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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180091
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】制御システム
(51)【国際特許分類】
   B41J 19/18 20060101AFI20231213BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
B41J19/18 E
B41J19/18 Z
B41J2/01 303
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093204
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒川 悠太
(72)【発明者】
【氏名】白井 陽久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祥爾
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸昌
(72)【発明者】
【氏名】法亢 昌広
【テーマコード(参考)】
2C056
2C480
【Fターム(参考)】
2C056EC11
2C056EC34
2C480CA01
2C480CA09
2C480CA31
2C480CA47
2C480CB02
2C480CB31
2C480CB34
2C480CB44
2C480CB45
2C480DA01
2C480DB03
2C480EA07
2C480EC03
2C480EC04
(57)【要約】
【課題】コストアップを抑えつつ、移動体の移動距離を高精度で算出できるようにする。
【解決手段】コントローラは、モータにより移動体を移動させている間に、第1回転量情報及び第2回転量情報を取得する。第1,第2回転量情報は、移動体に搭載された単一の検知部によって第1,第2被検知部がそれぞれ検知されたときの、回転量情報出力部からのモータの回転量情報に対応する。コントローラは、第1,第2回転量情報と、第1,第2被検知部相互間の設計上の距離とに基づいて、補正値を算出する。補正値は、モータの所定回転量あたりの、移動体の実際の移動距離を示す。コントローラは、回転量情報と補正値とを用いて移動体の移動距離を算出し、算出した移動距離に基づいて移動体の所定動作を制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータにより所定の移動方向に沿って移動され、その移動過程で所定動作を実行することにより対象物を加工するように構成された移動体と、
前記移動体に搭載された単一の検知部であって、前記移動体の移動中に第1被検知部及び第2被検知部を検知するように構成され、前記第1被検知部及び前記第2被検知部は、前記移動方向に沿って互いに離間しており且つ前記移動体が前記移動方向に沿って移動している状態で前記検知部により検知される、検知部と、
前記モータの回転量を示す回転量情報を出力するように構成された回転量情報出力部と、
コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記モータにより前記移動体を前記移動方向に沿って移動させる移動処理と、
前記移動処理による前記移動体の移動中に前記検知部によって前記第1被検知部及び前記第2被検知部が検知されたときのそれぞれの前記回転量情報出力部からの前記回転量情報である第1回転量情報及び第2回転量情報を取得する回転量情報取得処理と、
前記回転量情報取得処理により取得された前記第1回転量情報及び前記第2回転量情報と、前記第1被検知部と前記第2被検知部との設計上の距離を示す情報である理論距離情報とに基づいて、前記モータの所定回転量あたりの前記移動体の実際の移動距離を直接又は間接的に示す補正値を算出する補正値算出処理と、
前記回転量情報出力部からの前記回転量情報と、前記補正値算出処理により算出された前記補正値とを用いて、前記移動体の移動距離を算出する移動距離算出処理と、
を実行するように構成された制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の制御システムであって、
前記回転量情報出力部は、前記信号をカウントしてそのカウント値を前記回転量情報として出力するように構成されており、
前記補正値算出処理は、前記信号の1カウントあたりの前記移動体の実際の移動距離を直接または間接的に示す前記補正値を算出する、
制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の制御システムであって、
前記補正値算出処理は、前記理論距離情報が示す前記設計上の距離を実カウント差で除した値を、前記補正値として算出し、前記実カウント差は、前記第1回転量情報及び前記第2回転量情報のそれぞれが示す前記カウント値の差である、
制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載の制御システムであって、
前記移動距離算出処理は、規定位置から前記移動方向へ前記移動体が移動された場合における前記規定位置からの前記カウント値の変化量に、前記補正値算出処理により算出された前記補正値を乗じることにより、前記移動体の前記規定位置からの移動距離を算出する、制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載の制御システムであって、
前記移動距離算出処理は、さらに、前記規定位置と、算出された前記移動体の前記規定位置からの移動距離とに基づいて、前記移動体の位置を算出し、
前記コントローラは、さらに、前記移動距離算出処理により算出された前記移動体の前記位置に基づいて、前記移動体による前記所定動作を制御する、制御処理を実行するように構成されている、
制御システム。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の制御システムであって、
前記第1被検知部及び前記第2被検知部は、単一の部材に設けられている、制御システム。
【請求項7】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の制御システムであって、
前記移動体は、インクを吐出するように構成された吐出ヘッドを含み、
前記所定動作は、前記吐出ヘッドから前記対象物としてのシートへインクを吐出することにより前記シートに画像を形成することを含む、
制御システム。
【請求項8】
請求項7に記載の制御システムであって、
前記移動体と共に移動中の前記吐出ヘッドと対向するように前記移動方向に沿って延設された、単一の部材である、プラテンを備え、
前記第1被検知部及び前記第2被検知部は、前記プラテンに設けられている、
制御システム。
【請求項9】
請求項7に記載の制御システムであって、
前記第1被検知部は、前記シートの、前記移動方向の上流側の端部であり、
前記第2被検知部は、前記シートの、前記移動方向の下流側の端部である、
制御システム。
【請求項10】
請求項7に記載の制御システムであって、
前記コントローラは、さらに、
前記検知部による、前記シートの前記上流側の端部および前記シートの前記下流側の端部の検知結果に基づいて、前記シートの有無及び/または前記シートの前記移動方向の幅を検出するシート検出処理、
を実行するように構成されている、制御システム。
【請求項11】
請求項1に記載の制御システムであって、
前記回転量情報出力部は、前記モータが一定角度回転する毎に信号を出力するように構成されたロータリエンコーダを備え、前記ロータリエンコーダからの前記信号に基づいて前記回転量情報を出力するように構成されている、制御システム。
【請求項12】
請求項1に記載の制御システムであって、
前記コントローラは、さらに、前記移動距離算出処理により算出された前記移動距離に基づいて前記移動体による前記所定動作を制御する制御処理を実行するように構成されている、制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体の移動を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、キャリッジの位置をロータリエンコーダを用いて検出するように構成されたインクジェット記録装置が開示されている。このインクジェット記録装置は、キャリッジの移動範囲の両端それぞれに、キャリッジを検知するセンサが設けられている。インクジェット記録装置は、キャリッジが両センサ間を移動したときのロータリエンコーダからの実際のパルス数(即ちカウント値)と、両センサ間の設計上の距離または設計上のカウント値とに基づいて、補正値を算出する。補正値は、キャリッジの移動距離の演算に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-179503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のインクジェット記録装置では、補正値を演算するために2つのセンサを必要とするため、その分の、インクジェット記録装置のコストアップを招く。
さらに、上記のインクジェット記録装置では、両センサがキャリッジの移動範囲の両端に設けられていることに起因して、両センサ間で検出されたカウント値が、両センサ間の実際の距離に対応したカウント値からずれてしまうという問題が生じ得る。具体的には、例えば、キャリッジが移動範囲の端部に停止したときにセンサによって検知されるように構成されている場合に、キャリッジ停止時の機械的要因(例えばベルトの延び、振動など)によって、上記問題が生じ得る。
【0005】
本開示の一局面は、コストアップを抑えつつ移動体の移動距離を高精度で算出することが可能な技術を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面における制御システムは、モータと、移動体と、単一の検知部と、回転量情報出力部と、コントローラとを備える。
移動体は、モータにより所定の移動方向に沿って移動される。移動体は、その移動過程で所定動作を実行することにより対象物を加工する。検知部は、移動体に搭載されている。つまり、検知部は、移動体の移動中に第1被検知部及び第2被検知部を検知する。第1被検知部及び第2被検知部は、移動方向に沿って互いに離間しており、且つ、移動体が移動方向に沿って移動している状態で検知部により検知される。回転量情報出力部は、モータの回転量を示す回転量情報を出力する。
【0007】
コントローラは、移動処理と、回転量情報取得処理と、補正値算出処理と、移動距離算出処理とを実行する。
移動処理は、モータによって移動体を移動方向に沿って移動させる。回転量情報取得処理は、第1回転量情報及び第2回転量情報を取得する。第1回転量情報は、移動処理による移動体の移動中に検知部によって第1被検知部が検知されたときの、回転量情報出力部からの回転量情報である。第2回転量情報は、移動処理による移動体の移動中に検知部によって第2被検知部が検知されたときの、回転量情報出力部からの回転量情報である。補正値算出処理は、回転量情報取得処理により取得された第1回転量情報及び第2回転量情報と、理論距離情報とに基づいて、補正値を算出する。理論距離情報は、第1被検知部と第2被検知部との設計上の距離を示す情報である。補正値は、モータの所定回転量あたりの移動体の実際の移動距離を直接又は間接的に示す。移動距離算出処理は、回転量情報出力部からの回転量情報と、補正値算出処理により算出された補正値とを用いて、移動体の移動距離を算出する。移動体制御処理は、移動距離算出処理により算出された移動距離に基づいて、移動体による所定動作を制御する。
【0008】
このような制御システムでは、移動体が移動している状態で、第1被検知部及び第2被検知部が検知される。しかも、第1被検知部及び第2被検知部は、移動体に搭載された単一の検知部により検知される。そのため、コストアップを抑えつつ移動体の移動距離を高精度で算出することが可能となる。
【0009】
なお、回転量情報出力部は、ロータリエンコーダを有していてもよい。ロータリエンコーダは、モータが所定回転方向へ一定角度回転する毎に信号を出力する。回転量情報出力部は、ロータリエンコーダからの信号に基づいて回転量情報を出力してもよい。
【0010】
また、コントローラは、さらに、移動距離算出処理により算出された移動距離に基づく制御処理を実行してもよい。制御処理は、例えば、移動体による所定動作を制御することを含んでいてもよい。
【0011】
また、移動距離算出処理は、さらに、規定位置からの移動距離に基づいて、規定位置を基準または起点とした移動体の位置を算出してもよい。この場合、コントローラは、制御処理において、算出された移動体の位置に基づいて移動体の所定動作を制御してもよい。
【0012】
なお、上述の「単一の検知部」とは、移動体に検知部が1つのみ搭載されていることを意味していてもよい。あるいは、上述の「単一の検知部」とは、移動体に複数の検知部が搭載されているものの、補正値の算出においては、それら複数の検知部のうちの1つの検知部のみの検知結果に基づく第1,第2回転量情報が用いられること、を意味していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の画像形成システムの構成を表すブロック図である。
図2】キャリッジ搬送機構及び用紙搬送機構の構成を表す説明図である。
図3】エンコーダからの信号に基づくカウント値とキャリッジ位置との関係、及び補正演算を説明するための説明図である。
図4】印刷制御処理のフローチャートである。
図5】第1、第2被検知部の他の実装例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[1.実施形態]
(1)画像形成システムの構成
図1に示す本実施形態の画像形成システム1は、インクジェットプリンタとして構成されている。画像形成システム1は、メインコントローラ10と、通信インタフェース15と、印刷コントローラ20と、搬送コントローラ40とを備える。
【0015】
メインコントローラ10は、CPU11と、記憶部12とを備える。記憶部12は、各種のプログラム及びデータなどを記憶可能である。記憶部12は、例えば、ROM及びRAMを備える。ROMは、各種プログラムを記憶している。CPU11は、これらプログラムに従う処理を実行する。RAMは、CPU11による処理実行時に作業領域として使用される。記憶部12は、さらに、記憶内容を電気的に書き換え可能な不揮発性の記憶媒体(例えばNVRAM)を備えていてもよい。NVRAMは、画像形成システム1の電源オフ時にも保持しておく必要のあるデータが記憶される。NVRAMはプログラムが記憶されてもよい。
【0016】
CPU11は、記憶部12に記憶されているプログラムに従う処理を実行することにより、画像形成システム1内の各部を統括制御し、各種機能を実現する。以下では、CPU11が実行する処理のことを、メインコントローラ10が実行する処理として説明する。
【0017】
通信インタフェース15は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置5とデータ通信可能に構成されている。通信インタフェース15は、例えば、USB通信、ブルートゥース(Bluetooth:登録商標)通信、有線LAN又は無線LANなどの通信方式に従って情報処理装置5と通信可能であってもよい。
【0018】
メインコントローラ10は、通信インタフェース15を介して外部の機器(例えば情報処理装置5)から印刷対象の画像データを受信すると、その画像データに基づく画像が用紙Q(図2参照)に形成されるように、印刷コントローラ20及び搬送コントローラ40に各種指令を入力する。
【0019】
画像形成システム1は、記録ヘッド21と、インクタンク22と、ヘッド駆動回路23と、メディアセンサ25と、キャリッジ搬送機構26と、CRモータ31と、第1モータ駆動回路32と、第1エンコーダ33と、第1信号処理回路34とを更に備える。キャリッジ搬送機構26は、キャリッジ30を備え、キャリッジ30を主走査方向へ往復移動させる。キャリッジ30は、記録ヘッド21及びメディアセンサ25を搭載している。キャリッジ30が移動すると、記録ヘッド21及びメディアセンサ25もキャリッジ30と共に移動する。記録ヘッド21は、用紙Qに向けてインクを吐出する。メディアセンサ25は、用紙Qを検出する。メディアセンサ25は、本実施形態ではさらに、後述する第1被検知部51及び第2被検知部52(図2参照)を検出する。キャリッジ30は、本実施形態では、メディアセンサ25を1つのみ搭載している。
【0020】
CRモータ31は、キャリッジ30の駆動源である。印刷コントローラ20は、メインコントローラ10からのモータ駆動指令に従ってCRモータ31を制御することにより、キャリッジ搬送機構26によるキャリッジ30の搬送を制御する。印刷コントローラ20は、更に、メインコントローラ10からのインク吐出指令に従って、記録ヘッド21によるインクの吐出動作を制御する。これらの制御によって、印刷コントローラ20は、上記画像を用紙Qに形成する。
【0021】
インクタンク22は、インクが充填されている。インクタンク22は、本実施形態では、キャリッジ30には搭載されず、画像形成システム1における所定位置に配置されている。記録ヘッド21は、インクタンク22とチューブ(不図示)を介して接続されている。記録ヘッド21は、インクタンク22からチューブを介してインクが供給され、そのインクを吐出する。
【0022】
ヘッド駆動回路23は、印刷コントローラ20からの制御信号に従って、記録ヘッド21を駆動する。キャリッジ搬送機構26は、CRモータ31が発生する回転力をキャリッジ30に伝達する。キャリッジ30は、CRモータ31及びキャリッジ搬送機構26によって、主走査方向に沿って往復移動される。主走査方向は、副走査方向に直交する。副走査方向は、後述する用紙搬送機構41による用紙Qの搬送方向である。
【0023】
CRモータ31は、例えば直流モータの形態である。第1モータ駆動回路32は、印刷コントローラ20から入力される操作量に対応する駆動電力をCRモータ31に供給することにより、CRモータ31を駆動する。
【0024】
第1モータ駆動回路32は、例えば、操作量に対応する電圧又は電流をCRモータ31に印加して、CRモータ31を駆動してもよい。また例えば、第1モータ駆動回路32は、PWM(パルス幅変調)制御によりCRモータ31を駆動してもよい。
【0025】
第1エンコーダ33は、主走査方向におけるキャリッジ30の変位に応じた信号(以下、第1エンコーダ信号)を出力する。本実施形態の第1エンコーダ33は、ロータリエンコーダの形態である。第1信号処理回路34は、第1エンコーダ33から入力された第1エンコーダ信号に基づき、後述するカウント値を算出し、そのカウント値に基づいてキャリッジ30の速度Vxを検出する。カウント値及び速度Vxは、印刷コントローラ20に入力される。カウント値及び速度Vxは、さらにメインコントローラ10に入力されてもよい。
【0026】
印刷コントローラ20は、第1信号処理回路34から入力されたカウント値に基づいて、キャリッジ30の位置Pxを検出する。そして、印刷コントローラ20は、メインコントローラ10からのモータ駆動指令に従うキャリッジ30の搬送制御を実現するように、検出したキャリッジ30の位置Pxと、第1信号処理回路34から入力された速度Vxとに基づき、CRモータ31に対する操作量を決定し、CRモータ31を制御する。
【0027】
印刷コントローラ20は、更に、検出したキャリッジ30の位置Pxに基づき、メインコントローラ10からのインク吐出指令に従うインクの吐出制御を実現するための制御信号を、ヘッド駆動回路23に入力する。これにより、印刷対象の画像を用紙Qに形成するためのインクが、記録ヘッド21から用紙Qへ吐出される。
【0028】
画像形成システム1は、用紙搬送機構41と、PFモータ43と、第2モータ駆動回路44と、第2エンコーダ45と、第2信号処理回路46とを更に備える。搬送コントローラ40は、メインコントローラ10からの搬送指令に従って、PFモータ43を制御することにより、用紙Qの搬送を制御する。
【0029】
図1図2に示すように、用紙搬送機構41は、搬送ローラ42を備える。搬送ローラ42は、記録ヘッド21よりも副走査方向上流側において、主走査方向に延設するように配置されている。搬送ローラ42は、PFモータ43からの回転力を受けて回転することにより、より上流から搬送されてくる用紙Qを、副走査方向下流側へ搬送する。用紙Qは、記録ヘッド21の動作に合わせて、即ち記録ヘッド21により画像が形成されながら、副走査方向に搬送される。
【0030】
PFモータ43は、例えば直流モータの形態である。第2モータ駆動回路44は、搬送コントローラ40から入力される操作量に従う駆動電力をPFモータ43に印加することにより、PFモータ43を駆動する。第2エンコーダ45は、本実施形態ではロータリエンコーダの形態である。第2エンコーダ45は、例えば、PFモータ43の回転軸又は搬送ローラ42の回転軸に配置されている。第2エンコーダ45は、その配置されている回転軸の回転に応じた信号(以下、第2エンコーダ信号)を出力する。
【0031】
第2信号処理回路46は、第2エンコーダ45から入力される第2エンコーダ信号に基づき、搬送ローラ42の回転量及び回転速度を検出する。搬送ローラ42の回転量及び回転速度は、搬送ローラ42の回転により搬送される用紙Qの搬送量及び搬送速度に対応する。
【0032】
第2信号処理回路46により検出された回転量及び回転速度は、搬送コントローラ40に入力される。搬送コントローラ40は、第2信号処理回路46から入力された回転量及び回転速度に基づき、PFモータ43に対する操作量を決定して、PFモータ43を制御する。これにより、搬送コントローラ40は、搬送ローラ42による用紙Qの搬送を制御する。
【0033】
キャリッジ搬送機構26の具体的構成について、図2を参照して説明する。キャリッジ搬送機構26は、キャリッジ30と、ベルト機構27と、第1ガイドレール28と、第2ガイドレール29とを備える。ベルト機構27は、駆動プーリ27aと、従動プーリ27bと、ベルト27cとを備える。駆動プーリ27a及び従動プーリ27bは、主走査方向に沿って配列されている。ベルト27cは、駆動プーリ27aと従動プーリ27bとの間に巻回されている。
【0034】
キャリッジ30は、ベルト27cに固定されている。ベルト機構27では、駆動プーリ27aが、CRモータ31からの回転力を受けて回転する。駆動プーリ27aの回転に伴い、ベルト27c及び従動プーリ27bが従動回転する。
【0035】
第1,第2ガイドレール28,29は、主走査方向に沿って延設されている。第1,第2ガイドレール28,29は、互いに副走査方向に離間して配置されている。ベルト機構27は、例えば第1ガイドレール28に配置されている。第1,第2ガイドレール28,29には、例えば、主走査方向に沿って延びる凸状の壁(不図示)が形成されている。この壁は、キャリッジ30の移動方向を主走査方向に規制する。
【0036】
キャリッジ30は、第1,第2ガイドレール28,29によって移動方向を規制されながら、ベルト27cの回転に連動して、第1,第2ガイドレール28,29上を主走査方向に沿って移動する。記録ヘッド21及びメディアセンサ25は、キャリッジ30の移動に伴って、キャリッジ30と一体的に主走査方向に沿って移動する。
【0037】
画像形成システム1は、図2に示すように、プラテン50を更に備える。プラテン50は、用紙搬送機構41により搬送される用紙Qを支持する。即ち、用紙Qはプラテン50上を搬送される。プラテン50の主走査方向の長さは、用紙Qの主走査方向の長さよりも長い。
【0038】
プラテン50は、プラテン50は、一体的に形成された単一の部材である。記録ヘッド21から吐出されたインクが用紙Qに着弾した時の、用紙Qにおけるその着弾位置が、プラテン50上に存在するように、形成および配置されている。換言すれば、プラテン50は、キャリッジ30と共に移動中の記録ヘッド21と対向するように主走査方向に沿って延設されている。本実施形態では、プラテン50は、図2に例示するように、副走査方向においては、第1ガイドレール28の裏側から第2ガイドレール29の裏側まで延設されている。
【0039】
第1エンコーダ33は、被検出回転体に配置されている。被検出回転体は、当該被検出回転体の回転とキャリッジ30の移動とが同期または互いに追従するように構成されたどのような回転体であってもよい。つまり、キャリッジ30は被検出回転体の回転と共に移動する。被検出回転体は、例えばCRモータ31(詳しくはCRモータ31の回転軸)、駆動プーリ27aまたは従動プーリ27bであってもよい。本実施形態では、被検出回転体は例えばCRモータ31であり、図2に示すように、CRモータ31に第1エンコーダ33が設けられている。第1エンコーダ33は、CRモータ31が一定角度回転する毎にパルスを出力する。
【0040】
第1エンコーダ33は、より具体的には、円盤状のスケール(不図示)と、光学センサ(不図示)とを備える。スケールは、その中心が被検出回転体の回転軸上に配置されるようにして、被検出回転体に固定されている。つまり、スケールは被検出回転体と共に一体的に回転する。
【0041】
スケールは、スリット列(不図示)を備える。スリット列は、スケールの全周に渡って且つ周方向に沿って互いに等間隔で配置された、複数のスリットを含む。
光学センサは、画像形成システム1の筐体内において、スリット列と対向するように固定配置されている。光学センサは、スリットの有無を検知する検知位置を有する。各スリットは、スケールが回転すると検知位置を通過する。光学センサは、主走査方向におけるキャリッジ30の変位に応じた前述の第1エンコーダ信号を出力する。第1エンコーダ信号は、スリットが光学センサの検知位置を通過するたびに(つまりCRモータ31が一定角度回転する毎に)出力される前述のパルスを含む。
【0042】
本実施形態の光学センサは、スリットが検知位置を通過している間にハイレベル信号を出力し、検知位置にスリットが存在していない間はローレベル信号を出力する。これにより、スリットが光学センサを通過する事象の発生に応じたパルス状の第1エンコーダ信号が出力される。第1エンコーダ信号はアナログ信号である。第1エンコーダ信号は、第1信号処理回路34に入力される。
【0043】
なお、画像形成システム1は、2つの光学センサを備えていてもよい。この場合、2つの光学センサをそれぞれA相センサ、B相センサと称する。また、A相センサの検知位置をA相検知位置、B相センサの検知位置をB相検知位置と称する。また、A相センサからの第1エンコーダ信号をA相エンコーダ信号、B相センサからの第1エンコーダ信号をB相エンコーダ信号と称する。A相センサ及びB相センサは、スリットの配列方向に沿って(即ちスケールの周方向に沿って)互いに離間して配置されている。即ち、A相検知位置とB相検知位置とは、スケールの周方向に沿って互いに離間している。そのため、A相エンコーダ信号とB相エンコーダ信号とは互いに位相がπ/2異なる。A相エンコーダ信号及びB相エンコーダ信号は、第1信号処理回路34に入力される。本実施形態では、一例として、第1エンコーダ33がA相センサ及びB相センサを備えているものとして説明する。
【0044】
第1信号処理回路34は、A相エンコーダ信号及びB相エンコーダ信号それぞれのパルスエッジを検出する。パルスエッジは、ローレベルからハイレベルへ変化する(立ち上がる)立ち上がりエッジと、ハイレベルからローレベルへ変化する立ち下がりエッジを含む。
【0045】
第1信号処理回路34は、A相エンコーダ信号及びB相エンコーダ信号のうちのいずれか一方のパルスエッジが検出される度にパルスエッジのカウントを行う。具体的には、いずれか一方のパルスエッジが検出される度に、その検出時における他方の信号レベルに応じて、パルスエッジのカウント値をカウントアップ(インクリメント)またはカウントダウン(デクリメント)する。例えば、キャリッジ30が主走査方向へ移動している際はパルスエッジが検出される毎にカウント値がカウントアップされ、キャリッジ30が主走査方向とは逆方向(以下、「ホーム方向」と称する)へ移動している際はパルスエッジが検出される毎にカウント値がカウントダウンされてもよい。カウント値は、所定のクリア条件が成立した場合に初期値(例えばゼロ)にクリアされてもよい。所定のクリア条件は、例えば、キャリッジ30がホームポジション61(図2参照)に移動されたこと、を含んでいてもよい。
【0046】
第1信号処理回路34は、前述の通り、カウント値を印刷コントローラ20へ出力する。第1信号処理回路34は、さらに、A相エンコーダ信号のパルスエッジが検出された時間間隔、またはB相エンコーダ信号のパルスエッジが検出された時間間隔に基づいて、キャリッジ30の速度Vxを検出する。第1信号処理回路34は、検出した速度Vxを印刷コントローラ20へ出力する。
【0047】
メディアセンサ25は、キャリッジ30における下面(プラテン50に対向する面)において、プラテン50に対向するように設けられている。メディアセンサ25は、用紙Qや第1,第2被検知部51,52などの検知対象を検知する。メディアセンサ25は、発光部(不図示)と受光部(不図示)とを備える。発光部は、例えば発光ダイオードなどの発光素子を含む。受光部は、光を受け、その受光量を示す検出信号を出力する。
【0048】
メインコントローラ10は、検知対象を検知すべき期間に、発光部へ発光指示を出力する。発光指示は、発光量を含む。発光部は、メインコントローラ10から発光指示を受けると、指示された発光量の光を所定の発光方向へ照射する。発光方向は、例えば、プラテン50上の用紙Qに垂直または略垂直であって且つプラテン50に向かう方向である。
【0049】
発光部からの照射光は、プラテン50或いはプラテン50に支持された用紙Qなどの物体で反射され、その反射光が受光部で受光される。本実施形態では、照射光は、第1,第2被検知部51,52にも照射されて第1,第2被検知部51,52で反射され得る。
【0050】
受光部による反射光の受光量は、発光部から検知対象までの距離や、検知対象の形状、材質、色などの物理的特性などによって異なる。メディアセンサ25は、受光部の受光量を示す検出信号を印刷コントローラ20およびメインコントローラ10へ出力する。例えば、メディアセンサ25は、受光量が大きいほど電圧が高くなるような検出信号を印刷コントローラ20およびメインコントローラ10へ出力する。
【0051】
印刷コントローラ20は、メディアセンサ25から入力された検知信号に基づいて、検知対象を検知する。印刷コントローラ20は、検知信号に基づいてどのような方法で検知対象を検知してもよい。例えば、検知対象毎に受光量範囲が設定されていてもよい。そして、印刷コントローラ20は、検知信号が示す受光量がどの検知対象の受光量範囲に含まれているかによって、検知対象を判別してもよい。また例えば、検知対象毎に受光量の変化量の範囲が設定されていてもよい。そして、印刷コントローラ20は、いずれかの検知対象の受光量変化量の範囲に含まれるような受光量の変化が生じた場合に、当該検知対象を検知してもよい。メインコントローラ10も、印刷コントローラ20と同様に検知対象を検知してもよい。あるいは、印刷コントローラ20による検知結果がメインコントローラ10に伝達されてもよい。逆に、メインコントローラが検知対象を検知し、印刷コントローラ20がその検知結果を取得するように構成されていてもよい。
【0052】
キャリッジ30は、印刷が行われない間は、基本的には、図2に示すホームポジション61で待機される。メインコントローラ10は、外部から画像データを取得すると、印刷に先立って、後述するプレスキャンを実施する。プレスキャンにおいては、キャリッジ30が主走査方向へ少なくとも一往復移動される。メインコントローラ10は、そのプレスキャン時のメディアセンサ25からの検知信号に基づいて、用紙Qの存在および幅(即ち主走査方向の長さ)を検出する。そして、プレスキャン終了後、メインコントローラ10は、モータ駆動指令及びインク吐出指令を出力して、用紙Qへの画像形成を実行させる。具体的には、用紙Qが副走査方向へ一定量搬送される毎に、キャリッジ30を主走査方向へ往復移動させ、その往復移動の間に記録ヘッド21から用紙Qへインクを吐出させる。
【0053】
(2)画像形成時のキャリッジ位置の算出
記録ヘッド21による用紙Qへのインク吐出は、印刷コントローラ20により検出されたキャリッジ30の位置Px(ひいては記録ヘッド21の位置)に基づいて行われる。印刷コントローラ20は、基本的には、第1信号処理回路34からのカウント値に基づいて、キャリッジ30の位置Pxを検出する。印刷コントローラ20は、キャリッジ30を主走査方向及びホーム方向へ移動させながら、メインコントローラ10からのインク吐出指令に基づき、検出されたキャリッジ30の位置Pxに応じて、記録ヘッド21からインクを吐出させる。
【0054】
印刷コントローラ20は、キャリッジ30の位置Pxを、例えば、カウント値の1カウントあたりの設計上の移動距離(以下、「理論単位移動距離」と称する)にカウント値を乗ずることによって検出してもよい。
【0055】
しかし、1カウントあたりの実際の移動距離が理論単位移動距離に一致しない場合、キャリッジ30の位置Pxを正しく検出できない。つまり、印刷コントローラ20が検出したキャリッジ30の位置Pxが、キャリッジ30の実際の位置に一致しない。1カウントあたりの実際の移動距離が理論単位移動距離と一致しない場合が起こり得る要因として、第1エンコーダ33のスリット列の間隔の誤差や、ベルト27cのピッチの誤差などが挙げられる。
【0056】
このような問題を解決するために、例えば、キャリッジ30をその移動可能範囲の一端から他端まで片道移動させ、その間のカウント値の変化量と移動可能範囲の設計上の距離とに基づいて、1カウントあたりのキャリッジ30の実際の移動距離(以下、「補正値Y」と称する)を算出してもよい。しかしこの方法では、ベルト27cのたわみなどの影響によって、補正値Yを精度良く算出できないことがある。
【0057】
即ち、図3において「実特性」として例示されているように、キャリッジ30を移動可能範囲の一端(例えばホームポジション61)移動させるべく、CRモータ31の駆動が開始されても、その開始直後は、CRモータ31が回転してもCRモータ31がすぐには動かず、CRモータ31が微少量回転(カウント値が微増)したところからキャリッジ30が実際に動き出すことがある。
【0058】
なお、図3において、縦軸は第1信号処理回路34からのカウント値を示す。横軸は、ホームポジション61を基準(原点「0」)とする、キャリッジ30の主走査方向の位置Pxを示す。原点「0」は、縦軸においてはカウント値が「0」であることを示す。また、「移動可能距離」は、移動可能範囲の長さを示す。図3は、実際の移動可能距離と理論上(設計上)の移動可能距離との間に誤差がある例を示している。また、図3は、カウント値とキャリッジ30の位置Pxとが「理論特性」として例示しているようにリニアに変化していくことを例示している。つまり、理論上は、キャリッジ30が移動可能範囲の他端に到達したところでカウント値がCe0に到達する。また、図3は、実際には「理論特定」の通りにならず、「実特性」として例示しているように変化していくことを例示している。「実特性」においては、最終的なカウント値Ceが設計上のカウント値Ce0に一致しない。しかも、CRモータ31が回転し始めてカウント値が増加し始めても、ベルト27cのたわみや機械的要因などによってキャリッジ30はすぐには動かない。さらに、キャリッジ30が移動可能範囲の他端まで移動されて停止しても、ベルト27cのたわみや機械的要因などによってCRモータ31は微少量回転し、これによりカウント値も増加する。そのため、例えばこの「実特性」を用いて補正値Yを算出しても、精度の良い補正値Yは期待できない。また、図3は、用紙Qの実際の幅と理論上の幅との間に誤差がある例を示している。
【0059】
前述のような問題を踏まえ、本実施形態の印刷コントローラ20は、後述する方法によって、補正値Yを算出する。そして、その補正値Yを用いて、キャリッジ30の位置Pxを検出する。補正値Yを算出するために、本実施形態の画像形成システム1には、図2及び図3に例示するように、第1被検知部51及び第2被検知部52が設けられている。
【0060】
第1、第2被検知部51、52は、主走査方向に沿って互いに離間している。第1、第2被検知部51、52は、メディアセンサ25によって検出され得る位置であって、且つ、キャリッジ30の移動中(即ち停止していない状態)でメディアセンサ25によって検出され得る位置に設けられている。第1、第2被検知部51、52は、画像形成システム1における、単一の部材(即ち一体的に形成された部材)に設けられる。
【0061】
本実施形態では、第1、第2被検知部51、52は、用紙Qに設けられている。具体的には、用紙Qの第1端が第1被検知部51として設定され、用紙Qの第2端が第2被検知部52として設定されている。用紙Qの第1端は、用紙Qの、主走査方向における上流側の端部に対応する。用紙Qの第2端は、用紙Qの、主走査方向における下流側の端部に対応する。
【0062】
つまり、本実施形態の画像形成システム1では、第1,第2被検知部51、52は、独立して設けられた部材ではない。本実施形態では、用紙Qの第1端及び第2端を、第1、第2被検知部51、52として機能させている。なお、後述するように、第1、第2被検知部51、52はそれぞれ、用紙Qとは別に独立して設けられていてもよい。
【0063】
印刷コントローラ20は、外部から画像データを取得するなどの、印刷を実行すべきタイミングが到来すると、まず、印刷に先立ってプレスキャンを実施する。プレスキャンは、画像の形成とは別の特定の目的で行われる。特定の目的は、例えば、プラテン50上の用紙Qの有無を判別すること、プラテン50上の用紙Qの幅(主走査方向の長さ)を判別すること、キャリッジ30を主走査方向に沿って適正に往復移動できる状態か否かを判別すること、第1エンコーダ33の状態(例えばスケールにおけるスリット列の状態)が正常であるか否かを判別すること、などのうちの1つ以上を含んでいてもよい。
【0064】
プレスキャンにおいては、キャリッジ30が、ホームポジション61から主走査方向へ少なくとも一往復移動される。印刷コントローラ20は、プレスキャンによるキャリッジ30の主走査方向への移動中に、第1カウント値C1、第2カウント値C2、第3カウント値C3及び第4カウント値C4を取得し、不図示の記憶部に記憶する。
【0065】
第1カウント値C1は、キャリッジ30の主走査方向への移動中にメディアセンサ25によって第1被検知部51が検知されたときの、第1信号処理回路34からのカウント値に対応する。第2カウント値C2は、キャリッジ30の主走査方向への移動中にメディアセンサ25によって第2被検知部52が検知されたときの、第1信号処理回路34からのカウント値に対応する。
【0066】
第3カウント値C3は、キャリッジ30の主走査方向への移動中にメディアセンサ25によって用紙Qの第1端が検知されたときの、第1信号処理回路34からのカウント値に対応する。第4カウント値C3は、キャリッジ30の主走査方向への移動中にメディアセンサ25によって用紙Qの第1端が検知されたときの、第1信号処理回路34からのカウント値に対応する。
【0067】
なお、本実施形態では、一例として、キャリッジ30がホームポジション61に存在しているときにカウント値が初期値(例えばゼロ)に設定される。そのため、本実施形態では、キャリッジ30がホームポジション61から主走査方向へ移動されることによって、カウント値がゼロから加算されていく。逆に、キャリッジ30がホーム方向へ移動されるとカウント値が減算されていく。
【0068】
本実施形態では、前述の通り、用紙Qの第1端は第1被検知部51に一致し、用紙Qの第2端は第2被検知部52に一致している。そのため、本実施形態では、第1カウント値C1は第3カウント値C3に等しく、第2カウント値は第4カウント値に等しい。
【0069】
印刷コントローラ20は、プレスキャンにより記憶された第1、第2カウント値C1、C2と、理論基準距離Dr0とを取得する。図3に例示するように、理論基準距離Dr0は、第1被検知部51と第2被検知部52との間の設計上の距離である。理論基準距離Dr0はどのように取得されてもよい。理論基準距離Dr0は、例えば、印刷コントローラ20の記憶部あるいはメインコントローラ10の記憶部12に予め記憶されていてもよい。なお、本実施形態では、理論基準距離Dr0は、用紙Qの設計上の幅に等しい。
【0070】
印刷コントローラ20は、取得した第1、第2カウント値C1、C2および理論基準距離Dr0に基づいて、前述の補正値Yを算出する。具体的には、印刷コントローラ20は、理論基準距離Dr0を実カウント差で除した値を、補正値Yとして算出する。実カウント差は、第1カウント値C1と第2カウント値C2との差に対応する(図3参照)。
【0071】
印刷コントローラ20は、さらに、印刷開始位置Pstを取得する。印刷開始位置Pstは、例えば、印刷コントローラ20またはメインコントローラ10に予め記憶されている。印刷開始位置Pstは、例えば、用紙Qの第1端であってもよいし、第1端から主走査方向上流側または下流側に所定距離オフセットした位置であってもよいし、用紙Qの主走査方向の中心位置から上流側へ所定距離オフセットした位置であってもよい。図3は、一例として、印刷開始位置Pstが用紙Qの第1端に設定されている例を示している。
【0072】
印刷コントローラ20は、取得した印刷開始位置Pstに対応するカウント値である印刷開始カウント値Cstを算出する。印刷開始カウント値Cstは、プレスキャンにより記憶された第3、第4カウント値C3、C4に基づいて算出される。具体的には、印刷コントローラ20は、例えば、印刷開始位置Pstが用紙Qの第1端に設定されているならば、第3カウント値C3を、印刷開始カウント値Cstとして算出する。また例えば、印刷開始位置Pstが、用紙Qの第1端から主走査方向へ所定距離オフセットされた位置に設定されている場合は、例えば、その所定距離に対応するカウント数(以下、「オフセットカウント数」)を、第3、第4カウント値C3,C4と用紙Qの幅(主走査方向の長さ)の理論値とに基づいて算出する。そして、その算出したオフセットカウント数に基づいて、印刷開始カウント値Cstを算出する。具体的には、例えば、第3カウント値C3にオフセットカウント数を加算した値が、印刷開始カウント値Cstとして算出される。本実施形態では、前述の通り、印刷開始位置Pstが用紙Qの第1端に設定されている。そのため、その印刷開始位置Pstに対応する第3カウント値C3が印刷開始カウント値Cstに設定される(図3参照)。
【0073】
このようにして、補正値Y及び印刷開始カウント値Cstが算出されると、印刷コントローラ20は、メインコントローラ10からのインク吐出指令に基づいて、画像形成のための、キャリッジ30の移動及び記録ヘッド21からのインク吐出を行う。具体的には、ホームポジション61から主走査方向へ、速度プロファイルに従ってキャリッジ30を移動させる。そして、カウント値が印刷開始カウント値Cstに到達すると(つまりキャリッジ30が印刷開始位置Pstに到達すると)、インク吐出指令に従ってインク吐出を開始する。
【0074】
具体的には、印刷コントローラ20は、次式(1)により、仮想キャリッジ位置Pdashを算出する。仮想キャリッジ位置Pdashとは、印刷コントローラ20が認識しているキャリッジ30の位置Pxのことである。
【0075】
Pdash=Pst+Cn*Y ・・・(1)
上記式(1)において、変数Cnは、印刷開始カウント値Cstからの相対的なカウント値を示す(図3参照)。つまり、印刷開始カウント値Cstからのカウント値の変化量が変数Cnに対応する。よって、上記式(1)の右辺第2項の「Cn*Y」(即ち変数Cnと補正値Yとの積)は、印刷開始位置Pstから主走査方向への移動距離を示す。つまり、仮想キャリッジ位置Pdashは、印刷開始位置Pstに、補正値Yを用いて算出された移動距離が加算されることによって、得られる。図3に一点鎖線で例示している「補正特性」は、カウント値と仮想キャリッジ位置Pdashとの関係の一例を示す。
【0076】
印刷コントローラ20は、キャリッジ30が印刷開始位置Pstに到達した以後は、上記式(1)によって仮想キャリッジ位置Pdashを算出する。そして、その算出した仮想キャリッジ位置Pdashに基づいて用紙Qへインクを吐出することで、用紙Qに画像を形成する。例えば、メインコントローラ10からのインク吐出指令が、位置Pa~Pbの間にインクを吐出して位置Pb~Pcの間はインクを吐出しないように指令していたとする。この場合、印刷コントローラ20は、仮想キャリッジ位置PdashがPaに一致したタイミングからPbに一致したタイミングまで、インクを吐出する。そして、仮想キャリッジ位置PdashがPbに一致したタイミングからPcに一致したタイミングまではインクの吐出を行わない。
【0077】
このように、印刷開始位置Pstからのインク吐出の制御を仮想キャリッジ位置Pdashに基づいて行うことで、用紙Qにおける所望の位置への画像形成を高精度に行うことができる。
【0078】
(3)印刷制御処理
印刷コントローラ20により実行される印刷制御処理について、図4を参照して説明する。外部からの印刷指示(画像データ含む)をメインコントローラ10が受信したことによって、その印刷指示に基づく各種指令がメインコントローラ10から印刷コントローラ20へ入力されると、印刷コントローラ20は、それら指令に基づいて、図4に示す印刷制御処理を実行する。この印刷制御処理が実行されることにより、CRモータ31及び記録ヘッド21が駆動され、画像データにより示される画像が用紙Qに形成される。印刷制御処理は、ソフトウェアに基づいて実行されてもよいし、ハードウェア処理によって実行されてもよい。
【0079】
印刷コントローラ20は、印刷制御処理を開始すると、S110で、プレスキャンのための初期駆動を開始する。初期駆動は、キャリッジ30をホームポジション61から一往復させることを含む。印刷コントローラ20は、初期駆動の開始後、S120で、第1~第4カウント値C1~C4を取得する。具体的には、前述の通り、移動中にメディアセンサ25から入力される検出信号と第1信号処理回路34からのカウント値とに基づいて、第1~第4カウント値C1~C4を取得する。
【0080】
そして、初期駆動の終了後、印刷コントローラ20は、S130で、補正値Yを算出する。具体的には、S120で取得した第1、第2カウント値C1、C2と、理論基準距離Dr0とに基づいて、前述の方法で、補正値Yを算出する。
【0081】
さらに、S140で、印刷コントローラ20は、印刷開始位置Pstを取得し、その印刷開始位置Pstと、S120で取得された第3、第4カウント値C3、C4とに基づいて、前述の方法で、印刷開始カウント値Cstを算出する。ここまでの処理により、仮想キャリッジ位置Pdashの算出の準備が整ったことになる。
【0082】
印刷コントローラ20は、S150で、印刷処理を実行する。具体的には、前述の通り、用紙Qを副走査方向へ一定量搬送させ、その都度、キャリッジ30を主走査方向へ往復移動させながら、記録ヘッド21から用紙Qへインクを吐出させる。これにより用紙Qに画像を形成させる。印刷処理における記録ヘッド21からのインク吐出においては、印刷コントローラ20は、キャリッジ30が印刷開始位置Pstに到達(つまりカウント値が印刷開始カウント値Cstに到達)すると、以後、少なくとも用紙Qへのインク吐出を行うべき範囲内においては、前述の式(1)により仮想キャリッジ位置Pdashを算出する。そして、その仮想キャリッジ位置Pdashに基づいてインクを吐出する。
【0083】
(4)実施形態の効果、及び文言の対応関係
以上説明した実施形態の画像形成システム1では、補正値Yの算出及びその補正値Yに基づく仮想キャリッジ位置Pdashの算出(以下、「補正演算」と総称する)のために、単一のメディアセンサ25を用いて、第1、第2被検知部51,52が検知される。しかもそのメディアセンサ25は、補正演算のために追加で設けられたものではなく、補正演算とは異なる目的で(用紙有無検知、用紙両端検知など)設けられているものである。そのように補正演算とは異なる目的でもともと設けられているメディアセンサ25を、本実施形態では補正演算にも利用(兼用)される。
【0084】
そのため、画像形成システム1のコストアップを抑えつつ、キャリッジ30の移動距離、ひいてはキャリッジ30の位置(詳しくは仮想キャリッジ位置Pdash)を、精度良く算出することができる。
【0085】
しかも、本実施形態では,メディアセンサ25による第1、第2被検知部51,52の検知は、キャリッジ30の移動中に行われる。そのため、特許文献1に記載のインクジェット記録装置における前述の問題(ベルト27cのたわみ等に起因する補正精度低下の問題)の発生を抑制でき、仮想キャリッジ位置Pdashの算出精度を向上させることができる。
【0086】
また、本実施形態では、補正値Yを用いた仮想キャリッジ位置Pdashの算出が、印刷開始位置Pstから行われる。つまり、キャリッジ30の移動開始から印刷開始位置Pstまでは仮想キャリッジ位置Pdashは算出されず、仮想キャリッジ位置Pdashが必要となる区間で算出される。そのため、仮想キャリッジ位置Pdashの演算を必要に応じて効率的に行うことができる。
【0087】
また、本実施形態では、用紙Qの第1端及び第2端が、第1、第2被検知部51,52に設定されている。そのため、実質的に2箇所の検知結果から、補正値Yの算出に必要な第1、第2カウント値C1、C2と、印刷開始カウント値Cstの算出に必要な第3、第4カウント値C3、C4とを取得できる。そのため、補正演算に係る処理負荷を軽減できる。
【0088】
また、本実施形態では、第1、第2被検知部51,52が、単一の部材に設けられている。具体的には、本実施形態では、用紙Qにおいて第1、第2被検知部51,52が設定されている。そのため、第1、第2被検知部51,52の相互間の実際の距離が理論基準距離dr0からずれることが抑制される。
【0089】
ここで、文言の対応関係を明確にする。本実施形態において、用紙Qは本開示における対象物およびシートの一例に相当する。記録ヘッド21は本開示における吐出ヘッドの一例に相当する。キャリッジ30及び記録ヘッド21の組み合わせは本開示における移動体の一例に相当する。第1エンコーダ33及び第1信号処理回路34は本開示における回転量情報出力部の一例に相当する。メディアセンサ25は本開示における検知部の一例に相当する。印刷コントローラ20は本開示におけるコントローラの一例に相当する。用紙Qにインクを吐出することは本開示における所定動作の一例に相当し、インクを吐出することによって用紙Qに画像を形成することは本開示における対象物を加工することの一例に相当する。主走査方向は本開示における移動方向の一例に相当する。第1カウント値C1は本開示における第1回転量情報の一例に相当し、第2カウント値C2は本開示における第2回転量情報の一例に相当する。理論基準距離は本開示における理論距離情報の一例に相当する。印刷開始位置Pstは本開示における規定位置の一例に相当する。
【0090】
また、S110の処理は本開示における移動処理の一例に相当する。S120の処理は本開示における回転量情報取得処理の一例に相当する。S130の処理は本開示における補正値算出処理の一例に相当する。S150の処理は本開示における移動距離算出処理及び制御処理の一例に相当する。
【0091】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0092】
(1)上記実施形態では、用紙Qの第1端及び第2端が、第1、第2被検知部51,52に設定されていた。しかし、第1、第2被検知部51,52はそれぞれ、どこに設けられていてもよい。
【0093】
例えば、図5に例示する画像形成システム100のように、プラテン50に第1、第2被検知部51,52が設けられていてもよい。図5の例では、第1被検知部51は、プラテン50における、用紙Qが搬送される領域よりもホーム方向側に設けられており、第2被検知部52は、プラテン50における、用紙Qが搬送される領域よりも主走査方向側に設けられている。第1、第2被検知部51,52は、プラテン50に対してどのように設けられていてもよい。例えば、第1、第2被検知部51,52は、所定の一体成型方法(例えば射出成型など)によってプラテン50と一体的に形成されてもよい。また例えば、第1、第2被検知部51,52は、プラテン50とは別に用意されてプラテン50に取り付けられてもよい。
【0094】
このように用紙Qとは異なる部位に第1、第2被検知部51,52が設けられている場合、第1~第4カウント値C1~C4は、互いに異なる値をとる。しかしこの場合も、上記実施形態と基本的に同じ方法で補正値Yを算出でき、さらに仮想キャリッジ位置Pdashを算出することができる。
【0095】
また、第1、第2被検知部51,52の一方または両方は、用紙Q及びプラテン50のいずれとも異なる部位に設けられてもよい。
(2)上記実施形態では、補正演算が印刷コントローラ20で行われたが、補正演算はどこで行われてもよい。例えば、補正演算の一部または全てが、印刷コントローラ20以外(例えばメインコントローラ10)で行われてもよい。
【0096】
(3)第1エンコーダ33は、例えばリニアエンコーダであってもよい。また、本開示の回転量情報出力部は、エンコーダを持たず、エンコーダとは異なる形態の回転検出手段による検出結果に基づいて回転量情報を出力するように構成されていてもよい。
【0097】
(4)キャリッジ30は、メディアセンサ25に加えてさらに追加のセンサを備えていてもよい。ただしその場合も、補正演算においては、単一のメディアセンサ25のみの検知結果に基づいて第1~第4カウント値C1~C4が取得される。
【0098】
(5)上記実施形態では、本開示の移動体の一例として、キャリッジ30及び記録ヘッド21を例示したが、本開示の移動体はキャリッジ30及び記録ヘッド21に限定されない。移動過程で所定動作を実行することにより対象物を加工するように構成されたあらゆる移動体に本開示を適用できる。
【0099】
また、上記実施形態では、移動体による所定動作の一例として記録ヘッド21から用紙Qへのインク吐出を例示し、対象物の加工の一例として用紙Qへの画像形成を例示したが、所定動作及び対象物の加工のいずれもこれらに限定されない。つまり、本開示の技術は、画像形成システム1への適用に限定されない。例えば、本開示の技術は、インクジェットプリンタ以外のプリンタ(例えば他のシリアルプリンタ)やガーメントプリンタなどにも適用可能である。本開示の技術は、さらに、プリンタ以外の各種機器にも適用可能である。例えば、本開示の技術は、配線パターンを印刷する機械等の工作機械に適用することができる。本開示の技術は、用いたモータ制御により移動体を搬送する様々な制御システムに適用することができる。
【0100】
(6)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能は、複数の構成要素に分散して設けられてもよい。複数の構成要素が有する機能は、1つの構成要素に統合されてもよい。上記実施形態の構成の一部は、省略されてもよい。上記実施形態の構成の少なくとも一部は、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換されてもよい。特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0101】
1,100…画像形成システム、10…メインコントローラ、11…CPU、12…記憶部、20…印刷コントローラ、21…記録ヘッド、25…メディアセンサ、30…印刷コントローラ、30…キャリッジ、31…CRモータ、33…第1エンコーダ、34…第1信号処理回路、50…プラテン、51…第1被検知部、52…第2被検知部、Q…用紙。
図1
図2
図3
図4
図5