(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180027
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】内燃機関の診断装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093070
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】池尻 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】片山 章弘
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384CA21
3G384DA54
3G384ED08
3G384FA01Z
3G384FA28Z
3G384FA32Z
3G384FA58Z
(57)【要約】
【課題】失火異常の診断精度を向上する。
【解決手段】電子制御ユニット20は、一部の気筒11の燃焼を停止するとともに残りの気筒11で燃焼を継続する特定気筒燃料カットを実施する内燃機関10の失火頻度に基づき同内燃機関の失火異常の有無を診断する。そして、電子制御ユニット20は、失火異常があると診断されているときに、失火頻度の計測値が既定の正常復帰判定値以下となった場合に失火異常が解消されたと診断する正常復帰診断処理を実施する。正常復帰診断処理は、特定気筒燃料カットの実施中には失火異常が解消されたとの診断を行わないよう構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部の気筒の燃焼を停止するとともに残りの気筒で燃焼を継続する特定気筒燃料カットを実施する内燃機関の失火頻度に基づき同内燃機関の失火異常の有無を診断する診断装置であって、
前記失火異常があると診断されているときに、前記失火頻度の計測値が既定の正常復帰判定値以下となった場合に前記失火異常が解消されたと診断する正常復帰診断処理を実施するように構成されており、
かつ前記正常復帰診断処理は、前記特定気筒燃料カットの実施中には前記失火異常が解消されたとの診断を行わないよう構成されている
内燃機関の診断装置。
【請求項2】
前記特定気筒燃料カットの実施中には、前記正常復帰診断処理での診断のための前記失火頻度の計測を停止する請求項1に記載の内燃機関の診断装置。
【請求項3】
一部の気筒の燃焼を停止するとともに残りの気筒で燃焼を継続する特定気筒燃料カットを実施する内燃機関の失火頻度に基づき同内燃機関の失火異常の有無を診断する診断装置であって、
前記失火異常があると診断されているときに、前記失火頻度の計測値が既定の正常復帰判定値以下となった場合に前記失火異常が解消されたと診断する正常復帰診断処理と、
前記失火異常と診断したときの前記内燃機関の運転状態を記憶する記憶処理と、
を実施するように構成されており、
前記正常復帰診断処理は、前記記憶処理により記憶された前記内燃機関の運転状態と現在の前記内燃機関の運転状態とが一致していない場合には前記失火異常が解消されたとの診断を行わないように構成されており、
かつ前記記憶処理で記憶する前記内燃機関の運転状態には、前記特定気筒燃料カットの実施の有無が含まれている
内燃機関の診断装置。
【請求項4】
前記記憶処理で記憶する前記内燃機関の運転状態には、前記特定気筒燃料カットで燃焼を停止した気筒の気筒番号が含まれる請求項3に記載の内燃機関の診断装置。
【請求項5】
前記記憶処理により記憶された前記内燃機関の運転状態と現在の前記内燃機関の運転状態とが一致していない場合には、前記正常復帰診断処理での診断のための前記失火頻度の計測を停止する請求項3に記載の内燃機関の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載等の内燃機関では、燃料系や点火系等の異常による失火頻度の増大が、すなわち失火異常が発生することがある。特許文献1には、失火に起因する内燃機関の回転変動に基づき失火の発生を検出するとともに、検出した失火の頻度が一定以上の場合に失火異常と判定する診断装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、失火異常が発生した場合にも、その異常が一時的なものであって、その後に自然解消する場合がある。そのため、上記のような診断装置において、失火異常との判定後に、失火頻度が低い状態となった場合には、その失火異常が解消したとの正常復帰判定を行うことがある。
【0005】
一方、内燃機関において、一部の気筒の燃焼を停止するとともに残余の気筒で燃焼を継続する特定気筒燃料カットを実施することがある。こうした特定気筒燃料カットにおける燃焼停止の対象気筒では、そもそも燃焼を行っていないため、失火も発生しない。よって、燃焼停止の対象気筒に失火異常が生じた場合、特定気筒燃料カットの実施中は、本来発生すべき失火が発生しなくなる。そのため、特定気筒燃料カットの実施中には、失火異常が潜在的に継続していても、失火頻度が低下して、失火異常が解消したと誤判定する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する内燃機関の診断装置は、一部の気筒の燃焼を停止するとともに残りの気筒で燃焼を継続する特定気筒燃料カットを実施する内燃機関に適用されて、同内燃機関の失火頻度に基づき同内燃機関の失火異常の有無を診断する。同診断装置は、失火異常があると診断されているときに、失火頻度の計測値が既定の正常復帰判定値以下となった場合に失火異常が解消されたと診断する正常復帰診断処理を実施するように構成されている。そして、正常復帰診断処理は、特定気筒燃料カットの実施中には失火異常が解消されたとの診断を行わないよう構成されている。
【0007】
上記内燃機関の診断装置では、潜在的な失火が隠匿される可能性がある特定気筒燃料カットの実施中には、正常復帰診断処理での診断が実施されなくなる。そのため、実際には未解消の失火異常を、解消したと誤診断し難くなる。したがって、上記内燃機関の診断装置には、失火異常の診断精度を高める効果がある。
【0008】
上記内燃機関の診断装置では、特定気筒燃料カットの実施中には、正常復帰診断処理での診断が停止される。よって、同診断のための失火頻度の計測も、特定気筒燃料カットの実施中には停止するようにしてもよい。
【0009】
上記課題を解決するもう一つの内燃機関の診断装置は、一部の気筒の燃焼を停止するとともに残りの気筒で燃焼を継続する特定気筒燃料カットを実施する内燃機関に適用されて、同内燃機関の失火頻度に基づき同内燃機関の失火異常の有無を診断する。同診断装置は、失火異常があると診断されているときに、失火頻度の計測値が既定の正常復帰判定値以下となった場合に失火異常が解消されたと診断する正常復帰診断処理と、失火異常と診断したときの内燃機関の運転状態を記憶する記憶処理と、を実施するように構成されている。また、正常復帰診断処理は、記憶処理により記憶された内燃機関の運転状態と現在の前記内燃機関の運転状態とが一致していない場合には失火異常が解消されたとの診断を行わないように構成されている。そして、記憶処理で記憶する内燃機関の運転状態に、特定気筒燃料カットの実施の有無を含めている。
【0010】
上記診断装置では、失火異常であると診断したときの内燃機関の運転状態が記憶される。そして、その記憶した運転状態と異なる運転状態にある場合には、正常復帰診断処理での診断を実施しないようにしている。記憶処理で記憶する内燃機関の運転状態には、特定気筒燃料カットの実施の有無が含まれている。そのため、実際には未解消の失火異常を、解消したと誤診断し難くなる。したがって、上記内燃機関の診断装置には、失火異常の診断精度を高める効果がある。
【0011】
特定気筒燃料カットの実施毎に燃焼を停止する気筒を切替える場合がある。そうした場合には、記憶処理で記憶する内燃機関の運転状態に、特定気筒燃料カットで燃焼を停止した気筒の気筒番号を含めることが望ましい。
【0012】
上記診断装置では、記憶処理により記憶された内燃機関の運転状態と現在の前記内燃機関の運転状態とが一致していない場合には、正常復帰診断処理での診断が停止される。よってそうした場合には、同診断のための失火頻度の計測を停止することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】内燃機関の診断装置の第1実施形態についてその構成を模式的に示す図である。
【
図2】同実施形態の診断装置が実行する失火異常診断ルーチンのフローチャートである。
【
図3】同実施形態の診断装置が実行する正常復帰診断ルーチンのフローチャートである。
【
図4】内燃機関の診断装置の第2実施形態が実行する失火異常診断ルーチンのフローチャートである。
【
図5】同実施形態の診断装置が実行する正常復帰診断ルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、内燃機関の診断装置の第1実施形態を、
図1~
図3を参照して詳細に説明する。
<診断装置の構成>
まず、
図1を参照して本実施形態の診断装置の構成を説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の診断装置が適用される内燃機関10は、複数の気筒11を有している。内燃機関10には、気筒11で燃焼する燃料を噴射するインジェクタ12と、気筒11に導入された燃料を点火する点火装置13とが、気筒11毎に設置されている。また、内燃機関10には、各気筒11に流入する吸気の量を調整するためのスロットルバルブ14が設置されている。なお、内燃機関10の各気筒11には、それぞれ個別の気筒番号が付されている。
【0016】
内燃機関10は、電子制御ユニット20により制御されている。電子制御ユニット20は、内燃機関10の制御のための処理を実行する演算処理装置21と、制御用のプログラムやデータを記憶した記憶装置22と、を備えている。電子制御ユニット20には、内燃機関10の運転状態を把握するための各種のセンサが接続されている。そうしたセンサには、エアフローメータ23、クランク角センサ24、水温センサ25が含まれる。エアフローメータ23は、内燃機関10の吸気量を検出するセンサである。クランク角センサ24は、内燃機関10の出力軸であるクランク軸の回転位相を検出するセンサである。水温センサ25は、内燃機関10の冷却水温を検出するセンサである。そして、電子制御ユニット20は、センサの検出結果に基づき、内燃機関10の制御を実施する。内燃機関10の制御は、インジェクタ12の燃料噴射量や燃料噴射量の制御、点火装置13の点火時期の制御、スロットルバルブ14の開度の制御等を通じて行われる。さらに、また、電子制御ユニット20には、失火異常の発生時にその発生を運転手に通知するための警告灯26が接続されている。
【0017】
<特定気筒燃料カット>
電子制御ユニット20は、内燃機関10の制御の一環として特定気筒燃料カットを実施する。特定気筒燃料カットは、内燃機関10の複数の気筒11の内、一部の気筒11の燃焼を停止して残余の気筒11の燃焼を継続する制御である。特定気筒燃料カットに際して、電子制御ユニット20は、燃焼停止の対象とする気筒11のインジェクタ12の燃料噴射、及び点火装置13の点火を停止する。なお、気筒11内に残留した未燃燃料を燃焼するため、燃焼を停止する気筒11でも点火装置13の点火は継続してもよい。
【0018】
特定気筒燃料カットを実施すると、燃焼を停止した気筒11からは新気がそのまま排気通路に排出される。そのため、燃焼を継続する残りの気筒11でリーン燃焼を行わなくても、排気のリーン化が可能となる。
【0019】
こうした特定気筒燃料カットは、例えば次の目的で行われる。排気中の微粒子物質(PM:Particulate Matter)を捕集するフィルタが内燃機関10の排気通路に設置されることがある。こうしたフィルタは、PMの堆積が進むと目詰まりを起こす。フィルタに堆積したPMは、排気をリーン化して同フィルタに酸素を供給することで、燃焼浄化できる。ただし、排気をリーン化するために各気筒11でリーン燃焼を行うと、内燃機関10のNOx排出量が増加してしまう。これに対して、特定気筒燃料カットを実施すると、燃焼を停止した気筒11からは新気がそのまま排出される。そのため、特定気筒燃料カットを実施すれば、燃焼を継続する残りの気筒11でリーン燃焼を行わなくても、排気をリーン化することができる。このように、特定気筒燃料カットは、エミッションの悪化を抑えながら、フィルタに堆積したPMを除去するために実施可能である。
【0020】
<失火異常診断処理>
内燃機関10では、インジェクタ12や点火装置13等の異常により、失火が多発する失火異常が発生することがある。電子制御ユニット20は、内燃機関10の制御と並行して、失火異常の有無を診断するための失火異常診断処理を行っている。本実施形態では、こうした電子制御ユニット20が診断装置に対応している。なお、電子制御ユニット20は、失火異常診断を、内燃機関10の回転数、負荷、及び暖機状態により規定された複数の失火判定領域毎に個別に実施している。
【0021】
図2に、失火異常診断処理のために電子制御ユニット20が実行する失火異常診断ルーチンのフローチャートを示す。電子制御ユニット20は、内燃機関10の運転中、既定の制御周期毎に本ルーチンを繰り返し実行する。
【0022】
本ルーチンを開始すると、電子制御ユニット20はまず、ステップS100において、失火頻度の計測を実施する。ここでは、燃焼を既定回数行う間に生じた失火の回数を、失火頻度としている。
【0023】
電子制御ユニット20は、下記の態様で失火頻度を計測している。内燃機関10は、各気筒11での燃焼により生じたトルクで回転を維持ししている。失火が発生すると、トルクの発生が一時的に途切れるため、内燃機関10に回転変動が生じる。電子制御ユニット20は、クランク角センサ24の検出信号に基づき、失火に起因した回転変動が発生したかどうかを確認する失火判定を内燃機関10の燃焼毎に行っている。そして、電子制御ユニット20は、既定の燃焼回数当たりの失火判定の回数を失火頻度の計測値として求めている。
【0024】
失火頻度を計測すると、電子制御ユニット20は、続くステップS110において、失火頻度が既定の失火超過判定値以上であるか否かを判定する。そして、失火頻度が失火超過判定値以上の場合(YES)には、電子制御ユニット20は、ステップS120に処理を進める。一方、失火頻度が失火超過判定値未満の場合(NO)には、電子制御ユニット20は、そのまま今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。
【0025】
ステップS120に処理を進めた場合には、電子制御ユニット20はそのステップS120において、失火超過回数Nの値のインクリメントを行う。失火超過回数Nは、今回のトリップにおいて、失火頻度が失火超過判定値以上となった回数を表わしている。より詳細には、失火超過回数Nは、失火判定領域毎に個別に設定されている。そして、電子制御ユニット20は、このステップS120において、現在の内燃機関10の運転状態に対応する失火判定領域の失火超過回数Nの値をインクリメントする。なお、電子制御ユニット20は、トリップの終了時に、各失火判定領域の失火超過回数Nの値を「0」にリセットしている。
【0026】
次に電子制御ユニット20は、ステップS130において、ステップS120でインクリメントした失火超過回数Nの値が既定の失火異常判定値以上であるか否かを判定する。そして、失火超過回数Nが失火異常判定値以上の場合(YES)には、電子制御ユニット20はステップS140に処理を進める。一方、失火超過回数Nが失火異常判定値未満の場合(NO)には、そのまま今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。
【0027】
ステップS140に処理を進めた場合、電子制御ユニット20は、そのステップS140において、失火異常フラグをセットする。失火異常フラグは、失火異常の発生の有無を示すフラグである。すなわち、電子制御ユニット20は、失火異常と診断したときに失火異常フラグをセットする。なお、失火異常フラグの状態はトリップ終了後も維持されており、次回のトリップに引き継がれる。
【0028】
次に電子制御ユニット20は、現在の内燃機関10の運転状態を記憶する。具体的には、現在の内燃機関10の運転状態に対応する失火判定領域を記憶している。そして、電子制御ユニット20は、ステップS160において、警告灯26を点灯した後、今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。
【0029】
なお、上述のように、失火異常フラグが失火判定領域毎に個別に設定されている。よって、失火異常フラグをセットした失火判定領域は、同フラグがいずれの失火判定領域のものであるかを見れば明らかである。そのため、実際には、電子制御ユニット20は、現在の内燃機関10の運転状態に対応する失火判定領域の失火異常フラグをセットすることで、ステップS140及びステップS150の処理を行っている。
【0030】
<正常復帰診断処理>
上記のような失火異常は、一時的なものであって、時間が経つと自然に解消することがある。次に、そうした失火異常からの正常復帰を診断するための正常復帰診断処理について説明する。
【0031】
図3に、正常復帰診断処理のために電子制御ユニット20が実行する正常復帰診断ルーチンのフローチャートを示す。電子制御ユニット20は、内燃機関10の運転中、既定の制御周期毎に本ルーチンを繰り返し実行する。なお、
図3及び以降の各図における「F/C」は燃料カット(Fuel Cut)を表わしている。
【0032】
本ルーチンを開始すると、電子制御ユニット20はまず、ステップS200において、失火異常フラグがセットされているか否かを判定する。そして、電子制御ユニット20は、失火異常フラグがセットされている場合(YES)にはステップS210に処理を進め、セットされていない場合(NO)にはそのまま今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。
【0033】
ステップS210に処理を進めると、電子制御ユニット20はそのステップS210において、現在の内燃機関10の運転状態が、失火異常フラグのセット時と同じであるか否かを判定する。より詳細には、ステップS210において電子制御ユニット20は、
図2のステップS150で記憶した運転状態と現在の運転状態とが一致しているか否かを判定する。
図2のステップS150では、失火異常フラグをセットした失火判定領域を記憶している。よって、ステップS210では、現在の内燃機関10の運転状態に対応する失火判定領域が、失火異常フラグがセットされた失火判定領域と同じであるか否かが判定される。そして、電子制御ユニット20は、失火異常フラグのセット時と同じ失火判定領域に属する運転状態である場合(YES)にはステップS220に処理を進める。また、電子制御ユニット20は、失火異常フラグのセット時と同じ失火判定領域に属する運転状態でない場合(NO)には、そのまま今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。なお、上述のように失火異常フラグは、失火判定領域毎に個別に設定されている。よって、現在の内燃機関10の運転状態に対応する失火判定領域の失火異常フラグの状態を確認すれば、ステップS200及びステップS210の判定を同時に行える。
【0034】
ステップS220に処理を進めた場合、電子制御ユニット20は、そのステップS220において、特定気筒燃料カットの実施中であるか否かを判定する。そして、特定気筒燃料カットの実施中の場合(YES)には、電子制御ユニット20はそのまま今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。一方、特定気筒燃料カットの実施中でない場合(NO)には、電子制御ユニット20はステップS230に処理を進める。
【0035】
ステップS230に処理を進めた場合、電子制御ユニット20はそのステップS230において、
図2のステップS100と同様に、失火頻度の計測を実施する。次に電子制御ユニット20は、ステップS240において、計測した失火頻度が既定の正常復帰判定値以下であるか否かを判定する。正常復帰判定値には、上述の失火超過判定値以下の正の値が設定されている。そして、電子制御ユニット20は、失火頻度が正常復帰判定値以下の場合(YES)にはステップS250に処理を進める。一方、失火頻度が正常復帰判定値を超えている場合(NO)には、そのまま今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。
【0036】
ステップS250に処理を進めた場合、電子制御ユニット20は、そのステップS250において、現在の内燃機関10の運転状態に対応する失火判定領域の失火異常フラグをクリアする。すなわち、失火異常が解消したと診断する。そして、電子制御ユニット20は、今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。なお、電子制御ユニット20は、全失火判定領域の失火異常フラグがクリアされた状態となった場合に、警告灯26を消灯している。
【0037】
<第1実施形態の作用効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
電子制御ユニット20は、トリップ開始後に、失火頻度の計測値が失火超過判定値以上となった回数を、失火超過回数Nとしてカウントしている。そして、電子制御ユニット20は、失火超過回数Nが失火異常判定値以上の場合に失火異常が発生していると診断している。すなわち、電子制御ユニット20は、失火頻度の計測結果に基づき、失火頻度が高い状態であると判定した場合に失火異常と診断している。また、電子制御ユニット20は、失火異常の診断後、失火頻度の計測値が正常復帰判定値以下となった場合に、失火異常が解消したと診断している。
【0038】
一方、電子制御ユニット20は、内燃機関10の運転中に特定気筒燃料カットを実施している。特定気筒燃料カットでは、一部の気筒11の燃焼を停止する。以下の説明では、こうした特定気筒燃料カットにおいて燃焼を停止する気筒11をF/C気筒と記載する。
【0039】
特定気筒燃料カットにおいて、失火異常が発生した気筒11がF/C気筒となる場合がある。そうした場合のF/C気筒は、実際には失火異常が潜在的に継続していても、燃焼が停止されているため、失火判定の対象外となる。よって、失火異常が発生した気筒11がF/C気筒である場合には、本来生じるはずの失火が顕在しなくなる。そのため、特定気筒燃料カットの実施中に計測した失火頻度は、本来の値よりも小さい値となる可能性がある。したがって、特定気筒燃料カットの実施中の失火頻度の計測値を正常復帰診断処理に用いると、実際には未解消であっても、失火異常が解消したと誤診断する虞がある。
【0040】
これに対して電子制御ユニット20が実行する正常復帰診断処理は、特定気筒燃料カットの実施中には、失火頻度の計測、及びその計測値に基づく失火異常の解消の有無の判定を実施しないように構成されている。すなわち、正常復帰診断処理は、特定気筒燃料カットの実施中には失火異常が解消されたとの診断を行わないよう構成されている。よって、本実施形態では、正常復帰診断処理での失火異常が解消したとの診断は、特定気筒燃料カットの実施中には実施されなくなる。
【0041】
以上の本実施形態の診断装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、正常復帰診断処理を、特定気筒燃料カットの実施中には失火異常が解消されたとの診断を行わないよう構成している。そのため、失火異常が発生した気筒11がF/C気筒であっても、正常復帰診断処理において失火異常が解消したと誤診断されなくなる。したがって、本実施形態の診断装置には、失火異常の診断精度を向上する効果がある。
【0042】
(2)本実施形態では、特定気筒燃料カットの実施中には、正常復帰診断処理での診断のための失火頻度の計測を停止している。そのため、失火異常の解消の診断に用いない不要な失火頻度の計測を省略できる。
【0043】
(3)本実施形態では、失火異常及び正常復帰の診断を、内燃機関10の回転数、負荷、及び暖機状態により規定した複数の失火判定領域毎に個別に実施している。失火異常は、内燃機関10の特定の運転状態でのみ発生する場合がある。そのため、失火判定領域毎に診断を個別に行うことで、失火異常の発生及びその解消を的確に診断できる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、内燃機関の診断装置の第2実施形態を、
図4及び
図5を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施形態にあって、上記実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。なお、第1実施形態及び本実施形態の診断装置の相違点は、失火異常診断処理及び正常復帰診断処理の一部となっている。
【0045】
<失火異常診断処理>
図4に、本実施形態の診断装置において電子制御ユニット20が実行する失火異常診断ルーチンのフローチャートを示す。
図4のルーチンは、
図3のステップS150の処理を下記のステップS150Aの処理に入れ替えたものとなっている。
【0046】
本実施形態においても、電子制御ユニット20は、失火超過回数Nが失火異常判定値以上の場合(S130:YES)に失火異常と診断して失火異常フラグをセットしている(S140)。その後、第1実施形態では、
図3のステップS150において、失火異常フラグをセットした失火判定領域を、その時の内燃機関10の運転状態として記憶していた。これに対して本実施形態の場合、電子制御ユニット20は、ステップS150Aにおいて、失火判定領域に加えて、特定気筒燃料カットの実施の有無、及びF/C気筒の気筒番号を、失火異常フラグのセット時の内燃機関10の運転状態として記憶している。なお、このとき、気筒番号そのものではなく、F/C気筒の気筒番号を特定できる気筒11の識別情報を記憶するようにしてもよい。なお、本実施形態では、このステップS150Aの処理が、失火異常と診断したときの内燃機関10の運転状態を記憶する記憶処理に対応している。
【0047】
<正常復帰診断処理>
図5に、本実施形態の診断装置において電子制御ユニット20が実行する正常復帰診断のフローチャートを示す。
図5のルーチンは、
図4のステップS210、S210の処理を、下記のステップS210Aの処理に入れ替えたものとなっている。
【0048】
本ルーチンにおいても、電子制御ユニット20はまずステップS200において、失火異常フラグがセットされているか否かを判定する。そして、失火異常フラグがセットされている場合には、電子制御ユニット20は、ステップS210Aに処理を進める。ステップS210Aにおいて、電子制御ユニット20は、現在の内燃機関10の運転状態が、
図4のステップS150Aで記憶した失火異常フラグのセット時の運転状態と同じであるか否かを判定している。そして、電子制御ユニット20は、運転状態が同じである場合(YES)にはステップS240に処理を進め、同じで無い場合(NO)には今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。
【0049】
<第2実施形態の作用効果>
第1実施形態の診断装置では、正常復帰診断処理での失火異常が解消したか否かの判定を、特定気筒燃料カットの実施中には行わないようにしていた。本実施形態では、次の場合には、特定気筒燃料カットの実施中にも正常復帰診断処理での失火異常が解消したか否かの判定が行われる。すなわち、失火異常の診断時にも特定気筒燃料カットが実施されており、かつF/C気筒の気筒番号が同じである場合である。この場合、失火異常の診断は、現在のF/C気筒と同じ気筒11の燃焼を停止した状態でなされていることになる。すなわち、この場合には、診断した失火異常は、現在のF/C気筒に起因するものではないことになる。
【0050】
本実施形態の診断装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、失火異常の診断時の内燃機関10の運転状態として、特定気筒燃料カットの実施の有無、及びF/C気筒の気筒番号を記憶している。そして、記憶した内燃機関10の運転状態と現在の内燃機関10の運転状態とが一致していない場合には失火異常が解消されたとの診断を行わないように正常復帰診断処理が構成されている。そのため、失火異常が発生した気筒11が現在のF/C気筒であって、特定気筒燃料カットにより本来生じる筈の失火が隠蔽されている状態では、失火異常が解消されたと診断されなくなる。したがって、本実施形態の診断装置には、失火異常の診断精度を向上する効果がある。
【0051】
(2)失火異常の診断時に特定気筒燃料カットを実施しており、かつF/C気筒が同じである場合には、特定気筒燃料カットの実施中にも、正常復帰診断処理での失火異常が解消したか否かの診断を行うようにしている。そのため、第1実施形態の場合よりも、失火異常が解消したか否かの診断の実施機会が多くなる。
【0052】
(3)正常復帰診断処理での診断を行わない場合には、失火頻度の計測を停止している。そのため、失火異常の解消の診断に用いない不要な失火頻度の計測を省略できる。
(4)本実施形態では、失火異常及び正常復帰の診断を、内燃機関10の回転数、負荷、及び暖機状態により規定した複数の失火判定領域毎に個別に実施している。失火異常は、内燃機関10の特定の運転状態でのみ発生する場合がある。そのため、失火判定領域毎に診断を個別に行うことで、失火異常の発生及びその解消を的確に診断できる。
【0053】
(他の実施形態)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0054】
・第2実施形態では、失火異常の診断時の内燃機関10の運転状態として、特定気筒燃料カットの実施の有無と共に、F/C気筒の気筒番号を記憶していた。常に同じ気筒11をF/C気筒に設定して特定気筒燃料カットを実施する場合がある。この場合には、F/C気筒の気筒番号は常に同じとなる。また、特定気筒燃料カット中に一定のルールの下でF/C気筒を順次切り替える場合がある。これらの場合には、記憶する内燃機関10の運転状態からF/C気筒の気筒番号は除外してもよい。
【0055】
・上記実施形態では、失火頻度の計測を、失火異常診断ルーチン及び正常復帰診断ルーチン内で行うようにしていたが、それらルーチンとは別ルーチンの処理として同計測を行うようにしてもよい。
【0056】
・上記実施形態では、正常復帰診断での診断を行わない場合には、同診断のための失火頻度の計測も停止していた。正常復帰診断での診断以外の用途にも、失火頻度の計測を使う場合には、正常復帰診断での診断を行わない場合にも失火頻度の計測を継続してもよい。
【0057】
・上記実施形態では、失火頻度が失火超過判定値以上となった回数が失火異常判定値以上となった場合に失火異常であると判定することで、失火異常の有無を診断していた。内燃機関10の失火頻度に基づいているのであれば、これとは別の態様で、失火異常の有無を診断するようにしてもよい。また、燃焼毎の失火判定も、上記実施形態とは異なる方法を用いて行うようにしてもよい。
【0058】
・上記実施形態では、失火異常診断処理において、失火異常と診断したときの失火判定領域を記憶していた。失火判定領域の代わりに、内燃機関10の回転数、負荷、及び暖機状態を記憶するようにしてもよい。また、内燃機関10の運転状態を示す、それら以外のパラメータを記憶するようにしてもよい。
【0059】
・上記実施形態では、失火異常診断処理及び正常復帰診断処理での診断を、失火判定領域毎に個別に行っていた。失火判定領域を設定せずに、それらの診断を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10…内燃機関
11…気筒
12…インジェクタ
13…点火装置
14…スロットルバルブ
20…電子制御ユニット(診断装置)
21…演算処理装置
22…記憶装置
23…エアフローメータ
24…クランク角センサ
25…水温センサ
26…警告灯