(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179983
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】放射性核種標識薬剤の精製方法および放射性核種標識薬剤の精製装置
(51)【国際特許分類】
C07K 1/13 20060101AFI20231213BHJP
C07K 1/20 20060101ALI20231213BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231213BHJP
A61K 51/08 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C07K1/13
C07K1/20
A61P35/00
A61K51/08 100
A61K51/08 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092989
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井村 亮太
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA12
4C084NA20
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085HH03
4C085KA29
4C085KB82
4C085LL18
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA71
4H045GA25
(57)【要約】
【課題】放射性核種標識薬剤の生成において容器への付着率を低減して、収率を向上すること。
【解決手段】本発明による放射性核種標識薬剤の精製方法は、放射性核種を標識した放射性核種標識薬剤を含む溶液から放射性核種標識薬剤を分離精製する放射性核種標識薬剤の精製方法であって、放射性核種標識薬剤を含む溶液を蒸発乾固させる蒸発乾固工程を含み、蒸発乾固工程の以前に放射性核種標識薬剤を含む溶液に、蒸発乾固によって結晶が析出される物質を添加する結晶化物質添加工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性核種を標識した放射性核種標識薬剤を含む溶液から前記放射性核種標識薬剤を分離精製する放射性核種標識薬剤の精製方法であって、
前記放射性核種標識薬剤を含む溶液を蒸発乾固させる蒸発乾固工程を含み、
前記蒸発乾固工程の以前に前記放射性核種標識薬剤を含む溶液に、蒸発乾固によって結晶が析出される物質を添加する結晶化物質添加工程を含む
放射性核種標識薬剤の精製方法。
【請求項2】
前記蒸発乾固によって結晶が析出される物質が、薬剤学的に許される塩である
請求項1に記載の放射性核種標識薬剤の精製方法。
【請求項3】
前記薬剤学的に許される塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、およびリン酸二水素カリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の塩、または前記群より選ばれた複数種類の塩の混合物である
請求項2に記載の放射性核種標識薬剤の精製方法。
【請求項4】
前記放射性核種標識薬剤が、前立腺特異抗原結合性薬剤、ソマトスタチン受容体結合性薬剤、または線維芽細胞活性化タンパク質結合性薬剤である
請求項1に記載の放射性核種標識薬剤の精製方法。
【請求項5】
前記蒸発乾固によって結晶が析出される物質の添加量が、前記放射性核種標識薬剤を含む溶液における前記物質の濃度が0.01%以上10%以下である
請求項1~3のいずれか1項に記載の放射性核種標識薬剤の精製方法。
【請求項6】
放射性核種を標識した放射性核種標識薬剤を含む溶液から前記放射性核種標識薬剤を分離精製する放射性核種標識薬剤の精製装置であって、
前記放射性核種標識薬剤を含む溶液に、蒸発乾固によって結晶が析出される物質を添加する結晶化物質添加手段と、
前記放射性核種標識薬剤を含む溶液を蒸発乾固させる蒸発乾固手段と、を備える
放射性核種標識薬剤の精製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性核種標識薬剤の精製方法および放射性核種標識薬剤の精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんに対する核医学診断薬や核医学治療薬として、放射性核種を標識したペプチドが有望であるとして注目されている。ペプチドとしては、ソマトスタチン受容体に結合するドータテート(DOTA-TATE)や、前立腺特異抗原に結合するPSMA-617や、線維芽細胞活性化タンパク質(Fibroblast Activation Protein:FAP)結合性薬剤であるFAPI-04やFAPI-2286などが研究されている。また、それぞれのペプチドでは、化学構図を改変した多くの派生物質も検討されている。ソマトスタチン受容体を標的としたペプチドは神経内分泌腫瘍に対する核医学診断薬、治療薬としてすでに実用化されている。前立腺特異抗原を標的としたペプチドは前立腺がんに対する核医学診断薬、治療薬として期待されており、一部は実用化が始まっている。FAPは、がん関連線維芽細胞(CAF)で過剰発現するものの正常細胞はほとんど発現しないことから、がんに対する汎用的なターゲット抗原として注目されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“Development of Quinoline-Based Theranostic Ligands for the Targeting of Fibroblast Activation Protein”, JOURNAL OF NUCLEAR MEDICINE, 2018, 59 (9) 1415-1422.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射性核種をペプチドなどの薬剤に標識して放射性核種標識薬剤を生成する際に、放射化学的収率、すなわち結合収率が100%未満になる場合がある。この場合、リガンドに結合していない放射性核種を除去する必要がある。通常、薬剤に結合していない放射性核種の除去には、C18カラムを用いた固相抽出法による精製が行われる。固相抽出法による精製においては、放射性核種標識薬剤をC18カラムに通液して吸着させて純水によって洗浄した後、エタノールによって溶出する方法が一般的に行われる。エタノールは人体に投与することができないため、エバポレーションによってエタノールを除去した後に、乾燥した放射性核種標識リガンドを生理食塩水やリン酸緩衝生理食塩水などによって再溶解させて製剤化する必要がある。
【0005】
ここで、発明者が、放射性核種標識薬剤に対して固相抽出法による精製を行ったところ、エバポレーション後の生理食塩水による再溶解工程において溶出率が低い場合があることを見出した。放射性核種標識に例えばFAPI-04を用いた場合、生理食塩水によって再溶解された放射能は50%程度と低く、溶出しなかった放射性核種標識薬剤は容器に付着した状態であることを見出した。また、放射性核種標識薬剤を生理食塩水によって再溶解させる際に、放射性核種標識薬剤の多くが容器に付着して収率が低下する場合もある。特に、疎水性の強い化合物においてその傾向が顕著になる。そのため、本発明者は、放射性核種標識薬剤の生成において容器への付着率を低減して放射性核種標識薬剤の収率を向上できる技術の開発の必要性を見出した。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、放射性核種標識薬剤の生成において容器への付着率を低減して収率を向上できる放射性核種標識薬剤の精製方法および放射性核種標識薬剤の精製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製方法は、放射性核種を標識した放射性核種標識薬剤を含む溶液から前記放射性核種標識薬剤を分離精製する放射性核種標識薬剤の精製方法であって、前記放射性核種標識薬剤を含む溶液を蒸発乾固させる蒸発乾固工程を含み、前記蒸発乾固工程の以前に前記放射性核種標識薬剤を含む溶液に、蒸発乾固によって結晶が析出される物質を添加する結晶化物質添加工程を含む。
【0008】
本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製方法は、上記の発明において、前記蒸発乾固によって結晶が析出される物質が、薬剤学的に許される塩である。
【0009】
本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製方法は、上記の発明において、前記薬剤学的に許される塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、およびリン酸二水素カリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の塩、または前記群より選ばれた複数種類の塩の混合物である。
【0010】
本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製方法は、上記の発明において、前記放射性核種標識薬剤が、前立腺特異抗原結合性薬剤、ソマトスタチン受容体結合性薬剤、または線維芽細胞活性化タンパク質結合性薬剤である。
【0011】
本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製方法は、上記の発明において、前記蒸発乾固によって結晶が析出される物質の添加量が、前記放射性核種標識薬剤を含む溶液における前記物質の濃度が0.01%以上10%以下である。
【0012】
本発明の一態様に係る放射性核種標識薬剤の精製装置は、放射性核種を標識した放射性核種標識薬剤を含む溶液から前記放射性核種標識薬剤を分離精製する放射性核種標識薬剤の精製装置であって、前記放射性核種標識薬剤を含む溶液に、蒸発乾固によって結晶が析出される物質を添加する結晶化物質添加手段と、前記放射性核種標識薬剤を含む溶液を蒸発乾固させる蒸発乾固手段と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る放射性核種標識薬剤の精製方法および放射性核種標識薬剤の精製装置によれば、放射性核種標識薬剤の精製において容器への付着率を低減して収率を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による放射性核種標識薬剤の精製方法を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による放射性核種標識薬剤の精製装置を説明するためのブロック図である。
【
図3】
図3は、従来技術による放射性核種標識薬剤の精製方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0016】
まず、本発明の実施形態を説明するにあたり、本発明の理解を容易にするために、本発明者が上記課題を解決するために行った実験および鋭意検討について説明する。なお、本明細書において、アミド結合を含む直鎖状化合物を広義に、「ペプチド」と称する。すなわち、本明細書において「ペプチド」とは、天然アミノ酸のみで構成されたペプチドに限定されない。
【0017】
最初に、本発明者の鋭意検討の対象となった、従来の放射性核種標識薬剤の精製方法について説明する。すなわち、放射性核種を標識可能な、例えば以下の(1)式に示す線維芽細胞活性化タンパク質(Fibroblast Activation Protein:FAP)阻害剤(Inhibitor)(FAPI)に放射性核種を標識する際、結合収率(放射化学的収率)が100%未満になることがある。なお、放射性核種標識薬剤としては、前立腺特異抗原結合性薬剤、ソマトスタチン受容体結合性薬剤、または線維芽細胞活性化タンパク質結合性薬剤などを採用することができる。
【0018】
【0019】
この場合、リガンドに結合していない放射性核種(遊離放射性核種)を除去する必要がある。そこで、従来、放射性医薬品として用いられる放射性核種標識薬剤の精製においては、一般に、例えばC18カラムなどの固相抽出カラム(以下、カラム)を用いた固相抽出法によって精製が行われる。これにより、遊離放射性核種はカラムに吸着せず、放射性核種標識薬剤がカラムに吸着され、カラムに吸着した放射性核種標識薬剤を回収可能になる。
【0020】
図3は、従来技術による放射性核種標識薬剤の精製方法を説明するための図である。
図3に示すように、従来の放射性核種標識薬剤の精製方法においては、まず、カラムに純水を通液させることにより、活性化(以下、コンディショニング)を行う。カラムを通過した水からなる通過液は廃棄する。なお、コンディショニングが不要なカラムの場合には、この処理を省略可能である。なお、純水の代わりに、エタノール(C
2H
5OH)と純水との混合液(エタノール水溶液)を用いることも可能である。
【0021】
次に、放射性核種標識リガンド溶液をカラムに通液させる。これにより、放射性核種標識リガンドがカラムに吸着される。カラムを通過した遊離放射性核種を含む通過液は廃棄する。続いて、カラムに純水を通過させることにより、カラムの洗浄を行う。カラムを洗浄した後の通過液は廃棄する。なお、純水の代わりに、エタノールの濃度が10~30%で純水との混合液であるエタノール水溶液を用いることも可能である。
【0022】
カラムを純水によって洗浄した後、カラムに、エタノールの濃度が例えば70%以上で純水との混合液である高濃度のエタノール水溶液を通液させて、エタノール水溶液に、カラムに吸着した放射性核種標識リガンドを溶出させる。放射性核種標識リガンドが溶出されたエタノール水溶液は、カラムを通過した後に回収される。ここで、放射性核種標識リガンドを含む溶液(放射性核種標識リガンド溶液)を人体に投与することを考慮すると、エタノールを人体に投与するのは好ましくない。そのため、回収されたエタノール溶液は、エバポレーション、すなわち蒸発乾固によってエタノールが除去される。すなわち、カラムを通過したエタノール溶液は放射性核種標識リガンドが含まれた状態で蒸発乾固される。その後、乾燥した放射性核種標識リガンドは、生理食塩水によって再溶解されて製剤化される。また、カラムは廃棄される。
【0023】
従来、一般的には、上述した精製方法によって放射性核種標識リガンドを製剤化していた。しかしながら、発明者が、FAPIなどからなる放射性核種標識リガンド溶液に対して、上述した固相抽出法によって精製を行ったところ、生理食塩水による再溶解過程において、溶出率が50%程度と極めて低い溶出率であることを見出した。
【0024】
この低い溶出率の原因について本発明者が実験および鋭意検討を行ったところ、放射性核種標識リガンドを再溶解する際に、放射性標識リガンドが再溶解用の容器に付着したままの状態になることが原因であることを見出した。これは、FAPIなどのリガンドは、水に対する溶解度が低いことが原因であると考えられる。ここで本発明者の知見によれば、カラムに通液させる溶媒として、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)やエタノールなどの有機溶媒を用いることによって、放射性核種標識リガンドを高い割合で再溶解させることが可能である。しかしながら、上述したように、人体に使用することを考慮すると、有機溶媒の濃度は0.5%以下にする必要があるため、放射性核種標識リガンドの再溶解に有機溶媒を使用することは現実的に極めて困難であった。そのため、現実的には、再溶解液として用いることができる溶媒は、生理食塩水やリン酸緩衝液のみに限定されていた。しかしながら、生理食塩水やリン酸緩衝液を用いて再溶解を行っても、放射性核種標識リガンドの回収率は極めて低い値であった。
【0025】
そこで、以上の問題を解決するために、本発明者が種々実験および鋭意検討を行ったところ、蒸発乾固される溶液に例えば塩化ナトリウム(NaCl)などの薬剤学的に許される塩を添加することが有効であることを見出した。なお、薬剤学的に許される塩とは、薬剤の分解や変性の抑制、薬剤の溶解度向上、pHの安定化、浸透圧の調整などの機能を有する物質のうちで、生体にとって害の少ないものをいう。薬剤学的に許される塩は具体的に例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、およびリン酸二水素カリウム(KH2PO4:KDP)などの無機塩、グルコース(C6H12O6)、フルクトース(C6H12O6)、スクロース(C12H22O11)、ソルビトール(C6H14O6)、マルトース(C12H22O11)、トレハロース(C12H22O11)などの糖類、アミノ酸、クエン酸(C6H8O7)、アスコルビン酸(C6H8O6)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3)、エチレンジアミン四酢酸(C10H16N2O8:EDTA)、界面活性剤などの添加剤や、これらの化合物の混合物が挙げられる。また、薬剤学的に許される塩として好適には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、およびリン酸二水素カリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の塩、またはこの群より選ばれた複数種類の塩の混合物を採用できる。また、カラムから溶出された溶液に生理食塩水を添加してからエバポレーションを行っても良いし、エタノールと生理食塩水との混合液を用いてカラムから放射性核種標識リガンドを溶出させてエバポレーションを行っても良い。さらに、塩化ナトリウムは有機溶媒と異なり、薬剤に含有された状態で人体に使用されても問題が生じないため好ましい。
【0026】
さらに、例えばFAPIなどの薬剤は、水に対して解けづらい性質、すなわち難溶性を有する。ところが、NaClとともにエバポレーションを行うと、塩化ナトリウム結晶に取り込まれた状態で、薬剤が析出される。薬剤が、水に容易に溶解する易溶性の塩化ナトリウム結晶に取り込まれた状態で析出されることにより、生理食塩水などを用いて、さらに溶解させれば、例えばFAPIなどの放射性核種標識薬剤も従来に比して、高い溶解度で溶解させることができる。本発明者が確認したところ、アルコール水溶液に溶解された放射性核種標識薬剤をほぼ100%再溶解させることが可能となることが確認された。
【0027】
以上のように、本発明者は、放射性核種標識薬剤を含むアルコール溶液を蒸発乾固させる際に、アルコール溶液に塩化ナトリウムを混合させる技術を案出した。これにより、カラムを通過したアルコール溶液を回収して蒸発乾固させると、NaClが析出して、放射性核種標識薬剤が塩化ナトリウム析出物に取り込まれた状態で析出させることができる。そのため、再溶解用の容器に付着することなく、再溶解後の純水や生理食塩水などによって、高い溶出率で容易に再溶解可能になる。本発明は、本発明者による、以上の実験および鋭意検討により案出されたものである。
【0028】
次に、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態による放射性核種標識薬剤の精製方法を説明するための図である。
【0029】
図1に示すように、一実施形態による放射性核種標識薬剤の精製方法においては、まず、カラムに生理食塩水を通液させることにより、コンディショニングを行う。カラムを通過した生理食塩水からなる通過液は廃棄する。なお、コンディショニングが不要なカラムの場合には、この処理を省略可能である。
【0030】
次に、放射性核種標識リガンド溶液をカラムに通液させる。これにより、放射性核種標識リガンドがカラムに吸着される。カラムを通過した遊離放射性核種を含む通過液は廃棄する。続いて、カラムに生理食塩水を通過させることにより、カラムの洗浄を行う。なお、生理食塩水の代わりにリン酸緩衝液を用いても良い。カラムを洗浄した後の通過液は廃棄される。
【0031】
カラムが生理食塩水によって洗浄された後、カラムにエタノール(C2H5OH)と生理食塩水(塩化ナトリウム溶液)との混合液(エタノール/生理食塩水混合溶液)を通液させる。なお、エタノールと純水との混合液を用いることも可能である。これにより、エタノール溶液に、カラムに吸着した放射性核種標識リガンドが溶出される。放射性核種標識リガンドが溶出されたエタノール溶液は、カラムを通過した後に回収される。
【0032】
次に、回収されたエタノール溶液に所定の濃度になるように、塩化ナトリウムを添加する。ここで、NaClの濃度としては、典型的には0.01%以上10%以下、好適には0.1%以上3%以下が望ましく、本実施形態においては、例えば0.9%程度とする。
【0033】
次に、回収されたNaClを含むエタノール溶液に対して、エバポレーション(蒸発乾固)を行うことによって、エタノールが除去される。すなわち、カラムを通過したエタノール溶液は塩化ナトリウムおよび放射性核種標識リガンドが含まれた状態で蒸発乾固される。これにより、回収用の容器において塩化ナトリウムが析出し、放射性核種標識リガンドは、塩化ナトリウム析出物が取り込まれた状態で、回収用の容器に付着することなく、析出される。
【0034】
その後、乾燥した放射性核種標識リガンドは、純水または生理食塩水によって再溶解されて放射性核種標識薬剤として製剤化される。ここで、製剤化された放射性核種標識薬剤のNaCl濃度は、人体に使用可能な濃度とすることが好ましく、典型的には0.01%以上10.0%以下、好適には0.5%以上1.5%以下、本実施形態においては、例えば0.9%程度とする。以上により、本実施形態による放射性核種標識薬剤の精製処理が終了する。
【0035】
以上の放射性核種標識薬剤としては、種々の薬剤を採用することが可能である。具体的な代表例を挙げると、以下の化学式(2)、(3)などを挙げることができるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0036】
【0037】
【0038】
次に、本発明の一実施形態による放射性核種標識薬剤の精製装置について説明する。
図2は、一実施形態による放射性核種標識薬剤の精製装置を示すブロック図である。
図2に示すように、放射性核種標識薬剤の精製装置10は、溶解槽2、吸着樹脂4が充填された樹脂カラム5、加熱部11、廃液バイアル12、リザーバタンク13a,13b,13c、バルブ14a,14b,14c,15a,15b,15cを有する配管系を備える。リザーバタンク群13は、それぞれが各種溶媒や各種溶液を貯留可能な貯留槽を構成するリザーバタンク13a,13b,13cから構成される。
【0039】
溶解槽2は、放射性核種が標識された放射性核種標識薬剤を溶解させて放射性核種標識リガンド溶液を生成するための槽である。溶解槽2には、リザーバタンク13aから溶解用溶液が供給される。リザーバタンク13aには、溶解用溶液が貯留されている。リザーバタンク13aから溶解槽2に溶解用溶液が供給されることによって、放射性核種標識薬剤が溶解される。これにより、溶解工程が実行されて、放射性核種標識リガンド溶液が生成される。リザーバタンク13aから溶解槽2への溶解用溶液の供給は、バルブ15aの開閉により制御される。
【0040】
吸着樹脂4が充填された樹脂カラム5には、溶解槽2から排出された放射性核種標識リガンド溶液が供給可能に構成される。溶解槽2から樹脂カラム5への放射性核種標識リガンド溶液の供給は、バルブ2aにより制御される。溶解槽2から樹脂カラム5に溶解液が供給されることにより、吸着工程が実行され、内部に充填された吸着樹脂4に放射性核種標識薬剤のイオンが吸着する。樹脂カラム5には、リザーバタンク13b,13cからそれぞれ、例えば生理食塩水などのカラム洗浄溶液、および例えばエタノールと生理食塩水との混合液などの溶出用溶液が供給可能に構成される。
【0041】
リザーバタンク13bには洗浄用溶液としての生理食塩水が貯留されている。リザーバタンク13bから樹脂カラム5に生理食塩水が供給されることによって、洗浄工程が実行される。リザーバタンク13bから樹脂カラム5への洗浄用溶液の供給は、バルブ15bの開閉により制御される。吸着工程、および洗浄工程において、樹脂カラム5の排液口5aから排出される通過液は、三方弁16aの切り換えに応じて、廃液バイアル12に供給される。
【0042】
リザーバタンク13cには、溶出用溶液としてエタノール/生理食塩水混合液が貯留されている。リザーバタンク13cから樹脂カラム5に溶出用溶液が供給されることによって、溶出工程が実行される。リザーバタンク13cから樹脂カラム5への溶出用溶液の供給は、バルブ15cの開閉により制御される。回収工程において、樹脂カラム5の排液口5aから排出された回収通過液6は、三方弁16aの切り換えに応じて、蒸発乾固手段としての加熱部11に供給される。
【0043】
加熱部11は、回収バイアル11aの周辺に加熱手段としてのヒータ11bが配置されて構成される。加熱部11は、ヒータ11bによって回収バイアル11aを加熱可能に構成される。回収バイアル11aの内部は、流量調節計などを含む気体供給部19から不活性ガスや空気などの気体が供給可能に構成されているとともに、三方弁16aを介して回収通過液6が流入可能に構成される。なお、気体供給部19から回収バイアル11aの内部に気体を供給する際には、バルブ16bを閉状態にして、三方弁16aに向かう気体の流れを抑制する。
【0044】
回収バイアル11aの内部は、バルブ18を介して真空ポンプに連通している。バルブ18の開閉によって、回収バイアル11aの内部を減圧して、回収通過液6の流入を容易にすることが可能である。なお、回収バイアル11aの内部の回収通過液6を取り出し可能な配管を設けることも可能である。
【0045】
さらに、本実施形態においては、結晶化物質添加手段としての正塩供給部20が設けられている。正塩供給部20は、回収バイアル11aの内部に、蒸発乾固によって結晶化する物質である正塩として、例えばNaClを供給可能に構成される。正塩供給部20は、所定の正塩貯留部(図示せず)から、必要に応じて、回収通過液6に正塩を適宜供給する。正塩供給部20によって、後述する蒸発乾固工程より前または同時に、回収通過液6に正塩が添加される結晶化物質添加工程としての正塩添加工程が実行される。
【0046】
加熱部11においては、ヒータ11bによって回収バイアル11aが加熱され、収容された回収通過液6が加熱されることによって、蒸発乾固工程が実行される。加熱部11において回収通過液6を蒸発乾固させることにより、放射性核種標識薬剤が例えばNaClの結晶に取り込まれた状態の物質が得られる。ここで、回収バイアル11aの内部を減圧しながら、気体供給部19から例えば不活性ガスなどの気体を回収バイアル11aの内部に供給してバブリングによる撹拌を行うことによって、蒸発乾固の所要時間を短縮できる。以上により、放射性核種標識リガンド溶液から結晶に取り込まれた放射性核種標識薬剤が分離精製される。
【0047】
放射性核種標識薬剤の精製装置10は、不活性ガス供給源から溶解槽2およびリザーバタンク群13に不活性ガスを供給するために、供給量制御部としてのマスフローコントローラ(MFC)17を備える。不活性ガスは、MFC17を通じて溶解槽2およびリザーバタンク13a~13cにそれぞれ、選択的に供給される。溶解槽2、それぞれのリザーバタンク13a~13cへの不活性ガスの供給はそれぞれ、バルブ2b、バルブ14a~14cの開閉により制御される。供給された不活性ガスの圧力によって各種溶液を移動できる。なお、各種溶液の移動に用いられる不活性ガスは、例えばヘリウム(He)や窒素(N2)などが好適に用いられるが、必ずしもこれらのガスに限定されるものではない。また、廃液バイアル12の内部は、バルブ18を介して真空ポンプに連通されている。バルブ18の開閉によって、廃液バイアル12の内部を減圧して、各種溶液の流入を容易にすることが可能である。
【0048】
以上のように構成された放射性核種標識薬剤の精製装置10において、溶解工程、吸着工程、洗浄工程、回収工程、添加工程、正塩添加工程、および蒸発乾固工程を実行することによって、放射性核種標識薬剤を高純度で含む物質を得ることができる。なお、放射性核種標識薬剤を使用する際には、得られた物質を例えば純水や生理食塩水などの所定の溶液に溶解させて使用することができる。
【0049】
以上説明した一実施形態によれば、放射性核種標識薬剤を含むエタノール溶液などの有機溶媒を蒸発乾固させる際に、正塩の水溶液として塩化ナトリウム水溶液を混合しておくことにより、放射性核種標識薬剤の精製において容器への付着率を低減して収率を向上させることが可能になる。
【0050】
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよく、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により本発明は限定されることはない。
【0051】
また、放射性核種標識薬剤の精製装置10において、それぞれのバルブ2a,2b,14a~14c,15a~15c,18、三方弁16a、それぞれのリザーバタンク13a~13c、およびMFC17などの各構成部を制御する制御部を備えても良い。この場合、制御部が各構成部を制御することによって、上述した放射性核種標識薬剤の精製方法を実行可能となる。さらに、溶解用酸性溶液および洗浄用酸性溶液として、同一種かつ同じ濃度の酸性溶液を使用する場合、溶解用酸性溶液のリザーバタンク13aおよび洗浄用酸性溶液のリザーバタンク13bを共通とし、一つのリザーバタンクから溶解用酸性溶液および洗浄用酸性溶液としての酸性溶液を供給しても良い。
【0052】
また、上述した一実施形態においては、蒸発乾固工程以前に放射性核種標識薬剤を含む有機溶媒に、蒸発乾固によって結晶が析出される物質としてNaClを添加しているが、NaClなどの正塩以外の物質を用いることも可能である。この場合、添加する物質としては、蒸発乾固において結晶化して析出する物質であれば、あらゆる物質を採用することができ、正塩に限定されるものではない。
【0053】
また、本発明は、上述した放射性核種標識薬剤以外にも種々の放射性核種標識薬剤に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
2 溶解槽
2a,2b,14a,14b,14c,15a,15b,15c,16b,18 バルブ
4 吸着樹脂
5 樹脂カラム
5a 排液口
6 回収通過液
10 精製装置
11 加熱部
11a 回収バイアル
11b ヒータ
12 廃液バイアル
13a,13b,13c リザーバタンク
16a 三方弁
19 気体供給部
20 正塩供給部