(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179976
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】フラックス
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20231213BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20231213BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20231213BHJP
C22C 12/00 20060101ALN20231213BHJP
C22C 28/00 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
B23K35/26 310A
B23K35/26 310C
B23K35/26 310D
C22C13/00
C22C12/00
C22C28/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092970
(22)【出願日】2022-06-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】篠原 猛真
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 裕之
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 正人
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝司
(57)【要約】 (修正有)
【課題】Biの溶出量を抑えることができるフラックスを提供する。
【解決手段】フラックスは、(A)ロジン系樹脂、及び(B)0.15質量パーセント以上の芳香環を有さないヒドロキシカルボン酸又は芳香環を有さない不飽和カルボン酸であって、以下の式(1)で示すΔGの絶対値が0.02以下となるヒドロキシカルボン酸又は水和反応することでΔGの絶対値が0.02以下となるヒドロキシカルボン酸となる不飽和カルボン酸を含有する。
ΔG=平衡配置のG
0-単体(有機酸、Bi)の合計G
0(1)
G
0=H
0-T(K)×S
0
G
0:ギブスエネルギー
H
0:エンタルピー
T:温度
S
0:エントロピー
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、及び(B)0.15質量パーセント以上の芳香環を有さないヒドロキシカルボン酸又は芳香環を有さない不飽和カルボン酸であって、以下の式(1)で示すΔGの絶対値が0.02以下となるヒドロキシカルボン酸又は水和反応することでΔGの絶対値が0.02以下となるヒドロキシカルボン酸となる不飽和カルボン酸を含有するフラックス。
ΔG=平衡配置のG0-単体(有機酸、Bi)の合計G0 (1)
G0=H0-T(K)×S0
G0:ギブスエネルギー
H0:エンタルピー
T:温度
S0:エントロピー
【請求項2】
(A)ロジン系樹脂、及び(B)0.15質量パーセント以上の芳香環を有さないα位、β位及びγ位のいずれかに1つ以上のヒドロキシ基を有するカルボン酸、又は芳香環を有さないα,β-不飽和カルボン酸、β,γ-不飽和カルボン酸及びγ,δ-不飽和カルボン酸のうち1種以上を含有し、
前記ヒドロキシカルボン酸又は前記不飽和カルボン酸の炭素数は4以上12以下である、フラックス。
【請求項3】
芳香環を有さないα位、β位及びγ位のいずれかに1つ以上のヒドロキシ基を有するカルボン酸、又は芳香環を有さないα,β-不飽和カルボン酸、β,γ-不飽和カルボン酸及びγ,δ-不飽和カルボン酸のうち1種以上を含有する請求項1に記載のフラックス。
【請求項4】
(B)成分として、前記不飽和カルボン酸を有し、
不飽和結合の数が2以下である、請求項1又は2に記載のフラックス。
【請求項5】
前記ヒドロキシカルボン酸又は前記不飽和カルボン酸におけるカルボキシ基の数が1以上3以下である、請求項1又は2に記載のフラックス。
【請求項6】
(B)成分として、前記ヒドロキシカルボン酸を有し、
ヒドロキシ基の数が1以上4以下である、請求項1又は2に記載のフラックス。
【請求項7】
(B)成分として、前記不飽和カルボン酸を有し、
ヒドロキシ基の数が3以下である、請求項1又は2に記載のフラックス。
【請求項8】
(B)成分として、クエン酸、リンゴ酸、アコニット酸及び酒石酸のいずれか1つ以上を含む、請求項1又は2に記載のフラックス。
【請求項9】
溶剤を65質量%以上95質量%以下で含有する、請求項1又は2の記載のフラックス。
【請求項10】
Biを含有するはんだ用のフラックスであることを特徴とする請求項1又は2に記載のフラックス。
【請求項11】
噴流はんだ装置で用いられるフラックスであることを特徴とする請求項1又は2に記載のフラックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジン系樹脂を含有するフラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、部品ダメージの低減及び機械電力消費量削減から、作業温度を下げたいというニーズが高まってきている。このため、例えば特許文献1で示すように低融点のはんだが着目されてきている。特許文献1では、Bi、In及びSnを含有し、Biを46質量%以上72質量%以下、Inを26質量%以上54質量%以下、Snを2質量%以下で含み、融点が86~111℃であるはんだ合金の提供が提案されている。また、低温の共晶はんだとしてSn-58Bi(Sn42Bi58)も着目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他方、Bi入りはんだにおいては、はんだ付け後にフラックス残渣の存在下で、高湿度等の環境に置かれると、Biの溶出によりはんだ付け部に腐食が生じてしまうリスクがある。
【0005】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、Biの溶出量を抑えることができるフラックスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[概念1]
本発明によるフラックスは、
(A)ロジン系樹脂、及び(B)0.15質量パーセント以上の芳香環を有さないヒドロキシカルボン酸又は芳香環を有さない不飽和カルボン酸であって、以下の式(1)で示すΔGの絶対値が0.02以下となるヒドロキシカルボン酸又は水和反応することでΔGの絶対値が0.02以下となるヒドロキシカルボン酸となる不飽和カルボン酸を含有してもよい。
ΔG=平衡配置のG0-単体(有機酸、Bi)の合計G0 (1)
G0=H0-T(K)×S0
G0:ギブスエネルギー
H0:エンタルピー
T:温度
S0:エントロピー
【0007】
[概念2]
本発明によるフラックスは、
(A)ロジン系樹脂、及び(B)0.15質量パーセント以上の芳香環を有さないα位、β位及びγ位のいずれかに1つ以上のヒドロキシ基を有するカルボン酸、又は芳香環を有さないα,β-不飽和カルボン酸、β,γ-不飽和カルボン酸及びγ,δ-不飽和カルボン酸のうち1種以上を含有し、
前記ヒドロキシカルボン酸又は前記不飽和カルボン酸の炭素数は4以上12以下であってもよい。
【0008】
[概念3]
概念1によるフラックスは、芳香環を有さないα位、β位及びγ位のいずれかに1つ以上のヒドロキシ基を有するカルボン酸、又は芳香環を有さないα,β-不飽和カルボン酸、β,γ-不飽和カルボン酸及びγ,δ-不飽和カルボン酸のうち1種以上を含有してもよい。
【0009】
[概念4]
概念1乃至3のいずれか1つによるフラックスにおいて、
(B)成分として、前記不飽和カルボン酸を有し、
不飽和結合の数が2以下であってもよい。
【0010】
[概念5]
概念1乃至4のいずれか1つによるフラックスにおいて、
前記ヒドロキシカルボン酸又は前記不飽和カルボン酸におけるカルボキシ基の数が1以上3以下であってもよい。
【0011】
[概念6]
概念1乃至5のいずれか1つによるフラックスにおいて、
(B)成分として、前記ヒドロキシカルボン酸を有し、
ヒドロキシ基の数が1以上4以下であってもよい。
【0012】
[概念7]
概念1乃至6のいずれか1つによるフラックスにおいて、
(B)成分として、前記不飽和カルボン酸を有し、
ヒドロキシ基の数が3以下であってもよい。
【0013】
[概念8]
概念1乃至7のいずれか1つによるフラックスにおいて、
(B)成分として、クエン酸、リンゴ酸、アコニット酸及び酒石酸のいずれか1つ以上を含んでもよい。
【0014】
[概念9]
概念1乃至8のいずれか1つによるフラックスにおいて、
溶剤を65質量%以上95質量%以下で含有してもよい。
【0015】
[概念10]
概念1乃至9のいずれか1つによるフラックスは、Biを含有するはんだ用のフラックスであってもよい。
【0016】
[概念11]
概念1乃至10のいずれか1つによるフラックスは、噴流はんだ装置で用いられるフラックスであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Biの溶出量を抑えることができるフラックスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】不飽和カルボン酸が水和反応してヒドロキシカルボン酸が生成される態様の一例を示した図。
【
図2】実施例1におけるフラックスにおいて、クエン酸の含有量を変化させた結果を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本実施の形態の好適な実施の形態について詳細に説明する。本実施の形態での「又は」は「及び」を含む概念であり、例えばA又はBは、A、B、並びにA及びBの両方のいずれかを示している。
【0020】
本実施の形態のフラックスは、(A)ロジン系樹脂、及び(B)0.15質量%以上の芳香環を有さないα位、β位及びγ位のいずれかに1つ以上のヒドロキシ基を有するカルボン酸、又は芳香環を有さないα,β-不飽和カルボン酸、β,γ-不飽和カルボン酸及びγ,δ-不飽和カルボン酸のうち1種以上を有している。芳香環を有さないα位、β位及びγ位のいずれかに1つ以上のヒドロキシ基を有するカルボン酸、又は芳香環を有さないα,β-不飽和カルボン酸、β,γ-不飽和カルボン酸及びγ,δ-不飽和カルボン酸のうち1種以上のフラックス全体に対する含有量は、0.2質量%以上となることが有益であり、1.0質量%以上となることが特に有益である(後述する
図2参照)。芳香環を有さないα位、β位及びγ位のいずれかに1つ以上のヒドロキシ基を有するカルボン酸又は芳香環を有さないα,β-不飽和カルボン酸、β,γ-不飽和カルボン酸及びγ,δ-不飽和カルボン酸のうち1種以上の含有量が多すぎるとフラックス残渣が水分を吸いやすくなり、吸湿・べたつき・腐食等の原因になることから、上限値としては5.0質量%であることが好ましく、4.0質量%であることがより好ましく、3.5質量%であることがさらにより好ましい。本願の発明者らによれば、このようなフラックスを用いることで、Bi溶出量を格段に抑えることができた。
【0021】
本願の発明者らが確認したところ、ロジン系樹脂を含有するフラックスにおいて、Bi溶出量と以下の式(1)で算出されるΔGの絶対値との間に相関関係があることを確認できた。このため、Bi溶出量を抑えるという観点からは、以下の式(1)で算出されるΔGの絶対値の小さな芳香環を有さないヒドロキシカルボン酸又は水和反応することでヒドロキシカルボン酸になる芳香環を有さない不飽和カルボン酸を用いることが好ましいことになる。特にΔGの値の絶対値が0.02以下となる場合に優れており、ΔGの値の絶対値が0.014以下となる場合に特に優れていることを確認できた。なお、このようにΔGの値の絶対値が小さくなるヒドロキシカルボン酸や不飽和カルボン酸としては、芳香環を有さないα位、β位及びγ位のいずれかに1つ以上のヒドロキシ基を有するカルボン酸、又は芳香環を有さないα,β-不飽和カルボン酸、β,γ-不飽和カルボン酸及びγ,δ-不飽和カルボン酸のうち1種以上を用いるようにしてもよい。
ΔG=平衡配置のG0-単体(有機酸、Bi)の合計G0
G0=H0-T(K)×S0 (1)
G0:ギブスエネルギー
H0:エンタルピー
T:温度
S0:エントロピー
解析条件は以下のとおりであり、分子モデリングソフト「Spartan’20」を用いて解析を行った。
・化合物の-COOH基はイオン化していない状態で計算
・化合物単体とBi単体のG0を計算
・Biを化合物の近傍に(OH基のOとBiの距離が2.4~2.7Åになるように)配置して平衡配置のG0を計算
・温度は標準状態である25℃で計算
【0022】
以下で示す(1)~(5)のいずれか1つ以上の条件を満たすことは、芳香環を有さないヒドロキシカルボン酸又は水和反応することでヒドロキシカルボン酸になる芳香環を有さない不飽和カルボン酸がΔGの絶対値が小さくなるという観点からは優れている。なお、不飽和カルボン酸に関しては、ΔGの絶対値の値は必ずしも小さくならないが、水が添加されることで不飽和結合の箇所で水和反応して、ヒドロキシ基が生成されることから(
図1参照)、その結果として生成されるヒドロキシカルボン酸ではΔGの絶対値は小さな値となる。
【0023】
(1)(B)成分における、芳香環を有さないヒドロキシカルボン酸又は不飽和カルボン酸の炭素数が4以上12以下である。
(2)(B)成分として不飽和カルボン酸を有し、不飽和結合の数が2以下である。
(3)(B)成分における、芳香環を有さないヒドロキシカルボン酸又は不飽和カルボン酸におけるカルボキシ基の数が1以上3以下である。
(4)(B)成分としてヒドロキシカルボン酸を有し、ヒドロキシ基の数が1以上4以下である。
(5)(B)成分として不飽和カルボン酸を有し、ヒドロキシ基の数が3以下である。
【0024】
(B)成分として、クエン酸、リンゴ酸、アコニット酸及び酒石酸のいずれか1つ以上を用いてもよい。クエン酸、リンゴ酸、トランスアコニット酸及び酒石酸の構造式は以下のとおりである。なお、クエン酸におけるΔGは-0.00547であり、リンゴ酸におけるΔGは-0.01377であり、酒石酸におけるΔGは-0.00837であった。
[クエン酸]
[リンゴ酸]
[トランスアコニット酸]
[酒石酸]
本実施の形態では、その他のヒドロキシカルボン酸として、例えばDL-2-ヒドロキシ酪酸(ΔG=-0.01019)、DL-3-ヒドロキシ酪酸(ΔG=-0.01165)、ロイシン酸(ΔG=-0.00874)、3-ヒドロキシイソ吉草酸(ΔG=-0.01079)、3-ヒドロキシ-3-メチル吉草酸(ΔG=-0.00882)、2,3,4,5-テトラヒドロキシ アジピン酸(ΔG=-0.00581)、2-ヒドロキシ-n-オクタン酸(ΔG=-0.00921)、12ヒドロキシステアリン酸(ΔG=-0.00766)等を用いることができる。逆に、乳酸(ΔG=-0.03456)、2-ヒドロキシパルミチン酸(ΔG=-0.02667)等はΔGの絶対値が大きく、好ましいものではない。
【0025】
なお、クエン酸、リンゴ酸、アコニット酸、酒石酸等の水酸基を有する有機酸は水溶性のフラックスで用いられることは多いものであり、水等のフラックス洗浄液によって洗浄されることが想定されている。これに対して、ロジン樹脂を含有するフラックスは無洗浄で用いられることが一般的である。その理由としては、ロジン樹脂を含有するフラックスにおいてクエン酸、リンゴ酸、アコニット酸、酒石酸等の水酸基を有する有機酸が用いられると、フラックス残渣中の水酸基が水分を吸ってしまい、腐食の原因となるためである。
【0026】
以下で示すとおり、アコニット酸は水和反応するとクエン酸が生成されることになることから、アコニット酸はクエン酸に変わっていることが推測される。なお、アコニット酸としてはトランスアコニット酸を用いるようにしてもよい。
【0027】
フラックスは液体フラックスであってもよく、溶剤を含有してもよい。溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。溶剤としては、例えば、水、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、テルピネオール類等が挙げられる。アルコール系溶剤としては、例えば、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1,2-ブタンジオール、イソボルニルシクロヘキサノール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)プロパン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2,2′-オキシビス(メチレン)ビス(2-エチル-1,3-プロパンジオール)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、1,2,6-トリヒドロキシヘキサン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール等が挙げられる。グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルジグリコール)、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルプロピレントリグルコール、ブチルプロピレントリグルコール、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0028】
溶剤は、予備加熱での揮発性を高める観点から、沸点が100℃以下の溶剤を含むことが好ましい。沸点が100℃以下の溶剤は、特定活性剤の溶解性の観点から、アルコール系溶剤であることが好ましい。アルコール系溶剤は、2-プロパノールを含むことが好ましい。
【0029】
フラックス中の、溶剤の含有量は、フラックスの総量(100質量%)に対して、40質量%以上98質量%以下であることが好ましく、65質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上95質量%以下であることが更に好ましい。
【0030】
本実施の形態のフラックスは、Sn-50In(50Sn50In)、Sn58Bi(42Sn58Bi)、Sn57Bi1Ag(42Sn57Bi1Ag)、SAC305(96.5Sn3Ag0.5Cu)はんだ合金等に用いられるが、Biの含有量を減少させることができるという観点からはSn58Bi、Sn57Bi1Ag等のBiを含有するはんだ(Bi含有はんだ)に用いられることが非常に有益である。本実施の形態のフラックスが用いられるはんだは鉛フリーはんだであってもよい。また本実施の形態では、ソルダーペーストも提供され、上述したようにBiの含有量を減少させることができるという観点からはSn58Bi、Sn57Bi1Ag等のBiを含有するはんだ(Bi含有はんだ)とフラックスを含有するソルダーペーストが特に有益である。また、本実施の形態では、本実施の形態のフラックスやソルダーペーストを用いて製造された基板、電子機器等も提供される。
【0031】
ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の原料ロジン、原料ロジンから得られる誘導体が挙げられる。誘導体としては、例えば、精製ロジン、変性ロジン等が挙げられる。変性ロジンとしては、例えば、水添ロジン、重合ロジン、重合水添ロジン、不均化ロジン、不均化水添ロジン、酸変性ロジン、ロジンエステル、酸変性水添ロジン、無水酸変性水添ロジン、酸変性不均化ロジン、無水酸変性不均化ロジン、フェノール変性ロジン及びα,β不飽和カルボン酸変性物(アクリル化ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン等)、並びに重合ロジンの精製物、水素化物及び不均化物、並びにα,β不飽和カルボン酸変性物の精製物、水素化物及び不均化物、ロジンアルコール、ロジンアミン、水添ロジンアルコール、ロジンエステル、水添ロジングリセリンエステル等の水添ロジンエステル、ロジン石鹸、水添ロジン石鹸、酸変性ロジン石鹸、アクリル酸変性ロジン、アクリル酸変性水添ロジン、アクリル酸変性不均化ロジン、水添ロジングリセリンエステル等も挙げられる。これらのロジン系樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0032】
フラックス中の、ロジンの含有量は、フラックスの総量(100質量%)に対して、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、2質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。フラックスがロジン系樹脂を含有することで、活性成分の耐熱性向上という効果を得ることができる。フラックス全体に対してロジン系樹脂の含有量が1質量%未満となる場合には耐熱性が確保できなくなり、30質量%超過となる場合にはフラックス塗布後の基板のベタつきが著しくなることから、フラックス全体に対してロジン系樹脂は1~30質量%となることが有益である。
【0033】
本実施形態のフラックスに含まれる活性剤は、(B)芳香環を有さないα位、β位及びγ位のいずれかに1つ以上のヒドロキシ基を有するカルボン酸又は芳香環を有さないα,β-不飽和カルボン酸、β,γ-不飽和カルボン酸及びγ,δ-不飽和カルボン酸のうち1種以上に加えて、その他の活性剤を含んでもよい。その他の活性剤としては、例えば、(B)以外の、その他の有機酸系活性剤、アミン系活性剤、ハロゲン系活性剤、有機リン化合物等が挙げられる。
【0034】
有機酸系活性剤としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ピコリン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、4-tert-ブチル安息香酸、パルミチン酸、2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル、ダイマー酸、トリマー酸、ダイマー酸に水素を添加した水添物である水添ダイマー酸、トリマー酸に水素を添加した水添物である水添トリマー酸等が挙げられる。アミン系活性剤としては、例えば、ロジンアミン、アゾール類、グアニジン類、アルキルアミン化合物、アミノアルコール化合物等が挙げられる。ハロゲン系活性剤としては、例えば、アミンハロゲン化水素酸塩、アミンハロゲン化水素酸塩以外の有機ハロゲン化合物等が挙げられる。アミノアルコール化合物としては、例えば、N,N,N',N'-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、モノイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0035】
アミンハロゲン化水素酸塩としては、例えば、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ヘキサデシルアミン臭化水素酸塩、ステアリルアミン臭化水素酸塩、エチルアミン臭化水素酸塩、1,3-ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、エチルアミン塩酸塩、ステアリルアミン塩酸塩、ジエチルアニリン塩酸塩、ジエタノールアミン塩酸塩、2-エチルヘキシルアミン臭化水素酸塩、ピリジン臭化水素酸塩、イソプロピルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン臭化水素酸塩、ジメチルアミン臭化水素酸塩、ジメチルアミン塩酸塩、ロジンアミン臭化水素酸塩、2-エチルヘキシルアミン塩酸塩、イソプロピルアミン塩酸塩、シクロヘキシルアミン塩酸塩、2-ピペコリン臭化水素酸塩、1,3-ジフェニルグアニジン塩酸塩、ジメチルベンジルアミン塩酸塩、ヒドラジンヒドラート臭化水素酸塩、ジメチルシクロヘキシルアミン塩酸塩、トリノニルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアニリン臭化水素酸塩、2-ジエチルアミノエタノール臭化水素酸塩、2-ジエチルアミノエタノール塩酸塩、塩化アンモニウム、ジアリルアミン塩酸塩、ジアリルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩酸塩、トリエチルアミン臭化水素酸塩、トリエチルアミン塩酸塩、ヒドラジン一塩酸塩、ヒドラジン二塩酸塩、ヒドラジン一臭化水素酸塩、ヒドラジン二臭化水素酸塩、ピリジン塩酸塩、アニリン臭化水素酸塩、ブチルアミン塩酸塩、へキシルアミン塩酸塩、n-オクチルアミン塩酸塩、ドデシルアミン塩酸塩、ジメチルシクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、エチレンジアミン二臭化水素酸塩、ロジンアミン臭化水素酸塩、2-フェニルイミダゾール臭化水素酸塩、4-ベンジルピリジン臭化水素酸塩、L-グルタミン酸塩酸塩、N-メチルモルホリン塩酸塩、ベタイン塩酸塩、2-ピペコリンヨウ化水素酸塩、シクロヘキシルアミンヨウ化水素酸塩、1,3-ジフェニルグアニジンフッ化水素酸塩、ジエチルアミンフッ化水素酸塩、2-エチルヘキシルアミンフッ化水素酸塩、シクロヘキシルアミンフッ化水素酸塩、エチルアミンフッ化水素酸塩、ロジンアミンフッ化水素酸塩、シクロヘキシルアミンテトラフルオロホウ酸塩、及びジシクロヘキシルアミンテトラフルオロホウ酸塩等が挙げられる。
【0036】
有機ハロゲン化合物としては、テトラブロモメタン、1,1,2,2-テトラブロモブタン、1,2-ジブロモ-2-ブテン、2,3-ジブロモ-1-プロパノール、1,2-ジブロモ-2,3-ブタンジオール、2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、2,2-ビス(ブロモメチル)-1,3-プロパンジオール、トリアリルイソシアヌレート6臭化物、1-ブロモ-2-ブタノール、1-ブロモ-2-プロパノール、3-ブロモ-1-プロパノール、3-ブロモ-1,2-プロパンジオール、1,4-ジブロモ-2-ブタノール、1,3-ジブロモ-2-プロパノール、2,3-ジブロモ-1-プロパノール、2,3-ジブロモ-1,4-ブタンジオール、有機クロロ化合物であるクロロアルカン、塩素化脂肪酸エステル、ヘット酸、ヘット酸無水物等が挙げられる。
【0037】
有機リン化合物としては、例えば、酸性リン酸エステル、酸性ホスホン酸エステル、酸性ホスフィン酸エステル等が挙げられる。酸性リン酸エステルとしては、例えば、メチルアシッドホスフェイト、エチルアシッドホスフェイト、イソプロピルアシッドホスフェイト、モノブチルアシッドホスフェイト、ブチルアシッドホスフェイト、ジブチルアシッドホスフェイト、ブトキシエチルアシッドホスフェイト、2-エチルへキシルアシッドホスフェイト、ビス(2-エチルへキシル)ホスフェイト、モノイソデシルアシッドホスフェイト、ジイソデシルアシッドホスフェイト、ラウリルアシッドホスフェイト、イソトリデシルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイト、オレイルアシッドホスフェイト、牛脂ホスフェイト、ヤシ油ホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイト、アルキルアシッドホスフェイト、テトラコシルアシッドホスフェイト、エチレングリコールアシッドホスフェイト、2-ヒドロキシエチルメタクリレートアシッドホスフェイト、ジブチルピロホスフェイトアシッドホスフェイト等が挙げられる。酸性ホスホン酸エステルとしては、例えば、2-エチルヘキシル(2-エチルヘキシル)ホスホネート、n-オクチル(n-オクチル)ホスホネート、n-デシル(n-デシル)ホスホネート、n-ブチル(n-ブチル)ホスホネート、イソデシル(イソデシル)ホスホネート等のアルキル(アルキル)ホスホネート、ジエチル(p-メチルベンジル)ホスホネート等が挙げられる。酸性ホスフィン酸エステルとしては、例えば、フェニル置換ホスフィン酸等が挙げられる。フェニル置換ホスフィン酸としては、例えば、フェニルホスフィン酸、及びジフェニルホスフィン酸が挙げられる。
【0038】
フラックスは界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、弱カチオン系界面活性剤等が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体、脂肪族アルコールポリオキシエチレン付加体、芳香族アルコールポリオキシエチレン付加体、多価アルコールポリオキシエチレン付加体が挙げられる。
弱カチオン系界面活性剤としては、例えば、末端ジアミンポリエチレングリコール、末端ジアミンポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体、脂肪族アミンポリオキシエチレン付加体、芳香族アミンポリオキシエチレン付加体、多価アミンポリオキシエチレン付加体が挙げられる。
上記以外の界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアセチレングリコール類、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンエステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミド等が挙げられる。
【0039】
本実施の形態のフラックスは噴流はんだ付け装置100で用いられるフラックスであってもよい(
図3及び
図4参照)。噴流はんだ付け装置100のようにフラックスを大量に噴射させる装置ではBi溶出量が問題となることが多いことから、噴流はんだ付け装置100で用いられるフラックスとして、本実施の形態のフラックスを用いることは非常に有益である。
【0040】
噴流はんだ付け装置100としては、例えば
図3及び
図4で示すような構成のものを採用することができる。一例として、噴流はんだ付け装置100は、溶融はんだSを貯留する貯留槽110と、溶融はんだSを供給する第一供給部120及び第二供給部130を有してもよい。第一供給部120は、第一筐体121と、第一駆動部である第一ポンプ141と、第一ポンプ141からの駆動力を受けた溶融はんだSを噴出する1つ又は複数の第一供給口125と、を有してもよい。第二供給部130は、第二筐体131と、第二駆動部である第二ポンプ146と、第二ポンプ146からの駆動力を受けた溶融はんだSを噴出する溶融はんだSを噴出する1又は複数の第二供給口135と、を有してもよい。第一供給口125から供給される溶融はんだSと第二供給口135から供給される溶融はんだSは混合され、混合された溶融はんだSは、第一供給口125と第二供給口135との間において、搬送部によって搬送される基板から離間しない態様となってもよい(
図4参照)。この場合には、混合された溶融はんだSの上面が、第一供給口125と第二供給口135との間の基板搬送方向に沿った全長さ領域において、基板を搬送する搬送レール6の下端よりも下方に位置付けられないことになる。また基板搬送方向Aに沿った第一供給口125と第二供給口135と間には、溶融はんだSが下方に落下する箇所が設けられていない態様となってもよい(
図4参照)。第一供給口125から供給される溶融はんだSと第二供給口135から供給される溶融はんだSとが分離して貯留している溶融はんだSに向かって落下すると、その際に多くの酸素と触れることになる。このため、酸化くず(ドロス)等の酸化物の発生が多くなると推測されるが、第一供給口125と第二供給口135と間に溶融はんだSが下方に落下する箇所が設けられていない態様を採用することで、このような不都合を防止することができる。このため、本実施の形態で提供されるフラックスを用いつつ、このような態様を採用することで、酸化くず(ドロス)等の酸化物の発生を格段に抑えることを期待できる。
【実施例0041】
表1乃至3に示す実施例1乃至7及び比較例1乃至12のフラックス(50μl)を、銅板(縦30mm×横30mm×厚さ0.3mm)上の0.3gの円板状のSn58Biはんだ合金に塗布した。銅板上のフラックスを塗布したSn58Biはんだ合金を180℃で30秒間加熱することで、銅板で広がり試験を実施した。銅板での広がり試験後の銅板上のフラックス残渣をアセトンに溶解させてサンプルとして回収した。採取したサンプルをAgilent Technologies社のICP質量分析装置(ICP-MS)(RFパワー:1600W)を用いて分析し、Biの溶出量を測定した。
【0042】
サンプルの回収方法としては、銅板広がり後のサンプルを5gのアセトンに浸漬させた。パラフィン紙で蓋をした上で、30分間超音波をかけて、アセトンとアセトンに溶出したもの(金属イオン)をサンプルとして採取した。
【0043】
ICP質量分析装置での試験結果(Bi溶出量)は表1乃至3で示す通りである。Biの溶出量が多い場合には、はんだ合金に含まれるBiの腐食が促進されることになり、他方、Biの溶出量が少ない場合には、はんだ合金に含まれるBiの腐食を抑えることができることになる。実施例による態様では、Biの溶出量を少なく抑えることができ、はんだ合金に含まれるBiの腐食を抑えることができることを確認できた。
【0044】
【0045】
実施例1と同じ化合物を含有する組成物であって、クエン酸の含有量を変化させた結果を
図2で示す。クエン酸の含有量が増加させた分、2―プロパノールの含有量を減らすようにした。
図2で示される態様から明らかなように、0.2質量%以上の値で含有させた場合には、Biの溶出量を安定して抑えることができることを確認できた。
【0046】
【表2】
比較例の中では比較例2で示す態様においてBi溶出量が最も小さくなっており、0.3mg/Lとなっている。これに対して、実施例1においては、クエン酸の含有量が0.2%であり、比較例2の2,4-ジヒドロキシ安息香酸の含有量の10分の1ではあるものの、Bi溶出量を0.18とすることができた。つまり、比較例2の2,4-ジヒドロキシ安息香酸の含有量の10分の1でありながらも、Biの溶出量を60%程度にすることができ、非常に優れた効果を得ることができた。また、実施例であるクエン酸、リンゴ酸、トランスアコニット酸及び酒石酸の中でも、クエン酸及びリンゴ酸を用いることが特に有益であることも確認することができた。
【0047】
以下の表3の実施例7及び比較例12で示すように、実施例1乃至6及び比較例1乃至11とは異なる化合物構成のフラックスにおいても、実施例となる態様ではBiの溶出量を格段に抑えることができることを確認できた。
【表3】