(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180094
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】弾性波フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20231213BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20231213BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
H03H9/145 D
H03H9/72
H03H9/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093212
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【弁理士】
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】野口 明
(72)【発明者】
【氏名】岸本 恭徳
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA10
5J097AA16
5J097BB02
5J097BB11
5J097BB14
5J097BB15
5J097DD02
5J097DD07
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5J097GG03
5J097GG04
5J097HA02
5J097HA03
5J097KK01
5J097KK04
5J097KK09
(57)【要約】
【課題】弾性波フィルタの通過帯域外において減衰特性が劣化することを抑制する。
【解決手段】弾性波フィルタ1は、フィルタ回路10と、付加回路20と、を備える。付加回路20は、複数のIDT31、32および複数の反射器41、42を含む。複数のIDT31、32は、複数の櫛歯電極指35a、35bを有する。複数の反射器41、42は、複数の反射電極指45を有する。第2の方向d2に沿って配列された櫛歯電極指35a、35bの配列ピッチをPiとし、第2の方向d2に沿って配列された反射電極指45の配列ピッチをPrとし、IDT31、32と反射器41、42との境界領域において、反射器41、42に最近接する櫛歯電極指とIDT31、32に最近接する反射電極指との中心間距離であるIDT-反射器ギャップをGとした場合に、0.60+n≦G/(Pi+Pr)≦0.93+n、ただしnは0以上の整数、で示される関係を有する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子および出力端子と、
前記入力端子と前記出力端子とを結ぶ第1経路に設けられたフィルタ回路と、
前記第1経路の少なくとも一部と並列接続される第2経路に設けられた付加回路と、
を備え、
前記付加回路は、複数のIDT(InterDigital Transducer)および複数の反射器を含む音響結合型共振器によって構成され、
前記複数のIDTは、圧電性基板上に設けられた一対の櫛歯状電極を有し、
前記櫛歯状電極のそれぞれは、前記圧電性基板の主面に平行な第1の方向に延び、前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って配列された複数の櫛歯電極指を有し、
前記複数のIDTは、前記第2の方向に沿って配置され、
前記複数の反射器は、前記第2の方向において前記複数のIDTの両外側に配置され、前記第1の方向に延び、前記第2の方向に沿って配列された複数の反射電極指を有し、
前記第2の方向に沿って配列された前記櫛歯電極指の配列ピッチをPiとし、
前記第2の方向に沿って配列された前記反射電極指の配列ピッチをPrとし、
前記IDTと前記反射器との境界領域において、前記複数の櫛歯電極指のうち前記反射器に最近接する櫛歯電極指と前記複数の反射電極指のうち前記IDTに最近接する反射電極指との中心間距離であるIDT-反射器ギャップをGとした場合に、
0.60+n≦G/(Pi+Pr)≦0.93+n、ただしnは0以上の整数、
で示される関係を有する
弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記櫛歯電極指の配列ピッチおよび前記反射電極指の配列ピッチは、前記第2の方向において不連続に変化している
請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記複数のIDTのそれぞれは、前記櫛歯電極指の配列ピッチが異なる複数の電極指群を有している
請求項2に記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記付加回路とフィルタ回路との間に、リアクタンス素子が設けられている
請求項1~3のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ。
【請求項5】
前記複数のIDTのうちの1つのIDTが、一方の前記第2経路に接続され、前記1つのIDTと異なるIDTが、他方の前記第2経路に接続される
請求項1~3のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の弾性波フィルタと、
前記弾性波フィルタの通過帯域と異なる通過帯域を有する他のフィルタ回路と、
を備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルタ回路と、フィルタ回路に並列接続された付加回路と、を備える弾性波フィルタが知られている(例えば特許文献1参照)。付加回路は、フィルタ回路で伝達される信号のうちの通過帯域外の信号成分に対するキャンセル信号を生成する回路である。付加回路は、弾性波伝搬方向に沿って配置された複数のIDT(InterDigital Transducer)と、複数のIDTを挟む位置に配置された2つ反射器と、によって構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら付加回路を備える弾性波フィルタでは、付加回路に強い励振が起き、通過帯域外における減衰特性が劣化することがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、通過帯域外における減衰特性が劣化することを抑制できる弾性波フィルタ等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る弾性波フィルタは、入力端子および出力端子と、前記入力端子と前記出力端子とを結ぶ第1経路に設けられたフィルタ回路と、前記第1経路の少なくとも一部と並列接続される第2経路に設けられた付加回路と、を備え、前記付加回路は、複数のIDT(InterDigital Transducer)および複数の反射器を含む音響結合型共振器によって構成され、前記複数のIDTは、圧電性基板上に設けられた一対の櫛歯状電極を有し、前記櫛歯状電極のそれぞれは、前記圧電性基板の主面に平行な第1の方向に延び、前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って配列された複数の櫛歯電極指を有し、前記複数のIDTは、前記第2の方向に沿って配置され、前記複数の反射器は、前記第2の方向において前記複数のIDTの両外側に配置され、前記第1の方向に延び、前記第2の方向に沿って配列された複数の反射電極指を有し、前記第2の方向に沿って配列された前記櫛歯電極指の配列ピッチをPiとし、前記第2の方向に沿って配列された前記反射電極指の配列ピッチをPrとし、前記IDTと前記反射器との境界領域において、前記複数の櫛歯電極指のうち前記反射器に最近接する櫛歯電極指と前記複数の反射電極指のうち前記IDTに最近接する反射電極指との中心間距離であるIDT-反射器ギャップをGとした場合に、0.60+n≦G/(Pi+Pr)≦0.93+n、ただしnは0以上の整数、で示される関係を有する。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るマルチプレクサは、上記の弾性波フィルタと、前記弾性波フィルタの通過帯域と異なる通過帯域を有する他のフィルタ回路と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る弾性波フィルタ等によれば、通過帯域外における減衰特性が劣化することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る弾性波フィルタ、および、弾性波フィルタに含まれる付加回路を示す図である。
【
図2】比較例の弾性波フィルタ、および、弾性波フィルタに含まれる付加回路を示す図である。
【
図3】実施の形態に係る弾性波フィルタを備えるマルチプレクサの回路構成図である。
【
図4】付加回路を構成する音響結合型共振器の電極構造および断面構造を示す図である。
【
図5】音響結合型共振器を構成する圧電性基板および電極の各パラメータを示す図である。
【
図6】実施例のフィルタ回路に含まれる弾性波共振子の電極パラメータを示す図である。
【
図7】実施例の付加回路に含まれるIDTおよび反射器の電極パラメータを示す図である。
【
図8】実施例、比較例1および2の弾性波フィルタの挿入損失を示す図である。
【
図9】IDT-反射器ギャップと励振波のピーク値との関係を示す図である。
【
図10】実施の形態に係る弾性波フィルタに含まれる付加回路の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明の概略)
本発明の概略について、
図1および
図2を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、実施の形態に係る弾性波フィルタ1、および、弾性波フィルタ1に含まれる付加回路20を示す図である。
図1の(a)には実施の形態に係る弾性波フィルタ1が示され、
図1の(b)には付加回路20およびIDT31の弾性波の位相が示されている。
【0012】
図1の(a)に示すように、弾性波フィルタ1は、入力端子T1と出力端子T2とを結ぶ第1経路r1に設けられたフィルタ回路10と、第1経路r1に並列接続される第2経路r2に設けられた付加回路20と、を備えている。
【0013】
付加回路20は、フィルタ回路10の通過帯域外(例えば減衰帯域)に発生する不要波をキャンセルするための回路である。つまり付加回路20は、キャンセル信号を出力する回路である。フィルタ回路10が出力する信号の所定の周波数帯域における位相と、キャンセル信号の上記所定の周波数帯域における位相とは逆位相である。フィルタ回路10の通過帯域外において、フィルタ回路10が出力する信号がキャンセル信号によって相殺されるため、フィルタ回路10における帯域外減衰量を大きくすることができる。
【0014】
付加回路20は、音響結合型共振器25によって構成されている。音響結合型共振器25は、例えば、縦結合型の弾性波共振器である。なお、音響結合型共振器25は、縦結合型の弾性波共振器でなくトランスバーサル型の弾性波共振器であってもよい。
【0015】
図1の(b)に示すように、付加回路20は、複数のIDT31および32と、複数の反射器41および42と、を有している。複数のIDT31、32のうち、入力端子T1側の第2経路r2にIDT31が接続され、出力端子T2側の第2経路r2にIDT32が接続される。すなわち、複数のIDT31、32のうちの1つのIDT31が、一方の第2経路r2に接続され、1つのIDT31と異なるIDT32が、他方の第2経路r2に接続されている。
【0016】
複数のIDT31、32のそれぞれは、一対の櫛歯状電極で構成されるIDT電極を有している。IDT31は、一対となる第1の櫛歯状電極31aおよび第2の櫛歯状電極31bを有し、IDT32は、一対となる第1の櫛歯状電極32aおよび第2の櫛歯状電極32bを有している。各櫛歯状電極は、圧電性基板100(
図4の(b)参照)上に設けられる。
【0017】
第1の櫛歯状電極31a、32aのそれぞれは、複数の櫛歯電極指35aおよびバスバー電極36aを有している。各櫛歯電極指35aは、圧電性基板100の主面に平行な第1の方向d1に延び、第1の方向d1に交差する第2の方向d2に沿って配列されている。バスバー電極36aは、複数の櫛歯電極指35aの一端同士を接続し、第2の方向d2に延びるように配置されている。
図1の(b)では、第1の方向d1と第2の方向d2とは垂直に交差する。ただし、第1の方向d1と第2の方向d2とは必ずしも垂直に交差しなくてもよい。
【0018】
第2の櫛歯状電極31b、32bのそれぞれは、複数の櫛歯電極指35bおよびバスバー電極36bを有している。各櫛歯電極指35bは、第1の方向d1に延び、第2の方向d2に沿って配列されている。バスバー電極36bは、複数の櫛歯電極指35bの一端同士を接続し、第2の方向d2に延びるように配置されている。
【0019】
複数のIDT31、32は、第2の方向d2に沿って配置されている。櫛歯電極指35aおよび35bは、第1の方向d1に互いに間挿し合い、互いに平行に配置されている。なお、本実施の形態における第2の方向d2は、第1の方向d1に対して直交する方向であり、IDT31、32の弾性波伝搬方向と同じ方向である。
【0020】
第1の櫛歯状電極31a、32aは、第2経路r2上に接続され、第2の櫛歯状電極31b、32bは、グランドに接続される。つまり、櫛歯電極指35aおよびバスバー電極36aは、信号電位に設定され、櫛歯電極指35bおよびバスバー電極36bは、グランド電位に設定される。
【0021】
複数の反射器41、42は、第2の方向d2において、複数のIDT31、32を挟み込むように、複数のIDT31、32の両外側に配置されている。各反射器41、42は、複数の反射電極指45および複数の反射バスバー46を有している。各反射電極指45は、第1の方向d1に延び、第2の方向d2に沿って配列されている。各反射バスバー46は、複数の反射電極指45の一端同士または他端同士を接続し、第2の方向d2に延びるように配置されている。
【0022】
実施の形態の付加回路20では、櫛歯電極指35aおよび35bが第2の方向d2に沿って所定のピッチで交互に配列され、反射電極指45が第2の方向d2に沿って所定のピッチで配列されている。一方、IDT31と反射器41との間の距離は、所定のピッチとは異なる距離となっている。
【0023】
図2は、比較例の弾性波フィルタ101、および、弾性波フィルタ101に含まれる付加回路120を示す図である。
図2の(a)には比較例の弾性波フィルタ101が示され、
図2の(b)には付加回路120およびIDT31の弾性波の位相が示されている。
【0024】
比較例の弾性波フィルタ101は、フィルタ回路10と、付加回路120と、を備えている。比較例のフィルタ回路10は、実施の形態のフィルタ回路10と同じ構成である。
【0025】
比較例の付加回路120でも、実施の形態と同様に、櫛歯電極指35aおよび35bが所定のピッチで交互に配列され、反射電極指45が所定のピッチで配列されている。しかし、IDT31と反射器41との間の距離が、上記の所定のピッチと同じ距離になっているため、IDT31による弾性波の位相と、反射器41による弾性波の位相とが一致し、付加回路120の音響結合型共振器125に強い励振が起きることがある。そのため比較例では、弾性波フィルタ101の通過帯域外における減衰特性が劣化することがある。
【0026】
それに対し実施の形態では、前述したように、IDT31と反射器41との間の距離が、所定のピッチとは異なる距離となっている。例えば、この異なる距離関係を維持しながらIDT31と反射器41との間の距離を適切に設定することで、IDT31による弾性波の位相と、反射器41による弾性波の位相とにずれを生じさせることが可能となる。これにより、付加回路20の音響結合型共振器25が必要以上に励振することを抑制でき、弾性波フィルタ1の通過帯域外における減衰特性が劣化することを抑制できる。なお上記では、一方のIDT31と反射器41との間の距離について説明したが、他方のIDT32と反射器42との間の距離についても同様である。
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、実施の形態および図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさ、または大きさの比は、必ずしも厳密ではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する場合がある。また、以下の実施の形態において、「接続される」とは、直接接続される場合だけでなく、他の素子等を介して電気的に接続される場合も含まれる。
【0028】
(実施の形態)
[マルチプレクサの構成]
実施の形態に係る弾性波フィルタ1を備えるマルチプレクサの構成について、
図3を参照しながら説明する。
【0029】
図3は、弾性波フィルタ1を備えるマルチプレクサ5の回路構成図である。
【0030】
マルチプレクサ5は、複数のフィルタを備える分波器または合波器である。マルチプレクサ5は、第1のフィルタ回路10および付加回路20を有する弾性波フィルタ1と、第2のフィルタ回路90とを備えている。第1のフィルタ回路10は、第1の周波数帯域を通過帯域とするフィルタ回路である。
【0031】
また、マルチプレクサ5は、弾性波フィルタ1に接続される入力端子T1と、弾性波フィルタ1および第2のフィルタ回路90の両方に接続される出力端子T2と、第2のフィルタ回路90に接続される出力端子T3と、を備えている。
【0032】
入力端子T1は、弾性波フィルタ1の信号入力側の端子である。例えば、入力端子T1は、増幅回路等(図示せず)を介してRF信号処理回路(図示せず)に接続される。
【0033】
出力端子T2は、弾性波フィルタ1の信号出力側の端子であり、また、第2のフィルタ回路90の信号入力側の端子である。出力端子T2は、弾性波フィルタ1および第2のフィルタ回路90の共通端子であり、例えばアンテナ素子(図示せず)に接続される。出力端子T2は、弾性波フィルタ1と出力端子T2との間のノードn0を分岐点とし、分岐した一方の経路が弾性波フィルタ1に接続され、分岐した他方の経路が第2のフィルタ回路90に接続される。
【0034】
出力端子T3は、第2のフィルタ回路90の信号出力側の端子である。例えば、出力端子T3は、増幅回路等(図示せず)を介してRF信号処理回路(図示せず)に接続される。
【0035】
弾性波フィルタ1は、入力端子T1および出力端子T2を結ぶ第1経路r1上に配置されている。弾性波フィルタ1は、第1のフィルタ回路10と、第1のフィルタ回路10に付加接続された付加回路20と、を備えている。入力端子T1に入力された高周波信号は、第1経路r1、および、第1経路r1の少なくとも一部に並列接続された第2経路r2を通って出力端子T2から出力される。
【0036】
第1のフィルタ回路10は、通信規格により定められた、第1の周波数帯域を通過帯域とするフィルタ回路である。第1のフィルタ回路10を含む弾性波フィルタ1は、例えば、上り周波数帯(送信帯域)を通過帯域とする送信フィルタであり、第2のフィルタ回路90よりも通過帯域が低くなるように設定される。
【0037】
付加回路20は、第2経路r2上に設けられている。付加回路20は、第2の方向d2に沿って配置された2つのIDT31、32を有している。第2経路r2を伝送する高周波信号は、一方のIDT31に入力され、他方のIDT32から出力される。なお、
図3では、反射器41、42の図示が省略されている。
【0038】
第2のフィルタ回路90は、出力端子(共通端子)T2と出力端子T3とを結ぶ第3経路r3上に配置されている。第2のフィルタ回路90は、第1のフィルタ回路10の通過帯域と異なる周波数帯域を通過帯域とする。第2のフィルタ回路90は、例えば、下り周波数帯(受信帯域)を通過帯域とする受信フィルタである。第2のフィルタ回路90は、例えば、複数の直列腕共振子S21およびS22と、複数の並列腕共振子P21およびP22と、弾性波共振器Q21と、を有している。
【0039】
直列腕共振子S21、弾性波共振器Q21および直列腕共振子S22は、出力端子(共通端子)T2から出力端子T3に向かって、この順で直列に接続されている。並列腕共振子P21は、直列腕共振子S21と弾性波共振器Q21との間のノードとグランドとを結ぶ経路上に配置されている。並列腕共振子P22は、直列腕共振子S22と出力端子T3との間のノードとグランドとを結ぶ経路上に配置されている。弾性波共振器Q21は、並列接続された縦結合弾性波共振器によって構成されている。
【0040】
弾性波フィルタ1および第2のフィルタ回路90のそれぞれには、自帯域の周波数を通過させ、自帯域外に位置する相手帯域の周波数を減衰させるような特性が求められる。
【0041】
[弾性波フィルタの構成]
弾性波フィルタ1の構成について、
図3を参照しながら説明する。
図3に示すように、弾性波フィルタ1は、第1のフィルタ回路10と付加回路20とを備えている。
【0042】
第1のフィルタ回路10は、弾性波共振子である直列腕共振子S1、S2、S3、S4、および、並列腕共振子P1、P2、P3を有している。各弾性波共振子は、IDTおよび反射器によって構成される弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)共振子である。
【0043】
直列腕共振子S1~S4は、入力端子T1と出力端子T2とを結ぶ第1経路r1上に配置されている。直列腕共振子S1~S4は、入力端子T1から出力端子T2に向かって、この順で直列に接続されている。
【0044】
並列腕共振子P1~P3は、直列腕共振子S1~S4の間の各ノードn1、n2、n3とグランド(基準端子)とを結ぶ経路上において互いに並列に接続されている。具体的には、並列腕共振子P1~P3のうち、入力端子T1に最も近い並列腕共振子P1は、一端が直列腕共振子S1とS2との間のノードn1に接続され、他端がインダクタL1を介してグランドに接続されている。並列腕共振子P2は、一端が直列腕共振子S2とS3との間のノードn2に接続され、他端がインダクタL2を介してグランドに接続されている。並列腕共振子P3は、一端が直列腕共振子S3とS4との間のノードn3に接続され、他端がインダクタL2を介してグランドに接続されている。並列腕共振子P2、P3の他端側は共通化されてインダクタL2に接続されている。
【0045】
このように第1のフィルタ回路10は、第1経路r1上に配置された4つの直列腕共振子S1~S4、および、第1経路r1とグランドとを結ぶ経路上に配置された3つの並列腕共振子P1~P3で構成されるラダーフィルタ構造を有している。なお、第1のフィルタ回路10を構成する直列腕共振子および並列腕共振子の数は、4または3つに限定されず、直列腕共振子が1つ以上かつ並列腕共振子が1つ以上であればよい。また
図3では、並列腕共振子が接続されるグランドの一部が共通化されているが、グランドを共通化するか個別化するかは、例えば、第1のフィルタ回路10の実装レイアウトの制約等によって適宜選択され得る。
【0046】
付加回路20は、前述したように、複数のIDT31、32を有している。IDT31は、直列腕共振子S1~S4から見て入力端子T1側の第1経路r1に、具体的には直列腕共振子S1と直列腕共振子S2との間のノードn1に接続されている。IDT32は、直列腕共振子S1~S4から見て出力端子T2側の第1経路r1に、具体的にはノードn0と直列腕共振子S4との間のノードn4に接続されている。IDT32とノードn4とを結ぶ経路上には、リアクタンス素子C2が設けられている。ノードn4は、ノードn0と同じ位置にあってもよい。
【0047】
付加回路20は、減衰帯域の信号である不要波に逆位相の信号を加えることで不要波成分を相殺し、減衰帯域の減衰量を改善する回路である。逆位相の信号は、付加回路20の音響結合型共振器25をフィルタ回路10に並列接続することで付与される。この例では、IDT32側の第2経路r2とIDT31側の第2経路r2とで逆位相の信号が得られるので、この音響結合型共振器25をフィルタ回路10に並列接続することで、フィルタ回路10に逆位相の信号が加えられる。これにより、減衰帯域の不要波成分が相殺され、減衰帯域における減衰量が改善される。さらに、本実施の形態の付加回路20は、付加回路20に強い励振が起きることを抑制するため、以下に示す構成を有している。
【0048】
[付加回路の構成]
付加回路20の構成について、
図4および
図5を参照しながら説明する。
【0049】
図4は、付加回路20を構成する音響結合型共振器25の電極構造および断面構造を示す図である。
図5は、音響結合型共振器25を構成する圧電性基板100および電極の各パラメータを示す図である。
図4の(a)には、音響結合型共振器25の平面図が示され、
図4の(b)には、音響結合型共振器25の一部の断面図が示されている。
【0050】
なお、
図4に示される音響結合型共振器25は、共振器の典型的な構造を説明するためのものであって、電極指の本数や長さなどは、これに限定されない。
図4に示される共振器の典型的な構造は、フィルタ回路10を構成する弾性波共振子にも適用される。
【0051】
図4に示すように、音響結合型共振器25は、圧電性基板100と、電極110と、保護膜113とで形成されている。音響結合型共振器25は、圧電性基板100、電極110および保護膜113で構成されたIDT31および32、反射器41および42を備える。本実施の形態の音響結合型共振器25は、IDT31、32および反射器41、42を含む弾性表面波共振器である。
【0052】
IDT31、32および反射器41、42を構成する電極110は、密着層111と主電極層112との積層構造となっている。
【0053】
密着層111は、圧電性基板100と主電極層112との密着性を向上させるための層であり、材料として、例えば、Tiが用いられる。
【0054】
主電極層112は、下の層から順にTi、AlCuおよびTiが積層された構造を有している。
図5に示すように、Ti、AlCuおよびTiの厚みは、順に30nm、425nm、4nmである。
【0055】
保護膜113は、電極110を覆うように形成されている。保護膜113は、主電極層112を外部環境から保護する、周波数温度特性を調整する、および、耐湿性を高めるなどを目的とする層であり、例えば、二酸化ケイ素(SiO
2)を主成分とする膜である。
図5に示すように、保護膜113の膜厚は50nmである。
【0056】
なお、密着層111、主電極層112および保護膜113を構成する材料は、上述した材料に限定されない。さらに、電極110は、上記積層構造でなくてもよい。電極110は、例えば、Ti、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Pdなどの金属または合金から構成されてもよく、また、上記の金属または合金から構成される複数の積層体から構成されてもよい。また、保護膜113は、形成されていなくてもよい。
【0057】
圧電性基板100は、支持基板、高音速膜、低音速膜および圧電体層がこの順で積層された構造を有している。高音速膜を伝搬するバルク波の音速は、圧電体層を伝搬する弾性波の音速よりも高い膜である。低音速膜を伝搬するバルク波の音速は、圧電体層を伝搬するバルク波の音速よりも低い膜である。
図4の断面図において、シリコンが支持基板、SiNが高音速膜、SiO
2が低音速膜、LiTaO
3が圧電体層に該当する。
【0058】
本実施の形態の圧電性基板100は、
図4の(b)に示すように、シリコン基板上にSiN、SiO
2、LiTaO
3がこの順で積層された構造を有している。
図5に示すように、シリコン基板の厚みは125μmであり、シリコンの面方位は(111)であり、SiNの厚みは900nmであり、SiO
2の膜厚は1000nmであり、LiTaO
3の膜厚は1500nmであり、LiTaO
3のカット角は35°である。
【0059】
なお、
図5に示す各パラメータに限られず、SiNの厚みが300nm、SiO
2の膜厚が673nm、LiTaO
3の膜厚が1000nmであってもよい。Ti、AlCuおよびTiの厚みは、順に30nm、365nm、4nmであってもよい。圧電体層は、LiTaO
3に限られず、LiNbO
3であってもよい。圧電性基板100は、少なくとも一部に圧電体層を有する基板であってもよい。圧電性基板100は、例えば、θ°YカットX伝搬LiNbO
3圧電単結晶または圧電セラミックス(X軸を中心軸としてY軸からZ軸方向にθ°回転した軸を法線とする面で切断したニオブ酸リチウム単結晶またはセラミックスであって、X軸方向に弾性表面波が伝搬する単結晶またはセラミックス)からなる基板であってもよい。
【0060】
ここで
図4に示すように、第2の方向d2に沿って配列された櫛歯電極指35a、35bの配列ピッチをPiとする。具体的に説明すると、櫛歯電極指35a、35bの配列ピッチPiは、複数のIDT31、32に含まれる複数の櫛歯電極指35a、35bにおいて、隣り合う櫛歯電極指35a、35bの第2の方向d2における中心同士の距離(以下、2つの電極指間の第2の方向d2における中心同士の距離を、単に「中心間距離」と称することがある)である。複数のIDT31、32内における複数の櫛歯電極指35a、35bの全ての配列ピッチは同じであってもよく、一部もしくは全ての配列ピッチが異なっていてもよい。櫛歯電極指35a、35bの配列ピッチは、第2の方向d2において隣り合うピッチが不規則に増減するように、不連続に変化していてもよい。
【0061】
櫛歯電極指35a、35bの配列ピッチPiは、次のように導出できる。例えば、複数のIDT31、32に含まれる櫛歯電極指35a、35bの総本数をNi本とする。そして、複数のIDT31、32の、第2の方向d2における一方端に位置する櫛歯電極指と、他方端に位置する櫛歯電極指との中心間距離をDiとする。すると、配列ピッチPiは、Pi=Di/(Ni-1)という式で表せる。なお、(Ni-1)は、複数のIDT31、32における、隣接する櫛歯電極指が作るギャップの総個数ともいえる。
【0062】
配列ピッチPiの測定箇所は、所定の隣り合う櫛歯電極指の交差幅の、第1の方向d1における略中間点を通る、第2の方向d2に平行な仮想線上における距離で代用できる。配列ピッチPiの測定方法は、上面(第1の方向d1および第2の方向d2の両方に垂直な方向)からの光学顕微鏡またはSEM観察、もしくは、研磨等により上記仮想線を通る断面を出し、光学顕微鏡またはSEM観察、による測長で測定できる。
【0063】
また、
図4に示すように、第2の方向d2に沿って配列された反射電極指45の配列ピッチをPrとする。具体的に説明すると、反射電極指45の配列ピッチPrは、反射器41、42に含まれる複数の反射電極指45において、第2の方向d2に隣り合う反射電極指45同士の中心間距離である。反射器41、42内における複数の反射電極指45の全ての配列ピッチは同じであってもよく、一部もしくは全ての配列ピッチが異なっていてもよい。反射電極指45の配列ピッチは、第2の方向d2において隣り合うピッチが不規則に増減するように、不連続に変化していてもよい。
【0064】
反射電極指45の配列ピッチPrは、次のように導出できる。例えば、反射器41に含まれる反射電極指45の総本数をNr本とする。そして、反射器41の、第2の方向d2における一方端に位置する反射電極指と、他方端に位置する反射電極指との中心間距離をDrとする。すると、配列ピッチPrは、Pr=Dr/(Nr-1)という式で表せる。なお、(Nr-1)は、反射器41における、隣接する反射電極指が作るギャップの総個数ともいえる。反射器42についても同様である。
【0065】
配列ピッチPrの測定箇所は、所定の隣り合う反射電極指の交差幅の、第1の方向d1における略中間点を通る、第2の方向d2に平行な仮想線上における距離で代用できる。配列ピッチPrの測定方法は、上面(第1の方向d1および第2の方向d2の両方に垂直な方向)からの光学顕微鏡またはSEM観察、もしくは、研磨等により上記仮想線を通る断面を出し、光学顕微鏡またはSEM観察、による測長で測定できる。
【0066】
また、
図4に示すように、IDT(例えば31)と反射器(例えば41)との境界領域において、複数の櫛歯電極指35a、35bのうち反射器41に最近接する櫛歯電極指(例えば35a)と、複数の反射電極指45のうちIDT31に最近接する反射電極指との、第2の方向d2における中心間距離であるIDT-反射器ギャップをGとする。
【0067】
上記の定義の下、本実施の形態に係る弾性波フィルタ1の付加回路20は、
0.60+n≦G/(Pi+Pr)≦0.93+n、ただしnは0以上の整数、
で示される関係を有する。この構成によれば、IDT31、32による弾性波の位相と反射器41、42による弾性波の位相とを適切に異ならせることができ、付加回路20の音響結合型共振器25が必要以上に励振することを抑制できる。これにより、弾性波フィルタ1の通過帯域外において減衰特性が劣化することを抑制できる。
【0068】
[弾性波フィルタの減衰特性等]
実施例および比較例の弾性波フィルタの減衰特性等について、
図6~
図9を参照しながら説明する。
【0069】
まず、実施例の弾性波フィルタ1に含まれるフィルタ回路10、および、付加回路20を構成する音響結合型共振器25の電極パラメータについて説明する。実施例は、上記に示した実施の形態の一例である。
【0070】
図6は、実施例のフィルタ回路10に含まれる弾性波共振子の電極パラメータを示す図である。
図6には、フィルタ回路10の直列腕共振子S1~S4および並列腕共振子P1~P3を構成するIDTおよび反射器の電極パラメータが示されている。具体的には、各弾性波共振子のIDTの対数、反射器の対数、IDTの交差幅、IDTのデューティ、反射器のデューティ、IDTの波長および反射器の波長が示されている。
【0071】
また同図には、弾性波共振子の波長に対するIDT-反射器ギャップGの比であるギャップ比が示されている。このギャップ比は、IDT-反射器ギャップGを、IDTの波長の1/2と反射器の波長の1/2との合計値で除算した値である。なお、IDTの波長の1/2はIDTの電極指の配列ピッチと同じであり、反射器の波長の1/2は反射器の電極指の配列ピッチと同じである。
【0072】
図7は、実施例の付加回路20に含まれるIDT31、32および反射器41、42の電極パラメータを示す図である。
【0073】
同図には、IDT31、32、反射器41、42のそれぞれの対数、デューティ、および、IDT31、32の電極指の交差幅が示されている。各IDT31、32の電極指の対数は、櫛歯電極指35a、35bの本数の1/2であり、各反射器41、42の対数は、反射電極指45の本数の1/2である。この例では、各IDT31、32の対数が、各反射器41、42の対数よりも少ない。デューティ(duty)は、電極指の幅を電極指の配列ピッチで除算した値である。この例では、IDT31、32、反射器41、42のそれぞれのデューティは、同じである。交差幅は、IDT31、32を第2の方向d2から見たときに櫛歯電極指35aと櫛歯電極指35bとが重なる寸法である。この例では、IDT31の交差幅とIDT32の交差幅とが同じである。
【0074】
同図には、IDT31、32、反射器41、42の電極指の配列ピッチが示されている。各IDT31、32は、櫛歯電極指35a、35bの配列ピッチが異なる複数の電極指群を有している。具体的には、各IDT31、32は、櫛歯電極指35a、35bの配列ピッチが広い第1電極指群37と、第1電極指群37よりも配列ピッチが狭い第2電極指群38と、を有している。この例では、第2の方向d2に沿って順に、IDT31の第1電極指群37および第2電極指群38、ならびに、IDT32の第2電極指群38および第1電極指群37が配置されている。IDT31の第1電極指群37の配列ピッチは、反射器41の反射電極指45の配列ピッチPrよりも広く、IDT31の第2電極指群38の配列ピッチは、反射器41の反射電極指45の配列ピッチPrよりも狭くなっている。IDT32の第1電極指群37の配列ピッチは、反射器42の反射電極指45の配列ピッチPrよりも広く、IDT32の第2電極指群38の配列ピッチは、反射器42の反射電極指45の配列ピッチPrよりも狭くなっている。
【0075】
また同図には、各電極指のギャップが示されている。ギャップとは、電極指を有する2つの構成要素に着目した場合に、一方の構成要素に最近接する他方の構成要素の電極指と、他方の構成要素に最近接する一方の構成要素の電極指との第2の方向d2における中心間距離である。
【0076】
具体的には、同図には、音響結合型共振器25の波長に対するIDT-反射器ギャップGの比であるギャップ比GRが示されている。本実施の形態におけるギャップ比GRは、IDT-反射器ギャップGを、櫛歯電極指35a、35bの配列ピッチPiと反射電極指45の配列ピッチPrの合計値で除算した値であり、GR=G/(Pi+Pr)で表される。分母であるPi+Prは、IDT31、32の波長と反射器41、42の波長との平均を表している。IDT31と反射器41との境界領域におけるギャップ比GRは、反射器41とIDT31とのギャップであるIDT-反射器ギャップGを、配列ピッチPiおよび配列ピッチPrの合計値で除算した値である。この例では、IDT-反射器ギャップG=3.438μm、配列ピッチPi=2.3047μm、配列ピッチPr=2.3803μmであり、IDT31と反射器41との境界領域におけるギャップ比GRは0.73となっている。また、IDT32と反射器42との境界領域におけるギャップ比GRは、IDT32と反射器42とのギャップであるIDT-反射器ギャップGを、配列ピッチPiおよび配列ピッチPrの合計値で除算した値である。この例では、IDT-反射器ギャップG=3.438μm、配列ピッチPi=2.3047μm、配列ピッチPr=2.3803μmであり、IDT32と反射器42との境界領域におけるギャップ比GRは0.73となっている。
【0077】
なお、IDT31の第1電極指群37と第2電極指群38とのギャップg1を、配列ピッチPiおよび配列ピッチPrの合計値で除算した値(g1/(Pi+Pr))は0.44である。IDT31の第2電極指群38とIDT32の第2電極指群38とのギャップg12を、配列ピッチPiおよび配列ピッチPrの合計値で除算した値(g12/(Pi+Pr))は0.47である。IDT32の第2電極指群38と第1電極指群37とのギャップg2を、配列ピッチPiおよび配列ピッチPrの合計値で除算した値(g2/(Pi+Pr))は0.47である。
【0078】
次に、
図6および
図7に示す電極パラメータを有する弾性波フィルタの挿入損失について説明する。
【0079】
図8は、実施例、比較例1および2の弾性波フィルタの挿入損失を示す図である。
【0080】
実施例の弾性波フィルタ1は、
図6および
図7で示す電極パラメータを有するフィルタである。比較例1の弾性波フィルタ101は、ギャップ比GR(=G/(Pi+Pr))を0.53とし、その他の電極パラメータが実施例1と同じフィルタである。比較例1では、IDT-反射器ギャップG=2.483μm、配列ピッチPi=2.3047μm、配列ピッチPr=2.3803μmであり、IDTと反射器との境界領域におけるギャップ比GRは0.53となっている。比較例2の弾性波フィルタは、付加回路を有しないフィルタであり、フィルタ回路10のみで構成されている。実施例、比較例1および2の弾性波フィルタの通過帯域は、周波数703MHz-748MHzである。
【0081】
図8に示すように、通過帯域よりも高域側の減衰帯域である760MHz-800MHzにおいて、比較例2では減衰量が不十分となっているのに対し、実施例および比較例1では減衰量が大きくなっている。すなわち、付加回路を有する弾性波フィルタは、付加回路を有しない弾性波フィルタに比べて、減衰帯域である760MHz-800MHzにおいて減衰量を確保できている。なお、実施例では、760MHz-800MHzにおいて、比較例1よりも減衰量を確保できている。
【0082】
また
図8に示すように、比較例1では、760MHz-800MHzよりも高い周波数である818MHz付近において、反射器による強い跳ね返り等を起因とする意図しない励振波が発生し、減衰特性が劣化している。それに対し実施例では、760MHz-800MHzよりも高い周波数である810MHz付近において、比較例1よりも励振波のピーク値が小さくなっており、励振波を抑制できている。実施例のように、付加回路におけるギャップ比GRを0.73とすることで、比較例のようにギャップ比GRを0.53とする場合に比べて、通過帯域外における減衰特性が劣化することを抑制できる。
【0083】
図9は、IDT-反射器ギャップGと励振波のピーク値との関係を示す図である。
【0084】
同図の横軸には、IDT-反射器ギャップGを無次元化したギャップ比GR(=G/(Pi+Pr))が示されている。横軸のギャップ比GRは、Pi+Prを固定した状態でIDT-反射器ギャップGを変えたときの値である。同図の縦軸には、通過帯域よりも高い周波数に発生する励振波のピーク値が示されている。水平方向に延びる破線は、
図8に示す比較例1の励振波のピーク値(22.3dB)である。
【0085】
図9に示すように、ギャップ比GR(=G/(Pi+Pr))を0.60以上0.93以下とすることで、励振波のピーク値を比較例1よりも小さくすることができる。このギャップ比GRの範囲によれば、IDT31、32による弾性波の位相と反射器41、42による弾性波の位相とを異ならせることができ、付加回路20の音響結合型共振器25が必要以上に励振することを抑制できる。これにより、弾性波フィルタ1の通過帯域外において減衰特性が劣化することを抑制できる。また、ギャップ比GRを0.63以上0.83以下とすることで、励振波のピーク値をさらに小さくすることが可能である。
【0086】
なお上記では、ギャップ比GR(=G/(Pi+Pr))を0.60以上0.93以下とする例について述べたが、ギャップ比GRの範囲はこれに限られない。
【0087】
図10は、弾性波フィルタ1に含まれる付加回路20の他の例を示す図である。
【0088】
同図には、
図1の付加回路20に対し、IDT-反射器ギャップGを1波長(IDTの波長と反射器の波長との平均=Pi+Pr)ぶん広げた例が示されている。この場合も実施例と同様に、IDT31、32による弾性波の位相と反射器41、42による弾性波の位相とを異ならせることができる。なお、音響波は周期性があるので、IDT-反射器ギャップGを広げるのは、1波長に限られず2波長以上であってもよい。つまり、弾性波フィルタ1の付加回路20では、
0.60+n≦G/(Pi+Pr)≦0.93+n、ただしnは0以上の整数、
で示される関係を有していてもよい。この構成においても実施例と同様の効果が得られる。
【0089】
(まとめ)
本実施の形態に係る弾性波フィルタ1およびマルチプレクサ5は、以下に示す態様をとり得る。
【0090】
[態様1]
本実施の形態に係る弾性波フィルタ1は、入力端子T1および出力端子T2と、入力端子T1と出力端子T2とを結ぶ第1経路r1に設けられたフィルタ回路10と、第1経路r1の少なくとも一部と並列接続される第2経路r2に設けられた付加回路20と、を備える。付加回路20は、複数のIDT31、32および複数の反射器41、42を含む音響結合型共振器25によって構成される。複数のIDT31、32は、圧電性基板100上に設けられた一対の櫛歯状電極を有する。櫛歯状電極のそれぞれは、圧電性基板100の主面に平行な第1の方向d1に延び、第1の方向d1に交差する第2の方向d2に沿って配列された複数の櫛歯電極指35a、35bを有する。複数のIDT31、32は、第2の方向d2に沿って配置される。複数の反射器41、42は、第2の方向d2において複数のIDT31、32の両外側に配置され、第1の方向d1に延び、第2の方向d2に沿って配列された複数の反射電極指45を有する。第2の方向d2に沿って配列された櫛歯電極指35a、35bの配列ピッチをPiとし、第2の方向d2に沿って配列された反射電極指45の配列ピッチをPrとし、IDT31、32と反射器41、42との境界領域において、複数の櫛歯電極指35a、35bのうち反射器41、42に最近接する櫛歯電極指(例えば35a)と複数の反射電極指45のうちIDT31、32に最近接する反射電極指45との中心間距離であるIDT-反射器ギャップをGとした場合に、
0.60+n≦G/(Pi+Pr)≦0.93+n、ただしnは0以上の整数、
で示される関係を有する。
【0091】
この構成によれば、IDT31、32による弾性波の位相と反射器41、42による弾性波の位相とを適切に異ならせることができ、付加回路20の音響結合型共振器25が必要以上に励振することを抑制できる。これにより、弾性波フィルタ1の通過帯域外において減衰特性が劣化することを抑制できる。
【0092】
[態様2]
態様1に記載の弾性波フィルタ1において、櫛歯電極指35a、35bの配列ピッチおよび反射電極指45の配列ピッチは、第2の方向d2において不連続に変化していてもよい。
【0093】
このように、配列ピッチおよび配列ピッチを不連続に変化させることで、付加回路20の共振Qを下げることができる。そのため、付加回路20が必要以上に励振することを抑制できる。これにより、弾性波フィルタ1の通過帯域外において減衰特性が劣化することを抑制できる。
【0094】
[態様3]
態様1または2に記載の弾性波フィルタ1において、複数のIDT31、32のそれぞれは、櫛歯電極指35a、35bの配列ピッチが異なる複数の電極指群37、38を有していてもよい。
【0095】
このように、複数のIDT31、32のそれぞれの配列ピッチを異ならせることで、付加回路20の共振Qを下げることができる。そのため、付加回路20が必要以上に励振することを抑制できる。これにより、弾性波フィルタ1の通過帯域外において減衰特性が劣化することを抑制できる。
【0096】
[態様4]
態様1~3のいずれか1つに記載の弾性波フィルタ1において、付加回路20とフィルタ回路10との間に、リアクタンス素子C2が設けられていてもよい。
【0097】
この構成によれば、IDT31、32に入る瞬時電力を低下させることができる。これにより、弾性波フィルタ1の寿命が短くなることを抑制できる。
【0098】
[態様5]
態様1~4のいずれか1つに記載の弾性波フィルタ1において、複数のIDT31、32のうちの1つのIDT31が、一方の第2経路r2に接続され、1つのIDT31と異なるIDT32が、他方の第2経路r2に接続されてもよい。
【0099】
この構成によれば、IDT31、32による弾性波の位相と反射器41、42による弾性波の位相とを適切に異ならせることができ、付加回路20の音響結合型共振器25が必要以上に励振することを抑制できる。これにより、弾性波フィルタ1の通過帯域外において減衰特性が劣化することを抑制できる。
【0100】
[態様6]
本実施の形態に係るマルチプレクサ5は、態様1~5のいずれか1つに記載の弾性波フィルタ1と、弾性波フィルタ1の通過帯域と異なる通過帯域を有する他のフィルタ回路90と、を備える。
【0101】
これによれば、自帯域と異なる相手帯域において減衰特性が劣化することを抑制できる弾性波フィルタ1を備えたマルチプレクサを提供することができる。
【0102】
(その他の実施の形態)
以上、本発明の実施の形態に係る弾性波フィルタ等について、実施の形態を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施の形態や、上記実施の形態に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例や、本発明に係る弾性波フィルタまたはマルチプレクサを含む高周波フロントエンド回路および通信装置も本発明に含まれる。
【0103】
上記では、複数のIDT31、32が2つのIDTによって構成されている例を示したが、それに限られず、複数のIDTは、3以上のIDTによって構成されていてもよい。
【0104】
上記の音響結合型共振器25では、第2の方向d2に沿ってIDT31、32が順に配置されている例を示したが、それに限られない。例えば、第2の方向d2に沿ってIDT32、31が順に配置されていてもよい。
【0105】
上記の音響結合型共振器25では、第2の方向d2に沿って、IDT31の第1電極指群37、第2電極指群38、および、IDT32の第2電極指群38、第1電極指群37が順に並んでいる例を示したが、それに限られない。例えば、第2の方向d2におけるIDT31の第1電極指群37、第2電極指群38の配置順、および、IDT32の第2電極指群38、第1電極指群37の配置順は、逆であってもよい。
【0106】
上記の
図6、7では、IDT31、32および反射器41、42のデューティが同じである例を示したが、それに限られない。例えば、反射器41、IDT31、IDT32および反射器42のデューティ分布は、第2の方向d2に向かって不規則に増減するように、不連続に変化する分布であってもよい。
【0107】
上記では、弾性波フィルタ1の通過帯域が、第2のフィルタ回路90の通過帯域よりも低くなるように設定されている例を示したが、それに限られず、弾性波フィルタ1の通過帯域は、第2のフィルタ回路90の通過帯域よりも高くなるように設定されていてもよい。この構成によれば、通過帯域よりも低域側において減衰特性が劣化することを抑制できる弾性波フィルタを提供することができる。
【0108】
上記では、弾性波フィルタ1が送信フィルタである例を示したが、それに限られず、弾性波フィルタ1は受信フィルタであってもよい。また、マルチプレクサ5は、送信フィルタおよび受信フィルタの双方を備える構成に限られず、複数の送信フィルタのみ、または、複数の受信フィルタのみを備える構成であってもよい。
【0109】
また、上記では、2つのフィルタを含むマルチプレクサを例に説明したが、本発明は、例えば、3つのフィルタのアンテナ端子が共通化されたトリプレクサや、6つのフィルタのアンテナ端子が共通化されたヘキサプレクサについても適用することができる。つまり、マルチプレクサは、2以上のフィルタを備えていればよい。
【0110】
また、第2のフィルタ回路90は、前述したフィルタの構成に限定されず、要求されるフィルタ特性等に応じて適宜設計され得る。具体的には、第2のフィルタ回路90は、縦結合型のフィルタ構造であってもよいし、ラダー型のフィルタ構造であってもよい。また、第2のフィルタ回路90を構成する各共振子は、SAW共振子に限らず、例えば、BAW(Bulk Acoustic Wave)共振子であってもよい。さらには、第2のフィルタ回路90は、共振子を用いずに構成されていてもよく、例えば、LC共振フィルタあるいは誘電体フィルタであってもよい。
【0111】
また、IDTに含まれるIDT電極は、積層構造でなくてもよい。IDT電極は、例えば、Ti、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Pdなどの金属または合金から構成されてもよく、また、上記の金属または合金から構成される複数の積層体から構成されてもよい。
【0112】
また、実施の形態では、基板として圧電性を有する基板を示したが、当該基板は、圧電体層の単層からなる圧電基板であってもよい。この場合の圧電基板は、例えば、LiTaO3の圧電単結晶、または、LiNbO3などの他の圧電単結晶で構成される。また、IDT電極が形成される基板は、圧電性を有する限り、全体が圧電体層からなるものの他、支持基板上に圧電体層が積層されている構造を用いてもよい。また、上記実施の形態に係る基板のカット角は限定されない。つまり、弾性波フィルタの要求通過特性などに応じて、適宜、積層構造、材料、および厚みを変更してもよく、上記実施の形態に示すカット角以外のカット角を有するLiTaO3圧電基板またはLiNbO3圧電基板などを用いた弾性表面波フィルタであっても、同様の効果を奏することが可能となる。
【0113】
低音速膜の材料は上記に限定されず、例えば、ガラス、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化リチウム、酸化タンタル、もしくは酸化ケイ素にフッ素、炭素やホウ素を加えた化合物などの誘電体、または上記材料を主成分とする材料を用いることもできる。
【0114】
高音速膜の材料は上記に限定されず、例えば、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、サファイア、マグネシア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、スピネル、サイアロンなどのセラミック、酸化アルミニウム、酸窒化ケイ素、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、ダイヤモンドなどの誘電体、もしくはシリコンなどの半導体、または上記材料を主成分とする材料を用いることもできる。
【0115】
なお、上記スピネルには、Mg、Fe、Zn、Mnなどから選ばれる1以上の元素と酸素とを含有するアルミニウム化合物が含まれる。上記スピネルの例としては、MgAl2O4、FeAl2O4、ZnAl2O4、MnAl2O4を挙げることができる。
【0116】
支持基板の材料としては、例えば、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、サファイア、マグネシア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライトなどのセラミック、ダイヤモンド、ガラスなどの誘電体、シリコン、窒化ガリウムなどの半導体、もしくは樹脂、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。
【0117】
本明細書において主成分とは、占める割合が50重量%を超える成分をいう。
【0118】
伝搬する弾性表面波に大きな影響が無い範囲内において、各層の間に任意の材料の膜が存在してもよい。例えば、圧電膜と低音速膜の間に表面波の波長に比べて十分薄い新たな高音速膜を形成してもよい。この新たな高音速膜も、前述の高音速膜と同じ材料を用いることができる。
【0119】
また、本実施の形態に係る弾性波フィルタ1の複数の反射器41、42の反射電極指45の本数の割合は、複数のIDT31、32の櫛歯電極指35a、35bの本数および複数の反射器41、42の反射電極指45の本数を合計した総本数の11%以下であってもよい。
【0120】
このように、付加回路20における反射電極指45の本数の割合を櫛歯電極指35a、35bおよび反射電極指45の総本数の11%以下とすることで、付加回路20の共振Qが必要以上に高くなることを抑制できる。これにより、弾性波フィルタ1の周波数通過帯域外に不要波が発生することを抑止し、周波数通過帯域外における減衰量を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、弾性波フィルタを有するマルチプレクサ、フロントエンド回路および通信装置として、携帯電話などの通信機器に広く利用できる。
【符号の説明】
【0122】
1 弾性波フィルタ
5 マルチプレクサ
10 第1のフィルタ回路(フィルタ回路)
20 付加回路
25 音響結合型共振器
31、32 IDT
31a、32a 第1の櫛歯状電極
31b、32b 第2の櫛歯状電極
35a、35b 櫛歯電極指
36a、36b バスバー電極
37 第1電極指群
38 第2電極指群
41、42 反射器
45 反射電極指
46 反射バスバー
90 第2のフィルタ回路
C2 リアクタンス素子
d1 第1の方向
d2 第2の方向
G IDT-反射器ギャップ
L1、L2 インダクタ
n0、n1、n2、n3、n4 ノード
P1、P2、P3、P21、P22 並列腕共振子
Pi、Pr 配列ピッチ
Q21 弾性波共振器
r1 第1経路
r2 第2経路
r3 第3経路
S1、S2、S3、S4、S21、S22 直列腕共振子
T1 入力端子
T2、T3 出力端子