(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180074
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】粒子分離システム
(51)【国際特許分類】
B01D 43/00 20060101AFI20231213BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20231213BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231213BHJP
C12M 3/00 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
B01D43/00 Z
B01J19/00 321
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093168
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 諒介
(72)【発明者】
【氏名】磯 良行
【テーマコード(参考)】
4B029
4G075
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA09
4B029BB02
4B029BB07
4B029BB11
4B029CC01
4B029HA05
4G075AA13
4G075AA27
4G075AA39
4G075BA10
4G075BB01
4G075BB05
4G075BD09
4G075DA02
4G075DA18
4G075EA02
4G075EB50
4G075EC09
4G075FA05
4G075FA12
4G075FB02
(57)【要約】
【課題】懸濁液中の粒子の分離特性に優れた粒子分離システムを提供する。
【解決手段】粒子分離システム1は懸濁液を濃縮液と清澄液とに分離する複数のマイクロ流体デバイス10を備え、複数のマイクロ流体デバイス10の各々は濃縮液導出口17と導入口16とが接続されて直列に配置されており、複数のマイクロ流体デバイス10は第1マイクロ流体デバイス11と第2マイクロ流体デバイスと12を含み、第2マイクロ流体デバイス12の導入口16には濃縮液が希釈されて供給される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を含む懸濁液が導入される導入口と、前記懸濁液に含まれる粒子が濃縮された濃縮液が導出される濃縮液導出口と、前記懸濁液から前記濃縮液が除かれた清澄液が導出される清澄液導出口とを有する液流路を含み、矩形断面を有する前記液流路を前記懸濁液が流れることによって生じる渦流れによって前記懸濁液を前記濃縮液と前記清澄液とに分離する複数のマイクロ流体デバイスを備え、
前記複数のマイクロ流体デバイスの各々は、前記濃縮液導出口と前記導入口とが接続されて直列に配置されており、
前記複数のマイクロ流体デバイスは、最も上流側に配置された第1マイクロ流体デバイスと、前記第1マイクロ流体デバイスよりも下流に配置された第2マイクロ流体デバイスとを含み、
前記第2マイクロ流体デバイスの導入口には前記濃縮液が希釈されて供給される、粒子分離システム。
【請求項2】
前記粒子分離システムは還流流路と希釈流路とを備え、
前記複数のマイクロ流体デバイスは前記第2マイクロ流体デバイスの濃縮液導出口よりも下流に配置された第3マイクロ流体デバイスを含み、
前記第3マイクロ流体デバイスの清澄液導出口は前記第2マイクロ流体デバイスの導入口と前記還流流路を介して接続されており、
前記第3マイクロ流体デバイスの導入口は前記濃縮液に希釈液を供給する前記希釈流路を介して接続されている、請求項1に記載の粒子分離システム。
【請求項3】
前記第3マイクロ流体デバイスの濃縮液導出口は前記複数のマイクロ流体デバイスの前記濃縮液導出口の中で最も下流に配置されている、請求項2に記載の粒子分離システム。
【請求項4】
前記第2マイクロ流体デバイスの濃縮液導出口から導出された濃縮液は、前記第3マイクロ流体デバイスの導入口に導入される、請求項2又は3に記載の粒子分離システム。
【請求項5】
前記複数のマイクロ流体デバイスのうち前記第1マイクロ流体デバイスの直後に配置されたマイクロ流体デバイスは、清澄液導出口から前記複数のマイクロ流体デバイスの外部に前記清澄液を導出する、請求項2又は3に記載の粒子分離システム。
【請求項6】
前記粒子は細胞を含んでおり、
前記粒子分離システムは前記細胞を培養する培養装置をさらに備え、
前記培養装置は前記第1マイクロ流体デバイスの導入口と接続されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の粒子分離システム。
【請求項7】
前記液流路は、直線状の流路を有し、
前記マイクロ流体デバイスの各々は、前記直線状の流路の上流側を流通している前記懸濁液に横断面方向の二次流れを発生させる二次流れ発生機構を含み、
前記直線状の流路は、流路幅と前記流路幅に対して垂直な流路高さとで規定される矩形の横断面を有し、
前記直線状の流路における少なくとも前記二次流れ発生機構よりも下流側の前記横断面では、前記流路幅と前記流路高さとの比で表されるアスペクト比は、10から100までの範囲にあり、
前記二次流れ発生機構は、前記流路幅を有する側壁から前記流路高さ方向に突出し、前記側壁と平行で、かつ、前記横断面に対して垂直な方向に対して傾いて延伸している、請求項1~3のいずれか一項に記載の粒子分離システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粒子分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
粒子を含む懸濁液から、粒子を取り除き、液中に溶解した目的成分を選択的に回収するプロセスがある。このようなプロセスとしては、例えば、液相に粒子状の触媒を分散させた状態で化学反応をさせ、液相に生成された目的物質を回収するプロセスなどが挙げられる。
【0003】
従来、懸濁液から粒子を除去する手段として、膜分離や遠心分離が知られている。しかしながら、粒子を懸濁液から膜分離で分離した場合、膜の孔を粒子が塞いでしまい、目詰まりが生じるおそれがある。また、遠心分離は、懸濁液における粒子の体積割合が高く、遠心分離後の固体分が固くならないと分離が困難になるおそれがある。一方、マイクロ流体デバイスは、流路を流れることによって生じる渦流れによって懸濁液中の粒子を分離するため、これらの問題が生じにくい。
【0004】
特許文献1には、マイクロ流体デバイスとして、流体力学的分離デバイスが開示されている。流体力学的分離デバイスは、粒子を含む流体のための入口と、流体を受け取る湾曲チャネルと、濃縮ストリームが第1の経路でチャネルを出て行き、残りの流体が第2の経路でチャネルを出て行くように構成された出口とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロ流体デバイスは、流路を流れることによって生じる渦流れによって懸濁液中の粒子と液体とを分離する。そのため、粒子と一緒に液体の一部が取り除かれてしまう。そこで、複数のマイクロ流体デバイスを直列に配置し、1段目のマイクロ流体デバイスで分離した粒子濃度が高い濃縮液を、2段目のマイクロ流体デバイスで再度分離し、粒子の分離精度を向上させることが考えられる。しかしながら、マイクロ流体デバイスを単に直列に配置しただけでは、十分な分離精度が得られないおそれがある。
【0007】
そこで、本開示は、懸濁液中の粒子の分離特性に優れた粒子分離システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る粒子分離システムは、粒子を含む懸濁液が導入される導入口と、懸濁液に含まれる粒子が濃縮された濃縮液が導出される濃縮液導出口と、懸濁液から濃縮液が除かれた清澄液が導出される清澄液導出口とを有する液流路を含み、矩形断面を有する液流路を懸濁液が流れることによって生じる渦流れによって懸濁液を濃縮液と清澄液とに分離する複数のマイクロ流体デバイスを備えている。複数のマイクロ流体デバイスの各々は、濃縮液導出口と導入口とが接続されて直列に配置されている。複数のマイクロ流体デバイスは、最も上流側に配置された第1マイクロ流体デバイスと、第1マイクロ流体デバイスよりも下流に配置された第2マイクロ流体デバイスとを含んでいる。第2マイクロ流体デバイスの導入口には濃縮液が希釈されて供給される。
【0009】
粒子分離システムは還流流路と希釈流路とを備えていてもよい。複数のマイクロ流体デバイスは第2マイクロ流体デバイスの濃縮液導出口よりも下流に配置された第3マイクロ流体デバイスを含んでいてもよい。第3マイクロ流体デバイスの清澄液導出口は第2マイクロ流体デバイスの導入口と還流流路を介して接続されていてもよい。第3マイクロ流体デバイスの導入口は濃縮液に希釈液を供給する希釈流路を介して接続されていてもよい。
【0010】
第3マイクロ流体デバイスの濃縮液導出口は複数のマイクロ流体デバイスの濃縮液導出口の中で最も下流に配置されていてもよい。
【0011】
第2マイクロ流体デバイスの濃縮液導出口から導出された濃縮液は、第3マイクロ流体デバイスの導入口に導入されてもよい。
【0012】
複数のマイクロ流体デバイスのうち第1マイクロ流体デバイスの直後に配置されたマイクロ流体デバイスは、清澄液導出口から複数のマイクロ流体デバイスの外部に清澄液を導出してもよい。
【0013】
粒子は細胞を含んでいてもよい。粒子分離システムは細胞を培養する培養装置をさらに備えていてもよい。培養装置は第1マイクロ流体デバイスの導入口と接続されていてもよい。
【0014】
液流路は、直線状の流路を有していてもよい。マイクロ流体デバイスの各々は、直線状の流路の上流側を流通している懸濁液に横断面方向の二次流れを発生させる二次流れ発生機構を含んでいてもよい。直線状の流路は、流路幅と流路幅に対して垂直な流路高さとで規定される矩形の横断面を有していてもよい。直線状の流路における少なくとも二次流れ発生機構よりも下流側の横断面では、流路幅と流路高さとの比で表されるアスペクト比は、10から100までの範囲にあってもよい。二次流れ発生機構は、流路幅を有する側壁から流路高さ方向に突出し、側壁と平行で、かつ、横断面に対して垂直な方向に対して傾いて延伸していてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、懸濁液中の粒子の分離特性に優れた粒子分離システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係る粒子分離システムを示す概略図である。
【
図2】一実施形態に係るマイクロ流体デバイスを示す概略図である。
【
図3】
図2のIII-III断面に対応した、流路の一部を切断した断面図である。
【
図4】邪魔板の形状及び配置関係を説明するための概略図である。
【
図5】複数の邪魔板を通過した流体中の粒子の挙動を示す流体画像である。
【
図6】一実施形態に係る粒子分離システムを示す概略図である。
【
図7】一実施形態に係る粒子分離システムを示す概略図である。
【
図8】一実施形態に係る粒子分離システムを示す概略図である。
【
図9】一実施形態に係る粒子分離システムを示す概略図である。
【
図10】実施例1に係る粒子分離システムを示す概略図である。
【
図11】実施例2に係る粒子分離システムを示す概略図である。
【
図12】比較例1に係る粒子分離システムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0018】
<第1実施形態>
まず、第1実施形態に係る粒子分離システム1について
図1を用いて説明する。
図1に示すように、粒子分離システム1は、複数のマイクロ流体デバイス10と、接続流路19と、希釈流路20とを備えている。
【0019】
複数のマイクロ流体デバイス10は、第1マイクロ流体デバイス11と、第2マイクロ流体デバイス12とを含んでいる。複数のマイクロ流体デバイス10の各々は、直列に配置されている。第1マイクロ流体デバイス11と、第2マイクロ流体デバイス12とは、上流から下流に向かって順番に配置されている。すなわち、第1マイクロ流体デバイス11は、複数のマイクロ流体デバイス10のうち最も上流側に配置されている。第2マイクロ流体デバイス12は、第1マイクロ流体デバイス11よりも下流に配置されている。第1マイクロ流体デバイス11及び第2マイクロ流体デバイス12は、本実施形態においてそれぞれ同一の構成であるため、以下、これらをマイクロ流体デバイス10として説明する。
【0020】
マイクロ流体デバイス10は、液流路15を含んでいる。液流路15は、導入口16と、濃縮液導出口17と、清澄液導出口18とを有している。液流路15の一端には導入口16が設けられ、流路の導入口16とは反対側の端部には濃縮液導出口17及び清澄液導出口18が設けられている。複数のマイクロ流体デバイス10の各々は、濃縮液導出口17と導入口16とが接続されて直列に配置されている。複数のマイクロ流体デバイス10の各々は、濃縮液導出口17と導入口16とが接続流路19によって接続されている。
【0021】
導入口16には、粒子を含む懸濁液が導入される。濃縮液導出口17では、懸濁液に含まれる粒子が濃縮された濃縮液が導出される。清澄液導出口18では、懸濁液から濃縮液が除かれた清澄液が導出される。濃縮液における粒子の個数濃度は、清澄液における粒子の個数濃度よりも大きい。後述するように、液流路15は、矩形断面を有している。マイクロ流体デバイス10は、液流路15を懸濁液が流れることによって生じる渦流れによって懸濁液を濃縮液と清澄液とに分離する。
【0022】
懸濁液は、液体媒体と、液体媒体に分散された粒子とを含んでいる。粒子は、マイクロ流体デバイス10において、分離対象となる物質である。粒子は、例えば、触媒、細胞、金属粒子、樹脂粒子、無機粒子、及びセラミック粒子などの固体粒子であってもよい。液体媒体は、回収対象となる目的物質を含んでいてもよい。目的物質は、粒子が触媒である場合、液相に触媒を分散させた状態で化学反応させ、液体媒体中で得られた生成物であってもよい。また、目的物質は、粒子が細胞である場合、細胞で生産されたタンパク質などの有用物質であってもよい。
【0023】
第1マイクロ流体デバイス11の導入口16には懸濁液が導入される。第1マイクロ流体デバイス11の濃縮液導出口17は、第2マイクロ流体デバイス12の導入口16と接続されている。第1マイクロ流体デバイス11の清澄液導出口18は、複数のマイクロ流体デバイス10の外部と接続されている。複数のマイクロ流体デバイス10の外部は例えば回収容器などであってもよい。第1マイクロ流体デバイス11は清澄液導出口18から複数のマイクロ流体デバイス10の外部に清澄液を導出する。
【0024】
希釈流路20は、接続流路19に接続されている。希釈流路20は、濃縮液を希釈するための希釈液が供給可能なように構成されている。すなわち、第2マイクロ流体デバイス12の導入口16には濃縮液が希釈されて供給される。希釈液は、懸濁液に含まれている液体成分であってもよく、水であってもよい。
【0025】
第2マイクロ流体デバイス12の濃縮液導出口17は、複数のマイクロ流体デバイス10の外部と接続されている。第2マイクロ流体デバイス12の清澄液導出口18は、複数のマイクロ流体デバイス10の外部と接続されている。複数のマイクロ流体デバイス10の外部は例えば回収容器などであってもよい。複数のマイクロ流体デバイス10のうち第1マイクロ流体デバイス11の直後に配置された第2マイクロ流体デバイス12は、清澄液導出口18から複数のマイクロ流体デバイス10の外部に清澄液を導出する。
【0026】
図2は、本実施形態に係るマイクロ流体デバイス10の構成を示す概略図である。マイクロ流体デバイス10では、液流路15は、直線状の流路31を有している。マイクロ流体デバイス10の各々は、直線状の流路31の上流側を流通している懸濁液に横断面方向の二次流れを発生させる二次流れ発生機構を備えている。
【0027】
流路31は、第1平板33と第2平板34との2つの平板をZ方向で重ね合わせることで形成されてもよい。この場合、下段の第2平板34の上面には、流路31に対応する溝部が形成されている。これに対して、上段の第1平板33は、いわゆる蓋体であり、流路31を下面で覆うように第2平板34に接合される。なお、
図2では、流路31の形状を全体的に明示させるために、第1平板33が二点鎖線で描画されている。第2平板34の溝部は、流路31の第1側壁34a、第2側壁34b及び第3側壁34cを形成する。第1平板33の下面の一部は、流路31の第4側壁33aを形成する。第4側壁33aと第3側壁34cとは、互いに対向し、横断面でのそれぞれの長辺側に相当する側壁である。また、第1側壁34aと第2側壁34bとは、互いに対向し、横断面でのそれぞれの短辺側に相当する側壁である。
【0028】
直線状の流路31の延伸方向がX方向に沿っているとすると、これらの側壁によって規定される流路31の横断面は、YZ断面である。この場合、流路31の横断面での長辺は、Y方向に沿っており、以下、流路幅wと定義する。一方、流路31の横断面での短辺は、Z方向に沿っており、以下、流路高さhと定義する。つまり、流路高さhは、横断面上では流路幅wに対して垂直である。以下、Y方向を流路幅方向と表現し、Z方向を流路高さ方向と表現する場合がある。
【0029】
直線状の流路31は、流路幅wと当該流路幅wに対して垂直な流路高さhとで規定される矩形の横断面を有する。直線状の流路31における少なくとも二次流れ発生機構よりも下流側の横断面では、流路幅wと流路高さhとの比で表されるアスペクト比ARは、10から100までの範囲にある。
【0030】
まず、流路31の横断面は、アスペクト比ARが上記の範囲にあるように予め設定されているので、流路31を流通する流体である懸濁液の主流は揚力を誘起し、流体に分散されている粒子は、主流に誘起された揚力を受ける。これにより、流路31における短辺側の側壁である第1側壁34a及び第2側壁34bの近傍に粒子を捕捉させることができる。
【0031】
また、二次流れ発生機構により、流路31の上流側を流通する流体には横断面方向の二次流れが発生するので、流体に分散されている粒子は、二次流れに誘起された抗力を受ける。これにより、二次流れ発生機構が設置又は形成されている部分よりも下流側の流路31では、短辺側の側壁である第1側壁34a及び第2側壁34bに向けて粒子を輸送させることができる。したがって、マイクロ流体デバイス10によれば、例えば、単に流体の主流が誘起する揚力のみで粒子を分離させる場合よりも、分離効率を向上させることができる。
【0032】
マイクロ流体デバイス10では、粒子の粒子径Dpが1μmから1mmまでの範囲にある場合、流路高さhは、分離対象としての粒子の粒子径Dpの10倍以上かつ100倍以下の寸法に設定されてもよい。このマイクロ流体デバイス10によれば、流体の主流が誘起する揚力と、流体の二次流れが誘起する抗力とによる分離効果をより向上させることができる。
【0033】
また、マイクロ流体デバイス10では、流路31における二次流れ発生機構よりも下流側の延伸方向の長さLは、流路幅wの100倍以上かつ10,000倍以下の寸法に設定されてもよい。このマイクロ流体デバイス10によれば、流体の主流が誘起する揚力と、流体の二次流れが誘起する抗力とによる分離効果をより向上させることができる。
【0034】
二次流れ発生機構は、流路幅wを有する側壁(第3側壁34c,第4側壁33a)から流路高さ方向Zに突出し、上記側壁と平行で、かつ、横断面に対して垂直な方向Xに対して傾いて延伸していてもよい。本実施形態に係るマイクロ流体デバイス10では、二次流れ発生機構を構成する流路形状変更部は、複数の邪魔板35である。例えば、本実施形態における邪魔板35は、第2平板34の第3側壁34cから第4側壁33aに向けて突出する突出部である。邪魔板35の上面は、第1平板33とは接触しない。複数の邪魔板35は、互いに同一形状で、以下で詳説するような一定の規則性をもって流路31内に配置される。
図2では、第1板35a、第2板35b、第3板35c、第4板35d及び第5板35eで表される五つの邪魔板35が例示されている。なお、
図2では、二次流れ発生機構の入口又は出口と交差する邪魔板35は、描画上の例示として、当該交差位置又はその近傍から二次流れ発生機構の外方に向かう一部位が存在しない形状で表されている。
【0035】
図3は、
図2中のIII-III断面に対応し、X方向に対して垂直な面で流路31の一部を切断した断面図である。
図3では、流路31内を流通する流体の当該切断面における流れの様子がベクトルで例示されている。また、
図4は、複数の邪魔板35をZ方向に沿って見た、邪魔板35の形状及び複数の邪魔板35の配置関係を説明するための概略平面図である。
【0036】
邪魔板35の形状は、XY平面に沿った第3側壁34cと平行で、かつ、X方向に対して傾斜角θで傾いた方向を延伸方向とする棒状である。ただし、各々の邪魔板35の両先端部は、XZ平面に沿って切り欠かれていてもよい。邪魔板35の延伸方向での長さを邪魔板長さLPとすると、流路幅方向であるY方向での邪魔板35の長さ成分LYは、LPsinθで表され、流路幅wよりも短い。また、邪魔板35は、第1側壁34a及び第2側壁34bのいずれとも接触しない。流路31では、このような形状を有するn個の邪魔板35が、ピッチPiの等間隔で、X方向に沿って配列されている。
【0037】
邪魔板35の延伸方向に対して垂直となる断面の形状は、おおよそ矩形である。以下、邪魔板35の断面に関して、高さを邪魔板高さhPと、幅を邪魔板幅wpと、それぞれ表記する。
【0038】
邪魔板高さhPは、例えば、流路31の流路高さhを基準として、以下のように設定される。まず、流路31を流通する流体に関する流速を、次のように規定する。V0は、流路31の延伸方向であるX方向に沿って流路31に導入される流体の主流流速である。V1は、邪魔板35の延伸方向に沿った方向での第1流速である。V2は、流路幅方向であるY方向での第2流速であり、主流速度V0を用いて、式(1)で表される。
【0039】
【0040】
また、複数の邪魔板35が設けられている区間を流体の主流が通過する時間tは、式(2)で表される。
【0041】
【0042】
さらに、流体中に分散されている粒子を第1側壁34a又は第2側壁34bの近傍に捕捉させるためには、複数の邪魔板35が設けられている区間を流体の主流が通過する間に、流路幅方向の流れが流路31の横断面を少なくとも一周する必要がある。したがって、式(3)が成り立つ。
【0043】
【0044】
ここで、第一に、邪魔板高さhPが、流路高さhの半分の高さ、すなわち、0.5hであるとき、複数の邪魔板35は、最も効率的に二次流れを生成することができる。
【0045】
第二に、邪魔板高さhPが0.5hよりも低いときには、二次流れの流量が少なくなる。したがって、邪魔板高さhPが低くなるに従って二次流れの流量が比例的に少なくなることを想定して、流路幅方向の流れが流路31の横断面を少なくとも一周するという上記の条件は、少なくとも(0.5h/hP)周するという条件に変更されてもよい。この場合、式(3)は、式(4)に修正される。
【0046】
【0047】
式(4)に式(1)及び式(2)を代入して整理すると、式(5)が導かれる。
【0048】
【0049】
したがって、邪魔板高さhPが0.5hよりも低いときには、任意の流路幅w及び流路高さhを有する流路31に対して、式(5)の条件を満たすように、邪魔板35の配列に係るピッチPi、邪魔板35の設置数n及び邪魔板高さhPが設定されればよい。
【0050】
第三に、邪魔板高さhPが0.5hよりも高いときも、二次流れの流量が少なくなる。したがって、邪魔板高さhPが高くなるに従って二次流れの流量が比例的に少なくなることを想定して、流路幅方向の流れが流路31の横断面を少なくとも一周するという上記の条件は、少なくとも(0.5h/(h-hP))周するという条件に変更されてもよい。この場合、式(3)は、式(6)に修正される。
【0051】
【0052】
式(6)に式(1)及び式(2)を代入して整理すると、式(7)が導かれる。
【0053】
【0054】
したがって、邪魔板高さhPが0.5hよりも高いときには、任意の流路幅w及び流路高さhを有する流路31に対して、式(7)の条件を満たすように、邪魔板35の配列に係るピッチPi、邪魔板35の設置数n及び邪魔板高さhPが設定されればよい。
【0055】
つまり、二次流れ発生機構として複数の邪魔板35が採用される場合の邪魔板高さhPの上限値は、式(7)に基づいて規定され、邪魔板高さhPの下限値は、式(5)に基づいて規定され得る。
【0056】
また、邪魔板幅wpは、例えば、流路31内での圧損を低減させるためには流路31の横断面の閉塞率を0.5以下とすることが望ましいという条件に基づいて、以下のように設定される。邪魔板35が存在しないと仮定した場合の流路31の横断面は、(流路幅w×流路高さh)で表される。そこで、ある横断面における邪魔板35の数をm個とすると、閉塞率が0.5以下であるという条件を満たすためには、邪魔板幅wpの上限値を、式(8)を満たすように設定すればよい。一方、邪魔板幅wpの下限値は、可能な限り小さく設定されることが望ましい。
【0057】
【0058】
さらに、邪魔板35の傾斜角θは、式(5)及び式(7)に基づいた上限値及び下限値で規定される範囲を決定し、当該範囲に含まれる値に設定されてもよい。ただし、傾斜角θが大きすぎる場合、流れの剥離が起こり、二次流れが意図しないものとなることも考えられる。そこで、傾斜角θは、45°以下であることが望ましく、さらには30°以下であることがより望ましい。
【0059】
マイクロ流体デバイス10では、流路形状変更部として複数の邪魔板35を採用することで、
図3に示す流路31内での各位置におけるベクトルの向く方向から明らかなように、流路31を流通する流体には、横断面方向での二次流れが生じていることがわかる。また、流路形状変更部として複数の邪魔板35を採用する場合には、二次流れが減衰しにくいという利点がある。
【0060】
図5は、二次流れ発生機構を通過した流体中の粒子pの挙動を示す流体画像である。この流体画像は、流路31の一部を流通する流体をZ方向に沿って撮影することで得られたものである。ここで、複数の邪魔板35で構成される二次流れ発生機構は、X方向に沿った流路31の上流側に位置している。なお、
図5では、流体画像が取得された流路31中の位置に対する二次流れ発生機構の位置を例示するために、二次流れ発生機構に相当する部位が、流体画像に隣接して二点鎖線で示されている。
【0061】
図5に示すように、マイクロ流体デバイス10においても、粒子pが分散されている流体が流路31を流通することで、粒子pは、少なくとも、第1側壁34a又は第2側壁34bの近傍に捕捉されることがわかる。一例として、
図5に示す流体画像が得られたとき、流路31の入口領域R
INでの粒子濃度は、0.55vol%であった。これに対して、流路31の出口側において、粒子pが集まってきた高濃度領域R
Hでの粒子濃度は、1.33vol%であった。一方、流路31の出口側において、粒子が少ない低濃度領域R
Lでの粒子濃度は、0.11vol%であった。
【0062】
また、マイクロ流体デバイス10は、二次流れ発生機構として複数の邪魔板35を採用することで、粒子pを、第1側壁34a又は第2側壁34bの近傍のみならず、
図5に示すように流路31の流路幅方向の中央領域にも捕捉させることができる可能性がある。
【0063】
なお、上記のマイクロ流体デバイス10の例では、複数の邪魔板35が、流路床側である第2平板34の第3側壁34cに設けられ、第3側壁34cから第4側壁33aに向けて突出する。これに対して、複数の邪魔板35は、天井側である第1平板33に設けられ、第4側壁33aから第3側壁34cに向けて突出するものであってもよい。あるいは、複数の邪魔板35は、流路床側である第2平板34の第3側壁34cと、天井側である第1平板33の第4側壁33aとの双方に設けられるものであってもよい。
【0064】
また、上記のマイクロ流体デバイス10の例では、二次流れ発生機構全体において、複数の邪魔板35が一つの値のピッチPiで配列されている。これに対して、複数の邪魔板35は、二次流れ発生機構全体において複数の値のピッチPiで配列される、すなわち、途中でピッチPiの値が変更されて配列されるものであってもよい。ただし、ピッチPiの値が小さすぎる場合、粘性抵抗が大きくなるため、ピッチPiの値は、流路高さhよりも大きく設定されることが望ましい。
【0065】
さらに、上記のマイクロ流体デバイス10の例では、複数の邪魔板35が、流路31の流路幅wの中央部に設けられている。つまり、流路幅方向において、邪魔板35から第1側壁34aまでの距離と、邪魔板35から第2側壁34bまでの距離とは、同一である。これに対して、複数の邪魔板35は、流路幅方向において、第2側壁34bの側よりも第1側壁34aの側に寄るように設けられてもよいし、反対に、第1側壁34aの側よりも第2側壁34bの側に寄るように設けられてもよい。
【0066】
二次流れ発生機構は、流路31の延伸方向に進むにつれて少なくとも一部の横断面の形状を変化させる流路形状変更部であってもよい。流路形状変更部は、複数の邪魔板35に代えて、複数の支柱、又は、流路31の一部に横断面が縮小する領域を設けることでベンチュリ効果を生じさせるベンチュリ構造部であってもよい。このような構造であっても、流体に二次流れを発生させることができる。また、二次流れ発生機構は、流路31の長辺側の側壁から流路31の内部に向けて超音波を発する超音波振動子であってもよい。超音波の進行波の粘性減衰による音圧の空間勾配を駆動力として、流路31内の流体には、渦状の音響流が横断面方向の二次流れとして発生する。また、
図2に示すマイクロ流体デバイス10では、流路31が共に2つの平板の組み合わせで構成される場合を例示した。これに対して、例えば、三次元金属積層造形技術を利用することで、流路31が形成されてもよい。また、液流路15が直線状の流路31を有する形態について説明したが、液流路15は略円状、略円弧状又は渦状に湾曲した形状を有する流路であってもよい。矩形断面を有する湾曲流路を懸濁液が流れることによって生じる渦流れによって懸濁液を濃縮液と清澄液とに分離することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、粒子分離システム1が2つのマイクロ流体デバイス10を備える例について説明している。しかしながら、粒子分離システム1は、3つ以上のマイクロ流体デバイス10が直列に配置されていてもよい。この際、第1マイクロ流体デバイス11を除く全ての導入口16に希釈された濃縮液が供給されてもよい。また、これらのマイクロ流体デバイス10のうち、いずれかの導入口16に希釈された濃縮液が供給され、残りのマイクロ流体デバイス10の導入口16に希釈されていない濃縮液が供給されてもよい。
【0068】
粒子分離システム1は、矩形断面を有する液流路15を懸濁液が流れることによって生じる渦流れによって懸濁液を濃縮液と清澄液とに分離する複数のマイクロ流体デバイス10を備えている。マイクロ流体デバイス10は、粒子を含む懸濁液が導入される導入口16と、懸濁液に含まれる粒子が濃縮された濃縮液が導出される濃縮液導出口17と、懸濁液から濃縮液が除かれた清澄液が導出される清澄液導出口18とを有する液流路15を含んでいる。複数のマイクロ流体デバイス10の各々は、濃縮液導出口17と導入口16とが接続されて直列に配置されている。複数のマイクロ流体デバイス10は、最も上流側に配置された第1マイクロ流体デバイス11と、第1マイクロ流体デバイス11よりも下流に配置された第2マイクロ流体デバイス12とを含んでいる。第2マイクロ流体デバイス12の導入口16には濃縮液が希釈されて供給される。
【0069】
本実施形態に係る粒子分離システム1では、複数のマイクロ流体デバイス10を直列に配置している。一方、第1マイクロ流体デバイス11から導出された濃縮液を、そのまま第2マイクロ流体デバイス12に導入した場合、第2マイクロ流体デバイス12で懸濁液から粒子を十分に分離できないおそれがある。一方、本実施形態に係る粒子分離システム1では、濃縮液が希釈された状態で第2マイクロ流体デバイス12に供給される。そのため、本実施形態に係る粒子分離システム1は、懸濁液中の粒子の分離特性に優れている。
【0070】
また、液流路15は、直線状の流路31を有していてもよい。また、マイクロ流体デバイス10の各々は、直線状の流路31の上流側を流通している懸濁液に横断面方向の二次流れを発生させる二次流れ発生機構を含んでいてもよい。直線状の流路31は、流路幅wと流路幅wに対して垂直な流路高さhとで規定される矩形の横断面を有していてもよい。直線状の流路31における少なくとも二次流れ発生機構よりも下流側の横断面では、流路幅wと流路高さhとの比で表されるアスペクト比ARは、10から100までの範囲にあってもよい。このようなマイクロ流体デバイス10によれば、例えば、単に流体の主流が誘起する揚力のみで粒子を分離させる場合よりも、分離効率を向上させることができる。
【0071】
また、二次流れ発生機構は、流路幅wを有する側壁(第3側壁34c,第4側壁33a)から流路高さ方向Zに突出し、上記側壁と平行で、かつ、横断面に対して垂直な方向Xに対して傾いて延伸していてもよい。例えばこのような構造により、流体に二次流れを発生させることができる。
【0072】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る粒子分離システム1について
図6を用いて説明する。
図6に示すように、第2実施形態に係る粒子分離システム1は、第1還流流路21と希釈流路20とをさらに備えている。また、複数のマイクロ流体デバイス10は第3マイクロ流体デバイス13を含んでいる。これ以外の点について、特に言及がなければ、第1実施形態に係る粒子分離システム1と同様であるため、説明を省略する。
【0073】
複数のマイクロ流体デバイス10は、第1マイクロ流体デバイス11と、第2マイクロ流体デバイス12と、第3マイクロ流体デバイス13とを含んでいる。複数のマイクロ流体デバイス10の各々は、直列に配置されている。第1マイクロ流体デバイス11と、第2マイクロ流体デバイス12と、第3マイクロ流体デバイス13とは、上流から下流に向かって順番に配置されている。すなわち、第1マイクロ流体デバイス11は、複数のマイクロ流体デバイス10のうち最も上流側に配置されている。第2マイクロ流体デバイス12は、第1マイクロ流体デバイス11よりも下流に配置されている。第3マイクロ流体デバイス13は、第2マイクロ流体デバイス12の濃縮液導出口17よりも下流に配置されている。第3マイクロ流体デバイス13の濃縮液導出口17は複数のマイクロ流体デバイス10の濃縮液導出口の中で最も下流に配置されている。第3マイクロ流体デバイス13は、第1マイクロ流体デバイス11及び第2マイクロ流体デバイス12と同一の構成であってもよい。
【0074】
第1マイクロ流体デバイス11の導入口16には懸濁液が導入される。第1マイクロ流体デバイス11の濃縮液導出口17は、第2マイクロ流体デバイス12の導入口16と接続されている。第1マイクロ流体デバイス11の清澄液導出口18は、複数のマイクロ流体デバイス10の外部と接続されている。第1マイクロ流体デバイス11は清澄液導出口18から複数のマイクロ流体デバイス10の外部に清澄液を導出する。
【0075】
第2マイクロ流体デバイス12の導入口16は、第1還流流路21を介して接続されている。そのため、第2マイクロ流体デバイス12の導入口16には濃縮液が希釈されて供給される。第2マイクロ流体デバイス12の濃縮液導出口17は第3マイクロ流体デバイス13の導入口16と接続されている。第2マイクロ流体デバイス12の濃縮液導出口17から導出された濃縮液は、第3マイクロ流体デバイス13の導入口16に導入される。第2マイクロ流体デバイス12の清澄液導出口18は、複数のマイクロ流体デバイス10の外部と接続されている。複数のマイクロ流体デバイス10の外部は例えば回収容器などであってもよい。
【0076】
第3マイクロ流体デバイス13の導入口16は濃縮液に希釈液を供給する希釈流路20を介して接続されている。第3マイクロ流体デバイス13の清澄液導出口18は第2マイクロ流体デバイス12の導入口16と第1還流流路21(還流流路)を介して接続されている。
【0077】
第2マイクロ流体デバイス12の濃縮液導出口17から導出された濃縮液には、希釈流路20を介して希釈液が添加され、第3マイクロ流体デバイス13には希釈された懸濁液が導入される。第1マイクロ流体デバイス11の濃縮液導出口17から導出された濃縮液には、第3マイクロ流体デバイス13の清澄液導出口から導出された清澄液が添加される。そのため、第2マイクロ流体デバイス12には希釈された懸濁液が導入される。複数のマイクロ流体デバイス10のうち第1マイクロ流体デバイス11の直後に配置された第2マイクロ流体デバイス12は、清澄液導出口18から複数のマイクロ流体デバイス10の外部に清澄液を導出する。
【0078】
以上説明したように、本実施形態に係る粒子分離システム1は、第1還流流路21(還流流路)と希釈流路20とを備えている。複数のマイクロ流体デバイス10は第2マイクロ流体デバイス12の濃縮液導出口17よりも下流に配置された第3マイクロ流体デバイス13を含んでいる。第3マイクロ流体デバイス13の清澄液導出口18は第2マイクロ流体デバイス12の導入口16と第1還流流路21を介して接続されている。第3マイクロ流体デバイス13の導入口16は濃縮液に希釈液を供給する希釈流路20を介して接続されている。
【0079】
第1マイクロ流体デバイス11及び第2マイクロ流体デバイス12で分離された濃縮液は、第3マイクロ流体デバイス13に導入される前に希釈される。これにより、第3マイクロ流体デバイス13では希釈された濃縮液が分離されるため、濃縮液がそのまま分離される場合と比較し、清澄液に含まれる粒子量を低減することができる。そのため、本実施形態に係る粒子分離システム1は、懸濁液中の粒子の分離特性に優れている。
【0080】
また、第3マイクロ流体デバイス13の清澄液は、第2マイクロ流体デバイス12に導入される。そのため、第1マイクロ流体デバイス11から第2マイクロ流体デバイス12に導入される濃縮液が希釈される。これにより、第2マイクロ流体デバイス12では希釈された懸濁液が分離されるため、濃縮液が分離される場合と比較し、清澄液に含まれる粒子量を低減することができる。また、第3マイクロ流体デバイス13の清澄液で第2マイクロ流体デバイス12に導入される濃縮液を希釈するため、希釈液の使用量を低減することができる。
【0081】
第3マイクロ流体デバイス13の濃縮液導出口17は複数のマイクロ流体デバイス10の濃縮液導出口の中で最も下流に配置されていてもよい。
【0082】
これにより、最も下流に配置されたマイクロ流体デバイス10に希釈された懸濁液が導入される。そのため、濃縮液がそのまま分離される場合と比較し、清澄液に含まれる粒子量を低減することができる。また、最も下流に配置されたマイクロ流体デバイス10の清澄液が還流されるため、希釈液の使用量を低減することができる。
【0083】
第2マイクロ流体デバイス12の濃縮液導出口17から導出された濃縮液は、第3マイクロ流体デバイス13の導入口16に導入されていてもよい。
【0084】
これにより、第3マイクロ流体デバイス13で分離された清澄液は直前の第2マイクロ流体デバイス12に導入される濃縮液を希釈することができる。そのため、第1還流流路21の構成を簡易にすることができる。
【0085】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る粒子分離システム1について
図7を用いて説明する。
図7に示すように、第3実施形態に係る粒子分離システム1は、第2実施形態に係る粒子分離システム1と比較し、第4マイクロ流体デバイス14をさらに備えている。これ以外の点について、特に言及がなければ、上記実施形態に係る粒子分離システム1と同様であるため、説明を省略する。
【0086】
複数のマイクロ流体デバイス10は、第1マイクロ流体デバイス11、第2マイクロ流体デバイス12及び第3マイクロ流体デバイス13に加え、第4マイクロ流体デバイス14をさらに含んでいる。複数のマイクロ流体デバイス10の各々は、直列に配置されている。第4マイクロ流体デバイス14は、第1マイクロ流体デバイス11の濃縮液導出口17より下流であって第2マイクロ流体デバイス12の導入口16より上流に配置されている。すなわち、第1マイクロ流体デバイス11、第4マイクロ流体デバイス14、第2マイクロ流体デバイス12、及び第3マイクロ流体デバイス13の順番で上流側から順番に配置されている。
【0087】
第4マイクロ流体デバイス14の導入口16は、第1マイクロ流体デバイス11の濃縮液導出口17と接続されている。また、第4マイクロ流体デバイス14の導入口16は、第4マイクロ流体デバイス14よりも下流に配置されたマイクロ流体デバイス10の清澄液導出口18と第2還流流路22(還流流路)を介して接続されている。具体的には、第4マイクロ流体デバイス14の導入口16は、第2マイクロ流体デバイス12の清澄液導出口18と第2還流流路22を介して接続されている。第4マイクロ流体デバイス14の濃縮液導出口17は、第2マイクロ流体デバイス12の導入口16と接続されている。複数のマイクロ流体デバイス10のうち第1マイクロ流体デバイス11の直後に配置された第4マイクロ流体デバイス14は清澄液導出口18から複数のマイクロ流体デバイス10の外部に清澄液を導出する。具体的には、第4マイクロ流体デバイス14の清澄液導出口18は、複数のマイクロ流体デバイス10の外部と接続されている。複数のマイクロ流体デバイス10の外部は例えば回収容器などであってもよい。
【0088】
以上の通り、複数のマイクロ流体デバイス10は、第1マイクロ流体デバイス11の直後に配置されたマイクロ流体デバイス10と第3マイクロ流体デバイス13との間に配置された少なくとも1つのマイクロ流体デバイス10を含んでいてもよい。少なくとも1つのマイクロ流体デバイス10の濃縮液導出口17は、直前に配置されたマイクロ流体デバイス10の導入口16と還流流路を介して接続されていてもよい。
【0089】
具体的には、複数のマイクロ流体デバイス10は、第1マイクロ流体デバイス11より下流であって第2マイクロ流体デバイス12より上流に配置された第4マイクロ流体デバイス14を含んでいてもよい。第4マイクロ流体デバイス14の導入口16は、第1マイクロ流体デバイス11の濃縮液導出口17と接続されていてもよい。また、第4マイクロ流体デバイス14の導入口16は、第4マイクロ流体デバイス14よりも下流に配置されたマイクロ流体デバイス10の清澄液導出口18と還流流路を介して接続されていてもよい。第4マイクロ流体デバイス14は清澄液導出口18から複数のマイクロ流体デバイス10の外部に清澄液を導出してもよい。
【0090】
本実施形態に係る粒子分離システム1によれば、第4マイクロ流体デバイス14により、分離精度をさらに向上させることができる。
【0091】
複数のマイクロ流体デバイス10のうち第1マイクロ流体デバイス11の直後に配置されたマイクロ流体デバイス10は、清澄液導出口18から複数のマイクロ流体デバイス10の外部に清澄液を導出してもよい。
【0092】
これにより、簡易な構成により、下流のマイクロ流体デバイス10の清澄液で希釈された懸濁液を、上流のマイクロ流体デバイス10で分離することができる。
【0093】
なお、第1実施形態から第3実施形態に係る粒子分離システム1では、複数のマイクロ流体デバイス10の各々が、接続流路19で直接接続されている例について説明した。しかしながら、例えば
図8に示すように、接続流路19には、バッファタンク23が設けられていてもよい。バッファタンク23は、希釈流路20と接続流路19との接続部よりも下流に設けられている。バッファタンク23は、濃縮液導出口17から導出された濃縮液と、希釈流路20を介して供給された希釈液とを混合して収容することができる。そのため、濃縮液と希釈液とがオーバーフローするのを抑制することができる。なお、図示しないが、バッファタンクは、接続流路において、還流流路と接続流路との接続部よりも下流に設けられていてもよい。
【0094】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態に係る粒子分離システム1について
図9を用いて説明する。
図9に示すように、粒子分離システム1は、培養装置40をさらに備えている。また、第4実施形態に係る粒子分離システム1では、懸濁液に含まれる粒子は細胞である。これ以外の点について、特に言及がなければ、上記実施形態に係る粒子分離システム1と同様であるため、説明を省略する。
【0095】
培養装置40は細胞を培養する。培養装置40は、培養槽41を含んでいる。培養槽41内には、細胞と液体培地とを含む懸濁液が収容されており、培養槽41内において細胞が培養される。
【0096】
培養装置40は第1マイクロ流体デバイス11の導入口16と接続されている。そして、第1マイクロ流体デバイス11には、培養装置40から懸濁液が導入される。第1マイクロ流体デバイス11の導入口16には希釈流路20又は還流流路が接続されていない。そのため、第1マイクロ流体デバイス11の導入口16には希釈液を含まない培養装置40内の懸濁液がそのまま導入される。
【0097】
本実施形態において、懸濁液に含まれる粒子は細胞を含んでいる。細胞は、真核細胞又は原核細胞を含んでいてもよい。真核細胞は、動物細胞又は酵母細胞を含んでいてもよい。原核細胞は、大腸菌の細胞を含んでいてもよい。動物細胞は、脊椎動物細胞及び無脊椎動物細胞の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。動物細胞は、哺乳類細胞、鳥類細胞、爬虫類細胞、両生類細胞及び魚類細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。哺乳類細胞は、ヒト細胞、マウス細胞、ハムスター細胞、サル細胞、ラット細胞、ブタ細胞、ヒツジ細胞、ウマ細胞及びウサギ細胞からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。動物細胞は、具体的には、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)、BHK細胞(ベビーハムスター腎臓細胞)、HEK細胞(ヒト胎児腎細胞)、PER.C.6細胞、COS-1細胞、COS-7細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、骨髄腫細胞及びHeLa細胞からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。細胞は、一種のみであってもよく、複数種の混合であってもよい。懸濁液に含まれる粒子は細胞塊であってもよい。細胞は浮遊細胞であってもよい。
【0098】
懸濁液は液体媒体を含有していてもよい。液体媒体は、細胞の培養に利用される液体培地を含んでいてもよい。これにより、液体培地中で培養された細胞をそのままマイクロ流体デバイス10に投入することができる。液体培地は、培養する細胞に適したものを適宜選択して使用することができる。液体培地は、合成培地、半合成培地又は天然培地のいずれであってもよい。液体培地は、市販の液体培地から適宜選択して使用してもよく、栄養素及び精製水を含んでいてもよい。
【0099】
培養装置40は、懸濁液内の細胞を均質にするため、培養槽41内に配置された撹拌部42を含んでいてもよい。撹拌部42は、図示しないモータと、モータに接続されたシャフト43と、シャフト43に接続された撹拌翼44とを含んでおり、モータを稼働させることにより、撹拌翼44を回転させ、懸濁液を撹拌してもよい。撹拌部42は、モータ、シャフト43及び撹拌翼44を含む構造体に代えて、マグネチックスターラーを含んでいてもよい。
【0100】
培養装置40は、培養槽41内の懸濁液の温度を調節する図示しない温度調節部を含んでいてもよい。温度調節部によって培養槽41内の懸濁液の温度を、細胞の培養又は保管に適した温度に維持することができる。温度調節部としては、例えばサーモスタットが挙げられる。
【0101】
培養装置40は、液体培地に含まれる栄養成分などの材料を補充する補充部45を含んでいてもよい。このような補充部45により、細胞の培養期間に、懸濁液中の液体成分の組成を均一に維持することができる。
【0102】
培養装置40は、細胞に適した環境を維持するため、必要に応じ、酸素、二酸化炭素及び空気などのガス成分、pH、導電率並びに光量等の調整機能を備えていてもよい。培養装置40は、培養槽41内のガス濃度を測定する濃度測定部、及び懸濁液中のpH測定部などを備えていてもよい。
【0103】
複数のマイクロ流体デバイス10から導出された濃縮液は、培養装置40へ還流してもよい。これにより、培養装置40にて細胞の培養を継続することができる。
【0104】
複数のマイクロ流体デバイス10から導出された清澄液を分離生成することにより、清澄液から細胞で生産されたタンパク質などの有用物質を回収することができる。分離方法としては、遠心分離及び膜分離などが挙げられる。精製方法としては、限外ろ過、精密ろ過及びクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0105】
細胞によって生産されるタンパク質としては、例えば、抗体、ホルモン、サイトカイン、酵素、ワクチンなどが挙げられる。抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体としては、インフリキシマブ、アダリムマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、リツキシマブ、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、ダラツムマブ、デノスマブ、オクレリズマブ、デュピルマブ、ペルツズマブ、ベドリズマブ、アテゾリズマブ、ラニビズマブ、ゴリムマブ、トシリズマブ、オマリズマブ、エミシズマブ、リサンキズマブ、イピリムマブ、ナタリズマブ、グセルクマブ、メポリズマブ、テプロツムマブ、ベンラリズマブ、エボロクマブ及びベリムマブなどが挙げられる。
【0106】
以上説明した通り、本実施形態に係る粒子分離システム1では、粒子は細胞を含んでいる。粒子分離システム1は細胞を培養する培養装置40をさらに備えている。培養装置40は第1マイクロ流体デバイス11の導入口16と接続されている。
【0107】
本実施形態に係る粒子分離システム1によれば、培養された細胞を複数のマイクロ流体デバイス10で直接分離することができる。
【0108】
なお、本実施形態に係る粒子分離システム1では、第1実施形態に係る粒子分離システム1に培養装置40を接続したが、第2実施形態~第3実施形態に係る粒子分離システム1に培養装置40を接続してもよい。
【実施例0109】
以下、本実施形態を以下の実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの例に限定されるものではない。
【0110】
(実施例1)
図10に示す粒子分離システムによる懸濁液の分離をシミュレーションによって評価した。粒子分離システムでは、各マイクロ流体デバイス10の濃縮液導出口と導入口とを接続し、5つのマイクロ流体デバイス10を直列に接続した。前から1段目のマイクロ流体デバイスには、粒子の濃度が10
6個/mLの原液を1000L導入した。前から3段目~5段目のマイクロ流体デバイスの直前には、前段のマイクロ流体デバイス10から導出された濃縮液に加えて希釈液を75Lずつ導入した。前から1段目~5段目のマイクロ流体デバイスから清澄液を回収し、前から5段目のマイクロ流体デバイスから濃縮液を回収した。
【0111】
(実施例2)
図11に示す粒子分離システムによる懸濁液の分離をシミュレーションによって評価した。粒子分離システムでは、各マイクロ流体デバイス10の濃縮液導出口と導入口とを接続し、5つのマイクロ流体デバイス10を直列に接続した。前から1段目のマイクロ流体デバイスには、粒子の濃度が10
6個/mLの原液を1000L導入した。前から3段目のマイクロ流体デバイスには、前から2段目のマイクロ流体デバイス10から導出された濃縮液に加え、前から4段目のマイクロ流体デバイスの清澄液を250L還流した。前から4段目のマイクロ流体デバイスには、前から3段目のマイクロ流体デバイス10から導出された濃縮液に加え、前から5段目のマイクロ流体デバイスの清澄液を250L還流した。前から5段目のマイクロ流体デバイスには、前から4段目のマイクロ流体デバイス10から導出された濃縮液に加えて希釈液を250L導入した。前から1段目~3段目のマイクロ流体デバイスから清澄液を回収し、前から5段目のマイクロ流体デバイスから濃縮液を回収した。
【0112】
(比較例1)
図12に示す粒子分離システムによる懸濁液の分離をシミュレーションによって評価した。粒子分離システムでは、各マイクロ流体デバイス10の濃縮液導出口と導入口とを接続し、5つのマイクロ流体デバイス10を直列に接続した。前から1段目~5段目のマイクロ流体デバイスから清澄液を回収し、前から5段目のマイクロ流体デバイスから濃縮液を回収した。
【0113】
【0114】
実施例1の粒子分離システムでは、得られた清澄液の平均粒子濃度が0.26×106個/mLであった。実施例2の粒子分離システムでは、得られた清澄液の平均粒子濃度が0.27×106個/mLであった。原液粒子濃度である1×106個/mL及び清澄液総量と、清澄液の平均粒子濃度とを比較すると、実施例1及び実施例2の粒子分離システムでは原液から粒子を十分に取り除けていることが分かる。一方、比較例1の粒子分離システムでは、液相中の目的物質の回収率を95%とするために5段直列で分離しているが、得られた清澄液の平均粒子濃度は、0.7×106個/mLであった。原液粒子濃度である1×106個/mL及び清澄液総量と、清澄液の平均粒子濃度とを比較すると、粒子分離システムによる粒子除去率は、3割程度にとどまった。
【0115】
これらの結果から、懸濁液をマイクロ流体デバイスで分離した後、次のマイクロ流体デバイスで分離する前に、一旦希釈することで、マイクロ流体デバイスの分離効率を維持できることが分かった。なお、目的物質は原液の液相に溶解する成分であり、希釈によって目的物質の回収率は低下せず、いずれも95%程度であった。
【0116】
さらに、実施例2の粒子分離システムでは、後段の分離で発生した清澄液を還流し、希釈に用いる液として用いている。そのため、得られる清澄液の総量を低減し、目的物質の分離精製の処理量を低減することができる。具体的には、実施例1の粒子分離システムで得られた清澄液総量は1130Lであるのに対し、実施例2の粒子分離システムで得られた清澄液総量は1000Lであった。実施例2の粒子分離システムで得られた清澄液総量は、希釈液を添加しない比較例1の粒子分離システムで得られる清澄液の総量と同程度であった。
【0117】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。