IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カシオ計算機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電子機器、方法及びプログラム 図1
  • 特開-電子機器、方法及びプログラム 図2A
  • 特開-電子機器、方法及びプログラム 図2B
  • 特開-電子機器、方法及びプログラム 図3A
  • 特開-電子機器、方法及びプログラム 図3B
  • 特開-電子機器、方法及びプログラム 図4
  • 特開-電子機器、方法及びプログラム 図5
  • 特開-電子機器、方法及びプログラム 図6
  • 特開-電子機器、方法及びプログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179952
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】電子機器、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20231213BHJP
   G10H 1/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
H04R3/00 310
G10H1/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092931
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 健太
(72)【発明者】
【氏名】奥▲崎▼ 謙司
(72)【発明者】
【氏名】市川 聡
【テーマコード(参考)】
5D220
5D478
【Fターム(参考)】
5D220AA24
5D220AB08
5D478DC00
(57)【要約】
【課題】レベルの高い出力信号がクリップされて音が歪むのを避けつつスピーカ等の回路部を保護すること。
【解決手段】電子機器は、入力信号を増幅する増幅部と、増幅部に供給される電力を示す値を取得する取得部と、増幅部より出力される出力信号の波形を整形する波形整形部と、少なくとも1つのプロセッサと、を備える。少なくとも1つのプロセッサは、取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、上記値が第2の閾値を下回った状態から、第2の閾値より大きい第1の閾値を上回る状態になったことを検出した際に、出力信号に対するクリップ値が小さくなるように、第1のパターンで波形整形部を制御し、取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、上記値が第1の閾値を上回った状態から第2の閾値を下回る状態になったことを検出した際に、出力信号に対するクリップ値が大きくなるように、第2のパターンで波形整形部を制御する。
【選択図】図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を増幅する増幅部と、
前記増幅部に供給される電力を示す値を取得する取得部と、
前記増幅部より出力される出力信号の波形を整形する波形整形部と、
少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が第2の閾値を下回った状態から、前記第2の閾値より大きい第1の閾値を上回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が小さくなるように、第1のパターンで前記波形整形部を制御し、
前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が前記第1の閾値を上回った状態から前記第2の閾値を下回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が大きくなるように、第2のパターンで前記波形整形部を制御する、
電子機器。
【請求項2】
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記出力信号に含まれる特徴信号の少なくとも1つが前記波形整形部によって整形されないように前記第1のパターンを設定する、
請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記第1のパターンは、前記出力信号に対するクリップ値が時間の経過に伴って小さくなるパターンであり、
前記第2のパターンは、前記出力信号に対するクリップ値が時間の経過に伴って大きくなるパターンである、
請求項1に記載の電子機器。
【請求項4】
前記波形整形部は、前記出力信号をクリップするクリップ回路であり、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記第1の閾値を上回る値が前記取得部で取得されると、前記出力信号に対するクリップ値が時間の経過に伴って小さくなるように、前記第1のパターンで前記クリップ回路によるクリップ値を変化させ、
前記第2の閾値を下回る値が前記取得部で取得されると、前記出力信号に対するクリップ値が時間の経過に伴って大きくなるように、前記第2のパターンで前記クリップ値を変化させる、
請求項1に記載の電子機器。
【請求項5】
前記取得部は、前記増幅部への電力供給経路上に設置された電流センスアンプと、前記電流センスアンプで測定された値のピーク値を検出するピークホールド回路と、を含み、検出された前記ピーク値から前記電力を示す値を取得する、
請求項1に記載の電子機器。
【請求項6】
前記第1の閾値及び前記第2の閾値は、所定の回路部の定格ノイズ電圧、最大入力電圧、瞬時最大入力電圧の少なくとも1つに基づいて設定された値である、
請求項1に記載の電子機器。
【請求項7】
前記入力信号及び前記出力信号は、オーディオ信号であり、
前記所定の回路部は、前記増幅部より出力された前記オーディオ信号が入力されるスピーカである、
請求項6に記載の電子機器。
【請求項8】
複数種類の前記スピーカのそれぞれに対応する複数種類の前記第1のパターン及び前記第2のパターンを記憶する記憶部を備え、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記複数種類の第1のパターン及び第2のパターンのなかから、前記増幅部の出力先である前記スピーカの種類に応じた前記第1のパターン及び前記第2のパターンを取得し、
取得された前記第1のパターン及び前記第2のパターンで前記波形整形部を制御する、
請求項7に記載の電子機器。
【請求項9】
複数の鍵を有する電子楽器である、
請求項1から請求項8の何れか一項に記載の電子機器。
【請求項10】
入力信号を増幅する増幅部と、前記増幅部に供給される電力を示す値を取得する取得部と、前記増幅部より出力される出力信号の波形を整形する波形整形部と、を備える電子機器のコンピュータに、
前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が第2の閾値を下回った状態から、前記第2の閾値より大きい第1の閾値を上回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が小さくなるように、第1のパターンで前記波形整形部を制御させ、
前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が前記第1の閾値を上回った状態から前記第2の閾値を下回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が大きくなるように、第2のパターンで前記波形整形部を制御させる、
方法。
【請求項11】
入力信号を増幅する増幅部と、前記増幅部に供給される電力を示す値を取得する取得部と、前記増幅部より出力される出力信号の波形を整形する波形整形部と、を備える電子機器のコンピュータに、
前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が第2の閾値を下回った状態から、前記第2の閾値より大きい第1の閾値を上回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が小さくなるように、第1のパターンで前記波形整形部を制御させ、
前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が前記第1の閾値を上回った状態から前記第2の閾値を下回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が大きくなるように、第2のパターンで前記波形整形部を制御させる、
プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、電子機器、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の一例である電子楽器が知られている(例えば特許文献1参照)。この種の電子楽器では、例えば、パワーアンプのクリップ機能を用いてスピーカへの入力電圧をクリップすることにより、スピーカを保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-264501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、レベルが瞬間的に高いアタック音を発音する場合を考える。この場合、あるレベルを超えるアタック音のピークがクリップされて、アタック音が歪むことがある。このような音の歪みの発生を避けつつスピーカを保護することが求められる。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、レベルの高い出力信号がクリップされて音が歪むのを避けつつスピーカ等の回路部を保護することができる電子機器、方法及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る電子機器は、入力信号を増幅する増幅部と、前記増幅部に供給される電力を示す値を取得する取得部と、前記増幅部より出力される出力信号の波形を整形する波形整形部と、少なくとも1つのプロセッサと、を備える。前記少なくとも1つのプロセッサは、前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が第2の閾値を下回った状態から、前記第2の閾値より大きい第1の閾値を上回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が小さくなるように、第1のパターンで前記波形整形部を制御し、前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が前記第1の閾値を上回った状態から前記第2の閾値を下回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が大きくなるように、第2のパターンで前記波形整形部を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、レベルの高い出力信号がクリップされて音が歪むのを避けつつスピーカ等の回路部を保護することができる電子機器、方法及びプログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る電子楽器の概略構成を説明するためのブロック図である。
図2A】本発明の一実施形態においてオーディオ信号に対するクリップ値を動的に変化させるためのテーブルの一例を示す図である。
図2B】本発明の一実施形態においてオーディオ信号に対するクリップ値を動的に変化させるためのテーブルの一例を示す図である。
図3A】本発明の一実施形態においてオーディオ信号に対するクリップ値の動的な変化でスピーカからの出力波形が整形される例を説明するための図である。
図3B】本発明の一実施形態においてオーディオ信号に対するクリップ値の動的な変化でスピーカからの出力波形が整形される例を説明するための図である。
図4】本発明の一実施形態に係るスピーカで許容される電流値と時間との関係を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る電子楽器の具体的構成を示すブロック図である。
図6】本発明の一実施形態に係る電子楽器で実行される、クリップ値を動的に変化させる処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の別の一実施形態に係る電子楽器の概略構成を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照して、本発明の一実施形態に係る電子機器、コンピュータの一例である電子機器により実行される方法及びプログラムについて詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子機器の一例である電子楽器1の概略構成を説明するためのブロック図である。電子楽器1は、例えば電子キーボードである。電子楽器1は、電子キーボード以外の電子鍵盤楽器であってもよく、また、電子打楽器、電子管楽器、電子弦楽器等の、他の形態の電子楽器であってもよい。
【0011】
電子楽器1は、ACアダプタ2より供給される電力により動作する。図1に概略的に示されるように、電子楽器1は、電流センスアンプ10、ピークホールド回路20、音源LSI(Large Scale Integration)30、D級アンプ40及びスピーカSPを備える。
【0012】
電流センスアンプ10は、ACアダプタ2からD級アンプ40への電力供給経路上に設置されており、D級アンプ40での消費電流を示す値として、シャント抵抗でのドロップ電圧を測定する。
【0013】
ピークホールド回路20は、電流センスアンプ10で測定された値のピーク値を検出する。具体的には、ピークホールド回路20は、D級アンプ40での消費電流を示すドロップ電圧のピーク値を保持し、このピーク値を音源LSI30のADIN端子に出力する。
【0014】
音源LSI30は、少なくとも1つのプロセッサの一例であり、例えばシングルプロセッサ又はマルチプロセッサを含む。複数のプロセッサを含む構成とした場合、音源LSI30は、単一の装置としてパッケージ化されたものであってもよく、電子楽器1内で物理的に分離した複数の装置で構成されてもよい。
【0015】
音源LSI30は、ADIN端子に入力されたピーク値から、D級アンプ40での消費電流を示す値を取得する。この消費電流を示す値は、増幅部に供給される電力を示す値の一例である。便宜上、D級アンプ40での消費電流を示す値を「消費電流値CCV」と記す。
【0016】
D級アンプ40は、入力信号(本実施形態ではオーディオ信号)を増幅する増幅部の一例である。
【0017】
電流センスアンプ10、ピークホールド回路20及び音源LSI30は、消費電流値CCVを取得する取得部として動作する。
【0018】
音源LSI30は、消費電流値CCVに応じて波形整形部を制御することにより、D級アンプ40より出力される出力信号の波形を整形する。本実施形態において、「波形整形部」は、増幅部より出力される出力信号の波形を整形するものであり、具体的には、D級アンプ40が備えるクリップ回路42である。クリップ回路42は、スピーカSPを保護するため、D級アンプ40より出力されるオーディオ信号(出力信号の一例)をクリップする。
【0019】
音源LSI30は、第1の閾値を上回る消費電流値CCVを取得すると、第1のパターンでクリップ回路42によるクリップ値を変化させる。より詳細には、第1のパターンは、オーディオ信号に対するクリップ値を時間の経過に伴って徐々に小さくするパターンである。ここでクリップ値とは、オーディオ信号に対してクリップする、ある電位を示している。すなわち、上記の第1のパターンは、オーディオ信号に対してクリップする電位を時間の経過に伴って徐々に小さくする。つまり、時間の経過に伴って、クリップ値が小さくなる(クリップされる電位が低くなる)ほど、クリップ回路42によってクリップされるオーディオ信号の振幅が小さくなる。なお、第1のパターンでは、ある時間以降においてクリップする電位は、ほぼ一定となる。
【0020】
音源LSI30は、第1の閾値よりも低い第2の閾値を下回る消費電流値CCVを取得すると、第2のパターンでクリップ回路42によるクリップ値を変化させる。より詳細には、第2のパターンは、オーディオ信号に対するクリップ値を時間の経過に伴って徐々に大きくするパターンである。なお、第2のパターンでは、ある時間以降においてクリップする電位は、ほぼ一定となる。
【0021】
音源LSI30の内部メモリ32には、時間の経過に対してクリップ値を第1のパターンで変化させるためのテーブルT1が格納されており、また、クリップ値を時間の経過に対して第2のパターンで変化させるためのテーブルT2が格納されている。
【0022】
図2Aに、テーブルT1の一例を示す。図2Bに、テーブルT2の一例を示す。図2A図2Bの各図中、縦軸は、オーディオ信号に対するクリップ値(単位:dB)であり、横軸は、時間(単位:秒)である。
【0023】
消費電流値CCVが第1の閾値を上回る場合、音源LSI30は、テーブルT1に従い、オーディオ信号に対してクリップするクリップ値を時間の経過に伴って小さくする。消費電流値CCVが第2の閾値を下回る場合、音源LSI30は、テーブルT2に従い、オーディオ信号に対してクリップするクリップ値を時間の経過に伴って大きくする。このように、音源LSI30は、消費電流値CCVに応じて、D級アンプ40より出力されるオーディオ信号に対するクリップ値を動的に変化させる。
【0024】
図3A及び図3Bは、音源LSI30によるクリップ値の動的な変化でスピーカSPからの出力波形が整形される例を説明するための図である。図3Aは、クリップ値を動的に変化させる処理を適用しない場合の出力波形例を示す。図3Bは、図3Aの出力波形例に対して、本実施形態に係る、クリップ値を動的に変化させる処理を適用した場合の、出力波形例を示す。図3A図3Bの各図中、縦軸は、電圧(単位:V)であり、横軸は、時間(単位:秒)である。図3A及び図3Bでは、便宜上、時間軸を期間A1~A5に区切って示す。
【0025】
図3A中、スピーカ出力波形W1は、オーディオ信号をクリップしない場合にスピーカSPから出力される波形を示す。スピーカ出力波形W1は、消費電流値CCVと相関がある。すなわち、消費電流値CCVが高いほどスピーカ出力波形W1の振幅が大きくなり、また、消費電流値CCVが低いほどスピーカ出力波形W1の振幅が小さくなる。
【0026】
図3A中、アタック波形W3は、スピーカ出力波形W1に含まれるアタック音の波形を示す。ここでアタック音とは、後述する電子楽器1の鍵盤60のある鍵を瞬間的に強く押すことにより、瞬間的に出力信号のレベルが高い音のことである。例えば、図3A(及び図3B)におけるアタック波形W3は、アタック音を示すための例示的な波形であって、これに限定されない。
【0027】
例えば、レベルの高いスピーカ出力波形W1がスピーカSPから継続して出力されると、スピーカSPの恒久的な破壊につながる。レベルの高いスピーカ出力波形W1は、基準値0V(基準電位)を0としたときの絶対値が大きい波形であり、例えば、後述のクリップオン閾値Th1を超える波形である。
【0028】
図3A中、アタック波形W3は、クリップオン閾値Th1を超える。スピーカSPの恒久的な破壊を防ぐため、スピーカ出力波形W1をクリップすることが考えられる。しかし、スピーカ出力波形W1を単純にクリップしただけでは、アタック波形W3のピークがクリップされて、アタック音が歪む。
【0029】
そこで、本実施形態では、レベルの高い出力信号がクリップされて音が歪むのを避けつつスピーカSPを保護するため、クリップ値を動的に変化させる。クリップ値の動的な変化に関し、図3Bを用いて具体的に説明する。
【0030】
図3Bには、オーディオ信号に対するクリップ値を動的に変化させた場合にスピーカSPから出力される波形として、クリップ波形W2を示す。
【0031】
クリップオン閾値Th1(+)及びTh1(-)は、第1の閾値の一例である。クリップオン閾値Th1(+)とクリップオン閾値Th1(-)は、絶対値が同じで且つ符号が異なる。以下、クリップオン閾値Th1(+)とクリップオン閾値Th1(-)を「クリップオン閾値Th1」と総称する。例えば「クリップオン閾値Th1を超える波形」は、絶対値がクリップオン閾値Th1(+)及びクリップオン閾値Th1(-)よりも大きい波形を意味する。例えば「クリップオン閾値Th1を下回る波形」は、絶対値がクリップオン閾値Th1(+)及びクリップオン閾値Th1(-)よりも小さい波形を意味する。
【0032】
クリップオフ閾値Th2(+)及びTh2(-)は、第2の閾値の一例である。クリップオフ閾値Th2(+)とクリップオフ閾値Th2(-)は、絶対値が同じで且つ符号が異なる。以下、クリップオフ閾値Th2(+)とクリップオフ閾値Th2(-)を「クリップオフ閾値Th2」と総称する。例えば「クリップオフ閾値Th2を超える波形」は、絶対値がクリップオフ閾値Th2(+)及びTh2(-)よりも大きい波形を意味する。例えば「クリップオフ閾値Th2を下回る波形」は、絶対値がクリップオフ閾値Th2(+)及びTh2(-)よりも小さい波形を意味する。
【0033】
クリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2は、例えば内部メモリ32に格納される。なお、電流センスアンプ10にて電圧値を電流値として測定する都合上、消費電流値CCVは、電圧に換算された値となっている。これに対応して、クリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2も、電圧に換算された値となっている。
【0034】
クリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2は、例えば、所定の回路部の一例であるスピーカSPの定格ノイズ電圧、最大入力電圧、瞬時最大入力電圧の少なくとも1つに基づいて設定される。一例として、クリップオン閾値Th1は、定格ノイズ電圧より高く且つ最大入力電圧よりも低い値に設定され、また、クリップオフ閾値Th2は、定格ノイズ電圧より低い値に設定される。なお、定格ノイズ電圧、最大入力電圧、瞬時最大入力電圧は、JIS C 5532:2014で定義される。
【0035】
図4は、スピーカSPで許容される電流値と時間との関係を示す図である。図4中、縦軸は、電流値(単位:A)であり、横軸は、時間(単位:秒)である。スピーカSPで許容される電流値と時間との関係を示す曲線を「保護曲線」と記す。
【0036】
保護曲線(細線)は、スピーカSPの仕様上許容される電流値と時間との関係を示す曲線であり、本発明者がスピーカSPの定格ノイズ電圧、最大入力電圧、瞬時最大入力電圧に基づいて推測したものである。保護曲線(太線)は、保護曲線(細線)に対して安全率を考慮して本発明者により設定された曲線である。
【0037】
本実施形態では、スピーカSPの仕様上の限界値を示す保護曲線(細線)に対して安全率を考慮して設定された保護曲線(太線)に基づいて、クリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2が設定される。
【0038】
すなわち、本実施形態において、クリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2は、スピーカSPの定格ノイズ電圧、最大入力電圧、瞬時最大入力電圧に基づいて設定される。
【0039】
値CL(+)及びCL(-)は、テーブルT1及びT2に従って変化するクリップ値を示す。値CL(+)及びCL(-)は、正負の符号が異なるが絶対値は同じである。値CL(+)、CL(-)の最大値MAXは、それぞれ、+10V、-10Vである。この最大値は、例えば、定格ノイズ電圧及びクリップオン閾値Th1より高く且つ瞬時最大入力電圧よりも低い値に設定される。
【0040】
図3B中、時間軸上で0秒を少し過ぎた時点SIG1で、クリップオン閾値Th1を上回る消費電流値CCVが検出される。そのため、音源LSI30は、テーブルT1に従い、オーディオ信号に対するクリップ値を時間の経過に伴って小さくする。これにより、期間A1では以降、スピーカ出力波形W1がクリップされて、振幅が小さくなったクリップ波形W2がスピーカSPから出力される。
【0041】
なお、音源LSI30は、スピーカ出力波形W1のエンベロープを計算し、計算されたエンベロープに対してクリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2を用いた閾値判定を行う。
【0042】
期間A1では、時点SIG1付近から、スピーカSPへの入力電圧が徐々に下がる。そのため、例えば、大きな持続音が入力される場合における、スピーカSPの恒久的な破壊を防ぐことができる。また、スピーカSPへの入力電圧が時間軸上で緩やかに下がるため、入力電圧の急激な低下による不自然な音の発生が抑えられる。
【0043】
図3B中、時点SIG2(期間A2に入ったあたり)で、クリップオフ閾値Th2を下回る消費電流値CCVが検出される。そのため、音源LSI30は、テーブルT2に従い、オーディオ信号に対するクリップ値を時間の経過に伴って大きくする。クリップ値を早急に大きくすることにより、電子楽器1は、クリップの無い本来の音を出力できる状態に迅速に復帰する。
【0044】
このように、音源LSI30は、消費電流値CCVが基準電位(0V)より大きい場合であって、消費電流値CCVがクリップオン閾値Th1を上回った状態からクリップオフ閾値Th2を下回る状態になったことを検出した際に、オーディオ信号に対するクリップ値が大きくなるように、第2のパターンでクリップ回路42を制御する。
【0045】
時点SIG3(時間軸上で0.01秒あたり)で、クリップオン閾値Th1を上回る消費電流値CCVが検出される。具体的には、クリップオン閾値Th1を上回るアタック音(例示的には、スピーカSPへの入力電圧が定格ノイズ電圧を一瞬だけ超えるアタック波形W3)が発生する。
【0046】
スピーカSPは、最大入力電圧や瞬時最大入力電圧で規定されるように、アタック音のような瞬間的に大きい音を出力することができる。一方、スピーカSPは、定格ノイズ電圧を超える音を継続的に出力することができない。そこで、時点SIG3以降(アタック音の発生直後)、音源LSI30は、テーブルT1に従い、オーディオ信号に対するクリップ値を時間の経過に伴って小さくする。
【0047】
テーブルT1に示されるように、オーディオ信号に対するクリップ値は、アタック音の発生直後(検出直後)に一気に下げず、徐々に下げる。そのため、瞬間的なアタック波形W3のピークがクリップされることなく、アタック音が出力される。従って、ピークがクリップされることによるアタック音の歪みの発生が避けられるため、アタック音の音質が改善する。
【0048】
このように、音源LSI30は、出力信号に含まれる特徴信号の少なくとも1つ(一例として、アタック波形W3)がクリップ回路42によって整形されないようにテーブルT1(言い換えると、第1のパターンであり、クリップ値の低下速度)を設定している。
【0049】
また、音源LSI30は、消費電流値CCVが基準電位(0V)より大きい場合であって、消費電流値CCVがクリップオフ閾値Th2を下回った状態から、クリップオン閾値Th1を上回る状態になったことを検出した際に、オーディオ信号に対するクリップ値が小さくなるように、第1のパターンでクリップ回路42を制御する。
【0050】
アタック音発生後の期間A3では、期間A1と同様に、スピーカSPへの入力電圧を下げることにより、例えば、大きな持続音が入力される場合における、スピーカSPの恒久的な破壊を防ぐことができる。
【0051】
図3B中、時点SIG4(期間A4に入ったあたり)で、クリップオフ閾値Th2を下回る消費電流値CCVが検出される。クリップの無い本来の音を出力できる状態に迅速に復帰するため、音源LSI30は、テーブルT2に従い、オーディオ信号に対するクリップ値を時間の経過に伴って大きくする。また、クリップ値を早急に大きくすることにより、例えばアタック音が入った場合にも、そのピークがクリップされることなく出力されるようになる。このようなクリップ値の動的な変化により、ピークがクリップされることによるアタック音の歪みの発生が避けられるため、スピーカSPを保護しつつアタック音の音質が改善する。
【0052】
図3B中、時点SIG5(期間A5に入ったあたり)で、クリップオン閾値Th1を上回る消費電流値CCVが検出される。そのため、音源LSI30は、再度、テーブルT1に従い、オーディオ信号に対するクリップ値を時間の経過に伴って小さくする。期間A5では、大きな持続音のスピーカ出力波形W1がクリップされるため、スピーカSPの恒久的な破壊が防がれる。
【0053】
このように、本実施形態によれば、例えば瞬間的にレベルの高いオーディオ信号(アタック音を含む信号)がクリップされて、アタック音が歪むのを避けつつスピーカSPを保護することができる。
【0054】
電子楽器1の具体的構成を説明する。図5は、電子楽器1の構成を示すブロック図である。図5に示されるように、電子楽器1は、電流センスアンプ10、ピークホールド回路20、音源LSI30、D級アンプ40a、40b、電源回路50、RAM(Random Access Memory)52、フラッシュROM(Read Only Memory)54、スイッチパネル56、マイクロコンピュータ58、鍵盤60、キースキャナ62、LCD(Liquid Crystal Display)64、LCDコントローラ66、操作子68、USB(Universal Serial Bus)インタフェース70、外部入力インタフェース72、外部出力インタフェース74、スピーカSPa、SPbを備える。
【0055】
電源回路50は、ACアダプタ2又は電子楽器1に取り付けられた電池より供給される電力から電子楽器1の各部への供給電力を生成し、生成された電力を各部に供給する。
【0056】
少なくとも1つのプロセッサの一例である音源LSI30は、フラッシュROM54に格納されたプログラム及びデータを読み出し、RAM52をワークエリアとして用いることにより、電子楽器1を統括的に制御する。
【0057】
RAM52は、データやプログラムを一時的に保持する。RAM52には、フラッシュROM54から読み出されたプログラムやデータ(波形データ等)、その他、通信に必要なデータが保持される。
【0058】
フラッシュROM54は、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)等の不揮発性の半導体メモリである。
【0059】
スイッチパネル56は、例えば、電子楽器1の筐体に設けられた操作パネルであり、LED(Light Emitting Diode)56a及びタッチデバイス56bを含む。複数のLED56aのそれぞれが発光すると、各種操作を受け付ける各種アイコンが電子楽器1の天板に表示される。
【0060】
タッチデバイス56bは、例えば、静電容量方式や光学方式のタッチパネルを内蔵する。ユーザが天板に表示されたアイコンをタッチすると、その操作内容を示す操作信号がマイクロコンピュータ58を介して音源LSI30に出力される。音源LSI30が操作信号に基づいて各部を制御することにより、電子楽器1がユーザの操作に応じた動作を行う。一例として、ユーザは、タッチデバイス56bに対するタッチ操作により、音色(ギター、ベース、ピアノ等)を指定することができる。
【0061】
なお、スイッチパネル56は、このようなタッチパネルに限らない。スイッチパネル56は、メカニカル方式、静電容量無接点方式、メンブレン方式等のスイッチ、ボタン等の操作子を含む構成としてもよい。
【0062】
鍵盤60は、複数の演奏操作子として複数の白鍵及び黒鍵を有する鍵盤である。各鍵は、それぞれ異なる音高と対応付けられている。
【0063】
キースキャナ62は、鍵盤60に対する押鍵及び離鍵を監視する。キースキャナ62は、例えばユーザによる押鍵操作を検出すると、押鍵イベント情報を音源LSI30に出力する。押鍵イベント情報には、押鍵操作に係る鍵の音高の情報(キーナンバ)が含まれる。キーナンバは、鍵番号やMIDIキー、ノートナンバと呼ばれることもある。
【0064】
本実施形態では、鍵の押鍵速度(ベロシティ値)を計測する手段が別途設けられており、この手段により計測されたベロシティ値も押鍵イベント情報に含まれる。例示的には、各鍵について複数の接点スイッチが設けられている。鍵が押される際の各接点スイッチが導通する時間の差により、ベロシティ値が計測される。ベロシティ値は、押鍵操作の強さを示す値ともいえ、また、楽音の大きさ(音量)を示す値ともいえる。
【0065】
LCD64は、LCDコントローラ66により駆動される。音源LSI30による制御信号に従ってLCDコントローラ66がLCD64を駆動すると、LCD64に、制御信号に応じた画面が表示される。LCD64は、有機EL(Electro Luminescence)等の表示装置に置き換えてもよい。LCD64は、タッチパネルが内蔵された操作子の1つであってもよい。
【0066】
操作子68は、ノブ(メインボリュームノブ等)、ボタン、ペダル等の、電子楽器1を操作するための各種操作子を含む。
【0067】
USBインタフェース70は、例えば、外部のMIDI(Musical Instrument Digital Interface)機器とMIDIデータ(MIDIメッセージ)の送受信を行うためのインタフェースである。
【0068】
外部入力インタフェース72は、例えば、マイク等の外部装置が接続されるオーディオインターフェースである。外部出力インタフェース74は、例えば、アンプ内蔵スピーカ、ヘッドフォン等の外部装置が接続されるオーディオインターフェースである。
【0069】
音源LSI30は、例えば、ユーザによる操作によって選択された音色及び押鍵イベント情報に応じた波形データを読み出し、読み出された波形データに基づいて楽音を生成する。音源LSI30は、例えば128のジェネレータセクションを備えており、最大で128の楽音を同時に発音することができる。
【0070】
音源LSI30により生成されたデジタル楽音データ(例えばISフォーマット)は、D級アンプ40a、40bに入力され、アナログ信号に変換されるとともに増幅されて、それぞれ、スピーカSPa、SPbに出力される。これにより、押鍵操作に応じた楽音が再生される。
【0071】
図6は、音源LSI30により実行される、クリップ値を動的に変化させる処理を示すフローチャートである。図6に示されるフローチャートは、例えば、電子楽器1のシステムが起動すると開始され、電子楽器1のシステムが停止するまで繰り返し実行される。
【0072】
音源LSI30は、ピークホールド回路20からADIN端子T11へ入力されるピーク値を、所定のサンプリングレートでアナログ信号からデジタル信号に変換し、n周期毎(例えば4サンプリング毎)の平均値を消費電流値CCVとして取得する(ステップS101)。平均値の算出に用いられるサンプル数は、例えば、ピーク値のばらつきの抑制と平均値の算出に伴う遅延を考慮して設定される。
【0073】
消費電流値CCVは、D級アンプ40a及び40bでの合計の消費電流値を示す。そのため、音源LSI30は、消費電流値CCVから、D級アンプ40aでの消費電流値CCVaと、D級アンプ40bでの消費電流値CCVbと、を計算する(ステップS102)。例示的には、音源LSI30は、スピーカSPa、SPbのそれぞれに設定されているメインボリューム値、イコライザのブースト、カット等に基づいて、消費電流値CCVから消費電流値CCVaと消費電流値CCVbとを計算する。
【0074】
音源LSI30は、D級アンプ40a、40bのそれぞれに対し、クリップ制御CC(ステップS103~S109)を実行する。
【0075】
例示的には、音源LSI30は、まず、D級アンプ40aに対してクリップ制御CC(ステップS103~S109)を実行する。
【0076】
具体的には、音源LSI30は、消費電流値CCVaがクリップオン閾値Th1を上回るか否かを判定する(ステップS103)。消費電流値CCVaがクリップオン閾値Th1を上回る場合(ステップS103:YES)、音源LSI30は、テーブルT1に従ってクリップ制御信号CCaを発生させる(ステップS104)。クリップ制御信号CCaは、D級アンプ40aのクリップ回路42aを制御するための制御信号である。
【0077】
音源LSI30は、ステップS104にて発生されたクリップ制御信号CCa及びメインボリューム信号Vaを、例えばICフォーマットでD級アンプ40aに出力する(ステップS105)。メインボリューム信号Vaは、スピーカSPaに対して設定されるメインボリューム値を示す信号である。
【0078】
D級アンプ40aは、メインボリューム信号Vaに応じて音源LSI30より入力されるオーディオ信号を増幅するとともに、クリップ制御信号CCaに基づいてクリップ回路42aを動作させて、スピーカSPaへの出力信号であるオーディオ信号をクリップする。これにより、オーディオ信号に対するクリップ値が時間の経過に伴って小さくなる(例えば図3Bの期間A3参照)。そのため、スピーカSPaを保護しつつ、ピークがクリップされることによるアタック音の歪みの発生が避けられる。
【0079】
消費電流値CCVaがクリップオン閾値Th1以下の場合(ステップS103:NO)、音源LSI30は、消費電流値CCVaがクリップオフ閾値Th2を下回るか否かを判定する(ステップS106)。消費電流値CCVaがクリップオフ閾値Th2を下回る場合(ステップS106:YES)、音源LSI30は、テーブルT2に従ってクリップ制御信号CCaを発生させる(ステップS107)。
【0080】
音源LSI30は、ステップS107にて発生されたクリップ制御信号CCa及びメインボリューム信号Vaを、例えばICフォーマットでD級アンプ40aに出力する(ステップS108)。
【0081】
D級アンプ40aは、メインボリューム信号Vaに応じて音源LSI30より入力されるオーディオ信号を増幅するとともに、クリップ制御信号CCaに基づいてクリップ回路42aを動作させて、スピーカSPaへの出力信号であるオーディオ信号をクリップする。これにより、オーディオ信号に対するクリップ値が時間の経過に伴って大きくなる(例えば図3Bの期間A4参照)。そのため、スピーカSPaを保護しつつ、クリップの無い本来の音を出力できる状態に迅速に復帰するとともに、ピークがクリップされることによるアタック音の歪みの発生が避けられるようになる。
【0082】
消費電流値CCVaがクリップオン閾値Th1以下で且つクリップオフ閾値Th2以上の場合(ステップS106:NO)、音源LSI30は、メインボリューム信号Vaを、例えばICフォーマットでD級アンプ40aに出力する(ステップS109)。D級アンプ40aは、メインボリューム信号Vaに応じて音源LSI30より入力されるオーディオ信号を増幅してスピーカSPaへ出力する。オーディオ信号がクリップされなくても、スピーカSPaに過剰な電流が流れないため、スピーカSPaが破壊される虞がない。
【0083】
音源LSI30は、D級アンプ40bに対しても同様のクリップ制御CC(ステップS103~S109)を実行する。
【0084】
概説すると、消費電流値CCVbがクリップオン閾値Th1を上回る場合(ステップS103:YES)、音源LSI30は、テーブルT1に従ってクリップ制御信号CCbを発生させる(ステップS104)。クリップ制御信号CCbは、D級アンプ40bのクリップ回路42bを制御するための制御信号である。音源LSI30は、ステップS104にて発生されたクリップ制御信号CCb及びメインボリューム信号VbをD級アンプ40bに出力する(ステップS105)。メインボリューム信号Vbは、スピーカSPbに対して設定されるメインボリューム値を示す信号である。
【0085】
消費電流値CCVbがクリップオフ閾値Th2を下回る場合(ステップS106:YES)、音源LSI30は、テーブルT2に従ってクリップ制御信号CCbを発生させる(ステップS107)。音源LSI30は、ステップS107にて発生されたクリップ制御信号CCb及びメインボリューム信号VbをD級アンプ40bに出力する(ステップS108)。
【0086】
消費電流値CCVbがクリップオン閾値Th1以下で且つクリップオフ閾値Th2以上の場合(ステップS106:NO)、音源LSI30は、メインボリューム信号VaをD級アンプ40aに出力する(ステップS109)。
【0087】
なお、スピーカSPaとスピーカSPbの仕様(言い換えると、定格ノイズ電圧、最大入力電圧、瞬時最大入力電圧)が同じ場合、スピーカSPa、SPbのそれぞれに対するクリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2は同じ値に設定される。これに対し、スピーカSPaとスピーカSPbの仕様が異なる場合、スピーカSPa、SPbのそれぞれに対するクリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2は異なる値に設定される。
【0088】
すなわち、音源LSI30の内部メモリ32には、複数種類のスピーカSPのそれぞれに対応する複数種類のクリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2が記憶される。複数種類のスピーカSPのそれぞれに対するクリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2は、例えば製造段階で予め設定される。
【0089】
また、複数種類のスピーカSPのそれぞれに対するクリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2は、音源LSI30がスピーカSPの品番を認識して自動的に設定してもよい。例示的には、音源LSI30は、D級アンプ40の出力先であるスピーカSPの種類を認識し、内部メモリ32に記憶されたクリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2のなかから、認識したスピーカSPの種類に応じたクリップオン閾値Th1及びクリップオフ閾値Th2を設定する。
【0090】
以上のように、本実施形態によれば、アタック音のようなレベルの高い出力信号がクリップされて音が歪むのを避けつつスピーカSPを保護することができる。
【0091】
その他、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上述した実施形態で実行される機能は可能な限り適宜組み合わせて実施しても良い。上述した実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件による適宜の組み合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、効果が得られるのであれば、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0092】
上記の実施形態では、保護対象の回路部の一例としてスピーカSPを挙げたが、スピーカSP以外の回路部(例えばACアダプタ2)を保護対象とする場合も本発明の範疇である。すなわち、ACアダプタ2の出力電流値がクリップオン閾値Th1を上回る場合に、ACアダプタ2の出力電流に対するクリップ値を時間の経過に伴って小さくし、また、ACアダプタ2の出力電流値がクリップオフ閾値Th2を下回る場合に、ACアダプタ2の出力電流に対するクリップ値を時間の経過に伴って大きくしてもよい。
【0093】
音源LSI30の内部メモリ32には、複数種類のスピーカSPのそれぞれに対応する複数種類のテーブルT1及びT2が記憶されてもよい。すなわち、内部メモリ32は、複数種類のスピーカSPのそれぞれに対応する複数種類の第1のパターン及び第2のパターンを記憶する記憶部として動作してもよい。
【0094】
この場合、音源LSI30は、内部メモリ32に記憶された複数種類のテーブルT1及びT2のなかから、D級アンプ40の出力先であるスピーカSPの種類に応じたテーブルT1及びT2を取得し、取得されたテーブルT1及びT2でクリップ回路42を制御してもよい。また、テーブルT1及びT2は、スピーカSPの種類に応じた仕様上の限界値を示す保護曲線(図4の細線)に対して、安全率を考慮して設定された保護曲線(図4の太線)に基づいて設定されてもよい。
【0095】
また、音源LSI30の内部メモリ32には、テーブルT1及びT2に代えて、テーブルT1、T2のそれぞれの曲線(図2A及び図2B参照)に近似する2つの関数が記憶されてもよい。すなわち、音源LSI30は、関数で規定されるパターンでクリップ回路42を制御してもよい。
【0096】
図7は、本発明の別の一実施形態に係る電子楽器1の概略構成を説明するためのブロック図である。別の一実施形態に係る電子楽器1は、分圧回路80及びDC-DCコンバータ82を備える。分圧回路80は、デジタルポテンショメータDPMを含む。
【0097】
別の一実施形態では、消費電流値CCVがクリップオン閾値Th1を上回る場合又はクリップオフ閾値Th2を下回る場合、音源LSI30は、テーブルT1又はT2に従ってデジタルポテンショメータDPMの抵抗値を制御する。音源LSI30の制御下でデジタルポテンショメータDPMの抵抗値が変わることに伴い分圧比が変わると、ACアダプタ2からD級アンプ40への電力供給経路上に設置されたDC-DCコンバータ82の出力電圧が変わり、スピーカSPへの供給電力が動的に変わる。
【0098】
別の一実施形態においても上記の実施形態と同様に、スピーカSPへの出力信号であるオーディオ信号に対するクリップ値が、時間の経過に伴って小さくなったり、時間の経過に伴って大きくなったりする。これにより、アタック音のようなレベルの高い出力信号がクリップされて音が歪むのを避けつつスピーカSPを保護することができる。
【0099】
以下、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記1]
入力信号を増幅する増幅部と、
前記増幅部に供給される電力を示す値を取得する取得部と、
前記増幅部より出力される出力信号の波形を整形する波形整形部と、
少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が第2の閾値を下回った状態から、前記第2の閾値より大きい第1の閾値を上回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が小さくなるように、第1のパターンで前記波形整形部を制御し、
前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が前記第1の閾値を上回った状態から前記第2の閾値を下回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が大きくなるように、第2のパターンで前記波形整形部を制御する、
電子機器。
[付記2]
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記出力信号に含まれる特徴信号の少なくとも1つが前記波形整形部によって整形されないように前記第1のパターンを設定する、
付記1に記載の電子機器。
[付記3]
前記第1のパターンは、前記出力信号に対するクリップ値が時間の経過に伴って小さくなるパターンであり、
前記第2のパターンは、前記出力信号に対するクリップ値が時間の経過に伴って大きくなるパターンである、
付記1又は付記2に記載の電子機器。
[付記4]
前記波形整形部は、前記出力信号をクリップするクリップ回路であり、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記第1の閾値を上回る値が前記取得部で取得されると、前記出力信号に対するクリップ値が時間の経過に伴って小さくなるように、前記第1のパターンで前記クリップ回路によるクリップ値を変化させ、
前記第2の閾値を下回る値が前記取得部で取得されると、前記出力信号に対するクリップ値が時間の経過に伴って大きくなるように、前記第2のパターンで前記クリップ値を変化させる、
付記1から付記3の何れか1つに記載の電子機器。
[付記5]
前記取得部は、前記増幅部への電力供給経路上に設置された電流センスアンプと、前記電流センスアンプで測定された値のピーク値を検出するピークホールド回路と、を含み、検出された前記ピーク値から前記電力を示す値を取得する、
付記1から付記4の何れか1つに記載の電子機器。
[付記6]
前記第1の閾値及び前記第2の閾値は、所定の回路部の定格ノイズ電圧、最大入力電圧、瞬時最大入力電圧の少なくとも1つに基づいて設定された値である、
付記1から付記5の何れか1つに記載の電子機器。
[付記7]
前記入力信号及び前記出力信号は、オーディオ信号であり、
前記所定の回路部は、前記増幅部より出力された前記オーディオ信号が入力されるスピーカである、
付記1から付記6の何れか1つに記載の電子機器。
[付記8]
複数種類の前記スピーカのそれぞれに対応する複数種類の前記第1のパターン及び前記第2のパターンを記憶する記憶部を備え、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記複数種類の第1のパターン及び第2のパターンのなかから、前記増幅部の出力先である前記スピーカの種類に応じた前記第1のパターン及び前記第2のパターンを取得し、
取得された前記第1のパターン及び前記第2のパターンで前記波形整形部を制御する、
付記7に記載の電子機器。
[付記9]
複数の鍵を有する電子楽器である、
付記1から付記8の何れか1つに記載の電子機器。
[付記10]
入力信号を増幅する増幅部と、前記増幅部に供給される電力を示す値を取得する取得部と、前記増幅部より出力される出力信号の波形を整形する波形整形部と、を備える電子機器のコンピュータに、
前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が第2の閾値を下回った状態から、前記第2の閾値より大きい第1の閾値を上回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が小さくなるように、第1のパターンで前記波形整形部を制御させ、
前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が前記第1の閾値を上回った状態から前記第2の閾値を下回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が大きくなるように、第2のパターンで前記波形整形部を制御させる、
方法。
[付記11]
入力信号を増幅する増幅部と、前記増幅部に供給される電力を示す値を取得する取得部と、前記増幅部より出力される出力信号の波形を整形する波形整形部と、を備える電子機器のコンピュータに、
前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が第2の閾値を下回った状態から、前記第2の閾値より大きい第1の閾値を上回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が小さくなるように、第1のパターンで前記波形整形部を制御させ、
前記取得部で取得された値が基準電位より大きい場合であって、前記値が前記第1の閾値を上回った状態から前記第2の閾値を下回る状態になったことを検出した際に、前記出力信号に対するクリップ値が大きくなるように、第2のパターンで前記波形整形部を制御させる、
プログラム。
【符号の説明】
【0100】
1 :電子楽器
2 :ACアダプタ
10 :電流センスアンプ
20 :ピークホールド回路
30 :音源LSI
32 :内部メモリ
40 :D級アンプ
42 :クリップ回路
50 :電源回路
52 :RAM
54 :フラッシュROM
56 :スイッチパネル
56a :LED
56b :タッチデバイス
58 :マイクロコンピュータ
60 :鍵盤
62 :キースキャナ
64 :LCD
66 :LCDコントローラ
68 :操作子
70 :USBインタフェース
72 :外部入力インタフェース
74 :外部出力インタフェース
80 :分圧回路
82 :DC-DCコンバータ
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7