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特開2023-180147光学フィルム、光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物
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  • 特開-光学フィルム、光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180147
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】光学フィルム、光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20231213BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20231213BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20231213BHJP
   C08K 5/3477 20060101ALI20231213BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231213BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20231213BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231213BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C08L65/00
C08L45/00
C08K5/3492
C08K5/3477
C08J5/18 CER
G02B5/30
H05B33/14 A
H05B33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093290
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】島田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】津村 学
(72)【発明者】
【氏名】関口 泰広
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 暁彦
【テーマコード(参考)】
2H149
3K107
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AA18
2H149AB11
2H149AB15
2H149DA02
2H149DA12
2H149FA05Y
2H149FD21
2H149FD22
2H149FD25
2H149FD30
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC32
3K107CC45
3K107EE26
3K107FF05
3K107FF18
4F071AA39
4F071AA69
4F071AA81
4F071AA86
4F071AC03A
4F071AC19
4F071AE19A
4F071AF02
4F071AF05
4F071AF35
4F071AF45Y
4F071AF55
4F071AG34
4F071AH12
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4J002BK001
4J002CE001
4J002EU186
4J002EU197
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD040
4J002FD050
4J002FD060
4J002FD066
4J002FD067
4J002FD070
4J002FD100
4J002FD170
4J002FD206
4J002FD207
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】ガラス転移温度が所望の範囲に調整され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れる光学フィルム、該光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】シクロオレフィン樹脂(A)及びトリアジン誘導体(B)を含有する光学フィルムであって、
前記シクロオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が80,000以上であり、
前記トリアジン誘導体(B)は、トリアジンの3つの水素原子が、任意で置換基を有するフェニル基で置換された構造を有する化合物(B-I)、及び/又はイソシアヌル酸の3つの水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基で置換された構造を有する化合物(B-II)であり、
ガラス転移温度が154℃未満である、光学フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィン樹脂(A)及びトリアジン誘導体(B)を含有する光学フィルムであって、
前記シクロオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が80,000以上であり、
前記トリアジン誘導体(B)は、トリアジンの3つの水素原子が、任意で置換基を有するフェニル基で置換された構造を有する化合物(B-I)、及び/又はイソシアヌル酸の3つの水素原子が、ベンゼン環上に任意で置換基を有するベンジル基で置換された構造を有する化合物(B-II)であり、
ガラス転移温度が154℃未満である、光学フィルム。
【請求項2】
前記化合物(B-I)が、下記式(B-I)で表される化合物である、請求項1に記載の光学フィルム。
【化1】
(式(B-I)中、R~R14は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~20のアルキル基、又は炭素原子数1~20のアルコキシ基であり、R15は、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、又は-O-CHCH(OH)CH-O-Yで表される基であり、Yは、水素原子、又は炭素原子数1~20のアルキル基である。)
【請求項3】
前記化合物(B-II)が、下記式(B-II)で表される化合物である、請求項1に記載の光学フィルム。
【化2】
(式(B-II)中、Rb1~Rb15は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~20のアルキル基、又は炭素原子数1~20のアルコキシ基である。)
【請求項4】
前記トリアジン誘導体(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して3重量部超である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記化合物(B-I)が、(2-[4(2-ヒドロキシ-3-(2’-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンである、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記化合物(B-II)が、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオンである、請求項1又は3に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記光学フィルムの1%重量減少温度が300℃以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の光学フィルムにより形成される、位相差フィルム。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法であって、シクロオレフィン樹脂(A)、トリアジン誘導体(B)、及び溶媒(S)を含む樹脂組成物を支持体上に流延する工程、溶媒(S)を蒸発させる工程、及び形成された未延伸フィルムを剥離する工程を含み、
前記シクロオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が80,000以上であり、
前記トリアジン誘導体(B)は、トリアジンの3つの水素原子が、任意で置換基を有するフェニル基で置換された構造を有する化合物(B-I)、及び/又はイソシアヌル酸の3つの水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基で置換された構造を有する化合物(B-II)であり、
前記樹脂組成物中の前記トリアジン誘導体(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して3重量部超である、光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
シクロオレフィン樹脂(A)及びトリアジン誘導体(B)を含有する位相差フィルム用樹脂組成物であって、
前記シクロオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が80,000以上であり、
前記トリアジン誘導体(B)は、トリアジンの3つの水素原子が、任意で置換基を有するフェニル基で置換された構造を有する化合物(B-I)、及び/又はイソシアヌル酸の3つの水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基で置換された構造を有する化合物(B-II)であり、
ガラス転移温度が154℃未満である位相差フィルムを与える、位相差フィルム用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロオレフィン樹脂は、透明性、光学特性、機械的特性等に優れている。そのため、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、有機EL表示装置のような画像表示装置に組み込まれる光学フィルムへのシクロオレフィン樹脂の応用が進められている(例えば、特許文献1~3を参照。)。
【0003】
近年、画像表示装置の高性能化が進み、それに伴って、画像表示装置を構成する光学フィルムにおいても、各種の物性を向上させる要求が強くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/181756号
【特許文献2】国際公開第2016/163213号
【特許文献3】特開2016-074776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らの検討によれば、シクロオレフィン樹脂を含有する光学フィルムには、ソルベントクラック耐性が十分でないものがあり、この問題を解決するには高分子量のシクロオレフィン樹脂を用いることが有効であるとの知見を得た。しかしながら、高分子量のシクロオレフィン樹脂を用いた場合、強靭であるが故に成形性に乏しく、また、加工温度が高くなる傾向にあり、酸化劣化により着色や黄変しやすくなるという問題が新たに生じた。そこで、添加剤を配合することにより、ソルベントクラック耐性を維持しつつ、加工温度を下げ得ることが分かったが、添加剤の配合量が多くなると、ブリードアウトが生じやすくなり、加工温度が下がりすぎたり、また、重量減少温度が低下して、熱安定性が低下することも明らかとなった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、好適な温度で加工できるようにガラス転移温度が所望の範囲に調整され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れる光学フィルム、該光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、高分子量のシクロオレフィン樹脂を含有する光学フィルムにおいて、特定のトリアジン誘導体を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の態様は、高分子量のシクロオレフィン樹脂(A)と、トリアジン誘導体(B)を含有する以下の光学フィルム、光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物に関する。
【0009】
[1] シクロオレフィン樹脂(A)及びトリアジン誘導体(B)を含有する光学フィルムであって、
前記シクロオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が80,000以上であり、
前記トリアジン誘導体(B)は、トリアジンの3つの水素原子が、任意で置換基を有するフェニル基で置換された構造を有する化合物(B-I)、及び/又はイソシアヌル酸の3つの水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基で置換された構造を有する化合物(B-II)であり、
ガラス転移温度が154℃未満である、光学フィルム。
【0010】
[2] 前記化合物(B-I)が、下記式(B-I)で表される化合物である、[1]に記載の光学フィルム。
【化1】
(式(B-I)中、R~R14は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~20のアルキル基、又は炭素原子数1~20のアルコキシ基であり、R15は、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、又は-O-CHCH(OH)CH-O-Yで表される基であり、Yは、水素原子、又は炭素原子数1~20のアルキル基である。)
【0011】
[3] 前記化合物(B-II)が、下記式(B-II)で表される化合物である、[1]に記載の光学フィルム。
【化2】
(式(B-II)中、Rb1~Rb15は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~20のアルキル基、又は炭素原子数1~20のアルコキシ基である。)
【0012】
[4] 前記トリアジン誘導体(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して3重量部超である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の光学フィルム。
[5] 前記化合物(B-I)が、(2-[4(2-ヒドロキシ-3-(2’-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンである、[1]~[4]のいずれか1つに記載の光学フィルム。
[6] 前記化合物(B-II)が、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオンである、[1]~[5]のいずれか1つに記載の光学フィルム。
[7] 前記光学フィルムの1%重量減少温度が300℃以上である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の光学フィルム。
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載の光学フィルムにより形成される、位相差フィルム。
【0013】
[9] [1]~[7]のいずれか1つに記載の光学フィルムの製造方法であって、シクロオレフィン樹脂(A)、トリアジン誘導体(B)、及び溶媒(S)を含む樹脂組成物を支持体上に流延する工程、溶媒(S)を蒸発させる工程、及び形成された未延伸フィルムを剥離する工程を含み、
前記シクロオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が80,000以上であり、
前記トリアジン誘導体(B)は、トリアジンの3つの水素原子が、任意で置換基を有するフェニル基で置換された構造を有する化合物(B-I)、及び/又はイソシアヌル酸の3つの水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基で置換された構造を有する化合物(B-II)であり、
前記樹脂組成物中の前記トリアジン誘導体(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して3重量部超である、光学フィルムの製造方法。
【0014】
[10] シクロオレフィン樹脂(A)及びトリアジン誘導体(B)を含有する位相差フィルム用樹脂組成物であって、
前記シクロオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が80,000以上であり、
前記トリアジン誘導体(B)は、トリアジンの3つの水素原子が、任意で置換基を有するフェニル基で置換された構造を有する化合物(B-I)、及び/又はイソシアヌル酸の3つの水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基で置換された構造を有する化合物(B-II)であり、
ガラス転移温度が154℃未満である位相差フィルムを与える、位相差フィルム用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガラス転移温度が所望の範囲に調整され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れる光学フィルム、該光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一態様に係る光学フィルムについて、ソルベントクラック耐性の評価実験を模式的に示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪光学フィルム≫
光学フィルムは、シクロオレフィン樹脂(A)及びトリアジン誘導体(B)を含有する。
光学フィルムは、シクロオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が80,000以上であり、トリアジン誘導体(B)が、トリアジンの3つの水素原子が、任意で置換基を有するフェニル基で置換された構造を有する化合物(B-I)、及び/又はイソシアヌル酸の3つの水素原子が、ベンゼン環上に任意で置換基を有するベンジル基で置換された構造を有する化合物(B-II)である。
光学フィルムのガラス転移温度は154℃未満である。
光学フィルムは、高分子量のシクロオレフィン樹脂(A)とトリアジン誘導体(B)を含有することにより、好適な温度で加工できるようにガラス転移温度が所望の範囲に調整され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れる。
【0018】
以下、光学フィルムに含まれる、必須、又は任意の成分について説明する。
【0019】
(シクロオレフィン樹脂(A))
シクロオレフィン樹脂(A)は、シクロオレフィン単量体の重合体、又はシクロオレフィン単量体とそれ以外の共重合性単量体との共重合体であることが好ましい。
【0020】
シクロオレフィン単量体としては、ノルボルネン骨格を有するシクロオレフィン単量体であることが好ましく、下記一般式(A-1)又は(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体であることがより好ましい。
【0021】
【化3】
【0022】
一般式(A-1)中、Ra1~Ra4は、各々独立に、水素原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、又は極性基を表す。pは、0~2の整数を表す。ただし、Ra1~Ra4の全てが同時に水素原子を表すことはなく、Ra1とRa2が同時に水素原子を表すことはなく、Ra3とRa4が同時に水素原子を表すことはない。
【0023】
一般式(A-1)においてRa1~Ra4で表される炭素原子数1~30の炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~10の炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1~5の炭化水素基であることがより好ましい。炭素原子数1~30の炭化水素基は、例えば、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子又はケイ素原子を含む連結基を更に有していてもよい。そのような連結基の例には、カルボニル基、イミノ基、エーテル結合、シリルエーテル結合、チオエーテル結合等の2価の極性基が含まれる。炭素原子数1~30の炭化水素基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等が含まれる。
【0024】
一般式(A-1)においてRa1~Ra4で表される極性基としては、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アミド基及びシアノ基が含まれる。中でも、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基及びアリールオキシカルボニル基が好ましい。
【0025】
一般式(A-1)におけるpは、光学フィルムの耐熱性を高める観点から、1又は2であることが好ましい。pが1又は2である場合には、得られる重合体が嵩高くなり、ガラス転移温度が向上しやすいためである。
【0026】
【化4】
【0027】
一般式(A-2)中、Ra5は、水素原子、炭素原子数1~5の炭化水素基、又は炭素原子数1~5のアルキル基を有するアルキルシリル基を表す。Ra6は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、又はハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子若しくはヨウ素原子)を表す。mは、0~2の整数を表す。
【0028】
一般式(A-2)におけるRa5は、炭素原子数1~5の炭化水素基を表すことが好ましく、炭素原子数1~3の炭化水素基を表すことがより好ましい。
【0029】
一般式(A-2)におけるRa6は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基及びアリールオキシカルボニル基を表すことが好ましい。
【0030】
一般式(A-2)におけるmは、光学フィルムの耐熱性を高める観点から、1又は2であることが好ましい。mが1又は2である場合には、得られる重合体が嵩高くなり、ガラス転移温度が向上しやすいためである。
【0031】
一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体は、有機溶媒への溶解性を向上させる点から好ましい。一般的に有機化合物は対称性を崩すことによって結晶性が低下するため、有機溶媒への溶解性が向上する。一般式(A-2)におけるRa5及びRa6は、分子の対称軸に対して片側の環構成炭素原子のみに置換されているので、分子の対称性が低く、これにより、一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体は溶解性が高く、光学フィルムを溶液流延法によって製造する場合に適している。
【0032】
シクロオレフィン単量体の重合体における一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体の含有割合は、シクロオレフィン樹脂を構成する全シクロオレフィン単量体の合計に対して例えば70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは100モル%とし得る。一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体を一定以上含むと、樹脂の配向性が高まるため、位相差値が上昇しやすい。
【0033】
以下、一般式(A-1)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体の具体例を例示化合物1~14に示し、一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体の具体例を例示化合物15~34に示す。
【0034】
【化5】
【0035】
シクロオレフィン単量体と共重合可能な共重合性単量体としては、例えば、シクロオレフィン単量体と開環共重合可能な共重合性単量体、及びシクロオレフィン単量体と付加共重合可能な共重合性単量体等が挙げられる。
【0036】
開環共重合可能な共重合性単量体としては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン及びジシクロペンタジエン等のシクロオレフィンが挙げられる。
【0037】
付加共重合可能な共重合性単量体としては、例えば、不飽和二重結合含有化合物、ビニル系環状炭化水素単量体及び(メタ)アクリレート等が挙げられる。不飽和二重結合含有化合物としては、炭素原子数2~12のオレフィン系化合物が挙げられ、その例には、エチレン、プロピレン及びブテン等が含まれる。ビニル系環状炭化水素単量体としては、例えば、4-ビニルシクロペンテン及び2-メチル-4-イソプロペニルシクロペンテン等のビニルシクロペンテン系単量体が挙げられる。(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート及びシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素原子数1~20のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0038】
シクロオレフィン単量体と共重合性単量体との共重合体におけるシクロオレフィン単量体の含有割合は、共重合体を構成する全単量体の合計に対して例えば20~80モル%、好ましくは30~70モル%とし得る。
【0039】
シクロオレフィン樹脂(A)は、前述のとおり、ノルボルネン骨格を有するシクロオレフィン単量体、好ましくは一般式(A-1)又は(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体を重合又は共重合して得られる重合体であり、その例には、以下のものが含まれる。
【0040】
(1)シクロオレフィン単量体の開環重合体
(2)シクロオレフィン単量体と、それと開環共重合可能な共重合性単量体との開環共重合体
(3)上記(1)又は(2)の開環(共)重合体の水素添加物
(4)上記(1)又は(2)の開環(共)重合体をフリーデルクラフツ反応により環化した後、水素添加した(共)重合体
(5)シクロオレフィン単量体と、不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体
(6)シクロオレフィン単量体のビニル系環状炭化水素単量体との付加共重合体及びその水素添加物
(7)シクロオレフィン単量体と、(メタ)アクリレートとの交互共重合体
【0041】
上記(1)~(7)の重合体は、いずれも公知の方法、例えば特開2008-107534号公報や特開2005-227606号公報に記載の方法で得ることができる。例えば、上記(2)の開環共重合に用いられる触媒や溶媒は、例えば特開2008-107534号公報の段落0019~0024に記載のものを使用できる。上記(3)及び(6)の水素添加に用いられる触媒は、例えば特開2008-107534号公報の段落0025~0028に記載のものを使用できる。上記(4)のフリーデルクラフツ反応に用いられる酸性化合物は、例えば特開2008-107534号公報の段落0029に記載のものを使用できる。上記(5)~(7)の付加重合に用いられる触媒は、例えば特開2005-227606号公報の段落0058~0063に記載のものを使用できる。上記(7)の交互共重合反応は、例えば特開2005-227606号公報の段落0071及び0072に記載の方法で行うことができる。
【0042】
中でも、上記(1)~(3)及び(5)の重合体が好ましく、上記(3)及び(5)の重合体がより好ましい。すなわち、シクロオレフィン樹脂(A)は、得られるシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度を高くし、かつ光透過率を高くすることができる点で、下記一般式(B-1)で表される構造単位及び下記一般式(B-2)で表される構造単位の少なくとも一方を含むことが好ましく、一般式(B-2)で表される構造単位のみを含むか、又は一般式(B-1)で表される構造単位と一般式(B-2)で表される構造単位の両方を含むことがより好ましい。一般式(B-1)で表される構造単位は、前述の一般式(A-1)で表されるシクロオレフィン単量体由来の構造単位であり、一般式(B-2)で表される構造単位は、前述の一般式(A-2)で表されるシクロオレフィン単量体由来の構造単位である。
【0043】
【化6】
【0044】
一般式(B-1)中、Xは、-CH=CH-又は-CHCH-を表す。Ra1~Ra4及びpは、それぞれ一般式(A-1)のRa1~Ra4及びpと同義である。
【0045】
【化7】
【0046】
一般式(B-2)中、Xは、-CH=CH-又は-CHCH-を表す。Ra5、Ra6及びmは、それぞれ一般式(A-2)のRa5、Ra6及びmと同義である。
【0047】
シクロオレフィン樹脂(A)は、市販品であってもよい。シクロオレフィン樹脂の市販品の例には、JSR社製のアートン(Arton)G(例えばG7810等)等が挙げられる。
【0048】
シクロオレフィン樹脂(A)は1種単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0049】
シクロオレフィン樹脂(A)の分子量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が25,000以上100,000以下であることが好ましく、30,000以上80,000以下であることがより好ましく、35,000以上65,000以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量(Mw)としては、80,000以上であり、80,000以上300,000以下であることが好ましく、90,000以上250,000以下であることがより好ましく、100,000以上200,000以下であることがさらに好ましい。
【0050】
数平均分子量及び重量平均分子量が上記範囲にあることによって、シクロオレフィン樹脂(A)の耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械的特性が良好となる。
【0051】
シクロオレフィン樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)としては、通常、110℃以上であり、110℃以上350℃以下であることが好ましく、120℃以上250℃以下であることがより好ましく、120℃以上220℃以下であることがさらに好ましい。Tgが110℃未満の場合は、高温条件下での使用、又はコーティング、印刷などの二次加工により変形するので好ましくない。一方、Tgが350℃を超えると、成形加工が困難になり、また成形加工時の熱によって樹脂が劣化する可能性が高くなる。
【0052】
シクロオレフィン樹脂(A)には、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば特開平9-221577号公報、特開平10-287732号公報に記載されている特定の炭化水素系樹脂、又は、公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム質重合体、ゴム粒子等の添加剤を含んでもよい。
【0053】
(トリアジン誘導体(B))
トリアジン誘導体(B)は、得られる光学フィルムが、好適な温度で加工できるようにガラス転移温度が所望の範囲に調整され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れることを目的として用いられる。
トリアジンとしては、1,2,3-トリアジン、1,2,4-トリアジン、1,3,5-トリアジンが挙げられる。これら中では、1,3,5-トリアジンが好ましい。
トリアジン誘導体(B)は、後述する化合物(B-I)及び化合物(B-II)からなる群から選択される1種以上の化合物を含有する。
【0054】
(化合物(B-I))
トリアジン誘導体(B)としての化合物(B-I)は、トリアジンの3つの水素原子が、任意で置換基を有するフェニル基で置換された構造を有する化合物である。
フェニル基が有する置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基が挙げられる。これらの置換基のうち、少なくとも1つが、3つのフェニル基の任意の水素原子と置換していればよい。
【0055】
フェニル基が有する置換基としての炭素原子数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基、及びn-ウンデシル基、並びにこれらのアルキル基と構造異性の関係にあるアルキル基が挙げられる。
【0056】
フェニル基が有する置換基としての炭素原子数1~20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロパノキシ基、イソプロパノキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-へプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、並びにこれらのアルコキシ基と構造異性の関係にあるアルコキシ基が挙げられる。
【0057】
トリアジン誘導体(B)としての化合物(B-I)は、下記式(B-I)で表される化合物が好ましい。
【化8】
【0058】
式(B-I)中、R~R14は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~20のアルキル基、又は炭素原子数1~20のアルコキシ基である。R~R14としては、好ましくは水素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~10のアルキル基、又は炭素原子数1~10のアルコキシ基である。
【0059】
式(B-I)中、R15は、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、又は-O-CHCH(OH)CH-O-Yで表される基であり、Yは、水素原子、又は炭素原子数1~20のアルキル基である。R15としては、好ましくは炭素原子数1~10のアルコキシ基、又は-O-CHCH(OH)CH-O-Yで表される基であり、Yが、炭素原子数1~20のアルキル基である。
【0060】
~R14及びYとしての炭素原子数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基、及びn-トリデシル基、並びにこれらのアルキル基と構造異性の関係にあるアルキル基が挙げられる。
【0061】
~R14としての炭素原子数1~20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロパノキシ基、イソプロパノキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-へプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、並びにこれらのアルコキシ基と構造異性の関係にあるアルコキシ基が挙げられる。
【0062】
Yとしての炭素原子数1~20のアルキル基としては、化合物(B-I)がヘキサンに対して不溶である観点から、炭素原子数4~9のアルキル基が好ましく、炭素原子数4~9の分岐鎖状アルキル基がより好ましい。トリアジン誘導体(B)のヘキサンに対する不溶性は、光学フィルムのソルベントクラック耐性と相関がある。
【0063】
式(B-I)で表されるトリアジン誘導体(B)としては、(2-[4(2-ヒドロキシ-3-(2’-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンが好ましい。該化合物は、市販品を好ましく用いることができ、例えば、BASFジャパン社製のTinuvin405を用いることができる。
【0064】
(化合物(B-II))
トリアジン誘導体(B)としての化合物(B-II)は、イソシアヌル酸の3つの水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基で置換された構造を有する化合物である。
ベンジル基中のベンゼン環が有する置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~20のアルキル基、又は炭素原子数1~20のアルコキシ基が挙げられる。これらの置換基のうち、少なくとも1つが、3つのベンジル基中のベンゼン環の任意の水素原子と置換していればよい。
【0065】
ベンジル基中のベンゼン環が有する置換基としての炭素原子数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基、及びn-ウンデシル基、並びにこれらのアルキル基と構造異性の関係にあるアルキル基が挙げられる。
【0066】
ベンジル基中のベンゼン環が有する置換基としての炭素原子数1~20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロパノキシ基、イソプロパノキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-へプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、並びにこれらのアルコキシ基と構造異性の関係にあるアルコキシ基が挙げられる。
【0067】
トリアジン誘導体(B)としての化合物(B-II)は、下記式(B-II)で表される化合物が好ましい。
【化9】
【0068】
式(B-II)中、Rb1~Rb15は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~20のアルキル基、又は炭素原子数1~20のアルコキシ基である。
【0069】
b1~Rb15としての炭素原子数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基、及びn-トリデシル基、並びにこれらのアルキル基と構造異性の関係にあるアルキル基が挙げられる。
【0070】
~R14としての炭素原子数1~20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロパノキシ基、イソプロパノキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-へプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、並びにこれらのアルコキシ基と構造異性の関係にあるアルコキシ基が挙げられる。
【0071】
式(B-II)で表されるトリアジン誘導体(B)としては、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオンが好ましい。該化合物は、市販品を好ましく用いることができ、例えば、ADEKA社製のアデカスタブAO-20を用いることができる。
【0072】
トリアジン誘導体(B)の含有量の下限は、光学フィルムのガラス転移温度を低減させる観点から、シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して3重量部超であることが好ましく、4重量部以上であることがより好ましい。
トリアジン誘導体(B)の含有量の上限は、ブリードアウトを抑制する観点から、シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して15重量部以下であることが好ましく、12重量部以下であることがより好ましく、10重量部以下であることがさらに好ましく、8重量部以下であることがさらにより好ましく、7重量部以下であることが特に好ましい。
トリアジン誘導体(B)の含有量を調整することにより、光学フィルムのガラス転移温度を所望の範囲に調整することができる。また、トリアジン誘導体(B)の含有量を少なくし得るため、トリアジン誘導体(B)のブリードアウトを抑制することもでき、また、重量減少温度の低下も抑制され、その結果熱安定性の低下を抑制することができる。
【0073】
トリアジン誘導体(B)は、ヘキサンに対して不溶であることが好ましい。本明細書において、「ヘキサンに対して不溶である」とは、温度25℃において、ヘキサン10mlに対するトリアジン誘導体(B)の溶解度が、100mg/10ml以下であることを意味する。前述したように、トリアジン誘導体(B)のヘキサンに対する不溶性は、光学フィルムのソルベントクラック耐性と相関がある。光学フィルムのソルベントクラック耐性が向上する観点から、ヘキサン10mlに対するトリアジン誘導体(B)の溶解度は、50mg/10ml以下であることが好ましく、10mg/10ml以下であることがより好ましい。
ヘキサン10mlに対するトリアジン誘導体(B)の溶解度の下限は、特に限定されず、0mg/10mlであることが好ましい。
【0074】
トリアジン誘導体(B)の重量減少温度は、特に限定されないが、ブリードアウトを抑制する観点から、5%重量減少温度が300℃以上であることが好ましく、320℃以上であることがより好ましい。トリアジン誘導体(B)の5%重量減少温度の上限は、特に限定されず、500℃以下であることが好ましい。
また、トリアジン誘導体(B)の1%重量減少温度が250℃以上であることが好ましく、280℃以上であることがより好ましい。トリアジン誘導体(B)の1%重量減少温度の上限は、特に限定されず、500℃以下であることが好ましい。
【0075】
(他の成分)
光学フィルムは、本発明の効果を損なわない限り、シクロオレフィン樹脂(A)及びトリアジン誘導体(B)以外の成分(以下、「他の成分」ともいう。)を含有してもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、特定波長吸収剤、位相差調整剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤等が挙げられる。
【0076】
≪光学フィルムの製造方法≫
光学フィルムの製造方法としては、例えば、溶融押出法、溶液キャスト法(溶液流延法)、カレンダー法、圧縮成形法等が挙げられる。これらの中では、溶液流延法が好ましい。
【0077】
溶液流延法では、例えば、前述したシクロオレフィン樹脂(A)、トリアジン誘導体(B)、必要に応じて他の成分、及び溶媒(S)を混合して樹脂組成物を作製する工程、樹脂組成物を流延する工程、溶媒を蒸発させる工程、未延伸フィルムの剥離工程、乾燥工程、及び延伸工程等を有することが好ましい。
【0078】
溶液流延法に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤;トルエン、キシレン、ベンゼン、及びこれらの混合溶剤などの芳香族系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール等のアルコール系溶剤;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、ジエチルエーテル;等が挙げられる。溶媒は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0079】
前述した光学フィルムの製造方法において、溶液流延法の好ましい態様としては、前述したシクロオレフィン樹脂(A)、トリアジン誘導体(B)、及び溶媒(S)を含む樹脂組成物を支持体上に流延する工程、溶媒(S)を蒸発させる工程、及び形成された未延伸フィルムを剥離する工程を含み、
シクロオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が80,000以上であり、
トリアジン誘導体(B)は、トリアジンの3つの水素原子が、任意で置換基を有するフェニル基で置換された構造を有する化合物(B-I)、及び/又はイソシアヌル酸の3つの水素原子が、ベンゼン環上に任意で置換基を有するベンジル基で置換された構造を有する化合物(B-II)であり、
樹脂組成物中のトリアジン誘導体(B)の含有量が、シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して3重量部超である、光学フィルムの製造方法が挙げられる。
【0080】
上記樹脂組成物中に含まれるシクロオレフィン樹脂(A)、トリアジン誘導体(B)、及び溶媒(S)は、前述した≪光学フィルム≫の項目で説明したものと同じものが使用される。
上記支持体としては、例えば、ポリエステルフィルムが挙げられる。
【0081】
≪光学フィルムの物性≫
(ガラス転移温度)
光学フィルムのガラス転移温度(Tg)は、154℃未満であり、153℃以下であることが好ましく、152℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。Tgが154℃未満であることにより、成形温度を高くすることに対して制約がある場合でも、光学フィルムを安定して製造することができる。
光学フィルムにおいて、ガラス転移温度(Tg)の下限は、117℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましく、140℃以上であることが特に好ましい。ガラス転移温度が117℃以上の場合、車載用途など耐熱性が要求される用途など制約がある場合でも好適に使用できる。
【0082】
(ソルベントクラック耐性)
光学フィルムは、ソルベントクラック耐性に優れることが好ましい。具体的には、光学フィルムの表面にヘキサン500μlを滴下し30秒間保持した後、光学フィルムを反転させ、光学フィルムの裏面を対して、ヘキサン500μlを滴下し30秒間保持する操作を繰り返した場合において、(1)フィルムセット、(2)1回目のヘキサン暴露、(3)1回目の反転、(4)2回目のヘキサン暴露、(5)2回目の反転、(6)3回目のヘキサン暴露、・・・(以降続く)としたとき、1回目の反転後、2回目のヘキサンの暴露(ヘキサンの両面暴露)前まで破断しない(破断が(3)以降)ことが好ましく、1回目の反転後、2回目のヘキサン暴露完了後まで破断しない(破断が(4)以降)ことがより好ましく、2回目の反転後、3回目のヘキサン暴露前まで破断しない(破断が(5)以降)ことがさらに好ましく、2回目の反転後、3回目のヘキサン暴露完了後まで破断しない(破断が(6)以降)ことが特に好ましい。
【0083】
(位相差発現性)
光学フィルムは、位相差発現性に優れることが好ましい。具体的には、光学フィルムのTgに対して、Tg+5℃にて、100%/分の延伸速度で100%延伸した場合に、正面位相差[nm]/厚み[μm]の値が4×10-3以上であることが好ましい。
【0084】
(重量減少温度)
光学フィルムは熱安定性に優れることが好ましい。熱安定性は、重量減少温度をもとにして評価し得る。
光学フィルムの1%重量減少温度の下限は、特に限定されず、300℃以上であることが好ましく、320℃以上であることがより好ましい。光学フィルムの1%重量減少温度の上限は、特に限定されず、500℃以下であることが好ましい。
光学フィルムの5%重量減少温度の下限は、特に限定されず、380℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。光学フィルムの5%重量減少温度の上限は、特に限定されず、500℃以下であることが好ましい。
熱安定性は、トリアジン誘導体(B)の含有量を低減することにより、向上させることができる。
【0085】
(耐ブリードアウト性)
光学フィルムは耐ブリードアウト性に優れることが好ましい。耐ブリードアウト性は、トリアジン誘導体(B)の含有量を低減することにより、向上させることができる。
具体的には、光学フィルムを、温度85℃、湿度85%の条件で336時間放置した後、各フィルムのヘイズ測定を行った場合、トータルヘイズ値の上昇幅が1.0%未満であることが好ましく、0.5%未満であることがより好ましい。
【0086】
(用途)
本実施形態の光学フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種表示装置やタッチパネルに用いられる機能フィルムであることが好ましい。具体的には、本実施形態の光学フィルムは、液晶表示装置用の偏光板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、ハードコートフィルム、防眩フィルム、帯電防止フィルム、視野角拡大等の光学補償フィルム等でありうる。典型的には、本実施形態の光学フィルムは、位相差フィルムである。
【0087】
≪位相差フィルム用樹脂組成物≫
位相差フィルム用樹脂組成物は、前述したシクロオレフィン樹脂(A)及びトリアジン誘導体(B)を含有する。
位相差フィルム用樹脂組成物は、シクロオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が80,000以上であり、
トリアジン誘導体(B)は、トリアジンの3つの水素原子が、任意で置換基を有するフェニル基で置換された構造を有する化合物(B-I)、及び/又はイソシアヌル酸の3つの水素原子が、ベンゼン環上に任意で置換基を有するベンジル基で置換された構造を有する化合物(B-II)であり、
ガラス転移温度が154℃未満である位相差フィルムを与える。
位相差フィルム用樹脂組成物は、上記シクロオレフィン樹脂(A)及び上記トリアジン誘導体(B)を含有することにより、得られる位相差フィルムが、好適な温度で加工できるようにガラス転移温度が所望の範囲に調整され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れる。
上記シクロオレフィン樹脂(A)及び上記トリアジン誘導体(B)は、前述した≪光学フィルム≫の項目で説明したものと同じものが使用される。
【実施例0088】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0089】
[実施例1~5及び比較例1~3]
(使用材料)
実施例及び比較例において、シクロオレフィン樹脂(A)として、下記A1を用いた。なお、以下において、シクロオレフィン樹脂(A)を「COP樹脂(A)」と略記する。
A1:ARTON G7810(JSR社製、重量平均分子量140,000)
【0090】
実施例及び比較例において、添加剤(B)として下記B1~B5を用いた。B1~B3が、本願発明の態様において、トリアジン誘導体(B)に該当する化合物であり、B4~B5が比較化合物である。
B1:Tinuvin405(BASFジャパン社製)
B2:アデカスタブLA-F70(ADEKA社製)
B3:アデカスタブAO-20(ADEKA社製)
B4:Chimassorb81(BASFジャパン社製)
B5:スミライザーGS(住友化学社製)
【0091】
【化10】
【0092】
【化11】
【0093】
実施例及び比較例において、溶媒(S)として下記S1を用いた。
S1:塩化メチレン
【0094】
(光学フィルムの作製)
COP樹脂(A)と添加剤(B)と溶媒(S)を、下記表2に記載の含有量になるように混合して各樹脂組成物を得た。支持体フィルムとして、長さ1000m、膜厚100μm、幅1600mmの東レ株式会社製PETフィルム(商品名:ルミラー)の片側表面に、膜厚1.2μmのアクリル系樹脂組成物のコーティングを施したコーティングPETフィルムを用いた。本支持体フィルムのコーティング面の粗度Ryは210nm、鉛筆硬度はBであった。この支持体フィルムを用いて、コーティング面の反対面に温度20℃の上記樹脂組成物からなる樹脂溶液を塗布し、乾燥を行い、得られた一次乾燥フィルムを支持体フィルムと共に巻き取った。引き続いて、得られた一次乾燥フィルムと支持体フィルムを剥離し、ロール懸垂型乾燥装置により、残留溶媒量が0.25重量%になるまで乾燥し、平均膜厚60μm、長さ900mの実施例1~5及び比較例1~3の光学フィルムを作製した。
【0095】
<評価>
使用した添加剤(B)について、以下の方法に従って、塩化メチレン溶解性、ヘキサン溶解性、及び重量減少温度を評価した。結果を表1に示す。また、得られた光学フィルムについて、以下の方法に従って、ガラス転移温度、ソルベントクラック耐性、位相差発現性、重量減少温度、及び耐ブリードアウト性を評価した。結果を表2に示す。
【0096】
[添加剤(B)の物性]
(塩化メチレン溶解性)
温度25℃において、塩化メチレン10mlに対する添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以上溶解し完全に透明な溶液になった場合を溶解した(または「〇」)と評価し、それ以外の場合を不溶(または「×」)と評価した。
【0097】
(ヘキサン溶解性)
温度25℃において、ヘキサン10mlに対する添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以上溶解し完全に透明な溶液になった場合を溶解したと評価し、それ以外の場合を不溶と評価した。
【0098】
(1%重量減少温度)
昇温速度20℃/分にて測定した1%の重量減少が観測された温度を1%重量減少温度とした。
【0099】
(5%重量減少温度)
昇温速度20℃/分にて測定した5%の重量減少が観測された温度を5%重量減少温度とした。
【0100】
[光学フィルムの物性]
(ガラス転移温度(Tg))
示差走査熱量計(DSC、SII社製、DSC7020)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0101】
(ソルベントクラック耐性)
平均厚み60μmの各光学フィルムを、縦9cm、横2cmに切り出し、図1に示すように、クリップで光学フィルムの長手方向の一端部に対して2.45MPaになるように調整した錘を吊るし、Φ(直径)1cmの金属製のバーに図1に示すように吊るし、上記光学フィルムの長手方向の他端部を、図示しない固定手段で固定した後、上部の滴下ロートからヘキサン500μlを滴下し30秒間保持した。30秒後も破断しなければ光学フィルムの表面と裏面を反転させ、1回目滴下時に上記バーと接していた面をair面として上記と同様にヘキサンを500μl滴下し30秒間保持した。これを繰り返し、何回目の反転後に破断したかでソルベントクラック耐性を評価した。評価基準を下記に記載した。なお、(1)フィルムセット、(2)1回目のヘキサン暴露、(3)1回目の反転、(4)2回目のヘキサン暴露、(5)2回目の反転、(6)3回目のヘキサン暴露、・・・(以降続く)とした。
〇:2回目の反転以降で破断((5)2回目の反転以降で破断)
△:1回目の反転~2回目のヘキサン滴下(両面曝露)~2回目反転前までで破断((3)1回目の反転または(4)2回目のヘキサン暴露で破断)
×:反転させる前の最初のヘキサン滴下で破断(1回目のヘキサン曝露、すなわち(1)フィルムセットまたは(2)1回目のヘキサン暴露で破断)
【0102】
(位相差発現性)
各光学フィルムを、縦7cm、横4cmに切り出し、チャック間距離を5cm、光学フィルムのTgに対して、Tg+5℃にて、100%/分の延伸速度で100%延伸し、正面位相差[nm]/厚み[μm]の値を位相差発現性として評価した。
【0103】
(1%重量減少温度)
昇温速度20℃/分にて測定した1%の重量減少が観測された温度を1%重量減少温度とした。
【0104】
(5%重量減少温度)
昇温速度20℃/分にて測定した5%の重量減少が観測された温度を5%重量減少温度とした。
【0105】
(耐ブリードアウト性)
各光学フィルムを、温度85℃、湿度85%の条件で336時間放置した後、各フィルムのヘイズ測定を行い、以下の基準により耐ブリードアウト性を評価した。
〇:トータルヘイズ値の上昇幅が0.5%未満
△:トータルヘイズ値の上昇幅が1.0%未満
×:トータルヘイズ値の上昇幅が1.0%以上
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
表2から、COP樹脂(A)を含有する光学フィルムにおいて、添加剤(B)としてB4~B5のいずれかを含む比較例2~3では、添加剤(B)を含まない比較例1と比較して、Tgがいずれも154℃未満にまで低減されるが、重量減少温度が大きく低下し、また、耐ブリードアウト性にも劣っていた。
一方、添加剤(B)としてB1~B3を配合すると、実施例1~5に示すように、Tgが154℃未満にまで低減され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れる光学フィルムが得られることが分かる。
図1