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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179958
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】吸着体および吸着体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20231213BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20231213BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
B01J20/22 Z
B01J20/30
B01J20/34 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092946
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 璃奈
(72)【発明者】
【氏名】谷田 侑也
(72)【発明者】
【氏名】宇佐見 真子
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA15A
4G066AA15C
4G066AA20A
4G066AA20C
4G066AB24B
4G066AC11B
4G066BA05
4G066FA11
4G066GA01
4G066GA18
4G066GA40
(57)【要約】
【課題】従来の電磁波を照射することで発熱する吸着体では、発熱によって吸着材を十分に加熱できず、被吸着物質の脱離効率が低下する場合があった。本開示の技術が解決しようとする課題は、電磁波を照射することで発熱する吸着体において、吸着材の加熱を促進して吸着材の脱離効率を向上させることにある。
【解決手段】吸着体10は、電磁波で発熱する電磁波発熱材13を有する。吸着体10は、被吸着物質を吸着可能でありかつ発熱によって吸着した被吸着物質を脱離する吸着材15を有する。電磁波発熱材13の含有率は、吸着体10の表面11から吸着体10の中心12に向かって増加する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着体であって、
電磁波で発熱する電磁波発熱材と、
被吸着物質を吸着可能でありかつ発熱によって吸着した前記被吸着物質を脱離する吸着材を有し、
前記電磁波発熱材の含有率は、前記吸着体の表面から前記吸着体の中心に向かって増加する吸着体。
【請求項2】
吸着体であって、
電磁波で発熱する電磁波発熱材と、
被吸着物質を吸着可能でありかつ加熱されることで吸着した前記被吸着物質を脱離する吸着材を有し、
前記吸着体の中心側の内部領域における前記電磁波発熱材の含有平均値が、前記吸着体の表面側の外部領域における前記電磁波発熱材の含有平均値に比べて大きい吸着体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の吸着体であって、
前記電磁波発熱材は、磁場の変化、電場の変化のうちどちらか一方または両方で発熱する吸着体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の吸着体であって、
前記吸着材は、前記電磁波発熱材に含まれる金属を含む金属有機構造体である吸着体。
【請求項5】
請求項4に記載の吸着体であって、
前記電磁波発熱材は、金属、無機金属化合物の少なくとも1つを含み、
前記吸着材は、前記電磁波発熱材に含まれる金属または金属イオンを含む金属有機構造体である吸着体。
【請求項6】
請求項1または2に記載の吸着体であって、
前記吸着材は、前記吸着体の全表面を覆って設けられ、
前記電磁波発熱材は、前記吸着体の内側に設けられる吸着体。
【請求項7】
吸着体の製造方法であって、
金属、無機金属化合物のいずれか1つを含みかつ電磁波で発熱する電磁波発熱材を準備し、
前記電磁波発熱材を有機物と反応させて前記電磁波発熱材の表面を吸着材である金属有機構造体に置換し、
前記電磁波発熱材の前記吸着材への置換を前記電磁波発熱材の一部が残るように停止させる、吸着体の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の吸着体の製造方法であって、
前記吸着材である前記金属有機構造体は、前記電磁波発熱材に含まれる金属または金属イオンを含む、吸着体の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の吸着体の製造方法であって、
前記吸着体の全表面において前記電磁波発熱材を前記吸着材に置換し、
前記吸着体の内側において前記電磁波発熱材を残す、吸着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば被吸着物質を吸着可能かつ吸着した被吸着物質を脱離して再生可能な吸着体およびその吸着体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両の蒸発燃料処理装置には、蒸発燃料を吸着して脱離するための吸着器が設けられる。吸着器には、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着する多孔質の吸着材が充填される。吸着材に吸着された蒸発燃料は、車両の走行時、すなわち内燃機関の稼働時にパージ通路へと脱離され、内燃機関へ通じる吸気通路に供給される。
【0003】
多孔質の吸着材は、例えば金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framewоrks)等の有機無機物、ゼオライト等の無機物、活性炭等の有機物を材料に含む。多孔質の吸着材は、加熱されることで吸着した被吸着物質を脱離する。これにより吸着機能が再生して繰り返し被吸着物質を吸着することができる。例えばマイクロ波等の電磁波を照射することで吸着材を加熱する技術が従来考案されている。ゼオライト等の吸着材は、電磁波の照射による発熱効率が低い。そのため電磁波の照射時のよって発熱するセラミックス、金属塩、金属等の電磁波発熱材を準備し、電磁波発熱材を吸着材と共に利用する技術が考案されている。
【0004】
特許文献1には、マイクロ波の照射による発熱効率が高い電磁波発熱材(SiC)を吸着材(ゼオライト)と混錬させ、混錬物を硬化させた繊維状または粒子状の吸着体が開示される。図9は、電磁波発熱材51と吸着材52が混錬される従来の吸着体50を模式的に示す図である。電磁波発熱材51と吸着材52は、吸着体50の内部においてランダムに分布する。そのため吸着材52は、電磁波発熱材51からの熱伝導によって一様には加熱されない。加熱が促進しない領域の吸着材52は、脱離効率が低下する場合がある。また、吸着体50の表面において電磁波発熱材51の露出する比率が多い場合、電磁波発熱材51が吸着材52による被吸着物質の吸着または脱離を妨げるおそれがある。
【0005】
特許文献2には、マイクロ波の照射による発熱効率が高い電磁波発熱材を水ガラスとともに吸着材(活性炭)の表面に固着させる吸着体が開示される。電磁波発熱材が吸着体の外周領域に設けられる。そのため電磁波発熱材の発熱を吸着材の中心まで十分に伝導させることができず、加熱が促進しない領域で脱離効率が低くなる場合がある。また、吸着材の微細な孔を水ガラスで被覆することによって、吸着材の吸着性能が低下する場合が考えられる。上記のように従来の電磁波を照射することで発熱する吸着体では、発熱によって吸着材を十分に加熱できず、被吸着物質の脱離効率が低下する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5207043号公報
【特許文献2】特許第4872060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書に開示の技術が解決しようとする課題は、電磁波を照射することで発熱する吸着体において、吸着材の加熱を促進して吸着材の脱離効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一つの態様によると吸着体は、電磁波で発熱する電磁波発熱材を有する。吸着体は、被吸着物質を吸着可能でありかつ発熱によって吸着した被吸着物質を脱離する吸着材を有する。電磁波発熱材の含有率は、吸着体の表面から吸着体の中心に向かって増加する。
【0009】
したがって加熱対象である吸着材が吸着体の表面付近に多く含有し、発熱源である電磁波発熱材が吸着体の中心付近に多く含有する。そのため中心付近に多い電磁波発熱材から、表面付近に多い吸着材に向けて熱が伝導する。そのため吸着材の加熱が不十分になることを抑制し、被吸着物質を脱離可能に吸着材の加熱を促進できる。これにより吸着材の脱離効率が向上する。また、吸着材の加熱を促進できることにより、吸着材を低エネルギーで効率良く加熱できる。さらに吸着材を低エネルギーで加熱できることにより、吸着体の冷却時間を短縮できる。
【0010】
本開示の他の態様によると吸着体は、電磁波で発熱する電磁波発熱材を有する。吸着体は、被吸着物質を吸着可能でありかつ加熱されることで吸着した被吸着物質を脱離する吸着材を有する。吸着体の中心側の内部領域における電磁波発熱材の含有平均値が、吸着体の表面側の外部領域における電磁波発熱材の含有平均値に比べて大きい。
【0011】
したがって加熱対象である吸着材が吸着体の外部領域に多く含有し、発熱源である電磁波発熱材が吸着体の内部領域に多く含有する。そのため吸着体の内部領域に多い電磁波発熱材から吸着材に向けて熱が伝導する。そのため吸着体の外部領域の吸着材の加熱を促進でき、かつ含有率が低いものの吸着体の内部領域に位置する吸着材も被吸着物質を脱離可能に十分に加熱できる。これにより吸着材の脱離効率が向上する。
【0012】
本開示の他の態様によると電磁波発熱材は、磁場の変化、電場の変化のうちどちらか一方または両方で発熱する。したがって電磁波を照射する際、磁場と電場は相互に作用しながら互いに変化する。磁場の変化と電場の変化のうちどちらか一方または両方で発熱する電磁波発熱材を用いることにより、例えば磁場の変化でのみ発熱する電磁波発熱材よりも発熱効率が向上する。これにより吸着材の加熱効率を向上させることができ、吸着材の脱離効率をさらに向上させることができる。
【0013】
本開示の他の態様によると吸着材は、電磁波発熱材に含まれる金属を含む金属有機構造体である。したがって電磁波発熱材を有機物と反応させることで金属有機構造体の吸着材を形成できる。そのため有機物と反応した電磁波発熱材は、吸着材に置換される。これにより中心付近に電磁波発熱材が多く含まれ、かつ表面付近に吸着材が多く含まれる吸着体10を容易に形成できる。
【0014】
本開示の他の態様によると電磁波発熱材は、金属、無機金属化合物の少なくとも1つを含む。吸着材は、電磁波発熱材に含まれる金属または金属イオンを含む金属有機構造体である。したがって電磁波発熱材において金属または金属イオンと結合しているイオン等を有機物と置換することで吸着材を形成できる。そのため電磁波発熱材から吸着材への置換を容易にできる。
【0015】
本開示の他の態様によると吸着材は、吸着体の全表面を覆って設けられる。電磁波発熱材は、吸着体の内側に設けられる。したがって吸着体の中心側の電磁波発熱材から、吸着体の表面側の吸着材に向けて均一的に熱が伝導する。そのため被吸着物質を脱離可能に吸着材を十分に加熱できる。しかも電磁波発熱材は表面に露出しない。そのため電磁波発熱材が介在することによる脱離効率の低下を抑制できる。
【0016】
本開示の他の態様は吸着体の製造方法である。金属、無機金属化合物のいずれか1つを含みかつ電磁波で発熱する電磁波発熱材を準備する。電磁波発熱材を有機物と反応させて電磁波発熱材の表面を吸着材である金属有機構造体に置換する。電磁波発熱材の吸着材への置換を電磁波発熱材の一部が残るように停止させる。
【0017】
したがって元の材料である電磁波発熱材と置換するようにして、吸着材を吸着体の表面から中心に向かって形成する。しかも吸着材の内側に電磁波発熱材が残るように吸着体を形成する。そのため中心に近いほど電磁波発熱材の含有率が多く、かつ表面に近いほど吸着材の含有率が多い吸着体を設けることができる。そのため中心付近に多い電磁波発熱材から、表面付近に多い吸着材に向けて熱が伝導する。そのため吸着材の加熱が不十分になることを抑制し、被吸着物質を脱離可能に吸着材の加熱を促進できる。これにより吸着材の脱離効率が向上する。
【0018】
本開示の他の態様によると、吸着材である金属有機構造体は、電磁波発熱材に含まれる金属または金属イオンを含む。したがって電磁波発熱材を有機物と反応させることで金属有機構造体の吸着材を形成できる。そのため有機物と反応した電磁波発熱材は、吸着材に置換される。これにより中心付近に電磁波発熱材が多く含まれ、表面付近に吸着材が多く含まれる吸着体を容易に形成できる。
【0019】
本開示の他の態様によると、吸着体の全表面において電磁波発熱材を吸着材に置換する。吸着体の内側において電磁波発熱材を残す。したがって吸着体の中心側の電磁波発熱材から、吸着体の表面側の吸着材に向けて均一的に熱が伝導する。そのため被吸着物質を脱離可能に吸着材を十分に加熱できる。しかも電磁波発熱材は表面に露出しない。そのため電磁波発熱材が介在することによる脱離効率の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本明細書に開示の技術によれば、電磁波を照射することで発熱する吸着体において、吸着材の加熱を促進して吸着材の脱離効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係る吸着体の断面図である。
図2】吸着材を形成する前の吸着体を示す断面図である。
図3図1に示す吸着体の径方向の構造を模式的に示した図である。
図4】吸着材の分子構造を模式的に示した図である。
図5】凝集した吸着体の断面図である。
図6】本開示に係る吸着材料の断面のSEM写真である。
図7】第2実施形態に係る吸着体の断面図である。
図8図7に示す吸着体の径方向の構造を模式的に示した図である。
図9】従来の吸着体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示の好ましい第1の実施形態を、図1~6に基づいて説明する。説明中の同じ参照番号は、重複する説明をしないが、同じ機能を有する同じ要素を意味する。図1は第1実施形態に係る吸着体の断面図、図2は電磁波発熱材の初期状態を示す断面図、図3図1に示す吸着体の径方向の構造を模式的に示した図、図4は吸着材の分子構造を模式的に示した図である。
【0023】
図1に示すように吸着体10は、中心12を中心とする略球形である。吸着体10は、電磁波発熱材13と、吸着材15を有する。電磁波発熱材13と吸着材15は、境界面14を介して隣接する。電磁波発熱材13は、電磁波の照射によって発熱する。電磁波発熱材13から吸着材15へと境界面14を介して熱が伝導可能である。吸着材15は、多孔質材で設けられ、被吸着物質を吸着可能である。また、吸着材15は、加熱されることで吸着した被吸着物質を脱離して再生する。吸着体10は、例えば蒸発燃料や炭酸ガス、水蒸気等の被吸着物質を吸着する吸着器と、吸着体10の吸着性能を再生可能な電磁波発生機を具備する吸着装置に用いられる。
【0024】
図1,3に示すように電磁波発熱材13は、表面11と中心12の径方向の中間に位置する境界面14よりも内側で略球形に設けられる。電磁波発熱材13は表面11に露出しない。吸着材15は、境界面14よりも外側に設けられ、かつ吸着体10の表面11全てを覆う。電磁波発熱材13と吸着材15は、径方向に層状に重なっている。境界面14は、表面11に対して略平行である。電磁波発熱材13から吸着材15までの最大距離は、境界面14から表面11までの最大距離に相当する。電磁波発熱材13の含有率は、吸着体10の表面11から境界面14まで略0%であり、境界面14よりも吸着体10の中心12側で100%近くまで増加する。電磁波発熱材13の含有平均値は、吸着体10の中心12側の内部領域、例えば境界面14よりも内側の内部領域において、吸着体10の表面側の外部領域、例えば境界面14よりも外側の外部領域よりも大きい。なお境界面14の半径は、例えば中心12から表面11までの径方向の距離の30%,40%,50%,60%,70%のいずれの大きさであっても良い。
【0025】
図1,2に示すように吸着体10は、吸着材15を形成する前の初期状態において中心12を中心としかつ電磁波発熱材13のみで構成される略球形である。この初期状態の吸着体10の大きさ(径)は、図1に示す形成後の吸着体10よりも小さい。吸着材15は多孔質材料であるため、電磁波発熱材13よりも密度が小さい。そのため吸着体10の表面11の大きさは、吸着材15を形成された後の方が形成される前よりも大きくなる。
【0026】
図1に示す電磁波発熱材13は、例えばセラミックス、あるいはその他の金属酸化物や金属塩等の無機金属化合物、あるいは金属である。電磁波発熱材13は、ケイ素、または1種類以上の金属または1種類以上の金属イオンを含む。電磁波発熱材13に含まれる金属または金属イオンとして、例えばマグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、クロム、モリブデン、スカンジウム等が挙げられる。例えばマグネシウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅等の金属イオンがより好ましい。金属または金属イオンは1種類でも良く2種類以上であっても良い。
【0027】
図1に示すセラミックスの電磁波発熱材13として、例えば炭化ケイ素、アルミナ、酸化銅(CuO)、窒化鉄(Fe4N)、窒化アルミニウム(AlN)等が挙げられる。金属塩の電磁波発熱材13として、例えば硫酸アルミニウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。金属の電磁波発熱材13として、例えば鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性の金属が挙げられる。金属は、電磁波を照射する際の磁場の変化で発熱する。セラミックス、金属酸化物、金属塩は、電磁波を照射する際の磁場の変化だけでなく、磁場が発生することで相互作用的に生じる電場の変化によっても発熱する。吸着体10に照射される電磁波は、例えば周波数が300MHz~30GHzのマイクロ波である。
【0028】
図4に示すように吸着材15は、いわゆる金属有機構造体(MOF)と呼ばれる多孔質構造体である。吸着材15は、格子状に配列する金属原子21の間に有機配位子22が結合する構造で構成される。金属原子21は、電磁波発熱材13(図1参照)に含まれる金属または金属イオンと同種である。電磁波発熱材13において金属原子21同士の間には、例えば酸化物イオン、硫酸イオン、塩化物イオン等のアニオン、または同種の金属原子21が配置される。有機配位子22は、金属原子21と配位可能な官能基を有する。有機配位子22は、電磁波発熱材13と反応することで元々配置されていたアニオンや金属原子21と置換される。有機配位子22で連結される金属原子21の格子構造の中には、例えば蒸発燃料や炭酸ガス、水蒸気等の被吸着物質分子23を収容可能なスペースが形成される。そのため吸着材15は、被吸着物質分子23を格子構造の間に吸着できる。また、吸着材15が加熱された際には、吸着された被吸着物質分子23が格子構造内から脱離する。有機配位子22は、例えばカルボキシル基、イミダゾール基、水酸基、スルホン酸基、ピリジン基、三級アミン基、アミド基、チオアミド基などの金属原子21と配位可能な官能基を有する。有機配位子22は、例えば2以上の配位性の官能基を芳香環、不飽和結合などの剛直構造を有する骨格に置換した構造である。
【0029】
図1に示す吸着体10を形成する過程を説明する。先ず図2に示すように電磁波発熱材13のみで構成される吸着体10の粒子を開始材料として、有機物を含む有機溶媒に接触させる。表面11付近に位置する電磁波発熱材13は、有機物と反応して図4に示す構造の吸着材15に置換される。これにより表面11付近に吸着材15の層が形成される。電磁波発熱材13と有機物との反応を引き続き進めることにより、電磁波発熱材13の表面において吸着材15への置換が吸着体10の表面11側から中心12に向かって進行する。表面11から境界面14までの領域の電磁波発熱材13が吸着材15へと置換された時点で、電磁波発熱材13と有機物との反応を停止させる。これにより境界面14よりも内側で電磁波発熱材13が残り、かつ境界面14の外側で吸着材15が表面11を覆う吸着体10が形成される。電磁波発熱材13の大きさは、吸着材15の形成後の方が開始材料時よりも小さくなる。一方、吸着体10の表面11の大きさは、吸着材15の密度が電磁波発熱材13の密度よりも小さいため、吸着材15の形成後の方が開始材料時よりも大きくなる。
【0030】
図5,6に示すように複数の吸着体10が形成途中で凝集する場合がある。そのため1つに凝集した吸着材15の中に複数の電磁波発熱材13が分散して含まれる。この場合も、吸着体10の表面11に近いほど吸着材15が多く、吸着体10の中央に近いほど電磁波発熱材13が多い構造になる。また、吸着材15が吸着体10の表面11を覆っており、分散したそれぞれの電磁波発熱材13は表面11に露出しない構造になる。なお、図6において表面11よりも外側の濃灰色の領域は、吸着体10の断面を観察するために吸着体10を包理する包理樹脂16である。
【0031】
上述するように吸着体10は、図1に示すように電磁波で発熱する電磁波発熱材13を有する。吸着体10は、被吸着物質を吸着可能でありかつ発熱によって吸着した被吸着物質を脱離する吸着材15を有する。電磁波発熱材13の含有率は、吸着体10の表面11から吸着体10の中心12に向かって増加する。
【0032】
したがって加熱対象である吸着材15が吸着体10の表面11付近に多く含有し、発熱源である電磁波発熱材13が吸着体10の中心12付近に多く含有する。そのため中心12付近に多い電磁波発熱材13から、表面11付近に多い吸着材15に向けて熱が伝導する。そのため吸着材15の加熱が不十分になることを抑制し、被吸着物質を脱離可能に吸着材15の加熱を促進できる。これにより吸着材15の脱離効率が向上する。また、吸着材15の加熱を促進できることにより、吸着材15を低エネルギーで効率良く加熱できる。さらに吸着材15を低エネルギーで加熱できることにより、吸着体10の冷却時間を短縮できる。
【0033】
図1に示すように吸着体10は、電磁波で発熱する電磁波発熱材13を有する。吸着体10は、被吸着物質を吸着可能でありかつ加熱されることで吸着した被吸着物質を脱離する吸着材15を有する。吸着体10の中心12側の内部領域における電磁波発熱材13の含有平均値が、吸着体10の表面11側の外部領域における電磁波発熱材13の含有平均値に比べて大きい。
【0034】
したがって加熱対象である吸着材15が吸着体10の外部領域に多く含有し、発熱源である電磁波発熱材13が吸着体10の内部領域に多く含有する。そのため吸着体10の内部領域に多い電磁波発熱材13から吸着材15に向けて熱が伝導する。そのため吸着体10の外部領域の吸着材15の加熱を促進でき、かつ含有率が低いものの吸着体10の内部領域に位置する吸着材15も被吸着物質を脱離可能に十分に加熱できる。これにより吸着材15の脱離効率が向上する。
【0035】
図1に示すように電磁波発熱材13は、磁場の変化、電場の変化のうちどちらか一方または両方で発熱する。したがって電磁波を照射する際、磁場と電場は相互に作用しながら互いに変化する。磁場の変化と電場の変化のうちどちらか一方または両方で発熱する電磁波発熱材13を用いることにより、例えば磁場の変化でのみ発熱する電磁波発熱材よりも発熱効率が向上する。これにより吸着材15の加熱効率を向上させることができ、吸着材15の脱離効率をさらに向上させることができる。
【0036】
磁場の変化による材料の発熱し易さは、その材料の透磁率に基づく。電場の変化による材料の発熱し易さは、その材料の誘電率に基づく。電磁波発熱材13と吸着材15の材料は、電磁波発熱材13の透磁率と誘電率の方が吸着材15の透磁率と誘電率よりも大きくなるように設定される。透磁率と誘電率は、温度や照射される電磁波の周波数によって変化する。吸着装置は、例えば20~35℃の温度条件で使用される。吸着装置の電磁波発生機から照射される電磁波の周波数は、例えば2.45GHz、915MHzである。透磁率と誘電率は、JIS C2565に記載される規格に準拠した方法または同軸透過法によって測定される。透磁率と誘電率は、吸着装置が使用される20~35℃の温度条件で測定するのがより好ましい。JIS C2565では、透磁率の測定周波数を9GHz~10GHzとし、誘電率の測定周波数を8.2GHz~12.4GHzとしている。透磁率と誘電率は、2.45GHz、915MHz等の周波数を含む範囲を測定周波数にして測定するのがより好ましい。例えば測定周波数が300MHz~10GHzの範囲で透磁率と誘電率を測定するのが好ましい。
【0037】
図1に示すように吸着材15は、電磁波発熱材13に含まれる金属を含む金属有機構造体である。したがって電磁波発熱材13を有機物と反応させることで金属有機構造体の吸着材15を形成できる。そのため有機物と反応した電磁波発熱材13は、吸着材15に置換される。これにより中心12付近に電磁波発熱材13が多く含まれ、かつ表面11付近に吸着材15が多く含まれる吸着体10を容易に形成できる。
【0038】
図1に示すように電磁波発熱材13は、金属、無機金属化合物の少なくとも1つを含む。吸着材15は、電磁波発熱材13に含まれる金属または金属イオンを含む金属有機構造体である。したがって電磁波発熱材13において金属または金属イオンと結合しているアニオンや同種の金属原子21等を有機物と置換することで吸着材15を形成できる。そのため電磁波発熱材13から吸着材15への置換を容易にできる。
【0039】
図1に示すように吸着材15は、吸着体10の全ての表面11を覆って設けられる。電磁波発熱材13は、吸着体10の内側に設けられる。したがって吸着体10の中心12側の電磁波発熱材13から、吸着体10の表面11側の吸着材15に向けて均一的に熱が伝導する。そのため被吸着物質を脱離可能に吸着材15を十分に加熱できる。しかも電磁波発熱材13は表面11に露出しない。そのため電磁波発熱材13が介在することによる脱離効率の低下を抑制できる。
【0040】
図1に示すように吸着体10の製造方法は、金属、無機金属化合物のいずれか1つを含みかつ電磁波で発熱する電磁波発熱材13を準備する。電磁波発熱材13を有機物と反応させて電磁波発熱材13の表面を吸着材15である金属有機構造体に置換する。電磁波発熱材13の吸着材15への置換を電磁波発熱材13の一部が残るように停止させる。
【0041】
したがって元の材料である電磁波発熱材13と置換するようにして、吸着材15を吸着体10の表面11から中心12に向かって形成する。しかも吸着材15の内側に電磁波発熱材13が残るように吸着体10を形成する。そのため中心12に近いほど電磁波発熱材13の含有率が多く、かつ表面11に近いほど吸着材15の含有率が多い吸着体10を設けることができる。そのため中心12付近に多い電磁波発熱材13から、表面11付近に多い吸着材15に向けて熱が伝導する。そのため吸着材15の加熱が不十分になることを抑制し、被吸着物質を脱離可能に吸着材15の加熱を促進できる。これにより吸着材15の脱離効率が向上する。
【0042】
図1に示すように、吸着材15である金属有機構造体は、電磁波発熱材13に含まれる金属または金属イオンを含む。したがって電磁波発熱材13を有機物と反応させることで金属有機構造体の吸着材15を形成できる。そのため有機物と反応した電磁波発熱材13は、吸着材15に置換される。これにより中心12付近に電磁波発熱材13が多く含まれ、表面11付近に吸着材15が多く含まれる吸着体10を容易に形成できる。
【0043】
図1に示すように、吸着体10の全ての表面11において電磁波発熱材13を吸着材15に置換する。吸着体10の内側において電磁波発熱材13を残す。したがって吸着体10の中心12側の電磁波発熱材13から、吸着体10の表面11側の吸着材15に向けて均一的に熱が伝導する。そのため被吸着物質を脱離可能に吸着材15を十分に加熱できる。しかも電磁波発熱材13は表面11に露出しない。そのため電磁波発熱材13が介在することによる脱離効率の低下を抑制できる。
【0044】
図7,8に基づいて本開示の第2の実施形態を説明する。図7は第2実施形態に係る吸着体の断面図、図8図5に示す吸着体の径方向の構造を模式的に示した図である。吸着体30は、中心12を中心とする略球形である。吸着体30は、電磁波発熱材13と、吸着材15を有する。電磁波発熱材13は、中心12の周囲に設けられる。吸着材15は、電磁波発熱材13を覆うようにして吸着体30の表面11の周囲に多く設けられる。電磁波発熱材13の一部は表面11で露出する。
【0045】
図7,8に示すように電磁波発熱材13と吸着材15の境界面14は、表面11に対して概ね平行であるが、一部が表面11と交差する。電磁波発熱材13から吸着材15までの最大距離は、境界面14と表面11との径方向の最大距離に相当する。電磁波発熱材13の含有率は、吸着体30の表面11から中心12に向かうにしたがって増加する。吸着体30は、表面11と中心12の径方向の中間に位置しかつ中心12を中心とする球面状の中間面31を基準にして、中間面31よりも内側の内部領域31aと、中間面31よりも外側の外部領域31bに区別できる。電磁波発熱材13の含有平均値は、内部領域31aにおいて外部領域31bよりも大きい。なお中間面31の半径は、中心12から表面11までの径方向の距離の半分とは限らず、例えば中心12から表面11までの径方向の距離の30%,40%,50%,60%,70%のいずれの大きさであっても良い。
【0046】
図7に示す吸着体30を形成する過程を説明する。先ず図2に示すように電磁波発熱材13のみで構成される粒子を開始材料として、有機物を含む有機溶媒に接触させる。表面11付近に位置する電磁波発熱材13は、有機物と反応して図4に示す構造の吸着材15に置換される。これにより表面11付近に吸着材15の層が形成される。電磁波発熱材13と有機物との反応を引き続き進めることにより、電磁波発熱材13の表面において吸着材15への置換が吸着体30の表面11側から中心12に向かって進行する。表面11から所定の径方向の深さまでの領域で電磁波発熱材13が吸着材15へと置換された時点で、電磁波発熱材13と有機物との反応を停止させる。これにより中心12付近で電磁波発熱材13が残り、かつ表面11付近で吸着材15の含有率が多い吸着体30が形成される。
【0047】
以下に本開示に係る実施例について具体的に説明する。本開示はこれらの実施例に何ら限定されることはない。
【実施例0048】
図1に示すように電磁波発熱材13は、酸化銅(CuO)である。径が10μm~50μmである略球形の粒子の電磁波発熱材13を開始材料として、有機配位子(有機物)を含んだ有機溶媒に接触させる。表面11に近い電磁波発熱材13では、酸化物イオンが有機配位子に置換されて金属有機構造体の吸着材15が形成される。表面11よりも内側の境界面14までの領域の電磁波発熱材13が吸着材15に置換された時点で、電磁波発熱材13と有機配位子の反応を停止させる。吸着体10は、境界面14よりも中心12側に電磁波発熱材13が残り、かつ境界面14よりも表面11側に吸着材15が形成される層状で設けられる。吸着材15は、表面11の全てを覆う。
【実施例0049】
図1に示すように電磁波発熱材13は、アルミナ(Al23)である。径が10μm~50μmである略球形の粒子の電磁波発熱材13を開始材料として、実施例1と同様にして酸化物イオンを有機配位子と置換して金属有機構造体の吸着材15を形成する。実施例1と同様に電磁波発熱材13と吸着材15が径方向において層状の吸着体10を形成する。
【0050】
以上、具体的な実施形態について説明したが、本願で開示する技術はその他各種変更を加えた形態でも実施可能なものである。実施形態では、略球形の吸着体10,30を例示したが、吸着体10,30の形状はこれに限定されず、例えば円柱状、角柱状等であっても良い。電磁波発熱材13から吸着材15への置換を停止させる方法として、例えば吸着体10,30を有機物が含まれる有機溶媒から離間させることで反応を停止させても良い。あるいは、電磁波発熱材13から吸着材15への置換が不活性化する条件下に吸着体10,30を晒すことで反応を停止させても良い。
【符号の説明】
【0051】
10…吸着体
11…表面
12…中心
13…電磁波発熱材
14…境界面
15…吸着材
16…包理樹脂
21…金属原子
22…有機配位子
23…被吸着物質分子
30…吸着体
31…中間面、31a…内部領域、31b…外部領域
50…吸着体
51…電磁波発熱材
52…吸着材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9