよい。
【0034】
電極(正極又は負極)は、電極活物質(正極活物質又は負極活物質)と、電極活物質を支持する集電体と、を有する態様であってよい。また、電極(正極又は負極)は、筒状体(樹脂チューブ、ガラスチューブ等)と、芯金(集電体)と、電極活物質(正極活物質又は負極活物質)と、を有する態様であってよい。芯金及び電極活物質は、筒状体内に収容できる。
【0035】
正極活物質及び負極活物質は、鉛成分(鉛を含む成分)を含んでよい。未化成の正極活物質は、主成分として三塩基性硫酸鉛を含んでよい。正極活物質の原料としては、鉛粉、鉛丹(Pb3O4)等が挙げられる。未化成の負極活物質は、主成分として三塩基性硫酸鉛を含んでよい。負極活物質の原料としては、鉛粉等が挙げられる。
【0036】
集電体の構成材料としては、鉛-カルシウム-錫系合金、鉛-アンチモン-ヒ素系合金等の鉛合金などが挙げられる。
【0037】
セパレータは、正極及び負極間の短絡を防止するための部材である。セパレータとしては、正極及び負極の間を電気的には絶縁する一方でイオンを透過させ、且つ、正極側における酸化性及び負極側における還元性に対する耐性を備える部材を用いることができる。セパレータは、袋形状を有した状態で電極(例えば負極)の主要部を覆ってもよい。セパレータの材料としては、ガラス繊維、樹脂、無機物等が挙げられる。
【0038】
図1は、鉛蓄電池の一例の一部分を示す断面図である。
図1に示される鉛蓄電池10は、電槽12と、蓋部材14と、封止部16と、電極群(図示せず)と、電解液(図示せず)と、を備える。電槽12は、電極群、電解液等を収容する内部空間を有している。電槽12の上面に開口が位置しており、蓋部材14が当該開口を封口している。蓋部材14は、電槽12の内側に配置されており、電槽12の内側に第1の封止材及び第2の封止材が供給されている。第1の封止材及び第2の封止材は、水平方向において蓋部材14の周囲の全体に供給されており、第1の封止材及び第2の封止材によって形成される封止部16は、蓋部材14の周囲の全体に配置されている。
【0039】
電槽12及び蓋部材14の間における第1の封止材及び第2の封止材の供給箇所の下方では、電槽12と蓋部材14とが接触する接触部18が形成されているものの、電槽12の内部に連通する隙間が接触部18に形成され得る。このような隙間が形成されると、封止部16を形成するための溶融状態の封止材が当該隙間を経由して電槽12の内部に入り込むことがある。一方、本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法では、第1の温度が第2の温度よりも低いことから、隙間が電槽12と蓋部材14との間に存在する場合であっても、封止材が隙間を経由して電槽12の内部に入り込むことを抑制できる。
【実施例0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて本開示をより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
<評価用電池の作製>
図1に示される構造の電槽及び蓋部材を備える鉛蓄電池を準備した。電槽の構成材料はAS樹脂であり、蓋部材の構成材料はABS樹脂であった。鉛直方向に開口する開口が電槽の上面に位置しており、当該開口は蓋部材によって封口されていた。蓋部材は、電槽の内側に配置されており、水平方向において蓋部材の周囲の全体に凹部(電槽と蓋部材との間の凹部)が形成されていた。電槽は略直方体形状であり、電槽の4つの側壁に沿って電槽の上部における電槽と蓋部との間に凹部が形成されて一連の凹部が形成されていた。電槽の開口の寸法は17cm×19.5cmであり、蓋部材の寸法は16cm×18.5cmであった。凹部の深さは2cmであった。電槽の内部空間には、電極群を配置した。
【0042】
上述の凹部に封止材(コンパウンド)を2段階で充填した。具体的には、表1に示す第1の溶融温度に熱した杓において封止材Aを溶融させた。そして、第1の溶融温度を保ったまま上述の凹部に溶融状態の封止材Aを流し入れた後、空冷することにより、封止材Aの表面が乾くまで乾燥させて封止材Aの固化物を得た。続いて、表1に示す第2の溶融温度に熱した杓において封止材B(封止材Aと同種の封止材)を溶融させた。そして、第2の溶融温度を保ったまま、上述の凹部における封止材Aの固化物上に溶融状態の封止材Bを流し入れた後、空冷することにより、封止材Bの表面が乾くまで乾燥させることにより評価用電池を得た。
【0043】
上述の封止材(封止材A及び封止材B)としては、
図2に示すように溶融温度(Tm)が167℃及び177℃であると共にガラス転移温度(Tg)が-22.2℃及び39.3℃である封止材を用いた。溶融温度及びガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により、測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、商品名「Q200」)を用いて、-70℃から250℃まで昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0044】
蓋部材に設けられた注液口を介して上述の評価用電池の電槽内に希硫酸(電解液)を入れた後、評価用電池を充電した。充電後、評価用電池の外側を水洗した。
【0045】
<評価>
上述の水洗後の評価用電池に関して、下記の手順で、封止材の漏れ(電槽内への混入)、封止の作業性、及び、封止材表面の凹み(封止材の仕上がり状態)を評価した。結果を表1に示す。
【0046】
(漏れ)
上述の水洗後の評価用電池を解体し、電解液中における封止材の混入量を評価した。封止材の混入がない場合を「A」と評価し、混入量が微量である場合を「B」を評価し、混入量が多量である場合を「C」と評価した。
【0047】
(作業性)
第1の溶融温度が高いほど、封止材の粘度が低く、封止の作業性に優れると判断した。第1の溶融温度が190℃以上の場合を「A」と評価し、第1の溶融温度が180℃以上190℃未満の場合を「B」と評価し、第1の溶融温度が180℃未満の場合を「C」と評価した。
【0048】
(凹み)
上述の水洗後の評価用電池における封止材の表面を観察した。封止材の変色がない場合を「A」と評価し、封止材の変色が少ない場合を「B」と評価し、封止材の変色が多い場合を「C」と評価した。
【0049】