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特開2023-180000インサートの評価方法及びインサートの評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180000
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】インサートの評価方法及びインサートの評価システム
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20231213BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
E04B1/41 502C
E04G21/12 105Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093026
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】栗田 康平
(72)【発明者】
【氏名】柏俣 明子
(72)【発明者】
【氏名】榎本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】田中 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 元嗣
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AG12
2E125BA02
2E125BA24
2E125BA32
2E125BB08
2E125BB19
2E125BB22
2E125BB27
2E125BC09
2E125BD01
2E125BE07
2E125BE08
2E125BF04
2E125CA03
2E125CA19
2E125CA82
(57)【要約】
【課題】インサートの抜け出し耐力を適切に評価するためのインサートの評価方法及びインサートの評価システムを提供する。
【解決手段】評価装置は、コンクリート部材C1に埋め込まれるインサート10のインサートの引張耐力を評価する。このインサート10は、高ナット15と、この高ナット15に螺合する取付用ボルト11とを備える。評価装置は、取付用ボルト11の頭部11aと軸部11bとの境界から、高ナット15の取付用ボルト11側の端部までの離間距離hb1と、取付用ボルト11の頭部11aの円筒形状とに応じて算出される仮想円筒表面積を用いて、インサート10の抜け出し耐力Pa5を引張耐力として評価する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高ナットと、この高ナットに螺合する突起付きねじ部材とを備え、コンクリート部材に埋め込まれるインサートの引張耐力を評価する評価方法であって、
前記突起付きねじ部材の突起部と軸部との境界から、前記高ナットの前記突起付きねじ部材側の端部までの離間距離と、前記突起付きねじ部材の突起部の外形形状とに応じて算出される仮想筒体表面積を用いて、前記インサートの抜け出し耐力を前記引張耐力として評価することを特徴とするインサートの評価方法。
【請求項2】
前記突起付きねじ部材は、六角ボルトであって、
前記突起付きねじ部材の突起部は、前記六角ボルトの頭部であって、
前記仮想筒体表面積は、前記頭部の二面幅を直径とする円の円周と前記離間距離とを乗算することにより算出される円筒形状の表面積であることを特徴とする請求項1に記載のインサートの評価方法。
【請求項3】
前記抜け出し耐力が、前記インサートにおいて要求される必要耐力を満たさなかった場合には、前記必要耐力以上の抜け出し耐力となる前記離間距離及び前記突起部の外形形状の大きさを特定することを特徴とする請求項1又は2に記載のインサートの評価方法。
【請求項4】
高ナットと、この高ナットに螺合する突起付きねじ部材とを備え、コンクリート部材に埋め込まれるインサートの引張耐力を評価する制御部を備えた評価システムであって、
前記制御部は、
前記突起付きねじ部材の突起部と軸部との境界から、前記高ナットの前記突起付きねじ部材側の端部までの離間距離と、前記突起付きねじ部材の突起部の外形形状とに応じて算出される仮想筒体表面積を用いて、前記インサートの抜け出し耐力を前記引張耐力として評価することを特徴とするインサートの評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高ナットと、この高ナットに螺合する突起付きねじ部材とを備え、コンクリート部材に埋め込まれるインサートの引張耐力を評価するインサートの評価方法及びインサートの評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物において、コンクリート部材に埋設したインサートを用いることがある(例えば、特許文献1。)。特許文献1の埋め込みインサートは、型枠の通し孔を通過するアンカーボルトと、これに螺合する高ナット(長ナット)よりなるインサート本体と、高ナットにアンカーボルトと対向して螺合するダミーボルトとを備えている。
【0003】
また、図11に示すように、コンクリート部材C6に埋設されたインサート60は、突起付きボルト61(突起付き軸)と高ナット65とを備える。更に、高ナット65の開口側のねじ部には、ボルト67が螺合されている。
【0004】
このようなインサート60の設計においては、短期許容引張耐力を算定する(非特許文献1参照。)。非特許文献1に記載されているように、従来、短期許容引張耐力は、以下の4種類の耐力の最小値(min(Pa1,Pa2,Pa3,Pa4))で算出されている。
【0005】
・ボルト軸部の降伏により決まる場合の鋼材引張耐力Pa1
・コンクリート躯体のコーン状破壊により決まる場合のコーン破壊耐力Pa2
・袋ナット頭部または突起付きボルト頭部での支圧により決まる頭部コンクリート支圧耐力Pa3
・袋ナット頭部または突起付きボルト頭部のコンクリート支圧により決まる頭部コンクリート支圧耐力Pa4
【0006】
上記の短期許容引張耐力は、突起付き袋ナット、突起付きボルトの頭部径Dn6を軸部径d6より十分な大きさを確保した場合(Dn6≧2.5×d6)を想定している。また、非特許文献1には、頭部径Dn6が長ナット径dn6より小さい場合には、抜け出し破壊を防ぐため、高ナット65と首下長さh6は、頭径部の出寸法a6の8倍以上とすることが記載されている。更に、頭部径Dn6が長ナット径dn6より大きい場合でも、h6≧3.5×d6を確保することが望ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平04-20567号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】一般社団法人日本免震構造協会著、「免震部材の接合部・取付け躯体の設計指針」、日本免震構造協会出版、2020年1月1日発行、p.6-p.19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
鉄骨二次部材等を鉄筋コンクリート部材に接合する接合部等、鉄骨部材端部に生じる曲げモーメントが小さい部位の接合部には、インサートを用いることがある。この場合、上述のインサートの仕様規定を満足させる最小寸法の規定値を採用していた。その理由は、上述の仕様規定を満足しないインサートの引張耐力を評価する手法がなかったためである。従って、用途に応じた適切な引張耐力を有するインサートの実装を実現できていなかった。この実装の実現においては、インサートの引張耐力を適切に評価する必要がある。しかし、従来、曲げモーメントが小さい部位に用いられるインサートの引張耐力について適切な評価方法が不明であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する評価方法は、高ナットと、この高ナットに螺合する突起付きねじ部材とを備え、コンクリート部材に埋め込まれるインサートの引張耐力を評価する評価方法であって、前記突起付きねじ部材の突起部と軸部との境界から、前記高ナットの前記突起付きねじ部材側の端部までの離間距離と、前記突起付きねじ部材の突起部の外形形状とに応じて算出される仮想筒体表面積を用いて、前記インサートの抜け出し耐力を前記引張耐力として評価する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インサートの抜け出し耐力を適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態におけるインサートの構造を説明する説明図であって、(a)は左側面図、(b)は正面図である。
図2】実施形態における評価装置の説明図である。
図3】実施形態における評価装置のハードウェア構成例の説明図である。
図4】実施形態におけるインサートの仮想円筒せん断耐力を算出する算出式を説明する概念の説明図である。
図5】実施形態において実験に用いた試験体の詳細寸法を表示した表である。
図6】実施形態における抜け出し破壊を起こした試験体における離間距離と仮想円筒せん断耐力との関係を示すグラフである。
図7】実施形態における破壊種別毎の実験結果の計算値と最大耐力実験値との比較結果を示すグラフである。
図8】実施形態における耐力評価処理の処理手順を説明する流れ図である。
図9】実施形態における再設計処理の処理手順を説明する流れ図である。
図10】変更例におけるインサートの仮想筒体表面積を算出する説明図である。
図11】従来技術におけるインサートの構造を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1図9を用いて、インサートの評価方法及びインサートの評価システムを具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、高ナットと突起付きボルトとを備えた簡易組立インサートの耐力を評価する。
この簡易組立インサートは、鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造の建物において、コンクリート躯体に主にせん断力を伝達する鉄骨部材端部のガセットプレート用ベースプレートの躯体取合い部に設けられる。ここで、主にせん断力を伝達するとは、曲げモーメントの影響を無視できる大きさのせん断力を伝達することを意味する。具体的には、以下の部分に適用可能である。
・躯体にピン接合する鉄骨小梁や間柱等
・躯体側面にピン接合する鉄骨吊り柱等
【0014】
(インサートの構成)
まず、本実施形態における耐力を評価するインサートの構成について説明する。
図1(a)及び(b)は、それぞれ、本実施形態のインサート10の左側面図及び正面図である。
【0015】
図1(b)に示すように、本実施形態のインサート10は、コンクリート部材C1に埋設される。このインサート10は、突起付きねじ部材としての取付用ボルト11及び高ナット15を備える。
【0016】
図1に示すように、取付用ボルト11は、六角ボルトであり、二面幅Dn1の頭部11aと、軸径d1の軸部11bとを備える。ここでは、頭部11aが突起部として機能する。軸部11bの先端側の外周には、おねじが形成されたねじ部11cが形成されている。また、本実施形態における(先端)跳ね出し長さa1は、頭部11aの二面幅Dn1の半分から軸径d1の半分までの大きさである。更に、この取付用ボルト11のねじ部11cは、高ナット15と螺合している。
【0017】
高ナット15は、長尺の六角ナットである。本実施形態の高ナット15は、取付用ボルト11の頭部11aと同じ大きさを有している。この高ナット15は、その端部が、コンクリート部材C1の側面と一致するように配置されている。更に、高ナット15の取付用ボルト11の先端が螺合していないねじ孔15aは開口している。なお、インサート10を取り付ける際には、ねじ孔15aの開口にボルト(図示せず)を螺合してもよい。
【0018】
また、図1において、高ナット15に取付用ボルト11が螺合されている状態において、コンクリート部材C1の端部から取付用ボルト11の頭部11aまでを、有効埋込長さle1としている。また、取付用ボルト11の頭部11aと軸部11bとの境界から高ナット15の取付用ボルト11側の端部までを、離間距離hb1としている。
【0019】
(評価装置の説明)
次に、図2を用いて、上述したインサート10の引張耐力を評価するための評価装置20について説明する。
【0020】
(ハードウェア構成の説明)
ここで、図3を用いて、評価装置20を構成する情報処理装置H10のハードウェア構成を説明する。情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を備える。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアにより実現することも可能である。
【0021】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースである。
入力装置H12は、各種情報の入力や評価者等からの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、入力された各種情報や評価結果等の出力情報を表示するディスプレイやタッチパネル等である。
【0022】
記憶装置H14は、評価装置20の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶装置である。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、評価装置20における各処理(例えば、後述する制御部21における処理)を制御する。
【0023】
(評価装置20の機能)
次に、図2を用いて、評価装置20の各機能を説明する。
評価装置20は、インサート10の耐力を評価するコンピュータシステムである。
評価装置20は、制御部21、評価式記憶部25、評価対象情報記憶部26及び部品規格情報記憶部27を備える。
【0024】
制御部21は、後述する処理(評価段階及び再設計段階等を含む処理)を行なう。このための処理プログラムを実行することにより、制御部21は、評価部211及び再設計部212等として機能する。
【0025】
評価部211は、評価対象であるインサート10の詳細情報や必要耐力等の情報を取得し、評価式記憶部25に記憶した評価式を用いてインサート10の耐力を評価する処理を実行する。
【0026】
再設計部212は、評価部211において算出したインサート10の耐力が必要耐力よりも小さい場合には、必要耐力以上となるインサート10の再設計情報を特定して、出力する処理を実行する。ここでは、インサート10の再設計情報として、離間距離hb1及び取付用ボルト11の呼び径等を用いる。
【0027】
評価式記憶部25には、インサート10の耐力を算出する評価式が記録される。本実施形態では、上述した4種類の耐力のうち影響の大きい3種類の耐力(Pa1,Pa2,Pa4)、仮想筒体表面積としての仮想円筒表面積Actを用いたインサート10の抜け出し耐力Pa5の各算出式が記録される。この抜け出し耐力Pa5の算出式の詳細については、後述する。
【0028】
評価対象情報記憶部26は、評価対象部材の詳細情報に関するデータが記録される。この評価対象データは、入力装置H12から評価対象部材の情報を取得した場合に記録される。評価対象データは、インサート識別子、コンクリート圧縮強度、ボルト識別子、高ナット識別子、高ナットの長さ、離間距離、再設計値等に関するデータを含んで構成される。
【0029】
インサート識別子データ領域には、評価対象となる各インサート10を特定するための識別子に関するデータが含まれる。
コンクリート圧縮強度データ領域には、このインサート10を埋設するコンクリート部材C1の圧縮強度に関するデータが含まれる。
【0030】
ボルト識別子データ領域には、このインサート10に用いられる取付用ボルト11を特定するための識別子に関するデータが含まれる。本実施形態では、ボルト識別子として、ボルトの呼び径を用いる。
【0031】
高ナット識別子データ領域には、このインサート10に用いられる高ナット15を特定するための識別子に関するデータが含まれる。本実施形態では、高ナット識別子として、高ナット15のねじの呼び径を用いる。
【0032】
高ナットの長さデータ領域には、この高ナット15の長さに関するデータが含まれる。
離間距離データ領域には、離間距離hb1に関するデータが記録される。本実施形態では、離間距離hb1として、跳ね出し長さa1の比を用いる。
【0033】
再設計値データ領域には、再設計した離間距離及び取付用ボルト11の呼び径に関するデータが記録される。このデータは、算出した最小の耐力が抜け出し耐力Pa5の場合であって、この抜け出し耐力Pa5が必要耐力より小さい場合に、必要耐力以上となる離間距離及び取付用ボルト11の呼び径を特定した場合に記録される。
【0034】
部品規格情報記憶部27は、ボルト及び高ナットの規格の詳細情報に関するデータが記録される。この部品規格情報データは、評価対象部材の情報を取得する前に取得されて記録される。部品規格情報には、ボルト規格情報及び高ナット規格情報が含まれる。ボルト規格情報には、ボルトの呼び径、二面幅、軸径、跳ね出し長さに関するデータが含まれる。高ナット規格情報には、高ナットの呼び径及び二面幅に関するデータが含まれる。
【0035】
ボルトの呼び径データ領域には、各ボルトの呼び径に関するデータが記録される。この呼び径を介して、評価対象データの取付用ボルトの二面幅、軸径及び跳ね出し長さを特定することができる。
ボルトの二面幅データ領域、軸径データ領域及び跳ね出し長さデータ領域には、この呼び径のボルトの二面幅、軸径及び跳ね出し長さに関するデータが記録される。
高ナットの呼び径データ領域には、呼び径及び二面幅に関するデータが記録される。
【0036】
(抜け出し耐力の算出)
次に、上述した抜け出し耐力Pa5の算出式について説明する。
図4に示すように、抜け出し耐力Pa5は、仮想筒体としての仮想円筒V1で定まるインサート10の1本当たりの抜け出し耐力である。仮想円筒V1は、取付用ボルト11の頭部11aの仮想円筒31と、高ナット15の仮想円筒35との離間部に形成された円筒であり、離間距離hb1の長さを有した円筒形状の物体である。頭部11a及び高ナット15は、同じ二面幅Dn1を有するため、仮想円筒31,35,V1は、この二面幅Dn1を直径とする円筒である。
【0037】
そして、抜け出し耐力Pa5は、次式(1)で示される。
Pa5=Φ・Act・β・σ …(1)
ここで、Φは低減係数、Actは仮想円筒表面積、βは係数、σはコンクリート圧縮強度である。仮想円筒表面積Actは、取付用ボルト11の頭部11aの二面幅Dn1を直径とする円の円周に離間距離hb1を乗算して算出される。低減係数Φは2/3と設定し、係数βは、以下に説明するように、0.75に設定している。
【0038】
抜け出し耐力Pa5は、インサート10のコンクリート部材C1に対する付着力に起因する耐力である。この場合、インサート10においては、離間距離hb1が長い程、また取付用ボルト11の頭部11aが大きい程、抜け出し破壊が起こり難いと考えられる。
【0039】
そこで、仮想円筒V1の仮想円筒表面積Actを用いたインサート10の抜け出し耐力Pa5で、抜け出し耐力を確保できると想定して、各種試験体について、以下の2つの実験を行なった。
・組合せ応力におけるインサート10の破壊性状と耐力
・インサート10の離間距離hb1の性状確認
ここで、実験においては、取付用ボルト11は強度区分4.8、高ナット15はSS400相当の鋼種を用いる。更に、取付用ボルト11として、呼び径M16~M24、離間距離hb1として、6×a1(跳ね出し長さ)~10×a1を用いる。
【0040】
図5には、実験に用いた試験体の寸法及び試験体数を記載している。更に、図5の備考には、実験により破壊されたインサートの破壊モードが記載されている。
また、図5に示すように、本実施形態において試験体の名前は、コンクリート圧縮強度、ボルト軸径及び離間距離を意味する識別子を、この順番で結合して用いる。試験体の名前の先頭の「L」は、コンクリート圧縮強度が24N/mm、「H」は、コンクリート圧縮強度が36N/mmを示している。ボルト軸径として、16mm又は24mmを用いる。離間距離hb1として、跳ね出し長さa1の比(6a,8a,10a,16a)を用いる。従って、試験体「L-16-8a」は、コンクリート圧縮強度が24N/mm、ボルト軸径16mm、離間距離hb1が跳ね出し長さa1の8倍であるの試験体を意味している。
【0041】
図6は、複数のインサートの抜け出し破壊の実験結果から特定した、仮想円筒せん断耐力σcsとコンクリート圧縮強度σとの関係を示したグラフである。このグラフにおいて、コンクリート圧縮強度σに対する仮想円筒せん断耐力σcsが最も低い試験体の値から、係数βを0.75に設定する。
【0042】
また、図7は、耐力の計算値Paと、最大耐力Pmaxと、そのときの破壊モードを示している。ここで、図7中の三角形印は、鋼材引張耐力Pa1に起因する破壊モードを示している。また、白印丸はコーン破壊耐力Pa2に起因した破壊モードを示している。また、菱形印は抜け出し耐力Pa5に起因した破壊モードを示している。また、黒丸印は頭部コンクリート支圧耐力Pa4に起因した破壊モードを示している。抜け出し破壊は、計算値Paが150kN以下で生じており、計算値よりも、最大耐力の実験値の方が、1.5倍程度大きいことが把握できる。
【0043】
(インサートの耐力評価)
図8に示すように、インサート10を評価する場合には、耐力評価処理を実行する。
ここで、評価者は、評価対象のインサート10の情報と、このインサート10において要求される必要耐力とを、評価装置20の入力装置H12に入力し、耐力評価処理の実行を指示する。ここで、インサート10の情報としては、取付用ボルト11の呼び径、高ナット15の呼び径及び長さ、離間距離、インサート10を埋設するコンクリート圧縮強度等が含まれる。
【0044】
これにより、評価装置20の制御部21は、評価対象のインサートの情報の取得処理を実行する(ステップS11)。具体的には、制御部21の評価部211は、評価対象のインサート10の情報及び必要耐力等を取得する。
【0045】
次に、評価装置20の制御部21は、引張耐力の算出処理を実行する(ステップS12)。具体的には、制御部21の評価部211は、評価式記憶部25に記憶された各耐力(Pa1,Pa2,Pa4,Pa5)の算出式に、取得したインサート10の情報を入力し、各耐力を算出する。そして、評価部211は、算出した各耐力の計算値のうち最小の計算値を、このインサート10の引張耐力として特定する。そして、評価部211は、特定した引張耐力と、その耐力に対応する破壊モードとを、表示装置H13に表示する。
【0046】
次に、評価装置20の制御部21は、評価判定処理を実行する(ステップS13)。具体的には、制御部21の評価部211は、抜け出し耐力が最小で必要耐力より小さいか否かを判定する。ここで、最小の耐力値が抜け出し耐力Pa5でない場合(ステップS13において「NO」の場合)には、評価部211は、最小の耐力値の破壊モードを表示装置H13に表示し、処理を終了する。
【0047】
また、最小の耐力値が抜け出し耐力Pa5の場合には、算出した最小の耐力値(抜け出し耐力Pa5)と必要耐力とを比較する。ここで、抜け出し耐力Pa5が必要耐力以上の場合(ステップS13において「NO」の場合)には、評価部211は、必要耐力以上の抜け出し耐力がある旨を表示装置H13に表示し、処理を終了する。
【0048】
一方、抜け出し耐力Pa5が必要耐力より小さい場合(ステップS13において「YES」の場合)には、評価装置20の制御部21は、再設計処理を実行する(ステップS14)。
【0049】
図9を用いて、再設計処理(ステップS14)を説明する。
ここでは、まず、制御部21の再設計部212は、離間距離の調整処理を実行する(ステップS21)。具体的には、再設計部212は、評価対象のインサート10の離間距離hb1を、許容範囲まで大きくした場合の抜け出し耐力Pa5を算出する。そして、再設計部212は、離間距離hb1を大きくすることにより算出した抜け出し耐力Pa5が必要耐力以上か否かを判定する。
【0050】
ここで、抜け出し耐力Pa5が必要耐力以上となった場合(ステップS22において「YES」の場合)には、制御部21の再設計部212は、再設計したインサートの出力処理を実行する(ステップS25)。具体的には、再設計部212は、抜け出し耐力Pa5と必要耐力とが同じとなる離間距離hb1を算出することにより特定した離間距離hb1と、特定した取付用ボルト11の呼び径とを、評価対象情報記憶部26の再設計値データ領域に記録する。更に、再設計部212は、特定した離間距離hb1と取付用ボルト11の呼び径とを表示装置H13に表示する。
【0051】
一方、最大の許容範囲まで離間距離hb1を大きくしたときの抜け出し耐力Pa5が必要耐力より小さいと判定した場合(ステップS22において「NO」の場合)、制御部21の再設計部212は、取付用ボルトの変更処理を実行する(ステップS23)。具体的には、再設計部212は、直前の離間距離の調整処理(ステップS21)で用いた取付用ボルト11の呼び径より1つ大きい呼び径のボルトのボルト規格情報を、部品規格情報記憶部27から取得する。そして、再設計部212は、取得したボルト規格情報のボルトと、評価した離間距離hb1とを用いて、抜け出し耐力Pa5を算出し、この抜け出し耐力Pa5が必要耐力以上となるか否かを判定する。
【0052】
ここで、抜け出し耐力Pa5が必要耐力より大きくなった場合(ステップS24において「YES」の場合)には、制御部21の再設計部212は、再設計したインサート10の出力処理を実行する(ステップS25)。ここでは、再設計部212は、変更したボルトの呼び径やボルト規格情報と離間距離hb1とを、評価対象情報記憶部26に記録するとともに、表示装置H13に表示する。
【0053】
一方、抜け出し耐力Pa5が必要耐力より小さい場合(ステップS24において「NO」の場合)、制御部21の再設計部212は、この取付用ボルト11を用いた離間距離の調整処理(ステップS21)以降の処理を繰り返して実行する。これにより、離間距離hb1を大きくし、大きい取付用ボルト11に変更しながら、必要耐力を確保できる適切なインサート10の離間距離及び取付用ボルト11の大きさを特定することができる。
【0054】
(作用)
インサート10の取付用ボルト11の頭部11aの大きさ(二面幅Dn1)によって構成される仮想円筒V1の仮想円筒表面積Actを用いて、抜け出し耐力Pa5を算出する。抜け出し耐力Pa5は、付着力に起因し、取付用ボルト11の頭部11aの大きさに応じて大きくなるため、仮想円筒表面積Actを用いて、抜け出し耐力を評価することができる。
【0055】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、インサート10の抜け出し耐力Pa5を、離間距離hb1と仮想円筒表面積Actを用いて算出する。これにより、インサート10の抜け出し耐力Pa5を適切に算出して評価することができる。
【0056】
(2)本実施形態では、インサート10の抜け出し耐力Pa5の算出に用いる係数βは、実験値と計算値との関係を用いて算出する。これにより、実情に沿ったインサート10の抜け出し耐力Pa5を算出することができる。
【0057】
(3)本実施形態では、インサート10は、六角ボルトの取付用ボルト11と高ナット15とを備える。このため、インサート10の構成を簡素化することができる。更に、抜け出し耐力Pa5の算出に用いる仮想円筒表面積Actとして、取付用ボルト11の頭部11aの二面幅Dn1を直径とする仮想円筒V1の表面積を用いる。これにより、効率的に、抜け出し耐力Pa5を算出することができる。
【0058】
(4)本実施形態では、評価装置20の制御部21は、抜け出し耐力Pa5が最小で必要耐力より小さい場合(ステップS13において「YES」の場合)、再設計処理を実行する(ステップS14)。これにより、必要耐力を確保できるインサート10を効率的に特定することができる。
【0059】
(5)本実施形態のインサート10は、コンクリート躯体に主にせん断力を伝達する鉄骨部材端部のガセットプレート用ベースプレートの躯体取合い部に設けられる。これにより、従来の設計においては、過剰な耐力となっていた部分に配置されるインサート10の耐力を調整して、インサート10を小型化したり簡素化したりすることができる。
【0060】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、取付用ボルト11の頭部11aの二面幅Dn1と高ナット15の二面幅Dn1が同じインサート10を評価した。インサート10に用いられる高ナットに螺合する突起付きねじ部材は、六角ボルトに限られない。例えば、突起付きねじ部材として、円板型の頭を有する頭付きボルトであってもよいし、全ねじと、これに螺合する穴あきプレート及びこのプレートを挟み込んだ2個の六角ナットとを備えた構成であってもよい。後者の場合には、穴あきプレートの突起部の外形形状に応じて算出される仮想筒体表面積を用いてインサートの抜け出し耐力を算出する。
【0061】
更に、インサートにおいて、取付用ボルト11の突起部としての頭部11aと、高ナット15の外形形状(形や大きさ)が異なっていてもよい。
例えば、図10に示すインサート40は、取付用ボルト41と高ナット15とから構成される。取付用ボルト41は、頭部41aと軸部41bとを有する。取付用ボルト41の頭部41aが、高ナット15より大きい場合においても、仮想円筒表面積を用いて、インサートの抜け出し耐力Pa6を算出する。この場合、仮想円筒表面積は、頭部41aの直径Dn2で離間距離hb2の仮想円筒V2の表面積である。
【0062】
・上記実施形態においては、抜け出し耐力Pa5を、取付用ボルト11の頭部11aの二面幅Dn1を直径とする仮想円筒V1の仮想円筒表面積Actを用いて算出した。抜け出し耐力Pa5の算出は、仮想円筒表面積Actに限定されず、取付用ボルト11の頭部11aの外形(六角形)と離間距離とで形成される仮想六角柱の表面積を用いて、インサートの抜け出し耐力を算出してもよい。
【0063】
・上記実施形態においては、評価装置20の制御部21は、4種類の耐力(Pa1,Pa2,Pa4,Pa5)を用いて、インサート10の引張耐力を算出した。制御部21は、引張耐力を算出するために用いる引張耐力は、抜け出し耐力Pa5を含んで評価できればよい。例えば、袋ナット頭部または突起付きボルト頭部での支圧により決まる頭部コンクリート支圧耐力Pa3を含めた5種類の耐力(Pa1~Pa5)を用いて評価してもよい。更に、これら5種類の耐力のうち重要な複数の耐力を用いてもよいし、抜け出し耐力Pa5のみを用いて評価してもよい。
【0064】
・上記実施形態においては、評価装置20の制御部21は、評価対象のインサート10の抜け出し耐力Pa5が最小耐力で必要耐力より小さい場合(ステップS13において「YES」)の場合、再設計処理を実行した(ステップS14)。これに限らず、ステップS13以降の処理を省略してもよいし、初めから抜け出し耐力Pa5が必要耐力となる取付用ボルト11及び高ナット15を設計してもよい。後者の場合には、評価対象のインサートの情報のうち、取付用ボルト11の呼び径、高ナット15の呼び径及び長さの代わりに、配置領域の大きさ等の設計に必要な情報を取得してもよい。
【0065】
・上記実施形態のインサート10は、コンクリート躯体に主にせん断力を伝達する鉄骨部材端部のガセットプレート用ベースプレートの躯体取合い部に設けた。インサートが適用される箇所は、これに限られず、引張耐力が小さく、抜け出し破壊が生じると考えられる箇所に配置されるインサートを評価することができる。
【0066】
・上記実施形態では、評価装置20の制御部21が、仮想円筒表面積Actを用いて抜け出し耐力Pa5を算出した。仮想円筒表面積Actを用いて抜け出し耐力Pa5を算出する主体は、コンピュータ端末に限られず、手計算等により実行してもよい。
【0067】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(a)前記インサートにおいては、鋼材引張耐力、コーン破壊耐力、頭部コンクリート支圧耐力及び前記算出した抜け出し耐力の最小値を用いて、前記インサートの引張耐力を評価することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の評価方法。
【0068】
(b)前記インサートは、コンクリート躯体に、曲げモーメントの影響を無視できる大きさのせん断力を伝達する鉄骨部材端部のガセットプレート用ベースプレートの躯体取合い部に配置されることを特徴とする前記(a)に記載の評価方法。
【0069】
(c)高ナットと、この高ナットに螺合する突起付きねじ部材とを備え、コンクリート部材に埋め込まれるインサートの設計方法であって、前記インサートにおいて要求される必要引張耐力を取得し、前記突起付きねじ部材の突起部と軸部との境界から、前記高ナットの前記突起付きねじ部材側の端部までの離間距離と、前記突起付きねじ部材の突起部の外形形状とに応じて算出される仮想筒体表面積を用いて、前記インサートの抜け出し耐力を算出し、前記算出した抜け出し耐力が、前記必要引張耐力以上となるように、前記離間距離及び前記突起付きねじ部材の突起部の大きさを決定することを特徴とする設計方法。
【0070】
(d)高ナットと、この高ナットに螺合する突起付きねじ部材とを備え、コンクリート部材に埋め込まれるインサートを設計する制御部を備えた設計システムであって、前記制御部は、前記インサートにおいて要求される必要引張耐力を取得し、前記突起付きねじ部材の突起部と軸部との境界から、前記高ナットの前記突起付きねじ部材側の端部までの離間距離と、前記突起付きねじ部材の突起部の外形形状とに応じて算出される仮想筒体表面積を用いて、前記インサートの抜け出し耐力を算出し、前記算出した抜け出し耐力が、前記必要引張耐力以上となるように、前記離間距離及び前記突起付きねじ部材の突起部の大きさを決定することを特徴とする設計システム。
【符号の説明】
【0071】
β…係数、Φ…低減係数、σ…コンクリート圧縮強度、σcs…仮想円筒せん断耐力、Act…仮想円筒表面積、a1…跳ね出し長さ、C1…コンクリート部材、Dn1…二面幅、Dn2…直径、d1…軸径、hb1,hb2…離間距離、le1…有効埋込長さ、Pa…計算値、Pa1…鋼材引張耐力、Pa2…コーン破壊耐力、Pa3,Pa4…頭部コンクリート支圧耐力、Pa5,Pa6…抜け出し耐力、Pmax…最大耐力、V1,V2…仮想円筒、10,40…インサート、11,41…突起付きねじ部材としての取付用ボルト、11a,41a…突起部としての頭部、11b,41b…軸部、11c…ねじ部、15…高ナット、15a…ねじ孔、20…評価装置、21…制御部、25…評価式記憶部、26…評価対象情報記憶部、27…部品規格情報記憶部、31,35…仮想円筒、211…評価部、212…再設計部。
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