(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180024
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】周波数データ解析装置、周波数データ解析方法、及び周波数データ解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 23/16 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
G01R23/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093067
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河添 佑矢
(57)【要約】
【課題】異常発生時のピーク値を抽出可能な周波数データ解析装置、周波数データ解析方法、及び周波数データ解析プログラムを得る。
【解決手段】処理サーバ10は、真の値に対する周波数の誤差率が周波数許容誤差率α以内となる周波数範囲を間引き区間として設定し、複数の周波数成分を含む周波数スペクトルから、間引き区間において信号強度が最大となる最大値を検出し、検出した最大値を間引き区間の中央値に設定し、設定した中央値を記憶部140に記録する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数解析データを所定の周波数範囲ごとに間引き区間として設定する間引き区間設定部と、
前記周波数解析データから得た複数の周波数成分を含む周波数スペクトルから、前記間引き区間において信号強度が最大となる最大値を検出する最大値検出部と、
前記最大値を前記間引き区間の中央値に設定する中央値設定部と、
を含む周波数データ解析装置。
【請求項2】
前記間引き区間設定部は、真の値に対する周波数の誤差率が周波数許容誤差率以内となる周波数範囲を間引き区間として設定する請求項1に記載の周波数データ解析装置。
【請求項3】
前記間引き区間設定部は、所定の監視最低周波数に周波数を検出する検出部の周波数分解能を加算して得た間引き開始周波数に対して、前記周波数許容誤差率、サンプリング点数、所定の監視最高周波数、及び前記間引き開始周波数に基づいて算出される間引き率を乗算して間引き周波数帯を得ると共に、前記間引き区間を、前記間引き開始周波数が下限で、前記間引き開始周波数に前記間引き周波数帯を加算して得た周波数を上限として設定する請求項2に記載の周波数データ解析装置。
【請求項4】
前記間引き区間設定部は、前記上限を新たな間引き開始周波数に設定し、前記新たな間引き開始周波数が前記監視最高周波数以下の場合に、前記新たな間引き開始周波数に基づいて新たな間引き周波数帯を算出し、前記新たな間引き開始周波数が下限で、前記新たな間引き開始周波数に前記新たな間引き周波数帯を加算して得た周波数を上限とする新たな間引き区間を設定し、
前記最大値検出部は、前記周波数スペクトルから、前記新たな間引き区間における最大値を検出する請求項3に記載の周波数データ解析装置。
【請求項5】
前記間引き区間設定部は、前記新たな間引き開始周波数が、前記監視最高周波数を超えるまで、前記新たな間引き区間を設定する請求項4に記載の周波数データ解析装置。
【請求項6】
前記間引き区間設定部は、全周波数帯域で同一の周波数誤差率を保持するように、高周波数領域における前記間引き区間を、低周波数領域における前記間引き区間よりも広く設定する請求項1~5のいずれか1項に記載の周波数データ解析装置。
【請求項7】
周波数解析データを所定の周波数範囲ごとに間引き区間として設定する工程と、
前記周波数解析データから得た複数の周波数成分を含む周波数スペクトルから、前記間引き区間において信号強度が最大となる最大値を検出する工程と、
前記最大値を前記間引き区間の中央値に設定する工程と、
を含む周波数データ解析方法。
【請求項8】
コンピュータを、
周波数解析データを所定の周波数範囲ごとに間引き区間として設定する間引き区間設定部、前記周波数解析データから得た複数の周波数成分を含む周波数スペクトルから、前記間引き区間において信号強度が最大となる最大値を検出する最大値検出部、及び前記最大値を前記間引き区間の中央値に設定する中央値設定部として機能させる周波数データ解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる周波数のデータを含む周波数スペクトルの解析に係る周波数データ解析装置、周波数データ解析方法、及び周波数データ解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
センサで取得したデータの周波数解析により機械設備等を監視するシステムが用いられている。当該システムでは、例えば、ネットワークを介してセンサから送信されたデータをデータベース等に蓄積し、蓄積したデータの解析結果に基づいて機械設備等の対象物を監視するのが一般的だが、データ量が多く、ネットワーク及びデータベースの負荷が大きくなるという問題があった。
【0003】
膨大なデータ量に対処すべく、例えば、元データから必要な波形を切り取ってデータ量を低減する等が行われるが、ピーク値が突発的に大きくなるような異常時の波形を適切に捕捉することが阻害されるおそれがあった。または、周波数解析後のピーク値を降順に所定数だけ取得してデータ量の低減を図る場合もあるが、異常発生時のピーク数は事前に予測できないので、所定数だけの取得では、異常発生時のピーク値を取りこぼすおそれがあった。
【0004】
特許文献1には、時系列データを閾値と比較して決定した特定周波数の区間における時系列データを解析対象とするデータ圧縮方法の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、特定周波数の区間外は対象外なので、区間外に発生したピーク値を抽出できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事実を考慮し、異常発生時のピーク値を抽出可能な周波数データ解析装置、周波数データ解析方法、及び周波数データ解析プログラムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1に記載の周波数データ解析装置は、周波数解析データを所定の周波数範囲ごとに間引き区間として設定する間引き区間設定部と、前記周波数解析データから得た複数の周波数成分を含む周波数スペクトルから、前記間引き区間において信号強度が最大となる最大値を検出する最大値検出部と、前記最大値を前記間引き区間の中央値に設定する中央値設定部と、を含む
【0009】
請求項1に記載の周波数データ解析装置によれば、周波数解析データを所定の周波数範囲ごとに設定した間引き区間で検出された最大値を、間引き区間の中央値に設定して記録することにより、異常発生時のピーク値を抽出できる。
【0010】
請求項2に記載の周波数データ解析装置は、前記間引き区間設定部は、真の値に対する周波数の誤差率が周波数許容誤差率以内となる周波数範囲を間引き区間として設定する。
【0011】
請求項2に記載の周波数データ解析装置によれば、真の値に対する周波数の誤差率が周波数許容誤差率以内となるように間引き区間を設定することにより、検出された最大値を間引き区間の中央値にした場合の誤差を許容範囲に収めることが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の周波数データ解析装置は、前記間引き区間設定部は、所定の監視最低周波数に周波数を検出する検出部の周波数分解能を加算して得た間引き開始周波数に対して、前記周波数許容誤差率、サンプリング点数、所定の監視最高周波数、及び前記間引き開始周波数に基づいて算出される間引き率を乗算して間引き周波数帯を得ると共に、前記間引き区間を、前記間引き開始周波数が下限で、前記間引き開始周波数に前記間引き周波数帯を加算して得た周波数を上限として設定する。
【0013】
請求項3に記載の周波数データ解析装置によれば、所定の監視最低周波数に、周波数を検出する検出部の周波数分解能を加算して得た間引き開始周波数、周波数許容誤差率、サンプリング点数、及び所定の監視最高周波数に基づいて、間引き区間を、真の値に対する周波数の誤差率が周波数許容誤差率以内となる周波数範囲として設定できる。
【0014】
請求項4に記載の周波数データ解析装置は、前記間引き区間設定部は、前記上限を新たな間引き開始周波数に設定し、前記新たな間引き開始周波数が前記監視最高周波数以下の場合に、前記新たな間引き開始周波数に基づいて新たな間引き周波数帯を算出し、前記新たな間引き開始周波数が下限で、前記新たな間引き開始周波数に前記新たな間引き周波数帯を加算して得た周波数を上限とする新たな間引き区間を設定し、前記最大値検出部は、前記周波数スペクトルから、前記新たな間引き区間における最大値を検出する。
【0015】
請求項4に記載の周波数データ解析装置によれば、間引き区間を逐次更新することにより、幅広い周波数スペクトルのデータ量削減処理を実行できる。
【0016】
請求項5に記載の周波数データ解析装置は、前記間引き区間設定部は、前記新たな間引き開始周波数が、前記監視最高周波数を超えるまで、前記新たな間引き区間を設定する。
【0017】
請求項5に記載の周波数データ解析装置によれば、監視最低周波数から監視最高周波数までの周波数スペクトルのデータ量削減処理を実行できる。
【0018】
請求項6に記載の周波数データ解析装置は、前記間引き区間設定部は、全周波数帯域で同一の周波数誤差率を保持するように、高周波数領域における前記間引き区間を、低周波数領域における前記間引き区間よりも広く設定する。
【0019】
請求項6に記載の周波数データ解析装置によれば、低周波数領域よりも高周波数領域において前記間引き区間を広く設定することにより、全周波数帯域で同一の周波数誤差率を保持することができる。
【0020】
上記目的を達成するために請求項7に記載の周波数データ解析方法は、周波数解析データを所定の周波数範囲ごとに間引き区間として設定する工程と、前記周波数解析データから得た複数の周波数成分を含む周波数スペクトルから、前記間引き区間において信号強度が最大となる最大値を検出する工程と、前記最大値を前記間引き区間の中央値に設定する工程と、を含む。
【0021】
請求項7に載の周波数データ解析方法によれば、周波数解析データを所定の周波数範囲ごとに設定した間引き区間で検出された最大値を、間引き区間の中央値に設定して記録することにより、異常発生時のピーク値を抽出できる。
【0022】
上記目的を達成するために請求項8に記載の周波数データ解析プログラムは、コンピュータを、周波数解析データを所定の周波数範囲ごとに間引き区間として設定する間引き区間設定部、前記周波数解析データから得た複数の周波数成分を含む周波数スペクトルから、前記間引き区間において信号強度が最大となる最大値を検出する最大値検出部、及び前記最大値を前記間引き区間の中央値に設定する中央値設定部として機能させる。
【0023】
請求項8に記載の周波数データ解析プログラムによれば、周波数解析データを所定の周波数範囲ごとに設定した間引き区間で検出された最大値を、間引き区間の中央値に設定して記録することにより、異常発生時のピーク値を抽出できる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明に係る周波数データ解析装置、周波数データ解析方法、及び周波数データ解析プログラムによれば、異常発生時のピーク値を抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態に係る周波数データ解析装置の構成の一例を示したブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る処理サーバの具体的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】処理サーバのCPUの機能ブロック図である。
【
図4】第1実施形態に係る周波数データ解析装置を構成する利用者端末、処理サーバ、測定制御部、及び記憶部の各々における処理の一例を示したフローチャートである。
【
図5】
図4のステップS106の計測パラメータ計算処理を示したフローチャートである。
【
図6】
図4のステップS120におけるデータ量削減処理を示したフローチャートである。
【
図8】(A)は、間引き区間において最大値を抽出した場合の説明図であり、(B)は、抽出した最大値を間引き区間の中央値に設定した場合を示した説明図である。
【
図9】データ量削減処理をする前の間引き前のデータ数と、データ量削減処理をした後の間引き後のデータ数とを比較した概略図である。
【
図10】(A)は、データ量削減処理をする前のデータのスペクトラムアナライザによる周波数スペクトルの一例であり、(B)は、データ量削減処理後のデータのスペクトラムアナライザによる周波数スペクトルの一例である。
【
図11】第1実施形態に係る周波数データ解析装置の処理の一例を示したシーケンス図である。
【
図12】第2実施形態に係る周波数データ解析装置の構成の一例を示したブロック図である。
【
図13】第2実施形態に係る周波数データ解析装置の処理の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
以下、
図1を用いて、本実施形態に係る周波数データ解析装置100について説明する。
図1に示した周波数データ解析装置100は、ネットワーク62に、検査対象物124の状態を検出するセンサ122を制御する測定制御部120と、ネットワークを介して測定制御部120から送信されたデータを解析する処理サーバ10と、処理サーバ10が解析したデータ等を蓄積する記憶部140と、記憶部140に蓄積したデータを閲覧可能な利用者端末130と、を含む。本実施形態では、センサ122は、検査対象物124の振動を検出する振動センサを一例として取り上げるが、検査対象物124の電流、又は電圧等の電気的特性を検出するセンサであってもよい。
【0027】
記憶部140は、データベースを備えたデータサーバであり、処理サーバ10は、高度な演算処理を高速で実行できるコンピュータである。記憶部140及び処理サーバ10の各々は、単体のサーバでもよいが、処理負荷を分散できるクラウドでもよい。記憶部140及び処理サーバ10は、同一のサーバでもよい。利用者端末130は、必須の構成ではなく、例えば、処理サーバ10にキーボード、及びマウス等の入力装置と、ディスプレイ等の出力装置が備わっていれば省略してもよい。
【0028】
図2は、本実施形態に係る処理サーバ10の具体的な構成の一例を示すブロック図である。処理サーバ10は、コンピュータ40を含んで構成されている。コンピュータ40は、CPU(Central Processing Unit)42、ROM(Read Only Memory)44、RAM(Random Access Memory)46、及び入出力ポート48を備える。一例としてコンピュータ40は、高度な演算処理を高速で実行できる機種であることが望ましい。
【0029】
コンピュータ40では、CPU42、ROM44、RAM46、及び入出力ポート48がアドレスバス、データバス、及び制御バス等の各種バスを介して互いに接続されている。入出力ポート48には、各種の入出力機器として、ディスプレイ50、マウス52、キーボード54、ハードディスク(HDD)56、及び各種ディスク(例えば、CD-ROMやDVD等)58から情報の読み出しを行うディスクドライブ60が各々接続されている。
【0030】
また、入出力ポート48には、ネットワーク62が接続されており、ネットワーク62に接続された各種機器と情報の授受が可能とされている。本実施形態では、ネットワーク62には、測定制御部120、利用者端末130、及び記憶部140が接続されている。
【0031】
本実施形態では、記憶部140に、処理サーバ10が解析したデータ等が記憶されるものとして説明するが、コンピュータ40に内蔵されたHDD56や外付けのハードディスク等の外部記憶装置に記憶部140の情報を記憶するようにしてもよい。
【0032】
コンピュータ40のHDD56には、周波数データを解析するプログラム等がインストールされている。本実施形態では、CPU42が当該プログラムを実行することにより、測定制御部120を介して取得したセンサ122が検出した周波数データを解析する。
【0033】
本実施形態の周波数データの解析に係るプログラムをコンピュータ40にインストールするには、幾つかの方法があるが、例えば、当該プログラムをセットアッププログラムと共にCD-ROMやDVD等に記憶しておき、ディスクドライブ60にディスクをセットし、CPU42に対してセットアッププログラムを実行することによりHDD46に当該プログラムをインストールする。または、公衆電話回線又はネットワーク62を介してコンピュータ40と接続される他の情報処理機器と通信することで、HDD46に当該プログラムをインストールするようにしてもよい。
【0034】
図3は、処理サーバ10のCPU42の機能ブロック図を示す。処理サーバ10のCPU42が周波数データの解析に係るプログラムを実行することで実現される各種機能について説明する。周波数データの解析に係るプログラムは、センサ122によるデータ取得条件等を算出する計測パラメータ計算処理機能、高速フーリエ変換等によりデータの周波数解析を行う周波数解析機能、データ量の削減を行うデータ量削減処理機能、及び蓄積したデータを解析する蓄積データ解析機能を備えている。CPU42がこの各機能を有する機械学習に係るプログラムを実行することで、CPU42は、
図3に示すように、計測パラメータ計算処理部72、周波数解析部74、データ量削減処理部76、及び蓄積データ解析部78として機能する。
【0035】
図4は、本実施形態に係る周波数データ解析装置100を構成する利用者端末130、処理サーバ10、測定制御部120、及び記憶部140の各々における処理の一例を示したフローチャートである。ステップS100では、利用者端末130から解析情報が入力される。入力される解析情報は、監視したい最低周波数である監視最低周波数Fmin、監視したい最高周波数である監視最高周波数Fmax、許容可能な周波数誤差率である周波数許容誤差率α(0<α<1)である。監視最低周波数Fmin、及び監視最高周波数Fmax、及び周波数許容誤差率αの各々は、任意に設定できるが、処理サーバ10の処理能力等で対応できる範囲内に設定する。
【0036】
ステップS102では、入力された解析情報を処理サーバ10に送信する。処理サーバ10は、ステップS104で解析情報を受信する。
【0037】
ステップS106では、処理サーバ10の計測パラメータ計算処理部72が、計測パラメータを算出する。
【0038】
図5は、
図4のステップS106の計測パラメータ計算処理を示したフローチャートである。ステップS200では、周波数レンジRを設定する。本実施形態で周波数レンジRは、
図4のステップS100で入力した監視最高周波数Fmaxである。データ量を削減する間引き処理では、対象のデータは予め許容される周波数誤差率(周波数許容誤差率α)以上の精度をもっていなければならない。本実施形態では、確認したい最高周波数Fmaxを周波数レンジRとし、後述する式(1)で必要なサンプリング点数Nを決定する。
【0039】
ステップS202では、サンプリング点数Nを算出する。サンプリング点数Nは、下記の式(1)によって算出される。下記の式(1)の1.28は、高速フーリエ変換を可能とするレンジを示す係数である。サンプリング点数Nは、当該係数を乗算した周波数レンジRを、周波数許容誤差率αと監視最低周波数Fminとの積で除算して得た商である。
N=1.28R/αFmin …(1)
【0040】
ステップS204では、上記の式(1)によって算出したサンプリング点数Nを整数化する。具体的には、算出したNを切り上げて整数値に変換する。
【0041】
ステップS206では、データ取得条件を設定して処理をリターンする。ステップS206で設定するデータ取得条件は、ステップS200で設定した周波数レンジRと、ステップS204で整数化したサンプリング点数Nである。
【0042】
図4のステップS108では、処理サーバ10は、算出した計測パラメータを測定制御部120に送信する。
【0043】
ステップS110では、測定制御部120は、計測パラメータを受信する。ステップS112で測定制御部120は、計測パラメータに含まれる周波数レンジR、及びサンプリング点数Nに従ってセンサ122を制御し、データを取得するデータ計測を行う。そして、ステップS114で測定制御部120は、計測データを処理サーバ10に送信する。
【0044】
ステップS116では、処理サーバ10は、計測データを受信する。そして、ステップS118では、処理サーバ10の周波数解析部74において、計測データを構成する波形を抽出する周波数解析を行う。一例として、ステップS118における周波数解析では、高速フーリエ変換等が用いられる。ステップS118での周波数解析により、信号が周波数別に分類された、いわゆる周波数スペクトルが得られる。
【0045】
ステップS120では、処理サーバ10のデータ量削減処理部76において、周波数解析後の計測データのデータ量を削減するデータ量削減処理を行う。
【0046】
図6は、
図4のステップS120におけるデータ量削減処理を示したフローチャートである。ステップS300では、周波数レンジRを設定する。周波数レンジは、前述のように、確認したい最高周波数Fmaxである。
【0047】
ステップS302では、間引き開始周波数F'を設定する。間引き開始周波数F'は、下記の式(2)で算出される。式(2)に示したように、間引き開始周波数F'は、監視最低周波数Fminに周波数分解能Δfを加算したものである。周波数分解能Δfは、高速フーリエ変換を可能とするレンジに係り、一例として2.56である。
F'=Fmin + Δf …(2)
【0048】
ステップS304では、間引き率βを算出する。間引き率βは、下記の式(3)で算出される。間引き率βは、後述するように、真の値に対する周波数の誤差率が周波数許容誤差率α以内となるように決定する。
β=(2αNF'- 2.56R)/ NF' …(3)
【0049】
ステップS306では、間引き区間を算出する。
図7は、間引き区間F'βの概略を示した説明図である。
図7に示したように、間引き区間F'βは、ステップS302で設定した間引き開始周波数F'からF'+ F'βまでの所定の周波数範囲である。
【0050】
ステップS308では、間引き区間F'β内の信号強度の最大値を抽出する。
図7では、最大値が間引き開始周波数F'で検出された場合を示している。また、検出された最大値は、本来の真の値は、周波数Fで検出されるべきものであるとする。かかる場合、最大値が検出された周波数は、真の値が検出された周波数に対して、|F-F'|の計測・解析誤差が生じている。
【0051】
ステップS310では、抽出した最大値の周波数値を間引き区間F'βの中央値に設定する。
図7では、抽出された最大値である抽出点が、間引き区間中央値であるF'+ F'β/2の周波数に設定された状態を示している。最大値が抽出点として間引き区間F'βの中央値に設定されたことにより、抽出点の周波数は、真の値が検出された周波数に対して、|F-F'| + F'β/2の誤差が生じている。従って、真の値が検出された周波数に対する抽出点の周波数の誤差率は、下記の式(4)のようになる。本実施形態では、下記の式(4)で示された誤差率が周波数許容誤差率α以内となるように、間引き率βを設定する。
(|F-F'| + F'β/2)/ F …(4)
【0052】
ステップS310では、間引き区間F'βの中央値に設定した抽出点を間引きデータとして記録する。
【0053】
図8(A)は、間引き区間において最大値を抽出した場合の説明図であり、
図8(B)は、抽出した最大値を間引き区間の中央値に設定した場合を示した説明図である。
図8(B)に示したように、本実施形態では、中央値に設定した間引きデータ以外のデータは抹消することにより、データ量を削減している。
【0054】
また、本実施形態では、全周波数帯域で同一の周波数誤差率を保持するために低周波数領域よりも高周波数領域において間引き区間を広く設定する。本実施形態において、全周波数帯域は、一例として監視最低周波数Fminから監視最高周波数Fmaxまでの周波数である。
図8(A)及び
図8(B)に示したように、高周波数領域での間引き開始周波数F
2'は、低周波数領域での間引き開始周波数F
1'よりも大きいので、前述の式(3)によって各々算出される、高周波数領域での間引き率β
2は、低周波数領域での間引き率β
1よりも大きくなる。その結果、F
1'β
1≦F
2'β
2となるので、低周波数領域よりも高周波数領域において間引き区間を広く設定することができる。
【0055】
ステップS312では、間引き開始周波数F'を更新する。新たな間引き開始周波数F'は、
図7に示したF'+ F'βである。
【0056】
ステップS314では、更新した間引き開始周波数F'が、監視最高周波数Fmax以下か否かを判定する。ステップS314で、更新した間引き開始周波数F'が、監視最高周波数Fmax以下の場合は、手順をステップS304に移行して、間引き率βの算出から間引き開始周波数F'までの手順を反復する。ステップS314で、更新した間引き開始周波数F'が、監視最高周波数Fmax以下ではない場合は、処理をリターンする。
【0057】
図9は、データ量削減処理をする前の間引き前のデータ数と、データ量削減処理をした後の間引き後のデータ数とを比較した概略図である。
図9では、一例として、周波数許容誤差率αを1~5%の範囲で設定した場合のデータ量削減処理で、99%近くのデータ量削減が可能になっている。
【0058】
図10(A)は、データ量削減処理をする前のデータのスペクトラムアナライザによる周波数スペクトルの一例であり、
図10(B)は、データ量削減処理後のデータのスペクトラムアナライザによる周波数スペクトルの一例である。
図10(B)では、99%近くのデータ量削減処理によって、ピーク値が顕著に観察でき、後段の蓄積データ解析での演算負荷を低減できる。
【0059】
以上説明したデータ量削減処理後のデータは、
図4のステップS124で、処理サーバ10の蓄積データ解析部78において、蓄積データの解析を行う。ステップS124での蓄積データの解析は、一例として、センサ122が振動センサであれば、振動の周波数の解析である。本実施形態では、ステップS120のデータ量削減処理によって、間引き区間における最大値を間引き区間の中央値として抽出することにより、データ量を削減しているので、蓄積データの解析における演算負荷を低減できる。
【0060】
ステップS126では、記憶部140にデータを蓄積する。ステップS126で記憶部140にデータを蓄積した後、
図4に示した処理は終了する。
【0061】
図11は、本実施形態に係る周波数データ解析装置100の処理の一例を示したシーケンス図である。ステップS1では、利用者端末130から解析情報が入力され、ステップS2では、入力された解析情報が処理サーバ10に送信される。
【0062】
ステップS3では、処理サーバ10は、利用者端末130から送信された解析情報に基づいて計測パラメータを算出する。そして、ステップS4では、算出した計測パラメータを、測定制御部120に送信する。
【0063】
ステップS5では、測定制御部120は、受信した計測パラメータに従った計測制御信号をセンサ122に出力する。そして、ステップS6では、センサ122は、受信した計測制御信号に従ってデータ計測を行い、ステップS7で、センサ122は、計測で検出したデータを測定制御部120に送信する。
【0064】
ステップS8では、測定制御部120は、センサ122からのデータを受信し、ステップS9では、測定制御部120は、受信したデータを処理サーバ10に送信する。
【0065】
ステップS10では、処理サーバ10は、データを受信する。ステップS11では、処理サーバ10は、高速フーリエ変換等による周波数解析を行う。
【0066】
ステップS12では、間引き区間によるデータ量削減処理を行う。ステップS13で、処理サーバ10は、蓄積データ解析を行う。そして、ステップS14では、処理サーバ10は、解析後のデータを記憶部140に送信する。
【0067】
ステップS15では、記憶部140は、処理サーバ10から受信したデータを蓄積する。
【0068】
ステップS16では、利用者端末130から記憶部140にデータ閲覧要求が送信される。
【0069】
ステップS17では、記憶部140は、利用者端末130からのデータ閲覧要求に従ってデータ送信を行い、ステップS18では、利用者端末130は、記憶部140から送信されたデータを受信する。
【0070】
以上説明したように、本実施形態は、監視最低周波数Fminと監視最高周波数Fmaxとの間における周波数スペクトルにおいて検出される信号の周波数の、真の値に対する誤差率が許容可能な周波数誤差率である周波数許容誤差率α以内になるように間引き区間を設定する。そして、間引き区間において信号強度が最大となる最大値を検出し、検出した最大値を間引き区間の中央値に設定することにより、異常発生時のピーク値が抽出可能であると共に、データ解析に供するデータ量の削減を行っている。
【0071】
間引き区間の最大値を代表値とすることにより、それ以外のデータは削減することができるので、元データから99%近くのデータ量を削減することが可能となる。その結果、
図10(B)に示したように、ピーク値が顕著に観察でき、後段のデータ解析での演算負荷を低減できる。
【0072】
間引き区間の設定は、間引き区間が開始される間引き開始周波数F'が、監視最高周波数Fmaxを超えるまで反復するので、監視最低周波数Fminと監視最高周波数Fmaxとの間の周波数スペクトルのデータ解析を、演算負荷を抑制しつつ実行できる。
【0073】
本実施形態では、一例として、振動センサで検出した振動の周波数スペクトルを対象データとしたが、これに限定されない。元データが周波数スペクトルを呈するデータであれば、電磁波、電流、電圧、又は音波等のデータ解析に対しても、異常発生時のピーク値が抽出可能であると共に、データ解析に供するデータ量の削減が可能となる。
【0074】
[第2実施形態]
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態に係る周波数データ解析装置200は、
図12に示したように、1台の制御演算装置220が、第1実施形態における処理サーバ10、測定制御部120、利用者端末130、及び記憶部140の機能を備える点で第1実施形態と相違する。しかしながら、センサ122及び検査対象物124は、第1実施形態と同じなので、第1実施形態と同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0075】
図13は、本実施形態に係る周波数データ解析装置200の処理の一例を示したフローチャートである。ステップS400では、解析情報が入力される。入力される解析情報は、第1実施形態と同じく、監視したい最低周波数である監視最低周波数Fmin、監視したい最高周波数である監視最高周波数Fmax、許容可能な周波数誤差率である周波数許容誤差率α(0<α<1)である。監視最低周波数Fmin、及び監視最高周波数Fmax、及び周波数許容誤差率αの各々は、任意に設定できるが、制御演算装置220の処理能力等で対応できる範囲内に設定する。
【0076】
ステップS402では、
図4のステップS106と同様に計測パラメータを算出する。算出する計測パラメータは、第1実施形態と同じく、周波数レンジR及びサンプリング点数Nである。
【0077】
ステップS404では、計測パラメータに含まれる周波数レンジR、及びサンプリング点数Nに従ってセンサ122を制御し、データを取得するデータ計測を行う。
【0078】
ステップS406では、計測データを構成する波形を抽出する周波数解析を行う。ステップS406における周波数解析は、第1実施形態と同じく、高速フーリエ変換等が用いられる。
【0079】
ステップS408では、
図4のステップS120と同様に、周波数解析後の計測データのデータ量を削減するデータ量削減処理を行う。
【0080】
ステップS410では、蓄積データの解析を行う。ステップS410での蓄積データの解析は、一例として、センサ122が振動センサであれば、振動の周波数の解析である。本実施形態では、ステップS408のデータ量削減処理によって、間引き区間における最大値を、間引き区間の中央値として抽出することにより、データ量を削減しているので、蓄積データの解析における演算負荷を低減できる。
【0081】
ステップS412では、制御演算装置220の記憶装置にデータを蓄積して処理を終了する。
【0082】
以上説明したように、本実施形態では、第1実施形態における処理サーバ10、測定制御部120、利用者端末130、及び記憶部140の機能を備える制御演算装置220によって、計測パラメータの設定、センサ122の制御、データ量削減処理、蓄積データ解析、及びデータの蓄積を行うことができる。
【0083】
本実施形態においても、間引き区間の最大値を代表値とすることにより、それ以外のデータは削減することができるので、元データから99%近くのデータ量を削減することが可能となる。その結果、
図10(B)に示したように、ピーク値が顕著に観察でき、後段のデータ解析での演算負荷を低減できる。
【0084】
また、本実施形態においても、振動のみならず、電磁波、電流、電圧、又は音波等のデータ解析に対しても、異常発生時のピーク値が抽出可能であると共に、データ解析に供するデータ量の削減が可能となる。
【0085】
なお、特許請求の範囲に記載の「間引き区間設定部」、「最大値検出部」及び「中央値設定部」、は、明細書の発明の詳細な説明に記載の「データ量削減処理部76」に該当する。また、特許請求の範囲に記載の「記録部」は、明細書の発明の詳細な説明に記載の「記憶部140」に該当する。
【0086】
なお、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0087】
また、上記各実施形態では、プログラムがディスクドライブ60等に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0088】
(付記項1)
メモリと、
前記メモリに接続された少なくとも1つのプロセッサと、
を含み、
前記プロセッサは、
真の値に対する周波数の誤差率が周波数許容誤差率以内となる周波数範囲を間引き区間として設定し、複数の周波数成分を含む周波数スペクトルから、前記間引き区間において信号強度が最大となる最大値を検出し、前記最大値を前記間引き区間の中央値に設定し、前記中央値を記録する、
ように構成されている情報処理装置。
【符号の説明】
【0089】
10 処理サーバ
40 コンピュータ
42 CPU
44 ROM
46 RAM
48 入出力ポート
50 ディスプレイ
52 マウス
54 キーボード
60 ディスクドライブ
62 ネットワーク
72 計測パラメータ計算処理部
74 周波数解析部
76 データ量削減処理部
78 蓄積データ解析部
100 周波数データ解析装置
120 測定制御部
122 センサ
124 検査対象物
130 利用者端末
140 記憶部
200 周波数データ解析装置
220 制御演算装置