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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180026
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】車載内燃機関の異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20231213BHJP
   F02B 77/08 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
F01M13/00 K
F01M13/00 J
F01M13/00 M
F02B77/08 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093069
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】辻 智之
(72)【発明者】
【氏名】大久保 直也
【テーマコード(参考)】
3G015
【Fターム(参考)】
3G015AA13
3G015BD35
3G015EA11
3G015FB01
3G015FC04
(57)【要約】
【課題】ブローバイガス通路の異常の有無についての誤判定を防止する。
【解決手段】診断装置50は、過給機11と、吸気通路24における過給機11のコンプレッサホイール112よりも上流側の部分及びクランクケース13内を連通するブローバイガス通路31と、ブローバイガス通路31に設置されているとともにブローバイガス通路31内の圧力をPCV圧力として検出するPCV圧力センサ35と、を有する内燃機関10を対象とし、吸入空気量の単位時間当たりの変動量である吸気変動量が規定値以上である期間を特定期間としたとき、特定期間におけるPCV圧力の変動量である圧力変動量を算出する処理と、特定期間における吸気変動量が大きい場合に、吸気変動量が小さい場合に比較して、圧力変動量を小さな値に補正する処理と、補正後の圧力変動に基づいて、ブローバイガス通路の異常の有無を判定する処理と、を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機と、吸気通路における前記過給機のコンプレッサホイールよりも上流側の部分及びクランクケース内を連通するブローバイガス通路と、前記ブローバイガス通路に設置されているとともに前記ブローバイガス通路内の圧力をPCV圧力として検出するPCV圧力センサと、を有する車載内燃機関を対象とし、
吸入空気量の単位時間当たりの変動量である吸気変動量が規定値以上である期間を特定期間としたとき、
前記特定期間における前記PCV圧力の変動量である圧力変動量を算出する第1処理と、
前記特定期間における前記吸気変動量が大きい場合に、前記吸気変動量が小さい場合に比較して、前記圧力変動量を小さな値に補正する第2処理と、
補正後の前記圧力変動量に基づいて、前記ブローバイガス通路における前記PCV圧力センサの設置部位よりも前記吸気通路側の部分の異常の有無を判定する第3処理と、
を実行する
車載内燃機関の異常診断装置。
【請求項2】
前記第1処理及び前記第2処理を、異なる前記特定期間を対象として繰り返し実行することで、補正後の前記圧力変動量を複数回算出し、
前記第3処理では、複数回算出した補正後の前記圧力変動量の積算値が、予め定められた判定閾値未満である場合に、前記異常が有ると判定する
請求項1に記載の車載内燃機関の異常診断装置。
【請求項3】
前記車載内燃機関は、前記吸入空気量を検出するエアフロメータを有し、
前記第1処理では、前記特定期間における開始から終了までに前記PCV圧力センサが検出した複数の前記PCV圧力のそれぞれと、前記特定期間の開始時点で前記PCV圧力センサが検出した前記PCV圧力と、の差分の積算値を前記圧力変動量として算出し、
前記第2処理では、前記圧力変動量の補正として、前記エアフロメータが検出した前記特定期間での前記吸入空気量の最大値と最小値との差分で前記圧力変動量を除算する
請求項1に記載の車載内燃機関の異常診断装置。
【請求項4】
前記車載内燃機関は、前記吸入空気量を検出するエアフロメータを有し、
前記第1処理では、前記特定期間における開始から終了までに前記PCV圧力センサが検出した複数の前記PCV圧力のそれぞれと、前記特定期間の開始時点で前記PCV圧力センサが検出した前記PCV圧力と、の差分の積算値を前記圧力変動量として算出し、
前記第2処理では、前記圧力変動量の補正として、前記エアフロメータが検出した前記特定期間の開始から終了までの前記吸入空気量の積算値で前記圧力変動量を除算する
請求項1に記載の車載内燃機関の異常診断装置。
【請求項5】
前記車載内燃機関が搭載されている車両のアクセルペダルの踏み込み量をアクセル操作量としたとき、前記車両は、前記アクセル操作量を検出するアクセルセンサを有し、
前記第1処理では、前記特定期間における開始から終了までに前記PCV圧力センサが検出した複数の前記PCV圧力のそれぞれと、前記特定期間の開始時点で前記PCV圧力センサが検出した前記PCV圧力と、の差分の積算値を前記圧力変動量として算出し、
前記第2処理では、前記圧力変動量の補正として、前記アクセルセンサが検出した前記特定期間での前記アクセル操作量の最大値と最小値との差分で前記圧力変動量を除算する
請求項1に記載の車載内燃機関の異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車載内燃機関の異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関、及びその異常診断装置が開示されている。特許文献1に開示された内燃機関は、過給機、ブローバイガスの蓄積空間、ブローバイガス通路、及びPCV圧力センサを有する。過給機は、コンプレッサホイールを有する。コンプレッサホイールは、吸気通路に位置している。蓄積空間は、シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとによって区画された空間である。この蓄積空間は、クランクケース内と連通している。蓄積空間は、気筒からクランクケース内に漏れ出したブローバイガスを一時的に蓄積する。ブローバイガス通路は、蓄積空間と、吸気通路における、コンプレッサホイールよりも上流側の部分(以下、単に上流部分と記す。)とを接続している。PCV圧力センサは、ブローバイガス通路内の圧力を検出する。
【0003】
上記内燃機関において、過給機の駆動によって吸入空気が加圧されている場合、吸気通路の上流部分が負圧になる。この場合、ブローバイガス通路を通じてブローバイガスが吸気通路の上流部分に流入する。ブローバイガスが吸気通路の上流部分に流入する上記のような状況下で、吸入空気量が変化したとする。それに伴って吸気通路の上流部分の圧力が変化すると、吸気通路に流入するブローバイガスの量が変化するとともにブローバイガス通路内の圧力が変化する。このように、吸入空気量の変化とブローバイガス通路内の圧力の変化とは連動している。
【0004】
ここで、ブローバイガス通路の一部が破損したりブローバイガス通路と吸気通路との接続が部分的に外れたりすることで、ブローバイガス通路内とその外部の大気とが僅かに連通する状態になることがある。こうした異常が生じている場合、正常な場合に比べて、吸入空気量が変化したときの、ブローバイガス通路内の圧力の変化量が少なくなる。そこで、上記内燃機関の異常診断装置は、吸入空気量とブローバイガス通路内の圧力とを監視することで上記異常の存在を把握する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-186702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば車両の急加速等に伴って、吸入空気量が急激に変化することがある。ブローバイガス通路に上記のような異常が生じているときにはブローバイガス通路内の圧力の変化量が少なくなる傾向があるとはいえ、上記異常が生じている状況下で吸入空気量が急激に変化するとブローバイガス通路内の圧力の変化量が相当に多くなる。この場合、ブローバイガス通路に異常が生じているにも拘わらず正常であると誤判定してしまう可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための車載内燃機関の異常診断装置は、過給機と、吸気通路における前記過給機のコンプレッサホイールよりも上流側の部分及びクランクケース内を連通するブローバイガス通路と、前記ブローバイガス通路に設置されているとともに前記ブローバイガス通路内の圧力をPCV圧力として検出するPCV圧力センサと、を有する車載内燃機関を対象とし、吸入空気量の単位時間当たりの変動量である吸気変動量が規定値以上である期間を特定期間としたとき、前記特定期間における前記PCV圧力の変動量である圧力変動量を算出する第1処理と、前記特定期間における前記吸気変動量が大きい場合に、前記吸気変動量が小さい場合に比較して、前記圧力変動量を小さな値に補正する第2処理と、補正後の前記圧力変動量に基づいて、前記ブローバイガス通路における前記PCV圧力センサの設置部位よりも前記吸気通路側の部分の異常の有無を判定する第3処理と、を実行する。
【0008】
上記構成によれば、吸気変動量が大きい場合には、PCV圧力の変動量が小さな値に補正される。そのため、ブローバイガス通路に異常が発生していて、本来であればPCV圧力の変動量が小さくなるはずであるのに、吸気変動量が大きいことに伴ってPCV圧力の変動量も大きくなってしまうことを防げる。すなわち、ブローバイガス通路の異常の判定基準であるPCV圧力の変動量を、吸気変動量による影響の小さい値に補正できる。したがって、ブローバイガス通路の異常の有無についての誤判定を防止できる。
【0009】
車載内燃機関の異常診断装置は、前記第1処理及び前記第2処理を、異なる前記特定期間を対象として繰り返し実行することで、補正後の前記圧力変動量を複数回算出し、前記第3処理では、複数回算出した補正後の前記圧力変動量の積算値が、予め定められた判定閾値未満である場合に、前記異常が有ると判定してもよい。上記構成では、例えば一度の特定期間を対象として異常の有無を判定する場合に比べて、信頼性の高い判定結果を得ることができる。
【0010】
前記車載内燃機関は、前記吸入空気量を検出するエアフロメータを有し、車載内燃機関の異常診断装置は、前記第1処理では、前記特定期間における開始から終了までに前記PCV圧力センサが検出した複数の前記PCV圧力のそれぞれと、前記特定期間の開始時点で前記PCV圧力センサが検出した前記PCV圧力と、の差分の積算値を前記圧力変動量として算出し、前記第2処理では、前記圧力変動量の補正として、前記エアフロメータが検出した前記特定期間での前記吸入空気量の最大値と最小値との差分で前記圧力変動量を除算してもよい。上記構成のように、特定期間における吸入空気量の変化分によって圧力変動量を除算することは、吸気変動量による影響を抑えるための補正として好適である。
【0011】
前記車載内燃機関は、前記吸入空気量を検出するエアフロメータを有し、車載内燃機関の異常診断装置は、前記第1処理では、前記特定期間における開始から終了までに前記PCV圧力センサが検出した複数の前記PCV圧力のそれぞれと、前記特定期間の開始時点で前記PCV圧力センサが検出した前記PCV圧力と、の差分の積算値を前記圧力変動量として算出し、前記第2処理では、前記圧力変動量の補正として、前記エアフロメータが検出した前記特定期間の開始から終了までの前記吸入空気量の積算値で前記圧力変動量を除算してもよい。
【0012】
上記構成のように、吸入空気量の積算値で圧力変動量を除算することで、特定期間の途中での吸入空気量の変化等、特定期間全体としての吸入空気量の変化を加味した補正を行うことができる。
【0013】
前記車載内燃機関が搭載されている車両のアクセルペダルの踏み込み量をアクセル操作量としたとき、前記車両は、前記アクセル操作量を検出するアクセルセンサを有し、車載内燃機関の異常診断装置は、前記第1処理では、前記特定期間における開始から終了までに前記PCV圧力センサが検出した複数の前記PCV圧力のそれぞれと、前記特定期間の開始時点で前記PCV圧力センサが検出した前記PCV圧力と、の差分の積算値を前記圧力変動量として算出し、前記第2処理では、前記圧力変動量の補正として、前記アクセルセンサが検出した前記特定期間での前記アクセル操作量の最大値と最小値との差分で前記圧力変動量を除算してもよい。
【0014】
上記構成では、アクセル操作量の情報を利用して圧力変動量を補正する。こうした構成であれば、吸入空気量の推移の情報を利用できない場合でも、吸気変動量による影響を抑えるための補正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、内燃機関の概略構成図である。
図2図2は、吸入空気量とPCV圧力との関係を表した図である。
図3図3は、吸入空気量と規定値との関係を表した図である。
図4図4は、診断処理の処理手順を表したフローチャートである。
図5図5は、診断処理に係る各パラメータの推移の例を表したタイムチャートである。
図6図6は、第1ケースについての補正の例を表した模式図である。
図7図7は、第3ケースについての補正の例を表した模式図である。
図8図8は、吸気変動量の違いに応じた各パラメータの推移の違いの例を表したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、車載内燃機関の異常診断装置の一実施形態を、図面を参照して説明する。
<内燃機関の概略構成>
図1に示すように、車両300は、内燃機関10を有する。内燃機関10は、車両300の駆動源である。すなわち、この内燃機関10は、車載内燃機関である。
【0017】
内燃機関10は、シリンダブロック12、クランクケース13、オイルパン15、及びクランク軸14を有する。クランクケース13は、シリンダブロック12よりも下に位置している。クランクケース13は、シリンダブロック12に取り付けられている。クランクケース13は、クランク室17を有する。クランク室17は、クランクケース13の内部に区画された空間である。クランク室17は、クランク軸14を収容している。オイルパン15は、クランクケース13よりも下に位置している。オイルパン15は、クランクケース13に取り付けられている。オイルパン15は、潤滑用のオイルを貯留している。
【0018】
内燃機関10は、複数の気筒22、複数のピストン19、及び複数のコネクティングロッド20を有する。なお、図1では、複数の気筒22のうちの1つのみを示している。ピストン19及びコネクティングロッド20についても同様である。気筒22は、シリンダブロック12の内部に区画された空間である。気筒22では、燃料と吸入空気との混合気が燃焼する。気筒22は、クランク室17と連通している。ピストン19は、気筒22に位置している。ピストン19は、気筒22を往復動する。ピストン19は、コネクティングロッド20を介してクランク軸14に連結している。ピストン19の動作に応じてクランク軸14は回転する。
【0019】
内燃機関10は、シリンダヘッド16及びヘッドカバー18を有する。シリンダヘッド16は、シリンダブロック12よりも上に位置している。シリンダヘッド16は、シリンダブロック12に取り付けられている。ヘッドカバー18は、シリンダヘッド16よりも上に位置している。ヘッドカバー18は、シリンダヘッド16に取り付けられている。
【0020】
内燃機関10は、吸気通路24及び排気通路25を有する。吸気通路24は、気筒22に吸気を導入するための通路である。吸気通路24は、各気筒22に接続している。なお、吸気通路24における下流の部分は、シリンダヘッド16に区画された吸気ポートとして構成されている。排気通路25は、気筒22から排気を排出するための通路である。排気通路25は、各気筒22に接続している。なお、排気通路25における上流の部分は、シリンダヘッド16に区画された排気ポートとして構成されている。
【0021】
内燃機関10は、スロットルバルブ26、排気駆動式の過給機11、バイパス通路28、及びウェイストゲートバルブ(以下、WGVと記す。)27を有する。スロットルバルブ26は、吸気通路24の途中に位置している。スロットルバルブ26は、開度調整が可能である。スロットルバルブ26の開度に応じて吸入空気量GAが変わる。過給機11は、コンプレッサホイール112及びタービンホイール111を有する。コンプレッサホイール112は、吸気通路24における、スロットルバルブ26よりも上流側に位置している。タービンホイール111は、排気通路25の途中に位置している。バイパス通路28は、排気通路25におけるタービンホイール111よりも上流側と下流側とに接続している。WGV27は、バイパス通路28の下流端に位置している。WGV27は、開度調整が可能である。WGV27の開度に応じて、バイパス通路28を流れる排気の量が変わる。WGV27が全開よりも小さい開度になると、タービンホイール111を通過する排気の量が多くなる。すると、タービンホイール111は、排気の流れに応じて回転する。このとき、コンプレッサホイール112は、タービンホイール111と一体回転する。そして、コンプレッサホイール112は、吸入空気を圧縮して送り出す。すなわち、吸入空気が過給される。
【0022】
内燃機関10は、クランク室17のブローバイガスを吸気通路24に戻するためのブローバイガス処理機構30を有する。ブローバイガスは、気筒22からクランク室17へ漏れ出す燃焼ガスである。ブローバイガス処理機構30は、連通路21、蓄積空間23、継手32、及びブローバイガス配管33を有する。蓄積空間23は、シリンダヘッド16とヘッドカバー18とで区画された空間である。連通路21は、シリンダブロック12及びシリンダヘッド16を貫通している。そして、連通路21は、クランク室17と蓄積空間23とを連通している。継手32は、ヘッドカバー18に取り付けられている。ブローバイガス配管33の一端は、継手32に接続している。ブローバイガス配管33は、継手32を介して蓄積空間23と連通している。ブローバイガス配管33の他端は、吸気通路24におけるコンプレッサホイール112よりも上流側の部分である上流吸気通路241に接続している。なお、連通路21、蓄積空間23、継手32、及びブローバイガス配管33は、ブローバイガス通路31を構成している。すなわち、ブローバイガス通路31は、クランク室17と上流吸気通路241とを連通している。ブローバイガス通路31では、連通路21を通じて、クランク室17のブローバイガスが蓄積空間23へと至る。蓄積空間23は、ブローバイガスを一時的に蓄積する。そして、蓄積空間23のブローバイガスは、ブローバイガス配管33を通じて上流吸気通路241へと至る。
【0023】
内燃機関10は、PCV圧力センサ35、クランクポジションセンサ70、大気圧センサ71、エアフロメータ72、及び電圧センサ73を有する。PCV圧力センサ35は、継手32に設置されている。PCV圧力センサ35は、継手32内の絶対圧を検出する。なお、継手32内の圧力は、ブローバイガス配管33内の圧力と同じである。つまり、PCV圧力センサ35は、ブローバイガス配管33内の圧力であるPCV圧力Wを検出する。クランクポジションセンサ70は、クランク軸14の回転位置SCを検出する。大気圧センサ71は、内燃機関10の周辺の圧力である大気圧Mを検出する。エアフロメータ72は、吸気通路24における、コンプレッサホイール112よりも上流側に位置している。エアフロメータ72は、吸入空気量GAを検出する。電圧センサ73は、車両300のバッテリの電圧であるバッテリ電圧Vを検出する。これらの各センサは、自身が検出した情報に応じた信号を後述の診断装置50に繰り返し出力する。
【0024】
車両300は、アクセルペダル77、アクセルセンサ75、車速センサ74、及び報知ランプ78を有する。アクセルペダル77は、乗員が踏み込むフットペダルである。アクセルセンサ75は、アクセルペダル77の踏み込み量をアクセル操作量ACCとして検出する。車速センサ74は、車両300の走行速度を車速SPとして検出する。アクセルセンサ75及び車速センサ74は、自身が検出した情報に応じた信号を後述の診断装置50を繰り返し出力する。報知ランプ78は、車両300の車室内に位置している。報知ランプ78は、ブローバイガス配管33の異常を報知するためのものである。
【0025】
<異常診断装置について>
車両300は、内燃機関10の異常診断装置(以下、単に診断装置と記す。)50を有する。診断装置50は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサとして構成し得る。なお、診断装置50は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、またはそれらの組み合わせを含む回路(circuitry)として構成してもよい。プロセッサは、CPU51及び、RAM並びにROM等のメモリ52を含む。メモリ52は、処理をCPU51に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ52すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。また、診断装置50は、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリである記憶装置53を有する。
【0026】
診断装置50は、車両300が有する上記の各センサが出力する検出信号を繰り返し受信する。診断装置50は、それらの検出信号に基づいて、内燃機関10を診断対象として当該内燃機関10の状態を診断する。それに加え、診断装置50は、内燃機関10の各種部位を制御する。例えば、診断装置50は、クランク軸14の回転位置SCに基づいて、機関回転速度を算出する。そして、診断装置50は、機関回転速度及びアクセル操作量ACC等に基づいて、機関負荷率の要求値である要求負荷率を算出する。そして、診断装置50は、この要求負荷率を達成する吸入空気量GAを得ることができるように、スロットルバルブ26を制御する。診断装置50は、要求負荷率がある程度高い場合に、WGV27を全開よりも小さい開度にする。それに伴い、過給機11が過給を行うようになる。診断装置50は、吸入空気量GAが相応に多い状況下で過給機11に過給を行わせることになる。なお、機関負荷率は、気筒22に充填される空気の量を定めるパラメータであり、1燃焼サイクル当たりに1つの気筒22に流入する空気の量を基準空気量で除した値である。基準空気量は機関回転速度に応じて変わる。
【0027】
<ブローバイガス配管の異常について>
診断装置50は、ブローバイガス配管33に異常が発生したか否かを診断する診断処理を実行可能である。この診断処理で診断する対象となる異常は、ブローバイガス配管33から外部にブローバイガスが漏れ出す異常(以下、漏出異常と記す。)である。ブローバイガス配管33の漏出異常は、ブローバイガス配管33の一端が継手32から外れたり、ブローバイガス配管33の他端が上流吸気通路241から外れたり、ブローバイガス配管33が破損したりした際に発生する。
【0028】
漏出異常は、ブローバイガスの漏出量の度合いの観点において次の2つのパターンに区分できる。一つは、ブローバイガス配管33が継手32又は上流吸気通路241から完全に外れるか、ブローバイガス配管33に開口面積の相当に大きい破損が生じることに伴い、ブローバイガス配管33内が大気と完全に連通する状態になるパターンである。以下では、ブローバイガス配管33内が大気と完全に連通する状態になることを完全連通状態と呼称する。完全連通状態のパターンの漏出異常が生じた場合、ブローバイガスの漏出量が多くなる。もう一つのパターンは、ブローバイガス配管33に開口面積の小さい破損が生じることに起因して、ブローバイガス配管33内が大気と僅かに連通する状態になるパターンである。以下では、ブローバイガス配管33内が大気と僅かに連通する状態になることを部分連通状態と呼称する。この種のパターンの漏出異常は、ブローバイガス配管33と継手32との接続が僅かに緩んだり、ブローバイガス配管33と吸気通路24との接続が僅かに緩んだりした場合にも生じ得る。部分連通状態のパターンの漏出異常が生じた場合、ブローバイガスの漏出量はさほど多くない。
【0029】
診断装置50は、診断処理では、上記漏出異常の有無を診断する上でPCV圧力Wを利用する。診断装置50が診断処理でPCV圧力Wを利用する前提となる、吸入空気量GAとPCV圧力Wとの関係を説明する。先ず、ブローバイガス配管33が正常である場合における、吸入空気量GAとPCV圧力Wとの関係を説明する。ここで、過給機11によって過給が行われている場合、つまり、吸入空気量GAが相応に多い場合、上流吸気通路241で負圧が発生する。それに伴い、ブローバイガス通路31内のブローバイガスが上流吸気通路241に流入する。そのため、PCV圧力Wが大気圧Mよりも低くなる。上流吸気通路241へのブローバイガスの流入量は、吸入空気量GAが多いほど、上流吸気通路241の負圧が大きくなるため多くなる。すなわち、図2の実線で示すように、吸入空気量GAが多いほどPCV圧力Wは低くなる。
【0030】
これに対して、ブローバイガス配管33に漏出異常が生じている場合の吸入空気量GAとPCV圧力Wとの関係は、次のようになる。先ず、上記の完全連通状態の場合について説明する。ブローバイガス配管33が完全連通状態である場合、ブローバイガス配管33内は大気に完全に開放される。そのため、この場合には、図2の一点鎖線で示すように、吸入空気量GAの多寡に拘わらず、PCV圧力Wは大気圧M近傍の値になる。
【0031】
次に、上記の部分連通状態の場合について説明する。上記のとおり、ブローバイガス配管33が部分連通状態となる場合、その要因は主としてブローバイガス配管33の破損であることが多い。この破損の開口面積にもよるが、部分連通状態の場合には、完全連通状態の場合とは異なり、次のことが生じる。すなわち、過給機11による過給に伴って上流吸気通路241で負圧が発生している場合、ある程度の量のブローバイガスが上流吸気通路241に流入する。そのため、PCV圧力Wは大気圧Mよりも低くなる。こうしたブローバイガスの上流吸気通路241への流入量は、吸入空気量GAが多いほど、上流吸気通路241の負圧が大きくなるため多くなる。そのため、図2に破線で示すように、吸入空気量GAが多いほどPCV圧力Wは低くなる。ただし、破損部分を介してブローバイガス配管33内が大気と連通しているため、ブローバイガス配管33が正常である場合と比較して、PCV圧力Wは大気圧M寄りとなる。
【0032】
なお、以上に説明した漏出異常とは別に、ブローバイガス配管33では、詰まり異常が発生し得る。詰まり異とは、ブローバイガス配管33で詰まりが発生していることである。詰まり異常が発生すると、蓄積空間23に蓄積しているブローバイガスを、ブローバイガス通路31を介して上流吸気通路241に流入させることができなくなる。その一方で、内燃機関10の運転が行われている場合、ブローバイガスは発生し続ける。ブローバイガスの発生量は、吸入空気量GAが多いほど多くなりやすい。そのため、図2の二点鎖線で示すように、吸入空気量GAがある程度多い場合、PCV圧力Wは大気圧Mよりも高くなる。
【0033】
<診断処理の概要>
診断装置50は、診断処理の一環として、第1処理を実行可能である。診断装置50は、第1処理では、特定期間HにおけるPCV圧力Wの変動量である圧力変動量WAを算出する。圧力変動量WAが具体的にどのような値であるかは後述する。特定期間Hは、吸入空気量GAの単位時間当たりの変動量である吸気変動量ΔGAが規定値K以上となっている期間のことである。吸気変動量ΔGAが具体的にどのような値であるかは後述する。本実施形態において、診断装置50は、吸入空気量GAの増加中を対象として第1処理を行う。つまり、上記吸入空気量GAの単位時間当たりの変動量は、吸入空気量GAの単位時間当たりの増大量である。なお、診断装置50は、吸入空気量GAが判定空気量GATh以上である場合に限って第1処理を行う。
【0034】
診断装置50は、診断処理の一環として第2処理を実行可能である。診断装置50は、第2処理では、圧力変動量WAを、吸気変動量ΔGAによる影響の小さい値に補正する。詳細には、診断装置50は、同一の圧力変動量WAを補正するとしたとき、特定期間Hにおける吸気変動量ΔGAが大きい場合に、当該吸気変動量ΔGAが小さい場合に比較して、圧力変動量WAを小さな値に補正する。そのための具体的な処理として、診断装置50は、圧力変動量WAを吸気変動量ΔGAで除算する。診断装置50は、この補正後の圧力変動量WAを判定パラメータYとして取り扱う。
【0035】
診断装置50は、診断処理の一環として第3処理を実行可能である。診断装置50は、第3処理では、上記の判定パラメータYに基づいて、ブローバイガス配管33における漏出異常の有無を判定する。ここで、診断装置50は、上記の第1処理及び第2処理を、異なる特定期間Hを対象として繰り返し実行する。そのことで、診断装置50は、判定パラメータYを複数回算出する。具体的には、診断装置50は、判定パラメータYを判定回数NTh算出する。診断装置50は、第3処理では、複数回算出した判定パラメータYの積算値である積算パラメータZが判定閾値ZTh未満である場合に、上記漏出異常が生じていると判定する。
【0036】
診断装置50は、診断処理を実行する上で必要な情報として、上記の判定空気量GAThを予め記憶している。上記のとおり、吸入空気量GAが少ないときには、ブローバイガス配管33における漏出異常の発生時と正常時とでPCV圧力Wの差が生じ難い。この点を考慮し、判定空気量GAThは、漏出異常の発生時と正常時とでPCV圧力Wに明瞭な差が出る値として、例えば実験又はシミュレーションを基に定められている。なお、判定空気量GAThは、過給機11によって過給が行われているときの吸入空気量GAの最低値以上の値になっている。つまり、吸入空気量GAが判定空気量GATh以上であることは、上流吸気通路241で負圧が発生している状況を捉えていることになる。なお、図2には、判定空気量GAThの一例を示している。
【0037】
診断装置50は、診断処理を実行する上で必要な情報として、上記の単位時間を予め記憶している。単位時間は、例えば0.1秒といった、1秒未満の相当に短い長さである。単位時間は、吸入空気量GAの推移において、車両300の加速に伴う吸入空気量GAの上昇過程を抽出できる時間の長さとして、例えば実験又はシミュレーションを基に定められている。なお、単位時間は、診断処理で利用するセンサのデータサンプリング間隔よりも十分に長くなっている。したがって、センサは、単位時間内に複数の検出信号を診断装置50に出力する。
【0038】
診断装置50は、診断処理を実行する上で必要な情報として、規定値マップを予め記憶している。規定値マップは、吸入空気量GAと上記の規定値Kとの関係を表したものである。吸入空気量GA毎の規定値Kは、次のような値になっている。すなわち、内燃機関10で生じ得る吸気変動量ΔGAのうち、瞬時的なノイズではなく、車両300が過給機11の過給を伴う加速中であると判断でき、且つ漏出異常の発生時と正常時とで圧力変動量WAに明瞭な差がでる値となっている。上記した吸入空気量GAとPCV圧力Wとの関係との兼ね合いで、次のことがいえる。すなわち、過給中であっても吸入空気量GAが少なくて上流吸気通路241の負圧が小さい状況下では、吸気変動量ΔGAがある程度大きくならないと、部分連通状態の漏出異常時と正常時とで圧力変動量WAの差が生じ難い。この点を考慮して、規定値マップでは、図3に示すように、吸入空気量GAが少ないほど値が大きくなるように、規定値Kが設定されている。規定値マップは、例えば実験又はシミュレーションを基に作成されている。このように、規定値Kは、吸入空気量GAとの対応関係で予め定められている。
【0039】
診断装置50は、診断処理を実行する上で必要な情報として、上記の判定回数NThを予め記憶している。判定回数NThは、正確な診断結果を得る上で必要な判定パラメータYの個数の最低値として、例えば実験又はシミュレーションを基に定められている。
【0040】
診断装置50は、診断処理を実行する上で必要な情報として、上記の判定閾値ZThを予め記憶している。判定閾値ZThは、ブローバイガス配管33が正常である場合に取り得る積算パラメータZの最小値として、例えば実験又はシミュレーションを基に定められている。なお、判定閾値ZThは、判定回数NThを前提にした値になっている。
【0041】
<診断処理の具体的な処理手順>
診断装置50は、内燃機関10の運転中、診断処理を繰り返し実行する。なお、診断装置50は、内燃機関10の始動後に初めて診断処理を行う場合、診断処理の開始に先立って後述のステップS34と同じリセット処理を行う。その上で、診断装置50は、診断処理を開始する。そのため、内燃機関10の始動後の初回の診断処理の開始時点では、積算パラメータZ及び積算回数Nが「0」になっている。
【0042】
図4に示すように、診断装置50は、診断処理を開始すると、先ずステップS21の処理を実行する。ステップS21において、診断装置50は、前提条件が成立しているか否かを判定する。前提条件は、次の2つの項目の双方が成立していることである。1つ目の項目はPCV圧力センサ35から受信した一定期間前からのPCV圧力Wの履歴において、PCV圧力Wが大気圧Mよりも高い状態が継続していないことである。2つ目の項目は、電圧センサ73から受信した最新のバッテリ電圧Vが判定電圧VTh以上であることである。なお、1つ目の項目に関して、PCV圧力Wが大気圧Mよりも高い状態が継続している場合、詰まり異常が発生している可能性がある。1つ目の項目は、こうした状況を排除するためのものである。上記の一定期間は、詰まり異常が発生しているとみなせる時間の長さとして、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。2つの目の項目に関して、バッテリ電圧Vが判定電圧VTh未満であるときには、診断に用いるセンサに対して必要な電圧を印加できない可能性がある。診断装置50は、PCV圧力センサ35から受信するPCV圧力Wの履歴と、大気圧センサ71から受信する大気圧Mと、電圧センサ73から受信するバッテリ電圧Vとを参照することで、前提条件の成立可否を判定する。診断装置50は、前提条件が成立していない場合(ステップS21:NO)、処理をステップS50に進める。
【0043】
ステップS50において、診断装置50は、解析用データを消去する。なお、上記のステップS21の判定がNOになって処理がステップS50に進んだ場合、診断装置50は診断処理の開始以降に解析用データを記憶していない。そのため、この場合、診断装置50は実質的には何もしない。この点、後述のステップS22の判定がNOになって処理がステップS50に進んだ場合も同様である。診断装置50は、ステップS50の処理を実行すると、診断処理の一連の処理を一旦終了する。この後、診断装置50は、再度ステップS21の処理を実行する。
【0044】
一方、ステップS21において、診断装置50は、前提条件が成立している場合(ステップS21:YES)、処理をステップS22に進める。
ステップS22において、診断装置50は、吸入空気量GAが判定空気量GATh以上であるか否かを判定する。診断装置50は、エアフロメータ72から受信した最新の吸入空気量GAと判定空気量GAThとを参照する。そして、診断装置50は、最新の吸入空気量GAが判定空気量GATh未満の場合(ステップS22:NO)、処理を上記ステップS50に進める。一方、診断装置50は、最新の吸入空気量GAが判定空気量GATh以上の場合(ステップS22:YES)、処理をステップS23に進める。なお、処理がステップS23に進む状況の一例は、吸入空気量GAの増加中において当該吸入空気量GAが判定空気量GATh未満から判定空気量GATh以上へと増加した状況である。つまり、吸入空気量GAの上昇過程を捉えることになる。
【0045】
ステップS23において、診断装置50は、上記の単位時間に亘って解析用データを記憶する。具体的には、診断装置50は、ステップS23に処理が進んでから単位時間が経過するまでの間にエアフロメータ72から受信する複数の吸入空気量GAを時系列で記憶する。診断装置50は、この時系列を第1解析用データD1として取り扱う。また、診断装置50は、ステップS23に処理が進んでから単位時間が経過するまでの間にPCV圧力センサ35から受信する複数のPCV圧力Wを時系列で記憶する。診断装置50は、この時系列を第2解析用データD2として取り扱う。診断装置50は、解析用データをRAMに記憶してもよいし、記憶装置53に記憶してもよい。この点、診断処理で利用する他のパラメータについても同様である。診断装置50は、例えば時間計測用のカウンタをカウントアップすることで単位時間を計測すればよい。診断装置50は、ステップS23に処理が進んでから単位時間が経過すると、処理をステップS24に進める。
【0046】
ステップS24において、診断装置50は、吸気変動量ΔGAを算出する。具体的には、診断装置50は、ステップS23で記憶した第1解析用データD1を参照する。そして、診断装置50は、第1解析用データD1の時系列のうちの初めの吸入空気量GAを開始空気量として特定する。また、診断装置50は、第1解析用データD1の時系列のうちの最後の吸入空気量GAを終了空気量として特定する。そして、診断装置50は、終了空気量から開始空気量を減算した値を吸気変動量ΔGAとして算出する。すなわち、本実施形態の診断装置50は、終了空気量から開始空気量を減算した値を単位時間で除算せずに、上記減算した値をそのまま吸気変動量ΔGAとして取り扱う。この後、診断装置50は、処理をステップS25に進める。
【0047】
ステップS25において、診断装置50は、特定条件が成立しているか否かを判定する。特定条件は、次の項目(A)及び(B)の双方が成立していることである。
(A)ステップS24で算出した吸気変動量ΔGAが規定値K以上であること。
(B)ステップS24で算出した開始空気量が、第1解析用データD1の時系列の最小値であり、且つ、ステップS24で算出した終了空気量が、第1解析用データD1の時系列の最大値であること。
【0048】
診断装置50は、項目(A)の成立可否を判断するにあたっては、先ず、規定値マップを参照する。そして、診断装置50は、規定値マップに基づいて、ステップS24で算出した開始空気量に対応する規定値Kを算出する。そして、診断装置50は、この規定値Kと、ステップS24で算出した吸気変動量ΔGAとを比較することで、項目(A)に規定されている大小関係の成立可否を判断する。診断装置50は、項目(B)の成立可否を判断するにあたっては、第1解析用データD1の時系列における各吸入空気量GAと開始空気量とを比較するとともに、各吸入空気量GAと終了空気量とを比較する。そのことによって、診断装置50は、項目(B)に規定されている大小関係の成立可否か判断する。診断装置50は、特定条件が成立していない場合(ステップS25:NO)、処理をステップS50に進める。一方、診断装置50は、特定条件が成立している場合(ステップS25:YES)、ステップS23で解析用データを記憶した一連の期間を特定期間Hとして特定する。この後、診断装置50は、処理をステップS26に進める。ここで、ステップS25の判定がYESになることは、第1解析用データD1の時系列において、時間の推移とともに吸入空気量GAが増加し続けていることを意味する。上記のとおり、吸入空気量GAが相応に多い状況下(ステップS22:YES)では、吸入空気量GAが多くなるほどPCV圧力Wは低くなる。こうした吸入空気量GAとPCV圧力Wとの関係上、第1解析用データD1の時系列において吸入空気量GAが増加し続けている場合、第2解析用データD2の時系列では、時間の推移とともにPCV圧力Wが減少し続けていることになる。
【0049】
ステップS26において、診断装置50は、圧力変動量WAを算出する。具体的には、診断装置50は、PCV圧力Wの時系列である上記の第2解析用データD2を参照する。そして、診断装置50は、第2解析用データD2の時系列のうちの初めのPCV圧力Wを基準圧力として特定する。次に、診断装置50は、第2解析用データD2の時系列を構成している複数のPCV圧力Wのそれぞれ(以下、データ要素と記す。)と、基準圧力との差分を算出する。すなわち、診断装置50は、データ要素毎に、基準圧力からデータ要素を減算した値を圧力差分値ΔWとして算出する。そして、診断装置50は、全ての圧力差分値ΔWを積算した値を圧力変動量WAとして算出する。上記のとおり、処理がステップS26に進む状況下では、第2解析用データD2の時系列においてPCV圧力Wが減少し続けている。そのため、各データ要素の値は基本的には基準圧力の値よりも小さい。しかし、ノイズ等に起因して、データ要素の値が基準圧力の値よりも大きいこともあり得る。診断装置50は、データ要素の値が基準圧力の値よりも大きい場合、圧力差分値ΔWを「0」として算出する。診断装置50は、圧力変動量WAを算出すると、処理をステップS27に進める。なお、ステップS26の処理は、第1処理である。
【0050】
ステップS27において、診断装置50は、判定パラメータYを算出する。具体的には、診断装置50は、ステップS26で算出した圧力変動量WAと、ステップS24で算出した吸気変動量ΔGAとを参照する。そして、診断装置50は、圧力変動量WAを吸気変動量ΔGAで除算する。そして、診断装置50は、得られた値を判定パラメータYとする。診断装置50は、判定パラメータYを算出すると、処理をステップS28に進める。このステップS27の処理は、第2処理である。なお、ステップS24で説明した吸気変動量ΔGAの定義上、吸気変動量ΔGAは、特定期間Hの最小値と最大値との差分である。つまり、診断装置50は、ステップS27の処理では、特定期間Hにおける吸入空気量GAの最小値と最大値との差分で圧力変動量WAを除算する。
【0051】
ステップS28において、診断装置50は、積算パラメータZを更新する。すなわち、診断装置50は、現在記憶している積算パラメータZに、ステップS27で算出した判定パラメータYを加算する。そして、診断装置50は、得られた値を最新の積算パラメータZとして記憶する。この後、診断装置50は、処理をステップS29に進める。
【0052】
ステップS29において、診断装置50は、積算回数Nを更新する。すなわち、診断装置50は、現在記憶している積算回数Nに「1」を加算する。そして、診断装置50は、得られた値を最新の積算回数Nとして記憶する。この後、診断装置50は、処理をステップS30に進める。
【0053】
ステップS30において、診断装置50は、ステップS30で更新した積算回数Nが判定回数NTh以上であるか否かを判定する。診断装置50は、ステップS30で更新した積算回数Nが判定回数NTh未満の場合(ステップS30:NO)、処理をステップS50に進める。
【0054】
一方、ステップS30において、診断装置50は、積算回数Nが判定回数NTh以上の場合(ステップS30:YES)、処理をステップS31に進める。
ステップS31において、診断装置50は、ステップS28で更新した積算パラメータZが判定閾値ZTh以上であるか否かを判定する。診断装置50は、積算パラメータZが判定閾値ZTh以上の場合(ステップS31:YES)、処理をステップS32に進める。この場合、診断装置50は、ステップS32において、ブローバイガス配管33は正常であると判定する。診断装置50は、例えば、漏出異常の有無を示す漏出フラグをオフにする。この後、診断装置50は、処理をステップS34に進める。なお、診断装置50は、上記の漏出フラグのオンオフの情報を、例えば内燃機関10を制御する上での一情報として利用する。
【0055】
一方、ステップS31において、診断装置50は、積算パラメータZが判定閾値ZTh未満の場合(ステップS31:NO)、処理をステップS33に進める。この場合、診断装置50は、ステップS33において、ブローバイガス配管33に漏出異常が発生していると判定する。診断装置50は、例えば、漏出フラグをオンにする。また、診断装置50は、報知ランプ78を点灯させる。この後、診断装置50は、処理をステップS34に進める。このように、診断装置50は、ステップS31、ステップS32、及びステップS33の処理を通じて、ブローバイガス通路31の異常の有無の診断結果を得る。これらステップS31、ステップS32及びステップS33の処理は、第3処理である。
【0056】
ステップS34において、診断装置50は、リセット処理を行う。すなわち、診断装置50は、積算回数Nと、積算パラメータZとを「0」にリセットする。また、診断装置50は、解析用データを消去する。この後、診断装置50は、診断処理の一連の処理を一旦終了する。この後、診断装置50は、再度ステップS21の処理を実行する。なお、診断装置50は、ステップS33で報知ランプ78を点灯させた場合、例えば乗員の操作に応じて報知ランプ78の消灯指令を受信するまでは、報知ランプ78の点灯を継続する。
【0057】
<実施形態の作用>
(A)診断処理の全体的な流れについて
ブローバイガス配管33が正常である場合を例として、診断処理の全体の流れを説明する。いま、車両300が加速中であるとする。そして、それに伴って、過給機11による過給を伴いつつ吸入空気量GAが増加中であるとする。図5の(a)に示すように、吸入空気量GAの増加に伴って時刻t1で吸気変動量ΔGAが判定空気量GAThになったとする(ステップS22:YES)。すると、診断装置50は、単位時間に亘って解析用データを記憶する(ステップS23)。この単位時間における吸気変動量ΔGAが規定値K以上である場合(ステップS25:YES)、診断装置50は、上記の単位時間に相当する期間を特定期間(以下、第1特定期間と記す。)H1として特定する。上記のとおり、過給機11が過給を行っている場合、吸入空気量GAの変化とPCV圧力Wの変化とは連動する。したがって、図5の(a)に示すように、第1特定期間H1に吸入空気量GAが第1空気量GA1から第2空気量GA2へと増加した場合、図5の(b)の実線に示すように、第1特定期間H1にPCV圧力Wは第1圧力W1から第2圧力W2へと減少する。このPCV圧力Wの変化の度合い示す指標として、診断装置50は、図5の(b)のハッチングで示す面積に相当する圧力変動量WAを算出する(ステップS26)。診断装置50は、この圧力変動量WAに応じた判定パラメータYによって積算パラメータZを更新する(ステップS28)。すなわち、図5の(c)の実線に示すように、第1特定期間H1の終了時点t2で積算パラメータZが1段階増える。
【0058】
図5の(a)に示すように、第1特定期間H1の終了後も、吸入空気量GAの増加が続いているものとする。この場合、診断装置50は、第1特定期間H1の後の単位時間を第2特定期間H2として特定する。そして、診断装置50は、上記と同様にして圧力変動量WAに応じた判定パラメータYで積算パラメータZを更新する。そして、図5の(c)の実線で示すように、第2特定期間H2の終了時点t3で積算パラメータZが1段階増える。こうして積算パラメータZが順次増えていく。
【0059】
さて、ブローバイガス配管33に漏出異常が生じているときには、ブローバイガス配管33内が大気と連通している。そのため、吸入空気量GAの変化に応じたPCV圧力Wの変化は小さくなる。ここで仮に、ブローバイガス配管33が部分連通状態になっているときに上記の第1特定期間H1を迎えたとする。そして、吸入空気量GAが第1空気量GA1から第2空気量GA2へと増加したとする。この場合、図5の(b)の二点鎖線で示すように、PCV圧力Wは、第1特定期間H1において、第1圧力W1から、第2圧力W2よりも高い第3圧力W3にまでしか低下しない。このときの圧力変動量WAは、ブローバイガス配管33が正常である場合の圧力変動量WAよりも小さくなる。この場合、図5の(c)の二点鎖線で示すように、第1特定期間H1の終了時点t2での積算パラメータZAは、ブローバイガス配管33が正常であるときの積算パラメータZ1よりも小さくなる。このように、ブローバイガス配管33に漏出異常が生じているときには、積算パラメータZひいては積算パラメータZが小さくなる。この点を利用し、診断装置50は、積算パラメータZの更新回数が判定回数NThになったときの積算パラメータZが小さい場合に(ステップS31:NO)、ブローバイガス配管33に漏出異常が生じていると判定する(ステップS33)。
【0060】
(B)圧力変動量WAの補正について
診断装置50は、圧力変動量WAをそのまま判定パラメータYとはせず、圧力変動量WAの補正した値を判定パラメータYとする。この補正を行う意義を説明する。その説明のために、吸気変動量ΔGA及びブローバイガス配管33の状態に関して、状況の異なる3つのケースを考える。第1ケースQ1は、上記第1特定期間H1のように、吸入空気量GAが第1空気量GA1から第2空気量GA2へと増加したケースであって、且つブローバイガス配管33が正常であるケースである。この第1ケースQ1では、図5の(b)の実線で示すように、PCV圧力Wが第1圧力W1から第2圧力W2へと低下する。なお、この後に説明する他のケースとの比較のために、図5の(b)の実線と同じPCV圧力Wの推移を、図8の(b)の一点鎖線で示している。同様に、図5の(a)の実線と同じ吸入空気量GAの推移を、図8の(a)の一点鎖線で示している。
【0061】
第2ケースQ2は、吸気変動量ΔGAが第1ケースQ1よりも相当に大きく、且つブローバイガス配管33が正常のケースである。すなわち、図8の(a)の実線に示すように、仮に第1特定期間H1において吸入空気量GAが第1空気量GA1から、第2空気量GA2よりも大きい第3空気量GA3へと増加したとする。この場合、第1特定期間H1の終了時点t2の吸入空気量GAである第3空気量GA3と、開始時点t1の吸入空気量である第1空気量GA1との差分である吸気変動量ΔGAXは、第1ケースQ1の吸気変動量ΔGA1よりも大きい。この第2ケースQ2では、図8の(b)の二点鎖線で示すように、第1特定期間H1の開始時点t1から終了時点t2までに、PCV圧力Wが、第1圧力W1から、第2圧力W2よりも低い第4圧力W4へと低下する。
【0062】
第3ケースQ3は、吸気変動量ΔGAが第2ケースQ2と同じであり、且つブローバイガス配管33に部分連通状態の漏出異常が発生しているケースである。すなわち、図8の(a)の実線で示すように、上記第2ケースQ2と同様、第1特定期間H1において吸入空気量GAは第1空気量GA1から第3空気量GA3へと増加する。この第3ケースQ3の場合、ブローバイガス配管33が部分連通状態でることから、吸入空気量GAの増加に応じたPCV圧力Wの低下幅は、ブローバイガス配管33が正常である第2ケースQ2に比べて小さくなる。つまり、図8の(b)の実線で示すように、PCV圧力Wは、第1特定期間H1の開始時点t1から終了時点t2までに、第1圧力W1から、第4圧力W4よりも高い第5圧力W5にまでしか低下しない。
【0063】
上記のとおり、第3ケースQ3では、第2ケースQ2に比べて、第1特定期間H1におけるPCV圧力Wの低下幅が小さい。とはいえ、第3ケースQ3の吸気変動量ΔGAXは相当に大きいことから、PCV圧力Wの低下幅は相応に大きい。そして、第3ケースQ3のPCV圧力Wの低下幅は、例えば第1ケースQ1のPCV圧力Wの低下幅よりも大きくなり得る。つまり、図8の(b)に示すように、第3ケースQ3における第1特定期間H1の終了時点t2でのPCV圧力である第5圧力W5は、第1ケースQ1における上記終了時点t2でのPCV圧力である第2圧力W2よりも低くなり得る。この場合、図8の(b)の斜線で示す第3ケースQ3の圧力変動量WAは、図5の(b)の斜線で示す第1ケースQ1の圧力変動量WAよりも大きくなる。このように、部分連通状態の漏出異常が発生していても、吸気変動量ΔGAXが相当に大きければ、正常時において吸気変動量ΔGA1が小さい場合よりも圧力変動量WAは大きくなり得る。
【0064】
仮に、上記のような圧力変動量WAを補正せずにそのまま判定パラメータYとして取り扱うとする。この場合、図8の(c)に実線で示すように、第1特定期間H1の終了時点t2における第3ケースQ3の積算パラメータZBは、図8の(c)に一点鎖線で示す第1ケースQ1の積算パラメータZ1よりも大きくなる。上記のとおり、診断処理では、積算パラメータZが小さいときにブローバイガス配管33に漏出異常が生じていると判定する。したがって、第3ケースQ3のように、ブローバイガス配管33に漏出異常が生じているにも拘わらず積算パラメータZが大きくなっていると、漏出異常が生じているにも拘わらずブローバイガス配管33が正常であると誤判定するおそれがある。
【0065】
こうした事態を回避すべく、診断装置50は、圧力変動量WAの補正を行う。具体的には、診断装置50は、第1特定期間H1における圧力変動量WAを吸気変動量ΔGAで除算する。このことにより、診断装置50は、吸気変動量ΔGAの影響の小さい値へと圧力変動量WAを補正する。例えば図6に示すように、上記の第1ケースQ1では、吸気変動量ΔGA1が小さいことから、補正前の値である圧力変動量WAから、補正後の値である判定パラメータYへの変化の度合いは小さくなる。一方、例えば図7に示すように、上記の第3ケースQ3では、吸気変動量ΔGAXが大きいことから、補正前の値である圧力変動量WAから、補正後の値である判定パラメータYへの変化の度合いは大きくなる。こうした補正を行うことで、ブローバイガス配管33の状態に応じて生じる、本来のPCV圧力Wの変化を反映した判定パラメータYを算出できる。つまり、判定パラメータYは、吸気変動量ΔGAが略同一であると仮定した状況下での、ブローバイガス配管33の状態に応じたPCV圧力Wの変化を反映した値といえる。そして、実際の吸気変動量ΔGAが大きくても、ブローバイガス配管33に漏出異常が生じているときには判定パラメータYが小さくなる。こうした判定パラメータYを利用してブローバイガス配管33の診断を行うことで、正確な診断結果を得ることができる。
【0066】
<実施形態の効果>
(1)上記作用の欄に記載したとおり、診断装置50は、特定期間Hにおける吸気変動量ΔGAが大きい場合、その分、圧力変動量WAを小さな値に補正する。このことにより、ブローバイガス配管33に漏出異常が発生していて、本来であれば圧力変動量WAが小さくなるはずであるのに、吸入空気量GAの変動量が大きいことに伴って圧力変動量WAも大きくなってしまうことを防げる。したがって、本実施形態は、ブローバイガス配管33における漏出異常の有無についての誤判定を防止できる。
【0067】
(2)診断装置50は、複数回算出した判定パラメータYの積算値である積算パラメータZに基づいてブローバイガス配管33における漏出異常の有無を判定する。この場合、例えば1つの判定パラメータYに基づいてブローバイガス配管33の漏出異常の有無を判定する場合に比べて、信頼性の高い判定結果を得ることができる。
【0068】
(3)診断装置50は、特定期間Hにおける吸入空気量GAの最大値と最小値との差分で圧力変動量WAを除算する。このようにして特定期間Hにおける吸入空気量GAの変化分によって圧力変動量WAを除算することで、吸気変動量ΔGAによる影響を小さくするという観点において適切に圧力変動量WAを補正できる。その上、本実施形態の構成では、ステップS25の特定条件の成立判定に利用する吸気変動量ΔGAを圧力変動量WAの補正に利用する。したがって、圧力変動量WAの補正するための専用のパラメータを別途算出する必要がない。こうした本実施形態では、診断装置50の処理の負担を最小限に抑えることができる。
【0069】
<変更例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0070】
・ステップS25に関して、特定条件の項目(B)の内容は、上記実施形態の例に限定されない。上記実施形態のように開始空気量と終了空気量とが第1解析用データD1の時系列の最小値と最大値となっていなくても、当該時系列全体の傾向として吸入空気量GAが概ね増加しているのであれば、吸入空気量GAが増加中であるとみなすことができる。項目(B)は、時系列全体の傾向として吸入空気量GAが増加中であると判断できる内容であればよい。例えば、横軸を時間、縦軸を吸入空気量GAとした座標系を規定し、その座標系で吸入空気量GAの時系列の回帰直線を算出する。この回帰直線の傾きが正であるという内容を項目(B)で規定してもよい。
【0071】
・項目(B)は必須ではない。上記実施形態の単位時間のスケールにおいて吸気変動量ΔGAが規定値K以上であれば、大抵の場合、第1解析用データD1の時系列において吸入空気量GAが増加中である可能性が高い。
【0072】
・特定期間Hの定め方は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、特定期間Hは、単位時間より長くてもよい。単位時間よりも長い期間を特定期間Hとして定める場合の一例として、次のような態様(以下、第1態様と記す。)を採用してもよい。すなわち、診断処理のステップS23において、例えば単位時間の3回分又は4回分といった、複数の単位時間を積算した期間分だけ連続して解析用データを記憶する。そして、その解析用データの時系列を単位時間毎に区切り、単位時間毎に上記の実施形態の特定条件の成立可否を判断する。そして、連続する複数の単位時間において特定条件が成立している場合、それら連続する複数の単位時間をまとめて1つの特定期間Hとして定めてもよい。特定期間Hは、吸気変動量ΔGAが規定値K以上となる期間であればよい。
【0073】
・単位時間の設定の仕方は、上記実施形態の例に限定されない。単位時間は、1秒以上でもよい。エアフロメータ72によって単位時間内に吸入空気量GAを少なくとも2回検出できれば、吸気変動量ΔGAを算出できる。また、PCV圧力センサ35によって単位時間内にPCV圧力Wを少なくとも2回検出できれば、圧力変動量WAを算出できる。
【0074】
・ステップS26で算出する圧力変動量WAは、圧力差分値ΔWを積算したものに限定されない。例えば、第2解析用データD2の時系列のうちの最大値と最小値との差分の絶対値を圧力変動量WAとして定めてもよい。圧力変動量WAは、特定期間H中のPCV圧力Wの変動の度合いの大小を反映した値であればよい。
【0075】
・ステップS25で特定期間Hを特定する際、吸入空気量GAが増加から減少に転じた後の吸入空気量GAの減少中を対象として当該特定期間Hを特定してもよい。そして、ステップS26では、吸入空気量GAの減少中の圧力変動量WAを算出してもよい。上記のとおり、上流吸気通路241で負圧が発生している状況下では、吸入空気量GAの変化とPCV圧力Wの変化とが連動する。したがって、上流吸気通路241で負圧が発生している状況下であれば、吸入空気量GAの減少中も吸入空気量GAの変化に伴ってPCV圧力Wが変化する。この場合、吸入空気量GAの減少に伴ってPCV圧力Wは増加することになる。こうしたPCV圧力Wの増加中の圧力変動量WAを算出してもよい。その際、次のような態様を採用してもよい。すなわち、第2解析用データD2の時系列における最後のPCV圧力Wを基準圧力とする。そして、この基準圧力から各データ要素を減算した値の積算値を圧力変動量WAとする。
【0076】
・上記変更例のように、吸入空気量GAの減少中を対象として特定期間Hを特定する場合、例えばステップS25の特定条件として次の内容を採用してもよい。項目(A)は、吸気変動量ΔGAの絶対値が規定値K以上である、という内容にする。ここでの吸気変動量ΔGAは、例えば、上記実施形態と同じ定義とすればよい。項目(B)は、開始空気量が第1解析用データD1の最大値であり、且つ終了空気量が第1解析用データD1の最小値である、という内容にする。
【0077】
・吸入空気量GAの増加中と減少中との双方で個々に圧力変動量WAを算出してもよい。この態様を実現できるようにステップS25の特定条件を適宜定めてよい。
・ステップS24に関して、吸気変動量ΔGAの定め方は、上記実施形態の例に限定されない。上記実施形態のように終了空気量から開始空気量を減算した値をそのまま吸気変動量ΔGAとするのではなく、上記減算した値を単位時間で除算して値を吸気変動量ΔGAとしてもよい。この場合、吸気変動量ΔGAと同じ単位になるように規定値Kを設定しておけばよい。また、この後の変更例のように、吸気変動量ΔGAの定め方は、第1解析用データD1における終了空気量と開始空気量とを利用したものに限定されない。吸気変動量ΔGAは、単位時間あたりの吸入空気量GAの変化の度合いを表したものであればよい。
【0078】
・吸気変動量ΔGAを算出する上で、第1解析用データD1を利用することは必須ではない。つまり、吸入空気量GAを時系列で一旦記憶する態様以外で吸気変動量ΔGAを算出してもよい。例えば、診断装置50は、連続する2つのタイミングでエアフロメータ72から受信した吸入空気量GAの差分の絶対値を、吸気変動量ΔGAとして算出してもよい。この場合、エアフロメータ72からの検出信号の受信間隔を単位時間として取り扱うことになる。このようにして吸気変動量ΔGAを算出する場合、例えば特定期間Hを次のように特定することが考えられる。すなわち、吸気変動量ΔGAを繰り返し算出するとともに、繰り返し算出した吸気変動量ΔGAが規定値K以上であるという状況が継続している一連の期間を、特定期間Hとして特定する。このとき、規定値Kは、吸気変動量ΔGAの算出に利用した2つの吸入空気量GAのうちのいずれかに対応する値を規定値マップから算出すればよい。この態様(以下、第2態様と記す。)を採用する場合、診断装置50は単位時間を予め記憶しておく必要はない。第2態様を実現できるように診断処理の処理内容を変更してもよい。
【0079】
・第2態様で吸気変動量ΔGAを算出するにあたり、エアフロメータ72から順次受信する吸入空気量GAをある程度間引きして吸気変動量ΔGAの算出に利用してもよい。つまり、連続して受信した2つのデータを利用して吸気変動量ΔGAを算出するのではなく、エアフロメータ72から順次受信する吸入空気量GAのうち例えば3つおきや4つおきといった間隔をあけたデータを利用して吸気変動量ΔGAを算出してもよい。いくつおきのタイミングの吸入空気量GAを吸気変動量ΔGAの算出に利用するかを予め決めておけばよい。
【0080】
・吸気変動量ΔGAの算出と同様、圧力変動量WAを算出する上で、第2解析用データD2を利用することは必須ではない。例えば、PCV圧力センサ35からPCV圧力Wを受信する度に、その受信した値と基準圧力との差分を圧力差分値ΔWとして算出し、圧力差分値ΔWを順次積算することで圧力変動量WAを算出してもよい。こうした態様を実現する上では、診断処理の処理内容を次のようにすることが考えられる。吸入空気量GAが判定空気量GATh以上になったタイミングでのPCV圧力Wを基準圧力として取り扱う。そして、吸入空気量GAが判定空気量GATh以上になったタイミングからある一定期間継続して上記のようにして圧力変動量WAを更新していく。その際、圧力変動量WAの更新と並行して、上記第2態様を利用した吸気変動量ΔGAを繰り返し算出する。そして、圧力変動量WAを更新する一定期間が特定期間Hに当てはまるか否かを判断する。そして、圧力変動量WAを更新する一定期間が特定期間Hに当てはまる場合に、その圧力変動量WAを判定パラメータYの算出に利用する。
【0081】
・ステップS27に関して、圧力変動量WAの補正の仕方は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、上記の第1態様のように、連続する複数の単位時間をまとめて1つの特定期間Hとする場合において、その特定期間Hにおける吸入空気量GAの最大値と最小値との差分の絶対値によって圧力変動量WAを除算してもよい。圧力変動量WAの補正の仕方は、次の条件を満たすものであればよい。すなわち、同一の圧力変動量WAを補正するとしたとき、特定期間Hにおける吸気変動量ΔGAが大きい場合に、当該吸気変動量ΔGAが小さい場合に比較して、圧力変動量WAを小さな値に補正すればよい。ここでいう特定期間Hにおける吸気変動量ΔGAは、その特定期間Hを代表する吸気変動量ΔGAである。連続する複数の単位時間をまとめて1つの特定期間Hとする場合の吸入空気量GAは、例えば、複数の単位時間のそれぞれの吸気変動量ΔGAについての平均値とすればよい。
【0082】
・上記変更例のように、吸入空気量GAの減少中を対象として特定期間Hを特定した場合、吸気変動量ΔGAの絶対値で圧力変動量WAを除算すればよい。
・圧力変動量WAを補正するためのパラメータとして吸気変動量ΔGAを利用するのではなく、補正専用のパラメータを別途用意してもよい。例えば、特定期間Hの開始から終了までにエアフロメータ72が検出した吸入空気量GAの積算値を補正用のパラメータとしてもよい。そして、圧力変動量WAを吸入空気量GAの積算値で除算してもよい。圧力変動量WAを吸入空気量GAの積算値で除算する場合、特定期間Hの途中での吸入空気量GAの変化等、特定期間H全体としての吸入空気量GAの変化を加味した補正を行うことができる。
【0083】
・圧力変動量WAを補正するためのパラメータとして、特定期間Hにおいてアクセルセンサ75が検出したアクセル操作量ACCの最大値と最小値との差分の絶対値を採用してもよい。アクセル操作量ACCは、吸入空気量GAを増減と関連するパラメータである。そのため、アクセル操作量ACCの推移を反映した上記差分の情報を圧力変動量WAの補正に利用すれば、吸気変動量ΔGAの影響を抑える上で適切な補正を行うことができる。そして、アクセル操作量ACCの情報を利用して圧力変動量WAを補正する場合、例えば吸入空気量GAの推移の情報を偶発的に利用できない場合でも、吸気変動量ΔGAによる影響の小さい値に圧力変動量WAを補正できる。
【0084】
・圧力変動量WAを補正するためのパラメータとして、車速センサ74が検出する車速SP、又はそこから把握される車両300の加速度を利用してもよい。吸入空気量GAの増減は、車両300の加減速と関連している。したがって、車両300の加減速と関連するパラメータである車速SPや加速度は、圧力変動量WAを補正するためのパラメータとして有効である。
【0085】
・圧力変動量WAの補正の仕方は、圧力変動量WAを除算するものに限定されない。同一の圧力変動量WAを補正するとしたとき、特定期間Hにおける吸気変動量ΔGAが大きい場合に、当該吸気変動量ΔGAが小さい場合に比較して、圧力変動量WAを小さな値に補正できるのであれば、補正の仕方は問わない。
【0086】
・規定値Kは、上記実施形態の例に限定されない。吸気変動量ΔGAの定め方によって規定値Kは変わる。診断処理で採用する吸気変動量ΔGAの定め方に合わせて規定値Kを設定すればよい。そして、規定値Kは、次の内容を満たしていればよい。すなわち、内燃機関10で生じ得る吸気変動量ΔGAのうち、車両300が過給機11による過給を伴う加速中であるときに生じ得る最小値以上の値であり、且つ漏出異常の発生時と正常時とで圧力変動量WAに明瞭な差がでる値であればよい。吸気変動量ΔGAは正の値とする。
【0087】
・規定値Kを吸入空気量GAの大小によって可変に設定するのではなく、規定値Kを一律の固定値に設定してもよい。例えば、規定値Kを相当に大きな値に設定すれば、吸入空気量GAの大小に拘わらず、上記規定値Kの条件を満たすものになる。また、圧力変動量WAを算出する吸入空気量GAの範囲がある程度限られているのであれば、その吸入空気量GAの範囲に見合った値に規定値Kを設定すればよい。
【0088】
・判定空気量GAThの定め方は、上記実施形態の例に限定されない。さらにいうと、圧力変動量WAを算出する上での前提条件として、吸入空気量GAが判定空気量GATh以上であるという条件(ステップS22)を設けることは必須ではない。ここで、上記のとおり、特定期間Hを特定する条件には、吸気変動量ΔGAが規定値K以上であるという内容が含まれている。この内容を満たす特定期間Hを対象にして圧力変動量WAを算出すれば、吸入空気量GAが判定空気量GATh以上であるという条件を設定していなくても、ある程度必然的に吸入空気量GAが多い状況下を対象に圧力変動量WAを算出することになり得る。そして、上流吸気通路241で負圧が発生している状況下であって、且つブローバイガス配管33の正常時と漏出異常の発生時とで圧力変動量WAに差が生じる期間を対象に圧力変動量WAを算出することになり得る。
【0089】
・上記のとおり、吸入空気量GAとPCV圧力Wとには関連がある。そこで、上流吸気通路241で負圧が発生している状況を捉える条件として、吸入空気量GAが判定空気量GATh以上という条件に代えて、PCV圧力Wが予め定められた判定圧力以下であるという条件を設定してもよい。この場合の判定圧力は、例えば、ブローバイガス配管33が正常である状態において、吸入空気量GAが上記実施形態の判定空気量GAThになるときのPCV圧力Wとすればよい。なお、こうした判定圧力は、大気圧Mよりも小さくなる。つまり、圧力変動量WAを算出する前提としてPCV圧力Wが判定圧力以下であるという条件を設定する場合、基本的には、ブローバイガス配管33の完全連通状態では圧力変動量WAを算出しないことになる。そして、主としてブローバイガス配管33の部分連通状態のみを対象として漏出異常の有無を診断することになる。ここで、完全連通状態の漏出異常に限っていえば、圧力変動量WAを利用しなくても漏出異常を把握することは可能である。例えば、吸入空気量GAが相応に多いにも拘わらずPCV圧力Wが大気圧M近傍の値に維持されていれば、完全連通状態の漏出異常が生じていると判断できる。一方で、部分連通状態の漏出異常を検出する上では、圧力変動量WAひいては判定パラメータYを利用した診断が必要である。こうした観点から、ブローバイガス配管33の部分連通状態のみを対象として漏出異常の有無を診断する上では、上記のようにPCV圧力Wが判定圧力以下という条件を設定することも有効である。
【0090】
・特定期間Hを特定する上で、吸気変動量ΔGAそのものではなく、吸気変動量ΔGAの指標となる他のパラメータを利用してもよい。そうしたパラメータとして、例えばアクセル操作量ACCを利用してもよい。上記のとおり、アクセル操作量ACCの増減と吸入空気量GAの増減とには関連がある。そこで、アクセル操作量ACCの増減と、吸入空気量GAの増減との関連を予め調べておく。そして、その関係を基に、吸気変動量ΔGAの規定値Kに対応する、アクセル操作量ACC専用の規定値を設定しておけば、アクセル操作量ACCの推移の情報を利用して特定期間Hを特定することも可能である。そして、アクセル操作量ACCの単位時間の変動量が上記専用の規定値以上となる期間を、吸気変動量ΔGAが規定値K以上となる特定期間Hとして特定してもよい。アクセル操作量ACCの単位時間の変動量は、例えば、予め定められた単位時間におけるアクセル操作量ACCの時系列から算出してもよいし、連続する2つのタイミングでアクセルセンサ75から受信するアクセル操作量ACCの差分としてもよい。
【0091】
・特定期間Hを特定する上で利用するパラメータとして、PCV圧力Wを利用してもよい。ブローバイガス配管33の正常時又は部分連通状態の漏出異常時には、吸入空気量GAの変化とPCV圧力Wの変化とが連動する。そこで、PCV圧力Wの単位時間あたりの変動量が、PCV圧力W専用の規定値以上である期間を、吸気変動量ΔGAが規定値K以上となる特定期間Hとして特定してもよい。部分連通状態の漏出異常のみを異常の検出対象とする上では、こういった態様も可能である。PCV圧力W専用の規定値は、吸入空気量GAとPCV圧力Wとの対応関係を踏まえて、例えばブローバイガス配管33が正常であることを前提に、吸気変動量ΔGAの規定値Kと対応させて設定すればよい。PCV圧力Wの単位時間あたりの変動量の定め方は、上記変更例に記載したアクセル操作量ACCの単位時間の変動量と同様、適宜定めることができる。このように、PCV圧力Wそのものを利用して特定期間Hを特定してもよい。そして、その特定期間Hにおける圧力変動量WAを例えばアクセル操作量ACCの推移の情報を利用して補正してもよい。
【0092】
・ブローバイガス配管33における漏出異常の有無の判定の仕方は、上記実施形態の例に限定されない。上記判定の仕方は、判定パラメータYを利用したものであればよい。例えば、複数の判定パラメータYを乗算した値によって漏出異常の有無を判定してもよい。1度算出した判定パラメータYのみに基づいて漏出異常の有無の判定を行ってもよい。漏出異常の有無を適切に判定できるのであれば、判定の手法は問わない。
【0093】
・内燃機関10を制御する処理装置と、診断装置50とを別々の処理装置として構成してもよい。診断装置50は、診断処理をする上で必要な情報を受信できればよい。診断処理をする上で必要な情報の一つは、PCV圧力Wである。
【0094】
・内燃機関の全体構成は上記実施形態の例に限定されない。例えば、過給機として、排気駆動式ではなく、クランク軸14の動力で駆動されるタイプのものを採用してもよい。
・PCV圧力センサ35の設置位置を上記実施形態の例から変更してもよい。例えば、PCV圧力センサ35を、ブローバイガス配管33の途中に設けてもよい。この場合、ブローバイガス配管33のうち、PCV圧力センサ35の設置部位よりも吸気通路側の部分を対象にして漏出異常の有無を診断できる。PCV圧力センサ35は、負圧の発生源である上流吸気通路241と、当該PCV圧力センサ35の設置部位との間の部分の圧力の変動を精度よく検出できる。
【0095】
・PCV圧力センサとして、大気圧Mを基準とする相対的な圧力であるゲージ圧を検出するセンサを採用してもよい。
・ブローバイガス通路の構成は、上記実施形態の例に限定されない。ブローバイガス通路は、クランク室17と上流吸気通路241とを連通していればよい。ブローバイガス通路は、蓄積空間23及び連通路21を介すことなく、クランク室17と上流吸気通路241とを直接接続する通路であってもよい。こうしたブローバイガス通路の途中にPCV圧力センサ35を設置してもよい。
【符号の説明】
【0096】
10…内燃機関
11…過給機
13…クランクケース
17…クランク室
24…吸気通路
31…ブローバイガス通路
33…ブローバイガス配管
35…PCV圧力センサ
50…診断装置
72…エアフロメータ
75…アクセルセンサ
77…アクセルペダル
112…コンプレッサホイール
241…上流吸気通路
300…車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8