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特開2023-180120ビールテイスト発酵アルコール飲料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180120
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】ビールテイスト発酵アルコール飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 11/00 20060101AFI20231213BHJP
   C12C 5/02 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C12C11/00 A
C12C5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093245
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】青野 一志
(72)【発明者】
【氏名】小室 麻里菜
【テーマコード(参考)】
4B128
【Fターム(参考)】
4B128CP16
4B128CP32
4B128CP33
4B128CP38
4B128CP39
(57)【要約】      (修正有)
【課題】コク感に優れ、しかも重い後味が抑制され、すっきりとした味覚、及びビールらしいキレ感に優れた、糖質及びプリン体の含有量が低いビールテイスト発酵アルコール飲料を提供すること。
【解決手段】発酵原料として大豆タンパク分解物及びアラニンを含有し、2g/100ml以下の糖質濃度、2mg/100ml以下のプリン体濃度、及び1~40mg/100mlのアラニン濃度を有する、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵原料として大豆タンパク分解物及びアラニンを含有し、糖質濃度が2g/100ml以下、プリン体濃度が2mg/100ml以下、及びアラニン濃度が1~40mg/100mlである、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
発酵原料としてプロリンを含有し、プロリン濃度が1~15mg/100mlである、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
アラニン濃度とプロリン濃度との比率が0.05~30である、請求項2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項4】
前記発酵原料は煮沸処理前又は煮沸処理中のものである、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項5】
糖質濃度が0.5g/100ml未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項6】
プリン体濃度が0.5mg/100ml未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項7】
麦から得られた成分又は麦芽から得られた成分を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項8】
高甘味度甘味料を含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項9】
アルコール濃度が3v/v%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項10】
発酵原料として大豆タンパク分解物及びアラニンを含有させることを含む、糖質濃度が2g/100ml以下、プリン体濃度が2mg/100ml以下、及びアラニン濃度が1~40mg/100mlである、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項11】
発酵原料としてプロリンを含有させることを更に含み、プロリン濃度が1~15mg/100mlである、請求項10に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項12】
アラニン濃度とプロリン濃度との比率が0.50~30である、請求項11に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項13】
前記発酵原料は煮沸処理前又は煮沸処理中のものである、請求項10~12のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビールテイスト発酵アルコール飲料に関し、特に、糖質又はプリン体の含有量が低いビールテイスト発酵アルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
「発酵アルコール飲料」とは、糖溶液等を原料として、これらを発酵させて得られるアルコール飲料をいう。「アルコール飲料」とは、エチルアルコールを実質的な量で含有する飲料をいう。日本の酒税法では、体積アルコール度数1%以上の飲料を酒類としている。この酒類はアルコール飲料の一例である。一般に、「ビール」は、糖溶液である麦汁を発酵させ、ホップ等で香気を付与した発酵アルコール飲料である。本明細書において、文言「ビールテイスト」とは、味及び香りがビールを想記させる程度に同様であることをいう。また、文言「アルコール」はエチルアルコールを意味する。
【0003】
発酵アルコール飲料の具体例には、前記のビール、米やコーンスターチ等の麦芽以外のデンプン原料の使用量を増大させた発泡酒、及び麦芽以外のデンプン原料のみを使用するビール様発泡性アルコール飲料等がある。発酵アルコール飲料の中でも、原料として麦芽を使用するものを発酵麦芽飲料という。
【0004】
近年の消費者の健康志向から、糖質又はプリン体の含有量が低いビールテイスト発酵アルコール飲料に対する需要が高まっている。しかし、糖質又はプリン体はコク感を生じさせる栄養成分の一つである。糖質又はプリン体の量が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料は、コク感、複雑味又は味の厚みを生じさせる栄養成分が少なくなっている。そのため、低糖質又は低プリン体のビールテイスト発酵アルコール飲料には、ビールに比べてコク感等の香味の品質等が不十分になるという問題がある。
【0005】
特許文献1には、ビールらしい飲み応えとビールらしいキレ感を備えた、プリン体ゼロ、糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料とその製造方法が記載されている。特許文献1のビールテイスト発酵アルコール飲料は、炭素源、窒素源及び水溶性食物繊維を含む発酵前液を発酵させて得られるものである。
【0006】
プリン体ゼロ、糖質ゼロのビールテイスト発酵アルコール飲料は、ビールであれば本来有している栄養成分が少ないため、コク感が不足している。水溶性食物繊維は呈味性に乏しい素材であり、発酵前液に含有させたとしても、各種栄養成分に相当する香味を増大させることができない。それゆえ、特許文献1のビールテイスト発酵アルコール飲料は依然としてコク感等が不足しているものである。
【0007】
特許文献2には、ビールや雑酒のような発酵アルコール飲料の製造方法において、原料の一部に小麦グルテンや大豆タンパクのようなビール酵母高資化性アミノ酸高含有蛋白原料の分解物又はその調製物を用いることにより、ビール酵母による発酵を促進して、味覚・風味を増進させ、異臭や未熟臭のない、すっきりとした味覚であり、しかもボディ感のある発酵アルコール飲料を製造することが記載されている(要約)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-116454号公報
【特許文献2】特開2006-158268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
糖質又はプリン体の含有量が低いビールテイスト発酵アルコール飲料を製造する際に、原料の一部に大豆タンパク分解物用いた場合、重い後味が持続し、すっきりとした味覚及びビールらしいキレ感が低下するという問題がある。
【0010】
本発明は上記問題を解決するものであり、その目的とするところは、コク感に優れ、しかも重い後味が抑制され、すっきりとした味覚、及びビールらしいキレ感に優れた、糖質及びプリン体の含有量が低いビールテイスト発酵アルコール飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態は以下の通りである。
【0012】
[1]
発酵原料として大豆タンパク分解物及びアラニンを含有し、糖質濃度が2g/100ml以下、プリン体濃度が2mg/100ml以下、及びアラニン濃度が1~40mg/100mlである、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【0013】
[2]
発酵原料としてプロリンを含有し、プロリン濃度が1~15mg/100mlである、前記[1]のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【0014】
[3]
アラニン濃度とプロリン濃度との比率が0.05~30である、前記[1]又は[2]のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【0015】
[4]
前記発酵原料は煮沸処理前又は煮沸処理中のものである、前記[1]~[3]のいずれかのビールテイスト発酵アルコール飲料。
【0016】
[5]
糖質濃度が0.5g/100ml未満である、前記[1]~[4]のいずれかのビールテイスト発酵アルコール飲料。
【0017】
[6]
プリン体濃度が0.5mg/100ml未満である、前記[1]~[5]のいずれかのビールテイスト発酵アルコール飲料。
【0018】
[7]
麦から得られた成分又は麦芽から得られた成分を含む、前記[1]~[6]のいずれかのビールテイスト発酵アルコール飲料。
【0019】
[8]
高甘味度甘味料を含まない、前記[1]~[7]のいずれかのビールテイスト発酵アルコール飲料。
【0020】
[9]
アルコール濃度が3v/v%以上である、前記[1]~[8]のいずれかのビールテイスト発酵アルコール飲料。
【0021】
[10]
発酵原料として大豆タンパク分解物及びアラニンを含有させることを含む、糖質濃度が2g/100ml以下、プリン体濃度が2mg/100ml以下、及びアラニン濃度が1~40mg/100mlである、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【0022】
[11]
発酵原料としてプロリンを含有させることを更に含み、プロリン濃度が1~15mg/100mlである、前記[10]のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【0023】
[12]
アラニン濃度とプロリン濃度との比率が0.50~30である、前記[10]又は[11]のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【0024】
[13]
前記発酵原料は煮沸処理前又は煮沸処理中のものである、前記[10]~[12]のいずれかのビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、コク感に優れ、しかも重い後味が抑制され、すっきりとした味覚、及びビールらしいキレ感に優れた、糖質及びプリン体の含有量が低いビールテイスト発酵アルコール飲料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<ビールテイスト発酵アルコール飲料の基本特性>
ビールテイスト発酵アルコール飲料とは、発酵過程を経て製造された、実質的にアルコールを含有するビールテイスト飲料をいう。ビールテイスト発酵アルコール飲料は、好ましくは、アルコール濃度が3v/v%以上、好ましくは3~9v/v%、より好ましくは5~8v/v%である。かかる濃度範囲にてアルコールを含有することで、アルコールの甘味は感じられるが、アルコール刺激は抑制されて、ビールテイスト発酵アルコール飲料のコク感が向上し易くなる。
【0027】
ビールテイスト発酵アルコール飲料のアルコール濃度は、従来から知られている方法により調節することができる。ビールテイスト発酵アルコール飲料のアルコール濃度は、例えば、デンプン原料や糖原料を発酵させてビールテイスト発酵アルコール飲料を製造する場合に、デンプン原料や糖原料の使用量を増減させる等、醸造条件を工夫することで調節してよい。ビールテイスト発酵アルコール飲料のアルコール濃度は、ビールテイスト発酵アルコール飲料にアルコール類、飲用水又は炭酸水を添加することで調節してもよい。
【0028】
ビールテイスト発酵アルコール飲料に添加するアルコール類としては、アルコールを含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウイスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒であってもよい。本発明に用いられるアルコール類としては、ビールテイスト発酵アルコール飲料の呈味性に対してあまり影響を与えることなくアルコール濃度を高められることから、原料用アルコールや、ウオッカ等の特徴的な香味が少ない蒸留酒が好ましく、原料用アルコールがより好ましい。
【0029】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、糖質濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料である。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の糖質濃度は、2.0g/100ml以下である。糖質濃度が2.0g/100mlを超えると低糖質とはいえず、消費者の需要に応えられなくなる。
【0030】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の糖質濃度は、好ましくは1.0g/100ml以下、より好ましくは0.5g/100ml以下である。ビールテイスト発酵アルコール飲料の糖質濃度は、従来から知られている方法により調節することができる。
【0031】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、プリン体濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料である。本明細書でいうプリン体とは、ビールを過塩素酸を使用して加水分解することで得られるプリン塩基、即ち、アデニン、グアニン、キサンチン及びヒポキサンチンをいう。本願明細書でいうプリン体濃度とは、前記プリン塩基の合計濃度をいう。
【0032】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料のプリン体濃度は2.0mg/100ml以下である。プリン体濃度が2.0mg/100mlを超えると低プリン体とはいえず、消費者の需要に応えられなくなる。
【0033】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料のプリン体濃度は、好ましくは1.0mg/100ml以下、より好ましくは濃度0.5mg/100ml以下である。ビールテイスト発酵アルコール飲料のプリン体濃度は、従来から知られている方法により調節することができる。
【0034】
<ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法>
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、発酵原料を液化して発酵原料液を調製する仕込み工程、発酵原料液を酵母によりアルコール発酵させる発酵工程、貯酒工程及び濾過工程を経て製造される。
【0035】
発酵原料とは酵母を使用して発酵させるビール様飲料の原料をいう。発酵原料には、麦芽、大麦、小麦及び副原料が含まれる。該副原料としては、例えば、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等のデンプン原料、及び液糖や砂糖等の糖原料が挙げられる。液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれる。
【0036】
<仕込み工程>
仕込み工程においては、発酵原料と原料水とを含む混合物を調製し、調製された混合物を加温して澱粉質を糖化して糖液を調製する糖化処理と、得られた糖液を煮沸する煮沸処理と、煮沸処理で得た煮汁から不溶物を除去する清澄化処理とを行う。
【0037】
(糖化処理)
穀物原料と糖質原料の少なくともいずれかと原料水とを含む混合物を調製して加温し、穀物原料等の澱粉質を糖化させて、糖液を得る。糖液の原料としては、穀物原料のみを用いてもよく、糖質原料のみを用いてもよく、両者を混合して用いてもよい。穀物原料としては、例えば、大麦や小麦、これらの麦芽等の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられる。穀物原料は、穀物シロップ、穀物エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる穀物粉砕物として用いることが好ましい。穀物類の粉砕処理は、常法により行うことができる。
【0038】
穀物粉砕物としては、麦芽粉砕物、コーンスターチ、コーングリッツ等のように、粉砕処理の前後において通常なされる処理を施したものであってもよい。用いられる穀物粉砕物は、麦芽粉砕物であることが好ましい。麦芽粉砕物を用いることにより、ビールらしさがよりはっきりとした発酵アルコール飲料を製造することができる。麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであればよい。また、本発明において用いられる穀物原料としては、1種類の穀物原料であってもよく、複数種類の穀物原料を混合したものであってもよい。例えば、主原料として麦芽粉砕物を、副原料として米やトウモロコシの粉砕物を用いてもよい。糖質原料としては、例えば、液糖等の糖類が挙げられる。
【0039】
発酵原料には、穀物原料等と水以外の副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、ホップ、水溶性食物繊維、酵母エキス、果汁、苦味料、着色料、香草、香料等が挙げられる。また、必要に応じて、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。
【0040】
水溶性食物繊維とは、食物繊維のうち水溶性のものを意味し、ヒトの消化酵素によって加水分解されない難消化性の多糖類等をいう。水溶性食物繊維としては、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、分岐マルトデキストリン、イヌリン、グアーガム分解物などが挙げられ、好ましくは難消化性デキストリン、ポリデキストロースおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
難消化性デキストリンとは、澱粉に微量の塩酸を加えて加熱し、酵素処理したもので、衛新第13号(「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」)に記載の食物繊維の分析方法である高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)で測定される難消化性成分を含むデキストリンをいい、水素添加により製造されるその還元物を含む意味で用いられる。
【0042】
発酵原料には、大豆タンパク分解物を加える。大豆は非常に優れた栄養的性質を有している。そのため、発酵原料として大豆タンパク分解物を使用することで、ビールテイスト発酵アルコール飲料に、コク感、複雑味又は味の厚みを付与することができる。
【0043】
大豆タンパク分解物を発酵原料に含有させて、その後酵母で発酵させることで、特有の臭気が抑制される。また、大豆タンパク分解物は、好ましくは、発酵原料の煮沸処理前または煮沸処理中に調節する。それにより、均一に混合でき、溶けやすく、同時に殺菌もできるという利益を得ることができる。
【0044】
大豆タンパク分解物は、一般に大豆ペプチドと言われるものであってよい。大豆ペプチドは、一般に、大豆タンパクを酵素分解及び精製して製造される。例えば、大豆タンパク分解物は、大豆を脱脂した脱脂大豆を水抽出して酸沈殿させ、生じた分離大豆タンパクカードを調製し、分解することにより得ることができる。該分解方法は大豆タンパク質を部分分解し得る方法であれば特に限定されるものではない。例えば、熱や圧力による分解、酸やアルカリによる分解、酵素による分解がある。簡便であり、かつ、工程制御しやすいため、酵素による分解が好ましい。
【0045】
大豆タンパク分解物は、好ましくは、10,000~50,000の重量平均分子量を有するものを使用する。重量平均分子量が10,000未満の大豆タンパク分解物を用いると、泡持ち効果が低く、かつ、エステル類が過度に合成されるため、官能上、好ましくない。一方、重量平均分子量50,000超の大豆タンパク分解物を用いると、液粘性が上がり、発酵後の濾過や出荷のための瓶詰工程が遅延するという製造上の問題が生ずる。特に、重量平均分子量が13,000~43,000の大豆タンパク分解物が好ましく、重量平均分子量が15,000~35,000の大豆タンパク分解物がより好ましい。泡持ちが顕著に改善され、かつ、香味成分の過剰な合成が抑制されることにより嗜好性が向上するためである。
【0046】
大豆タンパク分解物の使用量は、製品に要求されるコク感、複雑味又は味の厚みの程度に応じて調節されるが、例えば、ビールテイスト発酵アルコール飲料中の濃度として、0.5~10g/L、好ましくは2~8g/L、より好ましくは3.5~6.5g/Lである。尚、ここでいう製品とは、低糖質又は低プリン体のビールテイスト発酵アルコール飲料である。
【0047】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、アラニン及びプロリンを所定の濃度範囲で含んでいる。アラニンは、主として、麦類、豆類、トウモロコシ、馬鈴薯、米等に含まれるアミノ酸である。プロリンは、主として、麦類、豆類、トウモロコシ、馬鈴薯、米等に含まれるアミノ酸である。
【0048】
アラニンは旨味調味料として使用され、甘味及び渋味を呈する。飲料の味覚について、飲用してから発現するまでの時間が短い順に、先味、中味及び後味に区分した場合、アラニンの甘味及び渋味は中味乃至後味として発現し、味の強さは速やかにピークを打ち速やかに低減する。かかるアラニンの呈味挙動により、大豆タンパク分解物に由来する重い後味の持続が遮断され、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料にはビールらしいキレ感が付与される。
【0049】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、好ましくは、アラニン濃度とプロリン濃度との比率が所定の範囲内にある。プロリンは煮沸処理等によって加熱された場合にメイラード反応を起こす。それゆえ、発酵原料中のプロリン濃度が高くなると、ビールらしい香味が低下するおそれがある。
【0050】
ビールテイスト発酵アルコール飲料のアラニン濃度およびプロリン濃度は、例えば、前記混合物にアラニン又はプロリンを添加することにより、又は、アラニン又はプロリンを含む発酵原料を増減することにより、調節することができる。
【0051】
アラニン又はプロリンを発酵原料に含有させて、その後酵母で発酵させる。また、アラニン濃度又はプロリン濃度は、好ましくは、発酵原料の煮沸処理前または煮沸処理中に調節する。それにより、均一に混合でき、溶けやすく、同時に殺菌もできるという利益を得ることができる。アラニンは、煮沸処理終了後に添加してもよい。好ましくはワールプールで添加する。これにより、メイラード反応を抑えることができる。
【0052】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれるアラニンおよびプロリンとしては、L体、D体、それらのラセミ体、それらの量比が可変の混合物のいずれであってもよいが、好ましくはL体とされる。
【0053】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造においてアラニンまたはプロリンを添加する場合には、これらは食品製造に適しているものであればよい。その形態も、水性溶媒に容易に溶解するものであればよく、液状、粉末状、固形状などのいかなる形態のものであってもよい。
【0054】
(煮沸処理)
糖化処理後に得られた糖溶液を煮沸することにより、煮汁(糖溶液の煮沸物)を調製することができる。糖溶液は、煮沸処理前に濾過し、得られた濾液を煮沸処理することが好ましい。また、この糖溶液の濾液の替わりに、麦芽エキスに温水を加えたものを用い、これを煮沸してもよい。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。
【0055】
煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵アルコール飲料を製造することができる。特にホップは、煮沸処理前又は煮沸処理中に添加することが好ましい。ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気成分を効率よく煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。
【0056】
(清澄化処理)
煮沸後の煮汁は、沈殿により生じたタンパク質等の不溶物を除去することが好ましい。不溶物の除去は、いずれの固液分離手段を使用して行ってもよいが、一般的には、ワールプールと呼ばれる槽を用いて沈殿物を除去する。この際の煮汁の温度は、15℃以上であればよく、一般的には50~80℃程度で行われる。不溶物を除去した後の煮汁(濾液)は、プレートクーラー等により適切な発酵温度まで冷却する。この不溶物を除去した後の煮汁が、発酵原料液となる。
【0057】
<発酵工程>
発酵原料液は、発酵に供する。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0058】
<貯酒工程及び濾過工程>
次いで、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去して、ビールテイスト発酵アルコール飲料を得ることができる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が0.4~0.5μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。得られたビールテイスト発酵アルコール飲料は、通常、充填工程により容器詰めされて、製品として出荷される。
【0059】
その他、酵母による発酵工程以降の工程において、例えば、加水してアルコール濃度が調整されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。また、例えば、アルコール含有蒸留液又はアルコールと混和することにより、酒税法におけるリキュール類に相当するビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。アルコール含有蒸留液等の添加は、アルコール濃度の調整のための加水前であってもよく、加水後であってもよい。添加するアルコール含有蒸留液等は、より好ましい麦感を有するビールテイスト発酵アルコール飲料を製造し得ることから、麦スピリッツが好ましい。
【0060】
尚、本発明の発酵麦芽飲料には、アルコール含有蒸留液又はアルコールを添加しなくてもよい。その場合は、発酵麦芽飲料は、発酵過程で生成したアルコールのみを含むことになる。
【0061】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料におけるアラニン濃度は、0.5~49mg/100ml、好ましくは1~40mg/100ml、より好ましくは2~35mg/100mlとされる。前記アラニン濃度が0.5mg/100ml未満であると、大豆タンパク分解物に由来する重い後味が持続し、ビールらしいキレ感が不十分になる。前記アラニン濃度が49mg/100mlを超えると、アラニンの味覚が目立ち、ビールらしい香味が低下する。
【0062】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料におけるアラニン濃度とプロリン濃度との比率(即ち、アラニン/プロリン重量比)は、0.05~30、好ましくは0.1~19、より好ましくは0.8~14とされる。前記比率が0.05未満であると、プロリンのメイラード反応物の香味が目立ち、ビールらしい香味が低下する。前記比率が30を超えても不利益はないが、アラニンの味覚が目立ちすぎると、ビールらしい香味が低下する。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料におけるプロリン濃度は、好ましくは1~15mg/100ml、より好ましくは1~4mg/100mlとされる。
【0063】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料中のアラニン濃度およびプロリン濃度は、陽イオン交換樹脂でアミノ酸を分離した後、ニンヒドリン反応液を加えて135℃で反応させ、UV-VIS検出器で定量することができる。
【実施例0064】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0065】
<実施例>
【0066】
(発酵麦芽飲料の製造)
麦芽エキスに活性炭を添加し、室温で1時間撹拌した後に、活性炭を除去した。活性炭処理麦芽エキスのプリン体濃度は10mg/100mlであった。煮沸釜に、活性炭処理麦芽エキス、温水、ショ糖、ホップ、水溶性食物繊維(ロケットジャパン社製)、大豆ペプチド(不二製油株式会社製)及びL-アラニン(味の素ヘルシーサプライ株式会社製)を添加し、得られた麦汁を60分間煮沸した。なお、麦芽エキスは麦芽使用比率が10%となる量で添加した。大豆ペプチド、アラニンの添加量は、各試験区について、発酵麦芽飲料中の濃度が表1に示す値になるように調節した。煮沸後、蒸発分の温水を追加し、ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて8℃まで冷却し、冷麦汁煮沸液を得た。
【0067】
この冷麦汁煮沸液を発酵タンクへ移送する途中で、ビール酵母を添加した。その後、7日間10℃前後で発酵させた後、ビール酵母を除去した。タンクを移し替えて発酵液を7日間10℃前後で熟成させた後、-1℃まで冷却し安定化させた。その後、脱気水を加えてアルコール濃度を3.5v/v%に調節し、珪藻土を用いて濾過し、発酵麦芽飲料を製造した。
【0068】
製造した発酵麦芽飲料は、アラニンの添加量に応じて5種類である。アラニンを添加しなかった対照試料を試験区5とし、添加量が多いものから順に、試験区1~4とした。試験区1~5の試料について成分分析及び官能試験を行った。結果を表1に示す。
【0069】
<プリン体濃度の測定>
得られた発酵麦芽飲料のプリン体濃度を測定した。発酵麦芽飲料のプリン体濃度は、過塩素酸処理後、LC-UVを用いた藤森らの方法(藤森ら:「尿酸」、1985年、第9巻、第2号、第128ページ。)に準じて、下記の条件で定量した。定量の結果を表1に示す。検出されたプロリンは発酵原料に由来するものである。
【0070】
カラム:Shodex Asahipak GS-320 HQ(7.5mm I.D.×300mm)
溶出液:50mM KHPO(pH 2.5)
溶出速度:0.8mL/min
検出器:UV(260nm)
カラム温度:35℃
【0071】
<糖質濃度の測定>
得られた発酵麦芽飲料の糖質濃度を測定した。発酵麦芽飲料の糖質濃度は、平成27年3月30日消食表第139号通達に記載の方法に準じて、下記の条件で定量した。定量の結果を表1に示す。
【0072】
<アラニン濃度の測定>
得られた発酵麦芽飲料のアラニン濃度を測定した。発酵麦芽飲料のアラニン濃度は、Waters社製AccQ・Tag Ultraメソッドを用いるプレカラム誘導体化法にてアミノ酸を誘導体化し、さらに逆相UPLCを使用して分離し、MSで検出した。検量線は、アミノ酸混合標準液H型(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて作成した。
【0073】
<官能評価>
発酵麦芽飲料を約4℃の液温に調温し、官能評価を行った。評価項目として、「後味の重さ」、「後キレ感の強さ」、「甘酸バランスの良さ」、「飲みごたえの強さ」、及び「ビールらしい香味」を設定し、訓練されたビール専門のパネリスト4名が、後述の基準に従って採点した。パネリスト全員の採点の平均値を各評価項目の評点とした。官能評価の結果を表1に示す。
【0074】
後味の重さ:
後味の重さは、試験区5を5点とし、アサヒビール株式会社製「アサヒスーパードライ」(商品名)を1点とし、5段階で採点した。評価点が3点以下の場合に良いと判断される。
【0075】
後キレ感の強さ:
後キレ感の強さは、アサヒビール株式会社製「アサヒスーパードライ」(商品名)を5点とし、試験区5を1点とし、5段階で採点した。評価点が4点以上の場合に良いと判断される。
【0076】
甘酸バランスの良さ:
甘酸バランスの良さは、アサヒビール株式会社製「アサヒスーパードライ」(商品名)を5点とし、試験区5を1点とし、5段階で採点した。評価点が3点以上の場合に良いと判断される。
【0077】
飲みごたえの強さ:
飲みごたえの強さは、アサヒビール株式会社製「アサヒスーパードライ」(商品名)を5点、炭酸水を1点とし、5段階で採点した。評価点が4点以上の場合に良いと判断される。
【0078】
ビールらしい香味:
ビールらしい香味は、アサヒビール株式会社製「アサヒスーパードライ」(商品名)を5点、炭酸水を1点とし、5段階で採点した。評価点が3点以上の場合に良いと判断される。
【0079】
【表1】